相州の、ほぼ週刊、1:1250 Scale 艦船模型ブログ

1:1250スケールの艦船模型コレクションをご紹介。実在艦から未成艦、架空艦まで、系統的な紹介を目指します。

再編集版プラス:スウェーデン海軍の艦艇:駆逐艦開発の系譜

これまでのスウェーデン海軍の海防戦艦巡洋艦の開発小史の流れを受けて、今回は同海軍の駆逐艦開発の系譜をご紹介します。これまでに断片的にはご紹介してきたのですが、一連の小史としてご紹介するのは、おそらく初めてです。バルト海の沿岸海軍であり、かつ中立を国是としたスウェーデンの特徴を感じていただけたらと。

今回はそういうお話です。

 

第一グループ:第一次世界大戦期の駆逐艦

第一次世界大戦期、スウェーデンは中立を貫き、参戦しませんでしたが、当時、海軍は10隻の駆逐艦と29隻の水雷艇を運用していたとされています。この時期の同海軍の駆逐艦は、おおむね他のヨーロッパ諸国の海軍と同様、500トン前後、3インチ砲を主砲として搭載し18インチの魚雷発射管を搭載している、いわゆる第一次世界大戦型の標準的なものでした。バルト海での運用という特性もあり、同海軍の駆逐艦はその中でもやや小型の部類に属していた、と言ってもいいかもしれません。

 

英国製駆逐艦の導入

20世紀初頭、スウェーデン海軍は最初の2隻の駆逐艦を英国から輸入します。

駆逐艦「モージ:Mode」:同型艦なし:1902年より就役

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駆逐艦「モージ」の概観:54mm in 1:1250 by Mercator:筆者の所感では、このMercator社のモデルは船体が細すぎるし、やや大味な感じがします。ご紹介すべきかどうか、少し迷ったのですが、手元にあるのでご紹介しておきます)

スウェーデン海軍の最初の駆逐艦は英国ヤーロー社に発注されました。1902年に就役した同艦は常備排水量400トンの船体に6000馬力を発生する重油と石炭の混焼機関を搭載し、試験では32.4ノットの最高速を記録しています。日本海軍の「雷級」駆逐艦をデザインのベースに、寒冷地仕様を盛り込んだ設計となっていました。武装としては57mm単装砲6基を主兵装とし、450mm単装魚雷発射管2基を搭載していました。これは当時の標準的な駆逐艦の装備であったと言っていいでしょう。艦首の形状はこれも当時の駆逐艦の標準的な設計であったタートルバック形式で、4本煙突でした。次の紹介する「マグネ」に比べ縦横比の大きい、つまり細長い船体をしていました。

第一次世界大戦ではスウェーデン自体は中立であったため、戦闘には参加しませんでしたが、商船護衛などに任務に従事しました。1919年まで駆逐艦として就役した後、1928年まで予備艦として海軍にとどめられ、1936年に標的として沈められました。

 

駆逐艦「マグネ:Magne」:同型艦なし:1905年より就役

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水雷艇駆逐艦「マグネ」の概観:52mm in 1:1250 by semi-scratch based on Shirakumo by Navis: 同艦には筆者の調べた限りでは市販モデルがありません。下述のように同艦は日本海軍の「白雲級」をベースとして設計されたという情報を頼りにNavis社の「白雲」に手を加えています)

1904年、スウェーデン海軍は前述の「モージ」に加えて2隻目の駆逐艦を英国ソーニクロフト社に発注することを決定しました。

「モージ」よりも少し大きな430トンの船体に重油石炭混焼の機関を搭載し、30.5ノットの速力を発揮する設計でした。「モージ」と同様にタートルバック形式の艦首と4本煙突の船体外観を持っていました。武装は57mm単装砲6基と450mm単装魚雷発射管2基でした。日本海軍の「白雲級」駆逐艦タイプシップとして、北方仕様を盛り込んだ設計でした。

