相州の、1:1250スケール艦船模型ブログ 主力艦の変遷を追って

1:1250スケールの艦船模型コレクションをご紹介。実在艦から未成艦、架空艦まで、系統的な紹介を目指します。

映画「アルキメデスの大戦」公開記念 大和級戦艦のディテイル・アップデート

アルキメデスの大戦

今回は「映画アルキメデスの大戦」公開を記念して(?)、少し関連事項を書いてみようかな、と考えています。

 

「映画アルキメデスの大戦」は、三田紀房さんのコミックを原作とし、「三丁目の夕陽」シリーズや「永遠の0」の監督である山崎貢さんが映画化されました。

コミックのほうは現在17巻、未完ですが、ワシントン条約明けの1933年から現行の最終巻17巻で、ようやく1937年、96式艦上戦闘機や96式陸攻が登場し、日中戦争が本格化しようとしています。

映画の方はコミックの3巻くらいまで、1933年のお話を主軸に扱っています。

www.youtube.com

以下、少し(かなり?)ネタバレにはなりますので、これから映画をご覧になる予定の方は、ここはどうかグッと堪えて、映画をご覧になってから、本稿に戻ってきて下さい。

 

 

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(以下は、映画をご覧になった方、或いはご覧になる予定のない方むけに、ネタバレを気にせずに書きますので、ご注意ください)

 

アルキメデスの大戦」は、映画もコミックも諸般の情勢から忍び寄る次期大戦を防ぐために、「戦艦大和」(に代表されるような世界最大最強の戦艦)建造をいかに阻止するか、なぜ阻止しなければならないか、というのがストーリーの大きな骨格となっています。

と、まあ、このように書くと、本稿の目指すところとは、真っ向から違うなあと、実は筆者は思っていました。コミックは暫く前からポツポツと読んでいましたし、映画化されたら見に行かなくちゃなあ、と。

archimedes-movie.jp

yanmaga.jp

 

で、早速見てきました。

 

ざっと、あらすじ

繰り返しになりますが、現在17巻まで刊行されているコミックに対し、映画はその最初の3巻くらいまでの内容を扱っています。コミックのストーリーから言うと、最初の「巨大戦艦建造計画」を主人公が卓越した数学(論理)で阻止するエピソードが映画化された、と言う内容になるといっていいと思います。

コミックはその後、海軍省内の「大艦巨砲主義と」と「航空主兵論」の争い、満州支配や中国進出、ドイツとの同盟等の外交課題等をめぐる陸軍内部の統制派、皇道派の暗闘、次第に強化される軍部の発言力などを、515事件、相沢事件(永田鉄山暗殺事件)、226事件等の史実を織り交ぜながら辿り、その要所要所で主人公の数学力が一定の影響力を発揮していく、と言う展開になるのですが、もちろん映画ではそこまでの展開は一切触れられることはありません。(映画冒頭に「大和」が坊ノ沖で撃沈されるシーンはありますが)

映画版では、先述の「大和」撃沈のシーンに引き続き、1933年ワシントン条約に従い艦齢が20年を超える金剛級戦艦の代艦建造が議論される場面に、時は遡ります。

史実では条約制限に従い、平賀案と艦政本部案(藤本案)の二案が提出され(案そのものは本稿 第17回 八四艦隊の成立と金剛代艦級計画 :もう一つのワシントン海軍軍縮条約下で - 相州の、1:1250スケール艦船模型ブログ 主力艦の変遷を追って

