相州の、ほぼ週刊、1:1250 Scale 艦船模型ブログ

1:1250スケールの艦船模型コレクションをご紹介。実在艦から未成艦、架空艦まで、系統的な紹介を目指します。

英海軍の航洋型装甲艦開発事情(その1):舷側砲門式装甲艦から中央砲郭式装甲艦

今回は前回・前々回のフランス海軍の航洋型装甲艦の発達系譜の話の流れで、当時の最強海軍だった英海軍の航洋型装甲艦事情に、少し触れておきます。

少し、と言ったのは、英海軍にとってもこの時期は、列強海軍の例にもれず、航洋型主力艦のあり方についての模索期でもあったため、実に多くの設計を世に送り出しており、とてもモデルコレクションでは追いきれない、と言うほどの意味です。

では、どれだけの設計が世に問われたか、それをまとめてくれているのが、下記の投稿です。

en.wikipedia.org

この種の情報はコレクターにとっては実に嬉しい投稿で、この一覧を少しづつ埋めてゆくのがコレクションの醍醐味、と言っていいかと考えるのですが、とは言え、ご覧の通り数が多く、正直言って手に負えない感がしています。幾つの艦級が掲載されているんだよ、と数えてみると、「航洋型装甲艦(see-going ironclads)」だけで32艦級、とこの投稿では紹介されています。

これを「航洋型装甲艦」の発達系譜的に少し乱暴にまとめておくと、最初に登場するのが「舷側砲門式装甲艦(broadside ironclads)」で、上掲の投稿ではこれが1860年頃から65年の間に8艦級16隻就役しています。これに続いて世に問われたのが「中央砲郭式装甲艦(central-battery ironclads)」で、1864年頃から1880年ごろにかけて13艦級18隻が建造されました。

次いで「砲塔式装甲艦(turret ships)」が現れ、やがて近代戦艦(前弩級戦艦)へと発展してゆくのですが、本稿で少し前の回でご紹介しているように「砲塔式装甲艦」については、現在網羅的にモデル制作を行なっていますので、いずれはご紹介できるかと考えています。

そこで、今回はそれ以前の二型式について、手元にあるモデルを中心にご紹介してみたいと思っています。

 

舷側砲門式装甲艦:broadside ironclads(8級16隻:1861-1865ごろ)

英海軍は1860年にフランス海軍が世界初の航洋型蒸気機関装甲艦「グルワール」を就役させ、相次いで同種の艦を建造したことに刺激を受けて、舷側砲門式装甲艦を8クラス16隻建造します。大別すると10000トン前後の大きな船体を持ち、高速、重装甲、重武装の艦隊主力艦(木造艦隊では戦列艦的な存在)と、6000トン強の大きさの船体を持つ装甲フリゲート艦の2種が設計されました。

艦級名(完成or就役年次)   排水量(ton)
Warrior-class broadside ironclads 9,137
  Warrior (1860)  
  Black Prince (1861)  
Defence-class broadside ironclads 6,170
  Defence (1861)   
  Resistance (1861)   
Hector-class broadside ironclads 7,000
  Hector (1862)   
  Valiant (1863)   
Achilles (1863) broadside ironclad  9,820
Minotaur-class broadside ironclads 10,627
  Minotaur (1863)   
  Agincourt (1865)  
  Northumberland (1866)   
Prince Consort-class broadside ironclads 6,832
  Prince Consort (1862)  
  Caledonia (1862)  
  Ocean (1862)   
Royal Oak (1862) broadside ironclad  6,366
Lord Clyde-class broadside ironclads 7,842
  Lord Clyde (1864)  
  Lord Warden (1865)   

これらの艦はそれまでの艦艇の艦砲搭載様式を踏襲した設計ではあったのですが、1866年のリッサ海戦で舷側砲門式装甲艦(舷側に等間隔で火砲を搭載する形式)の搭載できる大きさの艦砲の特に装甲艦に対する威力不足が露呈すると、大口径艦砲の搭載への模索が始まり、この舷側砲門式という形式は建造されなくなってゆきます。

 

「ウォーリア級」装甲艦(1861年から就役:同型艦2隻)

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(「ウォーリア級」装甲艦の概観 by Triton:モデルは未保有:写真は例によってsammelhafen.deから拝借しています)

同級のモデルは保有していないのですが、英海軍の航洋型装甲艦の第一号と言うことで少し触れておきます。同級の少し前にフランス海軍が世界初の航洋型装甲艦(フランス海軍の呼称は「装甲フリゲート艦」でした)「グロワール」を就役させました。同級はその対抗措置として収益を急いだのですが、「グロワール」がいわゆる木造鉄皮の木造船に装甲を貼った形態であったのに対し、同級は鉄製の船体を有し、その上に主要部に装甲を張った形態でした。就役時は世界最大で、「新時代の戦艦」と言われていました。

