今回は日本海軍の巡洋艦小史の番外編、ということで、未成艦・架空艦のご紹介です。
日本海軍は、これまでご紹介したように、太平洋戦争には「天龍級」(2隻)、「5500トン級」(14隻)、「夕張」の軽巡洋艦、「古鷹級」(2隻)、「青葉級」(2隻)、「妙高級」(4隻)、「愛宕級」(4隻)、「最上級」(4隻)、「利根級」(2隻)の重巡洋艦、「香取級」(3隻)の練習巡洋艦の陣容で臨みました。大戦中に「阿賀野級」(4隻)、「大淀」の計5隻の軽巡洋艦を就役させました。
これに加えて、重巡洋艦2隻を建造中でしたが、これらはミッドウェー海戦の敗北、主力空母機動部隊の壊滅により、急遽、転用され軽空母として建造されることとなりました。これ艦級は「伊吹級」軽空母として知られています。結局、この軽空母は重巡洋艦からの転用工数がかかりすぎるところから、軽空母としても未成に終わりました。
今回、最初のご紹介は、この「伊吹級」が当初の計画のまま重巡洋艦として建造された場合、を再現した物です。
未成艦:「伊吹級」重巡洋艦(改鈴谷級重巡洋艦) ー同型艦2隻 (伊吹、鞍馬)
Ibuki-class cruiser - Wikipedia
(直上の写真:「改鈴谷級」重巡洋艦の概観:163mm in 1:1250 by Tiny Thingamajigs)
史実上、日本海軍が建造に着手した最後の重巡洋艦です。「伊吹級」重巡洋艦と言う呼称の方が通りが良いかもしれません。また、「改鈴谷級」の名称の通り、「鈴谷級」巡洋艦の改良型で、後部マストの位置の違い程度しか外観上の区別はありません。装備上では「鈴谷級」の3連装魚雷発射管4基から4連装魚雷発射管4基に、雷装が強化されています。着工後、航空艤装を排して5連装発射管5基装備にさらに雷装を強化したと言われています。
(直上の写真:「最上級」(上段)と「改鈴谷級=伊吹級」(下段)の比較。建造期間を短縮するために、「最上級」の設計を踏襲しています。相違点は後部マストの位置と後橋でしょうか?下の写真:「最上級(上)と「改鈴谷級=伊吹級」(下)の艦型比較)
1番艦は「伊吹」と命名され、1942年4月に起工され、1943年5月に進水、その後、ミッドウェー海戦での機動部隊主力空母の喪失を受けて急遽航空母艦への改造が決定されましたが、既に重巡洋艦として進水を迎えていた本艦の転用改造の工事は工数が多く、工事途中で終戦を迎えています。
今回入手した3D printingモデルは、「改鈴谷級」の原案をモデル化したもので、航空艤装は装備したままの姿を再現したものです。
制作社は、本稿で紹介した艦船では日本海軍の「5500トン級」軽巡洋艦や「レキシントン級」巡洋戦艦などでお世話になっているTiny Thingamajigsで、その細部の再現等には信頼を置いています。
(直上の写真:「改鈴谷級」重巡洋艦の概観:下地処理をした状態です。この後、塗装をし、マストのトップ部分をプラロッドなどで仕上げれば完成、かな?)
(直上の写真:今回はSmooth Fine Detail PlasticとWhite Natural Versatile Plasticの2素材で出力を依頼しました。2隻共、重巡洋艦仕様で仕上げていこうか(その場合には「伊吹」と「鞍馬」かな?)、あるいは1隻は条約型巡洋艦の名残りという設定で、主砲を3年式60口径15.5cm砲として、軽巡洋艦仕様で仕上げてみましょうか?(その場合には、「川」の名前を考えねば))
架空艦:「九頭竜級」軽巡洋艦ー「改鈴谷級:伊吹級」の軽巡洋艦仕様仕上げ
(直上の写真:「改鈴谷級=伊吹級」の派生形「九頭竜級」軽巡洋艦の概観:163mm in 1:1250 by Tiny Thingamajigs)
前述のように、今回、3D printingモデルを2点入手したため、一つは条約型巡洋艦の延長として「改鈴谷級」を軽巡洋艦仕様で完成させた場合を想定した仕上げにしてみました。
日米間に不穏な空気が漂い始めた頃、艦隊決戦において漸減戦術の一つの要と想定されていた水雷戦隊による魚雷攻撃を率いるべき軽巡洋艦群の多くが既に旧式化しており、旗艦巡洋艦の整備もまた急務だった、というような想定から、「改鈴谷級:伊吹級」重巡洋艦の後続艦を軽巡洋艦仕様で完成させた、というようなカバー・ストーリでしょうか?
