2018年に立ち上げたこのブログでは当初明治期の日本海軍の成立期から、その終幕までを扱う予定でした。当然のことながらその起点は明治維新期の海軍黎明期にあり、当時の世界の海軍の趨勢は木造帆船軍艦から鋼鉄製の蒸気推進軍艦への移行期にありました。
約10ヶ月で当初の計画は完了し、当ブログはその後その時々の筆者の気まぐれのまま、過去へ未来へ、さらに東へ西へと、そのコレクションの幅を広げてゆきました。
帆装蒸気軍艦
この中で本稿では最近、蒸気軍艦の成立期に触れる記述が増えてきています。繰り返しになりますが、この時期は蒸気機関と推進法の発展により軍艦が自力での推進力を得た時期でもあり、紹介するモデルはどうしても帆装と蒸気機関を併用した軍艦、ということになるのです。
そこで筆者にとって大きな課題となったのが、帆装にまつわる模型の再現をどう工夫するか、という点でした。実はこの時期の軍艦も多くの市販モデルがあり、当然筆者は関心を持ってそれらを収集してきたわけですが、実は筆者の手の届くような(ある程度安価に入手できる、という意味です)モデルでは、多くの場合、この帆装まわりはマスト自体の再現に止まっており、いずれはさらにディテイルアップをしたいと思っていた領域ではあったのです。
シュラウドとは何か
もう少しこの「帆装まわり」ということをイメージしていただくために、帆装船のマスト周りの構造をざっくり整理すると、風を受ける帆、帆を固定するヤード、帆とヤードを固定するマスト、マストを固定したり帆を操作するロープ、大体このような部材で構成されています。
推進力を生み出す帆を抱えたマストには大きな力がかかりますので、これらを船体に固定するために補強のためのロープがたくさん貼られており、これをリグ(索具)と呼んだりします。このリグは一般的には受ける風力に対しマストが安定して固定されるように、船首方向と両舷方向に貼られるのですが、この両舷方向にはられるリグには横方向にロープを通し乗員がマストに登れるようになっています。これをシュラウド(shroud)と呼びます。
大スケールの帆船モデルではこのリグやシュラウドの再現が見所になるのですが、筆者のような小スケール(1:1250)ではなかなかそこまで手を入れられず、市販のモデルもマストまでの再現が一般的です。
(下の写真「レ・ディタリア」のHai製モデルのオリジナルです。マストのみの再現で、リグやシュラウドは再現されていません)

シュラウド再現の試行錯誤
しかし何か少しでも工夫できることはないだろうか、ということで、今回シュラウドの再現について、本稿でもかなりの期間をかけて、試行錯誤してきています。
その試行錯誤を説明した投稿を再掲しておくと・・・。
同スケールの帆船モデル用には、帆船模型の老舗ブランドLangton Miniatureからエッチングパーツなどが市販されいます(下の写真)。

それなりに高価(送料入れると4000円くらい?)ですし、小さなエッチングパーツということで、サイズに合わせたカットや接着なども難しく、さらに色を塗らねばなりません。この方法は経済的な側面からも、手間的な側面からも、今流行りの「持続可能性」に難あり、と考えました。
以前は建築模型用のネット材なども使ってみたことがあったのですが、基本は透明で塗料で着色して使用しても、塗料は樹脂素材内部には浸透しませんので切断面が白く目立ってしまい、あまり使わなくなりました。
今回は模索の中で黒の網戸用のネットそのものなども試してみましたが、そもそも編まれたネットは小さくカットした時点で縦糸と横糸がほぐれてしまい、これはダメ。
そして今回行き着いたのが、網戸の補修用のシールの接着剤を取り除いて使用する、という方法でした。筆者の不明から、補修用シールについてなんの認識もなくその形態だけ見て、「ああ、これ使えるかも」と購入したのですが、「補修用のシール」なのでシート全面にすぐに貼って使えるように接着剤が塗布されています。それも、屋外で風雨の中で使用する網戸ですから、かなり強力な接着力を持っているのです。製品が届いたのち、色付きの樹脂を打ち出し成形したネットで、つまり編まれたネットではないのでほぐれることはなく、これは狙い通りだったのですが、問題はその強力な接着力で、とてもこの接着面を残したままでは小さく切ったり、モデルに使用したりできるものじゃないと、これはすぐに判明し、流用を断念しかけました。
しかし「強力接着と書いてあるじゃん」と自分の軽薄さが口惜しくて少し意地になって、この接着剤除去の方法について手元の溶剤系で実験しました。その結果、Mr. Colorのシンナーに浸したのち丁寧にブラッシングすればこの接着剤は除去できることがわかりました。こんな使い方をして、メーカーの方には本当に申し訳ないと今は思っています。
出来上がりは・・・。