「グロワール」が5600トン級の船であったのに対し、同級は9000トンを超え、速力も機走のみで14ノット、機帆走併用の場合には17ノットの高速を発揮することができました。舷側にほぼ等間隔で砲門を開けた、いわゆる舷側砲門艦で、7.2インチ後装砲10門、8インチ前装砲26門と言う強力な火力を有していました。

 

装甲艦「アキリーズ」(1864年就役:同型艦なし)

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(装甲艦「アキリーズ」の概観:99mm in 1:1250 by Triton)

同艦は「ウォーリア級」装甲艦の改良型で、鉄製の船体に「ウォーリア級」では部分的だった装甲を水線部全体に張り巡らせた設計でした。9800トンの船体を持ち機走で14ノットの速力を出すことができました。

7インチ後装砲4門を艦首部と艦尾部に各2門づつ追撃砲として搭載し、100ポンド前装砲16門を両舷に8門づつ配置する典型的な舷側砲門形式の艦でした。

(装甲艦「アキリーズ」の舷側砲門の拡大:「アキリーズ」の砲門は船体の中央部に等間隔で並んでいました)

 

「マイノーター級」装甲艦(1863年から就役:同型艦3隻)

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(「マイノータ級」装甲艦の製作中のモデル:105mm in 1:1250 by Triton:これから塗装、マスト造作に入ります。完成したら写真は差し替えておきます)

同級は「アキリーズ」を拡大改良した艦級で、初めて10000トンを超えた大鑑でした。機帆併用を意識されていた就役当初は5檣(5本マスト)を有する設計でした。武装は9インチ前装式ライフル砲4門と7インチ前装砲24門を搭載してました。いずれも前装砲というのが、やや武装としては後退しているような気がするのですが・・・。これも模索期にありがちな試み、ということでしょうか。

この時期の艦船に時折見られる特徴の一つですが、同級もまだまだ帆装に対する依存が高く(少なくとも精神的には?)煙突は伸縮式だったようです。

同級のネームシップ「マイノーター」は1887年まで長く海峡艦隊の旗艦を務めた後、1893年頃には3檣形態に改装されました。

 

中央砲郭式装甲艦:central-battery ironclads(13級18隻:1864年-1880年ごろ

前掲の舷側砲門式装甲艦は舷側に等間隔で砲門を開け艦砲を搭載する形式でしたが、この形式で搭載できる艦砲の大きさには限界があり、1866年のリッサ海戦で従来艦砲の装甲艦への威力不足が露呈すると、列強はより大口径、長砲身の艦砲の搭載方法を模索し始めます。艦砲の大型化は当然のことながら1門あたりの重量の飛躍的な増大を意味し、搭載数に限界が生じます。このため少数の強力な艦砲にできるだけ広い射界を確保する必要が発生します。さらに艦砲の強大化はその砲弾、および弾薬の強大化をも意味し、搭載と同時に、自艦の被弾時の誘爆に対する防御も考慮せねばならなくなります。

これらを両立させる方法として考案されたのが砲郭という考え方でした。

砲郭は重厚な装甲で覆われた一種の箱で、ここに艦砲を収容し、同時に強力な砲弾、火薬類などの弾薬庫も併せて収納して被弾に対する耐性を確保しようというものでした。

砲郭は艦砲・弾薬庫等の重量物の集積箇所でもあるため、必然的にその搭載配置は、ほぼ艦の中央部ということになり、これが中央砲郭式装甲艦(central-battery ironclads)という形式となり、一時期(ごく短期間ではありましたが)の主力艦(装甲艦)の設計の主流となりました。

英海軍も同様で13艦級18隻を建造しました。艦級の数と建造隻数に大差がないのは、同型鑑を持たない艦級が13艦級のうち11艦級に及ぶことを意味しており、いかにこの形式での試作的な設計が多かったかを物語っているように思います。

艦級名(完成or就役年次)   排水量(ton)
Royal Alfred (1864) central-battery ironclad 6,707
Research (1863) central-battery ironclad  1,200
Enterprise (1864) central-battery ironclad  1,350
Favorite (1864) central-battery ironclad  3,232
Zealous (1864) central-battery ironclad  6,096
Repulse (1868) central-battery ironclad  6,190
Pallas (1865) central-battery ironclad  3,362
Bellerophon (1865) central-battery ironclad  7,551
Penelope (1867) central-battery ironclad  4,394
Hercules (1868) central-battery ironclad  8,677
Audacious-class central-battery ironclads 6,106
  Audacious (1869)   
  Invincible (1869)   
  Iron Duke (1870)  
  Vanguard (1870)  
Swiftsure-class central-battery ironclads 6,910
  Swiftsure (1870)   
  Triumph (1870)   
  Sultan (1870)   
Superb (1875)  central battery ironclad 9,710

