相州の、ほぼ週刊、1:1250 Scale 艦船模型ブログ

1:1250スケールの艦船模型コレクションをご紹介。実在艦から未成艦、架空艦まで、系統的な紹介を目指します。

GW:懸案の「あの防空巡洋艦」を製作:そしてピカード ・シーズン2の最終話:終わってしまった

GW、皆さんはゆっくりできましたか?

久々の制限のない大型連休、という事で、これまでやれなかった事、行けなかった場所に行かれた方も多いのでは?筆者はと言うと、取り立てて特別なこれと言った事はなく、静かでゆっくりと自分の時間を持つことができました。これはこれで大収穫。

ご褒美的な出来事としては庭の薔薇が、今年はGWに同時に咲いてくれたこと。

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(上の写真:庭の黄色い薔薇「イルミナーレ」:我が家の庭に来て3年ほどになりますが、実はこんなに一斉に咲いてくれたのは、初めてです)
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(上の写真:我が家の庭の主的な存在である白い薔薇「アイスバーグ」:毎年、この時期は満開に。そして今年は一緒にピンクの薔薇「フューチャー・パヒューム」も一輪だけ花を咲かせてくれました。この子はうちに来て足掛け2年と言うところ(下段中央)。ついでに、と言うと失礼にあたるかもしれませんが、最古参のミニ薔薇君も花をつけてくれています(下段右:こんなに庭が薔薇で賑やかなのは、初めてかも

 

そして、長らく気になっていた英海軍の「あの防空巡洋艦」を形にすることができた、これもささやかな成果、と言っていいでしょう。

この制作についての構想はかなり以前から(本稿でも記述はしていました)持っていて、素材の調達も手順の組み立て(妄想)も終わっていたのですが、GWをきっかけとして手をつけることが出来ました。集めた素材をあらためて広げてみて、設計の最終構想の決定と実際の作業、そして塗装ほか細部の仕上げ、と足掛け3日、7時間ほどの作業でした。これはやはりまとまった時間が取れたから、かと。

今回はその成果のご紹介と、英海軍の防空巡洋艦のおさらいを。

今回はそう言うお話です。

 

・・・と言うことなのですが、本論のその前に、例によって。

スター・トレック ピカード  シーズン2」Episord 10(最終話)

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(ネタバレの禁忌は大いに冒してしまったので、もう気にしません。ネタバレ、あります、今回は特にすごいぞ。この最終話を「ネタバレ無し」で書くなんて、ちょっと無理)

***(ネタバレ嫌な人の自己責任撤退ラインはここ:ネタバレ回避したい人は、次の青い大文字見出しに「engage!」)***

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Star Trek: Picard - Engage! - Episode 3 finale - YouTube

 

ああ、終わってしまった!

散々「こんなことで終われるのか」「シーズン3が制作されているので、そちらに持ち越せば良い」「ゆっくり時間をかけてほしい」、なんて勝手なことを書き散らしてきましたが、終わってみれば、「ああ、これしかないじゃん」という、筆者にとっては、結果、大満足の最終回でした。皆さんはどうでしたか?(見ている前提、でのお話になっています。見てない人、ごめんなさい。でも、とにかく、見たほうがいい)

本稿前回で「パズルのピースは嵌まりつつあるのです。でもわからないのは、全体になんの絵が描かれているのか」と書きましたが、「スター・トレックにふさわしい」こんな絵が描かれていたのだとは、本当に驚きです。

 

ウェスリー・スラッシャーの登場、これもびっくり。(ありゃあ、すっかりオッサンでしたね。シーズン3には出ないとか、ちょっと残念)

スン博士と「カーン計画」(あれほど大切に思っていた「娘」だったはずなのに、なんと気持ちの切り替えの早いことか。あるいは既に構想があったということは、なんか気持ちの散り方が共感できたりします。まあ、レベルの違う話ではありますが)。

 

そして何よりピカード「Q」の対話、これはもう圧巻でしたね。「Q」が「私の友達」と言い、「神々にもお気に入りがいる」と言ってしまうとは。

これを受けてピカード も「独りではない」と「Q」を抱擁するのです。

本稿前回で、この物語の行方が分からず(今となっては、当然でしたね。こんなのわかるはずがなかったし、分からなくて良かった)、それでもあと一回で終わると言う不安に駆られ、つい「ちょっと怖いのは、「Q」がパチンと指を鳴らして「ほら、元通り。楽しんでくれたかな?」なんて展開」と書いたのですが、今回の「指パッチン」なら、これはもう「あり」です。

