相州の、ほぼ週刊、1:1250 Scale 艦船模型ブログ

1:1250スケールの艦船模型コレクションをご紹介。実在艦から未成艦、架空艦まで、系統的な紹介を目指します。

再編集:米海軍の計画艦:「ノースカロライナ級」戦艦原案とダニエルズ・プランでの計画艦

週末は三連休なのですが、予定していた「黄海海戦の日本艦隊のご紹介」を投稿するには、十分な時間が取れそうにありません。そこで今回は、米海軍の主力艦から計画艦モデルのご紹介です。過去の投稿を中心に、再編集版です。

 

米海軍の主力艦史で「計画が頓挫してしまった」というと、やはりワシントン条約で中止されたダニエルズ・プランでしょう。これは日本海軍の八八艦隊計画と並び、海軍軍縮の起点とも言ってもいいと思われる計画でした。そしてもう一つはワシントン・ロンドン体制の終了後に再開された新造艦の設計をめぐる議論から生まれた設計案でしょうか。

今回はこの二点に焦点を当てて、計画艦のモデルを筆者の妄想も交えながら、ご紹介する、そんなお話です。

 

ワシントン条約明けの米海軍の新型戦艦

時系列的には逆順になるのですが、条約明けの新造戦艦の設計案についてのお話から。少し地味に見えるかもしれませんが、模型的には面白いかも。

 

米海軍はワシントン軍縮条約明けに向けて、これまでの標準的なアメリカ海軍の戦艦とは大きく異なる設計思想を持つ新型戦艦を設計しました。

それまで、アメリカ海軍は、常に圧倒的な物量を展開することを念頭に、個艦の性能、速度などの優位性よりも、戦艦戦隊の戦闘単位としての威力に重点を置いた艦隊構想を持っていました。いわゆる数を揃えた「標準型戦艦」的な構想です。

超弩級戦艦登場以降の流れで言うと、米海軍の「標準型戦艦」は、14インチ砲を主砲として10門から12門を搭載し、21ノットの最大速度を発揮する、と言う共通項で括られた設計でした。

「標準型戦艦」としては、以下の艦級が建造されました。

ニューヨーク級:2隻:14インチ砲10門装備(米海軍初の超弩級戦艦ですね)

ネバダ級:2隻:14インチ砲10門装備(主砲は4基の砲塔で搭載され、以降の米海軍型の標準型戦艦の基本スペックが決まった艦、と言ってもいいのでは?)

ペンシルバニア級:2隻:14インチ砲12門装備

ミシシッピ級:3隻:14インチ砲12門装備

カリフォルニア級:2隻:14インチ砲12門装備

コロラド級:3隻:16インチ砲8門装備(同級は日本海軍の16インチ砲搭載艦「長門級」への対抗上、16インチ砲が主砲として採用されますが、基本設計はカリフォルニア級のものを踏襲していました)

しかし、第一次世界大戦ユトランド沖海戦の戦訓(機動性に劣る艦級は戦闘にさえ参加できない)と、さらには発展著しい航空機と、その後に現れた海軍での航空機の新たな運用戦術となるであろう航空母艦等との連携には、従来の「標準型戦艦」の速度(21ノット)では帯同できず、不十分であることが明白になってきます。

これらの理由から軍縮体制終了後の新型戦艦はこれまでの「標準戦艦」とは一線を画する、高速戦艦として設計されたのです。

この最初の艦級が次に紹介する「ノースカロライナ級」でした。

 

ノースカロライナ級」戦艦(同型艦:2隻)

ja.wikipedia.org

米海軍の新型戦艦の第一弾。

元々はワシントン条約下で艦齢定年を迎える「フロリダ級」の代艦として設計された戦艦の艦級です。元々の設計では14インチ4連装主砲塔3基(12門)搭載艦として設計されていましたが、日本海軍が条約明けに向けて計画中の新型戦艦が16インチ砲装備であるということが判明し(実は18インチだったのですが)、設計を急遽16インチ主砲装備艦として再設計したという経緯がありました。このため、その防御力は14インチ主砲対応をその基本構想としていたため、やや防御力に課題を抱えた設計となってしまいました。