で、紹介しています)、その後のロンドン条約締結により新戦艦建造禁止期間が延長されたため、計画が立ち消えになるのですが、映画では、「航空主兵論」を掲げる当時の第1航空戦隊司令官山本五十六少将(舘ひろし)が推す藤岡造船少将(藤本少将がモデル?コミックも一緒)が代艦として「空母案」を提出するのに対し、平山造船中将(田中泯:平賀中将がモデル?)が6万トンを超える巨大戦艦案を提示します。(ワシントン条約下では代艦の新造戦艦には35,000トンの制限があったはずなのですが、なぜか一方の代艦提案は空母案であり、もう一方はデザインは史実の平賀案の金剛代艦そのものなのですが、18インチ主砲登載の6万トンの巨大戦艦(「大和」を彷彿とさせる)となっています。映画的な制約から、対立軸と山本側(主人公の属する側)のその後の史実を踏まえた「神の目」的視点での先見性・正当性を明確にするための設定であることは理解できますし、ストーリーそのものには何の齟齬もありませんが、ちょっと「アレ?」という感じですね。条約は史実では1934年の日本の脱退宣言で1936年に失効するのですが、それがこの時点で既定路線となっていた、と解釈すれば・・・)

コミックではここまでの史実との齟齬はなく、藤岡=藤本少将は、空母案ではなく、対空兵装を充実した空母に帯同できる高速戦艦案を提出します。条約制限内、とはコミックでも明言されていませんが)

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ja.wikipedia.org

 

この平山案の巨大戦艦の建造費が、藤岡案の空母案(コミックでは、藤岡少将の空母機動部隊に帯同できる高速戦艦)よりも下回ることに疑義を抱いた山本が、数学の天才(菅田将暉)を主計少佐に抜擢し、この主計少佐が理詰めで疑惑を解明してゆくという筋立てになっています。

議論の顛末としては、「単艦の建造費としては安すぎる」の疑念を皮切りに、「抱き合わせ発注等の不正発注が行なわれている」と言うことが発覚し、国家予算〈税金〉の用途に不正がある、と言うことを論拠に建造を阻止しようとするのですが、それに対し「建艦費用をありのまま開示などしてしまえば、どの規模の艦を建造しようとしているのか、最重要な軍事機密が守れない。そのような覚悟で建艦費用は粉飾されているのだ」と平山中将が「大人の」反論で開き直り、切り抜けられてしまいます。

このエピソードの結着としては、建造費用試算の途上、主人公が純粋に数学的見地から平山案の捩れ強度不足に気付き、その指摘を受けた平山中将が自らの不明を恥じ設計案を「欠陥戦艦を作るわけにはいかない」と、あっさり取り下げる、というオチでした。

コミック版ではこの件が縁でやがて史実の「第四艦隊事件:友鶴事件」に結びつき、巨大戦艦建造計画に対する強度計算式の共有から、平山中将と主人公の間に微妙な(対立と論理に対する敬意が入り混じる?)関係が産まれたりします。

ja.wikipedia.org

 

巨大戦艦建造の意義

では、何故、巨大戦艦建造がそれほど強く望まれ、あるいは何故、強く阻止しなければならなかったか?

それは他者を圧倒する戦力を「象徴」として、戦争を抑止する力として使いこなせると信じるか、信じることができないか、ということだ、というのが、この映画で語られていたことだったのではないかと思います。

「国力の象徴に相応しい名前はもう考えてあるのです」と設計者の平山中将は言います。「大和です」と。

一方、映画中でしきりに「世界最大最強の戦艦など持ったら、戦争に勝てる、と思ってしまうかもしれない」というようなセリフが出てきます。「だから、この計画は終わらせねばならない」と。抑止力が開戦の動機になってしまう、という訳です。

そして、最後のシーンで平山中将は主人公を招き、「大和」の木型模型を見せながら、対米戦争の無謀さに理解を示し、その上で「この船が沈むことで、戦争を終わらせることができる」と自らの主張する「象徴」の究極の意味を吐露したりするのですが。(平山中将を演じる田中泯さんは光っていました)

やや手前味噌的にいうと、本稿では主力艦(戦艦)の変遷をたどることにより、その変化、発達に込められたその時代の海軍戦術、思想の片鱗を理解する、ということを目的の一つにしてきたつもりなのですが、それはある意味、この船は何のために建造されたのか、ということであり、主力艦としての「象徴性」の意味を追う、という視点では何か通じるところがあるのかな、と感じました。

