今回は英海軍の駆逐艦小史の7回目。
英海軍は第二次世界大戦の勃発に伴い、大量の駆逐艦を建造する必要に迫られます。工期と費用の両面から、最新鋭の大型駆逐艦「M級」は量産への適合性から候補から外され、「J・K・N級」を原型として、さらにいくつかのスペックダウンによる戦時急造艦の設計がまとまってゆきます。
戦時急造艦の計画は1940年から1942年までの間に14次に渡り発動され、112隻の駆逐艦が建造されることになります。
今回はそういうお話。
少し模型的な視点、コレクター的な視点で言うと、この時期を対象としたモデルは、多岐にわたって制作されてはいるのですが、実は流通量はそれほど多くない、と言うのが実情だと考えています。今回のご紹介でもある程度は実感していただけるとは思いますが、量産性重視のために基本は同型艦(小さな差異はもちろんあるのですが)で、外観的にはあまり大きな差がなく、つまり全形式をラインナップとして揃えるには、やや魅力に欠ける、そう言ってもいいと思います。実際に筆者があまりここに手をつけて来なかった理由も、そんなところです。本当のマニアだけが手をつけてきた領域、と言ってもいいのかも。そうした理由もあってか、手頃な価格帯での流通モデルがあまり見つからないのです。(マニアは手放さないから、中古市場には商品が出回らない?)従って、たまにあっても大変高価だったり、競争環境が厳しかったりで、なかなか入手できずにいます。
そんな事情もあって、今回ご紹介するモデル群では筆者のコレクションは現時点ではあまり多くはありません。こちらも緊急計画を発動して、鋭意、収集に注力中ですが、間に合わないので後日、アップデート版等でご紹介を。
もう少し理解を進めるために艦級名・計画名をはじめ、主要スペックのまとめを掲示しておきます。
艦級名 | 年次 | 基準排水量(t) | 全長(m) | 機関出力(HP) | 速力(knot) | 航続距離(浬)/20knot |
O | 40 | 1,540 | 105 | 40,000 | 37 | 3,850 |
P | 40 | 1,550 | 107.9 | 40,000 | 37 | 3,340 |
Q | 40 | 1,650 | 109.12 | 40,000 | 36.75 | 4,070 |
R | 40 | 1,650 | 109.12 | 40,000 | 36.75 | 4,070 |
S | 40 | 1,650 | 109.12 | 40,000 | 36.75 | 4,070 |
T | 40 | 1,730 | 110.64 | 40,000 | 36 | 4,070 |
U | 41 | 1,710 | 110.56 | 40,000 | 36.75 | 4,070 |
V | 41 | 1,710 | 110.56 | 40,000 | 36.75 | 4,070 |
W | 41 | 1,710 | 110.56 | 40,000 | 36.75 | 4,070 |
Z | 41 | 1,710 | 110.64 | 40,000 | 36.75 | 4,070 |
Ca | 41/42 | 1,710 | 110.56 | 40,000 | 36.75 | 4,070 |
Ch | 41/42 | 1,710 | 110.56 | 40,000 | 36.75 | 4,070 |
Co | 41/42 | 1,710 | 110.56 | 40,000 | 36.75 | 4,070 |
Cr | 41/42 | 1,710 | 110.56 | 40,000 | 36.75 | 4,070 |
(搭載兵装)
艦級名 | 主砲口径(cm) | 魚雷発射管数 | 爆雷投射基数 | 爆雷搭載数(基準) | 爆雷搭載数(最大) |
O | 12*4 | 4*2 | 4 | 30 | 60 |
