相州の、1:1250スケール艦船模型ブログ 主力艦の変遷を追って

1:1250スケールの艦船模型コレクションをご紹介。実在艦から未成艦、架空艦まで、系統的な紹介を目指します。

ドイツ海軍の第二次世界大戦での通商破壊戦:偽装商船

復活ドイツ海軍のZ計画

第一次世界大戦の敗戦で、ドイツはかつては世界第2位を誇った海軍を失い、さらにベルサイユ条約下の制限で、その保有海軍力に大きな制限を課されることになりました。1万トン以上の排水量の艦を建造することが禁じられ、その建造も代替艦に限定されました。戦勝国側の概ねの主旨は、ドイツ海軍を沿岸警備の軍備以上を持たせず、外洋進出を企図させない、というところだったでしょう。

しかし、戦後賠償等の混乱の中で、ドイツにはナチス政権が成立し、1935年に再軍備を宣言、海軍力についても、同年に締結された英独海軍協定で、事実上の制限撤廃が行われました。

その海軍の再建については大きな二つの柱がありました

一つは通商破壊戦を実施する戦力の整備でした。即ち英国を仮想敵とした場合、通商破壊戦を展開することが有効であることは、第一次世界大戦の戦訓で明らかでしたし、再建に着手したとは言え、英海軍との戦力差を埋める事は事実上不可能で、その意味からも通商破壊戦以外にとりうる戦略がない事は明らかだったと言えるでしょう。

これを潜水艦(Uボート)と装甲艦(ポケット戦艦)のような中型軍艦 、あるいは偽装商船のような艦船で行うにあたり、その前提として、英海軍による北海封鎖を打破することは必須であり、そのためには強力な決戦用の水上戦力が必要でした。従って通商破壊戦の展開の前提を創造するための英海軍主力を打破できる水上戦力の整備が2番目の柱となり、この実現計画はZ計画と呼ばれました。

この決戦用水上戦力の整備にについては、まさに主力艦の整備計画であり、本稿では下記の回で既にご紹介しています。

fw688i.hatenablog.com

この計画は史実では1939年のドイツのポーランド侵攻と共に、英仏がドイツに対し宣戦布告し、第二次世界大戦が始まったため、中止となリましたが、海軍の対英国戦略は他に取るべき選択肢はなく、通商破壊戦の3つの柱(潜水艦による、水上戦闘艦による、偽装商船による)は実行されました。

 

今回は上記のうち偽装商船のご紹介。そういうお話です。

 

偽装商船による通商破壊戦

古くから商船に砲を搭載し補助的な軍艦として使用する例は多くみられました。特に蒸気機関を用いた軍艦の黎明期から日清・日露戦争期までの時期には、軍艦と商船の速力の差が顕著ではなく、高速の商船が補助的な軍艦(仮装巡洋艦)として索敵・護衛などの任務を果たす事は十分に可能だったと言えるでしょう。

その後、特に両者の速度差と武装差が顕著になると、補助戦闘艦としての任務よりも通商破壊戦の担当艦として利用されるようになります。

多くの場合、中立国の民間船舶を装い標的に接近し、十分に接近したのち国籍を明らかにし軍艦旗を掲げ襲撃するなどの戦法がとられました。このため搭載武装などは巧妙に隠蔽されており、乗組員も乗客や民間船員の服装を装うなどの偽装が施されていました。本稿のタイトルがあえて「偽装商船」となっているのは、実はそういう理由があります。

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(偽装商船は、各種の武装を舷側下(上段)や船倉(下段左)に隠蔽していました。時にはキャンバス製ので偽装煙突で、船の外観を変えるようなことまでしていました(下段右))

襲撃と言っても多くの場合には十分に接近してからの停船を求めるための威嚇射撃であり、あるいは搭載する水上偵察機の低空飛行により、標的の無線用の通信線を切断し通報能力を奪った上で接近するなどの戦法がとられたそうです。標的の商船は投降後はいったん拿捕され乗員を捕虜とされた後、爆薬により撃沈、もしくは拿捕船とし母国に回航されるといういずれかの処置を取られました。

ドイツ海軍は第一次世界大戦で既にこの戦法を実施しており、実際の拿捕・撃沈の戦果もさることながら、英海軍は通報を受ける都度、その出現に対応せねばならず、通商路保護への戦力の抽出・分派を強いる効果がありました。

fw688i.hatenablog.com

 

