相州の、ほぼ週刊、1:1250 Scale 艦船模型ブログ

1:1250スケールの艦船模型コレクションをご紹介。実在艦から未成艦、架空艦まで、系統的な紹介を目指します。

アメリカ海軍の駆逐艦(その4):第二次世界大戦と艦隊駆逐艦 第二期決定版:フレッチャー・ファミリー

今回は前々回に続き米海軍の駆逐艦開発小史の4回目。

第一次世界大戦で当時の艦隊駆逐艦の決定版として、大量に建造した「平甲板型駆逐艦の影響で、米機軍はその後13年余りの期間、新造駆逐艦を建造しませんでした。

大戦後の復興と経済の停滞を背景として海軍軍縮の動きが起こり、補助艦へもロンドン条約によっての保有制約が課せられます。駆逐艦保有数に対しても制約枠が設定され、列強は高性能駆逐艦の設計に鎬を削ります。米海軍も同様で、同海軍は長いブランクの後に建造した「ファラガット級」駆逐艦を皮切りに、新機軸満載の駆逐艦群を建造したわけです。

最大の特徴は汎用軍艦としての駆逐艦の位置付けを追求する事に置かれ、兵装面では「警備・護衛」を想定した主砲の対艦・対空の両用砲化と、攻撃力の最大化を狙った重雷装化にあったと言っていいと思います。両用砲化は、単に主砲の射撃仰角のみならず、射撃指揮系統の対艦・対空双方への適応、さらには特に対空戦闘場面での射撃速度を想定した給弾機構の高速化、目標を追尾する機動性を考慮した砲塔化など、砲兵装の重量の増加を伴います。さらに重雷装化は重い魚雷の搭載数を増加せねばならず、一方で条約により課せられた保有制限から、一定の保有数を確保するためには個艦はコンパクトにせざるを得ず、この時期の艦級にはこの背反する条件に対する模索が見られ、いずれの設計も何らかのトップヘビー傾向が見られました。

しかしこの大戦間の時期(1930年代)に、軍縮条約のそもそもの起点となった大艦巨砲主義への艦隊駆逐艦としての立ち位置を考慮した上での重雷装化は理解できるとしても、対空戦闘を重視した主砲の両用砲化を最初から盛り込んだことは、驚くべき先見性だと驚かずにはいられません。

 

こうした一連の模索期を経て(と言っても最適解が見つかったわけではないと、筆者は考えますが)、さらに再び動き出した大西洋方面での復興ドイツ(ナチス政権)の動きと西太平洋方面で活発に活動する日本の双方での戦雲の高まりから、米海軍は再び艦隊駆逐艦お量産を再開するのです。

 

「ベンソン級」駆逐艦(就役期間1940-1951:同型艦30隻)+準同型艦「リバモア級/グリーブス級/ブリストル級」駆逐艦(就役期間1940-1956:同型艦64隻)

ja.wikipedia.org

ja.wikipedia.org

(「ベンソン級」駆逐艦の概観:85mm in 1:1250 by Neptun:正確に記述するとモデルは「グリーブス級」のものです。外観的には「ベンソン級」と大差ないかと。搭載機関の差異、造船所の差異から、煙突断面の形状が違う、ということのようです) 

「ベンソン級」駆逐艦は前回ご紹介した「シムズ級」駆逐艦の改修型をベースとして改良を加えた艦級です。量産型駆逐艦の第一陣ということで、造船所や搭載機関の仕様によって「ベンソン級」「リヴァモア級」「グリーブス級」「ブリストル級」など細分化されることもありますが、外見はほぼ同一ですので、ここでは一括りとし「ベンソン級」としてご紹介したいと思います。

1800トン級の船体を持ち36−38ノットの速力を発揮する設計でした。

兵装は基本的には「シムズ級」のものを継承しますが、「シムズ級」の1番艦「シムズ」の完成後、トップヘビーの傾向が看過できないほど重大な欠陥として指摘され、対策として2番艦以降では工事途上から大改修が行われ、4連装魚雷発射管を3基から2基に減じなくてはなりませんでした。「ベンソン級」では魚雷発射管を5連装2基として重量を考慮しつつ10射線を確保して雷装を強化しています。主砲は5インチ両用砲5基を砲塔形式・砲架形式の混載で搭載し、両用射撃指揮装置を装備しています。