P | 10.2*4 | 4*1 | 4 | 42 | 70 |
Q | 12*4 | 4*2 | 4 | 70 | 130 |
R | 12*4 | 4*2 | 4 | 70 | 130 |
S | 12*4 | 4*2 | 4 | 70 | 130 |
T | 12*4 | 4*2 | 4 | 70 | |
U | 12*4 | 4*2 | 4 | 70 | 130 |
V | 12*4 | 4*2 | 4 | 70 | 130 |
W | 12*4 | 4*2 | 4 | 70 | |
Z | 11.4*4 | 4*2 | 4 | 70 | 108 |
Ca | 11.4*4 | 4*2 | 4 | 70 | 108 |
Ch | 11.4*4 | 4*1 | 2 | 48 | 108 |
Co | 11.4*4 | 4*1 | 2 | 48 | 108 |
Cr | 11.4*4 | 4*1 | 2 | 48 | 108 |
上記をざっとまとめると、14次に度計画された戦時急造艦は、「O級」原型、対空砲を主要火器とした「P級(「O級」の一部を含む)」、戦時急造艦の標準形を定めることとなった「Q, R級」のグループ、艦首形状を改正した「S級」、やや艦型を大きくした「T級」、12cm主砲の完成形「U, V, W級」のグループ、主砲を11.4cmとして両用砲化を進めた「Z級、Ca級」、魚雷発射管を1基減じた「Ch級、Co級、Cr級」のグループとなります(こうしてまとめると、この8形式はモデルを揃えてみたいかなあ、と思いますね)。
第1次戦時急造駆逐艦:戦時急造艦の原型
O級駆逐艦(二代)(就役期間:1941-1964 同型艦8隻)
(「O級」駆逐艦の原型の外観:いきなりですが未保有です。by Neptun: 4.7インチ単装砲4基、4連装魚雷発射管2基を主要兵装として搭載する設計でした。この形で就役した感があったのかどうかは、やや疑問です。いずれにせよこの形での就役期間は短かったでしょうね。写真は例によってsammelhafen.deより拝借しています)
本稿でご紹介してきたように、ロンドン海軍軍縮体制での艦型拡大抑制の時期を経て、英海軍は諸列強の大型駆逐艦建造に対応し大型駆逐艦の建造へと舵を切りました。「トライバル級」を経て、「L級」「M級」への流れがそれに当たるのですが(前回投稿でご紹介しています)、第二次世界大戦勃発に伴い、広い戦域と相次ぐ駆逐艦の喪失に対応する量産計画の基本型とするには、「L級」「M級」は高価で工期もかかるために、「J級」を原型として設計された戦時急造艦の第一陣です。
同級は1940年度戦時予算で8隻が建造され、1941年から42年にかけて就役しました。
「J級」を原型としながらもさらに工期を短縮するために、兵装は「I級」に準じ、4.7インチ単装砲を主砲として4基、4連装魚雷発射管2基を主要兵装として、これに加え40mmポンポン砲1基、20mm機関砲4基を近接防御用の対空火器として装備する予定でした。
後部魚雷発射管を4インチ高角砲に換装
(「O級」駆逐艦4.7インチ平射砲搭載型の概観:83mm in 1:1250 by Argonaut)
同級は就役時には魚雷発射管を2基装備していましたが(この姿で就役した艦があったかどうか?)、就役後間もなく後部魚雷発射管を4インチ高角砲砲座に換装し、対空火力を強化しています。
艦首部には4.7インチ平射砲2基(写真上段)、艦中央部にはポンポン砲砲座と魚雷発射管、さらに対空機関砲砲座と魚雷発射管と換装された4インチ単装対空砲、艦尾部には爆雷投射機(ちょっと写真ではわかりにくいですが)と4.7インチ平射砲2基、さらに爆雷投射軌条が確認できます。
機雷敷設艦兼務型(駆逐艦任務時)=4インチ高角砲搭載型の建造
(「O級」駆逐艦機雷敷設艦兼務型=4インチ対空砲装備型の概観:84mm in 1:1250 by Neptun))
