相州の、ほぼ週刊、1:1250 Scale 艦船模型ブログ

1:1250スケールの艦船模型コレクションをご紹介。実在艦から未成艦、架空艦まで、系統的な紹介を目指します。

再録(2020年8月投稿から):夏休み!工作特集:特設空母「安松丸」的な・・・

今回は前回予告したように、新規投稿に十分な時間が取れないので、これまでの投稿の中から、夏休みっぽいお題を再録させていただき、お茶を濁します。(2020年8月の投稿から)

 

(ここから、再録スタート)

今回は、夏休みの工作特集、です。

特設空母「安松丸」 の製作

特設空母「安松丸」と聞いて、ピンと来た方、いろいろな意味で、「かなりなもん」です。

 

特設空母「安松丸」を知っていますか?

特設空母「安松丸」は、元々は日本陸軍が上陸支援母艦とする目的で徴用した7000トン級の高速貨物船「安松丸」で、この船を母体として改装を始めるのですが、飛行甲板を張ったところで、貨物船としては「高速」ながらも、空母としては当時の主力航空機の発着艦に実用性を欠く低速(15ノット)と飛行甲板の短さ(130メートル)、さらに改装に伴う重心の不安定さに改めて課題を感じた陸軍は工事を中断、改装を放棄した状態で長らく埠頭に繋がれていました。

その後、ともかく航空主兵への戦備整備を急ぐ海軍が埠頭に繋がれたままの半完成状態に着目。陸軍から譲渡された後、ともかくも改装工事を完了させ特設空母として完成させました。改装後は、旧式駆逐艦を改装した哨戒艇一隻を随伴し、当時、北アフリカで展開されていたドイツ軍のロンメル・アフリカ軍団のエジプト侵攻作戦を支援するためにインド洋からアフリカ沖に派遣され、通商破壊活動に従事しました。

(直下の写真:特設空母「安松丸」の概観。104mm in 1:1250 by Decapod Models :本艦は哨戒艇を伴い、インド洋方面からアフリカ沖に出撃しました。写真下段:飛行甲板上に小さな飛行指揮所を設置していますが、艦橋は飛行甲板の前端下に設置されています。エレベータを装備していないこの艦では、搭載機の格納甲板への収納は、左舷側2箇所の舷側に突き出した可倒・引き込み式のデリックで行います)

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ざっとそんなお話が、「安松丸物語」として宮崎駿さんの「雑想ノート」の第9話に収録されています。

 

「雑想ノート」

言わずと知れた宮崎駿さんの名著ですね。元々は模型雑誌「モデル・グラフィクス」に連載されていたものと記憶します。

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(上の写真は「雑想ノート」の表紙と「安松丸物語」の一部。実は「安松丸」の全体像が描かれているのはこのカットのみ。ただ、例えばエレベータの装備されていないこの艦での、搭載機の収納手順などは、細かいメモが書き込まれているので・・・)

全部で12話のエピソードが掲載されており、そのどれもが主流になりきれなかった「兵器」へのなんとも言えない「愛おしさ」に満ちた物語になっています。冒頭に「この本に、資料的価値は一切ありません」と明記されているのですが、それでも心を擽られる物語ばかりだと、筆者は感じています。

ちなみに登場する兵器は、以下の通り。

「ユンカース J-38重爆撃機(の派生型)(第一話:ボストニア王国空軍史より-知られざる巨人の末弟)

装甲砲郭艦「モニター」と「メリック」(第二話:甲鉄の意気地)

ボストニア王国陸軍超重戦車「悪役1号」(第三話:多砲塔の出番)

「ポテーズ540双発爆撃機(第四話:農夫の眼)

清国軍艦「鎮遠」と日本海軍「三景艦」(第五話:竜の甲鉄)

「マーチン139W双発爆撃機(第六話:九州上空の重轟炸機

「高射砲塔」(第七話:高射砲塔)

「Q・シップ」(第八話:Q.ship)

特設空母 安松丸」(第九話:安松丸物語)

ツェッペリン・シュターケンRーIV長距離爆撃機(第十話:ロンドン上空1918年)

「特設監視艇」(第十一話:最貧前線

「ポルシェ・ティーガー :VK4501(P)」(第十二話:豚の虎)

何とも曲者揃い、というか、いやはや。

 

この本には、スピンアウト、というかマルティメディア展開というか、ラジオドラマ仕立てのCD音源が発売されています。敢えてアニメーションではなく「ラジオドラマ仕立て」というところが、なんとも・・・。

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(上の写真のコレクション、確か第10巻「農夫の眼・Q .ship」が欠けています)

こちらはなんとも豪華な出演陣(声優陣・俳優陣?)で、その顔ぶれを見ても、さすがスタジオ・ジブリの実力発揮、というか「宮崎駿」の名前なら、少々の無茶はできる、というか、いずれにせよストーリーはもちろんのこと、出演者の顔ぶれでも、どちらでもいいから、機会があれば是非、一度お聞きになることをお薦めします。

ちなみに「特設空母 安松丸物語」の語りは、何と三木のり平さんです。

 

夏休みの工作に、ピッタリ。さあ、作ってみよう!