やはり形態に大きな齟齬はあるという認識はあるのですが、雰囲気は出せてるかも、と思っています(この辺り、その1のネット素材の時も同じですが、自画自賛をするしかないかと)。
こうして「シュラウド再現のスタンダードVr.1」 を見い出したはずだったが
というような経緯で、一応、網戸修復用のシールから接着剤を洗い流して、という方法で仕上げていこうとしていたのですが、ややこのスケールで見ると上掲の写真でも明らかなように「網目」が荒いような気がしていました。
一方で「自動車模型用のパーツでは「網の目」の向きにかなり違和感が残り・・・」というようなコメントも上の再掲部分にはあるのですが、冷静になってよく考えると、このパーツを45度回転させれば筆者の求める「網目」の向きで使えるじゃないか、といことにようやく気がつきました。もちろんそれでかなり「無駄になる部分」もあるのですが、なぜこんなことに気が付かなかったんだろうかと、自身の頭の悪さをあらためて痛感しました。

(上が45度回転する前で下が回転後:これで網目の大きさと向きの問題は一気に解決。なんでこんな事に気がつくのに時間がかかったんだろう、と・・・)

ということで、この方法でマスト周りを仕上げた前出のHai製「レ・ディタリア」が下の写真です。

(上の写真は、「網戸補修用シート」を用いたディテイルアップ(上段)と、今回の自動車模型用のネットを用いたディテイルアップ方法(下段)の比較:「網目」の大きさの違いがはっきりすると思います)
シュラウドは本来、帆船の構造上はマストを支える索具ですのでマストから放射状に船体に張られているものなのですが、ネット素材のようなものの流用ではこの放射状の構造というものが再現できない(上掲の写真でもシュラウドは梯子状に見えますよね)という課題は依然として残っていることは承知の上で、これをマスト周りのディテイルアップ・スタンダード・ヴァージョン1(Dup SD Vr.1)として、これから模型のディテイルアップをしてゆこう、という宣言を2024年9月にしています。
つまりはこの時点でシュラウド・スタンダードVr.1には満足できていなかった、と、そういうことですね。
そして同じ投稿の中でVr.1についてこんな記述も・・・。
Vr.1としたのは、利用パーツにもまだまだ新しいものの応用が効くんじゃないか、とか、できれば簡易的にでもリグの再現にもチャレンジしたいと考えている、というほどの意味です。
例えば同じスケールでも下記のようなリグの再現を実現されているケースもあります。

(写真はSpithead MiniaturesのFBに掲載されている作例:リッサ海戦シリーズの「レ・ディタリア」のモデルです)
製作者はJohn Cookという方です。非常に良いお手本だと思いますが、筆者の根気(と目!肩こり!!)がどこまでついて行けるかどうか、課題はそんなところでしょうか。シュラウド部分はやはりネット素材を切断面はそのままの状態で使用していらっしゃるようですので、後はリグ貼りへの挑戦ですね。
しかし、まあ第一歩は踏み出せたかと。当面は「それでよし」と自分を甘やかすことにします。
さらに、今回の試行錯誤の副産物として、家庭用網戸の網が手に入りました。上の再掲部分でも記述していますが、この網は本当に縦糸と横糸で編まれたもので、今回のようなディテイルアップには小さく切った部分からほぐれてしまうので、全く用をなさなかったのですが、リグ用の素材としては、ある意味もってこいかと考えています。
シュラウド再現 Vr.2へのトライ:「ネット・ストリング」を用いたシュラウドの再現
そして今回、シュラウドの再現に使用したのが、この以前は「リグ」にもってこいではないかと記述した「網戸の縦糸と横糸:ネット・ストリング」なのです。
この方法は結局、一本一本索具(リグ)をマストと船体の間に張ってゆく手法ですので、手間も時間も、さらに根気・集中力と視力が求められます。当初は1:1250スケールでは実行できない、と諦めていた方法なのですが、今回、以下でご紹介する砲艦のような小さな艦船では、ネット素材では網目が荒すぎて対応できないこともあり、まず、そうした小型の艦船から初めてみようか、という決意に至ったわけです。
(「ケルカ級:Kerka class」砲艦の概観:42mm(水線長) in 1:1250 by FK=Friedrich Kermauner:マストが気になるので真鍮線等で手を入れています。マスト周りのシュラウドはネット素材を用いら再現をおこなっているのですが、網目状を見せようとすると、どうしてもシュラウドが大きくなってしまいます。下の写真では「ネット素材では放射状を再現できない」ということがよくわかっていただけるかも)