(「ベンソン級」駆逐艦の主要兵装配置:モデルは全て砲塔形式です。後述のように3番、4番砲は砲架形式であることが多かったようです。大戦期には対空火器の増設がが行われています)

機関は生存性を高めるため船体強度を増して分離シフトによる搭載が行われ、外観的にはそれまで長く続いた一本煙突の時代を終え、二本煙突となりました。

条約の終結により、船体を大型化したとは言え、重武装艦である事は変わらず、トップヘビーの傾向は解消されたわけではありませんでした。

 

模型で見る各形式

同級には兵装搭載等にヴァリエーションがあります。

f:id:fw688i:20240316104457j:image

(写真は「ベンソン級」駆逐艦のヴァリエーションのモデルのご紹介:いずれもArgonaut製です。モデルは未保有:Argonautモデルはもう生産されないだろうから、入手は難しいだろなあ:写真は例によってsammelhafen.deより拝借しています)

冒頭でご紹介したモデルは主砲を全て砲塔形式で搭載した概観でしたが、上掲の写真では上段が主砲を砲塔形式(1、2、5番砲)と砲架形式(3、4番砲)で混載した形式のモデルをご紹介しています。主砲搭載の形式としては、就役時はこちらが主流だったかもしれません。さらに中段に掲載しているのは主砲を4基搭載として対空火器を増強した型式で、戦時中に多くの艦がこの対空火器強化の改装を受けています。さらに下段には1940年に就役した「ブリストル級」と呼称される同級の形式で、魚雷発射管を1基に減じて対空火器を増備する設計、つまり就役時から護衛能力を強化した形式もありました。

 

高速掃海艦や軽敷設艦への改造も

同級の中の数隻は高速掃海艦や軽敷設艦に改造されました、まさに汎用艦の面目躍如、というところでしょうか。

f:id:fw688i:20200509234734j:image

(上下の写真は高速敷設艦に改造された同級のモデル:雷装を撤去し主砲数を減じ、艦尾部に掃海装備を搭載しています)

f:id:fw688i:20240316190318j:image

大戦中に13隻が戦没、あるいは事故で失われました、戦後、台湾、イタリア、ギリシア、トルコ各国海軍に譲渡あるいは貸与されています、日本の海上自衛隊にも2隻が貸与され「あさかぜ級」護衛艦として就役(「あさかぜ」「はたかぜ」)、草創期の海上自衛隊の基幹戦力となりました。

海上自衛隊「あさかぜ級」護衛艦(1954年就役:同型艦2隻)

ja.wikipedia.org

f:id:fw688i:20190915171236j:plain

(85mm in 1:1250  Neptune社製モデルをベースに、模型的には船体中央の魚雷発射管を撤去。主砲塔を3D printing makerのSNAFU store製のWeapopn setの5インチ砲塔に換装、2番主砲塔直後にヘッジホッグ、3番主砲塔前に連装機銃座をそれぞれ追加)

米海軍から貸与された2隻の「リヴァモア級=ベンソン級の準同型艦駆逐艦(エリコン・メイソン)です。

既に米海軍在籍当時に旧式艦として扱われ、魚雷発射管を撤去して掃海駆逐艦に艦種変更していましたが、37ノットの速力を誇り、5インチ単装砲4基、40ミリ四連装機関砲2基、爆雷投射機4基等を装備していました。

 

フレッチャー級駆逐艦(就役期間1943-1971(米海軍):同型艦175隻)

ja.wikipedia.org

f:id:fw688i:20201004125517j:image

 (「フレッチャー級駆逐艦の概観。92mm in 1:1250 by Neptun:) 

同級は、船体強度の観点からそれまでの船首楼型線形を改め、平甲板型の船体として設計されています。列強の大型駆逐艦に対し優速を確保するために強力な機関を搭載したこともあって、米海軍としては最大の2100トンの基準排水量の大型艦となりました。強力な機関から37.8ノットの速力を発揮することができました。