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(「ノースカロライナ級」戦艦の概観:1941-: 36,600t, 27 knot, 16in *3*3, 2 ships, 178mm in 1:1250 by Neptun)

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(ノースカロライナ級の2隻:ワシントン(手前)、ノースカロライナ

一方で、前述のようにユトランド海戦での戦訓から、それまでの大西洋・太平洋の渡航という地勢的な条件からくる航続性能を重視した「標準型戦艦」の標準速力21ノットでは、以降の海戦での対応力が著しく劣る恐れがあるという結果を垣間見た米海軍は、航続力と速力を兼ね備えた機関の開発に成功し、この新型戦艦は27ノットの速力を発揮することができました。

また、主砲以外の兵装面では、既に1920年代に設計された駆逐艦から、米海軍は対空戦闘・対艦戦闘の両方に対応できる両用法の導入を始めており、本級でも副砲を廃止し両用砲を搭載しています。こうした優れた対空戦闘能力と、高速力から、本級は空母機動部隊に帯同して有力な護衛戦力として行動することができました。

模型的な妄想:「ノースカロライナ級」(原案) :14インチ砲搭載新型戦艦の制作

既述のように「ノースカロライナ級」の設計過程を見てゆくと、「模型的視点」「コレクター視点」に立つと、実現されなかった14インチ砲搭載の新型戦艦というのはどのようなものだったのか、とても気になってきます。同級の設計で予定されていた14インチ砲は50口径Mk Bという諸元を一新するような新型砲だったのですが、同級が最終的に16インチ砲を装備することになったため、搭載艦がなくなりMk Bの砲記号が示すように、開発は中止され制式砲にはなりませんでした。

模型的には、もちろん既存のモデルがないわけではなく、さらに言うと図面等の資料も比較的簡単に目にすることができます。

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(from wilipedia)

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(from ALVANCO: BB1937XVI(12-14") Never-was SPR by Superior 1:1200 scale:)

実は筆者もこのSuperior製のモデルを保有してはいるのですが、このモデルはそもそもスケールが1:1200で、1:1250スケールのコレクションに加えるには、どうしても少し大柄に見えてしまいます。ひと回り大きな準同型艦、強化改良型のような設定ならば、それなりに説得力があるかもと、コレクションに加えているケースもあるのですが(ドイツ海軍の「改ビスマルク級」や「H-41級」、いずれも架空艦・計画艦の扱いです)、このモデルについては、上部構造物がやや腰高すぎる気がすること、かつ再現された煙突が、図面に近いフォルムであるのは間違い無いと思うのですが、違和感が拭えず(全く個人的な心象ですが)、結局コレクションに加えませんでした

ということで、Delphin製モデルのストックを用いて「こんな感じ?」というのを別途制作してみる事にしました。ベースがいい感じのDelphin社製のモデルでもあることも手伝って、結構落ち着いた感じに仕上げることができたと、ちょっと自画自賛しています。

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(「ノースカロライナ級」(原案):14インチ砲搭載新型戦艦案の概観:178mm in 1:1250 )

繰り返しになりますが、ベースにはDelphin社製の「ノースカロライナ級」のモデルを利用し、特徴的な2本煙突を3D printing製の集合煙突(何と日本海軍の「天城級巡洋戦艦用!)に換装しています。上の図面に従い両用砲の数を6基に削減しています(他の対空兵装の配置をそのままにしたので、対空兵装強化時ということでそのまま10基装備にしても良かったんですが)。

主砲には四連装主砲塔が必要なのですが、手持ちが、仏海軍の「リシュリュー級」のものか、英海軍の「キング・ジョージ5世級」のものしかなく、14インチ砲ということを考慮すると、「リシュリュー級」のものでは大きすぎるということで、「キング・ジョージ5世級」(DeaGostini製のハイブリッドモデル)のものを拝借しています。