「ネット・ストリング」方式のシュラウドはどの程度効果がありそうか?
上記については、同方式の適応範囲をどこまでとするのか等、今後の筆者のクレクションにも大きな影響がある掲題です。現時点では鋭意検討中ですが、すでにネット素材でのアップデートを終えている日本海軍の黎明期の主力艦であった「金剛級」コルベットで比較をしてみました。

(「金剛級」コルベットでの「ネット素材方式=シュラウド・スタンダード Vr.1」(上段)と、今回の「ネット・ストリング方式=Vr.2 」の比較をしたもの)
前述のように「索具:リグ」も同時に張ったこともあって、Vr.2の方がリアリティは高い再現ができそうです。ただしシュラウドの桁綱(横に貼っているロープ)の再現は今の筆者の手には負えそうにありません。今回のように比較的小型のモデルはいいのですが、大型のモデルになった際にどれだけ気になるのか。それでもシュラウドの放射状の形態の再現はできるので、それでもやるべきかと思っています。
これまでの大型の帆装艦全てのシュラウドをこの形態に変更するのはかなり時間がかかりそうですので、まずは新着艦から、さらに小型の艦船から順に、という結論にしておきます。
ということで、今回は「ネット・ストリング」を用いたシュラウド再現法のVr.2を、ドイツ帝国海軍のコルベット「マリー」(カローラ級)でまずはトライしてみました。
「カローラ級:Carola class」コルベット(1881年から就役:同型艦6隻)

(「カローラ級:Carola class」コルベットの概観:60mm in 1:1250 by Mercator:モデルは煙突が一本ですので同級3番艦の「マリー」再現したものです。をシュラウドと同時に索具(リグ)も張ってみました)
同級は1875年計画で建造された鉄・鋼混合構造船体のコルベットで、拡張期にあったドイツ帝国の海外植民地での運用を想定されて6隻が建造されました。2400トンクラスの船体に三檣シップ形式の帆装と2300馬力のレシプロ蒸気機関を併載し、併用による長い航続距離を得ると同時に13.7ノットの速力を発揮する設計でした。
22口径15センチ単装砲6基と24口径8.7センチ単装砲2基を主兵装として、更に個艦防御用火器として6基の37ミリ回転式機関砲(ホチキス製)を搭載していました。
2本煙突形態と1本煙突形態
3番艦「マリー」と4番艦「ソフィー」はボイラーの搭載数から1本煙突形状で、残りは2本煙突でした。
(下の写真は同級2本煙突艦の概観 by Mercator:筆者は未保有ですので例によってsammelhafen.deから拝借しています)

就役後、6隻共に海外の植民地警備・治安出動などに派遣され第一線で本来の建造目的に沿った活動に従事しましたが、1890年台半ばには本国に帰還し、練習艦・砲術練習艦や浮砲台などの補助的な任務につき、4番艦「ソフィー」以外は1905年前後に解体されました。
「ソフィー」は第一次世界大戦中、兵舎艦として使われ、1920年頃に売却・解体されました。
シュラウドの出来は?
(上の写真は「カローラ級:Carola class」コルベットの索具(リグ)・シュラウド周りの拡大:索具(リグ)の貼り方など、もっと勉強しないといけないですねえ)
索具(リグ)も一緒に張ったことでやはりかなり見栄えは変わるように思っています。手間をかけなければいけない、当たり前ですが、まあ、そういうことでしょうか。
それにしても一本づつの手作業ですので、それほど多くの時間、続けてはできません。これからの習熟度にもよるでしょうが、あまり焦らずに徐々に作業することにしましょう。まずは小型艦艇から、でしょうか。
そして次にトライしたのが砲艦「イルティス」(「ウォルフ級」砲艦)でした。
「ウォルフ級:Wolf class」砲艦(1878年から就役:同型艦3隻)

