今回は衝撃のニュースをめぐり、予定を変更してこのお話を。
Shapewaysの破産申請
7月頭に、表題の衝撃のニュースが発信されました。
実はこのニュースの少し前からShapewaysのサイトの挙動が不安定で、外部から攻撃でも受けているのかな、などと首を傾げていたのですが、筆者が上記のニュースに接したのは先週末のことでした。あまりに急な情報でしたので、理解が追いつかず、しかも発表後はあっという間にサイトのMy Pageにためた情報源にも安定的に触れられなくなってしまっていました。
今回はこのお話を中心に、その後の各モデル製作者との対話とか、その辺りお話を。モデル自体のお話はあまり出てきませんので、ご容赦を。
重要なモデル調達ルートの喪失
ご承知のように(?)、筆者のコレクションはNavis, Neptune, Rhenania, Hai, Tridentなどの伝統的な金属製モデルの製作者の作品(製品?)と、3D printing modelで公開されるモデルで構成されています。大雑把にいうと主要海軍国のWW1やWW2などのメジャーな時期・国のモデルは伝統的な製作会社の金属製モデルで、そこから外れる未成艦や架空艦、あるいはもっとマイナーな国・時代のモデルは3D printing modelで、というような棲み分けが筆者側に、もしかすると製作者側(特に3D printing modelの製作者の皆さんには既存のモデル製作会社の領域とできるだけ被らないように、と言う意識がチラチラ見えたりします)にもあるように、この状況になって改めて気がついたりしています。この3D printing modelの最大の調達先がShapewaysに出展(出品?)されているモデル製作者の皆さんでした。
それぞれの製作者のページを見ることも筆者にとっては大きな楽しみで、「おお、こういうモデルまであるのか」「ああ、この時代に手をつけ始めたんだなあ」「あれ、このモデルはどの系譜に属するんだ?」「なんでこんな船が設計されたんだろう」などの刺激を受けることが多く、本稿でもそこから脱稿した回も、振り返ると結構あるのです。
最近では、筆者の下記の投稿に端を発して、英海軍の装甲艦「ネプチューン」を入手できないかと考えていました。(これが6/30の投稿ですね)
上掲の投稿のうち、装甲艦「ネプチューン」に関する記述を抜粋しておきます。
(モデルが見当たらず:Hai製のモデルがあるかもしれませんが、見たことはないし、写真も見つけられず:代わりに上のイラストは全体の配置がわかって結構面白い。それにしても、煙突直後以外は帆装が全面展開、ですね)
1881 Year HMS Neptune 5168 Poster 1881 - 1903 | HMS Neptune … | Flickr から拝借しています)
同艦はブラジル海軍向けに建造されていたものを英海軍が完成させたもので、三檣形式・二本煙突の機帆併装艦でした。9100トン級の船体を持ち、14.2ノットの速力を発揮できました。
船体中央部に設けかれた装甲部に主砲塔2基を搭載し、航洋性に配慮した高い艦首楼・艦尾楼が設けられていました。
主砲には31.8センチ前装ライフル砲が採用され、これを連装砲塔形式で艦中央部の装甲部に2基、搭載していました。
(上の図は装甲艦「ネプチューン」の主砲と主要構造物の配置:Wikipediaより拝借)
上掲の図でも明らかなように、主砲塔は両舷側方向への射撃のみが可能で、このため艦首楼には副砲として22.9センチ前装ライフル単装砲が2基収められ、艦首方向への火力を補っていました。
就役後、煙突からの排煙で痛みの激しい中央マストの帆装は廃止され、1886年には中央マスト自体が撤去され、帆装が全廃されました。
同艦は前述のように元々はブラジル海軍向けの装甲艦として建造されたものでした。しかし資金難から工事が進まず、折りからの英海軍の対露戦備として英海軍が購入したのですが、同時期に日本海軍は清国への対抗上の一策として購入を検討していたようです。「高千穂」の艦名が準備されていたとか。
同時期の日本海軍は「扶桑」以外には装甲艦を保有していませんでしたので、もし購入されていれば30センチ級主砲を持つ最大の主力艦として日清戦争に臨んでいたでしょうね。やっぱりモデルが欲しいなあ。どこかにないかな。