「O級」は設計時には前掲のような平射砲を主砲とした主要火器の仕様だったのですが、同級のうち4隻は機雷敷設艦としても兼用できる艦することが要求されたところから、主砲を4インチ高角砲3基として建造されました。さらにこの4隻は駆逐艦として任務につく場合には、短時間(48時間)でさらに2基の4インチ対空砲を搭載できるように設計されていました。上掲のモデルは、この経緯でいくと駆逐艦任務に着く際の兵装を再現していると考えられます。
(直上の写真は「O級」駆逐艦4インチ対空砲装備型の主要武装等の拡大)
艦首部に4インチ単装対空砲2基を搭載しています(写真上段) 40mmポンポン砲と4連装魚雷発射管1基、その後ろに20mm機関砲砲座、後部魚雷発射管は4インチ対空砲に変更されています(写真中段)。 艦尾部には爆雷投射機と4インチ単装対空砲2基(うち1基は追加されたシールドなし)と爆雷投射軌条が見えます(写真下段)。
上掲の対空砲装備型の兵装は4インチ対空砲5基を中心とした一見有効な対空火器強化に思われ「O級」の4隻と「P級」の全てがこの兵装を実装しました。しかし実際にはドイツ空軍の急降下爆撃機には有効性が低いことは判明し、同種の兵装は以降実施されず、以降の戦時急造艦の主砲は当面(「V級」まで)4.7インチ平射砲とされました。
バレンツ海海戦
この海戦をかいつまんでいうと、1942年12月下旬に英国から出港したソ連向けの軍需物資輸送船団JW51Bをめぐるドイツ艦隊とこれを護衛する英艦隊の間に発生した海戦です。この船団の直衛戦隊は駆逐艦6隻、コルベット2隻、掃海艇1隻、武装トロール2隻で構成されていました。6隻の駆逐艦のうち5隻が「O級」駆逐艦で、「O級」のうち2隻は4.7インチ平射砲装備艦で、残りの3隻は前掲の4インチ対空砲装備型でした(ちなみに駆逐艦の残りの1隻は『A級」でした)。
(上の写真はバレンツ海海戦に参加した「O級」駆逐艦両タイプの概観の比較:写真上段は平射砲タイプで「オンスロウ」と「オリ美」がこのタイプです。残る「オーウェル」「オビーディアント」「オブデュレイト」は写真下段の3インチ対空砲装備タイプでした:下の写真は両タイプの主要兵装の比較:右列が平射砲タイプ)
5隻の「O級」駆逐艦はドイツ海軍の重巡「ヒッパー」とポケット戦艦「リュッツォー」を主力とする極めて有力な艦隊の襲撃から輸送船団を守り、戦闘によって嚮導艦「オンスロー」が大破、「O級」の3隻が損傷し、「O級」以外で船団護衛に参加していた駆逐艦1隻(「A級:アケーテズ」)が失われる等、大きな損害を出しています。
バレンツ海亜戦で失われた「アケーテズ」
「アケーテズ」は「A級」駆逐艦の1隻で、第二次世界大戦勃発後に護衛駆逐艦への改装を受けました。主砲2基をヘッジホッグ等の対潜装備に変更し、後部魚雷発射管を3インチ対空砲に換装されています(モデルではこの対空砲は再現されていません。もっとも、射撃管制系の不備からこの砲は十分には機能していなかったようですが)
(上の写真は護衛駆逐艦に改装された後の「A級」の概観 by Argonaut)
しかし、輸送船団自体にはドイツ艦隊は全く損害を与えることができず、戦果に多大な期待を寄せていたヒトラーは激怒します。この結果、海軍総司令官のレーダー元帥を解任し、後任にUボート艦隊の指揮官のデーニッツを任命、さらに全ての大型水上艦の解体命令を出すほどでした。
(「海戦」とは関係のない全くの余談ですが、上記のような比較をしてしまうと、Neptun:4インチ砲タイプとArgonaut:平射砲タイプの、つまりモデル製作者間の解釈の差異が見えてきますね。両者ともに再現性の精度は大変高いと思っているので、それはそれで面白い。このブログはモデルのブログですので、まあちょっと触れておきます)
興味のある方はハヤカワ文庫から「バレンツ海海戦」と言う書籍が出ていますので、一読されてはいかがでしょうか?
