相州の、ほぼ週刊、1:1250 Scale 艦船模型ブログ

1:1250スケールの艦船模型コレクションをご紹介。実在艦から未成艦、架空艦まで、系統的な紹介を目指します。

「空母いぶき」:シーズン1の敵役:中国海軍の水上戦闘艦艇

今回は前回からの流れで、コミック「空母いぶき」のシーズン1の敵役、中国海軍の艦艇のご紹介です。

 

コミック「空母いぶき」

少しおさらいしておくとコミック「空母 いぶき」は2014年から「ビッグコミック」(小学館)に連載が開始された、かわぐちかいじ氏による漫画です。

海上自衛隊が導入した航空機搭載型護衛艦(DDV)「いぶき」をその物語の中心に据えて、日本周辺の「有事」を想定し、その有事に対処することの意味、方法、そして何を考えるべきか、というようなことを考えさせる物語になっています。

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現在、ビッグコミックに連載中の「Great Game」は「北方有事」を扱っています。その関係で敵役はロシア海軍なのですが、本稿前回ではここで登場するロシア海軍艦艇をご紹介しています。

fw688i.hatenablog.com

 

一方、第一シリーズでは南西諸島方面を舞台に離島が「隣国」に上陸占拠されたという自体に、自衛隊初の航空機搭載型護衛艦(DDV)「いぶき」を中心とした艦隊が出撃し、どう事態に対処するか、という話になっています。日本周辺の有事を描いているので、関係諸国は近隣国であり、ストーリーもリアルさゆえに、表現はかなりセンシティヴなものではあるのですが、同書では登場する国、敵味方を問わず艦船等、現存するものは全て実名(あるいはNATO諸国での通称)で出てきます。(映画版ではおそらくその辺りへの配慮もあってか、進行してくる敵国も含め、全て架空名称に置き換えられていました)

そして、空母「いぶき」を中心に構成される艦隊は「第5護衛隊群」と呼ばれているのです。

コミック版の第一シリーズでは、「第5護衛隊群」は以下の艦船で構成されています。

航空機搭載型護衛艦「いぶき」(DDV-192)

護衛艦「あたご」(DDG-177「あたご級」イージスミサイル護衛艦

護衛艦「ちょうかい」(DDG-176 「こんごう級」イージスミサイル護衛艦

護衛艦「ゆうぎり」(DD-153「あさぎり級」汎用護衛艦

護衛艦「せとぎり」(DD-156「あさぎり級」汎用護衛艦

潜水艦「けんりゅう」(SS-504「そうりゅう級」)

補給艦「おうみ」(AOD-426「ましゅう級」艦隊補給艦)

こちらの艦艇については本稿の以下の回で紹介しています。

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 ddv192.jp

そして敵役は「中国海軍」。艦艇も全て実名で出てきます。

ストーリーは、突如、中国軍が与那国島尖閣諸島に侵攻作戦を展開しこれらの島々を占領します。これに対し、日本政府は訓練中の「空母いぶき」を中心とした第五護衛隊群に出撃命令を下令し、同部隊は現地に急行するのですが、中国海軍もこれを迎撃すべく新鋭空母「広東」を中心とした機動部隊を出撃させ、両者が衝突する、ざっとそんなお話です。

 

航空母艦「広東:Guangdong」(コミック刊行時点では架空艦)

ここで登場する中国海軍の新鋭空母「広東」は、同コミックの刊行当時は架空の初の中国国産の空母の艦級として描かれていましたが、現時点では「002級」空母として「山東」の艦名で就役しています。

「002級」航空母艦山東:Shandong」

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繰り返しになりますが、同級は中国海軍初の国産航空母艦です。それまで中国海軍は折からの財政難で70%程度の完成時点で建造が止まっていたロシア海軍の「アドミラル・グスネツォフ級」空母二番艦「ヴァリャーグ」を買い取り、「遼寧」と艦名を改め就役させていましたが、「002級」空母はこの改良型と言っていいと考えています。「002級」と称されていますが、現時点で同型艦の建造予定はないようです。(「遼寧」は、むしろ「アドミラル・グスネツォフ級」の準同型艦=改良型、と見做されることが一般的かも)

