相州の、ほぼ週刊、1:1250 Scale 艦船模型ブログ

1:1250スケールの艦船模型コレクションをご紹介。実在艦から未成艦、架空艦まで、系統的な紹介を目指します。

新着モデル(完成編:その1):架空防空巡洋艦とそのバリエーション

前回、新着モデルをいくつか紹介しましたが、今回は「完成編、その1:防空巡洋艦編」です。

ですので、今回も(多分、次回も)巡洋艦発達小史はお休みです。(でも、発達小史の「if」艦部門として楽しんでもらえれば・・・。と、これは手前勝手なお願いです)

 

日本海軍の防空巡洋艦(If艦)

実はあった、防空巡洋艦建造の計画:815号型防空巡洋艦

少しおさらいも含めて。

本級は、日本海軍が、海軍の主戦力の航空化を踏まえて、空母機動部隊等、主力部隊の艦隊防空の専任艦として開発した防空巡洋艦という設定です。「軽巡洋艦クラスの船体に、日本海軍の最優秀対空砲といわれた「長10センチ高角砲(九八式十糎高角砲)」を連装砲塔で12基搭載する、という仕様になっています。米海軍の「アトランタ級軽巡洋艦、英海軍の「ダイドー級軽巡洋艦、と同じカテゴリーに属し、主として艦隊防空の要を担う軍艦です。日本海軍の「秋月級」駆逐艦の拡大型、というべきかも」と前回紹介しました。

それに続けて、前回、同様の艦種の計画があった、という公式の情報は見たことがなく、おそらくは「架空艦」「if艦」と言っていいと思う、という記述をしたのですが、実は日本海軍には「815号型軽巡洋艦」という設計案が昭和17年度艦船補充第1期計画(通称マル五計画)において計画されていたことが分かりました。

(また、一つ発見。実はこのブログを始めてから、これまでに考えたことがなかった事柄(例えば日本海海戦での「東郷ターン」や「T字を切った」)や、あまり詳しくなかったこと(例えば速射砲の射撃速度、魚雷の発達史)について、ずいぶん勉強させていただきました。そういう意味では、毎回何某かの発見があります。純粋に個人的な楽しみのあり方としては、本当にありがたいことだと、心から実感しています。そういう意味でも、もっと、「おい、こんな情報あるぜい」とか、「ちょっとその解釈、無理がないかい」など、ご指摘いただけると、本当にありがたいのですが)

 

815号型軽巡洋艦は、主力艦直衛の防空巡洋艦という設計で、5800トンの船体に65口径長10センチ高角砲(九八式十糎高角砲)を連装砲塔で4基搭載するという設計だったようです。

ja.wikipedia.org

「マル五計画」自体がミッドウェー海戦の敗北で見直され、この計画は立ち消えになったのですが、その主要な仕様は、「秋月級」駆逐艦へと継承されたと考えられます。

 

防空巡洋艦:名前がないと進めにくいなあ

さて、今回ご紹介する「防空巡洋艦」は「阿賀野級軽巡洋艦よりはひと回り小ぶりな外観をしており、上記の「815号型軽巡洋艦」では計画に盛り込まれていた水上偵察機2機搭載の航空艤装や魚雷装備が廃止された代わり65口径長10センチ高角砲(九八式十糎高角砲)を連装砲塔で12基も搭載するという、より艦隊直衛に特化した設計になっています。日本海軍が常に拘った雷装が放棄された辺りの割り切りも含め、やはり「架空艦」と言っていいように思います。www.shapeways.com

 

ということで、まずは艦級名の話を。

同級は艦隊防空の専任艦として設計され、**年度艦船補充計画(正史でいけば17年度ですが、本稿のやや後ろ倒しで始まった太平洋戦史に則れば19年度でもいいのかも)で、10隻の建造が決定されました。慣例として二等巡洋艦軽巡洋艦)には、「川」の名前が与えられたとこところから、1番艦には「高瀬」の名が与えられました。以後、同型艦には「鳴瀬」「綾瀬」「早瀬」「平瀬」「嘉瀬」「初瀬」「白瀬」「渡良瀬」「水無瀬」などが予定されていました。

 

ということで、艦級名は「高瀬級」

ここからは「架空艦」ならではの「if」ストーリー。

「高瀬級」軽巡洋艦では、対空砲兵装の充実のために、前述のように航空艤装や雷装が廃止され、他の構造物はできるだけ軽量化が図られ、例えば艦橋構造は、駆逐艦の様な簡素な塔構造とされています。

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(直上の写真は、防空巡洋艦「高瀬級」の概観を示したもの。138mm in 1:1250  C.O.B Constructs and Militarys製 素材はSmooth Fine Detail Plastic)

