相州の、ほぼ週刊、1:1250 Scale 艦船模型ブログ

1:1250スケールの艦船模型コレクションをご紹介。実在艦から未成艦、架空艦まで、系統的な紹介を目指します。

海上自衛隊 護衛艦発達史(5) 空母型DDHの登場

全通甲板型護衛艦(空母型DDH)の登場

潜水艦の静粛化、高性能化を想定する場合、多数のヘリコプターを搭載する空母型護衛艦保有は、海上自衛隊にとって、多年の念願であった。本稿で既述ではあるが、遡れば、古くは海上自衛隊発足時に既に米海軍からはヘリ空母として運用可能な小型空母の貸与の申し出があった。

併せて、冷戦終結後の複雑化する周辺の国際状況、非正規軍事勢力への対応等を想定した場合、あるいは要請が高まりつつある国際平和活動、災害救援活動等にも、機動性に富む多数の航空機運用が可能な艦艇の保有は、次第に必要性の度合いを高めた。

こうして、いよいよ海上自衛隊は空母型DDHを中心とした編成の時代を迎えるのである。

 

 DDH ひゅうが級ヘリコプター搭載護衛艦(2009- 同型間2隻)

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Hyūga-class helicopter destroyer - Wikipedia

海上自衛隊が初めて導入した空母型(全通甲板型)ヘリコプター搭載護衛艦(DDH)である。最大の特徴は、なんと言っても多数のヘリコプターの運用能力がある事で、固有の搭載機こそ、「はるな級」DDHや「しらね級」DDHと同様に3機であるが、格納甲板には8機分の収納スペースが確保されており、最大10機のヘリコプター運用能力があるとされている。

併せて、護衛隊群司令部の収容に対応する司令部施設も設計当初から組み込まれており、高い通信機能等も保有し、災害時の対策本部機能、海外派遣時の統合任務部隊の司令部機能などへの活用が期待されている。

これらを具現化するために、船体は非常に大型化し、護衛艦としては初めて基準排水量が10000トンを大きく超える大型艦となった(13950トン、30ノット)。

(158mm in 1:1250 F-Toys 現用艦船キットコレクションをほぼストレートに組んだもの)

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同級DDH、いわゆる通常の航空機の運用に特化した「空母」と異なる点は、Mk.41 VLS 16セルから、対空・対潜ミサイルを発射する護衛艦としての戦闘能力を有し、併せて対潜短魚雷発射管も保有しているところである。

加えて個艦防御用には、2基のCIWS保有している。

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(直上の写真は、飛行甲板最後尾に配置されたMk.41 VLS)

 

DD あきづき級護衛艦(2012- 同型艦4隻)

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Akizuki-class destroyer (2010) - Wikipedia

「むらさめ級」(9隻)、「たかなみ級」(5隻)と続いた汎用護衛艦第二世代の発展形として4隻が建造された。現在の護衛隊群の基準構成艦となっている。(5100トン、30ノット)

イージス艦への要請が、周辺有事の変化により艦隊防空から弾道ミサイル防衛(BMD:Ballistic Missile Defense)に拡大する事によって、BMD対応時には両立の難しいAWSを汎用護衛艦で対応しようとの目的で、僚艦防空の能力を備えるFCS-3A射撃システムを中核とする防空システムを搭載している。

(121mm in 1:1250 F-Toys 現用艦船キットコレクションをほぼストレートに組んだもの)

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大小1組から構成されるFCSー3A多目的レーダーを艦上部構造の、艦橋とヘリコプターハンガー上の4面に貼り付けて装備しており、ステルス性を意識した形状となった。

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(直上の写真は、艦上部構造の4箇所に貼られたFCSー3A多目的レーダーアンテナ)

 

兵装は、基本的に「あたご級」DDGに準じ、艦首部のMk. 41 VLS 32セルに、発展型シースパロー(ESSM)と垂直発射型アスロック(VLA)を搭載、 主砲には62口径5インチ単装砲(Mk. 45)、対艦兵装として90式対艦誘導弾の4連装キャニスター2基、さらに対潜兵装として対潜短魚雷3連装発射管を両舷に装備、個艦防空用にCIWS2基を搭載している。 

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(艦首部の主要兵装。Mk. 41 VLS 32セル:発展型シースパロー(ESSM)と垂直発射型アスロック。 主砲:62口径5インチ単装砲(Mk. 45)。CWIS)

 

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(艦後部のヘリハンガー)

ヘリコプターの搭載定数は1機、しかし2機までの運用が可能である点は、「たかなみ級」と変わらないが、着艦拘束装置(RAST)が省力化に対応したものに更新され、着艦誘導支援装置が搭載されている。ハンガーは「たかなみ級」よりも大型化された。 

  

DDH いずも級ヘリコプター搭載護衛艦(2015- 同型艦2隻)

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Izumo-class multi-purpose operation destroyer - Wikipedia

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(200mm in 1:1250 F-Toys 現用艦船キットコレクションをほぼストレートに組んだもの)

