相州の、1:1250スケール艦船模型ブログ 主力艦の変遷を追って

1:1250スケールの艦船模型コレクションをご紹介。実在艦から未成艦、架空艦まで、系統的な紹介を目指します。

小説「女王陛下のユリシーズ号」:第14護衛空母戦隊(the 14th Aircraft Squadron)の話

以前、本稿では、下記の回で英国海軍の防空巡洋艦のご紹介をしています。

fw688i.hatenablog.com

その際にGW期間であったこともあって、表題の「あの防空巡洋艦」、アリステア・マクリーンの海洋小説の名作「女王陛下のユリシーズ号」に登場する架空の防空巡洋艦ユリシーズ」のセミ・スクラッチ・モデルをご紹介しました。

少しかいつまんでこの小説をご紹介しておくと、この作品では、第二次世界大戦中の北大西洋で輸送船団を護衛し、来襲するドイツ空軍・海軍と死闘を繰り広げつつ続けられた第14護衛空母戦隊の航海が、その旗艦「ユリシーズ」を中心に描かれています。

表題の「ユリシーズ」(この小説のある意味主人公と言っていいと思います)については、紆余曲折がありながら、ドンピシャのモデル作成のベースとなりそうな艦級を見いだせないまま、「アリシューザ級」軽巡洋艦をベースに改造しました(この辺りの経緯、紆余曲折も含め、上掲の回でご紹介しています)。

今回は「ユリシーズ」が旗艦として率いた第14護衛空母戦隊の構成艦のモデルがほぼ揃ったので、そのご紹介、そう言うお話です。

 

まず、第14護衛空母戦隊の各艦のご紹介の前に、「ユリシーズ」のおさらいを。

防空巡洋艦ユリシーズ

完成したモデルがこちら。

(直上の写真は、防空巡洋艦ユリシーズ」の概観:123mm in 1:1250 by Neptunモデルをベースにしたセミ・スクラッチ:「アリシューザ級」がベースなので寸法は同じです。そしてユリシーズ」の主要兵装配置の拡大を下の写真でご紹介しています:艦首部に5.25インチ連装両用砲塔2基、艦橋脇に対空機関砲座(写真上段):艦中央部にポンポン砲砲座3基と魚卵発射管(写真中段):艦尾部に5.25インチ連装両用砲塔2基:基本的な主要兵装は「ベローナ級」に準じています)

小説ではあまり建造経緯については詳細に説明されてはいないのですが、設定では同艦は「ダイドー級防空巡洋艦とその改良型である「ベローナ級」防空巡洋艦の間に一隻だけ建造されたことになっていて同型艦がないとされています。本稿ではその建造経緯を以下のように創作してご紹介(「アリシューザ級」に艦型が酷似していることの「こじつけ」をしたかっただけなのですが)しています。

「英海軍は航空機攻撃の脅威に備えるために「アリシューザ級」軽巡洋艦の設計をベースとした「ダイドー級防空巡洋艦11隻の建造に着手しましたが、同時に同種の船団護衛部隊の中核艦の切実な必要性を考慮して、当時建造予定だった「アリシューザ級」軽巡洋艦の5番艦の防空巡洋艦への転用を決定しました。こうして防空巡洋艦ユリシーズ」は同型艦をもたない巡洋艦として1隻だけ誕生しました」(繰り返しですが、「架空艦」のお話ですので、ご注意を)

 

ベースとなった「アリシューザ級」軽巡洋艦

そもそも今回のセミ・スクラッチ制作で「ユリシーズ」のベースとなった「アリシューザ級」軽巡洋艦は、前級「パース級」軽巡洋艦の主砲塔を1基減じて、それに合わせて5000トン級に縮小した船体に、出力を減じた機関を搭載することで経済性を求めた設計となっています。

(「アリシューザ級」軽巡洋艦の概観:123mm in 1:1250 by Neptune

同艦の設計は、艦型の小型化と武装の軽減により、英海軍の重要な任務である広範囲な連邦領・植民地や通商路の警備・保護に必要な軽快な機動性を持つ軽巡洋艦の隻数を揃える試みの一つでした。広大な通商路の警備に必要な巡洋艦の理想的な理論値は一説では70隻と言われていますが、未だに第一次世界大戦の痛手の癒えない財政はとてもこれを賄えるような状況ではなく、一方で大量に保有する第一次世界大戦型の旧式軽巡洋艦(C級、D級)を廃棄処分し、これをいかに置き換えてゆくか、条約の保有枠の制限と、疲弊した経済の両面から、当時の英国の苦悩が現れた艦級の一つと言ってもいいでしょう。

