相州の、ほぼ週刊、1:1250 Scale 艦船模型ブログ

1:1250スケールの艦船模型コレクションをご紹介。実在艦から未成艦、架空艦まで、系統的な紹介を目指します。

現用艦船シリーズ:米海軍の第二次世界大戦後の護衛駆逐艦・フリゲート艦の系譜

今回はこのところ続けてご紹介している現用艦船(に続く)の艦級の開発系譜の流れで、第二次世界大戦後の米海軍の護衛艦フリゲート艦の艦級のご紹介です。

米海軍の艦種呼称は少しややこしくて、本稿、前々回あたりでご紹介したように1975年以前には「フリゲート艦」と言う呼称は「嚮導駆逐艦:DL=Destroyer Leader:大型の駆逐艦部隊の指揮にあたる艦種」に端を発する、やや大型の艦隊駆逐艦あるいは艦隊巡洋艦に使われていました。しかし今回ご紹介する一連の「フリゲート艦」は1975年の艦種呼称改正以降のもので、それ以前は「護衛艦護衛駆逐艦:DE=Destroyer Escort」と呼ばれていた艦種から発展した艦級の系譜です。ですので、1975年の呼称改正以前は「航洋護衛艦」などと呼ばれていました。

第二次世界大戦では、米海軍は太平洋戦線での島嶼作戦での大規模船団の護衛や、大西洋で猛威を振るったドイツ海軍のUボートへの対抗策として、大量の護衛駆逐艦を建造しました。今回ご紹介する艦級はその発展系として理解していただくのがいいのではないかと考えています。

今回はそう言うお話です。

 

「ディーレイ級」護衛駆逐艦(就役期間:1954−1974:同型艦13隻/2隻はウルグアイ海軍・コロンビア海軍で再就役:1991・1994に退役)

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(「ディーレイ級」フリゲートの概観:77mm in 1:1250 by Trident:Tridentのモデルは制作年代によって細部の仕上がりに大きな差があるので少し注意が必要です。このモデルはかなり端正な印象があります)

同級は米海軍が第二次世界大戦後初めて設計した護衛駆逐艦です。当初米海軍は新型のソナーや対潜兵器を搭載するもっと小型の護衛艦艇を構想しましたが、それらの新型装備を搭載する余裕の必要性から、最終的には第二次世界大戦期の「ジョン・C・バトラー級」護衛駆逐艦をベースとして設計されることとなりました。

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(直上の写真:「ディーレイ級」のベースとなった「ジョン・C・バトラー級」護衛駆逐艦の概観。74mm in 1:1250 by Neptun:下の写真は両級の比較(手前が「ジョン・C・バトラー級」))

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「ディーレイ級」は、1300トン級の船体を持ち27ノットの速力を発揮することができました。

就役当初、兵装は50口径Mk.33 3インチ連装速射砲(ラピッドファイア)を2基、対潜ロケット砲(ウェポン・アルファ)1基、3連装短魚雷発射管2基、爆雷投射機8基、爆雷投下軌条を備えていました。

後に対潜ロケット砲は原子力推進の導入により高速化する潜水艦に対して有効ではないしとして撤去され、またより広範囲な対潜攻撃範囲をカバーする目的から、艦尾部の武装を撤去してDash(無人対潜ヘリ)の搭載甲板およびハンガー等に改装されましたが、こちらもあまり芳しい運用実績を残せませんでした。

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(「ディーレイ級」フリゲートの兵装配置の拡大:(上段)MK.33 3インチ連装速射砲、その直後に対潜ロケット砲の撤去後の台座のみ見ることができます。その両脇に短魚雷発射管2基:(下段)艦尾部のMk.33(シールドなし)と爆雷投下軌条など)

1954年から57年の間に13隻が建造され、米海軍では1972年から73年にかけて全て退役しています。その後、ウルグアイ海軍とコロンビア海軍に各1隻が譲渡・売却されています。

 

同型艦

ノルウェー海軍とポルトガル海軍では、同級の設計を元にしたフリゲート艦が、建造されています。

ノルウェー海軍:「オスロ級」(就役期間:1966−2007:同型艦5隻)

オスロ級フリゲート - Wikipedia

ポルトガル海軍:「アルミランテ・ペレイラ・ダ・シルバ級」(就役期間:1966-1989:同型艦3隻)

アルミランテ・ペレイラ・ダ・シルヴァ級フリゲート - Wikipedia

 

「クロード・ジョーンズ級」護衛駆逐艦(就役期間:1959−1974:同型艦4隻)

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(モデル未保有:写真はおそらく唯一販売されているStar社製のモデル:ちょっとぼんやりした印象のモデルで、食指が動きません。下のShapewaysの方がいいかも)

同級は前級「ディーレイ級」が高価であり、量産性に難ありとされたことから、簡素化が図られた設計となりました。1300トン級の船体にディーゼル機関を搭載し22ノット程度の速力を有していました。

兵装も「ディーレイ級」に比べて簡素化が図られ、50口径Mk.34 単装3インチ速射砲2基と、ヘッジホッグ2基、三連装短魚雷発射管2基、爆雷投射機4基、爆雷投射軌条と言う構成でした。

4隻が建造されましたが、高度化する兵器システムへの対応力に限界があるとされ、当初の同級設計の目的であった量産には至りませんでした。1974年に4隻全部、インドネシア海軍に譲渡・売却されました。

 

同型艦

トルコ海軍では同級の設計を元にした「ベルク級」フリゲートが2隻建造されています

トルコ海軍:「ベルク級」(就役期間:197?−1995:同型艦2隻)

TCG Berk (D-358) - Vikipedi

 

「ブロンシュタイン級」フリゲート(就役期間:1963−1990:同型艦2隻/メキシコ海軍で再就役:1993-2017))

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(「ブロンシュタイン級」フリゲートの概観:92mm in 1:1250 by Bill's Model(3D):あまりこれまで気にならなかったのですが、こうして写真で拡大すると、3Dプリントモデルならではの素材感が出てしまいますね。下地処理をしただけでは、ちょっときついのか?フォルム自体は端正だと思いますので、何か対策を考えましょう。Mk.33とアスロックランチャーは、筆者のストックパーツを転用しています)

同級は米海軍が新型のソナーシステム(AN/SQS-26)と対潜ミサイル(アスロック)を搭載した強力な対潜戦闘能力も持つ第二世代の航洋護衛艦(1975年の呼称改正でフリゲート艦)として建造した艦級です。

新システム搭載に対応した2300トン級の船体を持ち、26ノットの速力を発揮することができました。

兵装は就役当初は艦首部に50口径Mk.33 3インチ連装速射砲(ラピッドファイア)1基、アスロック8連装ランチャー1基を搭載し、魚雷発射管2基、Dash(無人対潜ヘリ)2機の運用設備、艦尾部に50口径Mk.34 3インチ単装速射砲を搭載していました。

後にDash運用設備はヘリ対応設備に改修され、魚雷発射管は対潜短魚雷三連装発射管に感想さっれています。併せて曳航ソナー(AN/SQR-15)の搭載にあわせて艦尾の単装砲は撤去されました(後に曳航ソナー設備も撤去)。

2隻が建造され、退役後、2隻ともメキシコ海軍に譲渡・売却され、2017年まで同海軍で運用されていました。

 

「ガーシア級」フリゲート(就役期間:1964−1989:同型艦10隻/うち8隻はブラジル海軍・パキスタン海軍で再就役:1993〜2004の間に退役)

 

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(「ガーシア級」フリゲートの概観:99mm in 1:1250 by Trident:前述のようにTridentのモデルは制作年代によって、かなり細部の再現度に差異があります。このモデルはかなり最近のもので、大変良い、と思います)

同級は前級「ブロンシュタイン級」の拡大改良型として10隻建造されました。前級は前述のように新ソナーシステムとアスロック(対潜ミサイル)を初めて搭載したフリゲート艦(航洋護衛艦)として建造されましたが、速力不足が懸念され2隻が建造されたに留まりました。

同級では船体は2500トン級に拡大され、速力は27ノットと改善されています。

兵装も前級を強化する方向で検討され、砲兵装は前級の3インチ連装砲に変えて38口径Mk.305インチ単装砲2基が装備され、対潜兵装としては前級と同じアスロック8連装ランチャーが搭載されています。しかし前級がアスロックの次発装填設備を持たなかったのに対し、同級では艦橋下部に予備弾庫を設けて、次発装填が可能になっています。両舷には対潜用の三連装短魚雷発射管がそれぞれ1基装備され、艦尾部はDash(無人対潜ヘリ)運用設備と発着甲板とされました。しかしDashの運用実績の不調等から対潜ヘリコプターの運用に切り替えられています。

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(「ガーシア級」フリゲートの兵装配置の拡大:(上段)MK.30 5インチ単装速射砲、アスロック8連装ランチャー、艦橋下部の再装填用の弾庫も再現されています:(下段)短魚雷発射管、Mk.30、Dash(後に哨戒ヘリ)運用のためのハンガーと発着甲板:かなり端正な再現かと。ちょっとMk.30が大きいかな?)

同級の米海軍での退役後、建造された10隻のうち8隻がブラジル海軍とパキスタン海軍に4隻づつ譲渡・売却され、パキスタン海軍では1993年まで、ブラジル海軍では2008年まで運用推されていました。

 

「ブルック級」ミサイルフリゲート(就役期間:1966−1988:同型艦6隻/うち4隻はパキスタン海軍で再就役:1989-2005)

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(「ブルック級」ミサイル・フリゲートの概観:99mm in 1:1250 by Trident:上掲のモデルは筆者が「ガーシア級」のTrident製のモデルから武装変換等、手を加えたもの)

米海軍では早い時期から「航洋護衛艦」の「ミサイル艦」化が検討されていました。そしてある程度ミサイル搭載に対し余裕の見出せる艦級として、「ガーシア級」の一部をその嚆矢として建造することとなりました。これが「ブルック級」ミサイル護衛艦(1975年の艦種改正でミサイル・フリゲート艦に変更)です。

基本設計は「ガーシア級」と同じで、マックとヘリハンガーの間のMk.30 5インチ単装砲塔をターターシステムに対応するMk.22単装ミサイル発射機に置き換えた構造でした。Mk.22の下部には16発のミサイルを収容する弾庫を装備していました。マックの直後にはミサイルを誘導するミサイル射撃指揮装置(GMFCS)が設置されました。

その他の兵装は「ガーシア級」に準じていました。f:id:fw688i:20230730094518p:image

(「ブルック級」フリゲートの兵装配置の拡大:(上段)MK.30 5インチ単装速射砲、アスロック8連装ランチャー、艦橋下部の再装填用の弾庫も再現されています。:(下段)こちらが筆者が手を加えた部分。まずマック直後にミサイル射撃式装置(GMFCS )らしきものを追加。M K.13単装ミサイル発射機を5インチ砲に置き換えています。ああ、今気がついた!マックのレーダーを3次元タイプに変更するのを忘れました。後でこっそり・・・)

こうして念願のミサイル・フリゲート艦を就役させた米海軍だったのですが、同時期のミサイル駆逐艦が同時に3目標程度への対応力が可能であったのに対し、同級では1目標追尾にとどまり、性能不足の感が否めず、13隻建造の計画が6隻で打ち切られました。6隻は1989年までに全て米海軍では退役しましたが、うち4隻がパキスタン海軍に譲渡・売却され再就役、1995年ごろまで運用されました。

 

なぜ筆者が「ブルック級」のモデルを、自作したかという件について、少しモデル事情を。

Trident社は「ブルック級」のモデルを販売しています。しかしおそらく制作年次が古く、前出の「ガーシア級」(本級のベースとなった艦級ですね)と並べるには忍びない仕上がりなのです。

(直下の写真:Trident製の「ブルック級」:わかるよ、でもね、と言う感じですよね)

更新されたモデルも同級の「ラムジー」として販売はされているのですが、筆者は見たことがありません。ですので2隻を保有している「ガーシア」に手を入れてしまおうと。そういう経緯です。

(ちなみに下の写真がTrident製の「ラムジー」:うう、マックのアンテナは3次元タイプにちゃんとなっています

(今回ご紹介している筆者の保有しないモデルの写真は、いつものようにsammelhafen.deから拝借しています)

 

「ノックス級」フリゲート(就役期間:1969−1994:同型艦46隻/うち23隻は6カ国の海軍で再就役:20隻は退役)

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(「ノックス級」フリゲートの概観:106mm in 1:1250 by Trident)

同級は前級「ガーシア級」「ブルック級」を発展させた第二世代「航洋護衛艦」の決定版とも言える艦級で、46隻が建造されました。

船体は3000トン級に拡大されており、改善された機関から27ノット以上の速力を発揮することができました、

余裕のある船体を得たことから、前級では重量等に考慮して装備を見送った新開発の50口径Mk.42 5インチ単装砲を主砲として装備。対潜兵装として、アスロック8連装発射機は前級を踏襲して搭載しています。アスロック発射機からは対艦ミサイル ハープーンの発射も可能となり、予備弾庫もふくめ16発の搭載ミサイルのうち4発はハープーンとされ、主砲の5インチ砲化と合わせ対艦戦闘力が強化されました。他の対潜装備としては短魚雷発射管をそれまでの三連装回転式のものから連装固定式に改められ、軽量化が図られました。

対潜装備といえば当初はDash(無人対潜ヘリ)2機の搭載が織り込まれ、発着甲板と整備庫が設置されましたが、同級の就役時期と前後して課題の多かったDashの運用終了が決定し、小型対潜ヘリ(S H-2)の運用に切り替えられました。これに合わせ格納庫が伸縮式に改められました。

個艦防御用の対空兵装として、シースパロー短SAMが採用され、艦尾に8連装ランチャーが装備されました。このランチャーは後日、多くの艦でCIWSに換装されています。

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(「ノックス級」フリゲートの兵装配置の拡大:(上段)MK.42 5インチ単装速射砲:フリゲート艦で同砲を搭載しているのは「ノックス級」だけです。アスロック8連装ランチャー、艦橋下部の再装填用の弾庫も再現されています。:(下段)Dash(後に哨戒ヘリ)運用のためのハンガーと発着甲板:Dashの運用停止後、同級は小型哨戒ヘリを搭載するようになりましたが、そのためハンガーは伸縮式となりました。モデルはハンガーをヘリ整備のために伸ばした状態で再現しています。艦尾部には短SAMシースパローの8連装発射機が。これは後に多くの艦でCIWSに換装されています)

1980年代末から近代化改装が計画されていましたが、冷戦終結により計画は見送られ、1990年代前半に全ての艦が退役しました。その後、6カ国(ギリシア、トルコ、エジプト、タイ、台湾、メキシコ)の海軍に順次譲渡・売却が行われ、その総数は27隻に登っています。そのうちまだ13隻が現役にあると考えられます。

 

派生型準同型艦:スペイン海軍「バレアレス級」ミサイル・フリゲート)(就役期間:1974−2006:同型艦5隻)

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(スペイン海軍「バレアレス級」ミサイル・フリゲートの概観:106mm in 1:1250 by Trident:「ノックス級」の設計をベースにスペイン海軍がライセンス生産しました)

同級は「ノックス級」フリゲートの設計をベースとして、スペイン海軍が「ノックス級」の航空設備(発着甲板とハンガー部分)に換えてターターシステムを搭載し建造したミサイル・フリゲートの艦級です。5隻が建造されました。f:id:fw688i:20230730095228p:image

(「バレアレス級」ミサイル・フリゲートの兵装配置の拡大:(上段)MK.42 5インチ単装速射砲、アスロック8連装ランチャー:(下段)マックの直後両舷に見えるのは、おそらくメロカ20mmCIWS、その後ろにハープーン対艦ミサイルの4連装発射筒2基、さらに同級の主兵装であるターターシステムのGMFCS(ミサイル射撃式装置)とMk.22単装ミサイル発射機:主砲用のGFCSとGMFCSの併用により2目標の同時追尾が可能でした)

 

オリバー・ハザード・ペリー級」ミサイル・フリゲート(就役期間:1977−2015:同型艦51隻/6カ国の海軍で再就役:少なくとも19隻)

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(「オリバー・ハザード・ペリー級」ミサイル・フリゲートの概観:112mm in 1:1250 by Argos:やはりArgosのモデルは再現の格の違いを見せてくれます)

同級はそれまでの対潜装備に重点を置いていた「フリゲート艦」と言う艦種を、対空・対潜双方への対応力を兼ね備えたものにする目的で設計された新世代のフリゲート艦を目指した艦級です。

3000トン級という船体にまとめられたバランスの良い兵装は同級の大きな特徴で、長射程の防空能力を持つスタンダードミサイルを装備し、併せて2機のヘリを運用する能力、曳航ソナーの運用力に表れる高い対潜戦闘力を併せ持つなど、汎用性の高い艦級で、艦隊防空から局地哨戒・警備まで多用途に対応しています。

この使い勝手の良さに対して、米海軍の特徴の一つというべき量産性が発揮され、51隻が建造されました。

当初、主要兵装は艦首部に設置されたMk.13単装ミサイルランチャーでした。このランチャーからは、長射程のスタンダード対空ミサイルはもちろん、ハープーン対艦ミサイルの発射も可能です。しかし一方で艦隊防空の主軸がイージスシステム搭載艦に移行すると、同級の防空面での役割は限定的となり、順次、Mk.13ランチャーは撤去されて、撤去後には遠隔操作式の87口径Mk.38 25mm単装機銃が設置されました。

砲兵装は主として個艦防御に限定され、オート・メラーラ製76mmコンパット砲のライセンス生産であるMk.75 3インチ砲とCIWSが搭載され、他に近接戦闘用に25mm機銃、12.7mm機銃などが搭載されています。

対潜兵装としては、これまで米海軍はアスロック(対潜ミサイル)を対潜戦闘の中核に置いてきましたが、発展の著しい戦術曳航ソナーの遠距離探知能力を加味し哨戒ヘリを中核とした戦術への転換が行われ、アスロックの陳腐化がある意味立証される結果となりました。従って同級ではアスロックは搭載されていません。2機の哨戒ヘリと3連装短魚雷発射管のみの搭載となっています。

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(「オリバー・ハザード・ペリー級」ミサイル・フリゲートの兵装配置の拡大:(上段)MK.13単装ミサイルランチャー」スタンダード対空ミサイルとハープーン対艦ミサイルの発射が可能でした:実はこのモデルは同級「フォード」のモデルで、Mk.13ランチャーの撤去後を再現したものだった(かもしれません)。というのもMk.13は筆者が追加したものだから。上述のように「ペリー級」の任務の性質の変遷から、同級の対空兵装の艦隊防空としての役割は、その就役後かなり軽減されていました。代わりに紛争介入や治安活動、哨戒警備などの任務には、機銃等の近接火器が重要になってきていたわけです。:(下段)主砲でるMk.75 3インチ砲はほぼ艦の中央に設置されています。その下には三連装対潜短魚雷発射管とおそらく25mm単装機銃が。ヘリハンガー上にはCIWSが設置されています。2機の哨戒ヘリ運用とヘリの大型化に対応するために、延長された艦尾部)

同級は米海軍では前述のようにイージスシステム艦の浸透に従い役割を終了し2015年までには全艦が退役しました。その後、6カ国の海軍(トルコ、パキスタンバーレーン、エジプト、ポーランド、台湾)に少なくとも19隻が譲渡・売却されています。

 

同型艦

同級の設計は以下の各国に輸出され、ライセンス生産されています。

オーストラリア海軍:「アデレード級」(就役期間:1980−2019:同型艦6隻/2隻はチリ海軍で再就役)

アデレード級フリゲート - Wikipedia

スペイン海軍:「サンタ・マリア級」(就役期間:1986-現在:同型艦6隻)

サンタ・マリア級フリゲート - Wikipedia

台湾海軍:「成功級」(就役期間:1993-現在:同型艦8隻)

成功級フリゲート - Wikipedia

 

フリゲート艦(航洋護衛艦)から沿海域戦闘艦へ、そして再びフリゲート艦へ

今回、第二次世界大戦以降の米海軍のフリゲート艦の開発経緯を見てきたわけですが、最後の「オリバー・ハザード・ペリー級」で、米海軍においては明らかに冷戦構造の終結以降、一旦、フリゲート艦の役割の終焉を見たように思っています。

米海軍の中核である空母機動部隊の艦隊護衛はイージスシステム艦に移行し、「ペリー級」に残されたのは優れた汎用性を用いた局地警備や局地的な作戦支援への対応場面だったと言っていいと考えています。仮想敵が、敵対する正規軍から局地的な敵対勢力に移った、と見るべきかもしれません。

こうして、新たな「沿海域戦闘艦」という艦種が、米海軍の中で注目を浴びてくることになるのです。

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インディペンデンス級」沿海域戦闘艦(就役期間:2008ー現在:同型艦:19隻)

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(「インディペンデンス級」沿海域戦闘艦の概観:104mm in 1:1250 by Mountford?:下の写真は「インディペンデンス級」の細部拡大:同級は固有の固定的な兵装としては、艦首のMk.110 5インチ単装速射砲とヘリハンガー上のSeaRAM近SAM11連装ランチャー、機銃、程度です。多様化するミッションに対応するために、追加兵装はモジュール化されており、都度選択し搭載されます。写真下段のヘリ発着甲板下には広大なペイロードがあり、完備周辺に見える開閉ドアから搬入が行われます。このドアは緊急展開部隊の車両展開にも利用可能です。艦尾の開閉ドアからは高速艇の展開や機雷戦対応が可能です。ヘリハンガーには哨戒ヘリ2機、あるいは哨戒ヘリ1機と無人ヘリ3機の搭載が可能です)

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沿海域戦闘艦は局地有事への対応を想定した、ある意味、限定的な戦力での紛争介入と地域の治安維持、平常化支援を想定した艦種です。2500トン級の船体を持ち、敵性小型高速艇との戦闘を想定し40ノットの高速を発揮することができます。

再びフリゲート艦へ

一方で昨今の「ウクライナ戦争」や、想定される「台湾有事」に見るように、覇権主義国家の台頭も再び(というべきか)顕在化しつつある状況です。

米海軍が「沿海域戦闘艦」の整備を計画された52隻から32隻へと縮小して打ち切り、残りの20隻を次の新たなミサイル・フリゲート艦の建造に充てる、ある種回帰的とも言える決断をしたことは、やはりそのような情勢変化を踏まえてのことだと言わざるを得ないと考えています。

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(Shapewaysにアップロードされている「コンステレーション級」ミサイル・フリゲート:121mm in 1:1250 by Amature Wargame Figures in Shapeways)
少し話がきな臭くなってきましたが、実際に戦争は続いています。戦闘自体は遠いところの話で、爆音も空気の震えも実感することはありません。しかし、こうした一見呑気な話の中からでも、その緊迫感は見え隠れするのです。

コンステレーション級」ミサイルフリゲート艦(就役予定:2026年から:同型艦:20隻(計画)

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米海軍は「オリバー・ハザード・ペリー級」ミサイルフリゲート艦の最後の艦が2015年に退役して以来、同クラスの艦船の建造を局地紛争への介入や同様の地区の哨戒・警備を主任務とする「沿海域戦闘艦」に移し、フリゲートを持たない海軍となっていました。

しかし昨今の「ウクライナ戦争」や、想定される「台湾有事」に見るように、覇権主義国家の台頭も再び(というべきか)顕在化しつつある状況を考慮して、「沿海域戦闘艦」の整備を計画された52隻から32隻へと縮小して打ち切り、次の20隻を次の新たなミサイル・フリゲート艦の建造に充てる、ある種回帰的とも言える決断をしました。

こうして生まれたのが「コンステレーション級」ミサイルフリゲート艦です。

設計条件として既存感をベースとして既に実績が検証されていることなどが盛り込まれ、さらにベースとするタイプシップとして外国艦を許容したため、設計コンペには外国企業も参加し国際コンペの様相を呈しました。

結果、イタリアのフリゲート艦(カルロ・ペルがミーニ級)をタイプシップとした設計案が採択されました。

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(上の写真は「コンステレーション級」フリゲートの概観:121mm in 1:1250 by Amature Wargame Figures in shapeways:素材との相性もいいのでしょうが、エッジがしっかり立ったシャープなモデルに仕上がっています)

同級は前級(オリバー・ハザード・ペリー級)のほぼ倍の6500トン級の大きさの船体にアクティブ・フューズドアレイ・レーダーを搭載するなど、イージスシステム化に対応した設計となっています。

艦首に70口径57mm単装速射砲を搭載し、その直後に32セルのVLSを搭載しています。このVLSは対空・対潜両用とされていますが、対空ミサイルに比重を置いた搭載弾数になるようです。個艦防御用の兵装としては、ヘリ格納庫上に21連装の近接防空ミサイルが搭載されています。さらにNSM対艦ミサイルの4連装発射筒を4基、艦中央部の構造物上位搭載しています。4連装が4基ですので計16発の対艦ミサイルの搭載弾数は、このクラスの艦級としてはかなり多いと言っていいと思います。

艦尾に比較的広く取られたヘリ格納庫と発着甲板からは、哨戒ヘリ1機(M H-60Rシーホーク)と、無人ヘリ1機(MQ-8C)を固有戦力として搭載・運用できます。

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(上の写真は「コンステレーション級」フリゲートの主要兵装配置:(上段)艦首部の70口径57mm単装速射砲につづき32セルのVLS(対空・対潜療養です):(中段)艦橋部のフューズドアレイ・レーダーとNSM対艦ミサイルの4連装発射筒4基:(下段)ヘリハンガーとその上に設置された近接防空ミサイル発射機、MH-60Rシーホークと無人ヘリMQ-8Cを各1基搭載しています)

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船型比較

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(上の写真は「コンステレーション級」(奥)と前級「オリバー・ハザード・ペリー級」の新旧フリゲート艦の艦型の比較:「コンステレーション級」がかなり幅広で大きな船体を持っていることがわかります。下の写真はこれからの米海軍空母機動部隊の主要護衛艦となるであろう「コンステレーション級」フリゲート(手前)と「アーレイ・バーク級」イージス駆逐艦の関係の比較:いずれも最近の米海軍の設計の傾向を反映して、幅広の船体形状が採用されていることがわかります。これは荒天時の速度維持に対する優位性を考慮されてのことだとか)

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ということで、今回はここまで。

 

次回は、以前少し話に出ていた米海軍初の原子力ミサイル巡洋艦ロングビーチ」のイージス艦改造モデルが到着したので、そのお話でも。

もし、「こんな企画できるか?」のようなアイディアがあれば、是非、お知らせください。

 

模型に関するご質問等は、いつでも大歓迎です。

特に「if艦」のアイディアなど、大歓迎です。作れるかどうかは保証しませんが。併せて「if艦」については、皆さんのストーリー案などお聞かせいただくと、もしかすると関連する艦船模型なども交えてご紹介できるかも。

もちろん本稿でとりあげた艦船模型以外のことでも、大歓迎です。

お気軽にお問い合わせ、修正情報、追加情報などお知らせください。

 

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「ウダロイ級」駆逐艦:ヴァリエーションモデルの制作(映画に登場する架空艦も一緒に)

今回は、以前本稿の下記の回「旧ソ連ロシア海軍第二次世界大戦後の駆逐艦」で取り上げた「ウダロイ級」駆逐艦のヴァリエーションのご紹介です。

fw688i.hatenablog.com

上掲の回では、第二次世界大戦以降の旧ソ連ロシア海軍駆逐艦の開発系譜をご紹介しました。現在、ロシア海軍の新造艦の主軸は駆逐艦より小型のフリゲート艦に移行しており、長く駆逐艦の新造と言うものがなく、現役にある駆逐艦の艦級は2艦級のみで、現役の総数は1980年就役開始の「ウダロイ級:1155級」8隻、その改良型である「ウダロイII級:11551級」1隻(1155級、11551級合わせて13隻が建造されました)、同じく1980年から就役が始まった「ソヴレメンヌイ級:956級」4−5隻(建造は21隻、中国に売却されたものが5隻)と言う状況である、と言うようなお話をしています。

上掲の数字の推移でもある程度わかるように、艦隊防空艦として建造された「ソヴレメンヌイ級」は、すでにその艦級の寿命をほぼ終了していると考えてよく、従って「ウダロイ級」駆逐艦はほぼ唯一のロシア海軍の現役駆逐艦だと言えます。

上掲の投稿でも触れているのですが、「ウダロイ級」駆逐艦にはヴァリエーションがいくつかあります。改良型である「ウダロイII 級」と「ウダロイ級」の近代化改装タイプ、さらに架空艦ではありますが映画「ハンター・キラー」に登場するロシア駆逐艦「ヤヴチェンコ」が、外観を見る限り「ウダロイII級」をベースとした改良型と思われる、と言うことで、この3つのヴァリエーションを揃えよう、と、前回投稿では記述していました。

これもその際に記述していますが、モデルとしては本稿の読者にはお馴染みのShapewaysで、「ウダロイII級」のモデルも、「ウダロイ級」近代化改装型も上梓されています。

(3D Ships製(Shapeways)の「ウダロイII級」のモデル:写真上 とAmature Wargame Figures製(Shapeways)の「ウダロイ級」近代化改装型モデル:写真下)

映画「ハンター・キラー」版の「ヤヴチェンコ」はさすがに見つからないので、「ウダロイII級」のモデルから手を入れることにして、早速調達。これらのモデルが届いたので、それらを仕上げてご紹介したいと思います。

今回はそう言うお話です。艦級の説明などは多くの部分、上掲の投稿と同じ内容になると思いますが、その辺りはどうかご容赦を。

 

まずはオリジナルの「ウダロイ級」駆逐艦のモデルから。

「ウダロイ級:1155級」駆逐艦(1980年就役開始:同型艦・準同型艦13隻:2023年時点での就役艦8隻)

ja.wikipedia.org

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(「ウダロイ級=1155級」駆逐艦の概観:126mm in 1:1250 by Mountford :ヘリの発着甲板のマークは一番艦のみ1スポット、二番艦以降は2スポットに変更されています)

「ウダロイ級」はそれまでの駆逐艦の発展系の大型対潜艦の系譜よりも、2等大型対潜艦(小型の大型対潜艦:なんかややこしいなあ)、つまりフリゲート艦の拡大型として設計された艦級だと言っていいと思います。

8000トン級の、従来の駆逐艦とは一線を画する(もちろん従来のフリゲートの約2倍の)大きな船体を持ち、対潜戦闘に重点を置いた兵装配置になっています。対潜兵装としては長射程を持つ対潜ミサイルの4連装発射機を艦橋の両舷に各1基装備し、対潜ロケット発射機を2基、4連装魚雷発射管2基に加え、対潜哨戒ヘリ2基を搭載しています。f:id:fw688i:20230617163234p:image

(「ウダロイ級」駆逐艦の主要兵装:艦首から短SAM用VLS、100mm単装砲2基、4連装対潜ミサイル発射機(写真上段)、CIWS4基、魚雷発射管、対潜ロケット発射機、ヘリバンカーと発着甲板の順(写真下段))

対水上艦戦闘は100mm単装砲2基を有し、同砲はもちろん対空戦闘にも対応できるのですが、これに加えて個艦防空兵装としては短SAM8連装VLS8基、CIWS4基と、大変充実した装備を有しています。

 

短SAM8連装VLSについてf:id:fw688i:20230723110401p:image

上の写真は、「ウダロイ級」が搭載している短SAM8連装VLSの拡大:ゴールドの円形のハッチがそれぞれ8連装リボルバー型のランチャーで旧ソ連海軍が開発した西側のVLSとは少し異なった形態のVLSです。現在では新造艦に搭載されることはありませんが、一時期は中国海軍でも標準的なVLSとして使われていました。艦首部の主砲塔前に4基とヘリハンガー直前に4基、計8基(対空ミサイルは計64発)を搭載しています。キンジャール・システムは、このランチャー群を上掲写真のヘリハンガー上に写っている3R95 射撃式装置でコントロールし同時に4目標に対応できるとされています。

 

同型艦「ウダロイII級:11551級」駆逐艦(1番艦「アドミラル・チャバネンコ」のみ完成し1999年に就役)

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(「ウダロイII級=11551級」駆逐艦の概観:「アドミラル・チャバネンコ」のみ完成し就役しています)

魚雷発射管からの対潜ミサイルの発射が可能になると、艦橋両舷の4連装対潜ミサイル発射機が不要になります。1990年代に、このスペースに対艦ミサイルの4連装発射機を装備し、対艦戦闘能力を向上させた改良型が「ウダロイII級:11551級」として計画されました。これにより同級は強力な水上打撃力をも備えたよりバランスの取れた艦級となる予定でした。

しかしソ連の崩壊とそれに伴う冷戦の終結から、11551級は3隻の計画で打ち切られ、実際に完成したものは1隻にとどまりました。

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(「ウダロイII級」駆逐艦の主要兵装:艦首から短SAM用VLS、130mm連装砲、4連装対艦ミサイル発射機(写真上段)、コールチク2基、魚雷発射管、対潜ロケット発射機、ヘリバンカーと発着甲板の順(写真下段))

前述のように魚雷発射管からの対潜ミサイル発射対応によって、艦橋両側の大型対潜ミサイルの4連装発射機が、対艦ミサイルの4連装発射機に換装されました。さらに砲兵装も改められ、100mm単装砲2基が130mm連装砲1基となっています。CIWSは近接対空ミサイルを組み合わせたコールチクに改められました。

対潜兵装としては対潜ミサイルは魚雷発射管から発射できるようになっています。併せてヘリハンガー上には対潜ロケット発射機が残されています。さらに対潜哨戒ヘリ2機を搭載していました。

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(上の写真は「ウダロイI級:1155級」(上段)と「ウダロイII級:11551級」を比較したもの:目立つのは主砲が100mm単装砲2基から130mm連装砲1基に改めらえているところ。両級ともに艦橋両側に4連装ミサイル発射機を装備していますが、「1155級」が対潜ミサイルであるのに対し、「11551級」は対艦ミサイルを搭載しています。併せてCIWSが「1155級」では30mmバルカン砲4基であったのに対し、「11551級」では30mmバルカン砲と近接対空ミサイルを組み合わせた「コールチク」2基に改められています。「ウダロイII級」では魚雷発射管から、対潜ミサイルの発射が可能になりました)

 

既存艦の今後の近代化改装予定

同級は主機がガスタービンで維持コストが安い等、使い勝手が良く、より汎用性を高めた艦級へと近代化される計画が進められています。改装のベースには上述の「ウダロイII級:11551級」の設計構想があり、近代化の要目は短SAM用のVLSを対艦巡航ミサイルにも対応する汎用VLSへ換装することや、主砲を100mm単装砲2基から130mm連装砲1基への換装、近接防空装備の更新を行い、同級の運用年限を10−15年延長するものとされていました。

 

「ウダロイ級:1155級」近代化改装型:「マーシャル・シャポニコフ」(2021年近代化改装完了:同級4隻に同様の改装計画あり)

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(「ウダロイ級=1155級」駆逐艦の近代化改装型の概観:「マーシャル・シャポニコフ」が2021年に改装を完了し、さらに4隻の改装計画が進められている、とか)

主として艦隊護衛艦であった「ウダロイ級」駆逐艦の近代化改装の計画は上術の通りだったのですが、改装の眼目である対艦・対地上戦闘能力の著しい向上のために、実際には同級の7番艦「マーシャル・シャポシにコフ」は2016年から近代化改装を受け2021年に艦隊に復帰しています。

同艦の近代化改装では、主砲は従来と同口径の100mm単装砲のままながらステルス性を高めた新型砲塔に換装、装備数は2基から1基に減らされています。短SAM用の8連装VLSはそのままで、2番主砲塔の位置に16セルの汎用性VLSが追加搭載され、巡航ミサイルの運用が可能となりました。さらに対潜ミサイルの魚雷発射管、および汎用VLSの追加装備で、4連装対潜ミサイル発射機は4連装対艦ミサイル発射機に換装されています。CIWSは従来通り30mmを4基装備しています。

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(上の写真は「ウダロイ級」近代化改装の兵装の概観:艦首から短対空ミサイル用VLS:従来のリボルバー式8連装VLSを踏襲、ステルス型砲塔に換装された100mm単装砲、2番主砲位置に設置された汎用VLS:巡行ミサイルの発射が可能に、対艦ミサイルの4連装発射機(以上写真上段)、30mm CIWS4基は踏襲し、対潜ミサイルが発射可能になった魚雷発射管、対空ミサイル用のリボルバーVLS、哨戒ヘリハンガー(以上、写真下段)の順)

つまり、当初の計画段階とはかなり異なる実装を示している、と言うことなのです。おそらく計画は計画として、実際には現状の技術革新を取り込んだ柔軟な改装が順次実施されることになるのでしょう。

(下の写真は、「ウダロイ級」駆逐艦のオリジナルと近代化改装後(下段)の比較:外見上の変更は艦首部に集中しているように見えます)
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前述のように「ウダロイ級」の近代化改装には、今後、更に兵装等でヴァリエーションが発生しそうなので、少し注意深く情報を集めてみようかな、などと考えているところです。これも同級の基本設計が長年の使用に耐える堅実なものであり、かつ多様な改装に対応できる余裕を持っている、と言うことの証明であろうかと考えています。なかなか目が離せない。堅実な情報が取れるのはどこだろう?もし何かヒントがあれば、ぜひ教えてください。

 

そして、架空の駆逐艦「ヤヴチェンコ」:映画「ハンターキラー」に登場する「ウダロイII級」改装らしき駆逐艦

ja.wikipedia.org

映画「ハンターキラー」では「ウダロイII級:11551級」がおそらく原型となったと思われるロシア駆逐艦が登場します。こう言う映画の見方って、どうかとは思いますが、どうしても気になって見てしまう。以前、映画「シェパード」でも同じような話しをしましたが。

(「ヤヴチェンコの概観:Twitterの投稿より拝借しています)

映画に登場するのは「ヤヴチェンコ」と言う名前の駆逐艦です。上の映画の一シーンを切り取った写真を見れば、概観はほぼ「ウダロイII級」と言っていいと思っていました。実艦と異なる点は従来の主砲位置に複合型CIWS(おそらく「コールチク」)が搭載されているところ。複合型とはいえ映画では近接対空ミサイルの発射シーンはありませんし、CIWSとしてはやや大きすぎるようにも思いますので、何か別物、と言う想定の方がいいかもしれません。併せて対潜ロケット発射機を艦橋前に1基搭載、となっているところでしょうか。

映画の「ヤヴチェンコ」

この映画は、ロシア連邦で大統領に反対する軍部によるクーデターが発生し、ロシア連邦大統領が囚われてしまいます(一定の手続きを強行したのち、殺害する予定だったのでしょうね)。大統領救出作戦を実施する米軍の特殊作戦部隊(シールズ)を脱出させるため、米原潜「アーカンソー」(「シーウルフ級」原潜)がロシア海軍の本拠地「ポリヤルヌイ」に潜入する、という、大筋としては「なんともなあ・・・」というようなお話です。(原作もあるので、原作を読めばもう少しそれらしい話になっているのだろうなあ、と思いますが)

この中でロシア連邦大統領を救出し脱出を試みる「アーカンソー」は、これを阻止し大統領も一緒に抹殺してしまおうというクーデター勢力側(なんと国防大臣が反乱の首謀者です)に命じられたロシア駆逐艦「ヤヴチェンコ」に追われるわけですが、この「ヤヴチェンコ」が「ウダロイII級:11551級」もしくは「ウダロイI級:1155級」を近代化改装した艦をベースとした架空艦なのです。

映画の中で「ヤヴチェンコ」は大活躍します。

アーカンソー」の脱出阻止を命じられた同艦は対戦ロケット、対潜魚雷を発射します。2機の対潜ヘリも飛ばしています。CGなのだろうと思いますが、なかなか貴重なシーンです。

Youtubeでご覧いただける動画を見つけたので、どうぞ。なかなかの迫力)

www.youtube.com

さらに映画の最終シーンでは「アーカンソー」に向けられてポリヤルヌイ基地の海岸のランチャーから発射された対艦ミサイルを「ヤヴチェンコ」の主砲(「コールチク」っぽい)が撃墜します(だから主砲を「コールチク」に変更して置かなくちゃならなかったんだな、と独り合点)。

この時点では同艦は「アーカンソー」に救助されていたロシア潜水艦の艦長(この人は「ヤヴチェンコ」の元艦長で「彼らは私が鍛えたんだ。何もかも知っている」といかにも海軍軍人らしいことをいいます)の説得と大統領のメッセージで、「ヤヴチェンコ」はクーデター派から大統領派に鞍替えしたわけです。

そして最後はクーデター派の占拠する基地司令部ビルを同艦の巡航ミサイルが破壊し、物語は終了するわけです。

(コールチクの射撃シーンとそれに続く同艦の巡航ミサイル発射シーンを)

www.youtube.com

(この「アーカンソー」に迫るミサイルの迎撃シーン、ちょっと射撃タイミングが遅すぎないかい、と思うのは私だけ?あるいはCIWSの射撃ってこんなもんでしょうか?いずれにせよ、これだけの至近弾を喰らうと、相当な損害が出るんじゃいないかな?「アーカンソー」はこの後、ピンシャンしてますが。まあ、そこは映画なんで、まあいいじゃない、ということでしょうか。もう一つツッコミどころとして、巡航ミサイルが射出されているのが、対空ミサイル用のVLSから、になっているんじゃないのかな、っていうところでしょうか?)