主砲は、もちろん「最上級」条約型巡洋艦に搭載されていた3年式60口径15.5cm砲の3連装砲塔とし、これを「最上級」に準じて5基、15門搭載します。さらに雷装は「改鈴谷級」に準じ4連装魚雷発射管4基とします。
(直上の写真および直下の写真:「改鈴谷級=伊吹級」重巡洋艦(上段)と「九頭竜級」軽巡洋艦(下段)の比較。同一設計の船体に搭載主砲が異なります。下の写真:「改鈴谷級=伊吹級」重巡洋艦(上段)と「九頭竜級」軽巡洋艦(下段))
主砲の話:3年式60口径15.5cm砲か3年式50口径20cm砲か
3年式60口径15.5cm砲の諸元は、弾重量:55.9kg、最大射程27,400m、射撃速度毎分5発、これを3連装砲塔5基に搭載していましたので、1分あたりの発射弾重量は約4.2トン。
一方、3年式50口径20cm砲の諸元は、弾重量:125.9kg、最大射程29,400m、射撃速度毎分3発、これを連装砲塔5基に搭載していましたので、1分あたりの発射弾重量は約3.8トン。
両者を比較すると、単位時間あたりの射撃回数、投射弾量、発射弾数共に15.5cm砲の方が上回り、1発当たりの弾重量、つまり命中弾が出た場合の打撃力を除くと15.5cm砲の方が有利とも考えられるわけで、どちらを主砲として採用するかは、用兵者の判断ということになります。
筆者としては「手数」の多いほうを採用するのも面白いと考えるのですが、日本海軍は条約失効時に「最上級」でわざわざ15.5cm砲を20cm砲に換装していますので 、命中弾当たりの打撃効果を取ったということでしょうね。
この艦級が旗艦となって水雷戦隊を率い、ソロモン海あたりで夜戦に投入されていたら、どんな活躍をしたのでしょうね?ちょっと見てみたい。
ミニ・コラム(その1):艦名の話
日本海軍では巡洋艦の場合、一等巡洋艦(大型巡洋艦・重巡洋艦)には「山」の名前を、それ以下の巡洋艦には「川」の名前を命名する、という大原則が用いられてきました。
その顰みに倣うと、「改鈴谷級:伊吹級」の3, 4番艦を水雷戦隊旗艦として軽巡洋艦仕様で仕上げた、という想定なら、重巡洋艦らしく「山」系の艦名でも良かったのですが、設計を分けた、というところで、軽巡洋艦らしく「川」系の艦名にしてみました。「九頭竜」「四万十」という感じなんですが、どうでしょうか?あまりにも「架空艦」ぽいかな、と筆者も思っているのですが、「鶴見」「黒部」というのも考えてはみたのですが、いかにもな感じもしまして・・・。
ミニ・コラム(その2):排水量の話
艦船の大きさは排水量で語られることが多いのですが、基準排水量、常備排水量、満載排水量など、いくつかの排水量定義があり、ちょっと混乱してしまいます。少しここで整理を。
艦船は、その船体や装備の重量以外に、乗組員の数(定数かそれ以外の状況か)、弾薬の積載量、燃料、食糧、水など、活動に必要な消耗品を積載しています。
まず、「満載排水量」。これはその表現の通り、乗組員定数、弾薬、食糧、水、燃料などをいっぱいに積載した場合の重量を表現しています。近年、多くの海軍が艦船の諸元としてこの数字を公表しているようです。
「常備積載量」。これは満載積載量から、食糧、燃料、水などの消耗品を2/3の状態にした状況での重量で、主として戦場に到着した状態(戦闘直前)を表す数値として使われていました。国によって若干消耗品にかける係数が異なることがあったようです。
そして「基準排水量」。これは主として軍縮条約(ワシントン・ロンドン体制)の制限の定義に用いられた排水量の定義です。上記の満載排水量から燃料・水を差し引いた重量とされています。これは、軍縮条約の制限に「平等性」を付与するために、想定戦場や艦船の活動範囲を広域に想定する(つまり、燃料や予備缶水の量が多い)国の不利を排除するために用いられた定義、と言えます(具体的には英・米の不利防止ですね)。軍縮条約の発効しない状況では、あまり有効な定義とは言えず、現在ではこの定義で使用している国はないようです。日本の海上自衛隊では艦船の諸元の数値として「基準排水量」という名称を使用していますが、この場合の「基準排水量」には乗組員、食糧、弾薬、水、燃料などが全て含まれておらず、いわゆる建造時の艦船の重量、を表現する数値となっています。