船体の小型化により、生存性はやや低下しましたが、速力は前級と同レベルを維持し、ある程度の戦闘力を持ち高い居住性と航洋性を兼ね備えた、通商路保護の本来の軽巡洋艦の目的に沿った手堅い設計の艦だったと言えるでしょう。

折からやはり軍縮条約の制限を意識した日米海軍は奇しくも制限枠に達しこれ以上新造艦を建造できない重巡洋艦に代わり、重巡洋艦とも対峙できる大型重装備の軽巡洋艦の建造(6インチ砲15門装備)に指向しており、これと対比すると同級の非力さは否めず(6インチ砲6門装備)、平時向けの巡洋艦、という評価も受け入れざるを得ない状況でした。

そもそも艦型縮小により隻数をそろえると言う目的に対しては、同様の試みが英海軍の最後の重巡洋艦となった「ヨーク級」でも行われたのですが、スペックを抑え上記のように生存性をやや低下させながらも期待ほどの経済効果(建造費の圧縮)が得られず、同級も4隻で建造が打ち切られ、建造途上の5番艦の船体は整備が急がれた防空巡洋艦に転用されました。(と、ここで強引に「ユリシーズ」と結びつけている訳です。下の写真は「アリシューザ級」と「ユリシーズ」の差異を比較しています)

セミ・スクラッチ:模型製作の話 1)主砲の換装:これは今回の改造の目玉となる重要な部分です。6インチ連装砲塔3基を撤去し、砲塔基部を活かして5.25インチ連装両用砲塔4基を設置しています。3番砲塔の位置にはもともと砲塔がありませんでしたので、基部らしき造作を加えています。搭載した5.25インチ連装両用砲塔はAtlas社製「プリンス・オブ・ウェールズ」から転用しています。このモデルはプラスティックと金属で構成されているモデルで、価格も手頃でパーツ取りモデルとしては大変優秀だと思い、重宝しています。5.25インチ連装両用砲塔のフォルムは特徴をよく捉えていると思っているのですが、何故か8基ある砲塔の大きさが揃っていません。今回は複数のモデルから大きさの揃っているものをチョイスして搭載しています。(上掲の写真の上段と下段:左が「アリシューザ級」)

2)艦中央部、航空艤装用クレーン・カタパルトの撤去と中央ポンポン砲砲座の設置。基部からパーツをカットし、ヤスリで平坦にして、その上にこれもAtlas社製の「フッド」から基部付きのポンポン砲を転用しています。高さなどは適当に調整してあります。この位置は、ほぼ原作通り(ハヤカワ文庫版「女王陛下のユリシーズ号」にはこの小説の戦闘航海の航路図と「ユリシーズ」の艦内配置図が掲載されています。今回の制作にあたってはこれを参考にさせていただいています)ですが、やや射界に問題はないのかな、などと考えています。砲座が艦の中央構造線上にあるので左右の射界はかなり広いのですが、前後は艦橋と後部煙突等が射界を遮ります。(写真中段:左が「アリシューザ級」)

3)艦後部、「アリシューザ級」が装備していた4インチ連装対空砲4基と後部探照灯台座等を撤去して後部対空砲射撃指揮所の設置及び指揮所両脇に後部ポンポン砲砲座を設置しています。少し後部上構の基部を整形してあります。撤去後はヤスリで平坦に仕上げてその上に対空砲射撃指揮所らしきものをストックパーツから転用しています。(写真下段:左が「アリシューザ級」))

 

原作に登場する「ユリシーズ」との相違点

「アリシューザ級」をベースにし今回筆者が制作した「ユリシーズ」と原作に記載されているスペックの相違点は以下の通りです。

まず、全長が筆者制作版の方が少し短い。原作では前述のように全長510フィート(155.5m)であるのに対し、「アリシューザ級」をベースにした筆者版は506フィート(154.2m)となりました。加えて現作では3基のポンポン砲は艦橋前、艦中央部、3番砲塔前と、間の中央線に沿って配置されていることになっています。(下の艦内配置図(ハヤカワ文庫版掲載)を参照してください)

