相州の、ほぼ週刊、1:1250 Scale 艦船模型ブログ

1:1250スケールの艦船模型コレクションをご紹介。実在艦から未成艦、架空艦まで、系統的な紹介を目指します。

究極の架空戦艦「H-45型」戦艦の完成

ようやく「H-45型」戦艦が完成。

今回はそのお話を。f:id:fw688i:20240414103746j:image

 

完全な架空艦「H-45型」戦艦

本稿では1936年のナチス・ドイツによる再軍備宣言と、英独海軍協定により、ドイツ海軍が第一次世界大戦後のベルサイユ体制下での軍備制限から解放され、有名な「Z計画」による海軍の再生に着手した経緯等をいくつかの投稿で記述してきました。そして更に「H級」と称される一群の未成戦艦のモデルのご紹介をしてきました。

fw688i.hatenablog.com

ドイツ海軍の誇る「ビスマルク級」戦艦2隻の計画時の仮称が戦艦「F」「G」で、その次に着工された戦艦の計画艦名が「H」であったことから、第二次世界大戦の勃発で全て計画段階で中止になったこれらの一連の未成戦艦を「H級」と総称するのですが、それらは「H-39型」から「H-44型」として計画が残されています。

これら各形式についての詳細は、冒頭の本稿の投稿を読んでいただくとして、諸型式には設計の実現性に彩りがあることが知られており、「H-39型」から「H-41型」までは、障害はあるものの建造が実現可能な設計。これに対し「「H-42型」以降は研究段階の設計案という「淡い」段階の設計案で、特に10万トンをこえる巨大な船体となるため、建造方法の段階から研究が必要であったであろうと、言われています。

下記のサイトではこれらの諸型式について、図面なども多用しながら大変よく纏まってご紹介されていて、大変興味深いので是非ご覧になってみてください。

myplace.frontier.com

そして同サイトでは上述の計画のあった「H級」の諸型式の他に、「H-45型」という形式が紹介されています。

「H-45型」は1990年代に「ゼーアドラー」というペンネームの何者かが、「ヒトラーが実在する「グスタフ列車砲(800mm砲)」を主砲として搭載する戦艦のアイディアについて語った」という「都市伝説的」な設定(史実なのかどうか?)のみを拠り所として、「800mm砲搭載に適合する戦艦」として発想された設計案であると紹介されています(投稿には図面が掲載されてます。「ただしなんの根拠もないよ、でもこういう自由な設定は楽しいから、いいんだよ。どんどんいこう」的なコメント付きです:Let us state for the record that there is absolutely nothing wrong with making up purely fictional ship designs for wargames. We do it all the time. It can be fun. It only becomes a problem when people start to believe that these designs were real. Since these are fictional designs, it is difficult to impossible to find good, reliable references on them. We are forced to rely on saved pictures and saved bits of text from defunct websites, as well as personal memories. So, here we present some more-or-less fictional designs that readers might find on the internet:「H45型」に関するコラムの冒頭部分をそのまま引用しています。fictional designsが何度も出てきて、ちょっと嬉しいですね)

(上図は「H45型」(上記のコラムでは”The (mostly) Fictional H-45 Design”とタイトルがついています)と称して紹介された「オバケ戦艦」:上図の上左に「ビスマルク級」の図が対比として載っているので、大体の大きさがわかっていただけるかと

 

架空戦艦「H-45型」のモデルがついに完成

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(「H-45型」戦艦の概観:487mm in 1:1250 by semi-scrached XP Forge model)
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直上の写真は完成したモデルのアップ:巨大な800mm主砲塔を中心に、副砲塔など、「If艦」「架空艦」にありがちな武装満載感が伝わるでしょうか?上段写真では、主砲塔の前には露払い的な副砲塔がみえるのですが、これは「シャルンホルスト級」戦艦の主砲を副砲として搭載しているもので、主砲の巨大さがわかっていただけるかと。そしてその背後の上部構造物の力強いフォルムも印象的だなあと思うカットです)

既述のように、この「H-45型」は完全な架空艦で公式な資料などは、おそらく存在しません。

しかし、資料の提供元である上掲のサイトには、様々なデータが記載されていますので、そこをかいつまんでご紹介しておきます。

満載排水量は617,000トンとされています(「ビスマルク級」戦艦の満載排水量は50,300トン、「大和級」は72,800トン)。全長609m、全幅91.4m(「ビスマルク級」は全長251m、全幅36m、「大和級」は全長263.4m、全幅38.9m)、480,000馬力の機関(後述の航続距離から推測しておそらくオールディーゼル?)を搭載し(「ビスマルク級」の機関出力は137,000馬力、「大和級」は150,000馬力)、8軸推進で28ノットの速力を発揮する設計でした。航続距離は20ノットの速力で30,000浬(「ビスマルク級」は19ノットで8,525浬、「大和級」は16ノットで7,200浬)でした。

 

「H-45型」戦艦とはどの程度の規模の船なのか

カタログデータは上述の通りなのですが、大きさを直感的に理解していただくために、既存艦の代表としてドイツ海軍最大の戦艦である「ティルピッツ」と、筆者の1:1250スケールモデルのコレクション中、最大のドイツ海軍「H-44型」戦艦と比べてみましょう。f:id:fw688i:20240414102322j:image

(下から「ティルピッツ」201mm in 1:1250、「H-44型」293mm in 1;1250、「H-45型」487mm in 1;1250 の順)

617,000トンというあまりピンとこない規模の「H-45型」の規模をなんとなく実感していただけたなら、幸いです。

 

参考までに

ビスマルク級」戦艦(1940年から就役:同型艦2隻);ドイツ海軍最大の戦艦

ja.wikipedia.org

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(「ビスマルク級」戦艦の概観:201mm in 1:1250 by Neptun:写真は二番艦「ティルピッツ」)

 

「H-44型」戦艦:「H級」シリーズの最終形、記録が残っている戦艦としては史上最大の戦艦

(「H-44型」の概観:293mm in 1:1250 by Albert:「H-44型」戦艦は設計案等の記録が残っている戦艦としては、史上最大の規模の艦と言われています)

 

「H-45型」の武装(サイト記載の情報から)

同サイトでは、「H-45型」の武装を以下のように紹介しています。

主砲:800mm砲8門(連装砲塔4基)

副砲:73口径240mm重対空砲12門(単装砲12基):「重対空砲:長距離対空砲」と銘打たれてはいますが、240mmという口径から考えても、想定される射程距離を考慮しても、両用砲と考えるのが至当だと思っています。

対空砲:60口径128mm重対空砲24門(連装砲12基)

その他:77口径50mm砲5門、30mm対空砲58門

搭載機:15機

 

「H-45型」の武装(完成したモデルでは)

しかし今回製作したモデルは、モデルに付随していた武装パーツ等に、上記にはない三連装副砲塔などが含まれており、これに刺激を受けた筆者の妄想も加味され、武装に関しては全く別物と言って良いほどに異なっています。

主砲:800mm砲8門(連装砲塔4基)

副砲:54.5口径280mm砲27門(三連装砲塔9基)

長距離対空砲:73口径240mm重対空砲12門(単装砲12基)

対空砲:60口径128mm重対空砲24門(連装砲12基)

その他:30mm対空砲72門(連装砲座36基) 50mm両用砲12門(三連装装甲砲塔4基)

そして搭載機については、これは筆者の独断的な妄想で以下のように設定しています。

搭載機:中型飛行艇3機、水上偵察機9機 射出用カタパルト4基

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(「H-45型」戦艦の主要部分の拡大:兵装の配置としては、艦首部の対空砲座を経て、800mm連装主砲塔2基とそれを取り囲む配置の副砲塔(54.5口径280mm三連装砲塔)と240mm重対空砲単装砲塔(写真上段)、艦橋部と周辺の対空砲座群、艦中央部の副砲塔、重対空砲、128mm連装対空砲群、上部構造最上部の50mm三連装対空砲装甲砲塔、大きな煙突その周辺の大型クレーン等、さらに後部艦橋とその周辺の対空砲座群(写真中段)、後部主砲塔2基とその周辺の副砲塔、重対空砲単装砲塔、そして艦尾には航空艤装甲板、4基のカタパルト(うち1基は中型飛行艇射出用の大型)、航空機格納庫へのエレベータ、艦尾の対空砲座群、クレーン等を見ることができます(写真下段))

