相州の、ほぼ週刊、1:1250 Scale 艦船模型ブログ

1:1250スケールの艦船模型コレクションをご紹介。実在艦から未成艦、架空艦まで、系統的な紹介を目指します。

映画「グレイハウンド」の予告編から米駆逐艦の話

映画「グレイハウンド」予告編(再掲)

前回、本稿では本題に入る前にトム・ハンクス主演で予告編が流れ始めた「グレイハウンド」について、少し触れました。

予告編を再録しておきます

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この映画、船団を護衛する駆逐艦とそれを駆り立てるUボートの物語、乱暴に整理してしまうとそう言う事なんだろうと思います。

原作があって、「海の男、ホーンブロワー」シリーズなどで有名な海洋小説の大御所セシル・スコット・フォレスターの「駆逐艦キーリング」。原題は「The Good Shepherd」:Uボートの群狼作戦に因んで船団(羊)を守る「羊飼い」なんでしょう。これも映画で有名になった「アフリカの女王」もこの人の原作がベースですね。「でも「グレイハウンド」は主に兎狩りなどの猟犬ですので、羊のお守りには・・?」とかそう言う話は置いておいて、まあ主演がトム・ハンクスでかつ脚本も自分で書いたと言う事なので、かなり公開が楽しみです。

 

・・・と思っていたら、なんと劇場公開は中止!Apple TV+で独占配信、らしい。

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しかも7月10日公開ですね。

えええ! Apple TV+は入ってないなあ。どうしよう(と、一応、迷うふり)。

もう一つ、「グレイハウンド」は映画に登場するトム・ハンクスが艦長を務める駆逐艦の名前とのこと。これはこれは、と、実はここも突っ込みどころ満載、な感じです。

 

と言う事で、今回はちょっと力を抜いて、そんなお話をコンパクトに。

模型?もちろん、出てきます!(そのはずです)

 

まず、配信媒体の話

これで間違いなく、また視聴媒体が増えますね。

何やかんやと理由をつけながら、いつの間にかhulu, Netflix, Amazon Primeとアイコンが増え続けています。皆さんはそんな事ないですか?もちろん見ているのは私だけではなく、家族の微妙な利害関係、その時の力関係から現状があるのですが、我が家はケーブルテレビですので、さらにこれに映画専門チャンネルやら海外ドラマ、日本映画専門チャンネル、地上波と・・・。もう収拾がつきません。

そろそろ映画館もいいかなあ、と思っていたのですが。

しかし考えようで、配給側にとっては、公開方法が多様化する、と言うのは良い事かもしれませんね。勝負できるフィールドが増えるわけですので。併せて観るがわの視点で言うと、媒体を意識した試みも面白いものに巡り合える可能性が広がってゆくのかな、と少し期待しています。

 

gokigen-plus.com

月額600円。年払い6000円ですか。月に2-3本程度、見たいものがあれば良いのかも、とか計算しちゃいますね。

 

前出の各サービス、私は今、何を今見ているかと言うと、

hulu: 「The Head」(進行中!なかなか面白い)

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Netflix: 「攻殻機動隊SAC 2045」(もう見ちゃったけど)

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アイリッシュマン」は良かった。携帯でこんな贅沢なキャストの映画見て良いのかな、と言う感じでした。

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AmazonPrime: 「Star Trek Picard

(もう終わっちゃいましたが、これも本稿でもご紹介しましたが、至宝のひととき、でした)

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「高い城の男」シリーズ

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(今は次シーズン待ち状態ですが、フィリップ・K・ディック原作の同名小説を下敷きにしたif世界もの。第二次大戦にナチス大日本帝国が勝利し、アメリカを分割統治している、と言う設定です。なかなかお奨めです)

 

スマホで電車で視聴、と言うケースが多いですが、おかげで本を読まなくなりました。最近はオフィスに行かなくなったので、そう言う意味では利用率が下がってきています。

 

ロバート・デニーロアル・パチーノ、ジョー・ベシ、ハーヴェイ・カイテルという錚々たる重鎮が出演するギャング映画(「アイリッシュマン」のことですよ、当然)を、電車の乗り換えのたびにスマホにポーズをかけながら見るなんて、ものすごくいけないことをしているようで・・・。でも、アメリカでも劇場公開はNetflixでの公開後、しかも限定した劇場で短期間、と言うことだったそうですので、時代が変わる、と言うのはこういうことなんでしょうね。

