相州の、ほぼ週刊、1:1250 Scale 艦船模型ブログ

1:1250スケールの艦船模型コレクションをご紹介。実在艦から未成艦、架空艦まで、系統的な紹介を目指します。

新着モデル:英海軍、近代戦艦への模索期:モデル群到着!

今回は前回の予告通り、WTJ制作のモデル群の第二弾とこれに関連する他の3D printing modelが手元に届いたので、そちらのご紹介を。

 

今回到着したのは一連のモデルは、本稿前回でご紹介したイタリア海軍の中央砲塔艦のの設計情報に刺激を受けて、英海軍が1970年台から整備を開始した艦級群、と言うことになります。この艦級群の海部を辿ることで、その後の近代戦艦(後に前弩級戦艦と言う呼称でまとめられるのですが)の基本要件が明らかになる過程を追体験できる、そんな期待を筆者は抱いています。

 

モデルのご紹介

モデルは到着したてで、まだ下地処理段階までを行った段階です。

今回の新着モデルの中核を構成するのは、本稿前々回と前回でご紹介したWTJ(War Time Jornal)製のモデル群です。

WTJについては前回投稿の前半部を。

fw688i.hatenablog.com

上掲でご紹介している筆者が随分とお世話になってきたWTJのモデルに加えて、Shapewaysで入手できる下記のBrown Navy Miniaturesのモデルも加えて、一連の艦級群のご紹介をしたいと考えています。

www.shapeways.com

上掲のBrown Navy Miniaturesは今回のテーマである近代戦艦成立までの時期(1860-80年)の各国の艦船にそのラインナップの重点を置いている製作者で、そのモデルの精度はNavisなど従来から1:1250スケールの老舗にも引けを取らないと、筆者は評価しています。

 

まずは、下地処理を行う前段階、マスト類の基部をを真鍮線と別途調達したマストのトップ部品で少し手を入れた状態が下の写真です。

 

中央砲塔艦の登場

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(上の写真は、英海軍の中央砲塔装甲艦「インフレキシブル」(手前)と「コロッサス級」装甲艦:前回ご紹介したイタリア海軍の中央砲塔艦の情報に刺激されて設計されたとか。真鍮線でマストを追加し、ファイティング・トップを追加しています)

 

航洋型砲塔艦の模索

(上の写真は、英海軍の装甲艦モデルの一覧:第一弾:手前から装甲艦「コリンウッド」、「ロドニー級」装甲艦、装甲艦「ベンボウ」、「ヴィクトリア級」戦艦 の順:真鍮線でマストを追加し、ファイティング・トップを追加しています)

 

航洋型砲塔艦と派生型

(上の写真は、英海軍の装甲艦モデルの一覧:第二弾:手前から「トラファルガー級」戦艦、戦艦「フッド」、遠方での展開を想定した「バーフラー級」二等戦艦、二等戦艦「リナウン」の順:真鍮線でマストを追加し、ファイティング・トップを追加しています)

 

ちょっとおまけ:日本海軍草創期の「軍艦」(なんかこの文字がしっくりくる?)

下の写真は今回、Brown Navy Miniaturesに一緒に発注した日本海軍の装甲艦「龍驤」(写真手前)と「富士山」艦の2隻です。「富士山」艦は維新政府海軍の中核艦から草創期の日本海軍に加わった軍艦でもあり、草創期の日本海軍というテーマもありかな、などと構想(妄想)が膨らんできつつあります。

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各艦級のモデルのご紹介

次に各モデルに下地処理をした状態のものを、開発順を追って仮置きしてみましょう。

各艦級の説明はハイライトのみ。完成時にはもう少し充実したものをお届けする予定です。

 

少し前段階のお話を。

本稿前回ではイタリア海軍の中央砲塔艦をご紹介しましたが、この時期は開発が可能になった強大な威力を持つ巨砲を、いかに移動プラットフォームとしての軍艦に適応させてゆくか、その模索の時期でもあったわけです。