 

「H-45型」主要兵装の話

モデルの概観はこれくらいにして、「H-45型」の主要兵装を見ていきましょう。

主砲:800mm 砲

ja.wikipedia.org

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(上の写真は800mm連装主砲塔のアップ:そばに設定された副砲塔は「シャルンホルスト級」戦艦の主砲塔ですので、破格の大きさであることはわかっていただけるかと)

800mm砲は本来はフランスが独仏国境に建造した「マジノ要塞」攻略を目的に製造された巨砲です。クルップ社に3門が発注され2門が完成されました。完成した2門はそれぞれ「グスタフ」「ドーラ」という愛称で呼ばれることとなります。

砲身の重量は1350トン、砲身長47mに及ぶ巨大なカノン砲で、砲弾重量は弾種によって異なり4.8トンから7トンでした。射程距離はこれも砲弾により異なり30−40km、発射速度は1時間に3−4発程度でした。

オリジナルである実存した800mm砲は列車砲として運用されました。大型貨車4両を台車として、複線に貨車を並列配置し専用ディーゼル機関車2両で目的地まで牽引されました。

80cm列車砲 - Wikipedia から拝借した800mm列車砲の全景(上の写真:複線に貨車を並列配置、というのはこういうことです。これも模型ですね)と牽引に使用されたD331型ディーゼル機関車(下の写真:こちらは本物))

実戦ではその製造目的であった「マジノ要塞攻略戦」(1940年)には未完成状態で元より出番がなく、その後も1942年のクリミア半島セバストポリ要塞攻略戦」(最近、俄に脚光を浴びていますが)、「スターリングラード攻防戦」での実戦参加を数えるのみでした。

数度の実戦参加では、圧倒的な破壊力と命中精度では、航空攻撃などよりもはるかに効果的とされながらも、数回の実戦参加に留まったのは、移動手順の煩雑さ(目的地までのレール敷設、移動、組み立てに数週間を要しました)、それらを運用・支援する兵員・技術者が4000人規模に昇ること、制空権の確保後でなければ航空攻撃に対し全く無防備であること、などがあったとされています。

1945年のドイツ敗戦とともに爆破処分されました。

 

同砲を主砲として搭載した戦艦:このアイディアへの解としての「H-45型」

「この砲を搭載した戦艦を作ったら」とヒトラーが言ったとか、言わなかったとか、が「H-45型」戦艦への妄想の引き金となった、というお話は既述の通りです。同砲を搭載するにはどの程度の大きさの船が必要なんだろう、という興味から逆に弾き出されたのが「H-45型」戦艦の規模、ということになります。

戦艦に搭載したならば、確かに移動手段を考慮する必要はなくなります。さらに砲塔機構や装填機構も装備されますので、射撃速度も列車砲よりは改善されたはず。実在した世界最大の口径の艦砲とされる「大和」の46センチ砲が、照準等を考慮すると1.5分から2分に1発、というのが現実的な射撃速度だったという記述があったと記憶しますので、おそらく7分から10分に1発程度の射撃速度なら期待できたのではないかと。ちなみに46センチ砲の砲弾重量は1.4トン程度で最大射程42kmとされていますので、破壊力は圧倒的ながらも、射程距離ではほぼ同等と考えていいでしょう。さらに砲身の命数ですが、同砲が100発程度の射撃で砲身交換が必要とされていたのに対し、「大和」の46センチ砲は200発程度の射撃での交換を想定していたようですので、おそらく実用面ではそれほど大きな支障にはならなかったんではないかと考えます。

下の写真では、主砲塔の大きさを比較してみます。左から「H-45型」の800mm連装砲塔、「H-44型」の506mm連装砲塔、「ビスマルク級」の380mm連装砲塔の順で、800mm砲塔がいかに巨大かお分かりいただけるかと思います。

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副砲:280mm(54.5口径)砲

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(上の写真は副砲として塔刺された54.5口径280mm3連装砲塔の拡大)

この砲は、上掲のサイトには記述のない砲ということになります。

一方、モデル付属のパーツからは、形状・大きさ共に同砲としか考えられず、筆者の独断で筆者のストックパーツから選択することとしました。少しこだわったのは、同じ280mm砲でも、いわゆるポケット戦艦の搭載していた280mm砲(52口径)ではなく、「シャルンホルスト級」戦艦が搭載していた54.5口径砲としたところでしょうか。同砲は52口径280mm砲の砲弾重量の300kgからさらに重量弾化された315kgの徹甲弾を最大仰角40度で40,000 mまで届かせる能力を持っていたとされています。発射速度は毎分3.5発と速射性が高く、射程20,000mで英海軍の「レナウン級」巡洋戦艦の舷側装甲を、15,000mで当時の英海軍の主力戦艦「クイーン・エリザベス級」「リヴェンジ級」の舷側装甲を撃ち抜く能力があったとされていました。

これを3連装砲塔形式で9基搭載し、全周に対し、対艦戦闘の補助を果たすことが期待されていました。

 

長距離対空砲:240mm(9.45インチ)73口径重対空砲

ja.wikipedia.org

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(上下の写真は240mm重対空砲単装砲塔の拡大(両用砲と紹介すべきかも):上の写真では平射位置、下の写真では対空射撃時の仰角をかけた姿を表しています。「重対空砲」とはいうものの、実質は口径から見ても両用砲、つまり対艦戦闘時においても相当な期待をかけた砲だった、という解釈が適当ではないかと考えています)

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筆者は同砲についての具体的な情報を持っていません。実在したんでしょうか?

唯一参考になりそうなのは、上掲の24センチ・カノン砲。この砲はドイツ陸軍が保有していたカノン砲で、攻城砲として使用されました。37kmの最大射程を持ち151kgの砲弾を射出することができました。13mの砲身長を持つ砲でしたが、「H-45型」が搭載していたのは73口径ですので単純計算すると17m超えの砲身長を持つ砲となりますので、別物、ということになります。

実在した陸用砲では4分から5分に1発の射撃速度でしたが、砲塔機構、装填機構を持つ艦載砲、しかもこれを対空砲と想定して使用するとすれば、射撃速度は毎分10発程度は必要だったのではないでしょうか?しかも「H-45型」は後述する「128mm連装対空砲」も装備していますので、同砲を対空砲として使用する必要があったのかどうか、同砲搭載の狙いがどの辺りのレンジの防空権確保にあったのか、疑問が数多く湧いてきます。という次第ですので両用砲と見做して中間距離の対艦戦闘に加え対空戦闘への参加もできた、という解釈が妥当ではないでしょうか?

 

対空砲:128mm(5.04インチ)60口径高角砲 

ja.wikipedia.org

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(上の写真は「H-45型」戦艦の実質的な主力対空砲である60口径128mm連装対空砲の拡大:上段では艦上部構造物の中央部に配置された片舷6基の濃密な対空砲群を。下の写真は連装対空砲塔の拡大を)

60口径128mm連装対空砲は、筆者が知る限りでは第二次世界大戦期のドイツ軍が保有した最大の対空砲です(240mm重対空砲が実在しなかった、という前提ですので、誤りであれば平にご容赦を)。

大都市防空用にドイツ軍が都市防空用に建設した高射砲塔(フラックトゥルム)の屋上に設置された、と言えば、「ああ、あれか」と言っていただけるのではないでしょうか?「H-45型」ではこれを連装砲塔に格納して旋回性等の機動性を持たせて、主要対空砲とすることになったようです。前述の高射砲塔(フラックトゥルム)に設置された同型砲は最大射程は14.800m、有効射程10,000mで、毎分20発の射撃が可能で、「H-45型」に搭載されるものも、おそらく同じような性能を発揮できたのではないかと考えています。「ビスマルク級」等に搭載されていたのは一回り口径の小さな105mm砲を連装砲架に搭載した形で、128mm砲はこれよりも10%程度広い有効射程レンジを有していました。

 

その他の対空火器

「H-45型」はさらに近接対空火器として50mm砲や30mm対空砲を多数搭載、という仕様になっています。

サイト情報では、5基の50mm砲、58門の30mm対空砲が記述されていますが、モデルでは36基の連装対空砲座がモールドされており、つまり72門の30mm対空砲を搭載していたことになります。

