年末です。おそらく今年最後の投稿です。
先ずは予告編から。
前回投稿で筆者の目下の関心が、帝政ドイツ期(つまり第一次世界大戦前)の小型巡洋艦から軽巡洋艦の開発系譜に移行している、というお話をしました。
この分野、コレクション的にはほぼ完成されてはいるのですが、振り返るとこれまでシュペー提督のドイツ東洋艦隊所属艦等のお話を除くと、これまでご紹介の機会を見出すことができずに来ていることに気づきました。
少しその背景をお話ししておくと、筆者の艦船モデルのコレクションは、この時代、この国の艦船のコレクションはNavis社のモデルに主軸を置いて構成されていることは何度かご紹介させていただいています。そしてこれも本稿で何度か振れていることですが、Navis社のモデルは現在、新シリーズ(本稿ではNシリーズとして紹介していますが)へのモデルの更新が行われており、当然、モデルのディテイルの再現性などがNシリーズでは格段に向上しています。Nシリーズを見てしまうと、それまで気にしてこなかった同じNavis社の旧モデルの「粗」が一気に気になってしまうという困った状況に陥るのですが(筆者はこれを「Navisモデルのドレッドノート現象」と称しているのですが=つまり一瞬でこれまで第一線級だっと思っていたモデルが二線級に見えてしまう)、Ebay等でNavis社の新モデルへの更新を、筆者のお小遣いをはたいて鋭意行っており、おそらく1月中旬にはある程度まとまったご紹介ができるのではないかな(つまり入札結果がちょうど年末に出る)という時期が訪れようとしています。おそらく読書の皆さんには馴染みのない船が大半を占めることになるかと思いますが、まあコレクションとはそういうものだとお考え下されば幸いです。
で、今回から上記のモデル群のご紹介までの数回は「コレクションとは」というお話の流れで、筆者のコレクションの中でも、一時期大変高い関心を払って(勿論、今もなくなった訳ではないのですが)収集に時間と財源を費やしていたスウェーデン海軍の艦艇群のご紹介を、過去投稿の改稿編集版の形でお届けしようと考えています。
今回は同海軍の中でも長く主力艦という位置づけであった「海防戦艦」というあまり聞きなれない艦種のお話をしたいと思います。
スウェーデン海軍への関心の引き金を引いたのはフィンランド海軍
さて、このスウェーデン海軍の海防戦艦のコレクション。火付け役は、2020年末に、以下の回でご紹介したフィンランド海軍の海防戦艦「イルマリネン級」でした。
以下、同級の概要部分を抜粋してご紹介しておきます。
(直上の写真は「イルマリネン級」海防戦艦の概観。74mm in 1:1250 by XP Forgeに手を入れたもの: 移動式要塞砲台的な感じ?)
同級はオランダ・ドイツの企業連合体(?)によって設計された海防戦艦で、4000トン級の船体を持ち、機関には砕氷時の前進後進の操作性、速力の調整等への配慮から、デーゼル・エレクトリック方式の主機が採用され、16ノットの速力を発揮する事ができました。しかしフィンランド湾沿岸での任務に特化した強力な艦として、外洋への航行は想定から外されて設計されたため、燃料搭載量が極めて少なく航続距離は700海里程度に抑えられていました。フィンランド湾での活動を想定し、幅広の吃水の浅い船体を持ち、前述の冬季の海面凍結から砕氷能力も考慮された船型をしていました。