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(上の写真は、14インチ搭載新型戦艦の特徴的な四連装砲塔と煙突部分の拡大:全体にすっきりとしたフォルムにまとめることができたのではないかという気がしています。ありそうだなあ、と自画自賛ですが、上に掲載したSuperior製のモデルよりはいい感じじゃないですか? ) 

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(上の写真は、「ノースカロライナ級」の実艦(奥)との比較)

基本、「ノースカロライナ級」のモデルをベースに用いていますので、もちろんレイアウト等は大きくは変わりません。両用砲を2基減らした後が、ポツンと穴が空くので、対空機関砲座を置いてみました。ちょっと多すぎたかな?

実艦の方はNeptun製のモデルで、14インチ艦はDelphin社製のモデルをベースにしていますので、両社の艦型の再現が異なることがわかります。やや微妙に14インチ砲搭載艦の方がスマートに見えるのも、一興かと。

同級の特徴でもある集合煙突は、次級「サウスダコタ級」にも通じるところのある設計かとも思いますし、「サウスダコタ級」のコンパクトにまとまったフォルムにも少し近づけるような気もして、それはそれで面白いなあ、と思ったりしています。

参考:「サウスダコタ級」戦艦(同型艦:4隻)

ja.wikipedia.org

本級は当初から16インチ主砲搭載艦として設計され、建造途中から16インチ砲搭載艦に変更された「ノースカロライナ級」では課題の残った対16インチ砲防御を施した設計とされています。さらに集中防御を徹底し、コンパクトな上部構造を実現した堅艦として完成されました。

(1942-: 38,266t, 27 knot, 16in *3*3, 4 ships, 166mm in 1:1250 by Neptun)

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 同級の就役で、米海軍は16インチ主砲装備で27ノットの高速戦艦を「ノースカロライナ級」と合わせて6隻保有し、機動性の点でも仮想敵である日本艦隊を圧倒できると考えられましたが、 やがて日本海軍の次期新型戦艦が18インチ主砲装備艦であることが判明し、さらなる対応を検討する必要性が浮上することなりました。

 

ダニエルズ・プランで計画された戦艦設計案

さてここからはワシントン体制の終了時から時を遡って、ワシントン軍縮条約成立前の米海軍の大建艦計画であるダニエルズ・プランでの計画艦のご紹介を。

ダニエルズ・プラン とは何か?

米海軍は、1917年から3カ年で戦艦10隻、巡洋戦艦6隻を建造する 計画を持っていました。当時の海軍長官ジョセファス・ダニエルズの名前から、ダニエルズ・プランと呼ばれています。

奇しくも日本海軍がほぼ同時期に準備していた戦艦8隻、巡洋戦艦8隻を新造する「八八艦隊計画」に着手しており、その整備目標数等から、対比して語られる事が多いように思います。(偶然、両計画とも16隻の主力艦建造を目指していたのです)

ダニエルズ・プラン自体は、第一次世界大戦への参戦で、やや年次にはずれは生じましたが、ほぼ下記の要目で、建造が着手されていました。

コロラド級戦艦:32,600t, 21knot, 16インチ連装砲塔4基 同型艦4隻(コロラド、メリーランド、ウェストバージニア、ワシントン):ワシントン海軍軍縮条約で完成となされた「コロラド」「メリーランド」「ウェストバージニア」は保有が認められ、完成していないとみなされた「ワシントン」のみ建造中止となりました。

サウスダコタ級戦艦:43,200t, 23knot, 16インチ三連装砲塔4基 同型艦6隻(サウスダコタインディアナ、モンタナ、ノースカロライナアイオワマサチューセッツ):3番艦ノースカロライナ以降の3隻は、改サウスダコタ級と呼称され、18インチ連装砲塔4基の搭載が検討されていたとする説もあります。