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(上の写真は、30mm連装対空砲座の配置位置を示しています:上段から艦首部の10砲座、二段目では艦橋周辺の8砲座、三段目では後部艦橋周辺の10砲座、さらに下段では艦尾部の6砲座、これに加えて3番主砲塔の天蓋上に2基の砲座が設置されており、計36砲座が設置されています)

 

さらにモデルの艦上部構造物の最上階には4つのターレット跡がモールドされており、おそらく大きさから推察するとモデル製作者はここにも三連装副砲塔を載せようとしたようなのですが、艦重心に対する懸念等から、筆者はここに重い副砲塔を搭載することには抵抗があったため、ここには50mm対空砲の三連装装甲砲塔を乗せることとしました。同砲塔は対空戦闘はもちろんのこと、近距離の対水上戦闘にもその速射性と設置位置の高さからくる優位性で貢献するだろう、という設定です。

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(「H-45型」上部構造物の最上階の50mm三連装装甲砲塔の拡大:これはサイト情報にもモデルにもない設定で、筆者オリジナルの配置です)

 

艦尾の航空艤装・整備甲板

「H-45型」のモデルの艦尾には航空機用の設備があります。サイトにも搭載機15機の記述があり、強力な航空偵察能力を付与されていた設定になっています。

モデルの艦尾には航空機格納庫へのエレベーターがモールドされており、これを起点に筆者は幾分か想像の羽を膨らませました。

まずは航空機の移動用の軌条を置いてみます。さらにカタパルトを配置。15機という搭載機数と艦尾の広さから少し欲張って4基のカタパルトを装備することにします。

さらにこの規模の艦ならば中型の飛行艇も搭載しているかもしれない、などと妄想してみます。例えば艦の規模から言っても中型の飛行艇などは積めないかなあ、などと。

ドイツ軍の中型飛行艇と言えば、BV 138(ブロム・ウント・フォス:BV 138)なんてのが面白いですね。なかなか味のある機体です。

ja.wikipedia.org

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(BV 138の1:1250スケールモデル:BV 138の最大の特徴である双同型の機体、3発エンジン等も見事に再現されています。1:144スケールのモデルもどこかにあったはずだから、それも探してみよう

載せられないかなあと思ってエレベータとの寸法を当ててみると、あらら、BV 138の方が大きいよ。

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(エレベータの載せたカット:はみ出しちゃうなあ)

しかしそこは架空艦のことでもあるので、ではBV 138の両翼を折りたためるように改造したBV 138iを開発した、と言うことで強引に載せてしまいましょう。ついでに中型飛行艇射出用にカタパルトの1基を大型のものに変更します。

水上機揚収用のデリックも3基ほど設置してみましょう。

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(上の写真は艦尾の航空艤装・整備甲板の全景(上段):縦横に航空機の移動用の軌条が設置されています。そして艦尾の中央には、識別用(?)の金色のハーケンクロイツも(写真上段)。さらに左舷後方のカタパルトは中型飛行艇射出用の大型のものに(下段左)。艦尾部の中央には航空機格納甲板へのエレベータが設置されています(下段右))

というような経緯を経て、艦尾部の航空艤装・整備甲板も完成です。

 

ということで、最近本稿で数回に渡って記述してきた「究極の架空戦艦:H-45型」は一応完成を見ました。副砲塔の280mm砲の砲身の真鍮部品への換装など、まだ手を入れたい部分もなくはないのですが、一旦ここで「H-45型」のモデルについての記述は終了としたいと考えています。

再度、再生ドイツ海軍の「Z計画」の話など、全体を総覧する機会を近々設けるかもしれませんが、同艦はその際には「H級」戦艦の掉尾を飾る船として登場してもらうことになるでしょう。

とりあえず、今回はここまで。

 

次回は、うまくいけば筆者がこれまでを付けずにきた新たな分野のモデルがいくつか手元に届いているはずですので、そちらのご紹介などを予定しています。

 

もちろん、もし、「こんな企画できるか?」のようなアイディアがあれば、是非、お知らせください。

 

模型に関するご質問等は、いつでも大歓迎です。

特に「if艦」のアイディアなど、大歓迎です。作れるかどうかは保証しませんが。併せて「if艦」については、皆さんのストーリー案などお聞かせいただくと、もしかすると関連する艦船模型なども交えてご紹介できるかも。

もちろん本稿でとりあげた艦船模型以外のことでも、大歓迎です。

お気軽にお問い合わせ、修正情報、追加情報などお知らせください。

 

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架空戦艦「H-45型」戦艦の製作進捗:基本塗装の変更、各種艤装の作り込みへ

今回は先週に弾き続き「H-45型」戦艦の作業進捗のご紹介です。

鋭意、作業中ですので、今回は超簡単に先週からの進捗のアップデートを。

そもそも「H級」「H-45型」って何、とおっしゃる方は、お手数ですが前回投稿をご覧ください。

fw688i.hatenablog.com

 

基本色を明灰白色に変更

前回投稿では、基本船体色を「タミヤ・エナメルのミディアム・グレー(XF-20)、甲板にデザート・イエロー(XF-59)、武装パーツにスカイグレイ(XF-19)、各部にフラットアルミ(X F-16)、ライトシーグレー(XF-25)、クロームシルバー(XF-11)などで着色」とご紹介しました。

その上で仕上がりを「なんとなく全体にフワッとしている感じがします。メリハリが足りないような。船体色を明灰白色(XF-12)辺りにしたほうが・・・」と締めくくっていました。

と言う次第で、船体色を明灰白色(XF-12)に変更してみました。併せて主要な武装パーツも同色に変更。

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(「H-45型」の全景と各部の拡大(下の写真):対空火器類とクレーン等いくつかの艤装はすでに加工してあります:それぞれについては下の各部で詳述します:船体と上部構造の基本色は「明灰白色」に塗り替えてあります)

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(船体に身装着の武装パーツ:800mm 連想主砲塔と280mm三連装副砲塔:こちらも「明灰白色」をベースに各砲塔の天井部分はライトブルーに塗装してあります。加えて砲口をゴールドに)

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艦尾部の航空艤装甲板のディテイルアップ

今回の作業の大きな部分を占めたのは、艦尾部の航空艤装、整備甲板のディテイルアップです。前回投稿でもご紹介したように「H-45型」はゲームの中でのみ存在する、記録のない究極の架空戦艦ですので、航空艤装関係についてももちろん詳細な情報がありません。「H級」戦艦の情報源として筆者が頼りにしている下記のサイトでも、航空機15機搭載、と言う情報がある程度です。ある意味、好き放題に想像力を働かすことができる、と言うことでもあるのですが、あまりにも拠り所がなさすぎます。

myplace.frontier.com

上の図面でも、さらに手元にあるモデルでも、どうやら艦尾部に航空艤装甲板が想定されているようですので、それに従って模型製作を進めることにします。

艦尾部の中央にエレベータらしき施設が認められますので、それを中心に色々と想像の翼を広げることに。

15機搭載、と言うことのなのでカタパルトは最低2基は必要でしょうね。

まずは航空機の移動用の軌条を置いてみます。

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(航空機移動用軌条の設定:モデルではモールドされていないので、エレベーターを基軸にカタパルトへの誘導軌条を引いてゆきます

こう言う加工作業には、筆者が空母の飛行甲板の白線用に多用している0.5mmの白線テープが便利です。テープですのでそのままモデルへの接着ができるし、何より筆者の苦手なまっすぐな直線が手に入ります。

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(使用した0.5mm幅のテープ: カッター等で簡単に切断できるので、直線が欲しい時などは、大変重宝しています)

 

搭載機に関する妄想

さらに搭載しているのは水上偵察機だけだろうか、と疑問を置いてみます。例えば艦の規模から言っても中型の飛行艇などは積めないかなあ、などと。

中型飛行艇と言えば、BV 138(ブロム・ウント・フォス:BV 138)なんてのが面白いですね。なかなか味のある機体です。

ja.wikipedia.org

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(BV 138の1:1250スケールモデル:BV 138の最大の特徴である双同型の機体、3発エンジン等も見事に再現されています。1:144スケールのモデルもどこかにあったはずだから、それも探してみよう

載せられないかなあと思ってエレベータとの寸法を当ててみると、あらら、BV 138の方が大きいよ。

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(エレベータの載せたカット:はみ出しちゃうなあ)

しかしそこは架空艦のことでもあるので、ではBV 138の両翼を折りたためるように改造したBV 138iを開発した、と言うことで強引に載せてしまいましょう。

 