架空駆逐艦「ヤヴチェンコ」のモデル制作

(直上の写真は、上掲の映画のカットから再現した「ヤヴチェンコ」:直下の写真は「ヤヴチェンコ」の主要兵装配置:艦首部から対空ミサイル用のリボルバーVLS、コールチクに似た大型近接防空装備、対潜ロケット発射機(写真上段)、魚雷発射管、対空ミサイルVLS、対潜ロケット発射機、ヘリハンガーの順)

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このモデルは「ウダロイII級」をベースに主砲の換装や対潜ロケット発射機の増設を行なったのですが、改めて映画のカットと比較すると艦橋前の構造物の形状や4連装ミサイルの発射機の装備形状などがかなり異なることに気がつきました。もしかすると、形状的には艦橋両舷に搭載された4連装ミサイル発射機は対潜ミサイル発射機のまま、かもとも思ってしまいます。そう言えば上述の映画での活躍についてのコメントでも、なぜか映画の最後での巡航ミサイルの発射もこの4連装発射機ではなく、艦首のVLSからでした(8連装VLSに大型の巡航ミサイルが搭載できるのか、と言う新たな疑問は湧いてきますが)。

と、つらつらと振り返ると、どうも「ウダロイII級」ではなく、オリジナルの「ウダロイ級」をベースにした方がよかったのかも、と思ってしまいます。少なくとも艦橋前の構造物の形状は近似させることができそうですし、4連装ミサイル発射機周りの艦橋の支柱構造も同じようなものが再現できそうです。

(3D Ships製(Shapeways)の「ウダロイ級」のモデル:これをベースにして再トライしてみましょうかね。主砲ももう少しそれらし物を探してみようかな。「コールチク」は1:1250スケールではあまりに小さくて、この主砲位置に搭載する必要はありません。下の写真では、やはりShapewaysで1:700スケールでこんなの見つけたから、これを取り寄せてKashtan(コールチクのお仲間です)の搭載を検討してみてもいいかもしれません。大型化すると近接防御に必要な高い機動性など、確保できるのか等、別の疑問も出てきますが、少なくとも外観的には面白いものにできそうです

と言うことで、再トライ、ですかね、こちらは。

 

最後に、少しこだわりの紹介も

前回投稿で、筆者の「ウダロイ級」のコレクションの気になっている点、と言うことで、ヘリ発着甲板の発着スポットが実艦では二番艦以降、2箇所に増やされている、と言うところがあったので、デカールを取り寄せて、添付してみました。

(上の写真は1:1250 Decalsに発注中の2スポットデカール:このあたりに手をつけ出すと、キリがないのですが、今回はたまたま過去に制作をお願いした方が持っていたからラッキーだったのですが・・・)

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(上の写真は今回ご紹介した「ウダロイ級」駆逐艦ファミリーのヘリ発着艦甲板の表示の差異(下段)と、艦首部の主砲関連の比較を示したもの。上段は手前から「ウダロイ級:オリジナル」:100mm単装砲2基と対潜ミサイル4連装発射機2基、「ウダロイ級近代化改装型=マーシャル・シャポニコフ」:ステルスタイプ100mm単装砲1基と汎用VLS装備+対艦ミサイル用4連装発射機2基、「ウダロイII級=アドミラル・チャバネンコ」:130mm連装砲1基と対艦ミサイル用4連装発射機2基、そして映画ハンター・キラーに登場する駆逐艦「ヤヴネンコ」:大型複合型CIWSと対潜ロケット発射基+対艦ミサイル用4連装発射機2基、の順:写真下段では左から、ウダロイ級:オリジナル」「マーシャル・シャポニコフ」「アドミラル・チャバネンコ」「ヤヴネンコ」の順)

 

今回は意外なところで筆者の大好きな「脇道」を発見し、結構楽しめました。しかも、どうやらまだ続きがありそうです。アップデートがあれば、またお紹介させていただきたいと考えています。

と言うことで今回はここまで。

 

次回はロシア海軍か米海軍のフリゲートの系譜など、いかがでしょうか?あるいは、かなり面白いモデルが到着する予定なので(多分、今、China -Japan間を航空便で飛んでいるはず)、そちらのご紹介をさせていただくかも。

もし、「こんな企画できるか?」のようなアイディアがあれば、是非、お知らせください。

 

模型に関するご質問等は、いつでも大歓迎です。

特に「if艦」のアイディアなど、大歓迎です。作れるかどうかは保証しませんが。併せて「if艦」については、皆さんのストーリー案などお聞かせいただくと、もしかすると関連する艦船模型なども交えてご紹介できるかも。

もちろん本稿でとりあげた艦船模型以外のことでも、大歓迎です。

お気軽にお問い合わせ、修正情報、追加情報などお知らせください。

 

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現用艦船シリーズ:アメリカ海軍のミサイル巡洋艦vol.2:嚮導駆逐艦(フリゲート)の発展系譜

今回は本稿前々回の続き。米海軍のミサイル巡洋艦の発展系譜についての整理です。

前々回では、米海軍の艦隊防空が航空機の発展から、従来の対空砲から誘導ミサイルを中心とした防空圏構成のために、第二次世界大戦で量産された巡洋艦を改装し誘導ミサイルのプラットフォームとして活用しようという試みを見てきました。

fw688i.hatenablog.com

結果として重巡洋艦ベースの改造艦5隻、軽巡洋艦ベースの改造艦6隻という成果は見られました。一方で「数を揃える」という視点では第二次世界大戦で大量に建造された駆逐艦の改造も検討されましたが、こちらは結果的にはシステムの搭載スペース、搭載弾数等に余裕がなく、実現しませんでした。

 

駆逐艦改造の試み:ミサイル駆逐艦「ジャイアット」:米海軍初の艦対空誘導ミサイル駆逐艦(DDG)

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(上の写真は米海軍初のミサイル駆逐艦(DDG)に改装された「ギアリング級駆逐艦3番艦「ジャイアット」の概観:by Hansaに武装を少し手を入れています)

同艦は「ギアリング級」3番艦で、第二次世界大戦終結間際の1945年6月に就役しました。1956年計画で対空ミサイル駆逐艦に改造が決定し、テリア・ミサイル搭載の米海軍初のミサイル駆逐艦となる栄誉に預かりました。

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(上の写真は「ジャイアット」の主要兵装の配置:艦中央のMk 33はシールドなしの方が良かったかも。艦尾にはテリア・システムのRIM-2連装ミサイルランチャーが搭載されました(写真下段))

 

嚮導駆逐艦フリゲート(DL)という艦種

一方で、米海軍は艦隊護衛の指揮基点となる艦種として嚮導駆逐艦の建造構想を持っていました。同艦種は個艦としての対空戦闘・対潜戦闘能力はもちろん、併せて高い通信能力、指揮能力を有し、艦隊護衛に任じ周辺輪形陣を構成する駆逐艦だけでなく、上空警戒にあたる航空機も管制する機能も兼ね備えていました。

米海軍では同様の艦種にDL(Destroyer Leader)の艦種記号を与え、フリゲートと呼称していました。

 

そのプロトタイプとして建造されたのが「ミッチャー級」嚮導駆逐艦フリゲート)でした。

 

 

「ミッチャー級」嚮導駆逐艦フリゲート)(就役期間:1953−1978:同型艦4隻)

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(上の写真は「ミッチャー級」駆逐艦の概観:120mm in 1:1250 by Trident: 鋭く切り出された艦首などは非常にいいんじゃないでしょうか?Mk 33のみ手持ちのパーツに変更しています)

同級は対空・対潜能力の強化を目的に米海軍が設計した艦級で、自艦の対空兵装の管制だけでなく、艦載戦闘機の管制もその任務として想定されたため「嚮導駆逐艦フリゲート」(DL)に分類されました。

3600トンの、駆逐艦としては破格に大きな船体を持ち、36.5ノットの高速を発揮することができました。

対空用兵装としては新開発の54口径Mk 42 5インチ両用単装砲2基、と50口径Mk 33 76mm連装速射砲を主兵装とし、対潜用にはMk 108対潜ロケット砲と対潜誘導魚雷発射管、爆雷投射軌条を搭載していました。

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(上の写真は「ミッチャー級」の主要兵装配置:(上段)艦首部のMk 42 5インチ両用砲とMk 33 連装速射砲そして筆者の大好きなMk 108対潜ロケットランチャー(下段)艦尾部のMk 108、Mk 33とMk 42、さらに爆雷投射軌条)

各兵装の解説を簡単に。

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本砲は毎分40発という高い射撃速度を誇り、23000メートルに達する射程距離を有していました。

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本砲は半自動式砲で、ラピッドファイアと呼称され、毎分45発(砲身あたり)の射撃速度を持つ優れた砲でした。

Mk 42とMk 33の組み合わせで、強力な防空圏を構成する事ができました。

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Mk.108対潜ロケット砲は、ロケット弾を目標近辺に投射し、搭載する磁気信管で目標を感知させ炸裂させるもので、250−800メートルの射程を持ち、毎分12発投射することができたました。

(余談ですが筆者はこの対潜ロケットが大好きです。というのも小学生の頃の愛読書、小沢さとる先生の名作「サブマリン707」に登場していまして、なんと未来的な(SFなんて言葉知らなかったからね)すごい兵器なんだろう、というのが原体験なのです。興味のある方は是非ご一読を)f:id:fw688i:20190921205626j:plain

 

DDGへの改装

同級のうち2隻(「ミッチャー」「ジョン・S・マッケイン」)は1963年にタータ・システムを搭載してミサイル駆逐艦(DDG)に改装されています。

その改装は、艦橋前のMk.33 3インチ連装速射砲とウェポン・アルファを撤去してアクロックランチャーを設置、艦尾部のMk.33 3インチ連装速射砲とウェポン・アルファを撤去したスペースにターターシステムの単装ミサイル発射基とミサイル誘導用のイルミネーターを設置しています。後部マストは大型のトラス構造となり、三次元レーダーが搭載されました。

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(上の写真はDDG改装後の「ミッチャー級」駆逐艦の概観:下の写真はDDG改装後の主要兵装:(上段)艦首部の76mm連装速射砲はアスロック対潜ミサイルの8連装発射機に置き換えられています。(下段)艦後部にはMk 108とMk 33を撤去し、ターター対空ミサイルシステムの単装発射機:Mk.13と誘導用のイルミネーター等が設置されました)

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FRAM改装

DDGに改装されなかった2隻は、FRAM改装されています。内容はMk 108対潜ロケット砲(大好きなのに!)を廃止し、艦後部にDash2機搭載に対応する運用施設を追加しています。

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(上の写真はFRAM改装後の「ミッチャー級」駆逐艦の概観:by Triden:下の写真はFRAM改装後の主要兵装:(上段)艦首部の76mm連装速射砲は開発の遅れていたMk 26 70口径連装速射砲に改められています。(下段)艦後部にはMk 108とMk 33を撤去し、Dash運用用の発着甲板と整備用ハンガーが設けられています。対潜誘導短魚雷発射管がDashハンガーの前方に設置されました)

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Dashは昨今の無人ドローンのご先祖のような兵器で、対潜魚雷を糖鎖した小型無人ヘリを無線操縦で潜水艦の潜む海域に飛ばし、そこから魚雷を投下し攻撃するシステムで、ヘリ搭載の無理な小型艦でも運用できるという利点がありました。

 

「ミッチャー級」フリゲートの3形態

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(上から就役時、DDG改装時(「ミッチャー」「ジョン・S・マッケイン」)、FRAM改装時(「ウィルス・A・リー」「ウィルキンソン」)の順)

 

併せて、もう一隻、少し出自の異なる嚮導駆逐艦が建造されていました。

嚮導駆逐艦ノーフォーク」(就役期間:1953-1970:同型艦なし)

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(上の写真は「ノーフォーク級」駆逐艦の概観:133mm in 1:1250 by Trident:モデルは後期のアスロック対潜ミサイルの導入に向けての試験艦となった際を表現しています。就役時には艦後部のアスロック発射機の搭載位置に艦首部と同様に「ウェポン・アルファ」2基を装備していました))

同艦は、第二次世界大戦において航空機と並び通商路への重大な脅威となることが明らかとなった潜水艦への対応策として設計された艦級でした。米海軍は航空機への対策として大戦中に「アトランタ級防空巡洋艦(CLAA)を建造していましたが、同艦は同様の設計思想で当初はいわば「対潜巡洋艦」(CLK=sub-killer cruiser)として1隻のみ建造されたものでした(計画時には2隻の予定でした)。

就役時には嚮導駆逐艦(DL)に艦種名称が変更され、1955年にはフリゲート艦に艦種名称が変更されました。

アトランタ級防空巡洋艦に範をとったため、船体は5000トン級と大きく、33ノットの速力を出すことができました。

対潜艦として設計されてところから、就役時の主兵装はMk.108「ウエポン・アルファ」(対潜ロケット砲)4基と誘導魚雷でした。

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Mk.108対潜ロケット砲は、ロケット弾を目標近辺に投射し、搭載する磁気信管で目標を感知させ炸裂させるもので、250−800メートルの射程を持ち、毎分12発投射することができたました。しかしながら、実情は不発率が高いなど不評だったようです。

ノーフォーク」は1960年代からアスロックの試験艦となったため、艦尾部の「ウェポン・アルファ」2基をアスロック発射機に置き換えています。f:id:fw688i:20230903100939p:image

(「ノーフォーク」の兵装配置の拡大:艦首からMk.26 3インチ連装速射砲2基、「ウェポン・アルファ」対潜ロケット砲2基、艦橋脇のボートの下に対潜魚雷発射管(以上写真上段)、同艦後期に試験的に設置されたアスロック8連装発射機(就役時にはこの位置に「ウェポン・アルファ」対潜ロケット砲2基が設定されていました(、そしてMk.26 3インチ連装速射砲2基)

一方、砲兵装は個艦防御用として新開発の70口径Mk.26 3インチ連装速射砲4基が予定されていました(就役時には間に合わず50口径Mk.33 3インチ連装速射砲、いわゆるラピッドファイアが搭載されていました。のち当初予定のMk.26に換装)。

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(各装備の拡大:Mk.26 70口径3インチ連装速射砲(上段左)、「ウェポン・アルファ」対潜ロケット砲(上段右)、対潜魚雷発射管(下段左)、アスロック8連装発射機(下段右:就役時にはこの位置に「ウェポン・アルファ」対潜ロケット砲2基が設置されていました:筆者はそちらを見たかった!))

 

DDGへの改装案(1959年頃)

この時期には大型の艦船には必ずと言って良いほど、ミサイル駆逐艦への改装計画がありました。同艦もご多聞にもれずターターシステムを搭載したミサイル駆逐艦への改装計画があったようです。その際には、「ウェポン・アルファ」を全部撤去して、アスロックとターターに載せ替える、というようなことになってようです。

この時期、「ノーフォーク」が新型レーダーやアスロックの試験艦として運用されていたことなどから、この改装案は実現しないまま、1970年に同艦は退役しました。

(下の写真は、「ノーフォーク」と「ミッチャー級」の大きさを比較したもの。「ノーフォーク」が軽巡洋艦出自のかなり大きな設計だったことがよくわかります)

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「クーンツ級」ミサイルフリゲート(就役期間1960-1991:同型艦:10隻:1975年より駆逐艦に類別変更)

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(「クーンツ級」ミサイルフリゲートの概観:124mm in 1:1250 by Hansa)

同級は先行して建造された「ミッチャー級」嚮導駆逐艦フリゲートの船体設計をベースに、これに1956年に実戦配備が始まった「テリアミサイル」を搭載したもので、「ミサイルフリゲート」(DLG)の名称を冠した最初の艦級となりました。(設計上の一番艦は「ファラガット」でしたが、建造途中で兵装の変更があったりして最初に就役したのは4番艦の「クーンツ」でした。このため「クーンツ級」と呼称されることもあります)

同級は「ミッチャー級」フリゲートの発展系ではありましたが、同級が3600トン級であったのに対し、テリアミサイルとその管制システムの搭載から排水量は4700トン級に大型化しています。

機関等は「ミッチャー級」のものを踏襲し、32ノットの速力を発揮することができました。

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(「クーンツ級」の兵装配置の拡大:詳細は下記本文で:下段中央のMk.33  3インチ連装速射砲はシールドなしのストックパーツに置き換えてあります。テリアミサイルはMk.10連装発射機の後ろの収納庫から装填される仕掛け?)

兵装はテリアミサイルを主兵装として、Mk.10連装発射機とテリアミサイルの管制機構が艦尾部に搭載されています。Mk.10発射機下の弾庫には40発のミサイルが収納されていました。砲兵装としてはMk.42 5インチ砲1門が艦首に搭載され、その直後にアスロック8連装発射機が設置されました。その他対潜兵装として短魚雷三連装発射管2基が搭載され、個艦防空用にはMk.33 3インチ連装砲が両舷に装備されました。後にこの両舷の3インチ連装砲はハープーン対艦ミサイルの発射機に換装されています。

主兵装であるテリアミサイルは後にスタンダードミサイルに換装されています。

 

同級は1975年の艦種再分類でミサイルフリゲートからミサイル駆逐艦に艦種変更されました。

「リーヒ級」ミサイルフリゲート(就役期間1962-1995:同型艦:9隻:1975年より巡洋艦に類別変更)

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(「リーヒ級」ミサイルフリゲートの概観:130mm in 1:1250 by Delphin)

同級は米海軍初のミサイルフリゲートである「クーンツ級」についづいて、さらにミサイル化を進めてテリアミサイルを艦首・艦尾にダブルエンダーで搭載した設計になっています。ミサイル設備の拡充に伴って発電関係の装備を増設し、艦型は大型化しています。

6000トン弱の船体に機関は全休のものを踏襲して搭載し、33ノットの速力を出すことができました。

同級からマストと煙突を一体化したマック構造が採用されました。

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(「リーヒ級」の兵装配置の拡大:詳細は下記本文で:下段中央のMk.33  3インチ連装速射砲はシールド付きのストックパーツに置き換えてあります:実はシールドなしが正解だったかも。テリアミサイルはMk.10連装発射機の後ろの収納庫から装填される仕掛け。アスロックは発射機直後のブリッジ下が収納庫になっています)

主兵装としてはテリアミサイルのMk.10連装発射機を艦首・艦尾にダブルエンダーで搭載し、いわゆる主砲は廃止されました。テリアミサイルは後にスタンダードミサイルに換装されています。対潜兵器としては前級と同様、アスロック8連装発射機1基と三連装単魚雷発射菅2基を装備し、個艦防空用にMk.33 3インチ連装速射砲を両舷に搭載しています。(後にこの連装速射砲はハープーン対艦ミサイル発射機に換装され、加えて個艦防空用にCIWSが搭載されました)

 

同級は1975年の艦種再分類でミサイルフリゲートからミサイル巡洋艦に艦種変更されました。

 

原子力ミサイルフリゲート「ベインブリッジ」(就役期間1962-1996:同型艦なし:1975年より巡洋艦に類別変更)

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原子力ミサイルフリゲート「ベインブリッジ」の概観:135mm in 1:1250 by Delphin)

同艦は1959年度計画で1隻のみ建造されました。前述の「リーヒ級」の設計を踏襲し、機関を原子力に置き換えた設計でした。

大型艦の機関の原子力化については空母「エンタープライズ」、ミサイル巡洋艦ロングビーチ」等で実装化が進められていましたが、この事で第二次世界大戦時からすでに懸案であった小型艦の航続力不足がより深刻になることが懸念されました。同艦はこの課題に対する中型艦での導入研究として建造されました。

兵装、およびその配置等は「リーヒ級」に準じています。

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(「ベインブリッジ」の兵装配置の拡大:兵装配置は通常動力推進の「リーヒ級」に準じています。艦首からテリアミサイルMk.10 連装発射機とその直後の装填庫、アスロック発射機、ちょっとわかりにくいですが三連装短魚雷発射管、Mk.33  3インチ連装速射砲、シールド付き(ストックパーツに置き換えてあります)、艦尾のテリアミサイルMk.10連装ランチャーの順。Mk.33  3インチ連装速射砲は後にハープーン対艦ミサイル発射筒に換装されています。さらにその周辺にCIWSが増設されています)

 

同級は1975年の艦種再分類でミサイルフリゲートからミサイル巡洋艦に艦種変更されました。

 

同型艦なのに艦型が随分と異なるのは?

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(「リーヒ級」ミサイルフリゲート:130mm と「ベインブリッジ」:135mmの艦型比較)

同型艦、動力の違い、と説明しながら、随分、艦型も異なるようです。実艦でも「リーヒ級」は全長162.5mに対し「ベインブリッジ」は172mです。煙突がない分、上部構造が「ベンブリッジ」では簡素化されているのは理解できます。

これが原型製製作者の相違、あるいは気まぐれによるものかどうか、筆者にはわかりませんが、首を傾げるうちに、一つ面白い記述を見つけました。それは、この後紹介する原子力ミサイル巡洋艦「カリフォルニア級」についてのWikipediaでの記述です。

こんな一節が。

「通常動力艦は巡航速度で抵抗が最小になるような船体設計としており・・(中略)・・核動力艦のメリットを活かして、巡航速度よりも高速時の抵抗が最小になるように設計されている」

つまり核動力艦の場合には燃料の心配が不要なので、いつでも高速航行ができる、その状況に船体の設計は合わせている、そういうことですね。

 

「ベルナップ級」ミサイルフリゲート(就役期間1964-1995:同型艦:9隻:1975年より巡洋艦に類別変更)

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(「ベルナップ級」ミサイルフリゲートの概観:134mm in 1:1250 by Delphin)

同級は前級の「リーヒ級」ミサイルフリゲートが艦隊防空の専任艦とした設計であったのに対し、より汎用任務をも視野に入れた設計とされました。このためテリアミサイルは「リーヒ級」から1基減じて代わりにMk.45  5インチ砲が艦尾に搭載されました。f:id:fw688i:20230716095703p:image

(「ベルナップ級」の兵装配置の拡大:詳細は下記本文で)

艦首に設置されたテリアミサイルの連装発射機Mk.10は新開発のMod.7が採用され、弾庫の収納弾数が従来の40発から60発に増加しています。さらにアスロックの発射も可能で、同級ではアスロックの8連装発射機は廃止されました。テリアミサイルは後にスタンダードミサイルに換装されています。対潜兵器としてはアスロック以外に短魚雷3連装発射管2基を搭載していました。個艦防御用の兵装としてはMk.34  3インチ単装速射砲が両舷に配置されています。この単装速射砲は後にハープーン対艦ミサイル発射筒に換装され、CIWSが搭載されました。

艦尾部を砲兵装としたことにより、艦尾にヘリ発着甲板と格納庫のスペースを得ることができ、無人ヘリDash2機が搭載されました。

 

同級は1975年の艦種再分類でミサイルフリゲートからミサイル巡洋艦に艦種変更されました。

 

原子力ミサイルフリゲート「トラクスタン」(就役期間1967-1995:同型艦なし:1975年より巡洋艦に類別変更)

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原子力ミサイルフリゲート「トラクスタン」の概観:138mm in 1:1250 by Argos:モデルはCIWSやハープーン対艦ミサイル4連装発射筒を装備していますので、後述するように、就役当初を再現したものではなく1980年代以降の改装後を再現したものです)

同艦は「ベルナップ級」ミサイルフリゲートを核動力化したものです。

米海軍の原子力ミサイル巡洋艦(就役当時はフリゲートの艦種分類でした)としては、「ロングビーチ」「ベルナップ」につぎ3隻目です。f:id:fw688i:20231223134852p:image

(「トラクスタン」の兵装配置の拡大:武装の詳細は下記本文で:中段写真では同感の大きな特徴である巨大なラティス構造のマストが見ていただけます:写真上段のCIWS、写真下段のハープーン発射筒から、モデルは1980年以降のを再現したものであるkとがわかります

搭載する兵装、その配置等は「ベルナップ級」に準じ、主要兵装である対空ミサイルは当初はテリア・システムを搭載していましたが、「ベルナップ級」が艦首にMk.10.Mod7 連装発射機を装備したのに対し、同艦ではこれを艦尾に装備し、ドラム型弾倉3基を搭載して60発のミサイルを収容していました。この発射機はアスロックの運用も兼用していました。加えて砲兵装としてMk.42 54口径5インチ速射砲を1基、50口径3インチ単装砲2基を艦中央部に搭載していました。

対潜装備としては、上記のMk.10Mod7 連装発射機から射出されるアスロックに加え533mm魚雷発射管、324mm短魚雷連装発射管を固定式で搭載していましたが、後に533mm魚雷発射管は撤去されました。同艦は米海軍の原子力ミサイル巡洋艦としては唯一ヘリコプターの搭載・運用能力を備え、ヘリコプター1基を搭載していました。

同艦も当初搭載していたテリアミサイルはスタンダードミサイルに換装され、両舷の個艦防御用の速射砲に変えてハープーン対艦ミサイルとCIWSが搭載されました。

 

同級は1975年の艦種再分類でミサイルフリゲートからミサイル巡洋艦に艦種変更されました。

 

原型である「ベルナップ級」ミサイル巡洋艦との比較

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(写真上段と下段左が原型である「ベルナップ級」(Delphin社製):一番大きな差異はミサイルと主砲の搭載位置が逆であることと、艦中央部のマストの構造=「ベルナップ級」は煙突を収容したマック構造ですが、「トラクスタン」は原子力推進ですので煙突を持たず、したがってラティス構造のマストを持っています)

 

フリゲート艦(嚮導駆逐艦)出自のミサイルフリゲート艦の艦級の比較

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「カリフォルニア級」原子力ミサイルフリゲート(就役期間1974-1999:同型艦:2隻:1975年より巡洋艦に類別変更)

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(「カリフォルニア級」原子力ミサイルフリゲートの概観:145mm in 1:1250 by Argos:このモデルはブリッジ前のアスロック8連装発射機を撤去したのちを再現したものです)

同級は「ニミッツ級原子力空母の啓造計画に準じ、「原子力空母機動部隊の艦隊防空中枢艦」となるために設計されたミサイルフリゲートで、これまでの原子力ミサイルフリゲートが従来動力艦を核動力化したものであったのに対し、初めて核動力を機関として想定して設計された艦級です。2隻が建造されました。

これまでの駆逐艦由来の艦級の系統とは異なり、9000トンを超える大きな船体を持ち、30ノットの速力を有していました。

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(「カリフォルニア級」の兵装配置の拡大:詳細は下記本文で:Argos製モデルの精緻な細部は圧巻というべき。写真上段は艦首部の主要兵装の配置を示していますが、アスロック8連装発射機が撤去された後が再現されています。アスロックランチャーの設置後の直前の構造物は、アスロックの次発装填用の弾庫で、次発装填時にはランチャーを180度旋回させて、ランチャー後部を弾庫に向ける必要がありました。アスロックの撤去後は何に使ったんだろう?:中段写真では、ハープーン対艦ミサイルの発射筒やCIWSの装備位置が確認できます)

主兵装はターターDシステムで、対空ミサイル発射機に単装のMk.13(各40発収納)を採用し、これを艦首尾にダブルエンダーで搭載しています。

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砲兵装としては新開発の軽量Mk.45  5インチ単装砲をこれも艦首尾に搭載しています。

対潜装備としてはアスロック8連装発射機を艦首に、連装短魚雷発射管を両舷に装備し、これら以外にはハープーン対艦ミサイル4連装発射筒を2基、個艦防御用にCIWS2基を搭載しています。

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同級は1975年の艦種再分類でミサイルフリゲートからミサイル巡洋艦に艦種変更されました。

 

バージニア級」原子力ミサイル巡洋艦(就役期間1976-1998:同型艦:11隻)

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(「バージニア級」原子力ミサイル巡洋艦の概観:141mm in 1:1250 by Argos:このモデルは艦尾にトマホーク搭載用のMk.143 装甲ボックスランチャーを搭載した状態を再現したものです)

同級は前級に引き続き、原子力空母機動部隊の直衛、防空中枢艦として設計されました。

10000トンを超える船体に核動力を搭載し、30ノットの速力を発揮することができました、

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(「カリフォルニア級」の兵装配置の拡大:詳細は下記本文で:ブリッジ直前に装備されたハープーン対艦ミサイルの発射筒、艦尾のトマホーク用装甲ボックスランチャーなどが確認できます)

主兵装等は原則、前級「カリフォルニア級」のものを踏襲しました。主兵装は前級同様ターターDシステムで、対空ミサイルの発射機としては艦首尾に配置された連装のMk.26発射機(44発収納)が搭載されました。

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他に砲兵装としてMk.45  5インチ単装砲、ハープーン対艦ミサイル4連装発射筒を2基、個艦防御用にCIWS2基等、全て「カリフォルニア級」の兵装を踏襲しています。

対潜装備としてはアスロックをMk.26から発射できるほか、三連装短魚雷発射管2基を装備しています。さらに、のちにトマホーク巡航ミサイル用として、Mk.143  4連装装甲ボックスランチャー2基が追加装備されました。

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同級の搭載するターターDシステムはターターシステムから発展した武器統合システムであり、やがてイージスシステムへと発展します。同級も後期型設計ではイージスシステムを搭載する計画もありましたが、同級では搭載が困難とされ、11隻の計画は4隻で打ち切られ、イージスシステム搭載は次級の「タイコンデロガ級」に引き継がれました。

 

Argos製モデルについて

上掲のように、Argos社のモデルは大変精度が高く、一方で大変高価で取引されています。筆者は以前ご紹介した「ロングビーチ」、今回登場している「カリフォルニア」「バージニア」の各モデルを保有してますが、いずれもEbayで調達したもので、しかしながら一体いくらで入手したのか、記憶にありません。(記憶にない、ということは、それほど無理をして入手したということではなさそうなのですが。Ebayには時々、そのようなエアポケットのようなラッキーな瞬間があることはあるのです。それほどその機会が多くはありませんが)

(Argo社製「ベインブリッジ」:例によって筆者がモデル検索等にお世話になっているsammelhafen.de掲載の写真。下は筆者の保有している「ベインブリッジ」(写真上段:Delphin製)と現在ebayに出品されているArgos社製「ベインブリッジ」の比較。うーん、こうやって比べてしまうと・・・。しかしebayでの価格差はおよそ5倍。こちらも、うーん!)

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同社のラインナップは現用艦が多く、いずれも大変精度の高いモデルになっています。筆者はこれまで第二次世界大戦前までのコレクションにまず力を入れ、特に外国艦船の場合、現用艦の収集にはあまり熱心ではありませんでした。ですので、接する機会が少なかったのですが、改めてこうして観察すると、やはりすごいメーカーであることを再認識しました。が・・・。

 

タイコンデロガ級」イージスミサイル巡洋艦(就役期間1983-現在:同型艦:27隻)

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タイコンデロガ級イージス巡洋艦1−5番艦の概観:同級の1番艦から5番艦までは、Mk 26連装ミサイルランチャーを搭載していました。装弾数は2基合わせて44発で、イージスシステムの効力を考慮すると十分ではなく、6番艦以降はVLS装備艦となっています。直下の写真は、1-5番艦の兵装配置) 

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同級は米海軍が導入した世界初のイージスシステム艦で、スプルーアンス級の船体をベースとして利用し、高い対空、対潜、対艦、対地攻撃能力を持っています。当初はミサイル駆逐艦として分類されましたが、後にミサイル巡洋艦に再分類されました。

イージスシステムの詳細については、優れた説明がたくさんありますのでそちらに委ねるとして、(例えばこちら)

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やや乱暴に整理してしまうと、イージスシステム(Aegis Weapon System: AWS)は、ターターシステムなど従来のいわゆる防空システムの枠にとどまらず、レーダー等のセンサーシステム、情報処理システム、武器システムを全て連結した統合的戦闘システムを意味しています。

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タイコンデロガ級イージス巡洋艦の最大の特徴は、なんと言っても巨大な上部構造物にはめ込まれたレーダーパネルでしょう) 

同システムは同時に128目標を補足・追跡し、脅威度の大きい10目標程度を特定し迎撃することが、自動でできるとされています(もしかすると、ここで上げている目標数などは、さらに更新されているかもしれません)。

さらに、このシステムへの接続は、イージスシステム搭載艦にとどまらず、他の機器搭載艦艇とも接続可能で、従って、個艦の武器システムのみでなく、例えば近接する艦隊全体の武器システムによる艦隊防空が可能となるわけです。

と、このように優れた可能性を持つシステムなのですが、一方でシステムを構成する兵器・機器の重量は膨大で、およそ700トンにも達します。そこで余裕のある「スプルーアンス級」の船体が、搭載プラットフォームの候補に上がって来るわけです。

同級の余裕のある船体でも、大きな重量の上部構造を搭載したため1•2番艦の就役時には復元性に課題が生じたため3番艦以降は重量軽減のための船側外板の素材見直しや設計変更が行われています。

機関は基本的に「スプルーアンス級」のものを踏襲しましたが、イージスシステムの搭載により搭載発電機の増設等、電源確保に向けての改修が行われました。

 

VLS装備艦の登場

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タイコンデロガ級イージス巡洋艦6番艦以降の概観:Mk26連装ミサイルランチャーではなく61セルのVLSを艦の前方後方に装備し、装弾数と即応性を向上させています)

兵装面で見ると、5番艦まではMk 26連装ランチャー2基を主兵装とし、その他の砲兵装や対艦兵装、個艦防御兵器については「スプルーアンス級」と同様、5インチ速射砲(Mk 45)2基、CIWS2基、三連装短魚雷発射管2基、対潜ヘリ2機、ハープーン4連装発射筒2基を搭載していました。しかしMk26連装ランチャー2基の装填数が44発しかなく、システムに対し不釣り合いであったため、6番艦以降は61セルのVLSを艦種部、艦尾部に各1基搭載し、装弾数と即応性を高めています。

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余談ですが、確か、トム・クランシーの小説「レッド・ストーム・ライジング」で、主人公の一人の乗艦である「タイコンデロガ」がその装弾数の少なさと即応性の低さから、せっかくイージスシステムが目標を捕捉しながらも撃沈されてしまう(大破だったかも?)というような「くだり」があったのを思い出しました。

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現在、Mk26搭載艦5隻は全て退役済みですが、残りのVLS搭載艦22隻は現役です。

 

ところで、同級のベースとなった「スプルーアンス級駆逐艦については本稿の下記の回でご紹介しています。そちらも是非。

fw688i.hatenablog.com

 

「カリフォルニア級」「バージニア級」とイージスミサイル巡洋艦(「タイコンデロガ級」)
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(手前から「カリフォルニア級」「バージニア級」「タイコンデロガ級」の順:「タイコンデロガ級」の上部構造物の大きさが目につきます。イージスシステムを搭載するにはこれくらいのスペースが必要、ということでしょうか?「バージニア級」のイージス艦化ができなかった理由がなんとなくわかるかも。電源供給等の視点で言えば、核動力艦は圧倒的に優位なはずなんですがね)

ということで、嚮導駆逐艦フリゲートに由来するの艦隊防空艦の現在に続く系譜は、ともあれこの辺りで。

 

次回は今回の流れで米海軍の「今日の」フリゲート艦の艦級の系譜のお話か、あるいは、ロシア海軍の「ウダロイ級」駆逐艦のヴァリエーション、その辺りをご紹介いたいと思います

もし、「こんな企画できるか?」のようなアイディアがあれば、是非、お知らせください。

 

模型に関するご質問等は、いつでも大歓迎です。

特に「if艦」のアイディアなど、大歓迎です。作れるかどうかは保証しませんが。併せて「if艦」については、皆さんのストーリー案などお聞かせいただくと、もしかすると関連する艦船模型なども交えてご紹介できるかも。

もちろん本稿でとりあげた艦船模型以外のことでも、大歓迎です。

お気軽にお問い合わせ、修正情報、追加情報などお知らせください。

 

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再録(2020年8月投稿から):夏休み!工作特集:特設空母「安松丸」的な・・・

今回は前回予告したように、新規投稿に十分な時間が取れないので、これまでの投稿の中から、夏休みっぽいお題を再録させていただき、お茶を濁します。(2020年8月の投稿から)

 

(ここから、再録スタート)

今回は、夏休みの工作特集、です。

特設空母「安松丸」 の製作

特設空母「安松丸」と聞いて、ピンと来た方、いろいろな意味で、「かなりなもん」です。

 

特設空母「安松丸」を知っていますか?

特設空母「安松丸」は、元々は日本陸軍が上陸支援母艦とする目的で徴用した7000トン級の高速貨物船「安松丸」で、この船を母体として改装を始めるのですが、飛行甲板を張ったところで、貨物船としては「高速」ながらも、空母としては当時の主力航空機の発着艦に実用性を欠く低速(15ノット)と飛行甲板の短さ(130メートル)、さらに改装に伴う重心の不安定さに改めて課題を感じた陸軍は工事を中断、改装を放棄した状態で長らく埠頭に繋がれていました。

その後、ともかく航空主兵への戦備整備を急ぐ海軍が埠頭に繋がれたままの半完成状態に着目。陸軍から譲渡された後、ともかくも改装工事を完了させ特設空母として完成させました。改装後は、旧式駆逐艦を改装した哨戒艇一隻を随伴し、当時、北アフリカで展開されていたドイツ軍のロンメル・アフリカ軍団のエジプト侵攻作戦を支援するためにインド洋からアフリカ沖に派遣され、通商破壊活動に従事しました。

(直下の写真:特設空母「安松丸」の概観。104mm in 1:1250 by Decapod Models :本艦は哨戒艇を伴い、インド洋方面からアフリカ沖に出撃しました。写真下段:飛行甲板上に小さな飛行指揮所を設置していますが、艦橋は飛行甲板の前端下に設置されています。エレベータを装備していないこの艦では、搭載機の格納甲板への収納は、左舷側2箇所の舷側に突き出した可倒・引き込み式のデリックで行います)

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ざっとそんなお話が、「安松丸物語」として宮崎駿さんの「雑想ノート」の第9話に収録されています。

 

「雑想ノート」

言わずと知れた宮崎駿さんの名著ですね。元々は模型雑誌「モデル・グラフィクス」に連載されていたものと記憶します。

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(上の写真は「雑想ノート」の表紙と「安松丸物語」の一部。実は「安松丸」の全体像が描かれているのはこのカットのみ。ただ、例えばエレベータの装備されていないこの艦での、搭載機の収納手順などは、細かいメモが書き込まれているので・・・)

全部で12話のエピソードが掲載されており、そのどれもが主流になりきれなかった「兵器」へのなんとも言えない「愛おしさ」に満ちた物語になっています。冒頭に「この本に、資料的価値は一切ありません」と明記されているのですが、それでも心を擽られる物語ばかりだと、筆者は感じています。

ちなみに登場する兵器は、以下の通り。

「ユンカース J-38重爆撃機(の派生型)(第一話:ボストニア王国空軍史より-知られざる巨人の末弟)

装甲砲郭艦「モニター」と「メリック」(第二話:甲鉄の意気地)

ボストニア王国陸軍超重戦車「悪役1号」(第三話:多砲塔の出番)

「ポテーズ540双発爆撃機(第四話:農夫の眼)

清国軍艦「鎮遠」と日本海軍「三景艦」(第五話:竜の甲鉄)

「マーチン139W双発爆撃機(第六話:九州上空の重轟炸機

「高射砲塔」(第七話:高射砲塔)

「Q・シップ」(第八話:Q.ship)

特設空母 安松丸」(第九話:安松丸物語)

ツェッペリン・シュターケンRーIV長距離爆撃機(第十話:ロンドン上空1918年)

「特設監視艇」(第十一話:最貧前線

「ポルシェ・ティーガー :VK4501(P)」(第十二話:豚の虎)

何とも曲者揃い、というか、いやはや。

 

この本には、スピンアウト、というかマルティメディア展開というか、ラジオドラマ仕立てのCD音源が発売されています。敢えてアニメーションではなく「ラジオドラマ仕立て」というところが、なんとも・・・。

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(上の写真のコレクション、確か第10巻「農夫の眼・Q .ship」が欠けています)

こちらはなんとも豪華な出演陣(声優陣・俳優陣?)で、その顔ぶれを見ても、さすがスタジオ・ジブリの実力発揮、というか「宮崎駿」の名前なら、少々の無茶はできる、というか、いずれにせよストーリーはもちろんのこと、出演者の顔ぶれでも、どちらでもいいから、機会があれば是非、一度お聞きになることをお薦めします。

ちなみに「特設空母 安松丸物語」の語りは、何と三木のり平さんです。

 

夏休みの工作に、ピッタリ。さあ、作ってみよう!