****抜粋:ここまで****
特に「日本海軍が購入を検討していた」らしい、というあたりが筆者の琴線をいたくくすぐりました。というわけで、どこかにないかな、とまずはいつも頼りのsammelhafen.deで検索。するとそれらしいモデルがHaiから出てはいるのです。
HAI 941, HAI 946:このあたりが1883年(おそらく就役時)、1887年(おそらく搬送撤去後)の姿を再現したモデルのようですので該当するかと。
が、これまでみた事はないし、写真も掲載されていません。ebayの友人(出品者)に聞いてみても「ちょっと心当たりがないなあ」という事でした。
では、ということで、次にShapewaysを探ってみたのですが、ここにもそれらしいモデルは見当たりません(今から思えば、この検索のあたりから、やたらサイトが重いなあ、と感じていた記憶があります)。
いずれ、このところ本稿で続けている装甲艦(近代戦艦への過渡期に当たる時期の主力艦)のモデルでお世話になっているBrown Water Navy Miniatureに制作リストに入れてくれ、というお願いはするとして(この方はいつも気持ちよく引き受けてくださいます。しかしいつになるかもあでは?)、まずは類似モデルから自前で似たものを製作してみる、という手順をとることにします。この時代のモデルのラインナップが手厚い、ということで引き続きBrown Water Navy Miniatureのサイトでモデルにあたりをつけていくと、英海軍の「Monarch」がベースとしては使えるんじゃないかと。
寸法は艦幅はほぼピッタリ、しかし全長が「Monarch」が5mmほど長い。
(下の写真はShapewaysに掲載されている「Monarch」のモデルの写真です。上段がデータ販売の仕上がり図、で下段がShapewaysで出力した際の仕上がり見本です)
上掲の「Monarch」のモデルの写真を見ると、煙突から艦首方向の天蓋部分は切除する必要があるでしょうし、煙突もモデルのものを撤去してもう少し細身の2本に換装してやる必要がありそうです。「5mmの全長の調整は切った貼ったで、なんとかなるか?諦めてモデルの寸法そのままでも雰囲気は何とか出せるかも。あるいは思い切ってデータ購入してデータを触ってオリジナルを作ってみようか、その時はあの人に相談すれば」などと検討(妄想?)しながら、上掲の写真を見ていたわけです。
そしていざ購入、という段階でShapewaysのサイトが動かず、やがて冒頭のニュースに触れた、という経緯です。
少し苦言的なことを言うと、実は今日に至るまで、筆者の知る限りではShapewaysからの公式な破産告知はなく、自力で調べなければ、未だに「サイトがおかしいなあ」と思っているかもしれません。発注の仕掛かり等がなかったので、筆者は実害はありませんでしたが、こう言うことは公式になんらかのコメントを出すべきなんじゃないでしょうか?会社としてはそれどころじゃないよ、と言うことなのかもしれませんが。
モデル製作者とのコンタクトの再開
さて、これからどうすればいいかな、と考えた際に、大変困ったことに気がついたのです。Shapewaysに出品されているモデル製作者の皆さんとは、一部の例外的なケースを除いてはShapewaysのMy Pageを通じて常にコンタクトしていましたので、サイトへのアクセスが機能しない状況になると(今でも限定的に繋がります。すごく時間がかかるけど)コンタクトの方法を失った形となることに気付いたのでした。
慌ててShapewaysの限定的な接続を見返したり、その他の情報を元にコンタクト探ったりした結果、現時点ではBrown Water Navy MiniatureとModelFunShipyardの2者(社?)とコンタクトをつけることができました。
Brown Water Navy Miniatureの代表からの返信がこちら。
「こっちも寝耳に水でびっくりしているよ。継続してモデルを楽しんでもらいたいので、何か方法を考える時間が欲しいと思っています」と言うコメントをもらいました。「これまでも自前でPrintもしてきているので、そこは独力でもなんとかなるんだが、Shapewaysの発送サービスが使えないのが痛いなあ。特にUSの発送事情が高価でその上ひどいので、継続的に使ってもらえるかどうか、不安です」と言う主旨のコメントが追記されていました。
