本稿では前回「たかつき級」護衛艦をご紹介しました。
同級は1950年代後半から60年代前半の第2次防衛力整備計画(いわゆる「2次防」ですね)で建造された多目的護衛艦で、対潜装備・対空装備を兼ね備えた艦級でした。
前回投稿はこちら。
その後の海上自衛隊の防衛構想の展開を「汎用護衛艦」の開発の視点で少し乱暴にまとめておくと、当時の海上自衛隊が重大な脅威と想定していたソビエト連邦軍が空中発射あるいは潜水艦発射による対艦ミサイルを配備し始めます。これにより海上自衛隊の主要任務のシーレーン防衛の即応域を大幅に拡大する必要が現れます。空中脅威に対してはミサイル護衛艦が整備され、対潜水艦戦では対潜掃討領域を拡大する必要から、対潜ヘリコプターの運用を基軸とした対応が構想されることとなるわけです。
こうした背景から次世代型「多目的護衛艦」はヘリコプター搭載能力を持った「汎用護衛艦」へとその構想を変えてゆくわけです。
今回は現時点では海上自衛隊の護衛隊群の基準構成艦となっている海上自衛隊の「汎用護衛艦」の開発小史をまとめてみたいと思っています。
「はつゆき級」護衛艦
(就役期間:1982-2021 同型艦 12隻:DD122-DD133)
(「はつゆき級」護衛艦の概観:104mm in 1:1250 Hai製モデルをベースに主砲塔のみSNAFU store製のWeapopn setに換装)
「はつゆき級」護衛艦は、前述の背景から、海上自衛隊ではヘリ搭載護衛艦以外では初めて固有の対潜ヘリコプターを搭載した「汎用護衛艦」の第一世代です。遮浪甲板型を基にした満載排水量4000トン級の長船首楼型の船型を持ち、海上自衛隊で初となるオール・ガスタービン推進方式を導入し、30ノットの速力を発揮できました。
同級は「汎用護衛艦」の名の下にバランスの取れた兵装を搭載しています。
対潜兵装としては、1機の対潜ヘリに加え、アスロック発射ランチャーと、短対潜誘導魚雷を搭載し、加えて対艦兵装として、艦対艦ミサイルハープーンの4連装発射筒を両舷に1基づつ搭載していました。
対空兵装としては、近接防御用としては、主砲として62口径3インチ単装速射砲(76mmコンパクト砲)を搭載し、加えてSAM(シースパロー)発射機を艦尾に1基、さらに個艦防御兵器としてCIWSを両舷に1基づつ搭載しています。
(「はつゆき級」の主要兵装の配置:艦首部に3インチ単装速射砲、アスロック発射機、艦橋構造物上にCWISが配置されています(上段)。対潜短魚雷発射管とハープーン対艦ミサイル発射筒(中段)。艦尾のヘリ発着甲板とシースパローランチャー(下段))
これらの強力な兵装を、戦闘情報処理装置と連携し戦闘システムを構築したC41を搭載し統合運用し、海上自衛隊初のいわゆるシステム艦であるとされています。しかしシステムは艦型の大きさ等の制限から機能的には最小限で、この充実が次級以降の課題となってゆきます。
「はつゆき級」は護衛隊群での運用後、システム艦である特質を活かしてこの領域での訓練需要を受けて練習艦として運用され、あるいは2008年の組織改変で護衛艦隊の直轄護衛隊となった地方隊で地方隊所属の護衛艦として運用されましたが、2021年の練習艦「せとゆき」の除籍を最後に、全ての艦が除籍されました。
「あさぎり級」護衛艦
(就役期間:1988- 同型艦 8隻:DD151-DD158)
(「あさぎり級」護衛艦の概観:110mm in 1:1250 by F-Toys 現用艦船キットコレクションをほぼストレートに組んだもの)
「あさぎり」級護衛艦は、多様な兵装を装備し、対空、対潜いずれの目的にも対応できるよう設計された、いわゆる汎用護衛艦としては「はつゆき」級に次ぐ2世代目で、8隻が建造されました。
前級の「はつゆき級」の課題に取り組んだ拡大型と言っていいと思います。対潜水艦戦を想定した静音性の向上と、機関のシフト配置による生存性の向上、C41(戦術情報処理装置)の艦隊リンクへの適応等の機能拡充、ヘリコプター収納ハンガーの拡大(2機収納可能:大型化したためあまり外観はよろしくない、という評判も)などにより、満載排水量は4900トンに大型化し、速力は30ノットを発揮することができます。
(「あさぎり級」の主要兵装の配置:基本的な配置は前級「はつゆき級」とほぼ同じです。:艦首部に3インチ単装速射砲、アスロック発射機、艦橋構造物上にCWISが配置されています(上段)。対潜短魚雷発射管とハープーン対艦ミサイル発射筒(中段)。哨戒ヘリコプター2機の運用を想定し拡大されたハンガーと発着甲板、シースパローランチャー(下段))
