相州の、ほぼ週刊、1:1250 Scale 艦船模型ブログ

1:1250スケールの艦船模型コレクションをご紹介。実在艦から未成艦、架空艦まで、系統的な紹介を目指します。

スプルーアンス・ファミリー

いよいよオリンピックが始まりました。

「ええ、こんな状況でやるのかよ、なんか盛り上がらない」とか言いながら、開会式を見てしまいました。なんと4時間、前からこんない長かったっけ?なんとか日付が変わる前に終了してましたが、十分に時間をかけるあたり、日本のGlobal 化が現れているのかなあ、と変なことに感心しながら、実は結構楽しんで見ていました。時間を感じなかった、ですね。

ギリシアドラクエで登場!入場行進曲にゲーム音楽を使うなんて、ちょっとビックリ。でもとても日本らしくて素晴らしい。

極め付けは競技のピクトグラムのコント(というと叱られるのかな?)、大好きですね。アニメと、つい「コント」と書いてしまいましたが、お笑い的な要素が絡んで、気がつくと立ち上がって手を叩きながら見ていました。今の日本らしい素晴らしい表現!やるなあ。

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ね、永久保存ものでしょう。(賛否あるんだろうなあ)

海外メディアも「金メダルもののパフォーマンス」と絶賛しています。

 

という訳で、なんだか直前にいろんなゴタゴタが報道されて(問題発言で辞任したオリンピック組織委員会前会長を名誉会長で復活なんて、話題が出ること自体が意識の低さ、責任感のなさを露呈していて、本当に情けない)、ちょっとマイナスから始まった今回のオリンピックですが、始まったからには素晴らしい各競技でのパフォーマンスを期待せずにはいられません。

ちょっと、楽しみになってきた。

 

という事で、「テレビ観戦で「艦船」どころではない」という訳ではないのですが、「ロイヤル・ネイヴィーの駆逐艦ミニシリーズ」もちょっと中休みをいただいて(1番面白いところ、終っちゃった?)、今回は筆者の大好きな「ヴァリエーション」関連で、アメリカ海軍の「スプルーアンス級駆逐艦」からの派生系、すなわち「スプルーアンス・ファミリー」をお題に。

 

スプルーアンス・ファミリー

米海軍は1970年代になるとFRAM改装でアップデートしてきた駆逐艦の各艦級が限界を迎え、この代艦としてその後の兵器システムの更新に耐えられるよう余裕のある大型駆逐艦を設計します。これが「スプルーアンス級駆逐艦で、その設計思想の通り、その後数次の兵器システムの更新を行い、さらにその余裕のある船体を用いていくつかの派生形を生み出すなど、「ファミリー」を産み出しました。

今回はそういうお話です。

ちなみに、艦級の名前は言わずもがなですが、かのレイモンド・スプルーアンス提督からいただいています。

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スプルーアンス級駆逐艦同型艦:31隻)

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スプルーアンス級原型

既述の通り、米海軍は、1970年代に入り、今後想定される数次の兵器システム等の更新に耐えられるよう余裕のある大型駆逐艦の設計の着手しました。それが本級です。

そのため、その船体は、駆逐艦の艦種でありながら、それまでの4000トン級から、一気に8000トン級へと大型化しています。

機関には、加速性に優れたガス・タービンが採用され32ノットの速力を発揮することができました。

そもそもは空母戦闘群の護衛を主任務と想定した対潜艦として就役したため、原型の就役時のの兵装は2基の5インチ速射砲(Mk 45)とアスロック8連装ランチャー1基、三連装短魚雷発射管2基、対潜ヘリ2機という、8000トンを超える船体の割には極めてシンプルなものでした。

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スプルーアンス級原型の概観:138mm in 1:1250 by Hobby Boss)

 その後、本来の同級設計時の構想の通り、兵装が順次強化され、これに対し余裕のある船体は十分な対応を示すことになります。

まず、個艦防空用の対空兵器としてCIWS2基、シースパロー短SAMランチャー、対艦兵器としてハープーン4連装発射筒2基が追加されました。

 

スプルーアンス級一次兵装強化時

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スプルーアンス級兵装強化時の概観)