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水雷艇駆逐艦「マグネ」の主要部の拡大:57mm単装砲は艦首・艦尾・各舷に2基の配置になっています)

第一次世界大戦期には「モージ」と同様に中立哨戒、商船護衛などの任務に従事し、ロシア潜水艦を領海から追い出したこともありました。1918年以降は予備艦籍に移され1936年以降標的艦となり、1943年にスクラップとして売却されました。

同艦はその後スウェーデンで建造された「ヴァレ」「ラグナル級」等4隻の駆逐艦の設計の基礎となりました。

 

国産駆逐艦の建造

前述の「マグネ」の実績にある程度の満足を得たスウェーデン海軍は、同艦をタイプシップとして、国産駆逐艦の建造に着手します。試験的に建造された「ヴァレ」とその量産型と言っていいであろう「ラグナル級」(3隻)、その改良型である「フギン級」(2隻)、さらに航洋性を高めた「ウランゲル級」(計画4隻/建造2隻)がこれに当たります。

駆逐艦「ヴァレ:Wale」:同型艦なし:1908年より就役

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水雷艇駆逐艦「ヴァレ」の概観:52mm in 1:1250 by Argonaut:モデルは雷装強化後=魚雷発射管を連装に換装した後の姿を再現しています。Argonaut製モデルらしい、大変、丁寧に作り込まれたモデルです。次級「ラグナル級」は同艦の準同型艦なのですが、砲兵装の内容と配置がやや「ヴァレ」とは異なります(下の写真)。砲兵装を見ると、このモデルは「ラグナル級」ではないかな、と思うのですが)f:id:fw688i:20250112130323j:image

「ヴァレ」は「マグネ」をタイプシップとして建造された初の国産駆逐艦です。460トンの船体に4基のボイラーを搭載し30ノットの速力を発揮することができました。「マグネ」の武装強化型とも言え、就役時には、75mm単装砲2基、57mm単装砲4基、457mm単装魚雷発射管2基を主兵装として搭載していました。第一次世界大戦期には魚雷発射管を連装2基に改め、さらに6.5mm機関銃を追加装備しました。

他艦同様、第一次世界大戦時には領海警備と中立海域の哨戒にあたりました。

第二次世界大戦開始後の1940年まで二等駆逐艦として在籍し、その後、標的艦となって1946年に沈められました。

 

「ラグナル級:Ragnar-class」級駆逐艦:3隻:1908年より就役

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(製品化されていないかも。しかし外観は「ヴァレ」とほぼ変わらないかと:あるいは装備の配置等を考慮うると、前出の通り、「ヴァレ」で掲載したモデルが「ラグナル級」に近しいのかも)

同級は「ヴァレ」をタイプシップとして3隻建造されました。喫水をやや浅くした他はほぼ同型です。砲兵装が強化簡素化され、75mm単装砲のみの4基の搭載と、強化されました。雷装は「ヴァレ」同様、457mm単装魚雷発射管2基でしたが、第一次世界大戦期には連装発射管に改められ、射線が増強されました。

第二次世界大戦期には沿岸警備用の二等駆逐艦として運用され、速力は22ノットに抑えられましたが、主砲は100mm単装砲3基に強化、40mm対空機関砲4基、20mm対空機関砲3基党対空兵装を多数搭載し、魚雷発射管も533mm6基と格段に強化されています。さらに対潜装備や機雷線装備なども搭載しています。

3隻とも1947年に退役し、2隻は1951年に解体、「ヴィダール」のみ退役後標的艦となり1961年に標的として沈められ、解体されました。

 

「フギン級:Hugin-class」級駆逐艦:2隻:1910年より就役

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(「フギン級」駆逐艦の概観:就役時の姿:53mm in 1:1250 by Argonaut:まだ単装魚雷発射管を搭載しています) 

同級は「ヴァレ」の発展形として第一次世界大戦前に建造された駆逐艦で、450トン級の船体に就役時には75mm砲4基と457mm単装魚雷発射管2基を搭載し、30ノットの速力を出すことができました(試験では33ノットを記録)。

