相州の、ほぼ週刊、1:1250 Scale 艦船模型ブログ

1:1250スケールの艦船模型コレクションをご紹介。実在艦から未成艦、架空艦まで、系統的な紹介を目指します。

新着書籍のご紹介:そのタイトルはなんと「海防戦艦」

先週末は予告通り帰省と小旅行に出かけたので、久々に更新をお休みさせていただきました。

なんだかひどく暑かったり、雨が続いたり、さらにコロナ感染者数がこれまでとは桁違いに増えたり、と何かと落ち着かない昨今ですが、少しそうした事を忘れて(と言ってももちろんマスクをし、至る所で検温をしたり、台風の接近を気にしたりしながら、ではありますが)、ゆっくりとリラックスできました。

模型生活についても少しお休み状態で、以前に少し触れましたが「フランス海軍」の近代戦艦以前の、いわば戦艦黎明期のいくつかの艦級が手元に到着して入るので、少しだけ色を塗ってみたり、手を入れたりをした程度でした。

仕事と模型生活という筆者の二つの主軸を休止して数日を過ごし、数日前から再始動、社会復帰のリハビリ中、ということで、今回も半分、お休み、のような投稿にさせていただきます。

今回はそういうお話。(今回は「本」が主役です。模型はあくまで添え物ですので、ご容赦ください)

 

そんな状況の中で、実はすごい本を見つけてそして買ってしまいました。

海防戦艦」橋本若路著(イカロス出版

その名も「海防戦艦」。本稿の読者であればご存知のように筆者は「海防戦艦」が大好きですので、一も二もなく早速入手。

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まずこの書籍の存在を知った際に「ええ、こんなマイナーは艦種の本。あるの」と、これが最大の驚きだったのですが、手元に届いて2度目のびっくり。

Amazonでは、商品ページには版型の説明がなく、ソフトカバー、356ページとだけ記載されていたので、単行本をイメージしていたのですが、手元に届いてビックリ。AB版、つまりかなり大型の図鑑のような本でした。こ、これは持ち歩けない・・・。

しかしその内容たるや実に詳細で15カ国の「海防戦艦」を保有した国が網羅され、未成艦も含めそれぞれの艦級についての図面・写真が満載。もちろんその建造の背景や艦歴も詳述されています。これはもう宝物です。

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興味のある方はこちらからどうぞ。

www.amazon.co.jp

海防戦艦」という艦種については、本稿でもフィンランド海軍の「イルマリネン級」(本書では「ヴァイナモイネン級」と記載されています)に端を発し、スウェーデン海軍を中心に筆者の「海防戦艦コレクション」をご紹介してきていますが、この本の著者も前書きで「何度目かの小艦巨砲マイブーム」の発端は「スウェーデン海軍の「グスタフ5世」のカラー写真を見たこと」とおっしゃっており、なにやら嬉しい共感を覚えています。(「小艦巨砲」。この一言、なかなか出てこない!)

海防戦艦「グスタフ5世」

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(上掲の写真は、本書の著者の「小艦巨砲マイブームの火付け役」となったとおっしゃっているスウェーデン海軍海防戦艦「スヴァリィエ級」3番艦の「グスタフ5世」の近代化改装後の概観。96mm in 1:1250 by Argonaut  筆者の大好物の集合煙突を搭載しています。下の写真は「グスタフ5世」の中央構造の拡大:集合煙突の採用で、艦容が一段とスマートに見えます(見えません?筆者が集合煙突が好きなだけか?)

 

「スヴェリィエ級」海防戦艦の就役時から近代化改装の変遷

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スウェーデン海軍が建造した最後の海防戦艦「スヴェリイェ級」の就役時と改装後の比較:同型艦3隻の外観が異なると言うのは、戦術的に見れば、あまり上策とは言えないような気がします。が、スウェーデン海軍の存立目的である「プレゼンスを示し、戦いを抑止する」と言う視点で見れば、これはこれであり、のようにも思います)

 

海防戦艦という艦種

本書でも著者は冒頭に「海防戦艦」という艦種は公式には存在しないと明記されていますが、ではどのような艦種なのか、少し筆者の定義についてご紹介しておきます。(今回取り上げている「海防戦艦」の著者の定義の方がより広いような気はしています)