レキシントン級巡洋戦艦:43,500t, 33.3knot, 16インチ連装砲塔4基 同型艦6隻(仮名:レキシントン、コンスティチューション、サラトガコンステレーション、レンジャー、ユナイテッド・ステイツ):それまでの米海軍の戦艦群とは一線を画する高速力を発揮できる米海軍初の巡洋戦艦です。

 

ワシントン海軍軍縮条約締結の結果、すでに完成していた「長門級」の2隻、「コロラド級」の3隻を除き、これらすべての建造計画が中止されました。米海軍については「コロラド級」の1隻、「サウスダコタ級」6隻、「レキシントン級」6隻の各艦はすべて着工済みだったのですが、キャンセルされ、「レキシントン級」の「レキシントン」「サラトガ」のみが航空母艦として完成されたのは有名なお話です。

同様の経緯で、日本海軍では「土佐級」2隻、「紀伊級」2隻の4隻の戦艦、「天城級巡洋戦艦全てが建造中止となり、中止となった艦から転用された空母「赤城」「加賀」が誕生しています。当初、その速度を生かして巡洋戦艦の「赤城」と「天城」が航空母艦へ転用することが決定されていたのですが、「天城」が関東大震災で被災し損害を受けたため、急遽、進水済みで廃艦予定であった戦艦「加賀」の船体が空母に転用され、完成されました。このため、戦艦出自である「加賀」はその他の艦隊空母に比べ、やや速度が遅く、かつ航続距離が短いなどの課題を抱えて生まれることになるのですが、それはまた別の機会に。

 

サウスダコタ級(1920)」戦艦:1920年計画(同型艦:6隻(計画))

ja.wikipedia.org

前級の「コロラド級」戦艦は、既述のように日本海軍の「長門級」戦艦が16インチ砲を搭載しているという情報に基づき、本来は「テネシー級」の改良型で14インチ砲搭載艦として建造される予定であった同級を、急遽16インチ砲搭載艦として建造したものでした。このため、備砲のみ16インチに変更し、その防御は16インチ砲に対するものとしては設計されていませんでした。(元々、米戦艦の設計は堅牢で、特に目立った弱点があった、というわけでもなさそうですが、まあ、間に合わせの設計だった、ということです)

従って、持久として建造される計画だった「サウスダコタ級(1920)」(後に登場する「サウスダコタ級」と区別するためにあえて(1920)をつけることにします)戦艦は、米海軍としては初めての当初から16インチ砲を搭載することを念頭に設計された戦艦だったということになります。パナマ運河航行を考慮して、艦型に大きな変化を与えず、従来のいわゆる米海軍の「標準型戦艦」の設計を踏襲した上で、機関を強化し、備砲(16インチ砲12門)と16インチ砲に見合う防御を兼ね備えた最強艦として設計されました。

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(「サウスダコタ級(1920)」戦艦の概観:176mm in 1:1250 by Superior )

機関は燃費向上に主眼を置き「ニュー・メキシコ級」のネームシップ「ニュー・メキシコ」でテスト搭載され、「テネシー級」以降標準搭載されるようになったターボ発電推進方式(タービン・エレクトリック推進)を採用しており、出力強化により他の「標準型戦艦」よりも優速の23ノットを発揮できる設計でした。

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(上の写真は、「サウスダコタ級(1920)」戦艦の主要兵装の拡大 :16インチ三連装砲塔4基を背負い式で艦首部、艦尾部に配置しています。オーソドックスな配置です。一方、写真下段では特徴的な構造の集合煙突を見ていただけるかと)

ライバル日本海軍の「紀伊級」戦艦との比較

(上の写真:「サウスダコタ級(1920)」と日本海軍の八八艦隊計画の主力戦艦「紀伊級」(奥)との比較)

日本海軍の「紀伊級」戦艦が速力と攻撃力を兼ね備えた設計であるのに対し、「サウスダコタ級(1920)」は米海軍の伝統的な設計思想であった速力を抑えたかわり、火力と防御力にバランスの取れた堅牢な設計であることがわかる、面白い比較になっているように思います。

