相州の、ほぼ週刊、1:1250 Scale 艦船模型ブログ

1:1250スケールの艦船模型コレクションをご紹介。実在艦から未成艦、架空艦まで、系統的な紹介を目指します。

新着モデル(完成版):イタリア海軍、揺籃期の戦艦:中央砲塔艦の系譜

今回は、本稿前回投稿でご紹介したイタリア海軍の近代戦艦登場以前の主力艦、近代戦艦に至る模索期の主力艦の一形態である「中央砲塔艦」の完成編、です。(完成編、と言っても完成までの経緯については特に記載していないので、ご容赦ください)

fw688i.hatenablog.com

前回投稿はこちら。

 

少しおさらいしておくと、今回入手したモデルはいずれもWTJ(War Time Jornal)制作のもので、筆者の「フランス海軍」の前弩級戦艦・同時期の装甲巡洋艦のコレクションなどは、同社のものが主力です。

WTJという製作者とモデル供給の経緯について

WTJ製モデルの調達に関しては、色々と経緯があり、現在は下の同社のサイトでは3D printer用のデータ販売のみとなっていますが、以前(2022年ごろまで)はモデルもここで調達することができました。

www.wtj.com

上掲のサイトでもご覧いただけるように、同社のラインナップは前弩級戦艦の時期が充実しており、筆者のコレクション中のフランス艦隊、日清・日露期の日本艦隊、ロシア艦隊のモデルのかなり大きな部分をこのWTJ製のモデルが占めているのですが、これらは以前、全てモデルとして購入したものです。

しかし2022年ごろにWTJ のモデル製造の外注者に廃業等の異変があり、彼らはモデル自体の供給を断念せざるを得なくなり、WTJはデータ販売のみに限定されてしまいました。

WTJ のオーナーとはその後、何度か直接のやり取りがあり(「データのみの供給に切り替えたいが、3D printerで出力できるルートはあるか?(WTJ 発信)」とか「Shapwaysで扱うわけにいかないのかな(筆者発信)」「もちろん検討したが、Shapewaysのビジネスモデルは品質とポリシーがWTJ には合わないんだよ(WTJ 発信)」など)、結局、「以降のモデルとしての提供は諦めてくれ」と言う結論でした。

これは筆者にとっては結構痛い宣告で、特に先般本稿でミニ・シリーズを組んだ「英海軍の駆逐艦発達小史」などは、かなりの部分をWTJ モデルを当て込んでいたために、目処が立たなくなってしまいました。

上掲のサイトには今はいくつかの製造業者の名前が掲載されているので、モデルの調達もできるようになってきていますが、およそ1年間はその目処が具体化しない期間だったのです。

最近は筆者がいくつかもモデルを調達した(特に直近では前回まで数回にわたってお届けした「H-45型」戦艦の調達先であった)XP Forgeも供給先のリストに入ってきたので、かなり心強いのですが、何よりDobbies HobbiesがEbayへ出品をおこなっており、気楽に欲しいモデルを調達できるようになりました。

WTJ制作のモデルコレクションの再開(筆者にとっては、朗報です)

筆者は今回の中央砲塔艦のモデルに続き、英国海軍の同時期、つまり前弩級戦艦の始祖と言われる「ロイヤル・ソブリン級」戦艦登場以前の戦艦群(装甲艦群?)の調達をかけています。

こちらもGW中には手元に到着するはず(Ebayからの到着予想時期の通知によれば)ですので、しばらくはこの領域のコレクションを充実させていけるかと考えています。

さらにこのGW直前に日本海軍の戦艦の始祖というべき「扶桑艦」(中央砲郭形式の装甲コルベット)の変遷経緯を楽しめる数種のモデルと、当時そのライバルであった清国の「鎮遠」級戦艦(今回ご紹介する艦級と同じ形式の中央砲塔艦)のこちらも数種のモデルの発注をかけました。こちらも5月中には手元に届くはずなので、いずれまたご紹介できるかと考えています。

しばらくは19世紀後半から20世紀初頭にかけての艦級のご紹介が増えるかも。

全て細部の製作や塗装の作業も入るので、模型のブログらしくはなるかもしれませんが、結構、時間もかかるでしょうね。

かなりマニアックな世界になる予感がありますので、飽きれずにどうかお付き合いください。

 

イタリア海軍:中央砲塔艦の系譜に至るまで(海軍小史的なお話も)

