相州の、ほぼ週刊、1:1250 Scale 艦船模型ブログ

1:1250スケールの艦船模型コレクションをご紹介。実在艦から未成艦、架空艦まで、系統的な紹介を目指します。

ロイアル・ネイヴィーの駆逐艦(その3:航洋型駆逐艦の模索)

今回はイギリス海軍駆逐艦発達史の3回目。

このミニ・シリーズの2回目では、英海軍における駆逐艦という艦種の誕生期のお話をしましたが、少しおさらいをしておくと、駆逐艦という艦種は19世紀の半ばに、高い破壊力を持つ魚雷を抱いて高速で主力艦に向けて突っ込んでくる「水雷艇」に対し、駆けつけて追い払う=駆逐する艦種、「水雷艇駆逐艦」として成立しました。

水雷艇」駆逐の目的で実は種々の艦種が開発されたのですが、主として当時の機関の出力とそこから生み出せの速度の問題から、結局、「水雷艇」の設計を拡大したある種「大型水雷艇」的な発想の設計に帰結する事になりました。

 

こうして生まれた「駆逐艦」という艦種だったのですが、その護衛すべき艦隊、特に大きな大砲を搭載した主力艦が沿岸で行動する砲塔艦から、航洋性を兼ね備えた戦艦へと移行し、その行動範囲が沿岸から大洋に広がると、当然のことながら随伴しこれら主力艦を護衛すべき「駆逐艦」にも高い航洋性が求められるようになります。こうして、黎明期の「水雷艇駆逐艦」の時代は終わり、「航洋型駆逐艦」の模索が始まるのです。

今回は、その「航洋型駆逐艦」の登場とその発展のお話です。

 

英海軍の航洋型駆逐艦、模索の背景

英海軍(ロイヤル・ネイビー)が「航洋型駆逐艦」の開発に向かった背景には、当時、大艦隊の整備に着手したドイツ帝国海軍の存在がありました。つまりこの著しい成長を見せる仮想敵の浮上により、想定される戦場が北海となり、その波の高い海面での戦闘を想定すると、従来の近海での対水雷艇戦を想定され設計された従来の「水雷艇駆逐艦」では行動に制限が大きく(従来の「水雷艇駆逐艦」時代の仮想敵はフランス海軍でした)、より航洋性の高い駆逐艦が必要になった訳です。

 

こうして設計に対する模索が始まった「航洋型駆逐艦」はライバルであるドイツ帝国海軍が開発した高速水雷艇・高速駆逐艦との性能競争の要素も加わり、開発に拍車がかかります。就役年次で区切ればおおよそ1904年から第一次世界大戦が始まる1913年までの間に8艦級、約150隻が建造され、この間に航洋型駆逐艦の基本形が定まっていくことになります。

 

E級駆逐艦:(同型艦 36隻:1904年より竣工)

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ドイツ帝国海軍との主戦場を北海と想定し、従来の「30ノッター型」駆逐艦の「亀甲型」の船首形状から、航洋性を重視した画期的な「船首楼型」船首形状を持った、初めての艦級です。

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(艦首形状の変遷:初期の水雷艇駆逐艦の艦首形状=亀甲型(上段)と航洋型駆逐艦艦首形状=船首楼型の対比:中段写真は最初の航洋型駆逐艦「E級駆逐艦」・下段「G級駆逐艦」)

速力(25.5ノット)と武装(45センチ単装魚雷発射管を2基、7.6センチ単装砲1基、5.7センチ単装砲5基)は従来の「30ノッター型」水雷艇駆逐艦を継承しましたが、船首楼形状の導入による凌波性の向上を目指し、艦型はそれまでの350トン級から、550トンへと大型化しています。

機関はボイラー4基とレシプロ蒸気機関の組み合わせで構成されており、2本煙突と4本煙突の二つの形状がありました。

2本煙突型(21隻)

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(E級駆逐艦2本煙突型の概観:56mm in 1:1259 by Hai: ホーソンレスリー社、キャメル・レアード社、ソーニクロフト社、ホワイト社で建造された艦はこの形状をしています)

 

4本煙突型(15隻)

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(E級駆逐艦4本煙突型の概観: in 1:1259 by Hai: 社、ヤーロー社で建造された艦はこの形状をしています)

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(E級駆逐艦の概観特徴の煙突のアップ:よく見ると武装配置にも差異が)

 

 

F級駆逐艦:(同型艦 12隻:1907年より竣工)

