相州の、ほぼ週刊、1:1250 Scale 艦船模型ブログ

1:1250スケールの艦船模型コレクションをご紹介。実在艦から未成艦、架空艦まで、系統的な紹介を目指します。

未成艦ドイツ海軍 H級戦艦:Neptun社版 H39型のモデルの入手 あるいは妄想架空艦モデルのご紹介

 本稿の読者なら、筆者が1:1250スケールモデルのコレクションの調達元として、Neptun レーベルを大変重視していることはご存じと思います。

Neptun レーベルのモデルラインナップは第二次世界大戦期周辺に限定されており、第一次世界大戦期周辺の艦船についてはNavisというレーベルで、こちらも筆者にとっては大変需要なレーベルの一つです。

一方、昨年10月あたりから数回に分けてナチス・ドイツ海軍の再建計画をご紹介した際に、筆者の関心がZ計画、その中でも「H級戦艦」と総称される同海軍が「ビスマルク級」に続いて建造する予定だった一連の大型戦艦に及び、そのモデルのコレクションをご紹介してきました。その「H級」シリーズの皮切りとも言える「H39型」のNeptun版が入手できたので、このご紹介を。

そして「H級」に関連する「未成艦」「架空艦」などの再録も合わせて。

今回はそんなお話です。

(興味のある方は以下の投稿もぜひ)

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「H級」戦艦とは:ちょっとおさらい(2隻は起工後、第二次世界大戦勃発により工事中止に)

 ja.wikipedia.org

第一次世界大戦の敗戦で負った戦後賠償で疲弊したドイツ社会に加え、世界的な恐慌が追い討ちをかけて混乱の極みに達した感のある世情を背景として、やがてヒトラー率いる国家社会主義ドイツ労働者党(ナチス)が政権を掌握し、1934年にヒトラーは首相に就任、さらに1935年には大統領の権限も吸収し国家元首に就任します。こうしてワイマール共和国体制は終焉を迎え、ドイツは第二次世界大戦の敗北まで続くいわゆる「第三帝国」体制に移行してゆきます(1933−1945)。

国家権力を掌握したヒトラーは1935年3月にヴェルサイユ条約の破棄と再軍備宣言を行い、6月には英独海軍協定を締結し、事実上、海軍に関するヴェルサイユ体制下での軍備制限は撤廃されたのでした。

再軍備宣言と英独海軍協定の締結に伴い、ドイツ海軍は潜水艦の保有も認められ、水上戦闘艦についても制約のない大型軍艦の建造へと進んでゆくことになります。

こうした制限撤廃に伴いドイツ海軍は、通商破壊を主要任務とする装甲艦の発展形としての「シャルンホルスト級」戦艦、新生ドイツ海軍初の本格的戦艦「ビスマルク級」という2艦級を建造、さらにその次級の主力艦の設計は、ということで現れたのが「H級」とひとまとめにされてきた戦艦群でした。

この艦級名は計画の最初の仮計画艦名称「H」号に基づいています。

計画では6隻まで仮称(つまりH、J、K、L、M、Nまで)がつけられて計画が実存したようなのですが、設計は6隻全て固まってたわけではなく、上記の着工までで中止になった「H」「J」の2隻は少なくとも「H39型」と呼ばれる設計でした。

上記のように「H級」戦艦の設計は固定されてた訳ではなく、戦訓や技術開発を反映して更新されてゆくのですが、少なくとも「H39型」として着工された2隻とこの後に続く「H40a型」「H40b型」(いずれも「H39型」の防御装備強化型)、さらに「H41型」までは計画承認までに至る実現可能な設計案だったと言われていますが、「H42型」以降は「研究案の域を出ない」と言っていいような段階の設計案でした。

(余談ですが「ドイッチュラント級」装甲艦3隻の仮称記号がA、B、C、続く当初「ドイッチェラント級」装甲艦の4番艦、5番艦として計画された「シャルンホルスト級」戦艦の2隻がD、E、「ビスマルク級」戦艦の2隻がF、Gの仮称記号を与えられ、従ってこれに続く主力艦の仮称記号は「H」となるわけです)

「H級」の各型式については分散されている各計画の情報を実にわかりやすくまとめて下さっています。興味深いので、「H級」もっと知りたい、という方にはおすすめです(英文ですが、大変読みやすい平易な文章です)。

myplace.frontier.com

「H級」のモデル

モデル的な視点で語ると、これまでに上記の一連の投稿等でご紹介してきた「H級」シリーズのモデルは「H39型」「H41型」「H44型」の三型式でした。

H39型」(Delphin版)

