今回は、このところ少し集中してモデルを集めつつあった海防戦艦の、中間報告です。
・・・と言うか、「コレクター」なる人種の一種の心象風景として読んでいただければ。(まあ、毎回そうなんですけどね)
さて、海防戦艦のコレクション。火付け役は、昨年末に、以下の回でご紹介したフィンランド海軍の海防戦艦「イルマリネン級」。
以下、同級の概要部分を抜粋してご紹介。
(直上の写真は「イルマリネン級」海防戦艦の概観。74mm in 1:1250 by XP Forge:移動式要塞砲台的な感じ?)
同級はオランダの企業によって設計され、フィンランド湾での活動を想定し、幅広の吃水の浅い船体を持ち、かつ冬季の海面凍結から砕氷能力も考慮された船型をしていました。4000トン級の船体を持ち、機関には砕氷時の前進後進の操作性、速力の調整等への配慮から、デーゼル・エレクトリック方式の主機が採用され、16ノットの速力を発揮する事ができました。しかしフィンランド湾沿岸での任務に特化した強力な艦として、外洋への航行は想定から外されて設計されたため、燃料搭載量が極めて少なく航続距離は700海里程度に抑えられていました。
武装としては、主砲には 隣国スウェーデンのボフォース社が新設計した46口径25.4センチ連装砲を2基装備し、併せてこれもボフォース社製の新設計の10.5センチ高角砲を連装両用砲塔で4基搭載するという沿岸警備用の海防戦艦としては意欲的な設計でした。
これらの砲装備管制のために高い司令塔を装備したために、明らかにトップ・ヘビーな艦容をしています。とはいえ、その主要任務が活動海域を限定した移動要塞砲台的なものであることを考えると、それほど大きな問題ではないのかもしれません。
(直上の写真:「イルマリネン」(左)と「ヴァイナモイネン」(右):塗装は例によって筆者オリジナルですので、資料的な価値はありません)
「主力艦の変遷を追う」本稿としては、海防戦艦は、やや避けて通ってきた感のあった領域です。一部、本稿の最初期のあたりで、「バルティック艦隊」の構成艦として何隻か紹介した程度でした。
(この回では、日本海海戦に参加したロシア海軍の海防戦艦「ナワリン」「シソイ・ヴェリキー」「アドミラル・セニャーウィン」「アドミラル・ウシャコフ」「アドミラル・アプラクシン」などを紹介しています)
本稿の読者ならば(あるいは本稿に興味を持たれる方ならば)、おおよそ推測はつく(多分、同意もいただける?)と思うのですが、実はこうした一見の枝葉、あるいは脇道こそが、コレクションを続ける醍醐味でもあるわけで、上記のロシア海軍の海防戦艦のあたりから少しづつ気になり始め、昨年末のフィンランド海軍の「イルマリネン級」で、「この脇道、一度ちゃんと探検しよう」と決意した(ちょっと大げさ?)という訳です。
さてどこから手をつけようか。
前述の「イルマリネン級」の艦歴の中に、1937年5月に同艦は英国のジョージ6世戴冠記念観艦式にフィンランド艦隊旗艦として参加した折に、同艦の航続距離不足から「スウェーデン海軍の海防戦艦「ドロットニング・ヴィクトリア」に曳航してもらった」という記述を見つけました。
「へえ、なるほどお隣の国の海軍に曳航してもらったんだな」と、脇道に一歩。「ところで「ドロットニング・ヴィクトリア」というのはどんな船なんだ?」と二歩め。そんな感じで、いつの間にか「まずはスウェーデン海軍から初めてみようか」という訳です。
でも、この脇道、足を踏み入れてみて、筆者がいかに情報を持っていないかに痛感させられます。まさに手探り状態で本稿書き進めています。脇道探検はこれだから楽しい。