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基準排水量56000トン(「遼寧」は46000トン:58500トンと言う資料もあり)の船体を持ち、艦首をスキージャンプ台形状にしたいわゆるSTOBAR式の発着艦方式を「遼寧」から踏襲しています。

搭載機は固定翼機32−36機と、回転翼機(ヘリコプター)最大16機を搭載する能力があるとされています。

固有武装としては主として個艦防衛用のSAM18連装発射機4基、CIWS3基、それに対潜ロケット発射機2基を搭載しています。

「空母いぶき」では最終航空戦で、「いぶき」搭載機の単機での機銃掃射を飛行甲板に受けて損傷し発着艦機能を奪われ、これをきっかけに事態は収束に向けてが動き始めました。

 

同級のモデル

1:1250スケールでは。、同級の3D printing modelが、3D shipsやBill's Modelsなど複数の製作者から出ているようですが、筆者は残念ながら未入手です。

(写真は3D shipsから発売されている「山東」の1:1250スケールモデルShapewaysで入手可能です。同サイトでの説明では全長244mmのモデルになるようです)

 

「001級」空母 「遼寧:Liaoning」

実はコミックでは冒頭に遭難者を装った中国工作員先島諸島への上陸を発端に、中国海警局の警備船と海上保安庁の巡視船の小競り合いがあり、この事態収集時に少しだけ「遼寧」が出てきます。

(上掲の写真は、「遼寧」のモデル。Amature Wargame Figure製:筆者未入手)

 

「003級」空母 「福建:Fujian」

中国海軍の現有の2隻の空母はいずれもスキージャンプ台形式の艦首を持っていますが、2022年に進水したとされている次級の航空母艦「福建」では、電磁カタパルトを有したフラットな艦首形状を持っているようです

(3D shipsから上梓されている「福建」のモデル:フラットな飛行甲板を持っています。船体もひと回り大きいようです)

 

以下はコミック版「空母いぶき」に登場する空母「広東」を中心に構成される機動部隊に所属する水上艦の艦級をご紹介してゆきます。

052C(蘭州)級駆逐艦同型艦6隻 就役:2004年-

コミック版「空母いぶき」には同級の「西安:Xian」が登場しています。

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前級の052B級の設計を基礎に、HHQ-9艦隊防空システムを搭載し、さらに中国海軍としては初めてアクティブ・フューズド・アレイ・アンテナ を装備し、これを艦橋の周囲に貼ったことから、中国版イージス艦と言われました。

NATOのコードネームは「旅洋II」。7112t、29ノット。

(「052C級」駆逐艦の概観:124mm in 1:1250 Amatuer Wargame Figures製:3D printing model)

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艦橋の周囲にアクティブ・フューズド・アレイ・アンテナ を装着したところから、上部構造物は052B級よりも一段高く設計され、異なる艦容となっています。

(艦橋側面に装着されたフューズド・アレイ・レーダー)

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兵装の目玉はなんと言ってもHHQ-9A対空ミサイルで、このミサイルをリボルバー式6連装VLSを8基に搭載しています。ミサイル搭載数は48基とやや少なめですが、これは前級052Bの装弾数と同数なのです。

(同級に特徴的な6連装リボルバーVLS。前部甲板に6基、ヘリハンガー上に2基装備。シルバーの丸い装備です。このリボルバー式のVLSは、旧ソ連・ロシアの技術から受け継いだものですね)

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その他の兵装は、主砲として100mm単装速射砲、対艦兵装としてはYJ-83対艦ミサイルの4連装発射機を2基装備しています。併せて近接防御として30mm CIWS 2基を搭載。加えて対潜装備としてはヘリコプター1機を搭載し、短魚雷発射管を装備しています。

 

コミック版「空母いぶき」では、「いぶき」の航空隊の空襲でVLS他を損傷し無力化されました。

 

052D(昆明)級駆逐艦同型艦:19隻 就役:2014年~

コミック版「空母いぶき」には空母「広東」の護衛部隊として「銀川:Yinchuan」「太原:Taiyuan」「南京:Nanjing」が登場しています

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前出の052C級駆逐艦の改良型DDGで、現状では中国海軍、特に空母機動部隊の中核を構成する艦級です。外見からも明らかなように中国版イージスと呼称されています。2022年時点で23隻が就役しており、さらに2隻が建造中で、さらに追加が検討されているようです。

NATOのコードネームは「旅洋Ⅲ」。7500t、30ノット。

(「052級」駆逐艦の概観:124mm in 1:1250 by 幕之内弁当三次元造形製:3D printing model)

同級では、上掲の053C級でご紹介したこれまでの中国海軍の(ロシア海軍の、というべきか?)特徴的なリボルバーVLSではなく、米海軍や海上自衛隊と同じようなキャニスター式のVLSを採用しています。(装填等が同じ方式かどうかは?)

