相州の、ほぼ週刊、1:1250 Scale 艦船模型ブログ

1:1250スケールの艦船模型コレクションをご紹介。実在艦から未成艦、架空艦まで、系統的な紹介を目指します。

フランス海軍 装甲艦の系譜(後編:艦隊装甲艦としての発展)

本稿前回では、19世紀後半の艦艇開発をリードしていたフランス海軍の装甲艦整備の始まり時期のお話をしました。

海軍主力艦の変遷を見ておくと、19世紀初頭には、舷側砲門をずらりと並べた「ナポレオン期」に全盛を迎えたいわゆる木造帆装戦列艦が海軍の主力でした。そして1850年代にこの木造戦列艦蒸気機関を搭載しスクリュー推進による木造機帆装戦列艦の建艦競争が始まります。そして蒸気機関の搭載により重い舷側装甲の装備が可能となり、世界初の航洋型装甲フリゲート「グロワール」が登場します。

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この舷側装甲の搭載は、一方でそれまでの艦載砲(艦砲)の威力不足を一気に露呈することになります。それまでの艦砲は射程が1000メートル程度の前装砲(先込め砲)で、照準も砲ごとの砲側照準であることもあって、蒸気機関を用いて自律的に移動する目標にはめったに当たらない代物でした。さらにこれが舷側装甲を装備した艦では、当たった砲弾すらはじき返されてしまう訳です。

この様な状況下で、史上初の航洋装甲艦で構成された艦隊同士の戦い、「リッサ海戦」が起きたのですが、この戦いで勝敗の決め手となったのが「衝角戦法」と言う装甲艦同士の文字通りの体当たり戦法であったと言うのは、ある意味「必然」であったと言っていいのかもしれません。

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この海戦の戦訓は、艦砲の大口径化、長砲身化(初速を高め弾道と貫徹力を高める)への指向に勢いをつけることになり、各列強はその搭載砲を大型化させてゆくことになります。

フランス海軍も同様で、装甲艦はそれまでの「装甲フリゲート艦(フリガイト・キュイラッセ)」から、艦砲を大型化した「艦隊装甲艦(キュイラッセ・デスカトーレル)」へと、進化してゆくのです。

 

砲郭式露砲塔装甲艦

7,580トン級:「オセアン(Ocean)級」艦隊装甲艦(1870年から就役:同型艦3隻)

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(上の写真は「オセアン級」艦隊装甲艦の概観:Wikipediaより拝借しています。パリ海軍博物館に演示された模型のようです。:1:1250スケールでは、Hai製のモデルがあるようですが、筆者はみたことがありませんし、かつ写真が見つけられていません)

同級はフランス海軍が初めて「艦隊装甲艦(キュイラッセ・デスカトーレル)」と言う艦種呼称を用いた装甲艦の艦級です。世界初の航洋型装甲艦と言われる「グロワール」から量産型の「プロヴァンス級」までの16隻の「装甲フリゲート艦(フリガイト・キュイラッセ)」と一線を画し、新たな呼称としたのは、搭載している艦砲が格段に強化されているところにあります。

船体は前級よりも大きな7600トン級となり、これに3460馬力の蒸気機関を搭載して13.5ノットの速力を発揮する設計でした。

同級の目玉である主砲としては、18口径27センチ単装砲4門と19口径24センチ砲4門が搭載され、他に14センチ単装砲8門が副砲として装備されていました。搭載方法はこれまでの舷側砲門方式ではなく砲郭式が取り入れられています。分厚い装甲で覆われた砲郭は艦の中央に八角形で設置され、上甲板の砲郭の4角のバーベット上にに24センチ単装砲が単装砲架で搭載されていました。それぞれの単装砲は人力で旋回でき、広い射界がが与えられていました。各バーベット上の単装砲架は基部のみ装甲で覆われた露砲塔でした。

バーベットの一段下の砲郭内には27センチ単装砲4門がレールに乗せた回転可能な砲架上に搭載されており、左右両舷に対し各5ヶ所に設けられた砲門から、砲撃が可能でした。この方式により、少ない搭載主砲を効率よく運用することができました。