海防戦艦という艦種
今回の本題であるスウェーデンの海防戦艦に触れる前に、「海防戦艦」という艦種が概ねどういう艦種なのか、少し触れておきたいと思います。
英語では概ね coastal defence ship と表記されます。直訳すると「沿岸防備艦」というわけで、この文字通りの意味であれば、警備艦艇はほとんどこの領域の任務に就くことになるのですが、この中でも比較的小型の船体(沿岸部で行動することを念頭におくと、あまり深い吃水を持たせられない。このために船体の大きさに制限が出てくるのかも)に大口径の主砲を搭載し、かつ一定の装甲を有する艦を特に「海防戦艦」(Coastal defence ship)と呼ぶようです。
保有国には、以下のような大きな二つの地政学的な条件があるように思われます。つまり防備すべき比較的長い海岸線、港湾都市を持つこと。そしてその海岸線が比較的浅い、そして大洋に比べて比較的波の穏やかな内海に面していること。
結果、バルト海、地中海、黒海などに接続海岸を持つ国の占有艦種と言っても良いのではないでしょうか?従って保有国は限定され、バルト海の沿岸諸国として、ロシア帝国、初期のドイツ帝国(彼らは後に大洋海軍を建設します)、スウェーデン、デンマーク、ノルウェイ、フィンランド。地中海ではイタリア(装甲砲艦という艦種で装備されました)、フランス、ギリシア、オーストリア=ハンガリー帝国などが同艦種に分類される軍艦を保有しました。(一部、地政学的な条件から見ると例外は南米諸国ですが、これらは新興諸国が海岸線防備のために比較的手軽に装備できる(購入できる)艦種、として整備を競った、という別の歴史的な背景があると、筆者は理解しています)
類似艦種としては沿岸防御の浮き砲台としての「モニター艦」がありますが、これは海防戦艦に比べると、さらに局地的な防御任務に適応しており、航洋性、機動性はより抑えられた設計になっています。
繰り返しになりますがスウェーデンという国は、ボスニア湾(スウェーデンとフィンランドの間の湾)からカテガット海峡(スカンジナビア半島とデンマーク間の海峡)に及ぶ長い海岸線をバルト海に有しています。その海岸線のほぼ中央に首都ストックホルムが位置しています。
これらの長い海岸線を防備することがスウェーデン海軍の主要な任務で、19世期の後半から沿岸警備用の大口径砲を搭載した「海防戦艦」の整備に力を入れ始めました。
艦級は以下の6クラスが建造されました。
ドリスへティン(同型艦なし:1901年から就役)
アラン級(同型艦4隻:1902年から就役)
オスカー2世(同型艦無し:1907年から就役)
(スウェーデン海軍の海防戦艦一覧:右から、「スヴェア級」「オーディン級」「ドリスへティン」「アラン級」「オスカー2世」「スヴァリイェ級」の順)
スウェーデンは永世中立を唱え、二回の世界大戦には参加していません。従ってこれらの艦級に戦没艦はありません。
しかし第二次世界大戦で顕著になった航空主兵化の中では、機動力の低い海防戦艦には活躍の場面はあまり多くなく、スウェーデン海軍も「スヴァリイェ級」の次級の建造計画を放棄し、その沿岸防備戦力の主力を潜水艦と高速艇に移してゆきます。
1960年代までに全ての艦級が退役しています。
(海防戦艦「スヴェア級」の概観:63mm in 1:1250 by Brown Water Navy Miniature in Shapeways:射撃指揮所が前部マストに設置されているのですが、連装砲塔はそのままなので、近代化改装の途中段階?)