という訳でもないのですが、以前から特にこの「安松丸物語」のエピソードには強く心惹かれるものがあり、是非一度、立体化をトライしてみたい、と思っていました。

 

Step 1:素材探し

7000トン級の貨物船、ということで、ベースとなる「貨物船」を探します。こういう時は、いつものように困った時のShapewaysですね。船の長さと形態から、第一次大戦型の貨物船Decapod Models製の下記に決定!実は「安松丸」より、さらに全長が10メートルほど短いんですが、まあ、そこは目を瞑りましょう。

www.shapeways.com

早速お取り寄せ。

(直下の写真:EFC=Emargency Fleet Corporation Design 1013の概観。なかなかいいぞ。素材はSFD:Smooth Fine Detail Plasticですので、表面は滑らかですが、硬度が高く、加工(特に切断等)の際には欠損が出ないように、少し気を使う必要はありそうです)

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Step 2: 船体の加工と追加部分の準備

まあ、ご覧の通りです。

 

EverGreen製のサイディング系(甲板の木材感が出ます)のプラシートで飛行甲板部分を準備。その前端にモデルから切り離した艦橋を移設します。煙突他の上部構造の突起物を切除し、甲板と同じくEverGreenのプラビーム(H型)等で特に島型上部構造物の上部を整えます。前部と後部の格納甲板に相当する場所に前出のEverGreenのサイディング系プラシートを床板として貼り平面に。その際に前部・後部の収納用の張り出しも準備します。(写真:上段と下段左)

飛行甲板の裏面には何本かプラビームで横桁を通しておきます。(写真:下段右)
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Step 3:ざっと塗装して仮組みへ

実際にはサーフェサーによる下地処理、そして塗装をそれぞれのパーツに施したのち、仮組みしてみます。(下の写真)

おお、何となく「様」になってきたかも。
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そして完成

飛行甲板裏の横桁に合わせて、縦の支柱を入れていきます(EverGreen プラビーム(H型)を使用しています)さらに右舷側に飛行指揮所と煙突を、手持ちのジャンクパーツから添付。

可倒・引き込み式の航空機収納用デリックを前部・後部の航空機格納口の上面に装着します。デリックは、前部は引き込んだ状態、後部は一応水平に展開した状態にしてみましょう。(この可倒・引き込み式デリック、「雑想ノート」によると、5トンまで吊り上げる能力があり、飛行甲板上の航空機を格納甲板へ移動させる際には、飛行甲板上で甲板方向へ10度ほど倒した状態で収納する航空機を吊り下げ、ゆっくり今度は反対側の海面上へ水平角まで倒し、そのままデリックごと格納庫内へ引き込んで航空機を格納甲板に収容する、という少々面倒臭い使い方をするようです)

アンテナマストを建て、甲板上にデカールを貼って、はい、ほぼ出来上がり、です。

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「安松丸」の搭載機は艦上攻撃機6機のみ、ということになっています。格納庫が小さいため甲板上に2機を繋止し、3機が格納庫収納、1機は保用で分解搭載、と記されています。

さらに搭載する攻撃機は、短い飛行甲板から発艦できる複葉の旧式の96式艦上攻撃機、ということになっています。ja.wikipedia.org

96式艦上攻撃機日本海軍が開発した初めての満足のいく性能の攻撃機と言われています。しかしわずか1年後にさらに高性能な全金属単葉の名機97式艦上攻撃機が正式採用されたために、ほとんど活躍の場を与えられなかった、という不幸な生い立ちを持っている機体でした。f:id:fw688i:20200506120910j:plain

(直上の写真:飛行甲板に並べられた96式艦上攻撃機(上段)。96式艦上攻撃機は格納時には翼を折り畳んで収納されました(下段右)。搭載機の格納甲板への収納は、エレベーターを装備していないために、舷側に可倒・引き込み式の懸垂型のデリックを2基装備し、これにより行いました)

 

「雑想ノート」のオリジナル・ストーリーでは 、「安松丸」の小さな機動部隊はアフリカ沖に進出し、地中海を独伊連合軍に抑えられた英軍が、エジプト侵攻を企てるロンメル・アフリカ軍団に対抗する援軍をはるか希望峰経由で送ってくる航路を脅かします。「安松丸」が搭載するたった6機の搭載機のうち、放たれた索敵機3機のうちの1機が、ソマリア沖に輸送船団を発見、これを残り3機の雷撃隊で襲撃して輸送船を撃沈します。さらに母艦に帰投する攻撃隊は、船団に後続する空母を含む護衛艦隊を発見。日没となったため、夜間雷撃が可能なベテラン乗組のたった1機だけの攻撃隊を発進させ、護衛艦隊の「イラストリアス級」空母にも、魚雷を命中さます。攻撃機が接近する際に、英空母の乗組員は複葉旧式の96式艦上攻撃機を、帰投中の味方の「ソードフィッシュ」と誤認して、全く警戒しなかった、とか・・・。

戦果を報告した攻撃機は、しかし帰投する母艦の位置を見失い、そのまま行方不明に・・・。というような劇的な話が物語られています。(これにはさらに後日談があるのですが・・・)

 

「安松丸」的な・・・水上戦闘機「強風」の搭載

上記のように、宮崎駿さんの「雑想ノート」のオリジナルのストーリーでは、「安松丸」の搭載機は艦上攻撃機6機のみ、ということになっています。

しかしここは筆者の「安松丸的な世界」ということで、ちょっと欲張って、前部格納庫に水上戦闘機を3機、搭載してみました。もちろんこちらは飛行甲板へあげることなく、デリックで水面に下ろして発進させます。搭載機は日本海軍の太平洋の島嶼地域への進出の切り札となることを期待されながら、登場時期が遅れ活躍の場を見出せなかった不運の水上戦闘機(と言いきっていいと思います)「強風」です。

太平洋では、さして活躍の場を見出せなかった「強風」でしたが、インド洋での英輸送船団と、その非力な護衛部隊相手の戦場では、索敵や、鈍重な英空母搭載の艦載機相手に、かなり部の良い戦いができた、・・・とか。

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 (直上の写真は、水上戦闘機「強風」を搭載した前部格納庫のアップ) 

ja.wikipedia.org

「強風」は日本海軍が最初からフロート履きの水上戦闘機として開発した機体です。太平洋での島嶼地域への進出の際にも、進出部隊が航空基地などの整備が整うまでの間にも十分な航空支援を得られるようにと、かなり欲張った仕様でした。設計当時の主力艦上戦闘機であった「零戦11型」よりも速度で勝り、武装は同等、さらに重いフロートを履きながらも小回りが効くようにと、空戦フラップを搭載するなど、新機軸に溢れた意欲的な機体でした。

当然の事ながら、開発は難航し、実用配備される頃には既にソロモン方面での米軍の反抗が始まっており、想定された「進出・展開」などの段階は終了していました。

さらに、特に水上戦闘機でありながら「零戦」に勝る速度、という要求の実現は不可能に近く、大型のエンジンの採用(火星)や、二重反転プロペラの試作機段階での採用などを試みたにも関わらず、要求仕様を100キロ近く下回る結果となりました。

結果、試作機を含めて97機が生産されたにとどまりました。

このうち何と3機が、「安松丸」に搭載され、おそらく唯一、目覚ましい戦果をあげた「部隊」として記録されることになりました(なんてね)。

 

「強風」は水上戦闘機としては、決して成功作とは言えない機体でしたが、その開発努力は、「強風」をベースとして開発された局地戦闘機紫電」とその改良型である「紫電改」に引き継がれ、大戦末期に日本本土防空の戦いの主力となったことは有名です。

(下の写真:「安松丸」の搭載機。上段は、母艦の低速と短い飛行甲板の二重苦から「安松丸」の搭載機体として選択された(他に選択肢がなかった、というべきか)96式艦上攻撃機。複葉布ばりの機体ながら、日本海軍が開発した最初の満足のいく艦上攻撃機と言われています。制式採用の翌年に、さらに高性能な名機97式艦上攻撃機が登場し、太平洋戦争では活躍の場を奪われていました。翼は格納時には折りたたむことができました。「安松丸」がインド洋・アフリカ沖で戦った英海軍の主力艦上攻撃機ソードフィッシュ」もほぼ同様の布張りの複葉機でした。

写真下段は、出航直前に急遽「安松丸」への搭載がが決定した水上戦闘機「強風」。世界の海軍でほぼ唯一「水上戦闘機」として設計された機体でした。水上戦闘機としてはかなりの高性能でしたが、陸上戦闘機・艦上戦闘機のめざましい性能向上からは取り残された形でした。「安松丸」に搭載された3機の「強風」は、英海軍相手の索敵・哨戒、さらには専用艦上戦闘機を持たない英海軍の空母艦載機相手に、活躍しました)

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(再録はここまで:筆者には珍しく(?)かなり手の込んだスクラッチです)

 

さて次回は、前回投稿に引き続いて米海軍のミサイル巡洋艦現時に繋がる系譜のお話を、と考えています。

もし、「こんな企画できるか?」のようなアイディアがあれば、是非、お知らせください。

 

模型に関するご質問等は、いつでも大歓迎です。

特に「if艦」のアイディアなど、大歓迎です。作れるかどうかは保証しませんが。併せて「if艦」については、皆さんのストーリー案などお聞かせいただくと、もしかすると関連する艦船模型なども交えてご紹介できるかも。

もちろん本稿でとりあげた艦船模型以外のことでも、大歓迎です。

お気軽にお問い合わせ、修正情報、追加情報などお知らせください。

 

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現用艦船シリーズ:アメリカ海軍のミサイル巡洋艦vol.1:第二次世界大戦型巡洋艦の改装の系譜

今回はちょっと長いタイトルです。

本稿では前回、「第二次世界大戦後のアメリカ海軍の駆逐艦」をご紹介しましたが、今回はその流れで巡洋艦のご紹介を、と考えました。実はモデルはそれほど充実しておらず、かと言ってそれほど力を入れてコレクションしてきたわけでもないで、「まあ、この辺りで欠けているモデルの確認も含めて」という思いで整理を始めたわけですが、そののっけで、実は筆者が想定していた系譜が、実は全くの理解不足だった、ということが判明したわけです。

先に種明かしをすると、現在の米海軍のミサイル巡洋艦(と言っても「タイコンデロガ級」イージス巡洋艦をの残すのみですが)は、実は第二次世界大戦期の巡洋艦の末裔ではなく、前回紹介した「ミッチャー級」嚮導駆逐艦に端を発する系譜から発展したものであった、ということなのです。

(上の写真は「ミッチャー級」駆逐艦の概観:120mm in 1:1250 by Trident)

同級のうち2隻(「ミッチャー」「ジョン・S・マッケイン」)は1963年にタータ・システムを搭載してミサイル駆逐艦(DDG)に改装されています。実はこの改造艦と同時期にこちらは最初からミサイル艦として建造されていた「クーンツ級」ミサイル駆逐艦(「ファラガット級」と呼ばれることも)がその系譜の始祖と言えるのです。

(上掲の写真は現在、筆者がEbayで入札中の「ミッチャー」のDDG形態のモデル by Sextant:下の写真は同じく入札を検討中の「クーンツ級」ミサイル駆逐艦のモデルby Hansa)

一方で、第二次世界大戦期の巡洋艦にミサイルシステムを搭載した改造艦と、その系譜も存在した訳で、今回はその「断絶」した系譜をご紹介、という訳なのです。

時間的な問題もあり、今回と次回(多分、2週間後)の2回に分けて、と考えています。

(大変申し訳ないですが、筆者の「頭の整理」にお付き合い下さい)

 

第二次世界大戦後のアメリカ海軍、巡洋艦事情

本稿前回ではアメリカ海軍の駆逐艦の量産性、というお話をしましたが、巡洋艦についても同様の状況が見られます。条約の制約下で整備されたいわゆる条約型重巡洋艦が17隻であるのに対し、1943年以降相次いで大戦中に就役した(一部大戦後の就役となりましたが)「ボルチモア級」とその準同型の「オレゴン・シティ級」重巡洋艦が18隻、同じく大戦中の1942年から就役を開始した「クリーブランド級」軽巡洋艦が27隻(計画では52隻)と、いずれもこのクラスの大型艦では類を見ない数が、しかも戦争中に建造され就役しています。戦争経済下でのその生産力も、合わせてその乗員を養成する能力(こちらは戦争経済下(状況下?)ならでは、というべきか)も、本当に驚きです。

これらはいずれも優秀な8インチ砲・6インチ砲(米海軍のこの時期の巡洋艦は魚雷を装備しませんでした)を主装備とした艦級群でしたが、併せていずれも先見性のある両用砲を副兵装として備えるなど強力な対空兵装を備えていました。しかし、ジェットエンジンの出現と発展で、従来の対空兵器の能力では、高速化の進む航空機やその搭載する対艦攻撃兵器を捉えきられなくなることは明らかでした。

空母を中心とした機動部隊をその主戦力とする以上、脆弱性を持つ空母を守る艦隊防空は必須で、その艦隊防空を担う誘導ミサイルシステムについては、すでに第二次世界大戦中から(なんとレイテ沖海戦のあたりから)研究されていましたが、当時のシステムの重量や容積を考慮すると、その搭載プラットホームとしては駆逐艦は不向きで、量産されていた巡洋艦に白羽の矢が立つことは自然な流れだったといえるでしょう。

 

「ボストン級」ミサイル巡洋艦(就役期間:1955-1970年:同型艦2隻)

ja.wikipedia.org

(上はミサイル巡洋艦に改装された「ボストン」の概観 by Argos?:モデル未入手。Hansaのモデルは時々見かけますが、あまりArgosの同級のモデルは見たことがありません。しかし下のHansa製のモデルと比較すると圧倒的に再現性が優れています。しかし一方で、多分、価格は3倍以上?うーん、悩ましい。写真はいずれも、いつもモデル探索でお世話になっているsammelhafen.de掲載のものを拝借しています)

同級は大戦期に17隻が就役した「ボルチモア級」とその準同型艦である「オレゴン・シティ級」重巡洋艦をベースとして、これに当時最も開発の進んでいたテリア艦対空ミサイルを搭載したものです。同級の「ボストン」と「キャンベラ」がこの改造を受けました。

「ボストン」と「キャンベラ」は艦首部は重巡洋艦時代の装備をそのまま残し、艦尾部にテリア用の連装ランチャー2基を搭載していました。重巡洋艦改装艦のために余裕があり、連装ランチャーの直下に各72発の弾庫を装備しています。

 

テリアミサイル

ja.wikipedia.org

前述のように米海軍はすでにレイテ沖海戦後から対空誘導ミサイルの開発計画を始めていました。テリアシステムは元来駆逐艦等の小型艦に搭載することを目的に開発されましたが、搭載弾数等を考慮すると駆逐艦向けとしてはやや大規模にすぎ、巡洋艦を改装して搭載することになりました。(本稿前回でご紹介したように1956年には「ギアリング級駆逐艦三番艦「ジャイアット」にテリア・ミサイルを搭載した米海軍初のミサイル駆逐艦が就役していますが、弾庫には14発を保有するのみで、明らかに実用性に課題がありました)

テリアミサイルはビームライティング方式の誘導システムでは射程が19km、セミアクティブ・レーダー・ホーミングでは37−75kmの射程を有していました。

ミサイル巡洋艦への改造の第一弾、ということもあってか、当初の計画ではミサイルシステムの運用状況次第では艦首部もミサイル装備に変更したダブル・エンダーへの改造も予定されていましたが、ミサイルシステムの運用は良好だったものの、新造艦の建造、他艦の改装が優先されたため、艦尾部のみのミサイル装備のままとどめおかれました。

1960年代半ばには、両艦が搭載していたテリアミサイルの初期型は陳腐化していたため、ミサイルシステムを撤去して本来の艦砲型巡洋艦に戻り(艦記号もCAGからCAに変更)1970年に退役しました。

ちなみに原型の「ボルチモア級」重巡洋艦はこちら

ja.wikipedia.or

(直下の写真は原型の「ボルチモア級」重巡洋艦165mm in 1:1250 by Poseidon

 

同級はワシントン・ロンドン体制終了後に米海軍が建造した重巡洋艦で、条約による制限が無くなったため排水量14000トンの大型艦となりました。

 

「ガルベストン級」ミサイル巡洋艦(就役期間:1958-1979年:同型艦3隻)

ja.wikipedia.org

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(上の写真は「ガルベストン級」ミサイル巡洋艦の概観:151mm in 1:1250 by Hansa

同級は、1952年度予算で改造が認められた「ボルチモア級」重巡洋艦改造の「ボストン級」ミサイル巡洋艦2隻に続いて、1956年度・1957年度予算で大量に予備役にあった「クリーにランド級軽巡洋艦をベースにミサイル巡洋艦への改装が承認されたもので、当初は9隻の改装が予定されていましたが、新造艦の建造計画との兼ね合いもあって、結局6隻の改装にとどまりました。

この6隻のうちタロスミサイルを搭載したものが「ガルベストン級」ミサイル巡洋艦で、「ガルベストン」「リトルロック」「オクラホマシティ」の3隻が改装を受けました。f:id:fw688i:20230702104946p:image

(「ガルベストン級」ミサイル巡洋艦の主要兵装:艦首部の主砲塔、連装両用砲塔はそのまま(写真上段):艦尾部の既存兵装は全て撤去され、タロスミサイルの管制レーダーと連装発射機が装備されました。発射機下にはミサイル弾庫が設置されています)

タロスミサイルの発射機はは艦尾部に搭載され、艦首部は砲兵装装備のままでした。「ガルベストン」では艦首の3連装主砲塔2基と両用連装砲塔3基はそのまま保持されましたが、「リトルロック」と「オクラホマシティ」ではさらに主砲塔1基と両用砲塔2基が撤去され、艦橋部を拡大し旗艦設備が整備されました。両艦はこの旗艦設備が好評で、「ガルベストン」が1970年に退役したのに対し、1979年まで現役にありました。

タロスミサイル

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前述のように、テリアミサイルが小型艦搭載を狙った中射程距離のミサイルであったのに対し、タロスミサイルは長射程の確保に開発の重点が置かれました。二段式のミサイルで185kmの長大な射程を有していました(軽量型でも92km)。「ガルベストン級」には軽量化されたものが搭載されていました。艦尾部に連装ランチャーを搭載し、その直下の弾庫には46発が装填されていました。

 

プロビデンス級」ミサイル巡洋艦(就役期間:1959-1974年:同型艦3隻)

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(モデル未入手:どうやら3D printing以外のモデルは市販されていないようです

同級は前出の「ガルベストン級」と同様に予備役に大量にあった「クリーブランド級」軽巡洋艦をミサイル巡洋艦に改装したもので、テリアミサイルを搭載しています。「プロビデンス」「スプリングフィールド」「トピカ」の3隻がこの改装を受けました。

改装の要領は前出の「ガルベストン級」と同様で、テリアミサイルは艦尾部に搭載され、連装ランチャーの下には120発を装填した弾庫が設置されていました。艦首部の兵装は三連装主砲塔2基と連装両用砲等3基がそのまま残されました。後にこれも「ガルベストン級」に準じた経緯で「プロビデンス」「スプリングフィールド」の2隻は主砲塔1基と連装両用砲塔2基を撤去し旗艦設備を充実させています。

(下の写真はShapwaysでアップされている「ガルベストン級」モデル(上段)と「プロビデンス級」モデルの対比:主砲塔・連装両用砲塔の撤去と旗艦設備の増設がよくわかります。なるほど旗艦設備を追加した艦橋はこんな形状になったのですね

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ちなみに両級の原型となった「クリーブランド級」軽巡洋艦はこちら

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(直上の写真:「クリーブランド級」の概観。150mm in 1:1250 by Neptun )

同級は、条約失効後に設計された軽巡洋艦です。汎用的な前級「ブルックリン級」「セントルイス級」の対空兵装強化版として設計されました。対空兵装をMk 12 5インチ両用砲の連装砲塔6基にする代わりに、主砲塔を1基減らしています。

戦時の海軍増強のため、計画では52隻が建造される予定でしたが、13隻が同級の改良型である「ファーゴ級」に設計変更され、9隻は「インディペンデンス級」軽空母に転用、3隻が建造中止とされたため、最終的には27隻が就役しました。正確にいうと27隻のうち1隻は就役が戦後となったため第二次世界大戦には参加していません。

第二次世界大戦での喪失艦はありませんでした。

 

原子力ミサイル巡洋艦ロングビーチ」ミサイル巡洋艦(就役期間:1961-1995年:同型艦なし)

ja.wikipedia.org

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(上の写真は世界初の原子力ミサイル巡洋艦ロングビーチ」の概観:177mm in 1:1250 by Argos: 同社のモデルはかなり精密に作り込まれています。モデルは1963年以降の5インチ砲を追加装備したのちを再現しています。 Argosモデル:次回詳しくご紹介しますが、現用艦船のモデルでは群を抜いています。しかし流通量がそれほど多くなく、その分、中古市場(Ebay等)でも大変高価です<<<これは困った!

第二次世界大戦後、米海軍が初めて設計した巡洋艦で、同型艦はありません。世界初の原子力を推進機関とする水上戦闘艦であり、かつミサイルを主兵装とする初めての戦闘艦でもありました。

空母機動部隊の艦隊防空の必要性から、新世代の水上戦闘艦艇では従来の砲兵装主体からミサイル主体への主兵装の転換は必須であり、システムへの電力供給、ミサイルシステム自体の規模を考慮すると、ある程度の大型艦が必要でした。同艦は「ボルチモア級」重巡洋艦なみの14000トン級の船体に原子炉2基を搭載し、30ノットの速力を発揮する設計でした。

搭載兵装はタロスとテリアの2種を併載して、広範囲な防空圏を構成することができました。艦首部にテリア用の連装ランチャー2基を装備し、それぞれ40発、80発の弾庫を直下に設置しています。タロスは艦尾部に搭載され、連装ランチャー1基とその下に52発装填の弾庫が設置されました。

対潜兵装としては艦中央にアスロック8連装発射機と3連装魚雷発射管が設置されました。f:id:fw688i:20230702105432p:image

原子力ミサイル巡洋艦ロングビーチ」の主要兵装:艦首部のテリアミサイルの連装発射機2基とその管制レーダー(写真上段):同艦の特徴の一つでもある特異な形状の艦橋とアスロック8連装発射機、後日追加装備された5インチ単装砲塔2基(中段):艦尾部のタロスミサイル発射機と管制レーダー。ヘリコプターの発着艦が可能でしたが、格納庫はありませんでした(写真下段))

就役当初は砲兵装を全く持たない同艦でしたが、後に低空目標や水上目標に対する対抗手段として5インチ砲2基を艦中央部に搭載しています。

1961年から95年までの長い就役期間中に数度の兵装変更が行われました。艦首部のテリアミサイルはスタンダードミサイルに更新され、タロスミサイルは1980年代に撤去され、ハープーン対艦ミサイルの発射筒とトマホークの装甲発射ランチャーが設置されています。さらに90年代にはCIWS2基が装備されています。

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(上の写真は、模型のヴァリエーションで見る兵装変更:(上段)就役時の装備に比較的近く、艦首部にテリア、艦中央にアスロック、艦尾にタロスが装備されています。5インチ砲は未装備ですね。(中段)5インチ砲2基が、艦中央部に設置されました。(下段)スタンダードミサイルへの換装に伴い、艦尾のタロスが撤去され、ハープーン対艦ミサイルの発射筒が設置されました。わせてCIWS2基もタロス管制レーダーの装備跡に設置されています:写真はいずれもsammelhafen.de掲載のものを拝借しています)

その後、1970年代末期には新造イージス艦の建造に変えて同艦のイージス艦への改装案も検討されましたが、実現しませんでした。

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(写真はShapewaysにアップされているイージス艦への改造後の「ロングビーチ」を想定したモデル。連装発射機を装備した形状(おそらくイージスシステム導入直後?)とVLSへの換装後、両方、アップされています:作ってみてもいいかも)

 

というわけで、早速製作。

ロングビーチ」;原子力イージス艦改装 第一形態(1985年ごろ?)

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原子力ミサイル巡洋艦ロングビーチ」のイージスシステム館への改装の第一形態の概観:イージスシステムの搭載により上部構造が大きく様変わりし、艦容は一変しています)

ロングビーチ」は1970年代末に実際にイージスシステム艦への改装が検討されていました。その際のコンセプト図が残っていて、今回のモデルはそれに大変忠実だと言うことがわかると思います。

ロングビーチ」はご承知の通り原子力推進で、余裕のある電力等はイージスシステムを搭載するにはうってつけと見られたかもしれません。同様に他の原子力ミサイル巡洋艦もあクァせて検討俎上に上がったようですが、それぞれシステム搭載スペースを捻り出すには大規模な改装が必要で、いずれも見送られています。

ロングビーチ」も同様で、今回のモデルを見ていただければ一目瞭然ですが、上部構造は原型をとどめないほどの改装を受ける必要がありました。f:id:fw688i:20230806151014p:image

(巨大な上部構造:イージスシステムの搭載と対潜哨戒ヘリの運用施設:四隅にはパッシブ・フューズドアレイアンテナが)

艦橋部には巨大なシステムが搭載され、上部構造物の四すみにはパッシブ・フューズドアレイ・アンテナが設置されています。上部構造物の頂点には大きなトラス構造のマストが聳え、その前後にミサイルの最終誘導用のイルミネーターが4基搭載されています。

同艦の兵装は、対空兵装としてスタンダード対空ミサイル用にMk.26連装ランチャーを艦首、艦尾に配置しています。長い船体を生かしてランチャー下には大きな弾庫が設定されています対艦・対地上兵装としては、Mk.45 5インチ単装両用砲、ハープーン対艦ミサイル、トマホーク巡航ミサイルを搭載しています。対潜兵装としては、その主軸は搭載する長距離ソナーと対潜哨戒ヘリにおかれアスロックは廃止されています。他に短魚雷三連装発射管は通常は館内に収納されていました。個艦防御用として2基のCIWSを搭載しています。f:id:fw688i:20230806151005p:image

(写真は主要兵装のアップ:(上段写真)58口径5インチ単装砲(Mk.45)が艦種部に設置され、Mk.26連装ミサイルランチャーがその後に続きます。さらに対艦用の主要兵装として、ハープーン4連装発射筒が4基搭載され、艦橋前には個艦防御用にCIWSが設置されました(オリジナルのモデルにもコンセプト図にもなかったのですが、追加してみました)。:(写真下段)上構造物の後部、ヘリハンガー上にもCIWSは装備されています。対潜哨戒ヘリ2機を運用できるハンガーと発着甲板を経て、後部のMk.26連装ミサイルランチャー、艦尾にはトマホーク用装甲ボックスランチャー2基が搭載されています)

 

Mk.45 5インチ両用砲

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米海軍が広く導入したMk.42 5インチ単装両用砲は毎分40発という高い射撃速度を誇りミサイル装備に主軸が移るまでは対空兵装のカナメとも言うべきものでした。しかし一方で早い射撃速度を実現するために揚弾機構を二重にするなど重く(61トン)、かつ操作に人数を要するものでした(12−16名)。

対空戦闘の主軸がミサイルに移ると、射撃速度への要請の比重は低くなり、揚弾機構を減らすなど軽量化、砲塔の無人化。自動化が進められました。こうして生まれたのがMk.45 5インチ砲でした。

重量は24トンまで軽減され、無人化によりステルス性を意識した砲塔デザインが可能となりました。操作員も6名まで軽減されています。一方で発射速度は毎分20発程度まで下がりましたが、主砲の標的が対空目標から地上目標、水上目標に移っているため、大きな問題にはなりませんでした。

 

模型的な視点から

模型的には、かなり大幅に手を入れています。まあ、Amature Wargame Figuresのモデルは概ねそのように扱っていますので、特にこのモデルの何か課題があると言うわけではありません(前出の3Dモデル関連の投稿を見ていただくと、その辺りはよくわかっていただけるかも)。

モデルからオリジナルの兵装とマストを切除し、全て筆者のストックパーツに置き換えてあります。今回使用したパーツはほとんどがHobbyBoss製の「スプルーアンス級駆逐艦、「タイコンデロガ級イージス艦のもので、特に一番気になっていたマストは「スプルーアンス級」のトラス構造のマストを流用しています。ランチャー下には大きな弾庫を抱えている、と前述していますが、Mk.26連装ランチャーをもう1基艦首部に追加しようかな、などと考えはしたのですが、モデルとしては少しうるさくなるかなと、即応性への対応はVLSへの換装を待った、と言うことで、原型と同じく2基のランチャー搭載としました。(唯一、艦尾部のトマホーク用の装甲ボックスランチャーのみ、適当なパーツがないので、プラロッドを切ってそれらしく作ってあります。

 

タイコンデロガ級」初期タイプとの比較

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(「ロングビーチ」は大きなセンタを生かし、大きなミサイル弾庫を確保することができました)

 

ロングビーチ」;原子力イージス艦改装 第二形態:VLSへの換装(1998年ごろ?)

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原子力ミサイル巡洋艦ロングビーチ」のイージスシステム館への改装の第二形態の概観:VLSへの換装で、艦容は水分すっきりしてしまいました)

第二形態は、Mk.26連装ランチャーからVLSへと換装された形態を表しています。第一形態で記述したイージスシステムの複数目標への即応性への対応力強化のために、2基のMk.26はVLSへ換装された、と言う想定のモデルです。Mk.41 VLS(48セル)を5基搭載しています。マストは頑丈なトラスタイプのものからステルス性を意識したレーダー反射の低い塔構造のものに改められました。VLSは対空・対艦・対地上全ての搭載ミサイルに対応しているため、非常にすっきりした外観になっています。f:id:fw688i:20230806151615p:image

(写真は主要兵装のアップ:Mk.41 VLS (48セル)を艦首部に3基、艦尾部に2基、装備しています。固有の対潜哨戒ヘリを2機搭載しています)

タイコンデロガ級VLS搭載タイプとの比較

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(「ロングビーチ」は長い船体を生かし、48セルのVLSを5セット装備し、高い即応性を発揮できたはず)

ロングビーチ」三形態比較

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(「ロングビーチ」三形態の変遷:上から実艦、改装案第一形態、改装案第二形態:やはり巨大な上部構造が・・・)

 

想像の羽を伸ばすのはここまで。史実では結局、1995年に退役、2002年には原子炉の破棄も完了し、2012年にスクラップにされました。

 

オールバニー級」ミサイル巡洋艦(就役期間:1962-1980年:同型艦3隻)

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(上の写真は「オールバニ級」ミサイル巡洋艦の概観:167mm in 1:1250 by Trident

それまでの巡洋艦改造のミサイル巡洋艦はいずれも砲兵装を残し単独のミサイルシステムを搭載した、いかにも試験的な改造艦だったのですが、新造艦「ロングビーチ」は二つの制空域を持つ対空ミサイルを搭載し、更に対潜戦闘も意識した設計とした、万能艦を目指したものでした。この設計思想を受け継いだ「オールバニー級」は、余裕のある「ボルチモア級」の船体が改装の母体として選択され、この大型の船体から全ての砲兵装、を撤去、長射程のタロスミサイルをダブル・エンダーに搭載し、さらに中射程のターターミサイルをも両舷に搭載。加えてアスロックの8連装発射機、対潜短魚雷発射管も搭載した「ロングビーチ」にも劣らない兵装を持った万能艦に改装されました。f:id:fw688i:20230702105819p:image

(上の写真は「オールバニ級」ミサイル巡洋艦の主要兵装:艦首部のタロスミサイル発射機と管制レーダー(写真上段):同級のダサイの特徴である巨大で特異な形状の艦橋と、艦橋脇に設置されたターターミサイル連装発射機、そしてマックの間に設置されたアスロック発射機。煙突は干渉波を避けるためにマック化されました。これも同級の特徴の一つかと。後部マック横には、5インチ単装砲が据えられています(写真中段):艦尾部のタロス連装発射機と管制レーダー(写真下段)。「ロングビーチ」に準じて、同級もヘリの発着は可能でした(格納庫はなし)) :テリアミサイルの連装発射機2基とその管制レーダー(写真上段):同艦の特徴の一つでもある特異な形状の艦橋とアスロック8連装発射機、後日追加装備された5インチ単装砲塔2基(中段):艦尾部のタロスミサイル発射機と管制レーダー。ヘリコプターの発着艦が可能でしたが、格納庫はありませんでした(写真下段))

上部構造物も徹底的に手が加えられ、特に艦橋は完成レーダーへの干渉を抑える特異な形状となりました。

ロングビーチ」では完成後の増設となった砲兵装も、最初から組み入れられ、5インチ単装砲2基が搭載されています。

オールバニ」「シカゴ」「コロンバス」の3隻がこの改装を受けました。

各艦ともに旗艦を務めるなど活躍し、60年代後半にはシステムのデジタル化などの更新を受けましたが、1975年から80年にかけて退役しています。

60年代には同級と同じクラスの改装をさらに進める計画が検討されましたが、搭載システムの進歩でさらに小型艦でもミサイルシステムを搭載できるようになると、計画は中止となり、いわゆる巡洋艦クラスの改装、新造は行われませんでした。

ということで、ここでいわゆる巡洋艦由来の艦隊防空艦の系譜は途切れることになるのです。

今回はここまで。

 

少し予告めいた言い回しにはなりますが、以降、艦隊防空の任務は駆逐艦クラスの艦級に受け継がれてゆくことになりますが、一旦は小型艦へと移行したものの、再び搭載システムの大型化の動きにあわせて、この駆逐艦発端の系譜もまた、大型化して、現在の「タイコンデロガ級」へと辿り着くのでした。こちらの系譜は次回の投稿でご紹介したいと思っています。

 

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現用艦船シリーズ:第二次世界大戦後のアメリカ海軍の駆逐艦

前回では「旧ソ連ロシア海軍第二次世界大戦後の駆逐艦」の系譜をご紹介しました。そして次回はこの流れで「同海軍のフリゲート艦の開発系譜を」と予告していたのですが、手元に届く目算だったモデルがまだ届いていません。今すでに「大阪」には届いているようですので、今週末か週明けには入手できるかと思います。であれば、少し予定を変更して、現用艦船繋がりで、目をアメリカ海運に向けてみようかという訳で、「第二次世界大戦後のアメリカ海軍の駆逐艦の系譜」をご紹介します。(まあ、本稿ではよくあることです)

 

アメリカ海軍の駆逐艦

筆者は米海軍の駆逐艦発達史について、数回に分けて特集する計画をかなり前から持っています。実はすでに下書きのある艦級もあり、この機に投稿をしようかとも考えたのですが、少し筆者の中で関心が現用艦船に向かっていることもあり、まずはその終章となるべき「現用艦(と言っても第二次世界大戦以降の設計なのですが)」から始めようと考えています。

とは言え少しだけその特徴に触れておくと、米海軍における駆逐艦開発の大きな特徴として、その量産性があると考えています。

他の列強と同様に米海軍も20世紀初頭から駆逐艦という艦種(水雷艇を駆逐する軍艦=水雷艇駆逐艦)の開発に着手します。試行錯誤の時期を経て、1914年のパナマ運河開通を機に、大西洋・太平洋の二つの大洋を睨む大海軍の建設が始まる訳ですが、この時、第一期の決定版として「平甲板型」と言われる一連の駆逐艦を量産します。

「コールドウェル級」「ウィックス級」「クレムゾン級」という艦級群がこれで、いずれも1100トン級の船体に4インチ単装砲4基、3インチ高角砲1−2門、3連装魚雷発射管4基、爆雷投射軌条2基を標準装備とし、36ノットの高速を発揮することができました。「平甲板型」の名が示すように凌波性にすぐれた艦型を持ち、3艦級あわせて273隻が1917年から1921年の間に就役しています。この凄まじい量産性とバランスの取れた兵装から、駆逐艦本来の主力艦wp中心とした艦隊護衛以外の多くの任務への汎用性が高く評価されました。第二次世界大戦期には駆逐艦不足に悩む英国に50隻余りが貸与され、すでに老齢艦でありながら船団護衛に活躍したりしています。

 

この大量の平甲板型駆逐艦保有の煽りで、その後、米国の駆逐艦建造は13年間休止する訳ですが、再開された新駆逐艦群は両用砲の標準装備とこの運用に関連する射撃システムの開発など、新基軸が満載でした。これらにまつわる一定期間の試行錯誤期を経て、ヨーロッパでの第二次世界大戦の開戦も背景として1940年から第二期の量産駆逐艦の時代を迎えます。

1600トン級の「ベンソン級」「リバモア級」、これに続く2000トン級の「フレッチャー級」「アレン・M・サムナー級」「ギアリング級」がこれで、あわせて446隻が建造されました。艦隊駆逐艦の決定版ともいうべき2000トン級だけでも350隻という驚くべき数が、1940年から1946年にかけて就役しています。(この辺り、各艦級についてはいずれじっくりとご紹介する予定です)

 

とはいえこれからの艦級に関連するので少しだけご紹介

ギアリング級駆逐艦(就役期間:1945−1987 同型艦94隻)

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(上の写真は「ギアリング級駆逐艦の概観:94mm in 1:1250 by Neptun)

この第二量産期の最後の艦級「ギアリング級」は「フレッチャー級」系駆逐艦の最終発展形と言える艦級で、艦隊に帯同する際に不足が顕著となった航続力が改善された艦級でした。第二次世界大戦終結で152隻の建造計画は94隻で終了しましたが、大半が大戦終結後の就役で、大戦終結後も各種の改装を受け1970年代まで艦隊に留まっていました。

 

ミサイル駆逐艦「ジャイアット」:米海軍初の艦対空誘導ミサイル駆逐艦(DDG)

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(上の写真は米海軍初のミサイル駆逐艦(DDG)に改装された「ギアリング級駆逐艦3番艦「ジャイアット」の概観:by Hansaに武装を少し手を入れています)

同艦は「ギアリング級」3番艦で、第二次世界大戦終結間際の1945年6月に就役しました。1956年計画で対空ミサイル駆逐艦に改造が決定し、テリア・ミサイル搭載の米海軍初のミサイル駆逐艦となりました。

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(上の写真は「ジャイアット」の主要兵装の配置:艦中央のMk 33はシールドなしの方が良かったかも。艦尾にはテリア・システムのRIM-2連装ミサイルランチャーが搭載されました(写真下段))

 

「ミッチャー級」嚮導駆逐艦(就役期間:1953−1978:同型艦4隻)

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(上の写真は「ミッチャー級」駆逐艦の概観:120mm in 1:1250 by Trident: 鋭く切り出された艦首などは非常にいいんじゃないでしょうか?Mk 33のみ手持ちのパーツに変更しています)

同級は対空・対潜能力の強化を目的に米海軍が設計した艦級で、自艦の対空兵装の管制だけでなく、艦載戦闘機の管制もその任務として想定されたため「嚮導駆逐艦」(DL)に分類されました。

3600トンの、駆逐艦としては破格に大きな船体を持ち、36.5ノットの高速を発揮することができました。

対空用兵装としては新開発の54口径Mk 42 5インチ両用単装砲2基、と50口径Mk 33 76mm連装速射砲を主兵装とし、対潜用にはMk 108対潜ロケット砲と対潜誘導魚雷発射管、爆雷投射軌条を搭載していました。

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(上の写真は「ミッチャー級」の主要兵装配置:(上段)艦首部のMk 42 5インチ両用砲とMk 33 連装速射砲そして筆者の大好きなMk 108対潜ロケットランチャー(下段)艦尾部のMk 108、Mk 33とMk 42、さらに爆雷投射軌条)

各兵装の解説を簡単に。

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本砲は毎分40発という高い射撃速度を誇り、23000メートルに達する射程距離を有していました。

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本砲は半自動式砲で、ラピッドファイアと呼称され、毎分45発(砲身あたり)の射撃速度を持つ優れた砲でした。

Mk 42とMk 33の組み合わせで、強力な防空圏を構成する事ができました。

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Mk.108対潜ロケット砲は、ロケット弾を目標近辺に投射し、搭載する磁気信管で目標を感知させ炸裂させるもので、250−800メートルの射程を持ち、毎分12発投射することができたました。

(余談ですが筆者はこの対潜ロケットが大好きです。というのも小学生の頃の愛読書、小沢さとる先生の名作「サブマリン707」に登場していまして、なんと未来的な(SFなんて言葉知らなかったからね)すごい兵器なんだろう、というのが原体験なのです。興味のある方は是非ご一読を)f:id:fw688i:20190921205626j:plain

 

DDGへの改装

同級のうち2隻(「ミッチャー」「ジョン・S・マッケイン」)は1963年にタータ・システムを搭載してミサイル駆逐艦(DDG)に改装されています。

(上掲の写真は現在、筆者がEbayで入札中の「ミッチャー」のDDG形態のモデル by Sextant: 写真で見る限りでは、武装等は手持ちのものに変更したくなりそうですが。まあ、それも落札してから、ですね。艦首形状ももう少しなんとかならんかなあ)

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FRAM改装

DDGに改装されなかった2隻は、FRAM改装されています。内容はMk 108対潜ロケット砲(大好きなのに!)を廃止し、艦後部にDash2機搭載に対応する運用施設を追加しています。

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(上の写真はFRAM改装後の「ミッチャー級」駆逐艦の概観:by Triden:下の写真はFRAM改装後の主要兵装:(上段)艦首部の76mm連装速射砲は開発の遅れていたMk 26 70口径連装速射砲に改められています。(下段)艦後部にはMk 108とMk 33を撤去し、Dash運用用の発着甲板と整備用ハンガーが設けられています。対潜誘導短魚雷発射管がDashハンガーの前方に設置されました)

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Dashは昨今の無人ドローンのご先祖のような兵器で、対潜魚雷を糖鎖した小型無人ヘリを無線操縦で潜水艦の潜む海域に飛ばし、そこから魚雷を投下し攻撃するシステムで、ヘリ搭載の無理な小型艦でも運用できるという利点がありました。

 

「フォレスト・シャーマン級」駆逐艦(就役期間:1955−1988:同型艦18隻)

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(上の写真は「フォレスト・シャーマン級」駆逐艦の概観:99mm in 1:1250 by おそらくWiking: 筆者のコレクションとしては珍しく(ほとんど唯一の)Wiking製です。非常に丹精でバランスの取れたモデルだと思います。これくらいの水準でモデルが揃えtられていれば、筆者のWikingへの評価ももう少し高まるのに)

同級は前出の「ミッチャー級」の縮小型というべき汎用駆逐艦の艦級です。

前述の第二次世界大戦期での駆逐艦量産から、大戦後に米海軍が初めて設計した艦隊駆逐艦で、艦砲と魚雷を主兵装とした最後の駆逐艦の艦級となりました。

2700トン級の船体を持ち34ノットの速力を発揮することができました。

兵装は「ミッチャー級」に倣い、54口径Mk 42 5インチ両用単装砲3基、と50口径Mk 33 76mm連装速射砲を主対空砲兵装として搭載し、対潜兵装としてはヘッジホッグと爆雷投射軌条、対潜誘導魚雷の発射にも対応した連装魚雷発射管2基を持っていました。

(上の写真は「フォレスト・シャーマン級」の主要兵装配置:(上段)艦首部のMk 42とMk 33、その両脇にヘッジホッグが見えています。(中段)煙突直後に連装魚雷発射管(対戦誘導魚雷の発射にも対応していました)(下段)艦尾部のMk 33とMk 42 2基、さらに爆雷投射軌条)

 

その後の改装ヴァリエーション

1960年代には4隻がターター・システムを搭載したミサイル駆逐艦(DDG)に、8隻が対潜ミサイル「アスロック」を搭載した対潜強化型に、それぞれ改装を受けました。

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アスロックは対潜誘導魚雷をミサイルの先端に弾頭として搭載したもので、発射後は、事前に入力された飛翔距離で弾頭(魚雷)が切り離され、パラシュートにより軟着水した魚雷が捜索パターンで目標を探知し撃破する、というものです。着水後の魚雷による目標補足能力の活用から、従来の対潜ロケットとは次元の異なる長射程での攻撃が可能となりました。当初は8連装の専用ランチャーから発射されることが主流でしたが、現在でもVLSからの発射も含め、広く使用されています。(射程:800-9100m)

 

「チャールズ ・F・アダムズ級」ミサイル駆逐艦(就役期間:1960−1993:同型艦23隻)

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(上の写真は「チャールズ・F・アダムズ級」ミサイル駆逐艦(後期型)の概観:105mm in 1:1250 by Hansa)

同級は米海軍が設計当初からミサイル駆逐艦として設計した最初の艦級です。

船体の基本設計は前級「フォレスト・シャーマン級」のものを継承し、これに主兵装として艦隊防空ミサイル。システムであるターターを搭載して、それまでの対空砲による艦隊防空に比べ格段の防空圏の広さと迎撃の精度を確保しています。

同システム等の搭載により艦型は「フォレスト・シャーマン級」よりも少し大きな3300トン級となり32.5ノットの速力を有していました。

この防空ミサイルシステムの他に、「フォレスト・シャーマン級」と同様のMk 42  5インチ両用単装砲2基を装備し、さらにアスロックと対潜誘導魚雷発射管を搭載し、強力な対潜能力も併せて保有していました。

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(上の写真は「チャールズ・F・アダムズ級」の主要兵装配置:(上段)艦首部のMk 42と艦中央部のアスロック・ランチャー、(下段)艦尾部のMk 42と対空ミサイル用のMk 13  GMSL:下の写真では前期型に装備された連装のMk 11  GMSL(上段)と後期型のMk 13 GMSL:当初は連装型のMk 11を装備していましたが、装填速度が遅い等の課題から、後期型では 単装のMk 13に変更されました)

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コンパクトな艦型にバランスの取れた強力な対空・対潜能力を備えた艦として評価が高く、オーストラリア、ドイツからも発注がありました(「パース級」「リュっチャンス級」)。

さらに同級の退役後、4隻がギリシア海軍で再就役しています。

 

一方で、同級のコンパクトさは、その後の兵装の更新への対応には向かず、CIWSや対艦ミサイルの装備は見送らざるを得ず、米海軍では1993年までに全ての艦が退役せざるを得ませんでした。

 

スプルーアンス級ミサイル駆逐艦(就役期間:1975−2005:同型艦31隻)

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(「スプルーアンス級駆逐艦原型の概観:138mm in 1:1250 by Hobby Boss)

前述のように前級「チャールズ・F・アダムズ級」では今後の並走更新に対応するには、ある程度の余裕を持った艦型を有する必要性が浮き彫りとなりました。この件は1970年代から検討されており、今後想定される数次の兵器システム等の更新に耐えられるよう余裕のある大型駆逐艦の設計の着手しました。それが本級です。

そのため、その船体は、駆逐艦の艦種でありながら、それまでの4000トン級から、一気に8000トン級へと大型化しています。

機関には、加速性に優れたガス・タービンが採用され32ノットの速力を発揮することができました。

そもそもは空母戦闘群の護衛を主任務と想定した対潜艦として就役したため、原型の就役時のの兵装は2基の5インチ速射砲(Mk 45)とアスロック8連装ランチャー1基、三連装短魚雷発射管2基、対潜ヘリ2機という、8000トンを超える船体の割には極めてシンプルなものでした。

(同級とその派生形、さらに初のイージスシステム搭載巡洋艦となった「タイコンデロガ級」まで、本稿では、既に下記の回でまとめています(2021年7月25日投稿)。「スプルーアンス級」については、是非、そちらをお読みください)

fw688i.hatenablog.com

 

アーレイ・バーク級」ミサイル駆逐艦(就役期間:1991−就役中:同型艦90隻以上となる予定)

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(「アーレイ・バーク級」イージス駆逐艦の概観(写真はフライトIIA):125mm in 1:1250 by DeskTop Fleet=幕之内弁当三次元造形)

同級は多数の目標を同時に迎撃できるイージスシステムを搭載した駆逐艦の艦級です。

同級の設計については1970年代後半から既に議論は始まっていました。米海軍は当時すでに「スプルーアンス級駆逐艦をベースに、これにイージスシステムを搭載した「タイコンデロガ級」イージスシステムミサイル巡洋艦を建造中でしたが、多方面に展開する米海軍の空母機動部隊とそれに対して増大する対艦ミサイルの脅威を考慮すると、さらに多くのイージスシステム搭載艦が必要であり、一方で「タイコンデロガ級」の建造費は莫大なもので、これに対し何らかの手を打つ必要がありました。端的に言うと、「タイコンデロガ級」の2/3程度の建造費でのイージス艦が求められていたわけです。

アーレイ・バーク級」のフライトIでは、「タイコンデロガ級」イージス巡洋艦の仕様からイージス機能と搭載ミサイル数の縮小、ヘリ搭載機能の撤廃などが実行されましたが、結局、8400トン級の「スプルーアンス級」を上回る大型艦となってしまい、建造費に関する課題は解消されませんでした。さらにフライトII AではVLSのセル数が増やされ(90セルから96セル)、ヘリ2機の搭載能力が付与されるなど、運用側面からの要求に対応する形での改良型の建造が進んでいます。フライトIIIについてはフライトIIAの改良型となる予定ですが、ミサイル搭載数のさらなる増加要求等に対しては既に限界を迎えており、同級はフライトIIIを最終形態とすることになると思われます。

現在、最も就役数の多いフライトIIAの主要兵装を見ると、Mk 41  VLS 96セル、Mk 45  5インチ単装砲、CIWS2基、3連装短魚雷発射管2基(Mk 32)、Mk 32 25mm機関砲2基などとなっています。

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(上の写真は「アーレイ・バーク級」フライトIIAの主要兵装配置:(上段)艦首部のMk 45とMk 41VLS(32セル)、さらにCIWS (下段)CIWS、Mk 41VLS(64セル)とヘリ運用用のハンガーおよび発着甲板)

主要兵装については以下で。

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「ズムウォルト級」ミサイル駆逐艦(就役期間:2016−就役中:同型艦3隻

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(「ズムウォルト級」ミサイル駆逐艦の概観:149mm in 1:1250 by ???:VLSは艦首とヘリ発着甲板両脇のゴールド部分に4セル単位で各舷20基づつ搭載されています。主砲は通常は砲塔内に収容されていますが、写真は射撃体制で砲身が立ち上がり露出した状態です(おそらく))

同級は米海軍が対地上攻撃を主目的として開発を進めてきた艦級です。(筆者にとっては結構謎の多い艦級で、正直言って、モデルを見ていても兵装配置など、はっきりしません)

これらの任務は空母機動部隊から発進する航空機により行われてきましたが、巡航ミサイル等の発達により、これを水上艦からの打撃力で代替しようとするものでした。

できるだけ陸地に接近するためにステルス性を重視した特異な艦型となっています。

搭載する兵装は、紆余曲折があったようですが最終的には80セル(4セル単位で各舷20基搭載)のVLSに個艦防御用の短艦対空ミサイル(SAM)と巡航ミサイルを搭載し、長射程での射撃が可能な155mm単装砲2基を主要兵装とし、近接戦闘用に30m機関砲2基も搭載しています。ヘリ2機の搭載能力がありますが、ヘリ2機、もしくはヘリ1機と無人ヘリ3機の組み合わせでの運用が検討されているようです。

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推進システムは初めて統合電機推進が採用され30.3ノットの速力を発揮することが可能です。この推進システムの採用には維持コストの低減、水中騒音の抑制などと共に、将来搭載が検討されているレールガンに対する大電力供給への準備段階と言われています。

同級は計画当初では同級は30隻程度の建造が予定されていましたが、コスト等の理由で技術実証艦として3隻の建造にとどまることが決定されています。

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(上の写真は「ズムウォルト級」駆逐艦3隻の揃い踏み:「ズムウォルト」「マイケル・モンスーア」「リンドン・B・ジョンソン」の順:実はこの3隻は冒頭のモデルとは異なり1:1250スケールのペーパーモデルです。艦番号も艦名も印刷されています。あれ、「ズムウォルト」のヘリハンガーのシャッター、開いてますね)

 

ということで、第二次世界大戦以降に設計された米海軍の駆逐艦の系譜を見てきましたが、さすがに第一次世界大戦第二次世界大戦の両大戦期のような凄まじい数の量産は見られませんが、それぞれの艦級の同型艦の数の多さには、改めて驚かされました。特に「スプルーアンス級」(31隻)や「アーレイ・バーク級」(計画では90隻)などの大型艦ですら、これだけの数を建造してしまうとは・・・。これらを運用する人材の数をも考慮すると、その生産性もさることながら、人材育成や組織運営の底力も目を見張らざるを得ません。

今回はここまで。

 

次回はおそらく調達中のモデルも手元に届いていることでしょうから、ロシア海軍フリゲートの系譜などのご紹介など、いかがでしょうか?