(下の写真は、中央砲各部分の拡大:砲郭上の甲板部には4角にバベットが設けられ、24センチ砲が露砲塔で搭載されています。その下部が砲郭の主要部分で、ここに搭載された4門の27センチ砲は砲郭内に敷かれたレールに載せられ移動可能で、射撃砲門を選択し効率よく砲撃が可能でした)

Brown Water Navy Miniatureへのモデル制作のリクエス

少し余談になりますが、筆者のコレクションからは同級も含めいくつか未保有のモデルがあります。市販モデルが「ある」艦級については、鋭意、探してはいるのですが、なかなか見つからず、現在3Dモデルで度々お世話になっているBrown Water Navy Miniatureさんにモデルの制作をいくつか依頼しています。

一応、「リストに入れておく」と言う趣旨のお返事をいただいてはいますが、一方で「フランスの軍艦はデザインが独特で、制作が結構難しいんだよなあ」と言う反応ももらっています。だからこそ作ってほしいんですけどね。首を長くして楽しみにいい知らせ(「出来たぜ」の一言)を待ちましょう。

 

8,800トン級艦隊装甲艦「フリードランド (Friedland)」(1877年就役)

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(艦隊装甲艦「フリートランド」の概観:80mm in 1:1250 by Hai:まだ装甲フリゲート艦の名残を残すややスマートな艦型をしています)

同艦は「オセアン級」艦隊装甲艦の改良型で、全鉄製の船体を持っていました。同型艦はありません。

「オセアン級」をやや拡大した8850トン級の船体を持ち、4500馬力の蒸気機関を搭載し、13.5ノットの速力を発揮することができました。

主砲を27センチ砲のみにして単装砲2門を砲郭上のバーベットに露砲塔形式で搭載し、残り6門は砲郭内に各舷3門づつ配置しました。他に副砲として14センチ単装砲8門を装備していました。

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(艦隊装甲艦「フリートランド」の兵装の拡大:艦の中央部に砲郭を設けそこに片舷3基の主砲と、方各部の上のバーベットに主砲1基づつを両舷につ際しているのがわかります)

 

8,900トン級艦隊装甲艦「リシュリュー (Richelieu)」(1875年就役)

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(艦隊装甲艦「リシュリュー」の概観:モデル未保有かつモデルの写真が見つからないため、Wikipediaより拝借しています。:1:1250スケールでは、Hai製のモデルがあるようですが、筆者はみたことがありません。こちらもBrown Water Navy Miniatureにモデル制作を依頼中)

同艦は「オセアン級」艦隊装甲艦の改良型で、「フリードランド」が全鉄製の船体を持っていたのに対し、木造鉄皮構造でした。同型艦はありません。

「オセアン級」をやや拡大した9000トン級の船体を持ち、4200馬力の蒸気機関を搭載し、13ノットの速力を発揮することができました。運動性の向上を狙い、2軸推進でした。

主砲は「オセアン級」同様、18口径27センチ単装砲6門と19口径24センチ砲5門が混載されており、27センチ砲は全て砲郭内に収められ、24センチ砲は砲郭上部4角のバーベットに露砲塔形式で4門、艦首楼内に1門が搭載されていました。艦首喫水下には衝角が装備されており、艦首楼内の砲と併せて、艦首方向の攻撃威力が強化されています。他に副砲として当初12センチ単装砲10門を装備していましたが、就役後すぐに14センチ砲6門に換装さレました。

 

8,750トン級:「コルベール(Corbert)級」艦隊装甲艦(1877年から就役:同型艦2隻)

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(「コルベール級」艦隊装甲艦の概観:モデル未保有かつモデルの写真が見つからないため、Wikipediaより拝借しています。:1:1250スケールでは、Hai製のモデルがあるようですが、筆者はまだ見たことがありません。こちらもBrown Water Navy Miniatureにモデル制作を依頼中)