筆者版では3基と言う装備数は同一ながら、艦橋前は設置スペースが捻出できず、艦中央部(「アリシューザ級」ではカタパルト台の位置)と後橋の両脇の配置となっています。更に、筆者版では艦橋前の近接防空兵装が手薄に思われたので、単装機関砲2基を増設してあります。

(下の写真:筆者版「ユリシーズ」の原作版と異なる武装配置の拡大:2番主砲塔後ろに対空機関砲座を増設(写真上段):後橋周りに配置されたポンポン砲砲座(写真下段)

 

少し長い前置き(おさらい)になりましたが、いよいよ本論の第14護衛空母戦隊(the 14th Aircraft Squadron)のお話を。

 

第14護衛空母戦隊(the 14th Aircraft Squadron)

小説に登場する第14護衛空母戦隊は、護衛空母4隻、防空巡洋艦1隻(ユリシーズ)、旧式軽巡洋艦1隻、艦隊駆逐艦1隻、小型駆逐艦1隻、旧式駆逐艦3隻、フリゲート艦1隻、旧式スループ1隻、艦隊随伴掃海艇1隻、計14隻で構成されている護衛艦部隊で、18隻の輸送船団FR77(貨物船15隻、タンカー3隻)を護衛する任務に出撃します。小説では出撃前の日曜日から目的地に到着した翌週の日曜日までの航海と戦いが描かれています。

同戦隊は月曜日の午後にスカパ・フローを出撃し、水曜日の朝ハリファックスからやってきたFR77船団とアイスランド沖で合流しその護衛任務につくのですが、船団と合流するまでに、すでに6隻が損傷或いは損傷艦の護衛随伴で戦隊を離れ、スカパ・フローに帰投しています。以降も損害を重ね目的地ムルマンスクに辿り着いたのは護衛部隊(第14護衛空母戦隊)では損傷を負った艦隊駆逐艦1隻のみ、FR 77輸送船団では貨物船3隻とタンカー1隻、という惨憺たる結果でした。

小説に登場する第14護衛空母戦隊を以下にご紹介します。

 

防空巡洋艦ユリシーズ

同艦については、もうあまり紹介の必要はないかと。

戦隊旗艦でしたが、小説内では度重なる損傷で満身創痍になり、日曜日の戦いで沈んでしまいます。

防空巡洋艦ユリシーズ」の概観:123mm in 1:1250 by Neptunをベースとしたセミ・スクラッチ

 

軽巡洋艦スターリング」:「シアリーズ級」軽巡洋艦

第一次世界大戦型の旧式軽巡洋艦「シアリーズ級」の一隻とされています。

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(直上の写真:「シアリーズ級」軽巡洋艦の概観 109mm in 1:1250 by Navis) 

同級は第一次世界大戦期に就役した「C級軽巡洋艦」のサブグループで、艦名は全て「C」で始まるはずなのですが・・・(「スターリング」は”Staring"すなわち”S"で始まっています)。

同級のうち3隻は第二次世界大戦前にいち早く主砲を対空砲に換装し防空巡洋艦の「はしり」となった艦級でもありますが、小説に登場するスターリング」は「6インチ単装砲を5基装備」と記述されており、防空巡洋艦への改装を受けていないことがわかります。

小説内ではスターリング」はドイツ空軍の雷撃を受け損傷し、さらに受けた爆撃により日曜日の朝に沈んでいます。

 

「シアリーズ級」の防空巡洋艦への改装

ちなみに「シアリーズ級」軽巡洋艦は前述のように同級のうち3隻が、第二次世界大戦前に、早くも主兵装を高角砲に換装し、防空巡洋艦として参加しています。主砲を全て高角砲に換装し、艦隊防空を担わせる専任艦種を整備する、という構想に、第二次世界大戦まえに発想が至っていた、というのはある種驚きですね。

同級で防空巡洋艦への改装を受けた3隻のうち「コベントリー(Coventry)」と「カーリュー(Curlew)」は4インチ単装高角砲(QF 4 inch Mk V gun)10基をその主兵装として改装されました。

