相州の、ほぼ週刊、1:1250 Scale 艦船模型ブログ

1:1250スケールの艦船模型コレクションをご紹介。実在艦から未成艦、架空艦まで、系統的な紹介を目指します。

新着モデル:イタリア海軍、揺籃期の戦艦:中央砲塔艦の系譜

前回で「H-45型」戦艦という「究極の架空艦」のお話が一段落したので、今回から少し地味なお話(従来通りのマニアックなお話、と言うべきかな)に戻りたいと思います。

今回ご紹介するのは4隻の新着モデルです。

モデルはまさに手元に到着した直後で、まだ制作に着手したばかりですので、各艦級の情報等は、完成時のご紹介にまとめたいと思いますが、今回のモデル群は筆者がこれまであまり手を出してこなかった領域に属する主力艦であることをご紹介しておきます。

 

イタリア海軍:中央砲塔艦の系譜

今回到着したのはイタリア海軍が1880年代に就役させた中央砲塔艦という形式の装甲艦です。43センチ、45センチと言う巨砲をバーベットに搭載し広い射角を与えています。弾片防御程度のフードを被せたもの、あるいはフードを装着しないものなど、いわゆる後の前弩級戦艦の特徴の一つである装甲砲塔形式には至っていません。

当時のイタリア海軍の主要任務である長い海岸線防備の視点から、陸兵の輸送・展開を可能にする、現在の強襲揚陸艦的な機能を備えた艦級もありました。

(新着モデルのご紹介:手前からイタリア海軍「カイオ・ドゥイリオ級」戦艦、戦艦「イタリア」(「イタリア級」・6本煙突)、戦艦「レパント」(「イタリア級」4本煙突)、「ルッジェーロ・ディ・ラウリア級」戦艦:いずれもいわゆる中央砲塔艦と言われる形態の装甲艦です)

 

なぜ筆者がこれまでこの領域にあまり手を出してこなかったのか、少し言い訳をしておくと、本稿が明治維新によって成立した日本海軍の艦級のコレクションのリスト化、から出発したと言う成り立ちが関係しています。

これは明治海軍の設立期がちょうど「前弩級戦艦=近代戦艦」の誕生時期と重なっているからなのです。日本海軍はその設立からほぼ30年後の1897年に英国から購入した「富士級」戦艦の就役を皮切りに近代戦艦(前弩級戦艦)を中心とした艦隊の整備に着手します。「六六艦隊(=近代戦艦6隻と近代装甲巡洋艦6隻で構成される艦隊)」と称されるこの艦隊は「日露戦争」での国防の要となったことはご承知の通りです。

別の視点で語ると、日本海軍史には「前弩級戦艦以前」の時期がほとんどなく、筆者のコレクションが前弩級戦艦以前が手薄になっている要因はここにあるのです。(ちなみに「前弩級戦艦」と言う呼称は「弩級戦艦ドレッドノート」が建造された後で発生した呼称(=「ドレッドノート」登場以前の形式の戦艦)ですので、実は筆者はこの呼称を使うことにやや抵抗があるのです。ですので「近代戦艦」と言う呼称を使うこともあるのですが、意味するところは同じです)

 

筆者のコレクションを離れて少し整理すると、前弩級戦艦以前の時期には、船舶の主要な推進力が帆装から蒸気機関に移行し、それに伴って搭載できる重量物の範囲が飛躍的に増えた時期、と言っていいと考えています。軍艦について言えば最大の重量物である巨大な火砲とその弾薬、さらにそれらの攻撃から自艦を守る装甲をも搭載することができるようになった、と言うことなのです。さらに蒸気機関の搭載は、人力とは比較にならない機械動力を軍艦が得た、と言うことでもあり、重い火砲の旋回などもこの蒸気機関の搭載により機械力で行えるようなってゆきました。

 

こうした発展の帰結が「前弩級戦艦」となるわけですが、そこに至るには時間がかかり、1860年代から1880年代にかけて、多様な形態の軍艦が世に現れることとなります。