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(「モージ級」水雷駆逐艦の主要兵装の拡大:モデルは就役時の単装魚雷発射管搭載時のもの)

同艦はスウェーデン海軍の駆逐艦として初めて機関を全て蒸気タービンとしました。

改装:雷装の強化

第一次世界大戦前には前級「ラグナル級」と同様に魚雷発射管を連装に改め、雷装が強化されました。

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(「フギン級」駆逐艦の概観:連装魚雷発射管への換装後の姿(下段): by Argonaut)

第二次世界大戦前には、ほぼ前出の「ラグナル級」と同じスペックの沿岸警備用の二等駆逐艦として兵装等を改めて対空・対潜・機雷戦等へ対応できる形に改装を受け、「ムニン」は1940年に退役しましたが、「フギン」は大戦中も警備・護衛等の任務につき、1947年まで在籍していました。

 

航洋型駆逐艦の建造:タートルバックから船首楼型船型へ

「ウランゲル級:Wrangel-class」級駆逐艦:2隻:1918年より就役

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(「ウランゲル級」駆逐艦の概観:就役時の姿:58mm in 1:1250 by Argonaut:航洋性の高い船首楼型の艦首形状を持っています)

同級は「フギン級」の拡大改良型として第一次世界大戦期に建造された駆逐艦です。計画では4隻が建造される予定でしたが、2隻は大戦の勃発でキャンセルされ、2隻が大戦後の1918年に就役しました。

船体は500トン弱まで拡大され、4基の蒸気タービンを搭載し34ノットの速力を発揮することができる設計でした。航洋性を重視して、従来のスウェーデン海軍の駆逐艦の標準だったタートルバック型の艦首を、船首楼形に改めています。

就役時の兵装を見ると、75mm単装砲4基を主砲として搭載し、6.5mm機関銃も搭載していました。雷装としては457mm連装魚雷発射管1基と単装魚雷発射管2基を搭載していました。f:id:fw688i:20250112131213j:image

(「ウランゲル級」駆逐艦の主要兵装の拡大:航洋性を重視し、艦首楼型の船体形状をしています。単装主砲を艦首(上段)、両舷側と艦尾(下段)に搭載し、連装魚雷発射管2基を艦尾部に搭載しています。魚雷発射管の間に対空機銃座が)

1927年には重油専焼ボイラーに換装され、1940年には他の第一次世界大戦型の駆逐艦同様、対空・対潜・機雷戦に対応する哨戒・護衛に適した二等駆逐艦として改造を受けています。(速力:22ノット、100mm単装砲:3基、40mm対空機関砲:4基、20mm対空機関砲:3基、魚雷発射管:533mm6基、対潜迫撃砲:4基、機雷20基搭載)

同級は1947年に退役した後、「ヴァハトマイステル」は1951年にスクラップとしてか売却されましたが、「ウランゲル」は標的艦として運用され1960年に沈められました。

 

第一次世界大戦駆逐艦の一覧

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(手前から、「モージ」、「マグネ」、「ヴァレ」(「ラグナル級」も同じ)、「フギン級」、「ウランデル級」の順:「ウランデル級」がある意味で集大成と言っていいのかもしれません)

 

第二グループ:大戦間の駆逐艦

前述のようにスウェーデン海軍は水雷駆逐艦「ヴァレ」の流れを汲む10隻の駆逐艦第一次世界大戦を乗り切りました(実際には戦闘は発生しませんでしたが)。第一次世界大戦後、列強の駆逐艦設計の流れを汲んで、全く新しい駆逐艦設計に着手することとなります。

駆逐艦の主力はこちらの体系に移りますが、それまでの第一次世界大戦期の駆逐艦は前述のように沿岸警備・護衛に特化した二等駆逐艦として装備の充実を図ってゆくことになります。

 

「エレンスコルド級:Ehrenskold-class」級駆逐艦:2隻:1927年より就役

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(「エレンスコルド級駆逐艦の概観:74mm in 1:1250 by Rhenania)