前級「ひゅうが」級をさらに大型化し、航空機運用能力や多用途性を強化したものとなっている。「ひゅうが」級の船体を排水量で6000トン、長さにして51m拡大し、搭載機数も固有の艦載機を7機、最大搭載機数を14機とした。(19500トン、30ノット)

一方で個艦戦闘能力は抑えられ、近接戦闘用のCIWS2基とSea RAM近SAMシステム2基を搭載するのみとなった。

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(「いずも級」の固有武装のアップ:艦尾に配備されたSea Ram(上段手前)とCIWS。艦首のCIWS(下左)と艦橋前のSea Ram) 

上述のように固有武装を最小限にした背景には、同級はもはや単独での運用を想定されておらず、すなわち常に他の護衛艦を伴い、その旗艦機能を果たすことを想定されていることに準じている。この構想のもと、前級「ひゅうが」級で設定された司令部施設は充実されており、100名規模の統合任務部隊司令部が収容できる多目的スペースを有している。

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(「ひゅうが級」(手前)と「いずも級」の大きさ比較。「いずも級」がいかに本格的かを示している?)

「いずも級」は以降の整備時に艦首部を角形に変形しするなど、固定翼機の配備にも対応できるような改修を施される予定。最大の改修ポイントは、飛行甲板や上部構造物の熱耐性を上げることになると思われる。

 

DD あさひ級護衛艦(2018- 同型艦2隻)

ja.wikipedia.org Asahi-class destroyer - Wikipedia 

「あきづき級」に続き、第二世代汎用護衛艦の最終形として2隻が建造された。本級の建造により「むらさめ級」9隻、「たかなみ級」5隻、「あきづき級」4隻と併せ、第二世代汎用護衛艦の建造数は20隻となり、海上自衛隊の基幹単位である8艦8機(新八八艦隊)編成の4個護衛隊群に必要な汎用護衛艦を全て第二世代で賄うことも、理論上は可能となった。

本級は「あきづき級」をベースとして新型ソナーシステムを搭載し対潜戦闘能力を強化する一方で、僚艦防空の能力を省いたシステムを搭載したタイプとなっている。

主機には、護衛艦として初めて電気式推進を主推進としたハイブリッド推進機関(COGLAG)を搭載している。これは低速時、巡航時にはガスタービン発電を用いた電気式推進を用い、高速時にはガスタービンエンジンによる直接機械駆動も併用する形式で、燃費に優れるとされている。(5100トン、30ノット)

兵装は「あきづき級」と同じで、艦首部のMk. 41 VLS 32セルに、発展型シースパロー(ESSM)と垂直発射型アスロック(VLA)を搭載、 主砲には62口径5インチ単装砲(Mk. 45)、対艦兵装として90式対艦誘導弾の4連装キャニスター2基、さらに対潜兵装として対潜短魚雷3連装発射管を両舷に装備、個艦防空用にCIWS2基を搭載している。 

ヘリコプターの運用については、搭載機定数1、搭載能力2機は「あきづき級」に準じるが、RASTの機体移送軌条は、2条から1条に改められており、洋上での2機の同時運用は現実的ではない。

(121mm in 1:1250 3D Printing メーカー、Amature Wargame Figures(Nomadire)のキット。マストと兵装の一部はF-toysのキットから転用) 

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DDG まや級イージス護衛艦(2020- 同型艦2隻)

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Maya-class destroyer - Wikipedia

「まや級」DDGは、「はたかぜ級」DDG の代艦として建造されたイージスシステム搭載ミサイル護衛艦(DDG)である。本級の建造で、海上自衛隊の4個護衛隊群は、その艦隊防空をそれぞれ2隻のイージス艦で賄う事が可能となる。

本級は「あたご級」DDGの設計を基本として、推進機関を電気推進(COGLAG)に改めたものである。これに伴い、関係がやや大型化した。(8200トン、30ノット)

搭載するイージスシステムは、弾道ミサイル防衛(BMD:Ballistic Missile Defense)により対応力を向上させたバージョンを搭載している。

兵装は「あたご級」に準じたものを搭載している。

主砲として62口径5インチ単装砲(Mk. 45)、対艦兵装としては、国産の90式対艦誘導弾を4連装キャニスター2基に装備、さらに主砲として62口径5インチ単装砲(Mk. 45)が装備されている。

前甲板にMk . 41 VLSを64セル、艦尾部のヘリハンガー上部に32セルを搭載、ここからSMー2, SMー3併せて垂直発射型のアスロックを発射する。対潜兵装として対先端魚雷発射管を2基、艦の両舷に配置し、また近接防御兵器としてはCIWS2基を、艦上部構造の前後に配置している。

固有の搭載ヘリコプターは保有しないが、艦後方のハンガーでは2機の運用が可能である。

(137mm in 1:1250 3D Printing メーカー、Amature Wargame Figures(Nomadire)のキット。マストと兵装の一部はF-toysのキットから転用)

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DDHからDDV(固定翼機搭載型護衛艦)へ 

既に前出の「いずも級」DDH 竣工前から本級での固定翼機搭載の可能性が議論されていた。防衛省の公式見解としては、検討の事実すら否定しているが、本級が最も近い距離にある事は間違いない。

