相州の、ほぼ週刊、1:1250 Scale 艦船模型ブログ

1:1250スケールの艦船模型コレクションをご紹介。実在艦から未成艦、架空艦まで、系統的な紹介を目指します。

新着モデルのご紹介:英海軍駆逐艦のモデルのアップデート(航洋型駆逐艦の模索期のモデルから)

今回は本稿での過去の投稿で投稿時に「入手手配中」というような表記だったいくつかの艦級の3D printing modelが到着し、塗装等を終えたので、そちらのご紹介を。

fw688i.hatenablog.com

これらはいずれも英海軍の駆逐艦、特に航洋型駆逐艦の模索期(第一次世界大戦前)に開発された艦級群のいわゆる「特型:Specialty」と呼称される準同型艦です。

これら「特型」が生み出された背景には当時の仮想敵であったドイツ帝国海軍の高性能駆逐艦や大型水雷艇への対応の必要性がありました。

この目的(特に速度や航続距離の延伸)を果たす取り組みとして、民間の技術革新等を積極的に取り入れることが試みられます。具体的には海軍本部の各艦級の設計をベースにしながらも、その基本スペックに準じて民間造船所にかなりの自由度が与えられ、その結果、多くの準同型艦が生み出されました。

今回は「K級駆逐艦特型4種のうちからモデルが入手できた3種、「L級」特型2種のうちから1種をそれぞれアップデートとして紹介したいと考えています。(これらは以前の投稿にも同じ内容をアップデートしておきます)

 

以下は上記投稿のアップデート部分です。

K級駆逐艦:(就役時期:1912-1923:同型艦特型をふくみ20隻

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(K級駆逐艦アドミラルティ型の概観:65mm in 1:1259 by Navis)

G級、H級、I 級と、建造コストを制限してきた英海軍でしたが、著しい性能向上を謳う仮想敵であるドイツ帝国海軍の大型水雷艇に対抗する必要から、本級は再び大型化した艦型を与えられます。950トンクラスの船体にタービンと重油専焼缶の組み合わせの機関を搭載し 31ノットの速力を発揮しました。

兵装も強化され、前級までの4インチ砲と3インチ砲の混載から、4インチ単装砲3基に改められました。雷装は前級同等の53センチ単装発射管2基としていました。

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(「アドミラルティK級」の主要兵装配置の拡大:艦首に4インチ単装砲、艦中央部に単装魚雷発射管(写真上段)。煙突直後に単装魚雷発射管、その後ろに4インチ単装砲塔2基(写真下段)と続きます)

艦型の大型化から重油搭載量を増やし、仮想戦場である北海全域での行動に十分な航続距離を備えていました。

「I級」から始められた民間造船所への委託による特型建造の試みは継続され、基本形であるアドミラルティ(海軍本部設計)型12隻に加え、特型4タイプ8隻が建造されています。 

 

ソーニクロフトK級特型(5隻:3本煙突)

(「ソーニクロフトK級特型:WTJモデルの3D CAD Graphic)

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(「ソーニクロフトK級特型の概観:65mm in 1:1250 by WTJ:下の写真はふ¥主要兵装の配置:「アドミラルティK級とは単装魚雷発射管2基と後方の単装砲2基の配置順が異ることがわかります)

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K級」は北海全域での行動を想定し、重油搭載量を増やして航続距離を延伸していましたが、ソーニクロフトK級特型の1隻「ハーディ」では、さらなる航続距離の延伸への試みとして巡航用のディーゼルエンジンを搭載し推進機軸を増やした3軸推進艦として予定されていました。実際にはエンジンが間に合わず、結局、他艦と同様の2軸推進艦として完成しました。

 

デニーK級特型(1隻:2本煙突)

(「デニーK級特型:WTJモデルの3D CAD Graphic)

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(「デニーK級特型の概観:65mm in 1:1250 by WTJ:下の写真ではデニーK級特型の兵装配置、特に2番砲・3番砲と2基の魚雷発射管の配列が異なることがわかります)f:id:fw688i:20231210131702p:image

デニーK級特型の「アーデント」は同級で唯一の二本煙突艦でした。船体構造の設計などに新基軸が盛り込まれています。

 

フェアフィールドK級特型(1隻:3本煙突)

(「フェアフィールドK級特型:WTJモデルの3D CAD Graphic)

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(「フェアフィールドK級特型の概観:65mm in 1:1250 by WTJ:下の写真は「フェアフィールドK級特型の兵装配置:配置順は「デニーK級特型と同じですが、2番砲が台座に設定されていることが特徴です。三本煙突の高さは同じになっています)

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フェアフィールド特型の「フォーチュン」はクリッパー型の艦首形状が特徴でした。

 

パーソンズK級特型(1隻:3本煙突)

(モデル見当たらず:概観は「アドミラルティK級」にほぼ準じていたようです:下の写真はWTJ製の「アドミラルティK級3D CAD Graphic。ご参考まで:モデルは未入手)