同級は第一次世界大戦期のスウェーデン海軍の駆逐艦と比較すると、ほぼ倍程度の900トン級の大きな平甲板型の船体に、34000馬力を発生する蒸気タービン機関を搭載し36ノットの速力を発揮することができました。

武装としては、12cm(4.7インチ)単装砲3基を主砲として、40mm対空機関砲2基を装備し、21インチ(533mm)三連装魚雷発射管2基を搭載していました。さらに機雷20基を搭載し艦尾の軌条から敷設することができました。

同級の搭載兵装、武装配置等は、以降の駆逐艦の標準となりました。

下の写真は「エレンスコルド級駆逐艦の主砲等の配置を拡大したもの:艦首・艦中央・艦尾に配置された主砲、この基本配置は大戦間のスウェーデン海軍の駆逐艦の基本配置となります) 

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第二次世界大戦期には、同級は中立哨戒に従事していましたが、40mm単装対空機関砲2基を25mm連装対空機関砲2基に換装しています。

同級は1963年まで在籍しその後標的艦として運用されました。「ノルデンスコルド」は1964年に、「エレンスコルド」は1974年に、それぞれ解体されました。

 

「クラース・ホルン級:Klas Horn-class」駆逐艦:2隻:1932年より就役

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(「クラス・ホルン級」駆逐艦の概観:74mm in 1:1250 by  semi-scratch from Rhenania:Rhenania 社製の「エレンスコルド級駆逐艦のモデルを使用し、備砲を盾付のストックパーツに変更してあります)

同級は前級「エレンスコルド級」の改良型です。やや船体を拡大し、搭載兵装等はほとんど同じでした。準同型艦とみなす場合もあるようです。武装等はほぼ全休と同じものを装備していました。(主砲のみ、防楯付きのものを就役時から装備していました)

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「クラース・ホルン級」駆逐艦の主砲等の配置を拡大したもの:前級「エレンスコルド級」の配置に準じていることがわかります)

1941年に隣接して停泊した船舶のの爆発に巻き込まれ、両艦とも大きな損傷を受けましたが、「クラス・ホルン」のみ修復され増した(「クラス・ウグラ」は「クラス・ホルン」の再建のために部品供給を行い、再建されませんでした)。

修復された「クラス・ホルン」は1958年まで運用されました。

 

ヨーテボリ級:Goteborg-class」駆逐艦:6隻:1936年より就役
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(「ヨーテボリ級」駆逐艦の概観;76mm in 1:1250 by Rhenania)

同級は、「エレンスコルド級駆逐艦の系譜の最終形と言えるでしょう。船体は1040トンに拡大され、39ノットの高速を発揮することができました。兵装等は、「エレンスコルド級」「クラス・ホルン級」と同等のものを継承しています。さらに対潜装備・機雷戦装備などを充実させています。

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ヨーテボリ級」駆逐艦の主要兵装の配置:主砲・魚雷発射管等の配置は「エレンスコルド級」以来の基本形を踏襲して居ますが、艦尾部には機雷戦・対潜戦闘を重視したものになっています)

駆逐艦勢力の中核として6隻が建造され、艦名にはスウェーデンの沿岸都市の名前が当てられました。第二次世界大戦後、フリゲート艦に改装されて、1960年代まで活躍しました。1958年から順次退役し、一番最後の「カールスクエーナ」が退役したのは1974年でした、

 

「クラース・ホルン級」制作の裏話(あまり大きな声で話さない方がいいかも)

Rhenania社の「とあるリスト」には既に「クラス・ホルン級」が制作品として載っています。これを入手したくて、以前、直接Rhenania社のオーナーに入手意向を伝えたところ「To doリストには入れてあるが、まだ制作していない」とのお返事で、かつ艦艇に関する情報を漁ったところ、上述のように「時に「エレンスコルド級」の準同型艦として扱われることもある」というような記述を見つけました。ただし同型艦といいきるには、少し大きかったりします。

