本稿では1ヶ月ほど前の投稿で、筆者のコレクションの特に第一次世界大戦期のコレクションの主力を占めるNavis製のモデルのヴァージョン・アップのお話を、何度か、ドイツ帝国海軍(第一次世界大戦期)の前弩級戦艦・装甲巡洋艦を例に引いてご紹介してきました。
どういう事か、未読の方のためにかいつまんで言うと、「コレクション時は高品質という認識で集めたモデルも、次のヴァージョンがメーカーから発表されると、まず、「どうしても」新旧ヴァージョンの比較をしたくなってしまう、そして一旦比較したら、その差異は当然歴然としているので(メーカーさんはそのために更新しているわけですし、模型製作の技術やスキルも上がっているのは間違いないですから)全てを新ヴァージョンに置き換えたくなる、いつまで経ってもコレクションが完成しない(この部分については、筆者の懐事情が大きな要因でもあるわけですが)、こうした「困った状況」に直面している」と、まあそう言う一種の「ぼやき」のお話なのです。
そして、その中で、「この新旧ヴァージョン問題はその他の国の艦艇でも同じように惹起しており、ドイツ装甲巡洋艦の次は、そのライバルの英海軍装甲巡洋艦でも、より深刻な形で進行中です。(筆者としては、実はこの英海軍のNavis製モデルの新旧ヴァージョンの方がその差異が大きく、なんとかしたい、と思っていますので、これも近々、ご紹介することになるだろうなあと考えています)」とご紹介していました。
と言うわけで、今回は英海軍(ロイヤル・ネイビー)の装甲巡洋艦のNavis新モデルが幾つか揃ってきたので、そのご紹介です。
全ての英海軍の装甲巡洋艦の艦級がアップデートできた訳では無いので、体系的なご紹介はまた後日、と言うことになるのかな、と思っています。
列強海軍の例に漏れず、英海軍も装甲巡洋艦の整備を20世紀の初頭から始めています。
これまで装甲巡洋艦という艦種がどのような艦種なのか、ということを何度かご紹介しているので、少し端折って改めてご紹介すると、装甲巡洋艦の成立は実は2系統あった、と筆者は感じています。一つは前弩級戦艦を主力艦として列強が整備した時期に、装甲巡洋艦を準主力艦、と位置付けて、同種艦数隻で戦列を構成して戦艦部隊とともに行動させる、いわゆる高速主力艦として艦隊決戦の戦力として位置付けた発展の系統で、こちらは海外にあまり多くの植民地を持たず、つまり守るべき通商路をあまり意識しなかった海軍、ドイツ帝国海軍や日本海軍における装甲巡洋艦の在り方でした。
そしてもう一つの系統は、通常の巡洋艦本来の適性国に対する通商破壊や自国の商船護衛、植民地警備といった任務を想定し、長期間の作戦航海への適性や快速性に重点をおき、さらにそれに砲力や防御力を付加した強化型巡洋艦の到達点としての段階が「装甲巡洋艦」だった、という系統で、海外に植民地を多く持つ英海軍やフランス海軍において保有され、発展を遂げました。
少し英海軍独自の問題点を挙げておくと、この強化型巡洋艦の整備については、英海軍は従来の防護巡洋艦の形式を多彩にすることによって(一等、二等、三等等のクラス分け等)ある程度対応していましたので、たとえばフランス海軍などに比べると装甲巡洋艦の整備としてはやや立ち上がりが遅かったように見えます。
今回はアップデートモデルがまだ揃っていないので、各艦級についての説明はあまり詳しくせず、モデルのヴァージョン・アップのお話にとどめたいと考えていますが、一応、英海軍が整備した装甲巡洋艦の艦級を整理しておくと、以下の7艦級、ということになります。
クレッシー級装甲巡洋艦(1901年から就役:同型艦6隻、12,000トン、23.4cm(40口径)単装砲2基、21ノット)
ドレイク級装甲巡洋艦(1902年から就役:同型艦4隻、14,150トン、23.4cm(45口径)単装砲2基、23ノット)
モンマス級装甲巡洋艦(1903年から就役:同型艦10隻、9,800トン、15.2cm(45口径)連装速射砲2基+同単装速射砲10基、23ノット)