この艦首部と艦中央部に装備された各32セルのVLSにはHHQ-9対空ミサイルと、YJ-18対艦ミサイルが装填されていますが、さらに、対潜ミサイル、巡航ミサイルにも対応している、と言われています。

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(同級に搭載されたVLS。前級のリボルバー式から、キャニスター式(?)への変更が見られます)

それらミサイル群を操る搭載するフューズド・アレイ・レーダーは改良型のドラゴン・アイに変更されています。

VLS以外の主要武装は、主砲として130mm単装速射砲を装備し、近接防御用に30mm CIWSとHHQ-10近接防空ミサイルを、そして対潜装備としてはヘリコプター1機を搭載し、短魚雷発射管を装備しています。

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(艦橋側面に装着された改良型のフューズド・アレイ・レーダー) 

同級の14番艦以降はヘリ発着艦甲板を拡大し、全長をやや延長しています。

(下の写真は「052D級」(写真下)と14番艦以降のヘリ甲板を延長した「052DL級」の比較)

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コミック版「空母いぶき」では「太原」が「いぶき」の航空隊の空襲でVLS他を損傷し、「南京」が潜水艦「けんりゅう」の魚雷を艦首にうけ、それぞれが無力化されました。「銀川」は最終航空戦で来襲した「いぶき」搭載機のソニックブームで損傷しています。

 

054A(江凱II)級フリゲート同型艦:30隻 就役:2008年-

コミック版「空母いぶき」では空母「広東」の機動部隊の構成館として「揚州:Yangzhou」「黄岡:Huanggang」が登場しています。

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同級は外洋進出を目指す中国海軍の中核的な存在となるべく、艦型を一気に大型化し、これまでのフリゲートとは一線を画する高い航洋性を有する艦級となりました。

NATOのコードネームは「江凱」。3400t、27ノット。

(「054A級」フリゲートの概観:108mm in 1:1250 by 幕之内弁当三次元造形製:3D printing model)

西側諸国の技術を導入し、ステルス性を意識した艦容となっています。

VLSに搭載した対空ミサイル、対潜ミサイルで高い対空・対潜戦闘力を保有し、YJ-83対艦ミサイル4連装ランチャー2基で対艦戦闘能力も確保したバランスのいい艦級となっています。他に対潜ロケット、短魚雷発射管、対潜ヘリ等の対潜兵装も充実し、汎用フリゲートとして高い完成度を見せています。

(同級に搭載されたVLSと艦中央部に装備された対艦ミサイル発射機(下段写真))

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(中国海軍のフリゲートの艦型比較。手前から053A級、053H級、054級の順:053A級が大きな船体を持ち、それまでの沿岸警備的なフリゲートの設計とは一線をかくする設計であることがよくわかります)

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(中国海軍のフリゲート駆逐艦の艦型比較。054A級フリゲート(手前)と052D級駆逐艦フリゲート艦が航洋性を備え、兵装を充実させ、大さが駆逐艦に迫ってきているのがよくわかります) 

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コミック「空母いぶき」では、「いぶき」搭載機との交戦で「黄岡」が損傷、最終戦で「揚州」が来襲機(「いぶき」搭載機)のソニックブームで損傷しています。

 

「別働隊」の戦い

コミック版「空母いぶき」では、空母「広東」機動部隊とは別に、多良間島沖で、海上自衛隊の第五護衛隊群の接近を警戒していた052A級駆逐艦「哈爾濱:Harbin」、053H3級フリゲート「洛陽:Luoyang」が、第五護衛隊群の「ちょうかい」と砲戦を交わしています。

 