Shapewaysはオランダに製作拠点(Printの拠点)があり、製作過程、配送過程が全てこちらでもモニターできるようになっていて大変安心だったのです。発送過程に入るとUPSのサービスに引き継がれ、どこまで荷物が来ているのか、通過点での記録が全て開示されます。「ああ、今日、深圳で荷物が引き継がれているから、大体あと2日だな」と言う感じでですね。確かにebayでもドイツやUKの出品者の荷物は大体10日くらい、長くて2週間、と目安がつくのですが、USの出品者からの荷物はいつ届くんだろう、と目処が経他ないのが通常かもしれません。時にはびっくりするくらい早く着くこともあるのですが、10日経ってもまだUS内に荷物が止まっている、なんてこともありましたね。それと配送料が確かに高い。Euro圏のほぼ倍はかかる、と言うのが筆者の認識です。きっとBWNMの代表はこの辺りのことを気にしているんでしょうね。
ModelFunShipyardの方とはFaceBookでコンタクトをつけようとしています。こちらは筆者としては日本海軍の八八艦隊のモデルではShapeways内で最も精度の高いモデルを提供してくださっている、と評価している製作者さんです。fw688i.hatenablog.com
他にも戦艦「陸奥変体」のモデルがラインナップにあったりして、コンタクトを続けていきたいなあと思いコンタクトをとったのですが、ちょうど、先ほど「こっちもびっくりしたよ。とりあえずどう継続してゆくか検討中なので、何か決まり次第、連絡を入れますよ」と言う返事をもらいました。なんとかこちらも継続できそうです。
少し余談:War Time JournalとShapeways
そう言えば、以前、本稿でもエピソードとしてご紹介した記憶があるのですが、筆者にとって別の重要なモデル供給源であったWar Time Journal(WTJ:フランス海軍の前弩級戦艦や、明治海軍の巡洋艦など、随分とお世話になっています)が、彼らのモデルのプリントアウトの依頼先が健康上の理由で廃業すると言う状況に陥り、その際にWTJがモデルの供給ではなくCADデータの供給に切り替えた際、つまりデータ供給は続けるので自前でプリントアウトしてほしいと思っているだが、君は大丈夫か、と言う問い合わせを筆者にしてきたことがあります。その際に、筆者からプリントアウトの受け皿としてShapewaysへの委託を勧めたことがあったのを思い出しました。
その際には、それも検討したがShapewaysとは品質とビジネスモデルのポリシーが異なるので、それは選択できない、と言う回答だったのですが、結果的にWTJにとってはきっと正しい選択だったんだろうなあ、と思っています。結果的にWTJは複数のプリントアウト業者にモデルの製作を移管し、自社はデータ供給に特化しているようなので、筆者としては最近の英国海軍の装甲艦のモデルの大半など、新たなルートで入手できています。おそらくそう遠くない時期に清国海軍の北洋艦隊のご紹介の際などには、その一部のモデルはこのWTJのモデルになると思います。
結果的には、WTJの慧眼、とも言えますので、どこかでこのShapewaysの件、少し彼らと話をしてみてもいいのかもしれません。
新たなモデル供給源(Spithead Miniature)とのコンタクト
とまあ、上述のような大きな動きのあった7月前半だったのですが、一方で、新たなモデルの供給元とのコンタクトもありました。
上掲のFaceBookのリンクからSpithead Miniatureにアクセスが可能です。
このコンタクトは筆者にとって全く新しいもの、と言うわけではなく、実は数年前に一度コンタクトしていたのですが、それが上掲のShapewaysのグダグダの煽りで再発掘できた、そんな経緯です。
Spithead Miniatureの代表はおそらくUKの人(価格表がポンドで表示されています)で、本稿でこのところ取り上げている前弩級戦艦の登場以前の南北戦争や普墺戦争期の、蒸気軍艦、あるいは蒸気装甲艦などに大変力を入れている製作者です。代表はことある毎に「これは私のビジネスではなく趣味なのだ」と言うことを強調しています。