 

リオスが残る決断をしたのは、個人的には「良かった」。

 

そしてこれも前回書いたのですが、その後現れるジュラティが同化(参画)した(あえて、「同化された」ではなく「同化した」と書きたい)「良きボーグ」と、「暫定的」と謳われた連邦との協力関係の出現。これはなんとも「スター・トレック」的なエンデイングでした。さらにちゃんとシーズン3への脅威も提示されました。

 

最後の「我々は家族だ、そうだろう」のダメ押しは、ちょっと余分な気もしましたが、やがてラリスの元に帰ったピカード の「繰り返したくない瞬間と、戻りたい瞬間」「時間は二度目のチャンスを与えてはくれないが、人にはそれができる」などは、きっとずっと残る名言になるのでしょうね。ラリスとピカード に安らかな時が訪れることを改めて強く願いました。(シーズン3までの短い期間にせよ)

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それにしても、こんな回りくどい口説き文句を使うとは、ピカード 、やるなあ。

 

ともかく全てが第一話に帰納されて、大きな調和が生まれるのを、筆者はただ口を開けて見ていたのでした。魔法のようなひととき、いやあ、凄かった。

ドラマが終わる、この名残惜しい気持ちは、これは全く変わりませんが、見終えた後に残る「喪失感」をはるかに超えた「驚きと充足感」から、大きなものをもらった気がしています。それは「希望」とか「勇気」とか、文字にすれば少し恥ずかしいけどそんなものに近い何か、なんだと思います。

 

とは言え、終わってしまいました。少し落ち着いたら、また見るのでしょうね。

これ以上書くと、思考があらぬ方向へと行ってしまいそうなので、もらった「元気」を大切にしつつ、このお話は今回はこの辺にしておきます。

でも、来週から金曜日、どうしよう。

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音楽は、・・・こっちの気分かな?

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さてここからは今回の本題。

GW:「あの防空巡洋艦」の制作

本稿ではほぼ一年前の2021年5月9日の投稿で、英海軍の軽巡洋艦防空巡洋艦のご紹介をしています。

fw688i.hatenablog.com

さらにこの投稿の約1ヶ月後、6月6日の投稿で、さらにこのヴァリエーションを追加しています

fw688i.hatenablog.com

 

ロイアル・ネイビーの防空巡洋艦建造事情

この2回を通じて、英海軍の第二次世界大戦期に建造された防空巡洋艦として「ダイドー級」と「ベローナ級」そして「ダイドー級」の装備砲のヴァリエーション、「ダイドー級4.5インチ対空砲装備型」をご紹介しています。

この両艦級を簡単におさらいしておくと。(この後、各艦級の紹介は、上掲の2回の投稿をベースにしていますので、内容がかなり被ります。ご容赦を)

 

ダイドー級軽巡洋艦同型艦:11隻)

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(直上の写真:「ダイドー級」の概観。125mm in 1:1250 by Neptun)

 本級は「アリシューザ級」軽巡洋艦の設計をベースにした5500トン級の船体に新開発の5.25インチ両用砲を連装砲塔形式で5基搭載しています。

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本級の主兵装として採用された5.25インチ両用砲は、その名の通り対空戦闘と対艦戦闘の双方に適応することを目的に開発され、砲塔形式の異なるタイプが新型戦艦「キング・ジョージV世級」等にも従来の副砲に代わる兵装として搭載されています。しかし、本級は対空戦闘に重点を置き設計された艦であったにもかかわらず、結果的には対艦戦闘への適応から弾体にある程度の重量が必要で、このことが対空射撃時の発射速度の低下を招き、高速化の著しい航空機に対する対応力を低下させてしまうという結果を招き、必ずしも当初の目的のためには成功作であるとは言えない結果となりました。

(直上の写真:「ダイドー級」の兵装配置の拡大。5.25インチ両用砲塔の配置に注目)

 

ダイドー級4.5インチ対空砲装備型(ダイドー級11隻中の2隻)