デヴォンシャー級装甲巡洋艦(1905年から就役:同型艦6隻、10,850トン、19.1cm(45口径)単装砲4基、22.25ノット)
デューク・オブ・エジンバラ級装甲巡洋艦(1906年から就役:同型艦2隻、13,550トン、23.4cm(45口径)単装砲6基、23.25ノット)
ウォーリア級装甲巡洋艦(1906年から就役:同型艦4隻、13,550トン、23.4cm(45口径)単装砲6基、19.1cm(45口径)単装砲4基、23ノット)
マイノーター級装甲巡洋艦(1908年から就役:同型艦3隻、14,600トン、23.4cm(50口径)連装砲2基、19.1cm(50口径)単装砲10基、23ノット)
上掲の各艦級の概要を一覧していただくと、およそこのような概ね二段階の発展の概要が見えてくるように考えています。
第一グループ:巡洋艦本来の任務である海外植民との通商路警備を主任務として、襲撃してくる敵性巡洋艦を排除できる火力と打ち負けない防御力(舷側装甲)を併せ持った「強化型巡洋艦」として発展を遂げた艦級群で、クレッシー級からデヴォンシー級までの4艦級26隻が建造されています。
(第一グループ=強化型巡洋艦の関係推移の一覧:手前から「クレッシー級(旧モデル)」「ドレイク級(旧モデル)」「モンマス級」「デヴォンシャー級」の順)
第二グループ:英海軍の仮想敵であるドイツ帝国海軍やフランス海軍で発展を遂げつつあった装甲巡洋艦を意識して、主力艦船体の補助戦力や高速を活かした前衛として格段に火力を強化した「準主力艦」としての艦級群で、デューク・オブ・エジンバラ級からマイノーター級の3艦級9隻がこれに該当すると考えています。
(第二グループの艦型推移の一覧:手前から「デューク・オブ・エジンバラ級」「ウォーリア級」「マイノーター級」の順)
そしてちょうど第二グループの模索中に、一方の艦隊主力艦では革新的な「ドレッドノート」が就役し、続々とこれに続けて「弩級戦艦」が量産されてゆきます。この主力艦はこれ以弩級戦艦」「超弩級戦艦」へと発展してゆき、「前弩級戦艦」の補助戦力として整備された「装甲巡洋艦」という艦種自体が役目を終え「巡洋戦艦」という艦種がこれに変わり登場してくるのです。
装甲巡洋艦のモデル、新旧ヴァージョン比較
今回はまだ全てのモデルの新ヴァージョンが揃っている訳ではないの、各艦級についてはまた後日ご紹介数rとして、今回は新旧モデルの比較のみ、簡単にご紹介したいと考えています。
今回、Navis新モデル(いわゆるNavis Nですね)が入手できているのは上掲の7艦級のうち、「モンマス級」「デヴォンシャー級」「デューク・オブ・エジンバラ級」「ウォーリア級」「マイノーター級」の5艦級です。
(9,800トン、15.2cm(45口径)連装速射砲2基+同単装速射砲10基、23ノット)
(「モンマス級」装甲巡洋艦の概観:110mm in 1:1250 by Navis N=新モデル)
広範な英国の通商路警備を想定すると隻数を確保する必要があることから、前級「ドレイク級」を縮小したタイプとして10隻が建造されました。従来の主砲は搭載が見送られ、15.2センチ速射砲を新開発の連装砲塔2基と舷側の10基の単装砲の形式で搭載されました。意欲的に開発された連装砲塔でしたが、重量が大きい割に動作が緩慢で、重量対策に舷側装甲を抑えねばならず、結果的に攻撃力・防御力共に満足のいく結果は得られなかったようです。
第一次世界大戦では1隻の戦没艦を出しています。
(下は「モンマス級」のNavis旧モデル:もちろん旧モデルも決して品質が低かった訳ではなく、かなり満足がいっていたのですが、新ヴァージョンと比べてしまうと見劣りは否めません。やはり新モデルはキリッと締まっている、というか・・・)
(上の写真は「モンマス級」の新旧モデル比較:左列が旧モデル:上部構造物やボート類、舷側砲門のモールドなどの精度が上がっているのがわかると思います)