(「H39型」戦艦の概観:224mm in 1:1250 by Delphin

「H41型」(Superior版モデルをベースにした筆者版)

(筆者版「H41型」戦艦の概観:232mm in 1:1250 by semi-scratch based on Superior)

「H44型」(Arbert版)

(「H44型」の概観:293mm in 1:1250 by Albert)

ビスマルク級」から「H44型」までの、いわゆるZ計画の開発系譜一覧

(上の写真は、再生ドイツ海軍の「Z計画」での主力艦整備計画の総覧的なカット:下から「ビスマルク級」(40000トン級:38センチ主砲 by Neptun )、「H39型」(55000トン級:40.6センチ主砲 by Dephin)、「H41型」(64000トン級:42センチ主砲 by  semi-scratch based on Superior)、そして「H44型」(130000トン級:50.6センチ主砲 bt Albert)の順)

 

察しのいい本購読者の皆さんなら、この諸形式のモデルに「ビスマルク級」以外(つまり肝心の「H級」には)Neptun レーベルの製品が含まれていないことにお気づきだと思います。これも無理のないことで、筆者の知る限りNeptun レーベルからは「H39型」のモデルしか発売されていません。元々、Neptun レーベルはリアリティを追求した再現性の高さから評価の高いレーベルで、「H級」のような図面しか存在しない、つまり資料の少ない艦級のモデル化には大変慎重なのかもしれません。筆者としては実艦が存在しない艦級だからこそ模型化してほしいという思いが強いのですが。

ちなみに「H級」諸形式のモデルについては上掲の「H44型」のモデル製作者であるAlbertレーベルがカタログ上では「H39型」以外の形式を網羅していることになっていますが、筆者は唯一自身が保有する「H44型」以外のモデルを目にしたことがありません。

(モデルの一覧は下のリンクに:ご参考に)

sammelhafen.de - 1250/1200 scale miniature ship models - thousands of photos, lists of almost all producers and more

 

Neptun 版「H39型」モデル

Neptun レーベルの「H39型」は流通量も少ないこともあるのだと思いますが、これまでebayなどでもなかなか落札できず、今回筆者としてはやや通常の筆者自身が設けている予算感をオーバーして強引に落札したのでした。

f:id:fw688i:20230121175042p:image

(上の写真は「H39型」戦艦の概観:224mm in 1:1250 by Neptun: 下の写真は「H39型」の細部拡大:「ビスマルク級」をタイプシップとして、それに準じた兵装配置であることがよくわかると思います。大型ディーゼルを搭載した高速長航続距離を目指した設計で、二本煙突が大きな特徴かと: 中段写真では新型で、それまでの「ビスマルク級]に搭載された開放型の砲架とは異なり閉鎖型の新型連装砲架に搭載された8基の高角砲:105mm/65 SK C/33がよくわかります)

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H39型」について

(上図は上掲の The Wells Brothers' Battleship Index: Debunking the Later H-class Battleships から)

H39型」は、「ビスマルク級」戦艦の拡大改良型で、「ビスマルク級」では実現できなかった機関のオール・ディーゼル化を目指した案です。大型ディーゼル機関の搭載により30ノットの高速と、長大な航続距離を併せ持った設計でした。機関の巨大化により船体も55000トンに達しています(「ビスマルク級」は41700トン)。主砲口径は「ビスマルク級」よりも一回り大きな40.6センチ砲として、これを連装砲塔4基に搭載していました。

全体的な概観や兵装配置は「ビズマルク級」を踏襲しており、大きな外観的な特徴としては巨大な機関搭載により煙突が2本に増えたことと、航空機関連の艤装が艦尾に移されたことくらいでした。

1939年に仮艦名称「H」と「J 」が着工されましたが9月の大戦勃発で中止されました。

 

ビスマルク級」との比較

下の写真は「H39型」が完成されていればその前級にあたることになった「ビスマルク級」との対比を示したものです。

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両モデルともにNeptun レーベルの高い再現性でディテイルが作り込まれています。大型化した機関を搭載し一回り口径の大きな主砲を搭載しながらも、同系統の設計思想に基づく物であることがよくわかると思います。上掲の「拡大改良版」の言葉そのままかと。