搭載する兵装は前級「はつゆき級」に準じ、対潜兵装として1機の対潜ヘリ、アスロック発射ランチャー、短対潜誘導魚雷を搭載し、対艦兵装として艦対艦ミサイルハープーンの4連装発射筒を両舷に1基づつ搭載、近接対空防御用として62口径3インチ単装速射砲(76mmコンパクト砲)、加えてSAM(シースパロー)発射機を艦尾に1基、個艦防御兵器としてCIWSを両舷に1基づつ搭載しています。
同級は、海自が運用する汎用護衛艦としては、現在最古参で、一部が練習艦籍に変更されたのちも再び護衛艦籍に復帰するなどの経緯があり、「あさひ」級護衛艦の就役に伴い護衛隊群から地方隊への移籍が行われました。順次、艦齢延伸改修工事が実施され、現時点では1隻が練習艦籍にある他、残りの7隻は地方隊(二桁護衛隊)に所属しています。2027年あたりから順次退役が始まる計画のようです。
「むらさめ級」護衛艦
(就役期間:1996- 同型艦 9隻:DD101-DD109)
(「むらさめ級」護衛艦の概観:120mm in 1:1250 by F-Toys 現用艦船キットコレクションをほぼストレートに組んだもの)
汎用護衛艦の第二世代として、「むらさめ級」は9隻が建造されました。現在の護衛隊群の基準構成艦となっています。
兵装等の装備は前級と同様を想定しながら、搭載電子機器類の増加への対応や、ヘリ運用能力の強化、居住性改善等の要請から、船体は大型化しています。(満載排水量6200トン、30ノット)
砲熕兵器としては、主砲に62口径3インチ単装速射砲(76mmコンパクト砲)、個艦防御兵器としてCIWSを両舷に1基づつ搭載しています。
主要対潜装備としては短対潜誘導魚雷発射管とアスロックを装備し、対空兵装としてはSAM(シースパロー)を、いずれも垂直発射式で搭載しています。
(前部甲板に装備されたMk.41 VLS 16セル:アスロック用と、艦中央部に装備されたMk.48 VLS 16キャニスター:シースパロー用)
アスロックは艦首部のMk. 41 VLS 16セルに搭載されています。
SAM(シースパロー)は、艦中央部にMk. 48 VLS 16連装のキャニスターに収容されています。
搭載弾数は前級「あさぎり級」と同様ながら、いずれもVLS搭載とすることで、即応発射弾数は倍になっています。
艦対艦兵装としては、従来のハープーンに替えて国産の90式対艦誘導弾を4連装キャニスター2基に搭載しています。
加えて1機の対潜ヘリコプターを固有の搭載兵装として保有していますが、ハンガーは「あさぎり級」よりも大型化され、「あさぎり級」ではあくまで応急的な運用とされていたのに対し、常時2機運用を想定したものとなり、実際にソマリア派遣等の際には2機運用が実施されています。
(艦尾部のヘリコプター発着甲板と大型化したヘリハンガー)
少し模型的なお遊び
護衛艦「むらさめ」がシステム・グレードアップのテスト・プラットフォームに転用
(次世代システムへの対応に向けて、テスト改装された護衛艦「むらさめ」の概観: F-Toys 現用艦船キットコレクションをベースに、艦橋部を「あきづき級」のものに換装して調整してみました:筆者の妄想艦ですのでご注意を)
北朝鮮の核ミサイル実験や、周辺情勢の複雑化に伴い、イージス・システムを搭載した「こんごう級」「あたご級」「まや級」ミサイル護衛艦の任務がミサイル防衛(BMD)機能へと比重を高めざるを得ない状況下で、それを補完する汎用護衛艦にも他目標処理等機能等、防空昨日の充実が求められてゆきます。それは具体的には「あきづき級」「あさひ級」など汎用護衛艦の設計に発展してゆくのですが、既存の汎用護衛艦にも同様のシステム化が試行され、まずは「むらさめ」がそのテストプラットフォームとして改造を受けました。・・・という想定で作ってみたモデルです。比較的うまくいった(と自画自賛)と思うのでご紹介しておきます。
F -toysのモデルは比較的入手しやすいので、ストック・パーツとしても、こうした「遊び」のベースとしても重宝しています。・・・が、寸法などの関係で、なかなかこんなにうまくいくことはありません。
「むらさめ」の船体に、「あきづき級」の艦橋とステルスマストを搭載してみた、という感じですね。
下のカットは、艦橋周りを比較してみたものです。(下が改造前、上が改造後)
言わずもがなですが、あくまで筆者の「妄想」モデルで実在しませんので、ご注意を。
「たかなみ級」護衛艦
(就役期間:2003- 同型艦 5隻:DD110-DD114)
(「たかなみ級」護衛艦の概観:120mm in 1:1250 F-Toys 現用艦船キットコレクションをほぼストレートに組んだもの)
