相州の、ほぼ週刊、1:1250 Scale 艦船模型ブログ

1:1250スケールの艦船模型コレクションをご紹介。実在艦から未成艦、架空艦まで、系統的な紹介を目指します。

コレクターの日常:計画艦:H44型戦艦の完成(艦底パーツの到着)

今回は珍しく筆者の予想通り「H級戦艦-44型」の艦底パーツが届いたので、そのご紹介を。かなり「おまけ」的な回になりそうです。

1:1250スケールモデルの艦底パーツ

そもそも筆者が本稿でご紹介している1:1250スケールの艦船モデルは、一部の潜水艦を除いてほとんどがウォーターラインモデルです。潜水艦にせよ、必ずウォーターラインモデルが準備されており、その補完としてフルハルモデルが準備されています。

今回到着したのは「H44型」の艦艇パーツです。

実は筆者にとっては初めての水上艦艇の艦艇パーツだったので、かなり興味津々だったのですが、まずはご覧あれ。

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このうえに「H44型」のウォーターライン部分を載せる、と言うことですね。色は到着したモデルのオリジナルカラーをそのままにしてあります。ところどころ、手を入れたり、塗料の剥がれがあった部分は、「フラットグリーン」(タミヤのエナメルカラー)を塗装しています。スクリューは実は到着したモデルでは脱落していたので、それらしいものをあらためて装着(3枚羽根で良かったかなあ、と少し不安ですが)。併せて「舵」部分に分かりやすいように彩色しています。(これはあくまで「分かりやすいように」と言う狙いでの彩色なので、本来は艦艇と同じ色がいいのだと思います)

 

「H級」戦艦について

少しおさらいしておくと、「H級」戦艦というのは、ドイツ海軍がナチス政権による1935年の再軍備宣言、それに続く英独海軍協定締結で、事実上の軍備制限から解き放たれた後に「Z計画」を具体化してゆく過程で建造する計画だった「ビスマルク級」の次の戦艦の計画時の艦名が「H」だったことに起因しています。(「ビスマルク」の計画時の艦名が「F」、「ティルピッツ」が「G」だったので、その次は「H」だった、という訳です)

(「ビスマルク級」戦艦(=「F」「G」)の概観:201mm in 1:1250 by Neptun:写真は二番艦「ティルピッツ=「G」)

「Z計画」は潜水艦、通商破壊専任艦を軸とする「通商破壊戦」に重点をおいた戦略なのですが、これらが戦術水域(仮想敵はもちろん英国ですので、その周辺の通商路封鎖海域、ということになります)へ進出するために、まず北海と北大西洋への進出路開削のための水上打撃力が必要になってくる、という想定の下に、これらの艦艇は設計されました。

この計画には「ビスマルク」「ティルピッツ」はもちろん組み入れられていましたし、「シャルンホルスト」「グナイゼナウ」も主砲を28センチ砲から38センチ砲へ換装されることも計画されていました。

(上の写真は「シャルンホルスト級」38センチ主砲変換装案(奥)と実際の28センチ主砲塔装備の対比)

そしてさらに6隻の建造計画が具体化され、次の「H」「J」は実際に着工まで漕ぎ着けてはいたのです。(第二次世界大戦勃発のため、キャンセルされました)

これらは「H級」前期型と言われ、建造可能な設計案だったとされています。図面としては着工された「H39型」、その防御力強化版である「H40型」、これらの強化型である「H41型」(ほぼ日本海軍の「大和級」に匹敵)が残されています。

 

「H級後期型:最終形、史上最大の戦艦:H44型」

さらに研究段階の「H級」後期型の設計案として「H42型」「H43型」「H44型」の図面が残されていますが、これらはいずれも建造施設と建造工法から検討が必要な巨艦でした。

そして、その最終形である「H44型」は公式な設計案が残る史上最大の戦艦とされています。排水量130000トン、 50.6センチ(20インチ)砲8門を主砲として搭載し、ディーゼルと蒸気タービンの併載で29.8ノットを発揮する、というスペック案が残っています。複数の枝記号を持つ図面が見つかっており、設計案が複数あったかもしれません。