古書だと結構お手軽な値段で手に入りますね。なかなかの名著だと思います。
おまけ:掟破りの1:700スケールモデルの紹介
筆者は同級の平射砲型のモデルを1:700スケールでも保有しています。
1:700スケールだと、やはり細部の再現性は格段に上がりますね。
(上掲の写真は「O級」駆逐艦4.7インチ平射砲装備型の概観:同型の「オンズロー」がバレンツ海海戦で、船団護衛部隊の指揮艦を務めました。後部の魚雷発射管をおろし4インチ対空砲砲座に変更しています。バレンツ海海戦の時期にはこの形式だったと記憶します。モデルはちょっと掟破りの1:700スケールのものを掲載しています(現タミヤ製。当時はピットロード製だったような)。下の写真では同モデルの兵装配置の拡大を)
P級駆逐艦(二代)(就役期間:1941-1964 同型艦8隻)
(上掲の写真は前出の「O級」駆逐艦4インチ砲搭載型の概観の再掲です。「P級」は8隻全て4インチ砲搭載艦でした)
同級は1940年度戦時予算で8隻が建造され、1941年から42年にかけて就役しました。
「O級」の機雷敷設艦兼務型の対空火器強化タイプに準じた設計で、全ての艦が主砲として4インチ高角砲を搭載した形で設計されました。対空火力強化のために後部魚雷発射管1基は当初から外され、これを4インチ高角砲に充当し、就役しています。
他の基本的な仕様は「O級」とほぼ変わりません。
大戦中に2隻が戦闘中に失われ、3隻が大破ののち放棄されています。
前出の「O級」の大戦の残存艦1隻も併せて、「P級」の生き残った2隻はType 16高速フリゲート艦に改造され、1960年代まで使用されました。
Type 16高速フリゲート艦への改造
(Type 16フリゲート艦の概観:by Mountford: 戦時急造艦の残存艦のうち10隻がType 16への改造を受けています。後述のType 15への改造に比べ廉価で改造期間も短期でした。モデルは唯一Mountfordから出ているようですが、見たことないですね:写真は例によってsammelhafen.deより拝借しています)
大戦後、潜水艦の水中高速化により、それまで大量に整備されてきた対潜専任艦(コルベット・スループなどと称されます)が一気に陳腐化し、この対応のために大戦中に大量の建造されていた戦時急造艦が高速対潜艦(フリゲート艦)に改造されることになります。
Type 16はこの改造艦の型式の一つで、本稿でのちに紹介するType 15が徹底した改造であったのに対し、Type 16はやや簡易でその代わり廉価で即応性のある改造だったと言っていいと思います。Type15が先行し、その廉価版、ということで同形式が生まれたため、こちらの形式番号が大きくなっています。
「O級」1隻、「P級」2隻、「T級」7隻がこの改造を受けています。
Q級駆逐艦(二代)(就役期間:1942-1972 同型艦8隻)
R級駆逐艦(二代)(就役期間:1942-1965 同型艦8隻)ja.wikipedia.org
(「R-Q級」駆逐艦基本型の概観:86mm in 1:1250 by Optatus:これまであまり耳に馴染みのないメーカーかと思いますが、精度はかなり高いモデルを供給されています。その分高価で、流通量があまり多くない。コレクターにとってはなかなかの難敵かと。実は「Q-R級」のモデルは筆者の頼りとするNeptunのラインナップになく、AugonautかOptatusかと言うような選択肢になってしまいます。(もちろんその他もあるのですが、精度の高そうなモデルは流通量が少なく入手が極めて困難です。Argonautモデルについてはオーナーが亡くなられ、これ以上新規生産がされるのかどうか不透明(なんせほとんどが小規模な会社ですから)で、流通量が増えることについては期待薄です。そんな事情もあり、全く幸運にもOptatusモデルが入手できたので、そちらをご紹介しています)
「Q級」「R級」はいずれも1940年度戦時予算で各8隻が建造され、「Q級」は1941年から42年にかけて、「R級」は1942年から43年にかけて順次就役しました。
基本設計は「O級」に準じ、搭載兵装も「O級」に準じたものでした。「O級」で実施された後部魚雷発射管の高角砲への換装による対空火器強化は、当初予定されていましたが、換装予定の4インチ高角砲のドイツ空軍の急降下爆撃機への有効性に疑問が生じ、同砲の搭載は見送られ、主砲は4.7インチ平射砲4基、4連装魚雷発射管2基を主要兵装として装備し、これに加えて40mmポンポン砲1基、20mm機関砲6基が近接防空火器として搭載されました。
