相州の、ほぼ週刊、1:1250 Scale 艦船模型ブログ

1:1250スケールの艦船模型コレクションをご紹介。実在艦から未成艦、架空艦まで、系統的な紹介を目指します。

ロイヤル・ネイヴィーの駆逐艦(その7):第二次世界大戦勃発後の戦時急造艦 改訂・アップデート版

今回は英海軍の駆逐艦小史の7回目。

英海軍は第二次世界大戦の勃発に伴い、大量の駆逐艦を建造する必要に迫られます。工期と費用の両面から、最新鋭の大型駆逐艦「M級」は量産への適合性から候補から外され、「J・K・N級」を原型として、さらにいくつかのスペックダウンによる戦時急造艦の設計がまとまってゆきます。

戦時急造艦の計画は1940年から1942年までの間に14次に渡り発動され、112隻の駆逐艦が建造されることになります。

今回はそういうお話。

 

少し模型的な視点、コレクター的な視点で言うと、この時期を対象としたモデルは、多岐にわたって制作されてはいるのですが、実は流通量はそれほど多くない、と言うのが実情だと考えています。今回のご紹介でもある程度は実感していただけるとは思いますが、量産性重視のために基本は同型艦(小さな差異はもちろんあるのですが)で、外観的にはあまり大きな差がなく、つまり全形式をラインナップとして揃えるには、やや魅力に欠ける、そう言ってもいいと思います。実際に筆者があまりここに手をつけて来なかった理由も、そんなところです。本当のマニアだけが手をつけてきた領域、と言ってもいいのかも。そうした理由もあってか、手頃な価格帯での流通モデルがあまり見つからないのです。(マニアは手放さないから、中古市場には商品が出回らない?)従って、たまにあっても大変高価だったり、競争環境が厳しかったりで、なかなか入手できずにいます。

そんな事情もあって、今回ご紹介するモデル群では筆者のコレクションは現時点ではあまり多くはありません。こちらも緊急計画を発動して、鋭意、収集に注力中ですが、間に合わないので後日、アップデート版等でご紹介を。

 

もう少し理解を進めるために艦級名・計画名をはじめ、主要スペックのまとめを掲示しておきます。

艦級名 年次 基準排水量(t) 全長(m) 機関出力(HP) 速力(knot) 航続距離(浬)/20knot
O 40 1,540 105 40,000 37 3,850
P 40 1,550 107.9 40,000 37 3,340
Q 40 1,650 109.12 40,000 36.75 4,070
R 40 1,650 109.12 40,000 36.75 4,070
S 40 1,650 109.12 40,000 36.75 4,070
T 40 1,730 110.64 40,000 36 4,070
U 41 1,710 110.56 40,000 36.75 4,070
V 41 1,710 110.56 40,000 36.75 4,070
W 41 1,710 110.56 40,000 36.75 4,070
Z 41 1,710 110.64 40,000 36.75 4,070
Ca  41/42 1,710 110.56 40,000 36.75 4,070
Ch 41/42 1,710 110.56 40,000 36.75 4,070
Co 41/42 1,710 110.56 40,000 36.75 4,070
Cr 41/42 1,710 110.56 40,000 36.75 4,070

(搭載兵装)

艦級名 主砲口径(cm) 魚雷発射管数 爆雷投射基数 爆雷搭載数(基準) 爆雷搭載数(最大)
O 12*4 4*2 4 30 60
P 10.2*4 4*1 4 42 70
Q 12*4 4*2 4 70 130
R 12*4 4*2 4 70 130
S 12*4 4*2 4 70 130
T 12*4 4*2 4 70  
U 12*4 4*2 4 70 130
V 12*4 4*2 4 70 130
W 12*4 4*2 4 70  
Z 11.4*4 4*2 4 70 108
Ca  11.4*4 4*2 4 70 108
Ch 11.4*4 4*1 2 48 108
Co 11.4*4 4*1 2 48 108
Cr 11.4*4 4*1 2 48 108

上記をざっとまとめると、14次に度計画された戦時急造艦は、「O級」原型、対空砲を主要火器とした「P級(「O級」の一部を含む)」、戦時急造艦の標準形を定めることとなった「Q, R級」のグループ、艦首形状を改正した「S級」、やや艦型を大きくした「T級」、12cm主砲の完成形「U, V, W級」のグループ、主砲を11.4cmとして両用砲化を進めた「Z級Ca級」、魚雷発射管を1基減じた「Ch級Co級Cr級」のグループとなります(こうしてまとめると、この8形式はモデルを揃えてみたいかなあ、と思いますね)。

 

第1次戦時急造駆逐艦:戦時急造艦の原型

O級駆逐艦(二代)(就役期間:1941-1964  同型艦8隻)

ja.wikipedia.or

(「O級駆逐艦の原型の外観:いきなりですが未保有です。by Neptun: 4.7インチ単装砲4基、4連装魚雷発射管2基を主要兵装として搭載する設計でした。この形で就役した感があったのかどうかは、やや疑問です。いずれにせよこの形での就役期間は短かったでしょうね。写真は例によってsammelhafen.deより拝借しています)

本稿でご紹介してきたように、ロンドン海軍軍縮体制での艦型拡大抑制の時期を経て、英海軍は諸列強の大型駆逐艦建造に対応し大型駆逐艦の建造へと舵を切りました。「トライバル級」を経て、「L級」「M級」への流れがそれに当たるのですが(前回投稿でご紹介しています)、第二次世界大戦勃発に伴い、広い戦域と相次ぐ駆逐艦の喪失に対応する量産計画の基本型とするには、「L級」「M級」は高価で工期もかかるために、「J級」を原型として設計された戦時急造艦の第一陣です。

同級は1940年度戦時予算で8隻が建造され、1941年から42年にかけて就役しました。

J級」を原型としながらもさらに工期を短縮するために、兵装は「I級」に準じ、4.7インチ単装砲を主砲として4基、4連装魚雷発射管2基を主要兵装として、これに加え40mmポンポン砲1基、20mm機関砲4基を近接防御用の対空火器として装備する予定でした。

 

後部魚雷発射管を4インチ高角砲に換装

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(「O級駆逐艦4.7インチ平射砲搭載型の概観:83mm in 1:1250 by Argonaut)

同級は就役時には魚雷発射管を2基装備していましたが(この姿で就役した艦があったかどうか?)、就役後間もなく後部魚雷発射管を4インチ高角砲砲座に換装し、対空火力を強化しています。

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(「O級駆逐艦平射砲型の主要兵装の拡大)

艦首部には4.7インチ平射砲2基(写真上段)、艦中央部にはポンポン砲砲座と魚雷発射管、さらに対空機関砲砲座と魚雷発射管と換装された4インチ単装対空砲、艦尾部には爆雷投射機(ちょっと写真ではわかりにくいですが)と4.7インチ平射砲2基、さらに爆雷投射軌条が確認できます。

 

機雷敷設艦兼務型(駆逐艦任務時)=4インチ高角砲搭載型の建造

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 (「O級駆逐艦機雷敷設艦兼務型=4インチ対空砲装備型の概観:84mm in 1:1250 by Neptun))

O級」は設計時には前掲のような平射砲を主砲とした主要火器の仕様だったのですが、同級のうち4隻は機雷敷設艦としても兼用できる艦することが要求されたところから、主砲を4インチ高角砲3基として建造されました。さらにこの4隻は駆逐艦として任務につく場合には、短時間(48時間)でさらに2基の4インチ対空砲を搭載できるように設計されていました。上掲のモデルは、この経緯でいくと駆逐艦任務に着く際の兵装を再現していると考えられます。

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(直上の写真は「O級駆逐艦4インチ対空砲装備型の主要武装等の拡大)

艦首部に4インチ単装対空砲2基を搭載しています(写真上段) 40mmポンポン砲と4連装魚雷発射管1基、その後ろに20mm機関砲砲座、後部魚雷発射管は4インチ対空砲に変更されています(写真中段)。 艦尾部には爆雷投射機と4インチ単装対空砲2基(うち1基は追加されたシールドなし)と爆雷投射軌条が見えます(写真下段)。

上掲の対空砲装備型の兵装は4インチ対空砲5基を中心とした一見有効な対空火器強化に思われ「O級」の4隻と「P級」の全てがこの兵装を実装しました。しかし実際にはドイツ空軍の急降下爆撃機には有効性が低いことは判明し、同種の兵装は以降実施されず、以降の戦時急造艦の主砲は当面(「V級」まで)4.7インチ平射砲とされました。

同型艦8隻は全て第二次世界大戦を生き抜いています。

 

バレンツ海海戦

ja.wikipedia.org

この海戦をかいつまんでいうと、1942年12月下旬に英国から出港したソ連向けの軍需物資輸送船団JW51Bをめぐるドイツ艦隊とこれを護衛する英艦隊の間に発生した海戦です。この船団の直衛戦隊は駆逐艦6隻、コルベット2隻、掃海艇1隻、武装トロール2隻で構成されていました。6隻の駆逐艦のうち5隻が「O級駆逐艦で、「O級」のうち2隻は4.7インチ平射砲装備艦で、残りの3隻は前掲の4インチ対空砲装備型でした(ちなみに駆逐艦の残りの1隻は『A級」でした)。

海戦参加の「O級駆逐艦両タイプの比較f:id:fw688i:20231217092544p:image

(上の写真はバレンツ海海戦に参加した「O級駆逐艦両タイプの概観の比較:写真上段は平射砲タイプで「オンスロウ」と「オリ美」がこのタイプです。残る「オーウェル」「オビーディアント」「オブデュレイト」は写真下段の3インチ対空砲装備タイプでした:下の写真は両タイプの主要兵装の比較:右列が平射砲タイプ)

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5隻の「O級駆逐艦はドイツ海軍の重巡「ヒッパー」とポケット戦艦「リュッツォー」を主力とする極めて有力な艦隊の襲撃から輸送船団を守り、戦闘によって嚮導艦「オンスロー」が大破、「O級」の3隻が損傷し、「O級」以外で船団護衛に参加していた駆逐艦1隻(「A級:アケーテズ」)が失われる等、大きな損害を出しています。

バレンツ海亜戦で失われた「アケーテズ」

「アケーテズ」は「A級」駆逐艦の1隻で、第二次世界大戦勃発後に護衛駆逐艦への改装を受けました。主砲2基をヘッジホッグ等の対潜装備に変更し、後部魚雷発射管を3インチ対空砲に換装されています(モデルではこの対空砲は再現されていません。もっとも、射撃管制系の不備からこの砲は十分には機能していなかったようですが)

(上の写真は護衛駆逐艦に改装された後の「A級」の概観 by Argonaut)

しかし、輸送船団自体にはドイツ艦隊は全く損害を与えることができず、戦果に多大な期待を寄せていたヒトラーは激怒します。この結果、海軍総司令官のレーダー元帥を解任し、後任にUボート艦隊の指揮官のデーニッツを任命、さらに全ての大型水上艦の解体命令を出すほどでした。

 

(「海戦」とは関係のない全くの余談ですが、上記のような比較をしてしまうと、Neptun:4インチ砲タイプとArgonaut:平射砲タイプの、つまりモデル製作者間の解釈の差異が見えてきますね。両者ともに再現性の精度は大変高いと思っているので、それはそれで面白い。このブログはモデルのブログですので、まあちょっと触れておきます)

 

興味のある方はハヤカワ文庫から「バレンツ海海戦」と言う書籍が出ていますので、一読されてはいかがでしょうか?

https://www.amazon.co.jp/バレンツ海海戦-ハヤカワ文庫-NF-73-ダドリー・ポープ/dp/4150500738/ref=sr_1_1?__mk_ja_JP=カタカナ&crid=3BL2PC1V3MF0A&keywords=バレンツ海海戦&qid=1700725980&sprefix=バレンツ海海戦%2Caps%2C197&sr=8-1

古書だと結構お手軽な値段で手に入りますね。なかなかの名著だと思います。

 

おまけ:掟破りの1:700スケールモデルの紹介

筆者は同級の平射砲型のモデルを1:700スケールでも保有しています。

1:700スケールだと、やはり細部の再現性は格段に上がりますね。

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(上掲の写真は「O級駆逐艦4.7インチ平射砲装備型の概観:同型の「オンズロー」がバレンツ海海戦で、船団護衛部隊の指揮艦を務めました。後部の魚雷発射管をおろし4インチ対空砲砲座に変更しています。バレンツ海海戦の時期にはこの形式だったと記憶します。モデルはちょっと掟破りの1:700スケールのものを掲載しています(現タミヤ製。当時はピットロード製だったような)。下の写真では同モデルの兵装配置の拡大を)

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第2次戦時急造駆逐艦O級の対空火器強化型

P級駆逐艦(二代)(就役期間:1941-1964  同型艦8隻)

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(上掲の写真は前出の「O級駆逐艦4インチ砲搭載型の概観の再掲です。「P級」は8隻全て4インチ砲搭載艦でした)

同級は1940年度戦時予算で8隻が建造され、1941年から42年にかけて就役しました。

O級」の機雷敷設艦兼務型の対空火器強化タイプに準じた設計で、全ての艦が主砲として4インチ高角砲を搭載した形で設計されました。対空火力強化のために後部魚雷発射管1基は当初から外され、これを4インチ高角砲に充当し、就役しています。

他の基本的な仕様は「O級」とほぼ変わりません。

大戦中に2隻が戦闘中に失われ、3隻が大破ののち放棄されています。

前出の「O級」の大戦の残存艦1隻も併せて、「P級」の生き残った2隻はType 16高速フリゲート艦に改造され、1960年代まで使用されました。

 

Type 16高速フリゲート艦への改造

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(Type 16フリゲート艦の概観:by Mountford: 戦時急造艦の残存艦のうち10隻がType 16への改造を受けています。後述のType 15への改造に比べ廉価で改造期間も短期でした。モデルは唯一Mountfordから出ているようですが、見たことないですね:写真は例によってsammelhafen.deより拝借しています)

大戦後、潜水艦の水中高速化により、それまで大量に整備されてきた対潜専任艦(コルベットスループなどと称されます)が一気に陳腐化し、この対応のために大戦中に大量の建造されていた戦時急造艦が高速対潜艦(フリゲート艦)に改造されることになります。

Type 16はこの改造艦の型式の一つで、本稿でのちに紹介するType 15が徹底した改造であったのに対し、Type 16はやや簡易でその代わり廉価で即応性のある改造だったと言っていいと思います。Type15が先行し、その廉価版、ということで同形式が生まれたため、こちらの形式番号が大きくなっています。

O級」1隻、「P級」2隻、「T級」7隻がこの改造を受けています。

 

第3次戦時急造駆逐艦O級の巡航性改良型

Q級駆逐艦(二代)(就役期間:1942-1972  同型艦8隻)

第4次戦時急造駆逐艦Q級同型艦

R駆逐艦(二代)(就役期間:1942-1965  同型艦8隻)ja.wikipedia.org

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 (「R-Q級駆逐艦基本型の概観:86mm in 1:1250 by Optatus:これまであまり耳に馴染みのないメーカーかと思いますが、精度はかなり高いモデルを供給されています。その分高価で、流通量があまり多くない。コレクターにとってはなかなかの難敵かと。実は「Q-R級」のモデルは筆者の頼りとするNeptunのラインナップになく、AugonautかOptatusかと言うような選択肢になってしまいます。(もちろんその他もあるのですが、精度の高そうなモデルは流通量が少なく入手が極めて困難です。Argonautモデルについてはオーナーが亡くなられ、これ以上新規生産がされるのかどうか不透明(なんせほとんどが小規模な会社ですから)で、流通量が増えることについては期待薄です。そんな事情もあり、全く幸運にもOptatusモデルが入手できたので、そちらをご紹介しています)

Q級」「R級」はいずれも1940年度戦時予算で各8隻が建造され、「Q級」は1941年から42年にかけて、「R級」は1942年から43年にかけて順次就役しました。

基本設計は「O級」に準じ、搭載兵装も「O級」に準じたものでした。「O級」で実施された後部魚雷発射管の高角砲への換装による対空火器強化は、当初予定されていましたが、換装予定の4インチ高角砲のドイツ空軍の急降下爆撃機への有効性に疑問が生じ、同砲の搭載は見送られ、主砲は4.7インチ平射砲4基、4連装魚雷発射管2基を主要兵装として装備し、これに加えて40mmポンポン砲1基、20mm機関砲6基が近接防空火器として搭載されました。

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(直上の写真は「Q-R級駆逐艦の主要武装等の拡大:艦首部に4.7インチ平射砲2基と艦橋脇に20mm機関砲(写真上段) 40mmポンポン砲と4連装魚雷発射管2基、その間に20mm機関砲が確認できます。後方の魚雷発射管は「O-P級」同様、4インチ対空砲への換装が検討されましたが、この4インチ砲自体が対空戦闘への有効性に疑問を持たれたため、換装されませんでした(写真中段) 艦尾部の4.7インチ砲2基と爆雷投射気筒が見えます(写真下段) 以降の戦時急造艦はほぼこの兵装配置形式を踏襲してゆくことになります)

船型には建造費と速度向上に効果があるとされたトランサムスターン(直線的な船尾形状)が採用されています。レーダーや対潜装備、射撃指揮装置には改善が加えられ、「R級」の後期型では搭載レーターの追加等により、マストの形状が改まりました。さらに燃料の搭載量が増やされ航続距離が延伸されました。一方で重量が増大し、実質的な速力は低下したと言われています。

 

大戦中に「Q級」は2隻の戦没艦を出し、「R級」は戦没艦はありませんでした。

Q級」は戦時中から2隻がオーストラリア海軍に供与され、戦後、英海軍への在籍艦のうち残存した4隻中3隻がオーストラリア海軍に譲渡されています(残りの1隻はオランダ海軍に売却)。「R旧」は戦後3隻がインド海軍に売却され、4隻が後述するType 15高速フリゲート艦に改造されました。

 

第5次戦時急造駆逐艦Q級の凌波性改良版、船首形状の改良

S級駆逐艦(二代)(就役期間:1943-1963  同型艦8隻)ja.wikipedia.orgja.wikipedia.org

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(「S級」駆逐艦の概観:88mm in 1:1250 by Argonaut:写真のモデルは「S級」の標準的な仕様ではなく、試験的に次級駆逐艦バトル級」用に開発されていた仰角80度まで射撃可能な11.4cm(4.5インチ)連装砲塔を艦首に、同様に艦尾にも同じ11.4cm単装砲を装備した「サベージ」のモデルです)

「S級」駆逐艦8隻は1940年度戦時予算で建造され、1942年から43年にかけて順次就役しました。

船体の基本設計や搭載装備は「Q-R級」に準じていますが、凌波性向上を狙い船首形状が改良されました。

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(上の写真では「S級」の改良の目玉であった艦首形状を「O級』(上段写真)と比較しています)

さらに艦中部の対空機銃台と探照灯台の構造が簡略化され位置が入れ替えられるなど、工期短縮への工夫が盛り込まれました。

主砲は口径こそ前級と同じ4.7インチ砲でしたが、仰角55度まで射撃可能な新型砲架が採用され、対空射撃能力を向上させています。併せてこれまで標準的な対空火器として装備されてきた40mmポンポン砲が56口径40mm連装機関砲に改められ、近接防空火力も強化されています。

同級の設計・装備は以降の戦時急造艦の基本型となりました。

大戦中に2隻が戦没し、2隻が亡命ノルウェー海軍に貸与されました。戦後3隻がオランダ海軍に売却されています。

駆逐艦「サベージ」の主要兵装f:id:fw688i:20231217093456p:image

駆逐艦「サベージ」の主要兵装の拡大)

前述のように写真の「サベージ」は「S級」の標準的な仕様ではなく、試験的に次級駆逐艦バトル級」用に開発されていた仰角80度まで射撃可能な11.4cm(4.5インチ)連装砲塔を艦首に搭載していました。合わせて艦尾の備砲も標準の4.7インチではなく4.5インチ砲でした。

 

第6次戦時急造駆逐艦:S級の同型艦:寒冷地装備を除外

T級駆逐艦(就役期間:1943-1969  同型艦8隻)

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(「T級」の概観:By WDS: 駆逐艦「トロウブリッジ」の写真:写真はEbayより拝借しています。Ebayへの出品は確認していますが、かなり高価なため入手計画はありません)

同級は1941年度戦時予算で8隻が建造され、1943年から44年にかけて就役しました。

「S級」の基本設計・装備を踏襲しています。レーダー・射撃指揮装置等の更新でやや重量が増え、速度が若干低下しています。

大戦中に戦没艦はなく、戦後全艦が高速フリゲート艦(Type 15への改造1隻、Type 16への改造7隻)に改装され、1960年代まで使用されました。

 

第7次戦時急造駆逐艦:S級の同型艦

U級駆逐艦(就役期間:1943-1974  同型艦8隻)

第8次戦時急造駆逐艦U級改良型:寒冷地仕様の復活

V級駆逐艦(二代)(就役期間:1943-1970  同型艦8隻)

第9次戦時急造駆逐艦U級の改良型:対水上・対空両用方位版の搭載

W級駆逐艦(二代)(就役期間:1943-1970  同型艦8隻)

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(「U級」「V級」「W級」駆逐艦の概観:90mm in 1:1250 by Neptun)
U級」「V級」「W級」はいずれも1941年度戦時予算で承認され、1943年から44年にかけて各級8隻が就役しました。

基本設計や基本搭載兵装は「S級」に準じていましたが、レーダー・射撃指揮系統の更新でマスト形状等が変更されています(「T級」に準じる)。

主砲はそれまで同様4.7インチ砲でしたが、「S級」以来の仰角55度まで射撃可能な新型砲架が採用され、対空射撃能力を向上させています。

近接対空火器は40mm連装機関砲と20mm機関砲6基を基本としながらも、工期短縮等に適応して個艦で装備数等には差異が生じています(20mm機関砲装備への傾向があるように思われます。20mmの方が調達が容易だった?)f:id:fw688i:20231217094047p:image

(上の写真は「U級」「V級」「W級」駆逐艦の主要兵装の拡大:改めてNeptun社のモデルの再現性の高さに舌を巻かされるモデルです。写真下段では魚雷発射管の間の砲座に40mm連装機関砲が丁寧に再現されています。マストの構造も注目でぅ。下の写真は、「O級」(上段)との主砲形状の比較:「O級」は仰角40度の平射砲でしたがその後次第に仰角をあげ、「S級」以降は仰角55度まで射撃可能でした。しかし装填機構、射撃指揮系統の整備が未達で完全な両用砲とは言えませんdした)

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大戦中に「V級」の1隻が失われました。戦後は「U級」は全艦が大規模な改修を受けType 15高速対潜フリゲートに、「V級」は残存した7隻中2隻がカナダ海軍に譲渡され、残る5隻は「U級」と同様の大規模な改装を受けType 15高速対戦フリゲート艦となりました。「W級」は戦後2隻がユーゴスラビア海軍に、3隻が南アフリカ海軍に売却され(1隻はType 15改造を受けたのち売却)、残る3隻はType 15高速対潜フリゲート艦への大規模な改装を受けました。

 

Type 15高速フリゲート艦への改造

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(Type 15フリゲート艦の概観:by Delphin: 戦時急造艦の残存艦のうち23隻がType 15への改造を受けています。落札失敗。ちょっと油断しました:写真はEbayより拝借しています。現在、3D printing modelの調達を計画中)
潜水艦の高速化に伴い、従来英海軍が大量の揃えてきたフリゲート艦やスループ艦、コルベット艦では最速が20節程度に過ぎず、対応できないことは明らかでした。

一方で、大戦中に今回ご紹介しているように英海軍は大量の高速を発揮できる戦時急造艦を建造しており、これを護衛艦に改造することが決定され、Type 15 フリゲート艦への改造を受け流ことになったわけです。上掲の写真でお分かりのように、艦容はほぼ原型をとどめないほどの大規模な改造でした。リンボー対潜迫撃砲2基の搭載など対潜戦闘に重点を置いた改造でした。

R級」4隻、「T級」1隻、「U級」8隻、「V級」5隻、「W級」4隻(1隻は改造後売却)、「Z級」1隻の合計23隻が改造を受けました。

 

第10次戦時急造駆逐艦:新型主砲(11.4cm)・新型方位版の採用

Z級駆逐艦(二代)(就役期間:1944-1969  同型艦8隻)

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(「Z級」の概観:By SeeVee 駆逐艦Zent」のモデル:モデルは未保有です。見たことないですね。入手の目処も計画も今の所はありません。写真は例によってsammelhafen.deより拝借しています)
同級は1941年度戦時計画で8隻が建造され、1944年に就役しています。

同級ではこれまでの戦時急造艦が量産性の点から第一次大戦以降、英海軍の標準砲としてきた4.7インチ砲を採用してきた点を見直し、新開発の11.4 cm砲(4.5インチ砲)を搭載しています。同砲は口径こそ4.7インチから4.5インチに縮小してますが砲弾の重量は4.7インチ砲よりも重く、弾道特性も優れていました。しかし砲架は仰角55度のものを改良して使ったため、完全な両用砲化には至りませんでした。併せて両用方位盤を射撃指揮装置として採用する予定でしたが、開発が間に合わず、高射、平射の切替式のものを採用したために、この点でも十分とは言えませんでした。

その他の兵装は4連装魚雷発射管2基はそのまま継承し、近接防御火器も「S級」以来の40mm連装機関砲と20mm機関砲6基を基本装備としています。ただし実態は個艦の装備に大きな差があるのは、「U級」以降と同じでした。

 

大戦での戦没艦はなく、エジプト海軍とイスラエル海軍に2隻づつが売却され、1隻が上述のType15高速対潜フリゲート艦への改造を受けています。

 

第11-14次戦時急造駆逐艦:11.4cm主砲搭載・情報システムの実装へ

C駆逐艦(三代)(就役期間:1944-1972  同型艦・準同型艦Ca級Ch級Co級Cr級)合計32隻)

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f:id:fw688i:20231217094704p:image

(「C級:Ca級駆逐艦の概観:93mm  in 1:1250 by Fleetline)

同級は従来の駆逐艦戦隊の編成を踏襲し8隻を1バッチとして発注されました。1941年度計画でCa級8隻が発注され1944年に就役、1942年度計画でCo級Ch級Cr級各8隻、計24隻が発注され、1945年の大戦終結後に就役し、大戦には間に合いませんでした。

艦型はほぼ「Z級」に準じ、主砲も「Z級」から導入された新開発の11.4 cm砲(4.5インチ砲)を搭載しています。魚雷発射管は戦時急造艦の標準である4連装を2基、近接対空火器類も「S級」以来の40mm連装機関砲と20mm機関砲6基を基本装備としていました(個艦により差異があるのは同様です)。f:id:fw688i:20231217094709p:image

(上の写真は「Ca級駆逐艦の主要兵装の拡大:上掲のNeptun社のモデルに比べてしまうと正直物足りない感じは否めませんが、「C級」のモデルとしてはArgonautの新規制作が期待できない以上、Fleetlineは非常に貴重だと思います。写真下段では40mm機関砲も再現されています。トラス形状のマストの再現も)

1940年以降、英海軍ではレーダー等のセンサー類の発展に伴い、これを作戦に有効に活用するための一元管理の試みが続けられてきていましたが、「C級」はこれらの情報処理システムを初めて実装し、英海軍念願の両用砲の実質的な運用が可能となった艦級となりました。Ch級以降では射撃指揮装置も両用方位盤に改められ、これらにより生じるトップヘビー傾向への対応策として、魚雷発射管が1基に減らされ、さらに搭載爆雷数も削減されました。

 

なぜ「Z級」の次が「C級」?

英海軍では嚮導艦を除き駆逐艦には艦級毎に同じ頭文字を使った艦名をつけ、それを艦級名としてきていました。

前級で「Z級」まで艦級名が一巡したため、「Z級」に続く同級は順序から言うと「A級」(三代目)となるはずだたのですが、「A級」(二代目)の各艦は複数の戦没艦を出しながらも依然として数隻が現役であり、代わりに全艦がカナダ海軍に売却されたため空席となっていた「C級」の名を冠されることとなりました。

 

前述のように大戦に間に合った艦はCa級の8隻のみで、戦没艦はありません。

戦後、パキスタン海軍に4隻、カナダ海軍に2隻、ノルウェー海軍に4隻が売却・譲渡されました。

英海軍に残った艦は1950年代に対潜装備の充実や火器の遠隔操作機構の搭載・更新などの近代化改装を受け、1970年代までには全ての艦が退役しました。

 

というわけで、今回は第二次世界大戦勃発後に14次にわたる計画で大量に整備された一連の戦時急造艦のご紹介でした。

次回はようやく「ロイヤル・ネイヴィーの駆逐艦」ミニシリーズの最終回、大戦後に就役した艦級とミサイル化の趨勢に準じて整備されたミサイル駆逐艦の系譜をご紹介したいと考えています。

もちろん、もし、「こんな企画できるか?」のようなアイディアがあれば、是非、お知らせください。

 

模型に関するご質問等は、いつでも大歓迎です。

特に「if艦」のアイディアなど、大歓迎です。作れるかどうかは保証しませんが。併せて「if艦」については、皆さんのストーリー案などお聞かせいただくと、もしかすると関連する艦船模型なども交えてご紹介できるかも。

もちろん本稿でとりあげた艦船模型以外のことでも、大歓迎です。

お気軽にお問い合わせ、修正情報、追加情報などお知らせください。

 

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ロイヤル・ネイヴィーの駆逐艦(その6):大戦間の駆逐艦(後編)ロンドン軍縮条約の前と後

今回は英国海軍の駆逐艦開発小史の6回目。

前回お話ししたように英海軍は第一次世界大戦後の比較的長い休止期間ののち駆逐艦建造を再開しました。1350トン級の船体に4.7インチ単装砲4基を主砲として8−10門の魚雷発射管を搭載し36ノットの速力を発揮するという基本形の元に小改良を積み重ねました。

今回はロンドン海軍軍縮条約での補助艦の保有に関する制約から生まれた小型艦への回帰と、列強海軍への対抗上から生まれた大型駆逐艦の建造、そこから英海軍の駆逐艦建造は新しい基本設計のフェイズを迎えることになります。

今回はその辺りのお話。

 

ロンドン軍縮条約における英海軍の駆逐艦

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1922年に締結されたワシントン海軍軍縮条約は、主として主力艦の保有に関する制約で、巡洋艦以下の補助艦の建造数については無制限でした。1927年に開催されたジュネーブ海軍軍縮会議ではこの補助艦の建造数にも制限を設けるべく議論が交わされましたが、参加国間(特に英米間)で制限の要目についての合意が見られす、具体化できませんでした。

その後、両国間での予備交渉等の努力が実り、1929年にロンドン海軍軍縮会議が開催され、1930年に締結されたのがロンドン海軍軍縮条約でした。

この条約では駆逐艦の定義が改めて定められました。

備砲は5.1インチ以下とされ、排水量は600トン以上1850トン以下とされました。合計保有トン数にも制限が加えられ、英国は米国と同じく15万トン、日本は10万5500トンとされました。併せて1500トン以上の大型駆逐艦は合計トン数の16%以下とする、という付帯制約も設けられました。最後の制約は特に日本海軍が建造していた「吹雪級」に始まるいわゆる「特型」と総称される大型で強力な主砲を持ち、また重雷装の個艦性能に秀でた艦級の整備に対する制約の性質が色濃い内容でした。

世界に広がる植民地経営を背景に、多数の駆逐艦を揃える必要のある英海軍は、これまで基本形を定め少しづつ改良を加える度に艦型を拡大する傾向のあった方針を一転して、艦型抑制を模索することになるわけです。

こうして生まれたのが「G級」「H級」「I級」の各艦級でした。

 

ロンドン海軍軍縮条約の制約に対応した艦型縮小版

G級駆逐艦(二代)(就役期間:1936-1947  同型艦9隻)

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 (「G級」駆逐艦基本型の概観:79mm in 1:1250 by Neptun:参考までに、前級「E級」基本型はArgonaut製モデルで80mmでした。「F級」との比較でないのは、筆者が「F級」基本型のモデルを保有していないからです。製作者が異なるので、「やや小振になっている」というのがどの程度か、あくまでご参考程度に)

「G級」では、上述のようにロンドン海軍軍縮条約で設けられた補助艦艇の保有制限から、艦型抑制が模索されました。具体的には巡行時の燃費改善を狙い搭載されていた巡行タービンを実用場面が稀少との理由で廃止し機関部が短縮されました。このため速力は前級と同じ36ノットを発揮する事ができましたが、航続距離が5520浬から4800浬に減少してしまいました。

こうして1300トン教のやや小型化に成功した船体を持つ「G級」は1933-34年度計画で9隻が建造されました。同級でも基本型8隻と嚮導型1隻の9席を1セットとする編成は継続されました(嚮導艦「グレンヴィル」を含む9隻)

同級では兵装はほぼ前級のものを踏襲することとなりました。具体的には仰角40度まで射撃可能な両用砲的な性格を持った4.7インチ砲4基、4連装魚雷発射管2基、対空兵装とし12.7mm4連装機銃2基とアズテック、爆雷投射軌条などを搭載していました。前級「F級」に準じて、掃海装備も併載されました。f:id:fw688i:20231119100038p:image

(直上の写真は「G級」駆逐艦基本型の主要武装等の拡大:同級は艦型の小型化を機関部の縮小で実現しましたので、兵装配置は、第一次大戦以降の英海軍の駆逐艦の標準的なものを踏襲しています)

嚮導艦「グレンヴィル」

(嚮導艦「グレンヴィル」の概観:by Neptun(モデルは未保有):これまで同様、同級でも嚮導艦は主砲が1基多く、約150トン船体が大きくなっていました。写真は例によってsammelhafen.deより拝借しています)

大戦中に護衛駆逐艦仕様に改装

第二次世界大戦時には、本稿前回でご紹介した艦級同様に、主砲・魚雷発射管から対空兵装、対潜兵装への切り替えによる護衛駆逐艦仕様への改装が実施され船団護衛等に活躍しました。大戦中に6隻が失われ、1隻が損傷を受け閉塞艦として自沈処分されました。

(上掲の写真は現在(2023.Nov.19)入札中の「G級」基本型の就役時(手前)と護衛駆逐艦仕様への改修時(奥)のモデル。両方ともMountford製:Ebayより拝借:ちょっと分かりにくいですが、後方の魚雷発射管を対空砲に換装、併せて艦尾の主砲をおろし対潜装備に変更しています:まあ護衛駆逐艦仕様というのがどんな感じか、見ていただきたく:結局落札には失敗しました

 

G級の改良型

H級駆逐艦(二代)(就役期間:1936-1947  同型艦9隻:準同型艦「ハヴァント級」6隻)

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 (「H級」駆逐艦基本型の概観は前掲の「G級」とほぼ変わりません。基本的な兵装配置も同様です:Neptun社からもG-H級モデルとして発売されています。写真は前出の「G級」基本型のものを再掲しています)

