相州の、ほぼ週刊、1:1250 Scale 艦船模型ブログ

1:1250スケールの艦船模型コレクションをご紹介。実在艦から未成艦、架空艦まで、系統的な紹介を目指します。

モデルのアップデート:フランス海軍 装甲艦の系譜(前編:装甲フリゲート艦の登場)

このところ本稿で続けて取り上げている各国の装甲艦(近代戦艦=前弩級戦艦の登場以前の主力艦)を紹介する際に、時折、「フランスが整備している装甲艦への対抗を意識して」と言いようなフレーズが出てきます。

今回はそのフランス海軍の装甲艦のご紹介、その前編。装甲フリゲート艦の艦級のご紹介です。

(マスト周りのディテイルアップなど、モデルをアップデートしています)

 

先駆者としてのフランス海軍

19世紀後半、既に商船では主流になりつつあった蒸気機関に対して、その性能の不安定さと燃料供給への不安から、海軍軍人には根強い帆装への傾斜が残されてはいたのですが、実際に風力に頼らず蒸気機関による自立した機動性を持った軍艦が現れると、その優位性は明らかでした。

当時の主力艦であった木造戦列艦についても、1846年に英海軍が74門戦列艦「エイジャックス」を蒸気機関を搭載する機帆併装戦列艦へ改造したのを皮切りに、1850年にフランス海軍が機帆併装の90門戦列艦「ナポレオン」を、1852年に英海軍が同様に91門蒸気機関戦列艦アガメムノン」を、それそれ新造しました。

(上の写真は英海軍が1852年に就役させた91門搭載蒸気機関戦列艦アガメムノン」の同型艦「ヒーロー」(上段)と、フランス海軍の90門搭載蒸気機関戦列艦「ナポレオン」(1850年就役)。いずれもTriton製モデル:構造的には従来の帆装戦列艦そのままの設計で、舷側に複数層の甲板にずらりと砲門を並べた構造です。従来の木造戦列艦蒸気機関を搭載した、というところですね。写真からはいずれも4層の甲板に砲門を並べていることがわかると思います:写真は例によってsammelhafen.deから拝借しています)

こうして英仏を中心に機帆併装軍艦の建艦競走が始まり、クリミア戦争後の時点で、英海軍24隻、フランス海軍20隻の木造蒸気戦列艦保有していました。

一方、当時のせいぜい1000メートル程度の射程を持つ前装式の砲を主要火器とする戦列艦を中心とした戦いでは、舷側に防御装甲を有することの優位性は明らかで、これも出力の高い蒸気機関の出現により、重い装甲を有しながら自立航行ができる軍艦が実現してゆきます。

さらに蒸気機関は艦上の重量物を、従来の人力による操作だけでなく機械力によって操作することを可能にし、これは軍艦への重砲の搭載、艦砲の大型化を可能にし、艦砲の射程拡大、長砲身砲による射撃精度の向上にもつながってゆくのでした。

このような流れの中で、フランス海軍は前出の機帆併装の90門戦列艦「ナポレオン級」(9隻)の建造と並行して、次に紹介する木造鉄皮の新造艦「グロアール」を建造していました。

 

舷側砲門艦

5,600トン級「ラ・グロワール (La Gloire)級」装甲フリゲート艦 (1860年から就役:同型艦3隻)

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(「グロワール級」装甲フリゲート艦の概観:64mm in 1:1250 by Helvetia:これは珍しいメーカーのモデルですね。今回まとめてみて、改めて大発見)

同級以前にも木造鉄皮構造の軍艦は建造されていましたが、舷側に11センチの厚みの本格的な装甲を装着した設計から、「装甲フリゲート艦」と自海軍では分類されながらも「戦艦」の始祖と一般には呼ばれています。

5600トン級の船体に36門の16センチ前装ライフル砲を装備し、2500馬力の機関を搭載し12.5ノットの速力を発揮できました。

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(「グロワール級」装甲フリゲート艦の舷側部分の拡大:このモデルでは同級の特徴である厚い舷側装甲帯とずらりと並んだ砲門がモールドされているのがわかると思います)

砲甲板は一層で、全ての砲門を舷側に並べた標準的な舷側砲門艦の構造を持つ木造艦でしたが、同級の最大の特徴は前述の11センチの装甲を舷側のほぼ全面に装備していることで、同級の登場はそれまでの木造戦列艦を全て一晩で陳腐化させ、列強間に新たな建艦競争を起こすことになりました。

フランス海軍の「グロワール級」のスペックを知った英海軍はフリゲート艦という呼称は実態にそぐわず「偽称」と言わざるを得ない、と言い、「ウォリアー級」装甲艦の設計を急いだと言われています(この辺り、第一次世界大戦前の英独海軍を中心とした列強の嫌韓競争の火種となった戦艦「ドレッドノート」の登場と通じるところがあります)。

 

6,400トン級装甲フリゲート艦「クーロンヌ」(La Couronne):(1862年就役:同型艦なし)

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(装甲フリゲート「クーロンヌ」の概観:65mm in 1:1250 by Brown Water Miniature( Shapeways):実は上掲のWikipediaに掲載されている写真とあまりにも外観が異なるので、やや困惑しています。が「グロワール級」との関係や、その他の記述を見ると、今回ご紹介しているモデルの方がしっくりくるのではないでしょうか?)