「改サウスダコタ級(1920)」戦艦

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(改「サウスダコタ級(1920)戦艦の概観:176mm in 1:1250 by Superior:18インチ連装砲塔を搭載しています )

日本海軍の次期戦艦の搭載主砲が18インチ砲であると言う情報に接した米海軍は(実際に八八艦隊計画の「13号艦級」ではそのような計画がありました)、これに対抗して「サウスダコタ級(1920)」3番艦以降に18インチ連装主砲を搭載する計画を持っていたとも言われています。これは「改サウスダコタ級(1920)」と呼ばれています。(実はあまりエビデンスになる資料を見つけられていません。どなたかご存知であれば。Superiorからモデルは出ているし、どこかで情報に接した記憶があるのですが、その記憶自体が筆者の妄想なのか?

(上の写真は、「改サウスダコタ級(1920)」戦艦の主要兵装の拡大 :特徴的な集合煙突の形状、全体の概観はオリジナルの「サウスダコタ級(1920)」を引き継いでいます。日本海軍の次期戦艦の情報に、ある種間に合わせ的に18インチ連装砲塔を搭載したことがよくわかるかと)

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(下の写真は、「サウスダコタ級(1920」戦艦:16インチ砲搭載と「改サウスダコタ級(1920)」戦艦:18インチ砲搭載の比較 :こちらの比較でも間に合わせ的な設計であることがわかるかと)

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サウスダコタ級(1920)」戦艦の近代化改装

他級の近代化改装同様、射撃システムの変更、副砲撤去、両用砲を砲塔形式で装備、上部構造物の一新、等々を受けた場合という想定で製作されたものです。ポスト真珠湾型の近代化改装艦と同様、新造時と全く異なる艦容に一変しています。

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(「サウスダコタ級(1920)」の近代化改装後の概観:by Tiny Thingajigs)

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(直上の写真は、「サウスダコタ級(1920)」の新造時(上)と最終改装後(下)の艦様の比較)

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(直上の写真は、いずれも近代化改装後の既存戦艦各級の比較。右下から、「ネバダ級」「テネシー級」「サウスダコタ級(1920)」。上部構造物の配置と、その周辺の対空火器の強化に興味深いものがあります。さらに、米海軍としては初めて設計当初から16インチ主砲搭載艦として設計された「サウスダコタ級(1920)」の大きさがよくわかります)

 

コラム:本級の近代化改装時のモデルをめぐり、模型製作にまつわる小ネタを少し。Shapewaysの破産と調達経路の喪失

サウスダコタ級(1920)」「レキシントン級」(この後紹介)の近代化改装後のモデルについて

両級は計画艦であるため新造時の模型は製造されていますが、近代化改装後の模型までは存在せず(多分、筆者の知る限り)、筆者は、両級の近代化改装後の3Dプリンティングモデルを発見し、その製作者Tiny Thingajigsに発注をかけ、模型の到着を心待ちにしていました。

直下の写真が到着した未塗装の模型です。

筆者は、比較的柔らかい樹脂であるWhite Natural Versatile Plasticという素材でのプリントアウトを依頼しました。柔らかい素材である分、ややフォルムが甘く、もし原型に忠実なシャープな模型を期待する場合には、Smooth Fine Detail Plasticという素材で製作依頼をした方が良いかもしれません。ただし、その場合には、約2.3倍の費用を覚悟する必要があるのでご注意を。

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(直上の写真は、到着時の両モデル。上:「サウスダコタ級(1920)」、下:「レキシントン級」)

**これらはShapewaysで販売されていたもので、Shapewaysの破綻、閉鎖以降、入手手段が今のところありません。これは筆者にとっては結構大きな問題です。

 

レキシントン級巡洋戦艦:1916年計画(同型艦:6隻(計画)) 

ja.wikipedia.org

レキシントン級巡洋戦艦は、ダニエルズ・プランで建造に着手された、米海軍初の巡洋戦艦の艦級です。元々、米海軍は、主力艦の高速化には淡白で、21ノットを標準速度としてかたくなに固守しつづけ、巡洋戦艦には触手を延ばしてきませんでした。

