相州の、ほぼ週刊、1:1250 Scale 艦船模型ブログ

1:1250スケールの艦船模型コレクションをご紹介。実在艦から未成艦、架空艦まで、系統的な紹介を目指します。

第二次世界大戦期のノルウェー海軍艦艇(海防戦艦を中心にアップデート版)

数回に渡り再生ドイツ海軍の一連の未成戦艦や、そこからの妄想の発展形としての日本海軍の56センチ主砲搭載戦艦など、計画と妄想の入り混じった「計画艦・架空艦」など、ちょっと派手目の投稿が続いていたのですが、前回で一旦終了し、今回は新着モデルに関連して、かつ本稿で取り上げた書籍「海防戦艦」からの情報も加え、ノルウェー海軍の第二次世界大戦期の艦艇のアップデート版です。(アップデート版、とあるように2021年5月の投稿をベースにしていますので、かなりの部分は重複します。既に読んで頂いた方、そのsたりはご了解の上で)

 

ノルウェー小史と第二次世界大戦

と言うことで「ノルウェー」と第二次世界大戦の関わりを少し整理しておきたいと思います。

まずは、ノルウェーという国の成り立ちから。

近代国家としてのノルウェーは、国家のひしめくヨーロッパにおいては大変若い国です。10世紀ごろに統一王国が一旦成立しますが、14世紀に王家の直系が途絶え当時の強国デンマークの王室を君主として仰ぎ、実質上、デンマークの統治下に組み入れられました。19世紀にナポレオン戦争デンマーク王国が勢いを失うと、今度はスウェーデンと同君連合を形成します。しかしこれは当時の列強の力関係で生まれた連合で、独立の機運が国民の間に高まります。

1905年に国民投票で、デンマーク王室から国王を迎え(デンマーク王室のカール王子=ノルウェー国王ホーコン7世)、ノルウェーは念願の独立を果たします。

独立直後のノルウェー第一次世界大戦には参戦していません。

一方で地政学的に見ると、ご承知のようにノルウェーはヨーロッパの北端に位置し、スカンジナビア半島の西海岸沿いに広がる国家です。いわゆるヨーロッパ大陸の中心からは少し離れたところに位置し、幸いなことに第一次世界大戦では中立を貫き、戦火に巻き込まれませんでした。

しかし、第一次世界大戦で戦争そのもののあり方が、それ以前の「会戦」形式から「総力戦」の様相を色濃くすると、「補給路」「資源調達路」の重要度が増すにつれ、ノルウェーの北海・大西洋に向けて開かれた長い海岸線は戦略的な重要性を帯びてゆきます。かつ第一次世界大戦の敗戦で海上決戦戦力としての海軍を失ったに等しいドイツにとって、仮想敵であるイギリスに対する有効な戦略が通商路破壊による物資供給を断つことほぼ一点に絞られていくると、発達著しい航空機、浸透的な通商破壊を行うのに最適な潜水艦の基地としてのノルウェーの長い海岸線は放置できる状況ではなくなります。「半島国家は維持が難しい」、まさにこの典型が第二次世界大戦期、つまり第一次世界大戦での戦争形態の変革から顕在化してしまった、そういう解釈ができると思います。

こうして、第二次世界大戦初期の1940年4月、ドイツ軍はデンマークノルウェーへの侵攻を開始します(ウェーザー演習作戦)

デンマークは1日で降伏しましたが、ノルウェーは英仏連合軍の派兵を受け、6月までの2ヶ月間、戦闘を続けました。その後ノルウェー政府はイギリスに亡命しノルウェーはドイツの占領下に置かれました。

 

映画「ヒトラーに屈しなかった国王」

このドイツによるノルウェー侵攻をめぐる戦いを当時のノルウェー国王ホーコン7世を主人公に据えて描いた映画が「ヒトラーに屈しなかった国王」(原題:Kongens nei /英題:King's choice)です。映画の中でも確か一部触れられていた記憶があるのですが、この国王は元々がデンマーク王室の生まれで、自身「選ばれて迎入れられた国王」であるという意識が強く、映画でもそのように描かれていた、と記憶します。もしかすると、そういう背景を知って見ていると、そのように解釈できた、ということかも。この辺り定かではありません。が、大変、いい映画ですので、特にこの辺りの歴史に興味がある方にお勧めです。

www.youtube.com

(それにしてもどうしてこう言う邦題になるんでしょうかね。縁遠い話材の映画だから分かり易い邦題をつけた、と言うことでしょうか?原題の直訳(あるいは英訳)「国王の拒絶or選択」でいいような気がしますが)