(「ウォルフ級:Wolf class」砲艦の概観:38mm(船体長) in 1:1250 by Mercator:こうした小さなモデルでは「ネット素材方式」でのシュラウド再現は限界がありました)
1870年代、清国での経済活動保護のためにドイツ帝国は軍艦を派遣していました。
派遣されていた艦の老朽化に伴い、同級はその代艦として建造された艦級の一つで、3隻が建造されました。570トンの船体に370馬力のレシプロ機関を搭載し、3檣バーケンティン形式の帆装を備え、8.5ノット(実装時には9.9ノットを記録)の速力と長い航続距離を併せ持っていました。
(下の写真は帆装を展開した「ウォルフ級」砲艦by Mercator:モデルは未保有ですので例によってsammelhafen.deから拝借しています)

同級は23口径12.5センチ単装砲2基と24口径8.7センチ単装砲2基を主兵装として搭載し、さらに37ミリ回転式機関砲3基を近接防御用として装備していました。
就役以降、中国、太平洋植民地、アフリカ植民地に派遣され、帝国の権益保護に従事しました。1880年代後半に機関が換装され、その時点で帆装が縮小されました。
1896年に「イルティス」は嵐で失われましたが、その他の2隻(「ウォルフ」「ヒュエーネ」)は調査船に改造されアフリカ植民地の地図作成や本国での活動を続けました。両艦とも第一次世界大戦終了時に退役し「ウォルフ」は解体されましたが、「ヒュエーネ」は商船に改造され「ゼーウルフ」と改名、1924年に積荷火災で消失するまで活動していました。
そして砲艦繋がりでもう一隻。
砲艦「オッター:Otter」砲艦(1877年就役:同型艦なし)

(砲艦「オッター:Otter」の概観:26mm(船体長) in 1:1250 by Argos:こうした小さなモデルでは「ネット素材方式」でのシュラウド再現は限界がありました)
同艦はドイツ帝国海軍が年次計画外で建造した砲艦でした。
沿岸での活動を想定した150トン級の小さな船で、2檣スクーナー形式の帆装に加え140馬力のレシプロ機関を搭載し8ノットの速力を発揮する設計でした。
艦首に23口径12センチ単装砲1基、両舷に8センチ砲各1基を搭載していました。
(下の写真は帆装を展張した砲艦「オッター」 by Argos:モデルは未保有ですので例によってSammelhafen.deから拝借)

当初は中国海域での権益保護・海賊対策に使用することが予定されていましたが、完成後、航洋性に重大な課題が発見され海外派遣は行われませんでした。海外派遣任務の解除に伴い帆装が廃止され、砲術訓練学校の補給艦として活動、その後1884年に砲術訓練艦として、1897年からは機雷試験艦として運用され1907年に退役し定置連取戦となりました、さらに1912年からは石炭貯蔵船となり1914年に民間に売却され航法機材の試験船として使用されたのち1924年に解体されました。
「ネット・ストリング」方式への移行方針の決定
というような次第で、以降、帆走併用艦(勿論帆走船も含め)のマスト周りのディテイルアップは、この方法で行ってゆくことにします。
もともとは如何に簡便な方法で「それらしさ」を再現するか、というところからスタートしたはずの「シュラウド・ディテイルアップ」だったのですが、結論は「しっかりてをかけよう」という結論にいたりました。面倒くさがりの筆者としては、自身でも想定外の結論で、少し驚いています。
とは言え、これまで結構多くの帆走艦をこれまでの「ネット素材」転用方式(Vr.1)でディテイルアップしてきていますので、これら全てをリメイクするのには時間がかかりそうです。
まずは新着モデルから、優先順位的には小型艦から徐々に、と考えています。
ということで、今回はこの辺で。
次回は新着モデルのご紹介を今回の新たなシュラウド再現法の実施と併せてご紹介する予定です。ちょうど最近取り上げている「ドイツ帝国海軍の巡洋艦」や「扶桑級」装甲艦の就役時モデル等、何隻か該当するモデルがありますので、その辺りからご紹介できれば、と考えています。
もちろん、もし、「こんな企画できるか?」のようなアイディアがあれば、是非、お知らせください。
模型に関するご質問等は、いつでも大歓迎です。
特に「if艦」のアイディアなど、大歓迎です。作れるかどうかは保証しませんが。併せて「if艦」については、皆さんのストーリー案などお聞かせいただくと、もしかすると関連する艦船模型なども交えてご紹介できるかも。
もちろん本稿でとりあげた艦船模型以外のことでも、大歓迎です。
お気軽にお問い合わせ、修正情報、追加情報などお知らせください。
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