同級は1865年度計画の最後の艦級で、フランス海軍史上最後の、木造の艦隊装甲艦となりました。

8750トンの船体に4600馬力の蒸気機関を搭載し、14ノットの速力を発揮する設計でした。

主砲は27センチ単装砲8門として、2門は砲郭上のバーベット2基に、残る6門は砲郭内に収められています。さらに艦首楼内と艦尾に24センチ単装砲各1基が装備され、艦首尾方向の火力が強化されています。他に副砲として14センチ単装砲8門が搭載されました。

 

9,200トン級艦隊装甲艦「ルドゥタブル (Redoutable)」(1882年就役)

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(艦隊装甲艦「ルドゥタブル」の概観:モデルはStaffenberg製:見たことないですね。:写真は就役時に近い形態のもので、当初は三檣式の機帆併装艦でした。この時期のモデルは未保有ですので、いつものようにsammelhafen.deから写真を拝借しています)

同艦は普仏戦争に敗れたフランスがナポレオン3世の帝政を廃し第三共和制に移行した後の、1872年度計画で建造された最初の艦隊装甲艦です。普仏戦争に何お貢献もできなかった海軍への強い風当たりの中で設計され、新基軸と回帰主義などが入り混じった設計になっています。(フランス海軍ファンとしては、そこがなんとも言えず「いい感じ」なのですが)

以降、フランス海軍の主力艦の特徴の一つとなる「タンブル・ホーム」型船体の基本形が示された艦と言ってもいいかと。

9200トン級の船体には鉄材に加え鋼材が用いられ、5900馬力の蒸気機関から14ノットの速力を発揮する設計でした。

主砲には20口径27センチ砲が採用され、艦首楼内に1門、艦尾に1門、両舷の砲郭部上部のバーベットに各1門が配置され、さらに砲郭内に4門が搭載され、計8門を搭載していました。副砲として14センチ単装砲6門を装備していました。

近代化改装(1894年ごろ)

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(筆者が保有している上の写真のモデルは、近代化改装後のもの。2本マスト形態となり、帆装を全廃しています::85mm in 1:1250 by Hai)

1893年から1894年にかけて、同艦は近代化改装を受けます。

帆装が全廃されて3本マストから2本マスト形態に改められ、水雷艇防備用の機関砲を設置した見張り台が置かれました。

主砲である27センチ砲は長砲身(28口径)砲に換装され、これを4門と、24センチ砲4門に変更されました。副砲も10センチ砲6基に変更されました。

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(艦隊装甲艦「ルドュタブル」の兵装の拡大:艦首楼に前方方を装備し(写真上段)、艦の中央砲郭部に上部に主砲バーベットを設け1門、下部の砲郭部内に2門を搭載しています(写真中段:ちょっとわかりにくいですが、舷側のふくらみと砲身がみえるかな?)。さらに艦尾部に主砲1門を装備していました(写真下段))

 

機関も換装され、6070馬力となり、速力も14.6ノットまで向上しました。

1900年にはフランス東洋艦隊に所属し、そのままハノイ(仏領インドシナ:現在のベトナム)でハルクとなりました。

 

10,450トン級 : 「クールベ(Courbet)級」艦隊装甲艦(1883年から就役:同型艦2隻)

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(「クールベ級」艦隊装甲艦の概観:筆者が保有するモデルは1900年の近代化改装後の姿を再現したものですので、ここでは竣工時の三檣マスト形態の写真をWikipediaから拝借して掲示しt路きます:1:1250スケールではこの形態のモデルはないんじゃないかな?少し注釈:上掲の写真を見る限りでは、三檣マスト形態ではありますが、帆装はすでに廃止されているのではないかと推測しています。マストはすでにコンバットマスト形態をとっています)

同級は「ルドゥタブル」の改良型で2隻が建造されました。

船体は10450トンと初めて10000トンを超え、8100馬力の蒸気機関を搭載し15ノットの速力を発揮することができました。

火力がさらに強化され、搭載主砲は21口径34センチ後装砲となりました。これは当時世界最大口径の艦砲でした。これを4基、中央砲郭の4角に配置し、さらに20口径27センチ単装砲を艦首、艦尾、さらに両舷のバーベットに搭載していました。副砲には14センチ単装砲6基が搭載されていました。