(少し余談:同級はそれまで旧ロシア海軍の残置した旧式艦艇や民間船を改造した特設艦艇しか持たなかった独立間もないフィンランド海軍が初めて独自で設計した大型艦で、その開発経緯は、それだけで一つの物語になりそうな経緯を含んでいます。大変興味深い話ではあるのですが、今回は主役がスウェーデン海軍ということでもあり、またの機会があれば、と考えています:待ちきれないよ、という方は今回の投稿の少し後でご紹介する「海防戦艦」という書籍(橋本若路氏の大作です)をお読みいただければと思います。艦船模型のブログとして、どう取り上げればいいのか、ちょっと思案中です。でも大好きなフィンランドのお話なので、どこかでトライしたいのですが)
武装としては、主砲には スウェーデンのボフォース社が新設計した46口径25.4センチ連装砲を2基装備し、併せてこれもボフォース社製の新設計の10.5センチ高角砲を連装両用砲塔で4基搭載するという沿岸警備用の海防戦艦としては意欲的な設計でした。
これらの砲装備管制のために高い司令塔を装備したために、明らかにトップ・ヘビーな艦容をしています。とはいえ、その主要任務が活動海域を限定した移動要塞砲台的なものであることを考えると、それほど大きな問題ではないのかもしれません。
(直上の写真:「イルマリネン」(左)と「ヴァイナモイネン」(右):塗装は例によって筆者オリジナルですので、資料的な価値はありません)
正直にお話しすると「主力艦の変遷を追う」本稿としては、海防戦艦は、主軸主力艦とは思えず、「枝葉」として、やや避けて通ってきた感のあった領域です。
本稿の読者ならば(あるいは本稿に興味を持たれるような方ならば)、おおよそ推測はつく(多分、同意もいただける?)と思うのですが、実はこうした一見の「枝葉」、あるいは脇道こそが、コレクションを続ける醍醐味でもあるわけで、このフィンランド海軍の「イルマリネン級」で、「この脇道、一度ちゃんと探検しよう」と決意した(ちょっと大げさ?)という訳です。
この「イルマリネン級」の艦歴の中に、1937年5月に同艦は英国のジョージ6世戴冠記念観艦式にフィンランド艦隊旗艦として参加した折に、同艦の航続距離不足から「スウェーデン海軍の海防戦艦「ドロットニング・ヴィクトリア」に曳航してもらった」という記述を見つけました。
「へえ、なるほどお隣の国の海軍に曳航してもらったんだな」と、脇道に一歩。「ところで「ドロットニング・ヴィクトリア」というのはどんな船なんだ?」と二歩め。「海防戦艦って、いったいどんな定義なんだろう」ともう一歩・・そんな感じで、いつの間にか「スウェーデン海軍」、「海防戦艦」という脇道に誘われるままに迷い込んでしまった、という訳です。
そして、この脇道、足を踏み入れてみて、筆者がいかに情報を持っていないかに痛感することになります。まさに手探り状態で本稿を書き進めることとなり、その都度、「発見」に巡り合う訳です。これだから脇道探検は本当に楽しい。
海防戦艦という艦種
今回の本題であるスウェーデンの海防戦艦に触れる前に、「海防戦艦」という艦種が概ねどういう艦種なのか、少し触れておきたいと思います。
英語では概ね coastal defence ship と表記されます。直訳すると「沿岸防備艦」というわけで、この文字通りの意味であれば、警備艦艇はほとんどこの領域の任務に就くことになるのですが、この中でも比較的小型の船体(沿岸部で行動することを念頭におくと、あまり深い吃水を持たせられない。このために船体の大きさに制限が出てくるのかも)に大口径の主砲を搭載し、かつ一定の装甲を有する艦を特に「海防戦艦」(Coastal defence ship)と呼ぶようです。
保有国には、以下のような大きな二つの地政学的な条件があるように思われます。つまり防備すべき比較的長い海岸線、港湾都市を持つこと。そしてその海岸線が比較的浅い、そして大洋に比べて比較的波の穏やかな内海に面していること。