Neptun レーベルの泣きどころ

余談ですが、再現性が高く筆者が1:1250スケールモデルの最高峰と言っていいと考えているNeptun レーベルなのですが、唯一の泣きどころは再現性の高さから繊細に作り込まれた砲兵装類の「繊細さ」にあると考えています。つまり全ての砲兵装の砲身が細く、柔やかいホワイトメタル製であるために、曲がりやすいのです。そして一旦曲がるとなかなか元の直線には戻りにくいという弱点があるのです。「ついうっかり指が砲身に触れてしまいグニャリ、下手をすると副砲や高角砲などの小さなパーツ部分は砲身が「ポロリ」なんてことが日常的に起きるわけです。

 

Neptun 版とDelphin版の比較

下の写真はNeptun 版「H39型」とDelphin版「H39型」の比較です。

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(Delphin版「H39型」は上の写真中段と下段写真の上方:下の写真では左列がDelphin版 やはり砲兵装関係の再現の繊細さではNeptun版が頭ひとつ抜けますね)
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Delphin版も非常に高い再現性を有したモデルであることは間違いないのですが、こうして比較してしまうと、何度も記述しているようにNeptun版のディテイルの作り込みの繊細さが目立つ結果となってしまいます。

しかし筆者が最も注目するのは、実は船体の形状に対する解釈なのです。Neptun版では船体のほぼ中央部(第一煙突と第二煙突の間?)が最も艦幅が広く設定され、そこに向けて美しい紡錘形を描いた曲線で船体が構成されているのですが、Delphin版では最大艦幅に達する部分が比較的前方に設定され、最大艦幅の部分がしばらく続く形状(第二主砲塔あたりから第二煙突付近まで?)に思われ艦の重心がやや前方にあるような印象を受けていました。

この形態にはやDelphin製モデルの入手当初から小さな違和感があり、今回のNepten版入手の一つの動機ともなっていました。

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(Delphin版の船体形状はなんとなく船首が太いような気がします(頭でっかち?)。Neptun版の船体形状のカーブは非常に美しいと思います)

 

ご参考:「H39型」以降の「H級」諸形式の話(以下は、以前に投稿したものの抄録です)

「H40型」

一般的には「H 39型」の装甲強化改良型、とされていて、「H40a型」と「H40b型」の2つの設計案があったとされています。

(上図は「H40型」の設計2案「H40a型」(上段)と「H40b型」:モデルはAlbertから出ているようですが、見たことがありません 上図は上掲の The Wells Brothers' Battleship Index: Debunking the Later H-class Battleships から)

上掲の図の上段の「H40a型」は「H39型」と同等のサイズで、「H39型」で課題があるとされた防御強化を図る案でした。装甲強化等の重量増の代償に主砲塔1基を減じた設計でした。一方「H40b型」は武装等を「H39型」と同等にしたまま防御力の向上を図った設計で、当然のことですが艦型が大型化し、次に紹介する「H41型」に近いサイズになっています(排水量66000トン)。

両設計ともに「H39型」との大きな差異として機関がオールディーゼルから、ディーゼルと蒸気タービンの併載とされたことが挙げられます。速力は両型ともに30.4ノットの高速を発揮する設計でした。

 

「H41型」

この「H級」シリーズの実現性のある設計案の最後の「H41型」は、主砲の強化を狙った設計案でした。排水量68000トン(「大和級」並)の船体に、42センチ(連装砲塔4基搭載)の口径の主砲を搭載し、機関は再びオールディーゼルとして速力28.8ノットを発揮するというスペックでした。

(上図は上掲の The Wells Brothers' Battleship Index: Debunking the Later H-class Battleships から)

(上の写真は筆者版「H41型」戦艦の概観:232mm in 1:1250 by semi-scratch based on Superior:「筆者版」の種を明かすと1:1200スケールのSuperior製H-class(おそらく「H39型」)をベースにしています(≒Superior社の1:1200スケールのひと回り大きな「H39型」を1:1250スケールの「H 41型」のベースとして)。筆者が知る限り、『H41型」の1:1250スケールモデルはAlbert社からのみ市販されていますが、未だ見たことがありません)

船体が大きくなったため建造には、港湾の水深と同艦の喫水の関係で課題が発生しただろうと、上掲の文書では記述されています。 The Wells Brothers' Battleship Index: Debunking the Later H-class Battleships 

