相州の、1:1250スケール艦船模型ブログ 主力艦の変遷を追って

1:1250スケールの艦船模型コレクションをご紹介。実在艦から未成艦、架空艦まで、系統的な紹介を目指します。

護衛艦「いそかぜ」その三形態 (「亡国のイージス」から「空母いぶき」へ)

いそかぜ」と言う護衛艦

今回は、海上自衛隊護衛艦開発史のスピンアウト第二弾(誰が勝手にシリーズにしたんだ?)として、護衛艦いそかぜ」について、いろいろと。

 

まず最初に、本稿を読んでいらっしゃるような方ならば(艦船好きな、というほどの意味です)、おそらくご承知のこととは思いますが、海上自衛隊に「いそかぜ」と言う名前の護衛艦は、その創設以来、かつて存在していません。

にも関わらず、護衛艦いそかぜ」の名前は、そこそこ「有名」なのです。(そもそも、護衛艦の名前の認知率などは、たかが知れていますので、「有名」の基準とは何か、などと言う話は、まあ、それは、ちょっと横に置いておきましょう)

そして、実在しない護衛艦ながら、実は「いそかぜ」には、三つの形態があるのです。

今回は、そういうお話です。

 

まず最初に「いそかぜ」第二形態 

海上自衛隊 護衛艦いそかぜ」の名は、筆者の知る限り福井晴敏さんの小説「亡国のイージス」で初めて登場します。そしてこの小説が映画化され、その名は一層広く世に出ることになりました。(2005年)

福井晴敏」という原作者にして優れたプロデューサーを持つ「亡国のイージス」は、小説に始まり、映画に続き漫画にもなる、と言ういわゆるメディアミックス展開されます。

ja.wikipedia.orgYouTube 

 https://www.youtube.com/watch?v=moqAqiyJ4eo&t=66s

 

 

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「艦船好き」の皆さんなら、おそらく既にこの作品はご覧になったでしょうが、ざっとこの作品のあらすじをご紹介しておくと、イージス護衛艦いそかぜ」を舞台として、「いそかぜ」を乗っ取り、東京湾でグソー(GUSOH)という化学兵器(毒ガス)によるテロを実行し、世界に反北朝鮮の世論を沸騰させ、祖国の政治形態を転覆させようとする北朝鮮の元工作員ホ・ヨンファ(中井貴一)と、それを防ごうとして、乗組員として潜入した防衛省情報局(DAIS)の工作員如月(勝地領)の死闘を描いたものでした。

 

映画では、「こんごう」級イージス護衛艦の3番艦「みょうこう」(DDG-175)が、「いそかぜ」の撮影舞台として使用されています。ですので映画に登場する艦番号は「175」なのです。

(直下の写真は、F-toysの「みょうこう」をストレートに組み立てたもの)

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映画の中で、「いそかぜ」に乗組員として潜入した防衛省情報局の工作員に協力する「いそかぜ」の先任伍長仙石(真田広之)が、「グソー(化学兵器)を発射するなら、前部のVLSか、後部のVLSか・・・」と迷うシーンがありますが、下の写真は艦首と後甲板の艦番号。それぞれの少し後ろ(前?)に前後部のVLSが写っています。
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 仙石と如月は凄惨な死闘ののち、ホ・ヨンファの計画を阻止するのですが、最後に「いそかぜ」は自爆して沈没してしまいます。

 

余談ですが、亡国のイージスに登場する化学兵器「グソー(GUSOH)」は、アメリカ軍が沖縄で開発したVXガスの50倍の毒性を持つとされる神経ガスですが、福井晴敏さんの小説には数度にわたり登場します。(もちろんフィクションの世界です。・・・と筆者は希望します)

最初は「Twelve Y.O.」という小説で登場し、そのあまりに強力な毒性のために、漏出事件の末、ほぼ唯一効果を無効にできるテルミット・プラスという兵器(架空の強力な特殊焼夷弾)で、漏出を起こした辺野古基地ごと焼き払われてしまいます。(「辺野古ディストラクション」:福井作品では、しばしば登場します)

この残り(試料)が移送中に元北朝鮮工作員のホ・ヨンファに奪われて、「亡国のイージス」事件に話が繋がって行くのですが、さらに、これが驚くべきことに、数千年後にやはり福井晴敏さんの「ターンA・ガンダム」(小説名「月に繭 地には果実』)にも登場するのです。

ちなみに「グソー(GUSOH)」とは「後生」の沖縄方言読みで、冥界(死後の世界)を意味するそうです。

  