結果、バルト海、地中海、黒海などに接続海岸を持つ国の占有艦種と言っても良いのではないでしょうか?従って保有国は限定され、バルト海の沿岸諸国として、ロシア帝国、初期のドイツ帝国(彼らは後に大洋海軍を建設します)、スウェーデン、デンマーク、ノルウェイ、フィンランド。地中海ではイタリア(装甲砲艦という艦種で装備されました)、フランス、ギリシア、オーストリア=ハンガリー帝国などが同艦種に分類される軍艦を保有しました。(一部、地政学的な条件から見ると例外的に保有していたのは南米諸国ですが、これらは新興諸国が海岸線防備のために比較的手軽に装備できる(購入できる)艦種、として整備を競った、という別の歴史的な背景があると、筆者は理解しています)
類似艦種としては沿岸防御の浮き砲台としての「モニター艦」がありますが、これは海防戦艦に比べると、さらに局地的な防御任務に適応しており、航洋性、機動性はより抑えられた設計になっています。
脇道探索という意味では、2022年には「海防戦艦」というタイトルの書籍も発売され一も二もなく早速入手。
まずこの書籍の存在を知った際に「ええ、こんなマイナーは艦種の本。あるの」と、これが最大の驚きだったのですが、手元に届いて2度目のびっくり。
Amazonでは、商品ページには版型の説明がなく、ソフトカバー、356ページとだけ記載されていたので、単行本をイメージしていたのですが、手元に届いてビックリ。AB版、つまりかなり大型の図鑑のような本でした。こ、これは持ち歩けない・・・。
しかしその内容たるや実に詳細で15カ国の「海防戦艦」を保有した国が網羅され、未成艦も含めそれぞれの艦級についての図面・写真が満載。もちろんその建造の背景や艦歴も詳述されています。これはもう宝物です。
興味のある方はこちらからどうぞ。
「海防戦艦」という艦種については、本稿でもフィンランド海軍の「イルマリネン級」(本書では「ヴァイナモイネン級」と記載されています)に端を発し、スウェーデン海軍を中心に筆者の「海防戦艦コレクション」をご紹介してきていますが、この本の著者も前書きで「何度目かの小艦巨砲マイブーム」の発端は「スウェーデン海軍の「グスタフ5世」のカラー写真を見たこと」とおっしゃっており、なにやら嬉しい共感を覚えています。(「小艦巨砲」。この一言、なかなか出てこない!)
今回ご紹介するスウェーデンという国は、ボスニア湾(スウェーデンとフィンランドの間の湾)からカテガット海峡(スカンジナビア半島とデンマーク間の海峡)に及ぶ長い海岸線をバルト海に有し、その海岸線のほぼ中央に首都ストックホルムが位置しています。
これらの長い海岸線を防備することがスウェーデン海軍の主要な任務で、19世期の後半から沿岸警備用の大口径砲を搭載した「海防戦艦」の整備に力を入れ始めました。
艦級は以下の6クラスが建造されました。
ドリスへティン(同型艦なし:1901年から就役)
アラン級(同型艦4隻:1902年から就役)
オスカー2世(同型艦無し:1907年から就役)
スウェーデンは永世中立を唱え、二回の世界大戦には参加していません。従ってこれらの艦級に戦没艦はありません。
しかし第二次世界大戦で顕著になった航空主兵化の中では、機動力の低い海防戦艦には活躍の場面はあまり多くなく、スウェーデン海軍も「スヴァリイェ級」の次級の建造計画を放棄し、その沿岸防備戦力の主力を潜水艦と高速艇に移してゆきます。
1960年代までに全ての艦級が退役しています。
(海防戦艦「スヴェア級」の概観:63mm in 1:1250 by Brown Water Navy Miniature in Shapeways:射撃指揮所が前部マストに設置されているのですが、連装砲塔はそのままなので、近代化改装の途中段階?)