デヴォンシャー級装甲巡洋艦(1905年から就役:同型艦6隻)
(10,850トン、19.1cm(45口径)単装速射砲4基、15.2センチ単装速射砲6基、22.25ノット)
(「デヴォンシャー級」装甲巡洋艦の概観:125mm in 1:1250by Navis N)
課題の多かった前級の経験に基づき主砲が復活され、19.1センチ単装砲4基が搭載されました。配置は艦首部・艦尾部に加え、艦首方向への火力を重視したため両舷舷側の艦首よりの位置に1基づつ配置されました。舷側装甲もやや強化されています。
第一次世界大戦では1隻が触雷で失われています。
(下は「デヴォンシャー級」のNavis旧モデル)
(上の写真は「デヴォンシャー級」の新旧モデル比較:左列が旧モデル:艦橋等の丈夫構造物やボート類、舷側砲門のモールドなどの精度が上がっているのがわかると思います)
デューク・オブ・エジンバラ級装甲巡洋艦(1906年から就役:同型艦2隻)
(13,550トン、23.4cm(45口径)単装砲6基、15.2センチ単装速射砲10基、23.25ノット)
(124mm in 1:1250)
(「デューク・オブ・エジンバラ級」装甲巡洋艦の概観:124mm in 1:1250by Navis N)
英海軍は同級から、装甲巡洋艦の設計を一新しています。これまで通商路警備に重点を置かれた設計であった同海軍の装甲巡洋艦でしたが、特に風雲の怪しいドイツ帝国海軍で整備の進む装甲巡洋艦群を指揮して、同級から艦隊戦での優位を意識した設計へと移行しています。このため主砲の口径が大威力の23.4センチに戻され、単装砲塔で6基(艦首・艦尾・舷側に各2基)が搭載されています。この配置で艦首尾線上には主砲3基、舷側方向には主砲4基の指向が可能となりました。
第一次世界大戦では巡洋戦艦の登場で戦略価値が下がっていましたが、1隻(「ブラック・プリンス」)がユトランド沖海戦で失われています。
(下は「デューク・オブ・エジンバラ級」のNavis旧モデル)
(上の写真は「デューク・オブ・エジンバラ級」の新旧モデル比較:左列が旧モデル:艦橋等の上部構造物やボート類、主砲塔のモールドなどの精度が見違えるほど上がっているのがわかると思います)
ウォーリア級装甲巡洋艦(1906年から就役:同型艦4隻)(13,550トン、23.4cm(45口径)単装砲6基、19.1cm(45口径)単装砲4基、23ノット)
(「ウォーリア級」装甲巡洋艦の概観:127mm in 1:1250by Navis N)前級「デューク・オブ・エジンバラ級」でそれまでとは一線を画した新たな装甲巡洋艦像を世に問うた英海軍でしたが、同級ではそれを一歩進め主砲(23.4センチ)に加え19.1センチ砲を中間砲として採用しさらに火力を強化しています。これら主砲・中間砲を全て砲塔形式で搭載し、荒天時でも射撃を可能としています。
第一次世界大戦では事故で2隻を失い、1隻を戦闘で失っています。
(下は「ウォーリア級」のNavis旧モデル)
(上の写真は「ウォーリア級」の新旧モデル比較:左列が旧モデル:艦橋等の上部構造物やボート類、主砲塔のモールドなどの精度が見違えるほど上がっているのがわかると思います)
(14,600トン、23.4cm(50口径)連装砲2基、19.1cm(50口径)単装砲10基、23ノット)
(「マイノーター級」装甲巡洋艦の概観:127mm in 1:1250by Navis N)前級「ウォーリア級」で採用した主砲(23.4センチ)と中間砲(19.1センチ)の混載方式による火力強化をさらに進め、主砲(23.4センチ)は艦首尾に連装砲塔で搭載し、舷側には中間砲(19.1センチ)の単装砲塔を各舷5基搭載する、重装備艦でした。しかし既に格段の攻撃力と速力を備えた巡洋戦艦の建造へと移行しつつあり、就役時に既に旧式設計艦として二線級の扱いを受け座絵雨を得ませんでした。同級が英海軍が建造した最後の装甲巡洋艦となりました。
第一次世界大戦では1隻を戦闘で失っています。