日本海軍の防空巡洋艦の計画ーマル5計画(あるいは改マル5計画)
日本海軍には「815号型軽巡洋艦」という防空巡洋艦の設計案が昭和17年度艦船補充第1期計画(通称マル5計画)において計画されていました。
815号型軽巡洋艦は、主力艦直衛の防空巡洋艦という設計で、5800トンの船体に65口径長10センチ高角砲(九八式十糎高角砲)を連装砲塔で4基搭載するという設計だったようです。
「マル5計画」自体がミッドウェー海戦の敗北で見直され、この計画は立ち消えになったのですが、その主要な仕様は、「秋月級」駆逐艦へと継承されたと考えられます。
さて、今回ご紹介する「防空巡洋艦」は「阿賀野級」軽巡洋艦よりはひと回り小ぶりな外観をしており、上記の「815号型軽巡洋艦」では計画に盛り込まれていた水上偵察機2機搭載の航空艤装や魚雷装備が廃止された代わり65口径長10センチ高角砲(九八式十糎高角砲)を連装砲塔で12基も搭載するという、より艦隊直衛に特化した設計になっています。日本海軍が常に拘った雷装が放棄された辺りの割り切りも含め、やはり「架空艦」と言っていいように思います。www.shapeways.com
ということで、まずは艦級名の話を。
同級は艦隊防空の専任艦として設計され、**年度艦船補充計画(正史でいけば17年度ですが、本稿のやや後ろ倒しで始まった太平洋戦史に則れば19年度でもいいのかも)で、10隻の建造が決定されました。慣例として二等巡洋艦(軽巡洋艦)には、「川」の名前が与えられたとこところから、1番艦には「高瀬」の名が与えられました。以後、同型艦には「鳴瀬」「綾瀬」「早瀬」「平瀬」「嘉瀬」「初瀬」「白瀬」「渡良瀬」「水無瀬」などが予定されていました。
ということで、艦級名は「高瀬級」
ここからは「架空艦」ならではの「if」ストーリー。
「高瀬級」軽巡洋艦では、対空砲兵装の充実のために、前述のように航空艤装や雷装が廃止され、他の構造物はできるだけ軽量化が図られ、例えば艦橋構造は、駆逐艦の様な簡素な塔構造とされています。
(直上の写真は、防空巡洋艦「高瀬級」の概観を示したもの。138mm in 1:1250 C.O.B Constructs and Militarys製 素材はSmooth Fine Detail Plastic)
(直上の写真は、「高瀬級」と「阿賀野級」の概観比較。「阿賀野級」が一回り大きい。「阿賀野級」141mm in 1:1250 by Neptune :「高瀬級」では、上部構造物が簡素化され、軽量化への工夫が見て取れます)
(直上の写真は、「高瀬級」と同様の設計思想で建造された「秋月級」防空駆逐艦の概観比較。
やはり軽巡洋艦だけあって「高瀬級」の大きさが目立ちます。艦橋構造は類似しているのが見ていただけると思います。「秋月級」防空駆逐艦: 117mm in 1:1250 by Neptune)
65口径長10センチ高角砲(九八式十糎高角砲)
同級の最大の特徴は、その主砲を、高角砲機能を中心に据えた両用砲としたところにありますが、搭載する65口径長10センチ高角砲(九八式十糎高角砲)は、日本海軍の最優秀対空砲と言われた高角砲で、18700mの最大射程、13300mの最大射高を持ち、毎分19発の射撃速度を持っていました。これは、戦艦、巡洋艦、空母などの主要な対空兵装であった12.7cm高角砲(八九式十二糎七粍高角砲に比べて射程でも射撃速度でも1.3倍(射撃速度では2倍という数値もあるようです)という高性能で、特に重量が大きく高速機への対応で機動性の不足が顕著になりつつあった12.7cm高角砲の後継として、大きな期待が寄せられていました。