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スプルーアンス級原型(左)と兵装強化時の比較:艦橋上部にCIWSを追加。艦中央部にハープーン発射筒と後部構造物上にCIWSを追加装備。後部にシースパローランチャーを追加:これらの追加装備により対艦攻撃能力と個艦防空力が向上しました)

 

さらにトマホーク巡航ミサイルの艦隊配備が始まると、一部の艦にはトマホーク装甲ボックスランチャー(ABL)2基が艦橋前に配備され、同級はそれまでの艦隊防備の任務に加え対地・対艦攻撃力を著しく増強されました。

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スプルーアンス級の一部は、艦橋前のアスロックランチャーの両側にトマホーク装甲ボックスランチャーを追加装備しました(下段)。これにより、空母戦闘群の護衛からスタートした同級に攻撃的な性格が付与されました)

 

スプルーアンス級VLS装備型

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スプルーアンス級VLS装備型の概観)

さらにトマホークの有効性が確認されると、その搭載弾数の増強が試みられ、艦橋前のアスロックランチャーを撤去し、ここにトマホーク・アスロック両用のVLS(61セル)が設置されました。

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スプルーアンス級VLS装備型(右):VLS にはアスロックとトマホークが装弾されていました。その装備弾数は、当初トマホーク45発、アスロック16発でしたが、冷戦終結後の対潜脅威の軽減に準じ、トマホーク57発、アスロック4発とその装弾数は変化しています)

 

このABLの搭載、もしくはVLSへの換装による「トマホーク対応」は同級の1隻を除いた全ての艦で行われ、同級の「攻撃的」性格は強化されました。

 

その後、次級の「アーレイ・バーク級」イージス駆逐艦の就役が進むに伴い、同級は2005年までに全艦が退役しました。

度重なる兵装の追加、システムの更新等で、最終的には同級は9000トンを超える排水量となりましたが、計画時の設計通り、余裕のある船体はこれらに対応することができました。

ちなみに同級の1番艦の「スプルーアンス」の名前は、「アーレイ・バーク級」61番艦に引き継がれています。

 

キッド級ミサイル駆逐艦同型艦:4隻)

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(キッド級ミサイル駆逐艦の概観)

同級は元々は帝政イラン海軍がアメリカに発注したミサイル駆逐艦です。

スプルーアンス級駆逐艦には、対潜艦としての基本設計の他に、元々、同級をベースとした防空艦の設計構想があり、当時、親米国であった帝政イラン海軍がこの設計に沿って4隻を発注したものでした。その後、建造途中でイラン革命が起こりキャンセルされたものを、米海軍が引継ぎ完成させました。

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(キッド級ミサイル駆逐艦の主要兵装であるMk26連装ミサイルランチャー:艦橋前と後部に2基装備し、艦橋前に24発、艦尾部には44発のミサイルの装填が可能でした。(艦尾部はアスロックと両用))

 

同級はターターシステムを搭載した本格的なミサイル駆逐艦で、3目標への同時対応が可能でした。その他の兵装は原型である「スプルーアンス級」に準じており、5インチ速射砲(Mk 45)2基、CIWS2基、三連装短魚雷発射管2基、対潜ヘリ2機、ハープーン4連装発射筒2基を装備していました。

米海軍ではイージスシステム搭載艦の就役に伴い、1999年までに全て退役しましたが、その後、台湾(中華民国)海軍に売却され、2005年から同海軍で再就役しています。

 

タイコンデロガ級ミサイル巡洋艦同型艦:27隻)

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タイコンデロガ級イージス巡洋艦1−5番艦の概観:同級の1番艦から5番艦までは、Mk 26連装ミサイルランチャーを搭載していました。装弾数は2基合わせて44発で、イージスシステムの効力を考慮すると十分ではなく、6番艦以降はVLS装備艦となっています。直下の写真は、1-5番艦の兵装配置) 

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同級は米海軍が導入した世界初のイージスシステム艦で、スプルーアンス級の船体をベースとして利用し、高い対空、対潜、対艦、対地攻撃能力を持っています。当初はミサイル駆逐艦として分類されましたが、後にミサイル巡洋艦に再分類されました。

イージスシステムの詳細については、優れた説明がたくさんありますのでそちらに委ねるとして、(例えばこちら)