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ノルウェー海軍の戦い

ノルウェーという国家自体が大変若く、従って第二次世界大戦期における海軍も若く小規模でした。

ドイツ軍のノルウェー侵攻時のノルウェー海軍の装備艦艇の一覧が下図の上段です。ざっくり言うと、大型艦としては旧式の海防戦艦4隻、他に海上戦闘用の艦艇としては新旧取り混ぜて駆逐艦9隻、旧式の水雷艇30隻足らず、他に潜水艦9隻、数隻の機雷戦用艦艇と言うこじんまりとした海軍でした。

Poster of the Norwegian Royal Navy

Royal Norwegian Navy in WW2

(この資料は上記のウェブサイトからお借りしています。ちなみに上図下段は、英国に亡命した政府が組織した「自由ノルウェー海軍」の艦艇です。主として英国からの供与艦艇で構成されています。今回はあまり触れません)

 

海防戦艦:Coastal Deffence Ship

ノルウェー海軍は以下の2艦級の海防戦艦第二次世界大戦時には運用していました。f:id:fw688i:20210523130845j:image

(ノルウェー海軍の海防戦艦2艦級:「ハラール・ホールファグレ級」(手前)と「ノルゲ級」(奥))

しかし「ハラール・ホールファグレ級」の2隻は既に旧式で主砲も陸揚げして沿岸砲として活用されるなど、ほとんど浮施設(ハルク)的な利用に限られていました。

 

ハラール・ホールファグレ級」海防戦艦同型艦2隻) 

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(「ハラール・ホールファグレ級」海防戦艦の概観:74mm in 1:1250 by C.O.B. Constructs and Miniature: 3D printing modelです)  

本級はノルウェー海軍が建造した最初の海防戦艦の艦級です。同海軍はそれまで自国の長い海岸防備として数隻の非装甲の砲艦と4隻の旧式のモニター艦を保有していました。モニター艦はいずれも装甲を保有していましたが、速力が8ノット程度で、航洋性を備えているとは言い難く、拠点防御に重点を置いた設計でした。同級はこれらの装甲艦の代替として建造されたものでした。建造は英国の造船所に委託されました。就役は同型艦2隻とも1898年で、同世代のスウェーデン海軍の海防戦艦にほぼ準じて、3500トン弱の船体に主砲として21センチ単装砲を2基、艦首と艦尾に、副砲として12センチ単装砲を6基、こちらは各舷上甲板に3基づつ搭載しています。速力は17ノットを発揮することができました。

ドイツ軍侵攻時の同級

両艦とも1940年のドイツ軍侵攻時には既に旧式であったため主砲は沿岸砲として陸揚げされており(1930年ごろ)、海防戦艦としては機能していませんでした。

防空艦「テーティス級」への改装

占領後にドイツ軍によって接収され、2隻ともに自力航行のできる防空砲台(防空艦)に改造され、「テーティス」「ニンフェ」と改名されました。防空艦としては10.5センチ単装対空砲6基、40ミリ対空機関砲2基、20ミリ対空機関砲14基を搭載していました。

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(ドイツ海軍接収後、防空艦に改装されました。「テーティス」の概観(上)と兵装配置の拡大(下):ハリネズミのように(と陳腐な表現ですが)配置された対空火器:by Mercator:低い乾舷が海防戦艦としての出自をとどめてい流様に感じます)

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1945年、ドイツ降伏後は両艦ともノルウェーに返還され艦名も旧名に戻されましたが、まもなく解体されています。

 

「ノルゲ級」海防戦艦同型艦2隻) 