という訳でもないのですが、以前から特にこの「安松丸物語」のエピソードには強く心惹かれるものがあり、是非一度、立体化をトライしてみたい、と思っていました。

 

Step 1:素材探し

7000トン級の貨物船、ということで、ベースとなる「貨物船」を探します。こういう時は、いつものように困った時のShapewaysですね。船の長さと形態から、第一次大戦型の貨物船Decapod Models製の下記に決定!実は「安松丸」より、さらに全長が10メートルほど短いんですが、まあ、そこは目を瞑りましょう。

www.shapeways.com

早速お取り寄せ。

(直下の写真:EFC=Emargency Fleet Corporation Design 1013の概観。なかなかいいぞ。素材はSFD:Smooth Fine Detail Plasticですので、表面は滑らかですが、硬度が高く、加工(特に切断等)の際には欠損が出ないように、少し気を使う必要はありそうです)

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Step 2: 船体の加工と追加部分の準備

まあ、ご覧の通りです。

 

EverGreen製のサイディング系(甲板の木材感が出ます)のプラシートで飛行甲板部分を準備。その前端にモデルから切り離した艦橋を移設します。煙突他の上部構造の突起物を切除し、甲板と同じくEverGreenのプラビーム(H型)等で特に島型上部構造物の上部を整えます。前部と後部の格納甲板に相当する場所に前出のEverGreenのサイディング系プラシートを床板として貼り平面に。その際に前部・後部の収納用の張り出しも準備します。(写真:上段と下段左)

飛行甲板の裏面には何本かプラビームで横桁を通しておきます。(写真:下段右)
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Step 3:ざっと塗装して仮組みへ

実際にはサーフェサーによる下地処理、そして塗装をそれぞれのパーツに施したのち、仮組みしてみます。(下の写真)

おお、何となく「様」になってきたかも。
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そして完成

飛行甲板裏の横桁に合わせて、縦の支柱を入れていきます(EverGreen プラビーム(H型)を使用しています)さらに右舷側に飛行指揮所と煙突を、手持ちのジャンクパーツから添付。

可倒・引き込み式の航空機収納用デリックを前部・後部の航空機格納口の上面に装着します。デリックは、前部は引き込んだ状態、後部は一応水平に展開した状態にしてみましょう。(この可倒・引き込み式デリック、「雑想ノート」によると、5トンまで吊り上げる能力があり、飛行甲板上の航空機を格納甲板へ移動させる際には、飛行甲板上で甲板方向へ10度ほど倒した状態で収納する航空機を吊り下げ、ゆっくり今度は反対側の海面上へ水平角まで倒し、そのままデリックごと格納庫内へ引き込んで航空機を格納甲板に収容する、という少々面倒臭い使い方をするようです)

アンテナマストを建て、甲板上にデカールを貼って、はい、ほぼ出来上がり、です。

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「安松丸」の搭載機は艦上攻撃機6機のみ、ということになっています。格納庫が小さいため甲板上に2機を繋止し、3機が格納庫収納、1機は保用で分解搭載、と記されています。

さらに搭載する攻撃機は、短い飛行甲板から発艦できる複葉の旧式の96式艦上攻撃機、ということになっています。ja.wikipedia.org

96式艦上攻撃機日本海軍が開発した初めての満足のいく性能の攻撃機と言われています。しかしわずか1年後にさらに高性能な全金属単葉の名機97式艦上攻撃機が正式採用されたために、ほとんど活躍の場を与えられなかった、という不幸な生い立ちを持っている機体でした。f:id:fw688i:20200506120910j:plain

(直上の写真:飛行甲板に並べられた96式艦上攻撃機(上段)。96式艦上攻撃機は格納時には翼を折り畳んで収納されました(下段右)。搭載機の格納甲板への収納は、エレベーターを装備していないために、舷側に可倒・引き込み式の懸垂型のデリックを2基装備し、これにより行いました)

 

「雑想ノート」のオリジナル・ストーリーでは 、「安松丸」の小さな機動部隊はアフリカ沖に進出し、地中海を独伊連合軍に抑えられた英軍が、エジプト侵攻を企てるロンメル・アフリカ軍団に対抗する援軍をはるか希望峰経由で送ってくる航路を脅かします。「安松丸」が搭載するたった6機の搭載機のうち、放たれた索敵機3機のうちの1機が、ソマリア沖に輸送船団を発見、これを残り3機の雷撃隊で襲撃して輸送船を撃沈します。さらに母艦に帰投する攻撃隊は、船団に後続する空母を含む護衛艦隊を発見。日没となったため、夜間雷撃が可能なベテラン乗組のたった1機だけの攻撃隊を発進させ、護衛艦隊の「イラストリアス級」空母にも、魚雷を命中さます。攻撃機が接近する際に、英空母の乗組員は複葉旧式の96式艦上攻撃機を、帰投中の味方の「ソードフィッシュ」と誤認して、全く警戒しなかった、とか・・・。