ダイドー級の建造にあたっては、その最大の特徴であるはずの5.25インチ連装主砲塔の生産が間に合わず、第1グループとして建造された3隻は5.25インチ連装砲塔4基と4インチ単装対空砲1基の混載で就役せざるを得ませんでした。第2グループ6隻はようやく連装砲塔5基を装備して就役しましたが、定数の砲塔5基を装備できた艦は同級11隻中第2グループのこの6隻にすぎず、第3グループ2隻は、空母「イラストリアス」等で実績のあった4.5インチ対空連装砲を4基搭載して完成されました。

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(「ダイドー級4.5インチ対空砲装備型」の概観:by Argonaut:やはり主砲がやや弱々しく見えませんか?) 

(直上の写真は、「ダイドー級4.5インチ対空砲装備型」(左列)と「ダイドー級5.25インチ両用砲装備型」の対比。武装の違いだけながら、かなり細部の造作が異なることがよくわかりますね。大きくは両用砲が砲塔になっているのに対し、高角砲が防盾仕様になっているところから差異が出てくるのでしょうね)

結局、この両艦「カリブディス(HMS Chrybdis)」「シラ(HMS Scylla)」は、巡洋艦とは言いながら駆逐艦並みの火力で就役せねばならなかったわけです。

大戦では主に地中海方面運用されることが多く、11隻中4隻が戦没しています。 

 

ベローナ級軽巡洋艦同型艦:5隻)

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(直上の写真:「ベローナ級」の概観。125mm in 1:1250 by Neptun)

本級は「ダイドー級」の改良型で、設計段階から5.25インチ両用連装砲4基として、撤去された3番砲塔(Q砲塔)跡に40mm4連装ポンポン砲を追加して近接防御火器を2基から3基に強化しています。両用砲塔をポンポン砲に置き換えたことで、艦橋構造が一層低くなり、砲塔の撤去と併せて低重心化しています。

また対空火器をレーダー・コントロールとして対空戦闘能力を強化しています。

ダイドー級」ではやや後方に傾斜していた煙突とマストが直立し、上記の上部構造の低重心化と併せて「腰高感」の否めなかった外観が改善されています。f:id:fw688i:20210502145721j:image

(直上の写真:「ベローナ級」の兵装配置の拡大 )

(直上の写真:「ダイドー級」と「ベローナ級」の比較。煙突とマストの角度の違いに注目)

 

有名な架空の防空巡洋艦の存在

また、6月6日の投稿では、これらのご紹介の中で、実はこの両艦級の間に非常に有名な防空巡洋艦が、ある意味「存在している」とも記述しています。

それはアリステア・マクリーンの海洋小説の名作「女王陛下のユリシーズ号」に登場する防空巡洋艦ユリシーズ」で、この6月6日の投稿での「ダイドー級4.5インチ対空砲装備型」の入手の紹介の際も、実はこの「ユリシーズ」の制作を意識して、1隻を「ユリシーズ」へ改造することを目論んで「同モデルを2隻入手した」とも書いています。

つまり「ユリシーズ」制作計画は、今からちょうど一年ほど前に始動していたわけです。

 

防空巡洋艦ユリシーズ

本稿の読者のような多少なりとも艦船に興味にある方ならば、おそらく一般よりも高い比率でお読みになった方がいらっしゃるのではないかと思うのですが、本書「女王陛下のユリシーズ号」は前述の通りアリステア・マクリーンの書いた海洋小説の名作で、第二次世界大戦中の北大西洋で輸送船団を護衛し、来襲するドイツ空軍・海軍と死闘を繰り広げつつ続けられた第14護衛空母戦隊の航海を、その旗艦「ユリシーズ」を中心に描いた作品です。

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登場する「ユリシーズ」は本書に登場する架空の軍艦で、小説の本文中の記述を引用させていただくと「有名なダイドー級改型の5500トン、ブラック・プリンス級の先駆で、この型のものとしてはただ一艦である」(ハヤカワ文庫版:村上博基氏訳56ページより)という一文があり、全長510フィート(155.5m)、5.25インチ連装両用砲4基(前後に2基づつ)、ポンポン砲3基などの搭載火器に関する記述が続きます。