しかし本稿でも既述のとおり、第一次世界大戦の英独両海軍主力艦による「ドッカー・バンク海戦」や「ユトランド沖海戦」の戦訓から、機動性に劣る艦隊は決戦において戦力として関与することは難しいという情況が露見し、米海軍も遅ればせながら(と敢えて言っておきます)高速艦(巡洋戦艦)の設計に着手した、というわけです。

(背景情報は下記を)

fw688i.hatenablog.com

同級の設計は紆余曲折を極めました。そもそもは当時の米海軍の「標準型戦艦」と同じく、14インチ砲搭載艦として設計が着手されましたが、その後の経緯(日本海軍の16インチ砲搭載新戦艦の情報等)を経て、着工時には設計では16インチ砲搭載艦となっていました。しかし、備砲(16インチ8門)と速力は強力ながら(当初設計では米海軍伝統のターボ発電推進方式で33.3ノットを発揮する設計でした。)、その装甲は極めて薄く、ユトランド沖海戦以降に、防御に対策を施した諸列強の高速艦には十分に対抗できるものではありませんでした。

この為、さらに装甲の強化を中心とした防御力に対する見直しが行われ、代わりに速力を30ノットに抑える、という設計変更が行われるなど、数次にわたり設計が見直されています。

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(「レキシントン級巡洋戦艦の概観:42,000t, 30knot, 16in *2*4, 2 ships, 213mm in 1:1250 by Delphin)

レキシントン級巡洋戦艦の近代化改装

同級も完成していれば前出の「サウスダコタ級(1920)」戦艦に準じた、射撃システムの変更、副砲撤去、両用砲を砲塔形式で装備、上部構造物の一新、等々の近代化改装を受けることになったでしょう。そういう想定で、近代化改装モデルを仕上げてみました。

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(レキシントン級巡洋戦艦の近代化改装後の概観:by Tiny Thingajigs:舷側に迷彩塗装を施してみました)

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(直上の写真は、「レキシントン級」の新造時(上)と最終改装後(下)の艦容の比較)

 

レキシントン級巡洋戦艦(デザインバリエーション)

上記のように、同級の設計には長い時間をかけた「紆余曲折」があり、しかも結論はその高速性と長大な艦形を活かして大型の艦隊空母として完成し、本来の巡洋戦艦として完成した艦は一隻もない、ということなのです。

つまり巡洋戦艦としては、同級はいわゆる「未成艦」に分類されるわけですが、その「未成」故に、完成時の姿を想像することは、大変楽しいことです。

 

筆者もご他聞に漏れず想像の羽を伸ばしたがるタイプですので、これからご紹介する「オリジナル・デザイン案」の完成に勢いづいて、筆者の想定するバリエーションの完結を目指してみました。

肝は「煙突」かな?

 

レキシントン級巡洋戦艦(オリジナル・デザイン) 

上述のように、「レキシントン級巡洋戦艦の設計当初の原型(オリジナル・デザイン)では、34300トンの船体に、当時、米海軍主力艦の標準主砲口径だった14インチ砲を、3連装砲塔と連装砲塔を背負式で艦首部と艦尾部に搭載し、35ノットの速力を発揮する設計でした。

その外観的な特徴は、なんと言ってもその高速力を生み出す巨大な機関から生じる7本煙突という構造でしょう。

モデルは、Masters of Miitaly社製で、White Natural Versatile Plasticでの出力を依頼していました。調達先はShapewaysで現時点では再度入手する方法が見出せていません。

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(上の写真は、到着したレキシントン級巡洋戦艦のモデル概観。Masters of Miitaly社製。素材はWhite Natural Versatile Plastic)

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(上の写真は、「レキシントン級巡洋戦艦のオリジナルデザインの完成モデルの概観。Masters of Miitaly社製)