同艦では新たな42センチ口径の主砲が搭載される計画でしたが、クルップ社製の40.6砲をベースとすれば、同砲の砲身が肉厚だったため、比較的容易に口径の拡大はできただろう、とも記述されています。

 

そして「H級」後期型:「H42型」「H43型」「H44型」

「H級」計画は、さらに、研究段階の設計案として「H42 型」「H43 型」「H44型」と続いています。どうも「ナチス・ドイツ」の兵器設計の常、というか(架空戦記小説から筆者が影響を受けているだけかもしれませんが)「大きく強く」のような発想が色濃く見受けられる(あくまで筆者の私見ですが)計画案が多いように感じています。いずれも強大な船であり、既に「H41型」ですら建造施設に課題が見つかっていることから、これらの建造についてはドライ・ドックでの建造等、建造方法についても研究・検討が必要だっただろうと上掲の文書では記述しています。 The Wells Brothers' Battleship Index: Debunking the Later H-class Battleships 

「H42型」

(上図は上掲の The Wells Brothers' Battleship Index: Debunking the Later H-class Battleships から)

「H41型」の防御を十分に充実させた研究案として提出された設計でした。特に「H42型」から「H43型」「H44型」ともに魚雷防御に重点が置かれ、第二次世界大戦で舵に被雷して行動の自由を失った「ビスマルク」の戦訓から、舵と推進器の損害を防ぐ構造が取り入れられていました。

実は上掲のサイトでは「H-42型」以降では水中防御仕様が尾推進器部分に盛り込まれる予定だった、という以下のような記述が出てきます。

"From this 'H-42' design onwards, efforts were made to give rudders and propellers maximum protection by extending the stern of the ship in the shape of two side fins forming a kind of tunnel and protecting the rudder and propellers from the sides. This design was to offer protection against the kind of fateful torpedo hits sustaned by Bismarck. The effect such a stern would have on manoeuvrability of so large a ship was not looked into and extensive model tests would have been necessary before such a project could have been carried out." 

抄訳すると「ビスマルク」に致命的な損害を与えた魚雷攻撃に対する対策として、一種の「覆われた船尾」を装備している、とされています。舵とスクリューを魚雷の打撃から保護するための両側にサイドフィンが装備されている、ということです。併せてこのような設計の船尾構造が巨大な戦艦の操縦性にどのような影響を与えたかは検証が必要だっただろう、とも述べています。

戦艦「ビスマルク」の戦訓

戦艦「ビスマルク」についてはその最初で最後の戦闘航海となった出撃で、デンマーク海峡での劇的な英戦艦「フッド」の撃沈が有名です。しかしこの際に実は「ビスマルク」は「プリンス・オブ・ウェールズ」の主砲弾を3発、艦首に被弾しており、その後予定されていた大西洋での通商破壊戦の継続を諦めて、ドイツ占領下にあったブレストを目指すこととなりました。その途中で空母「アークロイヤル」の放った雷撃機隊から魚雷2発を被雷してしまいます。そのうち右舷後部に命中した魚雷の衝撃で舵が12度で固定されてしまい、この対応で速力が7ノットに低下、英海軍の追撃をかわせず、集中攻撃を受けて撃沈されてしまいました。

戦訓に導かれた水中防御仕様とは?

この戦訓を受けて、水中防御仕様が検討された、ということなのですが、いったいどんな艦尾構造なんだろうか、という興味が湧き上がり「モデルがあるのなら、是非とも」という次第で今回の入手に至った訳です。

下の写真は、その艦尾構造のアップ。なるほどそういうことか、という写真です。舵とプロペラは分かりやすい様にゴールドで彩色してみました。by extending the stern of the ship in the shape of two side fins forming a kind of tunnel and protecting the rudder and propellers from the sides. :英語ではこんなふうに説明するんだなあ、などと感心しています。特にa kind of tunnelがあまりイメージできなかったのですが、ああ。こういうことなのか、と。百聞は一見に如かず、というやつですかね)

防御装備の充実で排水量は90000トンに拡大しています。主砲については42センチ砲搭載説と48センチ砲搭載説の2説がある様です。機関としてはディーゼルと蒸気タービンの併載し、31.9ノットの高速艦となる設計案でした。

併せて、同サイトでも記述があるのですが、上掲の艦尾の推進器周りの構造については、素人目に見ても、理論上は対魚雷防御仕様としてはありかもしれませんが、「H級」後期型の様な巨大艦で、かつ高速航行時に操舵性にどんな影響が出るのか、慎重な検証が必要な気がしますね。ほとんど高速では旋回ができなくなりそうな、あるいは右に左に頭を振り回されそうな、そんな気もします。(The effect such a stern would have on manoeuvrability of so large a ship was not looked into and extensive model tests would have been necessary before such a project could have been carried out.)

