相州の、ほぼ週刊、1:1250 Scale 艦船模型ブログ

1:1250スケールの艦船模型コレクションをご紹介。実在艦から未成艦、架空艦まで、系統的な紹介を目指します。

新年、原点回帰の架空艦満載:八八艦隊計画と、計画中止後の戦力補完としての「扶桑級」大改造

新年、明けましておめでとうございます

・・・などと、呑気なご挨拶からは占めましたが、年明け早々、本当に色々なことが立て続けに起こりました。言葉もありません。被災者や事件の関係者の皆さんには、心からお見舞いを申し上げます。

 

さて、今回は昨年末の予告通り「本稿の原点回帰」ということで、そもそもの本稿の出発点、開始の動機ともなった「八八艦隊」のお話を。基本は過去投稿からのおさらいです。

筆者は、そもそも自身のコレクションに「八八艦隊」のモデル群がある程度揃ったことで、その記録のために2018年に本稿をスタートさせました。「八八艦隊」ご紹介のつもりが、であれば、「いっそ八八艦隊に至る道のりも簡単に(当初は本当に数回の投稿のつもりで)まとめておこう」程度の気持ちで始めたのですが、それが実は27回のシリーズに大化けしてしまいました。その結果、いつの間にか足掛け6年に。

その間に、筆者の「八八艦隊」も数度のコレクションのリニューアルが行われ、今回ご紹介するのはその最新版、2023年版のコレクションです。

今回はそういうお話。

 

「八八艦隊」(2023年版)の各艦級のモデルのご紹介

史実の八八艦隊計画

史実の八八艦隊計画第一次世界大戦後に列強の軍備拡張に倣い日本海軍が実施しようとした大建艦計画で、「長門級」戦艦2隻、「土佐級」戦艦2隻、「紀伊級」4隻のいずれも41センチ主砲を搭載し26ノット以上の速力を発揮する戦艦8隻で構成される高速戦艦群と、30ノット以上の速力を発揮する「天城級巡洋戦艦4隻(41センチ主砲搭載)、「13号級」巡洋戦艦4隻(46センチ主砲搭載)の8隻の巡洋戦艦で構成される強大な艦隊を建造する、という計画でした。これらの諸主力艦の建造は、「長門級」戦艦2隻を除いて、大鑑の建造競争により国家財政の破綻を恐れた列強各国の間で締結されたワシントン軍縮条約により中止されてしまいます。

 

筆者版八八艦隊計画

一方、筆者版の八八艦隊計画では、史実よりも少し制約の緩いワシントン軍縮条約の下で「長門級」戦艦2隻、「土佐級」戦艦2隻はそのまま、「紀伊級」戦艦は2隻のみ建造され、「13号級」巡洋戦艦が「改紀伊級」戦艦として防御構造を強化され、46センチ主砲搭載の戦艦として建造されています(筆者版ワシントン条約でも主砲口径は16インチを最大とする、という制約はありましたので、条約失効を前提として計画された「改紀伊級」戦艦は条約の制約外の46センチ主砲を搭載する戦艦として建造されるので、設計段階では未だ条約は有効であったため同級の搭載する46センチ主砲は新開発の「2年式55口径41センチ砲」と実態を偽った正式名称を与えられていました)。こうして揃えた8隻の戦艦と、既に存在した「金剛級巡洋戦艦4隻を可能な限り改装等により延命させ、加えて条約で認められる「金剛級」の耐用艦齢年次における代艦4隻を加え8隻の巡洋戦艦(この頃には巡洋戦艦の概念はほぼ無くなっており、「高速軽戦艦」的な存在でしたが)を揃える、という計画でした。

 

ということで、「八八艦隊」と言いながらも、今回ご紹介するのは戦艦4艦級のモデルです。但し、史実の通りであれば、「紀伊級」戦艦は4隻建造されましたし、「天城級巡洋戦艦は「紀伊級」戦艦とほぼ同型です。さらに「13号級」巡洋戦艦は今回ご紹介する「改紀伊級」戦艦と同型ですので、模型的にはこれで完結していると言っていいかと思います。

長門級」戦艦(同型艦2隻:就役時1920年頃の形態)