次に「いそかぜ」第三形態

そして「いそかぜ」は2019年に、もう一度映画に登場します。

それは本稿でも紹介した「空母いぶき」。「いそかぜ」は「いぶき」が所属する第五護衛隊群の一隻で、やはりここでも「こんごう」級イージス護衛艦の一隻、という設定です。

映画では「いそかぜ」ですが、原作であるコミックでは実在するイージス護衛艦「ちょうかい」として登場し、「いそかぜ」は登場しません。
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ちなみに、第五護衛隊群は原作コミックでは、「空母いぶき」(DDV-192)を中心に、これを護衛するイージス護衛艦「あたご」(DDG-177)、同じくイージス護衛艦「ちょうかい」(DDG-176)、汎用護衛艦「ゆうぎり」(DD-153)、「せとぎり」(DD-156)、AIP推進潜水艦「けんりゅう」(SS-504)、補給艦「おうみ」(AOE-426)で編成されていることになっています。

一方、映画では、諸々の設定の違い(周辺への配慮?)から、第五護衛隊群は全て架空艦で編成されています。「空母いぶき」(DDV-192)はそのままですが(これは元々架空艦です)、これを護衛するイージス護衛艦「あしたか」(DDG-190):原作では「あたご」、同じくイージス護衛艦いそかぜ」(DDG-161):原作では「ちょうかい」、汎用護衛艦「はつゆき」(DD-122):原作では「ゆうぎり」、「しらゆき」(DD-124):原作では「せとぎり」、AIP推進潜水艦「はやしお」(SS-515):原作では「けんりゅう」、というような変更が加えられています。

 

(直下の写真は、「空母いぶき」版イージス護衛艦いそかぜ」。F-toysの「ちょうかい」をベースにして、艦番号をデカールを貼り替えて変更しました。ちなみに艦番号「161」は、現用艦では使用されておらず、初代「あきづき」級護衛艦の一番艦「あきづき」の番号です)

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(直下の写真は、艦首部、艦後甲板の艦番号の拡大)
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 そして、「いそかぜ」をこの映画で一際目立たせた要因は、なんと言っても山内圭哉さんが扮する浮舟艦長の「いてまえ〜!」ではなかったでしょうか?

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 原作コミックでも「ちょうかい」艦長の浮舟一佐は、ここぞと言う時には関西弁で指揮をとります。

 

そして「いそかぜ」第一形態

さて、なぜ、本稿が「いそかぜ」第二形態から始まったか、と言うお話になるのですが、これまで二形態の「いそかぜ」をご紹介してきましたが、この2隻はいずれも「こんごう」級イージス護衛艦の外観を示してきました(あまり明言はされていないような記憶があります)。

が、実は「亡国のイージス」の原作小説に登場するいわゆる初代「いそかぜ」は、「はたかぜ」級ミサイル護衛艦の3番艦として登場します。

皆さんはご承知だと思いますが、「はたかぜ」級ミサイル護衛艦は、海上自衛隊の対空ミサイル護衛艦としては第三世代にあたり、搭載するシステムはイージス・システムではなく、ターター・システムでした。ターター・システム搭載艦としては、「はたかぜ」級は最終世代に属し、システムもデジタル化し高度化し、イージス以前のミサイル駆逐艦としては頂点に立つ、という評価を得ていましたが、やはり弱点として、2-3目標までしか捕捉追尾出来ないと言う限界を抱えていました。

海上自衛隊でも次世代DDGとしてイージス・システム搭載艦が就役しており、第一線で活躍できる期間はそれほど長くないと思われていました。

一方、次々と就役が予定されているイージス艦は、従来のDDHを中心とした護衛隊群の艦隊防空の他に、周辺有事の状況変化(相次ぐ北朝鮮弾道ミサイルの発射実験など)に伴い、弾道ミサイル防衛(BMD)の役割も担うこととなります。実はこの二つの役割は迎撃高度、タイミングの差異から、同時対応、つまり両立が難しく、新たに艦隊防空の任務の分担を検討することが必要になってきます。

現在、実際にはこの役割は、イージス艦とコンビを組む汎用護衛艦に一部負担させるべく、汎用護衛艦の高性能化で対応することになっていますが、「亡国のイージス」では、「はたかぜ」級3番艦の「いそかぜ」に試験的に白羽の矢が立ち、この対策の一つとして、試験艦「あすか」で試験されてきた「ミニ・イージス・システム」を搭載し、それに関連する改装を行った、と言う設定になっています。