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海防戦艦」は、英語では概ね coastal defence ship(もしくはcoastal defence battleship) と表記されます。直訳すると「沿岸防備艦」というわけで、この文字通りの意味であれば、警備艦艇はほとんどこの領域の任務に就くことになるのですが、この中でも一般的な「戦艦」の定義から見ると比較的小型の船体(沿岸部で行動することを念頭におくと、あまり深い吃水を持たせられない。このために船体の大きさに制限が出てくるのかも)に大口径の主砲を搭載し、かつ一定の装甲を有する艦を特に「海防戦艦」(Coastal defence ship)と呼ぶようです。

保有国には、以下のような大きな二つの地政学的な条件があるように思われます。つまり防備すべき比較的長い海岸線、港湾都市を持つこと。そしてその海岸線が比較的浅い、そして大洋に比べて比較的波の穏やかな内海に面していること。

結果、バルト海、地中海、黒海などに接続海岸を持つ国の占有艦種と言っても良いのではないでしょうか?従って保有国は限定され、バルト海の沿岸諸国として、ロシア帝国、初期のドイツ帝国(彼らは後に大洋海軍を建設します)、スウェーデンデンマークノルウェイノルウェイバルト海には面していませんが、大西洋に開けた長い接続海面を持っています)、フィンランド。地中海ではイタリア(装甲砲艦という艦種で装備されました)、フランス、ギリシアオーストリア=ハンガリー帝国などが同艦種に分類される軍艦を保有しました。(一部、地政学的な条件から見ると例外は南米諸国ですが、これらは新興諸国が海岸線防備のために比較的手軽に装備できる(購入できる)艦種、として整備を競った、という別の歴史的な背景があると、筆者は理解しています)

類似艦種としては沿岸防御の浮き砲台としての「モニター艦」がありますが、これは海防戦艦に比べると、さらに局地的な防御任務に適応しており、航洋性、機動性はより抑えられた設計になっています。

 

以下に本稿で各国海軍の「海防戦艦」に関連する記述を扱った回を一覧しておきます。

fw688i.hatenablog.com

fw688i.hatenablog.com

fw688i.hatenablog.com

fw688i.hatenablog.com

fw688i.hatenablog.com

fw688i.hatenablog.com

 

北欧諸国と「海防戦艦

上記の投稿でもご覧いただけるように、本稿での「海防戦艦」に関する記述はフィンランドスウェーデンといった北欧諸国が中心なのですが、今回ご紹介している書籍「海防戦艦」でも約3分の2が北欧諸国(「デンマーク」「スウェーデン」「ノルウェー」「フィンランド」)の保有した「海防戦艦」に割かれており、バルト海沿岸御諸国では「海防戦艦」が主力艦として隆盛を極めた事を物語っていると思います。

北欧諸国の海防戦艦については未成艦・計画艦についても図面はもちろん背景等についても詳述されていて、興味がつきません。

スウェーデン海軍未成海防戦艦ヴァイキング級(仮称)」

"Viking class" (1934/36): Dimensions: 133m x 19,5m x 6,85m, Displacement: 7.150tons standard, Populsion: 20.000shp, 4 shafts, 22 knots, protected by a belt 254mm thick and 50 mm decks, four 254mm Guns (2x2) and 2x3 120m DP-AA Guns, 4x2 40m AA Guns.

https://naval-encyclopedia.com/ww2/swedish-navy.php

(未成海防戦艦「Project 1934」の概観:103mm in 1:1250 by Anker:「Project1934」には「ヴァイキング級」という名前が予定されていたようです。同級は、それまでの「海防戦艦」と異なり、塔形状の前部マストやコンパクトにまとめられた上部構造など、フィンランド海軍の「イルマリネン級」にやや似た近代的(?)な外観をしています。7500トン級の船体に、武装は10インチ連装砲2基と、4.5インチ両用連装砲4-6基を予定していたようです。速力は22−23ノット程度)