(直上の写真は「Q-R級」駆逐艦の主要武装等の拡大:艦首部に4.7インチ平射砲2基と艦橋脇に20mm機関砲(写真上段) 40mmポンポン砲と4連装魚雷発射管2基、その間に20mm機関砲が確認できます。後方の魚雷発射管は「O-P級」同様、4インチ対空砲への換装が検討されましたが、この4インチ砲自体が対空戦闘への有効性に疑問を持たれたため、換装されませんでした(写真中段) 艦尾部の4.7インチ砲2基と爆雷投射気筒が見えます(写真下段) 以降の戦時急造艦はほぼこの兵装配置形式を踏襲してゆくことになります)
船型には建造費と速度向上に効果があるとされたトランサムスターン(直線的な船尾形状)が採用されています。レーダーや対潜装備、射撃指揮装置には改善が加えられ、「R級」の後期型では搭載レーターの追加等により、マストの形状が改まりました。さらに燃料の搭載量が増やされ航続距離が延伸されました。一方で重量が増大し、実質的な速力は低下したと言われています。
大戦中に「Q級」は2隻の戦没艦を出し、「R級」は戦没艦はありませんでした。
「Q級」は戦時中から2隻がオーストラリア海軍に供与され、戦後、英海軍への在籍艦のうち残存した4隻中3隻がオーストラリア海軍に譲渡されています(残りの1隻はオランダ海軍に売却)。「R旧」は戦後3隻がインド海軍に売却され、4隻が後述するType 15高速フリゲート艦に改造されました。
S級駆逐艦(二代)(就役期間:1943-1963 同型艦8隻)ja.wikipedia.orgja.wikipedia.org
(「S級」駆逐艦の概観:88mm in 1:1250 by Argonaut:写真のモデルは「S級」の標準的な仕様ではなく、試験的に次級駆逐艦「バトル級」用に開発されていた仰角80度まで射撃可能な11.4cm(4.5インチ)連装砲塔を艦首に、同様に艦尾にも同じ11.4cm単装砲を装備した「サベージ」のモデルです)
「S級」駆逐艦8隻は1940年度戦時予算で建造され、1942年から43年にかけて順次就役しました。
船体の基本設計や搭載装備は「Q-R級」に準じていますが、凌波性向上を狙い船首形状が改良されました。
(上の写真では「S級」の改良の目玉であった艦首形状を「O級』(上段写真)と比較しています)
さらに艦中部の対空機銃台と探照灯台の構造が簡略化され位置が入れ替えられるなど、工期短縮への工夫が盛り込まれました。
主砲は口径こそ前級と同じ4.7インチ砲でしたが、仰角55度まで射撃可能な新型砲架が採用され、対空射撃能力を向上させています。併せてこれまで標準的な対空火器として装備されてきた40mmポンポン砲が56口径40mm連装機関砲に改められ、近接防空火力も強化されています。
同級の設計・装備は以降の戦時急造艦の基本型となりました。
大戦中に2隻が戦没し、2隻が亡命ノルウェー海軍に貸与されました。戦後3隻がオランダ海軍に売却されています。
駆逐艦「サベージ」の主要兵装
(駆逐艦「サベージ」の主要兵装の拡大)
前述のように写真の「サベージ」は「S級」の標準的な仕様ではなく、試験的に次級駆逐艦「バトル級」用に開発されていた仰角80度まで射撃可能な11.4cm(4.5インチ)連装砲塔を艦首に搭載していました。合わせて艦尾の備砲も標準の4.7インチではなく4.5インチ砲でした。
(「T級」の概観:By WDS: 駆逐艦「トロウブリッジ」の写真:写真はEbayより拝借しています。Ebayへの出品は確認していますが、かなり高価なため入手計画はありません)
同級は1941年度戦時予算で8隻が建造され、1943年から44年にかけて就役しました。
「S級」の基本設計・装備を踏襲しています。レーダー・射撃指揮装置等の更新でやや重量が増え、速度が若干低下しています。
大戦中に戦没艦はなく、戦後全艦が高速フリゲート艦(Type 15への改造1隻、Type 16への改造7隻)に改装され、1960年代まで使用されました。
V級駆逐艦(二代)(就役期間:1943-1970 同型艦8隻)
第9次戦時急造駆逐艦:U級の改良型:対水上・対空両用方位版の搭載
W級駆逐艦(二代)(就役期間:1943-1970 同型艦8隻)
(「U級」「V級」「W級」駆逐艦の概観:90mm in 1:1250 by Neptun)
「U級」「V級」「W級」はいずれも1941年度戦時予算で承認され、1943年から44年にかけて各級8隻が就役しました。
基本設計や基本搭載兵装は「S級」に準じていましたが、レーダー・射撃指揮系統の更新でマスト形状等が変更されています(「T級」に準じる)。
主砲はそれまで同様4.7インチ砲でしたが、「S級」以来の仰角55度まで射撃可能な新型砲架が採用され、対空射撃能力を向上させています。
近接対空火器は40mm連装機関砲と20mm機関砲6基を基本としながらも、工期短縮等に適応して個艦で装備数等には差異が生じています(20mm機関砲装備への傾向があるように思われます。20mmの方が調達が容易だった?)