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(直上の写真は、「高瀬級」と「阿賀野級」の概観比較。「阿賀野級」が一回り大きい。「阿賀野級」141mm in 1:1250 by Neptune :「高瀬級」では、上部構造物が簡素化され、軽量化への工夫が見て取れます)


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(直上の写真は、「高瀬級」と同様の設計思想で建造された「秋月級」防空駆逐艦の概観比較。

ja.wikipedia.org

やはり軽巡洋艦だけあって「高瀬級」の大きさが目立ちます。艦橋構造は類似しているのが見ていただけると思います。「秋月級」防空駆逐艦:   117mm in 1:1250 by Neptune)

 

65口径長10センチ高角砲(九八式十糎高角砲)

同級の最大の特徴は、その主砲を、高角砲機能を中心に据えた両用砲としたところにありますが、搭載する65口径長10センチ高角砲(九八式十糎高角砲)は、日本海軍の最優秀対空砲と言われた高角砲で、18700mの最大射程、13300mの最大射高を持ち、毎分19発の射撃速度を持っていました。これは、戦艦、巡洋艦、空母などの主要な対空兵装であった12.7cm高角砲(八九式十二糎七粍高角砲に比べて射程でも射撃速度でも1.3倍(射撃速度では2倍という数値もあるようです)という高性能で、特に重量が大きく高速機への対応で機動性の不足が顕著になりつつあった12.7cm高角砲の後継として、大きな期待が寄せられていました。

ja.wikipedia.org

同様の艦隊防空と言うコンセプトで米海軍が建造した「アトランタ級軽巡洋艦の主砲であったMk 12  5インチ両用砲と比較してみると、射程でも射高でもこれを上回り、射撃速度はほぼ同等、しかし口径の差から弾丸状量が長10cm高角砲の13kgに対し、5インチ砲は25kgとほぼ倍で、両用砲搭載艦同士の砲戦となった場合には、射程を利用した最大射程での命中弾を期待するしかなく、不利は否めなかったと言わざるを得ないでしょう。

 

同級の建造と、設計変更

ここからは「架空艦」ならではの「if」ストーリー。f:id:fw688i:20200524120213j:plain

上掲の写真のように、12基の連装対空砲塔を、艦首部に3基、艦中央に6基、艦尾部に3基と、多数配置し対空兵装の充実を目指した「高瀬級」でしたが、しかしどう贔屓目に見ても兵装過多、トップヘビーで、高速で転舵などすると、傾斜が想定以上に大きく、射撃等にも影響が出るなどの事象が発生し、次期改装期には艦首部の1番、および艦尾部の12番砲塔を撤去するなどの対策が検討されていました。未成に終わった5番艦・6番艦では最初から主砲塔を2基減じた設計に変更されていた、とも言われています。

 

更に、戦況が進むにつれ、水雷戦隊旗艦を務めていた「5500トン級」軽巡洋艦の中から戦没艦が生じ始めます。それ以前に「5500トン級」軽巡洋艦は海戦当時すでに旧式化しており、特にその搭載主砲は旧式な単装砲郭式であり、かつ対空戦闘能力も低く、昼間の出撃では「5500トン級」は 戦闘に耐えないとして、旗艦を駆逐艦に変更する戦隊指揮官も現れるほどでした。これを補うのが「阿賀野級軽巡洋艦だったのですが数が揃わず、すでに2隻が完成し、6隻が着工、あるいは起工寸前だった「高瀬級」も、この候補として検討され始めます。

しかし、既述のように、同級の主砲、長10cm高角砲は対水上艦戦闘では非力と言わざるを得ず、また水雷戦隊旗艦としては雷装を保有しないのは適性が低いなど、用兵側から、同級の搭載砲等の兵装に対する見直しが要求されます。こうして、「改高瀬級」汎用軽巡洋艦が設計されることになります。

 

「改高瀬級」汎用軽巡洋艦の建造

同級は船体や機関など「高瀬級」の基本設計はそのままに、高角砲(両用砲)の搭載数を半分にして、水上戦闘にも耐えるように主砲として3年式60口径15.5cm砲を連装砲塔3基に搭載することが計画されました。

この砲は元々はワシントン・ロンドン体制で重巡洋艦保有数を制限された日本海軍が、列強の重巡洋艦の8インチ砲にも対抗できるように「最上級」軽巡洋艦の主砲として開発された砲で、「最上級」が条約切れに伴い8インチ砲に主砲を換装した後は、「大和級」戦艦の副砲に転用されました。27000mという長大な射程を持ち(「阿賀野級」に搭載された50口径四十一年式15センチ砲の最大射程の1.3倍)、また60口径の長砲身から打ち出される弾丸は散布界も小さく、弾丸重量も「阿賀野級」搭載砲の1.2倍と強力で、高い評価の砲でした。「最上級」「大和級」では、これを3連装砲塔で搭載していましたが、「高瀬級」の船体に合わせて、新たな連装砲塔が開発されました。