同級は1934−35年計画で建造された艦級で9隻が建造されました(嚮導艦「ハーディ」を含む)。「G級」の搭載兵装を踏襲し、外観は差異はありません。

嚮導艦「ハーディ」

(嚮導艦「ハーディ」の概観:by Neptun:同級も嚮導艦は主砲が1基多く、約150トン船体が大きくなっていました。写真は例によってsammelhafen.deより拝借しています)

第二次世界大戦中にはこれまでご紹介した他級と同様に、主砲と魚雷発射管に換えて対空火器と対潜装備を搭載した護衛駆逐艦に改造されました。大戦中に7隻が失われました。

 

「H級」の準同型艦:ブラジル向け駆逐艦「ハヴァント級」の取得(同型艦 6隻)

ブラジル海軍は「H級」の設計を基にした「ジュルアー級」駆逐艦を6隻、英国に発注し、1936年に同級は起工されました。

1939年にドイツ軍のポーランド侵攻第二次世界大戦が始まると、英国は第一次世界大戦開戦時と同じように、同級を買い上げて自国海軍に編入しました。同級は「ハヴァント級」として1939年から就役を開始しました。

同級は基本型を「H級」としながらも、兵装は4.7インチ主砲を1基減じて対潜装備を大幅に充実させる等の変更が見られています。

大戦中に3隻が戦没しましたが、残存した3隻もブラジル海軍に復帰することはなく、処分解体されています。

 

H級の水雷兵装強化版

I級駆逐艦(二代)(就役期間:1937-1947  同型艦9隻:準同型艦「デミルヒサル級」2隻:2隻は最初からトルコ海軍に)

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 (「I級」駆逐艦基本型の概観:78mm in 1:1250 by Neptun:実艦も『G級」「H級」に比べ少し短くなっています)

同級は魚雷発射管を「G級」「H級」の4連装から5連装に変更した「H級」の雷装強化型で、1935−36年計画で9隻が建造されました(嚮導艦「インゲルフィールド」を含む)。f:id:fw688i:20231119100621p:image

(直上の写真は「I級」駆逐艦基本型の主要武装等の拡大:同級の兵装配置は「G級」「H級」同様、第一次大戦以降の英海軍の駆逐艦の標準的なものを踏襲しています:下の写真は「I級」の最大の特徴である魚雷発射管の強化を見たもの:「G級」「H級」(上段)が4連装発射管を搭載してのに対し、「I級」(下段)では5連装に強化されています)

f:id:fw688i:20231119100616p:image

嚮導艦「インゲルフィールド」

(写真は「I級」の嚮導艦「インゲルフィールド」の概観:by Neptun:同級も嚮導艦は主砲が1基多く、約150トン船体が大きくなっていました。写真は例によってsammelhafen.deより拝借しています)

大戦中には、これまでご紹介してきた艦級と同じように主砲と魚雷発射管に換えて対空火器と対潜装備を搭載した護衛駆逐艦に改造されました。大戦中に6隻が失われました。

同時期の日本海軍の特型駆逐艦との艦型比較

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(上の写真は「I級」と同時期に日本海軍が鋭意整備していた特型駆逐艦(写真奥)との比較:列強海軍が大型駆逐艦の整備に向かっている際に、英海軍は1300トン級の駆逐艦を整備しており、そこに懸念がないわけではありませんでした。この辺りの危機感が、次に紹介する「トライバル級」以降の設計に大いに反映されていくことになります)

 

「I級」の準同型艦:トルコ向け駆逐艦「デミルヒサル級」の取得(同型艦 4隻中2隻を購入)

前述の「ハヴァント級」と同じ経緯で、第二次世界大戦の勃発に伴い、英海軍はトルコ海軍向けに建造中だった「デミルヒサル級」駆逐艦4隻のうちの2隻をトルコより購入し自国海軍に編入しました。

同級は魚雷発射管を「H級」と同じ4連装2基とした以外は「I級」準じています。

第二次大戦中に1隻が戦没しましたが、残存した1隻は大戦後トルコ海軍に引き渡され、英海軍が購入せすトルコ海軍に引き渡された2隻に加わり、1960年代までトルコ海軍に留まりました。

 

条約開けに伴う大型駆逐艦の建造

トライバル級駆逐艦(二代)(就役期間:1938-1949  同型艦16隻 準同型艦11隻)

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 (「トライバル級駆逐艦の概観:91mm in 1:1250 by Neptun)

これまで見てきたように、英海軍の駆逐艦第一次世界大戦以降、1350~1400トン級の駆逐艦をベースに小改良を積み重ねて発展してきました。一方、列強海軍の駆逐艦開発を見ると、強力な火力を搭載した大型駆逐艦の建造が相次いでおり、英海軍も1930年代の前半から大型駆逐艦の開発についての検討を始めていました。

これにロンドン海軍軍縮条約での制限が加わり、大型駆逐艦の建造が具体化したのは1935年度計画においてでした。

トライバル級」は上記のような経緯で開発された英海軍初の大型駆逐艦で、1935年度計画で7隻、1936年度計画で9隻が建造されました。従来の英海軍の駆逐艦と一線を画した設計で、1900トン級の船体に、新開発の45口径4.7インチ連装砲4基8門と従来の駆逐艦に比べると倍の格段に強力な火力を搭載していました。反面、雷装に関しては4連装魚雷発射管1基の搭載に留まり、第一次世界大戦後に建造された駆逐艦が6射線から10射線の魚雷射線を装備したのに比べれば、やや後退した装備で同級が砲戦重視であった事がわかると思います。

対空兵装としては、当初設計では40mmポンポン砲1基と12.7mm4連装機銃2基が搭載され、中距離と近接防空に対応していました。大型の船体には44000馬力の強力な機関が搭載され36ノットの速力を発揮する事ができました。f:id:fw688i:20231119101149p:image

(直上の写真は「トライバル級駆逐艦の主要武装等の拡大:同級は主砲の連装化により一気に従来の駆逐艦の倍の火力を有する強力な駆逐艦となりました。一方で魚雷発射管は1基に抑えられていました)

英海軍の駆逐艦の各艦級は従来は8隻の原型艦と1隻の主砲を増強し船体を大幅に拡大した嚮導艦の9隻編成が基本でしたが、「J級」以降、嚮導艦1隻を含む8隻編成となりました。嚮導艦として指定された艦も兵装・船体の大きさに大差はなく、指令所関連の設備が追加された程度でした。

同時期の日本海軍の特型駆逐艦との艦型比較

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(上の写真は「トライバル級」と同時期に日本海軍が鋭意整備していた特型駆逐艦(写真奥)との比較:「トライバル級」の登場で英海軍は列強と同様の大型駆逐艦保有することになりましたが、同じ大型駆逐艦と言っても、上掲の日本海軍が特型駆逐艦を重雷装の水雷戦隊主力とし、雷撃距離への接近のために強力な備砲を搭載したのに対し、「トライバル級」は主力部隊の護衛、あるいは雷撃する駆逐艦部隊を援護するために火力を強化したなど、役割の特徴が現れてきます)

 

戦時改修

第二次世界大戦中には、同級が搭載する4.7インチ連装砲が従来の仰角40度の対空射撃も可能な「両用砲的な運用も意識した」平射砲であったため、ドイツ空軍の急降下爆撃機には対応できず対空能力は限定的であるところが課題とされたため、3番主砲を4インチ連装対空砲に、その他の機銃類も20mm機関砲に改められました。その他、レーダーの搭載や更新、対潜能力強化のために搭載爆雷数の増加等が行われました。

f:id:fw688i:20231119101608p:image

 (「トライバル級駆逐艦戦時改修後の概観:91mm in 1:1250 by Neptun:下の写真は細部の比較(左列が就役時、右が戦時改修後):改修後には艦橋に対空機関砲が、3番砲塔が4インチ連装対空砲に置き換えられています)

f:id:fw688i:20231119101603p:image

大戦中、高性能ゆえに酷使され16隻中12隻が失われました。

 

英連邦海軍向けの同型艦

同級は英連邦のカナダ海軍、オーストラリア海軍向けにそれぞれ8隻、3隻が建造されましたが、大戦勃発後の建造開始であったため、就役時期がいずれも遅く、戦没艦は1隻に留まりました。

 

従来型駆逐艦建造の継続

J・K・N級駆逐艦(二代)(就役期間:1939-1956  同型艦J級8隻、K級8隻、N級8隻)

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 (「J・K・N級」駆逐艦の概観:86mm in 1:1250 by Neptun)

前述の「トライバル級」が砲戦重視の大型駆逐艦であったのに並行して、従来型の駆逐艦の設計の延長上にあるのが1936年度計画の「J級」、1937年度計画の「K級」そして1939年度計画の「N級」で、各8隻が建造されました。

船型は従来の駆逐艦を強化した1700トン級で、初期設計の「J級」「K級」では「トラバル級」と同じ4.7インチ連装平射砲を3基搭載し、一方、「トライバル級」で少し後退した感のあった雷装を5連装魚雷発射管2基10射線に強化しています。対空兵装は「トライバル級」と同じく中・近距離防空に重点を置いた40mmポンポン砲1基と12.7mm4連装機銃2基を搭載していました。

f:id:fw688i:20231119101858p:image

(直上の写真は「J・K・N級」駆逐艦の主要武装等の拡大:同級は以前の汎用型の駆逐艦への回帰を目指しながらも主砲の連装化により一気に従来の駆逐艦の倍の火力を有する強力な駆逐艦となりました。一方で魚雷発射管も5連装を2基搭載し10射線の雷撃が可能でした。併せて「トライバル級」と同じ近接対空火器を備えていました。さらに搭載爆雷数を増やすなど、対潜装備も強化されていました)

 

嚮導艦はあるのだが

英海軍の駆逐艦の各艦級は従来は8隻の原型艦と1隻の主砲を増強し船体を大幅に拡大した嚮導艦の9隻編成で建造されることが基本でしたが、「J級」以降、嚮導艦1隻を含む8隻編成となりました。嚮導艦として指定された艦も兵装・船体の大きさに大差はなく(15トン程度の差です)、指令所関連の設備が追加された程度でした。

 

「N級」の兵装と「J級」「K級」の戦時改装

トライバル級」で記述した通り、同級の主砲は「トライバル級」と同じ対空射撃の可能な平射砲で、対空火力の不足が大戦勃発後露呈したため1939年度計画の「N級」では兵装の改正が加えられました。

4.7インチ連装主砲は3基のまま、5連装魚雷発射管は1基に抑えられ、代わりに4インチ対空砲が搭載されました。近接防空火器も20mm機関砲4基を追加して増強されました。レーダーの搭載・更新も行われ、搭載爆雷数を増やして対潜能力も強化されました。

就役済みの「J級」「K級」についても順次「N級」の装備に準じた戦時改修が行われました。

(「N級」と「J級」「K級」の戦時改修後の概観:魚雷発射管を4インチ高角砲に換装。20mm機関砲4基を追加。モデルは未保有です:写真は例によってsammelhafen.deより拝借しています。直下の写真は就役時と改修後の比較:上段と中段では概観比較:下段左と下段右では5連装魚雷発射管を4インチ対空砲に置き換えてい流ことがわかります)

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第二次世界大戦中に「J級」では8隻中6隻が、「K級」では6隻が戦没しています。「N級」は8隻全て、オーストラリア海軍に5隻、あるいは戦時中の亡命政府海軍(オランダ海軍2隻、ポーランド海軍1隻)に貸与され、1隻が戦没しました。

 

新型連装砲搭載の大型駆逐艦

L・M級駆逐艦(二代)(L級:就役期間:1941-1948  同型艦8隻/ M級:就役期間:1942-1959  同型艦8隻)

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f:id:fw688i:20231119102917p:image

 (「L級」「M級」駆逐艦の概観:87mm in 1:1250 by Neptun)

英海軍は「トライバル級」以降、主砲を連装化して搭載していますが、「トライバル級」とそれに続く「J級」「K級」「N級」に搭載された連装砲は仰角40度までの対空射撃可能な平射砲で、かつ左右の砲は同じ砲鞍に搭載されていたため単独に俯仰させることはできませんでした。併せてこの連装砲は砲盾形式で後方は解放されていました。

「L・M級」では主砲はより長砲身の新開発の50口径4.7インチ砲が採用され、50度の最大仰角での左右単独での俯仰での射撃が可能な、より両用砲的な性格を持たされ、かつ砲塔形式で搭載されていました。

砲塔形式の採用により重量が増加し、船体を大型化する必要がありました。

そのような経緯で「L・M級」は2000トン弱の「トライバル級」を上回る大きな船体を持ち、より強力な機関を搭載し36ノットの速力を発揮できました。

対空火器としては両用砲化の性格を従来よりも濃厚にした上述の4.7インチ連装砲塔3基に加え、4インチ対空砲を搭載していました。さらに近接対空兵装としては、「トライバル級」「J級」等の対空火器強化型と同じで40mmポンポン砲1基、20mm機関砲4基と12.7mm4連装機銃2基を搭載していました。

水雷兵装は4連装魚雷発射管1基を搭載し、搭載爆雷数を従来の駆逐艦よりも多く設定されていました。

就役時からレーダーも装備していました。

f:id:fw688i:20231119102912p:image

 (直上の写真は「L級」「M級」駆逐艦の主要兵装の拡大:連装砲は全周を覆った砲塔化され、50度までの仰角での射撃が可能なより両用砲化を意識した設計になっています。かつ左右の砲は別個に仰角を変更できることができました。魚雷発射管は1基に抑えられた一方で、近接対空火器に加え4インチ対空砲が搭載されていました:下の写真は前級の「J ・K・N級」(左列)と「L級」「M級」(右列)の連装砲の比較:左列は仰角40度の防盾付の平射砲で、後方は解放されており、また別個に砲の仰角を変えることはできませんでしたが、右列は全周を閉鎖された砲塔形式で50度の暁角での射撃が可能、かつ左右の砲は別の仰角での射撃が可能な、より両用砲的な運用を意識した砲でした)

f:id:fw688i:20231119103149p:image

 

「L級」初期型

(「L級」駆逐艦原型の概観:原型では魚雷発射管2基を搭載する設計でした。しかし、実際にこの形式で=4.7インチ連装砲塔3基と魚雷発射管2基搭載の形式で完成した艦はなかったのかも。モデルは未保有:写真は例によってsammelhafen.deより拝借しています)

「L級」の初期建造艦4隻は、4.7インチ連装砲塔の生産が機構の複雑さ等の要因で遅延したため、4インチ連装対空砲4基を搭載して完成しました。初期型は魚雷発射管2基を搭載していました。

「L級」後期型は魚雷発射管1基を4インチ対空砲に置き換えて完成しています。

「M級」は最初か「L級」後期型と同じ仕様で完成しています。

 

第二次世界大戦では、「L級」初期型は4隻全て、後期型は4隻中3隻が失われ、「M級」は8隻中3隻が失われました。

 

というわけで、今回はロンドン海軍軍縮条約の制約をきっかけに新たな設計のフェイズに入った英海軍の駆逐艦について見てきました。次回は第二次世界大戦の勃発に伴い始まった戦時急造艦の建造のお話を。

もちろん、もし、「こんな企画できるか?」のようなアイディアがあれば、是非、お知らせください。

 

模型に関するご質問等は、いつでも大歓迎です。

特に「if艦」のアイディアなど、大歓迎です。作れるかどうかは保証しませんが。併せて「if艦」については、皆さんのストーリー案などお聞かせいただくと、もしかすると関連する艦船模型なども交えてご紹介できるかも。

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ロイヤル・ネイヴィーの駆逐艦(その5):大戦間の駆逐艦(前編)駆逐艦建造の再開

今回は英国海軍の駆逐艦開発小史の5回目。

第一次世界大戦で大量の駆逐艦を建造した英海軍は、戦勝国とはいえ国土と経済は疲弊した背景から、その過剰な駆逐艦戦力の整理に追われます。旧式艦の退役を急ぐ一方で、戦時計画による新造艦建造(VW級)も継続され、それらが戦後すぐに就役し、しばらくの間、新型駆逐艦の設計・建造を行う余力はありませんでした。

1924年度の計画で、ようやく新型艦の設計が再開される訳ですが、今回はその時期のお話を。

 

駆逐艦建造の再開

今回ご紹介するのは2隻の試作艦と嚮導駆逐艦として設計された1隻、および1927年から毎年計画されたAからFまでの6つの艦級ですが、これらは「A級」の設計を基本型として、小改正を毎年積み重ねておこなったもので、大きな意味では準同型艦と言ってもいいかもしれません。また「C級」を除く5つの艦級はいずれも9隻が1セットとして建造され、8隻は基本型として、1隻はこの戦隊を指揮する嚮導艦タイプとして設計されています。

下記の各艦級のパートでは8隻の基本型についての記述をメインにしていますが、嚮導艦は基本型よりもやや大きく(100t、延長にして2-3m程度)、指揮所や通信系が強化され、かつ主砲搭載搭載数が1基多いという設計はほぼ共通していました。以下の各艦級についての記述ではスペックなどがそれぞれ複数になりやや混乱を招くかと考え、嚮導艦についてのご紹介は控えていますが、「C級」を除くそれぞれの艦級には嚮導艦タイプがそれぞれ1隻づつ付帯しているのだということを、あらかじめお知らせしておきたいと思います。

 

大戦後、駆逐艦建造の再開(ソーニクロフト社による試作タイプ)

駆逐艦「アマゾン」(二代)(就役期間:1927-1948 )

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 (「アマゾン」の概観:78mm in 1:1250 by Argonaut)

上記のように、英海軍では、本来は大戦に間に合わせるべく第一次世界大戦中に着工された50隻近い新造駆逐艦が戦後すぐに就役していました。

これらの背景から、大戦後しばらくの間、新型艦の設計・建造は行われませんでしたが、1924年度の計画で2隻の試作艦の設計が承認されました。

2隻のうちソーニクロフト社に発注されたのが「アマゾン」でした。

同艦は第一次世界大戦末期に設計された「ソーニクロフト改W級」(本稿前回でご紹介)をベースに、やや船体を拡大して出力の高い機関を搭載し速力の向上(37ノット)と、燃料の搭載量を増やして航続距離の延伸を図った設計でした。

ベースとなった「ソーニクロフト改W級」の船体(1150トン級)より大きい1300トン級の船体を持ち、「ソーニクロフト改W級」の主要武装を引き継いでいました(4.7インチ砲4基、3連装魚雷発射管2基)。対空火器は3インチ高角砲を40mmポンポン砲2基に改めていました。

艦橋を全鋼鉄製として遠距離砲戦を視野に入れた射撃管制装置を組み込んでいました。

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(直上の写真は「アマゾン」の主要武装等の拡大:艦首部に背負い式に主砲(45口径4.7インチ単装砲)、煙突の間に40mmポンポン砲を2基搭載しています(写真上段)。3連装魚雷発射管(改W級と同じ俵積み形式)を2基、艦尾部には4.7インチ砲を2基搭載(写真下段))

英海軍は2隻の試作艦の後、「A級」以降の量産型駆逐艦の建造に移行するのですが、「A級」の原型となったのが同艦「アマゾン」でした。

第二次世界大戦にも参戦し、大戦後期には魚雷発射管にかえて対空火器と対潜装備を充実させ、護衛駆逐艦となりました。1948年に退役しています。

 

大戦後、駆逐艦建造の再開(ヤーロー社による試作タイプ)

駆逐艦「アンバスケイド」(就役期間:1927-1946 )

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 (「アンバスケイド」の概観:75mm in 1:1250 by Argonaut)

同艦は前述の「アマゾン」と同じ経緯で1924年にヤーロー社に発注された試作艦です。

武装等は「アマゾン」に準じています。船型はやや小ぶりで1200トン級の船体を持っていました。

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(直上の写真は「アンバスケイト」の主要武装等の拡大:ほぼ「アマゾン」と同じ武装配置で、艦首部に背負い式に主砲(45口径4.7インチ単装砲)、煙突の間に40mmポンポン砲を2基搭載しています(写真上段)。3連装魚雷発射管(改W級と同じ俵積み形式)を2基、艦尾部には4.7インチ砲を2基搭載(写真下段))

機関出力こそ「アマゾン」に一歩譲りましたが、速力と航続力へのアプローチはやや異なっており、速力は計画時には35ノットでしたが公試では37ノットと遜色ない速力を記録しています。燃費は25ノットまでの速力では「アンバスケイド」が優れ、25ノット以上では「アマゾン」が優れているという結果でした。

第二次世界大戦時には対空火器と対潜兵装を強化し護衛駆逐艦として運用されました。

 

大戦後、初の量産型駆逐艦

A級駆逐艦(二代)(就役期間:1930-1947  同型艦9隻・準同型艦2隻)

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 (「A級」駆逐艦基本型の概観:80mm in 1:1250 by Argonaut)

前掲の「アマゾン」をベースとして、1927−28年計画で9隻が量産されたのが「A級」でした。(9隻の内訳は、前述のように基本型8隻、嚮導型「キース」の計9隻です)

1350トン級の船体に、4.7インチ砲4基、40mmポンポン砲2基は「アマゾン」と同等でしたが、魚雷発射管は4連装2基に強化され、さらに対潜装備として爆雷投射機を搭載していました。速力は35ノットを発揮することができました。f:id:fw688i:20231111175356p:image

(直上の写真は「A級」駆逐艦基本型の主要武装等の拡大:原型となった「アマゾン」に準じ艦首部に背負い式に主砲(45口径4.7インチ単装砲)、煙突の間に40mmポンポン砲を2基搭載しています(写真上段)。「アマゾン」と異なり魚雷発射管は4連装魚雷発射管2基に射線を強化しています。艦尾部には4.7インチ砲を2基搭載(写真下段))

主砲である4.7インチ砲は当初の構想では両用砲化を試み、60度まで仰角をかけ対空射撃を可能とする構想もありましたが、これは実現せず搭載したのは仰角30度の平射砲でした。

第二次世界大戦時には魚雷発射管1基を降ろし、3インチ対空砲を搭載、さらに搭載爆雷数を増やすなどの改装を受け護衛駆逐艦として運用されました。

同級は大戦中に6隻が失われました。

 

護衛駆逐艦に改装された「A級」

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(上の写真は護衛駆逐艦に改装された後の「A級」の概観 by Argonaut: 下の写真は「A級」の就役時の姿(上段)と護衛駆逐艦への改装後の姿(下段)を比較したもの。:一番主砲がヘッジホッグに換装されています。魚雷発射管1基と4番主砲が撤去され爆雷投射軌条が追加され、対潜応力が向上している事がわかります。以降の各艦級でも第二次世界大戦期には護衛駆逐艦への改装が行われますが、おそらくほぼ同様の改装が行なわれたのだろうと思います。参考資料としては、有用ではないかと)
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嚮導駆逐艦「コドリントン」(就役期間:1927-1946 )

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 (嚮導駆逐艦「コドリントン」の概観:84mm in 1:1250 by Argonaut)

「コドリントン」は「スコット級」嚮導駆逐艦アドミラルティ嚮導駆逐艦級)の建造思想を受け継ぎ、新たな嚮導駆逐艦として「A級」と同じく1927−8年計画で建造されました。

「A級」より一回り大きな1550トン級の船体を持ち、指揮通信系を充実させた他、4.7インチ砲を5基搭載していました。

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(直上の写真は「コドリントン」の主要武装等の拡大:艦首部に背負い式に主砲(45口径4.7インチ単装砲)、煙突の間に3番主砲(4.7インチ砲)を搭載しています。(写真上段)煙突直後に40mmポンポン砲を2基搭載、その直後に4連装魚雷発射管2基、さらに艦尾部には4.7インチ砲を2基搭載し、艦尾には爆雷投射軌条を備えていました(写真下段))

速力は「A級」と同じ35ノットを発揮し、公試では37ノットを記録しましたが、大きな船体から旋回半径が大きく、「A級」との戦隊行動には制約があったようです。

第二次世界大戦中の1940年空爆で被弾し失われました。

「コドリントン」と「A級」基本型の比較

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(上の写真は「コドリントン」と「A級」の概観の比較:5基の主砲と戦隊旗艦設備を持つ「コドリントン」はやや大きな船体を持っていた事がわかります)

 

A級の対潜戦闘力強化型

B級駆逐艦(二代)(就役期間:1931-1947  同型艦9隻)

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 (「B級」駆逐艦基本型の概観:80mm in 1:1250 by Argonaut:「A級」の小改正型で、基本的な武装配置等は同じです)

1928年度計画で9隻が建造されました(9隻の内訳は、前述のように基本型8隻、嚮導型「ケンベンフェルト」の計9隻です)。

設計段階では「A級」の大幅な強化型として魚雷発射管を3基に強化した重雷装艦等、いくつかの案が検討されましたが、最終的には予算面から「A級」の基本設計を踏襲した小改正版として建造されました。

改正点は、炸薬を増やして強化した魚雷を搭載できるようにしたことと、新型アズティックを搭載し潜水艦の探知能力を高め、これに準じて搭載する爆雷数を増やし対潜戦闘能力を強化したことでした。

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(直上の写真は「B級」駆逐艦基本型の主要武装等の拡大:ほぼ「A級」と主要な武装配置は変わりません。模型では40mmポンポン砲が砲座のみで見当たりません(今気がついた!):下の写真は「A級」と「B級」の最大の差異である対潜兵装の有無の拡大:「B級」(下段)では艦尾に爆雷投射軌条が装備されていました)

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第二次世界大戦中にレーダーと高角砲を搭載し、対空・対戦装備を強化した長距離護衛艦として運用されました。

第二次世界大戦では4隻が戦没しました。

 

B級の航続力強化型

C級駆逐艦(二代)(就役期間:1932-1945  同型艦5隻)

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 (「C級」駆逐艦基本型の概観:80mm in 1:1250 by Argonaut:「B級」の小改正型で、基本的な武装配置等は同じです)

同級は1929−30年度計画で計画された艦級で、「B級」をわずかに拡大し燃料の搭載量を増やし航続距離の延伸を図っています。兵装面では前級を継承していますが、対空火器として3インチ高角砲が装備されています。また前級で廃止された掃海装備が復活され、代わりに爆雷の搭載数が減じられています。f:id:fw688i:20231111181546p:image

(直上の写真は「C級」駆逐艦基本型の主要武装等の拡大:「B級」の小改正版ですので主要な武装配置は変わりません。対空火器に見直しが行われ40mmポンポン砲に換えて3インチ対空砲が装備されています(煙突の間)。艦尾には掃海具がモールドされています)

計画では他級と同様に9隻が建造される予定でしたが、財政面から5隻の建造に留まっています(同級には嚮導型はありません)。

同級は1937−38年に全てカナダ海軍に譲渡されましたので、第二次世界大戦にはカナダ海軍の所属艦として、大西洋での船団護衛等の任務についています。同大戦中に主砲を減じて対空火器の増強、ヘッジホッグの増設、搭載爆雷数の大幅な増加等による対潜戦闘力の強化を行い、護衛駆逐艦として運用され2隻が失われました。

 

C級の対潜戦闘力強化型

D級駆逐艦(二代)(就役期間:1932-1945  同型艦9隻)

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 (「D級」駆逐艦基本型の概観:80mm in 1:1250 by Argonaut)

「C級」の設計をほぼ継承して1930−31年計画で9隻が建造されました(9隻の内訳は、前述のように基本型8隻、嚮導型「ダンカン」の計9隻です)。

同時期に日本海軍などでは駆逐艦の主砲に5インチ砲が採用されるなど、火力強化の動きが始まっていましたが、これに対抗して同級でも口径の拡大は検討されながらも、適当な砲の開発には時間がかかることから4.7インチの口径のままに止まっています。

装備面では再び掃海装備を廃止して搭載爆雷数が増やされ、さらにアクティブソナーが搭載されるなど対潜戦闘力の向上が図られました。f:id:fw688i:20231111181943p:image

(直上の写真は「D級」駆逐艦基本型の主要武装等の拡大:「C級」の小改正版ですので主要な武装配置は変わりません。艦尾には掃海装備に換えて対潜用の爆雷投射軌条が設置されています)

航続距離の延伸の試みは継続され、北大西洋等での運用への適性が高められました。

第二次世界大戦では2隻がカナダ海軍に譲渡されています。

大戦中に同級も主砲を減じて対空火器の増強、ヘッジホッグの搭載、搭載爆雷数の増加等の護衛駆逐艦仕様への改装が行われました。同級は大戦中の喪失感が多く、生き残ったのは2隻でした。

 

好評D級の主砲改良版(両用砲機能の模索)

E級駆逐艦(二代)(就役期間:1934-1946  同型艦9隻)

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 (「E級」駆逐艦基本型の概観:80mm in 1:1250 by Argonaut)

同級は1931−32年度計画で承認された艦級で、「D級」を装備面で小改正した設計で9隻が建造されました(9隻の内訳は、前述のように基本型8隻、嚮導型「エクスマス」の計9隻です)。

改正の要目は懸案であった主砲の両用砲化で、口径はこれまでと同様の4.7インチながら仰角40度の新型砲架に搭載され限定的ながら両用砲的な性格が与えられました。これに伴い3インチ高角砲は廃止されました。他の対空火器ではそれまで標準的な装備であった40mmポンポン砲2基あるいは3インチ対空砲を12.7mm4連装機銃2基にあらためて近接対空火力が強化されました。

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(直上の写真は「E級」駆逐艦基本型の主要武装等の拡大:「E級」の4.7インチ主砲は仰角40度まで射撃可能な両用砲的な性格を持っていました。煙突の間には12.7mm4連装機銃を搭載しています

新型砲架の採用で両用砲的な運用が期待された主砲でしたが、射撃指揮系統は従来のものを踏襲していましたので、その運用は限定的なものに止まっていました。

対潜装備は「D級」のものを基本的に踏襲していました。

第二次世界大戦時には、魚雷発射管1基の3インチ高角砲への換装、搭載機銃を12.7mmから20mmに変更するなど、更なる対空火力の増強、さらには主砲のヘッジホッグへの換装、搭載爆雷数の増加等、護衛駆逐艦仕様への改装が順次行われ、船団護衛等に従事しました。大戦中に6隻が失われました。

 

E級の雷装強化版(新型魚雷への対応)

F級駆逐艦(二代)(就役期間:1934-1949  同型艦9隻)

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(「F級」駆逐艦の概観 by Argonaut:同級の基本形についてのモデルは未保有です。写真は例によってsammelhafen.deより拝借しています)

同級は1932−33年度計画で9隻が建造されました(9隻の内訳は、前述のように基本型8隻、嚮導型「フォークナー」の計9隻です)。

基本設計や主要搭載砲等は「E級」を継承し、搭載魚雷を炸薬量を増やし射程を長くした新型魚雷に変更し、雷装を強化しています。さらに、これまでの艦級では装備としては爆雷兵装か、掃海装備かの二択の色合いが濃かった双方の装備を、併載しています。

第二次世界大戦中には、これまでご紹介した艦級同様に、主砲・魚雷発射管から対空兵装、対潜兵装への切り替えによる護衛駆逐艦仕様への改装が実施され船団護衛等に活躍しました。大戦中に4隻が失われました。

 

F級嚮導駆逐艦「フォークナー」

筆者は「F級」基本型のモデルは保有していませんが、同級の嚮導駆逐艦「フォークナー」のモデルを保有していますので、そちらをご紹介しておきます。

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 (「F級」の嚮導駆逐艦である「フォークナー」の概観:84mm in 1:1250 by Argonaut)

「フォークナー」は嚮導駆逐艦として「F級」基本型よりも100トン(延長で約3メートル)大きな船体を持っています。武装面では主砲が1基多い以外はほぼ基本型の兵装を踏襲しています。

(下の写真は「フォークナー」の主要武装等の拡大:煙突間に3番主砲を搭載しています。モデルでは4連装魚雷発射管1基を対空砲砲座に置き換えた状態を再現しています(写真下段:おそらく第二次世界大戦中?)