従来の搭載方法(舷側砲門)では艦載砲は舷側に向けて搭載されるのが常でしたが、大砲の巨大化が進むにつれ、大きな重量を伴う巨砲を従来の舷側砲門艦のようにずらりと舷側に並べるわけにもいかず、かつ蒸気動力により砲の操作を必ずしも人力のみに頼る必要も無くなったところから、少数の巨砲を回転させて多方向に射撃する、旋回砲台:バーベットと言う方法が考え出されるわけです。

 

巨砲を積んだ沿岸防備艦の登場

フランス海軍が相次いで建造中の装甲艦を意識して自国沿岸部の防御、あるいは対岸のフランス沿岸部への砲撃を構想した設計の艦級が生み出されます。重い主砲と大型の機関、さらにいずれにせよ沿岸部での活動想定のため、航洋性はそれほど考慮されない低い乾舷を持った設計でした。海防戦艦のご先祖というべきか。

「デヴァステーション級」装甲艦(同型艦2隻 1873年から就役):自国の沿岸防備のために設計された低乾舷艦

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(「デヴァステーション級」の概観:73mm in 1:1250 by Ha:いかにも沿岸砲台という感じのフォルムですi)

 

装甲艦「ドレットノート」(同型艦なし:1879年就役):航洋性を求めて乾舷を少しだけ高く:航洋型モニター艦の誕生?

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(Hai製モデル:未入手:写真は例によってsammelhafen.de,より拝借:前出の「デヴァステーション級」と比べると艦の前後の乾舷は高くなり、艦型も航洋性を考慮した長い形状であるうことがわかるのでは?航洋型モニター艦というべきか?)

 

中央砲塔艦

本稿前回でご紹介したイタリア海軍の中央砲塔艦の情報に刺激を受けて、英海軍も同種の艦級の設計を始めます。地中海・黒海バルト海などの内海での活動を想定したため、砲塔の搭載位置は低い還元のまま、しかしある程度の航洋性を意識して高い乾舷を持った艦首・艦尾が盛り込まれました。

装甲艦「ネプチューン」(同型艦なし:1881年就役):低重心(復元性)と航洋性の両立を目指して

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(モデルが見当たらず)

 

装甲艦「インフレキシブル」(同型艦なし:1881年就役):中央砲塔艦という形式での航洋性の獲得

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(「インフレキシブル」の概観:85mm in 1:1250 by Brown Navy Miniatures:主砲は40.6センチの大口径砲ですが、まだ前装式=砲口から自発装填する形式でした)

 

「エイジャックス級」装甲艦(同型艦2隻:1883年から就役):「インフレキシブル」の縮小量産型

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(Hai製モデル:未入手:写真は例によってsammelhafen.de,より拝借:経済性を考慮した「インフレキシブル」の縮小板)

 

「コロッサス級」装甲艦(同型艦2隻:1886年から就役):「エイジャックス級」の拡大改良版:主砲は後装砲へ

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(「コロッサス級」の概観:80mm in 1:1250 by Brown Navy Miniatures:主砲は30.5センチですが、英海軍としては初の後装式大口径砲を搭載した艦級となりました)

 

航洋型砲塔艦の模索

フランス海軍が増強を続ける航洋型装甲艦への対抗から前出の「ドレッドノート」(航洋型モニター艦)をタイプシップとした艦型が採択されています。機関・主砲等の艦の重要部(バイタルパート)への防御装甲の配置などが模索され始めた時期かと。

以下に紹介する「コリンウッド」「ロドニー級」「ベンボウ」は搭載主砲の異なる準同型艦で、一纏めに「アドミラル級」とされることもあります。

 

装甲艦「コリンウッド」(同型艦なし:1887年就役):近代戦艦の基本レイアウトの確立

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(「コリンウッド」の概観:85mm in 1:1250 by WTJ (War Time Jornal):主砲は30.5センチ。これを上部構造の前後に連装露砲塔で搭載しています。この配置は冒頭の沿岸防備砲艦、特に「ドレッドノート」に準じたものです)

 