BV 138iの搭載によって、飛行艇用のカタパルトも載せてしまえ、と言うことで左舷後方のカタパルトを大型のものにします。

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(カタパルトのアップ:上段は左舷の2基、後方が飛行艇用の大型のものです。これで15トンのBV 138iが打ち出せるかどうか、改めて少し疑問が。でもまあいいとしましょう。中段は水上偵察機用のカタパルト2基:下段では水偵用のカタパルトと飛行艇用カタパルトの比較を)

と言うことで、完備の航空艤装甲板全景はこんな感じです。

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(艦尾部の航空艤装甲板:全景:航空機移動用軌条と4基のカタパルト、3基のクレーンを装備しています。中央の四角いプレートがエレベータなんでしょうね)

 

主要武装のセットアップ

まだ一部仮置きですが、主要武装を配置してゆきます。各砲塔の天井部分はライトブルー(XF-23)に塗装してあります。

主砲と副砲

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(上の写真は主要武装の仮おきをしてみたカット:280mm三連装副砲塔は元々ポケット戦艦や「シャルンホルスト級」戦艦の主砲なのですが、「H-45型」の800mm連想主砲と並んでしまうと、本当に小さく見えます:下の写真は各部の武装を拡大したもの)
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24センチ重対空砲

「H-45型」の目玉である24センチ重対空単装砲の一部の砲塔には、作動訓練中という想定で仰角や砲塔の向きに少し動きを与えてみます(下の写真の下段)。

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軽対空火器防座の設定

船体最上部には、色々と迷いましたが、やはり重量配置等を考慮して、結局、軽対空砲座を乗せることに。

f:id:fw688i:20240407160931j:imageThe 

(軽対空砲座のアップ:まだ砲座を設定しただけで、砲身をこれから接着してゆきます)

 

その他の艤装を搭載

艦橋周辺にセンサー類のドームを追加設定してみます。さらに測距儀もレーダー併載のものにアップグレードしてみます。

f:id:fw688i:20240407161529j:image

(艦橋部。後部艦橋周りのアップ:艦橋・後橋の頂点には測距儀とレーダーを設置。艦橋・後橋に組み込む形式でセンサードームを設定しました)

そして艦中央部の積載を担当するクレーンを設置。何を載せるんでしょうね。f:id:fw688i:20240407161526j:image

(艦中央部の大型クレーンのアップ)

 

と言うことで、現状はこんなところです。

完成まであと一歩、と言う感じかと。と、ここまできて、このモデル、艦載艇を一切搭載していないことに気がつきました。丁度、最上甲板にスペースがありますが、艦載艇の搭載場所としては海面までの距離が気になりますね。ちょっと考えてみます。

 

と言うわけで今回はこの辺りで。何かと作業に戻ります。

次回は「H-45型」戦艦の完成状態をお見せできるかなあ?あるいは新着モデルのご紹介かも。

もし、「こんな企画できるか?」のようなアイディアがあれば、是非、お知らせください。

 

模型に関するご質問等は、いつでも大歓迎です。

特に「if艦」のアイディアなど、大歓迎です。作れるかどうかは保証しませんが。併せて「if艦」については、皆さんのストーリー案などお聞かせいただくと、もしかすると関連する艦船模型なども交えてご紹介できるかも。

もちろん本稿でとりあげた艦船模型以外のことでも、大歓迎です。

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架空戦艦「H-45型」戦艦の製作進捗:下地処理と武装パーツの決定、基本彩色等

今回は筆者が最近入手した「究極の架空艦」ナチス・ドイツ海軍の「H-45型」戦艦のモデルの製作アップデートです。

前回投稿はこちら。

fw688i.hatenablog.com

さらに本稿では下記の回で、ナチス・ドイツ海軍の未成艦の一環として「H級」と呼ばれる一連の未成戦艦のシリーズを紹介しました

fw688i.hatenablog.com

「H-45型」とは、この一連の「H級」戦艦の最終形、というか、実は計画すらなく、ゲームの世界のみで存在する、妄想の集積から生まれた、そういう意味で冒頭に記述した「究極の架空艦」なのです。

 

では「H 級」戦艦とは何か

背景をおさらいしておくと、第一次世界大戦に敗れたドイツ帝国は、帝国自体が崩壊。新たに生まれた共和国はヴェルサイユ体制下で厳しい軍備制限を受けます。海軍ももちろん同様で、この制限下で、新生ドイツ海軍は沿岸警備程度の規模・装備を持つ海軍に止められようとしていました。

厳しい戦後賠償と世界恐慌が重なり、混乱する世情を背景にドイツにヒトラーを総帥とするナチス党が台頭し、やがて彼らが政権を握ると、1935年3月にヴェルサイユ条約の破棄と再軍備を宣言。さらに同年6月に締結された英独海軍協定で事実上の軍備制約が撤廃されると、新生ドイツ海軍は大建艦計画「Z計画」を発動させます。

この「Z計画」ではヴェルサイユ体制下では保有を許されなかった本格的戦艦の建造も組み込まれており、その第一陣は「ビスマルク級」戦艦2隻(「ビスマルク」「ティルピッツ」)として建造されました。両艦の「Z計画」における計画艦名が「F」「G」であり、これに続く一連の戦艦群をその最初の艦の計画艦名「H」を冠して「H級」戦艦という総称で、世に知られることとなるわけです。

「H級」戦艦は1939年に着工された「H」「J」、38年度計画において予算承認された「K」「L」、さらに計画が具体化しつつあった「M」「N」と6隻の建造計画が具体化されており、それぞれ計画の進捗レベルは異なりましたが、いずれも第二次世界大戦の勃発で中止となりました。

 

というような次第で、「H級」戦艦は世に存在しなかった軍艦、つまり未成艦なのですが、下のURLで計画の全貌について実によくまとめられた文章を読んでいただくことができます。

myplace.frontier.com

原典も複数にあたっていらっしゃって、細部の比較も実に興味深い。関心がある方にとっては、スペック表、図面なども揃っていて「よだれの出るような情報満載」(だと筆者は思っています)ですので、ご一読をお勧めします(「英語かよ」とおっしゃる方も、Google翻訳でかなりの精度で大意が取れると思います。少し表現のおかしなところは、概ね専門用語、軍事用語絡みですから、多分、そこは皆さんの「マニア・マインド」がカバーしてくれるはず)。

 

「H級」戦艦の諸形式

第一グループ:建造可能な設計「H-39型」から「H-41型」

「H-39 型」

実際には「H-39型」と言われる「H」艦「J」艦の2隻は(「I」の文字は数字の「1」等と誤りやすいという理由で欠番となっています)、1939年に着工されましたが、第二次世界大戦の勃発で建造中止となりました。

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(上の写真は「H-39型」戦艦の概観:224mm in 1:1250 by Neptun: 「ビスマルク級」をタイプシップとして、それに準じた兵装配置であることがよくわかると思います)

「H-39型」は、「ビスマルク級」戦艦の拡大改良型で、「ビスマルク級」では実現できなかった機関のオール・ディーゼル化を目指した設計案です。大型ディーゼル機関の搭載により30ノットの高速と、長大な航続距離を併せ持った設計でした。機関の巨大化により船体も55000トンに達しています(「ビスマルク級」は41700トン)。主砲口径は「ビスマルク級」よりも一回り大きな40.6センチ砲として、これを連装砲塔4基に搭載していました。

全体的な概観や兵装配置は「ビズマルク級」を踏襲しており、大きな外観的な特徴としては巨大な機関搭載により煙突が2本に増えたことと、航空機関連の艤装が艦尾に移されたことくらいでした。

 

これに続く「K」「L」「M」「N」までは「H-40a型」「H-40b型」「H-41型」などと呼ばれる実現可能な設計案が準備されていたと言われています。

「H-41型」

(上の写真は筆者版「H-41型」戦艦の概観:232mm in 1:1250 by semi-scratch based on Superior:「筆者版」の種を明かすと1:1200スケールのSuperior製H-class(おそらく「H-39型」)をベースにしています(≒Superior社の1:1200スケールのひと回り大きな「H-39型」を1:1250スケールの「H-41型」のベースとして流用している、と言う訳です)。筆者が知る限り、「H-41型」の1:1250スケールモデルはAlbert社からのみ市販されていますが、未だ見たことがありません)