そのモデル供給のスタイルはかなり特殊で、代表が自身の興味領域でモデル製作の計画を開示し、興味のあるメンバーが「サポート」に手を上げます。「サポーター」が二十人ほど集まると、代表はモデル作成に着手、数量を限定したモデルが作成されます。そして完成後は基本「サポーター」として手を挙げたメンバーだけが、モデルの供給を受けられる、と言うシステムで、運営されています。「サポーター」は「サポート」の宣言時点では住所等個人を特定する情報だけを代表に開示し、特にその時点で金銭的なやり取りは発生しません。どの計画を「サポート」するかは自由で、一旦宣言しても必ずしもモデルを購入する必要はないようです。ですので計画によってはいくつかモデルが残り、筆者のような「ゲスト」にも購入希望の順番待ちの列に並ぶ機会が発生するわけです。
現在、筆者は、下記のフランス海軍の装甲艦についての投稿で穴が開いている複数のモデルの順番待ちの列に並んでいます。
上の写真は筆者が現在購入希望者として順番待ちの列に並んでいるモデル群です。上段の写真のうち、「オセアン:Ocean」「リシュリュー:Richelieu」「コルベール:Colbert」そして下の吹き出しにある「ルドゥタブル:Redoutable」に希望を出しています。「すでに何人かサポーターから取り消しが来ているし、君が希望ありと言ったのは早かったので、可能性高いんじゃない?」と言うコメントはもらっていますが、どうなることか。一点気になっているのはスケールが1:1200なんですよね。多分前回もあまり話を進めなかったのは、このスケールの点と、上記の「サポート」を具体的にどうすればいいのか、あまり理解できなかった、と言うのがあったような。
しかし「サポート」を取り消していいのなら、取り敢えずは手を上げておけばいいじゃないかと思ったのですが、「「サポート」の宣言の取り消しには正当な理由がない限りは、以降他の計画への「サポート」の誘いをかけなくなるので、欲しいものがあった際には順番待ちに並んでもらうことになる。だから「サポート」には慎重に手を上げて欲しい」と言われました。やっぱり何かペナルティがあるんですね。
戊辰戦争の幕府艦隊と官軍艦隊:なんとマニアックな
などと釘を刺しつつも代表は「戊辰戦争には興味があるんじゃなかな、と思っているんだけど」といきなり北越戦線(司馬遼太郎の「峠」で脚光を浴びた河合継之助率いる長岡藩と官軍の戦争)の寺泊海戦(聞いたことなかった!)の参加艦艇の一覧を送ってきて、「何か情報があったらシェアして頂戴」と言われました。取り敢えず少しは情報が手に入った「摂津艦」についての情報を機械翻訳して送っておきました。
確かに代表が送ってくれた計画一覧には「戊辰戦争:Boshin」の項があり、上掲のFaceBookでは下記のような写真を見ることができます。
(上掲の写真は、Spithead Miniatureの戊辰戦争時の幕府艦隊(上段)と官軍艦隊のセット一覧)
別途送られてきた計画表では「もし興味があたら、その旨お知らせを。バッチ2を作成する計画あり」だそうです。「サポーター」募集中、と言うことでしょうね。その表ではここれらは幕府艦隊(写真の7隻:30ポンド)と官軍艦隊(写真の7隻:28ポンド)のそれぞれセットで販売されることになるようです。どちらか一方と言うわけにもいかず両方で送料まで入れると15000円ほどでしょうか。いい値付けだなあ。
まあ手を上げるのは慎重に、と言ってくださっていることでもあるし、もう少し考えてみましょう。
この他にも本稿でも取り上げた「リッサ海戦」なども全部で8セットが記載されています(装甲艦だけでなく、周辺の戦闘も含め木造艦なども含まれています)。こちらはバッチ2の販売を終了、バッチ3のサポーターを募集中、と記載されています。リストを見ているだけでもワクワクします。
ということで、今回はShapewaysの破産という衝撃的なニュースが筆者のコレクションにどれだけ影響があるか、というお話でした。
次回はモデルのお話に戻って、前回の続きで英海軍の近代戦艦(前弩級戦艦)のお話、あるいは現在制作中のモデルの完成状況のお話でも、と考えています。
もちろん、もし、「こんな企画できるか?」のようなアイディアがあれば、是非、お知らせください。
模型に関するご質問等は、いつでも大歓迎です。
特に「if艦」のアイディアなど、大歓迎です。作れるかどうかは保証しませんが。併せて「if艦」については、皆さんのストーリー案などお聞かせいただくと、もしかすると関連する艦船模型なども交えてご紹介できるかも。
もちろん本稿でとりあげた艦船模型以外のことでも、大歓迎です。
お気軽にお問い合わせ、修正情報、追加情報などお知らせください。
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