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スペックで比較すると「ダイドー級」「ベローナ級」(本文では「ブラック・プリンス級」と表記されています)のいずれよりも少し小さく、乱暴にまとめると主要武装は「ベローナ級」と同等、速力はやや早い、そんな感じです。

 

これは巷では言わぬが花だそうですが、タイトルに違和感あり

以前から「女王陛下のユリシーズ号」という邦題には違和感を抱いていました。原題は「H.M.S. Ulysees」で、第二次世界大戦当時の英国は国王ジョージ6世の治下にあり、H.M.S.は当然 His Majesty's Ship=「国王陛下の船」であるべきだと思ってきたのです。艦船ファンとしては原題のまま「H M.S. ユリシーズ号」でも良いのに、と思いながら。同じ早川書房さんの文庫でも、ダグラス・リーマンのこれも名作、やはり第二次世界大戦中の小説ではタイトルは「国王陛下のUボート」になっているのに。(こちらは原題は"Go In and Sink!" で全く似ても似つきませんが)まあ、今となっては名作としてもう定着してしまっているから、改題とかはしないほうがいいのかもしれませんね。

 

防空巡洋艦ユリシーズ」制作計画:「ダイドー級4.5インチ対空砲装備型」からの改造プランの挫折

話を戻すと、当初は、約一年前に入手した「ダイドー級4.5インチ対空砲装備型」をベースに4基の主砲を「4.5インチ連装対空砲」から両級の特徴である「5.25インチ連装両用砲」の手持ちのストックパーツに換装すればいいかと、比較的安易に考えていたのですが、入手後、「4.5インチ対空砲装備型」モデルの砲塔前の波返板などの造作が想像以上に大きく、細部も思いの外4.5インチ対空砲に合わせた仕様に変更になっているので、どうも単に主砲塔の換装だけで終わる、と言うようなことではなさそうだ、と言うことに気づいたわけです。

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(上の写真は当初の改造計画を見直す原因となった4.5インチ対空砲周辺の配置のアップ。予想以上に造作の大きかった波返板(上段2番砲塔前と下段3番砲塔後))

もちろん、この「4.5インチ対空砲装備型」のモデルを見つける以前は、オリジナルの「ダイドー級」から主砲塔1基をポンポン砲に換装すればいい、と言う最もイージーな発想だったのですが、「ダイドー級」は艦首部に主砲塔が三段背負式で装備されていて、艦橋部がやや高すぎる、と言う違和感があり、この艦橋部の工作はやや大仕事になるので、最初から艦橋部には手を入れなくて良さそうな「4.5インチ対空砲装備型」をベースにしよう、と言う計算に行きついて、さらにここで課題が見つかった、と言う次第でした。寸法だって微妙に異なるし、さて、どうしたものか、と・・・。

 

防空巡洋艦ユリシーズ」修正制作計画:「アリシューザ級」改造プランの始動

違和感や作業の大変さを考えると、いっそ、記述されているスペックを全部無視して新しいストーリーに基づいて全くの架空艦(どうせ元々架空艦なんだし)を作ってもいいかな、と思い始めているところ、と言う記述が6月6日の投稿では記されています。

そうすると、「ダイドー級」がそもそも「アリシューザ級」軽巡洋艦をベースに設計された、という背景に乗っかって、「アリシューザ級」の防空艦改造版、というのでも良いかな、という妄想がむくむくと頭をもたげてきます。

(直上の写真は、防空巡洋艦ユリシーズ」への改造母体として検討された「アリシューザ級」軽巡洋艦の概観:123mm in 1:1250 by Neptun)

ユリシーズ」に関する小説中の記述で、「ダイドー級」と「ベローナ級」の間で設計されたにも関わらず、どちらよりも少し小さい、というのも設定としてそもそも違和感があります。ならばいっそ、この種の護衛艦艇の建造の緊急性を考慮して、一方では「経済性を考慮するあまり、ちょっとスペックダウンしすぎたかな」と思われ始めた「アリシューザ級」の建造途中の5番艦が船団護衛の中核艦として防空巡洋艦として完成させられた、というのもなかなか良いストーリーではないかと。(もう全然、小説とは関係なくなるかも、ですが)

