相州の、ほぼ週刊、1:1250 Scale 艦船模型ブログ

1:1250スケールの艦船模型コレクションをご紹介。実在艦から未成艦、架空艦まで、系統的な紹介を目指します。

第17回 八四艦隊の成立と金剛代艦級計画 :もう一つのワシントン海軍軍縮条約下で

八四艦隊

前回、本稿で登場した「もう一つのワシントン海軍軍縮条約」下では、日本海軍は八八艦隊計画に予定されていた「長門」に始まる八隻の戦艦を基幹とする艦隊を完成した。(その詳細は第16回を参照願いたい)

一方で八八艦隊計画中の巡洋戦艦八隻の計画は全て破棄され、主力艦隊の前衛は、金剛級巡洋戦艦が、その役割を引き続き引き受けることになった。

ここに、1929年日本海軍の主力艦隊は八四艦隊として実現された。(条約制限を大きく逸脱していた相模級戦艦の完成公表は条約切れの1932年)

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(1928年頃の日本海軍の主力艦8隻:左上段 長門級長門陸奥)、右上段 加賀級(加賀・土佐)、左下段 紀伊級(紀伊尾張)、右下段 相模級(相模・近江))

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八四艦隊の戦艦4クラスの艦型比較(上から、長門級加賀級紀伊級、相模級)

 

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八四艦隊の前衛を務める金剛級4隻(手前から、金剛、比叡、榛名、霧島)


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写真は1927年ごろの霧島。前檣の構造がやや複雑化しつつある。

 

八四艦隊の特徴は、戦艦はすべて16インチ以上の主砲搭載艦であること(相模級は実は18インチ砲搭載艦)と、八四艦隊を構成する全ての艦が26.5ノット以上の速力を持つ高速艦隊であった。

 

同時期の英米主力艦隊と比較すると、

日本海軍:長門級2隻(16インチ)、加賀級2隻(16インチ)、紀伊級2隻(16インチ)、相模級2隻(18インチ)、金剛級4隻(14インチ) 計12隻:18インチ16門、16インチ56門、14インチ32門 最劣速艦に合わせた艦隊速度26.5ノット

米海軍:サウスダコタ級3隻(16インチ)、コンステレーション級2隻(16インチ)、コロラド級3隻(16インチ)、テネシー級2隻(14インチ)、ニューメキシコ級3隻(14インチ)、ペンシルバニア級2隻(14インチ)、ネヴァダ級2隻(14インチ)、ニューヨーク級2隻(14インチ) 計19隻:16インチ76門、14インチ124門 最劣速艦に合わせた艦隊速度21ノット

英海軍:ネルソン級4隻(16インチ)、フッド(15インチ)、レナウン級2隻(15インチ)、リベンジ級5隻(15インチ)、クイーン・エリザベス級5隻(15インチ)、アイアン・デューク級4隻(13.5インチ) 計21隻:16インチ36門、15インチ100門、13.5インチ40門 最劣速艦に合わせた艦隊速度21.25ノット

 

この比較で明らかなことは、日本海軍はワシントン海軍軍縮条約の主旨通り、英米両海軍には、主力艦の隻数、主砲数では大きく及ばないが、速力は他を圧倒しており、物量で優位に立つ敵に対し、機動力で優位に立ち自軍に有利な位置どりから戦闘の主導権を握る、という日清・日露両戦争以来の日本海軍伝統の系統の艦隊の建造を目指し、ある程度は忠実に具現化することに成功した、と言っていいであろう。

 

 金剛代艦計画

ワシントン軍縮条約下で、日本海軍は英米海軍に対し数的な優位には立てないことが確定した。このため高い機動力による戦場での優位性を獲得するために、条約制約下で速力に劣る扶桑級伊勢級の4戦艦を破棄し、最も古い金剛級巡洋戦艦を残すという選択をしなくてはならなかった。

金剛級巡洋戦艦は、その優速性ゆえ貴重で、その後数次の改装により、防御力の向上等、近代高速戦艦として生まれ変わっていくが、如何せんその艦齢が古く、いずれは代替される必要があった。

こうして金剛代艦計画が進められることになる。

 

この計画には、文字通り海軍艦政の中枢を担う艦政本部案と、当時、海軍技術研究所造船研究部長の閑職にあった平賀中将の案が提出された。

ja.wikipedia.org

 