同級、は第二世代の汎用護衛艦として建造された前級「むらさめ級」の最小限の改正型として建造されたものです。前級の「むらさめ級」、次級の「あきづき級」と共に、現在の護衛隊群の基準構成艦となっています。(満載排水量6300トン、速力30ノット)
その主たる改正点は、Mk.41 (アスロック用)とMk.48(シースパロー用)の2種のVLSの併載の解消による運用の合理化と、主砲射撃能力の向上の要請への対応、更に前級で可能となったヘリコプター2機運用体制への本格的対応等でした。
兵装は基本的に前級「むらさめ級」に準じていますが、「むらさめ級」では艦首にアスロック用、艦中央部にシースパロー用と分かれて配置されていたVLSが艦首部のMk. 41 32セルに統合されています。さらに 主砲は口径がそれまでの汎用護衛艦の3インチだったものを5インチに強化し、「こんごう級」と同様のオート・メララ製の54口径5インチ単装速射砲(127mmコンパット砲)を搭載しています。
(艦首甲板のMk.41 VLS 32セル :たかなみ級ではVLSを艦首部の一か所にまとめて装備しました。セル数の増加で装備方法が変更され、甲板よりも一段上がった装着方法となっています。VLS前方には主砲として装備されたオート・メララ製54口径5インチ単装速射砲(127mmコンパット砲)が搭載されました)
(上の写真は「たかなみ級」(上段)と「むらさめ級」の兵装配置の比較:左列では艦首部の比較では「たかなみ級」では5インチに口径を強化した主砲と対潜・対空ミサイルを統合配置したVLSの形状が大きく異なることがわかります。:右列では艦中央部の構造比較を:「たかなみ級」では対空ミサイルのVLSが艦首に移動したためすっきりとして、ヘリハンガーのスペースに余裕が生まれました。対潜短魚雷の発射管の位置はほぼ同じですが、対艦ミサイルの発射筒の位置も若干異なることがわかります)
ヘリの2機運用体制については、前級「むらさめ級」では対応可能とたものの、あくまで応急的な対応で、実際にソマリア沖の海賊対策などの派遣時には困難を伴いながら2機運用が行われました。その実績を踏まえて一歩前進させ1条であったRAST発着艦支援装置の機体移送軌条を2条とし、さらに上記の「むらさめ級」では艦中央部、ハンガー前部に隣接していたシースパロー用のMk. 48発射機を、艦首部に統合移設したことから生まれたスペースでハンガーを拡大、ヘリ運用スペースやヘリ用の弾庫の拡大により本格的な2機運用体制を実現しています。(固有の搭載機は1機のままです)
(艦尾部のヘリコプター発着甲板と大型化したヘリハンガー(上の写真):下の写真では、むらさめ級(上段)では1条だったRAST発着艦支援装置の機体移送軌条が、たかなみ級(下)では2条に追加されたことがわかります)
当初計画では、本級を11隻建造し、8艦8機編成を充足する予定でしたが、実際には5隻で打ち切られ、新装備を搭載した次級の建造に移行することなりました。
(第二世代汎用護衛艦比較:むらさめ級(右)とたかなみ級(左)。主砲、VLS配置を除き、全体の配置は非常によく似ています。最小限の改正、ということですね)
「あきづき級」護衛艦
(就役期間:2012- 同型艦 4隻:DD115-DD118)
(「あきづき級」護衛艦の概観:121mm in 1:1250 F-Toys 現用艦船キットコレクションをほぼストレートに組んだもの)
「むらさめ級」(9隻)、「たかなみ級」(5隻)と続いた汎用護衛艦第二世代の発展形として4隻が建造されました。「むらさめ級」、次級の「あきづき級」と共に、現時点での海上自衛隊の護衛隊群の基準構成艦となっています。(満載排水量6300トン、速力30ノット)
同級はイージス艦への要請が、周辺有事の変化により艦隊防空から弾道ミサイル防衛(BMD:Ballistic Missile Defense)に拡大する事によって、BMD対応時には両立の難しいAWSを汎用護衛艦で対応しようとの目的で、僚艦防空の能力を備えるFCS-3A射撃システムを中核とする防空システムを搭載しています。
大小1組から構成されるFCSー3A多目的レーダーを艦上部構造の、艦橋とヘリコプターハンガー上の4面に貼り付けて装備しており、いずれもステルス性を意識した形状となっていることが大きな特徴です。
(上の写真はステルス性に配慮されたFCSー3A多目的レーダーアンテナを装備した艦橋の形状がよくわかります)
兵装は、基本的に「あたご級」DDGに準じ、艦首部のMk. 41 VLS 32セルに、発展型シースパロー(ESSM)と垂直発射型アスロック(VLA)を搭載、 主砲には62口径5インチ単装砲(Mk. 45)、対艦兵装として90式対艦誘導弾の4連装キャニスター2基、さらに対潜短魚雷3連装発射管を両舷に装備、個艦防空用にCIWS2基を搭載しています。