第二次世界大戦のドイツ偽装商船

第二次世界大戦でも、ドイツ海軍は以下にご紹介する9隻の偽装商船を通商破壊戦に送り出しました。

 

「オリオン」(秘匿名:軍艦36号/Shiff 36・英海軍のコードネーム:襲撃艦A/Raider A)

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Orion (HSK 1)

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(HSK 1「オリオン」の概観:119mm in 1:1250 bu Neptune: 7,021トン、主砲:155mm*6門、魚雷発射管6門、 水偵2機搭載、機雷228個 14ノット)

1930年建造の貨物船を改造し1939年に通商破壊艦1号(Hilfskreuzer 1:HSK 1)として就役しました。1940年4月から1941年8月にかけて通商破壊活動に従事し、その間、共同戦果も含め10隻、約84,000トンの連合国船舶を撃沈しました。

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(「オリオン」の武装は船倉や遮蔽板を多用して隠蔽されていました)

以降は練習艦あるいは輸送艦として運用され、1945年5月に爆撃で沈没しました。

 

アトランティス」(秘匿名:軍艦16号/Shiff 16・英海軍のコードネーム:襲撃艦C/Raider C)

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Atlantis (HSK2)

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(HSK 2「アトランティス」の概観:122mm in 1:1250 by Neptune: 7,862トン、 主砲:155mm*6門、魚雷発射管4門、 水偵2機搭載、機雷92個、16ノット)

1937年竣工の商船を改造し1939年に通商破壊艦2号(HSK 2)として就役しました。1940年3月に出撃、1941年11月に南大西洋で英巡洋艦「デボンシャー」と交戦、撃沈されました。

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(「アトランティス」の武装は舷側下に偽装板を設け隠蔽されていました(写真上段と中段:遮蔽板の開閉)。後甲板には船倉を利用して水偵が収納されていました)

その間、22隻、約145,000トンの連合国商船を撃沈しています。

 

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(「アトランティス」と交戦し撃沈した重巡洋艦「デボンシャー」(「ロンドン級」155mm in 1:1250 by Neptune)

 

アトランティス」の戦闘航海については下記の書籍があります。実に興味深い。

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この本は比較的手に入りやすい!

海の狩人・アトランティス (航空戦史シリーズ) | フランク, ウォルフガング, ローゲ, ベルンハルト, 茂, 杉野 |本 | 通販 | Amazon

 

ウィダー(秘匿名:軍艦21号/Shiff 21・英海軍のコードネーム:襲撃艦D/Raider D)

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Widder (HSK 3)

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(HSK 3「ウィダー」の概観:122mm in 1:1250 by ???: 7,851トン、 主砲:155mm*6門、魚雷発射管4門、 水偵2機搭載、14ノット) 

1929年建造の客船を改造したもので、1939年に通商破壊館3号(HSK 3)として就役しました。以降、大西洋で通商破壊活動を行い、1940年10月までの間に10隻、約58,000トンの連合国商船を撃沈、もしくは拿捕する戦果をあげました。

戦争を生き残り、戦後、本来の商船として英国船、ドイツ船として運用され、1955年座礁して失われました。

 

「トール」(秘匿名:軍艦45号/Shiff 45・英海軍のコードネーム:襲撃艦E /Raider E)

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Thor (HSK 4)

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(HSK 4「トール」の概観:98mm in 1:1250 by Delphin?: 3,862トン、主砲:155mm*6門、魚雷発射管4門、 水偵1機搭載、小型魚雷艇1隻搭載、18ノット)

1938年に建造された商船を改造した船で、1940年通商破壊艦4号(HSK 4)として就役しました。1940年4月までに1回目の出撃を行い、更に1941年11月から1942年1月まで2回目の出撃を行いました。その間に22隻、約155,000トンの連合国船舶を拿捕、もしくは撃沈する戦果を上げました。

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(「トール」の主砲や魚雷発射管は舷側下に偽装板を設け隠蔽されていました)

1回目の出撃中には、3隻の英海軍の商船改造の特設巡洋艦との戦闘を行い、1隻を撃沈し2隻を戦闘不能にするという戦果も上げています。

2度目の戦闘航海の最後の襲撃で自艦の位置を通報されたため、航海を切り上げ同盟国日本の横浜に寄港。その地で隣接して停泊中のドイツタンカーの爆発に巻き込まれ沈没しました。(1942年11月)