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嚮導駆逐艦と基本型の比較

既述のように、本稿今回で紹介した各艦級は基本型8隻と嚮導艦1隻で船体を構成する構想で設計されています。いい機会ですのでどの程度の差異があるのか、比較しておきましょう。

(下の写真は嚮導駆逐艦「フォークナー」(F級)と「F級」のほぼ同型の「E級」基本型の比較:嚮導艦は主砲が1基多く、やや大きな船体を持っている事がわかります)
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というわけで、今回は第一世界大戦後再開された英海軍の駆逐艦建造について、再開期の艦級について見てきました。

次回はこの続きで、ロンドン条約により生じた新たな補助艦保有枠との関連から生み出されることとなる艦級のご紹介をしたいと考えています。

もちろん、もし、「こんな企画できるか?」のようなアイディアがあれば、是非、お知らせください。

 

模型に関するご質問等は、いつでも大歓迎です。

特に「if艦」のアイディアなど、大歓迎です。作れるかどうかは保証しませんが。併せて「if艦」については、皆さんのストーリー案などお聞かせいただくと、もしかすると関連する艦船模型なども交えてご紹介できるかも。

もちろん本稿でとりあげた艦船模型以外のことでも、大歓迎です。

お気軽にお問い合わせ、修正情報、追加情報などお知らせください。

 

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ロイヤル・ネイヴィーの駆逐艦(その4):第一次世界大戦期の駆逐艦(後編)=V/W級

今回は前回に引き続き、第一次世界大戦期の英海軍の駆逐艦の後編です。

英海軍は第一次世界大戦の勃発に伴い、ドイツ帝国海軍が量産しているとされた高速駆逐艦、大型水雷艇に対抗するために高速航洋型駆逐艦の量産に着手します。その流れは「M級」「R級」「S級」と続き、併せて多くの「特型」と言われる民間造船所に設計を委託し、各造船所の持つ技術を積極的に導入したヴァリエーションが建造されました。

その集大成が「V/W級」として世に送り出されます。今回はそういうお話。

 

その前に・・・

ゴジラ -1.0  見てきました

www.youtube.com

必見、とだけ言っておきましょう。

 

ネタバレ・スキップライン*************************

(もちろんそんな深い話はするつもりはありませんが、以下は「ちょっとネタバレ」と言われるかもしれないので、嫌な方は次の青字にスキップしてください)

筆者にとっては実は全くの予想外の映画でした。筆者がちょっと「シン・ゴジラ」に引っ張られていたということかも。しかし、登場人物の背負っているものが違う、ということなのかも、とも感じています。

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(何故、唐突にここで「震電」なのか:一つは筆者が最も好きな日本海軍の戦闘機だから、そして・・・)

そして何より、見事なまでに「山崎貴監督の映画」でした。もちろん褒め言葉です。

とにかく、「是非おすすめ」、です。

 

 

というわけで、ここからは今回の本論です。

最後の第一次世界大戦駆逐艦

V/W級駆逐艦(初代)(就役期間:1918-1947   同型艦:準同型艦、改W級等を含み67隻)

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 (「V級駆逐艦の概観:写真は「アドミラルティV級」だと思われます:75mm in 1:1250 by Navis)

「V/W級」駆逐艦は、英海軍が第一次世界大戦中に建造した駆逐艦の艦級で、艦名がVまたはWで始まっているところから「V/W級」と総称されています。

同級はドイツ帝国海軍が建造中と伝えられた大型駆逐艦・大型水雷艇への対抗上から、大型・重武装駆逐艦として設計されました。従来の英駆逐艦の基本装備であった40口径4インチ(10.2cm)砲3門を強化し45口径4インチ(10.2cm)4門とし、さらに連装魚雷発射管2基の標準装備を3連装発射管2基搭載へと、魚雷射線の強化も行われました。(実際には3連装発射管の製造が間に合わず、当初は連装発射管を搭載し就役し、後に3連装に換装されています)

「V/W級」と総称されますが実は大別して下記の5つのサブ・クラス(おお大好きなサブ・クラス!)に分類されます。

アドミラルティV級(28隻:大戦に間に合ったのは25隻)

アドミラルティW級(19隻)

ソーニクロフトV/W級(4隻)

ソーニクロフト改W級(2隻)

アドミラルティ改W級(14隻)

さらに「改W級」では搭載主砲が45口径4インチ(10.2cm)から45口径12センチに強化されています。

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(直上の写真は「V/W級」の主要武装等の拡大:艦首部・艦尾部に背負い式に主砲(45口径4インチ単装砲)を配置し、連装魚雷発射管を2基(こちらは第一次世界大戦後、3連装に換装されました)、艦の中央部に搭載しています。艦のほぼ中央部に3インチ対空砲を搭載しています(写真中段))

武装の強化に伴い艦型は大型化(1100トン級)しましたが、機関の見直しは行われなかったため、速力は前級(S級)の36ノットから34ノットに低下しています。しかし後述する「ソーニクロフトV/W級特型」では機関の強化も併せて行われ36ノットの速力を発揮しています。

就役は1918年からで、この年の11月に第一次世界大戦終結したことから、奇しくも第一次世界大戦型の駆逐艦の最終形となりました。

大戦終結後、英海軍は疲弊した国力と、大戦期中に膨大に膨れ上がった大量の艦船の整理に追われるわけですが、最も艦齢の若い同級は多くが残置され、第二次世界大戦でも活用されました。

 

サブ・クラスの紹介

モデルは全て揃っているわけではありませんが、それぞれのサブクラスの特徴を簡単にまとめておきます。

 

アドミラルティV級

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(再掲しておきます。「アドミラルティV級」の概観:75mm in 1:1250 by Navis)

V/W級の基本となった型式です。1100トン級の船体に、45口径4インチ(10.2cm)4門を搭載、設計では3連装魚雷発射管2基搭載により魚雷射線の強化する予定でした、しかし結局、3連装発射管が間に合わず従来の連装型のまま就役し、大戦後に換装しています。さらに対空兵装を3インチ高角砲として強化しています。

28隻が建造されましたが、大戦に間に合ったのは25隻でした。大戦後は英海軍の駆逐艦御主力となり、18隻が第二次世界大戦にも参戦しています。

 

アドミラルティW級

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アドミラルティW級の概観:75mm in 1:1250 by Argonaut :V級との最大の差異は、就役時から3連装魚雷発射管を装備していたこと。下の写真ではW級の主要兵装配置の拡大を。3連装魚雷発射管は連装発射艦の上に3本目を追加した形、つまり俵型とでもいうのでしょうか、ちょっと面白い配置になっています(写真下段))f:id:fw688i:20231104094548p:image

1916年度計画で建造された第二グループで19隻が建造されました。ほぼV級の仕様をそのまま踏襲しています。艦名が全てWから始まります。

就役年次がやや遅かったため、V級で導入予定だった3連装魚雷発射管が間に合い、これを装備して就役することができました。同級のうち5隻は就役直前に敷設駆逐艦(後述)に改造されています。

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(「V級」(上段)と「W級」の最大の差異である魚雷発射管部分の比較)

大戦後もV級と併せて英海軍の駆逐艦の主力となりました。さらに第二次世界大戦には16隻が参加し、うち5隻が後述の高速護衛艦(WAIR)に、6隻は長距離護衛艦(こちらの後述)に改装されました。

高速機雷敷設駆逐艦への改装

同級のうち数隻が、魚雷発射管1基を撤去し、さらに主砲1基も撤去、艦尾形状を整形すると共に機雷敷設軌条を設置して、60基程度の機雷敷設能力を持つ高速敷設駆逐艦に改造されています。

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 (機雷敷設駆逐艦タイプの概観 by Navis:下の写真は、「機雷敷設駆逐艦」に改装された艦の細部の拡大:艦首部の主砲配置は変わらず、魚雷発射管は1基のみ搭載、艦尾部は主砲1基を撤去して艦尾形状を機雷敷設軌条等の張り出しを追加しています )

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ソーニクロフトV/W級特型

(ソーニクロフトV/W級特型「ヴァイスロイ」の概観:by Argonaut :モデルは未保有です。写真は例によってsammelhafen.deより拝借しています)

同級は、武装強化のために速力の低下(前級の36ノットから34ノットへ)を甘んじて受け入れたV/W級の速力回復のためにソーニクロフト社が建造した特型です。機関出力の強化が試みられ36-38ノットの速力を記録しています。武装はそれぞれのアドミラル型に準じています。4隻が建造され、第二次世界大戦には3隻が後述するWAIR改造を受け高速護衛艦として、1隻が長距離護衛艦として参戦し、4隻共に第二次世界大戦を生き抜きました。

 

アドミラルティ改W級

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アドミラルティ改W級:「ワイバーン」の概観:75mm in 1:1250 by Argonaut: 写真では後方の3連装魚雷発射管が撤去され高角砲台が設定されています。本来の高角砲位置にはポンポン砲が設置されているのかも。おそらく1940年に短距離護衛駆逐艦への改装を受けたのちの姿ではないかと思います。標準的な改装では最艦尾部の4番砲も撤去され爆雷投下台になっているのですが、このあたりの改装状況には個艦ごとに差異がありますので)

1918年計画でW級の火力強化改良型として52隻が建造される計画が承認されましたが、第一次世界大戦終結により大半がキャンセルされ就役したのは14隻でした。

火力強化目的で主砲口径が4インチから4.7インチに変更され、それに伴い射撃管制のために大型の測距儀を装備するなどして艦橋が大型され、位置がやや後ろに移動しています。これにより排水量が増大し、一方機関を変更しなかったため、速力は32ノットにとどまりました。

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(上の写真ではW級と改W級の際の最大の目玉である主砲の比較を(上段がW級、下段が改W級)。上段がNavisのモデルで下段がArgonautモデルですので、製作者による差異もありますが、主砲の大きさが艦首部の構造にも差異となって表れているようです)

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(上の写真はArgonautモデル同士で全体構造を比較したもの(上段がW級、下段が改W級)。船首楼が延長されているのがわかるかと思います:下段の写真は筆者ん保有モデルではなくsammelhafen.deより拝借しています)

就役は全て第一次世界大戦後で、14隻のうち6隻が長距離護衛艦(後述)への改装を受け、残る8隻はほぼ原型のまま第二次世界大戦に参加しています。

 

ソーニクロフト改W級特型

(ソーニクロフト改W級特型「ウィッチ」の概観:by Argonaut モデルは未保有です。写真は例によってsammelhafen.deより拝借しています)

同級は、兵装強化に伴う船型の大型化で速力が低下したアドミラルティ改W級の速力回復を狙いソーニクロフト社に発注された特型です。34ノットの速力を記録しています。2隻が建造されましたが、いずれも第一次世界大戦終結後の就役となりました。2隻共ほぼ原型のまま、艦隊駆逐艦として第二次世界大戦に参加しています。

 

第二次世界大戦時:護衛駆逐艦」への改造

先述のように、第一次世界大戦駆逐艦としては最も艦齢が若かった「V/W級」は、一部(4隻?)がオーストラリア海軍に供与された他、本稿でも「巡洋艦」の回に見て来たように航空機や潜水艦の脅威の増大を見越して、通商路保護の役割を担う「護衛駆逐艦」への改装に充当されます。

 

WAIR改修艦(14隻・15隻?)

本稿では、航空機の脅威に備えて英海軍は「C級」巡洋艦の数隻を防空艦へと改装して例をご紹介しています。

fw688i.hatenablog.com

WAIR改修は、それと同趣旨で「V/W級」駆逐艦に長射程の対空砲を搭載し、併せて対潜兵装も強化して船団護衛の要として活用しようとする狙いでした。

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 (「V/W級」WAIR改修型駆逐艦の概観 by Argonaut:下の写真は、WAIR改修型の主要武装の拡大:艦首・艦尾に4インチ連装高角砲(QF 4 inch Mk XVI gun)を各1基搭載。魚雷発射管は全て撤去され、対空火器が強化されています。艦尾部には爆雷投射機と投射軌条が搭載され、対潜能力が強化されています)

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改修対象となった艦は全ての主砲・魚雷発射管を撤去し、代わりに4インチ連装高角砲(QF 4 inch Mk XVI gun)2基を搭載、他にも対空機関砲を増設した上で、対潜装備として爆雷投射機、投射軌条を搭載する他、後にはレーダーやソナーなどを装備しています。en.wikipedia.org

主要兵装となった4インチ連装対空砲は、「C級」巡洋艦を改装した防空巡洋艦などにも搭載されていた対空砲で、80度の仰角で11800m、45度の仰角で18000mの範囲をカバすることができました。

***さて、ちょっとこぼれ話。名称の「WAIR」が何に基づくものか、今でははっきりしないようです。「W級」の「対空化(ant-AIRcraft)」ではないか、という説も。

 

 長距離護衛駆逐艦への改装(21隻)

「V/W級」に限らず、「艦隊駆逐艦」は高速をその特徴の一つとするため、実はあまり長い航続距離を持たせる設計にはなっていません。しかし、通商路の保護には経済性を持つ商船で構成される低速の船団の航行に合わせた長い航続距離が必要で、「V/W級」の一部はこれに適応するような改装を受けています。

具体的には機関の一部を撤去し、そのスペースに燃料タンクと居住区画を増設し長い航続距離の獲得と、乗員の居住性を向上させました。当然、速力は落ちましたが、対潜警戒用のソナーの運用等を考慮するとかえって20ノット以上では支障が生じるなどの要件もあり、この目的では25ノット程度の速力があれば十分だったということです。

兵装は主砲を2基減らせて、ヘッジホッグや爆雷投射機・投射軌条を搭載し対潜兵装を充実させ、さらに対空砲・対空機銃等を強化しています。

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(「V/W級」改造長距離護衛駆逐艦の概観 by メーカーは不明:下の写真は、長距離護衛駆逐艦型の主要武装の拡大:艦首1番主砲が撤去されヘッジホッグに換装されています(上段写真)。主砲は45口径4.7インチ(12cm)単装砲を、艦首・艦尾に1基づつ搭載しています。機関搭載数を減らしたため煙突が一本に。魚雷発射管は全て撤去され、4インチ単装高角砲が搭載されています(中段写真)。艦尾部には爆雷投射機と投射軌条が搭載され、対潜能力が強化されています)

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ちょっと余談

以前ご紹介したことのあるニコラス・モンサラットの小説「非常の海:The Cruel Sea」にも、「V/W級」が出て来ます。

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(「非常の海」ちょっと古い本です。古書は今のところそれほど高価ではなく手に入るのですが、本の状態もちょっと不安なので文庫を出してほしいなあ。特に最近、WFHで出勤時にはPC を持ち歩きます。手荷物が重いので、是非、文庫が欲しい! (「光人」文庫あたりにあってもいいかと、お願いしてみてはいるのですが・・・)でも、いい本ですよ。船団護衛とか興味のある方にとっては、ね)

 

この小説、主人公が乗艦しているのは「フラワー級コルベット「コンパス・ローズ」なのですが、「コンパス・ローズ」が属している船団護衛部隊の指揮艦が「旧式のV/W級駆逐艦:ヴァイパラス:Viperous」と表記されています。

「ヴァイパラス」は架空の船ですので、流石に「V/W級」駆逐艦のどのタイプかまでは記述がないのですが、船団護衛部隊はこんな感じかと。

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(左から「V級長距離護衛駆逐艦」、「フラワー級コルベット」(前期型)、「フラワー級コルベット」(改良型)、「対潜型トローラー」の順。船団の規模にもよるでしょうが、ちょっと、重装備すぎるかな。下の編成の方が現実的かもしれません)

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このほかにも、アリステア・マクリーンの「女王陛下のユリシーズ号」にも「V/W級」は登場するようです(ちょっと記憶がないです。「V/W級」が登場するかどうか、というよりも物語そのものの記憶が・・・。読み返してみよう。この小説は、そもそも「ダイドー級」と「ベローナ級」の中間の架空の艦級の防空巡洋艦が舞台でしたよね。大好きな「架空艦」である訳です。作ってみたくなるかも。さらに「シアリーズ級」軽巡洋艦も出てきた記憶があります。読んだ当時には「シアリーズ級」についての認識は旧式の巡洋艦、という程度だったので、今読み返すと、もっと興味深いんだろうなあ、と期待が膨らみます。ああ、話がうんと「V/W級」から外れてしまった)

などと過去には書いていましたが、下記の回で少しまとめ直しています。興味のある方は是非ご一読願います。ここでも、V/W級の登場は確認しながらも、型式までは特定できていません。

fw688i.hatenablog.com

さらに未邦訳のダグラス・リーマンの「The Destroyer」という小説では「V/W級」で構成される駆逐艦部隊(8隻全部?)が主役(物語の舞台?)のようなのですが、もちろんこれは読んだことがありません。

やや旧式になってしまった艦級が、新たな役割を与えられて奔走する、英国の海洋小説のある種ステレオタイプではないかと思います。そうした際に艦齢の高い同級は役回りにピッタリのような気もします。ちょっと疲れた艦と訳ありの艦長(やっぱりちょっと疲れている)、が緊張感の高い任務(船団護衛とか)に何とか立ち向かう、もうそれだけで小説になりそう。

 

これぞコレクションの醍醐味というカット

(下の写真は「V/W級」駆逐艦のヴァリエーションの贅揃い。手前から第一次世界大戦期の「V級駆逐艦のオリジナル。第一次世界大戦期の「V級」機雷敷設駆逐艦への改造。第二次政界大戦期のWAIR改修護衛駆逐艦への改装。第二次世界大戦期の長距離護衛駆逐艦の順)

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第一次世界大戦期の英海軍駆逐艦総覧

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(今回ご紹介した4艦級:手前からアドミラルティM級、アドミラルティR級アドミラルティS級、V/W級の順) 

 

これらのV/W級駆逐艦の戦隊旗艦として、これらに対応する嚮導駆逐艦の以下の2艦級が建造されました。

V/W級対応の嚮導駆逐艦

スコット級:アドミラルティ嚮導駆逐艦級(就役期間:1917-1947   同型艦:8隻)

ja.wikipedia.org

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(「スコット級」嚮導駆逐艦の概観:79mm in 1:1250 by Navis)

 同級は、4.7インチ主砲を装備したV/W級駆逐艦の旗艦任務を想定して設計された嚮導駆逐艦の艦級です。

1800トンの大きな船体に4.7インチ単装砲5基、53センチ三連装魚雷発射管2基を装備し、36.5ノットの速力を発揮することができました。f:id:fw688i:20231028145520p:image

(「スコット級」の兵装配置の拡大:艦首部に背負い式に配置された4.7インチ砲(上段)、煙突間に3番主砲が配置され、後方の煙突直後には3インチ高角砲が設置されています(中段)。艦後部には3連装魚雷発射管2基と背負い式に配置された4.7インチ砲2基(下段))

全て大戦末期に就役したため戦没艦はネームシップの「スコット」のみで、第二次世界大戦では船団護衛任務につきました。

 

シェークスピア級:ソーニクロフト嚮導駆逐艦級(就役期間:1917-1945   同型艦:5隻)

ja.wikipedia.org

 (シェイクスピア嚮導駆逐艦の概観:by Argonaut: モデル未入手。写真は例によってsammelhafen.deより拝借しています)

スコット級同様、V/W級駆逐艦で構成される水雷戦隊を指揮する事を想定し設計された駆逐艦の艦級です。全てソーにクロフト社で建造されました。

1500トン級の船体に4.7インチ単装砲5基、53センチ三連装魚雷発射管2基を装備し、36ノットの速力を発揮することができました。

第一次世界大戦末期から戦後の就役で、戦没艦はなく、第二次世界大戦には3隻が護衛艦として使用されています。

 

という事で前回と今回で第一次世界大戦期に建造された駆逐艦の艦級までを総覧したわけですが、戦勝国ではありながら、英国は戦争により荒廃した人身と経済の回復が急務となり、かつ戦時向けに大量の駆逐艦保有した事情もあり、しばらくの期間、新造駆逐艦には手をつけない時期が続いてゆきます。

次回はそうした大戦間の時期、そしてやがてはワシントン・ロンドン軍縮条約の時代を迎えた英海軍の新たな駆逐艦設計の再始動を見てゆきたいと考えています。

もし、「こんな企画できるか?」のようなアイディアがあれば、是非、お知らせください。

 

模型に関するご質問等は、いつでも大歓迎です。

特に「if艦」のアイディアなど、大歓迎です。作れるかどうかは保証しませんが。併せて「if艦」については、皆さんのストーリー案などお聞かせいただくと、もしかすると関連する艦船模型なども交えてご紹介できるかも。

もちろん本稿でとりあげた艦船模型以外のことでも、大歓迎です。

お気軽にお問い合わせ、修正情報、追加情報などお知らせください。

 

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ロイヤル・ネイヴィーの駆逐艦(その3):第一次世界大戦期の駆逐艦(前編):高速駆逐艦の量産:アップデート版

今回、本稿では英海軍の駆逐艦開発小史の3回目として、これまで「駆逐艦の黎明期:水雷艇駆逐艦としての艦種の誕生」「航洋駆逐艦への発展期:量産型汎用艦種としての駆逐艦の発展」をご紹介してきましたが、今回は第一次世界大戦の勃発という事態に際しての英海軍の動きをご紹介します。

 

第一次世界大戦期の英海軍駆逐艦

今回ご紹介するのは戦時に際しドイツ帝国海軍の高速駆逐艦・大型水雷艇群に対抗するために量産された「M級」「R級」「S級」と、第一次世界大戦の開戦に伴い英海軍が半ば強制的に購入し自国海軍に組み入れた他国海軍向けに建造していたいくつかの艦級、さらに量産された高速駆逐艦を率いる嚮導駆逐艦の艦級をご紹介します。

 

高速駆逐艦の誕生

第一次世界大戦が勃発すると、英海軍は駆逐艦の大量建造に入ります。折からライバルのドイツ帝国海軍は両海軍の主戦場である北海での活動を想定し、大型で高性能の駆逐艦水雷艇を建造しつつあり、従来の英海軍が大量に揃えてきた近海行動用の警備艦艇としての駆逐艦はもとより、北海での行動を想定し設計されてきた航洋型駆逐艦の艦級では、必ずしも見劣りはせずとも、圧倒できる状況ではなくなることが想定されました。そこで、特にこれらに対抗する目的から、それまでの航洋型駆逐艦よりも、より高速の駆逐艦群が生み出されることになります。

さらに、この時期は本稿前回でご紹介した「航洋型駆逐艦の模索期」から「完成形の実戦配備:実戦参加」の時期とも言え、この「航洋型駆逐艦の模索期」から継続した艦艇開発の特徴として海軍本部(アドミラルティ)の設計による基本形の他に、民間造船所の技術・設計能力を積極的に取り込むべく発注された「特型」というヴァリエーションが多出する時期でもありました。つまり筆者の大好きな「枝分かれ」要素がふんだんにあり、しかもそれらが模型的な視点でいうと「模索期」においては「比較的顕著な艦型の差異」に現れていました。しかしこの大戦期に入ると、筆者的には少々残念なことに、あるいは模型コレクションの入手・整理の視点からいうと「ホッとする」と、やや複雑な思いではあるのですが、技術の洗練につれて、「艦型」における差異は小さくなってゆくのです(「差異が小さい」=モデルが作られなくなる、ということです。筆者のお財布的には、ちょっと一安心、そういう意味です)。

 

と、いつもながら、前置きが長くなりましたが今回の時期に英海軍が建造した艦級を、今回の紹介順も踏まえて、先に整理しておきましょう。

「M級」:「M級」の基本型(アドミラルティ=海軍本部型)に加えて以下の特型3形式「ホーソンM級」特型、「ヤーロウM級」特型、「ソーニクロフトM級」特型 同型、準同型艦含め103隻

R級」:「R級」の基本型(アドミラルティ型)に加えて「ヤーロー後期M級」特型、「ソーニクロフトR級特型、「改R級アドミラルティ型)」同型、準同型艦含め62隻

輸出向け駆逐艦の取得

トルコ海軍からの発注駆逐艦=「タリスマン級」4隻

ギリシア海軍からの発注駆逐艦=「メディア級」4隻

チリ海軍からの発注駆逐艦=「フォークナー級前期型・後期型」4隻

「S級」:「S級」の基本型(アドミラルティ型)に加えて「ヤーローS級」特型、「ソーニクロフトS級」特型  同型、準同型艦含め67隻

さらに高速化する駆逐艦の小艦隊(戦隊)旗艦の任務にあたるために建造された嚮導駆逐艦の艦級

「マークスマン級」嚮導駆逐艦 同型艦7隻

「アンザック級」嚮導駆逐艦 同型艦6隻

第一次世界大戦期の英海軍の駆逐艦としては他に「V/W級」があるのですが、こちらはヴァリエーション等の含め、次回でご紹介します)

 

高速駆逐艦の第一陣

M級駆逐艦(初代)(就役期間:1915-1923  同型艦:準同型艦103隻)

ja.wikipedia.org

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(「アドミラルティM級」の概観:66mm in 1:1250 by Navis)
「M級」駆逐艦(初代)は、第一次世界大戦の勃発直前に建造が開始された駆逐艦の艦級で、上記の北海を巡る英独の駆逐艦の性能向上競争での優位を目指し、特に速力の向上に重点が置かれた設計でした。その結果、それまでの英海軍の駆逐艦の速力が27ノットから31ノットの速力であったのに対し、34ノットの速力を有する高速艦が生まれました。

同級は以下のサブ・クラスを含んでいます。

アドミラリティM級:85隻

ホーソンM級:2隻

ヤーローM級:10隻

ソーニクロフトM級:6隻

 

建造時期によって、あるいはサブ・クラスによって少し異なるのですが、概ね900トンから1000トン級の船体に、4インチ単装砲3基、53.3センチ連装魚雷発射管2基を搭載しています。また同級は初めて設計段階から高角機関砲を装備に組み入れた艦級で、当初は37mmポムポム砲、後には40mmポムポム砲を搭載していました。

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(直上の写真は「アドミラルティM級」の武装配置:連装魚雷発射管の間に対空機関砲座が設定されています)

問題の速力は「アドミラルティM級」で34ノット、「ホーソン M級」「ヤーローM級」「ソーニクロフトM級」が標準的に35ノットでした。

 

「M級」の戦時急造計画

さて「M級」の概略を見ると同級の建造数がそれ以前の艦級と比べて格段に多いことがわかると思います。これは同級の建造着手後に第一次世界大戦が勃発したことにより、戦時急計画が発動され、それによって同級は海軍本部設計案(「アドミラルティM級」ですね)において5回の戦時急増が行われたことによるものでした。

この影響で、同級は第一次世界大戦前に建造された艦と、大戦勃発後に建造された艦で少し外観に差異が生じています。以下はそのお話を。

en.wikipedia.org

まあ、細かい話です。でも、モデラー・コレクターという人種は、こういう話が大好き、ですよね。

スペック的には、戦時急造艦では戦前タイプでは搭載されていた巡航タービンの搭載が省略されています。

砲の搭載形式も改められたようです。この辺りは今回の3Dモデルではよくわかりませんが、Navisのモデルでは2番・3番砲が砲台座に搭載されており、前期型ではこれが船体に直接搭載されていた、という表現がされていますので、このあたりが異なるのかもしれません。

外観的に最も顕著な差が見られるのは煙突の高さが異なる所で、大戦前に建造されたタイプは煙突が短く、大戦中に建造されたタイプは煙突が長くなっています(表現的には一般的な高さになった、ということのようですが)。

その他、モデルでは探照灯が強化され(?)設置位置がブリッジから独立した探照灯台に移動しています。

アドミラルティM級:戦前タイプ(6隻)

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(「アドミラルティM級」大戦前建造タイプ)

煙突が短く、探照灯がブリッジに設置されています。

アドミラルティM級:戦時急造タイプ(第一次急造計画:16隻、第二次:9隻、第三次:22隻、第四次:16隻、第五次:16隻 計79隻)

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(「アドミラルティM級」開戦後建造タイプ)

煙突の長さがスタンダードになり、探照灯位置が艦尾部の探照灯台上に移されています。探照灯もやや大型に?

この情報に照らすと、前出のNavisモデルは大戦中のモデルであることがわかります。さらに細かいことを言うと、マストがやや後傾しているように見えますので、Navis製モデルは第四次戦時急造計画以降のものかと思われます。

(下の写真は戦前型と戦時急造型の最大の差異である煙突の高さを比較したもの:上段の戦前型の方が煙突が低いことがわかります

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サブ・クラスの名前の見方(前回もご案内しています)

以降、サブ・クラス(準同型艦)は多出しますので、ここで少しこの艦級名の見方を整理しておきましょう。

「アドミラル ティ」型はその名の通り「海軍本部=The Admirality」の設計を採用したサブ・クラスの艦級名で、この艦級の設計の基本形となると考えていただいていいと思います。建造される隻数も、準同型艦内では最も多くなっています。

それ以外のサブ・クラスは「海軍本部=アドミラルティ」型の設計をベースとして、民間造船所に設計委託された「特別発注型」であることを意味しています。

ホーソン M級=ホーソンレスリー社の設計案採用型、ヤーローM級=ヤーロー社の設計案採用型、ソーニクロフトM級=ソーニクロフト社の設計案採用型 をそれぞれ意味している、と読んでいただければ。

 

ホーソンM級」特型同型艦:2隻)

ja.wikipedia.org

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(66mm in 1:1250 by WTJ)

ホーソンM級」は高速を発揮するために缶数を1基多く搭載したため唯一4本煙突となりました。ちなみに英海軍が建造した最後の4本煙突駆逐艦となりました。

 

「 ヤーローM級」特型同型艦:10隻)

ja.wikipedia.org

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(66mm in 1:1250 by WTJ)

 「ヤーローM級」は軽量化と縦横比の増大(船幅に対し船長を長く取る)により高速化を狙い、二本煙突のスマートな艦型をしていました。39ノットの高速を記録した艦も建造されています。

 

 「ソーニクロフトM級」特型同型艦:6隻)

ja.wikipedia.org

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(66mm in 1:1250 by WTJ)

 「ソーニクロフトM級」はやや高い乾舷を有していました。37ノットの高速を記録した艦もあったようです。

 

M級駆逐艦は、冒頭でご紹介したようにサブ・クラスも含め102隻が建造され12隻が戦没、もしくは戦争中に事故で失われましたが、残りのほとんどが第一次世界大戦終結後、1920年代に売却されています。

(ちなみに、第二次世界大戦日本海軍が投入した艦隊駆逐艦(一等駆逐艦)の総数が、開戦後に完成したものなど全て合わせても、手元の粗々の計算で167隻ですので、英海軍がいかに大量の駆逐艦を整備しようとしたか・・・)

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(M級駆逐艦のサブクラス一覧:手前からアドミラルティ型、ホーソン特型、ヤーロー特型、ソーニクロフト特型の順)

 

オール・ギアードタービンの採用

R級駆逐艦(初代)(就役期間:1913-1947   同型艦:準同型艦62隻)

ja.wikipedia.org

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(「アドミラルティR級」の概観:69mm in 1:1250 by Hai)

R級駆逐艦は初の量産型のオール・ギアードタービンの搭載艦で、2軸推進を採用し、以降の駆逐艦の機関・推進機の原型となった艦級です。

基本設計は「M級」に準じており、1000トン級の船体に、前級と同様4インチ単装砲3基、40mm対空機関砲(ポムポム砲)1基、53.3cm連装魚雷発射管2基を搭載していました。速力はオール・ギアードタービンの採用で36ノットを発揮することができました。

このため「アドミラルティR級」の外観は、「アドミラルティM級」に酷似していました。

以下のサブ・クラスを含んでいます。

アドミラルティR級:39隻
アドミラルティR級:11隻

ソーニクロフトR級:5隻
ヤーロー後期M級:7隻(同サブ・クラスはオール・ギアードタービンではなく、従来の直結タービンを搭載していたため、M級の名称を冠していました)

 

それぞれのサブ・クラスの特徴を以下にまとめておきます。

「 ソーニクロフトR級特型同型艦:5隻)

「ソーニクロフトR級」は排水量をやや小さくした設計で、前期型で37ノット、後期型で40ノットを超える速力を記録しました。

(モデルは見当たらず、外観は直上の「アドミラルティR級」(上掲)に類似しているようです)

 

「 ヤーロー後期M級」特型同型艦:6隻)

「ヤーロー後期M級」はオール・ギアードタービンではなく、従来の直結タービンを搭載していたため、「M級」の名称を冠していました。従来型の機関ながらヤーロー社の設計の特徴である縦横比の大きな船体(つまり細長い)を持ち「R級」と同様の速力を有していました。外観は「ヤーローM級」同様、2本煙突でした。

(モデルは見当たらず、外観は「ヤーローM級」特型に類似。ということで、下の写真は「ヤーローM級」特型f:id:fw688i:20210717170916j:image

 

アドミラルティR級」(同型艦:11隻)

アドミラルティR級」はその名の通り特型ではなく「海軍本部」の設計した改良型です。荒天時での航行性の確保に向けて、船首楼を長くした船体設計となり、併せて2本煙突となりました。

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(「アドミラルティR級」の概観:68mm in 1:1250 by Navis: 延長された船首楼が特徴ですね) 

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(「アドミラルティR級」の武装配置:基本的な配置は「M級」と変わりません)

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(「アドミラルティR級」(上段)と「アドミラルティR級」の対比。「アドミラルティR級」は英海軍最後の3本煙突駆逐艦となりました)

同級は準同型艦、改型含め62隻が建造され、9隻が戦没、もしくは事故で失われ、残りのほとんどは1920年台後半に売却されていますが、「アドミラルティR級」の「スケイト」のみ、第二次世界大戦に参加しています。

 

他国海軍向け駆逐艦の取得

第一次世界大戦開戦以降、英海軍は他国海軍から民間造船所が受注していた輸出向け駆逐艦の3艦級を自国海軍の補強のために半ば強制的に購入し、自国海軍に編入しています。

 

トルコ海軍からの取得駆逐艦=タリスマン級(就役期間:1916-1921    同型艦:4隻)

ja.wikipedia.org

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(「タリスマン級」の概観:85mm in 1:1250 by WTJ)

 特型ヴァリエーションで何度か登場しているホーソンレスリー社がオスマン・トルコ海軍から受注していた艦級を、英海軍が取得したものです。しかしオスマン・トルコ側には発注記録がなく、かつ当時のオスマン・トルコが親ドイツ帝国色が強かったことから、発注経緯が疑問視されているようです。

同時期のアドミラルティM級駆逐艦よりもやや大きく(1000トン級)、速力はやや低速ながら(32ノット)兵装が強力で4インチ単装砲をM級の3基に対し5基搭載していました。

 (直下の写真は「タリスマン級」の兵装配置。艦首部の主砲は並行配置されていました)

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1隻が戦没しましたが、戦後、オスマン・トルコ帝国の解体とともに、後継のトルコ共和国に引き渡されることはありませんでした。

 

ギリシア海軍からの取得駆逐艦=メディア級(就役期間:1915-1921   同型艦:4隻)

ja.wikipedia.org

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(「メディア級」の概観:78mm in 1:1250 by WTJ)

 同級はジョン・ブラウン社とフェアフィールド社がギリシャ海軍から受注し建造中だった駆逐艦を英海軍が取得したものです。アドミラルティM級に準じた性能でしたが、やや、速力は抑えめでした。大戦中に1隻が悪天候で失われ、3隻は戦後ギリシア海軍に引き渡されることなくスクラップになりました。 

 

チリ海軍からの取得駆逐艦=フォークナー級前期型・後期型(就役期間:1914-1920  同型艦:4隻)

ja.wikipedia.org

「フォークナー級」前期型

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(「フォークナー級」前期型の概観:78mm in 1:1250 by WTJ:直下の写真は前期型の特徴的な主砲配置。同級の4.7インチ主砲は、艦首部と艦尾部は並列配置、艦橋脇に1基づつ配置されていました)

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「フォークナー級」後期型

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(「フォークナー級」後期型の概観:78mm in 1:1250 by Navis:直下の写真は後期型の特徴的な主砲配置。後期型の4.7インチ主砲は、艦首部と艦尾部、いずれも三角形配置されていました)

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 同級はホワイト社がチリ海軍から受注していた6隻の大型駆逐艦のうち4隻を英海軍が取得したものです。

当時の英海軍の標準的な駆逐艦に比較して二回りほど大きな船体を持ち(1700トン級)、4インチ単装砲6基という極めて強力な砲兵装を備えていましたが、英海軍では取得後、主砲を4.7インチ単装砲に置き換え、火力を更に防護巡洋艦並みに強化しました。速力は31ノットとやや控えめでした。

4.7インチ砲の配置の差異から、前期型と後期型に分かれています。

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取得後、英海軍では同級を嚮導駆逐艦として運用していました。1隻が戦没しましたが、大戦後、生き残った3隻はチリ海軍に引き渡されました。

 

2本煙突駆逐艦時代の到来

S級駆逐艦(初代)(就役期間:1918-1947   同型艦:準同型艦67隻) 

ja.wikipedia.org

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(「アドミラルティS級」の概観:67mm in 1:1250 by Navis)

 「S級」駆逐艦は艦数の急速な整備という要求に応えるために、「アドミラルティR級」(2本煙突)をベースに量産された艦級です。艦首形状をシアとフレアを強めたものとして乾舷をより高くし凌波性を高めています。1000トン級の船体を有し、兵装は基本従来艦級のものを継承していましたが、従来の標準装備である53.3cm連装魚雷発射管2基に加え、45cm単装魚雷発射管を艦橋両側に装備していました。

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(「アドミラルティS級」の武装配置:基本的な配置は「改R級」と変わりませんが、「S級」の場合は、艦橋脇に45cm単装魚雷発射管を両舷に1基づつ設置していました。艦尾の探照灯台が2番連装発射管上に装備されているのは、実際にはどうなっていたんでしょうか?図面で見てもそうなので、発射管の回転軸上に探照灯台があったのかな?) 