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(「ノルゲ級」海防戦艦の概観:75mm in 1:1250 by C.O.B. Constructs and Miniature: 3D printing modelです)  

本級はノルウェー海軍が就役させた2番目の海防戦艦の艦級で、4000トン級と前級よりも少し艦型を大きくし、主砲は前級同様の21センチ単装砲塔2基でしたが、副砲の口径を15センチに強化して6基を搭載していました。速力は前級とほぼ同等でした。f:id:fw688i:20210321131303j:image

( 4000トン級の船体に21cm単装砲2基と15cm単装砲6基を搭載するノルウェー海軍の保有する最大最強の海防戦艦です)

同級の建造の経緯には自国の長い海岸戦防備には6隻の同種の艦艇が必要とする当時の試算があり、そのうち2隻は前級「ハーラル・ホールファグレ」級が埋め、これに次ぐ艦級として建造に至ったわけです。同級も英国に発注されました。

やや複雑なのは、前級も含め、これらの就役年次には、ノルウェー自体はまだスウェーデンとの同君連合政体下にあり、つまり一方ではスウェーデンと連携した国防を意識しながら、もう一方では国内で高まる独立機運からスウェーデンとの戦争も意識する、そんな背景で同級は肝臓され就役した訳でした。この辺りの微妙な海軍の立ち位置、その変遷等、かなり詳しく本稿で何度か紹介している橋本若路氏の名著「海防戦艦」では記述されています。興味のある方は是非ご一読をお勧めします。

(「海防戦艦」橋本若路氏著:イカロス出版

www.amazon.co.jp

ドイツ軍侵攻時の同級

1940年のドイツ軍の侵攻時にはノルウェー海軍最大の艦船で、2隻ともナルヴィク・フィヨルドに配置されていました。

両艦は上陸部隊を輸送してきたドイツ駆逐艦部隊と戦闘を交えますが、最初の交戦で駆逐艦の発射した魚雷により撃沈されました。この戦いを皮切りとしてナルヴィク・フィヨルドでは、その後、英海軍とドイツ海軍の間で数次にわたる海戦が行われ、ドイツ駆逐艦の墓場となるのです。

 

ちょっと寄り道:ナルヴィク攻略戦 ードイツ駆逐艦の墓場

1940年4月、ドイツはノルウェー侵攻を開始します。(ウェーゼル演習作戦)

ノルウェーの北極圏に位置するナルヴィクはオーフォートフィヨルドの最深部に位置し、北大西洋海流に影響されて冬季でも利用可能な不凍港でした。ドイツは鉄鉱石の多くをスウェーデンから供給されていましたが、そのボスニア海に面した積み出し港が冬季には凍結するため、ナルヴィクはその搬出ルートとして大変重要でした。

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侵攻戦の一環として、ドイツは当時ドイツ海軍全体で22隻しか保有していなかった駆逐艦のうち10隻を割いて、エデュアルト・ディートルの指揮する山岳猟兵連隊を基幹とする精鋭部隊約2000名をこれに分乗させ、ナルヴィク・フィヨルドに直接送り込みました。

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当時ノルウェー海軍最大の主力艦というべき「ノルゲ級」海防戦艦2隻は上述のように、ナルヴィク港に配置されていて、侵入するドイツ駆逐艦に対し砲撃を加えましたが、両艦共にドイツ駆逐艦の魚雷で撃沈され、ドイツ軍山岳猟兵連隊は無事に上陸を果たし、ナルヴィクをほぼ無血占領しました。

 

以下、ノルウェー海軍の視点で言うと少し余談的にはなりますが、この後も、ナルヴィクを巡る戦闘は継続されており、少しそれをご紹介しておききます。

第一次ナルヴィク海戦

当時、この陸兵をナルヴィクに輸送したドイツ駆逐艦部隊は次の艦級で構成されていました。「Z1級」1隻、「Z5級」4隻、「Z17級」5隻。これらも簡単にご紹介。

「Z1級」同型艦4隻

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(「Z1級」駆逐艦の概観:95mm in 1:1250 by Neptune) 