スウェーデン海軍未成海防戦艦「アンサルド社1941年提案型」

Ansaldo Project 1 (1941): 173 m x 20m x 7m and 17.000 tons standard, propelled by 90.000shp on 4 shafts, and a top speed of 23 knots, protected by a belt of 200 mm, Decks of 120 mm and armed with six (3x2) 280 mm, 4x2 120 DP, 5x2 57 AA, 2x2 40 AA, 6x 20 mm AA Guns. The latter could have been in effect too large and costly for Sweden's needs.
Coastal Battleship projects

出典元:Swedish Navy in WW2

(海防戦艦「アンサルド社1941年提案」の概観:129mm in 1:1250 by Anker:イタリアのアンサルド社が1941年にスウェーデン海軍に新しい海防戦艦として提案したものです。上述のように17000トンの船体を持ち23ノットの速力を発揮する設計で、11インチ(28センチ)主砲を連装砲塔で3基、さらに12センチ両用連装砲4基搭載する強力な兵装を有する設計でした。スウェーデン海軍の艦船としては大きすぎ、かつ高価すぎるということで採用されなかったようです)

(「アンサルド社提案海防戦艦」と前出の実在の海防戦艦「グスタフ5世」との比較:アンサルド社提案がかなり大型であることがわかります)

 

デンマーク海防戦艦をもっと注視すべきかも、という想い

スウェーデン海軍は19世紀のある時期からバルト海での沿岸防備の主役を「海防戦艦」と定め、かなり体系的にこの艦種の開発を進めてきました。充実したランナップがあり、第二次世界大戦期においても3艦級8隻の海防戦艦と、海防戦艦を改造した水上機母艦1隻を海軍の中核戦力として据えていました。スウェーデンは北欧諸国の中では最も経済力があり、海軍以外でも自国で兵器を開発するなどのの呪力があったわけですが、実は本書では北欧諸国の中で最初に「デンマーク」が取り上げれています。

その記述は未成艦も含め8艦級に及んでいます(スウェーデン海軍も8艦級?)。筆者の投稿ではこれまで第二次世界大戦期に運用された「ペダー・スクラム」(「ヘルルフ・トロル級」)に言及したのみなのですが、本書によるとナポレオン戦争以来のデンマークの凋落を背景に、その経済力の弱体化を背景とした装甲艦開発の試行錯誤についてかなり詳しく記述されているようで(まだ本の冒頭部分を拝読しただけですが)、本稿の読者ならよくご存知のように、こうした「彷徨」は筆者の大好物でもあるので、改めてデンマーク海軍に注目してみようかな、と大いに刺激を受けています。

デンマーク海軍「ヘルルフ・トロル級」海防戦艦

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(「ヘルルフ・トロル級」海防戦艦の概観: 70mm in 1:1250 by C.O.B. Constructs and Miniature: 3D printing modelです。モデルは就役時の姿を再現しています。1939年に近代化改装を受け、対空兵装を強化、併せて前檣が近代化に合わせて大型化されていたようです。 「ヘルルフ・トロル級」海防戦艦の3番艦「ペダー・スクラム」のみ、第二次世界大戦期に、唯一就役していました。1939年に対空兵装の強化と前檣の大型化などの近代化改装を受けました。「ヘルルフ・トロル級」海防戦艦は3500トン級の船体に24センチ単装砲2基と15センチ単装砲4基を搭載し、15.6ノットの速力を有していました。非常に低い乾舷を持ち、デンマーク沿岸での運用に重点が置かれていました)

 

嬉しいことにタイ王国海防戦艦トンブリ級」の紹介も 

そして本書で一番最後に紹介されたのはタイ王国海軍の「トンブリ級」でした(本書では「スリ・アユタヤ級」として紹介されています)。

タイ王国は日本と並びアジア圏でヨーロッパ列強の植民地支配を受けずに独立を保持した数少ない国です。同王国海軍はお隣のインドシナに侵攻し領有したフランス海軍を仮想敵としており、1930年代に近代海軍の拡張を実施しました。