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同級は世界初の16インチ級(41センチ)主砲搭載戦艦で、同級の建造がワシントン海軍軍縮条約の実現化に大いに影響したとされています。この条約の結果、41センチ級の主砲搭載戦艦は同級の2隻(「長門」「陸奥」)を含め世界に7隻しか存在が認められないことになりました。いわゆる「ビッグ7」と言われる7隻(日本2隻、英国2隻、米国3隻)ですね。

長く連合艦隊の旗艦を務めるなど、日本海軍の象徴的な位置にあり続けました。

(「長門級」竣工時のモデル:by Hai: Hai製のモデルは前部煙突が「長門級と言えば湾曲煙突」と言うほど有名な湾曲煙突の状態を再現していますが、上掲のモデルでは就役時を再現したかったので、前部煙突を直立のものに交換しています。下の写真は「長門級」竣工時の細部の拡大:Hai製のモデルの前檣もかなり繊細に再現されています)

 

戦艦「陸奥」変体(by ModelFunShipyard:完成していれば1922年頃に就役していた?)

戦艦「陸奥」は「長門級」戦艦の二番艦ですが、その建造過程でちょうど研究中であった八八艦隊計画の次級「土佐級」の設計案を知った用兵側が、前倒しで「長門級」二番艦にその構想を盛り込み41センチ主砲10門搭載艦として実現できないか、と言う着想をもつに至りました。その構想のもとに強化型「長門級」の計画が動き出しました。これが「陸奥」変体(「変態」じゃないですよ)と呼ばれる設計案でした。

舷側に傾斜装甲を用いるなどして浮いた装甲重量を追加主砲塔に当てる、と言うのが構想の根底にあったとされています。

ワシントン条約の締結時点で「就役している」と言う状態でなければ保有が認められず工事を中止せねばならなかったため、結局、「陸奥」は建造時間等を考慮して「長門」とほぼ同設計で完成されますが、この「陸奥」変体が実現していたら、という「架空艦」のモデルのご紹介です。

オリジナルの「長門級」が従来の日本海軍の戦艦群同様の長船首楼型の船型であるのに対し、同館では平甲板型の線形が採用されているため、日本艦としては新鮮な印象があるかもしれません。

(戦艦「陸奥」変体の概観:173mm in 1:1250 by ModelFunShipyard: 下の写真は同モデルの特徴である前檣付近と、艦尾部の山形配置された連装主砲塔群のアップ・全体として大変すっきりとした、しかし細部は繊細に表現されたモデルです)

 

長門級湾曲煙突形態1924年頃)

(「長門級」湾曲煙突に換装後のモデル:by Hai: 「長門」といえばこの形態、と言うほど有名な形態ですね)

長門級」戦艦は就役後に排煙の前檣への流入に悩まされ、藤本造船大佐(当時?)の湾曲煙突導入の提案を平賀造船中将(当時?)は「威容を損ねる」として退け、当初は一番煙突にキャップを装着するなどの対応を試みますが、効果がなく、結局1924年ごろに一番煙突を湾曲形態にあらためています。結果的にこの形態は長く続き、上述の「ビッグセブン」として国民にも「世界に冠たる日本海軍」の象徴として親しまれました。

 

「土佐級」戦艦:同型艦2隻(by ModelFunShipyard:就役時(1923年頃)を想定した姿)

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同級は八八艦隊計画の戦艦の二番目の艦級です。「長門級」戦艦の強化改良型、と言っていいと思います。「土佐」と「加賀」が建造される予定でした。

上掲の「陸奥」変体同様、平甲板型の船体を持ち、大変スッキリした印象です。

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(「土佐級」戦艦の概観:188mm in 1:1250 by ModelFunShipyard: 下の写真は同モデルの特徴である前檣付近と、艦尾部の山形配置された連装主砲塔群のアップ・上掲の「陸奥」変体とは副砲の配置、後部の連装砲塔3基の配置が異なります全体として大変すっきりとした、しかし細部は繊細に表現されたモデルです)

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戦艦「加賀」:「土佐級」湾曲煙突装備(by ModelFunShipyard)

長門級」の就役後、前檣直後の煙突が煤煙の逆流で課題が出たように、おそらく「土佐級」の煙突も同じような課題が現れたであろう、と言う前提で、湾曲煙突を装備した二番艦「加賀」を製作してみました。これはこれでなかなかいいかも。