(艦首部の主要兵装。Mk. 41 VLS 32セル:発展型シースパロー(ESSM)と垂直発射型アスロック。 主砲:62口径5インチ単装砲(Mk. 45))
(艦後部のヘリハンガー)
ヘリコプターの搭載定数は1機、しかし2機までの運用が可能である点は、「たかなみ級」と変わらないが、着艦拘束装置(RAST)が省力化に対応したものに更新され、着艦誘導支援装置が搭載されている。ハンガーは「たかなみ級」よりも大型化されました。
「あさひ級」護衛艦
(就役時期:2018- 同型艦 2隻:DD119、DD120)
(「あさひ級」汎用護衛艦の概観:121mm in 1:1250 3D Printing メーカー、Amature Wargame Figures(Nomadire)のキット。マストと兵装の一部はF-toysのキットから転用)
本級は「あきづき級」をベースとして新型ソナーシステムを搭載し対潜戦闘能力を強化する一方で、僚艦防空の能力を省いたシステムを搭載したタイプとして、建造コスト等に配慮が払われています。
主機には、海上自衛隊の護衛艦として初めて電気式推進を主推進としたハイブリッド推進機関(COGLAG)を搭載しています。これは低速時、巡航時にはガスタービン発電を用いた電気式推進を用い、高速時にはガスタービンエンジンによる直接機械駆動も併用する形式で、燃費に優れるとされています。(満載排水量6800トン、30ノット)
兵装は、基本的に「あきづき級」に準じ、艦首部のMk. 41 VLS 32セルに、発展型シースパロー(ESSM)と垂直発射型アスロック(VLA)を搭載、 主砲には62口径5インチ単装砲(Mk. 45)、対艦兵装として90式対艦誘導弾の4連装キャニスター2基、さらに対潜兵装として対潜短魚雷3連装発射管を両舷に装備、個艦防空用にCIWS2基を搭載しています。
ヘリコプターの運用については、搭載機定数1、搭載能力2機は「あきづき級」に準じたものですが、RASTの機体移送軌条は、2条から1条に改められており、洋上での2機の同時運用は現実的ではないとされています。
モデルは下のAmature Wargame Figures(Nomadire)の3D printing modelをベースにしています(多分、リンクはもう生きていないと思います)。マストと兵装の一部はF-toysの「あきづき級」のキットから転用しています。
今回は海上自衛隊の汎用護衛艦の発達小史をご紹介したわけですが、まとめておくとこれまで海上自衛隊が保有した汎用護衛艦の艦級は第一世代が「はつゆき級」12隻、「あさぎり級」8隻、第二世代が「むらさめ級」9隻と「たかなみ級」5隻、第三世代が「あきづき級」4隻と「あさひ級」2隻、合計40隻で、そのうち現在も28隻が現役で活躍し、海上自衛隊の戦力の中核を構成しています(7隻は局地警備を担当する地方隊に所属し、1隻は練習艦籍です)。
全てが哨戒ヘリコプター1機を固有の搭載機として搭載しており、現役の28隻は程度の差はありますが、全て2機までの運用は可能な施設を保有しています。
次級については2023年以降の防衛力整備計画では触れられておらず、現有の位置付けの「汎用護衛艦」の建造はひと段落、ということのようです。
一方で「13DDX」(令和13年度=2031年度計画)という計画名は建造予定護衛艦としておげられており、下のリンクでの解説を見る限りでは、局地有事等における単艦での行動にも適応し、高空域の目標、小型目標の感知・対応に優れた能力を発揮する防空能力に優れた艦級になりそうです。
と言うことで今回はこの辺りで。
次回はこのところあまり模型製作の時間が取れていないので、おそらく再録の続投になると思います。このところの現行艦の続きで行くか、あるいは大好きな「偽装商船」のお話でも。
もし、「こんな企画できるか?」のようなアイディアがあれば、是非、お知らせください。
模型に関するご質問等は、いつでも大歓迎です。
特に「if艦」のアイディアなど、大歓迎です。作れるかどうかは保証しませんが。併せて「if艦」については、皆さんのストーリー案などお聞かせいただくと、もしかすると関連する艦船模型なども交えてご紹介できるかも。
もちろん本稿でとりあげた艦船模型以外のことでも、大歓迎です。
お気軽にお問い合わせ、修正情報、追加情報などお知らせください。
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