「ロドニー級」装甲艦(同型艦4隻:1889年から就役):航洋型モニター艦の系譜、主砲口径を強化(34.3センチ砲)

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(「ロドネー級」の概観:85mm in 1:1250 by WTJ:主砲は34.3センチ。これを上部構造の前後に連装露砲塔で搭載しています。更に機関を強化して17ノットの高速を発揮する設計でした)

 

装甲艦「ベンボウ」(同型艦なし:1888年就役):主砲口径をさらに拡大(41.3センチ単装砲を搭載)

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(「ベンボウ」の概観:85mm in 1:1250 by WTJ:主砲は41.3センチ。これを上部構造の前後に単装露砲塔で搭載しています)

 

「ヴィクトリア級」戦艦(同型艦2隻:1890年から就役):防御力を強化し41.3センチ連装砲を全周密閉砲型砲塔で装備した地中海の女王

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(「ヴィクトリア級」の概観:90mm in 1:1250 by WTJ:主砲は41.3センチ砲。これを全周型の連装装甲砲塔に載せています。設計当初から地中海での運用を想定しており、乾舷は低く抑えられています

 

「トラファルガー級」戦艦(同型艦2隻::最後の低乾舷戦艦、本格的戦艦の登場序曲ja.wikipedia.org

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(「トラファルガー級」の概観:88mm in 1:1250 by WTJ:主砲は34.3センチ砲。これを全周型の連装装甲砲塔2基に載せ、上部構造物の前後に振り分けています。装甲砲塔2基という重量物の搭載に伴い、乾舷は低く抑えられており、航洋型モニター艦の発展系として見ることも

 

近代戦艦の萌芽とそのヴァリエーション

ここから紹介する艦級は近代戦艦の始祖とされる「ロイアル・サブリン級」登場以降の模索型、ヴァリエーションとして理解していただくのがいいと考えています。

戦艦「フッド」(同型艦なし:1893年就役):全周密閉型装甲砲塔を持った近代戦艦「ロイアル・サブリン級」(1892年から就役)の8番艦

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(「フッド」の概観:98mm in 1:1250 by WTJ:主砲は34.3センチ砲。これを全周型の連装装甲砲塔2基に載せ、上部構造物の前後に振り分けています。「ロイアル・サブリン級」の8番艦でしたが装甲砲塔という重量物搭載のために上甲板一掃が削られ低乾舷の戦艦となりました)

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(「フッド」と「ロイアル・サブリン級」(奥)の比較:幸いなことに両方ともWTJ製のモデルです。「フッド」の乾舷の低さも一目瞭然かと)

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(「ロイアル・サブリン級」の概観:98mm in 1:1250 by WTJ:同型艦は7隻でした。同級の登場が近代戦艦(後の前弩級戦艦)の基本設計を定めた、と言われています。前述のように「フッド」は同級の8番艦として計画されていましたが、露砲塔ではなく全集密閉装甲砲塔での搭載の強い要請があったために、上甲板を一層削った低い乾舷を持つ艦となりました。やや先祖返り的な存在で、近代戦艦の仲間入りを逃した感があります)

 

軽戦艦の登場

近代戦艦の成立に伴い、同様の強力な艦船を遠隔地に派遣する要請が想定されるようになります。特に極東地域では中国の利権獲得が大きな焦点とされ、長距離の派遣、中国の河川への俎上を想定した浅吃水などの要件から、小型戦艦建造への要請が顕在化してきます。派遣地域では一定お存在感を示す効果はありましたが、戦艦の性能向上に伴い統合され、以下の3隻以降は建造されませんでした。

「バーフラー級」二等戦艦(同型艦2隻:1893年から就役:極東地域への派遣を想定したコンパクト戦艦

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(「バーフラー級」の概観:88mm in 1:1250 by WTJ:「ロイアル・サブリン級」の縮小版として設計されました。主砲は25.4センチ砲。これを全周型の連装装甲砲塔2基に載せ、上部構造物の前後に振り分けています。完成後は極東地域に派遣されロシアの大型巡洋艦に対抗するなど、一定の存在感を示しました

 