同級は、スウェーデン海軍が最初に建造した海防戦艦です。32口径の10インチ連装砲を主砲として艦首部に1基搭載していました。他に副砲として6インチ単装砲を6基、艦種部に35.6cm魚雷発射管を装備していました。
3000トン級の船体に石炭専焼缶とレシプロ機関を搭載し、14.7ノットの速力を有していました。
後に1903年ごろから近代化改装が行われ、同型艦3隻のうち2隻は主砲を8.2インチ単装砲に換装し、副砲を速射砲に、魚雷発射管を45.7cmの口径に換装しています。
1920年代に入ると海防戦艦の任を解かれ、潜水艦母艦や浮き貯蔵庫、更には標的艦として使用された後、1930年から44年の間に解体されました。
(海防戦艦「オーディン級」の概観:68mm in 1:1250 by Brown Water Navy Miniature in Shapeways:射撃指揮所が前部マストに設置されているので、近代化改装後の姿を再現しているかと思われます)
同級はスウェーデン海軍が建造した2番目の海防戦艦の艦級です。主砲は射程距離を延ばした42口径の10インチ砲を採用し、これを単装砲塔で2基、艦種部と艦尾部にそれぞれ1基搭載しています。副砲には12センチ速射砲を4基から6基搭載し、艦首には魚雷発射管を有していました。
前級を二回りほど拡大した3400トン級の船体に石炭専焼缶とレシプロ機関を搭載して16.5ノットの速力を発揮することができました。
1910年代に近代化改装が行われ、前部マストに射撃指揮所が設けられ、機関が換装されたことに伴い煙突が一本になった艦もあります。
「ドリスへティン」(海防戦艦として建造、1927年に水上機母艦に改装)
en.wikipedia.org海防戦艦「ドリスへティン」は1901年に就役した海防戦艦で、同型艦はありません。ほぼ前級「オーディン級」と同じ規模の3400トンクラスの船体に、主砲を新型の44口径8.2インチ単装砲に変更し2基を搭載しています。副砲に6インチ単装速射砲6基を搭載し、魚雷発射管2基を装備していました。16.5ノットの速力を発揮することが出来ました。
(海防戦艦「ドリスへティン」の概観:72mm in 1:1250 by Brown Water Navy Miniature in Shapeways:竣工時の姿)
水上機母艦への改装(1927年)
1927年に同艦は水上機母艦に改装されました。主砲、副砲等を全て撤去し、主兵装は高角砲、高角機関砲も換装されています。水上機3機の運用能力を有していました。同艦は1947年まで運用されていました。
(「ドリスへティン」の水上機母艦への改装後の概観:72mm in 1:1250 by C.O.B. Construvts and Miniature in Shapewaysからのセミ・スクラッチ)
(艦首・艦尾の主砲を撤去し、飛行整備甲板を装備し、対空火器を増強しています。)
少し制作の裏話:水上機母艦形態の「ドリスへティン」には、Mercator社から、1:1250スケールのモデルが発売されています。しかし、なかなか見かけないし、入手の目処が立たなかったので、「では、ストックしているモデルをベースにセミ・スクラッチしてみようか」と。
実はこのセミ・スクラッチには、Brown Water Navy MiniatureのDristighetenのモデルをベースにはしていません。ベースとなったのは同じくShapewaysに出品されているC.O.B. Construvts and Miniatureのスウェーデン海防戦艦「アラン級」の近代化改装後のモデルです。ほぼ同寸であることと、近代化後の姿ということで、前部艦橋、三脚マストなどが再現されていた、というのが主な理由です。
