予告ではレイテ沖海戦に参加した日本海軍の中で唯一残った「小沢機動部隊」のご紹介となっていましたが、やはりもう少し準備が必要です。
そこで今回は「繋」的に、前回レイテ沖海戦のサマール沖海戦で第一遊撃部隊に追い回された米第七艦隊の護衛空母の関連で、米海軍の護衛空母を簡単にご紹介します。
米第七艦隊 第77任務部隊(Task Force 77)
米第七艦隊は、マッカーサーの率いる米南西太平洋方面軍の指揮下にあって、侵攻軍の輸送ととその護衛、さらに侵攻軍の作戦を海空から支援する役割を負っていた艦隊で、トーマス・キンケイド中将が率いていました。
同艦隊は、第70任務部隊、第77任務部隊、第78任務部隊、第79任務部隊の4つの任務部隊(Task Force)を基幹に構成されていましたが、このうち第70任務部隊は、マッカーサー司令部直属部隊で第78、第79の両任務部隊は上陸軍の輸送船団とその直衛のあたる護衛艦艇で編成された部隊でした。そして第77任務部隊が上陸軍に対する砲撃支援や航空支援を与えるいわゆる水上艦隊でした。
第77任務部隊は6つの戦闘群(Task Group)で構成され、第1群は前哨の潜水艦部隊で、実はレイテ沖海戦の劈頭、パラワン水道で栗田艦体の旗艦「愛宕」「摩耶」等を撃沈したのは、この部隊の潜水艦でした。
そして、第2群が支援射撃部隊で旧式戦艦6隻に巡洋艦9隻・駆逐艦29隻で構成される水上戦闘部隊で、スリガオ海峡で西村艦隊、志摩艦隊を迎え撃ったのは第七艦隊本隊から魚雷艇部隊の補強を受けて強化されたこの部隊でした。
第77任務部隊 第2群(Task Group 77.2)の戦艦群
(直上の写真:戦艦ニューメキシコ のレイテ沖海戦時の概観:152mm in 1:1250 by Neptun)
(直上の写真: テネシー・カリフォルニア(テネシー級)のレイテ沖海戦時の概観:152mm in 1:1250 by Neptun)
(直上の写真:戦艦ペンシルバニアののレイテ沖海戦時の概観:147mm in 1:1250 by Superior)
(直上の写真:戦艦メリーランドののレイテ沖海戦時の概観:152mm in 1:1250 by Neptun)
(直上の写真:戦艦ウエスト・バージニアののレイテ沖海戦時の概観:152mm in 1:1250 by Neptun)
第77任務部隊第2群(Task Group 77.2)の巡洋艦群
(直上の写真:重巡洋艦ルイビル(ノーザンプトン級)の概観:146mm in 1:1250 by Neptun)
(直上の写真:重巡洋艦ポートランド(ポートランド級)の概観:148mm in 1:1250 by Neptun)
(直上の写真:重巡洋艦ミネアポリス(ニューオーリンズ級)の概観:142mm in 1:1250 by Neptun)
(直上の写真:オーストラリア海軍重巡洋艦オーストラリア(ケント級)の概観:152mm in 1:1250 by Neptun)
(直上の写真:オーストラリア海軍重巡洋艦シュロップシャー(ロンドン級)の概観:152mm in 1:1250 by Neptun)
(直上の写真:軽巡洋艦デンバー・コロンビア(クリーブランド級)の概観:150mm in 1:1250 by Neptun)
(直上の写真:軽巡洋艦ボイシ・フェニックス(ブルックリン級)の概観:150mm in 1:1250 by Neptun)
オルデンドルフ少将が率いていたため、オルデンドルフ部隊として紹介されることが多いようです。栗田艦隊が作戦通りにレイテ湾に突入していたら、まずこの部隊と砲火を交えたことでしょう。
これに続く第4群がこれから紹介する上陸軍に航空支援を提供する護衛空母部隊、第5群は輸送艦隊に進入路を開く掃海部隊、第6群は対潜水艦部隊、第7群は補給・修理・救護等の支援部隊
第77任務部隊 第4群(Task Group 77.4)
同戦闘群は、上陸軍に直接航空支援を行うことを任務に編成された部隊です。群指揮官はトーマス・スプレイグ少将で指揮下の部隊はさらに三つの護衛空母集団に分かれていました。
第1集団:タフィ1(Task Unit 77.4.1:Taffi 1)トーマス・スプレイグ少将直卒:護衛空母6隻、駆逐艦3隻、護衛駆逐艦6隻
第2集団:タフィ2(Task Unit 77.4.2:Taffi 2)フェリックス・スタンプ少将:護衛空母6隻、駆逐艦3隻、護衛駆逐艦6隻
第3集団:タフィ3(Task Unit 77.4.3:Taffi3)クリフトン・スプレイグ少将:護衛空母6隻、駆逐艦3隻、護衛駆逐艦4隻
これら18隻の護衛空母のうち4隻が「サンガモン級」、残りは「カサブランカ級」でした。
サンガモン級護衛空母
(モデルは未入手ですが、直上の写真は「サンガモン級」のベースとなったT2型油槽船をベースとして建造された「コメンスメント・ベイ級」のモデル。大体の大きさはこんな感じかと。by Hansa or Dejphin?)