 

「ピングイン」(秘匿名:軍艦33号/Shiff 33・英海軍のコードネーム:襲撃艦F/Raider F)

www.german-navy.de

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(HSK 5「ピングイン」の概観:125mm in 1:1250 by Sextant: 7,766トン、主砲:155mm*6門、魚雷発射管2門、 水偵2機搭載、機雷300個、17ノット)

 1936年に建造された商船を改造した船で、1940年2月に通商破壊艦5号(HSK 5)として就役しました。1940年6月から1941年5月まで、大西洋からインド洋、南極海にかけて戦闘航海を行い、捕鯨船や鯨油加工船を14隻含む32隻、約155,000トンの連合国船舶を撃沈、また拿捕しました。

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(「ピングイン」の武装は舷側下に偽装板を設け隠蔽されていました。後甲板には船倉を利用して水偵や小型魚雷艇が収納されていました)

同航海では、副次的な任務として、Uボートへの補給も行いました。1941年5月8日、セイシェル諸島付近で英海軍巡洋艦コーンウォール」の襲撃を受け、機雷庫に被弾、爆沈しました。

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(「ピングイン」と交戦し撃沈した重巡洋艦コーンウォール」(「ケント級」)152mm in 1:1250 by Neptune)

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「ピングイン」は、この小説に登場する敵役のモデル?なんで鯨油加工船や捕鯨船なの、と思った方は、是非。

南極海の死闘 (Best sea adventures) | W.R.D. マクロクリン, 力, 尾坂 |本 | 通販 | Amazon

 

「シュティーア」(秘匿名:軍艦23号/Shiff 23・英海軍のコードネーム:襲撃艦J/Raider J)

www.german-navy.de

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(HSK 6「シュティーア」の概観:108mm in 1:1250 by Neptune: 6,376トン、主砲:155mm*6門、魚雷発射管6門、 水偵2機搭載、小型魚雷艇1隻搭載、14ノット)

 1936年建造の商船を改造したもので、1939年11月に通商破壊艦6号(HSK 6)として就役しました。当初バルト海での通商破壊船を展開後、機雷敷設船に改造され英国本土上陸作戦に使用される予定でしたが、同作戦の中止とともに、本来の通商破壊作戦に戻りました。

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(「シュティー」の主砲は船倉(上段写真)や貨物を装って(写真下段)隠蔽されていました)

1942年5月に出撃し、1942年9月に米国貨物船との戦闘で沈没するまでの大西洋での戦闘航海で、4隻、約29,000トンの連合国船舶を撃沈しました。

 

コメート(秘匿名:軍艦45号/Shiff 45・英海軍のコードネーム:襲撃艦B/Raider B)

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Komet (HSK7)

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(HSK 7「コメート」の概観:97mm in 1:1250 by Neptune: 3,287トン、主砲:155mm*6門、魚雷発射管6門、 水偵2機搭載、小型魚雷艇1隻搭載、機雷30個、14.8ノット)

 1937年の建造された商船を改造した船で、1940年2月に通商破壊艦7号(HSK 7)として就役しました。偽装商船としては最小です。

2度の戦闘航海を行い、1度目は1940年7月から1941年1月までの間に北極海から太平洋に進出し、その後、地球を一周してフランスに帰着しました。

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(「コメート」の主砲や魚雷発射管は舷側の遮蔽板内に隠蔽されていました。後甲板部には船倉内に水偵や小型魚雷艇が収納されていました)

2度目は1942年10月ル・アーブルを出航しましたが、出撃の翌日10月14日、駆逐艦部隊と交戦し、被弾、爆沈しました。

8隻、約52,000トンの連合国船舶を拿捕・撃沈しました。

 

「コルモラン」(秘匿名:軍艦41号/Shiff 41・英海軍のコードネーム:襲撃艦G/Raider G)

ja.wikipedia.org

Kormoran (HSK 8)

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(HSK 8「コルモラン」の概観:131mm in 1:1250 by Neptune: 8,736トン、主砲:155mm*6門、魚雷発射管6門、 水偵2機搭載、小型魚雷艇1隻搭載、機雷360個、18ノット)