同様の艦隊防空と言うコンセプトで米海軍が建造した「アトランタ級」軽巡洋艦の主砲であったMk 12 5インチ両用砲と比較してみると、射程でも射高でもこれを上回り、射撃速度はほぼ同等、しかし口径の差から弾丸状量が長10cm高角砲の13kgに対し、5インチ砲は25kgとほぼ倍で、両用砲搭載艦同士の砲戦となった場合には、射程を利用した最大射程での命中弾を期待するしかなく、不利は否めなかったと言わざるを得ないでしょう。
同級の建造と、設計変更
ここからは「架空艦」ならではの「if」ストーリー。
上掲の写真のように、12基の連装対空砲塔を、艦首部に3基、艦中央に6基、艦尾部に3基と、多数配置し対空兵装の充実を目指した「高瀬級」でしたが、しかしどう贔屓目に見ても兵装過多、トップヘビーで、高速で転舵などすると、傾斜が想定以上に大きく、射撃等にも影響が出るなどの事象が発生し、次期改装期には艦首部の1番、および艦尾部の12番砲塔を撤去するなどの対策が検討されていました。未成に終わった5番艦・6番艦では最初から主砲塔を2基減じた設計に変更されていた、とも言われています。
更に、戦況が進むにつれ、水雷戦隊旗艦を務めていた「5500トン級」軽巡洋艦の中から戦没艦が生じ始めます。それ以前に「5500トン級」軽巡洋艦は開戦当時すでに旧式化しており、特にその搭載主砲は旧式な単装砲郭式であり、かつ対空戦闘能力も低く、昼間の出撃では「5500トン級」は 戦闘に耐えないとして、旗艦を駆逐艦に変更する戦隊指揮官も現れるほどでした。これを補うのが「阿賀野級」軽巡洋艦だったのですが数が揃わず、すでに2隻が完成し、6隻が着工、あるいは起工寸前だった「高瀬級」も、この候補として検討され始めます。
しかし、既述のように、同級の主砲、長10cm高角砲は対水上艦戦闘では非力と言わざるを得ず、また水雷戦隊旗艦としては雷装を保有しないのは適性が低いなど、用兵側から、同級の搭載砲等の兵装に対する見直しが要求されます。こうして、「改高瀬級」汎用軽巡洋艦が設計されることになります。
同級は船体や機関など「高瀬級」の基本設計はそのままに、高角砲(両用砲)の搭載数を半分にして、水上戦闘にも耐えるように主砲として3年式60口径15.5cm砲を連装砲塔3基に搭載することが計画されました。
この砲は元々はワシントン・ロンドン体制で重巡洋艦の保有数を制限された日本海軍が、列強の重巡洋艦の8インチ砲にも対抗できるように「最上級」軽巡洋艦の主砲として開発された砲で、「最上級」が条約切れに伴い8インチ砲に主砲を換装した後は、「大和級」戦艦の副砲に転用されました。27000mという長大な射程を持ち(「阿賀野級」に搭載された50口径四十一年式15センチ砲の最大射程の1.3倍)、また60口径の長砲身から打ち出される弾丸は散布界も小さく、弾丸重量も「阿賀野級」搭載砲の1.2倍と強力で、高い評価の砲でした。「最上級」「大和級」では、これを3連装砲塔で搭載していましたが、「高瀬級」の船体に合わせて、新たな連装砲塔が開発されました。
75度までの仰角が与えられ、一応、対空戦闘にも適応できる、という設計ではありましたが、毎分5発程度の射撃速度では、対空砲としての実用性には限界がありました。
加えて「5500トン級」軽巡洋艦に代わる水雷戦隊旗艦としての運用に期待を寄せる用兵側の強い要求で、魚雷装備が復活され、61cm4連装魚雷発射管を2基、自発装填装置付で搭載することとなりました。
優れた基本設計で、なんとかこれらの要求には応えたものの、この辺りが限界で、流石に航空艤装の搭載は諦めざるを得ませんでした。
(直上の写真は、「改高瀬級=渡良瀬級」軽巡洋艦の概観を示したもの。基本設計は「高瀬級」の設計に準じたものの、射撃管制等により艦橋がやや大型化しているのが分かります。138mm in 1:1250 C.O.B Constructs and Militarys製 素材はWhite Natural Versatile Plastic)