この「H級」シリーズの実現性のある設計案の最後の「H-41型」は、「H-39型」の主砲の強化を狙った設計案でした。排水量68000トン(「大和級」並)の船体に、42センチ(連装砲塔4基搭載)の口径の主砲を搭載し、機関は再びオールディーゼルとして速力28.8ノットを発揮するというスペックでした。

 

第二グループ:研究段階の「H-42型」から「H-44型」

「H級」計画は、さらに、研究段階の設計案として「H42 型」「H43 型」「H44型」と続いています。どうも「ナチス・ドイツ」の兵器設計の常、というか(架空戦記小説から筆者が影響を受けているだけかもしれませんが)「大きく強く」のような発想が色濃く見受けられる(あくまで筆者の私見ですが)計画案が多いように感じています。いずれも強大な船であり、既に「H-41型」ですら建造施設に課題が見つかっている(従来の施設や機材では建造が難しかっただろう、と言うことですね)ことから、これらの建造についてはドライ・ドックでの建造等、建造方法についても研究・検討が必要だっただろうと上掲の文書では記述しています。

 

「H-44型」

「H-44型」は公式な設計案が残る史上最大の戦艦とされています。排水量130000トン、 50.6センチ(20インチ)砲8門を主砲として搭載し、ディーゼルと蒸気タービンの併載で29.8ノットを発揮する、というスペック案が残っています。複数の枝記号を持つ図面が見つかっており、設計案が複数あったかもしれません

(「H-44型」の概観:293mm in 1:1250 by Albert: 破格の大きさで、いつも筆者が使っている海面背景には収まりません。仕方なくやや味気のない背景で。下の写真は「H-44型」の兵装配置を主とした拡大カット:巨大な20インチ連装主砲塔(上段)から艦中央部には比較的見慣れた副砲塔や高角砲塔群が比較的オーソドックスな配置で(中段)。そして再び艦尾部の巨大な20インチ連装主砲塔へ(下段))

この辺りの資料は「研究段階の計画艦」ということもあって「諸説」が残っていて調べ出すとキリがありません。何か面白い資料をご存知の方、ぜひ教えてください。

「H-44型」のフルハルモデル

この第二グループ「H-42型」以降の形式では、魚雷防御の強化に重点の一つが置かれています。背景には、第二次世界大戦で舵に被雷して行動の自由を失った「ビスマルク」の戦訓があり、舵と推進器の損害を防ぐ構造が取り入れられていました。

実は上掲のサイトにも以下のような記述が出てきます。

"From this 'H-42' design onwards, efforts were made to give rudders and propellers maximum protection by extending the stern of the ship in the shape of two side fins forming a kind of tunnel and protecting the rudder and propellers from the sides. This design was to offer protection against the kind of fateful torpedo hits sustaned by Bismarck. The effect such a stern would have on manoeuvrability of so large a ship was not looked into and extensive model tests would have been necessary before such a project could have been carried out." 

抄訳すると「「ビスマルク」に致命的な損害を与えた魚雷攻撃への防御強化策として、一種の「覆われた船尾」を装備している」とされています。「舵とスクリューを魚雷の打撃から保護するための両側にサイドフィンが装備されている」ということです。併せて「このような設計の船尾構造が巨大な戦艦の操縦性にどのような影響を与えたかは検証が必要だっただろう」とも述べています。

「覆われた船尾」とは、いったいどんな艦尾構造なんだろうか、という興味が湧き上がっていたところに、筆者がAlbert製の「H級」戦艦のモデルを探していると伝えたいつもモデル調達では大変お世話になっているE-bay出品者から、「Arbert社の「H級」戦艦なら、ハル部分(船底部分)のモデルもセットできるけど」と嬉しい連絡をいただき、「モデルがあるのなら、是非とも」という次第で入手に至ったと言う経緯があります。

下の写真は、その艦尾構造のアップ。なるほどそういうことか、という写真です。舵とプロペラは分かりやすい様にゴールドで彩色してみました。by extending the stern of the ship in the shape of two side fins forming a kind of tunnel and protecting the rudder and propellers from the sides. :英語ではこんなふうに説明するんだなあ、などと感心しています。特にa kind of tunnelがあまりイメージできなかったのですが、ああ。こういうことなのか、と。百聞は一見に如かず、というやつですかね)

この「ハル」のモデルが手に入ったので、船体上部と合わせて見たのが下の写真です。

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(上の写真は「H44型」モデルの概要:入手した艦底部分にウォータラインモデルを乗せただけで、接着していないので隙間等見えますが、ご容赦を)

 

Z計画の戦艦総覧

ということで「Z計画」の戦艦群の手持ちのモデルを一覧したものが下の写真です。船体の大型化が理解していただけるかも。下から順に「ビスマルク級」(42000トン) by Neptun 、「H-39型」(55000トン) by Neptun、「H-41型」(68000トン)by  semi-scratch based on Superior、そして「H-44型」(130000トン) by Albert の順です。

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 そして「究極の架空艦」=「H-45型」の製作進捗

まず「H-45型」戦艦について

少しおさらいです。

これまで上記投稿でご紹介してきた「H級」の諸型式は第二グループにせよ研究段階という「淡い」状態ながらも何らか計画があったことが確認されていますが、もう一つ「都市伝説的」な型式「H-45型」が、The Wells Brothers' Battleship Index: Debunking the Later H-class Battleships では紹介されています。

「H-45型」は一切の公式な記録がなく、つまりこれまでゲームの中でしか語られた事のない「実存しない都市伝説的な設計案」なのです。

「都市伝説的な」とご紹介したのは、この設計案が、ヒトラーがグスタフ列車砲(800mm砲)を主砲として搭載する戦艦のアイディアについて語った、という逸話(史実なのかどうか?)のみを拠り所として、考えられているからです。(これまでご紹介してきた投稿には図面が掲載されてます。「ただしなんの根拠もないよ、でもこういう自由な設定は楽しいから、いいんだよ。どんどんいこう」的なコメント付きです:Let us state for the record that there is absolutely nothing wrong with making up purely fictional ship designs for wargames. We do it all the time. It can be fun. It only becomes a problem when people start to believe that these designs were real. Since these are fictional designs, it is difficult to impossible to find good, reliable references on them. We are forced to rely on saved pictures and saved bits of text from defunct websites, as well as personal memories. So, here we present some more-or-less fictional designs that readers might find on the internet:「H45型」に関するコラムの冒頭部分をそのまま引用しています。fictional designsが何度も出てきて、ちょっと嬉しいですね)

同サイトに掲載されていた図面(と言っていいのか想像図・もはや妄想図(?)と言うべきか)がこちらです。

(上図は「H-45型」(上記のコラムでは”The (mostly) Fictional H-45 Design”とタイトルがついています)と称して紹介された「オバケ戦艦」:上図の上左に「ビスマルク級」の図が対比として載っているので、大体の大きさがわかっていただけるかと)

さらに上掲のサイトでの紹介では、55万トン(一説では70万トン)、全長609メートル、80センチ主砲(グスタフ列車砲)搭載、なんと28ノットの速度が出せる、とコメントされています。

この「H-45型」には、驚くべきことに(嬉しいことに!)、1:1250スケールの3D printing modelが市販されていて、xpforge.comで入手可能です。

Battleship - H-45 - What If - German Navy - Wargaming - Axis and Alies - Naval Miniature - Victory at Sea - US Navy - Tabletop - Warshipsxpforge.com

 

というような次第で発注をかけていたモデルが3月上旬に到着。2月4日の本稿投稿の直後の発注だったと記憶しますので、到着までに約1ヶ月を要したことになります(制作期間も考慮すれば、まあ順当はところでしょうね)。

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(写真は到着した「H-45型」のモデル:中央で2分割されてプリントアウトされた船体と、主砲塔(なぜか5基:予備を付けてくれた?)。さらに副砲や高角砲などの武装パーツが別袋にまとめられています)

前述のように、xpforge.comで指定できるスケールは1:1200で、ただし発注時に「1:1250スケールを希望」とメモをつけておけば、1:1250スケールでプリントアウトしてくださいます。かつ今回は、「砲塔類を全て別パーツにしておいてほしい」というスペシャルリクエストをしたところ、快く請けてもらえました。「ああ、それは簡単。ちょっと手間賃もらうけど」という感じで、ほんの少しだけサイトの掲載料金より高い請求が来ました。でも全て砲塔類をゴリゴリ撤去する手間と、その後の仕上げを考慮すると、断然、このお願いをしてよかったと思っています。言ってみるもんです。