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(湾曲煙突装備の「加賀」の概観: by ModelFunShipyard: 下の写真はオリジナル煙突の「土佐」(上段)と湾曲煙突装備の「加賀」の比較。今回このモデルの最大の魅力である(と筆者が思っている)前檣構造がいずれのモデルでもやはりかなりいい感じではないかと、感心しています)

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紀伊級」戦艦:同型艦2隻(計画当初は4隻)(by ModelFunShipyard:就役時(1925年ごろ?)を想定した姿):「天城級巡洋戦艦もほぼ同型

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紀伊級」戦艦は「土佐級」戦艦に続き4隻が建造される予定でした。(「紀伊」「尾張」「駿河(仮称)」「近江(仮称)」)設計は「土佐級」とは一線を画し、建造期間や予算面から巡洋戦艦天城級」設計をベースとして、これに防御強化を図り本格的な高速戦艦としての完成を目指したものでした。そのため速力は「長門級」「土佐級」の26ノット台から29ノット台へと飛躍しています。

史実では4隻が建造される予定でしたが、筆者版では米海軍の新戦艦「サウスダコタ級(1926年版)」が16インチ主砲を12門搭載する設計であることが判明し、「紀伊級」戦艦ではこれに対抗するには「やや心もとない」と評価されたため、建造は「紀伊」「尾張」の2隻で打ち切られ、次の「改紀伊級=相模級」戦艦(18インチ主砲搭載)の建造へと移行してゆきます。

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(「紀伊級」戦艦の概観:200mm in 1:1250 by ModelFunShipyard: 下の写真は同モデルの特徴である前檣付近と、艦中央部から艦尾部にかけて装備された連装主砲塔群のアップ。全体として、やはり前檣が最大のこのモデルの魅力かと思っています)

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紀伊級」戦艦:集合煙突装備案(by ModelFunShipyard)

紀伊級」の設計図面はかなりの数が残されており、その中には前述したように「長門級」で問題となった煤煙の逆流問題への対応策として、設計段階から集合煙突を装備したデザイン案がありました。筆者は元々集合煙突が大好きでもあり、こちらのモデルを作成してみました。(というか筆者版の八八艦隊ではこちらが本命です。もう一隻こちらを作成する予定です。煙突も調達済み!)

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(「紀伊級」戦艦・集合煙突デザイン案の概観:200mm in 1:1250 by ModelFunShipyard: 下の写真はオリジナルの二本煙突(上段)と集合煙突案に比較:やはり個人的には集合煙突案の方が圧倒的に好みですね。前檣の少しクラシックなデザインと集合煙突の先進性のアンバランスというか、妙な調和を感じるのですが。やや日本艦離れした感じがするもの好きな点かも)

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「改紀伊級=相模級」戦艦:「13号級」巡洋戦艦の設計をベースとして:同型艦2隻(巡洋戦艦設計では同型艦4隻)(by ModelFunShipyard:就役時(1930年頃?)を想定した姿)

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同級は筆者版八八艦隊計画の戦艦の最終整備艦級で、元々は巡洋戦艦として30ノットを超える速力を持ちながらも「紀伊級」戦艦を凌駕する強力な砲力も併せ持つ設計であった「13号級」巡洋戦艦の設計がベースとされました。主砲にはそれまでの八八艦隊の戦艦の標準装備であった41センチ主砲を上回る46センチ(18インチ)主砲の搭載が採用されました。しかし計画段階では46センチ主砲については開発に相当な時間がかかることが予想されたため、従来の41センチ主砲を三連装砲塔4基搭載する設計案もあったとされています。

今回はもちろん46センチ主砲装備の方を。

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(「改紀伊級=相模級」戦艦の概観:250mm in 1:1250 by ModelFunShipyard: 下の写真は同モデルの特徴である前檣と煙突付近と、巨大な主砲塔の拡大)f:id:fw688i:20230402101840p:image

今回のモデル製作にあたり、「13号級」の図面を見る限り、その大きな特徴である巨大な煙突(米海軍の「レキシントン級巡洋戦艦でも同じような話がありましたが、高速の巡洋戦艦の搭載する巨大な機関を考えると、排煙は大きな課題なのでしょうね)が、筆者にはどうしても違和感があり、「紀伊級」と同じ集合煙突に換装したモデルを製作しています。46センチ主砲搭載艦ですので長大な射程を想定した一際高い前檣を考えると、もう少し高いものにしないと煤煙の前檣への逆流等に悩まされることになるかもしれませんね。実はオリジナルの煙突はモデルよりも約1センチほど全高が高くなっています(オリジナルも作るべきだったかな。これは作製後の独り言)。