もし、「こんな企画できるか?」のようなアイディアがあれば、是非、お知らせください。

 

模型に関するご質問等は、いつでも大歓迎です。

特に「if艦」のアイディアなど、大歓迎です。作れるかどうかは保証しませんが。併せて「if艦」については、皆さんのストーリー案などお聞かせいただくと、もしかすると関連する艦船模型なども交えてご紹介できるかも。

もちろん本稿でとりあげた艦船模型以外のことでも、大歓迎です。

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旧ソ連・ロシア海軍の第二次世界大戦後の駆逐艦

今回は、このところコミック「空母いぶき」を起点にご紹介しているいわばコミックの中の「敵役」中国海軍やロシア海軍の現用艦船の流れで、ロシア海軍旧ソ連海軍から)の駆逐艦の開発系譜のご紹介です。

 

同海軍の巡洋艦の系譜については、2022年4月19日の今回のウクライナ戦争でのロシアミサイル巡洋艦「モスクワ」の撃沈の一報に接して、すでに本稿では下記でご紹介しています。

fw688i.hatenablog.com

ロシア海軍水上戦闘艦はその主軸をフリゲート艦等の中型艦以下の艦種に移しており、巡洋艦については最新型(と言っても一番艦就役は1982年です)の「スラヴァ級:1164級」の2隻のみ(同級の「モスクワ」が撃沈されるまでは3隻だったのですが)現役で活動中と言う状況で、それよりも大型の「キーロフ級:1144級」重原子力ミサイル巡洋艦も長期間整備中のものを含めても2隻が就役しているのみ、なのです。

 

さて今回ご紹介する駆逐艦についてもある意味、同様の整理は進んでおり、現役にある艦級は2艦級のみで、現役の総数は1980年就役開始の「ウダロイ級:1155級」8隻、その改良型である「ウダロイII級:11551級」1隻(1155級、11551級合わせて13隻が建造されました)、同じく1980年から就役が始まった「ソヴレメンヌイ級:956級」4−5隻(建造は21隻、中国に売却されたものが5隻)と言う状況です。

上記のように両艦級いずれも1980年就役開始の艦級で、とても最新鋭とは言えない状況です。

今回はそんなロシア海軍の「駆逐艦ロシア海軍的には大型対潜艦のうち小型のもの、と言う複雑な定義になるのかな?)」を現役艦級と、簡単にこれまでの系譜を整理して、ご紹介してみたいと考えています。

今回はそんなお話で。

 

まずは現役艦級から

「ウダロイ級:1155級」駆逐艦(1980年就役開始:同型艦・準同型艦13隻:2023年時点での就役艦8隻)

ja.wikipedia.org

f:id:fw688i:20230617163238p:image
(「ウダロイ級=1155級」駆逐艦の概観:126mm in 1:1250 by Mountford :ヘリの発着甲板のマークは一番艦のみ1スポット、二番艦以降は2スポットに変更されています)

「ウダロイ級」はそれまでの駆逐艦の発展系の大型対潜艦の系譜よりも、2等大型対潜艦(小型の大型対潜艦:なんかややこしいなあ)、つまりフリゲート艦の拡大型として設計された艦級だと言っていいと思います。

8000トン級の、従来の駆逐艦とは一線を画する(もちろん従来のフリゲートの約2倍の)大きな船体を持ち、対潜戦闘に重点を置いた兵装配置になっています。対潜兵装としては長射程を持つ対潜ミサイルの4連装発射機を艦橋の両舷に各1基装備し、対潜ロケット発射機を2基、4連装魚雷発射管2基に加え、対潜哨戒ヘリ2基を搭載しています。f:id:fw688i:20230617163234p:image

(「ウダロイ級」駆逐艦の主要兵装:艦首から短SAM用VLS、100mm単装砲2基、4連装対潜ミサイル発射機(写真上段)、CIWS4基、魚雷発射管、対潜ロケット発射機、ヘリバンカーと発着甲板の順(写真下段))

対水上艦戦闘は100mm単装砲2基を有し、同砲はもちろん対空戦闘にも対応できるのですが、これに加えて個艦防空兵装としては短SAM8連装VLS8基、CIWS4基と、大変充実した装備を有しています。

 

同型艦「ウダロイII級」

魚雷発射管からの対潜ミサイルの発射が可能になると、艦橋両舷の4連装対潜ミサイル発射機が不要になります。1990年代に、このスペースに対艦ミサイルの4連装発射機を装備し、対艦戦闘能力を向上させた改良型が「ウダロイII級:11551級」として計画されました。これにより同級は強力な水上打撃力をも備えたよりバランスの取れた艦級となる予定でした。

しかしソ連の崩壊とそれに伴う冷戦の終結から、11551級は3隻の計画で打ち切られ、実際に完成したものは1隻にとどまりました。

(下の図は「ウダロイI級:1155級」(上段)と「ウダロイII級:11551級」を比較したもの(いずれも模型に付属する解説図から拝借しています):目立つのは主砲が100mm単装砲2基から130mm連装砲1基に改らえているところ。両級ともに艦橋両舷側に4連装ミサイル発射機を装備していますが、「1155級」が対潜ミサイルであるのに対し、「11551級」は対艦巡航ミサイルを搭載しています。併せてCIWSが「1155級」では30mmバルカン砲4基であったのに対し、「11551級」では30mmバルカン砲と近接対空ミサイルを組み合わせた「コールチク」2基に改められています)

f:id:fw688i:20230610111819p:image

 

既存艦の今後の近代化改装予定

同級は主機がガスタービンで維持コストが安い等、使い勝手が良く、より汎用性を高めた艦級へと近代化される計画が進められています。改装のベースには上述の「ウダロイII級:11551級」の設計構想があり、近代化の要目は短SAM用のVLSを対艦巡航ミサイルにも対応する汎用VLSへ換装することや、主砲を100mm単装砲2基から130mm連装砲1基への換装、近接防空装備の更新を行い、同級の運用年限を10−15年延長するものとされていました。

同級の7番艦「マーシャル・シャポシにコフ」は2016年に近代化改装を受けましたが、同艦の近代化改装では、主砲は従来と同口径の100mm単装砲のままながらステルス性を高めた新型砲塔に換装、装備数は2基から1基に減っています。短SAM用の8連装VLSはそのままで、16セルの汎用性VLSが追加搭載され、巡航ミサイルの運用が可能となりました。4連装対潜ミサイル発射機を4連装対艦ミサイル発射機に換装等の近代化改装が実施され、対艦・対地上戦闘能力を著しく向上させています。おそらく計画は計画として、実際には現状の技術革新を取り込んだ柔軟な改装が順次実施されることになるのでしょう。

 

映画「ハンターキラー」に登場する「ウダロイII級」らしき駆逐艦

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少し余談、筆者の大好きな脇道的な話になりますが、映画「ハンターキラー」では「ウダロイII級:11551級」がおそらく原型となったと思われるロシア駆逐艦が登場します。

この映画は、ロシア連邦で大統領に反対する軍部によるクーデターが発生し、ロシア連邦大統領が囚われてしまいます(一定の手続きを強行したのち、殺害する予定だったのでしょうね)。大統領救出作戦を実施する特殊作戦部隊(シールズ)を脱出させるため、米原潜「アーカンソー」(「シーウルフ級」原潜)がロシア海軍の本拠地「ポリヤルヌイ」に潜入する、という、大筋としては「なんともなあ・・・」というようなお話です。

この中でロシア連邦大統領を救出し脱出を試みる「アーカンソー」は、これを阻止し大統領も一緒に抹殺してしまおうというクーデター勢力に命じられたロシア駆逐艦「ヤヴチェンコ」に追われるわけですが、この「ヤヴチェンコ」が「ウダロイII級:11551級」もしくは「ウダロイI級:1155級」を近代化改装した艦をベースとした架空艦なのです。

(「ヤヴチェンコの概観:Twitterの投稿より拝借しています)

概観はほぼ「ウダロイII級」と言っていいと思います。実艦と異なる点は主砲が複合型CIWS(おそらく「コールチク」)になっているところ、と、さらに対潜ロケット発射機の装備位置が艦橋前になっているところでしょうか。(もしかすると、形状的に艦橋両舷に搭載された4連装ミサイル発射機は対潜ミサイル発射機のまま、かも)

 

映画の中で「ヤヴチェンコ」は大活躍します。

アーカンソー」の脱出阻止を命じられた同艦は対戦ロケット、対潜魚雷を発射します。2機の対潜ヘリも飛ばしています。CGなのだろうと思いますが、なかなか貴重なシーンです。

Youtubeでご覧いただける動画を見つけたので、どうぞ。なかなかの迫力)

www.youtube.com

さらに映画の最終シーンでは「アーカンソー」に向けられてポリヤルヌイ基地の海岸のランチャーから発射された対艦ミサイルを「ヤヴチェンコ」の主砲(「コールチク」)が撃墜します(だから主砲を「コールチク」に変更して置かなくちゃならなかったんだな、と独り合点)。

この時点では同艦は「アーカンソー」に救助されていたロシア潜水艦の艦長(この人は「ヤヴチェンコ」の元艦長で「彼らは私が鍛えたんだ。何もかも知っている」といかにも海軍軍人らしいことをいいます)の説得と大統領のメッセージで、「ヤヴチェンコ」はクーデター派から大統領派に鞍替えしたわけです。

そして最後はクーデター派の占拠する基地司令部ビルを同艦の巡航ミサイルが破壊し、物語は終了するわけです。

(コールチクの射撃シーンとそれに続く同艦の巡航ミサイル発射シーンを)

www.youtube.com

(このシーン、ちょっと射撃タイミングが遅すぎないかい、と思うのは私だけ?あるいはCIWSの射撃ってこんなもんでしょうか?いずれにせよ、これだけの至近弾を喰らうと、相当な損害が出るんじゃいないかな?「アーカンソー」はこの後、ピンシャンしてますが。まあ、そこは映画なんで、まあいいじゃない、ということでしょうか。もう一つツッコミどころとして、巡航ミサイルが射出されているのが、対空ミサイル用のVLSから、になっているんじゃないのかな、っていうところでしょうか?)

 

「ウダロイ級」のヴァリエーションモデルの調達(予告編)

と、ここまで諸々ご紹介してきましたが、どうやらここには(つまり「ウダロイ級」には)筆者の大好きな派生系があるようです。

上述のように少なくとも、準同級の改良型「ウダロイII級」(1隻しか建造されていないようですが)、現行の「ウダロイ級」の近代化改装型(上述のように同級の7番艦「マーシャル・シャポシにコフ」は2016年にこの改装を受けています)、そして映画「ハンター・キラー」に登場した「ヤヴチェンコ」(これは映画に登場するおそらくは架空艦です)。

こうなると、なんとか揃えてみたい、と厄介な遊び心がムクムクと。そしてこういう時の頼みの綱、Shapewaysで探してみると、やっぱりちゃんとありました。

(3D Ships製(Shapeways)の「ウダロイII級」のモデル:写真上 とAmature Wargame Figures製(Shapeways)の「ウダロイ級」近代化改装モデル:写真下)

映画「ハンター・キラー」版の「ヤヴチェンコ」はさすがに見つからないので、「ウダロイII」のモデルから手を入れることにして、早速調達に入りました。工程表では現時点で最終工程に回っているようです。

Shapewaysではこんなふうに、自身の発注したモデルの製作工程が確認できます)
もう一つ、筆者の「ウダロイ級」のコレクションで気になっているところが一点あります。上述のように「ウダロイ級」は2機の対潜哨戒ヘリを搭載しています。二番艦以降、ヘリ甲板の発着スポットは2箇所に増やされています。残念ながら手元には適当なデカールがなく、こちらも現在調達中です。

(上の写真は1:1250 Decalsに発注中の2スポットデカール:このあたりに手をつけ出すと、キリがないのですが、今回はたまたま過去に制作をお願いした方が持っていたからラッキーだったのですが・・・)

・・・というわけで、これらが手元に到着すれば、またご紹介させていただきたいと思っています。(ちょっと予告編、でした)

 

「ソヴレメンヌイ級:956級」駆逐艦(1980年就役開始:同型艦21隻:2023年時点での就役艦4−5隻?)

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(「ソヴレメンヌイ級=956級」駆逐艦の概要:125mm in 1:1250 Amatuer Wargame Figures製:3D printing model)

同級は元来は艦隊防空に重点を置き開発された艦級です。基本設計は「クレスタ級:1134級」「クレスタII級:1134A級」ミサイル巡洋艦に準じるところが大きく、6500トン級の船体に蒸気タービンを主機として装備し33ノットの速力を発揮することができました。

対空ミサイル24基を弾庫に収めた単装SAM発射機2基と130mm連装砲2基を艦隊防空の主要兵装として装備し、個艦防御用CIWS4基を搭載しています。艦橋脇の両舷側には対艦巡航ミサイルの4連装発射機を装備し、主砲と合わせて強力な水上戦闘能力を保有しています。対潜兵装として対戦ロケット発射機2基と連装魚雷発射管、さらに対潜哨戒ヘリ1基を搭載し、対潜戦闘能力も一定レベルを有しています。

複数の目標を追尾する能力を有してはいますが、イージスシステム全盛の現在では、前世代の防空艦と言わざるをえないと思います。現時点で現役にあるのは4−5隻というところでしょうか。

中国海軍に4隻が売却され改修を経たのち全てが現役に留まっているようです。

 

現役艦はここまで。では遡って第二次世界大戦後に設計されたソ連ロシア海軍駆逐艦の系譜を見てみましょう。

第二次世界大戦後の旧ソ連・ロシア駆逐艦の開発系譜

「ネウストラシムイ級:41級」駆逐艦(就役期間:1955-1974年:同型艦なし)

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(モデルは未入手)

ソ連海軍が第二次世界大戦後初めて設計した駆逐艦で当初は110隻と言う大量建造の計画があったようですが、まずは評価用に1隻のみ建造されました。

3000トン級の当時の駆逐艦としては大型の船体に強力なタービンを搭載し高速力を発揮することが期待されましたが、計画速力(36ノット)には遠く達せず、かつ艦尾部の振動が大きく高速航行時の運用に大きな難があると言うことで1隻のみの建造となりました。

 

「コトリン級:56級」駆逐艦(就役期間:1952-1992年:各種の派生形態があり合計27隻が建造)

ja.wikipedia.org

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(「コトリン級=56級」駆逐艦の概観:104mm in 1:1250 by Hansa)

ソ連海軍が設計した主兵装を砲と魚雷とした最後の駆逐艦の艦級です。2600トン級の船体に130mm連装砲2基、45mm4連装砲4基、対潜ロケット発射機2基、5連装魚雷発射管2基を装備しています。38ノットの速力を有していました。

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(Trident製のモデルでは、いくつかの形態が再現されているようです)

順次、対潜戦闘能力や対空戦闘能力の強化が行われ、特に9隻は連装対空ミサイル発射機を装備した「コトリンSAM級」に改装されています。

 

「キルディン級:56-M級」駆逐艦(大型対潜艦)(就役期間:1955-1991年:同型艦4隻)

ja.wikipedia.org

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(「キルディン級=56M級」駆逐艦(改装後)の概観:100mm in 1:1250 by Decapod Models)

同級は世界初の対艦ミサイルを装備した駆逐艦の艦級です。

3000トン弱の船体に、砲兵装はやや抑えた45mm連装砲4基とし、対潜ロケット発射機2基、連装魚雷発射管2基を装備していました。36ノットの速力を発揮することができました。

 

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(直上の写真は就役直後の「キルディン級」駆逐艦の概観:by Amature Wargame Figures:筆者は未入手:艦尾部に対艦ミサイルの単装発射機が装備されています)

当初は艦尾部に対艦ミサイルの単装発射機を1基とミサイルの弾庫を装備していましたが、のちに両舷側に単装対艦ミサイル発射筒を各2基装備し単装発射機と弾庫跡に76mm連装砲塔2基装備に改装されました。上掲のモデルはこの形態を示しています。f:id:fw688i:20230617163558p:image

(「キルディン級」(後期型)の主要武装の配置:艦首から対戦ロケット発射機、45mm連装機関砲、魚雷発射管、45mm連装機関砲(上段写真)、対艦ミサイル発射機、76mm連装砲(写真下段)の順)、

 

クルップニィ級:57-bis級」駆逐艦(大型対潜艦)(就役期間:1960-1993年:同型艦8隻)

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(「クルップニィ級=57bis級」駆逐艦就役直後の概観:113mm in 1:1250 by Hansa: 艦首部と艦尾部に対艦ミサイルの単装発射機を装備していました)

同級は対艦ミサイルを主要兵装として就役しました。3500トン級の船体に艦首部と艦尾部に単装対艦ミサイル発射機を装備した水上戦闘を主任務と想定した艦級として設計されました。兵装は他に57mm4連装砲4基、三連装魚雷発射管、対潜ロケット発射機2基を装備していました。蒸気タービンを主機として34ノットを発揮することができました。

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(「クルップニィ級」駆逐艦就役直後の主要兵装:艦首から対艦ミサイル単装発射機、対潜ロケット発射機、57mm4連装砲(写真上段)、57mm4連装砲、対艦ミサイル発射機(下段写真)の順)

 

大型対潜艦への大改装(1960年代末期)

NATOコードは「カニン級:57-A級」駆逐艦として登録

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(「カニン級=57A級」にNatoコードが変更されたのちの同級駆逐艦の概観:by Delphin  :艦尾部に対空ミサイル連装発射機を装備して、減り発着甲板を増設。対空・対潜能力を強化しました)

クルップニィ級=57-bis級」の8隻は全て1960年台末期から1970年代初期にかけて、艦首部と艦尾部の対艦ミサイル発射機を外し、艦尾部に対空ミサイル連装発射機を搭載し対潜ヘリの発着甲板を装備した大改装を受け、艦容が大きく変更されました。NATOでは別の新たな艦級として認識し、「カニン級」のコードネームが与えられました。

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(「カニン級」駆逐艦の主要兵装:艦首から対潜ロケット発射機、57mm4連装砲、5連装魚雷発射管、対潜ロケット発射機(写真上段)、CIWS(銀色)、連想対空ミサイル発射機、ヘリ発着甲板(写真下段)の順:就役時=「クルップニィ級」時代の対艦戦闘に重点を置いた水上戦闘艦から、艦隊防空艦への主任務の大きな武装変更が見て取れます)

砲兵装は改装前の57mm4連装砲4基を57mm4連装砲塔2基に現じていますが、CIWSを追加装備し、魚雷発射管を5連装に強化し、対空・対潜能力を強化した防空担当艦的な性格を帯びた艦級に生まれ変わりました。

全て1993年までに退役しています。

 

「カシン級:61級」駆逐艦(大型対潜艦)(就役期間:1966-1992年:同型艦20隻)

ja.wikipedia.org

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(「カシン級=61級」駆逐艦就役直後の概観:115mm in 1:1250 by Delphin: ソ連海軍が初めて艦隊防空能力に重点を置き、対空ミサイル駆逐艦として設計した艦級でした)

同級は世界初のオール・ガズタービン艦として大変有名です。

4000トン級の船体を持ち38ノットという高速を発揮できました。

大型対潜艦という分類ですが、ソ連海軍で初めて設計から艦隊対空ミサイルシステムを組み込んだ設計の艦級でもありました。艦首部・艦尾部に各1基の連装対空ミサイル発射機を備え、発射機直下の弾庫には各16発の対空ミサイルを収納していました。

個艦防御用の対空兵装としては、原型では76mm連装高角砲2基を装備していましたが、後期型ではこれにCIWS4基が追加され、近接防御を強化しています。

対潜兵装としては対潜ロケット発射機2基、連装魚雷発射管1基を装備していました。f:id:fw688i:20230617172246p:image

(「カシン級」駆逐艦の主要兵装:艦首から76mm連装砲、連装対空ミサイル発射機、対潜ロケット発射機(写真上段)、連装対空ミサイル発射機、76mm連装砲(写真下段)の順:並行に並んだ煙突も特徴の一つですね)

後期型では上記の近接防御能力の向上の他に、対艦ミサイル発射機4基を追加、さらにヘリの発着甲板も増設されました。

(「カシン級」後期型の概観 by Amature Wargame Figures: 筆者未入手:艦中央部にCIWSが装備され、その後ろに対艦ミサイルの単装発射機が片舷2基配置されているのがわかります)

同級は20隻が建造され、事故で1隻を喪失、1990年代に大半が退役し、最後の一隻が退役したのは2020年でした。一隻、1988年にポーランド海軍に譲渡されましたが、この艦も2005年に退役しています。

 

ということで、第二次世界大戦以降も設計されたソ連ロシア海軍駆逐艦の系譜を見てきましたが、前述のように、現役に残っている「ウダロイ級」は筆者的にはヴァリエーションを今少し深掘りしてみたいと思っています。

今回はここまで。

 

次回はロシア海軍フリゲートの系譜など、調達中のモデルもあるのですが、一旦系譜のご紹介など、いかがでしょうか?

もし、「こんな企画できるか?」のようなアイディアがあれば、是非、お知らせください。

 

模型に関するご質問等は、いつでも大歓迎です。

特に「if艦」のアイディアなど、大歓迎です。作れるかどうかは保証しませんが。併せて「if艦」については、皆さんのストーリー案などお聞かせいただくと、もしかすると関連する艦船模型なども交えてご紹介できるかも。

もちろん本稿でとりあげた艦船模型以外のことでも、大歓迎です。

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「空母いぶき」:シーズン1の敵役:中国海軍の水上戦闘艦艇

今回は前回からの流れで、コミック「空母いぶき」のシーズン1の敵役、中国海軍の艦艇のご紹介です。

 

コミック「空母いぶき」

少しおさらいしておくとコミック「空母 いぶき」は2014年から「ビッグコミック」(小学館)に連載が開始された、かわぐちかいじ氏による漫画です。

海上自衛隊が導入した航空機搭載型護衛艦(DDV)「いぶき」をその物語の中心に据えて、日本周辺の「有事」を想定し、その有事に対処することの意味、方法、そして何を考えるべきか、というようなことを考えさせる物語になっています。

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現在、ビッグコミックに連載中の「Great Game」は「北方有事」を扱っています。その関係で敵役はロシア海軍なのですが、本稿前回ではここで登場するロシア海軍艦艇をご紹介しています。

fw688i.hatenablog.com

 

一方、第一シリーズでは南西諸島方面を舞台に離島が「隣国」に上陸占拠されたという自体に、自衛隊初の航空機搭載型護衛艦(DDV)「いぶき」を中心とした艦隊が出撃し、どう事態に対処するか、という話になっています。日本周辺の有事を描いているので、関係諸国は近隣国であり、ストーリーもリアルさゆえに、表現はかなりセンシティヴなものではあるのですが、同書では登場する国、敵味方を問わず艦船等、現存するものは全て実名(あるいはNATO諸国での通称)で出てきます。(映画版ではおそらくその辺りへの配慮もあってか、進行してくる敵国も含め、全て架空名称に置き換えられていました)

そして、空母「いぶき」を中心に構成される艦隊は「第5護衛隊群」と呼ばれているのです。

コミック版の第一シリーズでは、「第5護衛隊群」は以下の艦船で構成されています。

航空機搭載型護衛艦「いぶき」(DDV-192)

護衛艦「あたご」(DDG-177「あたご級」イージスミサイル護衛艦

護衛艦「ちょうかい」(DDG-176 「こんごう級」イージスミサイル護衛艦

護衛艦「ゆうぎり」(DD-153「あさぎり級」汎用護衛艦

護衛艦「せとぎり」(DD-156「あさぎり級」汎用護衛艦

潜水艦「けんりゅう」(SS-504「そうりゅう級」)

補給艦「おうみ」(AOD-426「ましゅう級」艦隊補給艦)

こちらの艦艇については本稿の以下の回で紹介しています。

fw688i.hatenablog.com

 ddv192.jp

そして敵役は「中国海軍」。艦艇も全て実名で出てきます。

ストーリーは、突如、中国軍が与那国島尖閣諸島に侵攻作戦を展開しこれらの島々を占領します。これに対し、日本政府は訓練中の「空母いぶき」を中心とした第五護衛隊群に出撃命令を下令し、同部隊は現地に急行するのですが、中国海軍もこれを迎撃すべく新鋭空母「広東」を中心とした機動部隊を出撃させ、両者が衝突する、ざっとそんなお話です。

 

航空母艦「広東:Guangdong」(コミック刊行時点では架空艦)

ここで登場する中国海軍の新鋭空母「広東」は、同コミックの刊行当時は架空の初の中国国産の空母の艦級として描かれていましたが、現時点では「002級」空母として「山東」の艦名で就役しています。

「002級」航空母艦山東:Shandong」

ja.wikipedia.org

繰り返しになりますが、同級は中国海軍初の国産航空母艦です。それまで中国海軍は折からの財政難で70%程度の完成時点で建造が止まっていたロシア海軍の「アドミラル・グスネツォフ級」空母二番艦「ヴァリャーグ」を買い取り、「遼寧」と艦名を改め就役させていましたが、「002級」空母はこの改良型と言っていいと考えています。「002級」と称されていますが、現時点で同型艦の建造予定はないようです。(「遼寧」は、むしろ「アドミラル・グスネツォフ級」の準同型艦=改良型、と見做されることが一般的かも)

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基準排水量56000トン(「遼寧」は46000トン:58500トンと言う資料もあり)の船体を持ち、艦首をスキージャンプ台形状にしたいわゆるSTOBAR式の発着艦方式を「遼寧」から踏襲しています。

搭載機は固定翼機32−36機と、回転翼機(ヘリコプター)最大16機を搭載する能力があるとされています。

固有武装としては主として個艦防衛用のSAM18連装発射機4基、CIWS3基、それに対潜ロケット発射機2基を搭載しています。

「空母いぶき」では最終航空戦で、「いぶき」搭載機の単機での機銃掃射を飛行甲板に受けて損傷し発着艦機能を奪われ、これをきっかけに事態は収束に向けてが動き始めました。

 

同級のモデル

1:1250スケールでは。、同級の3D printing modelが、3D shipsやBill's Modelsなど複数の製作者から出ているようですが、筆者は残念ながら未入手です。

(写真は3D shipsから発売されている「山東」の1:1250スケールモデルShapewaysで入手可能です。同サイトでの説明では全長244mmのモデルになるようです)

 

「001級」空母 「遼寧:Liaoning」

実はコミックでは冒頭に遭難者を装った中国工作員先島諸島への上陸を発端に、中国海警局の警備船と海上保安庁の巡視船の小競り合いがあり、この事態収集時に少しだけ「遼寧」が出てきます。

(上掲の写真は、「遼寧」のモデル。Amature Wargame Figure製:筆者未入手)

 

「003級」空母 「福建:Fujian」

中国海軍の現有の2隻の空母はいずれもスキージャンプ台形式の艦首を持っていますが、2022年に進水したとされている次級の航空母艦「福建」では、電磁カタパルトを有したフラットな艦首形状を持っているようです

(3D shipsから上梓されている「福建」のモデル:フラットな飛行甲板を持っています。船体もひと回り大きいようです)

 

以下はコミック版「空母いぶき」に登場する空母「広東」を中心に構成される機動部隊に所属する水上艦の艦級をご紹介してゆきます。

052C(蘭州)級駆逐艦同型艦6隻 就役:2004年-

コミック版「空母いぶき」には同級の「西安:Xian」が登場しています。

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前級の052B級の設計を基礎に、HHQ-9艦隊防空システムを搭載し、さらに中国海軍としては初めてアクティブ・フューズド・アレイ・アンテナ を装備し、これを艦橋の周囲に貼ったことから、中国版イージス艦と言われました。

NATOのコードネームは「旅洋II」。7112t、29ノット。

(「052C級」駆逐艦の概観:124mm in 1:1250 Amatuer Wargame Figures製:3D printing model)

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艦橋の周囲にアクティブ・フューズド・アレイ・アンテナ を装着したところから、上部構造物は052B級よりも一段高く設計され、異なる艦容となっています。

(艦橋側面に装着されたフューズド・アレイ・レーダー)

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兵装の目玉はなんと言ってもHHQ-9A対空ミサイルで、このミサイルをリボルバー式6連装VLSを8基に搭載しています。ミサイル搭載数は48基とやや少なめですが、これは前級052Bの装弾数と同数なのです。

(同級に特徴的な6連装リボルバーVLS。前部甲板に6基、ヘリハンガー上に2基装備。シルバーの丸い装備です。このリボルバー式のVLSは、旧ソ連・ロシアの技術から受け継いだものですね)

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その他の兵装は、主砲として100mm単装速射砲、対艦兵装としてはYJ-83対艦ミサイルの4連装発射機を2基装備しています。併せて近接防御として30mm CIWS 2基を搭載。加えて対潜装備としてはヘリコプター1機を搭載し、短魚雷発射管を装備しています。

 

コミック版「空母いぶき」では、「いぶき」の航空隊の空襲でVLS他を損傷し無力化されました。

 

052D(昆明)級駆逐艦同型艦:19隻 就役:2014年~

コミック版「空母いぶき」には空母「広東」の護衛部隊として「銀川:Yinchuan」「太原:Taiyuan」「南京:Nanjing」が登場しています

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前出の052C級駆逐艦の改良型DDGで、現状では中国海軍、特に空母機動部隊の中核を構成する艦級です。外見からも明らかなように中国版イージスと呼称されています。2022年時点で23隻が就役しており、さらに2隻が建造中で、さらに追加が検討されているようです。

NATOのコードネームは「旅洋Ⅲ」。7500t、30ノット。

(「052級」駆逐艦の概観:124mm in 1:1250 by 幕之内弁当三次元造形製:3D printing model)

同級では、上掲の053C級でご紹介したこれまでの中国海軍の(ロシア海軍の、というべきか?)特徴的なリボルバーVLSではなく、米海軍や海上自衛隊と同じようなキャニスター式のVLSを採用しています。(装填等が同じ方式かどうかは?)

この艦首部と艦中央部に装備された各32セルのVLSにはHHQ-9対空ミサイルと、YJ-18対艦ミサイルが装填されていますが、さらに、対潜ミサイル、巡航ミサイルにも対応している、と言われています。

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(同級に搭載されたVLS。前級のリボルバー式から、キャニスター式(?)への変更が見られます)

それらミサイル群を操る搭載するフューズド・アレイ・レーダーは改良型のドラゴン・アイに変更されています。

VLS以外の主要武装は、主砲として130mm単装速射砲を装備し、近接防御用に30mm CIWSとHHQ-10近接防空ミサイルを、そして対潜装備としてはヘリコプター1機を搭載し、短魚雷発射管を装備しています。

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(艦橋側面に装着された改良型のフューズド・アレイ・レーダー) 

同級の14番艦以降はヘリ発着艦甲板を拡大し、全長をやや延長しています。

(下の写真は「052D級」(写真下)と14番艦以降のヘリ甲板を延長した「052DL級」の比較)

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コミック版「空母いぶき」では「太原」が「いぶき」の航空隊の空襲でVLS他を損傷し、「南京」が潜水艦「けんりゅう」の魚雷を艦首にうけ、それぞれが無力化されました。「銀川」は最終航空戦で来襲した「いぶき」搭載機のソニックブームで損傷しています。

 

054A(江凱II)級フリゲート同型艦:30隻 就役:2008年-

コミック版「空母いぶき」では空母「広東」の機動部隊の構成館として「揚州:Yangzhou」「黄岡:Huanggang」が登場しています。

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同級は外洋進出を目指す中国海軍の中核的な存在となるべく、艦型を一気に大型化し、これまでのフリゲートとは一線を画する高い航洋性を有する艦級となりました。

NATOのコードネームは「江凱」。3400t、27ノット。

(「054A級」フリゲートの概観:108mm in 1:1250 by 幕之内弁当三次元造形製:3D printing model)

西側諸国の技術を導入し、ステルス性を意識した艦容となっています。

VLSに搭載した対空ミサイル、対潜ミサイルで高い対空・対潜戦闘力を保有し、YJ-83対艦ミサイル4連装ランチャー2基で対艦戦闘能力も確保したバランスのいい艦級となっています。他に対潜ロケット、短魚雷発射管、対潜ヘリ等の対潜兵装も充実し、汎用フリゲートとして高い完成度を見せています。

(同級に搭載されたVLSと艦中央部に装備された対艦ミサイル発射機(下段写真))

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(中国海軍のフリゲートの艦型比較。手前から053A級、053H級、054級の順:053A級が大きな船体を持ち、それまでの沿岸警備的なフリゲートの設計とは一線をかくする設計であることがよくわかります)

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(中国海軍のフリゲート駆逐艦の艦型比較。054A級フリゲート(手前)と052D級駆逐艦フリゲート艦が航洋性を備え、兵装を充実させ、大さが駆逐艦に迫ってきているのがよくわかります) 

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コミック「空母いぶき」では、「いぶき」搭載機との交戦で「黄岡」が損傷、最終戦で「揚州」が来襲機(「いぶき」搭載機)のソニックブームで損傷しています。

 

「別働隊」の戦い

コミック版「空母いぶき」では、空母「広東」機動部隊とは別に、多良間島沖で、海上自衛隊の第五護衛隊群の接近を警戒していた052A級駆逐艦「哈爾濱:Harbin」、053H3級フリゲート「洛陽:Luoyang」が、第五護衛隊群の「ちょうかい」と砲戦を交わしています。

 

052(旅滬)級駆逐艦同型艦:2隻 就役:1993年-

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本級はそれまでソ連製の艦艇を輸入、あるいはタイプシップとして軍艦を建造してきた中国海軍が、西側の技術を大幅に導入して独自の設計で建造した初めての駆逐艦の艦級です。

「旅滬」はNATOのコードネーム。

機関にガスタービンを採用し、ヘリコプターの搭載能力も付与されています。

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(「052級」駆逐艦の概観:119mm in 1:1250 Amatuer Wargame Figures製:3D printing model)

56口径100mm連装砲1基、 HHQ-7短SAM、YJ-83対艦ミサイル、対潜ロケット、対潜短魚雷等を、主要な兵装として装備しています。 搭載する対潜ヘリは2機。

4800t、31.5ノット

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(「052級」駆逐艦の兵装:対潜ロケット、56口径100mm連装砲1基、 HHQ-7短SAM (上段写真)YJ-83対艦ミサイル、CIWSの配置などがよくわかります)

 

「空母いぶき」では「哈爾浜:Harbin」が海自の「ちょうかい」と交戦し、兵装を破壊され、無力化されました。

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053H(江衛)型フリゲート同型艦14隻 就役:1991年-

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1980年代から、それまでの旧ソ連の技術への依存から西側技術の導入に姿勢を改めた中国海軍が、それまでのフリゲートに対空ミサイルとヘリコプター搭載能力を付加したものとして建造されました。

江滬はNATOのコードネーム。2286t、27ノット。

100mm連装砲1基、対空ミサイルとしてHQ-61M6連装ランチャーまたはHQ-7 8連装ランチャーを1基搭載し、YJ-83対艦ミサイル4連装発射機2基、37mm連装機関砲4基、対潜ロケット発射機、対潜ヘリコプター1機などを搭載し、汎用性の高いバランスの取れた艦級です。

(「053H級」フリゲートの概観:90mm in 1:1250 Hai製)

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(下の写真は053H級フリゲートの主要兵装の拡大。前部甲板上の対潜ロケット発射機、100mm連装砲と対空ミサイル発射機、艦橋脇の37mm連装機関砲(写真上段)。艦中央部の対艦ミサイル発射機とヘリハンガー上の37mm連装機関砲)

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コミック版「空母いぶき」では、上述のように多良間島方面の警戒隊として「洛陽:Luoyang」が登場し、海自「ちょうかい」と交戦。「ちょうかい」の主砲のピンポイント射撃により、主砲・対艦ミサイル等の主要兵装を破壊されました。

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以上、コミック版「空母いぶき」に登場する水上戦闘鑑定をご紹介してきましたが、文字通り水面下では潜水艦が活躍しています。

今回はまずは水上艦のみで。

 

と言うことでいくつかの中国海軍の艦級をご紹介してきましたが、水上艦艇の系譜が気になる方は本稿下記の投稿をご覧になってみてください。

fw688i.hatenablog.com

 

上記の投稿の中でも記述していますが、皆さん御承知のように中国海軍は拡張を続けています。

ざっと2022年時点での艦艇構成をまとめておくと、戦略原潜6隻 攻撃原潜6隻 通常動力潜水艦46隻 空母2隻 大型駆逐艦巡洋艦:055級)4隻 駆逐艦34隻 フリゲート49隻 コルベット56隻 哨戒艇67隻 大型揚陸艦36隻 中型揚陸艦16隻と、もちろんアジアでは突出した存在になっています。

そして、その実力の程を実感する場面があまりないことは、ありがたいこと、と言わねばならないと考えています。

 

と言うことで、今回はこの辺りで。

 

次回はロシア海軍駆逐艦フリゲートの系譜など、いかがでしょうか?