設計決定後、同級の建造は最優先となり、「高瀬級」の建造は4隻でいったん休止されます。こうして建造された1番艦には「高瀬級」の艦名予定リストから「渡良瀬」の名が与えられました。
「渡良瀬級」と命名
艦名は「渡良瀬」「水無瀬」とされました。
本来の計画では、「高瀬級」は10隻が建造される予定で、うち8隻が着工、4隻が「高瀬」「成瀬」「綾瀬」「早瀬」として就役、最も着工の遅かったの2隻が大掛かりな設計変更の末「改高瀬級=渡良瀬級」として建造を優先的に継続され、「渡良瀬」「水無瀬」として完成されました。
着工済みだった残りの2隻は、「渡良瀬級」に準じて設計を変更するには工事が進みすぎており、中間的な位置付けの設計変更での対応を模索する中、戦況の激化で完成されませんでした。
(直下の写真は、「高瀬級」防空巡洋艦(左列)と「渡良瀬級」軽巡洋艦(右列)の主要箇所比較。上段:艦首部の主砲配置の比較。中段:艦橋構造と中央部の対空砲配置の比較(「渡良瀬級」の艦橋が射撃管制等の必要性から大型化しているのが分かります。下段:艦尾部の比較(「渡良瀬級」では魚雷装備が復活されました。艦中央部の上部構造物内に次発装填機構が組み入れれれています)
こうして完成された「渡良瀬級」軽巡洋艦は、兵装面だけをみると「阿賀野級」よりもはるかに強力で、これを「阿賀野級」よりもひと回り小さな船体に搭載し、原型である「高瀬級」同様に船体重心を下げるために極限まで簡素化された上部構造を持ったため、その居住性は劣悪だったろうなあ、と想定されます。それでもやはりトップヘビーは避けられず、そのため次期の改装では6基の高角砲のうち2基を機銃座に換装し軽量化を図るなどの対策が検討されていた、とか。
また、現場の運用場面では、夜戦想定の出撃の場合には、高角砲の砲弾を定数の6割程度に抑えて軽量化を図り出撃した、とも。
(直上の写真では、「渡良瀬級」軽巡洋艦(手前)と「阿賀野級」軽巡洋艦の概観を比較。「渡良瀬級」がひとまわり小さいことがよく分かります。
直下の写真では、両級の主要な部分を比較しています。上段:前部主砲塔と艦橋の配置(「渡良瀬級」の搭載主砲の方が新しく強力です。一方、艦橋は「渡良瀬級」では簡素化され、一見、駆逐艦の艦橋構造のようです)中段:艦中央の構造比較(「渡良瀬級」では航空艤装に代えて対空兵装を充実しています)下段:艦尾部の比較(「阿賀野級」では魚雷兵装は搭載水上偵察機の整備甲板の下に設置されています))
「渡良瀬級」汎用軽巡洋艦の製作
当初から、防空巡洋艦のバリエーション制作の予定で、加工適性の高いWhite Natural Versatile Plastic製のモデルを発注しておきました。
(上掲の写真の奥がm加工適性の高いWhite Natural Versatile Plastic製のモデル。下のリンクは)
併せて、主砲の換装用に、15.5cm連装砲塔も入手しておきました。
(今回使用した3年式60口径15.5cm砲連装砲塔は左)
これらの加工工程が以下です。
まず、上段の写真がオリジナルのモデル。中段では、艦首部と艦尾部の主砲塔群を切除。そして下段では、前後の砲塔群の跡に15.5センチ連装砲塔を搭載、そして小さなパーツをちょこちょこ追加。まあ数時間でこの程度の作業ができちゃうところが、筆者のように時間がない者にとっては(場所もないのですが)、とっても嬉しいところ。(下段写真の少し黄色っぽく見える部分は、砲塔群切除の際にやや削りすぎた上甲板部をパテで補修した跡です)
この後、サーフェサーを塗布し下地処理をした後、塗装しています。まさに「戦時急造艦」ですね。
マル6計画での重巡洋艦
通称マル6計画、正式名称第6次海軍軍備充実計画は、昭和19年(1944年)から25年にかけての7ヶ年間の海軍軍備の整備計画で、その中には重巡洋艦8隻の建造が含まれていました。この計画艦については、マル6計画自体が開戦等があり潰れたため、詳細な資料を見つけることができていませんが、World of Warshipsというゲームに登場する日本海軍の重巡洋艦のほぼ最終形態、集大成「蔵王級」重巡洋艦として登場しています。