(上の写真は「U級」「V級」「W級」駆逐艦の主要兵装の拡大:改めてNeptun社のモデルの再現性の高さに舌を巻かされるモデルです。写真下段では魚雷発射管の間の砲座に40mm連装機関砲が丁寧に再現されています。マストの構造も注目でぅ。下の写真は、「O級」(上段)との主砲形状の比較:「O級」は仰角40度の平射砲でしたがその後次第に仰角をあげ、「S級」以降は仰角55度まで射撃可能でした。しかし装填機構、射撃指揮系統の整備が未達で完全な両用砲とは言えませんdした)
大戦中に「V級」の1隻が失われました。戦後は「U級」は全艦が大規模な改修を受けType 15高速対潜フリゲートに、「V級」は残存した7隻中2隻がカナダ海軍に譲渡され、残る5隻は「U級」と同様の大規模な改装を受けType 15高速対戦フリゲート艦となりました。「W級」は戦後2隻がユーゴスラビア海軍に、3隻が南アフリカ海軍に売却され(1隻はType 15改造を受けたのち売却)、残る3隻はType 15高速対潜フリゲート艦への大規模な改装を受けました。
Type 15高速フリゲート艦への改造
(Type 15フリゲート艦の概観:by Delphin: 戦時急造艦の残存艦のうち23隻がType 15への改造を受けています。落札失敗。ちょっと油断しました:写真はEbayより拝借しています。現在、3D printing modelの調達を計画中)
潜水艦の高速化に伴い、従来英海軍が大量の揃えてきたフリゲート艦やスループ艦、コルベット艦では最速が20節程度に過ぎず、対応できないことは明らかでした。
一方で、大戦中に今回ご紹介しているように英海軍は大量の高速を発揮できる戦時急造艦を建造しており、これを護衛艦に改造することが決定され、Type 15 フリゲート艦への改造を受け流ことになったわけです。上掲の写真でお分かりのように、艦容はほぼ原型をとどめないほどの大規模な改造でした。リンボー対潜迫撃砲2基の搭載など対潜戦闘に重点を置いた改造でした。
「R級」4隻、「T級」1隻、「U級」8隻、「V級」5隻、「W級」4隻(1隻は改造後売却)、「Z級」1隻の合計23隻が改造を受けました。
第10次戦時急造駆逐艦:新型主砲(11.4cm)・新型方位版の採用
Z級駆逐艦(二代)(就役期間:1944-1969 同型艦8隻)
(「Z級」の概観:By SeeVee 駆逐艦「Zent」のモデル:モデルは未保有です。見たことないですね。入手の目処も計画も今の所はありません。写真は例によってsammelhafen.deより拝借しています)
同級は1941年度戦時計画で8隻が建造され、1944年に就役しています。
同級ではこれまでの戦時急造艦が量産性の点から第一次大戦以降、英海軍の標準砲としてきた4.7インチ砲を採用してきた点を見直し、新開発の11.4 cm砲(4.5インチ砲)を搭載しています。同砲は口径こそ4.7インチから4.5インチに縮小してますが砲弾の重量は4.7インチ砲よりも重く、弾道特性も優れていました。しかし砲架は仰角55度のものを改良して使ったため、完全な両用砲化には至りませんでした。併せて両用方位盤を射撃指揮装置として採用する予定でしたが、開発が間に合わず、高射、平射の切替式のものを採用したために、この点でも十分とは言えませんでした。
その他の兵装は4連装魚雷発射管2基はそのまま継承し、近接防御火器も「S級」以来の40mm連装機関砲と20mm機関砲6基を基本装備としています。ただし実態は個艦の装備に大きな差があるのは、「U級」以降と同じでした。
大戦での戦没艦はなく、エジプト海軍とイスラエル海軍に2隻づつが売却され、1隻が上述のType15高速対潜フリゲート艦への改造を受けています。