もし、「こんな企画できるか?」のようなアイディアがあれば、是非、お知らせください。

 

模型に関するご質問等は、いつでも大歓迎です。

特に「if艦」のアイディアなど、大歓迎です。作れるかどうかは保証しませんが。併せて「if艦」については、皆さんのストーリー案などお聞かせいただくと、もしかすると関連する艦船模型なども交えてご紹介できるかも。

もちろん本稿でとりあげた艦船模型以外のことでも、大歓迎です。

お気軽にお問い合わせ、修正情報、追加情報などお知らせください。

 

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「空母いぶき Great Game」:第5護衛隊群の敵役:登場するロシア艦艇

今回はこのGWから一気読みしたコミック「空母いぶき Great Game」から、「空母いぶき」を中心とした海上自衛隊の第5護衛隊群の敵役艦艇のご紹介です。

つまり「ロシア海軍」の艦艇、ということになります。

 

ソ連ロシア連邦の艦艇モデルのコレクション事情

筆者のコレクションは現用艦艇が実は他の時代に比較すると手薄です。

特にロシア海軍、というカテゴリーで言うと、どうしても帝政ロシア海軍の艦艇に重点があり、現用艦艇ということになるとモデルは以前から保有していたのですが、塗装等、なかなか手が行き届いておらず、そのあたり整備しながら、今回はご紹介して行くことになります。

ロシア海軍の現用艦艇(第二次世界大戦後の艦艇、と言う方が正確ですね。つまり現用艦艇も含んでいるわけですが)と言う括りでいえば、本稿では2022年5月にウクライナ戦争でのミサイル巡洋艦「ロシア」の撃沈、と言う衝撃的なニュースを受けて、下記のように「ミサイル巡洋艦」の投稿をおこなった程度です。

fw688i.hatenablog.com

上掲の投稿ではウクライナ戦争で2022年4月14日におそらくウクライアナ軍の地上発射の対艦ミサイルで撃沈された「モスクワ」(スラヴァ級:1164級)を取り上げ、旧ソ連海軍からロシア連邦海軍にかけて建造されたミサイル巡洋艦の系譜をご紹介しています。

「58級:キンダ級」(1962年1番艦就役:同型艦4隻)、「1134級:クレスタI級」(1967年1番艦就役:同型艦4隻)、「1134A級:クレスタII級」(1969年1番艦就役:同型艦10隻)、「1134B級:カーラ級」(1971年1番艦就役:同型艦7隻)そして「1164級:スラヴァ級」と続くミサイル巡洋艦の系譜をご紹介していますので、興味があれば、是非見てみてください。

さらにコレクションにはソ連ロシア連邦海軍の大型対潜艦・駆逐艦フリゲート艦というカテゴリーのコレクションも、モデル自体はほぼ揃っているのですが、なかなか塗装等にまで手が回っておらず(多分、上掲のミサイル巡洋艦のコレクションを見ていただければ状況がわかっていただけるかも)ご紹介の機会に恵まれてきませんでした。

今回はそれらの中から「空母いぶき Great Game」の手元の9巻までに登場する艦艇をご紹介したいと考えています。

今回はそんなお話・

 

「空母いぶき Great Game」

少しおさらいしておくとコミック「空母 いぶき」は2014年から「ビッグコミック」(小学館)に連載が開始されたかわぐちかいじ氏による漫画です。

海上自衛隊が導入した航空機搭載型護衛艦(DDV)「いぶき」をその物語の中心に据えて、日本周辺の「有事」を想定し、その有事に対処することの意味、方法、そして何を考えるべきか、というようなことを考えさせる物語になっています。

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第一シリーズでは南西諸島方面を舞台に離島が「隣国」に上陸占拠されたという自体に、自衛隊初の航空機搭載型護衛艦(DDV)「いぶき」を中心とした艦隊が出撃し、どう事態に対処するか、という話になっています。日本周辺の有事を描いているので、関係諸国は近隣国であり、ストーリーもリアルさゆえに、表現はかなりセンシティヴなものではあるのですが、同書では登場する国、敵味方を問わず艦船等、現存するものは全て実名(あるいはNATO諸国での通称)で出てきます。(映画版ではおそらくその辺りへの配慮もあってか、全て架空名称に置き換えられていました)

そして、空母「いぶき」を中心に構成される艦隊は「第5護衛隊群」と呼ばれているのです。

第一シリーズでは、「第5護衛隊群」は以下の艦船で構成されています。

航空機搭載型護衛艦「いぶき」(DDV-192)

護衛艦「あたご」(DDG-177「あたご級」イージスミサイル護衛艦

護衛艦「ちょうかい」(DDG-176 「こんごう級」イージスミサイル護衛艦

護衛艦「ゆうぎり」(DD-153「あさぎり級」汎用護衛艦

護衛艦「せとぎり」(DD-156「あさぎり級」汎用護衛艦

潜水艦「けんりゅう」(SS-504「そうりゅう級」)

補給艦「おうみ」(AOD-426「ましゅう級」艦隊補給艦)

こちらの艦艇については本稿の以下の回で紹介しています。

fw688i.hatenablog.com

 ddv192.jp

そして同シリーズの第二弾に当たるGreat Gameは現在、ビッグコミックに連載中で、前シリーズが「尖閣有事」(「南西諸島有事」)を扱ったものであったのに対し今度は「北方有事」を扱っています。

お話は北極海で調査任務中の海上自衛隊護衛艦「しらぬい」が、攻撃を受けたアルゼンチンの海洋調査船を救助するところから始まります。「攻撃をしたのはどうやらロシアの潜水艦で、アルゼンチンの海洋調査船が同国が秘密裏に設置したソナーシステムを引き上げてしまったかららしい。攻撃で行動の自由を失ったアルゼンチン船は「しらぬい」の救援で第二撃を免れ、曳航されて日本に寄港するのですが、寄港直後に破棄工作で引き揚げたソナーもろとも爆破されてしまう」というような始まりで、物語はやがて「北方有事」へと展開してゆきます。この「一癖ある」「しらぬい」艦長が「いぶき」の第二代艦長として赴任してくる、こんな話の展開になっています。

この事件を導入として、さらに大きな背景として北極海の実効支配をめぐりロシア連邦オホーツク海域に大規模な海軍基地を建設し、この基地運営に対して目障りな宗谷海峡周辺の日本の索敵能力を排除してしまおう、と言う動きに出る、ちょっと乱暴に整理すると、そんなお話です。宗谷海峡を確保するために稚内利尻島に、ロシア連邦の主権侵害に憤慨したロシア連邦の「愛国者有志」の民間軍事組織が上陸、自衛隊の駐屯地を占拠する、と言う事件が発生します。ロシア連邦は同地に上陸した愛国的自国民を保護する、と言う名目で大規模な軍事行動を実施(どこかで今、実際に起こっている事と被りますねえ)、これと自衛隊が対峙する、9巻までは、そんなお話です。

海上自衛隊の「空母いぶき」を中心とする第5護衛隊群はこのロシア連邦軍の動きに対応してロシア連邦海軍のウラジオストク艦隊、カムチャツカ艦隊と戦闘を交えます。

Great Gameの登場する新編成の第5護衛隊群の艦艇について本稿下記でご紹介しています。

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筆者が読了した9巻まででは、自衛隊基地を占拠した「愛国的自国民」の軍事組織を保護支援するために宗谷岬周辺に上陸を試みるロシア連邦軍と、当然これを阻止しようとする自衛隊の間で海空戦が展開されています。「空母いぶき」の第5護衛隊群はこの上陸戦支援に出撃してきたウラジオストク艦隊と交戦に入ります。

と、まあお話はまだまだ続くのですが、5月末に10巻が発売されますので、それも含めていずれまたご紹介します。

 

ロシア連邦海軍の登場艦艇

まずはこの物語が本来は温暖化が進み解氷によって資源地域としてこれまで以上に脚光を浴びることになった北極海を実効支配しようとするロシア連邦の主戦力とも言うべき北方艦隊から。

北方艦隊旗艦「ピョートル・ヴェーリキー」

同艦はロシア連邦北極海を実効支配目指す際に、その先頭に立つ北方艦隊の旗艦で、「キーロフ級」ミサイル巡洋艦の4番艦です。

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(「キーロフ級」ミサイル巡洋艦の概観:203mm in 1:1250 by Amature Wargame Figures in Shapeways :塗装は筆者オリジナルです。VLSのハッチがこんなに目立った塗装をしているはずがない。そこは模型の世界で、わかりやすく、と言う観点優先です。ご容赦を)
キーロフ級」ミサイル巡洋艦第二次世界大戦後設計された航空母艦を除き世界最大の水上戦闘艦艇です。20000トンを超える現用艦としては破格の大きさの船体と、搭載する強力な兵装から、西側諸国(NATO諸国と言うべきでしょうか)からは「巡洋戦艦」と呼ばれることもあります。ソ連ロシア連邦海軍の正式名称は「1144級重原子力ミサイル巡洋艦」です。

その呼称の通り原子炉2基と蒸気タービン2基を主機として搭載し31ノットの速力を発揮できます。

 

搭載する兵装は、対艦兵器としてSSM(対艦巡航ミサイル)のVLS(垂直発射筒)20基と130ミリ連装速射砲、対空兵器として艦隊防空用のSAM(対空ミサイル)8連装VLS12基、個艦防御用として短SAM8連装VLS8基とCIWS6基、対潜兵器として対潜ミサイル発射可能な5連装魚雷発射管2基、10連装対潜ロケット発射基1基、6連装大戦ロケット発射基2基、さらにヘリコプター3基の搭載と運用が可能です。f:id:fw688i:20230528110116p:image

(「キーロフ級」ミサイル巡洋艦の主要な兵装配置:(左上)10連装対潜ロケット発射基1基、6連装大戦ロケット発射基2基 (右上)同級の最大戦闘力: 艦隊防空用のSAM(対空ミサイル)8連装VLS12基と SSM(対艦巡航ミサイル)のVLS(垂直発射筒)20基(艦橋よりの一段高い甲板に装備されています) 両舷側にCIWSが見えています (左下)艦中央部のCIWS4基 (右下)ヘリコプター甲板と130ミリ連装速射砲、ヘリ甲板の両側に個艦防御用として短SAM8連装VLS8基を装備しています)

同級は4隻が建造されましたが、現時点で現役に残っているのは4番艦の「ピョートル・ヴェーリキー」のみで、3番艦「アドミラル・ナヒーモフ」は近代化改修が行われていると言われていますが、再就役は数度にわたり遅延しています。

 

アドミラル・ゴルシコフ級フリゲート

「Great Game」では北方艦隊旗艦「ピョートル・ヴェーリキー」に4隻が随伴しています。さらにウラジオストク、カムチャツカに展開する太平洋艦隊の主要構成艦として第5護衛隊群と直接交戦する相手としても登場します。

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(「アドミラル・ゴルシコフ級フリゲートの概観:108mm in 1:1250 by Decapod Models in Shapeways :Super Fine Detail Prasticで出力されたもので、大変ディテイルの整ったモデルです)

同級は現時点ではロシア連邦海軍の最新鋭のフリゲート艦です。ロシア連邦海軍の正式名称は「22350級フリゲート」です。

5400トンの船体にガスタービンディーゼルを搭載し、いわゆるCODAG方式の機関を搭載し29ノットの速力を発揮できるとされています。またロシア海軍としては初めて本格的にステルス性を意識した設計となっています。

搭載兵装は32セルSAM(対空ミサイル)VLS1基と16セル多用途 (対艦ミサイル・対潜ミサイル)VLSを主要兵器として、130ミリ単装速射砲1基、対潜ミサイル発射可能な4連装魚雷発射管2基、ガトリング砲と短SAMを組み合わせた近接防空システム2基を搭載しています。f:id:fw688i:20230528110509p:image

(「アドミラル・ゴルシコフ級フリゲートの兵装:(上段)130ミリ単装砲と32セルSAM(対空ミサイル)VLS1基と16セル多用途 (対艦ミサイル・対潜ミサイル)VLS (中段)同級の特徴的なアクティブ・フューズドアレイアンテナを収納した六角推型の統合マストと、煙突両脇にあるのがガトリング砲と短SAMを組み合わせた近接防空システム(?) (下段)艦後部のヘリ甲板とバンカー)

(近接防空システムについては下記を。「ゴルシコフ級」フリゲートは「パラシ」を搭載しています)

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計画では15隻が建造される予定です。

 

「ステレグシュチイ級」フリゲート

同級は前述の「ゴルシコフ級」フリゲートと並び、「Great Game」では今の所、太平洋艦隊の中核戦力として登場してきています。

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(「ステレグシュチイ級」フリゲートの概観:83mm in 1:1250 by Highworth Model(多分)メタル製の大変端正なモデルです:以下に改めて記述しますが艦橋前に複合CIWSを搭載しているので、このモデルは1隻だけ建造された一番艦「ステレグシュチイ」を再現したものだと思います)

同級は「ゴルシコフ級」フリゲートと同じく、ステルス性を意識した設計となっています。「ゴルシコフ級」よりも一回り小さな2300トン級の船体を持つ警備任務の遂行に重点を置いた汎用フリゲートです。ロシア連邦海軍での正式名称は「20380級フリゲート」ですが、派生系の20381級、発展型の20385級なども含めてNATO側では「ステレグシュテイ級」とまとめられることもあるようです。諸形式をまとめて20隻が建造される計画です。

ディーゼルを主機として26ノットの速力を発揮する設計です。

兵装は形式によって異なり、100ミリ単走速射砲1基、30ミリCIWS2基、4連装魚雷発射管2基は共通ですが、20380級(同級の一番艦のみ)は複合CIWS(ガトリング砲と対空ミサイルの組み合わせ)を艦首部に搭載しているのに対し、対空戦闘力の不足に対する懸念から20381級(計画では12隻)はこれが対空ミサイル用の12セルVLSに置換されています。この両形式は対艦ミサイルの4連装発射基2基を搭載していますが、20385級ではこれが艦首部のVLSに移動し、艦尾部に対空ミサイルのVLSが装備されています。

艦尾部のハンガーでヘリコプター1機の搭載。運用が可能です。

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(「ステレグシュチイ級」フリゲートの兵装:(上段)100ミリ単装砲と複合CIWS:複合CIWSを装備したのは一番艦のみで、やや対空装備としては弱いとみられ二番艦以降はここにSAMのVLSを装備していました (下段)艦橋直後には対艦ミサイルの4連装発射基2基を搭載しているのがわかります。さらに煙突両脇に30ミリCIWSを搭載しています。艦尾部はヘリ甲板とハンガーが装備されています)

 

9巻までに登場するロシア海軍水上戦闘艦艇は今のところこんな感じです(水上戦闘艦艇、つまりこれ以外にも潜水艦、空母が登場しています)。

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(「Great Game]のこれまでのところ登場した水上戦闘艦の一覧:奥から「キーロフ級」ミサイル巡洋艦、「アドミラル・ゴルシコフ級フリゲート、「ステレグシュチイ級」フリゲートの順:やはり「キーロフ級」がいかに破格に大きいか、わかっていただけるかと)

 

と言うことで今回の本論はここまでですが、以下、少し既存モデルのアップデートがありましたので、そちらのご紹介を。

「もがみ級」多機能護衛艦モデルのアップデート

「Great Game」には第5護衛隊群の構成艦として海上自衛隊の新鋭艦「くまの」が登場します。本稿の以前の投稿でも下記のように紹介しています。(以下、2023年4月30日投稿より引用)

 

多機能護衛艦「くまの」(FFM-2 :「もがみ級」)

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(多機能護衛艦「くまの」の概観:103mm in 1:1250 by FSpace RPG:3Dprinting model)

「くまの」は「もがみ級」多機能護衛艦の2番艦です。

それまでの海上自衛隊護衛艦に見られたシステム化と高性能化に伴う大型化の傾向と一線を画し、任務の多様化を踏まえた多機能化とコンパクト化を両立した設計となっています。それを反映して艦分類記号もDD(駆逐艦)よりは小型のイメージを持つFF(フリゲート)に”Multi-purpose"の頭文字のMを加えたFFMとされています。

ちなみにこれまで海上自衛隊フリゲートという呼称で艦種分類記号が付与されたのは、その草創期の米海軍からの貸与艦「くす級護衛艦」(1950−60年代)以来です。

3900トン級の船体にCODAG方式の機関を搭載し、30ノットの速力を発揮することができます。曝露部の通路を廃止した設計の傾斜平面を多用した船体せっけいに加え、艦橋部とその上部に設置された複合空中線およびその下部のセンサーが概観上、これまでの海上自衛隊護衛艦とは大きな差異を示しています。f:id:fw688i:20230430135222p:image

(多機能護衛艦「くまの」の細部:左上:同級の大きな概観的な特徴となっている環境庁部に設置された複合空中線 /右上:5インチ砲、魚雷発射管室ドア:Mk 41VLS:計画ではこのVLSに垂直発射型の魚雷投射ロケットを搭載することになっているようです(未実装?)/左下:17式対艦ミサイルのランチャー/右下:哨戒ヘリのハンガーと発着甲板。ヘリハンガー上にSeeRAM近接防空ミサイルシステムを搭載しています)

兵装等は対空戦闘にはSeeRAM近接防空ミサイルシステムを搭載し、大水上戦闘には5インチ砲、遠隔操作型の50口径機銃架を備えています。対艦兵器としては17式艦対艦誘導弾の4連装発射筒を2基搭載しています。艦種部には16セルのMk.41 VLSを設置する設計になっていますが、ここから発射される垂直発射式魚雷投射ロケット(現時点では計画のみ?)と舷側に装備された三連装魚雷発射管が対戦装備ということになります。

同級の多機能対応を象徴するのが機雷戦装備で、簡易型の機雷敷設装備を搭載し、機雷敷設任務にも対応でき、かつ水陸両用戦に対応すべく対機雷戦ソナーシステムを搭載し、無人機による機雷捜索や機雷除去の装備を搭載しています。

併せて艦尾部にはヘリハンガーを設置し、哨戒ヘリ1機を搭載しています。

 

上掲の投稿ではFSpace RPG製の3D printing modelをご紹介しているのですが、新たに3D Ships製のモデルを手に入れましたので、それをご紹介しておきます。

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(今回入手した3D Ships製の「もがみ級」多機能護衛艦の概観:107mm in 1:1250 by 3D Ships in Shapeways:実艦の全長が133mですので、1:1250スケール計算すると106.4mmと言うことになります。以前ご紹介したFSpace RPG製のモデルが103mmでしたので、3D Shios製の方が近いですね)

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(「もがみ級」多機能護衛艦 3D Shipsモデルの細部:左上:5インチ砲とMk 41VLS :計画ではこのVLSに垂直発射型の魚雷投射ロケットを搭載することになっているようです(未実装?)。FSpace RPGでは再現されていた魚雷発射管室のドアはこのモデルでは再現されていません/右上:同級の大きな概観的な特徴となっている艦橋頂部に設置された複合空中線 //左下:17式対艦ミサイルのランチャー/右下:哨戒ヘリのハンガーと発着甲板。ヘリハンガー上にSeeRAM近接防空ミサイルシステムを搭載しています)

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(上掲の写真はFSace RPGモデル(奥)と3D Shipsモデルを比較したもの。両者ともShapewaysで入手できるのですが、後発のアドヴァンテージでしょうか、フォルムが優れているような気がします。最大の印象は、多分、上部構造物の傾斜の再現が大変うまくいっているんじゃないかと。あくまで筆者の印象ですが。かつディテイルの再現が上手)

冒頭に述べたように筆者のコレクションは現用艦船が手薄ですので、これからお世話になる機会が増えそうです。こう言うものコレクターにとっては嬉しい発見です。

 

と言うことで今回はこの辺りで。

次回は今回の流れで、「空母いぶき」の第一シリーズに登場した中国海軍艦艇のご紹介でも、あるいは、こちらも今回の流れでソ連ロシア海軍フリゲート駆逐艦の系譜のご紹介でも、と考えています。

もし、「こんな企画できるか?」のようなアイディアがあれば、是非、お知らせください。

 

模型に関するご質問等は、いつでも大歓迎です。

特に「if艦」のアイディアなど、大歓迎です。作れるかどうかは保証しませんが。併せて「if艦」については、皆さんのストーリー案などお聞かせいただくと、もしかすると関連する艦船模型なども交えてご紹介できるかも。

もちろん本稿でとりあげた艦船模型以外のことでも、大歓迎です。

お気軽にお問い合わせ、修正情報、追加情報などお知らせください。

 

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妄想炸裂:大和級戦艦とその発展史(18インチ砲から22インチ砲まで)

GW以降、週末は何かと行事があって、併せて色々と模型をいじりたいのでなかなかブログまで手が回りません。しかも本業が何かと忙しい。(週末はぼんやりしたい)

ということで、今回も再録系プラス最近のアップデートも加味した展開でお茶を濁します。

お題はハズレのないところで「大和級」戦艦とその周辺を。

既にご紹介したモデルばかりですが、お付き合いを。異実で実在するのは「大和」「武蔵」だけ、つまりほとんどが少しの情報から筆者が勝手に膨らませた「妄想」ですので、そこはご容赦ください。

ただし「妄想艦」ばかりなので、ボリューム感はあるかも。

 

その計画

大和級計画案(A-140計画)」から「A-140a」のヴァリエーションを3種

「A-140」計画艦は帝国海軍が140番目に計画した軍艦、という意味であり、aからfまでの枝符号分けがされた上で、さらにそれぞれに機関のバリエーションなどがあり、全部で20数種(23種?)の計画案があったとされています。

そのヴァリエーションは多岐にわたり、例えば排水量では50000トン案から70000トン案、主砲も18インチ砲10門搭載案から16インチ砲9門搭載案等々、種々検討されて、最終案として纏まったのが我々が知る「大和級」ということになります。

 

「A-140a」について

「A-140a」というのは、その枝番が示す通りその最初期の案で、外観的には主砲を全て艦首部に集中配置しており、さらにその特長として計画案の中でオリジナル(A-140)とともに、30ノットを超える速力を有した計画案でした。少し補足すると実際のA-140a計画艦は、実際にはもう少し長い船体を持っていました(今回制作したモデルは、Delphine社製の船体を用いている「筆者事情」から、実在の「大和級」とほぼ同じ長さになっています)。

もう一つ、この20数種の計画案を見て興味深いのは、オリジナル案(A-140)と実在の「大和級」のみがタービン機関搭載艦であるのに対し、他の案は全てタービンとディーゼルの混載艦であったというところだと考えています。つまり日本海軍は機関にディーゼルを採用することにより、なんとか燃料効率を改善し、つまりは搭載燃料に比して長い航続距離を持ち、さらにタービン機関との混載により高速力をも併せ持つ戦艦を作ろうと足掻いた、ということだと思います。このうち高速力という点は比較的早い段階で諦めがついたのか、A-140b案で既に27.5ノットとし、その後、実現案に至るまで30ノットクラスの高速艦の案は提示されませんでした。

しかし残念なことに信頼できるディーゼル機関が間に合わず、実在の「大和級」はタービン機関のみの搭載となっています。

 

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 (A-140a案の資料を示しておきます。諸々、Net上で見つけた資料から)

 

少し裏話

実は「A-140計画艦」についてはHai社から、前出の図面に非常に忠実な1:1250スケールのモデルが出ています。

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しかし、おそらく流通数量が限定されており、従って非常に高価で取引されている傾向があり、なかなか 筆者は入手できずにいます。

そこで、筆者のストックモデルのから他のディテイルの再現はさておき、この「主砲前方集中配置」だけでも再現できないか、というのが筆者のぼんやりとした「想い」だったのですが、今回それを一気に形にすることにした、という事情があります。

 

A-140a1(その1:副砲集中配置案)

実は実際の筆者の作成順とは異なりますが、まずは、上記の図に比較的近い「副砲集中配置」案から。

制作順が1番最後になったのは、副砲の集中配置に対する筆者の違和感から(特に何か具体的な理由があるわけではなく、全く「なんとなく違和感があるなあ」でした)制作を後回しにしただけの話で、出来上がってみると、「なるほどね」という感じでした。

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(A-140a案の副砲艦尾集中配置デザイン:副砲塔の配置位置は原案図面のA-140aに近いものにしてみました。両舷副砲の配置はもう少し後方でも良かったのかも)

 

A-140a2(その2:副砲舷側配置案)

実は筆者が最初に制作したモデルはこちらでした。原案図面の副砲配置に違和感が拭えず、どうせなら実在の「大和級」と同じように、副砲2基を舷側配置(正確には上部構造の両側というべきでしょうか)にしてしまえ、という感じで制作したモデルでした。 

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(A-140a案の副砲両舷配置案の概観:主砲の前部集中配置で防御装甲の配置を効率化し、タービンとディーゼルの混載と共に、日本海軍悲願の高速性と長い航続距離を両立させることを目指しました)

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(直上の写真:「大和」(奥)と「A-140a」の概観比較:「A-140a」がほんの少し小振りで、主砲搭載位置の差異など見ていただけるかと。何故か主砲前部集中配置の方が、機動性が高そうな気がしませんか?写真ではわかりにくいですが、煙突がA-140aの方がやや細く、タービンとディーゼルの混載だから、と無理やり・・・)

 

 

副砲配置案の比較をここで

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(副砲配置の比較です)

筆者が強い違和感を感じていた副砲塔の艦尾部集中配置は、作ってみると意外と違和感がないかも。これはこれでアリかもしれないなと、制作してみて思います。集中防御、考えるなら、設計としての理屈も通りますしね。作った意味があった、ということでしょうかね。どうですか、なかなか「面白い」と思いませんか?作ってみないとわからない!(模型作ってて良かったなあ、と変なところで実感)

 

A-140a3(その3:主砲山形配置案)

そして主砲配置で、日本海軍の場合、いかにもありそうなのが主砲塔の山形配置でしょうね。(妙高級や高雄級重巡洋艦でも実績があります)

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(A-140a案の山形主砲配置デザイン:主砲の配置位置がよりコンパクトになっていることがよくわかります)

この山形配置には、後方への主砲斉射界を広く取ることができると言う点と、主砲弾庫をコンパクトにまとめられる、と言うメリットもあるかも。もしこの後者のメリットがあるとすると、機関に余裕を持たせることができたかもしれません。f:id:fw688i:20210228115632j:image

(直上の写真:主砲配置と副砲配置の拡大カット)

 

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(上の写真は主砲配置案での射角比較:中段は主砲の前方斉射の射角比較。下段は後方斉射の射角比較。かなり両者の斉射射角に差があることがわかります)

「東郷元帥は戦艦の主砲は首尾線の砲力を重視せよ、とおっしゃった」というお言葉が、こういう場合にも影響するのかな?その場合、どちらを選択すべきなんでしょうね?

 

もう一度、模型製作の裏話を 

きっかけは棚の整理。そこで「京商」製の「大和級」のモデルを4隻発見。正確にいうと就役時を再現した、つまり副砲4基搭載時の「武蔵」3隻と対空兵装強化時の「大和」1隻の箱入り在庫を、発見したことでした。実はこの「京商」のモデル、樹脂製でディテイルは素晴らしいのですが、船体の長さが197mmで、いっぽう実艦の長さが263.3mであることから1:1250スケールの場合、210mm程度は欲しいのですが、明らかに小ぶりに再現されています。それに併せて上部構造もやや小さめで、このためNeptune社やDelphin社のモデルと一緒に扱えず「お蔵入り」して、棚の奥にしまっていたのです。

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京商製の「武蔵」立派な台座に乗っています。ディテイルはバッチリです。下段はDelphin社製の船体との大きさ比較。約13mm短い!)

一方で、何度か本稿では触れてきているのですが、Delphin社製の「大和級」は、安価に入手でき部品取り用として大変重宝するため、何隻か船体(ハル)のみストックされています。(ちなみに本稿の表題バックに掲載されている「イージス艦大和」もベースになっているのはこのDelphin社製のモデルです)

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(上の写真:Delphin社製「大和」の船体部分(上段および下段左)と京商製「武蔵」就役時モデルの上部構造と主砲塔(下段右))

これも本稿では何度か触れていることですが、このDelphin 社製のモデルは、構造上パーツの分解が容易で、上部構造を取り払って船体のみを別に使用するなどの用途には大変重宝します。(だから筆者宅のDelphin 社モデルは、たいていバラバラのパーツとして保管されている事が多いのです。ごめんなさい、Delphin社さん)

こうして少し小ぶりな、しかしディテイルのしっかりした「京商」の「大和級」上部構造と、加工のし易いDelphin社製「大和級」ハルの組み合わせで、「主砲前方集中配置案」を作ってみよう、という構想に至ったわけです。

 

大和級」設計案での機関に関する議論

大和級」に至る、つまり「A-140計画艦」の多様な設計案の一つの重要な軸は、主機選択の変遷であったと言ってもいいかもしれません。

資源の乏しい日本にとって、燃料問題は常に重大な課題であり、従って高速力と航続距離を並立させることを考慮すると、燃費に優れるディーゼル機関の導入は重要な目標であったわけです。さらに大型潜水艦用のディーゼル機関の開発の進展など、これを後押しする要素も現れ始めていました。

このため原案はタービン機関のみの搭載案でしたが、その後の案は全てディーゼル機関とタービンの併載案、あるいはディーゼル機関のみの搭載案、でした。

艦隊決戦の想定戦場を、日本海軍はマーシャル諸島辺りとしていたので、航続距離はできるだけ長くしたかった、そういう事ですね。

最終的には、当時のディーゼル機関の故障の多さ、性能不足(潜水艦なら「大型」と言っても2000トン程度、1番大きな潜特型(伊400型)でも3500トン程度だったのですが、10000トン級の潜水母艦「大鯨」のディーゼル機関は所定の性能を発揮できませんでした)から、工期との兼ね合いを考え、結局ダービン機関のみの搭載案が採用されましたが。「大和級」他の戦艦群が大戦中に後方(トラック等)からなかなか前に出れなかった理由の一つは、この辺りにありそうです。

 

そんな背景を改めて振り返ると、「京商大和級」の少し小ぶりな上部構造物、特に少し細身の煙突は、念願のディーゼル機関とタービン機関を併載し長い航続距離と高速性を兼ね備えることが実現できた、というようなカバーストーリーにしてみてもいいかもしれません。「しかし就役後、慢性的な機関の不調に悩まされ、期待通りの活躍はできなかった」的なオチなのかもしれませんが。

 

本命の誕生とその派生形の話(ふんだんに妄想を盛り込んで)

大和級」戦艦の誕生

日本海軍は、 その国力を考えると仮想敵である米国には遠く及ばず、従ってその主力艦状況でも物量的に米海軍を凌ぐことは不可能であることは明白でした。

この数の差を埋めるためには、個艦の性能で米艦を圧倒することが求められ、その設計の帰結が大和級戦艦となって具現化したわけです。

大和型戦艦 - Wikipedia

en.wikipedia.org

「圧倒する」を具現化するための一つが主砲の選択でした。米海軍には大西洋と太平洋の双方に艦隊を展開せねばならない、という大きな条件が課せられていました。この二つの大洋を繋ぐ主要な通路であるパナマ運河の幅は、米海軍の艦船設計に大きな制約を課していたわけです。日本海軍はこの幅の制約から、米海軍は16インチ以上の主砲を持つ戦艦を建造できない、と見込みをつけていました。

そこで16インチ砲を凌駕する18インチ砲を主砲に採択し、この新設計の砲をこれも新設計の三連装砲塔に搭載しました。さらにそれまでの米海軍の主力戦艦群の標準速力が21ノットであることから、機動性においてもこれらを凌駕できる27ノットの高速を発揮できることが設計に盛り込まれました。高い機動性と強力な砲力で常に相手に対し優位な位置からのアウトレンジを実施し、相手を圧倒することを実現し、数の劣勢をカバーすることが目指すところであった、ということです。

(1941-: 64,000t, 27 knot, 18in *3*3, 3 ships, 215mm in 1:1250 by Konishi/Neptun)

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大和級の2隻:武蔵(手前)、大和。就役時には、副砲塔を上部構造の前戯左右に4基配置していました)

 

大和級戦艦の改装

大和級戦艦はその新造時の設計では、6インチ三連装副砲塔を4基、上部構造の前後左右に配置した設計でしが、一連の既存戦艦の近代化改装の方針である対空戦闘能力の向上に則り、両舷の副砲塔を撤去し、対空兵装に換装しました。f:id:fw688i:20190428133938j:image

(「大和」の最終改装時の概観)

両艦は1944年に上記の両舷の副砲塔を撤去し、対空兵装を充実し、電探装備を追加する改装を受けました。その際に「大和」は12.7センチ連装高角砲を従来の6基から12基に増強しましたが、「武藏」は高角砲の砲台までは準備できたのですが、高角砲の準備が間に合わず、代わりに25ミリ3連装対空機関砲を増加搭載して、マリアナ沖海戦に臨むことになりました。

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(「武蔵」の最終改装時の概観:「武藏」は高角砲の砲台までは準備できたのですが、高角砲の準備が間に合わず、代わりに25ミリ3連装対空機関砲を増加搭載)

「武藏」は、結局、マリアナ海戦後も連装高角砲の増設を受けることなく、引き続きレイテ沖海戦に向かい、損害担当艦として、目立つ塗装をして臨んだ、と言われていますが、多数の航空機の集中攻撃を受け、シブヤン海に沈みました。

 

(直下の写真は対空兵装増強後の「大和」。両舷の副砲塔が撤去され、12.7センチ連装高角砲が左右両舷に各3基、増強されました。但し、18インチ主砲のブラスト防止用のシールドは下部の砲台にしか装備されていません)

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(直下の写真は対空兵装増強後の「武藏」。両舷の副砲塔は撤去され、高角砲台は設置されたが、12.7 センチ連装高角砲が間に合わず、代わりに25mm三連装対空機関砲が設置されています)

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(直下の写真は、対空兵装増強後の「大和」「武藏」 のそれぞれの上部構造の拡大。上:「大和」、下:「武藏」。連装高角砲の増設の有無がよくわかります)

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大和級戦艦:A-150計画艦:伊予級(伊予・常陸)の建造(計画艦?あるいは部分的には筆者の妄想が入っているので、If艦かも?)

大和級の建造によって、日本海軍は個艦の性能で米戦艦に凌駕する戦力を保有することに成功したわけですが、米海軍が「アイオア級」あるいはそれを超える「モナタナ級」等、16インチ砲搭載の戦艦を量産することは明らかでした。

この予見される脅威への対抗策が、A-150計画(超大和級などと呼ばれることも)でした。

超大和型戦艦 - Wikipedia

en.wikipedia.org

A-150計画では、米海軍が量産するであろう長砲身16インチ砲搭載艦、あるいは太平洋での運用のみを想定し建造されるかもしれない18インチ砲搭載艦を打ち破るために更なる大口径砲の20インチ(51センチ)砲を搭載することが計画されました。日本海軍は、2インチ毎の口径拡大を目指すのが常でした。12インチ(前/凖弩級戦艦弩級戦艦)、14インチ(超弩級戦艦)、16インチ(八八艦隊)、18インチ(相模級、大和級)、20インチ(伊予級)という感じですね)

設計にあたっては、時勢の展開を考慮して工期の短縮が目指され、前級である大和級の基本設計を踏襲した強化型、発展型として最終的にはまとめられました。

A-150計画の当初、新設計の20インチ砲を大和級同様、三連装砲塔形式で3基9門を搭載する予定だったのですが、その場合、90,000トンを超える巨艦となることが判明し、当時の日本にはこれを建造する施設がありませんでした。さらに言えば、18インチ砲三連装砲塔以上の重量の砲塔を回転させる技術もなく、短期間での完成を目指す日本海軍はこれを諦めざるを得ませんでした。

さらにいくつかのデザイン案の模索の後、20インチ砲を採用して連装砲塔3基搭載であれば、既存の大和級の艦型をほぼそのまま使用し建造期間を短縮できるということが判明し、同案が採用されました。

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(日本海軍のA-150計画艦の概観:217mm in 1:1250 by semi-scratched based on Neptun:下の写真はA-150計画艦の最大の特徴である51センチ連装主砲塔の拡大。兵装配置、基本設計は「大和級」をベースにしたものだと言うことがよくわかります)

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(直上の写真は播磨級戦艦2隻:手前から伊予常陸の順。両艦ともに、当初から対空兵装強化型として建造され、対空砲として当時最優秀対空砲の呼び声の高かった新型の長10センチ連装砲が採用されました)

 

大和級戦艦:駿河の建造(こちらもIf艦の類だと考えてください)

前出の「伊予級:A -150計画艦」は、米海軍が「相模級」「大和級」の登場に刺激されいずれは18インチ(46センチ砲)搭載艦を建造するであろうという予想の元に設計された戦艦で、特に「伊予級」として実現したものは、この51センチ主砲という口径を軸に、早急に建造できる、つまり既存の技術で建造できるという、実現を優先した設計でした。このためその船体の大きさは「大和級」とほぼ同等でなくてはならず、かつ主砲搭載形式も特に砲塔の駆動系の技術的な当時の限界から連装砲塔とされました。このため単艦での射撃で十分な命中精度を得るにはやや心許ない6門という搭載数にとどまらざるを得ませんでした。

この点を改めて検討した上で設計されたのが「改A-150設計艦=駿河」でした。同艦では単艦での行動を想定した際に必要数とされる主砲搭載数8門を設計の主軸に置き、駆動系の改良と軽量化を実現した新設計の51センチ連装砲塔4基の搭載を設計に織り込んでいました。

この軽量化高機動砲塔の実現が、船体の大きさにも好影響として現れ、なんとか当時の造船施設でも建造可能な90000トン級の主砲口径の割にはコンパクトな戦艦として起工されることとなりました。

しかし着工後、新設計の連装砲塔の開発には種々の障害が発生し、結局、当初は「大和級」と同じ3連装46センチ主砲塔4基を搭載する戦艦として完成されました(「伊予級」の51センチ主砲塔は重すぎて搭載できませんでした)。

駿河級は計画では2隻が建造される予定でしたが、日米開戦により1隻、駿河のみ建造されました。

(戦艦「駿河」就役時の概観:220mm in 1:1250 by 3D printing: Tiny Thingajigs:就役時には「駿河」は46センチ主砲12門を搭載していました:下の写真は「駿河」就役時の兵装関連の拡大)

新型51センチ連装主砲塔への換装
一旦は46センチ主砲の搭載数を強化した形で就役した「駿河」でしたが、その就役後も新砲塔の製造は継続され、新型主砲塔の完成後、「駿河」の主砲は51センチ砲に換装されています。

(上の写真は、主砲を新設計の51センチ連装主砲塔に換装した後の戦艦「駿河」就役時の概観:下の写真は、主要兵装の拡大)

新型51センチ連想主砲塔について

下の写真は「駿河」が就役時に搭載していた46センチ三連装主砲塔(「大和級」の主砲等と同じものです)と新開発の51センチ連想主砲塔の比較です。基本設計や構造は「大和級」の46センチ三連装主砲塔をベースにしたものであったことがなんとなく想像できるかと。

そして次の写真は「伊予級」に搭載されていた51センチ連装主砲塔と新砲塔の比較。「伊予級」の砲塔が開発を急いだため旧来の連装主砲塔の拡大型であったことがよくわかります。防御力を向上させながら軽量化を目指し、結果、高機動性を獲得した新砲塔の完成で、「駿河」の船体は「大和級」「伊予級」をわずかに拡大した程度のコンパクトなサイズに収まり、51センチ砲は格段の威力を発揮するわけです。

 

大事件:ナチス・ドイツ海軍20インチ主砲搭載艦の登場

これまでに見てきたように日本海軍の20インチ主砲搭載艦の建造目的は主として米海軍の18インチ(46センチ)級主砲搭載艦の登場に対する対抗策でした。

しかし一方で第一次世界大戦の敗北で一時は沿岸警備海軍の規模に縮小していたドイツ海軍が、ナチスの台頭と共に再軍備を宣言し、特に海軍は英独海軍協定の締結と共に「Z計画」と言われる大建艦計画を実現しつつありました。

その主力艦群は40000トン級の「ビスマルク」級(40000トン級:38センチ主砲搭載)の建造にはじまり、「H39型」(55000トン級:41センチ主砲搭載)、「H41型」(68000トン級:42センチ主砲搭載)と次々と巨艦を建造し、ついに130000トン級の「H44型」に至りました。

「H44型」

(「H44型」の概観:293mm in 1:1250 by Albert: 破格の大きさで、いつも筆者が使っている海面背景には収まりません。仕方なくやや味気のない背景で。下の写真は「H44型」の兵装配置を主とした拡大カット:巨大な20インチ連装主砲塔(上段)から艦中央部には比較的見慣れた副砲塔や高角砲塔群が比較的オーソドックスな配置で(中段)。そして再び艦尾部の巨大な20インチ連装主砲塔へ(下段))

ビスマルク級」から「H44型」までの、いわゆるZ計画の開発系譜一覧

下の写真は、再生ドイツ海軍の「Z計画」での主力艦整備計画の総覧的なカットです。下から「ビスマルク級(40000トン級:38センチ主砲)、「H39型」(55000トン級:40.6センチ主砲)、「H41型」(64000トン級:42センチ主砲)そして「H44型」(130000トン級:50.6センチ主砲)の順です。

 

そして「H44型」の脅威

「H44型」は上述の日本海軍の「伊予級」「駿河」等と同じ20インチ(51センチ)主砲搭載艦でしたが、日本海軍の20インチ砲が45口径であるのに対し52口径の長砲身で、長射程、高初速、高射撃精度を持つ格段に強力な主砲でした。

つまり日本海軍の「伊予級」や「駿河」が「H44型」と砲戦を交わした場合、アウトレンジからの射撃を受けたり、同砲に装甲を貫通されたりする恐れがありました。「伊予級」「駿河」は共に上述のように米海軍の新戦艦の登場編対抗策として建造を急いだがゆえに18インチ(46センチ)砲搭載の「大和級」をベースにした設計で、防御を強化したとはいえ、その砲戦の結果にはかなり危惧を抱かざるを得ない状況でした。

(本文で既述のように、同じ51センチ主砲搭載艦といいながらも、「H44型」は52口径の長砲身砲で、45口径の「駿河」に対し格段に強力な打撃力を持っていました。船体の大きさも格段に異なり、射撃時の安定性にもかなり差が出たかもしれません)

こうした経緯から、日本海軍の22インチ(56センチ)主砲搭載艦の建造が急がれたわけです。

 

22インチ(56センチ)主砲搭載戦艦「播磨」の誕生

以上のような背景で「播磨」は誕生しました。

(「播磨」の概観:262mm in 1:1250 by semi-scratched modek based on 1:1000 scale Yamato, Gunze-sangyo : 下の写真は「播磨」の細部。副砲としては新型3連装砲塔5基に搭載された長砲身の15センチ砲を採用し、広角砲等は「大和級」に準じています。上甲板に設置された機関砲座は、主砲斉射時の強烈な爆風から砲座の要員を守るため、全周防御の砲塔になっています)

全体的な構造、配置等は「大和級」に準じるような設計となっていることがわかっていただけるかと思います。特に次に掲げる写真をご覧いただけると、よりその理解が進むかも。それが良いことか、悪いことかは、さておき。

 

大和級」から「播磨」まで:いわゆる日本海軍の「新戦艦」の開発系譜一覧

下の写真は、日本海軍の条約開け後の「新戦艦」の総覧的なカットです。下から「大和級(64000トン級:46センチ主砲)、「伊予級」(80000トン級:51センチ主砲)、「駿河(90000トン級:51センチ主砲)、そして「播磨」(120000トン級:56センチ主砲)の順。

ライバル対比:「H44型」と「播磨」

下の写真は「播磨」建造のトリガーとなった「H44型」との対比。

ドイツ海軍の「H44型」が旧来のオーソドックスな兵装配置や上部構造物の設計を色濃く継承している感があるのに対し、「播磨」は船体のみならず上部構造も「大和級」以来受け継がれた設計思想によりコンパクトに仕上げられており、このあたりに、第一次世界大戦の敗戦で一旦主力艦建造の技術に中断期があるドイツ海軍と、主力艦建造を継続できた日本海軍の蓄積技術の差が現れているように思われます。

 

さて対決の結果は?