Brown Water Navy Miniatures by MG_Lawson - Shapeways Shops
同級は、スウェーデン海軍が最初に建造した海防戦艦です。32口径の10インチ連装砲を主砲として艦種部に1基搭載していました。他に副砲として6インチ単装砲を6基、艦種部に35.6cm魚雷発射管を装備していました。
3000トン級の船体に石炭専焼缶とレシプロ機関を搭載し、14.7ノットの速力を有していました。
後に1903年ごろから近代化改装が行われ、同型艦3隻のうち2隻は主砲を8.2インチ単装砲に換装し、副砲を速射砲に、魚雷発射管を45.7cmの口径に換装しています。
(海防戦艦「オーディン級」の概観:68mm in 1:1250 by Brown Water Navy Miniature in Shapeways:射撃指揮所が前部マストに設置されているので、近代化改装後の姿を再現しているかと思われます)
同級はスウェーデン海軍が建造した2番目の海防戦艦の艦級です。主砲は射程距離を延ばした42口径の10インチ砲を採用し、これを単装砲塔で2基、艦種部と艦尾部にそれぞれ1基筒搭載しています。副砲には12センチ速射砲を4基から6基搭載し、艦首には魚雷発射管を有していました。
前級を二回りほど拡大した3400トン級の船体に石炭専焼缶とレシプロ機関を搭載して16.5ノットの速力を発揮することができました。
1910年代に近代化改装が行われ、前部マストに射撃指揮所が設けられ、機関が換装されことに伴い煙突が一本になった艦もあります。
ドリスへティン(同型艦なし:1901年から就役)
(海防戦艦「ドリスへティン」の概観:72mm in 1:1250 by Brown Water Navy Miniature in Shapeways:竣工時の姿)
同型艦はありません。3400トン級とほぼ前級と同じ大きさの船体に、44口径8.2インチ単装砲塔2基を主砲として搭載しています。副砲に6インチ単装速射砲6基を搭載し、魚雷発射管2基を装備していました。16.5ノットの速力を発揮することが出来ました。
1927年に主砲等の主武装を対空砲に換装し水上機母艦に改装されました。
アラン級(同型艦4隻:1902年から就役)
(海防戦艦「アラン級」の概観:70mm in 1:1250 by Brown Water Navy Miniature in Shapeways:竣工時の姿:近代化改装時のモデルを入手中)
同級は前級「ドリスへティン」の改良型として建造されました。3600トン級にやや拡大された船体を持ち、前級と同じ44口径8.2インチ単装砲を主砲として2基装備していました。副砲も同様に6インチ単装速射砲を6基、魚雷発射管を2基装備していました。
石炭専焼缶とレシプロ主機の組み合わせで、17ノットの速力を出すことが出来ました。
1910年に前部マストを3脚化し射撃指揮所を設置したのを皮切りに、順次、機関の重油専焼缶への換装、対空兵装の強化など近代化改装が行われました。改装のレベルは艦によって異なり、外観にも差異が生じました。
オスカーII世(同型艦無し:1907年から就役)
(海防戦艦「オスカーII世」の概観:86mm in 1:1250 by Brown Water Navy Miniature in Shapeways:竣工時の姿:近代化改装時のモデルを入手中)
前級「アラン級」の武装強化版として1隻だけ建造されました。船体は4200トン級に拡大され、主砲は44口径8.2インチ単装砲塔2基のままですが、副砲が6インチ連装砲塔4基に強化されました。魚雷発射管を2基装備していました。
機関は、石炭専焼缶の搭載数が増やされ、18.5ノットの速力を出すことが出来ました。
1911年に前部マストを3脚化し射撃指揮所が設けられ、1937年にボイラーを重油・石炭混焼缶に変更した際に煙突の太さが変更されるなどの外観の変更がありました。
スヴァリイェ級(同型艦3隻:1921年から就役)
ja.wikipedia.org
(海防戦艦「スヴァリイェ級」の概観:96mm in 1:1250 by Navis:ほぼ竣工時の姿を再現しています:近代化改装は順次行われ、同型艦3隻はそれぞれ異なった姿となりました。改装後のモデルを探索中ですが、全て揃うのはいつのことやら)