1938年の建造された商船を改造した船で、1940年10月に通商破壊艦8号(HSK 8)tosite就役しました。通商破壊艦としては最大の船で、1940年12月から1941年11月までの戦闘航海で 大西洋、インド洋で11隻、約69,000トンの連合国船舶を拿捕・撃沈しました。

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(「コルモラン」の主砲や魚雷発射管は舷側の遮蔽板内や船倉に隠蔽されていました。後甲板部には船倉内に水偵や小型魚雷艇が収納されていました)

 

1941年11月29日、オーストラリア海軍の巡洋艦シドニー」と遭遇し、オランダ船を偽装して接近した後、近距離砲戦の結果、複数の命中弾を与え、加えて魚雷も命中さるなど「シドニー」を大破(後、沈没。生存者なし)させましたが、自艦も被弾し大火災を起こし乗組員は艦を放棄せざるを得ませんでした。こうして、「コルモラン」はドイツの偽装商船の中で唯一、連合国軍艦を沈める戦果を挙げた艦となりました。

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(「コルモラン」と交戦したオーストラリア海軍軽巡洋艦シドニー」(「パース級」):135mm in 1:1250 by Neptune)

 

「ミヒェル」(秘匿名:軍艦28/Shiff 28・英海軍のコードネーム:襲撃艦H/Raider H)

ja.wikipedia.org

Michel (HSK 9)

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(HSK 9「ミヒェル」の概観:106mm in 1:1250 by Neptune: 4,740t, 主砲:155mm*6門、魚雷発射管6門、 水偵2機搭載、小型魚雷艇1隻搭載、16ノット)

1939年のされた商船を改造した船で、1941年9月に通商破壊艦9号(HSK 9)として就役しました。1942年3月に出撃し、大西洋からインド洋で通商破壊活動を行い、1943年3月、同盟国の日本(神戸)に寄港。その後、5月にインド洋から太平洋で通商破壊戦を展開しますが、日本への帰港途上、1943年10月父島沖で米潜水艦の雷撃により撃沈されました。

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(「ミヒェル」の武装は船倉に隠蔽されていました。後甲板部には船倉内に水偵や小型魚雷艇が収納されていました)

上記の戦闘航海を通じ、18隻、約127,000トンの連合国船舶を沈めました。

 

以上のように、ドイツ海軍の通商破壊艦を見てきましたが、その活躍の時期は1942年の初頭までで、つまり有力な海軍航空兵力を備えた米国の参戦後は、ほとんど活動の場を見出せなくなってしまいました。

それはさておき、商船ならではの長い航続距離を活かして神出鬼没を狙い通商路を脅かす偽装商船と、それを追う英艦隊の物語は、実に興味がつきません。しかし実はあまり物語化されておらず、昔はYoutubeで偽装商船の登場する古いモノクロの映画など観れたような記憶があるのですが、著作権から制限がかかったのか今では探すことができません。

ガラガラと舷側の偽装板が降ろされて、ヌッと砲身が現れる、そんな映画だった記憶があるのですが・・。

どなたか、お勧めの書籍(できれば小説がいいかなあ)や、映画があれば教えていただけるとありがたいです。

 

偽装商船というと記憶に新しいところで、こんなのもありましたね。

www.gundam-unicorn.ne

ガンダムUC  ネオ・ジオン軍 偽装貨物船「ガランシェール

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(上記の写真はコスモフリート・コレクションから。ノンスケールモデルですが、全長60mm程のモデルです。おおよそ1:2500かと)

ガランシェール」は固有の武装を持っていません。船倉に4機のモビルスーツを搭載し、これがこの船の主戦力を構成しています。ストーリーの最初から「偽装貨物船」なんて出てくるものだから、あっという間にストーリーに引き込まれてしまいました。もう少し活躍して欲しかったなあ。

 

ということで、今回はここまで。

 

次回は(多分)通商破壊戦つながりで、Uボートのお話をしましょうかね。こっちは映画もたくさんあるし・・・。

 

もし、「こんな企画できるか?」のようなアイディアがあれば、是非、お知らせください。

 

模型に関するご質問等は、いつでも大歓迎です。

特に「if艦」のアイディアなど、大歓迎です。作れるかどうかは保証しませんが。併せて「if艦」については、皆さんのストーリー案などお聞かせいただくと、もしかすると関連する艦船模型なども交えてご紹介できるかも。

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