兵装は前級を継承し、5インチ両用砲(Mk 12 5インチ砲)を単装砲塔形式で5基、533mm5連装魚雷発射管2基、これに就役時には28mm4連装機関砲1基と12.7mm機銃数門を加え、さらに爆雷投射機6基、投下軌条2基を基本兵装として装備した、対空・対艦・に適応したまさに艦隊駆逐艦の決定版と言えるバランスの取れた艦で、175隻が建造されました。

f:id:fw688i:20240316175019j:image

(「フレッチャ級」駆逐艦の主要兵装配置:後部煙突脇と3番砲と4番砲の間に40mm連装機関砲が搭載されています。下述のように対空火器の増強後の姿かと

その後、基本装備であった28mm4連装機関砲では火力不足との戦訓から、40mm連装機関砲と20mm機関砲の組み合わせに多くの艦が変更し対空火力を強化しています。

第二次世界大戦では、19隻が戦没(17隻)もしくは災害事故等で失われました。

条約での制約から解放された余裕のある船体設計から、対潜装備の増設の改装等への適応力も高く、米海軍でも大戦後も長く主力駆逐艦の艦級として使用されました。戦後は49隻が日本も含め14か国に払い下げられ、その中には1990年台後半まで現役にとどまった艦もあるほど、ポテンシャルの高い艦級だったと言えるでしょう。

海上自衛隊に貸与された「フレッチャー級駆逐艦

「ありあけ級」護衛艦(1959年就役:同型艦2隻)

  ja.wikipedia.org

f:id:fw688i:20190915171617j:plain

(92mm in 1:1250 Neptune製フレッチャー級をベースに、船体中央の魚雷発射管を撤去、主砲塔をSNAFU store製のWeapopn setに換装)

海上自衛隊が米海軍から貸与されたフレッチャー級駆逐艦2隻(ヘイウッドL. エドワーズ・リチャードP. リアリー)。

2050トン、35ノット、5インチ単装砲4基、40ミリ連装機関砲5基、爆雷投射機6基

 

「アレン・M・サムナー級」駆逐艦(就役期間1943-1975:同型艦58隻)

ja.wikipedia.org

f:id:fw688i:20240316175748j:image

 (「アレン・M・サムナー級」駆逐艦の概観。92mm in 1:1250 by Neptun) 

同級は「フレッチャー級」の改良強化型として設計されました。船体を2300トン級に拡大し、主砲を単装砲6基搭載する計画でした。設計途中にMk.38連装砲塔が実用化され、結局主砲は連装砲塔形式で3基搭載されることになりました。しかし配置が艦首部に2基搭載となったため、艦首部が重く凌波性に課題を持つ設計となってしまいました。

艦首部の連装砲塔2基への射界確保とバランス改善のため艦橋等上部構造はやや低い設計と改められました。連装砲塔の採用で上部構造にはスペースが生じ、40mm機関砲等の対空火力が増強されました。

(「アレン・M・サムナー級」駆逐艦の主要兵装配置:兵装ではないですが、艦橋をはじめ各部の構造高が低減されています。2番煙突の後部に40mm4連装機関砲が両舷むけに設置されています。主砲の連装砲塔化により魚雷発射管の位置、対空砲の搭載数などに余裕が生じているのがわかると思います

機関は「フレッチャー級」のものを踏襲したため、重量増に伴いやや速力は低下し34ノットにとどまり、さらに航続距離が減少してしまい、これも高速化を進めている空母機動部隊の随伴艦としては大きな課題とされました。

これらの要因から計画時には100隻の建造を予定されていた同級(駆逐艦としては70隻を建造する計画)は、70隻の建造(駆逐艦としては58隻の建造)で打ち切りとなり、建造は次級「ギアリング級」へと移行することとなりました。

 

第二次世界大戦数結までに高速敷設艦として完成された12隻を含め67隻が完成し、4隻が戦没しています。大戦後は9カ国に譲渡あるいは貸与され、米海軍に残った艦艇の多くは対潜装備の重質を目指した兵装の変更を受け、1960年前後には当時現役にあった32隻がDashや対潜短魚雷発射管の搭載等の対潜兵装を強化するFRAM-II改装を受けるなどして1970年頃まで海軍に在籍していました。

