相州の、ほぼ週刊、1:1250 Scale 艦船模型ブログ

1:1250スケールの艦船模型コレクションをご紹介。実在艦から未成艦、架空艦まで、系統的な紹介を目指します。

日本海軍:大戦期の駆逐艦(補遺)「初春級」駆逐艦 竣工時の制作/実は失敗の巻 

本稿では、前回、前々回の2回に分けて日本海軍の太平洋戦争時の駆逐艦を総覧しました。

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その中で、ワシントン・ロンドン体制下で設計された「初春級」についても記述したのですが、この艦級は、日本海軍の駆逐艦の中で竣工時の設計に問題があり、就役後、最も大きな改修を必要とした艦級であったにも関わらず、現在、本稿がご紹介している1:1250スケールで市販されているのは改修後のモデルだけで、竣工時のモデルは販売されていません。

今回は現行の改修後モデルをベースに、竣工時をなんとか再現してみようという、セミ・スクラッチの試みのご紹介です。

 

本稿でご紹介した「初春級」を以下の再録しておきます。(前出の 日本海軍:大戦期の駆逐艦(その1)より)

 

 中型(1400トン級)駆逐艦の建造:ロンドン条約の申し子?

「初春級」駆逐艦(6隻)

ワシントン条約に続く ロンドン条約では、それまで制限のなかった補助艦艇にも制限が加えられ、駆逐艦にも保有制限枠が設けられました。特に駆逐艦には1500トンを超える艦は総保有量(合計排水量)の16%以内という項目が加えられました。このため1700トン級(公称)の「吹雪級」駆逐艦をこれ以上建造できなくなり(日本としては財政的な視点から、「吹雪級」の増産を継続するよりも、もう少し安価な艦で数を満たす切実な事情もあったのですが)、次の「初春級」では、1400トン級の船体と「吹雪級」と同等の性能の両立という課題に挑戦することになりました。

ja.wikipedia.org

結果として、竣工時の「初春級」駆逐艦は、主砲として、艦首部に「吹雪級」と同じ「50口径3年式12.7cm砲」B型連装砲塔とB型連装砲塔と同じく仰角を75度に改めたA型改1単装砲塔を背負い式に装備し、艦尾にB型連装砲塔を配置しました。さらに「吹雪級」と同じ61cm3連装魚雷発射管を3基(9射線)を装備し、予備魚雷も「吹雪級」と同数を搭載。加えて次発装填装置をも初めて装備し、魚雷発射後の再雷撃までの時間短縮を可能としました。機関には「吹雪級Ⅲ型」と同じ空気予熱器付きの缶3基を搭載し、36.5ノットの速力を発揮することができました。

1400トン級のコンパクトな船体に「吹雪級」とほぼ同等な重武装と機関を搭載し、かつ搭載する強力な主砲と雷装を総覧する艦橋は大型化したことにより、無理を重ねた設計でした。そしてそれは顕著なトップヘビーの傾向として顕在化することになります。

既に公試時の10度程度の進路変更時ですら危険な大傾斜傾向が現れ、バルジの追加等で何とか就役しますが、この設計原案での建造は「初春」と「子の日」の2隻のみのとどめられました。さらにその後の発生した友鶴事件により、設計は復原性改善を目指して全面体に見直されました。

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初春:竣工時の艦型概観(「初春」「子の日」のみ)

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このげ初春:復原性改修後の艦型概観

(上のシルエットは次のサイトからお借りしています

http://www.jam.bx.sakura.ne.jp/dd/dd_class_hatsuharu.html

残念ながら、竣工時の「初春級」については 1:1250スケールのモデルがありません。スクラッチにトライするには、やや手持ちの「初春級」のモデルが足りていません。 いずれはトライする予定ですが、今回はご勘弁を)

 

平たくいうと、軍縮の制限下での駆逐艦保有トン数と戦術的な要求とのせめぎ合いで、無理に無理を重ねた艦級と言えるでしょう。 中型駆逐艦に大型駆逐艦に等しい兵装を搭載しよう、というわけです。

 

さて、今回の「初春級(竣工時)」の制作にあたり、ベースとするのは「初春級(改修後)」のNeptune製のモデルです。

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(直上の写真:復原性改善修復後の「初春級」の概観。88mm in 1:1250 by Neptune)

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(直上の写真:「初春級」の特徴である次発想定装置付きの3連装魚雷発射管(上段)と、艦尾部に背中合わせに配置された単装主砲砲塔と連装砲塔:仰角75度の高角射撃も可能とした砲塔でした。この砲塔は装填機構の問題から装填時に平射位置まで砲身を戻さねばならず、射撃速度が低く対空砲としては実用性に乏しいものでした)

 

