相州の、ほぼ週刊、1:1250 Scale 艦船模型ブログ

1:1250スケールの艦船模型コレクションをご紹介。実在艦から未成艦、架空艦まで、系統的な紹介を目指します。

宝箱のようなフランス海軍: 近代巡洋艦の系譜(重巡洋艦・防空巡洋艦)

今回は前回の続き。フランス海軍の第二次世界大戦期(つまり第一次世界大戦以降)の近代巡洋艦の残り、重巡洋艦と大戦後に就役した防空巡洋艦をご紹介します。

 

フランス海軍の巡洋艦開発

少し前回のおさらいにもなりますが、当時のフランス海軍の巡洋艦開発についての概観的な事情を。(基本的には本稿、前回の再録です)

フランス海軍は、多くの海外植民地を抱える状況を背景として、一連の防護巡洋艦、その発展形である装甲巡洋艦の開発にいち早く着手した国でありながら、第一次世界大戦中に、英独のように軽巡洋艦防護巡洋艦からの移行形態としての軽(装甲)巡洋艦)の建造には出遅れた感がありました。国土が戦場となった大戦の直接の被災国としての経済的な疲弊もあり、長らく沈黙を守ったフランス海軍は、前回ご紹介した「デュケイ・トルーアン級」軽巡洋艦で、艦艇開発を再開しました。

この「デュケイ・トルーアン級」の拡大強化型としてワシントン条約に規定されたいわゆる条約型巡洋艦(=重巡洋艦)の開発にも着手しました。

 

「デュケーヌ級」重巡洋艦(1928年-同型艦2隻)

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(「デュケーヌ級」重巡洋艦の概観:154mm in 1:1250 by Tiny Thingamajigs)

同級はフランス海軍が建造した初めての重巡洋艦です。「初めての重巡洋艦」と書きましたが実情は前回ご紹介の「デュケイ・トルーアン級」軽巡洋艦の拡大強化型の艦級で、10000トン級の船体に、50口径8インチ連装砲塔4基を主砲とし、3連装魚雷発射管2基、7.5センチ単装高角砲8基を搭載していました。ワシントン条約の規定に照らせば主砲口径が「重巡洋艦」の規定に当てはまる、ということで、「デュケイ・トルーアン級」と同様、速力を重視した軽装甲の「重巡洋艦」でした。

列強に先駆けて機関の缶の交互配置により被弾時の生存性を高めています。高い乾舷を保有し軽装甲から良好な航洋性と33ノット超の高い速力を出すことができました。

高速性から空母に改造される計画もありましたが、実現はしませんでした。

(下の写真はデュケーヌ級」重巡洋艦の兵装配置等の拡大:兵装配置は比較的オーソドックスです。煙突の間隔が広く、列強に先駆けて導入された被弾に対する生存性を高めるための機関と缶の交互配置が想像できます)

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第二次世界大戦では独仏休戦協定(フランスの降伏)を受けてアレクサンドリアで英海軍に拘束されています。その後、自由フランス海軍に参加し大戦終結後もフランス海軍に残り、第一次インドシナ戦争にも参加しています。

「デュケーヌ」は1955年に除籍、解体され、「トゥルーヴィル」は1963年に解体されています。

 

「シュフラン級」重巡洋艦(1930年-同型艦4隻)

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(「シュフラン級」重巡洋艦の概観:156mm in 1:1250 by Neptun)

同級は軽装甲に課題があるとされた「デュケーヌ級」の防御力強化型として設計された重巡洋艦です。1925年から1928年まで毎年1隻づつ建造されたため、2隻ごとに防御設備等の改善がおこなわれました。

10000トン級の船体に「デュケーヌ級」と同じ50口型8インチ連装主砲塔4基、7.5センチ単装高角砲8基(「シュフラン」)、「コルベール」と「フォッシュ」は9センチ単装高角砲8基、さらに「デュプレクス」では9センチ高角砲を連装砲架4基と各艦に相違がありました。雷装に至っては「シュフラン」のみ3連装発射管4基を搭載していましたが、他の3隻は3連装発射管2基に減じ、浮いた重量を装甲に当てていました。各艦、前級から装甲を強化したため、速力は31ノットに抑えられていました。