052(旅滬)級駆逐艦同型艦:2隻 就役:1993年-

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本級はそれまでソ連製の艦艇を輸入、あるいはタイプシップとして軍艦を建造してきた中国海軍が、西側の技術を大幅に導入して独自の設計で建造した初めての駆逐艦の艦級です。

「旅滬」はNATOのコードネーム。

機関にガスタービンを採用し、ヘリコプターの搭載能力も付与されています。

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(「052級」駆逐艦の概観:119mm in 1:1250 Amatuer Wargame Figures製:3D printing model)

56口径100mm連装砲1基、 HHQ-7短SAM、YJ-83対艦ミサイル、対潜ロケット、対潜短魚雷等を、主要な兵装として装備しています。 搭載する対潜ヘリは2機。

4800t、31.5ノット

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(「052級」駆逐艦の兵装:対潜ロケット、56口径100mm連装砲1基、 HHQ-7短SAM (上段写真)YJ-83対艦ミサイル、CIWSの配置などがよくわかります)

 

「空母いぶき」では「哈爾浜:Harbin」が海自の「ちょうかい」と交戦し、兵装を破壊され、無力化されました。

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053H(江衛)型フリゲート同型艦14隻 就役:1991年-

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1980年代から、それまでの旧ソ連の技術への依存から西側技術の導入に姿勢を改めた中国海軍が、それまでのフリゲートに対空ミサイルとヘリコプター搭載能力を付加したものとして建造されました。

江滬はNATOのコードネーム。2286t、27ノット。

100mm連装砲1基、対空ミサイルとしてHQ-61M6連装ランチャーまたはHQ-7 8連装ランチャーを1基搭載し、YJ-83対艦ミサイル4連装発射機2基、37mm連装機関砲4基、対潜ロケット発射機、対潜ヘリコプター1機などを搭載し、汎用性の高いバランスの取れた艦級です。

(「053H級」フリゲートの概観:90mm in 1:1250 Hai製)

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(下の写真は053H級フリゲートの主要兵装の拡大。前部甲板上の対潜ロケット発射機、100mm連装砲と対空ミサイル発射機、艦橋脇の37mm連装機関砲(写真上段)。艦中央部の対艦ミサイル発射機とヘリハンガー上の37mm連装機関砲)

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コミック版「空母いぶき」では、上述のように多良間島方面の警戒隊として「洛陽:Luoyang」が登場し、海自「ちょうかい」と交戦。「ちょうかい」の主砲のピンポイント射撃により、主砲・対艦ミサイル等の主要兵装を破壊されました。

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以上、コミック版「空母いぶき」に登場する水上戦闘鑑定をご紹介してきましたが、文字通り水面下では潜水艦が活躍しています。

今回はまずは水上艦のみで。

 

と言うことでいくつかの中国海軍の艦級をご紹介してきましたが、水上艦艇の系譜が気になる方は本稿下記の投稿をご覧になってみてください。

fw688i.hatenablog.com

 

上記の投稿の中でも記述していますが、皆さん御承知のように中国海軍は拡張を続けています。

ざっと2022年時点での艦艇構成をまとめておくと、戦略原潜6隻 攻撃原潜6隻 通常動力潜水艦46隻 空母2隻 大型駆逐艦巡洋艦:055級)4隻 駆逐艦34隻 フリゲート49隻 コルベット56隻 哨戒艇67隻 大型揚陸艦36隻 中型揚陸艦16隻と、もちろんアジアでは突出した存在になっています。

そして、その実力の程を実感する場面があまりないことは、ありがたいこと、と言わねばならないと考えています。

 

と言うことで、今回はこの辺りで。

 

次回はロシア海軍駆逐艦フリゲートの系譜など、いかがでしょうか?

もし、「こんな企画できるか?」のようなアイディアがあれば、是非、お知らせください。

 

模型に関するご質問等は、いつでも大歓迎です。

特に「if艦」のアイディアなど、大歓迎です。作れるかどうかは保証しませんが。併せて「if艦」については、皆さんのストーリー案などお聞かせいただくと、もしかすると関連する艦船模型なども交えてご紹介できるかも。

もちろん本稿でとりあげた艦船模型以外のことでも、大歓迎です。

お気軽にお問い合わせ、修正情報、追加情報などお知らせください。

 

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