1900年に近代化改装を受け、三檣マスト形態は2本のミリタリーマスト形態に変わりました。

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(「クールベ級」艦隊装甲艦の概観 (近代化改装後)::8mm in 1:1250 by Hai:モデルは1900年の近代化改装後の姿)

さらに砲兵雄に見直しが入り、27センチ砲は長砲身の45口径砲に換装され、他に3基の30口径24センチ砲、1基の16センチ単装砲、10センチ単装砲16基、多数の水雷艇対策の機関砲が搭載されました。

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(「クールベ級」艦隊装甲艦の兵装の拡大:艦首楼に前方砲を装備し艦橋下部に中央砲角が設けられています(写真上段)、艦の中央砲郭部にじゃ上部に主砲バーベットを設け各舷1門、下部の砲郭部内に各舷2門を搭載しています(写真中段)。さらに艦尾部に1門を装備していました(写真下段))

 

11,000トン級艦隊装甲艦「アミラル・デュプレ (Amiral Duperré)」(1884年就役)

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(艦隊装甲艦「アミラル・デュプレ」の概観::79mm in 1:1250 by Brown Water Navy Miniature)

新興イタリア海軍の中央砲塔艦「カイオ・ドュイリオ級」に対応するために建造されました。前級「クールベ級」をベースとして、拡大した11000トン級の船体に5700馬力の蒸気機関を搭載し15ノットの速度を出すことができました。

主砲には34センチ単装砲を両舷中央付近と艦中央・艦尾のバーベット上に装甲砲塔形式で搭載しました。他に艦種楼内の16センチ砲1門、片舷7基づつ14センチ砲を配置し、副砲としています。多数の水雷艇排除用の機関砲を搭載いていました。f:id:fw688i:20240609155804j:image

(艦隊装甲艦「アミラル・デュプレ」の主砲配置の拡大:艦首楼に前方砲を装備し艦橋下部のバーベットに単走主砲塔片舷各1基を搭載しています(写真上段)。さらに艦中央部に主砲塔搭載のバーベットに中央砲角が設けられています(写真上段)、艦の中央砲郭部・艦尾部に主砲塔をそれぞれ搭載したバーベットを設けています(写真下段))

 

艦隊装甲艦の一覧

(フランス海軍の今回ご紹介した艦隊装甲艦モデルの一覧:手前から艦隊装甲艦「フリートランド」、艦隊装甲艦「ルドュタブル」(近代化改装後)、「クールベ級」艦隊装甲艦(近代化改装後)、艦隊装甲艦「アミラル・デュプレ」の順:「ルドュタブル」以降、フランス艦の特徴の一つであるタンブル・ホームの傾向が顕著に現れます。この傾向は前弩級せんかんの時代まで継承されることに)

と言うことで、フランス海軍が建造した艦隊装甲艦の艦級を見てきたわけですが、この後、今回最後にご紹介した艦隊装甲艦「アミラル・デュプレ」に続き、その改良版「アミラル・ボーダン級」へと発展してゆきます。その後は以下の投稿でご紹介済みですので、そちらをお楽しみいただければと考えています。

fw688i.hatenablog.com

そして、さらに前弩級戦艦の諸設計へと続いてゆきます。

fw688i.hatenablog.com

fw688i.hatenablog.com

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一応、これでフランス海軍の戦艦の系譜については完了です。ということで、今回はこの辺で。

 

次回は新着モデルの完成形をいくつかご紹介できればと思ってはいますが、少し作業時間等がやりくりできずにいる現状ですので、どうなるか。

 

もちろん、もし、「こんな企画できるか?」のようなアイディアがあれば、是非、お知らせください。

 

模型に関するご質問等は、いつでも大歓迎です。

特に「if艦」のアイディアなど、大歓迎です。作れるかどうかは保証しませんが。併せて「if艦」については、皆さんのストーリー案などお聞かせいただくと、もしかすると関連する艦船模型なども交えてご紹介できるかも。

もちろん本稿でとりあげた艦船模型以外のことでも、大歓迎です。

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