同級は前述のドイツ最軍備宣言、英独海軍協定の締結を経て、それまでのベルサイユ条約の制限を脱した艦級として新たに建造されました。「1934年型」と呼ばれることもあります。

それまでドイツの駆逐艦は800トンの排水量制限を受けていましたが、同級は同時期にフランスやポーランドが整備中であった大型駆逐艦に対抗するため、いきなり2200トン級の大きな船体を与えられています。

搭載兵装は、5インチ単装砲5基と21インチ4連装魚雷発射管2基と標準的で、36ノットの速力を有していました。しかし搭載した新型の高圧ボイラー等の機関の整備が難しいなど、課題が見つかったため、4隻で建造が打ち切られ、改良型の後述の「Z5級」に建造は移行しました。

「Z5級」同型艦12隻

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(「Z5級」駆逐艦の概観:96mm in 1:1250 by Neptune) 

 前出の「Z1級」駆逐艦の改良型で、12隻が建造されました。「1934年型A]と呼ばることもあります。

前級で課題のあった機関に改良が加えられ、併せて凌波性を改善するために船首楼を若干高くするなど設計に手が入れられ、結果やや船体が大きくなり、速力も38ノットに向上しています。一方兵装とその配置はほぼ前級を踏襲しています。

「Z17級」同型艦6隻ja.wikipedia.org

(「Z17級」駆逐艦の概観:97mm in 1:1250 by Neptune) 

 同級は前級「Z5級」の改良型で、若干船体が大きくなっています。「1936年型」と呼ばれることも。外見的には煙突が低くなる、後檣の位置の変更、艦首形状の変更などが見られます。兵装は前級に準じています。

 

陸兵を下ろしたドイツ駆逐艦部隊は、帰途につくために燃料補給を行いますが、給油船の手配に齟齬があり、予定より時間を要してしまいました。

その間に、イギリス海軍のH級駆逐艦5隻からなる駆逐艦部隊がオーフォートフィヨルドに侵入し、ドイツ艦隊を奇襲しました。ドイツ駆逐艦もこれに反撃し、双方2隻づつの駆逐艦を失いました。規模としては小さな戦闘でしたが、双方の指揮官が戦死するなど、狭い海面での激戦だったと言えるでしょう(第一次ナルヴィク海戦:1940年4月9日)。

この戦闘の結果、ドイツ駆逐艦部隊は2隻の損失の他4隻が損傷を受け、損傷のない4隻は給油を受けていない状況で帰途につける状態ではありませんでした。

「H級」駆逐艦

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(「H級」駆逐艦とほぼ同等の外観を持つ「G級」駆逐艦の概観:79mm in 1:1250 by Neptune: そして直下の写真は、「G級」と「I級」駆逐艦の艦橋のアップ。「H級」の艦橋は下の「I級」の方が近い形状をしているかもしれません。こうして整理するまで、実は「H級」のモデルが手元にないことに気がつきませんでした。やれやれ) 

第二次ナルヴィク海戦

4月13日、戦艦「ウォースパイト」と「トライバル級駆逐艦を中心に9隻の駆逐艦で構成された英艦隊がオーフォートフィヨルドに再び侵入し、ドイツ駆逐艦部隊と交戦しました。

戦艦「ウォースパイト」

(「クイーン・エリザベス級」戦艦の1942近代化改装後: 32,930t, 23knot, 15in *2*4, 5 ships,154mm in 1:1250: 戦艦「ウォースパイト」は第一次世界大戦中に建造された「クイーン・エリザベス」級の一隻で、数次改装を経たとは言え、第二次世界大戦期にはすでにロートル艦と言っても良い艦齢でした。しかし大戦中には八面六臂ともいえる活躍をし、多くの識者から「大戦中の最優秀戦歴戦艦」の呼び声が高い船ですね。 日本海軍でも最も活躍した「金剛級」の4隻もやはり主力艦中の最旧式艦であり、旧式艦ならでは、物惜しみされずいろいろな戦場に投入される、ということなのかもしれません。ナルヴィクでの戦闘でもフィヨルド外まで「ウォースパイト」と同行していた「レナウン」は、その稀な高速性からオーフォートフィヨルドの狭い海面での戦闘での不測の事態を懸念して温存方針が出され、フィヨルド侵入戦に投入されませんでした)