第一次世界大戦終結までに20隻が就役し、47隻が大戦後に就役しました。大半が1930年代に売却されていますが、11隻が第二次世界大戦時に参加、7隻が生き残りました。

 

以下のサブ・クラスが含まれています。

アドミラルティS級:55隻
ヤーローS級:7隻
ソーニクロフトS級:5隻

 

サブ・クラスのそれぞれの特徴を少し。

「 ヤーローS級」特型同型艦:7隻)

「ヤーローS級」はヤーロー社の設計の特徴である縦横比の大きな船体を持ち、機関はヤーロー社の拘りともいうべき直結タービンを搭載していました。36ノット内外の速力を発揮。外観的にはやや低いシルエットだったようです。

(モデルが見当たりません)

「 ソーニクロフトS級」特型同型艦:5隻)

 「ソーニクロフトS級」の最大の外観的な特徴は1番主砲を台座の上に装備したことと、艦橋を後ろにずらせたことでしょう。37ノットから38ノットの速力を発揮しました。

(モデルが見当たりません)

 

嚮導駆逐艦の開発

英海軍では長年、駆逐艦で構成される水雷戦隊の旗艦任務に偵察巡洋艦を当てていましたが、駆逐艦の高速化に伴い、これに同伴できる嚮導駆逐艦を建造しました。

本稿前回で紹介した「スウィフト」はその先駆けとも言える高速駆逐艦で、やがて嚮導駆逐艦任務への改装が行われ、同艦での知見を得て以降の艦級は建造されました。

 

「マークスマン級」(就役期間:1915-1936   同型艦:7隻)

ja.wikipedia.org

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(「マークスマン級」の概観:79mm in 1:1250 by WTJ)

1600トン級の大きな船体を持ち4インチ単装砲4基、53センチ連装魚雷発射管2基を備え、34ノットの速力を発揮することができました。

(下の写真は「マークスマン級」の主要兵装配置の拡大:艦橋前に配置された4インチ砲’(上段)、中央部には4インチ砲2基が設置され(中段)、艦尾に向けて魚雷発射管と4インチ砲が配置されてます)

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嚮導駆逐艦の艦名

英海軍は基本的に性能を同じくする各駆逐艦の艦級ごとに水雷戦隊を組織しており、同級の各艦の艦名には、その率いる水雷戦隊の艦級と同じ頭文字の艦名が与えられました。

ちょっとわかりにくいですね。つまり「マークスマン:Marksman 」はM級駆逐艦で構成される戦隊の旗艦任務につく。同様に「ライトフット:Lightfoot」はL級駆逐艦の戦隊の指揮をとる、という感じです。こういう情報は、英海軍ならではで、大好きですが、そんなにうまく対応しているのかは、未検証です。

 

「アンザック級」(就役期間:1916-1931    同型艦:6隻)

ja.wikipedia.org

(「アンザック級」の概観:79mm in 1:1250 by Navis)

「マークスマン級」で課題とされた横揺れ対策として、乾舷を増大することにより凌波性を改善した船体を持っています。「後期マークスマン級」と呼ばれることもあったようです。

艦首方向への火力の増強が求められたところから、艦首に主砲が背負い式で配置されました。背景には機関部のコンパクト化の成功があり、これにより艦橋を後方に移動させることができました。

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(上の写真は「アンザック級」の主要兵装配置の拡大:背負い式に配置された艦首部の4インチ砲’(上段)、中央部には4インチ砲と対空火器が(中段)、艦尾に向けて魚雷発射管と対空火器、4インチ砲が配置されてます)

という事で今回はここまでなのですが、上述のように、どうらや全てのサブクラスにモデルが見つかる訳ではないようです。気長に探してはゆきますが、どこまで網羅出来るかどうか。

まあ根気よく、続けてゆきますので、どうか気長にお付き合いください。

 

次回は、この続きで「V/W級」駆逐艦とそのヴァリエーション、および同級の嚮導駆逐艦(戦隊旗艦)のご紹介をと考えています。

もし、「こんな企画できるか?」のようなアイディアがあれば、是非、お知らせください。

 

模型に関するご質問等は、いつでも大歓迎です。

特に「if艦」のアイディアなど、大歓迎です。作れるかどうかは保証しませんが。併せて「if艦」については、皆さんのストーリー案などお聞かせいただくと、もしかすると関連する艦船模型なども交えてご紹介できるかも。

もちろん本稿でとりあげた艦船模型以外のことでも、大歓迎です。

お気軽にお問い合わせ、修正情報、追加情報などお知らせください。

 

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ロイヤル・ネイヴィーの駆逐艦(その2):航洋型駆逐艦の模索;アップデート版

筆者としては珍しく、予告通り今回は英海軍の駆逐艦発達史の2回目。

本来は「水雷艇駆逐艦」として開発された「駆逐艦」が、やがては汎用艦船として航洋性をも兼ね備えてゆく、そんな模索期のお話です。

実は今回の投稿を予定通り行うべきか、少し逡巡がありました。というのも以下でご紹介する艦級のうちいくつかまだ手元に届いていないものがあるためです。これには少し裏話があって、それらのモデルの主要な調達先であるWTJ(War Time Journal:本稿では「フランス海軍」の前弩級戦艦のラインナップなどで大変お世話になっている製作者さんです)の下請けのモデル製作会社に不調があり(体調的な問題のようです)、彼らがモデル製作販売から撤退し、3D printing modelのデータ販売に事業を切り替えたため、筆者の発注が全てキャンセルされてしまった、そんな事情があったのです。

ようやく後継の製作会社が見つかり、現在そこに発注をかけているのですが、モデルの入手にはもう少し時間がかかりそうなのです。

モデルが揃ってから2回目をとも考えたのですが、舌の根も乾かぬうちに予定変更というのも、いかがなものかとも考え、結局、モデル欠損のまま、今回は投稿させていただきます。ご容赦を。モデルは11月の上旬には届く予定です。3D printing modelのことですので、初めての業者さんで出力のクオリティが気にはなりますが、そこに問題がなければ11月の中旬には塗装等も完了すると思っていますので、その辺りで、再度アップデートさせていただければ、と考えています。(こちらは2023年10月22日の初稿時のものです。その後、モデル到着などにより、アップデートしています)

 

前置きはそのくらいにして今回の本論です。

前回投稿、つまり「ロイヤル・ネイヴィーの駆逐艦(その1)」では、英海軍における駆逐艦という艦種の誕生期のお話をしました。少しおさらいをしておくと、駆逐艦という艦種は19世紀の半ばに、高い破壊力を持つ魚雷を抱いて高速で主力艦に向けて突っ込んでくる「水雷艇」に対し、駆けつけて追い払う=駆逐する艦種、「水雷艇駆逐艦」として成立しました。

水雷艇」駆逐の目的で実は種々の艦種が開発されたのですが、主として当時の機関の出力とそこから生み出せの速度の問題から、結局、「水雷艇」の設計を拡大したある種「大型水雷艇」的な発想の設計に帰結する事になりました。

 

こうして生まれた「駆逐艦」という艦種だったのですが、その護衛すべき艦隊、特に大きな大砲を搭載した主力艦が沿岸で行動する砲塔艦から、航洋性を兼ね備えた戦艦(つまり一般的には前弩級戦艦)へと移行し、その行動範囲が沿岸から大洋に広がると、当然のことながら随伴しこれら主力艦を護衛すべき「駆逐艦」にも高い航洋性が求められるようになります。こうして、黎明期の「水雷艇駆逐艦」の時代は終わり、「航洋型駆逐艦」の模索が始まるのです。

今回は、その「航洋型駆逐艦」の登場とその発展のお話です。

 

英海軍の航洋型駆逐艦、模索の背景

英海軍(ロイヤル・ネイビー)が「航洋型駆逐艦」の開発に向かった背景には、当時、大艦隊の整備に着手したドイツ帝国海軍の存在がありました。つまりこの著しい成長を見せる仮想敵の浮上により、想定される戦場が北海から北大西洋となり、その波の高い海面での戦闘を想定すると、近海での対水雷艇戦を想定され設計された従来の「水雷艇駆逐艦」では行動に制限が大きく(従来の「水雷艇駆逐艦」時代の仮想敵はフランス海軍でした)、より航洋性の高い駆逐艦が必要になった訳です。

こうして設計に対する模索が始まった「航洋型駆逐艦」はライバルであるドイツ帝国海軍が開発した高速水雷艇・高速駆逐艦との性能競争の要素も加わり、開発に拍車がかかります。就役年次で区切ればおおよそ1904年から第一次世界大戦が始まる1913年までの間に8艦級、約150隻が建造され、この間に航洋型駆逐艦の基本形が定まっていくことになります。

 

E級駆逐艦:(就役時期:1904−1920:同型艦:2形式 36隻)

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ドイツ帝国海軍との主戦場を北海と想定し、従来の「30ノッター型」駆逐艦の「亀甲型」の船首形状から、航洋性を重視した画期的な「船首楼型」船首形状を持った、初めての艦級です。

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(艦首形状の変遷:初期の水雷艇駆逐艦の艦首形状=亀甲型(上段)と航洋型駆逐艦艦首形状=船首楼型の対比:中段写真は最初の航洋型駆逐艦「E級駆逐艦」・下段「G級駆逐艦」)

速力(25.5ノット)と武装(45センチ単装魚雷発射管を2基、7.6センチ単装砲1基、5.7センチ単装砲5基)は従来の「30ノッター型」水雷艇駆逐艦を継承しましたが、船首楼形状の導入による凌波性の向上を目指し、艦型はそれまでの350トン級から、550トンへと大型化しています。

機関はボイラー4基とレシプロ蒸気機関の組み合わせで構成されており、2本煙突と4本煙突の二つの形状があり、ドイツ帝国海軍の新型駆逐艦の登場を想定し、25.5ノットの測量を発揮できました。

2本煙突型(21隻)

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(E級駆逐艦2本煙突型の概観:56mm in 1:1259 by Hai)

ホーソンレスリー社、キャメル・レアード社、ソーニクロフト社、ホワイト社で建造された艦はこの形状をしています。

4本煙突型(15隻)

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(E級駆逐艦4本煙突型の概観: in 1:1259 by Hai

パルマーズ社、ヤーロー社で建造された艦はこの形状をしています。

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(E級駆逐艦の概観特徴の煙突のアップ:よく見ると武装配置にも若干の差異が見られます

 

F級駆逐艦:(就役時期:1907−1921:同型艦:3型式 

12隻)

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タービンと重油専焼方式の採用を機軸とし、ある程度長期の行動にも耐えうる居住性を備えた、まさに「北海」海面での艦隊随伴行動を想定して設計され、後の航洋型駆逐艦の基本設計の基礎を形作ったと言ってもいい大型駆逐艦の艦級です。

蒸気タービンと重油専焼缶の採用で、33ノットの高速を発揮することができました。

艦型は1000トンに少し足りないレベルまで拡大され、45センチ単装魚雷発射管2基の雷装は前級と同じながら、砲戦能力を重視し、備砲を3インチ単装砲3基(一部5基)あるいは4インチ単装砲2基に強化しています。

民間7社で建造されたため、外見には3本煙突、4本煙突、6本煙突などのヴァリエーションが見られています。

3本煙突型(6隻)

(モデルは未入手:現在WTJの後継製作会社で準備中とのことです。WTJではすでにデータは準備済みとのことです)

6社の造船会社で、1隻づつ建造されました。

4本煙突型(5隻)

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(F級駆逐艦4本煙突型の概観:66mm in 1:1259 by Hai)

ホーソンレスリー社で1隻、ホワイト社とソーにクロフト社で各2社が建造されました。

6本煙突型(1隻)f:id:fw688i:20210711123753j:image

(F級駆逐艦6本煙突型の概観: in 1:1259 by Hai)

パルマーズ社で建造された「ヴァイキング」は6本煙突の概観でした。「6本煙突って、そういう意味か」とモデルにしてこそわかる、そういう感じのモデルです(下の写真)。

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駆逐艦「スウィフト」:(就役時期:1908-1921:同型艦なし)

ja.wikipedia.org
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(駆逐艦「スウィフト」の概観:87mm in 1:1259 by Navis)

北海での主力艦隊(特に「ドレッドノート 」以降の主力艦)に帯同する高速駆逐艦として設計されました。速度目標を36ノットとしたため、大出力の機関を搭載する必要があったため、2000トンを超える大型艦となりました。しかし速力は35ノットに留まり、かつ建造費が従来駆逐艦の3倍となるために1隻の試作に留まりました。

武装は4インチ単装砲4基(のちに6インチ単装砲塔2基に換装:小型巡洋艦ですね)と45センチ単装魚雷発射管2基を搭載していました。

大きな艦型を生かし、通信設備の充実等の改装が行われ、初の嚮導駆逐艦水雷戦隊旗艦用駆逐艦)となりました。

 

G級駆逐艦:(就役期間:1909-1921:同型艦 16隻)

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(G級駆逐艦の概観:65mm in 1:1259 by Navis)

F級の後継艦として、建造費をやや抑え、海軍全般での機関の重油専焼化傾向から予測される重油消費の増加を考慮して、再び石炭専焼式の機関に回帰しています。このため速力は27ノットに甘んじましたが、砲力の増強を目指して備砲を4インチ単装砲1基と3インチ単装砲3基とし、雷装も口径をあげて53センチ単装発射管2基と強化しています。

同級は英海軍が建造した最後の石炭専焼機関を搭載した駆逐艦となりました。

 

H級駆逐艦:(就役期間:1910-1921:同型艦 20隻)

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(H級駆逐艦の概観:62mm in 1:1259 by Hai)

G級に引き続き、建造費削減が志向され艦型を750トン級に小型化した設計となっています。

艦型の小型化に伴い、搭載機関にも制限が出ますが、タービンと重油専焼式の組み合わせを採用して、27ノットの速力を維持しています。以降の駆逐艦の機関はこの方式が定着します。

艦型は小型化しましたが、武装は強化され、4インチ単装砲2基、3インチ単装砲2基、53センチ単装魚雷発射管2基を装備していました。

 

I級駆逐艦:(就役期間:1911-1922:同型艦特型をふくみ23隻)

ja.wikipedia.org

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(I級駆逐艦アドミラルティ型の概観58mm in 1:1259 by Navis)

 H級の改良型で武装はH級を継承しつつ、機関区画の短縮が図られました。搭載機関を減じながら、27ノットの速力は維持しています。

特型設計」という試みの始まり

同級ではコスト削減という志向での改良は、ある意味成功しながらも、一方でドイツ帝国の建造しつつあった速力30ノットを超えると言われた高速水雷艇への対抗上、速度改善の打開策として、一つの試みが始まります。

これは、従来の標準型としての海軍本部設計(アドミラルティ型)とは別に、海軍本部設計案をスペックのベースとして民間造船所に艦型や機関出力にある程度の自由裁量を認め、それぞれの独自に開発した技術導入による性能向上に期待を込めた特型設計の発注という形になって現れます。

本級の場合、海軍本部設計により建造された14隻(アドミラルティ型:8社の民間造船所に発注)とは別に、以下の4つの特型設計案が採用され合計9隻が建造されました。

ヤーローI級特型(2隻)

ソーニクロフトI級特型(2隻)

パーソンズI級特型(2隻)

ファイアドレークI級特型(3隻)

(いずれの特型のモデルも見つかりません。外観のヴァリエーションが少ないのかな)

「I級」の特型設計では、ファイアドレークI級特型が、公試で32ノットの最高速力を記録するなどの成果が見られ、このような発注形態は性能向上の突破口発見のための試みとして、定着してゆくことになります。

 

特型設計」≒サブ・クラスの名前の見方

以後、本稿では、暫く同様のサブ・クラス(準同型艦)は多出しますので、ここで少しこの艦級名の見方を整理しておきましょう。

「アドミラル ティ」型はその名の通り「海軍本部=The Admirality」の設計を採用したサブ・クラスの艦級名で、この艦級の設計の基本形となると考えていただいていいと思います。建造される隻数も、準同型艦内では最も多くなっています。

それ以外のサブ・クラスは「海軍本部=アドミラルティ」型の設計をベースとして、民間造船所に設計委託された「特別発注型」であることを意味しています。

前出の「I級」についてみると、ヤーローI級特型=ヤーロー社の設計案採用型、ソーニクロフトI級特型=ソーニクロフト社の設計案採用型、パーソンズI級特型パーソンズ社の設計案採用型、ファイアドレイクI級特型=ファイアドレイク社の設計案採用型 をそれぞれ意味している、と読んでいただければ。

 

K級駆逐艦:(就役時期:1912-1923:同型艦特型をふくみ20隻

ja.wikipedia.org

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(K級駆逐艦アドミラルティ型の概観:65mm in 1:1259 by Navis)

G級、H級、I 級と、建造コストを制限してきた英海軍でしたが、著しい性能向上を謳う仮想敵であるドイツ帝国海軍の大型水雷艇に対抗する必要から、本級は再び大型化した艦型を与えられます。950トンクラスの船体にタービンと重油専焼式の組み合わせの機関を搭載し 31ノットの速力を発揮しました。

兵装も強化され、前級までの4インチ砲と3インチ砲の混載から、4インチ単装砲3基に改められました。雷装は前級同等の53センチ単装発射管2基としていました。

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(「アドミラルティK級」の主要兵装配置の拡大:艦首に4インチ単装砲、艦中央部に単装魚雷発射管(写真上段)。煙突直後に単装魚雷発射管、その後ろに4インチ単装砲塔2基(写真下段)と続きます)

艦型の大型化から重油搭載量を増やし、仮想戦場である北海全域での行動に十分な航続距離を備えていました。

「I級」から始められた民間造船所への委託による特型建造の試みは継続され、基本形であるアドミラルティ(海軍本部設計)型12隻に加え、特型4タイプ8隻が建造されています。 

 

ソーニクロフトK級特型(5隻:3本煙突)

(「ソーニクロフトK級特型:WTJモデルの3D CAD Graphic)

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(「ソーニクロフトK級特型の概観:65mm in 1:1250 by WTJ:下の写真はふ¥主要兵装の配置:「アドミラルティK級とは単装魚雷発射管2基と後方の単装砲2基の配置順が異な流ことがわかります)

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K級」は北海全域での行動を想定し、重油搭載量を増やして航続距離を延伸していましたが、ソーニクロフトK級特型の1隻「ハーディ」では、さらなる航続距離の延伸への試みとして巡航用のディーゼルエンジンを搭載し推進機軸を増やした3軸推進艦として予定されていました。実際にはエンジンが間に合わず、結局、他艦と同様の2軸推進艦として完成しました。

 

デニーK級特型(1隻:2本煙突)

(「デニーK級特型:WTJモデルの3D CAD Graphic)

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(「デニーK級特型の概観:65mm in 1:1250 by WTJ:下の写真ではデニーK級特型の兵装配置、特に2番砲・3番砲と2基の魚雷発射管の配列が異なることがわかります)f:id:fw688i:20231210131702p:image

デニーK級特型の「アーデント」は同級で唯一の二本煙突艦でした。船体構造の設計などに新基軸が盛り込まれています。

 

フェアフィールドK級特型(1隻:3本煙突)

(「フェアフィールドK級特型:WTJモデルの3D CAD Graphic)

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(「フェアフィールドK級特型の概観:65mm in 1:1250 by WTJ:下の写真は「フェアフィールドK級特型の兵装配置:配置順は「デニーK級特型と同じですが、2番砲が台座に設定されていることが特徴です。三本煙突の高さは同じになっています)

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フェアフィールド特型の「フォーチュン」はクリッパー型の艦首形状が特徴でした。

 

パーソンズK級特型(1隻:3本煙突)

(モデル見当たらず:概観は「アドミラルティK級」にほぼ準じていたようです:下の写真はWTJ製の「アドミラルティK級3D CAD Graphic。ご参考まで:モデルは未入手)

パーソンズK級特型の「ガーランド」はセミ・ギアード・タービンを搭載した設計でしたが、推進器の回転数は直結田^便とあまり変わらず、公試では海軍本部型と同等の31ノットの速力にとどまりました。

 

WTJの話、再び

本稿では何度かご紹介しているのですが、WTJ=War Time Journalは筆者のモデル調達のルートとしてはかなり以前からお世話になっています。

www.wtj.com

元々は上掲のショップで、モデルそのものを販売していたのですが、前述のようにWTJが製造を委託していたモデルの製作会社が不調で(体調の問題というような説明を受けた記憶があります)ほぼ廃業されたためモデルの販売から3D prnting modelのデータ販売に切り替えたという経緯があります。

その経緯の最中に筆者がいくつかのモデルを発注しており、最初は少し時間がかかる等の連絡を受け、やがて上掲の数点がキャンセルされるというトラブルがありました。

その対話の途上で、Shapewaysに委託したらどうか、等の筆者からの提言に対し、「クオリティが自信が持てない」等の理由で(本当はビジネス上の問題もあったのかもしれません)、「以後はデータ販売のみにしようと思う。君は自身でアウトプットしてくれる業者を見つけられるかい」などの会話をした記憶があります。

筆者自身に3D printingについての知識が乏しいこともあり、筆者自身では製造ルートの確保ができず、知人に相談など始めていたのですが、最近のWTJのサイトには3D Print Shop Listという項目が新設されており、その中の一つに再発注という経緯になっています。(下記のDobbies Hobbiesですね)

www.dobbieshobbies.net

今回、初めての発注ですので、Shapewaysで「課題」として挙げられた「クオリティ」がどのようなものなのか、興味深く品物の到着を待っているところです。一応、マテリアル等についてはこのShopからは「前回のものとほぼ同等のマテリアルで、品質は満足してもらえると思う」という返事をいただいており、うまくいけば調達先が復活します。WTJのオリジナルのモデルリストからは、まだいくつかShopに開示されていないモデルデータがあるようで、そちらも追々充実してゆくとのことですので、これからも長くお世話になりたいと思っています。

 

今回、写真のクレジットでもお分かりになるように、WTJのページに掲載されてるCAD graphicの写真を拝借しています。

 

L級駆逐艦:(就役時期:1913-1923:同型艦特型をふくみ 22隻

ja.wikipedia.org

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(L級駆逐艦アドミラルティ型の概観:67mm in 1:1259 by Hai)

本級は前級K級同様、大型化路線を継承して建造された駆逐艦の艦級です。

艦型は前級が高速性能を重視した細長い船型を持っているのに対し、同級ではやや艦幅を増して凌波性の向上を目指しています。タービンと重油専焼式の組み合わせは変わらず、29ノットの速度を発揮することができました。

兵装は、3基の4インチ単装砲は射撃速度の早い速射砲(に改められ、53センチ魚雷発射管は連装を2基搭載し射線を倍にするなど、著しい強化が図られています。

(下の写真は本級で初めて搭載された連装魚雷発射管:本級では兵装が強化されています)

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本級でも民間造船所への委託による特型建造の試みは継続され、基本形であるアドミラルティ(海軍本部設計)前期型12隻、後期型2隻に加え、特型3タイプ8隻が建造されています。

 

ホワイトL級特型(2隻:2本煙突)/ヤーローL級特型(4隻:2本煙突)

(「ホワイトL級」特型/「ヤーローL級」特型:WTJモデルの3D CAD Graphic)

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(「ホワイトL級」特型/「ヤーローL級」特型の概観:64mm in 1:1250 by WTJ: WTJのコメントではホワイトL級特型、ヤーローL級特型、両方このモデルで大丈夫、というような案内になっています:下の写真では主要兵装配置を見ていただけるtかと。日本の煙突の間に台座に配置された2番砲、その後に連装魚雷発射管2基、さらに3番砲と続きます)

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ホワイト特型L級、ヤーロー特型L級、いずれもアドミラルティL級が蒸気ボイラー4缶構成だったのに対し、3缶構成に改められています。さらにヤーロー特型L級では直結タービンが採用されています。

 

パーソンズL級特型(2隻:3本煙突)

(モデル見当たらず:下の写真はWTJ製のアドミラルティ「L級」の3D CAD Graphic:パーソンズL級特型アドミラルティL級と同様、3便煙突でした。ご参考まで:モデルは未入手です)

パーソンズL級特型の2隻はオール・ギアード・タービンを初めて採用したことで推進器効率が向上し、とくに燃費効率に著しい効果が見られた、と言われています。

 

ということで今回は第一次世界大戦に突入する前のロイヤル・ネイヴィーの「航洋型駆逐艦」の設計を巡る模索の系譜を見てきました。

英海軍の常として、二カ国標準をテーマとした海軍建設を意識せねばならず、そのためには数を揃える必要があり、これは現実面では常に性能と予算の天秤ばかりを横目で見ながら海軍整備を考えてゆく、ということを意味しています(駆逐艦にかぎたことではないのですが)。

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(手前から、E級、F級、G級、H級、I級、K級 L級の順:当時世界一を誇る栄光の英海軍ならではの、強力な駆逐艦への要望と、世界の海を支配するために数を揃えることを想定した予算との兼ね合いの苦悩がその艦型の変遷に伺えるように思います)

 

そして、これは既に本稿で触れたことですが、この後、英海軍は第一次世界大戦に突入し、ドイツ帝国海軍に対し実戦での優位を目指し、34ノットの速力を発揮する高速航洋型駆逐艦の建造に移行してゆくことになるのですが、これは戦時ならではの決断、と言えるのかもしれません。

 

ということで今回はここまで。

 

次回は、第一次世界大戦期の「ロイヤル・ネイヴィーの駆逐艦」をご紹介。

 

模型に関するご質問等は、いつでも大歓迎です。

特に「if艦」のアイディアなど、大歓迎です。作れるかどうかは保証しませんが。併せて「if艦」については、皆さんのストーリー案などお聞かせいただくと、もしかすると関連する艦船模型なども交えてご紹介できるかも。

もちろん本稿でとりあげた艦船模型以外のことでも、大歓迎です。

お気軽にお問い合わせ、修正情報、追加情報などお知らせください。

 

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ロイヤル・ネイヴィーの駆逐艦(その1):駆逐艦の黎明期

このところ何かと本業が立て込んでいて、あまり時間が取れていません。

加えて秋のドラマ・クールが始まり、そちらも何かと忙しい。まだ全てのドラマが始まってはいませんが、今のところ、結構レベルの高いクールになりそうな予感がしています。少なくともこれまでのところではハズレがない感じ。

 

しかも「三体」WOWOW版がオンデマンドで先行配信されています。 WOWOWでの放送は11月以降のようです。先行配信は10月16日まで、と言うサインが出ているので、ちょっとこの週末はそちらで忙しくなりそうです。

www.wowow.co.jp

NetFlix版が2024年放送予定という情報には触れていて、原作小説を購入しながらまだ1ページも読んでいません。

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それに先駆けてWOWWOWでも、しかも全く別制作のドラマ版で登場するとは。

www.youtube.com

こちらは中国のテンセントが製作しています。

一気に六話くらいまで見ましたが、結構面白い。流石にベストセラー小説のドラマ版、しかもかなり忠実に原作に準じている、ということなので、まあ、面白くないはずがない、ということのなのでしょうが。しかし、筆者がちゃんとドラマについていけているかと言うと、ちょっと自信がありません。六話まで見ながら、話の全貌が見えてこない。筆者の理解力、想像力の問題なのだろうと思いますが、それでも見続けているのだから、魅力に溢れた作品であることは間違いないと思います。しかしこれが中国語字幕版のみ、と言うことで、いわゆる「ながら」で流せない。筆者の場合、通勤の電車の中で見ることが多いので、字幕、と言うのも大きなネックになってきます。

ちょっとサブスク系の話になってきたので、そちらのお話を少し続けると、このところApple TVのオリジナル制作のクオリティの高さを強く感じています。

SF小説のレジェンド、アイザック・アシモフの原作をドラマ化した「ファウンデーション」はもちろん、「インベージョン」「サイロ」「ハイジャック」いずれもなかなかのものです。

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とりわけゲイリー・オールドマン主演の「窓際のスパイ」は大のお気に入り。

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もうすぐシーズン3(late 2023)が始まるらしいので、楽しみにしています。

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と言うようなわけで、あまり時間が取れないので、過去投稿のアップデート版をしばらくは続けたいなあ、と考えています。今回取り上げるのは2021年5月ごろからいくつか連投した「ロイヤル・ネイヴィーの駆逐艦」の発達史を、前回は興味の湧いたところから投稿したので、今度は黎明期から順を追って、アップデート情報など織り込みながら、あらためてご紹介、と考えています。

 

今回はその第一回。ロイヤル・ネイヴィーの駆逐艦の成立期のお話です。7回程度のミニシリーズになりそうな気がしています。2021年の投稿では、第一次大戦以降の艦級については触れていませんでしたので、おそらく4回以降からは新たにそのあたりで新しいモデルをご紹介する機会があると考えています。しばらくお付き合いを。

そしてその何処かに今整備中の「現用艦船:ロイヤル・ネイヴィーのミサイルフリゲート」を挟ませてただくかも。

と言いつつも、ご存じのように筆者の気まぐれは相当なものですので、あまり当てにはなりませんが、しばらくは「ロイヤル・ネイヴィー」ネタが続くことになりそうです。繰り返しますが、筆者の興味が続けば、ということですので、あまり当てにはなりません。

インド海軍の空母、なんて大物も少し前から気になってきています。

 

と言うわけで、ここからは今回の本論。まずは駆逐艦という艦種の成立について

駆逐艦という艦種は19世紀の半ばに誕生します。そもそもは高い破壊力を持つ魚雷を抱いて高速で主力艦に向けて突っ込んでくる「水雷艇」に対し、駆けつけて追い払う=駆逐する艦種、「水雷艇駆逐艦」として成立しました。この目的のために、新たな艦種開発としての模索があったわけで、それは「水雷砲艦(Torpedo gunboat)」や「水雷艇捕捉艦(Torpedo boat catcher)」などの「打ち払う」的な発想の艦種として試行されますが、いずれも速度の面で十分な成果が得られず、結局、「水雷艇」の設計を拡大したある種「大型水雷艇」的な発想の設計に帰結する事になりました。

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(各国が装備した水雷艇ドイツ帝国海軍の小型水雷艇(黒)と、日本海軍の水雷艇(白色の2タイプ))

水雷艇よりも少し大きな船体に高い出力の機関を搭載し、高い運動性の水雷艇に追随できる速射性の高い艦砲を多く搭載する、というわけですね。ならばついでに魚雷も搭載すれば、水雷艇としても使用できるじゃないかということで、やがて大型水雷艇駆逐艦は、実質的に「駆逐艦」という艦種に統合されてゆきます。船体が大きいので、「水雷艇」よりも航洋性が高く、かつ航続距離も長くでき、主力艦隊への随伴も可能で・・・。と利用目的がどんどん広がってゆく大変便利な汎用軍艦の艦種が誕生したわけです。

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水雷艇駆逐艦の対比:ドイツ帝国海軍の小型水雷艇(黒)と、日本海軍の水雷艇(白色の2タイプ)と下記で紹介する英海軍の27ノッタータイプの水雷艇駆逐艦(1番奥))

このように護衛にも攻撃にも使え、かつ主力艦などよりははるかに安価なため、数を揃えることができるということもあって、新興海軍(当時の日本海軍など)もこぞってこれを装備してゆきました。

 

200トン前後の小さな船体で荒天では活動できなくなるような「水雷艇」を巡り、何故こんな騒ぎが起きたかということについて、さらに少し背景を考察すると、当時の主力艦が砲戦だけでは沈めるのが非常に困難だった、ということが挙げられます。

当時列強は(列強以外の国も)、こぞって装甲を持った軍艦をそろえてゆきます。艦型は大型化し、同時に搭載される艦砲も強力なものに発展してゆくのですが、陸上の固定された目標を破壊するならまだしも、航行中の軍艦同士の砲撃戦では、まず砲弾を命中させることが大変難しいのです。さらに十分に装甲防御を施された主力艦を少ない命中弾で行動不能にすることは至難の技で、反面、装甲帯のない船底を狙う魚雷という兵器は大変脅威だったわけです。ただし、魚雷は大変高価、つまりそれほど多い数を搭載できないうえに、射程が艦砲に比べると恐ろしく短いので、射程内に近づくためには防御側の砲弾をかい潜る速度と敏捷性を備えた小型艦艇に搭載して接近し必中を狙う必要がありました。そんな戦術から水雷艇が生まれたわけです。接近のための秘匿性という視点では、やがては潜水艦(潜水可能な水雷艇、といった方がわかりやすいかも:速度は遅くても、見つからずに接近できる)が生み出されます。

 

少し駆逐艦から離れ、余談になりますが、砲戦で主力艦が沈まない、という事については、その後の海戦史を見ても明らかです。あれだけ各国が凌ぎを削って整備した主力艦は、ほとんど主力艦同士の砲撃戦で沈んでいないのです。

そもそも、主力艦同士の海戦というのが、事例が非常に少ないのです。

そして喪失艦を強いて挙げるならば、日本海海戦日露戦争)でのボロジノ級3隻、第一次世界大戦のドッカー・バンク海戦、ユトランド沖海戦での英独両海軍の巡洋戦艦の喪失、第二次世界大戦デンマーク海峡海戦での「フッド」の喪失、北岬海戦での「シャルンホルスト」の喪失、第三次ソロモン海戦での「霧島」の喪失、その辺りでしょうか?