佐藤大輔氏の「レッドサン・ブラッククロス」の外伝に収録された「戦艦ヒンデンブルク号の最期」でも読んでみてください。

ja.wikipedia.org

それ以外にもそれぞれが空想を逞しくしていただくのも一興かと。筆者としては、対決など永遠に訪れず、お互い睨み合っていると言う状況が「最も心地よい」かもしれません。

 

ここからは「大和級」戦艦からの派生系の妄想モデルを

富士級高速戦艦:富士・劔の建造(こちらは完全に筆者オリジナルのIf艦です)

大和級の建造と併せて、この18インチ砲搭載戦艦の時代にふさわしい前衛支援艦が必要と考えられました。高速で展開するこの前衛艦は、後続する主力艦隊に敵艦隊の速度、運動等の詳細なデータを送信し、射撃管制を高める役割が期待されたわけです。

当初、大和級と同じく18インチ砲を搭載する八八艦隊計画艦の相模級の2隻をこれにあてる予定だったのですが、やはり前衛には敵艦隊に肉薄、あるいは捕捉から逃れる高速力が必要とされることが明らかとなり、この目的のためには相模級を上回る速度を保有し、これに専任する艦が新たに設計されることとなりました。

 

建造期間を短縮するために、ここでも装備類は大和級から流用されることが予め決定されていました。機関には大和級と同じものが使用されることが決められ、33ノットの速力が期待されるところから、船体の大きさが逆算されました。また、同級は大和級と行動を共にすることが想定されるところから、主砲には同じく18インチ三連装砲塔の搭載が決定されました。

これらの要件を満たすために、これまでの主力艦とは一線を画する特異な設計となったわけですが、この際にA-140計画の際の検討材料、特にA-140aのデザイン案が参考とされた、と言われています。(<<<筆者の作った妄想ストーリーですから注意してくださいね)

最終的にまとめられた艦型は、艦前部に主砲塔を集中装備し、その後方に機関を配置、後部には副砲塔等と航空装備、というA-140a案に類似したものとなりました。搭載機関、主砲塔等から、奇しくも仏海軍のリシュリュー級に酷似する艦型、装備配置となりました。さらに射撃管制機器、上部構造等を大和級と共通化したために、遠距離からの視認では、大和級に実に似通った外観を示しています。

(1945-: 38,000t, 33 knot, 18in *3*2, 2 ships, 197mm in 1:1250 by semi-scratched based on Hansa) 

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(直上の写真では、船体後部に航空兵装、副砲塔等が集中しているのがよくわかります)

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(直上の写真は富士級高速戦艦2隻:手前から「劔」、「富士」の順。両艦は対空兵装で異なる装備を有していました。2番艦の「劔」は、建造時期がジェット航空機の発展期に当たったため、当初から対空兵装強化型として実験的に自動砲を採用していました)

こうして本来は艦隊決戦において日本海軍が誇る18インチ砲戦艦群の露払い的な役割を期待されて 誕生した「富士級」高速戦艦でしたが、ご他聞に漏れず、もはやそのような主力艦同士の艦隊決戦の場はあろうはずがなく、しかしその高速性、強力な対艦戦闘、対空戦闘能力は、空母機動部隊、巡洋艦機動部隊において、その威力を十分に発揮できたと言われています(とか・・これも妄想)。
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(直上の写真は大和級 18インチ砲搭載艦の系譜:左から富士級高速戦艦大和級、播磨級、駿河の順。大和級の系譜は、18インチ砲の強烈な反動を受け止めるため艦幅を広く取っています。一方で水線長を抑え、装甲を効果的に配置するなど、全体的にコンパクト化に成功していると言っていいでしょう)

 

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(直上の写真は日本海軍の高速戦艦巡洋戦艦)の系譜。:左から、金剛級(比叡)、畝傍級、高千穂級、富士級の順。高速化への模索の取り組みとして、艦幅と水線長の工夫が興味深いものがあります。さらにいうと富士級戦艦の主砲塔はやはり大きい)

 

ここからは、さらに深い妄想の世界へ

海上自衛隊 護衛艦「やまと」 Battleship "YAMATO" in JMSDF

海上自衛隊の発足と自衛艦「やまと」の誕生

太平洋戦争降伏に引き続き、日本は戦争放棄と戦力不保持、交戦権の否認を憲法に掲げる国家となりました。

しかし欧州における米英とソ連の対立に関連する不安定な周辺情勢、殊に日本の共産化を防ぎ、アジア全体の共産化阻止の拠点としたい米英(特に米国)の思惑から、様々は注釈に彩られた憲法解釈が行われ、やがて朝鮮戦争の勃発とともに自衛隊の前身である警察予備隊が発足し(1950年)、日本は再び戦力を保持することとなりました。

 

同時期に旧海軍残存部隊は海上警備隊として組織され、1954年自衛隊法施行とともに海上自衛隊と名称変更されました。

上述のようにその発足時には国共内戦朝鮮戦争等で、米英とソ連のある種代理戦争が極東地域では展開されていたわけで、これら共産勢力、あるいはソ連自身の日本への侵攻に対する抑止力として、当時、武装解除の上で海外に展開していた旧日本軍の復員輸送の従事していた残存する行動可能な主力艦を、再武装の上で戦力に組み入れてはどうかという議論が主として英米間で行われました。

当時、主力艦で行動可能だったものは、「大和」「紀伊」「加賀」「土佐」「長門」でしたが、これらすべてを戦力化することについては強大すぎ旧軍の復活につながるとの懸念があり、さらに「紀伊級」以前の戦艦は近代化改装を施されたとは言え、いわゆる八八艦隊計画の世代の旧式艦で、抑止力としてのプレゼンス、整備のコストという視点から「大和」一隻のみを自衛艦「やまと」として再武装し、自衛艦隊に編入することが決定されました。

 

海上自衛隊黎明期の自衛艦「やまと」

海上自衛隊編入された「やまと」は、艦隊防空艦としての役割を負うべく、再武装と改装を受けました。

 

再武装にあたっては、主砲は従来のままとし、自衛艦隊の艦隊防空艦としての役割期待が大きいところから、対空火器とレーダー装備が一新されました。主要な対空火器として米海軍の38口径Mk 12, 5インチ両用砲を連装砲塔に装備し、14基28門を搭載しました。

この砲は、米海軍の戦艦、巡洋艦に広く採用されている砲で、最大射程21キロ、最大射高11キロ、発射速度15-22発/分とされていました。これに加えて毎分45発の発射速度をもつラピッド・ファイア型のMk 33, 3インチ砲を連装で8基、さらに個艦防衛用に40mm機関砲を装備し、もちろんこれらは全てVT信管を標準仕様としていたため、その対空能力は、旧海軍時代から格段に強化されたものとなりました。

(直下の写真は、自衛艦「やまと」:外観的には、多数の対空機銃が徹去されたことを除けば、旧海軍時代とそれほど大きな違いは見られません。この時期、水上偵察機、観測機等の航空兵装の搭載は廃止されていますが、後部の航空機用の運用装備はそのまま残されています)

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模型視点でのコメントを少し:こちらのモデルも、前出のDelphin社製の「大和」をベースとし、前部艦橋と通信アンテナ、主砲砲塔を換装しています。さらに3D printing makerのSNAFU store製のWeapopn setから、いくつか武装を選択し搭載しています)

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(直上の写真は自衛艦「やまと」の対空兵装:艦の上部構造物周辺にMk 12, 5インチ連装砲塔を配置しています。下段の写真はいずれもMk 33, 3インチ連装砲塔(ラピッド・ファイア)の配置状況。すこし分かりにくいですが上部構造周辺にも、同砲が防楯なしの露出砲架で配置されています)

 

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(直上の写真は自衛艦「やまと」とその僚艦:奥から護衛艦「あきづき(初代)」「やまと」「はるかぜ」「あやなみ」の順。いずれも国産の護衛艦第一世代に属します。この時期の自衛隊は、こうした国産の護衛艦に加え、米海軍からの貸与艦で構成されていました)

 

DDHとDDG時代の護衛艦「やまと」 

海上自衛隊は、領海警備とシーレーン保護がその主要任務であり、従って、対潜戦闘能力を中心に、その活動保護のための艦隊防空を、両軸で発展させてきました。

1970年代に入ると、対潜ヘリを搭載したヘリ搭載型護衛艦(DDH)を中心に、汎用護衛艦を複数配置し、この艦隊の艦隊防空を担う防空ミサイル護衛艦(DDG)から構成される護衛隊群、という構成をその艦隊編成の基幹として設置するようになりました。

海上自衛隊の発足時から艦隊防空をその主任務としてになってきた「やまと」もこの構想に従い、防空ミサイルシステムを搭載することになりました。

主要艦隊防空兵装としてはスタンダードSM-1を2基搭載し、艦隊の周囲30-40キロをその防空圏としました。他の防空兵装としてはMk 42 54口径5インチ砲を6基搭載しています。この砲は23キロの最大射程を持ち、毎分40発の発射ができました。個艦防空兵装としては、上記の他にCIWS3基を搭載しています。

さらに対艦兵器として、主砲の他、ハープーン四連装発射筒を2基、搭載していました。

水上機の運用設備を全廃し、ヘリコプターの発着設備を新設しましたが、固有のヘリの搭載能力は付与されませんでした。

改修時には、米海軍から巡航ミサイルの搭載能力も検討するよう要請があったようですが、専守防衛を掲げ、その要求を受け入れなかった、と言われています。

(直下の写真は、1970年代の護衛艦「やまと」(DDG):外観的には、旧海軍の「大和」の上部構造を大幅に改修し、艦容が一新されました。多くのシステムを米海軍と共用し、アイオア級の戦艦等と似た上部構造物となったため旧海軍時代の外観をほとんど残していません)f:id:fw688i:20190609190556j:image

 模型視点でのコメントを少し:こちらのモデルも、前出のDelphin社製の「大和」をベースとし、その船体を利用し主砲塔を換装しています。上部構造は同じくDelphin社製のSouth Dakotaの上構を転用しています。さらに3D printing makerのSNAFU store製のWeapopn setから、いくつか武装を選択し搭載しました)

 

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(直上の写真は70年代DDG「やまと」の対空兵装:艦の上部構造物前後にSM-1の単装ランチャーを2基搭載し、上部構造周辺にMk 42, 54口径5インチ砲を配置しています。近接防空兵器として、上部構造の前部と左右に CIWSを搭載しました。後橋脇にハープーン発射筒が搭載されています。専守防衛を掲げ搭載を拒んだ巡航ミサイルは、下段写真の前部CIWSとMk 42 5インチ砲の間あたりに装甲ボックスランチャー(ABL)形式での搭載を検討するよう要請された、とされています

 
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(直上の写真はDDG「やまと」とその僚艦:奥からヘリ搭載型護衛艦(DDH)「しらね」対潜護衛艦「やまぐも」「やまと」ミサイル護衛艦(DDG)「さわかぜ」の順)

 

イージス時代の護衛艦「やまと」

2000年代に入り、海上自衛隊の艦隊防空システムがイージスシステムとなりました。

同時に長らく海上自衛隊の艦隊防空を担当してきたDDG「やまと」も、イージス艦として生まれ変わります。

艦の上部構造はイージスシステム搭載に対応する巨大なものに改装され、艦の前後左右に全体で240セルのMk 41 VLS(スタンダードSAM、アスロックSUM、シー・スパロー短SAM用)を搭載しました。

その他、近接防空用兵装として23キロの最大射程、毎分45発の発射速度を持つオート・メララ54口径5インチ速射砲4基、CIWS4基を搭載しています。
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 模型視点でのコメントを少し:こちらのモデルも、前出のDelphin社製の「大和」をベースとし、その船体を利用し、あわせて主砲塔を換装しています。上部構造はF-toy社製の現用艦船シリーズからストックしていた何隻かの上構をあわせて転用しています。さらに同じく現用艦船シリーズのストックから、武装を選択して搭載しました。

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(直上の写真はイージス護衛艦「やまと」の上部構造:左右にMk 41 VLS、5インチ速射砲、CIWSなどを搭載しています


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(直上の写真はイージス護衛艦「やまと」とその僚艦:奥から汎用護衛艦(DD)「あきづき」、「やまと」、イージス護衛艦(DDG)「あたご」の順)

 
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 海上自衛隊は初の航空機搭載型護衛艦(DDV)を導入し「いぶき」と名付けました。専守防衛の建前から、あくまで護衛艦と称していますが、空母「いぶき」の通称で通っています。F-35B15機を基幹航空部隊として搭載し、その他、無人機、救難ヘリ等を搭載しています。

このDDV「いぶき」を中心に、第五護衛隊群が編成されるのですが、第五護衛隊群はその機動性から紛争地域周辺に展開されることが多く、イージス艦「やまと」も、持ち前のその戦闘力から、この護衛隊群に組み入れられることが多くなってゆくのです。

 

史実では、わずか2隻が建造されたのみ(空母として完成された「信濃」を含めても3隻です)、しかも設計時のような運用は一切されず、その圧倒的な威力を誇る主砲はほとんど発砲の機会さえ与えられませんでした。にも関わらず(と敢えて言わせてください)結果的には「無用の長物」などと言われながらも、その存在感は依然、圧倒的だ、と思うのは筆者だけでしょうか?

そうした想いが、掘り下げてゆくと「随分広く深いんだなあ」と、今回まとめ直して改めて実感しました。

 

ということで、今回は2011年8月の投稿をベースに、その後の22インチ砲搭載艦なども加えて少しアレンジしたものを、基本は「再録」させていただきました。

 

次回はGW中に読んだ「空母いぶき Great Game」から適性艦隊として登場する艦船のご紹介など。モデルがいくつか整備中ですので、それらのご紹介を中心に、と一応、予定しています。

 

もし、「こんな企画できるか?」のようなアイディアがあれば、是非、お知らせください。

 

模型に関するご質問等は、いつでも大歓迎です。

特に「if艦」のアイディアなど、大歓迎です。作れるかどうかは保証しませんが。併せて「if艦」については、皆さんのストーリー案などお聞かせいただくと、もしかすると関連する艦船模型なども交えてご紹介できるかも。

もちろん本稿でとりあげた艦船模型以外のことでも、大歓迎です。

お気軽にお問い合わせ、修正情報、追加情報などお知らせください。

 

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海上自衛隊 第5護衛隊群

この連休に向けて、「空母いぶき:Great Game」の既刊分(1−9巻)を古書で大人買い。実は筆者はコミックというのが苦手で、読むのが大変遅いのです。

ですのでまだ4巻途中(コミックで「巻途中」というのが、全く理解できない、と家族にはよく言われます)なのですが、とりあえずこのコミックの主人公である「空母いぶき」から「第5護衛隊群」について、少しお話を。今回はそんな感じで。

 

空母「いぶき」(コミック)ついて

本稿をお読みいただくような艦船ファンの方ならば、何を今更、の感はあると思いますが、コミック「空母 いぶき」は2014年から「ビッグコミック」(小学館)に連載が開始されたかわぐちかいじ氏による漫画です。

海上自衛隊が導入した航空機搭載型護衛艦(DDV)「いぶき」をその物語の中心に据えて、日本周辺の「有事」を想定し、その有事に対処することの意味、方法、そして何を考えるべきか、というようなことを考えさせる物語になっています。

ja.wikipedia.org

第一シリーズでは南西諸島方面を舞台に離島が「隣国」に上陸占拠されたという自体に、自衛隊初の航空機搭載型護衛艦(DDV)「いぶき」を中心とした艦隊が出撃し、どう事態に対処するか、という話になっています。日本周辺の有事を描いているので、関係諸国は近隣国であり、ストーリーもリアルさゆえに、表現はかなりセンシティヴなものではあるのですが、同書では登場する国、敵味方を問わず艦船等、現存するものは全て実名(あるいはNATO諸国での通称)で出てきます。(映画版ではおそらくその辺りへの配慮もあってか、全て架空名称に置き換えられていました)

そして、空母「いぶき」を中心に構成される艦隊は「第5護衛隊群」と呼ばれているのです。

第一シリーズでは、「第5護衛隊群」は以下の艦船で構成されています。

航空機搭載型護衛艦「いぶき」(DDV-192)

護衛艦「あたご」(DDG-177「あたご級」イージスミサイル護衛艦

護衛艦「ちょうかい」(DDG-176 「こんごう級」イージスミサイル護衛艦

護衛艦「ゆうぎり」(DD-153「あさぎり級」汎用護衛艦

護衛艦「せとぎり」(DD-156「あさぎり級」汎用護衛艦

潜水艦「けんりゅう」(SS-504「そうりゅう級」)

補給艦「おうみ」(AOD-426「ましゅう級」艦隊補給艦)

こちらの艦艇については本稿の以下の回で紹介しています。

fw688i.hatenablog.com

 ddv192.jp

 

 

護衛隊群、特に第5護衛隊群について

海上自衛隊は日本経済の生命線ともいうべき「シー・レーン」とそこを航行する船舶の保護をその重要な任務としていますが、1960年代の3次防、4次防で、当時の仮想敵であったソ連海軍の原潜配備の進展等により潜水艦脅威が増大した背景を受け、 改めてヘリコプター搭載護衛艦(DDH)の建造が具体的に検討されました。

背景には先行する研究から、有効な対潜戦闘には4機のヘリコプターが必要であり、4機の常時運用体制を確立するためには、一個護衛隊群に最低6機のヘリコプター搭載能力が求められる、という見解がありました。これにより対潜ヘリ3機を搭載する「はるな級」「しらね級」護衛艦(DDH)4隻が相次いで建造され、このDDHを基幹に4群の護衛隊群が構成されました。1護衛隊群はDDHを中心に対潜ヘリ1機を搭載する汎用護衛艦(DD)5隻と、この護衛艦群の防空を担当する対空誘導ミサイルを搭載したDDG2隻(初期はDDG1隻と対空射撃能力の高いDDA1隻でした)の8隻で構成される、というのが基本構想でした。この護衛隊群が8隻の護衛艦と8機の対潜ヘリを搭載していることから、「八八艦隊」なる俗称が生まれたりします。

この護衛隊群の艦艇の基本構成は現在も変わっておらず、DDHあるいはDDV、DDG 各1隻とDD2隻からなる護衛隊と、DDG1隻とDD3隻で構成される護衛隊の二つ護衛隊を統合指揮する部隊が護衛隊群と呼ばれています。

第1護衛隊群は横須賀を母港とし、第2護衛隊群は佐世保、第3護衛隊群は舞鶴、第4護衛隊群は呉をそれぞれ母港としています。自衛艦隊の基幹部隊編成の基礎単位と言っていいでしょう。

コミック「空母 いぶき」に登場する第5護衛隊群は、こうした基幹編成よりも、もっと任務色の濃い任務部隊として臨時編成された部隊であると解釈をしたほうがいいと思っています。例えば海上自衛隊は8隻のイージスミサイル護衛艦保有していますが、上掲の護衛隊群の説明では、これらはすべて第1から第4の護衛隊群に配置されています。つまり第5護衛隊群に所属する2隻はどこかから引き抜かれた、と解釈できるわけです。(間違ってるぞ、あるいは何を読んでるんだ、などのご指摘、あるいは設定の詳細をご存じの方、いらっしゃいましたら、是非コメントをお寄せください)

 

空母「いぶき」Great Game(コミック)ついて

今回入手したのは2020年から連載が開始された第二シリーズの既刊9冊。

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既刊9冊と書いたのは、まだ連載中だからです。現時点で10巻まで刊行されています。冒頭に記述したようにまだ筆者は4巻途中なのですが、第一シーズンが「尖閣有事」(ちょっと誤解を恐れずに簡単に書いてしまました)であったのに対し、今回は「北方有事」を扱っています。

お話は北極海で調査任務中の海上自衛隊護衛艦「しらぬい」が、攻撃を受けたアルゼンチンの海洋調査船を救助するところから始まります。「攻撃をしたのはどうやらロシアの潜水艦で、アルゼンチンの海洋調査船が同国が秘密裏に設置したソナーシステムを引き上げてしまったかららしい。攻撃で行動の自由を失ったアルゼンチン船は「しらぬい」の救援で第二撃を免れ、曳航されて日本に寄港するのですが、寄港直後に破棄工作で引き揚げたソナーもろとも爆破されてしまう」というような始まりで、物語はやがて「北方有事」へと展開してゆきます。この「一癖ある」「しらぬい」艦長が「いぶき」の第二代艦長として赴任してくる、こんな話の展開になっています。

 

ということで以下は登場する艦艇のご紹介を。

汎用護衛艦「しらぬい」(DD-120: 「あさひ級」)

ja.wikipedia.org

(「あさひ級」汎用護衛艦の概観:121mm in 1:1250 3D Printing メーカー、Amature Wargame Figures(Nomadire)のキット。マストと兵装の一部はF-toysのキットから転用) 

「しらぬい」はGrear Gameの冒頭で北極海での調査任務中に、攻撃を受けたアルゼンチンの海洋調査船を救助します。

本級は「あきづき級」をベースとして新型ソナーシステムを搭載し対潜戦闘能力を強化する一方で、僚艦防空の能力を省いたシステムを搭載したタイプとして、建造コスト等に配慮が払われています。

主機には、護衛艦として初めて電気式推進を主推進としたハイブリッド推進機関(COGLAG)を搭載しています。これは低速時、巡航時にはガスタービン発電を用いた電気式推進を用い、高速時にはガスタービンエンジンによる直接機械駆動も併用する形式で、燃費に優れるとされています。(5100トン、30ノット)

兵装は、基本的に「あきづき級」に準じ、艦首部のMk. 41 VLS 32セルに、発展型シースパロー(ESSM)と垂直発射型アスロック(VLA)を搭載、 主砲には62口径5インチ単装砲(Mk. 45)、対艦兵装として90式対艦誘導弾の4連装キャニスター2基、さらに対潜兵装として対潜短魚雷3連装発射管を両舷に装備、個艦防空用にCIWS2基を搭載しています。

ヘリコプターの運用については、搭載機定数1、搭載能力2機は「あきづき級」に準じ他ものですが、RASTの機体移送軌条は、2条から1条に改められており、洋上での2機の同時運用は現実的ではないとされています。

モデルは下のAmature Wargame Figures(Nomadire)の3D printing modelをベースにしています。マストと兵装の一部はF-toysの「あきづき級」のキットから転用しています。 

www.shapeways.com

(「あきづき級」汎用護衛艦の概観:121mm in 1:1250 F-Toys 現用艦船キットコレクションをほぼストレートに組んだもの。こちらはF-toys 製のインジェクションキットですので、細部のディテイルが詳細に作り込まれています。下の写真はステルス性に配慮されたFCSー3A多目的レーダーアンテナを装備した艦橋の形状がよくわかります。「あさひ級」でも同様の配慮が上部構造のデザインには現れていますが、レーダーアンテナは艦橋にまとめられ、すっきりした上部構造となっています。やや煙突の形状が異なります)

Great Gameでは冒頭の北極海でのアルゼンチン海洋調査船の救助を行い、図らずも同船に向けて発射された魚雷に対し対抗措置としてこれを破壊するために、命令を待たず単独判断で魚雷を発射することになってしまいます。

その際の同艦の艦長が蕪木二佐で、事件後に「いぶき」の2代目艦長に就任します。

(汎用護衛艦「不知火」艦長:蕪木二佐)

 

ここからは、第5護衛隊群(Great Game版)

航空機搭載型護衛艦「いぶき」(DDV−192):いわゆる空母「いぶき」です

(航空機搭載型護衛艦「いぶき」の概観: 26,000t, CWIS *2, SeaRAM *2, F-35JB *15 etc, 202mm in 1:1250 by Amature Wargame Figures(Nomadire):3D printing model

空母「いぶき」と呼称されていますし、コミックも映画もそのままのタイトルなのですが、正確にいうと「航空機搭載型護衛艦」で、あくまでも海上自衛隊における艦種分類は「護衛艦駆逐艦:DD」なのです。

「いずも級」ヘリコプター搭載型護衛艦をベースとして、固定翼機運用のためのスキージャンプ台形式の飛行甲板をつけたものになっています。上掲のモデルも原作の設定と同じく(?)「いずも級護衛艦」のモデルを既に上市されていた3D Printing メーカーさんにジャンプ台の追加をリクエストし、制作していただいています。

www.shapeways.com

モデルの素材は、White Natural Versatile Plasticというやや柔らかめで粘度のある樹脂で、下地処理をした後、普通に塗装ができます。(筆者の場合にはサーフェサーで下地処理をしたのち、エナメル塗料で塗装をしています。基本、全て筆塗りです)上掲の写真の通り、マスト、CIWS、SeaRAMなどの対空火器も全て一体整形された完成形で手元に届いたのですが、ややディテイルに疑問があったのでマストのみ、F-toys製のストックモデルと交換し、仕上げています。

搭載機も同様、3D Printing メーカーさん(SNAFU Store:   SNAFU Store by Echoco - Shapeways Shops)によるもので、F-35JBの他に、X-47Bという無人機(下の写真では、ブリッジ後方の黒っぽく塗装されている数機)を搭載している、という設定にしています。原作では無人機などは搭載していません。ヘリはF-toysのモデルから流用しています。 

下の写真ではベースとなった「いずも級」護衛艦とのツーショットを。

Great Gameにおける第5護衛隊群司令と「いずも」艦長

Great Game時点での第5護衛隊群は、「いぶき」初代の艦長であった航空自衛隊出身の秋津一佐が海将補に昇進して群司令を務めていました。

(第5護衛隊群司令:秋津海将補/「いぶき」初代艦長)

秋津海将補の元で第二代艦長を務めていたのは、秋津が艦長時代に副長であった新波一佐でした。

 

(「いぶき」第二代艦長:新波一佐/「いぶき」初代艦長の元で副長を務めていました)

新波一佐の「いずも級」二番艦の「ほだか」艦長への転出に伴い、後任に蕪木二佐が一佐に昇進して着任しました。

(「いぶき」第三代艦長:蕪木一佐)

 

イージス護衛艦「まや」(DDG-179 :「まや級」)

ja.wikipedia.org

(「まや級」イージスミサイル護衛艦の概観:137mm in 1:1250 3D Printing メーカー、Amature Wargame Figures(Nomadire)のキット。マストと兵装の一部はF-toysのキットから転用)

「まや級」DDGは、「はたかぜ級」DDG の代艦として建造されたイージスシステム搭載ミサイル護衛艦(DDG)です。本級の建造で、海上自衛隊の4個護衛隊群は、その艦隊防空をそれぞれ2隻のイージス艦で賄う事が可能となりました。

本級は「あたご級」DDGの設計を基本として、推進機関を電気推進(COGLAG)に改めたもので、これに伴い、関係がやや大型化しています。(8200トン、30ノット)

搭載するイージスシステムは、弾道ミサイル防衛(BMD:Ballistic Missile Defense)により対応力を向上させたバージョンを搭載しています。

兵装は「あたご級」に準じています。主砲として62口径5インチ単装砲(Mk. 45)、対艦兵装としては、国産の90式対艦誘導弾を4連装キャニスター2基に装備、さらに主砲として62口径5インチ単装砲(Mk. 45)が装備されています。

前甲板にMk . 41 VLSを64セル、艦尾部のヘリハンガー上部に32セルを搭載、ここからSMー2, SMー3併せて垂直発射型のアスロックを発射することが可能です。対潜兵装として対先端魚雷発射管を2基、艦の両舷に配置し、また近接防御兵器としてはCIWS2基を、艦上部構造の前後に配置しています。

前級「あたご級」同様、固有の搭載ヘリコプターは保有しない設定ですが、艦後方のハンガーでは2機の運用が可能です。

(上の写真は「あたご級」のMk.41 VLS あたご級艦首甲板の64セルと艦尾ヘリコプターハンガー上の32セル。「まや級」でも同王の配置となっています。この辺りは、やはりF-toysのインジェクションキットの方が再現性が高いので、そちらを掲載しておきます上の写真にはあたご級から採用された主砲62口径5インチ単装砲(Mk. 45)が写っています)

Great Gameにおける第5護衛隊群、「まや」艦長

第5護衛隊群所属の「まや」艦長は海老名一佐が務めています。海老名一佐は、第一シリーズで第5護衛隊群に参加した汎用護衛艦「あまぎり」の艦長を務めていました。

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イージス護衛艦「ちょうかい」(DDG-176 :「こんごう級」)

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(イージス護衛艦「ちょうかい」の概観:129mm in 1:1250, F-toys)

「ちょうかい」は「こんごう」級ミサイル護衛艦の4番艦で、第四世代のミサイル護衛艦として設計されたいわゆる海自最初のイージス艦4隻の中の一隻です。

米海軍の同じくイージスシステム搭載艦であるアーレイ・バーク駆逐艦タイプシップとし、艦型・機関ともこれに準じています。

併せて、本級から、従来DDHが担っていた護衛隊群旗艦が同級に移管されることとなったため、上部構造および艦型も大型化しています。(7250トン、30ノット)

本級の中核的な装備となるのはもちろんイージスシステム(AWS)ですが、そのセンサーシステムの中心的な役割を負う多機能レーダーは、艦橋の4面に固定された巨大なパッシブ・フューズドアレイアンテナに象徴され、これに上記の旗艦施設などを加え、非常に重厚な上部構造物が特徴となっています。

これに連動するミサイル発射機はMk. 41 VLS(垂直発射機)を艦首甲板に29セル、艦尾甲板に61セルを装備しています。

(Mk.41 VLS :「こんごう級」艦首甲板の29セルと艦尾甲板の61セル。VLS前方には主砲として装備されたオート・メララ製54口径5インチ単装速射砲(127mmコンパット砲)が写っています)

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他に対空兵装としては、主砲にオート・メララ製の54口径5インチ単装速射砲(127mmコンパット砲)を装備し、近接個艦防空用に2基のCIWSを艦上部構造の前後に保有しています。

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対潜兵装としては、前述の艦首部のMk.41 VLSに垂直発射型のアスロック(VLA)を装備し、併せて対潜短魚雷発射管を両舷に装備しています。

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対艦兵装としては、艦対艦ミサイルハープーンを4連装ランチャーで2基装備しています。

DDGとして前級に当たる「はたかぜ級」DDGと同様に、艦後部にはヘリコプターの発着甲板が設けられていますが、ハンガー等の設備はなく、従って固有の対潜ヘリコプターの運用能力はありません。

Great Gameにおける第5護衛隊群、「ちょうかい」艦長

第5護衛隊群所属の「ちょうかい」艦長は浮船一佐が務めています。「ちょうかい」第一シリーズで第5護衛隊群の一隻で、艦長はやはり浮船一佐が務めていました。

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汎用護衛艦「むらさめ」(DDG-101 :「むらさめ級」)

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(汎用護衛艦「むらさめ」の概観:120mm in 1:1250 F-Toys 現用艦船キットコレクションをほぼストレートに組んだもの)

 汎用護衛艦の第二世代として、「むらさめ級」は9隻が建造されました。現在の護衛隊群の基準構成艦となっています。

兵装等の装備は前級と同様を想定しながら、搭載電子機器類の増加への対応や、ヘリ運用能力の強化、居住性改善等の要請から、船体は大型化しています。(4550トン、30ノット)

砲熕兵器としては、主砲に62口径3インチ単装速射砲(76mmコンパクト砲)、個艦防御兵器としてCIWSを両舷に1基づつ搭載しています。

主要対潜装備としては短対潜誘導魚雷発射管とアスロックを装備し、対空兵装としてはSAM(シースパロー)を、いずれも垂直発射式で搭載しています。

(前部甲板に装備されたMk.41 VLS 16セル:アスロック用と、艦中央部に装備されたMk.48 VLS 16キャニスター:シースパロー用)

アスロックは艦首部のMk. 41 VLS 16セルに搭載されています。

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SAM(シースパロー)は、艦中央部にMk. 48 VLS 16連装のキャニスターに収容されています。

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いずれも、搭載弾数は前級「あさぎり級」と同様ながら、いずれもVLS搭載とすることで、即応発射弾数は倍になっています。

艦対艦兵装としては、従来のハープーンに替えて国産の90式対艦誘導弾を4連装キャニスター2基に搭載しています。。

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加えて1機の対潜ヘリコプターを固有の搭載兵装として保有していますが、ハンガーは「あさぎり級」よりも大型化され、「あさぎり級」ではあくまで応急的な運用とされていたのに対し、2機運用を想定したものとなり、実際にソマリア派遣等の際には2機運用が実施されています。

(艦尾部のヘリコプター発着甲板と大型化したヘリハンガー)

Great Gameにおける第5護衛隊群、「むらさめ」艦長

Great Game時点で第5護衛隊群に所属していた汎用護衛艦「むらさめ」艦長は柊二佐が務めていました。

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多機能護衛艦「くまの」(FFM-2 :「もがみ級」)

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(多機能護衛艦「くまの」の概観:95mm in 1:1250 by FSpace RPG:3Dprinting model)

「くまの」は「もがみ級」多機能護衛艦の2番艦です。

それまでの海上自衛隊護衛艦に見られたシステム化と高性能化に伴う大型化の傾向と一線を画し、任務の多様化を踏まえた多機能化とコンパクト化を両立した設計となっています。それを反映して艦分類記号もDD(駆逐艦)よりは小型のイメージを持つFF(フリゲート)に”Multi-purpose"の頭文字のMを加えたFFMとされています。

ちなみにこれまで海上自衛隊フリゲートという呼称で艦種分類記号が付与されたのは、その草創期の米海軍からの貸与艦「くす級護衛艦」(1950−60年代)以来です。

3900トン級の船体にCODAG方式の機関を搭載し、30ノットの速力を発揮することができます。曝露部の通路を廃止した設計の傾斜平面を多用した船体せっけいに加え、艦橋部とその上部に設置された複合空中線およびその下部のセンサーが概観上、これまでの海上自衛隊護衛艦とは大きな差異を示しています。f:id:fw688i:20230430135222p:image

(多機能護衛艦「くまの」の細部:左上:同級の大きな概観的な特徴となっている環境庁部に設置された複合空中線 /右上:5インチ砲、魚雷発射管室ドア:Mk 41VLS:計画ではこのVLSに垂直発射型の魚雷投射ロケットを搭載することになっているようです(未実装?)/左下:17式対艦ミサイルのランチャー/右下:哨戒ヘリのハンガーと発着甲板。ヘリハンガー上にSeeRAM近接防空ミサイルシステムを搭載しています)

兵装等は対空戦闘にはSeeRAM近接防空ミサイルシステムを搭載し、大水上戦闘には5インチ砲、遠隔操作型の50口径機銃架を備えています。対艦兵器としては17式艦対艦誘導弾の4連装発射筒を2基搭載しています。艦種部には16セルのMk.41 VLSを設置する設計になっていますが、ここから発射される垂直発射式魚雷投射ロケット(現時点では計画のみ?)と舷側に装備された三連装魚雷発射管が対戦装備ということになります。

同級の多機能対応を象徴するのが機雷戦装備で、簡易型の機雷敷設装備を搭載し、機雷敷設任務にも対応でき、かつ水陸両用戦に対応すべく対機雷戦ソナーシステムを搭載し、無人機による機雷捜索や機雷除去の装備を搭載しています。

併せて艦尾部にはヘリハンガーを設置し、哨戒ヘリ1機を搭載しています。

Great Gameにおける第5護衛隊群、「くまの」艦長

Great Game時点での多目的護衛艦「くまの」は、大竹二佐が艦長を務めていました。

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AIP潜水艦「おうりゅう」(SS-511:「そうりゅう級」)

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(AIP潜水艦「おうりゅう」の概観:56mm in 1:1250 by F-toys)

海上自衛隊では1950年代以降、通常動力潜水艦(非原子力潜水艦というほどの意味です)の水中持続性を高める推進システムとしてAIP(非大気依存推進:Air-Independent Propulsion) の研究を進めてきました。

AIPの詳述は例によって他の優れた解説にお任せしたいと思いますが、「はるしお級」潜水艦7番艦「あさしお」での試験運用の実績を経て、本級の建造に至り、スターリング式AIPの実装が行われました。

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11番艦以降では、リチウムイオン電池の導入により、さらに水中持続性の向上を目指すと言われています。

(PitRoad 1:700 海上自衛隊潜水艦史「そうりゅう」級(2009)120mm in 1:700 :スケール違いですが)

機関以外の部分は、基本的に前級「おやしお」級の発展形で、システムのアップグレード、効率化などが図られより高性能な潜水艦に仕上がっています。X字型の艦尾舵を採用し、水中での運動性を高めています。

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(「そうりゅう級」の艦首部の魚雷発射管(上段)とX字型の艦尾舵)

一方で、全長11メートルに及ぶスタリング式AIPユニットを「おやしお」級よりも2メートルだけ長い艦体に搭載したため、居住スペースは大きな圧迫を受けています。

 武装は「おやしお」級に準じ、艦首の6門の魚雷発射管から、魚雷と対艦ミサイル「ハープーン」を発射できます。

Great Gameにおける第5護衛隊群、「おうりゅう」艦長

Great Game時点でのAIP潜水艦「おうりゅう」は、菊池一佐が艦長を務めていました。

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ということで、これらの艦船で編成された第5護衛隊群が宗谷岬沖で無人機の攻撃を受けた非武装海上自衛隊海洋観測船「しょうなん」の救出に出撃してゆくのです。さあ、これからどうなるんだろう。(4巻途中、というのはそういうことなんです。早く読まなきゃ)

今回はこの辺りで。

 

さて次回は・・・。この連休はちょっと何かと立て込んでいて、何ができるか考えてみましょう。この続きで、いわゆる敵性艦船の話もいくつかできるかも。

もちろん、もし「こんな企画できるか?」のようなアイディアがあれば、是非、お知らせください。

 

併せて模型に関するご質問等は、いつでも大歓迎です。

特に「if艦」のアイディアなど、大歓迎です。作れるかどうかは保証しませんが。併せて「if艦」については、皆さんのストーリー案などお聞かせいただくと、もしかすると関連する艦船模型なども交えてご紹介できるかも。

もちろん本稿でとりあげた艦船模型以外のことでも、大歓迎です。

お気軽にお問い合わせ、修正情報、追加情報などお知らせください。

 

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再掲:宝箱のようなフランス海軍:弩級戦艦登場以前のフランス海軍主力艦の系譜  そしてピカード 最終回

前回に引き続き、お仕事でちょっとバタバタ。

前回は本稿で一番人気(と言ってもこんなテーマなので、どれだけの意味があるかどうかわかりませんが)の「護衛艦いそかぜ」その三形態」を再掲させていただきましたが、今回は筆者のわがまま反映ということで、大好きなフランス海軍の前弩級戦艦のお話を再掲します。

実はこの「宝箱のようなフランス海軍」はミニシリーズになっていて、今回は前弩級戦艦を再掲させていただきますが、他にも系統的にご紹介していますので、興味のある方は下記のリンクを眺めてみてください。

 

「宝箱のようなフランス海軍」ミニ・シリーズ

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・・・と本論の前に、やっぱり今週の「ピカード 」:ついに、最終回!

***(ネタバレがあるかも。嫌な人の自己責任撤退ラインはここ:ネタバレ回避したい人は、次の青い大文字見出しに「engage!」)***

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まあ、これしかないか、という大団円!

ファンとしては、これ以上はない結末です。しかし「これでは、君達、Final Seasonとは言えないぞ」という「期待」も持たせてもらいました。

音楽も良くも悪くも「ああ、だからこのテーマだったのね」と。(Youtubeでお楽しみ下さい)

www.youtube.com

はっきり言ってもっと「苦い結末」を予想していたので、「ああ、よかったなあ」と思い「まあ、これしかないよな」という結末でもありました。

最終シーンは、びっくりでしたが。

反面、あまりにでき過ぎた結末、ファン以外はどう受け止めるんだろうなあ、と思いながら、筆者的には大満足、でも、最終シーンがなかったら期待以上ではなかった(ちょっと辛口ですが)。

でき過ぎた話、特に木星のBorg船が接近しつつあるEnterprise-Dを認識しながら、なぜ照準を外したのか、何を誘ったのか、それがBorgのピカード への憎悪、復讐として行われたのならば、連邦は、その理念は一見崇高に見えて、本当に罪深い存在だということです。可変種にせよBorgにせよ、連邦に敵対した種族、連邦が異物と見做した存在は、悉く深い恨みに取り憑かれるほどの扱いを受けているのです。それはこれまでのスタートレックシリーズとは異なり、このピカード のシリーズが一貫して伝えてきた普遍的だと信じる価値観に内在する「脆さ、危うさ」であるように思うのです。(やはり、後、何度か見なきゃ)

 

結局、このストーリーを支え続けたTitanはEnterprise-Gに名前まで変えられてしまうし、やっぱりショーの扱いが少しひどんじゃないかと、そんなことも感じました。ここまでの結末を用意するんなら、ショーを死なせる必要はないんじゃないかな。トゥヴォクは生きてたし。それにしてもEnterprise-Gの艦長セブンは何と言ったんだろう。やっぱり「Engage!」ですかね。

ウォーフは登場するシーン毎に意表をついてくれました。居眠りすら魅力的。最後にはハグまで自分で求めるとは。データは、「新しいデータという存在は」というべきでしょうか、きっとこれからの「生」を楽しんでゆくのでしょう。一方で「馴染みのデータ」の魂は安らかであることを祈っています。

 

そしてあの最終シーンは、当然、これからJackの新たなシリーズが始まる、ということなんでしょうね。

さらに、やはりピカード のシーズン4も作らなきゃね。なんと言ってもジュラティの話は積み残したままですよね。しかもフル・メンバーが揃ってしまった。さらにEnterprise-Dはたった7人の乗員で、Borg船に対抗できる程度までは動かせることもわかったし、しかも現役ではないので好きな時にいつでも使えることもわかったので、どんな話も作れるような気もします。

もう一つ、皆さん、ビバリーと幸せそうなジャン・リュックではありますが、それはそれでわかるけど、忘れてませんか、この人のことはどうするんだ?ラリスは、どこかで待ってるんじゃなかったっけ?

確かにビバリーを助ける旅だということは理解してくれているとは思うけど、この辺りから連邦の「罪深さ」は始まってるんじゃないかい?

 

ともあれ、終わっちゃった! 来週から金曜日、何しようか。

 

ということで、ここから本論:「宝箱のようなフランス海軍:弩級戦艦登場以前の・・・」の始まりです

本稿、前回はドイツ帝国海軍の第一次世界大戦期の装甲巡洋艦のご紹介を、コレクションモデルのヴァージョン・アップのお話を交えてご紹介しましたが、「そもそも装甲巡洋艦とは」というくだりで、「その始祖は実はフランス海軍」というようなお話をしました。

(・・・とちょっとつながりのわかりにくい書き初めになっていますが、脈絡が気になる方は下の回をご覧ください。これがその「前回」です)

fw688i.hatenablog.com

少しそのまま引用すると・・・・。

「少し意外に聞こえるかもしれませんが、この艦種の家元はフランス海軍であると考えています。世界初の装甲巡洋艦デピュイ・ド・ローム同型艦なし)」を1895年に就役させています。

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(1895: 6,676t 19.7knot, 7.6in *2 + 6.4in *6 92mm in 1:1250, WTJ:明細は筆者のオリジナルなので、気にしないでください)

フランス海軍は、速射砲の性能向上に伴う戦闘艦の攻撃力の格段の強化に伴い、これに対抗し船団護衛、もしくは通商破壊戦の展開をその主任務とする巡洋艦(当時は防護巡洋艦が全盛)に、近接戦闘での戦闘能力を喪失し難い能力を与えるべく、舷側装甲を追加しました。こうして「装甲巡洋艦」という艦種が生まれたわけです。

19.4センチ速射砲2基と16.3センチ速射砲8基を装備し、19.7ノットの速力を出すことができました。性能もさることながら、そのデザインの何と優美な事か。」

 

まあ、こんな感じでドイツ帝国海軍の装甲巡洋艦のお話にも関わらず、冒頭、フランス海軍の装甲巡洋艦のご紹介で始めていたわけです。

そんなわけで、ここらで再度、フランス海軍の主力艦の開発系譜などご紹介しておく良い折り合いかな、と思い、今回はそういうお話をしたいと思います。

全部一気に、というのは少し荷が重いので、今回は行けるところまで、という感じで進めますが、筆者のフランス海軍艦艇への関心は特に「弩級戦艦」の登場以前、に集中していますので、今回はその辺りまでなんとか行きたいな、そう思っています。

今回はそういうお話。

(上述のように、再録、的な回ですので(かなり文章は変わると思いますが)、もし出し惜しみせず全部行こうぜ、という方は下記をご覧ください)

fw688i.hatenadiary.jp

 

「宝箱のようなフランス海軍」

弩級戦艦登場以前のフランス海軍の主力艦開発の「迷走」

フランス海軍は、ご承知のように元々は英国と並ぶ海軍の老舗で、近代戦艦(いわゆる後に前弩級戦艦、準弩級戦艦と分類されるわけですが)全盛の時期にも実に多くの設計を世に送り出しています。その形式は12形式に及びますが、建造された近代戦艦(前弩級戦艦・準弩級戦艦)の総数は23隻にすぎません。つまり多くが同型艦を持たぬ、いわば試行錯誤的な艦艇、あるいはタイプシップの改良型であったと言ってもいいかもしれません。

背景には「新生学派」(ジューヌ・エコール)と呼ばれる、ある意味では、いかにも議論の国フランスらしい、「大艦巨砲主義」の対局をゆく海軍戦略を主導しようとする一派の海軍首脳部での台頭がありました。彼らの主導する海軍中枢により、戦艦建造への疑問符から生じる予算制約、建造条件の設定など、いわば戦艦設計における迷走期が長く続いたわけです。

確かにこの時期は、蒸気装甲艦の出現後、初めて日清、日露での実戦が行われ、多くの戦略的、戦術的データがあらわれた時期でもありましたので、その中で多くの仮説が現れ、それに国民的な体質が重なり(本当かな?)、このような現象が発生する必然があったと言えるかもしれません(この時期、史上初と言ってもいい蒸気装甲艦同士の海戦が「日清戦争」で行われ、そこで現れた装甲艦の浮沈性、にも関わらず、大口径砲は命中せず、勝敗は中口径の速射砲が決定した、というような海戦から現れた諸相を見れば、戦艦の存在そのものに疑問符がもたれても、ある意味仕方がない、ということかもしれないと、筆者も感じています)

が、経緯はどうあれ、日本海軍が日清・日露で実戦で体感し実証し、その後、ドイツやイギリス、日本などが、同一口径の戦艦の集中的な運用による艦隊決戦の思想に至り、果ては「弩級戦艦」に行き着く艦艇開発を進めた時期に、フランス海軍で生起したこの議論と試作(あえてこの段落のサブタイトルでは「迷走」と言い切りました)は、フランス海軍を世界の二大海軍の座から脱落させた要因の一つと言っていいように考えています。

 

一方で、このことは艦艇設計的には長い期間、競争試作的な時期が続いたということでもあるわけで、その設計は常にユニークで、例えば他国に先駆けた副砲の砲塔化、あるいは四連装砲塔の実現など、その技術的な発展には見るべきものが多い時期でもあった、と考えています。

 

これらのことを艦船模型的な視点でまとめると、実に多くの試作品がカタログに盛り込まれた「宝箱のような海軍」で、筆者のモデルコレクターの魂を強く揺さぶるのです。

例えば、1891年から就役したシャルル・マルテル準級(準級:聞き慣れませんが、緩やかなグループ、というような意味ですよね、きっと)には5隻の戦艦が属しているとされているのですが、発注時に排水量・備砲・速力などは一定の基準を設けられたものの、デザイナーも造船所も異なり、まさに「競争試作」が、なんと「戦艦」で実際に行われた、というようなことが見て取れるわけです。

既にほぼ同時期に、永年の仮想敵であったイギリス海軍は、同型艦を多数揃え、戦隊での統一指揮下における戦闘運用を構想するという主力艦艦隊(戦隊)の設計思想を確立していました。ドイツ帝国艦隊もこれに追随し、その果てにいずれは「ドレッドノート」という革命的な艦の設計と、その後の両海軍を中心とした大建艦競争が待っているわけですが、そうした統一構想を持たない(むしろ背を向けた?)フランス艦隊を、イギリス海軍は「サンプル艦隊」と揶揄していました。

しかし、まさにこの「サンプル」感覚から、これからご紹介する興味深い、そして優美な(筆者にとっては!?)艦船群が生み出されたということには、本当に感謝したいのです。

 

重ねて感謝

下のリンク、フランス海軍の艦船開発史について、大変興味深くまとめていらっしゃいます。

上記の整理についても、大変参考にさせて頂きました。紹介させて頂きます。

フランス艦艇に興味のある方、必読です。

軍艦たちのベル・エポック(前編)

軍艦たちのベル・エポック(後編)

 

近代戦艦:前弩級戦艦 

フランス海軍は「1890年計画」で、主力艦24隻配備を目標に向こう10年間に10隻の主力艦を建造することを目標として掲げます。以下にご紹介する一連の主力艦はこの計画に沿ったものなのです。(実は最初の「ブレニュス」は少し微妙です。起工は1889年ですので、「1890年計画」以前なのですが、後述のように軍政サイドのゴタゴタで工事が中断し、中断期間中に開発された技術などを取り込んで建造が再開されていますので、この1隻に数えるべきかどうか・・・)