トンブリ級」海防戦艦はこの拡張計画の「目玉」ともいうべき艦級で、「トンブリ」「スリ・アユタヤ」の2隻が、同じアジア圏の海軍大国であった日本に発注されました。

同級は2000トン級の船体を有し、日本海軍の重巡洋艦の標準装備砲であった「50口径3年式20.5センチ砲」を連装砲塔で艦の前後に2基搭載していました

タイ王国海軍海防戦艦トンブリ級」

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(タイ王国海軍海防戦艦トンブリ級」の概観:62mm in 1:1250 by Poseidon:筆者自身もあまり馴染みのないメーカーですが、結構面白い=マニアックなラインナップを持っていそう。軍艦はタイ海軍に集中しています。日本海軍の「氷川丸」モデルも。ああ、これ持っているかも。フォルム的にはこれ「氷川丸」かな?と、ちょっと首を傾げる感じだったかもなあ。でもPoseidon社、面白いぞ、ちょっと注目です)

トンブリ級」まで網羅されているとは嬉しい限りですね。「トンブリ級」の前級にあたる(と筆者は解釈しているのですが)「ラタナコシンドラ級」が記述されながら詳述されなかったのはちょっと残縁でしたが、同級は1000トン余りの小さな船で、一般的には「砲艦」とされていますので、さすがに海防戦艦の括りに入れるには首を傾げられたのかもしれません。ある意味、納得です。(個人的にはここまで来れば、と思っただけ)

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タイ王国海軍砲艦「ラタナコシンドラ級」

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(筆者も模型は未入手です。一応、Poseidon社から出ています。写真はEbayに出品された同級の「スコタイ」by Poseidon:小さな船体、低い乾舷、不釣り合いに大きな砲塔が魅力的)

これら以外にも「海防戦艦」を補助艦艇として導入したドイツ、フランス、ロシア、日本、そしてより本格的な主力艦導入までの「繋ぎ」として「海防戦艦」を導入したA=H 帝国、オランダ、ギリシア、南米諸国など、その紹介されている艦級の数は本当に多数です。

 

オランダ海軍海防戦艦「コーニンギン・レゲンテス級」

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(オランダ海軍海防戦艦コーニンギン・レゲンテス級」の概観:77mm in 1:1250 by Hai: /直下の写真:「コーニンギン・レゲンテス級」の主砲塔の拡大:艦首部、完備部ともに、単装主砲塔のすぐ両脇に15センチ副砲が配置され、首尾線上の方力を意識した設計だったようです)

オランダ海軍海防戦艦ヤコブ・ヴァン・ヘームスケルク級」

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(オランダ海軍海防戦艦ヤコブ・ヴァン・ヘームスケル級」の概観:77mm in 1:1250 by Hai: /直下の写真:「ヤコブ・ヴァン・ヘームスケルク」の主砲塔の拡大:艦首部、完備部ともに、単装主砲塔のすぐ両脇に15センチ副砲が配置され、首尾線上の方力を意識した設計だったようです。同艦は前出の「コーニンギン・レゲンテス級」の準同型艦でしたので貴保的なレイアウトは踏襲していますが、15センチ単装砲を両舷側に1基づつ追加装備しています)

 

上述の「デンマーク海軍」の例にもあるように、筆者の情報は格段に充実し、新たに「海防戦艦」コレクションの再整理に向けての意欲を沸かせてくださった、本当に素晴らしい本だと感謝しています。やはり「極める」ということは凄いことですね。心から脱帽です。

この素晴らしい著作に刺激されて、いずれ「海防戦艦」については追々見直してゆくことになると思っています。

 

ということで、変な興奮のままにちょっと変わった投稿になってしまったなあ、と振り返っているのですが、今回はこの辺りで。

次回は整理が進めつつあるフランス海軍のそれこそ黎明期の「海防戦艦」他等をご紹介しましょうか。

 

もちろん、もし、「こんな企画できるか?」のようなアイディアがあれば、是非、お知らせください。「以前に少し話が出ていた、アレはどうなったの?」というようなリマインダーもいただければ。

 

模型に関するご質問等は、いつでも大歓迎です。

 

特に「if艦」のアイディアなど、大歓迎です。作れるかどうかは保証しませんが。併せて「if艦」については、皆さんのストーリー案などお聞かせいただくと、もしかすると関連する艦船模型なども交えてご紹介できるかも。

 

もちろん本稿でとりあげた艦船模型以外のことでも、大歓迎です。

お気軽にお問い合わせ、修正情報、追加情報などお知らせください。

 

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