平賀案:畝傍級巡洋戦艦

海軍技術研究所造船研究部長平賀中将の設計案で、40,000トンの船体に16インチ砲を10門搭載、30ノットを発揮する高速戦艦として設計された。(ちょっと史実とは異なります)副砲を砲塔形式とケースメイト形式で混載。集中防御方式を徹底した設計となった。

 

畝傍級巡洋戦艦高速戦艦)として採用され、当初4隻が建造される予定であったが、設計変更が発生し、「畝傍」「筑波」の2隻のみ建造された。

(1936-, 40,000t, 30knot, 16in *3*2+16in *2*2, 2 ships, 185mm in 1:1250 semi-scratched based on C.O.B.Constructs and Miniatures /3D printing model)

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徹底した集中防御方式を意識したため、上部構造を中央に集中した艦型となった。初めて艦橋を塔構造とし、その塔構造艦橋の中層に高角砲を集中配置するなど新機軸が取り込まれ、その結果、やや重心が高くなってしまった。

結果、操艦と射撃精度にやや課題が発生する結果となった。

そのため当初4隻の建造予定が見直され、2番艦までで建造を打ち切りとし、3番艦・4番艦に対しては設計変更が行われた。これらは高千穂級巡洋戦艦として建造された。

 

艦政本部案 巡洋戦艦 信貴

海軍艦政本部藤本少将が中心となって設計した。このため藤本案と呼ばれることもある。40,000トン、30ノット等、設計の基本要目はもちろん平賀案と同様である。

平賀案と異なり、比較的広い範囲をカバーする防御構造を持ち、主砲は3連装砲塔3基9門、副砲はすべて砲塔形式とした。

 

「信貴」1隻が試作発注され、同型艦はない。兵装・機関配置等、後に大和級戦艦の設計に影響があったとされている。

(1936-, 40,000t, 30knot, 16in *3*3, 190mm in 1:1250 semi-scratched based on C.O.B.Constructs and Miniatures /3D printing model)

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高千穂級巡洋戦艦高速戦艦):改畝傍級

畝傍級には、上述のような課題が発見され、 特に上部構造の改修に力点が置かれた設計の見直しが行われた。

こうして、畝傍級3•4番艦は高千穂級として建造された。両艦は「高千穂」「白根」と命名された。

 

主要な設計要目は畝傍級と同じで、40,000トンの船体に16インチ砲を10門搭載し、船体配置の若干の見直しにより、より大型の機関を搭載することができ、速力は32ノットを発揮することができた。副砲は畝傍級同様、砲塔形式とケースメイト形式の混載としたが、後に対空兵装の必要性が高まるにつれ、対空兵装への置き換えが行われた。

(1939-, 40,000t, 32knot, 16in *3*2+16in *2*2, 2 ships,, 193mm in 1:1250 semi-scratched based on Superior)

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 (高千穂級高速戦艦2隻:白根(手前:対空兵装強化後の姿、高千穂(奥:新造時))

 

こうして金剛級代艦は都合5隻が建造された。

いずれも条約切れ後の就役となったため、最終的に金剛級の4隻との代替とはならず、金剛級もその持ち前の高速性能から第一線にとどまるべく数次に渡る改装を経て現役にあり、結果、日本海軍は都合9隻の巡洋戦艦高速戦艦)を保有することになった。

奇しくも、この時点で八八艦隊計画は、当初の形とは異なる形ではあったが、八九艦隊として一応の完成を見た。

 

その頃、ヨーロッパにおいて一旦形作られた第一次世界大戦後の新しい体制はほころびを生じつつあり、イタリア・ドイツにファシズムを生み出し、欧州にはきな臭い香りがくすぶり始めていた。次期世界大戦に向けて戦雲が動き始めようとしている。

 

次回は、いよいよワシントン海軍軍縮条約後の、再び建造制約のない新戦艦の時代。ドイツも再軍備か?

 

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これまで本稿に登場した各艦の情報を下記に国別にまとめました。

fw688i.hatenadiary.jp

内容は当ブログの内容と同様ですが、詳しい情報をご覧になりたい時などに、辞書がわりに使っていただければ幸いです。

 


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