 

「H44型」

「H42型に続く「H43型」は初めて10万トンを超える巨大戦艦の設計案でしたが、この巨大戦艦の設計案は次の「H44型」へと繋がります。

(上図は上掲の The Wells Brothers' Battleship Index: Debunking the Later H-class Battleships から)

「H44型」は公式な設計案が残る史上最大の戦艦とされています。排水量130000トン、 50.6センチ(20インチ)砲8門を主砲として搭載し、ディーゼルと蒸気タービンの併載で29.8ノットを発揮する、というスペック案が残っています。複数の枝記号を持つ図面が見つかっており、設計案が複数あったかもしれません

(「H44型」の概観:293mm in 1:1250 by Albert: 破格の大きさで、いつも筆者が使っている海面背景には収まりません。仕方なくやや味気のない背景で。下の写真は「H44型」の兵装配置を主とした拡大カット:巨大な20インチ連装主砲塔(上段)から艦中央部には比較的見慣れた副砲塔や高角砲塔群が比較的オーソドックスな配置で(中段)。そして再び艦尾部の巨大な20インチ連装主砲塔へ(下段))

この辺りの資料は「研究段階の計画艦」ということもあって「諸説」が残っていて調べ出すとキリがありません。何か面白い資料があればぜひ教えてください。

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(上の写真は、再生ドイツ海軍の「Z計画」での主力艦整備計画の総覧的なカット:下から「ビスマルク級」by Neptun 、「H39型」 by Neptun、「H41型」by  semi-scratch based on Superior、そして「H44型」 by Albert の順)

 

完全な架空艦「H45型」のご紹介

これまでご紹介してきた「H級」の諸型式は研究段階という「淡い」状態ながらも何らか計画があったことが確認されていますが、もう一つ都市伝説的な型式「H45型」が、The Wells Brothers' Battleship Index: Debunking the Later H-class Battleships では紹介されています。

「H45型」は「実存しない設計案」つまりゲームの中だけで語られている設計案の一つです。

「都市伝説的な」とご紹介したのは、この設計案が、ヒトラーがグスタフ列車砲(800mm砲)を主砲として搭載する戦艦のアイディアについて語った、という設定(史実なのかどうか?)のみを拠り所として、考えられているからです。(投稿には図面が掲載されてます。「ただしなんの根拠もないよ、でもこういう自由な設定は楽しいから、いいんだよ。どんどんいこう」的なコメント付きです:Let us state for the record that there is absolutely nothing wrong with making up purely fictional ship designs for wargames. We do it all the time. It can be fun. It only becomes a problem when people start to believe that these designs were real. Since these are fictional designs, it is difficult to impossible to find good, reliable references on them. We are forced to rely on saved pictures and saved bits of text from defunct websites, as well as personal memories. So, here we present some more-or-less fictional designs that readers might find on the internet:「H45型」に関するコラムの冒頭部分をそのまま引用しています。fictional designsが何度も出てきて、ちょっと嬉しいですね)

(上図は「H45型」(上記のコラムでは”The (mostly) Fictional H-45 Design”とタイトルがついています)と称して紹介された「オバケ戦艦」:上図の上左に「ビスマルク級」の図が対比として載っているので、大体の大きさがわかっていただけるかと)

”The (mostly) Fictional H-45 Design”と銘打たれた55万トン(一説では70万トン)のまさにモンスター戦艦。全長609メートル、80センチ主砲(グスタフ列車砲)搭載、なんと28ノットの速度が出せる、ということになっています。

さらに驚くべきことに、この船の3D printing modelが下記で入手可能です。

Battleship - H-45 - What If - German Navy - Wargaming - Axis and Allies - Naval Miniature - Victory at Sea - US Navy - Tabletop - Warships

(上の写真はモデルの写真:506mm1(1:1200スケールでの寸法ですから、1:1250だともう少し小さい)の巨大なモデルです。かなり低い姿勢にも興味をそそられます)