実は筆者の手元には「エレンスコルド級」のモデルが4隻あり、何気なく見ていると、その中の1隻が明らかにやや寸法が大きいことを発見しました。皆さんもお気づきのように筆者の常として、ないのならそれらしく作ってみてはどうか、と考えるので、「これは作りなさい、というお告げ?」とばかり改造に着手し制作したものが今回ご紹介したものです。

 

かなり以前のお話になりますが、Rhenania社のオーナーさんにこのセミクラッチ構想をお伝えし、改装用に「ヨーテボリ級」の盾付単装砲のパーツを分けてくれなか、とお願いしたところ、「いずれやるから、ちょっと待ってよ」とストップをかけられたことがあります。ハッキリとはおっしゃいませんでしたが「素人仕事で品質を落としてくれるな」というところでしょうか?(仕事じゃなくて趣味なんですけどね)

このオーナーさんは多くのディテイルの甘い3D Printing modelが安価に普及し(ごく一部のモデルを除いては「ごみ」だろう、とおっしゃっていました)、その反面1:1250スケールの品質感を損なうのではないかということに強い懸念を持たれていて、「日本でも高い品質を示してくれよ。そうしたらこのスケールは普及するんだから」とおっしゃっていました。

ドイツらしい「クラフトマンシップ」を垣間見た気がしました。

でも、やっちゃったよ。(Norbeltには内緒にしておこう)

 

というような次第(⬆️)で、いつかRhenaniaのオーナー(Norbelt)からは叱られるかもしれませんが、少し「エレンスコルド級」と「クラス・ホルン級」の比較を。

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(上の写真:「エレンスコルド級」(奥:艦番号1)と「クラス:ホルン級」(セミクラッチ)の大きさ比較:「クラス・ホルン級」が少しだけ大きいでしょう。下の写真:両級の細部比較:単装砲の形状が異なる程度)

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さらに「ヨーテボリ級」との比較も。

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(上の写真:「ヨーテボリ級」(奥:艦番号5)と「クラス:ホルン級」(セミクラッチ)の大きさ比較:下の写真:両級の細部比較)

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大戦間に建造された駆逐艦の一覧
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(手前から「エレンスコルド級」「クラース・ホルン級」「ヨーテボリ級」の順:「エレンスコルド級」と「クラース・ホルン級」は準同型艦、「ヨーテボリ級」が対潜装備、機雷戦装備を充実させて、やや大型になっているのがよくわかります)

 

第三グループ:第二次世界大戦期に建造された駆逐艦

第二次世界大戦中にはスウェーデン海軍はイタリアから2艦級の駆逐艦を輸入し、3艦級を新造しています。

「プシランデル級:Psilander-class」駆逐艦:2隻:1941年より就役

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(「プシランデル級」駆逐艦の概観:67mm in 1:1250 by Argonaut)

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「プシランデル級」駆逐艦は、1920年台後半に建造されたイタリア海軍の「セラ級」駆逐艦の3番艦と4番艦で、1940年にスウェーデン海軍に売却されました。

1250トンの船体に12cm連装砲を2基、連装魚雷発射管を2基搭載し、イタリア海軍では既に旧式艦に分類されながらも35000馬力の機関から35ノットの高速を発揮することができました。これは当時のスウェーデン海軍の艦隊駆逐艦(上記の3艦級)よりも少し大きく、兵装はこれらを上回っており、同じく内海である地中海での行動を想定された設計とも併せて、購入が決められたのかもしれません。

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「プシランデル級」駆逐艦の主砲等の配置を拡大:艦首・艦尾に連装主砲が1基づつ配置され、煙突直後に40mm対空機関砲が装備されています。533mm連装魚雷発射管2基が煙突後方に配置されています。当時のイタリア艦の標準的な装備と配置で、写真では艦尾の投射軌条がよくわかります。 爆雷、あるいは機雷40基を搭載していました 