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タービンと重油専焼方式の採用を機軸とし、ある程度長期の行動にも耐えうる居住性を備えた、まさに「北海」海面での艦隊随伴行動を想定して設計され、後の航洋型駆逐艦の基本設計の基礎を形作ったと言ってもいい大型駆逐艦の艦級です。

蒸気タービンと重油専焼缶の採用で、33ノットの高速を発揮することができました。

艦型は1000トンに少し足りないレベルまで拡大され、45センチ単装魚雷発射管2基の雷装は前級と同じながら、砲戦能力を重視し、備砲を3インチ単装砲3基(一部5基)あるいは4インチ単装砲2基に強化しています。

民間7社で建造されたため、外見には3本煙突、4本煙突、6本煙突などのヴァリエーションが見られています。

3本煙突型(6隻)

(モデルは入手手配済み:入手次第、アップデートします)

 

4本煙突型(5隻)

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(F級駆逐艦4本煙突型の概観:66mm in 1:1259 by Hai)

 

6本煙突型(1隻)f:id:fw688i:20210711123753j:image

(F級駆逐艦6本煙突型の概観: in 1:1259 by Hai:6本煙突って、そういう意味か、と思わせるカット:下のカットも併せて)

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駆逐艦「スウィフト」:(1908年)

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(駆逐艦「スウィフト」の概観:87mm in 1:1259 by Navis)

北海での主力艦隊(特に「ドレッドノート 」以降の主力艦)に帯同する高速駆逐艦として設計されました。速度目標を36ノットとしたため、大出力の機関を搭載する必要があったため、2000トンを超える大型艦となりました。しかし速力は35ノットに留まり、かつ建造費が従来駆逐艦の3倍となるために1隻の試作に留まりました。

武装は4インチ単装砲4基(のちに6インチ単装砲塔2基に換装:小型巡洋艦ですね)と45センチ単装魚雷発射管2基を搭載していました。

大きな艦型を生かし、通信設備の充実等の改装が行われ、初の嚮導駆逐艦水雷戦隊旗艦用駆逐艦)となりました。

 

G級駆逐艦:(同型艦 16隻:1909年より竣工)

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(G級駆逐艦の概観:65mm in 1:1259 by Navis)

F級の後継艦として、建造費をやや抑え、海軍全般での機関の重油専焼化傾向から予測される重油消費の増加を考慮して、再び石炭専焼式の機関に回帰しています。このため速力は27ノットに甘んじましたが、砲力の増強を目指して備砲を4インチ単装砲1基と3インチ単装砲3基とし、雷装も口径をあげて53センチ単装発射管2基と強化しています。

同級は英海軍が建造した最後の石炭専焼機関を搭載した駆逐艦となりました。

 

H級駆逐艦:(同型艦 20隻:1910年より竣工) 

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(H級駆逐艦の概観:62mm in 1:1259 by Hai)

G級に引き続き、建造費削減が志向され艦型を750トン級に小型化した設計となっています。

艦型の小型化に伴い、搭載機関にも制限が出ますが、タービンと重油専焼式の組み合わせを採用して、27ノットの速力を維持しています。以降の駆逐艦の機関はこの方式が定着します。

艦型は小型化しましたが、武装は強化され、4インチ単装砲2基、3インチ単装砲2基、53センチ単装魚雷発射管2基を装備していました。

 

I級駆逐艦:(同型艦特型をふくみ 23隻:1911年より竣工

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(I級駆逐艦アドミラルティ型の概観58mm in 1:1259 by Navis)

 H級の改良型で武装はH級を継承しつつ、機関区画の短縮が図られました。搭載機関を現じながら、27ノットの速力は維持しています。

コスト削減という志向での改良は、ある意味成功しながらも、一方でドイツ帝国の建造しつつあった速力30ノットを超えると言われた高速水雷艇への対抗上、速度改善の打開策として、この艦級から海軍本部設計により建造された14隻(アドミラルティ型)とは別に、民間造船所の技術力に期待し艦型や機関出力に自由裁量を与えた特型設計(同級の場合、ヤーロー特型、ソーニクロフト特型パーソンズ特型、ファイアドレーク特型の4タイプ9隻)を依頼することによる性能向上への模索が始まります。

同級では、ファイアドレーク特型で32ノットの最高速力を公試で記録するなど、一定の成果が現れました。このため以降、同様の試みが継続されることになってゆきます。

特型については、外観のヴァリエーションが少ないのか、モデルが見当たりません)

 