こうして並べてみると、日本海海戦を除いて、その後の喪失例は「軽防御の主力艦」がその弱点を突かれて撃沈されたと言えるような気がします(ユトランド沖海戦の「リュッツォー」北岬海戦の「シャルンホルスト」の場合は、もう少し事情が複雑かもしれませんが)。

弱点を突かれた、という点では、ボロジノ級も同じかもしれません。日本海海戦の場合は、ボロジノ級の設計に課題があり、せっかくの舷側装甲が健全に防御機能を果たせなかった、ということかと考えています。

これ以外に「ビスマルク」やレイテ沖海戦での「山城」「扶桑」などが挙げられるかもしれませんが、これらは主力艦同士の砲撃戦での戦果としてしまうのは、少し違うのかな、と考えています。

 

 英海軍駆逐艦整備

上記の駆逐艦黎明期、英海軍の仮想敵国はフランス海軍でした。

少し当時の状況を乱暴にまとめると、当時は装甲を持った外洋航行可能な戦艦(後に前弩級戦艦と呼称されますが、その少し前)のこれまた黎明期でありました。この後に「戦艦」として我々が良く知る艦種は、この時期以降、急速に発展するのですが、機関と燃料(当時はまだ石炭)の積載量、その補給方法(給炭ですね)を考慮すると、いわゆる「戦艦」はまだ行動範囲が大陸沿岸に限られていた、と言っていいと考えています。

+++また余談ですが、こうした時期の最盛期に日露戦争が行われているわけで、こうした背景を考えても、ロシア艦隊の日本への回航は、その悲劇的な結末はさておき、まさに「壮挙」だと改めて思います。

 

fw688i.hatenablog.com

 

当時フランスでは、防御にせよ攻撃にせよ、沿岸での行動に限定される「装甲軍艦≒戦艦」の有用性について大きな議論があり、議論の末、大鑑巨砲の対局をゆく海軍戦略を掲げる「新生学派(ジューヌ・エコール)」が台頭していました。この学派の台頭により、フランス海軍はその後の「主力艦整備」という視点では英独に大きく遅れを取り、列強が前弩級戦艦弩級戦艦超弩級戦艦の整備へと凌ぎを削ってゆく主力艦における海軍軍備競争からは脱落するのですが、一方で、1881年の予算で水雷艇70隻、1886年の予算で100隻、と大量の水雷艇整備を実行し、沿岸海軍活動を充実させてゆく動きを見せていました。

この大量の水雷艇整備計画への英海軍の回答が、「水雷艇駆逐艦」という艦種となって現れてゆくのです。

 

(前述の「新生学派(ジューヌ・エコール)」とその影響下でのフランス主力艦整備については、下記に少し記述がありますので、もし興味のある方はどうぞ。模型的には、或いはコレクター視点で見ると、なんとも宝箱のような海軍です)

fw688i.hatenadiary.jp

 

27ノッター」「30ノッター」の登場

当時の「水雷艇」の標準速度が23ノットであり、概ね100トン程度の船体に速射砲1門、魚雷2発を抱えて敵性軍艦に向けて近距離まで接近し魚雷を放つ、という戦い方でした。 

これを捕捉し撃破するのが、「水雷艇駆逐艦」の主任務でしたので、英海軍はこの艦種の速力を「水雷艇」より優速の27ノットと定めます。こうして「27ノッター」と呼ばれる「水雷艇駆逐艦」の艦級が誕生しました。

以下、英海軍の駆逐艦の艦級は「A級」「B級」など、アルファベットで紹介されますが、実はこの呼称は後の航洋型駆逐艦の艦級が整備された後の再種別の際に後付けされたもので、この「駆逐艦黎明期」には、その速度特性から「27ノッター」とその発展形である「30ノッター」の2種に大別されていました。

当時の「水雷艇」は形状の特徴として、敵への肉薄を少しでも容易にするために、低い平甲板型の船体を持ち、「亀甲型」と言われる艦首形状をしていました。結果的に「水雷艇」から発展した「水雷艇駆逐艦」も同様の船体形状をしていました。この形状は穏やかな海面では高速を発揮しかつ敵からの視認性を低減する意味では有効でしたが、一方で凌波性が低く、荒天時には行動できませんでした。「水雷艇駆逐艦」である間は、それでも良かったのでしょうが、機関技術や造船技術、船体に使う鋼板の発展に伴い主力艦が大型化し、「駆逐艦」が随伴すべき主力艦隊の活動が外洋に広がると、航洋性を高める設計へと移行してゆくことになるのです。

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(初期の水雷艇駆逐艦の艦首形状=亀甲型(上段)と航洋型駆逐艦:後の紹介する予定の「F級」の艦首形状=船首楼型の対比)

 

27ノッター型 

A級駆逐艦:(就役期間:1894−1920: 準同型艦 42隻)

ja.wikipedia.org

英海軍が初めて整備した駆逐艦の艦級です。

前述のように、整備時点では「A級」の呼称はなく、250トンから350トンの船体に27ノットの速力を発揮できる機関を搭載することから「27ノッター」型とひとまとめにされていました。量産性への意識から、建造は民間造船所に委託され、仕様書のスペックを実現するべく、それぞれの設計に委ねられましたので、機関の形式は多岐にわたり、煙突の数を含め、多様な艦型を含んでおり、まさに模索期の様相を呈しています。

武装は45センチ単装魚雷発射管を2基、7.6センチ単装砲1基、5.7センチ単装砲3〜5基を搭載していました。

 

1本煙突型(就役期間:1900-1920: 同型艦:2隻)

(残念ながらモデルを保有していません:モデルがないかも)

ハンナ・ドナルド&ウィルソン社が建造を担当しました。

 

2本煙突型(就役期間:1894−1918:同型艦:10隻)

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(「27ノッター型:A級2本煙突型の概観:47mm in 1:1250 by Oceanic-TV)

ヤーロウ社、ソーニクロフト社、フェアフィールド社が建造しました。初期型は水雷艇襲撃任務の際には魚雷発射管を57mm砲に換装して出撃することも想定されていたようです。が、この装備換装の造作は初期型のみで廃止されました。

 

3本煙突型(就役期間:1895-1920:同型艦:23隻)

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(「27ノッター型:A級3本煙突型の概観:47mm in 1:1250 by Oceanic-TV)

 ヤーロウ社をはじめ9社が建造を担当しました。

 

4本煙突型(就役期間:1895-1912:同型艦:7隻)

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(「27ノッター型:A級4本煙突型の概観:54mm in 1:1250 by Oceanic-TV)

キャメル・レアード社とアール社が建造を担当しています。

 

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(「27ノッター型:A級」の勢揃い)

 

30ノッター型(B級・C級・D級:就役期間:1897-1921:準同型艦:74隻)

27ノッター」型で一応の成功を収めた英海軍は、より機関を強化した駆逐艦のグループを「30ノッター」型と称し、量産に入りました。

標準武装は「27ノッター」型に準じました。(45センチ単装魚雷発射管を2基、7.6センチ単装砲1基、5.7センチ単装砲5基)

機関の強化に伴い艦型も400トン前後に拡大しています。一方で蒸気レシプロ機関では出力の限界が見えたため、蒸気タービンの導入など新たな試みが行われ始め、何隻かに試験的に搭載されました。

 

B級駆逐艦:(就役期間:1897-1920:同型艦 24隻)

ja.wikipedia.org

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(「30ノッター型:4本煙突型=B級の概観:57mm in 1:1250 by Oceanic-TV)

 「30ノッター」型のうち4本煙突の形式がのちに「B級」と呼称されました。同級から、57mm砲の搭載数が5基とされました。

さらに高速化への模索として、一部の艦はレシプロ蒸気機関に変えて、タービンが試験搭載されました。

日本海軍の「雷級」駆逐艦は同級をプロトタイプとして建造されています。

 

 C級駆逐艦:(就役期間:1897-1920:同型艦 40隻)

ja.wikipedia.org

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(「30ノッター型:3本煙突型=C級の概観:54mm in 1:1250 by Navis)

 「30ノッター」型の3本煙突の外観を持つループが後に「C級」と再種別されました。「30ノッター」型の中では最も多い40隻が9社の民間造船所で建造されました。

 

D級駆逐艦:(就役期間:1897-1921:同型艦 10隻)

ja.wikipedia.org

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(「30ノッター型:2本煙突型=D級の概観:54mm in 1:1250 by Hai)

 「30ノッター」型の2本煙突の外観を持つループが後に「D級」と再種別されました。2本煙突型「30ノッター」はは全てソーニクロフト社で建造され、他の形式に比べ艦型は統一されていました。機関と煙突の関係が整理され、艦型はややコンパクトにまとめられています。(350トン)

 

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(「30ノッター型:B級, C級, D級」の勢揃い)

 

今回は、英海軍の「駆逐艦」の黎明期とそこで運用された艦級を見てきましたが、前述のようにその随伴し護衛すべき「主力艦」の行動範囲が 広がると、その護衛を重要な任務とする「駆逐艦」にも長い航続力と外洋での高い航洋性が求められるようになります。こうして、黎明期の「水雷艇駆逐艦」の時代は終わり、「航洋型駆逐艦」の模索が始まるのです。

ということで今回はここまで。

 

次回は、「航洋型駆逐艦」の模索期のお話を。

もし、「こんな企画できるか?」のようなアイディアがあれば、是非、お知らせください。

 

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禁断の園に着手?:「レッド・オクトーバー」起点のソヴィエト・ロシア海軍の弾道ミサイル潜水艦

先週は本業対応で一回スキップさせていただきました。

今回もまだやや本業の煽りと、プライベートなイベントで少し軽めの投稿です。

とは言え、ついに潜水艦にまで。

 

レッド・オクトーバーを追え(トム・クランシーの小説と映画)に登場する潜水艦「レッド・オクトーバー」の話

ja.wikipedia.org

(文春文庫版ですが、なんと新刊は扱っていない?こんな名作なのに・・・。今となっては古い小説ではあるのでしょうが。ちょっと残念。しかし古書なら手に入ります、あまり苦労せずに)

原作は1984年の発表され、作書のトム・クランシーの名を処女作にして一躍世界に轟かせた、ミリタリー小説の傑作です。この小説によって「テクノスリラー」というジャンルが確立した、と言われることもあるようです。翌年1985年には日本でも翻訳は発表され、こちらもベストセラーとなりました。

この小説は、ソ連(当時)が新型の超静音推進器システムを搭載した弾道ミサイル搭載原子力潜水艦を建造。この船を、ソ連海軍の至宝ともいうべきラミウス海軍大佐がジャックして潜水艦ごと亡命する、こんな事件が太い縦糸となって物語が構成されています。その大佐の亡命の背景、超静音推進器の技術の流出と亡命阻止を巡っての米ソの攻防、そんな横糸が張り巡らされ、緊密な物語が構成されています。(未読の方がいらっしゃったら、是非、ご一読をお薦めします)

この小説を皮切りに、この小説では近代海軍史学者であったジャック・ライアンがやがては合衆国大統領にまで上り詰める一連のシリーズが生まれました。そういう意味でも重要な一冊かと。

1990年には映画化され、こちらも大ヒット。ショーン・コネリー扮するラミウス艦長は圧巻でしたし、脇もそれぞれ素晴らしかった。

www.youtube.com

この物語の主人公は「レッド・オクトーバー」ごと米国への亡命を企てるソ連海軍のラミウス大佐と、その亡命意図を分析から紐解くCIAに雇われたジャック・ライアンなのですが、本稿では、もう一方の主人公ともいうべき弾道ミサイル潜水艦「レッド・オクオーバー」のモデルを入手したので、そちらをご紹介します。

「レッド・オクトーバー」:「スーパー・タイフーン級弾道ミサイル搭載原子力潜水艦

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(「レッド・オクトーバー」の概観:143mm in 1:1250  by Bill's Bits n Piecies in Shapeways:潜水艦はフルハル・モデルがいいかもしれません。特にこのモデルの場合には。それは後ほどご紹介します)
原作(小説:映画ともに)では「レッド・オクトーバー」は「タイフーン級」潜水艦の改良型として紹介されます。

まずはそのベースとなった「タイフーン級弾道ミサイル潜水艦をご紹介。

「941級:(NATOコードネーム)タイフーン級弾道ミサイル搭載原子力潜水艦(就役時期:1981−2023・同型艦6隻

ja.wikipedia.org

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(「941級:タイフーン級弾道ミサイル潜水艦の概観:135mm in 1:1250  by Mountford?)

同級は9000kmの長大な射程を持つR-39型固形燃料型の弾道ミサイルを搭載する潜水艦として建造されました。このミサイルは重量が大きく(100トン!)、従来の主力弾道ミサイル潜水艦である「デルタ級(667B級)」潜水艦には搭載できないため、新型の大型潜水艦が開発される事になりました。ソ連海軍の弾道ミサイル潜水艦としては第3世代にあたります。

これらの事情により同級は水中排水量が48000トンと、前級の最終形である「デルタ-IV型:667BDRM 型)の4倍の水中排水量を持つ破格の大きさの船になっています。設計的には「デルタ級を横に2隻並列したものをベースにしたとか。

巡航ミサイルも発射可能な魚雷発射管6基と弾道ミサイル発射筒20基を搭載し、加圧式原子炉2基を搭載し2軸推進で水中で27ノットの速力を発揮できる設計でした。

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(「941級:タイフーン級」のミサイル収納部分と特徴的な形態を持つ細る部分の拡大:20基の大型固形燃料ミサイルを搭載し、北極海の氷結海面での活動を想定した頑丈なセイル(氷を割って浮上できる?)を持っていました)

1981年から6隻が就役し、ソ連崩壊後もロシア海軍は同級を戦力として維持するとしていましたが、維持に必要な経費が膨大で、また搭載するR-39系のミサイルが生産終了されることになったため、順次退役し、2023年2月に最後の1隻も退役しています。

小説が書かれた1984年ごろには、ソ連海軍の最新潜水艦で、かつ上記のようにその並外れた大きさに代表されるように高性能艦と認識されていました。

 

再び「レッド・オクトーバー」の話

同艦の特徴はなんと言っても超静音を実現した「キャタピラー」と呼ばれる新型の推進機関を搭載していると推測されることで、この推進システムを用いれば米国海軍に探知されることなく弾道ミサイル発射可能な潜水艦を米国の鼻先に潜ませることができる、つまり米国への重大な脅威として扱われます。

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(「レッド・オクトーバー」のミサイル収納部分と「941級」を継承した特徴的な形態を持つセイル部分の拡大)

さらに小説の中でも船体はタイプシップとなった「941級:タイフーン級」よりも長大な船体を持つとして紹介され、ミサイル搭載数も26基と増えています。f:id:fw688i:20231009104445p:image

(「レッド・オクトーバー」の最大の特徴である「キャタピラー:超静音推進システム」の取水口(上段)と排水口(下段):このモデルはフルハル・モデルでなくてはなりません。しかし一点ご報告、実は映画版での表現とはかなり形状が異なります

 

超静音推進器「キャタピラー」をめぐる話

従来の潜水艦は基本スクリューを回し、推進力を得ています。スクリューの回転と水流の音がソナーに探知され位置が特定される、ということになります。一方で「レッド・オクトーバー」の推進システムは船体内のトンネルに海水を引き込み、超伝導で生成された電磁波により水流を作り推力を得る仕組みのようです(正直言って筆者には理解できません)。

この際に、やはり水流の音は発生するのですが、これが従来の潜水艦が発生する音とは異なるため、パッシブソナーの拾った音をを解析するコンピュータには潜水艦と分類することができない、そんな話のようです(映画だったか、小説だったか、「こいつ=コンピュータは何でもかんでもマグマの流動音に分類したがるんです」というような、「これは新型潜水艦の音だ」と主張するベテランソナー員のセリフがあったような)。

ソ連海軍の造船所に潜入した諜報員が入手した建造中の新型潜水艦の船体に設けられた「謎のハッチ」の写真と、このソナー員の拾った「マグマの流動音?」のセットによって、ジャック・ライアンと彼を助ける元海軍中佐(?)のタイラーが新型潜水艦は「超静音推進システム」を搭載していると推論することになる訳です。

ソ連海軍は高度な軍事機密の流出と、ソ連海軍を知り尽くした頭脳の流出を防ぐために、艦艇を展開し「レッド・オクトーバー」を沈めようと試みますし、米国に対しても激務から心神喪失に陥った海軍大佐が米国に核弾頭を降らせようとしている、と告げて共同してこれを阻止しよう、と働きかける、という虚々実々の駆け引きが描かれます。

一方で、ジャック・ライアンは、「レッド・オクトーバー」の出航直後から始まったソ連海軍の慌ただしい動きと、ラミウス大佐の経歴、発言等を分析し彼の亡命意図を推察し、その亡命支援を上層部に進言する、物語はそんな展開になってゆきます。

 

映画は大変面白くまとまってはいますが、本作を十分に楽しむっためには、筆者は小説をお読みいただくことをお薦めします(文春文庫です、が冒頭で記述したように新刊は出ていないかも。古書なら入手可能のようです)。

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(「レッド・オクトーバー」(奥)と「941級:タイフーン級」の大きさ比較:フルハル・モデルとウォーター。ライン・モデルの比較、しかも製作者が異なるので、あまり参考にはならないかもしれません。寸法比較で言うと、「941級:タイフーン級」が135mmで絵あるのに対し、「レッドオクトーバー」のWLモデルは142mm程度になるでしょうから、やはりかなり大きいのでしょうね)

 

素晴らしいモデルを発見!

いろいろと「レッドオクトーバー」について調べるうちに、素晴らしい再現モデルに未ぐり会いました。下の写真は映画版での「キャタピラー」をかなり正確に再現されたモデルだろうと思います。1:350スケールの「タイフーン級のモデルを2隻使ってお造りになられたようです。

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やはり潜水艦はこれくらいのスケールで作るべきなんだなあ、とひたすら感心しています。脱帽です。上掲のご投稿には他の素晴らしい写真も掲載されています。素晴らしい作品に脱帽!

 

ということで、今回ご紹介したかった新着モデルは以上なのですが、この機会にソ連海軍・ロシア海軍弾道ミサイル潜水艦の系譜をまとめておきましょう。

ソ連ロシア海軍弾道ミサイル搭載潜水艦の系譜

弾道ミサイル搭載潜水艦の役割は、核弾頭を搭載したミサイルを仮想敵国の鼻先に潜ませて、有事の際には相手国に対応の時間を与えずに戦果を上げる、こういうことを目的としています。大陸間弾道ミサイルなどは発射探知からの飛翔時間が長く、迎撃手段を講じられる、あるいはもっと重要なことは報復攻撃の猶予を相手国に与えてしまうことが予想される訳です。

従って弾頭ミサイル搭載潜水艦には、極力、相手海軍による探知を避けるための静音性が重要になってくる訳です。

ソ連海軍も核弾頭の開発以降、その発射プラットフォームとして潜水艦を用い、これを仮想敵国の近海に配備する、そんな活動を行なってきました(多分、上記のように潜水艦の行動というのは隠密行動が攻守いずれの側面についても重要ですので、おいそれとは手の内は明かされず、従って表面化しません)。

ソ連海軍が開発した弾道ミサイル搭載潜水艦は、以下の艦級がある、とされています。()内は一番艦の就役年次です。

「629級:ゴルフ級(NATOのコードネームです)」(1958-)

「658級:ホテル級」(1960-)ソ連海軍初の原子力推進の弾道ミサイル潜水艦です。

「667A級:ヤンキー級」(1967-)

「667B級:デルタ級」(1972-)

「941級:タイフーン級」(1981-)

「955級:ボレイ級」(2013-)

今回はそれぞれを簡単にご紹介します。

 

「629級:(NATOコードネーム)ゴルフ級」弾道ミサイル搭載通常動力潜水艦(就役期間:1958−1990・同型艦23隻)

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(「629級:ゴルフ級」弾道ミサイル潜水艦の概観:78mm in 1:1250  by Delphin:セイルには3基の弾道ミサイルが収納されており、このモデルではセイルから弾道ミサイルを発射した瞬間を再現しています

同級はソ連海軍が初めて建造した弾道ミサイル搭載潜水艦です。

通常動力潜水艦(ディーゼル電気推進)で、弾道ミサイルはセイル部分に垂直に収納する形式でした。

通常動力推進でしたので、長期間の潜航が出来ず(必ず一定時間でシュノーケル深度で充電する必要がありました)、かつ初期に搭載したタイプの弾道ミサイルは浮上して発射する必要がありましたので、隠密性という視点では極めて不十分でした。(のちに水中発射が可能なミサイルに換装されました)

水中排水量は3500トン級で、水中で12ノットの速力を発揮することができました。

またミサイルがセイル部分に収納される設計で、搭載数も3発(I型・II型)で、打撃力も十分ではありませんでした。III型ではセイル部分を延長し、弾道ミサイル6発を収納できました。f:id:fw688i:20231009100746p:image

(「629級:ゴルフ級」弾道ミサイル潜水艦III型の概観:III型ではセイルが拡大され、6基の弾道ミサイルが収納されていました。このモデルではセイルから弾道ミサイルを発射した瞬間を再現しています

1958年から23隻が建造され、1990年までに全て退役しましたが、4隻が中国海軍に売却され同海軍の弾道ミサイル潜水艦開発の基礎となったとされています。またソ連崩壊後に10隻が北朝鮮に売却され、同海軍の弾道ミサイル潜水艦は本級がベースとなって開発された可能性があるとされています。、

 

「658級:(NATOコードネーム)ホテル級」弾道ミサイル搭載原子力潜水艦(就役開始時期:1960−・同型艦8隻)

ja.wikipedia.org

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(「658級:ホテル級」弾道ミサイル潜水艦の概観:98mm in 1:1250  by Trident:セイルには3基の弾道ミサイルが収納されています

ソ連海軍初の原子力推進の弾道ミサイル潜水艦です。

「629級:ゴルフ級」の延長として開発され、弾道ミサイルはセイル部分に3発が収納されていました。

水中排水量5500トン級で、水中で26ノットの速力を発揮できました。併せて原子力推進となったことから、潜航したままで長期間行動することが可能でした。初期に搭載された弾道ミサイルは「629級:ゴルフ級」と同様のR-13 で、浮上して発射せねばなりませんでした。しかしそれでも敵国沿岸に潜航状態で接近・待機できるため、核弾頭の秘匿配置という目的には有効でした。

搭載ミサイルは後に全て水中発射可能なR-21に換装されています。f:id:fw688i:20231009101328p:image

(上の写真は弾道ミサイルを格納したセイル部分の拡大

このように原子力推進の導入と水中発射ミサイルの搭載により敵国への核兵器の秘匿配置性が向上には貢献しましたが、収納位置がセイル位置であったため、3発の搭載にとどまり、十分な打撃力の配置には至っていませんでした。

1960年から8隻が就役し、現在ではセイルを拡大して6発搭載と改良されたIII型の1隻のみが現役である可能性があります。

 

「667A級:(NATOコードネーム)ヤンキー級」弾道ミサイル搭載原子力潜水艦(就役時期:1967−1990?・同型艦34隻)

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(「667A級:ヤンキー級」弾道ミサイル潜水艦の概観:105mm in 1:1250  by ??

同級はソ連海軍は建造した第二世代の弾道ミサイル潜水艦で、同級の就役によりソ連海軍は初めて本格的弾道ミサイル潜水艦を保有したと言っていいと考えています。

水中排水量9300トン級と一気に大型化した船体に、2基の加水式原子炉を搭載し2軸推進方式で27ノットの水中速力を発揮できました。また、弾道ミサイルの収納スペースをセイルから船体に移し、搭載数は前級「658級:ホテル級」の3基を大きく上回る16基となりました。f:id:fw688i:20231009102119p:image

弾道ミサイルの収納位置の拡大:16基のミサイル発射筒のハッチがモールドされています)

搭載弾道ミサイルはR-27でR -13/R -21に比べれば遥かに長い射程を持っていましたが、それでも2000-3000kmとまだ十分とは言えず、より長射程のミサイルを試験的に搭載したII型が1隻建造されました(搭載弾道ミサイル数12基)が、この新型ミサイル(R-31)の射程は計画値に遥かに及ばず、1隻のみで終了しました。。

1967年から19隻(II型1隻を含む)が建造されましたが、戦略壁制限交渉(SALT)の規定により、一部は弾道ミサイルを撤去し代わりに巡航ミサイルを搭載した攻撃型潜水艦への改造、あるいは曳航式ソナー等の試験潜水艦への改造、小型潜航艇の母艦等への改造を受けましたが、ほぼ全てが退役していると思われます。

 

「667B級:(NATOコードネーム)デルタ級」弾道ミサイル搭載原子力潜水艦(就役時期:1972−・同型艦諸形式併せて43隻

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同級は前級「667A級:ヤンキー級」の後継として開発された艦級で、1972年に最初の形式の「667B級:デルタ級」の原型であるI型の一番艦が就役し、以降、1990年にIV型の最後の艦が就役するまでに以下の四形式が建造されています。

667B級(デルタ級-I型):18隻:1972-1998

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(「667B級:デルタ級I型」弾道ミサイル潜水艦の概観:108mm in 1:1250  by Delphin

前級「667A級:ヤンキー級」で課題とされた搭載弾道ミサイルの射程を改善したR-29搭載(射程6000-7000km)  を前提に設計された形式で、水中排水量10000トンとさらに艦型は拡大され、2基の加水式原子炉を搭載し2軸推進で26ノットの水中速度を発揮できました。

前述のR-29弾道ミサイルを12基搭載していました。f:id:fw688i:20231009102148p:image

弾道ミサイルの収納位置の拡大:12基のミサイル発射筒のハッチがモールドされています)

第一次戦略兵器削減条約(SOLT-1)の発効に伴い1998年までに全艦、退役しています。

 

667BD級(デルタ級-II型):4隻:1973-1998年?)

(モデルは未保有

搭載弾道ミサイルの搭載数をI型の12基から16基に拡大したタイプで、艦型が水中排水量10500トンと増えています。

1975年から4隻が就役し、第一次戦略兵器削減条約(SOLT-1)の発効に伴い全艦、退役しています。

 

667BDR級(デルタ級-III型):14隻:1976-2010年代?)

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(「667BDR 級:デルタ級III型」弾道ミサイル潜水艦の概観:122mm in 1:1250  by ?

搭載弾道ミサイルをR-29R(複数誘導弾頭搭載型)16基に変更し攻撃力を強化したもので、水中排水量10600トン、水中速度25ノットを発揮できるとされています。f:id:fw688i:20231009103303p:image

弾道ミサイルの収納位置の拡大:16基のミサイル発射筒のハッチがモールドされています)

1993年の計画では、III型は全て退役させる方針でしたが、前述のように「941級:タイフーン級」が搭載ミサイルの更新中止と高額な維持費により早期退役が決定されたため、III型は一転して残されることとなりました。

とは言え艦齢は使用限界を迎えており、2010年代にはほぼ全ての艦が退役したと思われます。

 

667BDRM級(デルタ級-IV型):7隻:1985-現役?)

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(「667BDRM 級:デルタ級IV型」弾道ミサイル潜水艦の概観:130mm in 1:1250  by Trident

「667B級:デルタ級」の最終形態です。艦型は水中排水量が12100トンまで拡大されていますが、そのほとんどは静粛性の向上に充てられたとされています。f:id:fw688i:20231009103327p:image

弾道ミサイルの収納位置の拡大:16基のミサイル発射筒のハッチがモールドされています)

搭載弾道ミサイルは改良型のR -29RMUに換装され、2000年以降順次施行された改装工事により就役している7隻全ての艦寿命が延長され、全て現役にとどまっています。

f:id:fw688i:20231009103339p:image

(上の写真は「677B級:デルタ級」の諸型式のモデルの概観一覧:手前からI型、III型、IV型の順:それぞれ異なる製作会社のモデルですので、再現手法が若干異なります。下の写真は、ミサイルベイの比較:上からI型、III型、IV型の順:いずれのカットも製作会社が異なるので、比較してもいいかどうかやや疑問ではありますが。製作会社の解釈の比較の方が、視点としては面白いかもしれません。III型のモデルはどこのだろう?)

f:id:fw688i:20231009103343p:image

 

「941級:(NATOコードネーム)タイフーン級弾道ミサイル搭載原子力潜水艦(就役時期:1981−2023・同型艦6隻

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(こちらは既述、ですね)

f:id:fw688i:20231009103431p:image

(「941級:タイフーン級弾道ミサイル潜水艦の概観:135mm in 1:1250  by Mountford?)

 

「955級:ボレイ級」弾道ミサイル搭載原子力潜水艦(就役時期:2013−・同型艦8隻?

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(「955級:ボレイ級」弾道ミサイル潜水艦の概観:by Bill's Bits n Piecies in Shapeways: Shapewaysの場合、潜水艦のモデルでは、1:1250スケールでもフルハルモデルが増えているように思います。モデルは未調達)

同級はロシア海軍が整備しつつある第四世代(ソ連海軍から数えて)の戦略弾道ミサイル潜水艦です。設計の基本形式は前々級にあたる「667B級:デルタ級」の系譜(特にIV型)にありますが、艦型は水中排水量24000トンと大きくなっています。

16基の弾道ミサイル発射筒を搭載していますが、搭載するミサイルは新型のR-30で、これは大陸間弾道ミサイルをベースに潜水艦搭載用に小型化したもので、8000-10000kmの射程を持っているとされています。このミサイルの小型化に伴いセイル後方のミサイル格納区画の高さはかなり抑えられています。

推進器はシュラウドリング付きのポンプジェット推進のようで(あまり明らかになっていません)、同海軍の弾道ミサイル潜水艦としては初めて1軸推進を採用した艦となりそうです。水中で25ノットを発揮することができるとされています。

2013年から就役が始まっており、現在6隻が就役していますが、計画では8隻とも10隻とも言われています。

ちなみに同級のニックネーム「ボレイ」はNATOのコードネームではなく本国(ロシア)でつけられた呼称で、西側諸国も本国のニックネームを採用しています。

 

ということで今回はここまで。

次回はおそらくロイヤル・ネイビーのミサイルフリゲート艦の整備ができているはず。そちらのご紹介を。(あくまで予定です)

もちろん、もし、「こんな企画できるか?」のようなアイディアがあれば、是非、お知らせください。

 

模型に関するご質問等は、いつでも大歓迎です。

特に「if艦」のアイディアなど、大歓迎です。作れるかどうかは保証しませんが。併せて「if艦」については、皆さんのストーリー案などお聞かせいただくと、もしかすると関連する艦船模型なども交えてご紹介できるかも。

もちろん本稿でとりあげた艦船模型以外のことでも、大歓迎です。

お気軽にお問い合わせ、修正情報、追加情報などお知らせください。

 

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架空駆逐艦「ヤヴチェンコ」修正版:映画「ハンター・キラー潜航せよ」に登場した「ウダロイ級」ヴァリエーションのご紹介

今回は以前本稿でご紹介したロシア海軍の「ウダロイ級」駆逐艦のヴァリエーションで映画「ハンター・キラー」に登場する架空艦「ヤヴチェンコ」のご紹介です。

このお話はすでに下記の回で一度取り上げています

fw688i.hatenablog.com

もちろん再読していただくのが一番嬉しいのですが、かいつまんでお話をまとめておくと、上掲の投稿ではロシア海軍のほぼ唯一の現役駆逐艦である(と言っていいと思います。実際には若干異なりますが。まあ、その辺りは上掲の投稿を読んでいただければ)「ウダロイ級」駆逐艦のヴァリエーションをご紹介しています。

「ウダロイ級」駆逐艦のヴァリエーションは2種類あり(つまりオリジナルと合わせると3種類あるわけです)、改「ウダロイ級」とでも言うべき「ウダロイII級」(実際に就役したのは1隻のみです)と「ウダロイ級」の近代化改装がゆっくりとですが、2023年時点で就役している8隻に対して進められている、そんなお話をご紹介しています。

 

そしてそのお話の流れの中で、映画「ハンター・キラー 潜航せよ」(2018)にも、同級をベースにしたと思われる駆逐艦が登場する、そんなお話をしています。

筆者の常として、こういうヴァリエーションには目がなく、ついついなんとかモデル化できないか、などと考えてしまうのは、おそらく本稿の読者の皆さんなら何度か見てきていただいていると思います。この話題についてもその例に漏れず、ついついなんとかそれらしく製作してしまおう、そんな暴挙に出ているわけです。

(少し再録しておきます)

架空の駆逐艦「ヤヴチェンコ」:映画「ハンターキラー」に登場する「ウダロイII級」改装らしき駆逐艦

ja.wikipedia.org

映画「ハンターキラー」では「ウダロイII級:11551級」がおそらく原型となったと思われるロシア駆逐艦が登場します。こう言う映画の見方って、どうかとは思いますが、どうしても気になって見てしまう。以前、映画「グレイハウンド」でも同じような話しをしましたが。

(「ヤヴチェンコの概観:Twitterの投稿より拝借しています)

映画に登場するのは「ヤヴチェンコ」と言う名前の駆逐艦です。上の映画の一シーンを切り取った写真を見れば、概観はほぼ「ウダロイII級」と言っていいと思っていました。実艦と異なる点は従来の主砲位置に複合型CIWS(おそらく「コールチク」)が搭載されているところ。複合型とはいえ映画では近接対空ミサイルの発射シーンはありませんし、CIWSとしてはやや大きすぎるようにも思いますので、何か別物、と言う想定の方がいいかもしれません。併せて対潜ロケット発射機を艦橋前に1基搭載、となっているところでしょうか。

映画の中の「ヤヴチェンコ」

この映画は、ロシア連邦で大統領に反対する軍部によるクーデターが発生し、ロシア連邦大統領が囚われてしまいます(一定の手続きを強行したのち、殺害する予定だったのでしょうね)。大統領救出作戦を実施する米軍の特殊作戦部隊(シールズ)を脱出させるため、米原潜「アーカンソー」(「シーウルフ級」原潜)がロシア海軍の本拠地「ポリヤルヌイ」に潜入する、という、大筋としては「なんともなあ・・・」というようなお話です。(原作もあるので、原作を読めばもう少しそれらしい話になっているのだろうなあ、と思いますが)

この中でロシア連邦大統領を救出し脱出を試みる「アーカンソー」は、これを阻止し大統領も一緒に抹殺してしまおうというクーデター勢力側(なんと国防大臣が反乱の首謀者です)に命じられたロシア駆逐艦「ヤヴチェンコ」に追われるわけですが、この「ヤヴチェンコ」が「ウダロイII級:11551級」もしくは「ウダロイI級:1155級」を近代化改装した艦をベースとした架空艦なのです。

映画の中で「ヤヴチェンコ」は大活躍します。

アーカンソー」の脱出阻止を命じられた同艦は対戦ロケット、対潜魚雷を発射します。2機の対潜ヘリも飛ばしています。CGなのだろうと思いますが、なかなか貴重なシーンです。

Youtubeでご覧いただける動画を見つけたので、どうぞ。なかなかの迫力)

www.youtube.com

 

さらに映画の最終シーンでは「アーカンソー」に向けられてポリヤルヌイ基地の海岸のランチャーから発射された対艦ミサイルを「ヤヴチェンコ」の主砲(「コールチク」っぽい)が撃墜します(だから主砲を「コールチク」に変更して置かなくちゃならなかったんだな、と独り合点)。

この時点では同艦は「アーカンソー」に救助されていたロシア潜水艦の艦長(この人は「ヤヴチェンコ」の元艦長で「彼らは私が鍛えたんだ。何もかも知っている」といかにも海軍軍人らしいことをいいます)の説得と大統領のメッセージで、「ヤヴチェンコ」はクーデター派から大統領派に鞍替えしたわけです。

そして最後はクーデター派の占拠する基地司令部ビルを同艦の巡航ミサイルが破壊し、物語は終了するわけです。

(コールチクの射撃シーンとそれに続く同艦の巡航ミサイル発射シーンを)

www.youtube.com

(この「アーカンソー」に迫るミサイルの迎撃シーン、ちょっと射撃タイミングが遅すぎないかい、と思うのは私だけ?あるいはCIWSの射撃ってこんなもんでしょうか?いずれにせよ、これだけの至近弾を喰らうと、相当な損害が出るんじゃいないかな?「アーカンソー」はこの後、ピンシャンしてますが。まあ、そこは映画なんで、まあいいじゃない、ということでしょうか。もう一つツッコミどころとして、巡航ミサイルが射出されているのが、対空ミサイル用のVLSから、になっているんじゃないのかな、っていうところでしょうか?)