セミ・スクラッチのベースにするのは「初春級」の旧モデル(Neptune社製)

本稿でも一度ご紹介したことがあるのですが、実は本稿で扱っている1:1250モデルでも、制作各社でのモデルのリニューアルが行なわれており、次第にディテイルが精緻になり、それはそれで嬉しいことなのですが、一方でコレクターの立場で言うと、これに付き合っていると、理想的にいうと数年に一度、モデルの総入れ替のような事になり、とても付き合いきれないので、どこで思い切るのか、という悩ましい決断を迫られます。

一方で、筆者の場合には手元に一定の旧モデル、つまりコレクション落ちのモデルがある事になり、これが結構パーツ用のストックになっていたりします。

「初春級」でも現在、3隻のストックがあり、そのうちの一隻が旧モデルでしたので、今回の「竣工時」モデルの製作にはこの旧モデルをベースとして使う事にしました。幸か不幸か、旧モデルは乾舷が新モデルに比べやや高く、復原性に大きな課題を抱えていた「初春級(竣工時)」の「腰高な感じ」を出すにはちょうど良かったかもしれません(何でもポジティブに捉えるなあって?おっしゃる通りかも・・・)。

 

「初春級」竣工時と復原性改修後の相違点

「初春級」(竣工時)の再現にあたって、最も肝となるのは、その兵装配置である事は明らかです。

「初春級」(改修後)では、その兵装配置は日本海軍艦隊駆逐艦の標準的なもので、艦首に1番連装主砲塔を搭載し、第一煙突と第二煙突の間に1番魚雷発射管(3連装)、第二煙突直後に2番魚雷発射管(3連装)という配置になります。その後部に魚雷の自発装填装置を組み込んだ後橋、その後ろに2番主砲塔(単装)、3番主砲塔(連装)が背中合わせに配置されています。f:id:fw688i:20200822010836j:plain

 

これに対し「初春級」(竣工時)では、艦首部に1番主砲塔(連装)と2番主砲塔(単装)が背負い式に配置されるという、本級のみに見られる大変ユニークな配置になっています。同時にこの背負式の主砲配置に伴い艦橋部が大型化しています。さらに、第一煙突と第二煙突の間の1番魚雷発射管(3連装)、第二煙突直後の2番魚雷発射管(3連装)に加え、さらにその後ろの後橋部に組み込まれる形で3番発射管(3連装)が少し配置位置を高めにして背負い式のような形で装備され、竣工時には大型駆逐艦並の9射線の魚雷発射能力を誇っていました。そして後橋の後に3番主砲塔(連装)が配置されていました。

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「初春級」(竣工時)のセミ・スクラッチ手順

という事で、今回のセミ・スクラッチは結構大工事になりました。

⑴まず艦橋を切除(これはもちろん後で使うので保管しておきます)。

⑵次にとりあえず魚雷発射管を全て撤去。:こちらは旧モデルではモールドに課題がある(私見ですが、ちょっと厚みがありすぎる?)し、更に言うと竣工時モデルでは3基必要となりますので、本稿でも「吹雪級」で紹介した DAMEYA製の3D Printing modelの発射管を、手持ちのストックから移植する事にしましたので、破棄します。

⑶後橋と2番砲塔(単装)を撤去:2番砲塔は貴重な単装砲塔です。もちろん後で使うので保管します。

⑷撤去後をできるだけ平らにヤスリでゴリゴリ。

⑸1.5mm厚のプラ平板で艦橋下層部と大型化した後橋部をパキパキと制作。艦橋下層部には艦橋上部を乗せ、先端に2番主砲塔(単装)を搭載。後橋部には3番魚雷発射管とブリッジらしく見えるように少しストックから部品を追加。

これらを再度組み上げて、マストを整理して出来上がり、という事になります。

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(直上の写真は、「初春級」竣工時の全体シルエット。武装配置の特徴と腰高感、何となくでてますかねえ?)

 

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(直上の写真は、手を入れた部分のアップ。左上:艦橋部。艦橋部の下層構造を延長し、艦橋の位置をやや後方へ。艦橋部下層構造の前端に2番主砲塔(単装)を、1番主砲塔(連装)と背負い式になるように配置。右上:2番魚雷発射管。下段:後橋部分と2番・3番発射管の配置状況。3番発射管自体は、船体中心線に対し、やや右にオフセットした位置に追加。細かいこだわりですが、一応、3番発射管用の次発装填装置を後橋部の構造建屋の上に設置。2番発射管用の次発装填装置は後橋部建屋の左側の斜め張り出し部に内蔵されています。**追加あるいは改修した部分は下地処理をしてあります)

 