主砲塔を削り、副砲等部分をマスクして上甲板を制作、というのが大まかな工程ですが、実は飛行整備甲板の形状を少し簡略化し過ぎてしまっているのです。正確な写真も図面も見つけられなかった、という背景はあるものの、「まあ、ベースも違うし、ダメならダメでいいか」といわゆる習作のつもりで作ったので、実はその後、Brown Water Navy MiniatureのDristighetenをベースに再度、トライしています。しかし、どうも上手くいかない。筆者的には上掲でいいのかな、と考えています。とはいえ気にはなっているので、どこかで再度トライするかも。
Mecator社製モデルを入手
(「ドリスへティン」の水上機母艦への改装後の概観:69mm in 1:1250 by Mercator:筆者のセミ・スクラッチモデルよりも少しポッチャリした概観です。海防戦艦ベース、と言う本艦の特徴が解く現れているかも)
後日、前述のMecator社製の「ドリスへティン」水上機母艦形態のモデルを入手しました。正直なところ「なるほど」以上の感想はありませんが、Mercator社製の海防戦艦形態も見てみたくなりますね。しかし、残炎ながらMercator社からは海防戦艦形態は出てないですねえ。
で、どちらのモデルを本稿の定番にしようかな、と考えるわけですが、実は今回の投稿を書くまでは、迷うことなく自作のモデルだなと思っていたのですが、改めて見るとMercatorモデルのボリューム感も捨てがたいなあ、と思い始めています。ちゃんと彩色して比べてみたくなってきました。これもまたコレクションの楽しみの一つ、ですね。
「アラン級」(同型艦4隻:1902年から就役)
ja.wikipedia.org「アラン級」海防戦艦は前級「ドリスへティン」の改良型として建造されました。3600トン級にやや前級を拡大した船体を持ち、前級と同じ44口径8.2インチ単装砲を主砲として2基装備していました。副砲も同様に6インチ単装速射砲を6基、魚雷発射管を2基装備していました。
石炭専焼缶とレシプロ主機の組み合わせで、17ノットの速力を出すことが出来ました。
(海防戦艦「アラン級」の概観:70mm in 1:1250 by Brown Water Navy Miniature in Shapeways:竣工時の姿)
近代化改装
1910年ごろから順次、前部マストを3脚化し射撃指揮所を設置したのを皮切りに、機関の重油専焼缶への換装、魚雷発射管の撤去、対空兵装の強化など近代化改装が行われました。改装のレベルは艦によって異なり、外観にも差異が生じました。
(海防戦艦「アラン級」近代化改装後の概観:by Rhenania:下の写真は近代改装で概観の変化が大きかった前部艦橋部と後橋部分の拡大:主砲塔上に対空砲、後部艦橋上にも対空火器を増強しています)
「アラン級」4番艦「マリンゲーテン」
同級4番艦の「マリンゲーテン」は1941年に艦首をクリッパー型に改装されています。スェーデン海軍の海防戦艦の中で唯一、クリッパー型艦首を持つ艦となりました。
(「アラン級」4番艦「マリンゲーテン」の近代化改装後の概観:by Rhenania:艦首形状のクリッパー型への変更にと同時にボイラーが新型に換装され、対空会の配置変更等も行われています)
(下の写真は艦首形状の比較:「マリンゲーテン」(下段)はクリッパー型艦首編変更に伴い、艦の全長が他の同型艦に比べ0,5mほど延長されました)
(下の写真は「アラン級」の就役時(上段)と改装後の外観の変化を示したもの)
「オスカーII世」(同型艦無し:1907年から就役)
ja.wikipedia.org 前級「アラン級」の武装強化版として1隻だけ建造されました。船体は4200トン級に拡大され、主砲は44口径8.2インチ単装砲塔2基のままですが、副砲が6インチ連装砲塔4基に強化されました。魚雷発射管を2基装備していました。
機関は、石炭専焼缶の搭載数が増やされ、18.5ノットの速力を出すことが出来ました。
(海防戦艦「オスカーII世」の概観:86mm in 1:1250 by Brown Water Navy Miniature in Shapeways:竣工時の姿)
近代化改装