こちらも前回のおさらいを一部含みますが、今回到着したのはイタリア海軍が1880年代に就役させた中央砲塔艦という形式の装甲艦です。43センチ、45センチと言う巨砲をバーベットに搭載し広い射角を与えています。弾片防御程度のフードを被せたもの、あるいはフードを装着しないものなど、いわゆる後の前弩級戦艦の特徴の一つである装甲砲塔形式には至っていません。

イタリア海軍の成立

元来、イタリアという国は統一近代国家としての成立が遅く、イタリア半島にそれまで分離独立していた都市国家、小王国群が、19世紀の半ばから始まったイタリア統一の機運を背景としてサルデー二ャ王国を中心にまとまり、イタリア王国として成立したのは19世紀後半、1861年でした。

海軍もこれに準じて発足します。母体である王国の成立過程上、海軍もまた当然のことながら分立していた小独立国の海軍を統合したもので、数的には一応の規模を持ちながらも、装備・指揮系統には統一感を求めるべくもない寄せ集めであり、当面、統一国家の育成による若い士官が育つまでは、各母体となった小海軍間での主導権争いなどにより、なかなか強力な近代海軍の成立に至るとは言えない状況が続きました。

更に統一国家の成立の遅れから強い経済の成立を前提とする重工業の発展も遅れており、装備強化についても外国からの輸入に頼らざるを得ない状況でした。

普墺戦争への参戦:リッサ海戦での敗北

そうした厳しい条件下にありながら、成立したてのイタリア王国は「普墺戦争」に参戦(1866年)。戦争自体はプロシアを主体とした自陣営が勝利しますが、海軍に関して言えば、指揮系統・装備の不統一から、そもそもが海事に不慣れな内陸の大国であり、さらに当時もはや老海軍と言っていいであろう状況にあったA=H帝国海軍に「リッサ海戦」で敗北してしまいます。

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しかし「リッサ海戦」での敗北は、上掲のような同海軍の抱えている課題を浮き彫りにし、以降、組織や指揮系統、装備に関する強化を考慮した近代海軍の建設の契機となった、と言っていいと考えています。

近代海軍成立へ

同海軍は海軍組織としては英海軍を範にとり、併せて遅れている重工業面でも英国からの軍事技術の導入を行いました。この一連の動きの中で、特にこの時期に英国のアームストロング社の協力を得られたことは、今回ご紹介する艦級の最初の艦級である「カイオ・トゥイリオ級」の建造に直結しているとも言え、海軍の近代化が加速することにも繋がってゆきます。

同時期のA=H帝国海軍の主力艦開発については本稿でもご紹介しています。

fw688i.hatenablog.com

両海軍は第一次世界大戦後のA=H帝国の解体まで、アドリア海の主導権をめぐって競い合っていたわけです。

 

中央砲塔艦の系譜

今回、完成したのはイタリア海軍が上掲の近代海軍成立の一の矢として1880年代に就役させた中央砲塔艦という形式の装甲艦の艦級群です。当時、同海軍に想定された主要任務は東にオーストリア=ハンガリー帝国、西にフランスという大国に挟まれた環境下での長い海岸線防備でした。

特にフランス海軍が建造を進めていた新型装甲艦の情報を常に意識し、これを凌駕するために43センチ、45センチと言う巨砲を旋回可能なバーベットに搭載し広い射角を与えています。

砲塔形式という先進性を積極的に導入した設計がではありましたが、弾片防御程度のフードを被せたもの、あるいはフードを装着しないなど、いわゆる露砲塔で、後の前弩級戦艦の特徴の一つである装甲砲塔形式には未だ至っていませんでした。

更に早期の展開に対応するために速力にも重点が置かれ、当時の各国の主力艦としては最速レベルの15ノット強の速力を有していました。以下で記述する「イタリア級」に至っては現在の強襲揚陸艦的な高速で陸兵を輸送・展開することも想定された設計となっており、舷側装甲を限定的にすることによって、18ノットの速力を発揮することができました。

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(イタリア海運の中央砲塔艦の系譜:手前から「カイオ・ドゥイリオ級」戦艦、戦艦「イタリア」(「イタリア級」・6本煙突)、戦艦「レパント」(「イタリア級」4本煙突)、「ルッジェーロ・ディ・ラウリア級」戦艦の順)

 

「カイオ・ドゥイリオ級」戦艦(1880年就役・同型艦2隻)