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(上の写真は「シュフラン級」重巡洋艦の兵装配置等の拡大:兵装配置は「デュケーヌ級」を継承して比較的オーソドックスです。煙突の間にカタパルト2基が設置されています。写真のモデルは舷側の魚雷発射管が片舷1基のみで、かつ対空砲を連装砲架で搭載しているので4番艦「デュプレクス」ですね)

 

第二次世界大戦では「シュフラン」が独仏休戦協定の締結(フランスの事実上の降伏)で英海軍にアレキサンドリアで勾留され、その後自由フランス海軍に参加し、大戦終了後もフランス海軍で活躍しています。1974年の解体。

その他の3隻は、ドイツ軍のヴィシー政権下のフランス海軍の艦艇接収計画への反抗として1942年11月にトゥーロン港で自沈しています。「コルベール」はこの自沈で喪失扱いとなりました。「フォッシュ」と「デュプレクス」は1943年にイタリア海軍により浮揚され修復が図られましたが、連合軍の空襲で再び沈没、解体されています。

 

重巡洋艦「アルジェリー(1934年-同型艦なし)

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重巡洋艦「アルジェリー」の概観:145mm in 1:1250 by Neptun)

同艦はフランス海軍が建造した最後の重巡洋艦です。

フランス海軍は前級の4番艦「デュプレクス」をベースにした改良型の重巡洋艦の建造計画を持っていましたが、同時期のイタリア海軍の「ザラ級」重巡洋艦の設計情報が入ると、この設計では「ザラ級」に対抗できないと判断し、新たな強力な重巡洋艦の設計に着手しました。これが本艦「アルジェリー」です。

同艦は、条約を遵守した10000トン級の船体を持ち、速力は「シュフラン級」と同等の31ノットとしています。主砲は砲自体は前級と同様ながら新設計の砲塔に搭載し(連装砲塔4基)、対空兵装を口径10センチの新型連装高角砲6基と増強しています。前級では撤廃された雷装は3連装発射管2基と復活させています。

防御力の強化には配慮が払われ、装甲厚を増しながらも電気溶接を取り入れるなどの軽量化が図られ、速度が維持されました。

艦橋はこれまでの箱形構造と三脚マストの組み合わせから、塔状の構造に改められました。f:id:fw688i:20220716171930p:image

(上の写真は重巡洋艦「アルジェリー」の塔状の艦橋構造物(上段)と前級である「シュフラン級」の三脚マスト構造の艦橋構造の比較)

機関の配置も従来のシフト配置により被弾時の生存性を高める設計から防御区画をコンパクトにする方向へと方針が変更されました。このため煙突は1本となっています。f:id:fw688i:20220716171921p:image

(上の写真は重巡洋艦「アルジェリー」の兵装配置等の拡大:兵装配置が比較的コンパクトコンパクトにまとめられています。機関の交互配置を改めたため煙突が一本に)

条約の制約下で建造された条約型巡洋艦としては攻撃力・防御力・速力がバランス良く実現された優秀艦と評価されています。

 

第二次世界大戦では母国の降伏までの期間はドイツ海軍のポケット戦艦「アドミラル・グラーフ・シュペー」の追撃戦に参加するなどの活動をしていましたが、独仏休戦協定後はトゥーロン軍港を拠点にヴィシー政府下で活動を続けていましたが、1942年のドイツ軍のヴィシー政権下のフランス海軍の艦艇接収計画に対しては、これに抵抗して1942年11月にトゥーロン港で自沈しています。後に他の自沈した巡洋艦同様にイタリア海軍により浮揚されましたが、損傷がひどくそのまま放棄解体されました。

 