(直上の写真:「蔵王級」重巡洋艦の概観:178mm in 1:1250 by Tiny Thingamajigs)
World of Warshipsに登場する「蔵王級」重巡洋艦は基準排水量14000トンの大型巡洋艦で、8インチ主砲を3連装砲塔4基、12門搭載し、対空兵装としては長10センチ高角砲の連装砲塔を6基、都合12門搭載、更に雷装としては5連装魚雷発射管を各舷2基、計4基搭載し左右両舷に対し、それぞれ10射線を確保している、という設定です。それまでの日本海軍の重巡洋艦に比べ重装甲を有している設定ですが、速力は34.5ノットを発揮する、という、まさに日本重巡洋艦の集大成として登場しているようです。
(直上の写真:「高雄級」(上段)と「蔵王級」(下段)重巡洋艦の比較:大型化した船体と、コンパクトな艦橋、艦中央部に配置された強力な対空砲がよくわかります。下の写真:「高雄級」(左)と「蔵王級」(右))
最後にせっかくなので、日本海軍の重巡洋艦の艦型の比較をしておきましょう。
(直上の写真:日本海軍の重巡洋艦一覧。下から「古鷹級」「青葉級」「妙高級」「高雄級」「最上級」「利根級」「改鈴谷級=伊吹級」「蔵王級」の順)
(直上の写真は、「超甲巡」の概観。198mm in 1:1250 by Tiny Thingamajigs: マストをプラロッドで追加した他は、(珍しく?)ストレートに組み立てました。元々が素晴らしいディテイルで、手をいれるとしたら「65口径長10センチ高角砲(九八式十糎高角砲):いわゆる長10センチ高角砲」のディテイルアップくらいですが、少し大ごとになりそうなので、そちらはいずれまた)
65口径長10センチ高角砲(九八式十糎高角砲)の話
65口径長10センチ高角砲(九八式十糎高角砲)は、日本海軍の最優秀対空砲と言われた高角砲で、18700mの最大射程、13300mの最大射高を持ち、毎分19発の射撃速度を持っていました。これは、戦艦、巡洋艦、空母などの主要な対空兵装であった12.7cm高角砲(八九式十二糎七粍高角砲に比べて射程でも射撃速度でも1.3倍(射撃速度では2倍という数値もあるようです)という高性能で、特に重量が大きく高速機への対応で機動性の不足が顕著になりつつあった12.7cm高角砲の後継として、大きな期待が寄せられていました。
上記、射撃速度を毎分19発と記述していますが、実は何故か揚弾筒には15発しか搭載できず、従って、15発の連続射撃しかできなかった、ということです。米海軍が、既に1930年台に建造した駆逐艦から、射撃装置まで含めた対空・対艦両用砲を採用していることに比べると、日本海軍の「一点豪華主義」というか「単独スペック主義」というか、運用面が置き去りにされる傾向の一例かと考えています。
モデルのディテイルアップの話に戻すと、正直にいうと、現時点で筆者にとって満足のいくディテイルが再現された「長10センチ高角砲」は、Neptune社製の「秋月級」駆逐艦に搭載されているものくらいしか、思い当たりません。
実はこれまでにも、本稿では「架空防空巡洋艦」の回などで、同砲は「架空防空巡洋艦」の主砲として登場しています。
同艦は長10センチ高角砲の連装砲塔を12基搭載しており、併せて準同型艦として同回に紹介した「汎用軽巡洋艦」も同連装砲を6基搭載しています。これらも含めディテイルアップのために換装しようとすると、Neptune製の「秋月」を7隻つぶさねばならず、ちょっと現実的な対処法ではない。
既に皆さんもある程度予想がつくと思いますが、筆者の場合、こういう時は「困った時のShapeways 」ということになるのですが、なんと、実は Shapewaysにはちゃんと連装砲塔のセットがあるのです。
16砲塔で1セットですのでこれが2セットあれば、良い、という計算です。