パーソンズK級特型の「ガーランド」はセミ・ギアード・タービンを搭載した意欲的な設計でしたが、推進器の回転数は直結タービンとあまり変わらず、公試では海軍本部型と同等の31ノットの速力にとどまりました。

 

L級駆逐艦:(就役時期:1913-1923:同型艦特型をふくみ 22隻

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(L級駆逐艦アドミラルティ型の概観:67mm in 1:1259 by Hai)

本級は前級K級同様、大型化路線を継承して建造された駆逐艦の艦級です。

艦型は前級が高速性能を重視した細長い船型を持っているのに対し、同級ではやや艦幅を増して凌波性の向上を目指しています。タービンと重油専焼式の組み合わせは変わらず、29ノットの速度を発揮することができました。

兵装は、3基の4インチ単装砲は射撃速度の早い速射砲(に改められ、53センチ魚雷発射管は連装を2基搭載し射線を倍にするなど、著しい強化が図られています。

(下の写真は本級で初めて搭載された連装魚雷発射管:本級では兵装が強化されています)

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本級でも民間造船所への委託による特型建造の試みは継続され、基本形であるアドミラルティ(海軍本部設計)前期型12隻、後期型2隻に加え、特型3タイプ8隻が建造されています。

 

ホワイトL級特型(2隻:2本煙突)/ヤーローL級特型(4隻:2本煙突)

(「ホワイトL級」特型/「ヤーローL級」特型:WTJモデルの3D CAD Graphic)

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(「ホワイトL級」特型/「ヤーローL級」特型の概観:64mm in 1:1250 by WTJ: WTJのコメントではホワイトL級特型、ヤーローL級特型、両方このモデルで大丈夫、というような案内になっています:下の写真では主要兵装配置を見ていただけるtかと。日本の煙突の間に台座に配置された2番砲、その後に連装魚雷発射管2基、さらに3番砲と続きます)

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ホワイト特型L級、ヤーロー特型L級、いずれもアドミラルティL級が蒸気ボイラー4缶構成だったのに対し、3缶構成に改められています。さらにヤーロー特型L級では直結タービンが採用されています。

 

パーソンズL級特型(2隻:3本煙突)

(モデル見当たらず:下の写真はWTJ製のアドミラルティ「L級」の3D CAD Graphic:パーソンズL級特型アドミラルティL級と同様、3便煙突でした。ご参考まで:モデルは未入手です)

パーソンズL級特型の2隻はオール・ギアード・タービンを初めて採用したことで推進器効率が向上し、とくに燃費効率に著しい効果が見られた、と言われています。

 

もう一つ、こちらは特型ではなくアドミラルティM級の建造時期のヴァリエーションのモデルも入手したので、そちらもご紹介を。

こちらは下記の投稿でご紹介しています。

fw688i.hatenablog.com

まずは上記の投稿から「M級」の略語紹介の部分を。

高速駆逐艦の第一陣

M級駆逐艦(初代)(就役期間:1915-1923  同型艦:準同型艦103隻)

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(「アドミラルティM級」の概観:66mm in 1:1250 by Navis)
「M級」駆逐艦(初代)は、第一次世界大戦の勃発直前に建造が開始された駆逐艦の艦級で、上記の北海を巡る英独の駆逐艦の性能向上競争での優位を目指し、特に速力の向上に重点が置かれた設計でした。その結果、それまでの英海軍の駆逐艦の速力が27ノットから31ノットの速力であったのに対し、34ノットの速力を有する高速艦が生まれました。

同級は以下のサブ・クラスを含んでいます。

アドミラリティM級:85隻(戦前タイプ:6隻 戦時急造タイプ:第一次〜第五次 計79隻)

ホーソンM級:2隻

ヤーローM級:10隻

ソーニクロフトM級:6隻

 

建造時期によって、あるいはサブ・クラスによって少し異なるのですが、概ね900トンから1000トン級の船体に、4インチ単装砲3基、53.3センチ連装魚雷発射管2基を搭載しています。また同級は初めて設計段階から高角機関砲を装備に組み入れた艦級で、当初は37mmポムポム砲、後には40mmポムポム砲を搭載していました。

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(直上の写真は「アドミラルティM級」の武装配置:連装魚雷発射管の間に対空機関砲座が設定されています)

問題の速力は「アドミラルティM級」で34ノット、「ホーソン M級」「ヤーローM級」「ソーニクロフトM級」が標準的に35ノットでした。

(再録はここまで。つまり以下が今回の加筆部分です)

 

「M級」の戦時急造計画

さて「M級」の概略を見ると同級の建造数がそれ以前の艦級と比べて格段に多いことがわかると思います。これは同級の建造着手後に第一次世界大戦が勃発したことにより、戦時急計画が発動され、それによって同級は海軍本部設計案(「アドミラルティM級」ですね)において5回の戦時急増が行われたことによるものでした。