モデルは非常にバランスの取れたスッキリとしたプロポーションを示しています。どこか手を入れるとしたら、当時の米主力艦の特徴である「籠マスト」をもう少しリアルな感じに、かなあ、とは思いますが、今回は手を入れずに仕上げることにしました。あるいは方位版施設を籠マストの上部に載せるのかな?(ああ、だんだん手を入れたくなってきた)

なんかいいアイディアあれば、是非お聞かせください。

 

バリエーション1:「レキシントン級巡洋戦艦:二本煙突シリーズ

竣工時:籠マスト+二本煙突

en.wikipedia.org

上記リンクにあるように、実際に16インチ砲搭載巡洋戦艦として起工されたものが、完成していたら、と言う想定ですね。(こちらは既にモデルとしては、上記でご紹介済みです)

起工当時の米主力艦の標準デザインであった籠マストと、さすがに7本煙突という嬉しいほどユニークではあるけれど何かと問題のありそうなデザインは、実現しなかったんだろうなあ、と、その合理性には一定の納得感がありながら、一方では若干の落胆の混じる(かなり正直なところ)デザインですね。アメリカの兵器は時として、量産性や合理性にともすれば走り、デザインは置き去りになったりします。あくまで筆者の好みですが、「デザイン置き去り」が、「無骨さ」として前に出るときは、言葉にできないような「バランス感の無さ」につながり、それはそれで「大好き」なのですが(M3グラント戦車、M4シャーマン、F4Fワイルドキャット、ニューオーリンズ重巡洋艦等がこれに当たるかなあ)、正直今回の「レキシントン・二本煙突デザイン」これは「味気なさ」が先に立つと言うか・・・。あくまで個人的な感想で、皆さんの同意が欲しいわけではありませんので、ご容赦を)
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(「レキシントン級巡洋戦艦の概観:42,000t, 30knot, 16in *2*4, 2 ships, 213mm in 1:1250 by Delphin:こちらはDelphin社のモデルに少しだけ色を入れた程度です)

最終改装時:塔状艦橋+二本煙突

こちらも既に前出ですね

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(直上の写真:舷側に迷彩塗装を施しています。筆者のオリジナルですので、ご容赦を

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(直上の写真は、就役時(上)と最終改装時(下)の概観の比較)

 

バリエーション2:「レキシントン級巡洋戦艦:巨大集合煙突シリーズ(こちらは筆者の妄想デザインです)

竣工時:籠マスト+巨大集合煙突

そもそも筆者の妄想の発端は、ワシントン・ロンドン体制で、巡洋戦艦から空母に転用された「レキシントン」の巨大な煙突から、でした。

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この煙突がついている主力艦は、どんな感じだったろうか、作っちゃおうか、という訳です。で、その巨大な煙突の背景には大きな機関があり、元々は7本の煙突が初期の設計段階では予定されていたことを知る訳です。おそらくは転用されたのが「空母」なので、高く排気を誘導する必要があったんでしょうが、まあ、今回はそれはそれで少し置いておきましょう。

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 直上の写真は、今回急遽製作した竣工時の「レキシントン級巡洋戦艦」で、籠マストと「レキシントン級」空母譲りの巨大集合煙突が特徴です。

本稿でも以前ご紹介しましたが、本来は下記のTiny Thingajigs製の3D Printing Modelをベースに制作する予定だったのです。

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しかしShapeways側のデータ不備とかの理由で入手できず、この計画が頓挫(もう今となっては再チャレンジすることすら、できないかも)。

では、ということで、ebay等で、これも前出のDelphin社製のダイキャストモデルを新たに入手しそれを改造しようかと計画変更。しかし少し古いレアなモデルだけに新たに入手が叶わず(ebayで、格好の出品を発見。入札するも、落札できず:ebayは1:1250スケールの艦船モデルの場合、当然ですが多くがヨーロッパの出品者で、終了時間が日本時間の明け方であることが多く、寝るまでは最高入札者だったのに、目が覚めると「ダメだった」というケースが多いのです)、結局、手持ちのHai社モデルをつぶす事にしました。(つまり、これ↓を1隻、潰す事に・・・)