(上掲の写真はFRAM-II改装後の「アレン・M・サムナー級」「ライマン・K・スヴェンソン」のモデル by SeaVee(モデルは未保有))

煙突間の上甲板に斜めに固定された長魚雷発射管と三連装短魚雷発射管、艦尾主砲塔前にDash運用甲板がみとめられます。写真は例によってsammelhafen.deより拝借しています。

 

ギアリング級駆逐艦(就役期間1945-1987:同型艦94隻)

ja.wikipedia.org

f:id:fw688i:20240316180125j:image

 (「ギアリング級駆逐艦の概観。95mm in 1:1250 by Neptun:モデルは2番発射管を撤去して対空砲を増強した姿です) 

この第二量産期の最後の艦級「ギアリング級」は「フレッチャー級」系列の駆逐艦の最終発展形と言える艦級で、前級「アレン・M・サムナー級」で好評であった重武装はそのまま継承し、一方課題とされた艦隊に帯同する際に不足が顕著となった航続力と、艦首部の重量過多からくる凌波製が改善された艦級でした。

(「ギアリング級」駆逐艦の主要兵装配置:前述のように写真下段でご覧いただけるように、2番発射管位置に40mm4連装機関砲が設置され、対空火力が増強されています

第二次世界大戦終結で152隻の建造計画は94隻で終了しましたが、大半が大戦終結後の就役で、大戦での戦没艦はありませんでした。大戦終結後も各種の改装を受け1970年代まで艦隊に中核戦力として留まっていました。

近代化改装の一例

(写真は「ギアリング級駆逐艦「グレノン」のFRAM-I改装時の姿(モデルは未保有)by Neptun)

主砲塔は艦首・艦尾各1基のみ残され、艦首部には対潜短魚雷3連装発射管、艦中央にアスロック・ランチャー、艦尾主砲塔前にDash運用甲板が認められます。写真は例によってsammelhafen.deより拝借しています。

 

ミサイル駆逐艦「ジャイアット」:米海軍初の艦対空誘導ミサイル駆逐艦(DDG)

 ja.wikipedia.org

f:id:fw688i:20230625131133p:image

(上の写真は米海軍初のミサイル駆逐艦(DDG)に改装された「ギアリング級駆逐艦3番艦「ジャイアット」の概観:by Hansaに武装を少し手を入れています)

同艦は「ギアリング級」3番艦で、第二次世界大戦終結間際の1945年6月に就役しました。1956年計画で対空ミサイル駆逐艦に改造が決定し、テリア・ミサイル搭載の米海軍初のミサイル駆逐艦となりました。

ja.wikipedia.org

f:id:fw688i:20230625131344p:image

(上の写真は「ジャイアット」の主要兵装の配置:艦中央のMk 33はシールドなしの方が良かったかも。艦尾にはテリア・システムのRIM-2連装ミサイルランチャーが搭載されました(写真下段))

他国への売却・供与

1970年代になり、「スプルーアンス級駆逐艦やその他のより近代装備のフリゲート艦が就役し始めると、「ギアリング級駆逐艦は米海軍を退役し、他国に売却・供与されました。その数は11カ国に及び、1990年代にはほとんどが退役しましたが、メキシコ海軍の「ネツァルコヨトル」は2014年まで在籍していました。

 

というわけで今回はこの辺りで。

次回はおそらくこのミニシリーズの最終回、現用艦までの発展を一気にと考えています。

 

もし、「こんな企画できるか?」のようなアイディアがあれば、是非、お知らせください。

 

模型に関するご質問等は、いつでも大歓迎です。

特に「if艦」のアイディアなど、大歓迎です。作れるかどうかは保証しませんが。併せて「if艦」については、皆さんのストーリー案などお聞かせいただくと、もしかすると関連する艦船模型なども交えてご紹介できるかも。

もちろん本稿でとりあげた艦船模型以外のことでも、大歓迎です。

お気軽にお問い合わせ、修正情報、追加情報などお知らせください。

 

ブログランキングに参加しました。クリック していただけると励みになります。

 

 

 


艦船ランキング