 

登場する駆逐艦の話

さて、いよいよ映画に登場する駆逐艦の話ですが、予告編を見ただけであまり全体像を捉えられるような映像がなかったので、本稿前回では、筆者は予告編に映画自体への期待感を募らせながらも、「キーリング」は艦隊駆逐艦(DD)の様に見えるのですが、ここは護衛駆逐艦(DE)を使って欲しかった、などと記しています。船団護衛なら、旧式の第一次大戦型の平甲板型駆逐艦か、護衛駆逐艦(DE)あるいはもっと小さなコルベットのような艦が、個人的にはよかったな、と言う感じです。

その後、書棚から「確か、あったはず」と、ほこりを被った原作小説を引っ張り出して確認したところ、原作小説では「駆逐艦キーリング」は「マハン級」駆逐艦とされていました。ああ、艦隊駆逐艦(DD)と言う設定は間違っていなかったんだ、と言うわけです。あわせて「マハン級」と聞いて少し納得。

 

「マハン級」駆逐艦(1936-:同型艦18隻)

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 (直上の写真:「マハン級」駆逐艦の概観。82mm in 1:1250 by Neptun:)

 

「マハン級」駆逐艦アメリカ海軍が第一次世界大戦後建造した3番目の艦隊随伴用の駆逐艦の艦級で、就役年次は1937年ごろ。1500トンの小ぶりな船体を、原型となった「ファラガット級」で課題となった復原性不足に対応してやや幅広の設計としたにもかかわらず、5インチ両用砲5門、533mm4連装魚雷発射管3基を搭載するなど、重武装による、強いトップ・ヘビー傾向と言うこの条約期の駆逐艦の構造的な欠陥を、前級の「ファラガット級」から引き継いでいました。

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 (直上の写真:「マハン級」駆逐艦の主砲配置。艦首部は両用砲の単装砲塔形式、艦尾部は単装砲架形式で、主砲を搭載しています)

 

同級1番艦の艦名は、著名な海軍戦略家アルフレッド・セイヤー・マハンに因んだものです。マハンの著書「海上権力史論」は明治期の海軍士官の必読書と言われ、日本海軍の日露戦争当時の艦隊参謀として有名な秋山真之も、米国留学の際、マハンを訪ねたと言われています。

 

アメリカの第二次世界大戦参戦は1941年12月以降、かつ映画は1942年の出来事、と言う想定ですので、既に後続の艦級が就役しており(1942年には、かの有名な「フレッチャー級駆逐艦の最初のグループが就役し始めた年です)、既にやや旧型艦とみなされていた「マハン級」駆逐艦は船団護衛に回されていた、と言う情況はありえるかと納得したわけです。実際には、同級は全て緒戦は太平洋戦線に投入されたはずで、破竹の勢いの日本海軍と対峙していたのですが。

 

原型となった「ファラガット級」駆逐艦(1934-:同型艦8隻)

「マハン級」駆逐艦アメリカ海軍が第一次世界大戦後建造した3番目の艦隊随伴用の駆逐艦、と書きましたが、最初に建造された「ファラガット級」駆逐艦第一次世界大戦で大量に建造された平甲板型駆逐艦保有する米海軍が13年ぶりに設計した駆逐艦で、1500トンの船体に5インチ両用砲を単装砲塔と単装砲架の混載で5門、533mm4連装魚雷発射管を2基搭載し、37ノットの速力を発揮することが出来ました。一方で、これらの強力な兵装の搭載は、1500トンの船体には、過剰で、強いトップ・ヘビーの傾向を持っていました。

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 (直上の写真:「ファラガット級」駆逐艦の概観。84mm in 1:1250 by Neptun:)

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 (直上の写真:「ファラガット級」駆逐艦の主砲配置。艦首部は両用砲の単装砲塔形式、艦尾部は単装砲架形式で、主砲を搭載しています)

同級は、それまでの米海軍の主力駆逐艦であった平甲板型に比べ、次元が違うと言っても良い強力な艦として設計されたわけですが、その革新性の最たるものが5インチ両用砲(Mk 12 5インチ砲)の主砲採用で、これは米海軍が航空機の脅威の増大を既にこの設計時期に予期していた、と言うことを示していると考えられます。