同艦はフランス海軍が「グロワール級」に続いて建造した装甲艦で、「グロワール級」の全鉄製のヴァリエーションと見做してもいいかもしれません。フランス海軍としては初の全鉄製の装甲艦となりました。6400トン級の船体に2600馬力の機関を搭載し、一軸推進で12.5ノットの速力を発揮することができました。

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(装甲フリゲート「クーロンヌ」の舷側部分の拡大:「グロワール」級をタイプシップとして、構造の全鉄製化を目指した設計でした。舷側に砲門をほぼ等間隔に並べた舷側砲門艦であることがわかると思います)

12センチの装甲を張り巡らせ、30門の16.5センチ砲を一層の砲甲板に並べて搭載した舷側砲門艦でした。

 

6,700トン級:「マジェンタ(Magenta)級」装甲フリゲート艦 (1862年から就役:同型艦2隻)

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(「マジェンタ級」装甲フリゲート艦の概観:75mm in 1:1250 by Toriton:フランス海軍の装甲フリゲート間としては最大で、二層の砲甲板を持つ唯一の緩急です)

同級は6700トン級の船体に3450馬力の機関を搭載し、13ノットの速力を発揮できる装甲艦でした。艦首には衝角が装備されていました。22.3センチ砲2門を主砲として艦首に装備し、他に34門の16.5センチライフル砲を副砲として、さらに16門の19.4センチ滑空砲が搭載され二層の砲甲板に舷側砲門形式で搭載されていました。フランス海軍の装甲フリゲート艦としては唯一の二層の砲甲板を持った艦級となりました。

前二級の砲甲板の位置が低く、荒天時の砲の操作が困難になるとの指摘から、高い乾舷を持った艦型となりました。

艦首に装備された主砲(22.3センチ砲)には一部砲郭式の搭載法が取り入れられ、砲郭内の床に円弧状に敷かれたレール上にそれぞれ単装砲架形式で載せられ、回転と移動が可能で広い射界をとることができました。

船体は109ミリから120ミリの厚い装甲で覆われていました。

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(「マジェンタ級」装甲フリゲート艦の舷側部分の拡大:二層の砲甲板を有していたことがわかると思います。前二級の装甲フリゲート艦の砲甲板位置が生粋に近く、荒天下での作業性に課題があることから、同級では砲甲板が二層になりました。艦首部には追撃砲として22.3センチ砲が装備されましたが、砲門のモールド位置が、モデルでは少し異なるのではないかと考えています)

 

5,700トン級:「プロヴァンス(Provence)級」装甲フリゲート艦 (1863年から就役:同型艦10隻)

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(「プロヴァンス級」装甲フリゲート間の概観:モデルはOzel Model Shipsから市販されているようですが、筆者は見たことがありません。もちろん未入手。モデルの写真も探してみたのですが、頼みのsammelhafen.de,でもカタログデータとしては載っているのですが、写真は掲載されていません。上の写真は上掲のWikipediaから拝借しています)

同級はフランス海軍の初めての量産型装甲フリゲート艦で、10隻が建造されました。

乾舷を高くして航洋性を改善した「グロワール級」装甲フリゲート艦の改良版と言っていいと思います。

10隻のうち1隻のみが錬鉄製で、残りの9隻は木造鉄皮でした。

5800トン級の船体に3500馬力の機関を搭載して13ノットを超える速力を発揮できる設計でした。(実際には機関の出力にばらつきがあり、13.2ノットから16.5ノットとかなり速度に幅があったようです)

搭載武装にもばらつきがあり、当初の3隻には16.5センチ滑空砲10門、16.5センチライフル砲22門、22センチ砲2門を搭載していたと言われています。1865年型では19.4センチ砲11門を砲甲板に装備した舷側砲門形式の艦でした。

 

「装甲フリゲート艦」の一覧

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(今回ご紹介したフランス海軍の装甲フリゲート艦の大きさ比較:手前から「グロワール級」装甲フリゲート艦、装甲フリゲート「クーロンヌ」、「マジェンタ級」装甲フリゲート艦の順:最後に10隻が量産された「プロヴァンス級」装甲フリゲート艦は、大きさ的には初代の「グロワール級」にほぼ等しく、船体も木造鉄皮でした)

 

こうしてフランス海軍の装甲艦の最初のグループは、舷側砲門形式の「装甲フリゲート艦」として発展をするわけですが、次級以降ではより大口径砲の搭載が目指され、威力の高い砲に広い射界を与えるための露砲塔形式の導入など、砲兵装面を強化した「艦隊装甲艦」へと発展してゆきます。

ということで、今回はこの辺で。

 

次回は今回の続き、フランス海軍の装甲艦の後編、今回ご紹介した「装甲フリゲート艦」から「艦隊装甲艦」へと大型化し、強力ないわゆる主力艦としての発展を遂げてゆきます。その辺りをご紹介したいと考え英ます。

 

もちろん、もし、「こんな企画できるか?」のようなアイディアがあれば、是非、お知らせください。

 

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