第11-14次戦時急造駆逐艦:11.4cm主砲搭載・情報システムの実装へ
C級駆逐艦(三代)(就役期間:1944-1972 同型艦・準同型艦(Ca級、Ch級、Co級、Cr級)合計32隻)
(「C級:Ca級」駆逐艦の概観:93mm in 1:1250 by Fleetline)
同級は従来の駆逐艦戦隊の編成を踏襲し8隻を1バッチとして発注されました。1941年度計画でCa級8隻が発注され1944年に就役、1942年度計画でCo級、Ch級、Cr級各8隻、計24隻が発注され、1945年の大戦終結後に就役し、大戦には間に合いませんでした。
艦型はほぼ「Z級」に準じ、主砲も「Z級」から導入された新開発の11.4 cm砲(4.5インチ砲)を搭載しています。魚雷発射管は戦時急造艦の標準である4連装を2基、近接対空火器類も「S級」以来の40mm連装機関砲と20mm機関砲6基を基本装備としていました(個艦により差異があるのは同様です)。
(上の写真は「Ca級」駆逐艦の主要兵装の拡大:上掲のNeptun社のモデルに比べてしまうと正直物足りない感じは否めませんが、「C級」のモデルとしてはArgonautの新規制作が期待できない以上、Fleetlineは非常に貴重だと思います。写真下段では40mm機関砲も再現されています。トラス形状のマストの再現も)
1940年以降、英海軍ではレーダー等のセンサー類の発展に伴い、これを作戦に有効に活用するための一元管理の試みが続けられてきていましたが、「C級」はこれらの情報処理システムを初めて実装し、英海軍念願の両用砲の実質的な運用が可能となった艦級となりました。Ch級以降では射撃指揮装置も両用方位盤に改められ、これらにより生じるトップヘビー傾向への対応策として、魚雷発射管が1基に減らされ、さらに搭載爆雷数も削減されました。
なぜ「Z級」の次が「C級」?
英海軍では嚮導艦を除き駆逐艦には艦級毎に同じ頭文字を使った艦名をつけ、それを艦級名としてきていました。
前級で「Z級」まで艦級名が一巡したため、「Z級」に続く同級は順序から言うと「A級」(三代目)となるはずだたのですが、「A級」(二代目)の各艦は複数の戦没艦を出しながらも依然として数隻が現役であり、代わりに全艦がカナダ海軍に売却されたため空席となっていた「C級」の名を冠されることとなりました。
前述のように大戦に間に合った艦はCa級の8隻のみで、戦没艦はありません。
戦後、パキスタン海軍に4隻、カナダ海軍に2隻、ノルウェー海軍に4隻が売却・譲渡されました。
英海軍に残った艦は1950年代に対潜装備の充実や火器の遠隔操作機構の搭載・更新などの近代化改装を受け、1970年代までには全ての艦が退役しました。
というわけで、今回は第二次世界大戦勃発後に14次にわたる計画で大量に整備された一連の戦時急造艦のご紹介でした。
次回はようやく「ロイヤル・ネイヴィーの駆逐艦」ミニシリーズの最終回、大戦後に就役した艦級とミサイル化の趨勢に準じて整備されたミサイル駆逐艦の系譜をご紹介したいと考えています。
もちろん、もし、「こんな企画できるか?」のようなアイディアがあれば、是非、お知らせください。
模型に関するご質問等は、いつでも大歓迎です。
特に「if艦」のアイディアなど、大歓迎です。作れるかどうかは保証しませんが。併せて「if艦」については、皆さんのストーリー案などお聞かせいただくと、もしかすると関連する艦船模型なども交えてご紹介できるかも。
もちろん本稿でとりあげた艦船模型以外のことでも、大歓迎です。
お気軽にお問い合わせ、修正情報、追加情報などお知らせください。
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