二等戦艦「リナウン」(同型艦なし:1897年就役):「バーフラー級」の強化改良型

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(「リナウン」の概観:99mm in 1:1250 by WTJ:「バーフラー級」の拡大強化型で、主砲口径は同じ25.4センチ砲でしたが40口径に強化されています。副砲のケースメート形式での搭載などの新基軸が盛り込まれた一種の実験艦的な存在であったかと。地中海に派遣され地中海艦隊の旗艦を務めました)

 

本当は冒頭に紹介した日本海軍草創期の「軍艦」なども紹介したかったのですが、長い話になりそうなので、またの機会に。こちらは資料などがなかなかなく、その入手からと考えています。少し下地処理後の写真だけ。

装甲コルベット龍驤」(1870(明治3年)熊本藩が購入、同年、新政府に献納)

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(装甲コルベット龍驤」の概観:57mm in 1:1250 by Brown Navy Miniatures:  木造の船体に舷側に装甲帯を装着している構造でした。発足当時の日本海軍では、2500トンの排水量を持つ同艦は、最大の艦艇でした))

 

スループ「富士山艦」(1866(慶応元年)年、幕府海軍が購入、1868(慶応4年)新政府に献納)

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スループ「富士山艦」の概観:50mm? in 1:1250 by Brown Navy Miniatures:  冒頭に掲載したモデルは1876年に蒸気機関を撤去したのちの三檣マストの状態を再現したものですが、就役時は蒸気機関を搭載したニ檣マスト形態でした。上掲のモデルはその状況を表しています。しかし手元にその状態の資料がなく、想像の域を出ません。併せてWikiに掲載されているスペックとモデル寸法が合わないように思われ・・・・もう少し研究が必要です:富士山=読み方は「フジヤマ」のようです)

・・・とここまで書いたところで、大間違いを発見!

実はこのモデル、全く別の船のモデルでした。

en.wikipedia.org

なんとこの船、「富士山艦」とは全く別物、中国貿易で茶葉を運ぶ帆装貨物船でした。同船のスペックは全長50.4mとあるので、モデルの全長とピッタリ合います。1865年に就役した三檣マストの木造帆船でした。下の写真が正しかったんですね。「「富士山艦」は1876年に蒸気機関を撤去して三檣マスト形態になったので、その時期を表したものだろう」なんて、見当違いも甚だしいですね。自分に都合のいいことしか目に入ってこない、お恥ずかしい。下の写真でよかったんですね。他の船から煙突まで引っ張ってきちゃったよ。下の写真でよかったんですよね。

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気を取り直して・・・挽回のために他のモデルも引っ張ってきましょう。

装甲ブリッグ「東艦」(1869(明治2年)年、明治政府が米国から購入)

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(装甲ブリッグ「東艦」の概観:50mm? in 1:1250 by Hustone?:  元来は南北戦争時に南軍がフランスに発注した装甲で覆われた木造艦でした。南北戦争後、米国変売却を経て明治政府が購入することとなりました)

と、もろもろと書きましたが、いずれにせよ資料不足の感は否めず、もう少し勉強が必要です。

 

ということで今回はこのあたりで。

次回は今回のモデル群の完成形のご紹介を数度に分けて。あるいは少し時間がかかりそうなら、前回投稿でご紹介した「リッサ沖海戦」に登場した艦船のモデルのお話でも、と考えています。

しばらくは19世紀終盤から20隻期初頭にかけてのお話が続きそうな予感です。

 

もちろん、もし、「こんな企画できるか?」のようなアイディアがあれば、是非、お知らせください。

 

模型に関するご質問等は、いつでも大歓迎です。

特に「if艦」のアイディアなど、大歓迎です。作れるかどうかは保証しませんが。併せて「if艦」については、皆さんのストーリー案などお聞かせいただくと、もしかすると関連する艦船模型なども交えてご紹介できるかも。

もちろん本稿でとりあげた艦船模型以外のことでも、大歓迎です。

お気軽にお問い合わせ、修正情報、追加情報などお知らせください。

 

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