K級駆逐艦:(同型艦特型をふくみ 20隻:1912年より竣工

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(K級駆逐艦アドミラルティ型の概観:64mm in 1:1259 by Navis)

G級、H級、I 級と、建造コストを制限してきた英海軍でしたが、著しい性能向上を謳う仮想敵ドイツ帝国海軍の大型水雷艇に対抗する必要から、本級は再び大型化した艦型を与えられます。950トンクラスの船体にタービンと重油専焼式の組み合わせの機関を搭載し 31ノットの速力を発揮しました。

兵装も強化され、前級までの4インチ砲と3インチ砲の混載から、4インチ単装砲3基に改められました。雷装は前級同等の53センチ単装発射管2基としていました。

艦型の大型化から重油搭載量を増やし、仮想戦場である北海全域での行動に十分な航続距離を備えていました。

I級から始められた民間造船所への委託による特型建造の試みは継続され、基本形であるアドミラルティ(海軍本部設計)型12隻に加え、特型4タイプ8隻が建造されています。 

ソーニクロフト特型(5隻:3本煙突)

(モデルは入手手配済み:入手次第、アップデートします)

 

デニー特型(1隻:2本煙突)

(モデルは入手手配済み:入手次第、アップデートします)

 

フェアフィールド特型(1隻:3本煙突)

(モデルは入手手配済み:入手次第、アップデートします)

 

パーソンズ特型(1隻:3本煙突)

(モデル見当たらず)

 

L級駆逐艦:(同型艦特型をふくみ 22隻:1913年より竣工

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(L級駆逐艦アドミラルティ型の概観:67mm in 1:1259 by Hai)

本級は前級K級同様、大型化路線を継承して建造された駆逐艦の艦級です。

艦型は前級が高速性能を重視した細長い船型を持っているのん対し、同級ではやや艦幅を増して凌波性の向上を目指しています。タービンと重油専焼式の組み合わせは変わらず、29ノットの速度を発揮することができました。

兵装は、3基の4インチ単装砲は射撃速度の早い速射砲(に改められ、53センチ魚雷発射管は連装を2基搭載し射線を倍にするなど、著しい強化が図られています。

(下の写真は本級で初めて搭載された連装魚雷発射管:本級では兵装が強化されています)

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本級でも民間造船所への委託による特型建造の試みは継続され、基本形であるアドミラルティ(海軍本部設計)前期型12隻、後期型2隻に加え、特型3タイプ8隻が建造されています。

 

ホワイト特型(2隻:2本煙突)

(モデルは入手手配済み:入手次第、アップデートします)

 

ヤーロー特型(4隻:2本煙突)

(モデル見当たらず:外観的には、ホワイト特型と似ているかと)

 

パーソンズ特型(2隻:3本煙突)

(モデル見当たらず)

 

ということで今回は第一次世界大戦に突入する前のロイヤル・ネイヴィーの「航洋型駆逐艦」の設計を巡る模索の系譜を見てきました。

英海軍の常として、二カ国標準をテーマとした海軍建設を意識せねばならず、そのためには数を揃える必要があり、これは現実面では常に性能と予算の天秤ばかりを横目で見ながら海軍整備を考えてゆく、ということを意味しています(駆逐艦にかぎたことではないのですが)。

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(手前から、E級、F級、G級、H級、I級、K級 L級の順:当時世界一を誇る栄光の英海軍ならではの、強力な駆逐艦への要望と、世界の海を支配するために数を揃えることを想定した予算との兼ね合いの苦悩がその艦型の変遷に伺えるように思います)

 

そして、これは既に本稿で触れたことですが、この後、英海軍は第一次世界大戦に突入し、ドイツ帝国海軍に対し実戦での優位を目指し、34ノットの速力を発揮する高速航洋型駆逐艦の建造に移行してゆくことになるのですが、これは戦時ならではの決断、と言えるのかもしれません。

 

ということで今回はここまで。

 

次回は、再び第一次世界大戦期の「ロイヤル・ネイヴィーの駆逐艦」に戻ろうかと考えています。というのも、前回ご紹介した際には手元になかったモデルが、相当数、手元に揃ってきたからです。現在、鋭意、塗装等、整備中。

ということでおそらく次回は「ロイアル・ネイヴィーの駆逐艦(その1.5:第一次世界大戦期の駆逐艦)」(加筆改訂版)を予定しています。(あくまで予定です。これまでにも予定した途端、他の事に関心が向いてしまう厄介な性格は、ご承知の方も多いかと)

 

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