 

装甲艦「ペネロープ」(1867年就役:同型艦なし)

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(装甲艦「ペネロープ」の概観:70mm in 1:1250 by Triton)

同艦は1868年に英海軍が就役させた中央砲郭式装甲艦で、4400トン級の船体を持ち12ノットの速力を発揮できました。

中央砲郭には8門の8インチ前装式ライフル砲が収められ、その他に船首楼内に2門、船尾に1門の5インチ後装砲が搭載されていました。f:id:fw688i:20240616131223j:image

(写真は同艦の中央砲郭部の拡大:同艦の主砲は船体のほぼ中央部に設置された重厚な装甲で覆われた砲郭に収められていました。(写真のほぼ中央部))

砲郭には砲門が設けられ、大型化し搭載数に制限がある少数の主砲に広い射界を与えられるように工夫されていました。砲郭部の四隅にある砲門は艦首方向、艦尾方向への射撃が可能なように、斜めの切れ込みあることが一般的でした。この形式でも艦首尾方向に対しそれぞれ120度程度の死角がありました。

 

「オーディシャス級」装甲艦(1869年から就役:同型艦4隻)

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f:id:fw688i:20240616131519j:image
(「オーディシャス級」装甲艦の概観:71mm in 1:1250 by Triton)

同級は1869年から70年にかけて、遠隔地の基地での主力艦(二等戦艦)として4隻が建造されました。

6000トン級の船体を持ち13.5ノットの速度を発揮できました。

中央砲郭には9インチ砲10門が収められていました。その他に6インチ砲を艦首部に2門、艦尾に2門搭載していました。f:id:fw688i:20240616131517j:image

(写真は同艦の中央砲郭部の拡大:同艦の10門の主砲は船体のほぼ中央部に設置された重厚な装甲で覆われた砲郭に収められていました)

砲郭部の両舷に各5箇所の砲門が設けられ、四隅の砲門は艦首・艦尾向けに広い射界が確保されていました。その他に艦首楼内に2門、艦尾に2門、追撃砲を装備してました。

 

Triton社のモデルについて

コレクター的なコメントを少し。この時期のモデルをコレクションする際にはTriton社のラインナップは大変重要です。下はいつもお世話になっているsammelhafen.deでTriton社、英国(Great Britain)、1900年以前(before 1900)での検索結果です。

sammelhafen.de

上掲の「ペネロープ」「オーディシャス」次に掲載する「エンタープライズ」のモデルはいずれもTriton製のモデルです。オリジナル形態をそのまま組み立てたもので、特に帆装部分には特徴があります。同社の帆装部分は、筆者的には表現がややオーバーすぎるのではないかと思っていますので、前掲の「アキリーズ」では、オリジナルの帆装を真鍮線やロッドに置き換えています。

 

装甲スループ艦「エンタープライズ」(1864年就役:同型艦なし)

en.wikipedia.org

(装甲スループエンタープライズ」の概観:48mm in 1:1250 by Triton)

同艦は1350トンの装甲スループで、1864年に就役しました。

就役時には、厚さ19.5インチのチーク材で裏打ちされた4.5インチの装甲で囲われた中央砲郭に、9.2インチ前装式滑空砲2門と新式の7インチアームストロング後装ライフル砲2門を搭載していました。新式の後装ライフル砲は期待通りの性能を発揮できず砲尾爆発が度重なり、運用から外されました。

(装甲スループエンタープライズ」の中央砲郭部の拡大:4門の搭載砲に各舷4ヶ所の砲門が設けられていたようです)

1868年の改装時に砲は全て7インチ前装式ライフル砲に換装されました。

 

ということで、今回は英海軍の航洋型装甲艦の型式の変遷を保有するモデルをなぞって見てきましたが、これに続く砲塔式装甲艦については、そう遠くない時期にある程度網羅的にモデルのご紹介をしたいと思っています。

 

次回はお仕事の関係で週末を使うので、一週おやすみさせていただく予定です。

その後は、上述の英海軍の砲塔式装甲艦のモデルの完成形、或いは新着モデルをいくつかご紹介できればと思ってはいますが、作業時間等がやりくりできずにいる現状ですので、どうなるか。

 

もちろん、もし、「こんな企画できるか?」のようなアイディアがあれば、是非、お知らせください。

 

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