この影響で、同級は第一次世界大戦前に建造された艦と、大戦勃発後に建造された艦で少し外観に差異が生じています。以下はそのお話を。

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まあ、細かい話です。でも、モデラー・コレクターという人種は、こういう話が大好き、ですよね。

戦時急造艦では戦前タイプでは搭載されていた巡航タービンの搭載が省略されています。

砲の搭載形式も改められたようです。この辺りは今回の3Dモデルではよくわかりませんが、Navisのモデルでは2番・3番砲が砲台座に搭載されており、前期型ではこれが船体に直接搭載されていた、という表現がされていますので、このあたりが異なるのかもしれません。

外観的に最も顕著な差が見られるのは煙突の高さが異なる所で、大戦前に建造されたタイプは煙突が短く、大戦中に建造されたタイプは煙突が長くなっています(表現的には一般的な高さになった、ということのようですが)。

その他、モデルでは探照灯が強化され(?)設置位置がブリッジから独立した探照灯台に移動しています。

アドミラルティM級:戦前タイプ(6隻)

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(「アドミラルティM級」大戦前建造タイプ)

煙突が短く、探照灯がブリッジに設置されています。

アドミラルティM級:戦時急造タイプ(第一次急造計画:16隻、第二次:9隻、第三次:22隻、第四次:16隻、第五次:16隻 計79隻)

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(「アドミラルティM級」開戦後建造タイプ)

煙突の長さがスタンダードになり、探照灯位置が艦尾部の探照灯台上に移されています。探照灯もやや大型に?

この情報に照らすと、前出のNavisモデルは大戦中のモデルであることがわかります。さらに細かいことを言うと、マストがやや後傾しているように見えますので、Navis製モデルは第四次戦時急造計画以降のものかと思われます。

(下の写真は戦前型と戦時急造型の最大の差異である煙突の高さを比較したもの:上段の戦前型の方が煙突が低いことがわかります

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(今回の新規投稿はここまで。この後、下記の投稿回では以下の「M級」特型のご紹介が続きます。こちらは再録)

fw688i.hatenablog.com

(ここから前回投稿の再掲)

サブ・クラスの名前の見方(前回もご案内しています)

サブ・クラス(準同型艦)は多出しますので、ここで少しこの艦級名の見方を整理しておきましょう。

「アドミラル ティ」型はその名の通り「海軍本部=The Admirality」の設計を採用したサブ・クラスの艦級名で、この艦級の設計の基本形となると考えていただいていいと思います。建造される隻数も、準同型艦内では最も多くなっています。

それ以外のサブ・クラスは「海軍本部=アドミラルティ」型の設計をベースとして、民間造船所に設計委託された「特別発注型」であることを意味しています。

ホーソン M級=ホーソンレスリー社の設計案採用型、ヤーローM級=ヤーロー社の設計案採用型、ソーニクロフトM級=ソーニクロフト社の設計案採用型 をそれぞれ意味している、と読んでいただければ。

 

ホーソンM級」特型同型艦:2隻)

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(「ホーソンM級」特型の概観:66mm in 1:1250 by WTJ)

ホーソンM級」は高速を発揮するために缶数を1基多く搭載したため唯一4本煙突となりました。ちなみに英海軍が建造した最後の4本煙突駆逐艦となりました。

 

「 ヤーローM級」特型同型艦:10隻)

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(「ヤーローM級」特型の概観:66mm in 1:1250 by WTJ)

 「ヤーローM級」は軽量化と縦横比の増大(船幅に対し船長を長く取る)により高速化を狙い、二本煙突のスマートな艦型をしていました。39ノットの高速を記録した艦も建造されています。

 

 「ソーニクロフトM級」特型同型艦:6隻)

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(「ソーニクロフトM級」特型の概観:66mm in 1:1250 by WTJ)

 「ソーニクロフトM級」はやや高い乾舷を有していました。37ノットの高速を記録した艦もあったようです。

 

M級駆逐艦は、冒頭でご紹介したようにサブ・クラスも含め102隻が建造され12隻が戦没、もしくは戦争中に事故で失われましたが、残りのほとんどが第一次世界大戦終結後、1920年代に売却されています。

(ちなみに、第二次世界大戦日本海軍が投入した艦隊駆逐艦(一等駆逐艦)の総数が、開戦後に完成したものなど全て合わせても、手元の粗々の計算で167隻ですので、英海軍がいかに大量の駆逐艦を整備しようとしたか・・・)

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(M級駆逐艦のサブクラス一覧:手前からアドミラルティ型、ホーソン特型、ヤーロー特型、ソーニクロフト特型の順)

 

ということで今回はここまで。

次回もまた、初回投稿当時は未入手だった英海軍の駆逐艦の艦級の新着モデルのお話などをできれば、と考えています。

もし、「こんな企画できるか?」のようなアイディアがあれば、是非、お知らせください。

 

模型に関するご質問等は、いつでも大歓迎です。

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