1911年に近代化改装が行われ、前部マストを3脚化し射撃指揮所が設けられ、1937年にボイラーを重油・石炭混焼缶に変更した際に煙突の太さが変更されるなどの外観の変更がありました。兵装面では魚雷発射管の撤去が行われ、一方で対空火器の近代化、増強が行われました。
(海防戦艦「オスカー2世」の近代化改装後の概観:by Mercator:下の写真は近代改装で概観の変化が大きかった前部艦橋部と後橋部分の拡大:主砲塔上に対空砲、後部艦橋上にも対空火器を増強しています)
(下の写真は「オスカーII世」の就役時(上段)と改装後の外観の比較:改装時にボイラーを就役時の石炭専焼缶から重油・石炭混焼缶に変更し、この換装に伴い煙突が若干太くなっています)
「スヴァリイェ級」(同型艦3隻:1921年から就役)
ja.wikipedia.org同級は結果的に、スウェーデン海軍が建造した最後の海防戦艦の艦級となりました。
設計段階で各国海軍の装備は弩級戦艦の時期に達しており、これに準じてそれまでの海防戦艦とは一線を画する設計となりました。船体は前級(4200トン)を大幅に上回る6800トン級となり、これに石炭専焼缶と初めてのタービン機関を組み合わせ22.5ノットの速力を有することが出来ました。主砲には44口径11インチ砲を連装砲塔形式で2基搭載し、副砲として6インチ連装速射砲1基と同単装砲6基、魚雷発射管2基を装備していました。
まずは就役時の艦型のご紹介
(海防戦艦「スヴァリイェ級」の概観:96mm in 1:1250 by Navis:ほぼ竣工時の姿を再現しています:下の写真は「スヴェリイェ級」の主砲・服配置の拡大。副砲は連装砲塔1基と単装砲6基の配置でした)
近代化改装
1920年代にはいり、主として射撃管制関連の改装が行われ、前部マストが三脚化され同時に艦橋が大型化されました。1930年代には主として機関の換装が行われ、全て重油専焼缶と改められました。その際に煙突形状の改装が行われ、「スヴァリィエ」は湾曲煙突、「ドロットニング・ヴィクトリア」は前部煙突にキャップ、「グスタフ5世」は集合煙突に、それぞれ外観が変わりました。
一番艦「スヴァリイェ」
(海防戦艦「スヴァリイェ級」1番艦「スヴァリイェ」の近代化改装後の概観:湾曲煙突が特徴的。by Argonaut: )
(他の海防戦艦の近代化改装と同じく、近代改装で概観の変化が大きかった前部艦橋部と後橋部分の拡大:後部艦橋上にも対空火器を増強しています)
二番艦「ドロットニング・ヴィクトリア」
(海防戦艦「スヴァリイェ級」2番艦「ドロットニング・ヴィクトリア」の近代化改装後の概観:煙突の形状はほぼ原型そのまま。by Argonaut: 下の写真では前部煙突の先端にキャップをつけています。今回落札したモデルではキャップは装着されていませんが、先に紹介した一番艦の「スヴェリイェ」では湾曲煙突が、次に紹介する三番艦の「グスタフ5世」では集合煙突が採用されていますので、おそらく艦橋の大型化に伴い煤煙の逆流等が問題になったんでしょうね。日本海軍の「長門級」でも同じようなことが)
(下の写真は「ドロットニング・ヴィクトリア」の中央部の拡大。同型艦三隻の中では最も就役時の姿を残す一隻と言えるでしょう)
英国王ジョージ6世の戴冠記念観艦式に参加する際に、長距離の外洋航行能力を持たない隣国フィンランドの海防戦艦「イルマリネン」を曳航したのは、同級の「ドロットニング・ヴィクトリア」でした。
(下の写真は「ドロットニング・ヴィクトリア」(左)とフィンランド海軍海防戦艦「イルマリネン」のツーショット)
三番艦「グスタフ5世」
第二次世界大戦の勃発時点で、同艦はスェーデン艦隊の旗艦を務めていました。1940年7月にボイラーの爆発事故があり、損傷回復のために旗艦任務を「スヴァリイェ」に引き継いでいます。戦後、「スヴァリイェ」の退役に伴い、再び艦隊旗艦に就役しています。
(上掲の写真は、同級3番艦の「グスタフ5世」の近代化改装後の概観。集合煙突を搭載しています。by Argonaut:s 下の写真は「グスタフ5世」の中央構造の拡大:集合煙突の採用で、艦容が一段とスマートに見えます(見えません?筆者が集合煙突が好きなだけか?))