本稿では、これまでに「オーストリア=ハンガリー帝国海軍(A=H帝国海軍)」の主力艦発達史を整理する機会に、「前弩級戦艦」の登場以前に「舷側砲門型装甲艦」や「中央砲郭型装甲艦」などの形式の主力艦が建造された経緯を見てきたことがあります。

fw688i.hatenablog.com

上掲でご紹介した「中央砲郭艦」はA=H帝国海軍では1870年代から登場し、1890年代に数隻の「中央砲塔艦」が建造されました。

そして今回は上掲の「A=H帝国海軍」の地中海・アドリア海でのライバルである「イタリア海軍」の主力艦、中央砲塔艦の系譜のモデル踏み込んだ、と言うわけです。

もう一つ、筆者がこの領域に着手するべく背中を押していただいた要因として、お読みいただいた方からのありがたいコメントがあったということも、感謝しつつ付け加えておきたいと思います。

 

以下の各艦級のご紹介は、今回は簡単に(と言ってもこれ以上の情報が入手できるんだろうか、と首を傾げつつ、ではあるのですが)。

 

「カイオ・ドゥイリオ級」戦艦(1880年就役・同型艦2隻)

ja.wikipedia.org

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(イタリア海軍「カイオ・ドゥイリオ級」戦艦の概観:上の写真はモデルに0.8mm真鍮線でマストとファイティング・トップを装着した状態:84mm in 1:1250 by War Time Jornal :下の写真は下地処理をした状態。備砲は装甲砲塔に見えますがフード付きの露砲塔でした)

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地中海に展開するフランス艦隊の装甲艦に対応して建造されました。

12000トン級の船体に前装式(砲口から砲弾を装填する方式)の20口径45センチ連装砲を搭載したバーベット2基を主砲として搭載していました。バーベットには装甲フードが装着されていましたが、断片防御程度の効果でした。最大速力は15ノット。

 

「イタリア級」戦艦(1885年から就役:同型艦2隻)

ja.wikipedia.org

「イタリア級」戦艦は「イタリア」と「レパント」の2隻が建造された艦級です。

14000トン級の船体を持ち、43センチ後装砲2門を搭載したバーベット2基を装備していました。バーベットにはフードなどはなく、いわゆる露砲塔でした。強力な機関を搭載し18ノットの速力を発揮することができました。設計時点から1万人の陸兵を搬送する能力の付与が組み込まれており、現在の強襲揚陸艦としての能力も併せ持っていました。搭載機関の相違から煙突数が「イタリア」と「レパント」で異なりましたので、両方のモデルを調達しています。

戦艦「イタリア」(「イタリア級」1番艦:1885年就役)

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(戦艦「イタリア」の概観(「イタリア」級):上の写真はモデルに0.8mm真鍮線でマストとファイティング・トップを装着した状態:101mm in 1:1250 by WTJ :下の写真は下地処理をした状態

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戦艦「レパント」(「イタリア級」2番艦:1885年就役)
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(戦艦「レパント」の概観(「イタリア」級):上の写真はモデルに0.8mm真鍮線でマストとファイティング・トップを装着した状態:101mm in 1:1250 by WTJ :下の写真は下地処理をした状態

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「イタリア」と「レパント」は同型艦です。14000トン級の船体を持ち、43センチ後装砲を2基を搭載したバーベット2基を装備していました。バーベットにはフードなどはなく、いわゆる露砲塔でした。強力な機関を搭載し18ノットの速力を発揮することができました。1万人の陸兵を搬送する能力があり、強襲揚陸艦としての能力も併せ持っていました。搭載機関の相違から煙突数が「イタリア」と「レパント」で異なりました。

 

ルッジェーロ・ディ・ラウリア級」戦艦(1888から就役:同型艦3隻)

ja.wikipedia.org

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(イタリア海軍「ルッジェーロ・ディ・ラウリア級」戦艦の概観:上の写真はモデルに0.8mm真鍮線でマストとファイティング・トップを装着した状態:84mm in 1:1250 by W TJ:下の写真は下地処理をした状態。備砲は装甲砲塔に見えますがフード付きの露砲塔でした)