同級は結果的に、スウェーデン海軍が建造した最後の海防戦艦の艦級となりました。
設計段階で各国海軍の装備は弩級戦艦の時期に達しており、これに準じてそれまでの海防戦艦とは一線を画する設計となりました。
船体は前級を大幅に上回る6800トン級となり、これに石炭専焼缶と初めてのタービン機関を組み合わせ22.5ノットの速力を有することが出来ました。
主砲には44口径11インチ砲を連装砲塔形式で2基搭載し、副砲として6インチ連装速射砲1基と同単装砲6基、魚雷発射管2基を装備していました。
1920年代には主として射撃管制関連の改装が行われ、前部マストが三脚化され同時に艦橋が大型化されました。1930年代には主として機関の換装が行われ、全て重油専焼缶と改められました。その際に煙突形状の改装が行われ、「スヴァリィエ」は湾曲煙突、「ドロットニング・ヴィクトリア」は前部煙突にキャップ、「グスタフ5世」は集合煙突に、それぞれ外観が変わりました。
冒頭に紹介したフィンランド海軍の海防戦艦「イルマリネン」が英国王ジョージ6世の戴冠記念観艦式に参加する際に同艦を曳航したのは、同級の「ドロットニング・ヴィクトリア」でした。
(英国王ジョージ6世の戴冠記念観艦式に参加したフィンランド海軍戒能戦艦「イルマリネン」(手前)とそれを曳航したスウェーデン海軍海防戦艦「ドロットニング・ヴィクトリア:スヴァリイェ級」の比較)
未成海防戦艦:Project 1934
1933年(34年?)に設計された未成の海防戦艦がありました。www.naval-encyclopedia.com
(未成海防戦艦「Project 1934」の概観:103mm in 1:1250 by Argonaut)
それまでの「海防戦艦」と異なり、塔形状の前部マストやコンパクトにまとめられた上部構造など、フィンランド海軍の「イルマリネン級」にやや似た近代的な(?)外観をしています。7500トン級の船体に、武装は11インチ連装砲2基と、5インチ両用連装砲(多分)6基を予定していたようです。速力は22−23ノット程度。
(海防戦艦「Project 1934」(奥)と「スヴァリイェ級」(竣工時)の比較)
(海防戦艦「Project 1934」(奥)とフィンランド海軍海防戦艦「イルマリネン級」の比較)
未成海防戦艦:Project 1940
さらに1940年の設計では、さらにこれを拡大したスウェーデン版ポケット戦艦(15000トン級:11インチ連装砲塔3基、5インチ両用連装砲4基ほか)の計画もあったようです。ちょっと見てみたかった(かも)。
Hai社から市販モデルが出ているのですが、入手には至っていません。鋭意、探索中。
ということで、今回はおしまい。
なぜ「中間報告」としたかというと、上記に記載した「近代化改装」後のモデルを調達中です。いくつかは多分こちらに発送されているのですが、いくつかは入手の目処が立たず、という状況です。全部は無理だろうなあ。
さらにもう一つ、同様にノルウェーやデンマークも数は少ないながら同様の艦種を建造しています。これらは第二次世界大戦では母国のドイツによる占領作戦と共に、作戦途上で撃沈されたものもありますが、何隻かはドイツ海軍に移籍し、防空艦等として運用されました。
これらも鋭意(既に何隻かは手元にあるのですが)収集を試みていますので、いずれはそれらも併せて改めてご紹介の機会を、と考えています。
なので今回は「中間報告」です。
次回は、どうしようか?
もし、「こんな企画できるか?」のようなアイディアがあれば、是非、お知らせください。
模型に関するご質問等は、いつでも大歓迎です。
特に「if艦」のアイディアなど、大歓迎です。作れるかどうかは保証しませんが。併せて「if艦」については、皆さんのストーリー案などお聞かせいただくと、もしかすると関連する艦船模型なども交えてご紹介できるかも。
もちろん本稿でとりあげた艦船模型以外のことでも、大歓迎です。
お気軽にお問い合わせ、修正情報、追加情報などお知らせください。
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