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(上の写真は今回製作したモデル(上段)と、製作の際に切除した煙突をモデルに戻してみた際の比較):オリジナルの煙突が1センチほど高い、というのはこんな感じです。このモデルだけ見るとオリジナルのデザインでもあまり違和感はない(むしろ今回の製作案の煙突の低さが気になるかも)のですが、他のモデルと並べると違和感が出てくるのです(と筆者は感じるのです))

余談ですが、この上掲のカット見ていて、前章の抜けの素晴らしさを、再認識しました。やはりこのモデルのクオリティは、凄い!

 

「改紀伊級」などと言いながらも

筆者版「八八艦隊」では、「改紀伊級」は前述のようにワシントン条約の失効を前提に設計されていました。実態は全く別物の新設計であったにも関わらず、条約の制約を満たした設計であると宣言せねばならず、そうした意味では「改紀伊級」という名称自体が既に欺瞞だったと言っていいでしょう。ワシントン条約では新造戦艦の主砲口径は16インチ以下と制約されていましたので、46センチ主砲は新開発の「2年式55口径41センチ砲」と呼称されていました(フィクションです。史実ではないのでご注意を)。もちろん全体の大きさに関する制約も大きく超えていました。

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(「改紀伊級=相模級」戦艦と「紀伊級」戦艦の比較:船型の大きさも大きく異なりますし、主砲塔の大きさの差異も一目瞭然です。主砲口径の拡大から想定される砲戦距離の延長に対応して、前檣の高さが大きく異なっています)

 

今回ご紹介した2023年版「八八艦隊」の戦艦の一覧

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(上の写真は今回ご紹介した「八八艦隊計画」の戦艦の艦級の総覧:「陸奥」変体(左上)、「土佐級オリジナル」(左中)、「加賀:湾曲煙突装備」(左下)、「紀伊級オリジナル」(右上)、「紀伊級:集合煙突案」(右中)、「改紀伊級=相模級」(右下)の順:下の写真は「陸奥」変体から「改紀伊級」までの船型の推移を一覧したもの:手前から「陸奥」変体、「土佐級」「紀伊級」「改紀伊級=相模級」の順)

筆者の当初のプランでは、主砲を別のディテイルの整ったものに換装することも考えていたのですが、今回一連を製作してみて、かえって主砲塔にフォーカスしすぎたモデルになることも想定されるなあ、と別の懸念が出てきました。あと数隻は作成したいとは思っているのですが、主砲のモデル換装までは実行しない、という結論に至りそうです。(これまでの筆者の経験では、多くの1:1250スケールの3D printing modelでは、主砲塔の特に主砲砲身の再現が今ひとつ満足がいかず、別のモデルに置き換えるというようなこともあったのですが、今回のモデルの主砲塔周りの再現は十分に満足のいくものでした)

 

ワシントン海軍軍縮条約による「八八艦隊計画」の中止と16インチ主砲搭載戦艦の補完としての「扶桑級」改造計画

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ワシントン海軍軍縮条約の締結で、すでに完成していた「長門級」の2隻のみが保有を認められ、残る計画艦は既に進水していた「土佐」「加賀」も含め破棄処分されることになります(処分予定だった「加賀」は、建造工事の途中で関東大震災で被災し工事の継続を断念せざるを得なくなった空母「天城」に代わって空母として完成されることになります)。

こうして16インチ主砲搭載艦で質的な優位に立とうとする日本海軍の目論見は頓挫し、新造戦艦の計画が全て白紙化するわけですが、であれば既存艦の更新で一部でも戦力補完を目指そうとする計画が動き始めます。この動向はワシントン条約の制限対象が新造艦に対するもので、既存艦については制限がないということを前提にしたものでした。史実では既存艦の改造についても制限が設けられたため、この計画は実現しませんでした。

 

その計画の俎上に上げられたのが、就役以来多くの欠陥が露呈し「艦隊に配置されているよりも、ドックに入っている期間の方が長い」と揶揄されるほど、改装に明け暮れていた「扶桑級」戦艦でした。

 

日本海軍初の超弩級戦艦「扶桑級」(1915年就役)

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扶桑級就役時の概観:163mm in 1:1250 by Navis)