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予算面への配慮から、「カイオ・ドゥイリオ」級をタイプシップとしてその改良型として3隻が建造されました。

10000トン級の船体を持ち17ノットの速力を発揮しました。前級「イタリア級」と同じ43センチ砲を断片防御用のフード付きの連装露砲塔2基に搭載していました。建造時期が遅く、完成時には既に列強では前弩級戦艦の収益が始まりつつあり、新造艦ながらやや旧式の形式と見做されていました。

 

WTJの復活

今回のモデルは全てWTJ(War Time Jornal)製です。下のリンクでWTJで調達できるモデルの一覧がご覧になれます。

www.wtj.com

現在このサイトでは3D printer用のデータ販売のみとなっていますが、以前(2022年ごろまで)はモデルもここで調達することができました。

筆者のコレクション中のフランス艦隊、日清・日露基の日本艦隊、ロシア艦隊のモデルのかなり大きな部分をこのWTJ製のモデルが占めているのですが、全てモデルとして購入したものです。

しかし2022年ごろにWTJ のモデル製造の外注者に異変があり、その後、モデルについてはデータ販売のみに限定されてしまいました。WTJ のオーナーとはその後、何度か直接のやり取りがあり(「3D printerで出力できるルートはあるか?(WTJ 発信)」とか「Shapwaysで扱うわけにいかないのかな(筆者発信)」「もちろん検討したが、Shapewaysのビジネスモデルは品質とポリシーがWTJ には合わないんだよ(WTJ 発信)」など)、結局、「以降のモデル提供は諦めてくれ」と言う結論でした。

これは筆者にとっては結構痛い宣告で、特に先般本稿でミニ・シリーズを組んだ「英海軍の駆逐艦発達小史」などは、かなりの部分をWTJ モデルを当て込んでいたために、目処が立たなくなってしまいました。

上掲のサイトには今はいくつかの製造業者の名前が掲載されているので、モデルの調達もできるようになってきていますが、およそ1年間はその目処が具体化しない期間だったのです。

最近は筆者がいくつかもモデルを調達した(特に直近では前回まで数回にわたってお届けした「H-45型」戦艦の調達先であった)XP Forgeも供給先のリストに入ってきたので、かなり心強いのですが、何よりDobbies HobbiesがEbayへ出品をおこなっており、気楽に欲しいモデルを調達できるようになりました。

これは朗報!筆者は今回の中央砲塔艦のモデルに続き、英国海軍の同時期、つまり前弩級戦艦の始祖と言われる「ロイヤル・ソブリン級」戦艦登場以前の戦艦群(装甲艦群?)の調達をかけています。

こちらもGW中には手元に到着するはず(Ebayからの到着予想時期の通知によれば)ですので、しばらくはこの領域のコレクションを充実させていけるかと考えています。

 

これから想定される作業:仕上げに向けて

各モデルの筆者の次の工程として、順次、マスト上部の造作追加と塗装を行う予定です。マストの造作追加と塗装の順序はこれから検討します。これからのマスト部分はかなり細かく脆い部分の追加作業になるので、細部に筆を入れることを想定すると、ざっと塗装をして、マストを追加、祭儀に仕上げ塗装、そんな順序がいいのかな、などと考えています。

(上の写真は下地処理後の4モデルの概観:次工程はマスト上部の造作追加と塗装ですね。マスト追加を塗装後に行うか塗装前かどうしましょうかね)

と言うことで、とりあえず、今回はここまで。

 

次回は、うまくいけば今回のモデルの完成形をご紹介できるかと。一応今のところはそのような予定です。

 

もちろん、もし、「こんな企画できるか?」のようなアイディアがあれば、是非、お知らせください。

 

模型に関するご質問等は、いつでも大歓迎です。

特に「if艦」のアイディアなど、大歓迎です。作れるかどうかは保証しませんが。併せて「if艦」については、皆さんのストーリー案などお聞かせいただくと、もしかすると関連する艦船模型なども交えてご紹介できるかも。

もちろん本稿でとりあげた艦船模型以外のことでも、大歓迎です。

お気軽にお問い合わせ、修正情報、追加情報などお知らせください。

 

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