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(「カイオ・ドゥイリオ級」戦艦の概観:84mm in 1:1250 by War Time Jornal )

同級はイタリア海軍が帆装を廃止した最初の主力艦で、地中海に展開するフランス艦隊の装甲艦に対応して建造されました。

フランス海軍が1882年に就役させた装甲艦「ルドュタブル」:フランス海軍の装甲艦の代表として

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(フランス海軍のこの時期の代表的な装甲艦「ルドュタブル」の概観:85mm in 1:1250 by Hai:6000トンの排水量をもつ装甲艦で14ノットの速力を発揮することができました)

従来の同海軍が保有していた装甲艦のほぼ倍の重装甲を有する12000トン級の船体に、前装式(砲口から砲弾を装填する方式)の20口径45センチ連装砲を搭載したバーベット2基を主砲として搭載し、当時の装甲主力艦としては最速レベルの15ノットの速力を発揮することができ、就役当時は「地中海最強艦」と言われていました。

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(上の写真は「カイオ・ドゥイリオ級」戦艦の主要兵装の拡大:上段・中段は20口径45センチ連装砲のターレット。断片防御程度のフードをかぶっていました。下段左の写真:中央の二つのハッチは前装砲の装弾口。ここに砲口を挿入して次弾を装填するわけです。下段右の中央に写っている突起は12センチ単装砲です。その下の建屋は当時一種のブームであった艦載水雷艇の格納庫?)

主砲を搭載したバーベットには装甲フードが装着されていましたが、断片防御程度の効果でした。主砲は20口径の前装砲で、マストの基部の左右にある装弾口に主砲を俯角をかけて砲口を挿入し、次弾を水圧で装填する仕掛けでした。発射速度は15分毎に1発程度だったとされています。また、水面下には艦首に衝角が残されており、魚雷発射管も装備されていました。

 

後に主砲は257mm連装砲塔に換装され、マストも2本になるなど外観が一変するほどの近代化改装を受けました。2番艦「エンリコ・ダンドロ」は港湾警備艦(habor diffence ship)として1920年代まで使用されました。

 

フランス海軍装甲艦「アミラル・デュプレ」の建造

ja.wikipedia.org

イタリア海軍の同級に対応すべくフランス海軍は15ノットの速力を発揮し18口径34センチ単装砲を4基搭載した11000トン級の「アミラル・デュプレ」を建造します。

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(装甲艦「アミラル・デュプレ」の概観:79mm in 1:1250 by Brown Water Navy Miniatures)

 

「イタリア級」戦艦(1885年から就役:同型艦2隻)

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(戦艦「イタリア」の概観(「イタリア」級):101mm in 1:1250 by WTJ )

「イタリア級」戦艦は「イタリア」と「レパント」の2隻が建造された艦級です。設計時点から1万人(一個師団)の陸兵を急速搬送する能力の付与が組み込まれており、現在の強襲揚陸艦的な運用を想定した艦級でした。

14000トン級の船体を持ち、43センチ後装砲2門を搭載したバーベット2基を装備していました。陸兵の急速展開を想定するために強力な機関を搭載し18ノットの速力を発揮することができました。一方で陸兵の搭載スペースの確保と強力な機関を搭載するという要件から、舷側装甲の装備は狭い範囲に限定され、防御形式としては防水区画方式を多用した設計でした。就役当時は世界最大・最速・最強の主力艦と言われましたが、着想の斬新さにも関わらず、工業力の未整備から建造に10年近い時間を要し、十分な活躍の場面には巡り会えませんでした。

搭載機関は同じながら煙突数が「イタリア」と「レパント」で異なりました。

戦艦「イタリア」(「イタリア級」1番艦:1885年就役)

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(戦艦「イタリア」の概観(「イタリア」級):101mm in 1:1250 by WTJ

同級は26.1口径43センチ主砲3門と27口径43センチ主砲1門を搭載していましたが、副砲として26口径14.9センチ単装速射砲8基、23口径12センチ単装速射砲4基を装備していました。加えて魚雷発射管4基も搭載していました。f:id:fw688i:20240428172342j:image