ということで今回はこの「アリシューザ級」軽巡洋艦改造プランに乗っかった防空巡洋艦ユリシーズ」をご紹介します。

 

防空巡洋艦ユリシーズ

完成したモデルがこちら。

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(直上の写真は、防空巡洋艦ユリシーズ」の概観:123mm in 1:1250 by Neptun:「アリシューザ級」がベースなので寸法は同じです)

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(直上の写真は「ユリシーズ」の主要兵装配置の拡大:艦首部に5.25インチ連装両用砲塔2基、艦首脇に対空機関砲座(写真上段):艦中央部にポンポン砲砲座3基と魚卵発射管(写真中段):艦尾部に5.25インチ連装両用砲塔2基:基本的な主要兵装は「ベローナ級」に準じています)

英海軍は航空機攻撃の脅威に備えるために「アリシューザ級」軽巡洋艦の設計をベースとした「ダイドー級防空巡洋艦11隻の建造に着手しましたが、同時に同種の船団護衛部隊の中核艦の切実な必要性を考慮して、当時建造予定だった「アリシューザ級」軽巡洋艦の5番艦の防空巡洋艦への転用を決定しました。こうして防空巡洋艦ユリシーズ」は同型艦をもたない巡洋艦として1隻だけ誕生しました。(繰り返しですが、「架空艦」のお話ですので、ご注意を)

 

では改造母体となった「アリシューザ級」軽巡洋艦とはどういう船だったのか。

アリシューザ級軽巡洋艦同型艦:4隻)

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(直上の写真は、「アリシューザ級」軽巡洋艦の概観:123mm in 1:1250 by Neptune)

そもそも「ユリシーズ」のベースとなった「アリシューザ級」軽巡洋艦は、前級「パース級」の主砲塔を1基減じて、それに合わせて5000トン級に縮小した船体に出力を減じた機関を搭載することで経済性を求めた設計となっています。

同艦の設計は、艦型の小型化と武装の軽減により、英海軍の重要な任務である広範囲な連邦領・植民地や通商路の警備・保護に必要な軽快な機動性を持つ軽巡洋艦の隻数を揃える試みの一つでした。広大な通商路の警備に必要な巡洋艦の理想的な理論値は一説では70隻と言われていますが、未だに第一次世界大戦の痛手の癒えない財政はとてもこれを賄えるような状況ではなく、一方で大量に保有する第一次世界大戦型の旧式軽巡洋艦(C級、D級)を廃棄処分し、これをいかに置き換得てゆくか、条約の保有枠の制限と、疲弊した経済の両面から、当時の英国の苦悩が現れた艦級の一つと言ってもいいでしょう。

船体の小型化により、生存性はやや低下しましたが、速力は前級と同レベルを維持し、ある程度の戦闘力を持ち高い居住性と航洋性を兼ね備えた、通商路保護の本来の軽巡洋艦の目的に沿った手堅い設計の艦だったと言えるでしょう。

隻数をそろえる目的と言う意味では、同様の試みが英海軍の最後の重巡洋艦となった「ヨーク級」でも行われたのですが、スペックを抑え上記のように生存性をやや低下させながらも期待ほどの経済効果が得られず、同級も4隻で建造が打ち切られ、5番艦は整備が急がれた防空巡洋艦に転用されました。(この辺りはもちろん筆者の架空の創作(妄想)ですのでご注意を)

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折からやはり軍縮条約の制限を意識した日米海軍は奇しくも制限枠に達しこれ以上新造艦を建造できない重巡洋艦に代わり、重巡洋艦とも対峙できる大型重装備の軽巡洋艦の建造(6インチ砲15門装備)に指向しており、これと対比すると同級の非力さは否めず(6インチ砲6門装備)、平時向けの巡洋艦、という評価も受け入れざるを得ない状況でした。

 