これに関連した記事(もちろん架空)が下のURLにあります。

http://www.masdf.com/news/isokaze.html

www.masdf.com

この、ミニ・イージス・システムの搭載に伴い、艦橋前に搭載されていたアスロック・ランチャーを16セルのVLSに換装し、従来から搭載されていた艦首のMK.13ミサイル発射基に加え発射即応性を高め、主砲も従来の54口径5インチ単装速射砲(Mk.42)から、オート・メララ製の54口径5インチ単装速射砲(127mmコンパット砲)に変更し、対空能力の向上が図られました。

(直下の写真は、F-toys製「はたかぜ」をベースに改装された「いそかぜ」。「はたかぜ」の艦橋上部にDesktop Fleet 製のAsukaの艦橋上部のイージスシステムドームを追加。主砲を換装し、アスロックランチャーに換えて16セルのVLSを搭載しました。さらに艦番号を183に変更)

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www.shapeways.com

(艦橋上部に追加搭載されたイージスシステムドームと、換装した主砲、VLSのアップ。艦番号を変更)

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いそかぜ」という名前

ところで、本稿を読んでいただいているような方ならば、映画で「いそかぜ」が「こんごう」級 イージス護衛艦の姿で登場したことに若干の違和感を持たれた方もいらっしゃるのではないでしょうか?

イージス護衛艦「こんごう」級は「こんごう」「きりしま」「みょうこう」「ちょうかい」と全て「山」の名前がつけられており、その後の「あたご」級でも、「あたご」「あしがら」と山の名前を命名することが踏襲されています。これは旧海軍の重巡洋艦巡洋戦艦(後に高速戦艦)が「山」の名前を艦名としてことを踏襲しています。

 

元来、護衛艦はDDの分類符号からも、多くは駆逐艦に分類され、旧海軍の慣例に倣って(慣例かどうかはよく知りませんが、多分そうですよね)「つき」「なみ」「きり」「ゆき」「あめ」そして「かぜ」など気象関連の名前が付けられる事が、創設以来一般的でした。

その慣例は海上自衛隊初のヘリコプター搭載護衛艦「はるな」級の就役から変わって行きます。「はるな」級は「はるな」「ひえい」、続く「しらね」級では「しらね」「くらま」と、以降、大型艦には「山」の名前がつけられるようになります。前出のイージス護衛艦もこの系列にありますね。(さらに最近はさらに大型の全通甲板型のDDHには日本の律令制以来の旧国名が艦名として使われ始めています。「ひゅうが」級の「ひゅうが:日向」「いせ:伊勢」、「いずも」級の「いずも:出雲」「かが:加賀」という感じですね)

そうした意味では、「こんごう」級イージス護衛艦の形態を示す艦に「いそかぜ」と気象関連の名前を付けることには違和感を覚えずにはいられません。

では、護衛隊群の防空を担うイージス艦以前のミサイル護衛艦(DDG)にはどのような名前がつけられていたか、というと、その初代は「あまつかぜ」、第二世代「たちかぜ」級は「たちかぜ」「あさかぜ」「さわかぜ」、そして第三世代「はたかぜ」級は前出のように「はたかぜ」「しまかぜ」と、全て「かぜ」で統一されています。

従って、「はたかぜ」級の3番艦であれば、「いそかぜ」の名はふさわしい、と言うべきでしょう。

 

もう一つ、ついでに艦番号について。

艦隊防空を担うDDGは、「あまつかぜ」DDG-163、「たちかぜ」級3隻がDDG-168~170、「はたかぜ」級2隻がDDG-171, 172、続くイージス艦「こんこう」級の4隻がDDG-173~176、「あたご」級2隻はDDG-177,178、そして最新の「まや」級2隻がDDG-179,180と続きます。

艦隊防空、という視点で言えば、初代「あきづき」級の2隻も、そういう役割を負っていましたが、艦番号はDD-161,162でしたし、「あまつかぜ」と「たちかぜ」級の間の「たかつき」級4隻(DDA-164,165,166,167)も、新型の54口径5インチ単装速射砲(Mk.42)を2基搭載する対空能力に優れた艦でした。「こんごう」級の就役以前には、ターター・システム搭載のDDGとDDA「たかつき」級が護衛隊群の防空を担当するという時期がありました。

こうした観点で見れば、「空母いぶき」に登場した浮舟艦長の「いそかぜ」第二形態がDDG-161の艦番号を継承したことも、なんとなく納得ですね。

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一方で「はたかぜ」級3番艦である「いそかぜ」第三形態が背負っているDDG-183は、現在、DDH「いずも」の番号になっていますが、当時はおそらく「いずも」級の計画前であり、この番号を付与された、と考えることもできるでしょう。