この発注ページの注釈に1:1200-506 mm Length- Special Order Only- Printed in 2 Pieces と記載されていて、2つ以上の発注が条件になっています。併せてこのページのスケールの選択肢では1:1250スケールは表示がなく選択することはできないのですが、別モデルで問い合わせた際に「メモ欄に1:1250希望」と書いておいてね、と言われ実際にその通りの寸法でモデルが届きましたので、対応はしてくださいます。

「2隻発注かあ。2隻もいらないなあ」というところをどう整理つけるか、そんなところでしょうね。

まだまだ楽しみはある、ということですね。

 

架空艦対決へ

対抗する日本海軍:「レッドサン・ブラッククロス」の世界

昨年末来、上掲の「H44型」に刺激されて、筆者も架空戦記的に「これに対抗するべく日本海軍が22インチ砲搭載艦の建造に着手」として、22インチ(56センチ)主砲搭載の戦艦のモデルを製作しましたので、これもご紹介しておきます。

日本海軍:22インチ(56センチ)主砲搭載戦艦「播磨」

「播磨」は今回の妄想モデル建造のトリガーとなった佐藤大輔氏の著作「レッドサン・ブラッククロス」からそのまま艦名をいただいています。(実は筆者的にはちょっとした齟齬が生じるのですが。併せて記しておくと、佐藤氏の著作「レッドサン・ブラッククロス」に登場する「播磨」は基準排水量21万トン・ 全長380メートル:1:1250スケールでは304mm:の巨大戦艦と記述されていますが、筆者版「播磨」はそこまで大きな船ではありません)

 

播磨」建造に至る背景

A -150計画艦=「伊予級」戦艦

背景としては史実でも日本海軍はいわゆる「超大和級」戦艦の建造計画を持っていました。これは18インチ(46センチ)主砲搭載の「大和級」を建造し個艦性能で一歩先んじた日本海軍が、いずれは建造されるであろう米海軍の18インチ砲搭載艦への対応として20インチ(51センチ)砲搭載艦の設計に着手したものでした。これが「A-150計画艦」、「超大和級」戦艦の設計案として知られているモノです。

当初は新設計で20インチ三連装砲塔3基を搭載する計画もあったようですが、当時の日本の技術力では20インチ三連装砲塔を駆動する方法の開発に時間がかかり、これに対応する巨大艦の建造にも施設から準備せなばならないということで、「大和級」の設計をベースに「大和級」とほぼ同寸の船体に連装砲塔3基搭載し(連装砲塔であれば「大和級」の砲塔とほぼ同じ重量で駆動系も既存のものが使えたようです)防御力等を強化した80000トン級の戦艦として設計されました。

(日本海軍のA-150計画艦の概観:217mm in 1:1250 by semi-scratched based on Neptun:兵装配置、基本設計は「大和級」をベースにしたものだと言うことがよくわかります)

 

改A-150計画艦=戦艦「駿河

前出の「伊予級:A -150計画艦」は、米海軍が「大和級」の登場に刺激されいずれは18インチ(46センチ砲)搭載艦を建造するであろうという予想の元に設計された戦艦で、特に「伊予級」として実現したものは、この51センチ主砲という口径を軸に、早急に建造できる、つまり既存の技術で建造できるという、実現を優先した設計でした。このためその船体の大きさは「大和級」とほぼ同等でなくてはならず、かつ主砲搭載形式も特に砲塔の駆動系の技術的な当時の限界から連装砲塔とされました。このため単艦での射撃で十分な命中精度を得るにはやや心許ない6門という搭載数にとどまらざるを得ませんでした。

この点を改めて検討した上で設計されたのが「改A-150設計艦=駿河」でした。同艦では単艦での行動を想定した際に必要数とされる主砲搭載数8門を設計の主軸に置き、駆動系の改良と軽量化を実現した新設計の51センチ連装砲塔4基の搭載を設計に織り込んでいました。

この軽量化高機動性砲塔の実現が、船体の大きさにも好影響として現れ、なんとか当時の造船施設でも建造可能な90000トン級の、主砲口径の割にはコンパクトな戦艦として起工されることとなりました。

(戦艦「駿河」の概観:220mm in 1:1250 by 3D printing: Tiny Thingajigs

 

22インチ(56センチ)主砲搭載戦艦の設計

これまでに見てきたように日本海軍の20インチ主砲搭載艦の建造目的は主として米海軍の18インチ(46センチ)級主砲搭載艦の登場に対する対抗策でした。

しかし一方で第一次世界大戦の敗北で一時は沿岸警備海軍の規模に縮小していたドイツ海軍が、ナチスの台頭と共に再軍備を宣言し、特に海軍は英独海軍協定の締結と共に「Z計画」と言われる大建艦計画を実現しつつあり、ついに上掲の20インチ砲搭載艦「H44型」の建造に至るわけです。