 

まずは550000トンという船体がどの程度大きいか、上掲の「H-44型」と並べてみたカットを見ておきましょう。「大和級」とも並んでいるので、3者比較をしておくと65000トン(大和)、130000トン(「H-44型」)とはやはり桁違いに大きなモデルです。「H-44型」が上掲のように30センチ弱のモデルですので、50センチを超える長さ、ということになります。

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さらに前回の3月上旬の投稿で、すでにモデルのディテイルで気になっているところとして「主砲塔、特に砲身の太さ、長さ」と「艦橋、後橋の作りはあっさりとしすぎている」としてそれぞれ真鍮製砲身への変更や、ストックパーツへの置き換えをおこなっています。

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(真鍮製の砲身に換装した主砲塔(上段)とストックパーツへの入れ替えを行った艦橋と後橋(下段の2カット))

とここまでは3月10日投稿のおさらいです。

 

船体と主砲塔の下地処理

その後の作業で船体と主砲塔の下地処理(サーフェサーの塗布)を行いました。

このモデルは船体を2パーツに分けてプリントアウトされ手元に届きましたので、筆者が接合(下の写真上段の船体中央の白い部分が接合部の継ぎ目を埋めるパテ処理を行なった部分です)を行いました。下段では船体と主砲塔に下地処理を施した後の状態を表しています。

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さらに下の写真では下地処理後の船体各部の拡大を示しています。

モデルの船体には艦首部、上部構造、艦尾部等に対空機関砲座がモールドされています。さらに3種類の大きさの穴が多数空いています。これは副砲塔、24センチ重対空砲の単装砲塔、12.7センチ連装対空砲の設置箇所をそれぞれ示す砲塔基部としてモールドされています。

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実はこの主砲以外の兵装パーツがやや厄介で、3月10日投稿でも、下記のような記述をしています。

(以下、少し編集していますが3月10日の武装パーツに関する記述です)

武装パーツを見てみる

別袋の武装パーツは下の写真の3種類の砲兵装でした。

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上段:三連装副砲塔?:16基入っています。下段左:単装砲塔:重対空砲?これが15基付属しています。下段右:連装高角砲:これが21基入っています。

が、そもそも「H-45型」には主砲以外にはどんな兵装が想定されているのか、例のサイトを覗いてみたところ、以下のような記載を見ることができます。

Armament:
Main: 8 31.5" (80cm) Gustav siege guns (4 x 2)
Secondary: 12 9.45"/73 (24cm) Long Range AA guns (12 x 1)
Tertiary: 24 5.04"/60 (12.8cm) AA guns (12 x 2)
Light: 5.5cm/77 Gerat 58, 30mm AA guns

上から、主砲は800mm(31.5インチ)グスタフ砲 連装4基:これはこの通り。800mm列車砲は世界最大の口径の列車砲で、2門が生産されたのみです。「H-45型」はこれを8門搭載しているわけです。これは解決済み。

そして副砲(Secondary)として、240mm(9.45インチ)73口径重対空砲 単装砲塔12基:これが上掲の写真の左下段でしょうね。73口径という長い砲身を持った対空砲ですね。実在しないのではないかな。これも付属部品は砲身が太すぎる?

さらに128mm(5.04インチ)60口径高角砲 連装砲塔12基:これは「ビスマルク級」などが搭載していた高角砲(105mm)よりも口径の大きな高角砲ですね。(注:12.8cm Flak 40と言う正式名称で実在しました。これを連装砲塔で搭載したものですね)

さらに近接火器として55mm砲や30mm対空砲を多数搭載、という仕様になっています。

あれれ?なんとなんと、3連装砲塔に関する情報がどこにも記載されていません。上掲の表だけではなく、本文にも記述がありません(筆者は見つけられませんでした)。にもかかわらず、上掲の図には少なくとも4基の3連装砲塔が記載されているようです。図面では150mm級(軽巡洋艦なみ?)のように見えますが、モデルに付属しているものはもっと大きな口径の砲のように見えます。形状が似ているのは280mm(11インチ)3連装砲塔です。まあ、この辺りは最後に決めてもいいかも。いずれも筆者のストックパーツに置き換えましょう。

 

と言うことで、次は換装する武装パーツの決定の過程を。基本方針はモデル付属のパーツは使わずに、筆者のストックパーツのものから最も適したものに置き換えてゆくこととします。

いちばん波風の立たないところから、というわけではないですが、あまり迷わなくて良さそうな12.8センチ連装対空砲塔から。

連装対空砲塔:12.8cm対空砲

こちらは筆者のストックパーツからHansa製「O級巡洋戦艦の密閉型の連装砲塔を流用することにします。

(下の写真は「O級巡洋戦艦(Hansa製)の連装対空砲塔(上段)とモデルに付属していた連装対空砲塔との比較(下段):モデル付属の連装砲塔はややモールドが「眠い」ように見えますので、変更します)

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24cm重対空単装砲

次は、24センチ重対空砲の単装砲塔です。

上述のようにモデル付属のパーツは砲身が太すぎるし、砲塔自体も大きすぎるように思います。さらに欲を言うと重対空砲らしく、砲身に仰角をかけた状態のものもいくつか準備したいと考えています。

そこで筆者の1:700スケールの武装パーツから米海軍の駆逐艦用の初期型両用砲用の単装砲塔Mk 30を選択し、Mk 30が1:1250スケールでストレートに使用するにはやや高さがありすぎるように感じますので、ゴリゴリとやすりで削って高さ調節をします。これに、同じく1:700スケールの真鍮製の8インチ砲の砲身をセットしたものを12個準備することに決定。

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(写真上段は、筆者が上述の要領で製作した24センチ重対空砲単装砲塔。いくつか砲身の仰角にバリエーションを持たせ対空砲らしさが出ればいいなあと思っています。下段はモデル付属のパーツとの比較。モデルの付属パーツは全体に大柄です)

 

副砲:28センチ三連装砲塔

これまでに何度か触れてきたどこにも記述のない「H-45型」の三連装砲塔ですが、3月10日の投稿では筆者のストックパーツから物色した結果、候補としてドイツ海軍の軽巡洋艦用の15センチ三連装砲塔、重巡洋艦用の20センチ連装砲塔、ポケット戦艦用の28センチ三連装砲塔の3つをあげていました。

同砲の装備目的(これも記録類がないので、妄想するしかないのですが)や実戦での速射性等を考慮すれば15センチ三連装砲が理論的には妥当な気もしますが、船体の大きさに対し、あまりにも小さく感じられ、併せてモデル付属のパーツとの類似性を思慮すると、結論としては28センチ三連装砲塔を選択したいと思います。

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(写真上段は、筆者が選択した28センチ三連装砲塔:下段はモデル付属のパーツとの比較。選択したストックパーツはHansa製のドイツ装甲艦(ポケット戦艦)モデルからストックに回したの28センチ三連装砲塔で、やや砲身が太い気もしますが、一旦はこれでモデルを仕上げて見たいと考えています。筆者の常としていずれは砲身を真鍮製のものに置き換えることを考えるんでしょうね)

 

武装セットの決定

と言うことで、搭載する武装パーツについても方向が決まりましたので、いよいよ塗装と仕上げに掛かってゆきたいと思っています。

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船体と武装パーツへの基本的な塗装

船体色をタミヤ・エナメルのミディアム・グレー(XF-20)、甲板にデザート・イエロー(XF-59)、武装パーツにスカイグレイ(XF-19)、各部にフラットアルミ(X F-16)、ライトシーグレー(XF-25)、クロームシルバー(XF-11)などで着色して、仮置きしてみます。

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なんとなく全体にフワッとしている感じがします。メリハリが足りないような。船体色を明灰白色(XF-12)辺りにしたほうが、もう少し色味を出せるでしょうかね。筆者はフランス艦(前弩級戦艦を中心に)によく使用しています。

もう少し考えてみようかな。

写真下段では艦尾に航空艤装甲板に「ハーケン・クロイツ」があしらわれてい流のがわかると思います(写真下段)。
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下のカットは各武装のアップを。砲塔の上部に少し色を入れればこちらももう少し締まった感じにできると思います。下段右のカットでは砲身に仰角をかけた24センチ重対空砲の単装砲塔を配置してみたのですが、そんなに大きな違和感はないように思いますが、いかがでしょうか?