ということで、早速入手してみたのですが、今度はNeptune製「秋月」の砲塔よりかなり小さい。かつ、砲身を自作しなくてはなりません(まあ、砲身の自作の方はプラロッドか真鍮線でチマチマと作れば良いので、時間はかかりますが、なんとかなりそう(楽しいしね)なのですが)。何れにせよ、全砲塔の換装を視野に入れると、少し結論を先延ばし、ということで。
「超甲巡」の話
行きがかり上とはいえ、話が同艦級の搭載した「長10センチ高角砲」に終始しましたが、そもそも「超甲巡」についても少しご紹介しておきましょう。
「超甲巡」とは「超甲型巡洋艦」の略称で、いわゆる「甲型巡洋艦=重巡洋艦」を超える性能の「巡洋艦」を意味します。
マル五計画、マル六計画で建造が計画されたいわゆる「If艦」です。一応、設計スケッチは残っているようなので「未成艦」と言っても良いのかもしれません。3万トン級の船体に30センチクラスの主砲を3連装砲塔で3基搭載し、対空砲は長10センチ高角砲を連装砲塔で8基という強力な火力を誇っています。33ノットの速力を発揮する予定だった、ということだから、空母機動部隊の直営としても活躍できたでしょうね。
そもそもの同艦級の設計構想は、日本海軍の「艦隊決戦」構想の一環として、本稿でも何度も取り上げている「漸減邀撃作戦」での水雷戦隊による夜戦の中核艦とするものでした。
同作戦構想では、敵主力艦隊に対し日本海軍自慢の酸素魚雷を搭載した重巡洋艦部隊、水雷戦隊、総数約80隻を展開し夜戦が展開されます。この際にこれらを総指揮し、あるいは敵主力艦隊の前衛の警戒戦を突破する有力な砲力を有した艦として、当初「金剛級」高速戦艦が当られる予定でした。しかし同艦級は、ご承知のように日本海軍の主力艦の中では最も艦齢が古く、優れた基本設計のために数次の改装を経て、なお一線の高速戦艦として有力な存在ではあったものの、25年の艦齢を考慮すると、これに代わる有力艦級の整備は急務でした。
こうして生まれたのが「超甲巡=超甲型巡洋艦」の設計構想で、水雷戦隊に帯同できる高速性と「艦隊決戦」の仮想敵である米艦隊が急速に整備しつつあった大型の重巡洋艦・軽巡洋艦を凌駕する砲戦力とこの砲戦に耐えられる防御能力を有した艦となる予定でした。
同時期に各国海軍が建造した「シャルンホルスト級」「ダンケルク級」、とりわけ米海軍が建造した「アラスカ級」大型巡洋艦絵を強く意識したもので、6隻が建造される予定でした。
(直上の写真:「超甲型巡洋艦=超甲巡」の新型31センチ主砲(上段)と65口径長10センチ高角砲(九八式十糎高角砲)
その後、海軍戦力の重点が航空優位に移行し、従来の「艦隊決戦」のあり方に変化が現れると、同艦級は「金剛級」高速戦艦同様、その高速性から空母機動部隊の直衛戦力としての期待をも担うことになります。
こうして有力な新設計の31センチ主砲(設計上は「金剛級」の36センチ主砲を凌駕する性能だったと。製造されていないので、実力の程はわかりませせんが)と並び、帝国海軍の最優秀対空砲である「長10センチ高角砲」が搭載されました。
(直上の写真:巡洋艦の艦型比較。下から「改鈴谷級=伊吹級」重巡洋艦、「蔵王級」重巡洋艦、「超甲型巡洋艦=超甲巡」:「超甲巡」の主砲の大きさが目立ちます)
ということで、取り敢えず今回は、ここまで。
次回は、どうしようかな?
「吹雪級」駆逐艦がほぼ完成したので、日本海軍の駆逐艦の系譜紹介?あるいはそろそろ米海軍の駆逐艦の系譜紹介も可能かも。
もし、「こんな企画できるか?」のようなアイディアがあれば、是非、お知らせください。
模型に関するご質問等は、いつでも大歓迎です。
特に「if艦」のアイディアなど、大歓迎です。作れるかどうかは保証しませんが。併せて「if艦」については、皆さんのストーリー案などお聞かせいただくと、もしかすると関連する艦船模型なども交えてご紹介できるかも。
もちろん本稿でとりあげた艦船模型以外のことでも、大歓迎です。
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