同級は、「ボーグ級」護衛空母の建造計画に対し改造の母体となるC3型貨物船の船体が不足したため急遽T2型油槽船(シマロン級給油艦)を4隻護衛空母として転用、完成させた艦級です。このため前級「ボーグ級」次級の「カサブランカ級」よりも船体が大きく、飛行甲板が広く取れたため、唯一F6Fヘルキャットをカタパルト無しで発艦できる護衛空母となりました。
また元々が給油艦の改装であるため給油能力を備えた艦級でした。速力は19knotを発揮することができました。
搭載機は当初戦闘機12機、艦上爆撃機9機、艦上攻撃機9機という構成でしたが、後に戦闘機18機、艦上攻撃機12機を定数としていました。
4隻すべてが上記のタフィー1に所属しており、補充航空機の受け取りに出向いていた「シェナンゴ」以外はレイテ沖海戦に参加しています。
(「カサブランカ級」護衛航空母艦の概観。123mm in 1:1250 by Last Square)
同級は前級までの護衛空母が既存の商船を転用改造して建造されたのに対し、戦時標準貨物船の設計をベースに護衛空母として改設計され完成された艦級です。設計の見直しにより19.25knotの速力を発揮することができました。
50隻が量産され、サマール島沖海戦で1隻が日本海軍の第一遊撃艦隊との交戦で失われ、1隻が神風特攻を同じくレイテ湾で受け失われています。
前級「サンガモン級」に比べやや船体が小さくなったため、搭載機波28機となりました。
サマール沖海戦
前回ご紹介したように、レイテ沖海戦の期間中に、サマール島沖を航海中のタフィ3をレイテ湾突入直前の栗田艦隊が発見し、攻撃しました。
栗田艦隊ではこの小さな護衛空母群を正規空母機動部隊の一部と誤認し、全力でこれを追撃し砲撃の末、「ガムビア・ベイ」と駆逐艦2隻、護衛駆逐艦1隻を撃沈する成果を出しますが、一方でタフィ3から発信した搭載機の反撃で重巡洋艦4隻が戦列から離脱する損害を受けました(うち3隻が沈没)。この結果、サマール沖海戦後の戦闘可能な重巡洋艦はわずか2隻となってしまいました。
正規空母部隊の一部との誤認と、この損害(大きな損害が出たことも、正規空母部隊との認識の「証左」と捉えられたかもしれません)から、栗田艦隊はレイテ湾突入から米機動部隊捕捉撃滅へと作戦目標を改め、進路を北へと反転するわけです(有名な「栗田艦隊の謎の反転」ですね)。
こうして、レイテ沖海戦は当初の目的であった「レイテ侵攻軍への攻撃」というクライマックスのないまま、終末を迎えるのですが、改めてタフィ3という小さな部隊の果たした大きな役割に想いを致したわけです。
この海戦で失われた護衛空母「ガムビア・ベイ」を主人公とした書籍が出ています。Amazon等で文庫本であれば比較的簡単に中古書籍を入手できます。大変興味深い小説、お勧めです。
というわけで、米海軍の量産型護衛空母をこの機会にご紹介してしまいましょう。
米海軍の量産型護衛空母
量産型護衛空母の第一陣
ボーグ級護衛空母
(「ボーグ級」護衛空母の概観:119mm in 1:1250 by Neptun)
そもそも同級はドイツ海軍のUボートの跳梁に苦しむイギリスの救済目的で量産された護衛空母です。同級に先立ち、米国はイギリスに「チャージャー級」護衛空母(イギリス名は「アヴェンジャー級」)を貸与していましたが、同級はC3型貨物船を完成後に空母に改装したもので、3隻が改造されイギリス海軍に貸与されました
貨物船からの改装であったため、装備は十分とが言えず搭載機も15機に止まりました。