トライバル級駆逐艦

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 (直上の写真:「トライバル級駆逐艦の概観。91mm in 1:1250 by Neptune

イギリス海軍第一次世界大戦後新たな設計のもとで1920年代以降建造してきた一連の駆逐艦の集大成というべき艦級で、駆逐艦部隊の旗艦として巡洋艦の代替も出来る様に設計された大型駆逐艦です。1900トンクラスの船体を持ち、これに12cm連装砲4基、53.3cm4連装魚雷発射管1基を搭載し、36.5ノットの速力を発揮しました。

4隻の損傷艦と初期の侵攻戦と第一次海戦で弾薬の欠乏したドイツ駆逐艦部隊は次第に追いつめられ、最終的には10隻全てが失われました。英艦隊は駆逐艦3隻が損傷しました。

冒頭にも記述しましたが、当時ドイツ海軍は駆逐艦を22隻しか保有しておらず、そのうち10隻が一気に失われたことは大打撃でした。

その後、ナルヴィクを巡ってはノルウェー軍とそれを支援するイギリス軍、フランス軍ポーランド軍部隊により、5月ナルヴィクは奪還され、ドイツ陸軍の山岳猟兵部隊は周辺の山地に追いやられましたが、結局、フランスでの英仏軍の敗北により、連合軍は撤退を決定し、ドイツ軍が再度占領することとなりました。

 

ちょっとナルヴィク攻防戦で大きく話がノルウェー海軍からそれていましましたが、ここからは再び「海防戦艦」のお話。

実はノルウェー海軍には第一次世界大戦期に、もう一つ、計画中だった海防戦艦の艦級があったのです。以下の紹介する「ニロダス級」は第一次世界大戦の勃発で、一旦英国軍艦として就役し、その後、ノルウェー海軍に復帰することなく、早々に英海軍を退役、第二次世界大戦前にスクラップ化されましたが、もし計画通りノルウェー海軍の海防戦艦として完成していれば、間違いなく第二次世界大戦期にもノルウェー海軍の最大、最強の装甲艦艇として現役であったはずなので、ここでご紹介しておきます。

「ニダロス級」海防戦艦同型艦2隻)

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(英海軍モニター艦として就役した「グラットン」(旧ノルウェー海軍海防戦艦「ビョルグウィン」(「ニロダス級」二番艦)の概観:76mm in 1:1250 by Neptun:下の写真は「グラットン」の兵装配置。オリジナルの設計では10センチ単装砲が6基搭載される予定でしたが、このモデルではちょっと見当たりません。後述しますが、「グラットン」の仕様説明でも10センチ砲(4インチ砲)については記述がなく、代わりに3インチ高角砲の記述があるので、英海軍の兵装仕様で完成された、と言うことだと思います)

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前級「ノルゲ級」の項で触れたように、ノルウェー海軍は6隻の海防戦艦で自国海岸警備を行う、と言う試算に基づく戦備整備計画が組まれていました。

同級はこの計画の一環として「ハーラル・ホールファグレ級」「ノルゲ級」各2隻に続く艦級として設計されました。しかし財政的背景や、独立期の政権整備等の要因で実際に着工に至るまでかなりの時間がかかりました。

設計段階では4000トンから6000トンまで複数の案が検討され、主砲口径も30センチ単装砲2基搭載案、24センチ連装砲搭2基搭載案、同単装砲塔2基搭載案など、複数の案がありましたが、最終的には4900トン級の船体に24センチ単装主砲塔2基(前級の21センチ主砲よりも強化)、15センチ単装副砲等4基、10センチ単装砲6基を搭載し、15ノットの速力を発揮する設計としてまとまりました。

同級2隻は1913年に英国に発注されましたが、第一次世界大戦の勃発し、英国軍艦の建造が優先され工事が遅れ、最終的には英国が買収し沿岸砲撃用の自国戦力として使用することとなりました。その際に、航洋性を高めるために両舷に巨大なバルジを装着し、武装も英国式に改められて、1918年に英国海軍モニター艦「ゴーゴン」「グラットン」として就役しました。