防空巡洋艦の開発

第ニ次世界大戦での海軍戦略での航空機の重要性は高まる一方で、これに対応するため、諸海軍は防空巡洋艦の開発に力を入れました。英海軍ではこれが「ダイドー級」「ベローナ級」として実現し、米海軍では「アトランタ級」が建造されました。(日本海軍では同種の艦艇が「秋月級」駆逐艦として建造されました)

第二次世界大戦後、フランス海軍も同様の目的から、第二次世界大戦中の母国の戦線離脱により建造工事が放棄されていた軽巡洋艦をベースに防空巡洋艦を建造しました。これが「ド・グラース」とその準同型艦の「コルベール」でした。

 

防空巡洋艦「ド・グラース」(1956年-同型艦なし)

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防空巡洋艦「ド・グラース」の概観:mm in 1:1250 by Neptun)

同艦の母体となった「ド・グラース級」軽巡洋艦は元々は「ラ・ガリソニエール級」軽巡洋艦の改良型として3隻の建造が計画されていた艦級です。

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(上の写真の上段は当初の「ド・グラース級」軽巡洋艦の完成予想モデル by Hai:モデルは未入手です。下段の「ド・グラース」の実艦と比較すると、同級が元々は改「ラ・ガリソニエール級」軽巡洋艦として設計された、というのが理解できますね。 写真はいつものsammelhafen.deから拝借しています)

第二次世界大戦の勃発で2番艦、3番艦の建造はキャンセルされ、1番艦「ド・グラース」のみが工事中断状態でドイツ軍に接収されました。後に連合国が奪還し、新たな防空巡洋艦として設計を変更して工事を再開し1956年に就役しました。f:id:fw688i:20220716172341p:image

(上の写真は防空巡洋艦「ド・グラース」の兵装配置等の拡大:艦首部と艦尾部に5インチ連装高角砲を各4基、57mm対空機関砲を艦の中央部に配置しています)

9000トン級の船体に、新設計の5インチ両用連装砲塔8基を主砲として搭載、その他57mm連装対空機関砲10基を搭載した設計となっています。速力は33ノットを発揮することができました。

電子装備を搭載して艦隊指揮艦としても運用されました。

 

防空巡洋艦「コルベール」(1959年-同型艦なし)

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防空巡洋艦「コルベール」の概観:模型は未入手です。1:1250スケールではHaiから模型が出ているようです。写真はHai製のモデル:1250ships.comより拝借)

前出の「ド・グラース」の準同型艦、改良型で、艦幅と吃水をました設計として復原性を向上させています。艦尾形状、煙突位置などが微妙に異なります。

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(上の写真はHai製の「コルベール」(上段:1250ships.comより拝借)と「ド・グラース」(こちらもHai製)の比較:ちょっとわかりにくいですが、艦尾形状、煙突位置、マスト構造などが異なります)

その他の兵装配置、速力等はほぼ同じです。艦隊指揮艦、高速輸送艦としても運用され、後にはミサイル巡洋艦としても運用されました。

 

フランス海軍重巡洋艦防空巡洋艦の一覧

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(今回ご紹介したフランス海軍の巡洋艦群の総覧:手前から建造年代順に「デュケーヌ級」重巡洋艦、「シュフラン級」重巡洋艦重巡洋艦「アルジェリー」、防空巡洋艦「ド・グラース」の順)

ということで、ここまでフランス海軍の第二次世界大戦期の重巡洋艦防空巡洋艦等の系譜を見てきました。それぞれの艦級に何かしらの新機軸が取り込まれるなど、やはりフランス海軍の艦艇はユニークですね。

 

ということで、今回はこの辺りで。

二回にわたって第二次世界大戦期のフランス海軍の巡洋艦についてご紹介してきましたが、次回はこの流れでフランス海軍の弩級戦艦超弩級戦艦の系譜を見ていきましょう。

もちろん、もし、「こんな企画できるか?」のようなアイディアがあれば、是非、お知らせください。

 

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