(下は「マイノーター級」のNavis旧モデル)
(上の写真は「マイノーター級」の新旧モデル比較:左列が旧モデル:艦橋等の上部構造物やボート類、主砲塔のモールドなどの精度が見違えるほど上がっているのがわかると思います)
新ヴァージョンのモデル未入手の艦級(旧モデルをご紹介)
さて、以下のご紹介するのは、今回モデルのヴァージョン・アップから漏れた2艦級です。結構Navis Nのモデルを探しましたが見つからない、困ったものです。さてどうしたものか、という感じではあるのですが、WTJ(フランス艦船のコレクションで結構お世話になっているメーカーです。3D printing modelの「はしり」と言ってもいいかもしれません)で、カタログに載っているので、Navisモデルのヴァーション・アップ・モデル以外にも考えてみようかな、と考えています。
こちらは入手し、完成したらご紹介します。今回は。Navisの旧モデルを再掲しておきます
(12,000トン、23.4cm(40口径)単装砲2基、15.2センチ単装速射砲12基、21ノット)
(「クレッシー級」装甲巡洋艦の概観:114mm in 1:1250by Navis)
英海軍は多くの海外植民地に至る広範な通商露防護を目的に、敵性通商破壊艦の出没に対抗するため、10000トンを超える大型防護巡洋艦の艦級を整備していました(「パワフル級」「ダイアデム級」)。一方でフランス海軍で建造された舷側装甲を持った巡洋艦の登場に刺激され、これら大型防護巡洋艦に舷側装甲を持たせた同級を建造しました。建造の経済効率に配慮された「ダイアデム級」一等防護巡洋艦をタイプシップとして、英国の広範な通商路保護を念頭に置くと数を揃える必要があることから6隻が建造されました。
第一次世界大戦では3隻の戦没艦を出していますが、これらはいずれも潜水艦からの雷撃によるものでした。
(14,150トン、23.4cm(45口径)単装砲2基、15.2センチ単装速射砲16基、23ノット)
(「ドレイク級」装甲巡洋艦の概観:128mm in 1:1250 by Navis)
「クレッシー級」の拡大改良版で、大型の機関を搭載したため大幅に関係が大型化しています。この機関の搭載で23ノットの速力を発揮することができるようになりました。関係の大型化により搭載火器も強化され、23.4センチと口径は同じながら、砲身長を45口径にすることにより主砲の破壊力は強化されています。副砲(15.2センチ単装速射砲)の搭載数も前級の12基から16基に強化されています。
第一次世界大戦では2隻が戦没していますが、そのうちの1隻(「グッド・ホープ」)はコロネル沖海戦でドイツ帝国が準主力艦として整備した「シャルンホルスト級」装甲巡洋艦との砲撃戦で失われています。
というわけで、今回はこのところ筆者の大きな関心事となっているNavis新旧モデルのヴァージョン・アップ問題の続き、ということで、ある程度新ヴァージョン・モデルが揃ってきた英海軍の装甲巡洋艦の艦級のご紹介をしました。こうして一通り揃ってくると、やはり関連の英海軍の前弩級戦艦群のモデルのヴァージョン・アップも意識に登ってきます。キリがない。困ったことです。
次回はフランス海軍艦艇の続きで、同海軍の弩級戦艦以降の開発のお話にしましょうか?
もし、「こんな企画できるか?」のようなアイディアがあれば、是非、お知らせください。
模型に関するご質問等は、いつでも大歓迎です。
特に「if艦」のアイディアなど、大歓迎です。作れるかどうかは保証しませんが。併せて「if艦」については、皆さんのストーリー案などお聞かせいただくと、もしかすると関連する艦船模型なども交えてご紹介できるかも。
もちろん本稿でとりあげた艦船模型以外のことでも、大歓迎です。
お気軽にお問い合わせ、修正情報、追加情報などお知らせください。
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