イタリアからの回航途上、既にイタリアと開戦直前の緊張関係にあった英国に1ヶ月間、抑留されています。そのような苦労の末入手した同級駆逐艦でしたが、船体強度に課題があること、乾舷の低さからくる悪天候時の浸水傾向などが明らかになり、バルト海での運用には不向きであった、という評価だったようです。運用期間は短く、1944年までに予備役となりました。

 

ロムルス級:Romulus-class」駆逐艦:2隻:1940年から就役

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(「ロムルス級」沿岸警備駆逐艦の概観:66mm in 1:1250 by XP Forge)

同級は前出の「プシランデル級」駆逐艦と同じく1939年のイタリアに派遣された調査団の成果としてイタリアから購入された駆逐艦です。イタリア海軍では「スピカ級」大型水雷艇として32隻が建造され、1940年に2隻(「スピカ」「アストーレ」)がスウェーデンに売却されました。売却にあたっては寒冷地仕様への変更等が施されました。

水雷艇の呼称からはやや大きな印象を受けるかもしれませんが、満載排水量で900トン級の船体を持ち、19000馬力の機関から34ノットの高速を発揮する設計でした。100mm単装砲3基を主砲として搭載し、20mm対空機関砲3基、450mm連装魚雷発射管4基(各舷に2基づつ配置)、対潜迫撃砲2基、機雷もしくは爆雷18基を搭載していました。

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(「ロムルス級」の主要兵装の拡大:主砲・魚雷発射管の配置等がよくわかります)

ja.wikipedia.org

同級は好評だったようで、同級の図面を基礎として新たなスウェーデン製の「モージ級」駆逐艦の建造に至りました。本級自体も第二次世界大戦後も運用され、1953年には対潜フリゲートに改造され、1958年に退役しています。

 

「ヴィズビュー級:Visby-class」駆逐艦:4隻:1943年から就役

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(「ヴィズビュー級」駆逐艦の概観:79mm in 1:1250 by Brown Water Navy miniature (3D printing model)

同級はスウェーデン海軍が第二次世界大戦中に建造した駆逐艦の艦級です。4隻が建造されましたが、うち2隻の予算は前述の爆発事故で損傷した「クラス・ホルン級」の代艦として認められたものでした。

前級「ヨーテボリ級」をベースとしながらも、「エレンスコルド級」をタイプシップとした駆逐艦の系譜とは異なり、船体が一気に200トン近く大型化し、かつ艦尾形状も角型に改められるなど、新機軸が盛り込まれています。

一方主要兵装は、前級までの装備をほぼ継承していますが、主砲である12cm(4.7インチ)単装砲3基をこれまでの艦首、中央、艦尾の配置から、艦首1基。艦尾に2基を背負い式での配置に変更し広い射界を確保して居ます。あわせて艦尾に搭載した対潜戦闘装備、機雷戦装備等が充実させています。

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 (上の写真は、「ヴィズビュー級:駆逐艦の特徴である主砲と煙突の配置の拡大(上段写真と中段写真):下段左では対空砲座の配置と、下段右は艦尾の対潜・機雷戦を重視した艦尾の軌条等の拡大)

1960年代に全てがフリゲート艦に艦種変更され、内2隻はヘリコプター搭載能力を付与されるまでの改装を受けています。

1980年前後まで現役で活躍しました

 

「モージ級:Mode-class」駆逐艦:4隻:1942年より就役

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(「モージ級」沿岸警備駆逐艦の概観:62mm in 1:1250 by Rhenania)

同級はイタリアから輸入した「ロムラス級」警備駆逐艦(イタリア海軍の「スピカ級」水雷艇を輸入したもの)をタイプシップとするべくイタリアから図面を入手し、これにスウェーデンで近代化の要件を加えて再設計された沿岸警備用の小型駆逐艦で、満載排水量960トンの船体に105mm砲(4インチ砲)3基、21インチの三連装魚雷発射管1基を搭載し、30ノットの速力を発揮することができる設計でした。4隻が建造されました。