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(上の写真は防空巡洋艦へ改造された「コベントリー」の概観:108mm in 1:1250 by Argonait:下の写真では「コベントリー」の単装対空砲の配置をご覧いただけます。艦首部に2基(写真上段)、艦中央部に4基(写真中段)、艦尾部に4基(写真下段)が配置されていました)

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一方「キュラソー(Curacoa)」は4インチ連装高角砲(QF 4 inch Mk XVI gun)4基を主兵装として改装されました。

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今回はこの「キュラソー」をNavis製のモデルをベースにセミ・スクラッチしたものをご紹介。

f:id:fw688i:20210502143213j:image(上下の写真は、防空巡洋艦に改装後の「キュラソー(Curacoa)」:同級は3隻が防空巡洋艦に改装されていますが、「キュラソー」が改装時期が最も遅く、他の2艦が4インチ単装高角砲(QF 4 inch Mk V gun)10基を搭載していたのに対し、同艦のみ4インチ連装高角砲(QF 4 inch Mk XVI gun)を4基搭載しています。1番砲、3番砲、4番砲、5番砲が連装高角砲に換装されました。2番砲座にはポンポン砲が設置されました)

防空巡洋艦として就役した3隻はいずれも大戦中に失われています。

 

護衛空母ディフェンダー」・「インヴェイダー」・「ブルー・レインジャー」・「レスラー」:「アタッカー級」護衛空母

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(「アタッカー級」=ボーグ級」護衛空母の概観:119mm in 1:1250 by Neptun)

「ボーグ級」護衛空母は英海軍では「アタッカー級」護衛空母と呼ばれました。24機の搭載機を持ち、船団の周辺哨戒の活躍しました。

レンドリース法で米国から貸与された設定ですが、「レスラー」のみ二軸推進とわざわざ記述があります。「アタッカー級」は一軸推進で、二軸推進は次級の「サンガモン級」なのですが、こちらは英国に貸与されていません。

英海軍の「ニ軸推進の護衛空母」となると英海軍が独自に商船を改造した「ナイラナ級」もしくは「オーダシティ」「アクティヴィティ」などになります。

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(写真は「アクティヴィティ」(上段)と「ナイラナ級」の3D モデル from Shapeways:「アゥティヴィティ」125mm, 「ナイラナ級」129mm:   モデル未入手です)

第14護衛空母戦隊はその名の通り、4隻の護衛空母とその艦載機という強力な空中哨戒能力を誇る戦隊でした。しかし、4隻の空母のうちまず「インヴェイダー」が月曜日の夜に浮遊機雷に触雷して艦首を大破し戦隊から離脱、続いてディフェンダーが火曜日に酷い波浪で飛行甲板が捲れ上がるほどの損傷を負い、やはりスカパ・フローへの帰途につきました。さらに水曜日の夜には「レスラー」(例の艦級不明のニ軸推進艦です)が操舵装置の故障により座礁し脱落、スカパ・フローに引き返しました。

唯一残っていた「ブルー・レインジャー」でしたが、水曜日の夜、雷撃を受け撃沈されてしまいました。こうして、第14護衛空母戦隊は水曜日の夜には全ての護衛空母を失ってしまったのでした。

 

艦隊駆逐艦「サイラス」:「S級」駆逐艦

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(「S級」駆逐艦とほぼ同一の外観の「Q級駆逐艦の概観:87mm in 1:1250 by Argonaut:艦首、艦橋、単装放課の形状等、「S級」とは異なっています:下の写真は「Q級」の兵装配置等、細部の拡大)

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同級は1940年次の戦時急造予算で建造された英海軍の最新鋭駆逐艦です。ほぼ「Q級駆逐艦の基本スペックを受け継いでおり、8隻が建造されました。1650トン級の船体を持ち、37ノット弱の高速を発揮することができました。英海軍は対空戦闘の必要性を早くから認識しており同級にも両用砲の搭載が検討されましたが、重量増から生じるトップヘビーが懸念され、結局従来の4.7インチ単装砲が主砲として採用されました。しかし砲架を新型のものに変更し、仰角を55度として対空戦闘への対応力を高めています。また、近接対空兵装としては連装40mm機関砲を採用しています。

「サイラス」は潜水艦に雷撃された貨物船の乗組員の救護の途中、この貨物船と衝突し舷側を大きく削られる損傷を受けました。しかしその後も救護活動等を継続し、護衛戦隊中、唯一、目的地ムルマンスクに到着しました。