戦艦「ブレニュス」(1895年就役)

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(1891-, 11,190t, 18knot, 340mm *2*1+340mm*1*1)

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(戦艦「ブレニュス」の概観 :97mm in 1:1250 by WTJ )

 同艦は上述のフランス海軍の「新生学派」主導時代(ジュール・エコール)における、最初の戦艦 です。

建造の経緯は少し複雑で、元々は前級「マルソー級」(装甲艦?いずれ改めてご紹介)の4番艦として予算確保されましたが、軍政面でのゴタゴタ(海軍大臣の交代等)で一旦建造中止となり、再度の大臣交代に伴い、全く新しい設計で新造されました。f:id:fw688i:20220529095347p:image

(戦艦「ブレニュス」の砲兵装の配置:艦首部の34センチ連装砲塔(上段)、艦中央部の16センチ単装速射砲。中央砲郭の名残的な配置ですが、一部は単装砲塔?(中断)、艦尾部の単装34センチ砲塔)

34センチ砲を主砲とし、前部に連装砲塔、後部に単装砲塔の形で搭載していました。全周装甲の連装砲塔や、16センチ速射砲を単装砲塔形式で登載、あるいは新型のボイラー採用等、新機軸を多数盛り込んだ意欲的な設計でした。当時の戦艦としては18ノットの高速を発揮することができました。

 

「シャルル・マルテル準級」戦艦(1893年から就役:準同型艦5隻)

大鑑巨砲に懐疑的な「新生学派」支配下のフランス海軍は、次世代の主力艦に明確な構想を見出すことができませんでした。しかし一方で仮想敵である英海軍の海軍軍備整備は進んでおり、主として英海軍への対抗上、建艦計画をスタートさせることとなりました。その辺りの紆余曲折は上記の「ブレニュス」の建造の経緯にも現れているのですが、それとほぼ平行して、シャルル・マルテル準級が建造されることとなりました。これは、設計の基本スペックを規定し、すなわち排水量(11,500t ±)、搭載砲(30.5cm * 2+27cm *2)、速力(17.5 knot ±)などのスペックを与え、設計者・造船所により一種の競争試作を行わせる、というようなものでした。

この競争試作の結果、「シャルル・マルテル」「カルノー」「ジョーレギベリ」「マッセナ」「ブーヴェ」の5隻が建造されました。いずれも主兵装を菱形配置とし、30.5センチ砲2門を艦の前後に、27センチ砲2門を艦の左右に単装砲等で登載しています。

 (「シャルル・マルテル準級」の5隻:「シャルル・マルテル(左上段)」「カーノウ(左下段)」「マッセナ(右上段)」「ブーヴェ(右中段)」「ジョーレギベリ(右下段)」 注:それぞれの塗装は筆者のオリジナル塗装です。この様な迷彩(?)塗装の記録はありません。「ふざけるな!」<<<お叱りごもっともです。ご容赦ください)

 

戦艦「シャルル・マルテル」(1897年就役)

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(1897, 11,639t, 18knot, 30.5cm *1*2+ 27cm *1*2 )  

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(「シャルル・マルテル」の概観:94mm in 1:1250 by WTJ:War Time Jornal)

同艦は「「準級」計画の一環として建造され、ブレスト海軍造船所が建造にあたりました。美しいタンブルホーム型船体を有しています。

艦首部、艦尾部に主砲である30.5センチ砲を単装砲塔で装備し、両舷側に中間砲である27センチ砲をこれも単装砲塔形式で装備していました。併せて14センチ副砲も全て単装砲塔形式で搭載され、広い射界を与えられていました。f:id:fw688i:20220529100716p:image

(「シャルル・マルテル」の砲兵装配置:艦首部から30.5センチ単装主砲塔と両脇の14センチ単装速射砲(上段)、艦中央部の27センチ単装中間砲とその周辺の14センチ単装速射砲、さらに艦尾部の30.5センチ単装主砲塔と周辺の14センチ単装速射砲(下段):「準級」の標準的な砲兵装配置、と言っていいでしょう)

この搭載形式。配置により艦首尾方向に30.5センチ砲1門、27センチ砲2門、14センチ砲4門が、舷側方向には30.5センチ砲2門、27センチ砲1門、14センチ砲4門が、それぞれ指向でき、強力な火力を有していました。

 

戦艦「カルノー」(1897年就役)

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(1897, 11,954t, 17.8knot, 30.5cm *1*2+ 27cm *1*2)  

f:id:fw688i:20220529100515p:image
(「カルノー」の概観:94mm in 1:1250 by WTJ:War Time Jornal)

同艦はトゥーロン海軍造船所が「準級」計画の一環として建造しました。

「シャルル・マルテル」同様、タンブルホーム型の船体を有し、主砲・中間砲・副砲の搭載形式もほぼ同等で、艦首尾、舷側それぞれの方向に強力な火力を指向することができました。f:id:fw688i:20220529100523p:image

(「カルノー」の砲兵装配置:搭載砲とその配置は上掲の「シャルル・マルテル」に準じた配置になっています。艦首部から30.5センチ単装主砲塔と両脇の14センチ単装速射砲(上段)、艦中央部の27センチ単装中間砲とその周辺の14センチ単装速射砲、さらに艦尾部の30.5センチ単装主砲塔と周辺の14センチ単装速射砲(下段))

同艦が属するこの「準級」計画は 1890年海軍計画の一部で、10年間で10隻の新造戦艦を建造する、という計画の一部でした。「準級」計画の特徴は同じ基本スペックに対する競争試作を行うとするもので、様々な創意を具現化し個艦の性能向上を目指す効果を促進する一方で、同時期に英独海軍が推進していたような同型艦を量産し統制された戦隊行動により強大な破壊力を創出する、というような戦術的な運用に対しては、適性が高いとは言えないものでした。

 

戦艦「ジョーレギベリ」(1897年就役)

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(1897, 11,818t, 17knot, 30.5cm *1*2 + 27cm *1*2 )  

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(「ジョーレギベリ」の概観:89mm in 1:1250 by WTJ:War Time Jornal)

同艦の設計者はアントワーヌ・ジャン・アマブル・ラガヌで、ラ・セーヌ造船所で建造されました。設計者のラガヌは、本艦の設計以前にフランス戦艦「マルソー」(菱形主砲配置の先駆的存在)、やスペイン戦艦「ペラーヨ」を手がけたベテランで、この後、馴染みのあるロシア太平洋艦隊旗艦の「ツェザレヴィッチ」の設計を手がけることになります。

本艦のみ副砲を連装砲塔で装備しています。連装の副砲は前部艦橋と後部艦橋のそれぞれ脇の上甲板状に配置され、広い射界を与えられ、主砲・中間砲の菱形配置と併せて、艦首尾方向、舷側方向それぞれに強力な火力を指向することができる設計でした。f:id:fw688i:20220529101040p:image

(「ジョーレギベリ」の砲兵装配置:同艦のみ副砲は連装砲塔形式で搭載されていました:艦首部から30.5センチ単装主砲塔と両脇の14センチ連装速射砲塔(上段)、艦中央部の27センチ単装中間砲、さらに艦尾部の30.5センチ単装主砲塔と周辺の14センチ連装速射砲塔(下段))

この副砲の連装砲塔での搭載は、のちにロシア海軍向けに設計された「ツェザレヴィッチ」やこれをタイプシップとする「ボロディノ」級戦艦などにも影響を与えたと言っていいでしょう。

 

戦艦「マッセナ」(1898年就役)

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(1896, 11,735t, 17knot, 30.5cm *1*2 + 27cm *1*2 )  

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(「マッセナの概観:94mm in 1:1250 by WTJ:War Time Jornal)

同艦の設計者はルイス・マリー・アンヌ・ド・ビュシィで、世界初の装甲巡洋艦である「デュピュイ・ド・ローム」の設計者として有名です。ロアール造船所で建造されました。「デュピュイ・ド・ローム」との共通点が多く見られ、世界初の3軸推進の戦艦となりました。

主砲・中間砲・副砲などの搭載形式は「準級」の他艦と同様で強力な火力を周囲に向けることが可能でしたが、完成後は、設計に対し重量超過となり、肝心の装甲帯が水中に没し防御力に課題があることが判明しました。また、極端なタンブルホーム形状から、安定性に問題があったとされています。

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(「マッセナ」の砲兵装配置:搭載砲とその配置は上掲の「シャルル・マルテル」に準じた配置になっています。艦首部から30.5センチ単装主砲塔と両脇の14センチ単装速射砲(上段)、艦中央部の27センチ単装中間砲とその周辺の14センチ単装速射砲、さらに艦尾部の30.5センチ単装主砲塔と周辺の14センチ単装速射砲(下段):極端なタンブルホーム形式の船体を採用していることがよく分かります。意欲的なことは伝わってきますが、課題の多さもなんとなく予見できますね)

筆者としてはこの「極端なタンブルホーム」というのが大のお気に入りで、この「準級」の中では一番だったので、少しこれらの課題があることは残念です。もう一つ、確かにここまで艦型が多感と異なると戦隊としての行動は運動特性から難しそうですよね。

(下の二点の写真は多くの共通点があるとされる世界初の装甲巡洋艦「デュピュイ・ド・ローム」の概観:再掲と両艦の概観比較)

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戦艦「ブーヴェ」(1898年就役)

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(1898, 12,007t, 18knot, 30.5cm*1*2 + 27cm *1*2)

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(「ブーヴェ」の概観:96mm in 1:1250 by WTJ:War Time Jornal)

同艦は「準級」最終艦としてロリアン造船所で建造されました。

砲装備の配置などは、「準級」の他艦と同様で、全周に対し強力な火力を指向することができました。

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(「ブーヴェ」の砲兵装配置:搭載砲とその配置は上掲の「シャルル・マルテルに準じた配置になっています。艦首部から30.5センチ単装主砲塔と両脇の14センチ単装速射砲(上段)、艦中央部の27センチ単装中間砲とその周辺の14センチ単装速射砲、さらに艦尾部の30.5センチ単装主砲塔と周辺の14センチ単装速射砲(下段):同艦の絞り込みの強いタンブルホーム形式の船体の特徴がよくわかるのでは)

寸法、排水量とも同準級の他艦を少し上回るサイズとなりましたが、最新式のハーヴェイ・ニッケル鋼を装甲に用いるなど、同準級の中では最もバランスの取れた艦となったとされています。同艦も「マッセナ」同様、三軸推進でした。

第一次世界大戦ではガリポリの戦いで触雷し、「準級」の中で唯一の戦没艦となりました。

 

シャルルマーニュ級」戦艦(1899年から就役:同型艦3隻)

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(1899-, 11275t, 18knot, 30.5cm *2*2, 3 ships)

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(「シャルルマーニュ級」戦艦の概観:94mm in 1:1250 by WTJ:War Time Jornal)

「シャルル・マルテル準級」でフランス海軍が主力艦のあるべき姿を瞑想(迷走?)している間に、英海軍は近代戦艦の標準を見い出し、同型艦のセットを揃えてこれを戦隊で運用するという構想を実現しようとしていました。この「量産=同型艦の建造」には、同一口径の巨砲を数多く揃え、これらを統一指揮する戦術運動への指向も併せ持っていたわけです。

ところがフランス海軍ではこれまで見てきたように、いわゆる「サンプル艦隊」としてスペックの共通性はあったものの、個艦の性能向上への指向が設計に色濃く現れており、運動性の統一、戦隊としての運用等には大きく出遅れていることに気付かざるを得なかったわけです。

英海軍に続きドイツ帝国海軍もこれに追随する動きを見せ、これらに対応するために、フランス海軍が建造したのが、「シャルルマーニュ級」からその改良型である「イエナ」「シュフラン」に至る戦艦群でした。

シャルルマーニュ級」ではそれまでフランス戦艦の標準的な搭載砲であった主砲・中間砲・副砲の三種混載を改めて、中間砲を廃止し主砲を連装砲塔2基で艦首・艦尾に配置しています。「シャルル・マルテル準級」では標準化していた感のあった副砲の搭載形式も砲塔から軽量化が可能なケースメイト方式に改め、連装主砲塔2基の搭載による重量増に対応した形としました。

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(「シャルルマーニュ級」戦艦の砲兵装配置:艦首部から30.5センチ連装主砲塔、重量軽減のためにケースメイト形式で搭載された副砲群が艦中央部に続き(上段)、艦尾部の連装主砲塔へと続きます:実験的な要素は影を潜め、標準化(=量産?)を意識した手堅い設計を目指したことが伝わるような・・・)

第一次世界大戦時には既に弩級戦艦の時代を迎えていたため、同級は二線級戦力として後方支援にあたりました。ガリポリの戦いに参加し、同級の「ゴーロア」は陸上からの砲撃を受け損傷しています。

 

戦艦「イエナ」(1902年就役)

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(1902-, 11688t, 18knot, 30.5cm*2*2)

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(戦艦「イエナ」の概観:100mm in 1:1250 by Hai)

WTJ(War Time Journal)製のモデルを入手したので、そちらもこの機会に紹介しておきます。

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(戦艦「イエナ」の概観:98mm in 1:1250 by WTJ;War Time Journal:下の写真はWTJ版「イエナ」のディテイル拡大:迷彩塗装は例によって筆者の創作ですのでご注意を)

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同艦は前級「シャルルマーニュ級」の改良型として1隻建造されました。次級「シュフラン」と併せて、5隻で準同級を構成していると言って良いと思います。前級からの改良点は、副砲を14センチ速射砲から16.4センチ速射砲に強化し、装甲の強化を併せておこなっています。

1907年に当時の火薬の不具合から弾薬庫の爆発事故を起こし、多数の死傷者を出し、以降は標的艦とされました。

 

戦艦「シュフラン」(1904年就役)

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(1904-, 12432t, 17knot, 12in *2*2 )

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(戦艦「シュフラン」の概観:99mm in 1:1250 by WTJ:War Time Jornal)

同艦は前出の「イエナ」同様、「シャルルマーニュ級」の改良型として一隻のみ建造されました。「イエナ」で副砲に採用された16.4センチ速射砲を単装砲塔形式で搭載し、広い射界を確保しています。

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(「シュフラン」の砲兵装配置:艦首部から30.5センチ連装主砲塔、副砲を16.4センチ速射砲として、「イエナ」ではこれをタイプシップの「シャルルマーニュ級」同様メースメイト方式で搭載していましたが、「シュフラン」では単装砲塔形式とケースメイト形式の混載として、射界を広くとる工夫が)

第一次世界大戦では主としてトルコ戦線方面で前弩級戦艦を中心に構成された戦艦戦隊の旗艦を務め活動しましたが、修理のための回航中にドイツUボートの雷撃を受け、弾薬庫が誘爆し轟沈しています。

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(上の写真は「シュフラン」とタイプシップである「シャルルマーニュ級」の比較:艦型はやや大型に(上段:上が「シュフラン」)。中段と下段では副砲搭載形式の比較(下段が「シュフラン」の副砲搭載:単装砲塔とケースメイトの混載):下の写真は「シャルルマーニュ級」(一番手前)とその改良型である「イエナ」「シュフラン」)

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「レピュブリク級」戦艦(1906年から就役:同型艦2隻)

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(1906-, 14605t, 19knot, 30.5cmi*2*2, 2 ships)

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(「レピュブリク級」戦艦の概観:103mm in 1:1250 by Navis)

同級以前のフランス戦艦には、排水量に制限がかけられていました(これも「新生学派」影響?)。本級ではそれが撤廃され、一気に艦型が大型化されています。設計は日本でも「三景艦」で馴染みのある、エミール・ベルタンで、これまでの戦艦とは異なる外観となり、航洋性が改善されました。連装砲塔に収められた主砲は従来と同様ですが、副砲は従来同様16.4センチ速射砲を採用し、これを連装砲塔6基、単装砲6基、計18門と大幅に装備量を強化しています。

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(「レピュブリク級」の砲兵装配置:艦首・艦尾に30.5センチ連装主砲塔を搭載、副砲を16.4センチ速射砲として、連装砲塔とケースメイトの混載で18門と格段に強化しています)

船体の大型化に伴い機関出力をあげ19ノットを越える速力を発揮することができました。

こうして一段階レベルアップした感のあるフランス近代戦艦が誕生したのですが、就役時には、すでに英海軍のドレッドノートが就役しており、いわゆる生まれながらにして旧式新造艦のラベルを貼られることとなってしまいました。

 

強化型近代戦艦:準弩級戦艦 

リベルテ級」戦艦(1908年から就役:同型艦4隻)

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(1908-, 14860t, 19knot, 30.5cm *2*2 & 19.4cm*1*10, 4 ships )

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(「リベルテ級」戦艦の概観:103mm in 1:1250 by Navis)

同級は1900年計画で建造が認められた6隻の戦艦(フランス海軍では艦隊装甲艦)の第二陣です。第一陣は前出の「レピュブリク級」の2隻で、第二陣である同級は4隻が建造されました。

同級は前級「レピュブリク級」の改良型で、基本設計は前級のものを踏襲し、副砲を装甲巡洋艦の主砲並みの19.4センチ速射砲として、これを単装砲で10基、搭載していました。うち6基は単装砲塔形式で搭載され、広い射界が確保される設計でした。f:id:fw688i:20220529105427p:image

(「リベルタ級」の砲兵装配置:艦首・艦尾に30.5センチ連装主砲塔を搭載、副砲を19.4センチ速射砲として、単装砲塔とケースメイトの混載としています)

こうして大幅な火力強化を狙った同級でしたが、前級同様、就役時には、すでにドレッドノートが就役しており、いわゆる旧式新造艦のラベルをはられる結果となりました。

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(上の写真は「レピュブリク級」と「リベルタ級」の比較:「リベルタ級」は「レピュブリク級」の副砲強化改良型として設計されましたので、基本的な艦型、配置等は同一です(上段):中段、下段では「レピュブリク級」(下段)と「リベルタ級」の最大の差異である副砲の比較:いずれも単装砲塔とケースメイトの混でした)

 

「ダントン級」戦艦(1911年から就役:同型艦6隻)

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(1911-, 18754t 19knot, 30.5cm*2*2 & 24cm *2*6, 6 ships)

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(「ダントン級」戦艦の概観:113mm in 1:1250 by Navis)

前級からさらに艦体を大型化し、副砲口径を前級の19.4センチから、24センチにさらに強化しています。この副砲を連装砲塔6基に収め、広い射界を確保し、火力を強化した設計でした。機関出力をさらに上げ、19ノットを越える速力を発揮することができました。f:id:fw688i:20220529110340p:image

(「ダントン級」の砲兵装配置:艦首・艦尾に30.5センチ連装主砲塔を搭載、副砲を24センチ速射砲として、連装砲塔で6基搭載しています。さらに舷側上甲板直下には、水雷艇対策として7.5センチ速射砲を片舷12門を装備しているのが分かります)

この砲配置により、艦首尾方向には30.5センチ砲2門と24センチ砲8門、舷側方向には30.5センチ砲4門と24センチ砲6門を指向させることができました。

本級も就役時には、イギリスはもちろん、ドイツ、アメリカも弩級戦艦を次々に就役させており、旧式新造艦 として就役せざるを得ませんでした。

第一次世界大戦ではネームシップの「ダントン」が1917年に地中海でドイツUボートの雷撃を受けて失われました。

 

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(上の写真は、フランス海軍の前弩級戦艦と準弩級戦艦の発展を追ったもの:下から最初の前弩級戦艦「ブレニュス」『シャルル・マルテル準級」の代表として「マッセナ」、「シャルルマーニュ球」、「シュフラン」、準弩級戦艦リベルテ級」、「ダントン級」の順:「リベルテ級」はフランス海軍最後の前弩級戦艦である「レピュブリク級」とほぼ同型ですので、「レピュブリク級」以降の艦級で、飛躍的に大型化したことがよく分かります)

 

付録:さらに魅力的な「泥沼」:前弩級戦艦 以前の模索期の装甲艦・海防戦艦(・・・少しだけ)

これまでフランス海軍の前弩級戦艦・準弩級戦艦の開発系譜を見ながら、同海軍の「迷走」に伴う艦級のヴァリエーションを見てきたのですが、実は前弩級戦艦以前にも、同海軍は多様な海防戦艦、艦隊装甲艦(実はフランス海軍には「戦艦」という艦種名称はありません。全て「艦隊装甲艦」と称されています。本稿ではあえて「戦艦」という一般的な総称を使ってきましたが、ここでは「戦艦」と言わないほうがしっくりくるかも。気分的には「いわゆる戦艦とは違う、それ以前のもの」というほどの意味です)を建造しています。とてもこれを体系的にコレクションするところまでは手が回っていないのですが(経済的にも、収集の手段的にも)、いくつか手元のものをご紹介しておきます。

 

装甲艦「オッシュ」(1891年就役)

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(1891-, 6,224t, 16knot, 34cm*1*2+27cm *1*2 )

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(装甲艦「オッシュ」の概観:83mm in 1:1250 by Mercator)

同艦は沿岸防備目的で1隻だけ建造された装甲艦です。海防戦艦と言ってもいいかも。

極めて低い乾舷とその上の大きな上部構造物から安定性に欠くことが容易に想像され、内外から嘲笑の的となった、そんなエピソードがある、ある意味「有名」な艦です。

主砲(34センチ)、中間砲(27センチ)、副砲(14センチ)という後に一時期のフランス戦艦の標準的な搭載砲の構成を見ることができます。f:id:fw688i:20220529104403p:image

(「オッシュ」の砲配置:艦首・艦尾に30,5センチ主砲(上段:下段)、艦中央部両舷に27センチ中間砲が配置されていました)

確かに復原性には重大な課題がありそうで、見るからに沿岸向き、航洋性には課題がある、という形状ですが、それはそれで大変「味」があるデザインだなあ、と思ってしまうのですが、フランス艦船に甘い筆者の贔屓目でしょうか。

 

「ブヴィーヌ級」海防戦艦(1895年から就役:同型艦2隻)

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(1895-, 6,681t, 17knot, 30.5cm*1*2)

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(「ブヴィーヌ級」海防戦艦の概観:77mm in 1:1250 by Mercator)

同級は外洋での航洋性にも配慮した高い艦首を持つ海防戦艦の艦級です。45口径の長砲身を持つ30.5センチ砲を主砲として艦首、艦尾に1基づつ単装砲塔で搭載しています。f:id:fw688i:20220529104701p:image

(「ブヴィーヌ級」海防戦艦の主砲配置:艦首・艦尾に大きな30.5センチ主砲塔を装備していました)

上掲の「オッシュ」とは一味違った洗練されたデザインです(おっと、これも贔屓目か?)

 

他にもこの時期のフランス海軍の艦艇はなんとも言えない魅力があります。

上述しましたが、なかなかコレクションに加えるのが難しい。流通量が多くない、従ってオークションなどで見つけても取り合いで、結局高価で落札され、なかなか手が出ない、そんなこんなでなかなか「系譜」としてご紹介できるところへ至らない、というのが実情です。

でもまた何か動きが出た時に。

もちろん弩級戦艦以降の同海軍艦艇には、この回でご紹介した諸艦とは一味違った、「洗練性」とでもいうような味わいが感じられる(例えば4連装砲塔など)と筆者は思っているのですが、それはまた改めて。

(「再掲」はここまで)

 

その後、「宝箱のようなフランス海軍:装甲艦から前弩級戦艦の黎明期」というタイトルで、下記の回で前弩級戦艦以前のフランス海軍の主力艦についても系統的なまとめをしています。こちらも併せてお楽しみいただければ。

fw688i.hatenablog.com

 

というわけで、今回も「再掲」編集でお茶を濁させていただいた今回でした。

 

さて次回は、最近「空母いぶき:Great Game」を遅ればせながら読み始めたので、アップデートされた「第五護衛隊群」の艦船の話でもしようかな、と考えています。

 もちろん、もし「こんな企画できるか?」のようなアイディアがあれば、是非、お知らせください。

 

併せて模型に関するご質問等は、いつでも大歓迎です。

特に「if艦」のアイディアなど、大歓迎です。作れるかどうかは保証しませんが。併せて「if艦」については、皆さんのストーリー案などお聞かせいただくと、もしかすると関連する艦船模型なども交えてご紹介できるかも。

もちろん本稿でとりあげた艦船模型以外のことでも、大歓迎です。

お気軽にお問い合わせ、修正情報、追加情報などお知らせください。

 

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再掲:護衛艦「いそかぜ」その三形態 (「亡国のイージス」から「空母いぶき」へ):ピカード もいよいよ大詰め

今週と来週、ちょっとお仕事でバタバタ。そして溜まっていた模型の制作で、過去記事の再掲でご容赦を。

 

・・・と本論の前に、やっぱり今週の「ピカード 」を

ついに第9話です。

***(ネタバレがあるかも。嫌な人の自己責任撤退ラインはここ:ネタバレ回避したい人は、次の青い大文字見出しに「engage!」)***

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おお、さらに大展開。本当の敵は誰なんだ?

可変種とボーグが手を結んだのか?あるいは(こちらの方が大いにありそうな気がするのですが)ボーグさえも可変種は操るのでしょうか?

でも、ボーグ・クイーンって、彼女じゃなかったっけ? クイーンは何人もいるんだっけ?

言いたくないけど、これだけ壮大に膨れ上がった謎を、あとたった一話で閉じてしまうのか?

もう「?」満載です。

しかも「D」まで駆り出して。確かに艦隊にリンクしない唯一の「船」かもしれないけれど。その上、確か乗組員数1000人を超える船を、たった7人で運用できるんでしょうかね?やっぱりここでも「?」です。「D」の復活は嬉しいけど、これは反則では?

懐かしい仲間と懐かしい船、至ることに出てくる「家族」という言葉。ちょっと鼻につくなあ、と思ったのは筆者だけでしょうか?まあ、もういいのかもしれませんが、「スター・トレック」初心者の方には、このシリーズはお勧めできませんね。

そして、意味ありげに触れられた「E」の最後は、筆者は知らないのですが、今回の話の流れではウォーフが何やらやらかしたんでしょうか?(ああ、また「?」だ。でも「F」もちらっと出てきましたね)

「E」の最後、どこかにエピソードがあるのなら、多分筆者は見落としています。どなたかご存知なら、教えてください。

・・・・とまあ、色々とあり過ぎて、心が落ち着かない第9話でしたが、本当に次で終わるの?

と言うことで、次回、いよいよ最終回。今のところはシリーズもこれで終了とか。まずはどんな結末が用意されているのか、楽しみにすることにします。

 

というわけで、今回の本論に。

護衛艦いそかぜ」その三形態

今回、再録するのは、本稿の投稿の中で2019年11月4日に投稿されてから、ずっとトップクラスのアクセス数を保ち続けている「護衛艦いそかぜ」その三形態 (「亡国のイージス」から「空母いぶき」へ)」というタイトルの投稿です。

 

本稿は2018年9月4日に初回を投稿して以来、fw688i.hatenablog.com

ずっといわゆる「主力艦:戦艦・巡洋戦艦装甲巡洋艦」の発達史を1:1250スケールの模型の紹介を軸に続けてきました。このメインの主題であった「主力艦発達史」が2019年7月に一応の終了を迎え、

fw688i.hatenablog.com

2019年9月から海上自衛隊護衛艦発達史のミニシリーズを展開、その締め括り的な位置付けでとして取りあげたのが表題に掲げた「護衛艦いそかぜ」その三形態 (「亡国のイージス」から「空母いぶき」へ)」でした。

本稿が利用させていただいている「はてなブログ」には、アクセス解析という機能があり、ここではアクセス先としてどの投稿が多いのかが分かるのですが、Google  Yahooなどのいわゆる大手の検索サイトからこの投稿が常にトップクラスにランキングされている、そういうことなのです。

 

まあ、護衛艦いそかぜ 」の映画や小説、コミックの関連でアクセスが多いのだろうと推測はするのですが、投稿以来、ずっとトップの座に座り続けており、それはそれで筆者としては「不思議」ではある訳です。

まあ、ちょっとうがった見方をすると、そもそも本稿のアクセス数全体がそれほど多いわけでもないので、ちょっとエッジが立っていると(エッジ=この場合には映画関連や小説・コミックとの関連ということになりますかね?)「すぐにトップに」という構造的な流れがあるのかもしれません。

まあ、理由はともあれ、筆者自身でも結構気にいっているし、まあ一度見ていただけたらなあ、という訳です。

 

ということで、ここから、以下、再録です。

いそかぜ」と言う護衛艦

今回は、海上自衛隊護衛艦開発史のスピンアウト第二弾(誰が勝手にシリーズにしたんだ?)として、護衛艦いそかぜ」について、いろいろと。

 

まず最初に、本稿を読んでいらっしゃるような方ならば(艦船好きな、というほどの意味です)、おそらくご承知のこととは思いますが、海上自衛隊に「いそかぜ」と言う名前の護衛艦は、その創設以来、かつて存在していません。

にも関わらず、護衛艦いそかぜ」の名前は、そこそこ「有名」なのです。(そもそも、護衛艦の名前の認知率などは、たかが知れていますので、「有名」の基準とは何か、などと言う話は、まあ、それは、ちょっと横に置いておきましょう)

そして、実在しない護衛艦ながら、実は「いそかぜ」には、三つの形態があるのです。

今回は、そういうお話です。

 

まず最初に「いそかぜ」第二形態 

海上自衛隊 護衛艦いそかぜ」の名は、筆者の知る限り福井晴敏さんの小説「亡国のイージス」で初めて登場します。そしてこの小説が映画化され、その名は一層広く世に出ることになりました。(2005年)

福井晴敏」という原作者にして優れたプロデューサーを持つ「亡国のイージス」は、小説に始まり、映画に続き漫画にもなる、と言ういわゆるメディアミックス展開されます。

ja.wikipedia.orgYouTube 

 https://www.youtube.com/watch?v=moqAqiyJ4eo&t=66s

 

 

www.youtube.co 

www.youtube.com

「艦船好き」の皆さんなら、おそらく既にこの作品はご覧になったでしょうが、ざっとこの作品のあらすじをご紹介しておくと、イージス護衛艦いそかぜ」を舞台として、「いそかぜ」を乗っ取り、東京湾でグソー(GUSOH)という化学兵器(毒ガス)によるテロを実行し、世界に反北朝鮮の世論を沸騰させ、祖国の政治形態を転覆させようとする北朝鮮の元工作員ホ・ヨンファ(中井貴一)と、それを防ごうとして、乗組員として潜入した防衛省情報局(DAIS)の工作員如月(勝地領)の死闘を描いたものでした。

 

映画では、「こんごう」級イージス護衛艦の3番艦「みょうこう」(DDG-175)が、「いそかぜ」の撮影舞台として使用されています。ですので映画に登場する艦番号は「175」なのです。

(直下の写真は、F-toysの「みょうこう」をストレートに組み立てたもの)

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映画の中で、「いそかぜ」に乗組員として潜入した防衛省情報局の工作員に協力する「いそかぜ」の先任伍長仙石(真田広之)が、「グソー(化学兵器)を発射するなら、前部のVLSか、後部のVLSか・・・」と迷うシーンがありますが、下の写真は艦首と後甲板の艦番号。それぞれの少し後ろ(前?)に前後部のVLSが写っています。
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 仙石と如月は凄惨な死闘ののち、ホ・ヨンファの計画を阻止するのですが、最後に「いそかぜ」は自爆して沈没してしまいます。

 

余談ですが、亡国のイージスに登場する化学兵器「グソー(GUSOH)」は、アメリカ軍が沖縄で開発したVXガスの50倍の毒性を持つとされる神経ガスですが、福井晴敏さんの小説には数度にわたり登場します。(もちろんフィクションの世界です。・・・と筆者は希望します)

最初は「Twelve Y.O.」という小説で登場し、そのあまりに強力な毒性のために、漏出事件の末、ほぼ唯一効果を無効にできるテルミット・プラスという兵器(架空の強力な特殊焼夷弾)で、漏出を起こした辺野古基地ごと焼き払われてしまいます。(「辺野古ディストラクション」:福井作品では、しばしば登場します)

この残り(試料)が移送中に元北朝鮮工作員のホ・ヨンファに奪われて、「亡国のイージス」事件に話が繋がって行くのですが、さらに、これが驚くべきことに、数千年後にやはり福井晴敏さんの「ターンA・ガンダム」(小説名「月に繭 地には果実』)にも登場するのです。

ちなみに「グソー(GUSOH)」とは「後生」の沖縄方言読みで、冥界(死後の世界)を意味するそうです。

  

次に「いそかぜ」第三形態

そして「いそかぜ」は2019年に、もう一度映画に登場します。

それは本稿でも紹介した「空母いぶき」。「いそかぜ」は「いぶき」が所属する第五護衛隊群の一隻で、やはりここでも「こんごう」級イージス護衛艦の一隻、という設定です。

映画では「いそかぜ」ですが、原作であるコミックでは実在するイージス護衛艦「ちょうかい」として登場し、「いそかぜ」は登場しません。
ja.wikipedia.org

www.youtube.com

ちなみに、第五護衛隊群は原作コミックでは、「空母いぶき」(DDV-192)を中心に、これを護衛するイージス護衛艦「あたご」(DDG-177)、同じくイージス護衛艦「ちょうかい」(DDG-176)、汎用護衛艦「ゆうぎり」(DD-153)、「せとぎり」(DD-156)、AIP推進潜水艦「けんりゅう」(SS-504)、補給艦「おうみ」(AOE-426)で編成されていることになっています。

一方、映画では、諸々の設定の違い(周辺への配慮?)から、第五護衛隊群は全て架空艦で編成されています。「空母いぶき」(DDV-192)はそのままですが(これは元々架空艦です)、これを護衛するイージス護衛艦「あしたか」(DDG-190):原作では「あたご」、同じくイージス護衛艦いそかぜ」(DDG-161):原作では「ちょうかい」、汎用護衛艦「はつゆき」(DD-122):原作では「ゆうぎり」、「しらゆき」(DD-124):原作では「せとぎり」、AIP推進潜水艦「はやしお」(SS-515):原作では「けんりゅう」、というような変更が加えられています。

 

(直下の写真は、「空母いぶき」版イージス護衛艦いそかぜ」。F-toysの「ちょうかい」をベースにして、艦番号をデカールを貼り替えて変更しました。ちなみに艦番号「161」は、現用艦では使用されておらず、初代「あきづき」級護衛艦の一番艦「あきづき」の番号です)

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(直下の写真は、艦首部、艦後甲板の艦番号の拡大)
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 そして、「いそかぜ」をこの映画で一際目立たせた要因は、なんと言っても山内圭哉さんが扮する浮舟艦長の「いてまえ〜!」ではなかったでしょうか?

www.youtube.com

 原作コミックでも「ちょうかい」艦長の浮舟一佐は、ここぞと言う時には関西弁で指揮をとります。

 

空母「いぶき」

これは前回投稿にはなかった部分ですが、せっかくなので本稿でご紹介している空母「いぶき」のモデルもご紹介しておきます。

通例に倣い「空母」の表記をしていますが、皆さん御承知のように、同艦の正式呼称は、「航空機搭載型護衛艦」で、DDVと分類され、あくまでDD(駆逐艦護衛艦)なのです。

(下の写真は航空機搭載型護衛艦「いぶき」DDV92の概観i: 設定では排水量26,000t, 固有兵装としてCWIS *2, SeaRAM *2, 搭載機はF-35JB *15 etc, 202mm in 1:1250)

筆者の知る限りではこのモデル製作当時、1:1250スケールでの市販モデルはなく、当時「いずも型護衛艦」のモデルを既に上市されていたAmature Wargame Figures(Nomadire)という3D  Printing メーカーさんに、ジャンプ台の追加をリクエストし、制作していただきました。

ですので今ではShapewaysでお求めいただけるはずです。

www.shapeways.com

 

母体となった「いずも級」DDHもご紹介しておきます。

DDH いずも級ヘリコプター搭載護衛艦(2015- 同型艦2隻)

ja.wikipedia.org

 

 

(「いずも級」DDHの概観:200mm in 1:1250 F-Toys 現用艦船キットコレクションをほぼストレートに組んだもの)

海上自衛隊初の全通甲板護衛艦となった「ひゅうが」級をさらに大型化し、航空機運用能力や多用途性を強化したものになっています。「ひゅうが」級の船体を排水量で6000トン、長さにして51m拡大し、搭載機数も固有の艦載機を7機、最大搭載機数を14機としました。(19500トン、30ノット)

一方で個艦戦闘能力は抑えられ、近接戦闘用のCIWS2基とSea RAM近SAMシステム2基を搭載するのみとなりました。ja.wikipedia.org

(「いずも級」の固有武装のアップ:艦尾に配備されたSea Ram(上段手前)とCIWS。艦首のCIWS(下左)と艦橋前のSea Ram) 

上述のように固有武装を最小限にした背景には、同級はもはや単独での運用を想定されていないという背景があります。つまり常に他の護衛艦を伴い、その旗艦機能を果たすことを想定されているわけです。この構想のもと、前級「ひゅうが」級で設定された司令部施設は充実され、100名規模の統合任務部隊司令部が収容できる多目的スペースを有しています。

(直上の写真は「いずも級」DDH(手前)と「いぶき」の大きさ比較。「いぶき」は「いずも級」の設計をベースにした為、外観や上部構造物の配置は「いずも級」に準じたものになっているのがよくわかります。固定翼機の運用を想定した艦首形状や スキージャンプ台の配置が、架空艦とはいえ興味深いものがあります)

 

 

ということで、少し脇見tにそれましたが、「再録版」に戻って「いそかぜ」のお話を再び。

そして「いそかぜ」第一形態

さて、なぜ、本稿が「いそかぜ」第二形態から始まったか、と言うお話になるのですが、これまで二形態の「いそかぜ」をご紹介してきましたが、この2隻はいずれも「こんごう」級イージス護衛艦の外観を示してきました(あまり明言はされていないような記憶があります)。

が、実は「亡国のイージス」の原作小説に登場するいわゆる初代「いそかぜ」は、「はたかぜ」級ミサイル護衛艦の3番艦として登場します。

皆さんはご承知だと思いますが、「はたかぜ」級ミサイル護衛艦は、海上自衛隊の対空ミサイル護衛艦としては第三世代にあたり、搭載するシステムはイージス・システムではなく、ターター・システムでした。ターター・システム搭載艦としては、「はたかぜ」級は最終世代に属し、システムもデジタル技術の導入により高度化し、イージス以前のミサイル駆逐艦としては頂点に立つ、という評価を得ていましたが、やはり弱点として、2-3目標までしか捕捉追尾出来ないと言う限界を抱えていました。

海上自衛隊でも次世代DDGとしてイージス・システム搭載艦が就役しており、第一線で活躍できる期間はそれほど長くないと思われていました。

一方、次々と就役が予定されているイージス艦は、従来のDDHを中心とした護衛隊群の艦隊防空の他に、周辺有事の状況変化(相次ぐ北朝鮮弾道ミサイルの発射実験など)に伴い、弾道ミサイル防衛(BMD)の役割も担うこととなります。実はこの二つの役割は迎撃高度、タイミングの差異から、同時対応、つまり両立が難しく、新たに艦隊防空の任務の分担を検討することが必要になってきます。

現在、実際にはこの役割は、イージス艦とコンビを組む汎用護衛艦に一部負担させるべく、汎用護衛艦の高性能化で対応することになっていますが、「亡国のイージス」では、「はたかぜ」級3番艦の「いそかぜ」に試験的に白羽の矢が立ち、この対策の一つとして、試験艦「あすか」で試験されてきた「ミニ・イージス・システム」を搭載し、それに関連する改装を行った、と言う設定になっています。

これに関連した記事(もちろん架空)が下のURLにあります。

http://www.masdf.com/news/isokaze.html

www.masdf.com

この、ミニ・イージス・システムの搭載に伴い、艦橋前に搭載されていたアスロック・ランチャーを16セルのVLSに換装し、従来から搭載されていた艦首のMK.13ミサイル発射基に加え発射即応性を高め、主砲も従来の54口径5インチ単装速射砲(Mk.42)から、オート・メララ製の54口径5インチ単装速射砲(127mmコンパット砲)に変更し、対空能力の向上が図られました。

(直下の写真は、F-toys製「はたかぜ」をベースに改装された「いそかぜ」。「はたかぜ」の艦橋上部にDesktop Fleet 製のAsukaの艦橋上部のイージスシステムドームを追加。主砲を換装し、アスロックランチャーに換えて16セルのVLSを搭載しました。さらに艦番号を183に変更)

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www.shapeways.com

(艦橋上部に追加搭載されたイージスシステムドームと、換装した主砲、VLSのアップ。艦番号を変更)

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いそかぜ」という名前

ところで、本稿を読んでいただいているような方ならば、映画で「いそかぜ」が「こんごう」級 イージス護衛艦の姿で登場したことに若干の違和感を持たれた方もいらっしゃるのではないでしょうか?

イージス護衛艦「こんごう」級は「こんごう」「きりしま」「みょうこう」「ちょうかい」と全て「山」の名前がつけられており、その後の「あたご」級でも、「あたご」「あしがら」と山の名前を命名することが踏襲されています。これは旧海軍の重巡洋艦巡洋戦艦(後に高速戦艦)が「山」の名前を艦名としてことを踏襲しています。

 

元来、護衛艦はDDの分類符号からも、多くは駆逐艦に分類され、旧海軍の慣例に倣って(慣例かどうかはよく知りませんが、多分そうですよね)「つき」「なみ」「きり」「ゆき」「あめ」そして「かぜ」など気象関連の名前が付けられる事が、創設以来一般的でした。

その慣例は海上自衛隊初のヘリコプター搭載護衛艦「はるな」級の就役から変わって行きます。「はるな」級は「はるな」「ひえい」、続く「しらね」級では「しらね」「くらま」と、以降、大型艦には「山」の名前がつけられるようになります。前出のイージス護衛艦もこの系列にありますね。(さらに最近はさらに大型の全通甲板型のDDHには日本の律令制以来の旧国名が艦名として使われ始めています。「ひゅうが」級の「ひゅうが:日向」「いせ:伊勢」、「いずも」級の「いずも:出雲」「かが:加賀」という感じですね)

そうした意味では、「こんごう」級イージス護衛艦の形態を示す艦に「いそかぜ」と気象関連の名前を付けることには違和感を覚えずにはいられません。

では、護衛隊群の防空を担うイージス艦以前のミサイル護衛艦(DDG)にはどのような名前がつけられていたか、というと、その初代は「あまつかぜ」、第二世代「たちかぜ」級は「たちかぜ」「あさかぜ」「さわかぜ」、そして第三世代「はたかぜ」級は前出のように「はたかぜ」「しまかぜ」と、全て「かぜ」で統一されています。

従って、「はたかぜ」級の3番艦であれば、「いそかぜ」の名はふさわしい、と言うべきでしょう。

 

もう一つ、ついでに艦番号について。

艦隊防空を担うDDGは、「あまつかぜ」DDG-163、「たちかぜ」級3隻がDDG-168~170、「はたかぜ」級2隻がDDG-171, 172、続くイージス艦「こんこう」級の4隻がDDG-173~176、「あたご」級2隻はDDG-177,178、そして最新の「まや」級2隻がDDG-179,180と続きます。

艦隊防空、という視点で言えば、初代「あきづき」級の2隻も、そういう役割を負っていましたが、艦番号はDD-161,162でしたし、「あまつかぜ」と「たちかぜ」級の間の「たかつき」級4隻(DDA-164,165,166,167)も、新型の54口径5インチ単装速射砲(Mk.42)を2基搭載する対空能力に優れた艦でした。「こんごう」級の就役以前には、ターター・システム搭載のDDGとDDA「たかつき」級が護衛隊群の防空を担当するという時期がありました。

こうした観点で見れば、「空母いぶき」に登場した浮舟艦長の「いそかぜ」第二形態がDDG-161の艦番号を継承したことも、なんとなく納得ですね。

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一方で「はたかぜ」級3番艦である「いそかぜ」第三形態が背負っているDDG-183は、現在、DDH「いずも」の番号になっていますが、当時はおそらく「いずも」級の計画前であり、この番号を付与された、と考えることもできるでしょう。

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 と、名前、艦番号にも選択や付与に一定の法則がありそうです。これもまた興味深い。

 

幻の「亡国のイージス」前日譚:Call the Role

余談ですが、長編小説「亡国のイージス」には、その姉妹編として、この改装にまつわる前日譚を描いた短編小説集があるのです。

その改装は非常に大規模で、約9ヶ月を要しました。更にその後の公試などで再就役までに、「いそかぜ」はほぼ1年を要しているのです。

その改装工事中には、前出の「いそかぜ」の仙石先任伍長 は、造船所とのやり取りに疲れ果て、完工後には艦橋上に現れた「芽の生えたタマネギ」のようなミニイージスシステムのドームを見て「おれの艦を、こんなに不細工に造り変えやがって」と憤慨し、更に彼自身の部署であったターター・システムがミニ・イージス・システムによって無用の長物化したことに、自分も時代遅れになったかのように寂しい思いをするのです。

さらに、艦長と副長以外ほとんどの幹部クルーが入れ替わり(実は、この異動は、その後のテロ実行に向け仕組まれたものだったのですが)、乗組員たちも入れ替わり、これから先の混乱を予想して、先任伍長はため息をつくのです。

・・・と言うような「亡国のイージス」前日談が、実は「Call The Role」という別冊小説になっています。この本は仙石先任伍長だけでなく、その他の主要な本編登場人物の前日譚の短編集というような趣の本になっています。(「Call The Role」というのは「点呼」というような意味合いだそうです)

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この本、実はピットロード社製の「いそかぜ」のフィギュアとセットで販売されていたのですが、今や入手が非常に困難な「幻の本」となっています。

https://www.amazon.co.jp/原作版《いそかぜ》-精密フィギュアセット-福井-晴敏/dp/4062751518

フィギュアはさておき、本だけでも再版されればいいと思うのですが。できれば文庫本でね。

この本にはもう一つ、大変貴重な点があります。実はその後書き(?)がフィギュアを手掛けた模型メーカー「ピットロード」の企画開発部のお二人(そのうちの一人は原型製作者)によって書かれているのです。前述の「後書き」という言葉に?をつけたのは理由があって、後書きと言うよりも、「いそかぜ」のFRAMによる性能向上と意義を記述された内容になっています。大変コンパクトで面白い!