「アリシューザ級」軽巡洋艦からの改造要目

今回の制作にあたり、ベースとなった「アリシューザ級」軽巡洋艦からの改造要目は、以下の通りです。

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1)主砲の換装:これは今回の改造の目玉となる重要な部分です。6インチ連装砲塔3基を撤去し、砲塔基部を活かして5.25インチ連装両用砲塔4基を設置しています。3番砲塔の位置にはもともと砲塔がありませんでしたので、基部らしき造作を加えています。搭載した5.25インチ連装両用砲塔はAtlas社製「プリンス・オブ・ウェールズ」から転用しています。このモデルはプラスティックと金属で構成されているモデルで、価格も手頃でパーツ取りモデルとしては大変優秀だと思い、重宝しています。5.25インチ連装両用砲塔のフォルムは特徴をよく捉えていると思っているのですが、何故か8基ある砲塔の大きさが揃っていません。今回は複数のモデルから大きさの揃っているものをチョイスして搭載しています。(上掲の写真の上段と下段:左が「アリシューザ級」)

2)艦中央部、航空艤装用クレーン・カタパルトの撤去と中央ポンポン砲砲座の設置。基部からパーツをカットし、ヤスリで平坦にして、その上にこれもAtlas社製の「フッド」から基部付きのポンポン砲を転用しています。高さなどは適当に調整してあります。この位置は、ほぼ原作通り(ハヤカワ文庫版「女王陛下のユリシーズ号」にはこの小説の戦闘航海の航路図と「ユリシーズ」の艦内配置図が掲載されています。今回の制作にあたってはこれを参考にさせていただいています)ですが、やや射界に問題はないのかな、などと考えています。砲座が艦の中央構造線上にあるので左右の射界はかなり広いのですが、前後は艦橋と後部煙突等が射界を遮ります。(写真中段:左が「アリシューザ級」)

3)艦後部、「アリシューザ級」が装備していた4インチ連装対空砲4基と後部探照灯台座等を撤去して後部対空砲射撃指揮所の設置及び指揮所両脇に後部ポンポン砲砲座を設置しています。少し後部上構の基部を整形してあります。撤去後はヤスリで平坦に仕上げてその上に対空砲射撃指揮所らしきものをストックパーツから転用しています。(写真下段:左が「アリシューザ級」)

 

原作に登場する「ユリシーズ」との相違点

「アリシューザ級」をベースにし今回筆者が制作した「ユリシーズ」と原作に記載されているスペックの相違点は以下の通りです。

まず、全長が筆者制作版の方が少し短い。原作では前述のように全長510フィート(155.5m)であるのに対し、「アリシューザ級」をベースにした筆者版は506フィート(154.2m)となりました。加えて現作では3基のポンポン砲は艦橋前、艦中央部、3番砲塔前と、間の中央線に沿って配置されていることになっています。(下の艦内配置図(ハヤカワ文庫版掲載)を参照してください)

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筆者版では3基と言う装備数は同一ながら、艦橋前は設置スペースが捻出できず、艦中央部(「アリシューザ級」ではカタパルト台の位置)と後橋の両脇の配置となっています。更に、筆者版では艦橋前の近接防空兵装が手薄に思われたので、単装機関砲2基を増設してあります。

(下の写真:筆者版「ユリシーズ」の原作版と異なる武装配置の拡大:2番主砲塔後ろに対空機関砲座を増設(写真上段):後橋周りに配置されたポンポン砲砲座(写真下段))

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(下の写真は、参考までに、「ベローナ級」のポンポン砲砲座配置の拡大:艦橋前に1基が配置され(写真上段)、艦中央部に2基が配置されています(写真下段))

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艦尾方向にやや「寸詰まり感」のある「アリシューザ級」をベースとしているため(艦尾の主砲塔が1基とされたため?)、艦の中央部が少し間伸びした感じになっていますが、これはこれで「ダイドー級」等とは出自が異なる「ユリシーズ」(これは筆者独自の設定ですが)の特徴を表している、まあ、そう言うことにしておきます。

結論:なかなかいいんじゃない?

架空艦はやはり楽しいなあ。違和感は違和感として、いろいろと考えさせてくれます。・・・と、自己満足はこのくらいにしておきましょう。

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(上の写真は英海軍の防空巡洋艦の大きさ比較:手前から「ユリシーズ」「ベローナ級」「ダイドー級4.5インチ対空砲装備型」「ダイドー級」の順:筆者が抱いている、今回製作した「ユリシーズ」の艦中央部の間延び(?)=煙突の間隔の広さ、と艦尾の寸詰まり感、わかっていただけますかね)

 