扶桑級」戦艦は日本海軍が初めて保有した超弩級戦艦でした。

日露戦争での戦費負担(日露戦争で日本は朝鮮半島中国東北部に関する主導権を手に入れましたが、戦後賠償金は獲得できませんでした)、それに続く戦利艦の補修と艦隊への編入により、日本海軍はそれら返球艦艇の修理と既存艦の整備に多くの予算を割かねばならず、世界の主力艦整備の趨勢(いわゆる新造される弩級戦艦超弩級戦艦の整備)に大きく出遅れてしまいました。「主力艦」と名のつく軍艦の保有数は飛躍的に増えましたが(日露開戦前(1904年頃)の保有主力艦6隻(全て前弩級戦艦)に対し、日露戦後(1910年頃)の保有主力艦17隻(前弩級戦艦9隻、準弩級戦艦4隻、前弩級巡洋戦艦2隻、準弩級巡洋戦艦2隻))、その性能は第一線級と呼べるものは数えるほど、と言う状態でした。旧式艦装備の大海軍、そんな感じだったのではないかと。

そのような状態の日本海軍が起死回生を狙って建造したのが「金剛級巡洋戦艦4隻と「扶桑級」戦艦2隻でした。「扶桑級」の一番艦「扶桑」の就役当時は世界で初めて30000トンを超える大鑑で、世界最大・最強の呼び声の高い日本海軍嘱望の艦でした。

しかし、同級には完成後、多くの課題が現れてきます。

例えば、一見バランス良く艦全体の首尾線上に配置されているように見える6基の砲塔は、同時に艦の弱点ともなる弾庫の配置が広範囲にわたることを意味し、これを防御するには広範囲に防御装甲を装備せねばならず、集中防御とは相反するものでした。また、斉射時に爆風の影響が艦上部構造全体に及び、重大な弊害を生じることがわかりました。さらに罐室を挟んで砲塔が配置されたため、出力向上のための機関部改修等に余地を生み出しにくいことも、機関・機器類の進歩への対応力の低さとして現れました。

加えて第一次世界大戦ユトランド海戦で行われた長距離砲戦(砲戦距離が長くなればなるほど、主砲の仰角が上がり、結果垂直に砲弾が落下する弾道が描かれ、垂直防御の重要性がクローズアップされます)への対策としては、艦全体に配置された装甲の重量の割には水平防御が不足していることが判明するなど、一時は世界最大最強を歌われながら、一方では生まれながらの欠陥戦艦と言わざるを得ない状況でした。

こうして露見された種々の課題の結果、「扶桑級」戦艦の建造は2隻で打ち切られ、3番艦、4番艦となる予定であった「伊勢」「日向」は新たな設計により生まれることとなりました。

 

平賀造船中将の「扶桑級」改装計画

改装を重ね、なお、なかなか戦力化の目処をつけられない「扶桑級」戦艦を、一気に戦力化してしまおうと言う改造計画が平賀造船中将から提出されました。これはワシントン条約により頓挫した新造戦艦の建造による海軍軍備の増強を、課題満載の「扶桑級」改造により幾分かでも補完しようというものでした。

具体的には同級の課題の元凶ともいうべき主砲塔配置に大きな変更を加え、併せて機関の配置等についても余裕を持たせ、速力不足・機動性不足等についても一気に解決してしまおう、という意欲的な案でした。

(下の写真は刊「丸」2013年8月号の掲載されている「扶桑級」改装案の図面。平賀案を元に作成されたもの?) 

平賀中将の残したメモによるとこの改装案の眼目は、前述のように課題の元凶であるとされる6基の36センチ主砲塔を全て当時最大口径であった41センチ砲に置き換え、代わりに主砲塔の数は削減し、再配置により改装前よりも弊害を軽減、かつ新たに確保できる艦内スペースを機関等に充てることにより、機動性も高める、いうものでした。これは同時に八八艦隊計画が中止になった場合に、「長門級」の2隻のみとなることが予想された41センチ主砲装備艦を補完することも目的としていました。この改造により「長門級」と同等の機動性を持つ高速戦艦として、「欠陥戦艦」のレッテルの貼られた「扶桑級」を再生しようとするものでした(随所に筆者の妄想的な解釈がかなり入っていることは、ご容赦を。以降はこう言う言い訳めいた注釈はしないので、そこは皆さんの良識でご判断を)。