欲しくなってきたでしょう。再版してくれればいいのに。

 

おまけ?

さて、最後に直下の写真は、「はたかぜ」級ミサイル護衛艦のそろい踏み(?)。手前からDDG-172「しまかぜ」、DDG-171「はたかぜ」、DDG-183「いそかぜ」の順。
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 前出の「DDG-183」の記事www.masdf.comには、僚艦「うらかぜ」と共に第65護衛隊を編成、という記載があります(もちろん架空ですよ)。どうしようかな、「うらかぜ」も作ってみようかな。

しかし、同記事の中にはしかしこの近代改修工事は、いそかぜの場合で450億円と高額であるため財務省片山さつき担当主計官は「近年の緊縮財政期においてこのような費用対効果が悪い計画に意味があるのか?ミニ・イージス戦艦なんて時代遅れよ!」と、今後の予算化には消極的。またアメリカ政府も日本の「ミニ・イージスシステム」開発に対して日本の軍事的独立を警戒し不快感を募らせており、今後順調に計画が進行するかどうかはまったく不透明である」という記載があり、その後さらにミニ・イージス化が進められたのかどうか。

つまり「うらかぜ」をミニ・イージス搭載艦形態で作るべきかどうか、はっきりしませんね。ちょっと困った。

・・・ああ、そうか、いいこと思いついた。両方作っちゃえ!

まあ、これも新たな楽しみ発見、ということで。

(再録、ここまで。そして、オリジナルは下記を。内容は「再録」なので、全く一緒です)

fw688i.hatenablog.com

 

ここからは架空DDGの制作の話

ということで、上記「再録」部分では、最後に護衛艦いそかぜ 」第三形態が小説「亡国のイージス」で第65護衛隊を形成した僚艦「うらかぜ」の話が出てきますが、実は上記では「「うらかぜ」を「はたかぜ」級DDGの4番艦(あるいは3番艦?いずれにせよ現実では「はたかぜ」級護衛艦は2隻しか実在しませんので、架空艦の話ではあるのですが)として扱っていたのですが、実は福井晴敏氏の原作小説では1世代前の「たちかぜ」級の4番艦(これも3隻しか実在しないので架空艦です)であることが判明し、結局、「うらかぜ」を「たちかぜ級」として制作したりしています。

 

そしていよいよ、ここからが架空DDGの制作のお話、その「パート1」です。

fw688i.hatenablog.com

(以下、上記投稿より、その関連部分の再録)

「たちかぜ」級の4番艦、と言うことになりますが、実際には「たちかぜ」級は3隻しか建造されていないので、いわゆる架空艦を制作することにします。

 

本稿で、以前、架空の護衛艦いそかぜ」(DDG-183)について述べたことがあります。

fw688i.hatenablog.com

いそかぜ」と言う護衛艦は実在しないのですが、一方で、「亡国のイージス」(小説版・映画版)あるいは「空母いぶき」(映画版)で活躍する「有名な護衛艦」なのです、と言うのが、この回の主題だったのですが、この「亡国のイージス」に登場する「いそかぜ」の第65護衛隊を構成する僚艦が「うらかぜ」として登場します。

本稿の上記URLでも、ほんの少しだけ「うらかぜ」について触れているのですが、その際には、私の勉強不足から、てっきり「うらかぜ」は「いそかぜ」と同様、「はたかぜ」級DDGなのだと決め付けていました。

しかし、その後、原作等を読み返すと、「隊司令の衣笠一佐が、あえて旧型の第二世代ミサイル護衛艦「うらかぜ」を座乗艦に選んだのも・・」と言う記述があるではないですか。

ありゃリャ、これは「たちかぜ」級だぞ。と言うわけで、残った一隻は「うらかぜ」として制作することに・・・。

 

「うらかぜ」(DDG-162):架空護衛艦

(直下の写真:DDG-162: うらかぜ Amature Wargame Figures製 WNV素材モデル。写真を下記のようにアップにすると、やはりWNV素材の仕上がりの荒さが気になりますね。肉眼で見ている分には、それほど気にならないのですが)

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細部は、武装の換装など、ほぼ「さわかぜ」と同じ仕様で仕上げてあります。最後に艦番号「162」を貼付して、出来上がり。

この艦番号、決定までに少し紆余曲折がありました。

と言うのも、「いそかぜ」については原作中に「183」と言う艦番号が明記されているのですが、「うらかぜ」については、艦番号に関する記述はありません(少なくとも、私が読みこんが限りでは。もしどこかに記載があったら、是非お知らせ下さい)

そこで、「たちかぜ」級の4番艦であれば、本来は艦番号「171」が付与されるべきなのですが、この番号は実際には、すでに次級「はたかぜ」級DDGのネームシップ「はたかぜ」に付与されています。その後はミサイル護衛艦の番号は最新型の「まや」級の「はぐろ」の「180」まで、すべていっぱいで、さらにその後は181から184までDDHの「ひゅうが」級、「いずも」級に付与されていて、空きがありません。(そう言う意味では小説版「亡国のイージス」の「いそかぜ」の183番も、実際にはDDH「いずも」の艦番号になってはいるのですが)

止むを得ず、「うらかぜ」の就役時点ではすでに退役していたであろう防空担当護衛艦の番号を、と言うことで、初代「あきづき」級の2番艦「てるづき」(1981年、特務艦籍に変更 この時点で、DD-162からASU-7012に艦番号を変更)の番号をいただいた、と言うわけです。「うらかぜ」の前の「たちかぜ」級3番艦の「さわかぜ」の就役が1983年ですので、少なくとも「うらかぜ」の就役はそれ以降と想定できますので、なんとか辻褄は合うかと。(余談ですが、前述の「いそかぜ」の項でも触れましたが、映画版「空母いぶき」の「いそかぜ」は初代「あきづき」の艦番号「161」をもらっています)

と言うことで、少し苦労しましたが、艦番号は「162」に決定。

 

第65護衛隊(「いそかぜ」(DDG-183), 「うらかぜ」(DDG-162))

(直下の写真は、第65護衛隊の2隻。手前:「うらかぜ」(DDG-162) と奥:ミニ・イージスシステム搭載艦に改装後の「いそかぜ」(DDG-183))

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(直下の写真:参考までにターターシステムからイージスシステムへの換装後の「いそかぜ」(DDG-183)。「はたかぜ」級DDGをベースに、艦橋上部にミニ・イージスシステム用のドームを追加。主砲をオート・メララ製の54口径コンパット砲に換装、併せて、アスロック・ランチャー設置箇所に、16セルのVLSを設置して即応性を高めるなどの工夫があります)

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と言うことで、第二世代ミサイル護衛艦「たちかぜ」級4隻(一隻は架空艦です)が完成しました。

(直下の写真:DDG第二世代たちかぜ級の揃い踏み。手前から「たちかぜ」「あさかぜ」「さわかぜ」そして架空艦「うらかぜ」の順)

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 そしてここからが、架空DDG制作編の「パート2」

本稿では、Shapewaysをはじめとする3D printing modelを数多くご紹介しています。筆者にとってコレクションの充実には欠かせない調達ソース、ということです。現在展開中の「スウェーデン海軍」艦艇も多くがShapewaysで調達されています。

そして本稿では一時期集中的に3D printing modelをご紹介した時期がありました。その中で、別の架空DDGの制作について触れた回がありましたので、それも併せてご紹介します。

ちょっと補足しておくと、今回の「架空艦」は純粋な「架空艦」ではなく、実在する「海上自衛隊護衛艦」を改装してできた「架空艦」です(ややこしいなあ)。

(以下、下記の投稿よりの抜粋です)

fw688i.hatenablog.co

 

架空艦の製作へ

さて、SFD素材の竣工時モデルがもう1隻残ったけど、どうしよう?

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そうだ、そもそも、このモデルストックは「いずれは加工して架空艦を作成する際の素材として入手したものです」と書いてたんじゃないか。

 

と言うことで、ちょっと頭の中をゴソゴソ。

そう言えば、海上自衛隊初のDDG「あまつかぜ」の就役が 1965年。第二世代DDGの「たちかぜ」級の就役が1976年。この間、「あまつかぜ」は唯一のDDGであったわけで、ターター・システムの複数艦での運用データを得るためにも、この空白を埋めるために、1967年から就役の始まった「たかつき」級の1隻が早々にDDGへ改装・転用された、と言うカバーストーリーがなんとなくいい感じなのでは?

 

DDG「もちづき」の制作

こうして、DDG「もちづき」の誕生です。

SFD素材の竣工時モデルのいくつかのパーツを撤去。撤去部分は、艦首から前部主砲、アスロック・ランチャー、前部マスト上部、後部煙突上部、後部上部構造物、後部主砲。

換装、もしくは追加したパーツ:前部主砲(Ftoys)、アスロック・ランチャー(Ftoiys)、前部マスト上部(Ftoiys:「しらね」前部マストを転用)、短魚雷発射管(ロッドより製作)、ハープーン・ランチャーを追加(Ftoys)、後部煙突上部(Ftoiys:「しらね」後部煙突上部を転用)、ボートを両舷に追加(Ftoys)、イルミネーター2基を追加(Ftoys「しまかぜ」より転用)、Mk13対空ミサイル・ランチャーを追加(Ftoys「しまかぜ」より転用)、CIWSを追加(Ftoys)

下の写真は、上記の作業後、下地処理を経てざっと塗装をしてみたものです。艦中央部の白いパーツは、ロッドで製作した短魚雷発射管です。

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少し制作の裏話を。

当初、艦後部のイルミネーターの後方に2番主砲を残していたのですが、Mk13ミサイル発射機とCIWSをその後ろに追加すると、2基のイルミネーターの配置に余裕がなく、併せてあまりにも艦後部が荷重になるように思われ、2番主砲の設置を断念しました。

その上で、少しイルミネーターの間隔に余裕を持たせ、Mk13対空ミサイル発射機をDASH無人対潜攻撃ヘリコプター格納庫上に設置、DASHの運用甲板であった後甲板にCIWSを設置、と言う配置にしました。CIWSの射界を広く持たせるためにはMk13とCIWSの配置を逆に、とも考えたのですが、Mk13の下に収納されるミサイル弾庫を考慮すると、この順序が良いのではないかと言う結論です。なんとなく、DASHの格納庫をそのままに、と言う状況も活かせたような気もしています。

直下の写真:DDG改装後の「もちづき」

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直下の写真:僚艦「あまつかぜ」と共に。

上記のカバーストーリーでは、DDG「もちづき」は「あまつかぜ」と組んで活躍することになります。

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直下の写真:そしてやがては第二世代DDGの「たちかぜ」級と共に行動する機会もあるかもしれませんね。

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 さて、どちらのクラスと護衛隊を組んでも、いくつもカバーストーリーが書けそうな・・・。

 

とうわけで、「再録」編集でお茶を濁させていただいた今回でした。

 

さて次回も、ちょっとバタバタしていれば、もう一度「再録」を続けるか、というところです。

 もちろん、もし「こんな企画できるか?」のようなアイディアがあれば、是非、お知らせください。

 

併せて模型に関するご質問等は、いつでも大歓迎です。

特に「if艦」のアイディアなど、大歓迎です。作れるかどうかは保証しませんが。併せて「if艦」については、皆さんのストーリー案などお聞かせいただくと、もしかすると関連する艦船模型なども交えてご紹介できるかも。

もちろん本稿でとりあげた艦船模型以外のことでも、大歓迎です。

お気軽にお問い合わせ、修正情報、追加情報などお知らせください。

 

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八八艦隊の近代化:架空艦の妄想上書き

今回は前回からの流れで八八艦隊の戦艦群の近代化モデルのご紹介を。

架空艦の妄想上書き的なお話ですので、サクッと行きましょう。まあ、ツッコミどころ満載だとは思いますが、お手柔らかに。

そういうお話です。

 

・・・と本論の前に、やっぱり今週の「ピカード 」を

ついに8話です。

***(ネタバレがあるかも。嫌な人の自己責任撤退ラインはここ:ネタバレ回避したい人は、次の青い大文字見出しに「engage!」)***

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涙、涙の・・・・

なんという展開だろう。

やっぱりウォーフだったのか。ウォーフの口から「パーソナルスペースの侵害だ」なんて言葉が出るとは。「だが、まだ左肩から振っているな」参ったの一言です。

そしてデータの戦い。彼はいつも、「人」がどうやって「人」たり得るのか、教えてくれます。ヤーがあんな形で出てくるとは。スポットもとても重要な役割を果たしてくれました。しかも(多分誰にとっても)腹落ちがいい。

この二人のユーモアは本当に物語に幅を与えてくれます。

ところでブリッジのあんなところに脱出ハッチがあったっけ?

これで本当にメンバーが揃いました。そして最大の謎が、赤い扉の向こうに・・・。

前回、「後3回しかないぞ」なんて書いちゃったけど、バランスよく終わりそうな予感。長ーいエンディングがあるのかも。苦い結末じゃないといいなあ。

と言うことで、次回を心待ちに。

 

八八艦隊の近代化モデル

本稿前回では八八艦隊の戦艦群(筆者版)の就役時モデルの2023年ヴァージョンをご紹介しましたが、今回はそれらの近代化改装時のモデルがいくつかあるのでそのご紹介を。

八八艦隊計画や、それぞれの就役時のモデルについては本稿前回もご参考に。

fw688i.hatenablog.com

 

長門級」戦艦(同型艦2隻)

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長門級就役時(1920年頃)

同級は世界初の16インチ級(41センチ)主砲搭載戦艦で、同級の建造がワシントン海軍軍縮条約の実現化に大いに影響したとされています。この条約の結果、41センチ級の主砲搭載戦艦は同級の2隻(「長門」「陸奥」)を含め世界に7隻しか存在が認められないことになりました。いわゆる「ビッグ7」と言われる7隻(日本2隻、英国2隻、米国3隻)ですね。

第一次世界大戦ユトランド沖海戦の戦訓を取り入れた所謂「ポスト・ジュットランド」型の戦艦で、前述の大口径砲の装備に加え重防御の戦艦でもありました。加えて26ノット強の速ry狗を発揮できる高い機動性を兼ね備えた、世界標準を一歩先んじた戦艦であったと言っていいと考えています。

長く連合艦隊の旗艦を務めるなど、日本海軍の象徴的な位置にあり続けました。

(「長門級」竣工時のモデル:175mm in 1:1250 by Hai改造)

 

戦艦「陸奥」変体(by ModelFunShipyard)

戦艦「陸奥」は「長門級」戦艦の二番艦ですが、その建造過程でちょうど研究中であった八八艦隊計画の次級「土佐級」の設計案を知った用兵側が、前倒しで「長門級」二番艦にその構想を盛り込み41センチ主砲10門搭載艦として実現できないか、と言う着想をもつに至りました。その構想のもとに強化型「長門級」の計画が動き出しました。これが「陸奥」変体(「変態」じゃないですよ)と呼ばれる設計案でした。

(戦艦「陸奥」変体の概観:173mm in 1:1250 by ModelFunShipyard:)

 

長門級湾曲煙突形態1924年頃)

長門級」戦艦は就役後に排煙の前檣への流入に悩まされ、当初は一番煙突にキャップを装着するなどの対応を試みますが、結局1920年ごろに一番煙突を湾曲形態にあらためています。この形態は長く続き、上述の「ビッグセブン」として国民にも「世界に冠たる日本海軍」の象徴として親しまれました。

(「長門級」湾曲煙突に換装後のモデル:by Hai: 「長門」といえばこの形態、と言うほど有名な形態ですね)

 

長門級」最終形態(1934年頃)

その後も小規模な改造は続けられましたが、1934年からの大改装でボイラーの換装に伴い煙突が一本になり、外観的には最終形態に近くなりました。その後も対空火器の強化や、新たな電探設備の追加等を行い、最終形態となっています。

(上の写真は戦艦「長門」の概観:189mm in 1:1250 by neptun:前檣は射撃管制機構の改良に伴い複雑化し、機関の換装により煙突形状が変化しています)

 

下の写真は「長門級」の就役時(上段)と最終時の比較

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「土佐級」戦艦:同型艦2隻(by ModelFunShipyard)

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「土佐級」就役時(1924年頃)

同級は八八艦隊計画の戦艦の二番目の艦級です。「長門級」戦艦の強化改良型、と言っていいと思います。教科の主眼は主砲塔の追加と集中防御思想をさらに進めたことでした。「土佐」と「加賀」が建造される予定でした。

1921年ワシントン条約の締結で建造が中断された際には、「土佐」「加賀」ともに進水しており、艤装等を加えればおそらく1924年ごろには就役したのではないでしょうか?

(「土佐級」戦艦の概観:188mm in 1:1250 by ModelFunShipyard: 下の写真は同級でも「長門級」同様、前檣直後の煙突が煤煙の逆流で課題が出たであろうと言う想定で、湾曲煙突を装備した二番艦「加賀」を作成してみました。いずれも、ベースとなったモデルの繊細な前檣構造がいい感じかと

 

土佐級」第一次改装時(1930年頃)

「土佐級」も就役後、順次、射撃指揮系統の近代化、防御構造の強化、対空兵装の増強等が行われました。これにより前檣構造が複雑化し、重ねて重油専焼ボイラーへの換装で煙突形態が改められました。

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(「土佐級」一時改装時の外観(上下):ボイラーの換装で形態が変化した煙突の形態と射撃管制系統の変化等で複雑化した前檣:舷側にに大型バルジが追加されるなど、防御も強化されています。対空兵装も変更され強化されています)
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土佐級」最終形態(太平洋戦争時)

上記のような改装を重ねた「土佐級」でしたが、上述のように同級は「長門級」の設計をもとに集中防御設計を強化したものでした。主砲塔、機関等を集中防御設計によりまとめそこに防御装甲を集中したわけですが、このことは特に機関系統への余白スペースにゆとりがあまりないことも意味していました。このため近代化改装による重量の増加はそのまま速度低下に直結しました。このため最終改装では艦尾の延長、艦首形状の改訂等が行われ、艦型が大きく変わっています。それでも同様の改装により「長門級」があまり大きな速度低下を起こさなかったのに対し、同級は比較的大きな速度低下に見舞われ(26ノットから23ノット)、高速化の進む空母機動部隊を中心とした艦隊構成には編入されず、西部方面艦隊(シンガポール)に配置されました。

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(「土佐級」最終時(太平洋戦争時)の概観 194mm in 1:1250:重量の増加への対応で艦首形状、艦尾の延長などが行われました。集中防御設計により、機関の換装に対する対応力が制限され、八八艦隊の戦艦群の中では最も速度低下が顕著でした。このため太平洋戦争時には機動部隊等には組み入れられず、シンガポールの西部方面艦隊の主力となりました)
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下の写真は「土佐級」就役時と最終時の比較

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改装などによる重量の増加に伴う速力低下への対応策として、艦型が見直され、艦首形状、完備の延長などが行われました。しかし機関の換装余力がスペース的に確保できにくい設計だったため、3ノット程度の速力低下に見舞われました。結局、八八艦隊の中では最も速力の低い環球となりました。

 

紀伊級」戦艦:同型艦2隻(計画当初は4隻)(by ModelFunShipyard):「天城級巡洋戦艦もほぼ同型

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紀伊級」就役時(1928年頃)

紀伊級」戦艦は「土佐級」戦艦に続き4隻が建造される予定でした。(「紀伊」「尾張」「駿河(仮称)」「近江(仮称)」)設計は「土佐級」とは一線を画し、巡洋戦艦天城級」設計をベースとして防御強化を図り本格的な高速戦艦としての完成を目指したものでした。そのため速力は「長門級」「土佐級」の26ノット台から29ノット台へと飛躍しています。

米海軍の新戦艦「サウスダコタ級(1926年版)」が16インチ主砲を12門搭載する設計であることが判明し、「紀伊級」戦艦ではこれに対抗するには「やや心もとない」と評価されたため、建造は「紀伊」「尾張」の2隻で打ち切られ、次の「改紀伊級=相模級」戦艦の建造へと移行してゆきます。

(「紀伊級」戦艦の概観:200mm in 1:1250 by ModelFunShipyard: 上の写真は当初設計の二本煙突形態を示しています。同級は条約で建造中止が決定した「天城級巡洋戦艦の船体設計をベースとしていました。同級の設計中に「長門級」「土佐級」で一番煙突からの排煙の前檣への流入問題が明らかとなり、湾曲煙突への換装などが行われたことを踏まえ、「紀伊級」では、設計途中から集合煙突の導入が検討されました。下の写真は集合煙突を導入し就役した「紀伊級」の概観)

 

紀伊級」第一次改装時(1934年頃)

紀伊級」も就役後、順次、射撃指揮系統の近代化、防御構造の強化、航空艤装の追加、対空兵装の増強等が行われました。これにより前檣構造が複雑化し、後檣の形態も改められました。

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(「紀伊級」一時改装時の外観(上下):射撃管制系統の変化等で複雑化した前檣と後檣の携帯も近代化され、併せて艦尾部に航空艤装も追加されました。舷側にに大型バルジが追加されるなど、防御も強化されています。対空兵装も変更され強化されています)

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紀伊級」最終形態(太平洋戦争時)

紀伊級」はその後も順次小規模な改装が行われましたが、逐次重量が増え、艦尾の延長や艦首形状の改訂などのより対策がとられました。重油専焼缶への換装の際には当初は煙突形状は改められませんでしたが、最終的には一本煙突の形態に改められました。

紀伊級」は新造戦艦の「大和級」が高度に機密扱いとなったため、「大和級」以降の新戦艦の就役後も長く日本海軍の象徴として連合艦隊旗艦の座にあり続け、国民に親しまれました。

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(「紀伊級」最終時(太平洋戦争時)の概観 210mm in 1:1250:重量の増加への対応で艦首形状、艦尾の延長などが行われました。機関も換装され、速度は就役時と同じレベルを維持することができました。次級「改紀伊級」が高度な機密性で守られたため、長く日本海軍の象徴的存在として存在し続けました)f:id:fw688i:20230409095802p:image

 

下の写真は「紀伊級」就役時と最終時の比較

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改装などによる重量の増加に伴う速力低下への対応策として、艦型が見直され、艦首形状、完備の延長などが行われました。この結果、同級では就役時の速力はほぼ維持することができました。

 

「改紀伊級=相模級」戦艦:「13号級」巡洋戦艦の設計をベースとして:同型艦2隻(巡洋戦艦設計時期には同型艦4隻)(by ModelFunShipyard)

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「改紀伊級」就役時(1932年頃)

同級は筆者版八八艦隊計画の戦艦の最終整備艦級で、元々は巡洋戦艦として30ノットを超える速力を持ちながらも「紀伊級」戦艦を凌駕する強力な砲力も併せ持つ設計であった「13号級」巡洋戦艦の設計がベースとされました。主砲にはそれまでの八八艦隊の戦艦の標準装備であった41センチ主砲を上回る46センチ主砲の搭載が採用されました。

背景には、前掲の「紀伊級」戦艦の建造が当初の4隻の予定からが2隻で打ち切られた原因となった、米海軍の新造戦艦「サウスダコタ級(1926年版)」が16インチ主砲12門を搭載する「紀伊級」を凌駕する火力を備えていることがありました。併せて、更新される次期のワシントン条約に日本が批准しないだろうとの観測があり、その失効が前提として設計に色濃く反映されていました。

しかし設計期間中は未だ条約は有効で、批准国としては新設計を欺瞞する必要があり、実態は全く別物の新設計であったにも関わらず、「改紀伊級」という名称で扱われることになりました。ワシントン条約では主砲口径は16インチ以下と制約されていましたので、46センチ主砲自体、新開発の「2年式55口径41センチ砲」と呼称されていました(フィクションです。史実ではないのでご注意を)。もちろん全体の大きさに関する制約も、これを大きく超えていました。

(「改紀伊級=相模級」戦艦の概観:250mm in 1:1250 by ModelFunShipyard:)

 

「改紀伊級」最終形態(1939年頃)

同級は他旧と同様に対空火器の増強や船体重量増に対応するための機関の改装などが行われましたが、一方で初の46センチ主砲搭載艦として、当時、建造が計画されていた本格的な46センチ砲搭載艦「大和級」戦艦に搭載される予定の諸機構が試験的に導入されたりしていました。

例えば前檣はその上部に搭載される予定の射撃指揮装置や塔構造が実験的に導入されました。主砲塔も旋回速度を向上させた新設計の駆動装置が盛り込まれ、性能向上が目指されました。

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(「改紀伊級=相模級」最終時(太平洋戦争時)の概観:同級は建造年次が新しいため、他の艦級に比べ改装程度は軽微でした。しかし、次期新戦艦の基本形態となる予定の「大和級」戦艦への導入技術の試験艦的な位置付けに置かれたため、前檣には塔形状が導入されました。併せて他の艦級同様、対空火器、航空艤装の増強が行われています。舷側には大型のバルジが追加されるなど、防御も強化されていることがわかります)f:id:fw688i:20230409100505p:image

 

下の写真は「改紀伊級=相模級」就役時と最終時の比較

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同級は新設計の「大和級」戦艦への導入技術の試験艦的な位置付けとなりました。

 

太平洋戦争開戦時の八八艦隊戦艦群

下の写真は八八艦隊の戦艦群の最終形態の一覧です。手前から「長門級」「土佐級」「紀伊級」「改紀伊級=相模級」の順です。艦型の大型化も確認していただけるかも。

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ということで今回はここまで。

次回は、新着モデルのご紹介を中心に、と考えています。

もちろん「ピカード ・シーズン3」のお話も。

もし、「こんな企画できるか?」のようなアイディアがあれば、是非、お知らせください。

 

模型に関するご質問等は、いつでも大歓迎です。

特に「if艦」のアイディアなど、大歓迎です。作れるかどうかは保証しませんが。併せて「if艦」については、皆さんのストーリー案などお聞かせいただくと、もしかすると関連する艦船模型なども交えてご紹介できるかも。

もちろん本稿でとりあげた艦船模型以外のことでも、大歓迎です。

お気軽にお問い合わせ、修正情報、追加情報などお知らせください。

 

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架空戦艦群:八八艦隊製作のアップデート

八八艦隊2023年ヴァージョンの再現計画

前回からの流れで、今回は八八艦隊の戦艦群の製作です。中間報告、と考えていたのですが、実は完成したので、いくつかヴァリエーションも交えてご紹介を。

今回はそういうお話。

 

・・・と本論の前に、やっぱり今週の「ピカード 」を

もう7話まできてしまいました。

***(ネタバレがあるかも。嫌な人の自己責任撤退ラインはここ:ネタバレ回避したい人は、次の青い大文字見出しに「engage!」)***

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怒涛の展開編へ

出るべき人たちは出揃った、というところでしょうか、今回は物語が怒涛の展開を迎えました。物語の終盤を迎える前に、戦術論でよくある「先の先」なのか「後の先」なのか、「後の後」なのか、いずれにせよピカード たちが仕掛け、結果、主人公たちが窮地に追いやられるのは、ある種このシリーズの定石です。

高潔な理想に基づいているはずの連邦の過去の可変種への残虐性が明らかにされ、その澱んだ連邦の実態が露呈する辺りは、昨今の世情を反映した物語づくり、と言ってもいいかも、など、色々と考えさせられる展開でした。

勢揃いしている仲間達の行く末もさることながら、こうした連邦の暗黒面(ピカードは一貫して、全てのシリーズで「連邦」の老廃を物語ってきていますが)をどう回収するのか、苦い結末も少し予想しながら、興味が尽きません。

盗まれた「ピカード 」の体と可変種が求めてやまないジャックの血。復活したピカード がどんな意味を持つのか。ロアとデータの結末は?

さあて、後3回しかないぞ。・・・ああ、今回は言うまいと思っていたのに、また言っちゃった。

 

2023年版 八八艦隊

さて、本論です。

このところ何度か続けてモデル調達のご紹介をしているので、繰り返しになりますが、くどいのを承知の上で少しおさらい的にまとめておくと、今回のヴァージョンは「長門級」の就役時モデルにはHai製のモデルを当てていますが、その他は3D printing modelをベースとしています。

お馴染みのShapewaysで見つけたModelFunShipyard製のモデルが、今回のヴァージョンアップのきっかけでした。この製作者のモデルは本来は1:600や1:700スケールと言った大きなスケールのモデルとしてShapewaysにアップされていました。ディテイルの素晴らしさ、特に前檣周りの素晴らしさを1:1250スケールでも再現できないか、と言う思いから、製作者にスケールダウンをご相談したのがスタートでした。するとほぼ即答で、快く「やってみよう。ちょっと時間ちょうだい」とお返事をいただき、さらに「そのスケールならワンパーツの方がいいよね」と追伸が。実は分割されたパーツはパーツで使い勝手が色々とあると考えていたのですが、確かに各パーツが薄くて工作しにくいモデルになったかもしれず、この辺りを配慮していただけるのは大変ありがたかったです。

こうしてお願いしていたスケールダウンモデル群が、先週、本稿の前回投稿の脱稿中に到着、到着したての無垢のモデルをご紹介しています。

ベースモデルの到着

「土佐級」戦艦

紀伊級」戦艦

「13号級」巡洋戦艦

さて今回はこれらを仕上げたもののご紹介をするわけですが、その前に、これもくどいようだけど、「八八艦隊」について簡単におさらいしておきましょう。

 

史実の八八艦隊計画

史実の八八艦隊計画第一次世界大戦後に列強の軍備拡張に倣い日本海軍が実施しようとした大建艦計画で、「長門級」戦艦2隻、「土佐級」戦艦2隻、「紀伊級」4隻のいずれも41センチ主砲を搭載し26ノット以上の速力を発揮する戦艦8隻で構成される高速戦艦群と、30ノット以上の速力を発揮する「天城級巡洋戦艦4隻(41センチ主砲搭載)、「13号級」巡洋戦艦4隻(46センチ主砲搭載)の8隻の巡洋戦艦で構成される強大な艦隊を建造する、という計画でした。これらの諸主力艦の建造は、「長門級」戦艦2隻を除いて、大鑑の建造競争により国家財政の破綻を恐れた列強各国の間で締結されたワシントン軍縮条約により中止されてしまいます。

 

筆者版八八艦隊計画

一方、筆者版の八八艦隊計画では、史実よりも少し制約の緩いワシントン軍縮条約の下で「長門級」戦艦2隻、「土佐級」戦艦2隻はそのまま、「紀伊級」戦艦は2隻のみ建造され、「13号級」巡洋戦艦が「改紀伊級」戦艦として防御構造を強化され、46センチ主砲搭載の戦艦として建造されています(筆者版ワシントン条約でも主砲口径は16インチを最大とする、という制約はありましたので、条約失効を前提として計画された「改紀伊級」戦艦は条約の制約外の46センチ主砲を搭載する戦艦として建造されるので、設計段階では未だ条約は有効であったため同級の搭載する46センチ主砲は新開発の「2年式55口径41センチ砲」と実態を偽った正式名称を与えられていました)。こうして揃えた8隻の戦艦と、既に存在した「金剛級巡洋戦艦4隻を可能な限り改装等により延命させ、加えて条約で認められる「金剛級」の耐用艦齢年次における代艦4隻を加え8隻の巡洋戦艦(この頃には巡洋戦艦の概念はほぼ無くなっており、「高速軽戦艦」的な存在でしたが)を揃える、という計画でした。

 

長門級」戦艦(同型艦2隻)

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同級は世界初の16インチ級(41センチ)主砲搭載戦艦で、同級の建造がワシントン海軍軍縮条約の実現化に大いに影響したとされています。この条約の結果、41センチ級の主砲搭載戦艦は同級の2隻(「長門」「陸奥」)を含め世界に7隻しか存在が認められないことになりました。いわゆる「ビッグ7」と言われる7隻(日本2隻、英国2隻、米国3隻)ですね。

長く連合艦隊の旗艦を務めるなど、日本海軍の象徴的な位置にあり続けました。

(「長門級」竣工時のモデル:by Hai: Hai製のモデルは前部煙突が「長門級と言えば湾曲煙突」と言うほど有名な湾曲煙突の状態を再現していますが、上掲のモデルでは就役時を再現したかったので、前部煙突を直立のものに交換しています。下の写真は「長門級」竣工時の細部の拡大:Hai製のモデルの前檣もかなり繊細に再現されています)

 

戦艦「陸奥」変体(by ModelFunShipyard)

戦艦「陸奥」は「長門級」戦艦の二番艦ですが、その建造過程でちょうど研究中であった八八艦隊計画の次級「土佐級」の設計案を知った用兵側が、前倒しで「長門級」二番艦にその構想を盛り込み41センチ主砲10門搭載艦として実現できないか、と言う着想をもつに至りました。その構想のもとに強化型「長門級」の計画が動き出しました。これが「陸奥」変体(「変態」じゃないですよ)と呼ばれる設計案でした。

舷側に傾斜装甲を用いるなどして浮いた装甲重量を追加主砲塔に当てる、と言うのが構想の根底にあったとされています。

ワシントン条約の締結時点で「就役している」と言う状態でなければ保有が認められず、工事を中止せねばならなかったため、結局、「陸奥」は建造時間等を考慮して「長門」とほぼ同設計で完成されますが、この「陸奥」変体が実現していたら、という「架空艦」のモデルのご紹介です。

(戦艦「陸奥」変体の概観:173mm in 1:1250 by ModelFunShipyard: 下の写真は同モデルの特徴である前檣付近と、艦尾部の山形配置された連装主砲塔群のアップ・全体として大変すっきりとした、しかし細部は繊細に表現されたモデルです)

 

「土佐級」戦艦:同型艦2隻(by ModelFunShipyard)

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同級は八八艦隊計画の戦艦の二番目の艦級です。「長門級」戦艦の強化改良型、と言っていいと思います。「土佐」と「加賀」が建造される予定でした。

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(「土佐級」戦艦の概観:188mm in 1:1250 by ModelFunShipyard: 下の写真は同モデルの特徴である前檣付近と、艦尾部の山形配置された連装主砲塔群のアップ・上掲の「陸奥」変体とは副砲の配置、後部の連装砲塔3基の配置が異なります全体として大変すっきりとした、しかし細部は繊細に表現されたモデルです)

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戦艦「加賀」湾曲煙突装備案(by ModelFunShipyard)

長門級」の就役後、前檣直後の煙突が煤煙の逆流で課題が出たように、おそらく「土佐級」の煙突も同じような課題が現れたであろう、と言う前提で、湾曲煙突を装備した二番艦「加賀」を製作してみました。これはこれでなかなかいいかも。

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(湾曲煙突装備の「加賀」の概観: by ModelFunShipyard: 下の写真はオリジナル煙突(上段)と湾曲煙突装備案の比較。今回このモデルの最大の魅力である(と筆者が思っている)前檣構造がいずれのモデルでもやはりかなりいい感じではないかと、自画自賛的に感心しています)

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紀伊級」戦艦:同型艦2隻(計画当初は4隻)(by ModelFunShipyard):「天城級巡洋戦艦もほぼ同型

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紀伊級」戦艦は「土佐級」戦艦に続き4隻が建造される予定でした。(「紀伊」「尾張」「駿河(仮称)」「近江(仮称)」)設計は「土佐級」とは一線を画し、巡洋戦艦天城級」設計をベースとして防御強化を図り本格的な高速戦艦としての完成を目指したものでした。そのため速力は「長門級」「土佐級」の26ノット台から29ノット台へと飛躍しています。

米海軍の新戦艦「サウスダコタ級(1926年版)」が16インチ主砲を12門搭載する設計であることが判明し、「紀伊級」戦艦ではこれに対抗するには「やや心もとない」と評価されたため、建造は「紀伊」「尾張」の2隻で打ち切られ、次の「改紀伊級=相模級」戦艦の建造へと移行してゆきます。

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(「紀伊級」戦艦の概観:200mm in 1:1250 by ModelFunShipyard: 下の写真は同モデルの特徴である前檣付近と、艦中央部から艦尾部にかけて装備された連装主砲塔群のアップ。全体として、やはり前檣が最大のこのモデルの魅力かと思っています)

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紀伊級」戦艦:集合煙突装備案(by ModelFunShipyard)

紀伊級」の設計図面はかなりの数が残されており、その中には前述したように「長門級」で問題となった煤煙の逆流問題への対応策として、設計段階から集合煙突を装備したデザイン案がありました。筆者は元々集合煙突が大好きでもあり、こちらのモデルを作成してみました。(というか筆者版の八八艦隊ではこちらが本命です。もう一隻こちらを作成する予定です。煙突も調達済み!)

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(「紀伊級」戦艦・集合煙突デザイン案の概観:200mm in 1:1250 by ModelFunShipyard: 下の写真はオリジナルの二本煙突(上段)と集合煙突案に比較:やはり個人的には集合煙突案の方が圧倒的に好みですね。前檣の少しクラシックなデザインと集合煙突の先進性のアンバランスというか、妙な調和を感じるのですが。やや日本艦離れした感じがするもの好きな点かも)

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「改紀伊級=相模級」戦艦:「13号級」巡洋戦艦の設計をベースとして:同型艦2隻(巡洋戦艦設計時期には同型艦4隻)(by ModelFunShipyard)

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同級は筆者版八八艦隊計画の戦艦の最終整備艦級で、元々は巡洋戦艦として30ノットを超える速力を持ちながらも「紀伊級」戦艦を凌駕する強力な砲力も併せ持つ設計であった「13号級」巡洋戦艦の設計がベースとされました。主砲にはそれまでの八八艦隊の戦艦の標準装備であった41センチ主砲を上回る46センチ主砲の搭載が採用されました。しかし計画段階では46センチ主砲については開発に相当な時間がかかることが予想されたため、従来の41センチ主砲を三連装砲塔4基搭載する設計案もあったとされています。

今回はもちろん46センチ主砲装備の方を。

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(「改紀伊級=相模級」戦艦の概観:250mm in 1:1250 by ModelFunShipyard: 下の写真は同モデルの特徴である前檣と煙突付近と、巨大な主砲塔の拡大)f:id:fw688i:20230402101840p:image

今回のモデル製作にあたり、「13号級」の図面を見る限り、その大きな特徴である巨大な煙突(米海軍の「レキシントン級巡洋戦艦でも同じような話がありましたが、高速の巡洋戦艦の搭載する巨大な機関を考えると、排煙は大きな課題なのでしょうね)が、筆者にはどうしても違和感があり、「紀伊級」と同じ集合煙突に換装したモデルを製作しています。46センチ主砲搭載艦ですので長大な射程を想定した一際高い前檣を考えると、もう少し高いものにしないと煤煙の全焼への逆流等に悩まされることになるかもしれませんね。(これは作製後の独り言)

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(上の写真は今回製作したモデル(上段)と、製作の際に切除した煙突をモデルに戻してみた際の比較:オリジナルの煙突が1センチほど高い、というのはこんな感じです。このモデルだけ見るとオリジナルのデザインでもあまり違和感はない(むしろ今回の製作案の煙突の低さが気になるかも)のですが、他のモデルと並べると違和感が出てくるのです(と筆者は感じるのです))

オリジナルの煙突はモデルよりも約1センチほど全高が高くなっています(オリジナルも作るべきだったかな)。

 

「改紀伊級」などと言いながらも

「改紀伊級」は前述のようにワシントン条約の失効を前提に設計されていました。実態は全く別物の新設計であったにも関わらず、条約の制約を満たした設計であると宣言せねばならず、そうした意味では「改紀伊級」という名称自体が欺瞞でした。ワシントン条約では主砲口径は16インチ以下と制約されていましたので、46センチ主砲は新開発の「2年式55口径41センチ砲」と呼称されていました(フィクションです。史実ではないのでご注意を)。もちろん全体の大きさに関する制約も大きく超えていました。

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(「改紀伊級=相模級」戦艦と「紀伊級」戦艦の比較:船型の大きさも大きく異なりますし、主砲塔の大きさの差異も一目瞭然です。主砲口径の拡大から想定される砲戦距離の延長に対応して、前檣の高さが大きく異なっています)

 

今回ご紹介した2023年版「八八艦隊」の戦艦の一覧

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(上の写真は今回ご紹介した「八八艦隊計画」の戦艦の艦級の総覧:「陸奥」変体(左上)、「土佐級オリジナル」(左中)、「加賀:湾曲煙突装備」(左下)、「紀伊級オリジナル」(右上)、「紀伊級:集合煙突案」(右中)、「改紀伊級=相模級」(右下)の順:下の写真は「陸奥」変体から「改紀伊級」までの船型の推移を一覧したもの:手前から「陸奥」変体、「土佐級」「紀伊級」「改紀伊級=相模級」の順)

筆者の当初のプランでは、主砲を別のディテイルの整ったものに換装することも考えていたのですが、今回一連を製作してみて、かえって主砲塔にフォーカスしすぎたモデルになることも想定されるなあ、と別の懸念が出てきました。あと数隻は作成したいとは思っているのですが、主砲のモデル換装までは実行しない、という結論に至りそうです。(これまでの筆者の経験では、多くの3D printing modelでは1:1250スケールの元では、主砲塔の特に主砲砲身の再現が今ひとつ満足がいかず、別のモデルに置き換えるというようなこともあったのですが、今回のモデルの主砲塔周りの再現は十分に満足のいくものでした)

 

ということで今回はここまで。

次回は、今回ご紹介した各艦級が太平洋戦争時に存在していれば、どのような姿になっていたか、その辺りを、いくつか既にモデルがありますので、まとめ的にご紹介しようかな、と考えています。

もちろん「ピカード ・シーズン3」のお話も。

もし、「こんな企画できるか?」のようなアイディアがあれば、是非、お知らせください。

 

模型に関するご質問等は、いつでも大歓迎です。

特に「if艦」のアイディアなど、大歓迎です。作れるかどうかは保証しませんが。併せて「if艦」については、皆さんのストーリー案などお聞かせいただくと、もしかすると関連する艦船模型なども交えてご紹介できるかも。

もちろん本稿でとりあげた艦船模型以外のことでも、大歓迎です。

お気軽にお問い合わせ、修正情報、追加情報などお知らせください。

 

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