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塗装はもう少し工夫する必要がありそうです。

さらに航空艤装周りでカタパルトやクレーンの追加、さらに煙突周辺にもクレーン類を追加してみようかな、などと考えています。測距儀やレーダーの類も追加してみてもいいかも。

と言うわけで、今回はまずはこの辺りで。

 

次回は「H-45型」の仕上げが間に合えば、しかし検討事項と試行錯誤がいくつかありそうな気もしていますので、時間はかかるように思います。ですので最近の新着モデルのご紹介をさせていただくかも、とも考えています。

 

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アメリカ海軍の駆逐艦(その5:ミニ・シリーズ最終回):第二次世界大戦後から現用艦まで

今回は米海軍の駆逐艦開発小史の5回目。一応、このミニ・シリーズの最終回です。

前回では、第二次世界大戦期の駆逐艦建造のお話をしました。この時期、米海軍は第二期の量産駆逐艦の時代を迎えます。

少しこのミニ・シリーズのまとめ的なおさらいをしておくと、量産第一期は第一次世界大戦の時期で、平甲板型と言われた艦隊駆逐艦3艦級あわせて273隻が1917年から1921年の間に就役しています。この凄まじい量産性とバランスの取れた兵装から、それまでの駆逐艦本来の主力艦を中心とした艦隊護衛以外の多くの任務への汎用性が高く評価されました。第二次世界大戦期には駆逐艦不足に悩む英国に50隻余りが貸与され、すでに老齢艦でありながら船団護衛に活躍したりしています。

そして第二期には1800トン級の「ベンソン級(複数の準同型艦を含みます)」、これに続く2000トン超級の「フレッチャー級」「アレン・M・サムナー級」「ギアリング級」がこれで、あわせて446隻が建造されました。艦隊駆逐艦の決定版ともいうべき2000トン級だけでも350隻という驚くべき数が、1940年から1946年にかけて就役しています。

量産第一期直後にも同様なことが起こったのですが、米海軍は大量の量産駆逐艦を抱え、第二次世界大戦終結から約10年間、艦隊駆逐艦新造を見合わせる時期を迎えるのです。

この傾向は駆逐艦のみならず巡洋艦等の他艦種でも見られ、1950年代に米海軍は艦隊再建近代化計画(FRAM=Fleet Rehabilitation And Modernization)を発動し、大量に抱える在来型艦の戦術変更への対応に伴う種々の装備変更とそれに伴う大規模な改装を模索する時期を迎えます。

 

第二次世界大戦型艦隊駆逐艦の近代化改装(FRAM)

上掲の艦隊再建近代化計画の発動にあたり、艦隊駆逐艦では「アレン・M・サムナー級」と「ギアリング級」が主として対潜能力向上を主軸としたFRAM改装を受けました。

両艦級については前回投稿でも少しこの件に触れていますので再掲しておきます。

「アレン・M・サムナー級」駆逐艦(就役期間1943-1975:同型艦58隻)

ja.wikipedia.org

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 (「アレン・M・サムナー級」駆逐艦の概観。92mm in 1:1250 by Neptun) 

同級は「フレッチャー級」の改良強化型として設計されました。船体を2300トン級に拡大し、主砲を単装砲6基搭載する計画でした。設計途中にMk.38連装砲塔が実用化され、結局主砲は連装砲塔形式で3基搭載されることになりました。しかし配置が艦首部に2基搭載となったため、艦首部が重く凌波性に課題を持つ設計となってしまいました。

艦首部の連装砲塔2基への射界確保とバランス改善のため艦橋等上部構造はやや低い設計と改められました。連装砲塔の採用で上部構造にはスペースが生じ、40mm機関砲等の対空火力が増強されました。

(「アレン・M・サムナー級」駆逐艦の主要兵装配置:兵装ではないですが、艦橋をはじめ各部の構造高が低減されています。2番煙突の後部に40mm4連装機関砲が両舷むけに設置されています。主砲の連装砲塔化により魚雷発射管の位置、対空砲の搭載数などに余裕が生じているのがわかると思います

機関は「フレッチャー級」のものを踏襲したため、重量増に伴いやや速力は低下し34ノットにとどまり、さらに航続距離が減少してしまい、これも高速化を進めている空母機動部隊の随伴艦としては大きな課題とされました。

これらの要因から計画時には100隻の建造を予定されていた同級(駆逐艦としては70隻を建造する計画)は、70隻の建造(駆逐艦としては58隻の建造)で打ち切りとなり、建造は次級「ギアリング級」へと移行することとなりました。

 

第二次世界大戦数結までに高速敷設艦として完成された12隻を含め67隻が完成し、4隻が戦没しています。大戦後は9カ国に譲渡あるいは貸与され、米海軍に残った艦艇の多くは対潜装備の重質を目指した兵装の変更を受け、1960年前後には当時現役にあった32隻がDashや対潜短魚雷発射管の搭載等の対潜兵装を強化するFRAM-II改装を受けるなどして1970年頃まで海軍に在籍していました。

(上掲の写真はFRAM-II改装後の「アレン・M・サムナー級」「ライマン・K・スヴェンソン」のモデル by SeaVee(モデルは未保有)写真は例によってsammelhafen.deより拝借しています)

煙突間の上甲板に斜めに固定された長魚雷発射管と三連装短魚雷発射管、艦尾主砲塔前にDash運用甲板がみとめられます。写真は例によってsammelhafen.deより拝借しています。

 

ギアリング級駆逐艦(就役期間1945-1987:同型艦94隻)

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 (「ギアリング級駆逐艦の概観。95mm in 1:1250 by Neptun:モデルは2番発射管を撤去して対空砲を増強した姿です) 

この第二量産期の最後の艦級「ギアリング級」は「フレッチャー級」系列の駆逐艦の最終発展形と言える艦級で、前級「アレン・M・サムナー級」で好評であった重武装はそのまま継承し、一方課題とされた艦隊に帯同する際に不足が顕著となった航続力と、艦首部の重量過多からくる凌波製が改善された艦級でした。

(「ギアリング級」駆逐艦の主要兵装配置:前述のように写真下段でご覧いただけるように、2番発射管位置に40mm4連装機関砲が設置され、対空火力が増強されています

第二次世界大戦終結で152隻の建造計画は94隻で終了しましたが、大半が大戦終結後の就役で、大戦での戦没艦はありませんでした。大戦終結後も各種の改装を受け1970年代まで艦隊に中核戦力として留まっていました。

近代化改装の一例

(写真は「ギアリング級駆逐艦「グレノン」のFRAM-I改装時の姿(モデルは未保有)by Neptun :写真は例によってsammelhafen.deより拝借しています)

主砲塔は艦首・艦尾各1基のみ残され、艦首部には対潜短魚雷3連装発射管、艦中央にアスロック・ランチャー、艦尾主砲塔前にDash運用甲板が認められます。写真は例によってsammelhafen.deより拝借しています。

 

ミサイル駆逐艦「ジャイアット」:米海軍初の艦対空誘導ミサイル駆逐艦(DDG)

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(上の写真は米海軍初のミサイル駆逐艦(DDG)に改装された「ギアリング級駆逐艦3番艦「ジャイアット」の概観:by Hansaに武装を少し手を入れています)

同艦は「ギアリング級」3番艦で、第二次世界大戦終結間際の1945年6月に就役しました。1956年計画で対空ミサイル駆逐艦に改造が決定し、テリア・ミサイル搭載の米海軍初のミサイル駆逐艦となりました。

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(上の写真は「ジャイアット」の主要兵装の配置:艦中央のMk 33はシールドなしの方が良かったかも。艦尾にはテリア・システムのRIM-2連装ミサイルランチャーが搭載されました(写真下段))

他国への売却・供与

1970年代になり、「スプルーアンス級駆逐艦やその他のより近代装備のフリゲート艦が就役し始めると、「ギアリング級駆逐艦は米海軍を退役し、他国に売却・供与されました。その数は11カ国に及び、1990年代にはほとんどが退役しましたが、メキシコ海軍の「ネツァルコヨトル」は2014年まで在籍していました。

 