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やや乱暴に整理してしまうと、イージスシステム(Aegis Weapon System: AWS)は、ターターシステムなど従来のいわゆる防空システムの枠にとどまらず、レーダー等のセンサーシステム、情報処理システム、武器システムを全て連結した統合的戦闘システムを意味しています。

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タイコンデロガ級イージス巡洋艦の最大の特徴は、なんと言っても巨大な上部構造物にはめ込まれたレーダーパネルでしょう) 

同システムは同時に128目標を補足・追跡し、脅威度の大きい10目標程度を特定し迎撃することが、自動でできるとされています(もしかすると、ここで上げている目標数などは、さらに更新されているかもしれません)。

さらに、このシステムへの接続は、イージスシステム搭載艦にとどまらず、他の機器搭載艦艇とも接続可能で、従って、個艦の武器システムのみでなく、例えば近接する艦隊全体の武器システムによる艦隊防空が可能となるわけです。

と、このように優れた可能性を持つシステムなのですが、一方でシステムを構成する兵器・機器の重量は膨大で、およそ700トンにも達します。そこで余裕のある「スプルーアンス級」の船体が、搭載プラットフォームの候補に上がって来るわけです。

同級の余裕のある船体でも、大きな重量の上部構造を搭載したため1•2番艦の就役時には復元性に課題が生じたため3番艦以降は重量軽減のための船側外板の素材見直しや設計変更が行われています。

機関は基本的に「スプルーアンス級」のものを踏襲しましたが、イージスシステムの搭載により搭載発電機の増設等、電源確保に向けての改修が行われました。

 

VLS装備艦の登場

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タイコンデロガ級イージス巡洋艦6番艦以降の概観:Mk26連装ミサイルランチャーではなく61セルのVLSを艦の前方後方に装備し、装弾数と即応性を向上させています)

兵装面で見ると、5番艦まではMk 26連装ランチャー2基を主兵装とし、その他の砲兵装や対艦兵装、個艦防御兵器については「スプルーアンス級」と同様、5インチ速射砲(Mk 45)2基、CIWS2基、三連装短魚雷発射管2基、対潜ヘリ2機、ハープーン4連装発射筒2基を搭載していました。しかしMk26連装ランチャー2基の装填数が44発しかなく、システムに対し不釣り合いであったため、6番艦以降は61セルのVLSを艦種部、艦尾部に各1基搭載し、装弾数と即応性を高めています。

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余談ですが、確か、トム・クランシーの小説「レッド・ストーム・ライジング」で、主人公の一人の乗艦である「タイコンデロガ」がその装弾数の少なさと即応性の低さから、せっかくイージスシステムが目標を捕捉しながらも撃沈されてしまう(大破だったかも?)というような「くだり」があったのを思い出しました。

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現在、Mk26搭載艦5隻は全て退役済みですが、残りのVLS搭載艦22隻は現役です。

 

 

というわけで今回はここまで。

既述のように「スプルーアンス級」31隻、「キッド級」4隻、「タイコンデロガ級」27隻、合計62隻の総数を誇った「スプルーアンス・ファミリー」でしたが、最初の就役艦から45年以上が経過してもなお、現在「タイコンデロガ級VLSタイプの22隻が現役にとどまっています。さらにいうと、中華民国(台湾)海軍に売却された「キッド級」の4隻も未だ現役です。その基本設計がいかに優れていたことか。

さらに次級である「アーレイ・バーク級」はすでに67隻が就役済みですが、さらにこれからもフライトIIA、フライトIIIが建造されています。軍艦ですらマスプロダクトしてしまう米国の凄さ、というか・・・。基本設計がしっかりいていれば、という事でもあるのでしょうね。

 

次回は、「ロイヤル・ネイヴィーの駆逐艦ミニーシリーズ」に戻ろうか、それとも最近ちょっと力を入れてきているロシア海軍現用艦(第二次世界大戦期以降 )の紹介、あるいはフランス海軍の第二次世界大戦期の巡洋艦、もしくは日本海軍の空母のミニ・シリーズの開始、まあ、そんなあたりで???

 

もし、「こんな企画できるか?」のようなアイディアがあれば、是非、お知らせください。

 

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