 

(再掲ここまで)

と言うような次第で、見出しにもあるように「ウダロイII級」をベースにそれらしきものを製作してご紹介しています。

(以下、再び、投稿を再掲)

架空駆逐艦「ヤヴチェンコ」のモデル制作

(直上の写真は、上掲の映画のカットから再現した「ヤヴチェンコ」:直下の写真は「ヤヴチェンコ」の主要兵装配置:艦首部から対空ミサイル用のリボルバーVLS、コールチクに似た大型近接防空装備、対潜ロケット発射機(写真上段)、魚雷発射管、対空ミサイルVLS、対潜ロケット発射機、ヘリハンガーの順)

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ところが、投稿中に掲載した映画のカットとモデルの形状の差異に気がつき、以下のようなコメントを記載しています。

(以下、抜粋)

このモデルは「ウダロイII級」をベースに主砲の換装や対潜ロケット発射機の増設を行なったのですが、改めて映画のカットと比較すると艦橋前の構造物の形状や4連装ミサイルの発射機の装備形状などがかなり異なることに気がつきました。もしかすると、形状的には艦橋両舷に搭載された4連装ミサイル発射機は対潜ミサイル発射機のまま、かもとも思ってしまいます。そう言えば上述の映画でも、なぜか映画の最後での巡航ミサイルの発射もこの4連装発射機ではなく、艦首のVLSからでした(8連装リボルバーVLSに大型の巡航ミサイルが搭載できるのか、と言う新たな疑問は湧いてきますが)。

と、つらつらと振り返ると、どうも「ウダロイII級」ではなく、オリジナルの「ウダロイ級」をベースにした方がよかったのかも、と思ってしまいます。少なくとも艦橋前の構造物の形状は近似させることができそうですし、4連装ミサイル発射機周りの艦橋の支柱構造も同じようなものが再現できそうです。

(再掲ここまで)

と言うような次第で、最後には「ウダロイ級」をベースにした再トライを宣言しています。

長々とした前置きになりましたが、そう言う次第で、今回は再トライ=修正版のご紹介です。

 

駆逐艦「ヤヴチェンコ」:「ウダロイ級」をベースにした架空艦(修正版)

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(直上の写真は、再トライ版「ヤヴチェンコ」の概観:下の写真は「ヤヴチェンコ」の主要兵装配置:艦首部から短対空ミサイル用のリボルバーVLS、コールチクに似た大型近接防空装備(かなり小さく作ったつもりですが「コールチク」と言い切るには、まだオーバースケールだと思っています)、対潜ロケット発射機(RBU-6000?):対潜ロケットの次発装填用のレールや艦橋下の弾庫のハッチなど、再現してみました。そして対艦ミサイルなのか対潜ミサイルなのか、4連装発射機(写真上段)、ロシア版CIWS(AK-630)4基、魚雷発射管、短対空ミサイルVLS、対潜ロケット発射機(RBU-6000?)、ヘリハンガーの順)

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再トライの成果は?

映画シーンと比べると、前回製作したモデルよりは艦橋脇の支柱構造や艦橋前の対潜ロケット発射機周りの構造物などが似てきているかと。映画のカットをよく見ると艦橋前の対潜ロケット(RBU-6000?)には次発装填用の弾庫のハッチが艦橋下に見えますし(前作ではあまり気がついていなかったですね)、さらにロケット弾搬送用のレールが見えています。今回はそれも再現してみました。

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主砲(「コールチク」?)の再現は、いまいちですかね?そもそも「コールチク」なんでしょうか。「コールチク」の構造も実はあまりよく理解できていません。これからの課題です。

下の写真では前作との比較を。「ウダロイII級」ベースの前作(上段)との比較を見ると、かなり似せることができてるように思っています。あれ、前作が似てなさすぎ、なのか。もう少し研究して、まだ絞り代がある、という前向きな評価にしておきましょう。

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ということで、今回の投稿の本論は、ここまでです。

 

「ウダロイ級」オリジナルとそのヴァリエーションについて

ここまでくれは、やはり「前回投稿を読んでください」ではなく、「ウダロイ級」の実艦についても、せめて「再録」しておきましょう。

(以前の投稿の「ほぼ再掲」です)

まずはオリジナルの「ウダロイ級」駆逐艦のモデルから。

「ウダロイ級:1155級」駆逐艦(1980年就役開始:同型艦・準同型艦13隻:2023年時点での就役艦8隻)

ja.wikipedia.org

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(「ウダロイ級=1155級」駆逐艦の概観:126mm in 1:1250 by Mountford :ヘリの発着甲板のマークは一番艦のみ1スポット、二番艦以降は2スポットに変更されています)

「ウダロイ級」はそれまでの駆逐艦の発展系ではなく、2等大型対潜艦(小型の大型対潜艦:なんかややこしいなあ)、つまりフリゲート艦の設計がベースになっている艦級だと言っていいと思います。

8000トン級の、従来の駆逐艦駆逐艦の艦級としては前級にあたる「カシン級:61級」は4000トン級の船体を持っていました)とは一線を画する(もちろん従来のフリゲートの約2倍の)大きな船体を持ち、対潜戦闘に重点を置いた兵装配置になっています。対潜兵装としては長射程を持つ対潜ミサイルの4連装発射機を艦橋の両舷に各1基装備し、対潜ロケット発射機(RBU-6000)を2基、4連装魚雷発射管2基に加え、さらに長距離の対潜哨戒域の形成には対潜哨戒ヘリ2基を搭載しています。

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(「ウダロイ級」駆逐艦の主要兵装:艦首から短SAM用リボルバーVLS、100mm単装砲2基、4連装対潜ミサイル発射機(写真上段)、ロシア版CIWS(AK-639)4基、魚雷発射管、対潜ロケット発射機(RBU6000)、ヘリバンカーと発着甲板の順(写真下段))

対水上艦戦闘は100mm単装砲2基を有し、同砲はもちろん対空戦闘にも対応できるのですが、これに加えて個艦防空兵装としては短SAM8連装リボルバー式VLS8基、ロシア版CIWS(AK-630)  4基と、大変充実した装備を有しています。

 

短SAM8連装VLSについてf:id:fw688i:20230723110401p:image

上の写真は、「ウダロイ級」が搭載している短SAM8連装VLSの拡大:ゴールドの円形のハッチがそれぞれ8連装リボルバー型のランチャーで旧ソ連海軍が開発した西側のVLSとは少し異なった形態のVLSです。現在では新造艦に搭載されることはありませんが、一時期は中国海軍でも標準的なVLSとして使われていました。艦首部の主砲塔前に4基とヘリハンガー直前に4基、計8基(対空ミサイルは計64発)を搭載しています。キンジャール・システムは、このランチャー群を上掲写真のヘリハンガー上に写っている3R95 射撃式装置でコントロールし同時に4目標に対応できるとされています。

 

同型艦「ウダロイII級:11551級」駆逐艦(1番艦「アドミラル・チャバネンコ」のみ完成し1999年に就役)

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(「ウダロイII級=11551級」駆逐艦の概観:「アドミラル・チャバネンコ」のみ完成し就役しています)

魚雷発射管からの対潜ミサイルの発射が可能になると、艦橋両舷の4連装対潜ミサイル発射機が不要になります。1990年代に、このスペースに対艦ミサイルの4連装発射機を装備し、対艦戦闘能力を向上させた改良型が「ウダロイII級:11551級」として計画されました。これにより同級は強力な水上打撃力をも備えたよりバランスの取れた艦級となる予定でした。

しかしソ連の崩壊とそれに伴う冷戦の終結から、11551級は3隻の計画で打ち切られ、実際に完成したものは1隻にとどまりました。

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(「ウダロイII級」駆逐艦の主要兵装:艦首から短SAM用VLS、130mm連装砲、4連装対艦ミサイル発射機(写真上段)、コールチク2基、魚雷発射管、対潜ロケット発射機、ヘリバンカーと発着甲板の順(写真下段))

前述のように魚雷発射管からの対潜ミサイル発射対応によって、艦橋両側の大型対潜ミサイルの4連装発射機が、対艦ミサイルの4連装発射機に換装されました。さらに砲兵装も改められ、100mm単装砲2基が130mm連装砲1基となっています。CIWSは近接対空ミサイルを組み合わせたコールチクに改められました。

対潜兵装としては対潜ミサイルは魚雷発射管から発射できるようになっています。併せてヘリハンガー上には対潜ロケット発射機が残されています。さらに対潜哨戒ヘリ2機を搭載していました。

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(上の写真は「ウダロイI級:1155級」(上段)と「ウダロイII級:11551級」を比較したもの:目立つのは主砲が100mm単装砲2基から130mm連装砲1基に改めらえているところ。両級ともに艦橋両側に4連装ミサイル発射機を装備していますが、「1155級」が対潜ミサイルであるのに対し、「11551級」は対艦ミサイルを搭載しています。併せてCIWSが「1155級」では30mmバルカン砲4基であったのに対し、「11551級」では30mmバルカン砲と近接対空ミサイルを組み合わせた「コールチク」2基に改められています。「ウダロイII級」では魚雷発射管から、対潜ミサイルの発射が可能になりました)

 

既存艦の今後の近代化改装予定

同級は主機がガスタービンで維持コストが安い等、使い勝手が良く、より汎用性を高めた艦級へと近代化される計画が進められています。改装のベースには上述の「ウダロイII級:11551級」の設計構想があり、近代化の要目は短SAM用のVLSを対艦巡航ミサイルにも対応する汎用VLSへ換装することや、主砲を100mm単装砲2基から130mm連装砲1基への換装、近接防空装備の更新を行い、同級の運用年限を10−15年延長するものとされていました。

しかし、この計画は実際にはその通りは実施されておらず、次に実際の近代化改装事例をご紹介します。

 

「ウダロイ級:1155級」近代化改装型:「マーシャル・シャポニコフ」(2021年近代化改装完了:同級4隻に同様の改装計画あり)

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(「ウダロイ級=1155級」駆逐艦の近代化改装型の概観:「マーシャル・シャポニコフ」が2021年に改装を完了し、さらに4隻の改装計画が進められている、とか)

主として艦隊護衛艦であった「ウダロイ級」駆逐艦の近代化改装の計画は上術の通りだったのですが、実際には同級の7番艦「マーシャル・シャポシにコフ」は2016年から近代化改装を受け2021年に艦隊に復帰しています。

同艦の近代化改装では、主砲は従来と同口径の100mm単装砲のままながらステルス性を高めた新型砲塔に換装、装備数は2基から1基に減らされています。短SAM用の8連装VLSはそのままで、従来の2番主砲塔の位置に16セルの汎用型VLSが追加搭載され、巡航ミサイルの運用が可能となりました。さらに対潜ミサイル発射可能な魚雷発射管、および汎用VLSの追加装備で、4連装対潜ミサイル発射機は4連装対艦ミサイル発射機に換装されています。ロシア版CIWSは従来通り30mm(AK-630)を4基装備しています。

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(上の写真は「ウダロイ級」近代化改装の兵装の概観:艦首から短対空ミサイル用VLS:従来のリボルバー式8連装VLSを踏襲、ステルス型砲塔に換装された100mm単装砲、2番主砲位置に設置された汎用VLS:巡行ミサイルの発射が可能に、対艦ミサイルの4連装発射機(以上写真上段)、30mm CIWS4基は踏襲し、対潜ミサイルが発射可能になった魚雷発射管、対空ミサイル用のリボルバーVLS、哨戒ヘリハンガー(以上、写真下段)の順)

つまり、当初の近代化改装計画とはかなり異なる実装を施した改装が行われている、と言うことなのです。おそらく当初計画は計画として、実際には現状の技術革新を取り込んだ柔軟な改装がこれからも順次実施されることになるのでしょう。

(下の写真は、「ウダロイ級」駆逐艦のオリジナルと近代化改装後(下段)の比較:外見上の変更は艦首部に集中しているように見えます)
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前述のように「ウダロイ級」の近代化改装には、今後、更に兵装等でヴァリエーションが発生しそうなので、少し注意深く情報を集めてみようかな、などと考えているところです。これも同級の基本設計が長年の使用に耐える堅実なものであり、かつ多様な改装に対応できる余裕を持っている、と言うことの証明であろうかと考えています。なかなか目が離せない。堅実な情報が取れるのはどこだろう?もし何かヒントがあれば、ぜひ教えてください。

(「ほぼ再掲」ここまで)

と言うことで、新規投稿という意味では、かなり手抜きになりましたが、「ヤヴチェンコ」の修正版モデルを投稿できたことで、筆者としてはかなりスッキリした気分になりました。

ともあれ前回のモデルで製作後に現れた(筆者が気付いた)齟齬は、今となってはとても初歩的なレベルだったと言わざるを得ません。映画のシーンを注意深くみていれば、このようなことは起きなかったろうなあ、と反省しきりです。「思い込み」(今回は「新鋭艦という設定だろうから新しい形式に違いない」的な思い込みですね)はやはり怖いですね。模型製作自体は「ああでもない、こうでもない」と楽しいので、製作中はこういう齟齬には全く思いが至らないのです。筆者は特にヴァリエーションが好きなので、こういうことはこれからも起こりがちかも。もっと注意深く、計画をきちんと立てて、ことに望まねば、と・・・。

 

ということで今回はこの辺りで。

 

次回はおそらく2週間後の投稿です(次週は週末も多分本業に)。

その頃には英海軍の現用艦船で積み残している「ミサイルフリゲート」の系譜が、ある程度揃ってきているのではないかな、と。とは言え、かなり筆者の製作作業が伴うと想定していますので(つまり完成形の新着モデルが届くわけではないので)、もしかすると途中経過1回と完成1回の2回に分けての投稿になるかもしれません。

 

もちろん、もし、「こんな企画できるか?」のようなアイディアがあれば、是非、お知らせください。

 

模型に関するご質問等は、いつでも大歓迎です。

特に「if艦」のアイディアなど、大歓迎です。作れるかどうかは保証しませんが。併せて「if艦」については、皆さんのストーリー案などお聞かせいただくと、もしかすると関連する艦船模型なども交えてご紹介できるかも。

もちろん本稿でとりあげた艦船模型以外のことでも、大歓迎です。

お気軽にお問い合わせ、修正情報、追加情報などお知らせください。

 

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新着モデルのご紹介:現用艦船シリーズの充実へ「英海軍ミサイルフリゲート艦:リアンダー級」

ちょっと本業が忙しくなってきました。しばらくは続きそうです。

で、せっかくの3連休なので(ちょっと仕事もせねばなりませんが)、模型製作の方に少し軸足を置きたいなあ、などと考えています(ほかにもやりたいことがあるし:撮り溜めた映画を見たり。ドラマを見たり・・・)というわけで、今回は簡単にこれからの展開を暗示するような新着モデルのご紹介をサクッと。

 

本稿ではこのところ現用艦船のご紹介を続けてきていますが、実のところ筆者のコレクションではこのエリアは手薄で、コレクションを拡充しながらのご紹介になっています。

少しおさらいも兼ねて、ご紹介しておくと、これまで米海軍については以下の回でご紹介しています。

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米海軍のライバルである(あった、と今となっては言うべきか?)ロシア海軍については以下の回で。

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そして発展著しい新興の中国海軍については以下の回でご紹介してきました。

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上掲のように、それぞれご紹介してきましたが、大所としては英海軍(ロイヤル。ネイビー)を積み残している状況でした。(あと、これらはほとんど水上戦闘艦で、「空母」「潜水艦」についてはほとんど手付かずです。「きり」がないのと、モデルが大きい(空母:主には収納場所という大変個人的な、しかし重要な視点です)、あるいはこのスケールでは小さくて差異が分かりにくい(潜水艦)などの理由で、どうもこれらの領域に対するコレクションへの心理的熱量が上がらないというのが、筆者の比較的正直な気持ちです)

英海軍については、下記の回でようやくミサイル駆逐艦についてご紹介できたのですが、ミサイルフリゲート艦については、実は手元に全くモデルがなく、これからのスタートであることに筆者もようやく気がついた、というような状況だったのです。(そもそも本稿を開始した理由の一つが本稿を書き続けることでモデルの整理もしてゆこう、と言うことでもありましたので、ある意味、狙い通り、ではあるのですが)

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というような背景で、この「エアポケット状態」であることがわかった「英海軍のミサイルフリゲート艦」の体系的なコレクションの「口火役」として、ようやく1隻、手元に届いたので、今回はそちらをご紹介します。

「12i級:リアンダー級」フリゲート艦(就役期間:1963-1993年:同型艦30隻?:原型のまま5隻、バッチ1改修8隻、バッチ2A改修4隻、バッチ2B改修3隻、幅広船体バッチ3改修5隻、幅広船体未改修5隻

ja.wikipedia.org

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(「12i級:リアンダー級」フリゲート艦の概観:95mm in 1:1250 by Albatros :後述するように、艦首の連装主砲塔を対潜ミサイル発射機(主砲塔の位置にあるドーム内に収容されています)に換装していますので、このモデルはバッチ1改修型のものだと思われます。Albatros社標準の細部の再現性に優れた仕上がりになっています)
第二次世界大戦以降、英海軍のフリゲート艦は船団護衛に任務の主軸を置いてきていました。しかし経済的な背景からも英海軍のフリゲート艦についても艦隊護衛にも対応できるよう高速性と汎用性が求められ始めます。

同級はこれらの要求に応じるべく設計された「12級」フリゲート艦シリーズに、さらに艦隊護衛への適性を高めるためにミサイル装備と対潜哨戒ヘリ搭載能力を付加した形式として建造されました。

2500トン強の船体を持ち30ノットの速力を発揮できる汎用性の高いフリゲート艦です。

45口径11.4cm連装速射砲1基と40mm機関砲2基を装備し、これにシーキャット短対空ミサイルを加えて対空火力を充実させていました。

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対潜兵装としては約1キロの射程を持つ対潜迫撃砲「リンボー」を主要兵器として搭載し、加えてより長距離の対潜戦闘については対潜魚雷を搭載した中型哨戒ヘリの搭載で対応しました。

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多くのヴァリエーション

同級は建造年次により搭載兵装が見直され多くの近代化改修形式が存在します(筆者の大好きな多くの枝葉を持っている、ということです)。

それぞれバッチ1、バッチ2、バッチ3と呼称されています。

バッチ1改修(8隻):11.4cm連装速射砲をアイカラ対潜ミサイルに換装し、機関砲口径を原型が搭載した40mmから20mmにあらためています。さらにシーキャット短対空ミサイル発射機を2基に増強したタイプです。(上掲のモデルはこのタイプです)

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(「12i級:リアンダー級」フリゲート艦の主要兵装:(左上)アイカラ対潜ミサイルの単装発射機を収容したドーム型の覆い (右上)単装機関砲(まだ40mmのままかも?) (左下)シーキャット短対空ミサイルの4連装発射機2基がヘリ格納庫の上に節されています (右下)リンボー対潜迫撃砲:この砲は前装式でしたので装填時には90度まで砲身を倒し砲口から次発を自動装填する仕組みでした)

バッチ2A改修(4隻):原型艦の装備から11.4cm連装速射砲を撤去しエグゾセ対艦ミサイル発射筒4基に換装し対艦戦闘力を強化したタイプです。機関砲口径を原型が搭載した40mmから20mmにあらためています。対潜迫撃砲「リンボー」を三連装短魚雷発射管2基に換装しています。シーキャット短対空ミサイル発射機は2基装備していました。後に曳航式ソナーを備え、バッチ2TAと呼ばれました。

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バッチ2B改修(3隻):バッチ2Aにシーキャット短対空ミサイル発射機をさらに1基追加したタイプです。

幅広船体型原型(未改修:5隻):原型の基本設計をもとに船体にやや余裕を持たせた幅広の船体設計が採用されたものです。兵装は原型に順じ、連装速射砲塔1基、20mm機関砲2基(ここは少し違います)、シーキャット短対空ミサイル発射機1基、リンボー対潜迫撃砲1基を主要兵装として、対潜哨戒ヘリ1機を搭載しています。

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(写真は現在調達中の「12i級:リアンダー級」フリゲート艦幅広船体型のモデル(実はインド海軍でライセンス生産されたもの)by Master of Military in Shapeways:こちらのモデルをベースに少し手を入れようかと)

幅広船体型バッチ3改修(5隻):幅広船体型原型の兵装から11.4cm連装速射砲を撤去しエグゾセ対艦ミサイル発射筒4基に換装し対艦戦闘力を強化し、あわせてそれまで標準装備としていたシーキャット短対空ミサイルをシーウルフ短対空ミサイルに改めています。この対空ミサイルの換装に伴い、レーダーシステムが一新されました。

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対潜迫撃砲「リンボー」は三連装魚雷発射管2基に換装されました。

 

多くの輸出艦

同級の高い汎用性への評価と、装備しやすい艦型の大きさから、4カ国の海軍がイギリスへの発注、あるいは自国でのライセンス生産で同級の準同型艦を取得しています(インド、オランダ、チリ、オーストラリア)。英海軍に在籍した艦も、中古艦としてが複数国に譲渡・売却されています(インド、パキスタンエクアドルニュージーランド、チリ)。

 

同級に関しては、どこまでヴァリエーションを模型で網羅できるか、これはかなり時間を要しそうですね(もちろんお金もかかりますねえ。困った)

 

「ロイヤル・ネイヴィーのミサイルフリゲート艦」の系譜的なコレクションの開始へ

ともあれこうして、筆者の「ロイヤル・ネイヴィーのミサイルフリゲート艦」への意識づけが始まりましたが、少し同海軍のミサイルフリゲートの体系的なお話をしておくと、同級の前級として「12M級:ロスシー級」があります。同級からミサイル兵装の搭載が始まったと考えて良さそうかと(そうすると「12級:ホイットビィ級」が漏れてしまうけど、いいんだろうか?)。

「12M級:ロスシー級」フリゲート(就役期間:1960−1988年:同型艦14隻)

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(写真は現在調達中の「12M級:ロスシー級」フリゲート艦のモデル by Master of Military in Shapeways)

さらに「12i級:リアンダー級」の後には「21級」「22級」「23級」と系譜は続いてゆきます。

「21級」フリゲート(就役期間:1974−1994年:同型艦8隻)

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(写真は現在調達中の「21級」フリゲート艦のモデル by Delphin)

「22級」フリゲート(就役期間:1975−1988年:同型艦14隻)

(上の写真は現在調達中の「22級」フリゲート艦バッチIIのモデル:下の写真は 「22級」フリゲート艦バッチIIIのモデル いずれもEbayで落札済みですが、製作者がよく分かりません)f:id:fw688i:20230916175535p:image

「23級」フリゲート(就役期間:1990−現役:同型艦16隻)

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(写真は現在調達中の「23級」フリゲート艦のモデル by Amature Wargame Figures in Shapeways)

これらの艦級については、それぞれの写真に記載のように模型の入手に関する模索が始まっています。どこかそう遠くない時期にご紹介できればいいなあ。上掲の「22級」などは、またまたバッチにどこまで踏み込むか、これまた考えねばなりません。

 

と言うことで、今回はサクッとこのあたりで、切り上げて、模型の塗装などの作業にかかることにします。

次回は、今回投稿の冒頭で記述した「筆者の手付かず領域」の一つである現用潜水艦について、少しお話ができれば、などと考えています。

もし、「こんな企画できるか?」のようなアイディアがあれば、是非、お知らせください。

 

模型に関するご質問等は、いつでも大歓迎です。

特に「if艦」のアイディアなど、大歓迎です。作れるかどうかは保証しませんが。併せて「if艦」については、皆さんのストーリー案などお聞かせいただくと、もしかすると関連する艦船模型なども交えてご紹介できるかも。

もちろん本稿でとりあげた艦船模型以外のことでも、大歓迎です。

お気軽にお問い合わせ、修正情報、追加情報などお知らせください。

 

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現用艦船:ロシア海軍・旧ソ連海軍のミサイル・フリゲート艦

今回は現用艦船のご紹介の流れで、ロシア海軍旧ソ連海軍からの流れも踏まえて)のミサイル・フリゲート艦の艦級のご紹介です。

本稿ではこれまで同海軍の現況に至る艦級整備の過程を以下の回で、それぞれご紹介してきました。

fw688i.hatenablog.com

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実は上掲の2回の投稿では、同海軍のそれぞれ「巡洋艦」「駆逐艦」とご紹介してきましたが、実はこれらの分類は西側の艦種分類に準じた呼称で、実際にはソ連海軍では1等大型対潜艦(巡洋艦)、2等大型対潜艦(駆逐艦)と呼称されていました。

もう一つ、これからご紹介する艦級の開発経緯を考える上で、同海軍(旧ソ連海軍からロシア連邦海軍への流れ)にはソ連崩壊に伴う財政難により1990年代に大型艦の建造計画が全て白紙に戻されたブランクの期間があったことも少し念頭に置いていただくと、理解の助けになるのではないかと考えています。

 

旧ソ連海軍の2等大型対潜艦の系譜

旧ソ連海軍が設計した大型対潜艦の対潜装備は、対潜ロケット砲と誘導魚雷の2種が主軸と限定的であったため、1960年代後半になって対潜ミサイルを搭載した1等大型対潜艦(巡洋艦)の整備が始まりました。しかし1等大型対潜艦を量産する能力はソ連海軍(ソ連造船界)にはなく、量産性を見込める2等艦レベル(いわゆる駆逐艦以下)の大型対潜艦(小型の大型対潜艦:本当にこの呼称はややこしいですね)の整備が求められるようになったわけです。

こうして生まれたのが対潜ミサイルを搭載した2等大型対潜艦「クリヴァク級:1135級」でした。

 

「クリヴァク級:1135級」ミサイル・フリゲート艦(就役期間:1970-現在:同型艦 Ⅰ型(1135)23隻(2010年現在1隻のみ現役?)/II型(1135-M)11隻(2010年現在1隻のみ現役?)

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旧ソ連海軍「1135級:NATOネーム クリヴァク級」フリゲートの概観:98mm in 1:1250 by Argonaut:モデルは「1135M級:クリヴァクII級」です。Augonaut製のモデルはいつもながら細部が素晴らしい)

同級は従来の2等対潜艦よりは大きな3000トン級の船体に、ガスタービンを主機として搭載し、32ノットの高速を発揮することができました。

主要装備として50kmを超える射程を持つ対潜ミサイルの4連装の発射機(KTM-1135)を艦首に搭載し、さらに、従来の2等対潜艦と同じく対潜ロケット砲(RBU-6000)を2基、艦橋前に搭載し、加えて艦中央部に対潜・対艦兼用の4連装魚雷発射管を継続して保有していました。

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これらの充実した対潜兵装以外の兵装としては、個艦防御用の短対空ミサイルの連装発射機を艦首部・艦尾部に設置し、対空・対艦兵装として両用砲の砲塔を2基、艦尾部に装備していました。この両用砲としては「クリヴァクI級:1135級」では76mm砲の連装砲塔が採用されていましたが、対艦戦闘における火力不足が懸念されたため、「クリヴァクII級:1135-M級」では100mm単装砲2基に変更されました。

艦尾には可変ソナーを装備し、この収納庫の上がヘリ甲板として使用され、限定的な対潜哨戒ヘリの運用能力も備えていました。f:id:fw688i:20230910095755p:image

(上の写真は同級の主要兵装の配置の拡大:艦首からKTM-1135 4連装対潜ミサイル発射機、短対空ミサイル連装発射機の搭載ハッチ:発射時には丸いハッチの下から連装発射機が出てきます、RBU-6000対潜ロケット砲2基’写真上段):各種センサー類と4連装魚雷発射管(写真中段):短対空ミサイル連装発射機の搭載ハッチとその後ろに背負い式に配置された両用砲塔2基(写真は「クリヴァクII級」なので100mm単装速射砲)、その後ろの可変ソナー収納庫が、哨戒ヘリの発着間スペースになっています。ヘリの格納庫は保有していないので、ヘリの運用は限定的でした)

 

「クリヴァクI級:1135級」と「クリヴァクII級:1135M級」

両級の外観的な相違点は、艦尾部に背負い式に搭載された主砲の形式にあります。「クリヴァクI級:1135級」では76mm砲の連装砲塔が採用されていましたが、対艦戦闘における火力不足が懸念されたため、「クリヴァクII級:1135-M級」では100mm単装砲2基に変更されました。

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(上の写真は「クリヴァクI級:1135級」(上段)と「クリヴァクII級:1135M級」の概観上の大きな違いである艦尾部の主砲の際を示したもの:モデルは上段がTrident製で下段がArgonaut製であるため、少し再現手法が異なります:筆者の主観ですが、哨戒ヘリの運用については上段のTrident製のモデルの方が腹落ちはいいかもしれません。Argonaut製のモデルの再現では、あまりに発着用のスペースが小さすぎる(細すぎる)かと)

 

「クリヴァクIII級:11351級」ミサイル・フリゲート艦(就役期間:1983-現在:同型艦7隻(5隻が退役))

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旧ソ連海軍「11351級」国境警備艦NATOネーム「クリヴァクIII級」フリゲートの概観:102mm in 1:1250 by Mountford)

「クリヴァクIII級:11351級」は、海上国境警備を担当するKGB用に建造された艦級で、その任務の性質上、対潜ミサイルを装備せず、3700トンの船体に100mm両用砲1基、30mm6砲身機関砲(ロシア式CIWS)2基、対空ミサイル連装ランチャー1基、4連装魚雷発射管2基、12連装対潜ロケット発射機2基を主要兵装として備え、さらに「クリヴァクI級」「クリヴァクII級」では哨戒ヘリの発着スペースのみを装備し、限定的な運用のみ可能でしたが、同級では哨戒ヘリの格納庫と発着甲板を装備し、1機を搭載・運用できるようになりました。

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(上の写真は同級の主要兵装の配置の拡大:艦首から100mm単装速射砲、短対空ミサイル連装発射機の搭載ハッチ:、RBU-6000対潜ロケット砲2基(写真上段):各種センサー類と4連装魚雷発射管(写真中段):哨戒ヘリの格納庫と発着甲板:III級は哨戒ヘリの本格的な運用能力を持っていました。上掲のモデルでは30mmCIWSの搭載位置がはっきりしません。上段の艦橋前(RBU-6000の搭載位置直後)の突起物がそれかな?)

 

「ネウストラシムイ級:11540級」ミサイル・フリゲート艦(就役期間:1993-現在:同型艦2隻)

 ja.wikipedia.org

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旧ソ連海軍「11540級:NATOネーム ネウストラシムイ級」フリゲートの概観:104mm in 1:1250 by Amature Wargame Figures in Shapeways)

同級は「クリヴァク級:1135級」の流れに属する艦級で、その後継艦としてより汎用な任務に適応する設計となっています。

「クリヴァク級:1135級」を一回り大きくした4500トン級の船体を持ち、ガスタービンを主機として30ノットの速力を有しています。

前級である「クリヴァク級」を凌駕する充実した対戦装備を保有し、短距離に対しては対潜魚雷、中距離については対潜ロケット砲(RBU-6000)、長距離については50kmの射程を持つ対潜ミサイル(RPK-6 SUM:魚雷発射管からの発射が可能でした)、さらにその外は搭載する対潜哨戒ヘリが対応する、4層の対潜火力を有していました。

その他の兵装としては主に個艦防御用の100mm単装速射砲1基、短対空ミサイルの8連装VLS4基、ガトリング砲と近接防空ミサイルの複合CIWSである「コールチク」2基を搭載しています。

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対艦兵装は就役時に同級の弱点と指摘されましたが、先述の対潜ミサイル(RPK-6)が対艦戦闘へも対応可能であるのに加え(射程50km)、2番艦には130kmの射程を持つkh-35対艦ミサイルの4連装発射筒が装備されています。

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(上の写真は同級の主要兵装の配置の拡大:艦首から100mm単装速射砲、短対空ミサイル8連装リボルバーVLSのハッチ:、RBU-6000対潜ロケット砲1基(写真上段):kh-35対艦ミサイルの4連装発射筒2機(射出口を赤くマーキングしてあります)と同級の最大の売りである固定式の魚雷発射管を兼ねたRPK-6 対潜ミサイルの射出口(哨戒ヘリ格納庫下の3ヶ所の窪みが、多分それ)(写真中段):哨戒ヘリの格納庫とその上に装備されたコールチク、及び発着甲板(写真下段))

同級は「クリヴァク級」の後継として当初100隻の建造計画がありました。しかしソ連崩壊により計画は一気に7隻に縮小され、さらに現実には3隻の着工、2隻の完成にとどまりました。

 

「アドミラル・グリゴロヴィチ級:改クリヴァクIII級:11356M級」ミサイル・フリゲート艦(就役期間:2016-現在:同型艦3隻(計画では6隻:うち2隻はインド海軍向け))

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これまで紹介してきた艦級が全てソ連海軍時代に設計されたものであるのに対し、同級はソ連邦解体後のロシア海軍により設計・建造された艦級です。しかし設計番号は「1135」を継承しており、近代化された「クリヴァクIII級」すなわち「改クリヴァクIII級」としてご紹介することにします。

同級の原型は「クリヴァクIII級」をベースとしたインド海軍向けの輸出艦として全面改装され設計された「11356級」です。

少し同級建造の背景を以下に整理しておくことにしましょう。

ソ連崩壊によりロシア連邦黒海の根拠地「セヴァストポリ軍港」の領有権を失います。ウクライナとの協定により基地の継続使用は認めらたものの、装備更新等についてはウクライナの同意が必要で、艦艇等の更新が思うに任せず黒海艦隊の老朽化が問題となってきます。さらに地域紛争への介入や「アラブの春」等、警備問題の頻出でNATO海軍の黒海進出が進み、モスクワが巡航ミサイルの射程内に入るなどロシア海軍は危機感を高め、これに対抗する黒海艦隊の艦艇の更新は喫緊の課題となりました。当時、後述の艦級の建造等、ロシア海軍としての艦艇整備計画はあったのですが、設計等にはさらに時間を要することが明らかであったため、黒海艦隊については課題の緊急性を考慮して、当時、インド海軍向けに設計の進んでいた「11356級=タルワー級フリゲート」をベースにした同級が建造されるに至りました。

(その後、「セヴァストポリ軍港」を含むクリミヤ半島がロシアに強引に併合され、さらに現在もロシア・ウクライナ両国が戦争状態にあることは、みなさんご承知の通りです)

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ロシア海軍名「11356M級:NATOネーム アドミラル・グリゴロヴィチ級(別名:改クリヴァクIII級)」フリゲートの概観:100mm in 1:1250 by Decapod Models in Shapeways :Super Fine Detail Prasticで出力されたもので、大変ディテイルの整ったモデルです)

同級は3500トン級の船体にガスタービンを主機として32ノットの速力を発揮することができます。

設計のベースは「クリヴァクIII級」にありますが、ステルス艦化を意識した設計やミサイル兵装のVLS化が進んだこと等から、外観は大きく異なっています。

主要兵装は対空ミサイルのVLS 24セルと同じく8セルのVLSに搭載された対艦・対地ミサイルです。その他にはステルス設計の砲塔に搭載された100mm速射砲、30mmCIWS2基、対潜ロケット砲(RBU-6000)、連装魚雷発射管2基(おそらく対潜ミサイルの射出も可能?)を装備しています。艦尾にはヘリハンガーと発着甲板を保有し、対潜哨戒ヘリ1機を搭載しています。さらにミサイル攻撃や砲撃を支援する無人機も搭載しています。f:id:fw688i:20230910100729p:image

(上の写真は同級の主要兵装の配置の拡大:艦首からステルス設計の砲塔に収められた100mm単装速射砲、対空ミサイルVLS 24セルとその背後の対艦・対地ミサイルVLS8セル、RBU-6000対潜ロケット砲1基(写真上段):艦橋下部に見えるのが対潜ミサイルも射出可能な連想魚雷発射管?(写真中段):哨戒ヘリの格納庫とその上部両脇に装備されたCIWS、及び発着甲板(写真下段))

 