(「スヴェリイェ級」の就役時と改装後の比較:同型艦3隻の外観が異なると言うのは、戦術的に見れば、あまり上策とは言えないような気がします。が、スウェーデン海軍の存立目的である「プレゼンスを示し、戦いを抑止する」と言う視点で見れば、これはこれであり、のようにも思います)
未成海防戦艦の話
既述のようにスウェーデン海軍の海防戦艦は1921年から就役を開始した「スヴェリエ級」以降も数度新造海防戦艦の計画は検討されています。以下にモデルのあるものを中心に、ご紹介しておきます。
「Project 1934:トゥリア・クロノール級(仮称)」
1933年(34年?)に設計された未成の海防戦艦がありました。
「トゥリア・クロノール級(仮称:三つの王冠=スウェーデンの国章)」と命名される予定だった同級は、それまでの「海防戦艦」と異なり、塔形状の前部マストやコンパクトにまとめられた上部構造など、フィンランド海軍の「イルマリネン級」にやや似た近代的(?)な外観をしています。7685トン級の船体に、武装は11インチ(28cm)連装砲2基と、4.5インチ(12cm)両用連装砲6基を予定していたようです。速力は前級「スヴェリエ級」と同じ22−23ノット程度で、水平防御、水中防御を強化した設計でした。
"Viking class" (1934/36): Dimensions: 133m x 19,5m x 6,85m, Displacement: 7.150tons standard, Populsion: 20.000shp, 4 shafts, 22 knots, protected by a belt 254mm thick and 50 mm decks, four 254mm Guns (2x2) and 2x3 120m DP-AA Guns, 4x2 40m AA Guns.
https://naval-encyclopedia.com/ww2/swedish-navy.php
(直上の写真と直下の写真:未成海防戦艦「Project 1934」の概観: 102mm in 1:1250 by Anker)
4.5インチ(12cm)連装両用砲を4基としたデザインバリエーションもあった様です。
(未成海防戦艦「Project 1934」の概観:102mm in 1:1250 by Anker:下の写真は両案の比較:上掲の資料が確かだとすると、「Project1934」には「ヴァイキング級」という呼称が予定されていたという説もある様ですね)
(下の写真は、未成の海防戦艦「Project1934」と「グスタフ5世」の外観の比較:主兵装や上部構造の配置から、集中防御等への意識が高い設計であったことが推測されます)
上掲のProject 1934は海軍から政府に予算申請があげられましたが、政府が議会に諮ることはなかったようです。予定された名称は第二次世界大戦中に就役した巡洋艦に引き継がれました。
「Project 1939」
1934年の計画案が未完に終わったのち、1937年には14000トン級の船体を持ち11インチ連装砲3基、4.5インチ連装両用砲4−6基を主兵装として、28−30ノットを発揮するという大型艦構想も検討されましたが、これはスウェーデン海軍の艦艇としては大型すぎるとして却下され、1939年に縮小版構想が提案されました(Project 1939)。
(未成海防戦艦「Project 1939」の概観:105mm in 1:1250 by Anker:4.5インチ三連装両用砲搭載案をモデル化したものです)
縮小版計画艦(Project 1939)は、8000トン級の船体を持ち10インチ(25.4cm)連装砲2基、4.5インチ(12cm)三連装両用砲2基、40mm連装対空自動砲4基を搭載し、22ノット強を発揮する計画でした。
計画は途中で4.5インチ(12cm)三連装両用砲を6インチ(15.2cm)連装両用砲に変更され、議会はこの改訂設計案を2隻建造する予算を承認しましたが、折りからの第二次世界大戦の勃発で計画は実行されませんでした。
この設計案にはさらに主砲口径を8インチ(20.3cm)4連装砲塔2基におさめ、さらに対空砲を10.4センチ4連装砲塔2基としたヴァリエーションもあったとされています。
(未成海防戦艦「Project 1939」の4連装主砲案の図面:本稿で紹介した橋本若路しの著作「海防戦艦」より拝借しています)
モデルについて一言:「Project 1934」のモデルも「Project 1939」のモデルもいずれもAnker社製のモデルなのですが、モデルの出来が異なるように感じています。全体的「Project 1934」のモデルの方が細部がシャープに仕上げられているような気がします。「Project 1939」の方が古いモデルなんでしょうか?