(上の写真は「改扶桑級」平賀原案完成時の概観:163mm in 1:1250 by semi-scratchied besed on C. O. B. Constracts and Miniatures:下は前檣と41センチ主砲塔。艦首部は連装砲塔2基の背負式配置、前檣直後に三連装砲塔を1基、さらに艦尾部に1基配置した姿:模型ならではの「架空艦」です:でも一応計画はありました。比較的図面に忠実に再現してみたもの。前檣は前出のModelFunShipyard製の「陸奥」変体からいただきました)

条約締結に間に合わせるために、完成したものは・・・「改扶桑級」戦艦の誕生(1922年)

平賀中将の設計案の常として、「コンパクトな船体に最大の攻撃力」とでもいうべき傾向が見られ、結果的にどこかに無理を包含した設計となることが散見されます。残されたメモを見る限り「扶桑級」主砲換装案もこれに違わず、世界初の41センチ主砲搭載艦である「長門級」戦艦が41センチ連装主砲塔4基搭載の設計であるのに対し、より船体の小さな「扶桑級」に連装砲塔と三連装砲塔の混載で、41センチ砲を10門搭載する案となっていました。

この実現のためには、それまで日本海軍には経験のない大口径砲の三連装砲塔を新たに設計せねばならず、特に砲塔の駆動系等の開発や連装砲塔と三連装砲塔の旋回同期の機構を考えると、設計開発にはいくつもの試行が必要で、実装までには相当な時間を要することが予想されました。

一方で、条約締結までに完成していることが保有の前提条件であること(史実では既存艦の大規模な改造は認められず、特に条約の発端ともなった41センチ(16インチ)主砲装備艦については、保有制約が厳しく、いわゆるビッグ7と呼ばれる7隻しか保有が認められませんでした)も明らかになりつつある状況を踏まえ、結局、新たな大規模な開発を伴う三連装主砲塔の搭載は見送られ、「扶桑級」は「長門級」で既に実績のある41センチ連装主砲塔4基の装備艦として大改装を受けることとなりました。

この決断に平賀造船中将は関与せず、後に通知された際に激怒したと言われますが、条約下での保有を認めさせるには、必要な措置でした(全部フィクションですよ)。

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(上の写真は「改扶桑級」完成時の概観:163mm in 1:1250 by semi-scratchied besed on C. O. B. Constracts and Miniatures:下は最終的に連装主砲塔4基搭載でまとまった主砲配置:上記のような経緯で、ワシントン条約締結時に就役していることが保有の大きな条件となるため、開発に研究の必要な平賀原案の三連装砲塔と連装砲塔の混載を諦め、先行する「長門級」建造で実績のある連装砲塔で統一しました。平賀さんは怒っただろうなあ。しかしこの決定で砲塔周りの機構は間違いなく簡略化され、すっきりした外観となるとともに、艦の航洋性も改善されました・・・ということにしておきましょう)

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またこの決定で上部構造の重量が軽減され、かつ砲撃時の反動も軽減されたため(こちらも「長門級」で既にデータが取られていたため、強度の再計算等も容易でした)、艦自体の強度も高められ、かつ航行性、直進性等は、36センチ主砲塔搭載時よりも良好となったと言われています。さらに浮いた重量を機関部整備等にあてられたため、機動性をさらに改善することができたとされています。

模型的には「原案」と「完成案」の2隻を作りたいところでしたが、そこまで手が回っていません。ですので、現時点では「原案」を作成した後「完成案」仕上げています。

 

ということで今回はここまで。

次回は、この年始に届いたいくつかの新着モデルのご紹介を、と考えています。冒頭に記述しましたが本稿、足掛け6年目の始動です。今年もできる限り続けていきたいと思っていますので、よろしくお願いいたします。

もし、「こんな企画できるか?」のようなアイディアがあれば、是非、お知らせください。

 

模型に関するご質問等は、いつでも大歓迎です。

特に「if艦」のアイディアなど、大歓迎です。作れるかどうかは保証しませんが。併せて「if艦」については、皆さんのストーリー案などお聞かせいただくと、もしかすると関連する艦船模型なども交えてご紹介できるかも。

もちろん本稿でとりあげた艦船模型以外のことでも、大歓迎です。

お気軽にお問い合わせ、修正情報、追加情報などお知らせください。

 

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