(上の写真は戦艦「イタリア」の兵装配置の拡大:上段は艦中央部の右舷前方に配置された43センチ主砲ターレット:中段写真は左舷側の43センチ主砲ターレット:下段左は艦首部の26口径14.9センチ単装速射砲1基、23口径12センチ単装速射砲2基、さらに艦首部のには煙突前方に3基の26口径14.9センチ単装速射砲3基の砲口が見えています(色付けした砲門が見ていただけるかと。実はこの砲門の位置は定かではありません。図面によるともっと後方かとも読めます:下段右のカットは艦尾部の26口径14.9センチ単装速射砲1基、23口径12センチ単装速射砲2基)

主砲の装填方式は前級と異なり後装式となりました。装填時の砲身の向き、角度を装填機構に合わせる作業が必要でしたので次発装填には5分を要しましたが、前級の前装式に比べると格段の進歩でした。

 

1905年に近代化改装を受けて煙突が「レパント」同様4本となりコンバットマストも中央の一本から2本に改められました。

1914年まで主力艦として在籍しましたが、その後、砲台、運送船としての運用を経て、1921年に除籍解体されました。

戦艦「レパント」(「イタリア級」2番艦:1885年就役)
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(戦艦「レパント」の概観(「イタリア」級):101mm in 1:1250 by WTJ )

同艦は前出の「イタリア」と同型艦ですが、搭載している主砲は全て27口径43センチ砲に統一され、これを連装バーベット2基に露砲塔として搭載しました。

副砲としては「イタリア」よりも強力な長砲身の32口径15.2センチ単装速射砲8基、32口径12センチ単装速射砲4基をそれぞれ装備していました。加えて魚雷発射管4基も搭載していたのは「イタリア」と同様でした。

同じ機関を搭載していながら、「イタリア」は煙突が6本、「レパント」は4本煙突、と外観に差異がありました。

1902年に棒術練習艦、1910年から13年にかけて倉庫艦、警備艦として運用され1914年に除籍、15年に解体されました。

(下の写真は「イタリア」(上段)と「レパント」の比較:やはり煙突の火雨が大きな差異です)

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「ルッジェーロ・ディ・ラウリア級」戦艦(1888から就役:同型艦3隻)

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(「ルッジェーロ・ディ・ラウリア級」戦艦の概観:84mm in 1:1250 by W TJ:)

同級は増強されるフランス海軍の装甲艦への対抗上建造された艦級です、予算面への配慮から、「カイオ・ドゥイリオ」級をタイプシップとしてその改良型として3隻が建造されました。

10000トン級の船体を持ち17ノットの速力を発揮しました。前掲の「レパント」と同じ27口径43センチ砲を断片防御用のフード付きの連装露砲塔2基に搭載していました。装填方式は前級と同じで、次発装填には5分程度の時間を要しました。

副砲としては32口径15.2センチ単装速射砲2基、32口径12センチ単装速射砲4基をそれぞれ装備していました。魚雷発射管4基を装備していました。

(下の写真は「ルッジェーロ・ディ・ラウリア級」戦艦の兵装配置の拡大:上段写真と中段写真は主砲ターレットの拡大。いずれも装甲砲塔ではなく、断片防御程度のフードを装着した露砲塔です:下段は艦首部32口径15.2センチ単装速射砲と、32口径12センチ単装速射砲の配置の拡大(下段左が艦首部、下段右が艦尾部))

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前級同様、建造に時間を要したために就役時期が遅く、完成時には既に列強では前弩級戦艦の就役が始まりつつあり、新造艦ながらやや旧式の形式と見做されていました。

1909年から11年にかけて除籍されています。除籍後、標的として処分されたもの(「フランチェスコ・モロシーニ」)、重油タンクとなったもの(「アンドレア・ドリア」1929年解体)、重油タンクとして第二次世界大戦まで使用されたもの(「ルッシーロ・ディ・ラウリア」1943年爆撃で着底、47年解体)とその後は様々でした。

 

と言うことで、とりあえず、今回はここまで。

次回は、手元のスケジュールではGW中にWJTモデルの第二弾が到着する予定ですので、そちらのご紹介などを予定しています。

 

もちろん、もし、「こんな企画できるか?」のようなアイディアがあれば、是非、お知らせください。

 

模型に関するご質問等は、いつでも大歓迎です。

特に「if艦」のアイディアなど、大歓迎です。作れるかどうかは保証しませんが。併せて「if艦」については、皆さんのストーリー案などお聞かせいただくと、もしかすると関連する艦船模型なども交えてご紹介できるかも。

もちろん本稿でとりあげた艦船模型以外のことでも、大歓迎です。

お気軽にお問い合わせ、修正情報、追加情報などお知らせください。

 

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