(「H44型」の概観:293mm in 1:1250 by Albert: 破格の大きさで、いつも筆者が使っている海面背景には収まりません。仕方なくやや味気のない背景で。下の写真は「H44型」の兵装配置を主とした拡大カット:巨大な20インチ連装主砲塔(上段)から艦中央部には比較的見慣れた副砲塔や高角砲塔群が比較的オーソドックスな配置で(中段)。そして再び艦尾部の巨大な20インチ連装主砲塔へ(下段))

この辺りの資料は「研究段階の計画艦」ということもあって「諸説」が残っていて調べ出すとキリがないのですが、下のリンクでは複数の文書に当たりながら、実によくまとめられています。興味があれば是非ご一読を。Gameにしか登場しない全くの「架空艦」のお話も出てきます。

myplace.frontier.com

 

併せて本稿でもいくつか関連した投稿がこのところ続いていますので、下記の回などつまみ食いしてみてください。

fw688i.hatenablog.com

fw688i.hatenablog.com

fw688i.hatenablog.com

 

今回、なぜ「艦底」パーツなのか?

実は上掲の「H級戦艦後期型まとめサイト」では「H-42型」以降では水中防御仕様が尾推進器部分に盛り込まれる予定だった、という以下のような記述が出てきます。

"From this 'H-42' design onwards, efforts were made to give rudders and propellers maximum protection by extending the stern of the ship in the shape of two side fins forming a kind of tunnel and protecting the rudder and propellers from the sides. This design was to offer protection against the kind of fateful torpedo hits sustaned by Bismarck. The effect such a stern would have on manoeuvrability of so large a ship was not looked into and extensive model tests would have been necessary before such a project could have been carried out." 

抄訳すると「ビスマルク」に致命的な損害を与えた魚雷攻撃に対する対策として、一種の「覆われた船尾」を装備している、とされています。舵とスクリューを魚雷の打撃から保護するための両側にサイドフィンが装備されている、ということです。併せてこのような設計の船尾構造が巨大な戦艦の操縦性にどのような影響を与えたかは検証が必要だっただろう、とも述べています。

戦艦「ビスマルク」の戦訓

戦艦「ビスマルク」についてはその最初で最後の戦闘航海となった出撃で、デンマーク海峡での劇的な英戦艦「フッド」の撃沈が有名です。しかしこの際に実は「ビスマルク」は「プリンス・オブ・ウェールズ」の主砲弾を3発、艦首に被弾しており、その後予定されていた大西洋での通商破壊戦の継続を諦めて、ドイツ占領下にあったブレストを目指すこととなりました。その途中で空母「アークロイヤル」の放った雷撃機隊から魚雷2発を被雷してしまいます。そのうち右舷後部に命中した魚雷の衝撃で舵が12度で固定されてしまい、この対応で速力が7ノットに低下、英海軍の追撃をかわせず、集中攻撃を受けて撃沈されてしまいました。

戦訓に導かれた水中防御仕様とは?

この戦訓を受けて、水中防御仕様が検討された、ということなのですが、いったいどんな艦尾構造なんだろうか、という興味が湧き上がり「モデルがあるのなら、是非とも」という次第で今回の入手に至った訳です。

下の2枚の写真は、その艦尾構造のアップ。なるほどそういうことか、という写真です。舵とプロペラは分かりやすい様にゴールドで彩色してみました。by extending the stern of the ship in the shape of two side fins forming a kind of tunnel and protecting the rudder and propellers from the sides. :英語ではこんなふうに説明するんだなあ、などと感心しています。特にa kind of tunnelがあまりイメージできなかったのですが、ああ。こういうことなのか、と。百聞は一見に如かず、というやつですかね)

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併せて、素人目に見ても、確かにこの構造は理論上は対魚雷防御仕様としてはありかもしれませんが、「H44型」の様な巨大艦で、かつ高速航行時に操舵性にどんな影響が出るのか、慎重な検証が必要な気がしますね。ほとんど高速では旋回ができなくなりそうな、あるいは右に左に頭を振り回されそうな、そんな気もします。(The effect such a stern would have on manoeuvrability of so large a ship was not looked into and extensive model tests would have been necessary before such a project could have been carried out.)