紆余曲折がありながら6隻の建造計画があり、3隻が就役し2隻はインド海軍に売却されています。

 

ロシア海軍としての艦艇開発の系譜

ソ連崩壊により、解体後に誕生した新生ロシア連邦金融危機をはじめとする財政逼迫に見舞われます。大陸国家であるロシア連邦では海軍の比重は軽く、従ってほぼ全ての進行中の装備開発の計画は中止させられました。

これにより1990年代にはロシア海軍は新たな艦艇を生み出すことはありませんでした。

2000年代にはエネルギー供給国であるロシア経済は回復基調を示しますが、艦艇の更新については大型艦の建造は経済的制約から制限され、フリゲート艦以下規模の艦艇の建造に、主軸が移されることになるのです。

そうした背景で、生まれたのが、以下のご紹介する汎用型フリゲート艦の艦級群です。

 

「ステレグシュチイ級:20380級」ミサイル・フリゲート艦(就役期間:2007-現在:同型艦9隻が就役済み(計画では13隻))

ja.wikipedia.org

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(「20380級:ステレグシュチイ級」フリゲートの概観:83mm in 1:1250 by Highworth Model(多分)メタル製の大変端正なモデルです:以下に改めて記述しますが艦橋前に複合CIWSを搭載しているので、このモデルは1隻だけ建造された一番艦「ステレグシュチイ」を再現したものだと思います)

同級は2000年に承認された「2010年までの海軍行動方針」に基づき設計されたロシア海軍の新世代の沿海域向けの汎用フリゲート艦の艦級です。2000トン級の船体を持ちディーゼルを主機として26ノットの速力を出すことができる設計です。沿岸部での警備任務の遂行に重点を置きステルス性を意識した船体設計になっています。

ロシア連邦海軍での正式名称は「20380級フリゲート」ですが、派生系の「20381級」、発展型の20385級なども含めてNATO側では「ステレグシュテイ級」とまとめられることもあるようです。「20380級」「20381級」両形式で12隻が建造される計画です。

兵装は、100ミリ単装速射砲1基、30ミリCIWS2基、4連装魚雷発射管2基、さらには対艦兵装としては対艦ミサイル(3M24)の4連装発射筒2基を搭載しています。防空システムとして20380級(同級の一番艦のみ)は複合CIWS(ガトリング砲と対空ミサイルの組み合わせ:コールチク)を艦首部に搭載していますが、対空戦闘力の不足に対する懸念から20381級(計画では11隻)はこれがより長射程での防空に対応可能な対空ミサイル用の12セルVLSに置換されています。

艦尾部のハンガーでヘリコプター1機の搭載・運用が可能です。

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(同級の主要兵装の拡大:(上段)ステルス砲塔に収められた100ミリ単装砲と複合CIWS:複合CIWSを装備したのは一番艦のみで、やや対空装備としては弱いとみられ二番艦以降はここにSAMのVLSを装備していました (下段)艦橋直後には対艦ミサイルの4連装発射基2基を搭載しているのがわかります。さらに煙突両脇に30ミリCIWSを搭載しています。艦尾部はヘリ甲板とハンガーが装備されています)

 

「グレミャーシュティ級:20385級」ミサイル・フリゲート艦(就役期間:2019-現在:同型艦:1隻就役済み(計画では7隻))

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(「20385級:グレミャーシュチイ級」フリゲートの概観:84mm in 1:1250 by 3D ships in Shapeways :Super Fine Detail Prasticで出力されたもので、大変ディテイルの整ったモデルです)

同級は「ステレグシュチイ級」の発展型として設計されています。上述のように「ステレグシュチイ級」の一部として扱われることも。やや艦型を大きくして(2500トン級)居住性を改善し長期任務に対する適性を高める等、改良点が見られます。

兵装もほぼ踏襲してはいますが、艦首の100mm単装速射砲の直後に8セルのVLSを装備し、対艦ミサイルの他、巡航ミサイルの運用も可能になっていて、対艦・対地攻撃能力を充実させています。前級ではこの位置にあった対空ミサイルは艦尾のヘリ発着甲板の両舷のVLSに移されています。

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(同級の主要兵装の拡大:(写真上段)ステルス砲塔に収められた100ミリ単装砲と対艦・対地ミサイルを収めた8セルVLS:(写真下段)CIWSが煙突脇に搭載されています。その後ろには哨戒ヘリの格納庫と発着甲板。この発着甲板の両舷に対空ミサイルのVLSが配置されるということなのですが、モデルではそれは再現されていないようです)

 

「20380級:ステレグシュチイ級」と「20385級:グレミャーシュチイ級」

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(「20381級:ステレグシュチイ級(複合CIWSVLSに置き換えた2番艦以降)」(手前)と「20385級:グレミャーシュチイ級」の比較:やや艦型がが拡大されているのがわかるかと)

 

アドミラル・ゴルシコフ級:22350級」ミサイル・フリゲート艦(就役期間:2018-現在:同型艦8隻(計画では15隻))

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(「22350級:アドミラル・ゴルシコフ級フリゲートの概観:108mm in 1:1250 by Decapod Models in Shapeways :Super Fine Detail Prasticで出力されたもので、大変ディテイルの整ったモデルです)

同級は現時点ではロシア連邦海軍の最新鋭のフリゲート艦です。ロシア連邦海軍の正式名称は「22350級フリゲート」です。

5400トンの船体にガスタービンディーゼルを搭載し、いわゆるCODAG方式の機関を搭載し29ノットの速力を発揮できるとされています。またロシア海軍としては初めて本格的にステルス性を意識した設計となっています。

搭載兵装は32セルSAM(対空ミサイル)VLS1基と16セル多用途 (対艦ミサイル・対潜ミサイル)VLSを主要兵器として、130ミリ単装速射砲1基、対潜ミサイルも発射可能な4連装魚雷発射管2基、ガトリング砲と短SAMを組み合わせた近接防空システム2基を搭載しています。f:id:fw688i:20230528110509p:image

(「アドミラル・ゴルシコフ級フリゲートの兵装:(上段)130ミリ単装砲と32セルSAM(対空ミサイル)VLS1基と16セル多用途 (対艦ミサイル・対潜ミサイル)VLS (中段)同級の特徴的なアクティブ・フューズドアレイアンテナを収納した六角推型の統合マストと、煙突両脇にあるのがガトリング砲と短SAMを組み合わせた近接防空システム(?) (下段)艦後部のヘリ甲板とバンカー)

(近接防空システムについては下記を。「ゴルシコフ級」フリゲートは「パラシ」を搭載しています)

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計画では15隻が建造される予定です。

 

ロシア連邦海軍の新規建造水上戦闘艦はこの分野に留まっています。今のところ新たな大型艦(巡洋艦など)の建造計画も聞かれず、当面はこうした中型艦以下の艦級の整備に注力されるようです。今回ご紹介した艦級以上の大型艦については、「ウダロイ級」駆逐艦の近代化改装が行われている程度(しかもかなりゆっくりと)だと、筆者は認識しています。

ということで今回はここまで。

 

次回は、現用艦船についてのモデルご紹介は今の所一段落してしまった感があるので、新着モデルのご紹介に絡めて、ロシア海軍旧ソ連も含め)の戦略原潜のお話でも?

もちろん、もし、「こんな企画できるか?」のようなアイディアがあれば、是非、お知らせください。

 

模型に関するご質問等は、いつでも大歓迎です。

特に「if艦」のアイディアなど、大歓迎です。作れるかどうかは保証しませんが。併せて「if艦」については、皆さんのストーリー案などお聞かせいただくと、もしかすると関連する艦船模型なども交えてご紹介できるかも。

もちろん本稿でとりあげた艦船模型以外のことでも、大歓迎です。

お気軽にお問い合わせ、修正情報、追加情報などお知らせください。

 

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投稿開始から5年が経過!:現用艦船:米海軍のコレクションからの欠落モデルのアップデート

まずは心からのお礼を

本稿がスタートしたのは2018年9月2日でした。第1回投稿はこちら。

fw688i.hatenablog.com

今回の投稿で5年を経過したことになります。溜まってきたモデルの整理を少しストーリーをつけてやってみようか、という思いつきで始めたのですが、5年間も続けることになるとは思いもしていませんでした。

そもそもこんな投稿を読んでくださる方がいるとは思いもせずに、最初は少しこだわりもあって持って回った分かりにくい文体になっています。ここまで続けられたのは、一重に読んで下さっている皆さんのお陰と心より感謝します。

艦船模型についての興味はなかなか尽きないので、今しばらくは続けてゆきたいと思っています。これからもどうぞよろしくお願いいたします。

 

さて。今回は、これまでご紹介してきた現用艦船へと続く第二次世界大戦以降の米海軍の駆逐艦フリゲート艦のコレクションから、これまでのご紹介時には揃っていたなかったモデルのいくつかが入手・整備できたので、そちらのご紹介を簡単に。

 

下記の回では、米海軍の現在のミサイル巡洋艦へと続く開発系譜の始祖を第二次世界大戦に設計思想が生まれ、戦後に就役した「嚮導駆逐艦」(DL)において、話を進めています。

fw688i.hatenablog.com

その起源となった「嚮導駆逐艦」(DL)については以下のように記述しています。

嚮導駆逐艦フリゲート(DL)という艦種

米海軍は艦隊護衛の指揮基点となる艦種として嚮導駆逐艦の建造構想を持っていました。同艦種は個艦としての対空戦闘・対潜戦闘能力はもちろん、併せて高い通信能力、指揮能力を有し、艦隊護衛に任じ周辺輪形陣を構成する駆逐艦だけでなく、上空警戒にあたる航空機も管制する機能も兼ね備えていました。

米海軍では同様の艦種にDL(Destroyer Leader)の艦種記号を与え、フリゲートと呼称していました。

 

そのプロトタイプとして、前掲の回では「ミッチャー級」嚮導駆逐艦フリゲート)のみをご紹介したのですが、実はもう一隻、少し出自の異なる嚮導駆逐艦が建造されていました。

まずはそちらのご紹介を。

嚮導駆逐艦ノーフォーク」(就役期間:1953-1970:同型艦なし)

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(上の写真は「ノーフォーク級」駆逐艦の概観:133mm in 1:1250 by Trident:モデルは後期のアスロック対潜ミサイルの導入に向けての試験艦となった際を表現しています。就役時には艦後部のアスロック発射機の搭載位置に艦首部と同様に「ウェポン・アルファ」2基を装備していました))

同艦は、第二次世界大戦において航空機と並び通商路への重大な脅威となることが明らかとなった潜水艦への対応策として設計された艦級でした。米海軍は航空機への対策として大戦中に「アトランタ級防空巡洋艦(CLAA)を建造していましたが、同艦は同様の設計思想で当初はいわば「対潜巡洋艦」(CLK=sub-killer cruiser)として1隻のみ建造されたものでした(計画時には2隻の予定でした)。

就役時には嚮導駆逐艦(DL)に艦種名称が変更され、1955年にはフリゲート艦に艦種名称が変更されました。

アトランタ級防空巡洋艦に範をとったため、船体は5000トン級と大きく、33ノットの速力を出すことができました。

対潜艦として設計されてところから、就役時の主兵装はMk.108「ウエポン・アルファ」(対潜ロケット砲)4基と誘導魚雷でした。

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Mk.108対潜ロケット砲は、ロケット弾を目標近辺に投射し、搭載する磁気信管で目標を感知させ炸裂させるもので、250−800メートルの射程を持ち、毎分12発投射することができたました。

(余談ですが筆者はこの対潜ロケットが大好きです。というのも小学生の頃の愛読書、小沢さとる先生の名作「サブマリン707」に登場していまして、なんと未来的な(SFなんて言葉知らなかったからね)すごい兵器なんだろう、というのが原体験なのです。興味のある方は是非ご一読を)

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と、筆者の大好きな「ウェポン・アルファ」なのですが、実情は不発率が高いなど不評だったようです。

ノーフォーク」は1960年代からアスロックの試験艦となったため、艦尾部の「ウェポン・アルファ」2基をアスロック発射機に置き換えています。f:id:fw688i:20230903100939p:image

(「ノーフォーク」の兵装配置の拡大:艦首からMk.26 3インチ連装速射砲2基、「ウェポン・アルファ」対潜ロケット砲2基、艦橋脇のボートの下に対潜魚雷発射管(以上写真上段)、同艦後期に試験的に設置されたアスロック8連装発射機(就役時にはこの位置に「ウェポン・アルファ」対潜ロケット砲2基が設定されていました(、そしてMk.26 3インチ連装速射砲2基)

一方、砲兵装は個艦防御用として新開発の70口径Mk.26 3インチ連装速射砲4基が予定されていました(就役時には間に合わず50口径Mk.33 3インチ連装速射砲、いわゆるラピッドファイアが搭載されていました。のち当初予定のMk.26に換装)。

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(各装備の拡大:Mk.26 70口径3インチ連装速射砲(上段左)、「ウェポン・アルファ」対潜ロケット砲(上段右)、対潜魚雷発射管(下段左)、アスロック8連装発射機(下段右:就役時にはこの位置に「ウェポン・アルファ」対潜ロケット砲2基が設置されていました:筆者はそちらを見たかった!))

 

DDGへの改装案(1959年頃)

この時期には大型の艦船には必ずと言って良いほど、ミサイル駆逐艦への改装計画がありました。同艦もご多聞にもれずターターシステムを搭載したミサイル駆逐艦への改装計画があったようです。その際には、「ウェポン・アルファ」を全部撤去して、アスロックとターターに載せ替える、というようなことになってようです。

この時期、「ノーフォーク」が新型レーダーやアスロックの試験艦として運用されていたことなどから、この改装案は実現しないまま、1970年に同艦は退役しました。

(下の写真は、「ノーフォーク」と「ミッチャー級」の大きさを比較したもの。「ノーフォーク」が軽巡洋艦出自のかなり大きな設計だったことがよくわかります)

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「ミッチャー級」フリゲートミサイル駆逐艦への改造

もう一つ、前掲の投稿では、「ミッチャー級」フリゲート嚮導駆逐艦)4隻のうち2隻がミサイル駆逐艦に改造されたと紹介しながらも、モデルは未調達ということでご紹介できていませんでした。

その後、3D printimg modelを調達し塗装等完了したので、ご紹介しておきます。

「ミッチャー級」について再録しておくと。

「ミッチャー級」嚮導駆逐艦フリゲート)(就役期間:1953−1978:同型艦4隻)

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(上の写真は「ミッチャー級」駆逐艦の概観:120mm in 1:1250 by Trident: 鋭く切り出された艦首などは非常にいいんじゃないでしょうか?Mk 33のみ手持ちのパーツに変更しています)

同級は対空・対潜能力の強化を目的に米海軍が設計した艦級で、自艦の対空兵装の管制だけでなく、艦載戦闘機の管制もその任務として想定されたため「嚮導駆逐艦フリゲート」(DL)に分類されました。

3600トンの、駆逐艦としては破格に大きな船体を持ち、36.5ノットの高速を発揮することができました。

対空用兵装としては新開発の54口径Mk 42 5インチ両用単装砲2基、と50口径Mk 33 76mm連装速射砲を主兵装とし、対潜用にはMk 108対潜ロケット砲と対潜誘導魚雷発射管、爆雷投射軌条を搭載していました。

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(上の写真は「ミッチャー級」の主要兵装配置:(上段)艦首部のMk 42 5インチ両用砲とMk 33 連装速射砲そして筆者の大好きなMk 108対潜ロケットランチャー(下段)艦尾部のMk 108、Mk 33とMk 42、さらに爆雷投射軌条)

各兵装の解説を簡単に。

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本砲は毎分40発という高い射撃速度を誇り、23000メートルに達する射程距離を有していました。

(Mk. 33 3インチ砲とウェポン・アルファについては既述)

 

DDGへの改装

同級のうち2隻(「ミッチャー」「ジョン・S・マッケイン」)は1963年にタータ・システムを搭載してミサイル駆逐艦(DDG)に改装されています。

その改装は、艦橋前のMk.33 3インチ連装速射砲とウェポン・アルファを撤去してアクロックランチャーを設置、艦尾部のMk.33 3インチ連装速射砲とウェポン・アルファを撤去したスペースにターターシステムの単装ミサイル発射基とミサイル誘導用のイルミネーターを設置しています。後部マストは大型のトラス構造となり、三次元レーダーが搭載されました。

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(上の写真はDDG改装後の「ミッチャー級」駆逐艦の概観:下の写真はDDG改装後の主要兵装:(上段)艦首部の76mm連装速射砲はアスロック対潜ミサイルの8連装発射機に置き換えられています。(下段)艦後部にはMk 108とMk 33を撤去し、ターター対空ミサイルシステムの単装発射機:Mk.13と誘導用のイルミネーター等が設置されました)

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FRAM改装(ここからは以前お投稿の再録です)

DDGに改装されなかった2隻は、FRAM改装されています。内容はMk 108対潜ロケット砲(大好きなのに!)を廃止し、艦後部にDash2機搭載に対応する運用施設を追加しています。

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(上の写真はFRAM改装後の「ミッチャー級」駆逐艦の概観:by Triden:下の写真はFRAM改装後の主要兵装:(上段)艦首部の76mm連装速射砲は開発の遅れていたMk 26 70口径連装速射砲に改められています。(下段)艦後部にはMk 108とMk 33を撤去し、Dash運用用の発着甲板と整備用ハンガーが設けられています。対潜誘導短魚雷発射管がDashハンガーの前方に設置されました)

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Dashは昨今の無人ドローンのご先祖のような兵器で、対潜魚雷を糖鎖した小型無人ヘリを無線操縦で潜水艦の潜む海域に飛ばし、そこから魚雷を投下し攻撃するシステムで、ヘリ搭載の無理な小型艦でも運用できるという利点がありました。

 

「ミッチャー級」フリゲートの3形態

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(上から就役時、DDG改装時(「ミッチャー」「ジョン・S・マッケイン」)、FRAM改装時(「ウィルス・A・リー」「ウィルキンソン」)の順)

 

さて、もう一つのアップデートは以下の投稿から

fw688i.hatenablog.com

一番最後にご紹介した米海軍の最新鋭フリゲート間「コンステレーション級」の3D Printing modelへの塗装等が慣リュしましたので、ご紹介しておきます。

コンステレーション級」ミサイルフリゲート艦(就役予定:2026年から:同型艦:20隻(計画)

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米海軍は「オリバー・ハザード・ペリー級」ミサイルフリゲート艦の最後の艦が2015年に退役して以来、同クラスの艦船の建造を局地紛争への介入や同様の地区の哨戒・警備を主任務とする「沿海域戦闘艦」に移し、フリゲートを持たない海軍となっていました。

しかし昨今の「ウクライナ戦争」や、想定される「台湾有事」に見るように、覇権主義国家の台頭も再び(というべきか)顕在化しつつある状況を考慮して、「沿海域戦闘艦」の整備を計画された52隻から32隻へと縮小して打ち切り、次の20隻を次の新たなミサイル・フリゲート艦の建造に充てる、ある種回帰的とも言える決断をしました。

こうして生まれたのが「コンステレーション級」ミサイルフリゲート艦です。

設計条件として既存感をベースとして既に実績が検証されていることなどが盛り込まれ、さらにベースとするタイプシップとして外国艦を許容したため、設計コンペには外国企業も参加し国際コンペの様相を呈しました。

結果、イタリアのフリゲート艦(カルロ・ペルがミーニ級)をタイプシップとした設計案が採択されました。

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(上の写真は「コンステレーション級」フリゲートの概観:121mm in 1:1250 by Amature Wargame Figures in shapeways:素材との相性もいいのでしょうが、エッジがしっかり立ったシャープなモデルに仕上がっています)

同級は前級(オリバー・ハザード・ペリー級)のほぼ倍の6500トン級の大きさの船体にアクティブ・フューズドアレイ・レーダーを搭載するなど、イージスシステム化に対応した設計となっています。

艦首に70口径57mm単装速射砲を搭載し、その直後に32セルのVLSを搭載しています。このVLSは対空・対潜両用とされていますが、対空ミサイルに比重を置いた搭載弾数になるようです。個艦防御用の兵装としては、ヘリ格納庫上に21連装の近接防空ミサイルが搭載されています。さらにNSM対艦ミサイルの4連装発射筒を4基、艦中央部の構造物上位搭載しています。4連装が4基ですので計16発の対艦ミサイルの搭載弾数は、このクラスの艦級としてはかなり多いと言っていいと思います。

艦尾に比較的広く取られたヘリ格納庫と発着甲板からは、哨戒ヘリ1機(M H-60Rシーホーク)と、無人ヘリ1機(MQ-8C)を固有戦力として搭載・運用できます。

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(上の写真は「コンステレーション級」フリゲートの主要兵装配置:(上段)艦首部の70口径57mm単装速射砲につづき32セルのVLS(対空・対潜療養です):(中段)艦橋部のフューズドアレイ・レーダーとNSM対艦ミサイルの4連装発射筒4基:(下段)ヘリハンガーとその上に設置された近接防空ミサイル発射機、MH-60Rシーホークと無人ヘリMQ-8Cを各1基搭載しています)

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船型比較

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(上の写真は「コンステレーション級」(奥)と前級「オリバー・ハザード・ペリー級」の新旧フリゲート艦の艦型の比較:「コンステレーション級」がかなり幅広で大きな船体を持っていることがわかります。下の写真はこれからの米海軍空母機動部隊の主要護衛艦となるであろう「コンステレーション級」フリゲート(手前)と「アーレイ・バーク級」イージス駆逐艦の関係の比較:いずれも最近の米海軍の設計の傾向を反映して、幅広の船体形状が採用されていることがわかります。これは荒天時の速度維持に対する優位性を考慮されてのことだとか)

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ということで少し取り止めのないアップデートになりましたが、今回はこの辺りで。

次回はロシア海軍フリゲート艦のお話などを予定しています(例によって当てになりませんが。

もし、「こんな企画できるか?」のようなアイディアがあれば、是非、お知らせください。

 

模型に関するご質問等は、いつでも大歓迎です。

特に「if艦」のアイディアなど、大歓迎です。作れるかどうかは保証しませんが。併せて「if艦」については、皆さんのストーリー案などお聞かせいただくと、もしかすると関連する艦船模型なども交えてご紹介できるかも。

もちろん本稿でとりあげた艦船模型以外のことでも、大歓迎です。

お気軽にお問い合わせ、修正情報、追加情報などお知らせください。

 

 

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現用艦船シリーズ:ロイヤル・ネイヴィーのミサイル駆逐艦

英国海軍(ロイヤル・ネイヴィー)は近代海軍の始祖の一つであることは間違いなく、その整備する艦級の中でも駆逐艦という艦種については模索期からの長い歴史をみることができます。

ロイヤル・ネイヴィーの駆逐艦発達史:ミニシリーズ

本稿でもその黎明期から第一次世界大戦期までの駆逐艦発達史については以下の回でまとめています。その艦級は多岐に渡り、かつそれぞれの艦級にも、時期によっては、あるいは民間技術の積極的な導入などの目的から、官製のものと民間に委託された形態などが入り混じり本当に複雑で、その全てを網羅するところまでは全く手が回ってはいません。

かつ、本稿は筆者の個人的な興味に振り回されているので、以下のような変則的な展開になっています。

fw688i.hatenablog.com

fw688i.hatenablog.com

そして時系列的には「その1.5=その4」として「その1」の加筆版が位置付けられます。

fw688i.hatenablog.com

 

これで「駆逐艦」という艦種の黎明期から第一次世界大戦の終了まではご紹介しているわけですが、もちろんこの後「両大戦間の時代」「第二次世界大戦期」と続き、英海軍はこの間に実に多くの艦級を建造しています。

 

「両大戦間」「第二次世界大戦期」の駆逐艦

ざっとまとめておくと、第一次世界大戦終結から9年後の1927年に就役した2隻の試作型の駆逐艦(「アマゾン」「アンバスケイド」)を皮切りに、A、B、C、D、E、F、G、H、Iと1300トン級の船体に36ノットと速力を持ち雷装を重視した艦級群が79隻建造されます。

「I級」駆逐艦(1937-:同型艦9隻)

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 (直上の写真:「I級」駆逐艦の概観。77mm in 1:1250 by Neptune) 

 

ついで列強、特に日本海軍と新生ドイツ海軍が積極的に建造した大型駆逐艦量産の流れに対応した1700トン前後の船体を持ち火力を強化した「トライバル級」「ジャブリン級」「L級」「M級」計58隻が建造されます。

トライバル級駆逐艦(1938-:同型艦27隻)

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 (直上の写真:「トライバル級駆逐艦の概観。91mm in 1:1250 by Neptune

 

第二次世界大戦の勃発後は一転して戦時量産に対応すべく、艦型は以前の「I級」に戻され1500トン級の船体を持ち12センチ単装砲4基、37ノットの速力を標準とした戦時急造艦がO、P、Q、R、S、T、U、V、W、Zの10クラス、80隻が建造され、さらに主砲を両用砲として対空戦闘に重点を置いた「C級」32隻、両用砲を連装とし自動化を進めた「バトル級」「ウエポン級」「デアリング級」が建造されました(3クラス合計で36隻)。

バトル級駆逐艦(就役期間:1944-1972年:同型艦24隻)

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 (直上の写真:「バトル級駆逐艦の概観。93mm in 1:1250 by Hansa

 

本来はこれらの艦級は本稿でも「ロイヤル・ネイヴィーの駆逐艦」シリーズ(その5、その6、その7・・・)としてご紹介する予定なのですが、特に後期のモデル収集に時間がかかって、なかなかご紹介の機会を得ずにここまで来ています。

 

この間、実は英海軍における駆逐艦の位置付けにも大きな変化がありました。

第二次世界大戦後、英国が両対戦を通じて対面した通商路への潜水艦の脅威の記憶は生々しく、英海軍においては通商露保護や船団護衛が任務としては優先され、従って対潜水艦戦により特化した小型の護衛艦艇(小型駆逐艦護衛駆逐艦等)へと、戦備配備の重点が移ってゆく事になります。併せて、米海軍等とは異なり空母機動部隊を持たなかった英海軍にとって、その護衛を主要任務とする艦隊駆逐艦の整備優先度は低くなり、結局、1950年台後半まで、新しい駆逐艦の建造は行われませんでした。

 

駆逐艦のミサイル艦化

それらの状況の中でも、局地的な紛争を想定した場合、空母を中心として紛争地に派遣される海上戦力の艦隊防空を担う艦級の開発は必須であり、かつ航空機の著しい発展を見ると搭載する主要防空兵装が従来の対空砲ではなく長射程を持つ対空ミサイルでなくては有効な艦隊防空が不可能であることは自明であり、こうして最初のミサイル駆逐艦カウンティ級」が誕生する事になりました。

 

カウンティ級ミサイル駆逐艦(就役期間:1962-1987年:同型艦8隻)

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 (「カウンティ級ミサイル駆逐艦の概観。128mm in 1:1250 by Allbatros:今回ご紹介ているモデルは後期型(バッチ2)ですね。ブリッジ前に「エグゾセ」対艦ミサイルの発射筒を搭載しています

同級は主要兵装を「シーズラグ」艦対空ミサイルとして搭載した英海軍初のミサイル駆逐艦です。5000トン級の余裕のある大きな船体に、ミサイルの情報処理システム、ミサイル弾庫、哨戒ヘリ運用庫、さらには蒸気タービンとガズタービンを搭載し、32ノットを発揮することができました。

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対空兵装の他には、初期型(バッチ1)には主砲として45口径4.5インチ連装砲2基が搭載されていました。

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(「カウンティ級」の主要兵装の配置の拡大:前述のようにこのモデルは後期型ですので、艦首に45口径4.5インチ連装砲を1基、「エグゾセ」対艦ミサイル発射筒(写真上段)、対潜用の短魚雷発射管(同級に搭載されたという記録が見当たらないんですが)、シーキャット短対空ミサイル(写真中断)、哨戒ヘリの格納庫と発着甲板と同級の主要兵装であるシースラグ対空ミサイル発射機(写真下段))

加えて対艦兵装として「シースラグ」発射機から射出できる対艦ミサイル「ブルースラグ」を後日搭載する予定でしたが、「ブルースラグ」が開発中止となったため、後期型(バッチ2)では連装砲は1基として、2番砲の位置に対艦ミサイル「エグゾセ」の単装発射筒4基が搭載されました。

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対潜戦闘は当初対潜迫撃砲や短魚雷の搭載などが検討されましたが、採取的には搭載ヘリコプターに託されることとなりました。

個艦防御用の兵装としては「シーキャット」短対空ミサイルと機関砲が搭載されていました。

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模型的な視点:Albatros社製品の質の高さ

同級のモデルはAlbatros製のモデルの質の高さを体感できるモデルでした。下の写真は同級で再現されている搭載兵器の拡大です。前述のように同級では短魚雷発射管の搭載記録が見られないなど、疑問点はなくもないですがこのスケールでの再現性の高さには目をみあるものがありますね。その分、希少でかつ高価なのでなかなか手が出ません。

(上段左:45口径4.5インチ連装砲、上段右:エグゾセ」対艦ミサイル発射筒、中断左:対潜用の短魚雷発射管(搭載されていたのかどうか?)、中断右:シーキャット短対空ミサイル、下段左:哨戒ヘリの格納庫と発着甲板、下段右:シースラグ対空ミサイル発射機の順)

 

ブリストルミサイル駆逐艦(就役期間:1973-1987年(以降は練習艦):同型艦なし)

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(モデル未保有です)

同艦は英海軍の第二世代のミサイル駆逐艦として4隻が建造される予定でしたが、護衛すべき空母の新造計画が破棄されたため(1966年度国防白書)、1隻のみしか建造されませんでした。

主要兵装は前級の「シースラグ」対空ミサイルに換えてより射程が長くコンパクトな「シーダート」が搭載されました。

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他には主砲として新型の55口径4.5インチ単装砲塔、さらに対潜兵装として「アイカラ」対潜ミサイルと対戦迫撃砲が搭載されましたが、一方で対潜ヘリの搭載は見送られました。

個艦防御兵装としては短対空ミサイルは搭載せず、機関砲のみでした。

 

模型的な視点でのお話

筆者は未保有ですが下の写真のようにAlbatros社(上段)とTriron社からモデルは市販されています。筆者の経験から見ると、いずれのモデルも希少で、オークション等でも高額で取引されています。おそらく細部の仕上がり等はAlbatros社製の方が一枚上手なのだろうと思いますが、筆者としては管弦の高さ等がTriton社製の方がしっくりくるなあ、という感じです。

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いずれのモデルも常時Ebay等で探してはいるのですが、なかなかお目にかかりません。

 

42級ミサイル駆逐艦(就役期間:1975-2013年:同型艦14隻)

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 (「42級」ミサイル駆逐艦の概観。95mm in 1:1250 by Triton:今回ご紹介ているモデルは「サザンプトン(バッチ2)」です。かつ後述しますが艦中央部にCIWSを搭載しているので、1987年以降を再現したのモデルかと)

前述の1966年度国防白書での空母新造計画破棄により、英海軍は将来的に正規空母を持たない海軍となることが決定されたため、駆逐艦の建造計画も見直され「カウンティ級」「82級」のような大型艦から小型のミサイル駆逐艦へと移行します。

これが同級「42級」ミサイル駆逐艦です。

同級はそれまで蒸気タービンとガスタービンを併載していた機関をガスタービンのみに改め、省力化の結果、「ブリストル」とほぼ同等の兵装を60%の大きさの船体に収めることに成功しています。

主要兵装は前級と同じ「シーダート」対空ミサイルで、他に前級と同じ55口径4.5インチ単装砲を装備していました。「アイカラ」対潜ミサイルは廃止し、代わりに短魚雷発射管と哨戒ヘリを搭載し、対戦兵装としています。

個艦防御は2基の20mm機銃に委ねられましたが、のちにフォークランド戦争では対艦ミサイルを防ぎきれず2隻の戦没艦を出し、あらためて個艦防御の重要性が見直され、CIWSが追加装備されています。

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(「42級」の主要兵装の配置の拡大:前述のようにこのモデルはバッチ2のしかも1987年以降、CIWSを搭載後のものです。艦首に55口径4.5インチ単装砲を1基、同級の主要兵装である「シーダート」対空ミサイル発射機(写真上段)、フォークランド戦争での2隻の喪失の戦訓から個艦防御の重要性が検討され、1987年以降同級に搭載されたCIWSと対潜用の短魚雷発射管(写真中断)、哨戒ヘリの格納庫と発着甲板(写真下段);ディッピングソナー搭載の必要性から、搭載されたのは大型の哨戒ヘリだったのですが、格納庫はさておき発着甲板はやや窮屈な印象です)

 

42級バッチ3の登場

「42級」は艦型をコンパクトにまとめる事には成功しましたが、この影響で主要兵器である「シーダート」の弾庫が縮小され、搭載弾数が前級の約半分の22発となっていました。併せてコンパクト化の影響が凌波性の不足となって現れたため、1982年以降就役を開始した11番艦以降の4隻は艦首部を延長した設計と改められました(バッチ3)。この延長により「シーダート」の搭載数は「ブリストル」と同じ40発となりました。

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 (「42級」ミサイル駆逐艦バッチ3(「マンチェスター」)の概観。105mm in 1:1250 by Triton:まだCIWSを搭載していませんね。したがって1987年以前、就役直後を再現したものかと思います。下の写真は、上掲の「サザンプトン」(バッチ2)と「マンチェスター」(バッチ3)の比較:艦首が延長され、煙突位置などややレイア右羽とも変更されているように見えます。模型ですのでどこまで信じていいのか?もの改良で、対空ミサイルの搭載数は22発から40発に増加し、かつ凌波性も改善されたようです

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模型的な話:Albatros製のモデルはどうだろうか?

今回、筆者が保有しているのはTriton製のモデルですが、実はつい最近Albatros製モデルに入札する機会がありまいした。しかもバッチ2((エクセター」)とバッチ3(「エディンバラ」)に同時に入札できるという滅多にない機会でした。いずれも落札には至りませんでしたが(高値がついてしまっていました。この質ですからね、仕方がないかとは思うのですが、最近の円安は筆者にはとても痛い)、いい機会なので、Ebeyで掲載されていた写真を再掲させていただきます。

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(上の写真はEbayで筆者が落札できなかったAlbatros製の「42級」バッチ2「エクセター」(上段)とバッチ3「エディンバラ」:下の写真ではその主要兵装を拡大しています。上段左:55口径4.5インチ単装砲、上段右:「シーダート」対空ミサイルの連装ランチャー:Tritonのモデルとはこの辺りの作り込みが違いますね。下段左:後日装備されたCIWS、下段右:短魚雷発射管)f:id:fw688i:20230827122604p:image

細部はやはりAlbatrosクオリティとでもいうべき質の高さを感じます。チャンスがあったらまた狙ってみよう。

ちょっとEbay裏話

実はこのEbayの出品者は、筆者がいつもお世話になっている1:1250スケールモデルのデータベース、sammelhafen.deの主催者の息子さんなのです。だから引用させていただいている写真はほとんど同じものなのです。この出品者も私のお気に入りのお一人で、筆者のコレクションの中にはこの方からの落札品がたくさん含まれています。

つまり筆者のコレクター人生を楽しいものにしてくださっているお一人、ということです。感謝!