 

旧式駆逐艦「ヴェクトラ」:第一次大戦型の「V級駆逐艦

旧式駆逐艦ヴァイキング」:第一次大戦型の「W級」駆逐艦の対空・対潜戦闘対応への改良型

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 (「V/W級」駆逐艦の概観:写真は「アドミラルティV級」だと思われます:75mm in 1:1250 by Navis)

「V/W級」駆逐艦は、英海軍が第一次世界大戦中に建造した駆逐艦の艦級で、艦名がVまたはWで始まっているところから「V/W級」と総称されています。

同級はドイツ帝国海軍が建造中の大型駆逐艦・大型水雷艇への対抗上から、大型・重武装駆逐艦として設計されました。従来の英駆逐艦の基本装備であった40口径4インチ(10.2cm)砲3門を強化し45口径4インチ(10.2cm)4門とし、さらに連装魚雷発射管2基の標準装備を3連装発射管2基搭載へと、魚雷射線の強化も行われました。(実際には3連装発射管の製造が間に合わず、当初は連装発射管を搭載し就役し、後に三連装に換装されています)

「V/W級」と総称されますが実は大別して下記の5つのサブ・クラス(おお大好きなサブ・クラス!)に分類されます。

アドミラルティV級(28隻:大戦に間に合ったのは25隻)

アドミラルティW級(19隻)

ソーニクロフトV/W級(4隻)

ソーニクロフト改W級(2隻)

アドミラルティ改W級(14隻)

さらに「改W級」では搭載主砲を45口径4インチ(10.2cm)から45口径12センチに強化しています。

(直上の写真は「V級」の主要武装等の拡大:艦首部・艦尾部に背負い式に主砲(45口径4インチ単装砲)を配置し、3連装魚雷発射管を2基、艦の中央部に搭載しています。艦のほぼ中央部に3インチ対空砲を搭載しています(写真中段))

武装の強化に伴い艦型は大型化(1100トン級)しましたが、機関の見直しは行われなかったため、速力は前級の36ノットから34ノットに低下しています。しかしソーニクロフト社製の「改W級」では機関の強化も併せて行われ36ノットの速力を発揮しています。

就役は1918年からで、この年の11月に第一次世界大戦終結したことから、奇しくも第一次世界大戦型の駆逐艦の最終形となりました。

大戦終結後、英海軍は疲弊した国力と、大戦期中に膨大に膨れ上がった大量の艦船の整理に追われるわけですが、最も艦齢の若い同級は多くが残置され、第二次世界大戦でも活用されました。

機雷敷設駆逐艦への改造

V級」の一部の艦は、魚雷発射管の連装から3連装への換装を行う代わりに、連装発射管1基を撤去し、さらに主砲1基も撤去、艦尾形状を整形すると共に機雷敷設軌条を設置して、60基程度の機雷敷設能力を持つ敷設駆逐艦に改造されています。f:id:fw688i:20210515173543j:image

 (「V級駆逐艦のヴァリエーション機雷敷設駆逐艦の概観 by Navis:下の写真は、「機雷敷設駆逐艦」に改装された艦の細部の拡大:艦首部の主砲配置は変わらず、魚雷発射管は連装のまま1基のみ搭載、艦尾部は主砲1基を撤去して艦尾形状を機雷敷設軌条等の張り出しを追加しています )

 

第二次世界大戦時:護衛駆逐艦」への改造

第一次世界大戦駆逐艦としては最も艦齢が若かった「V/W級」は、一部(4隻?)がオーストラリア海軍に供与された他、本稿でも「巡洋艦」の回に見て来たように航空機や潜水艦の脅威の増大を見越して、通商路保護の役割を担う「護衛駆逐艦」への改装に充当されます。

WAIR改修艦(14隻・15隻?)