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 と、名前、艦番号にも選択や付与に一定の法則がありそうです。これもまた興味深い。

 

幻の「亡国のイージス」前日譚:Call the Role

余談ですが、長編小説「亡国のイージス」には、その姉妹編として、この改装にまつわる前日譚を描いた短編小説集があるのです。

その改装は非常に大規模で、約9ヶ月を要しました。更にその後の公試などで再就役までに、「いそかぜ」はほぼ1年を要しているのです。

その改装工事中には、前出の「いそかぜ」の仙石先任伍長 は、造船所とのやり取りに疲れ果て、完工後には艦橋上に現れた「芽の生えたタマネギ」のようなミニイージスシステムのドームを見て「おれの艦を、こんなに不細工に造り変えやがって」と憤慨し、更に彼自身の部署であったターター・システムがミニ・イージス・システムによって無用の長物化したことに、自分も時代遅れになったかのように寂しい思いをするのです。

さらに、艦長と副長以外ほとんどの幹部クルーが入れ替わり(実は、この異動は、その後のテロ実行に向け仕組まれたものだったのですが)、乗組員たちも入れ替わり、これから先の混乱を予想して、先任伍長はため息をつくのです。

・・・と言うような「亡国のイージス」前日談が、実は「Call The Role」という別冊小説になっています。この本は仙石先任伍長だけでなく、その他の主要な本編登場人物の前日譚の短編集というような趣の本になっています。(「Call The Role」というのは「点呼」というような意味合いだそうです)

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この本、実はピットロード社製の「いそかぜ」のフィギュアとセットで販売されていたのですが、今や入手が非常に困難な「幻の本」となっています。

https://www.amazon.co.jp/原作版《いそかぜ》-精密フィギュアセット-福井-晴敏/dp/4062751518

フィギュアはさておき、本だけでも再版されればいいと思うのですが。できれば文庫本でね。

この本にはもう一つ、大変貴重な点があります。実はその後書き(?)がフィギュアを手掛けた模型メーカー「ピットロード」の企画開発部のお二人(そのうちの一人は原型製作者)によって書かれているのです。前述の「後書き」という言葉に?をつけたのは理由があって、後書きと言うよりも、「いそかぜ」のFRAMによる性能向上と意義を記述された内容になっています。大変コンパクトで面白い!

欲しくなってきたでしょう。再版してくれればいいのに。

 

おまけ?

さて、最後に直下の写真は、「はたかぜ」級ミサイル護衛艦のそろい踏み(?)。手前からDDG-172「しまかぜ」、DDG-171「はたかぜ」、DDG-183「いそかぜ」の順。
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 前出の「DDG-183」の記事www.masdf.comには、僚艦「うらかぜ」と共に第65護衛隊を編成、という記載があります(もちろん架空ですよ)。どうしようかな、「うらかぜ」も作ってみようかな。

しかし、同記事の中にはしかしこの近代改修工事は、いそかぜの場合で450億円と高額であるため財務省片山さつき担当主計官は「近年の緊縮財政期においてこのような費用対効果が悪い計画に意味があるのか?ミニ・イージス戦艦なんて時代遅れよ!」と、今後の予算化には消極的。またアメリカ政府も日本の「ミニ・イージスシステム」開発に対して日本の軍事的独立を警戒し不快感を募らせており、今後順調に計画が進行するかどうかはまったく不透明である」という記載があり、その後さらにミニ・イージス化が進められたのかどうか。

つまり「うらかぜ」をミニ・イージス搭載艦形態で作るべきかどうか、はっきりしませんね。ちょっと困った。

・・・ああ、そうか、いいこと思いついた。両方作っちゃえ!

まあ、これも新たな楽しみ発見、ということで。

 

ということで、今回はおしまい。

 

次回は本稿の本筋に戻って、装甲巡洋艦アメリカ、ロシア、オーストリア=ハンガリー帝国など)、あるいは日本海軍の巡洋艦、どちらかを。

***模型についてのお問い合わせ、お待ちしています。或いは、**vs++の比較リクエストなどあれば、是非お知らせください。

 

これまで本稿に登場した各艦の情報を下記に国別にまとめました。(今回紹介した艦船からのアップデートは特にありません。でも、こっそり日本海軍の筑波級巡洋戦艦装甲巡洋艦の写真が変わっていたりするかも)

fw688i.hatenadiary.jp

内容は当ブログの内容と同様ですが、詳しい情報をご覧になりたい時などに、辞書がわりに使っていただければ幸いです。

 

 


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