 

45級ミサイル駆逐艦(就役期間:2009-現在:同型艦6隻)

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 (「45級」ミサイル駆逐艦の概観。126mm in 1:1200 by Triang: このモデルはスケールが1:1200です。1:1250と1:1200でこのモデルでどの程度さが生じるかというと全長で約4mm程度になります。大きいと見るべきか。いずれにせよ気にはなりますよね)

同級は「42級」ミサイル駆逐艦以降、長らく新たな駆逐艦を建造しなかった英海軍の最新鋭駆逐艦です。

英海軍はNATO加盟国との新型フリゲート艦のカイハウ計画を進めていました。「42級」の後継艦としても期待が高かったのですが、各国の運用要件の差異からこの計画は断念され、ついで英仏両海軍の共同開発が模索されます。のちにイタリア海軍も加わりますが、各国の意見調整が難航し、「42級」の後継艦開発に間に合わないと危惧した英海軍は、結局これからも脱退し独自に艦級開発をする事になります。

システムの複雑化と主力センサーであるサンプソン多機能レーターの搭載位置に対する要請から、「42級」から一転して同級は7000トン級の船体を持つ大型艦となっています。

機関は電動推進で、これを支えるためにガズタービン発電機とディーゼル発電機各2基が搭載されています。ここで生み出された電力で電動機2機を稼働させて29ノットの速力を発揮するとされています(実際には31ノット強を記録しているとか)。

12の目標追尾が可能とされるサンプソン多機能レーダーの特徴的なアンテナとミサイルを全てVLS搭載としたことから、これまでのミサイル駆逐艦とは異なる外観を示しています。f:id:fw688i:20230827111824p:image

(上の写真はサンプソン多機能レーダーの特徴的な外観:マストの接合面の処理など、ちょっと・・・)

主要兵装としては「アスター」対空ミサイルを48セルのVLSに収容して艦首甲板に搭載しています。その他にステルスタイプの砲盾に収容された55口径4.5インチ単装砲、「ハープーン」対艦ミサイルの4連装発射筒を2基装備しています。個艦防御用の兵装として、「シーセプター」短対空ミサイル用の24セルのVLSを搭載し、加えてCIWS2基も搭載しています。

対潜戦闘用に哨戒ヘリ1機を搭載しています。f:id:fw688i:20230827111828p:image

(「45級」の主要兵装の配置の拡大:艦首にステルスタイプの55口径4.5インチ単装砲を1基、その背後に48セルの「アスター」対空ミサイルを収容するVLS、その後ろにモデルではちょっとわかりにくいですが「ハープーン」対艦ミサイルの発射筒がわかります(上段写真)。中段写真では機銃やCIWSが見て取れます。下段写真はヘリコプター格納庫と発着甲板:ヘリ格納庫の上の構造物が「シーセプター」短対空ミサイルのVLSでしょうか?)

 

同級は就役後、発電機の容量不足から停電を発生しており、ディーゼル発電機2基をより強力な3基置き換える改修が順次行われるということです。さらに水中騒音の問題も現れてきており、対潜戦闘をも担う駆逐艦としては致命的な気もします。

 

ご紹介したTriang社製モデルについて

同社のモデルは1:1200スケールとされており、やや大柄です。近々、下記の3D printeling

modelを入手しこれに置き換える予定です。

(写真はBill's Bits n Pieces製の3D printing model)

 

ということで、第二次世界大戦後に英海軍が建造した駆逐艦を見てきたわけですが、戦争の終結後から今日に至る78年間にわずか4艦級というのは、あらためて意外でした。もちろん駆逐艦以外にフリゲート艦等の開発も見ていかねばなりませんが(こちらは随分と複雑な系譜を追う作業になりそうです。嬉しい悲鳴、というやつですね)、やはり今回少し触れた1966年度国防方針での正規空母建造計画の中止が、その分岐点だったのではないかと思います。

この方針で、英海軍は正規空母を中心とした機動部隊という戦闘単位(つまり艦隊)の運用を断念し、それまでの「大洋を安定させる海軍」から、「局地紛争への介入(旧宗主国としての責任?あるいはいまだに点在して残る海外領に関連した利権保持?)を想定した海軍」へと、海軍のあり方自体も大きく変化したと考えます。

しかし、英海軍には、2010年代に入り再び6万トンを超える「クイーン・エリザベス級」空母(STOVL式ではありますが前述のように大型艦です)を就役させるなど、海軍のあり方を変化させる動きが現れてきているように思われます。これは当然、空母機動部隊構想とその艦隊防空の必要性が関連してきているわけで、その任を負う艦艇の開発が「45級」の就役として実現していると思われます(この辺りの動きは本稿で米海軍のフリゲート艦開発についてご紹介した際に、一旦は「ペリー級」の建造を最後にフリゲート艦から局地紛争への介入や周辺警備への対応に主軸を置いた沿海域戦闘艦の整備へと軸足を移した米海軍が、再び敵対する水上戦力(つまり艦隊)を想定した海上戦闘等に対応するフリゲート艦建造に回帰し始めた、という流れと同じような情勢変化に対応するものなのかもしれません)。

しかし一方で「45級」には上述のような課題が現れてきており、当初の12隻建造の計画も財政的な事情もあって再三縮小され、結局6隻で落ち着きそうです。

既に次期ミサイル駆逐艦についても構想が取り沙汰され始めており、これからの動向に注目しています。

 

ということで今回はこの辺りで。

次回はアップデートがいくつかご紹介できるかと。(いつか「ロイヤル・ネイヴィーの駆逐艦:大戦間編」や「第二次世界大戦編」もやらなくちゃね)

もし、「こんな企画できるか?」のようなアイディアがあれば、是非、お知らせください。

 

模型に関するご質問等は、いつでも大歓迎です。

特に「if艦」のアイディアなど、大歓迎です。作れるかどうかは保証しませんが。併せて「if艦」については、皆さんのストーリー案などお聞かせいただくと、もしかすると関連する艦船模型なども交えてご紹介できるかも。

もちろん本稿でとりあげた艦船模型以外のことでも、大歓迎です。

お気軽にお問い合わせ、修正情報、追加情報などお知らせください。

 

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アップデートと新作、そして新着モデルの話など

先週末は「夏休み」とお盆のお参りを兼ねて、帰省してきました。帰省地の大阪を台風が直撃するとかで、暴風雨を警戒して予想上陸の2日ほども前から、新幹線の計画運休が宣言され、少し早めに切り上げて自宅に戻らざるを得ませんでした。

新幹線の計画運休(終日、新大阪ー名古屋間を全列車運休)なんて、筆者の記憶にある限り初めてではないでしょうか?運休すれば当然運行機材(列車)が駅にいないわけで、翌日もダイヤは大混乱だったようです。まさにお盆の帰省時期と重なったので、多くの方が影響を受けられたのではないかと思います。

そんなこんなで、本稿の投稿は1回スキップさせて頂きました。

早めに帰省先の実家から自宅に戻ったので、少し模型を触る時間ができました。気になっていたモデルに少し手を入れたり、未完成のまま放置状態だったモデルを完成させたりすることができ他、というわけです。

今回はそんなお話を。

 

まずはアップデートから

キーロフ級:1144級」重原子力ミサイル巡洋艦同型艦4隻:現在稼働中のものは1隻)

同級については本稿の下記の回で取り上げています。

fw688i.hatenablog.com

北方艦隊旗艦「ピョートル・ヴェーリキー」

同艦はロシア連邦北極海を実効支配目指す際に、その先頭に立つ北方艦隊の旗艦で、「キーロフ級」ミサイル巡洋艦の4番艦です。

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(「キーロフ級」ミサイル巡洋艦の概観:203mm in 1:1250 by Amature Wargame Figures in Shapeways :塗装は筆者オリジナルです。VLSのハッチがこんなに目立った塗装をしているはずがない。そこは模型の世界で、わかりやすく、と言う観点優先です。ご容赦を)
キーロフ級」ミサイル巡洋艦第二次世界大戦後設計された航空母艦を除き世界最大の水上戦闘艦艇です。20000トンを超える現用艦としては破格の大きさの船体と、搭載する強力な兵装から、西側諸国(NATO諸国と言うべきでしょうか)からは「巡洋戦艦」と呼ばれることもあります。ソ連ロシア連邦海軍の正式名称は「1144級重原子力ミサイル巡洋艦」です。

その呼称の通り原子炉2基と蒸気タービン2基を主機として搭載し31ノットの速力を発揮できます。

 

搭載する兵装は、対艦兵器としてSSM(対艦巡航ミサイル)のVLS(垂直発射筒)20基と130ミリ連装速射砲、対空兵器として艦隊防空用のSAM(対空ミサイル)8連装VLS12基、個艦防御用として短SAM8連装VLS8基とCIWS6基、対潜兵器として対潜ミサイル発射可能な5連装魚雷発射管2基、10連装対潜ロケット発射基1基、6連装大戦ロケット発射基2基、さらにヘリコプター3基の搭載と運用が可能です。

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(「キーロフ級」ミサイル巡洋艦の主要な兵装配置:(左上)10連装対潜ロケット発射基1基、6連装大戦ロケット発射基2基 (右上)同級の最大戦闘力: 艦隊防空用のSAM(対空ミサイル)8連装VLS12基と SSM(対艦巡航ミサイル)のVLS(垂直発射筒)20基(艦橋よりの一段高い甲板に装備されています) 両舷側にCIWSが見えています (左下)艦中央部のCIWS4基 (右下)ヘリコプター甲板と130ミリ連装速射砲、ヘリ甲板の両側に個艦防御用として短SAM8連装VLS8基を装備しています)

同級は4隻が建造されましたが、現時点で現役に残っているのは4番艦の「ピョートル・ヴェーリキー」のみで、3番艦「アドミラル・ナヒーモフ」は近代化改修が行われていると言われていますが、再就役は数度にわたり遅延しています。

 

キーロフ級」ミサイル巡洋艦のアップデート!

上掲で少し気になっていたことが。実はヘリ甲板のマーキングが少し違うかな、と。

この機会にそこを少しアップデートしました。

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(「キーロフ級」ミサイル巡洋艦アップデート版の概観: by Amature Wargame Figures in Shapeways :下の写真は今回のアップデートポイントであるヘリ発着甲板のマーキングの比較(もちろん下段がアップデート版:余談ですが、デカールの張り込み後はこうして写真にするとはっきりしてしまいますねえ。どうしたもんだろう・・・)

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使用したデカールの話

使用したデカールは以前にもご紹介した「1:1250 Decal」製のもの。大きなシートにお好みのデカールをセットして仕上げてくださいます。

1-1250-decals.jimdofree.com

価格はそれなりにいい値段を請求されますが、1:1250スケールでマーキング(デカール)をオーダーできるところを筆者は他に知らないので、かなり重宝しています。特に 3D printing modelはデカールなどはまず付属してはいないので、モデルを少しでもそれらしく仕上げるには、筆者には必須アイテムになってきています。

一点、気をつけるべきところがあるとしたら、このサイトのオーナーさんはあくまで副業としてやっていらっしゃるようなので、「すぐに欲しい」なんて期待をしないことでしょうか。そういう状況を迎えなくていいように、余裕を持って手持ちを把握しておくことが必要かもしれません。(まあ、模型、ですのでその辺りは・・・)

 

次に、完成させたモデルのご紹介(結構長期間、放置していました)

キエフ級:1143級」航空巡洋艦同型艦4隻:就役期間 1975-1995年)

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(「キエフ級:1143級」航空巡洋艦の概観:221mm in 1:1250 by Amature Wargame Figures in Shapeways :塗装は筆者オリジナルです。艦首部の対艦ミサイルなどこんなに目立った塗装をしているはずがない。ご容赦を)

同級は西側諸国の潜水艦の活動を念頭に置き哨戒ヘリコプターの集中運用のプラットフォームとして開発され好評を得た「モスクワ級:1123級」対潜巡洋艦の発展拡大型として設計されました。

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さらに設計途上でYak-38VTOLの実用化の目処が立ったことから、同級は対潜哨戒ヘリコプターに加えこれも運用可能とすることが設計に盛り込まれました。併せて対艦ミサイルの搭載により、対潜に加え対艦戦闘や地上支援等にも対応できる設計となっています。

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艦型は15000トン級であった前級「モスクワ級:1123級」対潜巡洋艦をはるかに上回る35000トン級となり、運用搭載機数も「モスクワ級:1123級」の哨戒ヘリ14機から、哨戒ヘリ、V/STOL、救難ヘリ等の組み合わせで、最大36機と大幅に増えています。搭載機の内訳は任務によって異なり、例えば対潜重点任務の場合には対戦哨戒ヘリ34機と救難ヘリ2機の組み合わせであるのに対し、上陸支援編成ではV/STOL(Yak-38,Yak-38U)16機、哨戒ヘリ14機、指揮ヘリ2機、救難ヘリ4機などとなっています。

 

これらの航空機の他に、主要兵装としては、SM-241 対艦ミサイル連装発射筒4基、RPK-1対潜ミサイル連装発射機1基、対戦ロケット発射機2基、M-11M対空ミサイル連装発射機2基、76mm連装速射砲2基を搭載しています。さらに個艦防御用として30mm CIWS 6基、短SAM連装発射機2基を搭載しています。f:id:fw688i:20230820101522p:image

(上の写真は「キエフ級:1143級」航空巡洋艦の主要兵装:写真左上段では、艦首よりから2基の対潜ロケット発射機、対潜ミサイル連装発射機、76mm連装速射砲とその両脇に対艦ミサイル連装発射機2基、そしてその背後に対空ミサイル連装発射機とその両サイド対艦ミサイル連装発射機2基が認められます。さらに左中段の写真では艦橋部に配置された対空ミサイル連装発射機と76mm連装速射砲が。写真右列では艦橋前部と飛行甲板の隅に配置された個艦防御用のCIWSと短対空ミサイル発射機がわかります。個艦の兵装としてはかなり重装備ですね)

全てソ連崩壊時期に一線からは退役

同級は4隻が建造されましたが、1991年のソ連崩壊に伴って「キエフ」「ミンスク」「ノボロシースク」の3隻は除籍され、「キエフ」「ミンスク」は中国に売却され、「キエフ」は世界初の空母ホテルとなり、「ミンスク」はテーマパークとなりました。「ノボロシースク」はスクラップとして売却され解体されました。

4番艦「バクー」:インド海軍の全通甲板型空母に改造(現役?)

4番艦「バクー」は、設計年次が遅かったこともあって主要兵装をVLS方式で搭載するなど、「キエフ級」の他艦とは外観がかなり異なっていました。

(上の写真は、4番艦「バクー」の概観:by Bill's Model in Shapeways: 3D printing modelです:筆者未入手:艦首部の兵装等がVLS化されているのがわかると思います)

同艦は1997年に予備役に編入されたのち、2004年にインド海軍に売却され、艦首部の兵装を撤去してここにスキージャンプ台式の発艦レーンを備えた全通甲板の空母に改装されています。(就役2014年:Mig-28K 21機、哨戒ヘリ 13機運用可能?)

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「ヴィクラマーディティア」のモデルは、筆者が探した限りでは残念ながら見つかりませんでした。(Bill`s Modelにリクエストしてみようかな)すでにBill’s ModelからもAmature Wargeme Figures からも出ていました。

(上の写真は、インド海軍に売却され全通甲板型の空母に改造された「ヴィクラマーディティア」の概観:by Bill's Model in Shapeways: 3D printing model:下の写真はAmature Wargame Figures版。ちゃんと出てました!スキージャンプ方式の艦首部はこっちのほうがいいかも。ちゃんと出てました!)

 

ロシア海軍旧ソ連海軍の大型艦2種

下の写真はロシア海軍(=旧ソ連海軍)の大型艦2種がどれほどの規模だったかをなんとなくわかってもらえるから、というカットです。一番手前が大きさ比較の参考にと置いてみた「クリヴァク級」フリゲート艦です。

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最後に新着モデルのご紹介

まずは下記の投稿から。

fw688i.hatenablog.com

米海軍の最新フリゲート艦「コンステレーション級」の3D modelの到着

上掲の投稿で、米海軍は「オリバー・ハザード・ペリー級」ミサイルフリゲート艦の後、一旦フリゲート艦の建造を遠海域戦闘艦に切り替えた、とご紹介しています。これは国際情勢が民族対立等の局地紛争へとその重点を移した経緯に対応するものだったのです。「ペリー級」は2015年に全艦が退役し、一時、米海軍はフリゲート艦を持たない海軍となっていました。

しかしその後、ウクライナ戦争や台湾有事想定など、再び国家間の緊張が国政情勢のテーマとして浮上することによって、再び整備艦艇の性格に回帰が発生し、新たに整備されつつあるフリゲート艦の艦級がこの「コンステレーション級」なのです。

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モデルはAmature Wargame Figures製の3D modelで、まだ下地処理もしていない状態です。ディテイルに特に気になる点はありませんが、もしかすると一部武装パーツをストックモデルのものに置き換えるかも。

完成したらまたご紹介します。

 

さらに下記の投稿から

fw688i.hatenablog.com

この投稿では、ロシア海軍唯一の(と言ってもいいと思うのですが)駆逐艦の艦級である「ウダロイ級」のヴァリエーションのご紹介をしているのですが、その中で映画「ハンターキラー」に登場するロシア海軍駆逐艦がおそらく「ウダロイ級」駆逐艦をベースにした架空艦のようなので作ってみました、という趣旨のご紹介をしています。しかしその完成後のモデルについていくつか映画の画像とは齟齬が発見され、再トライを宣言しています。

架空の駆逐艦「ヤヴチェンコ」:映画「ハンターキラー」に登場する「ウダロイ級」改装らしき駆逐艦

というわけで、再トライのベースとなる「ウダロイ級」駆逐艦のモデルが到着しました。

 

前回は「ヤヴチェンコ」は最新鋭の駆逐艦であり、当然「ウダロイII級」からの改造だろうという思い込みが先走っての制作だったのです。

架空駆逐艦「ヤヴチェンコ」のモデル制作(上掲の投稿より再録)

(直上の写真は、上掲の映画のカットから再現した「ヤヴチェンコ」)

しかし、完成後、映画の一シーンに登場する「ヤブチェンコ」の形状(下の写真)と比較してみると、「ウダロイ級」をベースに改造したほうがいいかも、と前回の投稿で記述しています。

筆者が感じる写真とモデルの一番大きな違和感は、艦級前の上部構造物の形状の差で、これが再トライの決め手となっています。というわけで今回は「ウダロイ級」をベースとした改造に着手する予定です。

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上の写真はまだ下地処理もしていない状態での到着したての「ウダロイ級」のモデルです(by 3D Ships in Shapeways)。到着後、主砲塔2基を撤去してあります。現在別途、同艦の主砲となる複合CIWS武装パーツを取り寄せているところです。

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上の写真は到着した「ウダロイ級」の艦首の主砲塔跡に1:700スケールの複合CIWSを仮置きしてみた状態です。1:1250スケールの複合CIWSでは小さすぎるかな、と1:700スケールの複合CIWSを一緒に調達していたのですが、こちらはやはり大きすぎるかと。形状もかなり異なりますね。

こちらも完成したら、またご紹介します。

 

ということで、テーマ的には取り止めのない投稿となりましたが、今回はこの辺りで。

次回は上掲の新着モデルの完成編などを予定しています。

もし、「こんな企画できるか?」のようなアイディアがあれば、是非、お知らせください。

 

模型に関するご質問等は、いつでも大歓迎です。

特に「if艦」のアイディアなど、大歓迎です。作れるかどうかは保証しませんが。併せて「if艦」については、皆さんのストーリー案などお聞かせいただくと、もしかすると関連する艦船模型なども交えてご紹介できるかも。

もちろん本稿でとりあげた艦船模型以外のことでも、大歓迎です。

お気軽にお問い合わせ、修正情報、追加情報などお知らせください。

 

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夏休みの架空艦:「ロングビーチ」のイージス艦改装モデル、到着

今回は以前ご紹介した米海軍原子力ミサイル巡洋艦ロングビーチ」のイージス艦改装モデルが到着したので、その仕上げが完了しましたので、ご紹介を少し。

そんなお話で。

 

まずは新着モデルのご紹介から。

本稿の7月2日の投稿「現用艦船シリーズ:アメリカ海軍のミサイル巡洋艦vol.1:第二次世界大戦巡洋艦の改装の系譜」で、世界初の原子力推進戦闘艦として有名な「ロングビーチ」をご紹介しています

fw688i.hatenablog.com

ロングビーチ」の記述を再録しておくと・・・。

(引用ここから)

原子力ミサイル巡洋艦ロングビーチ」ミサイル巡洋艦(就役期間:1961-1995年:同型艦なし)

ja.wikipedia.org

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(上の写真は世界初の原子力ミサイル巡洋艦ロングビーチ」の概観:177mm in 1:1250 by Argos: 同社のモデルはかなり精密に作り込まれています。モデルは1963年以降の5インチ砲を追加装備したのちを再現しています。 Argosモデル:次回詳しくご紹介しますが、現用艦船のモデルでは群を抜いています。しかし流通量がそれほど多くなく、その分、中古市場(Ebay等)でも大変高価です<<<これは困った!

第二次世界大戦後、米海軍が初めて設計した巡洋艦で、同型艦はありません。世界初の原子力を推進機関とする水上戦闘艦であり、かつミサイルを主兵装とする初めての戦闘艦でもありました。

空母機動部隊の艦隊防空の必要性から、新世代の水上戦闘艦艇では従来の砲兵装主体からミサイル主体への主兵装の転換は必須であり、システムへの電力供給、ミサイルシステム自体の規模を考慮すると、ある程度の大型艦が必要でした。同艦は「ボルチモア級」重巡洋艦なみの14000トン級の船体に原子炉2基を搭載し、30ノットの速力を発揮する設計でした。

搭載兵装はタロスとテリアの2種を併載して、広範囲な防空圏を構成することができました。艦首部にテリア用の連装ランチャー2基を装備し、それぞれ40発、80発の弾庫を直下に設置しています。タロスは艦尾部に搭載され、連装ランチャー1基とその下に52発装填の弾庫が設置されました。

対潜兵装としては艦中央にアスロック8連装発射機と3連装魚雷発射管が設置されました。f:id:fw688i:20230702105432p:image

原子力ミサイル巡洋艦ロングビーチ」の主要兵装:艦首部のテリアミサイルの連装発射機2基とその管制レーダー(写真上段):同艦の特徴の一つでもある特異な形状の艦橋とアスロック8連装発射機、後日追加装備された5インチ単装砲塔2基(中段):艦尾部のタロスミサイル発射機と管制レーダー。ヘリコプターの発着艦が可能でしたが、格納庫はありませんでした(写真下段))

就役当初は砲兵装を全く持たない同艦でしたが、後に低空目標や水上目標に対する対抗手段として5インチ砲2基を艦中央部に搭載しています。

1961年から95年までの長い就役期間中に数度の兵装変更が行われました。艦首部のテリアミサイルはスタンダードミサイルに更新され、タロスミサイルは1980年代に撤去され、ハープーン対艦ミサイルの発射筒とトマホークの装甲発射ランチャーが設置されています。さらに90年代にはCIWS2基が装備されています。

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(上の写真は、模型のヴァリエーションで見る兵装変更:(上段)就役時の装備に比較的近く、艦首部にテリア、艦中央にアスロック、艦尾にタロスが装備されています。5インチ砲は未装備ですね。(中段)5インチ砲2基が、艦中央部に設置されました。(下段)スタンダードミサイルへの換装に伴い、艦尾のタロスが撤去され、ハープーン対艦ミサイルの発射筒が設置されました。わせてCIWS2基もタロス管制レーダーの装備跡に設置されています:写真はいずれもsammelhafen.de掲載のものを拝借しています)

その後、1970年代末期には新造イージス艦の建造に変えて同艦のイージス艦への改装案も検討されましたが、実現しませんでした。

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(写真はShapewaysにアップされているイージス艦への改造後の「ロングビーチ」を想定したモデル。連装発射機を装備した形状(おそらくイージスシステム導入直後?)とVLSへの換装後、両方、アップされています:作ってみてもいいかも)

結局、1995年に退役、2002年には原子炉の破棄も完了し、2012年にスクラップにされました。

(引用ここまで)

 

Shapewaysへの発注:Amature Wargame Figures

と言うことで、末尾で「ロングビーチ」のイージス艦改装のモデルを見つけた、と言うご紹介をしています。上掲のようにこのモデルは本稿の読者にはお馴染みの3D printing ModelのShapewaysで手に入れることができます。

www.shapeways.com

www.shapeways.com

早速オーダーを出し、今週、月曜日に到着しました。

モデルを改めて見ておきましょう。(下の写真)

両モデルともAmature Wargame Figures制作で、粘性の高いWhite Natural Velsatile Plastic(制作者のお勧め素材)で成形されています。二つのタイプがあり、初期の「タイコンデロガ級」イージス巡洋艦と同様のMk.26連装ミサイルランチャーをダブルデッカーで搭載した形式(写真上段)と、VLSに換装した形式(写真下段)の2種類がアップロードされています。

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初期型では、Mk.26連装ランチャー以外にもハープーン発射筒(上段写真のブリッジ前)、トマホーク装甲ランチャー(上段写真の艦尾:仰角をかけた発射体制でしょうか)なども再現されていますが、後期型(VLS型)ではそれらは全てVLSに収納されていると言う想定でしょうか、姿を消し、CIWSが上部構造に追加されています。

Amature Wargame Figuresとしては標準的な仕上がりです。上掲の写真でもお分かりのように、ざっくりとした全景はなかなかいいのですが、細部は少し物足りない、乱暴に言うとそんな感じでしょうか。少なくともマストはやはりなんとかしたくなりますね。

いずれにせよこうした架空艦も結構揃っているので、コレクションを充実させるベースとしては、既存のモデルがebayではなかなか見つからない時など、大変ありがたく利用させていただいています。このAmature Wargame Figuresをはじめ、いろいろな艦船モデルの3D printing model製作者や、出力素材の比較など、本稿の下記でもご紹介していますので、興味があればご一読を。

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6回も続けてたんですね。結構ハマってたんだなあ(まあ、今もはまっていますが)。

3年以上前の投稿なので、ここから製作者も増えていますし、クオリティの向上も著しい。素材もヴァリエーションが随分増えていて、この素材との関連で、つまりディテイルの再現性の幅が増えたことで、最近のモデルは本当に素晴らしい、と筆者は思います。価格とも関連するので、その選択も、また醍醐味の一つかと。(こんなことを書いていると、きっとメタルモデルの製作者からは叱られるんだろうなあ。一方で、古くから(つまり3D model登場以前から)素晴らしい精度のメタルモデルを供給してくれてきた製作者は、いわゆる職人が多く、高齢化に伴う引退などの話が聞かれるようになってきています。こんなところでもDigital化の波が)

ひとつ3D modelについてl注意が必要なのは、オーダーしてから手元に届くのに、結構時間がかかる、と言うところでしょうか?気持ちにゆとりを持って(まあ、艦船モデルの話なので、そんなに緊急性はないと思いますが)オーダーしましょう。制作に2週間、配送に1週間、くらいは最低見ておいた方がいいでしょうね。それより早く着いたら「ラッキー」位の気持ちで。面白いのは制作過程も配送過程もトラッキングできるところ。Shapewaysのマイページから、いつでも作業工程がチャックできます。「おお。準備できたな」とか「パッキングに回った」とか。配送も今どのあたりか、こちらはUPSのサイトでチェックできます。発送後Shapewaysから送られてくるトラッキングナンバーで、UPSのサイトにアクセス。「今夜、ケルンについたのか」とか、「おお、成田まで来てるな」とか。おまけ的な楽しみですが、こう言うのは意外と大事かも。

 

と、話がいつものことながら大きく横道にそれましたが、今回のモデルのご紹介を。

ロングビーチ」;原子力イージス艦改装 第一形態(1985年ごろ?)

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原子力ミサイル巡洋艦ロングビーチ」のイージスシステム館への改装の第一形態の概観:イージスシステムの搭載により上部構造が大きく様変わりし、艦容は一変しています)

ロングビーチ」は1970年代末に実際にイージスシステム艦への改装が検討されていました。その際のコンセプト図が残っていて、今回のモデルはそれに大変忠実だと言うことがわかると思います。

ロングビーチ」はご承知の通り原子力推進で、余裕のある電力等はイージスシステムを搭載するにはうってつけと見られたかもしれません。同様に他の原子力ミサイル巡洋艦もあクァせて検討俎上に上がったようですが、それぞれシステム搭載スペースを捻り出すには大規模な改装が必要で、いずれも見送られています。

ロングビーチ」も同様で、今回のモデルを見ていただければ一目瞭然ですが、上部構造は原型をとどめないほどの改装を受ける必要がありました。f:id:fw688i:20230806151014p:image

(巨大な上部構造:イージスシステムの搭載と対潜哨戒ヘリの運用施設:四隅にはパッシブ・フューズドアレイアンテナが)

艦橋部には巨大なシステムが搭載され、上部構造物の四すみにはパッシブ・フューズドアレイ・アンテナが設置されています。上部構造物の頂点には大きなトラス構造のマストが聳え、その前後にミサイルの最終誘導用のイルミネーターが4基搭載されています。

同艦の兵装は、対空兵装としてスタンダード対空ミサイル用にMk.26連装ランチャーを艦首、艦尾に配置しています。長い船体を生かしてランチャー下には大きな弾庫が設定されています対艦・対地上兵装としては、Mk.45 5インチ単装両用砲、ハープーン対艦ミサイル、トマホーク巡航ミサイルを搭載しています。対潜兵装としては、その主軸は搭載する長距離ソナーと対潜哨戒ヘリにおかれアスロックは廃止されています。他に短魚雷三連装発射管は通常は館内に収納されていました。個艦防御用として2基のCIWSを搭載しています。f:id:fw688i:20230806151005p:image

(写真は主要兵装のアップ:(上段写真)58口径5インチ単装砲(Mk.45)が艦種部に設置され、Mk.26連装ミサイルランチャーがその後に続きます。さらに対艦用の主要兵装として、ハープーン4連装発射筒が4基搭載され、艦橋前には個艦防御用にCIWSが設置されました(オリジナルのモデルにもコンセプト図にもなかったのですが、追加してみました)。:(写真下段)上構造物の後部、ヘリハンガー上にもCIWSは装備されています。対潜哨戒ヘリ2機を運用できるハンガーと発着甲板を経て、後部のMk.26連装ミサイルランチャー、艦尾にはトマホーク用装甲ボックスランチャー2基が搭載されています)

 

Mk.45 5インチ両用砲

ja.wikipedia.org

米海軍が広く導入したMk.42 5インチ単装両用砲は毎分40発という高い射撃速度を誇りミサイル装備に主軸が移るまでは対空兵装のカナメとも言うべきものでした。しかし一方で早い射撃速度を実現するために揚弾機構を二重にするなど重く(61トン)、かつ操作に人数を要するものでした(12−16名)。

対空戦闘の主軸がミサイルに移ると、射撃速度への要請の比重は低くなり、揚弾機構を減らすなど軽量化、砲塔の無人化。自動化が進められました。こうして生まれたのがMk.45 5インチ砲でした。

重量は24トンまで軽減され、無人化によりステルス性を意識した砲塔デザインが可能となりました。操作員も6名まで軽減されています。一方で発射速度は毎分20発程度まで下がりましたが、主砲の標的が対空目標から地上目標、水上目標に移っているため、大きな問題にはなりませんでした。

 

模型的な視点から

模型的には、かなり大幅に手を入れています。まあ、Amature Wargame Figuresのモデルは概ねそのように扱っていますので、特にこのモデルの何か課題があると言うわけではありません(前出の3Dモデル関連の投稿を見ていただくと、その辺りはよくわかっていただけるかも)。

モデルからオリジナルの兵装とマストを切除し、全て筆者のストックパーツに置き換えてあります。今回使用したパーツはほとんどがHobbyBoss製の「スプルーアンス級駆逐艦、「タイコンデロガ級イージス艦のもので、特に一番気になっていたマストは「スプルーアンス級」のトラス構造のマストを流用しています。ランチャー下には大きな弾庫を抱えている、と前述していますが、Mk.26連装ランチャーをもう1基艦首部に追加しようかな、などと考えはしたのですが、モデルとしては少しうるさくなるかなと、即応性への対応はVLSへの換装を待った、と言うことで、原型と同じく2基のランチャー搭載としました。(唯一、艦尾部のトマホーク用の装甲ボックスランチャーのみ、適当なパーツがないので、プラロッドを切ってそれらしく作ってあります。

 

タイコンデロガ級」初期タイプとの比較

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(「ロングビーチ」は大きなセンタを生かし、大きなミサイル弾庫を確保することができました)

 

ロングビーチ」;原子力イージス艦改装 第二形態:VLSへの換装(1998年ごろ?)

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原子力ミサイル巡洋艦ロングビーチ」のイージスシステム館への改装の第二形態の概観:VLSへの換装で、艦容は水分すっきりしてしまいました)

第二形態は、Mk.26連装ランチャーからVLSへと換装された形態を表しています。第一形態で記述したイージスシステムの複数目標への即応性への対応力強化のために、2基のMk.26はVLSへ換装された、と言う想定のモデルです。Mk.41 VLS(48セル)を5基搭載しています。マストは頑丈なトラスタイプのものからステルス性を意識したレーダー反射の低い塔構造のものに改められました。VLSは対空・対艦・対地上全ての搭載ミサイルに対応しているため、非常にすっきりした外観になっています。f:id:fw688i:20230806151615p:image

(写真は主要兵装のアップ:Mk.41 VLS (48セル)を艦首部に3基、艦尾部に2基、装備しています。固有の対潜哨戒ヘリを2機搭載しています)

タイコンデロガ級VLS搭載タイプとの比較

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(「ロングビーチ」は長い船体を生かし、48セルのVLSを5セット装備し、高い即応性を発揮できたはず)

ロングビーチ」三形態比較

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(「ロングビーチ」三形態の変遷:上から実艦、改装案第一形態、改装案第二形態:やはり巨大な上部構造が・・・)

と言うことで、今回はここまで。

 

次回(次週)は一回お休みです。

その後は新着モデルの到着具合と相談しながら、ロシア海軍フリゲート艦の系譜、あるいは米海軍の第二次世界大戦期の駆逐艦の系譜のお話でも。

もし、「こんな企画できるか?」のようなアイディアがあれば、是非、お知らせください。

 

模型に関するご質問等は、いつでも大歓迎です。

特に「if艦」のアイディアなど、大歓迎です。作れるかどうかは保証しませんが。併せて「if艦」については、皆さんのストーリー案などお聞かせいただくと、もしかすると関連する艦船模型なども交えてご紹介できるかも。

もちろん本稿でとりあげた艦船模型以外のことでも、大歓迎です。

お気軽にお問い合わせ、修正情報、追加情報などお知らせください。

 

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