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(戦後、ノルウェー海軍での使用に際し障害となった原則の巨大なバルジ:艦幅が後の運用の妨げとなる、と判断されたようです。やはり4インチ砲搭載の痕跡はありません)

このバルジ装着等により艦幅が大幅に拡大され、修復等に使える施設が見当たらず、ノルウェー海軍での運用は難しくなり、第一次世界大戦後もノルウェー海軍に編入されることはありませんでした。

上掲の写真で登場した「グラットン」自体は就役直後に爆発事故で喪失されていますが、英海軍モニターの「ゴーゴン級」の一番艦「ゴーゴン」(ノルウェー海軍での計画艦名「ニロダス」)は第一次世界大戦後の1928年まで試験艦として現役でした。もし第一次世界大戦後にノルウェー海軍が引き取っていたら、同海軍の最大・最強の装甲艦となって、おそらく第二次世界大戦でドイツ海軍と交戦していたでしょう。

 

ノルウェー海軍海防戦艦の各艦級比較

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(上の写真は手前から「ハーラル・ホールファグレ級」「ノルゲ級」「ニロダス級」の順:この3艦級で海防戦艦6隻を主軸とした海防体制が出来上がる予定でした)

 

 機雷敷設艦「Froya」(同型艦なし)

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機雷敷設艦「Froya」の概観: 62mm in 1:1250 by Argonaut)  

 本艦はノルウェー海軍が第一次世界大戦中に建造した機雷敷設艦です。機雷敷設艦として設計された艦としては、ノルウェー海軍で最初のものでした。

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(機雷敷設艦「Froya」の兵装配置の拡大:魚雷発射管まで搭載しています(下段)。速力を除けば、ほぼ駆逐艦と同等の戦力を有しています)

 600トンの小ぶりな船体を持ち、4インチ単装砲4基、魚雷発射管2基を備え、180発の機雷を敷設する能力がありました。就役時、当時の機雷敷設艦としては高速の22ノットを発揮することができました。のちに3インチ対空砲が追加装備されています。

ドイツ軍の侵攻時にはトロンハイムに停泊中で、砲撃や爆撃にさらされました。結局、脱出の見込みが失われ、ドイツ軍への接収を避けるために自沈してしまいました。

自沈跡は今でもダイビングスポットになっている、とか。

 

駆逐艦:Destoryer/Torpedo boat 

ノルウェー海軍は第二次世界大戦には以下にご紹介する2艦級9隻の駆逐艦保有していました。

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(ノルウェー海軍の駆逐艦2艦級:「ドラグ級」(手前)と「スレイプニル級」(奥))

 

「ドラグ級」駆逐艦同型艦:3隻)

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(「ドラグ級駆逐艦の概観: 57mm in 1:1250 by Argonaut)  

本級はノルウェー海軍が第一次世界大戦前に自国の沿岸警備目的で建造した駆逐艦です。550トンの小さな船体に3インチ単装砲6基、単装魚雷発射管3基とやや同時代の列強の駆逐艦と比較すると重装備艦と言っていいかと思います。おそらく航洋性や航続距離には目を瞑り、自国沿岸での敵性排除の戦闘力に重点を置いた設計だったのではないかと。27ノットの速力を出すことができました(これは当時:1909年頃の標準的な速度)。

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(「ドラグ級」の兵装配置の拡大:小さな船体に不似合いなほど隙間なく兵器が配置されています。フィヨルドの多いノルウェーの海岸線警備に重点をおけば、航洋性の犠牲にしてでもこうした過多な兵装もある意味納得できるかも)

ドイツ軍の侵攻時には、もちろんもう十分に旧式でしたが、周辺情勢の悪化から1939年に再就役し、戦闘に参加しています。1隻が失われ、2隻がドイツ軍に接収されましたが、ほとんど戦力としては活用されなかったようです。1隻は1944年に除籍され解体。もう1隻はドイツ降伏後に返還されましたが、1949年に解体されました。

 

スレイプニル級」駆逐艦同型艦:6隻)