「Proposed 1941:アンサルド社提案」(1941年)
Ansaldo Project 1 (1941): 173 m x 20m x 7m and 17.000 tons standard, propelled by 90.000shp on 4 shafts, and a top speed of 23 knots, protected by a belt of 200 mm, Decks of 120 mm and armed with six (3x2) 280 mm, 4x2 120 DP, 5x2 57 AA, 2x2 40 AA, 6x 20 mm AA Guns. The latter could have been in effect too large and costly for Sweden's needs.
Coastal Battleship projects
(海防戦艦「アンサルド社1941年提案」の概観:129mm in 1:1250 by Hai)
(直上の写真は、11インチ主砲の配置の拡大)
同艦はイタリアのアンサルド社が1941年にスウェーデン海軍に新しい海防戦艦として提案したものです。上掲の資料のように17000トンの船体を持ち23ノットの速力を発揮する設計で、11インチ(28センチ)主砲を連装砲塔で3基、さらに4.5インチ(12cm)両用連装砲4基搭載する強力な兵装を有する設計でした。スウェーデン海軍の艦船としては大きすぎ、かつ高価すぎるということで採用されなかったようです。
(「アンサルド社提案海防戦艦」と実在の海防戦艦「グスタフ5世」との比較:アンサルド社提案がかなり大型であることがわかります)
「Proposed 1945:アンサルド社の1945年提案!?」
アンサルド社は1945年にもこれをややコンパクトにした設計案(13900トン、37ノット、21センチ連装砲塔3基、という設計なので、海防戦艦というよりは巡洋艦ですね)を提案していますが、こちらも採用には至りませんでした。
こちらはモデルがおそらくありません。もしかしたら3D ptinting modelなら、どこかにあるかもと思って探してはいるのですが、見出すに至っていません(もしどなたか情報をお持ちの方がいらっしゃったら、是非教えてください)。
それにしても、イタリアのアンサルド社は第二次世界大戦の敗戦国の企業にも関わらず、本当にこんな提案を1941年、1945年にしていたんでしょうか。「商魂」逞しいでは済まないような、というか、そういうことが可能な状況だったんでしょうか。
アンサルド社は1853年にジェノヴァに設立された会社で、日本海軍の日露戦争時の装甲巡洋艦「日進」「春日」は同社が建造しています。当時、この両艦の原型となった「ジュゼッペ・ガリバルディ級」装甲巡洋艦はある意味ベストセラーとも言える人気艦(という表現が妥当かどうか?ですが)で、当のイタリア海軍が入手できたのは何と5番艦だった、というような状況でした。
そのようなアンサルド社ではあったのですが、1941年といえば日本が参戦した年でもあり、まだ三国同盟側のイタリアはまさに戦争の真っ只中にあり、戦況的にはまだ余裕がありそうですが、その後は戦況が振るわず1943年にイタリアは降伏しています。1945年といえば第二次世界大戦の最終年でもあり、イタリアは前述のように降伏後であり、かつ降伏後も居座ったドイツ軍、これに協力する勢力などと連合軍の間で国土が戦場になっています。そのような状況下で、提案活動ができるような状況だったのか、大いに疑問です。
とまあ、疑問は残るのですが、いずれにせよこれらの計画は、いずれも第二次世界大戦の勃発と大戦期中の航空主兵化により中止となり、その後海防戦艦は建造されませんでした。以降、スエーデン海軍は潜水艦と高速艦艇中心の編成に変わっていくことになります。
というわけで今回はここまで。
繰り返しになりますが、今回は2024年最後の投稿です。次回は新年1回目、「スウェーデン海軍」の巡洋艦・駆逐艦他をこちらも再編集版でご紹介する予定です。
今年もお世話になりました。2018年の投稿開始以来、11月には20万アクセスを迎えることができました。こんな狭域なテーマにどれだけの方が関心を持ってくださるのだろう、と首を傾げながら、まあ、コレクションの記録整理のためと割り切って始めた当ブログでしたが、投稿の都度、自分の知識の少なさ、認識の誤りに驚き、反面、常に新しい発見の喜びを感じながら続けることができています。
2025年も続けてゆくつもりですので、何卒温かく見守っていただければ、と。
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