「H44型」のフルハルモデル

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(上の写真は「H44型」モデルの概要:入手した艦底部分にウォータラインモデルを乗せただけで、接着していないので隙間等見えますが、ご容赦を)

ということで最近の数回を通じてご紹介してきた一連の「H級」戦艦シリーズは一応の完了です。このところ「計画艦・架空艦」に関心の大半が持っていかれ、かつこの領域は模型工作も伴うことから、毎週末かなり楽しんでいたのですが、さて、次からどうしようか、とちょっと気の抜けた感じです。

 

ということで、少し今後へ向けてのお話を。

「H45型」の話

「H45型」については上掲のDebunking the later H-class Battleshipでも紹介されている「実存しない設計案」つまりゲームの中だけで語られている設計案の一つです。

ヒトラーがグスタフ列車砲(800mm砲)を主砲として搭載する戦艦のアイディアについて語った、という設定(史実なのかどうか?)のみを拠り所として、なんと55万トン級の戦艦(案によっては70万トン!)、といことで図面まで掲載されています。(「ただしなんの根拠もないよ、でもこういう自由な設定は楽しいから、いいんだよ。どんどんいこう」的なコメント付きです:Let us state for the record that there is absolutely nothing wrong with making up purely fictional ship designs for wargames. We do it all the time. It can be fun. It only becomes a problem when people start to believe that these designs were real. Since these are fictional designs, it is difficult to impossible to find good, reliable references on them. We are forced to rely on saved pictures and saved bits of text from defunct websites, as well as personal memories. So, here we present some more-or-less fictional designs that readers might find on the internet:「H45型」に関するコラムの冒頭部分をそのまま引用しています。fictional designsが何度も出てきて、ちょっと嬉しいですね)

(上図は「H45型(上記のコラムでは”The (mostly) Fictional H-45 Design”とタイトルがついています)と称して紹介された「オバケ戦艦」:上左に「ビスマルク級」の図が載っているので、大体の大きさがわかっていただけるかと)

”The (mostly) Fictional H-45 Design”と銘打たれた55万トン(一説では70万トン)のまさにモンスター戦艦。全長609メートル、80センチ主砲(グスタフ列車砲)搭載、なんと28ノットの速度が出せる、ということになっています。

さらに驚くべきことに、この船の3D printing modelが下記で入手可能です。

Battleship - H-45 - What If - German Navy - Wargaming - Axis and Allies - Naval Miniature - Victory at Sea - US Navy - Tabletop - Warshipsxpforge.com

(上の写真はモデルの写真:506mm1(1:1200スケールでの寸法ですから、1:1250だともう少し小さい)の巨大なモデルです。かなり低い姿勢にも興味をそそられます)

この発注ページの注釈に1:1200-506 mm Length- Special Order Only- Printed in 2 Pieces と記載されていて、2つ以上の発注が条件になっています。併せてこのページのスケールの選択肢では1:1250スケールは表示がなく選択することはできないのですが、別モデルで問い合わせた際に「メモ欄に1:1250希望」と書いておいてね、と言われ実際にその通りの寸法でモデルが届きましたので、対応はしてくださいます。

「2つもいらないなあ」というところをどう整理つけるか、そんなところでしょうね。

まだまだ楽しみはある、今日のところはその辺りにしておきましょう。

 

次回は・・・。未定ですが、新着モデル、あるいは整備中のモデルなどがいくつかありますので、そのあたりで何かテーマを見つけて、と考えています。(日本海軍の機動部隊小史なども途中ですので、その辺りも気にはなっているのですが)

もし、「こんな企画できるか?」のようなアイディアがあれば、是非、お知らせください。

 

模型に関するご質問等は、いつでも大歓迎です。

特に「if艦」のアイディアなど、大歓迎です。作れるかどうかは保証しませんが。併せて「if艦」については、皆さんのストーリー案などお聞かせいただくと、もしかすると関連する艦船模型なども交えてご紹介できるかも。

もちろん本稿でとりあげた艦船模型以外のことでも、大歓迎です。

お気軽にお問い合わせ、修正情報、追加情報などお知らせください。

 

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