ダイドー級」就役以前の英海軍の防空巡洋艦の整備:既存艦の防空巡洋艦への改造

英海軍は第一次世界大戦後、航空機の発達による脅威の増大を予見して、旧式のC級軽巡洋艦の数隻の主砲を4インチ対空砲に換装し防空巡洋艦に改装します。

(これは、検索した限りどこにもそれらしい資料が見当たらないので、ここだけの筆者による憶測、ということにして頂き、「まあそんなこともるかも」くらいの「聞き流し」でお願いしたいのですが、ロンドン条約では軽巡洋艦の定義を「備砲、5.1インチ以上で6.1インチ以下」としています。主砲を4インチ(対空)砲とすることで軽巡洋艦保有枠の対象外、としたかったのではないかな?前述のように、英国はその広範な連邦領との通商路を保全するためには巡洋艦保有数として70隻必要、と試算していました。ところが条約で認められた保有枠はカテゴリーA(重巡洋艦)、カテゴリーB(軽巡洋艦)併せて34万トン余りで、単純に割り算すると、平均4850トンを切るサイズの船でないと数を賄えないことになってしまいます。さすがにこの時期に5000トン以下の巡洋艦は計画されていませんので、どうしても規定外の通商路保護のための艦船が必要だったのではないかと・・・。一方で前大戦で国力は疲弊しきっていて、既に旧式化していた第一次大戦期の巡洋艦を主砲換装で「軽巡洋艦」の規定枠外で有力な戦力化できる方法があるとすれば、これは検討に値する、くらいのことは考えても良いだろう、などと、妄想したりするのですが。まあ、これはその後の第二次大戦での航空優位の歴史を知る我々の「後知恵」による少々こじつけめいた憶測ですので、あまり他所で話さないでね。どこかにそれらしい資料ないかな?)

 

C級軽巡洋艦防空巡洋艦への改装

C級軽巡洋艦のサブ・クラス「カレドン級」のうち1隻、「シアリーズ級」のうち3隻と「カーライル級」のうち4隻が、第二次世界大戦前には、早くも兵装を高角砲に換装し、防空巡洋艦として参加しています。

主砲を全て高角砲に換装し、艦隊防空を担わせる専任艦種を整備する、という思想に、第二次世界大戦前に発想が至っていた、というのは「慧眼」というか、ある種、驚きですね。

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(上の写真は防空巡洋艦へ3隻が改造された「シアリーズ級」軽巡洋艦の概観:108mm in 1:1250 by Navis)
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(上の写真は改造前の「シアリーズ級」軽巡洋艦の主砲配置:6インチ単装砲5基を主砲として装備していました。次級のやはり防空巡洋艦に改造された第一次世界大戦型の「C級」軽巡洋艦の最終サブクラスである「カーライル級」との相違点は、「カーライル級」では、艦首部の搭載砲への飛沫対策として「トローラー」船首に艦首形状を改めているところです)

 

同級で防空巡洋艦への改装を受けた3隻のうち「コベントリー(Coventry)」と「カーリュー(Curlew)」は4インチ単装高角砲(QF 4 inch Mk V gun)10基をその主兵装として改装されました。

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(上の写真は防空巡洋艦へ3改造された「コベントリー」の概観:108mm in 1:1250 by Argonait:下の写真では「コベントリー」の単装対空砲の配置をご覧いただけます。艦首部に2基(写真上段)、艦中央部に4基(写真中段)、艦尾部に4基(写真下段)が配置されていました)

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一方、「キュラソー(Curacoa)」は4インチ連装高角砲(QF 4 inch Mk XVI gun)4基を主兵装として改装されました。

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キュラソー」をNavis製の「カーディフ(Cardiff) 」のモデルをベースにセミ・スクラッチしています。

(上下の写真は、防空巡洋艦に改装後の「キュラソー(Curacoa)」:同級は3隻が防空巡洋艦に改装されていますが、「キュラソー」が改装時期が最も遅く、他の2艦が4インチ単装高角砲(QF 4 inch Mk V gun)10基を搭載していたのに対し、同艦のみ4インチ連装高角砲(QF 4 inch Mk XVI gun)を4基搭載しています。外見的には同艦が最も防空巡洋艦らしいのではないかな、と筆者は考えています。1番砲、3番砲、4番砲、5番砲が連装高角砲に換装されました。艦橋前の2番砲座にはポンポン砲が設置されました)