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この砲はその後建造された駆逐艦だけでなく、戦艦、巡洋艦、空母など米海軍艦艇のほぼ全ての艦級に搭載され、実に1990年まで使用された優秀な砲で、単装砲架から連装砲塔まで、多岐にわたる搭載形式が開発・採用されました。「ファラガット級」では、艦首部には単装砲塔形式で2基を背負い式に配置し、艦中央に単装砲架で1基、艦尾部に単装砲架を背負式で2基搭載しました。

同砲は揚弾機構付きで毎分15-22発、揚弾機構なしの場合でも毎分12-15発の射撃が可能で、これとMk 33両用方位盤との組み合わせで、それまで平甲板型駆逐艦に比べ飛躍的な射撃能力を得ることができました。

 

同時期、日本海軍も駆逐艦に5インチ砲を主砲として採用していたのですが、基本は対艦射撃用として設計された平射砲で、対空射撃の要請に対する対応として、B型砲塔以降では仰角を75度まで上げるなどの改良が行われましたが、装填機構が対応できず、つまり装填時には平射位置まで仰角を戻さねばならず、高角射撃時の射撃速度は毎分4発程度で、低空からの侵入機に対する以外は対空砲としては全く効果を有しませんでした。

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この砲は、「睦月級」以前の駆逐艦と「秋月級」、「松級」以外の全ての駆逐艦に搭載されており、日本海軍は有効な対空砲を持たない駆逐艦の防空円陣で護衛されねばならなかった、と言うことになります。多くの駆逐艦が戦争後期には主砲塔を対空機銃座に置き換えている理由がここにあります。

日本海軍における駆逐艦の役割が如何に主力艦決戦の「一ノ矢」に集約されていたか、つまりその主兵器は強力な魚雷であり、その他の兵装は魚雷射程まで敵主力艦に接近できるための補助兵装だったか、と言うことがここでも明らかになると筆者は考えています。(本当は、この話は別のところできちんとするつもりだったんだけど、まあ、ちょっと「触り」だけ)

 

一方で、既にこの「ファラガット級」の設計(1930年代)から、「砲」そのものはもちろん、装填機構や方位盤などの射撃管制機構との組み合わせで「両用砲」と言う「システム」を駆逐艦に搭載したアメリカ海軍の先進性には、本当に驚かされます。

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 (直上の写真:「ファラガット級」駆逐艦(上段)と「マハン級」駆逐艦の大きさ比較。「マハン級」は「ファラガット級」で課題となった復原性不足に対する対策として、艦幅を拡大しています。下の写真では、「ファラガット級」(上段)と「マハン級」の魚雷発射管の配置を比較しています)

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もう一つ、ちょっと脱線しますが、「ファラガット級」にも、「マハン級」にも強いトップ・ヘビーの傾向がある、と記したわけですが、これは同時期に日本海軍が設計した「初春級」駆逐艦(1933年就役)にも同様に見られる傾向です。

 

「初春級」駆逐艦(1933-:同型艦6隻)

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(直上の写真は「初春級」竣工時の概観:88mm in 1:1250 by Neptuneをベースにセミ・スクラッチ

 

「初春級」はワシントン・ロンドン体制の制約下で駆逐艦の船体を小型化する必要が生じ、その日本海軍の艦隊駆逐艦としてはやや小さな船体に可能な限り強力な兵装を搭載する必要性から設計された艦級で、「ファラガット級」と同様、1500トン級(1400トン)の船体に5インチ砲を5門、加えて「ファラガット級」を凌駕する強力な61cm魚雷発射管を実に9射線有し、さらに予備魚雷を搭載すると言う「離れ業」を具現化した結果、公試時に既に実用性に問題は生じるほどの傾斜、復原性の課題が明らかになり、両舷にバルジを追加するなどの手直しで就役したものの、その後、同様の処置を施した水雷艇での転覆事故(友鶴事件)が発生し、ほぼ再設計と言えるような修復を行わねばなりませんでした。