 そして、塗装をして完成

 下の写真が完成形。兵装の過多と、それに伴うトップヘビー感がでていれば一応の成功です。

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復原性修復後のモデルとの比較は以下に。二枚とも、上が「竣工時(今回セミ・スクラッチ製作したモデル)」、下が「復原性修復後」のモデル(Neptune社の現行の市販モデル)。

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「竣工時」の過大な兵装とそれに因る腰高感が表現できているかどうか・・・。できているんじゃないかな(とちょっと自画自賛)。 

 

しかし、よく見ると、ああ、何とも致命的な・・・。

完成した「竣工時」のモデルをよく見ていると、「あれれ・・・」、実は、致命的な欠陥を発見してしまいました。

「初春級」は既述のように日本海軍で初めて魚雷の次発装填装置を搭載した艦級です。

この 次発装填装置は、それまでチェーンと運搬車で作業されていた魚雷の発射管への装填業務を、魚雷発射後わずか20秒程度に短縮する、という画期的な装置ですが、反面、次発装填装置自体を魚雷発射管と同レベルに設置する必要がありました。これは「初春級」の重心上昇の一因ともなったわけですが、1番煙突と2番煙突間に配置された1番発射管用の自発装填装置は、2番煙突左脇に搭載されており、このため2番煙突は艦の中心位置から艦首を上に見てやや右にオフセットされて配置されていました。

ところが今回ベースとして使用したNeptune社の「初春級」の旧モデルは、この1番発射管用の次発装填装置が、あれれ、ないじゃないか!しかも、2番煙突が逆に左にオフセットした位置に配置されてる事に、完成後に気付いてしまいました。上記のように、結構、次発装填装置にはこだわりがあって、上述の工程で説明したように、自作した後橋部の建屋作成では、気にかけて作業をした部分でもあるので、結構びっくり。

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 (左が「初春級」新モデル:1番発射管と2番発射管の間にある2番煙突は、1番発射管の次発装填装置の関係で、船体中心線より選手を上に見てやや右にオフセットした位置に配置されています。これが正解!1番発射管用の次発装填装置は、左写真の中程、2番魚雷発射管の左上に設置されている斜めに設置された構造物です。この箱の中に次発装填用の魚雷が収納されていて、魚雷発射管内の初発魚雷は発射された後に、発射管後部から装填される仕掛けです。装填に要する時間、約20秒! 右の写真は今回使用した「「初春級」級モデルをベースにした竣工時のモデル:2番煙突がやや左にオフセットされています。しかもこだわりの次発装填装置がない!これは気になる、でしょう!?)

 

うう、リサーチ不足だった、と少しがっくり。しかも、これは気がついてしまうと、気になる。

対策は、と考えてみます。手っ取り早く思えるのは2番煙突の位置変更ですが、2番煙突の位置変更は、実は1:1250スケールではちょっと大事です。そっくり2番煙突ブロックを船体から切除して、加工して再移築というような作業が想定されますが、いつもは「手軽さ」となるスケールの小ささが今回は災いして、切除に使用するソー、あるいはニッパの刃が構造を必ず損なう結果になると考えています(筆者の手技不足も、もちろん大きな要因ですが)。結局、検討の結果は、新モデルをベースにもう一回やり直すしかない、かと・・・・。

 

という事で、いずれ新モデルをベースに(もったいないなあ)再作業する事にします。まあこういう事もありますよね。

今回の経験で作業の大体の要領と手順は分かったし、今回手をかけた艦橋部と後橋部の建屋は多分両方転用できそうですので、作業は幾分手軽になるかと。筆者的にはまた楽しみが増えた、という事です。(と、前向きに・・・)

しかも、うまくいけば、以前から気になっている、日本海軍のもう一つの未整備モデルである「千鳥級」水雷艇の竣工時モデル(こちらも今回の「初春級」と同様、ワシントン・ロンドン体制の制約による過大兵備の要求から復原性に大きな問題を発生した艦級で、やはり復原性修復後のモデルしか市販されていません)のセミ・スクラッチも同時に手掛けられるかも(この作業には「初春級」の主砲塔:特に単装主砲塔と、多分、同級の艦橋が必要になってくるのです。結局、「初春級」を2隻潰すのだから、とある意味、怪我の功名かも。課題は「千鳥級」の竣工時の連装魚雷発射管を自作しなくてはならないところ。小さな部品ではありますが、一つの特徴でもあるので、ちょっと慎重に準備しなくてはなりません。・・・と、すっかり同時着手の気になってしまっている!!)。

 

ということで、今回はこの辺りでおしまい。

次回は早速、今回のリメイク、と行きたいところですが、「初春級」の新モデルのストックとの相談もありますので、どうなるか。やるなら上記のように「千鳥級」竣工時モデルも一緒にやっちゃいましょう。新着モデルもいくつかあるし・・・。

 

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