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Delphin社のモデルは、こうした改造にはうってつけで、パーツが構造化されており、その構造が比較的把握しやすいのです。従って、少し注意深く作業をすればかなりきれいに分解することができます。今回は上部構造のうち、前後の煙突部と中央のボート甲板を外し、少し整形したのち、Deagostini社の空母「サラトガ」の完成模型(プラスティックとダイキャストのハイブリッドモデル)から拝借した巨大な集合煙突(プラスティック製)を装着する、という作業を行いました。

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で、出来上がりがこちら(再掲です)。設計の合理性は爪の先ほども感じませんが、なんかいいなあ、と自画自賛。この巨大な煙突は格好の標的になるでしょうから、まず、この設計案は採用されないでしょうねえ。

或いは、上掲の2本煙突デザインでは、7本煙突からこのデザインへの変更の際には機関そのものの見直しが必須のように思うのですが、それが何らかの要因で困難だった(あまりに時間がかかる、とか、費用が膨れ上がる、或いは新型の機関を搭載するには一から設計し直したほうが早い、とか)というような状況で、ともあれ完成を早めた、というような条件なら、有りかもしれませんね。

最終改装時:塔状艦橋+巨大集合煙突

そして、巨大集合煙突のまま、近代化改装が行われます。米海軍が主力艦に対し行なった、射撃システムの変更、副砲撤去、両用砲をこの場合には単装砲架で装備、上部構造物の一新、等々の近代化改装を受けた後の姿、と言う想定です。

この場合でも、やはり篭マストが、塔状の構造物に置き換えられました。煙突の中央に太い縦線が入れられ、2本煙突への偽装が施されています。

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こちらは前出のTiny Thingajigs製の3D printing modelをベースとして、このモデルの煙突をゴリゴリと除去し、Deagostini社の空母「サラトガ」の完成模型(プラスティックとダイキャストのハイブリッドモデル)から拝借した巨大な集合煙突(プラスティック製)を移植する手順を踏んでいます。仮置きしたものが、下の写真です。この後、実際には煙突の高さ調整の再加工が入っているので、仕上がり時の煙突はやや低くなっています。

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 この後、下地処理をして、少し手を加え塗装を施し完成です。

巨大集合煙突デザインの就役時と最終改装時の比較

  (上下の写真は、巨大煙突デザインの竣工時(いずれも上段)と最終改装時(下段)の概観の比較)

後ろからのカットの方がよりいい感じですかね。

 

レキシントン級巡洋戦艦:デザインバリエーションの一覧

(上から原案(7本煙突)、二本煙突就役時、二本煙突近代化改装後、集合煙突就役時、集合煙突近代化改装後)

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こうやって一覧すると、「どれが好きですか?」と聞きたくなるのですが・・・。ともあれ、合理性はさておき、やはり巨大煙突、いいと思うんですがねえ。

 と、ちょっとはしゃいだ「レキシントン 級」のお話でした。

 

こうして米海軍の計画のみで終わってしまった戦艦を見てきましたが、就役時と最終時で原型をほとんど留めないほどの変化を与えられる(実際にもそうでしたので)のは、模型的には大きな魅力だと考えています。

 

ということで今回はここまで。

次回は、できれば黄海海戦日清戦争)時の日本艦隊の艦船のお話をしたいのですが、今回同様、モデルの少し手を入れる時間が取れるかどうか。あるいは、一応、遅々としてではありますが整備を進めている装甲艦の話でも。

これら以外に、もし、「こんな企画できるか?」のようなアイディアがあれば、いつでも大歓迎です。是非、お知らせください。

 

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特に「if艦」のアイディアなど、大歓迎です。作れるかどうかは保証しませんが。併せて「if艦」については、皆さんのストーリー案などお聞かせいただくと、もしかすると関連する艦船模型なども交えてご紹介できるかも。

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