本稿前回・前々回で見たように、航空機の脅威に備えて英海軍は「C級」巡洋艦の数隻を防空艦へと改装しました。WAIR改修は、それと同趣旨で「V/W級」駆逐艦に長射程の対空砲を搭載し、併せて対潜兵装も強化して船団護衛の要として活用しようとする狙いでした。

 (「V/W級」WAIR改修型駆逐艦の概観 by Argonaut:下の写真は、WAIR改修型の主要武装の拡大:艦首・艦尾に4インチ連装高角砲(QF 4 inch Mk XVI gun)を各1基搭載。魚雷発射管は全て撤去され、対空火器が強化されています。艦尾部には爆雷投射機と投射軌条が搭載され、対潜能力が強化されています)

改修対象となった艦は全ての主砲・魚雷発射管を撤去し、代わりに4インチ連装高角砲(QF 4 inch Mk XVI gun)2基を搭載、他にも対空機関砲を増設した上で、対潜装備として爆雷投射機、投射軌条を搭載する他、後にはレーダーやソナーなどを装備しています。en.wikipedia.org

主要兵装となった4インチ連装対空砲は、「C級」巡洋艦を改装した防空巡洋艦などにも搭載されていた対空砲で、80度の仰角で11800m、45度の仰角で18000mの範囲をカバすることができました。

***さて、ちょっとこぼれ話。名称の「WAIR」が何に基づくものか、今でははっきりしないようです。「W級」の「対空化(ant-AIRcraft)」ではないか、という説も。

長距離護衛駆逐艦への改装(21隻)

「V/W級」に限らず、「艦隊駆逐艦」は高速をその特徴の一つとするため、実はあまり長い航続距離を持たせる設計にはなっていません。しかし、通商路の保護には経済性を持つ商船で構成される低速の船団の航行に合わせた長い航続距離が必要で、「V/W級」の一部はこれに適応するような改装を受けています。

具体的には機関の一部を撤去し、そのスペースに燃料タンクと居住区画を増設し長い航続距離の獲得と、乗員の居住性を向上させました。当然、速力は落ちましたが、対潜警戒用のソナーの運用等を考慮するとかえって20ノット以上では支障が生じるなどの要件もあり、この目的では25ノット程度の速力があれば十分だったということです。

兵装は主砲を2基減らせて、ヘッジホッグや爆雷投射機・投射軌条を搭載し対潜兵装を充実させ、さらに対空砲・対空機銃等を強化しています。

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(「V/W級」改造長距離護衛駆逐艦の概観 by メーカーは不明:下の写真は、長距離護衛駆逐艦型の主要武装の拡大:艦首1番主砲が撤去されヘッジホッグに換装されています(上段写真)。主砲は45口径4.7インチ(12cm)単装砲を、艦首・艦尾に1基づつ搭載しています。機関搭載数を減らしたため煙突が一本に。魚雷発射管は全て撤去され、4インチ単装高角砲が搭載されています(中段写真)。艦尾部には爆雷投射機と投射軌条が搭載され、対潜能力が強化されています)

「ヴェクトラ」ヴァイキングに関しては、「それぞれV級、W級駆逐艦の改造ニ軸艦で、速力と火力において劣るため、今や老朽の部類に入れられていたが、強靭性と耐久性は無類だった」(早川文庫版村上博基氏訳を引用させていただいています)と言う記述が小説の冒頭部にあります。同級は第一次世界大戦型とは言いながら艦齢が他のクラスよりも若く、多くが第二次世界大戦期にも補助戦力として大いに活用されていました。その多くが艦隊随伴駆逐艦から護衛任務に適性が出るように改造を受けています。上述の「長距離護衛駆逐艦」への改造を受けた21隻は、上述のように機関の一部を撤去し、そのスペースに燃料タンクと居住区画を増設し長い航続距離の獲得と、乗員の居住性を向上させています。主砲も2基をヘッジホッグや爆雷投射機に換装され、船団護衛、対潜戦闘への適性を高めています。

「ヴェクトラ」は土曜日のUボートとの戦闘で砲撃戦のすえUボートを潜航不能に陥れ、浮上した敵潜水艦に体当たりを試みますが、その際に何かが大爆発して、敵潜水艦共に沈んでしまいました。おそらくは体当たりの衝撃でUボートの艦首に搭載された魚雷が爆発し、これに「ヴェクトラ」の艦首の主砲弾薬が誘爆を起こしたのではなかろうか、と記述されています。この一連の戦闘について4.7インチ砲の発射が記述されているので、WAIR改修艦ではなさそうであることがわかります(WAIR改修艦は4インチ連装高角砲を主砲としています)。おそらくは「長距離護衛駆逐艦」への改造艦ではないかと。

ヴァイキングの最後ははっきりとは描かれていません。「告げる生存者がいないから、誰も知らない」と。

 