防空巡洋艦として就役した3隻はいずれも大戦中に失われています。

 

「カレドン級」防空巡洋艦への改装(架空艦の制作)

「カレドン級」軽巡洋艦第二次世界大戦にも船団護衛等の任務で運用されました。中でもネームシップの「カレドン」は艦容が全く変わってしまうほどの改装を受けるのですが、残念ながらモデルが筆者の知る限りありません。(どこかで製作してみようかな。ちょっと改装範囲が大きいので、しっかり準備が必要です)

同級の他の艦はあまり改装を受けず、原型に近い状態で任務についたのですが、「もし、防空巡洋艦に改装されていたとしたら」と言ういわゆる「if艦」を作成してみました。

(直上の写真:「カリドク(Caradoc)」の防空巡洋艦改装後の姿(下記に記述したように、多分、改装計画のスケッチのみのいわゆる「If艦」で実在しませんのでご注意を。))

(上の写真:同級4番艦「カリドク(Caradoc)」の防空巡洋艦改装案のスケッチはみたことがあるので、手持ちのNavis製「カリプソ(Calypso)」をベースに、スケッチを参考にし、少し兵装過多のような気がしたので、兵装を軽くして製作してみました:艦橋前、1番砲座に4インチ連装高角砲(QF 4 inch Mk XVI gun)を設置(上段)、2番砲座、3番砲座の位置にポンポン砲を設置(中段)、4番砲座と5番砲座に4インチ連装高角砲(QF 4 inch Mk XVI gun)を(下段):スケッチでは2番砲座も連装高角砲に換装、となっていたと記憶します):実は、上で紹介した「キュラソー」のセミ・スクラッチ・モデル同様に、4インチ連装高角砲(QF 4 inch Mk XVI gun)のパーツを再現性の高いものに置き換えてみています。筆者の自己満足。

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この改装に一定の価値を見出した英海軍は、防空専任艦を設計します。これが前述の「ダイドー級防空巡洋艦と「ベローナ級」防空巡洋艦として(そしてもちろん「ユリシーズ」として)結実するわけです。

と言うことで、今回はこの辺りで。

 

実は「ユリシーズ」が旗艦を務めた第14護衛空母戦隊(The 14th Aircraft Squadron)の構成艦艇についてもどこかで纏めたいなあ、と思っているのですが、まだいくつか揃っていない小艦艇があるので、そちらはまたいずれ。

少し前置きしておくとこの戦隊、14隻の戦隊構成艦艇のうちアタッカー級(ボーグ級)護衛空母を4隻も持っています。ちなみに巡洋艦も2隻(1隻は当然のことながら「ユリシーズ」もう1隻は上でご紹介した「シアリーズ級」:原作では「カーディフ級」と表記されていますが同じ艦級です。記述から見ると防空巡洋艦への改装は行われていなさそう)、第一次世界大戦型の旧式艦隊駆逐艦3隻(「V級」「W級」「タウン級:米海軍から貸与された旧式駆逐艦」)、第二次世界大戦期の新型駆逐艦1隻(「S級」)、ハント級小型駆逐艦、リバー級フリゲートキングフィッシャーコルベット、そして艦隊随伴掃海艇(艦級不明)、以上の14隻です。こんな大規模な船団護衛部隊があったのでしょうか?(筆者が知る船団護衛部隊は、せいぜい4−5隻で構成されていることが多いのですが・・・)

この辺りももう少し調べてみたいと思っています。

 

次回はピカード も終了したことでもあり、中断している「空母機動部隊小史」に戻りましょうか?あるいはもう一回、気楽に新着モデルのご紹介でも?

もし、「こんな企画できるか?」のようなアイディアがあれば、是非、お知らせください。

 

模型に関するご質問等は、いつでも大歓迎です。

特に「if艦」のアイディアなど、大歓迎です。作れるかどうかは保証しませんが。併せて「if艦」については、皆さんのストーリー案などお聞かせいただくと、もしかすると関連する艦船模型なども交えてご紹介できるかも。

もちろん本稿でとりあげた艦船模型以外のことでも、大歓迎です。

お気軽にお問い合わせ、修正情報、追加情報などお知らせください。

 

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