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(「モージ級」の主要兵装の拡大:主砲・魚雷発射管に加え、充実した対空兵装もよくわかります。同級の中立警備哨戒・小川護衛に特化した機能が創造できるかと)

大戦後も種々のアップグレードを加えてフリゲート艦として運用され、同級の最終艦(「モージ」)が退役したのは1970年でした。

タイプシップとなった「ロミュラス級」との比較

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(上の写真は「モージ級」沿岸警備駆逐艦とそのタイプシップとなったイタリアから輸入された「ロムラス級」の比較:排水量では「モージ級」が上回っていましたが、長さでは「ロムラス級」が上回っていました)

スウェーデン海軍の主力駆逐艦ヨーテボリ級」との比較

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(上の写真は「モージ級」沿岸警備駆逐艦と同時期の主力駆逐艦であった「ヨーテボリ級」の比較:「モージ級」がかなり小型の駆逐艦であったことがわかります)

 

「エーランド級:Oland-class」駆逐艦:2隻:1947年より就役

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(「エーランド級駆逐艦の概観:88mm in 1:1250 by Delphine)

同級はスウェーデン海軍が第二次世界大戦中に建造した駆逐艦です。同海軍としては、初めて2000トンを超える大型駆逐艦で、主砲の搭載も連装砲塔を採用するなど、それまでの同海軍の駆逐艦とは一線を画する外観を示しています。

当初4隻の建造が計画されていましたが、大戦の終結とともに2隻がキャンセルされました。就役は大戦終了後となりました。

7門の40mm対空機関砲、8門の20mm対空機関砲など、対空装備と対潜戦闘装備、機雷戦装備が充実しています。

 (下の写真は、「エーランド級駆逐艦の特徴である連装主砲塔の拡大と角形の艦尾形状;少しわかりにくいのですが、対空機関砲砲座の配置も(機関砲の銃身を再現すべきかもしれません(下段右の写真などを見ていただくと、言っていることがわかっていただけるかも))

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スウェーデン海軍は上記の「エーランド級」の後も、「ハッランド級」「エステルイェートランド級」の2艦級の駆逐艦を建造しますが、その後、コルベットと高速戦闘艇、潜水艦中心への計画の転換があり、現在は駆逐艦を運用していません。

やはりバルト海沿岸の警備、という同海軍の主要任務を考慮すると、小回りの効く艦艇が有効ということでしょうか?今回ご紹介した駆逐艦も、同時期の他国海軍に比べると小ぶりな艦級が多く、これも同じ背景なのかもしれません。

 

第二次世界大戦期のスウェーデン海軍の艦隊駆逐艦の一覧

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第二次世界大戦期の艦隊駆逐艦の一覧:手前から「エレンスコルド級」「クラース・ホルン級」「ヨーテボリ級」「プリランデル級」「ウィズビュー級」「エーランド級」の順:船体の大型かの経緯と、主要兵装の配置の変化が面白いかも)

 

というわけで今回はここまで。

次回は、これまでの流れでスウェーデン海軍の他の艦種(潜水艦・小型艦艇等)のご紹介を検討中です。ご紹介と言っても、あまり情報がないのでスペック等の簡単なものになるかもしれません。一方で、帝政ドイツ期の小型巡洋艦軽巡洋艦等のNavis製の新モデルが充実してきましたので、こちらも近々に体系的のご紹介できるかも。

 もし、「こんな企画できるか?」のようなアイディアがあれば、是非、お知らせください。

 

模型に関するご質問等は、いつでも大歓迎です。

特に「if艦」のアイディアなど、大歓迎です。作れるかどうかは保証しませんが。併せて「if艦」については、皆さんのストーリー案などお聞かせいただくと、もしかすると関連する艦船模型なども交えてご紹介できるかも。

もちろん本稿でとりあげた艦船模型以外のことでも、大歓迎です。

お気軽にお問い合わせ、修正情報、追加情報などお知らせください。

 

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