小型駆逐艦「バリオール」:「ハント級駆逐艦

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(「ハント級駆逐艦の概観:68mm in 1:1250 by Argonaut:モデルは1型です。対空兵装を強化した2型、雷装を搭載した3型など、ヴァリエーションがあります。下の写真は「ハント級」の兵装配置等、細部の拡大)

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同級は戦時急造を想定した1000トン級の小型駆逐艦で魚雷装備は持たず、対空・対潜戦闘に特化した武装をしていました。4インチ連装対空砲を2基乃至3基搭載し、爆雷投射器を装備していました。

27ノット程度の速力を有していました。

「バリオール」は月曜日の夜に触雷して損傷した護衛空母「インヴェイダー」を護衛して、スカパ・フローに帰投し、戦隊を離れています。

 

旧式駆逐艦「ポート・パトリック」:「タウン級駆逐艦

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(「タウン級駆逐艦の概観:77mm in 1:1250 by Argonaut:小説に登場する「ポート・パトリック」の兵装については、記述がありませんので、確証はないのですが、この写真ほどの充実はなかったのではないかと思います)

同級は米国との間で交わされた「駆逐艦・基地協定」に基づきバハマ基地等との引き換えで米海軍より譲渡された旧式駆逐艦です。米海軍の艦級としては「コールドウェル級」「ウィックス級」「クレムソン級」の3艦級を含んでいましたが、英海軍では「タウン級」と言う総称で一括りにされています。「タウン級」と言う名称の由来は、艦名に米国・英連邦の双方に存在する町の名前をつkwtwところから来ています(一部はカナダ海軍に譲渡されましたが、カナダ海軍では米国とカナダの双方にある川の名前を艦名としています)。

1000トン級の船体に4インチ砲3基、3連装魚雷発射管2基を装備し、30ノットの速力を出すことができました。

しかし、既に老朽化が進んでおり、かつ艦型が極端に細長く横揺れが酷かったため居住性は劣悪で、あまり乗組員には好まれませんでした。「女王陛下のユリシーズ号」でも姉妹艦が強風下で転覆した例を挙げ、天候が悪化する都度、転覆が心配されるような艦、と記述されています。

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(上の写真は「タウン級」の船団護衛兵装(対空・対潜)拡充時の兵装配置等、細部の拡大。このモデルは米海軍で護衛・警備任務に改装された姿、です。この兵装なら、本文中ほどの酷い記述はないかと。もう少し原型に近いモデルの方が「頼りなさ」がわかってもらえましたかね)

「ポート・パトリック」悪天候で飛行甲板を損傷した護衛空母ディフェンダー」を護衛して、スカパ・フローに帰投しています。

 

フリゲート「ネイアン」:「リバー級」フリゲート

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(「リバー級」フリゲートの概観:72mm in 1:1250 by Argonaut:他の護衛艦に比べ、量産を想定した民間造船所での建造を意識した商船規格での少しぽっちゃりした艦型がよくわかるかと)

同級は1942年から就役し始めた外洋航行への適性を考慮して設計された船団護衛専任艦で、就役当初は「高速コルベット」「二軸コルベット」と呼ばれていました。民間造船所での建造を想定し商船規格の1300トン級の船体に、4インチ単装砲2基と複数の対空機関砲、ヘッジホッグや爆雷投射器を装備した対空・対潜戦闘に特化した護衛艦でした。142隻が建造されました。

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(上の写真は「リバー級」の兵装配置等、細部の拡大。船団護衛専任艦らしく対潜装備が充実しています)

「ネイアン」は艦首を触雷で損傷した護衛空母「インヴェイダー」を護衛して、前出の「バリオール」と共にスカパ・フローに帰投しています。

 

スループ「ガネット」:「キングフィッシャー級」スループ

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(「キングフィッシャー級」スループの概観:58mm in 1:1250 by Argonaut)

同級はワシントン・ロンドン海軍軍縮体制下で、制約を受けない艦種として整備が期待された沿岸スループという沿岸むけの護衛・警備艦種でした。500トン級の小さな艦体に4インチ単装砲、対空機銃、対潜装備を搭載した艦級で、20ノットの速力を出すことができました。

量産性、航洋性の観点から、戦時急造の護衛艦としては民間でも造船可能な捕鯨船をベースとした「フラワー級コルベットに生産が集中されたため、10隻の建造に留まりました。