戦果を報告した攻撃機は、しかし帰投する母艦の位置を見失い、そのまま行方不明に・・・。というような劇的な話が物語られています。(これにはさらに後日談があるのですが・・・)

 

「安松丸」的な・・・水上戦闘機「強風」の搭載

上記のように、宮崎駿さんの「雑想ノート」のオリジナルのストーリーでは、「安松丸」の搭載機は艦上攻撃機6機のみ、ということになっています。

しかしここは筆者の「安松丸的な世界」ということで、ちょっと欲張って、前部格納庫に水上戦闘機を3機、搭載してみました。もちろんこちらは飛行甲板へあげることなく、デリックで水面に下ろして発進させます。搭載機は日本海軍の太平洋の島嶼地域への進出の切り札となることを期待されながら、登場時期が遅れ活躍の場を見出せなかった不運の水上戦闘機(と言いきっていいと思います)「強風」です。

太平洋では、さして活躍の場を見出せなかった「強風」でしたが、インド洋での英輸送船団と、その非力な護衛部隊相手の戦場では、索敵や、鈍重な英空母搭載の艦載機相手に、かなり部の良い戦いができた、・・・とか。

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 (直上の写真は、水上戦闘機「強風」を搭載した前部格納庫のアップ) 

ja.wikipedia.org

「強風」は日本海軍が最初からフロート履きの水上戦闘機として開発した機体です。太平洋での島嶼地域への進出の際にも、進出部隊が航空基地などの整備が整うまでの間にも十分な航空支援を得られるようにと、かなり欲張った仕様でした。設計当時の主力艦上戦闘機であった「零戦11型」よりも速度で勝り、武装は同等、さらに重いフロートを履きながらも小回りが効くようにと、空戦フラップを搭載するなど、新機軸に溢れた意欲的な機体でした。

当然の事ながら、開発は難航し、実用配備される頃には既にソロモン方面での米軍の反抗が始まっており、想定された「進出・展開」などの段階は終了していました。

さらに、特に水上戦闘機でありながら「零戦」に勝る速度、という要求の実現は不可能に近く、大型のエンジンの採用(火星)や、二重反転プロペラの試作機段階での採用などを試みたにも関わらず、要求仕様を100キロ近く下回る結果となりました。

結果、試作機を含めて97機が生産されたにとどまりました。

このうち何と3機が、「安松丸」に搭載され、おそらく唯一、目覚ましい戦果をあげた「部隊」として記録されることになりました(なんてね)。

 

「強風」は水上戦闘機としては、決して成功作とは言えない機体でしたが、その開発努力は、「強風」をベースとして開発された局地戦闘機紫電」とその改良型である「紫電改」に引き継がれ、大戦末期に日本本土防空の戦いの主力となったことは有名です。

(下の写真:「安松丸」の搭載機。上段は、母艦の低速と短い飛行甲板の二重苦から「安松丸」の搭載機体として選択された(他に選択肢がなかった、というべきか)96式艦上攻撃機。複葉布ばりの機体ながら、日本海軍が開発した最初の満足のいく艦上攻撃機と言われています。制式採用の翌年に、さらに高性能な名機97式艦上攻撃機が登場し、太平洋戦争では活躍の場を奪われていました。翼は格納時には折りたたむことができました。「安松丸」がインド洋・アフリカ沖で戦った英海軍の主力艦上攻撃機ソードフィッシュ」もほぼ同様の布張りの複葉機でした。

写真下段は、出航直前に急遽「安松丸」への搭載がが決定した水上戦闘機「強風」。世界の海軍でほぼ唯一「水上戦闘機」として設計された機体でした。水上戦闘機としてはかなりの高性能でしたが、陸上戦闘機・艦上戦闘機のめざましい性能向上からは取り残された形でした。「安松丸」に搭載された3機の「強風」は、英海軍相手の索敵・哨戒、さらには専用艦上戦闘機を持たない英海軍の空母艦載機相手に、活躍しました)

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(再録はここまで:筆者には珍しく(?)かなり手の込んだスクラッチです)

 

さて次回は、前回投稿に引き続いて米海軍のミサイル巡洋艦現時に繋がる系譜のお話を、と考えています。

もし、「こんな企画できるか?」のようなアイディアがあれば、是非、お知らせください。

 

模型に関するご質問等は、いつでも大歓迎です。

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