しかし、史実を見ると『大和」の建造は最高機密で、今でこそ戦艦「大和」「武藏」の名は広く知られていますが、戦時中の国民はその存在をほとんど知らされておらず、「象徴」たりえなかったのではないのかな、とか・・・。

 

一方で、この映画では「航空主兵論」が巨大戦艦建造の対立軸として上がって来ている訳ですが、昭和のこの時期(一桁の時期)、用兵側の考える戦力の「象徴」に大きな変化の始まった時代でもあったのだなあ、と改めて感じました。

この映画で扱われている時期から、およそ7年の間に、日本海軍の「航空主兵論」は、6隻の正規空母、97式艦上攻撃機、91式航空魚雷のいわゆる3点セット(零式艦上戦闘機を加えてもいいかもしれません)と、日中戦争で実戦経験を積んだ搭乗員達の技量で頂点を迎え、少なくとも短期優勢の確立には確信を持てる可能性を見出せるところまで持っていきます。

そして大戦の間、それまで長らく国威の「象徴」であったはずの戦艦群は、ほとんど戦局に寄与することなく時を費やしてゆきます。

 

とまあ、筆者としては色々と楽しめる映画だったのですが、一般的にはどうなんでしょうか?主演の菅田さんのファンは、どう思って見ているんだろうか?(そもそもこの映画を見てるんだろうか?)

さらには、そもそも原作コミックは売れているんでしょうかね?冒頭にも述べましたが、現在17巻で、まだ1937年です。筆者のような者から見れば、マニアックな内容満載で、細部にツッコミどころはあるものの、「よく書いてくれた」というような作品でとにかく楽しみにしています。また、戦争終結までまだ8年、あるいは筋からいうと開戦まで4年、かもしれませんが、個人的にはどんな展開にしてくださるのか楽しみではあるのですが、どんな読者がついて来ているんだろうか、と少し疑問に思ったりしています。

 

夏のオススメの一作は?、ときかれた時には、やっぱり「天気の子」と言っちゃうんだろうなあ。

 

 

アルキメデスの大戦」について、是非、ご感想をお聞かせください。映画でも、コミックでも。よろしくお願いいたします。

 

大和級戦艦のディテイル・アップデート

さて、大和関連話題、ということで(?)、大和級戦艦について、Neptune社製「武藏」が入手できたので、少しご紹介を。f:id:fw688i:20190810124600j:image

 このモデルは「武藏」の最終形態を現わしています。

 

大和級戦艦の改装 :「武藏」の対空兵装改装

大和級戦艦はその新造時の設計では、6インチ三連装副砲塔を4基、上部構造の前後左右に配置した設計でしが、一連の既存戦艦の近代化改装の方針である対空戦闘能力の向上に則り、両舷の副砲塔を撤去し、対空兵装に換装しました。

史実では、3番艦「信濃」は、建造途中に設計変更され空母として完成しました。

一方、「大和」「武藏」は1944年に上記の両舷の副砲塔を撤去し、対空兵装を充実し、電探装備を追加する改装を受けました。その際に「大和」は12.7センチ連装高角砲を従来の6基から12基に増強しましたが、「武藏」は高角砲の砲台までは準備できたのですが、高角砲の準備が間に合わず、代わりに25ミリ3連装対空機関砲を増加搭載して、マリアナ沖海戦に臨むことになりました。

「武藏」は、結局、マリアナ海戦後も連装高角砲の増設を受けることなく、引き続きレイテ沖海戦に向かい、損害担当艦として、目立つ塗装をして臨んだ、と言われていますが、多数の航空機の酋長攻撃を受け、シブヤン海に沈みました。

 

(直下の写真は対空兵装増強後の「大和」。両舷の副砲塔が撤去され、12.7センチ連装高角砲が左右両舷に各3基、増強された。但し、18インチ主砲のブラスト防止用のシールドは下部の砲台にしか装備されていない)