(「H44型」の概観:293mm in 1:1250 by Albert)

「H44型」は上述の日本海軍の「伊予級」「駿河」等と同じ20インチ(51センチ)主砲搭載艦でしたが、日本海軍の20インチ砲が45口径であるのに対し52口径の長砲身で、長射程、高初速、高射撃精度を持つ格段に強力な主砲でした。

つまり日本海軍の「伊予級」や「駿河」が「H44型」と砲戦を交わした場合、アウトレンジからの射撃を受けたり、同砲に装甲を貫通されたりする恐れがありました。「伊予級」「駿河」は共に上述のように米海軍の新戦艦の登場への対抗策として建造を急いだがゆえに18インチ(46センチ)砲搭載の「大和級」をベースにした設計で、防御を強化したとはいえ、その砲戦の結果にはかなり危惧を抱かざるを得ない状況でした。

(本文で既述のように、同じ51センチ主砲搭載艦といいながらも、「H44型」は52口径の長砲身砲で、45口径の「駿河」に対し格段に強力な打撃力を持っていました。船体の大きさも格段に異なり、射撃時の安定性にもかなり差が出たかもしれません)

こうした経緯から、日本海軍の22インチ(56センチ)主砲搭載艦の建造が急がれたわけです。

 

22インチ(56センチ)主砲搭載戦艦「播磨」の誕生

(「播磨」の概観:262mm in 1:1250 by semi-scratched modek based on 1:1000 scale Yamato, Gunze-sangyo : 下の写真は「播磨」の細部。副砲としては新型3連装砲塔5基に搭載された長砲身の15センチ砲を採用し、広角砲等は「大和級」に準じています。上甲板に設置された機関砲座は、主砲斉射時の強烈な爆風から砲座の要員を守るため、全周防御の砲塔になっています)

全体的な構造、配置等は「大和級」に準じるような設計となっていることがわかっていただけるかと思います。特に次に掲げる写真をご覧いただけると、よりその理解が進むかも。それが良いことか、悪いことかは、さておき。

ライバル対比:「H44型」と「播磨」

下の写真は「播磨」建造のトリガーとなった「H44型」との対比。

ドイツ海軍の「H44型」が旧来のオーソドックスな兵装配置や上部構造物の設計を色濃く継承している感があるのに対し、「播磨」は船体のみならず上部構造も「大和級」以来受け継がれた設計思想によりコンパクトに仕上げられており、このあたりに、第一次世界大戦の敗戦で一旦主力艦建造の技術に中断期があるドイツ海軍と、主力艦建造を継続できた日本海軍の蓄積技術の差が現れているように思われます。

 

・・・気がつくとNeptun版「H39型」の紹介を本論とするはずの今回の投稿が、いつの間にかあらぬ方向へ。「未成艦」「架空艦」の話は本当に楽しいですね。

というわけで今回はこの辺りで。

 

次週は事情があって一回お休みします。

次回の投稿は2月の第一週になるかと思いますが、以前に「次の妄想の種」と仕込んでいた「扶桑級」41センチ主砲換装型の近代化改造の種になる部材が発送されたという知らせが来ています。さらには本稿のそもそもの始まりのきっかけとなった「八八艦隊計画」のモデルのアップデート計画の種になりそうなものも動き出しています(とある3D printing modelの製作者とコンタクトを開始しました)。実はこれには「扶桑級」改造案も少し関連してきそうです。

その辺りのお話に進展があれば、そのお話を。あるいは日本海軍の準弩級主力艦に少しアップデートがあったので、そちらのご紹介を先に進めるかもしれません。

もし、「こんな企画できるか?」のようなアイディアがあれば、是非、お知らせください。

 

模型に関するご質問等は、いつでも大歓迎です。

特に「if艦」のアイディアなど、大歓迎です。作れるかどうかは保証しませんが。併せて「if艦」については、皆さんのストーリー案などお聞かせいただくと、もしかすると関連する艦船模型なども交えてご紹介できるかも。

もちろん本稿でとりあげた艦船模型以外のことでも、大歓迎です。

お気軽にお問い合わせ、修正情報、追加情報などお知らせください。

 

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