「いずも級」で実現するかどうかはさておき、本稿では既にDDV「いぶき」が登場しており、これを再度紹介しておくこととしたい。

 

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正確には、本稿での「いぶき」は、オリジナルの設定通り「いずも型護衛艦」にスキージャンプ台形式の飛行甲板をつけたもので、例によって「いずも型護衛艦」のモデルを既に上市されていた3D Printing メーカーさんにジャンプ台の追加をリクエストし、制作していただいた。

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製作者のAmature Wargame Figures(Nomadire)は、主として第二次大戦以降のいわゆる現用艦(もしくは計画艦)に多くの作品があり、スケールも実に多岐にわたるラインナップを揃えていらっしゃる。今回のリクエストのような既成モデルの改変、あるいはスケール間のコンバージョンにも比較的気楽に対応してくださるので、大変ありがたく利用させていただいている。

モデルの素材は、White Natural Versatile Plasticというやや柔らかめで粘度のある樹脂で、下地処理をした後、普通に塗装ができる。(私の場合にはサーフェサーで下地処理をしたのち、エナメル塗料で塗装をしています。基本、全て筆塗りです)上掲の写真の通り、マスト、CIWS、SeaRAMなどの対空火器も全て一体整形された完成形で手元に届いた。下記の写真ではマストのみ、F-toys製のストックモデルと交換し、仕上げた。

搭載機も同様、3D Printing メーカーさん(SNAFU Store:   SNAFU Store by Echoco - Shapeways Shops)によるもので、F-35JBの他に、X-47Bという無人機(下の写真では、ブリッジ後方の黒っぽく塗装されている数機)を搭載している、という設定になっている。(多分、オリジナルの設定はそんなことにはなっていないと思います。ヘリはF-toysのモデルから流用)

 

(Ibuki: 26,000t, CWIS *2, SeaRAM *2, F-35JB *15 etc, 202mm in 1:1250)

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(直上の写真は「いずも級」DDH(手前)と「いぶき」の大きさ比較。「いぶき」は「いずも級」の設計をベースにした為、外観や上部構造物の配置は「いずも級」に準じたものになっているのがよくわかる。固定翼機の運用を想定した艦首形状や スキージャンプ台の配置が、架空艦とはいえ興味深い)

kuboibuki.jp

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第五護衛隊群

DDV「いぶき」は、コミックでの設定では、海上自衛隊第5護衛隊群の所属となっている。

現在、海上自衛隊には4つの海上護衛隊群があり、それぞれがDDH(ヘリ搭載型護衛艦)1隻、DDG(誘導ミサイル搭載型護衛艦)2隻、DD(汎用護衛艦)5隻、計8隻の護衛艦で編成されている。(かつては、この8隻に8機の対潜ヘリが搭載されるような護衛隊群構成となった時期があり、「新88艦隊」などと呼ばれた)

海上自衛隊護衛艦隊

コミックでは、DDV(航空機搭載型護衛艦)「いぶき」を中心に、第五護衛隊群は新編成され、DDG:イージス護衛艦「あたご」「ちょうかい」、DD:汎用護衛艦「ゆうぎり」「せとぎり」、AIP潜水艦「けんりゅう」、さらに補給艦「おうみ」がこれに所属する、という設定となっている。

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(直上の写真は、第5護衛隊群の一部:奥からDD「せとぎり」、DDV「いぶき」、DDG「あたご」と同型の「あしがら」、潜水艦「けんりゅう」)

 映画版ではDDG「あたご」は「あしたか」、DDG「ちょうかい」は「いそかぜ 」、汎用護衛艦「ゆうぎり」「せとぎ理」はそれぞれ「はつゆき」「しらゆき」、潜水艦「けんりゅう」は「はやしお」として登場する。

それぞれの詳細については、既に本稿の以下の回でご紹介していますので、そちらをご覧ください。

fw688i.hatenablog.com

fw688i.hatenablog.com

 
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直上の写真は、DDV「いぶき」とDDG「やまと 」。

前述のように、DDV「いぶき」を中心に、第五護衛隊群が編成される。第五護衛隊群はその機動性から紛争地域周辺に展開されることが多く、イージス艦「やまと」も、持ち前のその戦闘力から、この護衛隊群に組み入れられることが多かった。

 

ということで、海上自衛隊 護衛艦発達史も最終回を迎えました。

 

次回はこのシリーズのスピンアウト(?)として、海上自衛隊 潜水艦開発史をお送りする予定です。(ただし、1:1250スケールでの潜水艦は、写真が大変「しょぼい」(と感じている?)ので、1:700スケールモデルでのご紹介となる予定で、鋭意、準備中です)

 

***模型についてのお問い合わせ、お待ちしています。或いは、**vs++の比較リクエストなどあれば、是非お知らせください。

 

これまで本稿に登場した各艦の情報を下記に国別にまとめました。

fw688i.hatenadiary.jp

海上自衛隊を追加しました。

fw688i.hatenadiary.jp

内容は当ブログの内容と同様ですが、詳しい情報をご覧になりたい時などに、辞書がわりに使っていただければ幸いです。

 

 


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