それでも輸送船団にエア・カバーを提供することは有効で、対潜水艦戦用の護衛空母という構想がさらに進められることになりました。そして「チャージャー級」での実績から、同じ建造途上のC3型貨物船(「チャージャー級」は建造後の改装)の船体を利用して格納庫の配置やエレベータの増設など、より空母の機能を充実した設計へと改造された「ボーグ級」が建造されました。
短い飛行甲板のハンディを補うためにカタパルトを装備しているところは「チャージャー級」と同様でしたが、エレベータは1基増設され、搭載機の運用効率を上げることができ、搭載機も24機と大幅に増やされました。速力は18.5knotを出すことができました。
45隻が建造され、うち34隻が英海軍に貸与されました(英海軍での呼称は「アタッカー級」)。
最後の護衛空母
(「コメンスメント・ベイ級」護衛空母の概観:135mm in 1:1250 by Neptun)
同級は米海軍が建造した最後の護衛空母の艦級です。前級「カサブランカ級」が「ボーグ級」の改造母体となったC3型貨物船の船体設計を空母に適するように設計図面から見直して建造されたのに対し、同級は「サンガモン級」の母体となったT2型油槽船の船体設計図をベースにして設計を見直して建造されました。
搭載機の発艦能力を向上させるためにカタパルトを従来の1基に加え、大型カタパルト1基を増設しています。速力は19.25knotを発揮することができました。
搭載機は戦闘機18機と艦上攻撃機12機を定数としていました。
35隻の建造が計画されていましたが、第二次世界大戦に間に合ったのは10隻だけで、16隻が戦争終結に伴いキャンセルされました。
建造された艦は大型カタパルトを搭載したことで、長く現役に止まることができました。
米海軍の量産型護衛空母、まとめとしては、基本はC3型貨物船かT2型油槽船の船体自体を流用、もしくは設計図面を流用して建造されました。
小さな船体のハンディを克服するためにカタパルトを搭載しています。設計当初は対潜水艦哨戒、あるいは対潜水艦戦の担当艦船でしたが、後には航空機輸送や上空部隊への航空支援等の幅広い任務に活躍しました。「海のジープ」と呼ばれたとか。
開発順を見ておくと、
「ボーグ級」45隻(うち34隻が英海軍に貸与)
「サンガモン級」4隻
「カサブランカ級」50隻
「コメンスメント・ベイ級」19隻(計画35隻:16隻が戦争終結時にキャンセル)
という順序になります。
多岐の任務に従事しながらも、就役数に対し損害は意外に小さく、「ボーグ級」が1隻、「カサブランカ級」が5隻、それぞれ大戦中に失われました。
というわけで、今回はさくっとここまで。
次回は、いよいよ「小沢機動部隊」(本当か?)。日本海軍の空母機動部隊の終焉、ということで、「レイテ沖海戦での小沢機動部隊」から、時間を遡る形で「日本海軍の機動部隊小史」として複数回のミニシリーズにしてしまいましょうかね。「日本海軍の空母」やるやる、と言いながら実現できていないので、こういう形で総覧するのも「あり」かと。次回はまずその一回目、ということで「レイテ沖海戦時の小沢機動部隊」を。
もちろん、もし、「こんな企画できるか?」のようなアイディアがあれば、是非、お知らせください。
模型に関するご質問等は、いつでも大歓迎です。
特に「if艦」のアイディアなど、大歓迎です。作れるかどうかは保証しませんが。併せて「if艦」については、皆さんのストーリー案などお聞かせいただくと、もしかすると関連する艦船模型なども交えてご紹介できるかも。
もちろん本稿でとりあげた艦船模型以外のことでも、大歓迎です。
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