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(直上の写真は、「初春級」竣工時の特徴のアップ。左上:艦橋部。艦橋部の下層構造を延長し、艦橋の位置をやや後方へ。艦橋部下層構造の前端に2番主砲塔(単装)を、1番主砲塔(連装)と背負い式になるように配置。右上:2番魚雷発射管。これは全く手をつけず。下段左と中央:後橋部分と2番・3番発射管の配置状況。3番発射管自体は、船体中心線に対し、やや右にオフセットした位置に追加。細かいこだわりですが、一応、3番発射管用の次発装填装置を後橋部の構造建屋の上に設置。2番発射管用の次発装填装置は後橋部建屋の左側の斜め張り出し部に内蔵されています)

 

そして、復原性改修により一変した艦容

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 (直上の写真:「初春級」駆逐艦の復原性改修後の概観。87mm in 1:1250 by Neptune。下の写真は、「初春級」の主砲配置と魚雷発射管配置。復原性改修後、艦首部に搭載していた単装主砲塔を艦尾部に移動、さらに魚雷発射管の搭載数を1基削減する等、再設計に匹敵するほどの上部構造を軽量化する処置が取られました)

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「ファラガット級」では、トップ・ヘビーの欠陥が指摘されたものの、「初春級」のような修復改善設計をするようなレベルには至りませんでしたが、その後、電波兵器の搭載などによってさらに上部構造物の重量が増加した結果、大戦中に失われた同級の3隻のうち2隻は台風による転覆事故だった、と言う結果を引き起こすに至っています。

軍縮条約制約下で設計された艦級には多少とも見られる同様な傾向といえると考えています。

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 (直上の写真:ほぼ同時期に就役した日米駆逐艦の比較。「ファラガット級」駆逐艦(手前)と「初春級」。いずれも船体の大きさ位に対し大きすぎる兵装を搭載したため、トップ・ヘビーの傾向に苦しみました)

 

 

米艦隊駆逐艦の集大成「フレッチャー級駆逐艦(1942-:同型艦175隻)

前出の「ファラガット級」から始まる米海軍艦隊駆逐艦の集大成とも言える艦級が、「フレッチャー級駆逐艦です。

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 (直上の写真:「フレッチャー級駆逐艦の概観。92mm in 1:1250 by Neptun:) 

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2100トンの大型駆逐艦で、5インチ両用砲(Mk 12 5インチ砲)を単装砲塔形式で5基装備し、533mm4連装魚雷発射管2基を搭載し、37.8ノットの速力を出せる、まさに艦隊駆逐艦の決定版と言えるバランスの取れた艦で、175隻が建造されました。

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 (直上の写真:「フレッチャー級駆逐艦と「マハン級」駆逐艦の概観比較。今回の主題。どちらが映画に登場した駆逐艦でしょうか?) 

 今回ご登場いただいたのは、冒頭の映画「グレイハウンド」の予告編に登場する駆逐艦はこの艦級ではなかろうかと思ったからです。もしそうだとすると、艦隊駆逐艦は流石に船団護衛はしないんじゃないかな、と。

どう思われますか?

 

「グレイハウンド」という艦名

もう一つ、米海軍の駆逐艦の名前は、概ね海軍に貢献した人の名前、と言うのが私の理解です。もちろん、これだけの数があれば「誰?」のような人も混じってはいるでしょうが、「グレイハウンド」と言うのはいかがなものか、と。「いやいや、猟犬の発想ではなく、そう言う名前の海軍軍人がいたんだよ」と言うことかもしれません。だとするとご勘弁を。

 

 ということで、取り敢えず今回は、少しコンパクトですが、ここまで。 

 

次回は、どうしようかな?

いっそこの続きで、米海軍の駆逐艦の系譜でもやってしまいましょうか?(日本海軍の駆逐艦、やってないぜ、って。その通りですが、準備中なんです、そっちは)

もし、「こんな企画できるか?」のようなアイディアがあれば、是非、お知らせください。

 

模型に関するご質問等は、いつでも大歓迎です。

特に「if艦」のアイディアなど、大歓迎です。作れるかどうかは保証しませんが。併せて「if艦」については、皆さんのストーリー案などお聞かせいただくと、もしかすると関連する艦船模型なども交えてご紹介できるかも。

もちろん本稿でとりあげた艦船模型以外のことでも、大歓迎です。

お気軽にお問い合わせ、修正情報、追加情報などお知らせください。

 

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