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(直下の写真は対空兵装増強後の「武藏」。両舷の副砲塔は撤去され、高角砲台は設置されたが、12.7 センチ連装高角砲が間に合わず、代わりに25mm三連装対空機関砲が設置されている)

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(直下の写真は、対空兵装増強後の「大和」「武藏」 のそれぞれの上部構造の拡大。上:「大和」、下:「武藏」。連装高角砲の増設の有無がよくわかる)

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(以下に、本稿でご紹介してきた大和級戦艦の改装についても、再掲(一部加筆)しておきます) 

日本海軍の新型戦艦

 満州における資源確保で、ある程度の経済基盤を保有したかに見える日本であったが、やはりその国力を考えると、米国には遠く及ばず、従ってその主力艦状況でも物量的に米海軍を凌ぐことは不可能であることは明白であった。

そのため、新型戦艦には、これまで通り個艦の性能で米艦を上回ることが求められ、その設計の帰結が大和級戦艦となって具現化した。

 

大和型戦艦 - Wikipedia

ja.wikipedia.org

en.wikipedia.org

同級の計画時にはまだワシントン海軍軍縮条約が有効であったために、その主砲は前級である相模級と同様、新型55口径16インチと公承されていたが、実は条約の制限を超える18インチ砲であった。

集中防御方式を推進し、艦型そのものは大変コンパクトであった。塔式の前檣や、集合式の新設計の通信アンテナ、強烈な主砲爆風対策のための格納式航空兵像、内火艇収納庫、シールド付きの対空砲座など、新機軸が多数採用された。

相模 級戦艦で実績のある18インチ砲ではあったが、同級は新設計の砲を新設計の三連装砲塔に搭載した。さらに27ノットの高速で機動性にも優れる戦艦として設計された。高い機動性と強力な砲力で常に相手に対し優位な位置からのアウトレンジを実施し、相手を圧倒することを実現できることが目指された。

(1941-: 64,000t, 27 knot, 18in *3*3, 3 ships, 215mm in 1:1250 by Konishi/Neptun) 

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大和級の2隻:武蔵(手前)、大和。就役時には、副砲塔を上部構造の前後左右に4基配置した) 

 

本稿の大和級戦艦の改装

本稿では、史実からほぼ2年遅れで、第二次世界大戦が始まり、日米開戦もほぼ2年遅れとなったため、大和級戦艦は3番艦の「信濃」まで建造される。

3番艦の「信濃」は日米開戦後の竣工となったため、戦訓を踏まえ新造時から対空兵装増強型で完成され、かつその対空砲として新型の長10センチ連装対空砲を採用した。

(直下の写真は「信濃」)

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また「武藏」も「大和」に僅かに遅れて連装対空砲の増設を受け、「大和」と同様の対空兵装増強を完了した。

(直下の写真は大和級戦艦3隻:手前から信濃、武蔵、大和 の順。信濃は上記のように当初から対空兵装強化型として建造され、対空砲として新型の長10センチ連装砲を採用していた)

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(直下の写真は、大和級の上部構造3態の詳細。上:「大和」「武藏」の最終形態。中:「武藏」の改装途上形態。下:「信濃」の長10センチ連装高角砲の装備形態)
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順序が複雑になってしまいましたね。わかりにくい。

どこかで整理が必要かもしれません。が、今回はここまででご勘弁を。

 

さて、次回から(必ずしも次週ではありません)、特に大きなトピックがなければ、そろそろ海上自衛隊護衛艦開発史のシリーズを展開しようかと考えています。(もちろん、海自版「大和」も含めて?!)

 

***模型についてのお問い合わせ、お待ちしています。或いは、**vs++の比較リクエストなどあれば、是非お知らせください。

 

これまで本稿に登場した各艦の情報を下記に国別にまとめました。

fw688i.hatenadiary.jp

内容は当ブログの内容と同様ですが、詳しい情報をご覧になりたい時などに、辞書がわりに使っていただければ幸いです。