75度までの仰角が与えられ、一応、対空戦闘にも適応できる、という設計ではありましたが、毎分5発程度の射撃速度では、対空砲としての実用性には限界がありました。

ja.wikipedia.org

 

加えて「5500トン級」軽巡洋艦に代わる水雷戦隊旗艦としての運用に期待を寄せる用兵側の強い要求で、魚雷装備が復活され、61cm4連装魚雷発射管を2基、次発装填装置付で搭載することとなりました。

優れた基本設計で、なんとかこれらの要求には応えたものの、この辺りが限界で、流石に航空艤装の搭載は諦めざるを得ませんでした。f:id:fw688i:20200524115833j:image

(直上の写真は、「改高瀬級=渡良瀬級」軽巡洋艦の概観を示したもの。基本設計は「高瀬級」の設計に準じたものの、射撃管制等により艦橋がやや大型化しているのが分かります。138mm in 1:1250  C.O.B Constructs and Militarys製 素材はWhite Natural Versatile Plastic)

 

設計決定後、同級の建造は最優先となり、「高瀬級」の建造は4隻でいったん休止されます。こうして建造された1番艦には「高瀬級」の艦名予定リストから「渡良瀬」の名が与えられました。

 

「渡良瀬級」と命名

艦名は「渡良瀬」「水無瀬」とされました。

本来の計画では、「高瀬級」は10隻が建造される予定で、うち8隻が着工、4隻が「高瀬」「成瀬」「綾瀬」「早瀬」として就役、最も着工の遅かったの2隻が大掛かりな設計変更の末「改高瀬級=渡良瀬級」として建造を優先的に継続され、「渡良瀬」「水無瀬」として完成されました。

着工済みだった残りの2隻は、「渡良瀬級」に準じて設計を変更するには工事が進みすぎており、中間的な位置付けの設計変更での対応を模索する中、戦況の激化で完成されませんでした。 

 

(直下の写真は、「高瀬級」防空巡洋艦(左列)と「渡良瀬級」軽巡洋艦(右列)の主要箇所比較。上段:艦首部の主砲配置の比較。中段:艦橋構造と中央部の対空砲配置の比較(「渡良瀬級」の艦橋が射撃管制等の必要性から大型化しているのが分かります。下段:艦尾部の比較(「渡良瀬級」では魚雷装備が復活されました。艦中央部の上部構造物内に次発装填機構が組み入れれれています)

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こうして完成された「渡良瀬級」軽巡洋艦は、兵装面だけをみると「阿賀野級」よりもはるかに強力で、これを「阿賀野級」よりもひと回り小さな船体に搭載し、原型である「高瀬級」同様に船体重心を下げるために極限まで簡素化された上部構造を持ったため、その居住性は劣悪だったと言われています。それでもやはりトップヘビーは避けられず、そのため次期の改装では6基の高角砲のうち2基を機銃座に換装し軽量化を図るなどの対策が検討されていたと言われています。

また、現場の運用場面では、夜戦想定の出撃の場合には、高角砲の砲弾を定数の6割程度に抑えて軽量化を図り出撃した、とも言われています。

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(直上の写真では、「渡良瀬級」軽巡洋艦(手前)と「阿賀野級軽巡洋艦の概観を比較。「渡良瀬級」がひとまわり小さいことがよく分かります。

直下の写真では、両級の主要な部分を比較しています。上段:前部主砲塔と艦橋の配置(「渡良瀬級」の搭載主砲の方が新しく強力です。一方、艦橋は「渡良瀬級」では簡素化され、一見、駆逐艦の艦橋構造のようです)中段:艦中央の構造比較(「渡良瀬級」では航空艤装に代えて対空兵装を充実しています)下段:艦尾部の比較(「阿賀野級」では魚雷兵装は搭載水上偵察機の整備甲板の下に設置されています))

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「渡良瀬級」汎用軽巡洋艦の製作

前回のほぼ再掲です。

当初から、防空巡洋艦のバリエーション制作の予定で、加工適性の高いWhite Natural Versatile Plastic製のモデルを発注しておきました。f:id:fw688i:20200516145042j:image

(上掲の写真の奥がm加工適性の高いWhite Natural Versatile Plastic製のモデル。下のリンクは)

 