「ガネット」は「もっぱら沿岸任務にあたるべき艦」と記載され、「相当な時代物」と紹介されています。悪天候で飛行甲板を損傷した護衛空母ディフェンダー」を「ポート・パトリック」とともに護衛して、スカパ・フローに帰投しています。

 

艦隊掃海艇「イーガー」艦級の明示は小説内ではありません

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(「ハルシオン級」掃海艇の概観:60mm in 1:1250 by Argonaut)

小説中には「艦隊随伴掃海艇」と記述があるだけで、艦級や兵装についての記述は見当たりません。

北極海へ進路をとる輸送船団を想定し、英海軍の艦隊随伴掃海艇の中では大きなものをあげてみました。「ハルシオン級」掃海艇は850トン級の掃海艇としては比較的大きな船体を持ち、16−17ノットの速度を出すことができました。実際に北極圏の多くの船団護衛に帯同し、本来の掃海任務(進路開削)と対潜任務をこなしています。敵前での掃海等を想定したため、比較的強力な兵装を有しています。f:id:fw688i:20220619102005p:image

(上の写真は「ハルシオン級」の兵装配置等、細部の拡大。同級は掃海スループとも呼ばれ、「フラワー級」などの対潜専任艦種が充実する前は、船団護衛任務にはしばしば帯同しています)

「イーガー」護衛空母「レスラー」が操舵装置を故障し座礁した際に、これを護衛して取り残されました。のちに旗艦「ユリシーズ」が「レスラー」の座礁地点に引き返し「イーガー」と共に「レスラー」を曳航し離礁させました。その後、「イーガー」は操舵装置を損傷した「レスラー」を護衛してスカパ・フローに引き返しています。

 

以上14隻。

まとめておくと、

戦闘で失われたもの:護衛空母1隻(ブルー・レインジャー)、防空巡洋艦1隻(ユリシーズ)、旧式軽巡洋艦1隻(スターリング)、旧式艦隊駆逐艦2隻(ヴェクトラ、ヴァイキング

損傷を受け引き返したもの:護衛空母3隻(触雷:インヴェイダー、天候による損傷:ディフェンダー、故障による座礁:レスラー)

損傷艦の護衛として引き返したもの:艦隊随伴掃海艇1隻(イーガー)、小型駆逐艦1隻(バリオール)、旧式駆逐艦1隻(ポート・パトリック)、スループ1隻(ガネット)、フリゲート1隻(ネイアン)

損傷した駆逐艦「サイラス」のみが目的地に辿り着きました。

 

第14護衛空母戦隊の水上戦闘艦の一覧

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(第14護衛空母戦隊の空母以外の艦艇の一覧を。まず上の写真では戦隊の中核をなす2隻の巡洋艦と大きさの比較のために駆逐艦「サイラス」(実際には「Q級駆逐艦ですが)を比較:手前から駆逐艦「サイラス」、軽巡洋艦スターリング」、防空巡洋艦ユリシーズ」の順)


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(上の写真では戦隊の駆逐艦他の艦型・大きさ比較:手前から掃海スループ「イーガー」、スループ「ガネット」、フリゲート「ネイアン」、小型駆逐艦「バリオール」、米国からの譲渡駆逐艦「ポート・パトリック」、旧式駆逐艦改造護衛艦ヴァイキング」、同「ヴェクトラ」、艦隊駆逐艦「サイラス」の順)

こうやって改めて見ると、この戦隊はいわゆる船団直衛の戦力としては、かなり充実していますね。やや対潜装備に偏っているような気はしますが、本来はそこ=対空は4隻の護衛空母が賄うはずだったんでしょうね。4隻で少なく見積もっても80機程度の艦載機は保有していたはずで、そのうち30機程度は護衛戦闘機だったでしょうから。これが早々に失われた(1隻が撃沈され、3隻が損傷で離脱)のが痛かった、ということでしょう。護衛艦艇大好きな筆者としては、今回は大変充実していました。

 

というわけで、今回はここまで。

 

次回はフランス海軍艦艇の続きで、同海軍の弩級戦艦以降の開発のお話にしましょうか?

 もし、「こんな企画できるか?」のようなアイディアがあれば、是非、お知らせください。

 

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