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(「スレイプニル駆逐艦の概観: 60mm in 1:1250 by Argonaut)  

本級は第二次世界大戦直前にノルウェー海軍が建造した駆逐艦の艦級です。後期型3隻がやや大きな船体を持ったことから「オーディン級」として扱うこともあるようです。f:id:fw688i:20210523125207j:image

(「スレイプニル級」の兵装配置の拡大:「ドラグ級」の血筋? 小さな船体にも関わらず、航洋性の犠牲にしてでもこうした過多な兵装は、継承されてるようです)

 600トン級の小さな船体を持ち、これに4インチ単装砲3基、40ミリ対空機関砲1基、連装魚雷発射管1基を装備、さらに爆雷投射基を4基装備すると言う、やはり前級同様、沿岸警備に特化した重装備艦と言ってもいいかもしれません。速力は30ノットを発揮することができました。

1940年のドイツ軍の侵攻時には、2隻はまだ艤装中で、1隻(「エーゲル」)がドイツ空軍の爆撃で失われています。戦闘の終結後は、1隻(「スレイプニル」)はイギリスに脱出し自由ノルウェー海軍の一員として活躍しましたが、残る4隻は艤装中のものも含めてドイツ海軍に接収され、ドイツ海軍の水雷艇として活動しました。

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(「スレイプニル駆逐艦は、ドイツ海軍の接収後、水雷艇として運用されました。「レーヴェ」「パンター」「ティーガ^」「レオパルド」などネコ科の大型捕食獣の名前がつけられました。2番主砲が対空砲に換装されています(下段)by Argonaut) 

1945年のドイツ降伏後は全て返還され、ノルウェー海軍で再就役し、1953年にはフリゲート艦に艦種移籍しています。1959年に全て退役しました。

**ノルウェー基軍は第二次世界大戦期に、多数の第一次世界大戦当時、あるいはそれ以前の旧式な水雷艇を沿岸警備目的で運用していました。

 

 潜水艦:Submarine

ノルウェー海軍は第二次世界大戦開戦時には2クラス9隻の潜水艦を保有していました。 「A2級」潜水艦(同型艦:3隻)

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(「A2級」潜水艦の概観: 37mm in 1:1250 by Oceanic )  

 本級は第一次世界大戦直前にノルウェー海軍がドイツから購入した潜水艦です。300トン弱の小さな潜水艦で、主兵装として魚雷発射管3基を搭載していました。

3隻ともにドイツ軍のノルウェー侵攻作戦で失われました。(「A2」:戦闘で喪失、「A3」「A4」:自沈)

 

「B級」潜水艦(同型艦:6隻)

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本級は1920年代に米海軍の「L級」潜水艦をノルウェーライセンス生産した潜水艦です。

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(モデル未入手)

「L級」潜水艦は、第一次世界大戦期に米海軍が建造した初の450トンクラスの航洋型潜水艦で、18インチ魚雷発射管4基を主兵装としていました。性能的には凡庸でしたが、偵察巡行では良好な成績を示していたようです。

ドイツ軍のノルウェー侵攻時には「B1」は英国に脱出しましたが、「B3」は自沈。残りの4隻はドイツ海軍に接収されました。

 

と言うことで、なんともマニアックな内容となりましたが、今回はここまで。

 

 次回は・・・。未定ですが、新着モデル、あるいは整備中のモデルなどがいくつかありますので、そのあたりで何かテーマを見つけて、と考えています。(日本海軍の機動部隊小史なども途中ですので、その辺りも気にはなっているのですが)

もし、「こんな企画できるか?」のようなアイディアがあれば、是非、お知らせください。

 

模型に関するご質問等は、いつでも大歓迎です。

特に「if艦」のアイディアなど、大歓迎です。作れるかどうかは保証しませんが。併せて「if艦」については、皆さんのストーリー案などお聞かせいただくと、もしかすると関連する艦船模型なども交えてご紹介できるかも。

もちろん本稿でとりあげた艦船模型以外のことでも、大歓迎です。

お気軽にお問い合わせ、修正情報、追加情報などお知らせください。

 

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