併せて、主砲の換装用に、15.5cm連装砲塔も入手しておきました。

(今回使用した3年式60口径15.5cm砲連装砲塔は左)

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www.shapeways.com

これらの加工工程が以下です。

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まず、上段の写真がオリジナルのモデル。中段では、艦首部と艦尾部の主砲塔群を切除。そして下段では、前後の砲塔群の跡に15.5センチ連装砲塔を搭載、そして小さなパーツをちょこちょこ追加。まあ数時間でこの程度の作業ができちゃうところが、筆者のように時間がない者にとっては(場所もないのですが)、とっても嬉しいところ。(下段写真の少し黄色っぽく見える部分は、砲塔群切除の際にやや削りすぎた上甲板部をパテで補修した跡です)

この後、サーフェサーを塗布し下地処理をした後、塗装しています。まさに「戦時急造艦」ですね。

 

その戦歴は・・・

こうして、空母機動部隊の直衛艦として建造された「高瀬級」、加えて水雷戦隊旗艦としても期待された「渡良瀬級」だったわけですが、完成した順に戦況の激化する中部ソロモン諸島の戦場に投入されました。

特に第2次ショートランド沖夜戦では、輸送部隊の支援任務で出撃した新編の第26戦隊の「渡良瀬」と「鳴瀬」「綾瀬」が、補給阻止のために周辺海域を遊弋していた米巡洋艦部隊(重巡2:ニューオーリンズ級、軽巡3:アトランタ級2隻とブルックリン級1隻)と遭遇戦を展開。旗艦「渡良瀬」が大破し、「鳴瀬」を失いながらも、米軽巡1を撃沈し、重巡2、軽巡1を大破という戦果を収めています・・・的な。

(直下の写真は、第2次ショートランド沖夜戦に出撃した第26戦隊の「渡良瀬」(手前)と「鳴瀬」)

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(直下の写真:第2次ショートランド沖夜戦で日本艦隊の補給作戦阻止に現れた米巡洋艦部隊。手前から、「アトランタ級軽巡洋艦、「ニューオーリンズ級」重巡洋艦、「ブルックリン級」軽巡洋艦
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(直上の写真は、「ニューオーリンズ級」重巡洋艦の概観 142mm in 1:1250 by Neptune) 

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(直上の写真は、「アトランタ級軽巡洋艦の概観。131mm in 1:1250 by Neptune:今回ご紹介した「高瀬級」軽巡洋艦と、ほぼ同じ設計思想で建造されました) 

これらの艦級については、本稿「巡洋艦発達小史(その4)でご紹介しています。そちら回せて楽しんで下ると幸いです

fw688i.hatenablog.com

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(直上の写真は、「ブルックリン級」軽巡洋艦の概観。148mm in 1:1250 by Neptune:同級は日本海軍の「最上級」軽巡洋艦と同様、ワシントン・ロンドン体制下での重巡洋艦保有制限対策として、1万トン級の大型の船体を持ち、一方で重巡洋艦とみなされない6インチ砲を主砲として装備し他軽巡洋艦として設計されました。

ja.wikipedia.org

重巡洋艦との砲戦を想定しているため、重巡洋艦以上に重防御で、この強靭さと、速射性が高く長射程を持った6インチ主砲での手数の多さで、相手重巡洋艦を圧倒する設計でした。 本級は7隻が建造され、対空砲を連装砲塔とした「セントルイス級」2隻、3連装主砲塔を1基減じ、代わりに連装対空砲塔を2基増設した「クリーブランド級」等の派生系を有しています)

 

実は今、今回ご紹介した防空巡洋艦の同じモデルを2隻、Shapewaysに追加発注しています。 

もう少し、バリエーションを考えて遊んでみます。その際にはまたお付き合いのほどを。

 

という訳で、今回はここまで。

次回は、前回ご紹介したもう一つの新着モデル「レキシントン級巡洋戦艦オリジナルデザインと、それに刺激されて制作中(改装中?)の「レキシントン級」籠マスト+巨大集合煙突デザイン案のご紹介を予定しています。少しネタバラシをしてしまうと、これで一応「レキシントン級」のデザインバリエーションは全て揃いますので、その辺りのお話を。(もう一回、人気投票も?)

巡洋艦発達小史は、いずれは再開しますので、お見捨てなきよう)

 

模型に関するご質問等は、いつでも大歓迎です。

特に「if艦」については、お付き合いいただいている皆さんのストーリー案などお聞かせいただくと、もしかすると関連する艦船模型なども交えてご紹介できるかも。

もちろん本稿でとりあげた艦船模型以外のことでも、大歓迎です。

お気軽にお問い合わせ、修正情報、追加情報などお知らせください。

 

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