第二次世界大戦後の新造駆逐艦嚮導駆逐艦

上掲のように第二次世界大戦型のFRAM改装と同時期に新たな艦隊駆逐艦の設計。建造が始まります。まずは対潜装備を強化したFRAM改装艦の戦隊旗艦としての嚮導駆逐艦が建造されます。

嚮導駆逐艦ノーフォーク」(就役期間:1953-1970:同型艦なし:計画は2隻)

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(上の写真は「ノーフォーク級」駆逐艦の概観:133mm in 1:1250 by Trident:モデルは後期のアスロック対潜ミサイルの導入に向けての試験艦となった際を表現しています。就役時には艦後部のアスロック発射機の搭載位置に艦首部と同様に「ウェポン・アルファ」2基を装備していました))

同艦は、第二次世界大戦において航空機と並び通商路への重大な脅威となることが明らかとなった潜水艦への対応策として設計された艦級でした。米海軍は航空機への対策として大戦中に「アトランタ級防空巡洋艦(CLAA)を建造していましたが、同艦は同様の設計思想で当初はいわば「対潜巡洋艦」(CLK=sub-killer cruiser)として1隻のみ建造されたものでした(計画時には2隻の予定でした)。

就役時には嚮導駆逐艦(DL)に艦種名称が変更され、1955年にはフリゲート艦に艦種名称が変更されました。

アトランタ級防空巡洋艦に範をとったため、船体は5000トン級と大きく、33ノットの速力を出すことができました。

対潜艦として設計されてところから、就役時の主兵装はMk.108「ウエポン・アルファ」(対潜ロケット砲)4基と誘導魚雷でした。

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Mk.108対潜ロケット砲は、ロケット弾を目標近辺に投射し、搭載する磁気信管で目標を感知させ炸裂させるもので、250−800メートルの射程を持ち、毎分12発投射することができたました。

(余談ですが筆者はこの対潜ロケットが大好きです。というのも小学生の頃の愛読書、小沢さとる先生の名作「サブマリン707」に登場していまして、なんと未来的な(SFなんて言葉知らなかったからね)すごい兵器なんだろう、というのが原体験なのです。興味のある方は是非ご一読を)

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と、筆者の大好きな「ウェポン・アルファ」なのですが、実情は不発率が高いなど不評だったようです。

ノーフォーク」は1960年代からアスロックの試験艦となったため、艦尾部の「ウェポン・アルファ」2基をアスロック発射機に置き換えています。f:id:fw688i:20230903100939p:image

(「ノーフォーク」の兵装配置の拡大:艦首からMk.26 3インチ連装速射砲2基、「ウェポン・アルファ」対潜ロケット砲2基、艦橋脇のボートの下に対潜魚雷発射管(以上写真上段)、同艦後期に試験的に設置されたアスロック8連装発射機(就役時にはこの位置に「ウェポン・アルファ」対潜ロケット砲2基が設定されていました(、そしてMk.26 3インチ連装速射砲2基)

一方、砲兵装は個艦防御用として新開発の70口径Mk.26 3インチ連装速射砲4基が予定されていました(就役時には間に合わず50口径Mk.33 3インチ連装速射砲、いわゆるラピッドファイアが搭載されていました。のち当初予定のMk.26に換装)。

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(各装備の拡大:Mk.26 70口径3インチ連装速射砲(上段左)、「ウェポン・アルファ」対潜ロケット砲(上段右)、対潜魚雷発射管(下段左)、アスロック8連装発射機(下段右:就役時にはこの位置に「ウェポン・アルファ」対潜ロケット砲2基が設置されていました:筆者はそちらを見たかった!))

 

DDGへの改装案(1959年頃)

この時期には大型の艦船には必ずと言って良いほど、ミサイル駆逐艦への改装計画がありました。同艦もご多聞にもれずターターシステムを搭載したミサイル駆逐艦への改装計画があったようです。その際には、「ウェポン・アルファ」を全部撤去して、アスロックとターターに載せ替える、というようなことになってようです。

この時期、「ノーフォーク」が新型レーダーやアスロックの試験艦として運用されていたことなどから、この改装案は実現しないまま、1970年に同艦は退役しました。

(下の写真は、「ノーフォーク」と次にご紹介する「ミッチャー級」の大きさを比較したもの。「ノーフォーク」が軽巡洋艦出自のかなり大きな設計だったことがよくわかります)

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「ミッチャー級」嚮導駆逐艦フリゲート)(就役期間:1953−1978:同型艦4隻)

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(上の写真は「ミッチャー級」駆逐艦の概観:120mm in 1:1250 by Trident: 鋭く切り出された艦首などは非常にいいんじゃないでしょうか?Mk 33のみ手持ちのパーツに変更しています)

同級は対空・対潜能力の強化を目的に米海軍が設計した艦級で、自艦の対空兵装の管制だけでなく、艦載戦闘機の管制もその任務として想定されたため「嚮導駆逐艦フリゲート」(DL)に分類されました。

3600トンの、駆逐艦としては破格に大きな船体を持ち、36.5ノットの高速を発揮することができました。

対空用兵装としては新開発の54口径Mk 42 5インチ両用単装砲2基、と50口径Mk 33 76mm連装速射砲を主兵装とし、対潜用にはMk 108対潜ロケット砲と対潜誘導魚雷発射管、爆雷投射軌条を搭載していました。

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(上の写真は「ミッチャー級」の主要兵装配置:(上段)艦首部のMk 42 5インチ両用砲とMk 33 連装速射砲そして筆者の大好きなMk 108対潜ロケットランチャー(下段)艦尾部のMk 108、Mk 33とMk 42、さらに爆雷投射軌条)

各兵装の解説を簡単に。

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本砲は毎分40発という高い射撃速度を誇り、23000メートルに達する射程距離を有していました。

(Mk. 33 3インチ砲とウェポン・アルファについては既述)

 

DDGへの改装

同級のうち2隻(「ミッチャー」「ジョン・S・マッケイン」)は1963年にタータ・システムを搭載してミサイル駆逐艦(DDG)に改装されています。

その改装は、艦橋前のMk.33 3インチ連装速射砲とウェポン・アルファを撤去してアクロックランチャーを設置、艦尾部のMk.33 3インチ連装速射砲とウェポン・アルファを撤去したスペースにターターシステムの単装ミサイル発射基とミサイル誘導用のイルミネーターを設置しています。後部マストは大型のトラス構造となり、三次元レーダーが搭載されました。

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(上の写真はDDG改装後の「ミッチャー級」駆逐艦の概観:下の写真はDDG改装後の主要兵装:(上段)艦首部の76mm連装速射砲はアスロック対潜ミサイルの8連装発射機に置き換えられています。(下段)艦後部にはMk 108とMk 33を撤去し、ターター対空ミサイルシステムの単装発射機:Mk.13と誘導用のイルミネーター等が設置されました)

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FRAM改装(ここからは以前お投稿の再録です)

DDGに改装されなかった2隻は、FRAM改装されています。内容はMk 108対潜ロケット砲(大好きなのに!)を廃止し、艦後部にDash2機搭載に対応する運用施設を追加しています。

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(上の写真はFRAM改装後の「ミッチャー級」駆逐艦の概観:by Triden:下の写真はFRAM改装後の主要兵装:(上段)艦首部の76mm連装速射砲は開発の遅れていたMk 26 70口径連装速射砲に改められています。(下段)艦後部にはMk 108とMk 33を撤去し、Dash運用用の発着甲板と整備用ハンガーが設けられています。対潜誘導短魚雷発射管がDashハンガーの前方に設置されました)

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Dashは昨今の無人ドローンのご先祖のような兵器で、対潜魚雷を糖鎖した小型無人ヘリを無線操縦で潜水艦の潜む海域に飛ばし、そこから魚雷を投下し攻撃するシステムで、ヘリ搭載の無理な小型艦でも運用できるという利点がありました。

 

「ミッチャー級」フリゲートの3形態

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(上から就役時、DDG改装時(「ミッチャー」「ジョン・S・マッケイン」)、FRAM改装時(「ウィルス・A・リー」「ウィルキンソン」)の順)

 

第二次世界大戦後の汎用艦隊駆逐艦建造の再開

「フォレスト・シャーマン級」駆逐艦(就役期間:1955−1988:同型艦18隻)

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(上の写真は「フォレスト・シャーマン級」駆逐艦の概観:99mm in 1:1250 by おそらくWiking: 筆者のコレクションとしては珍しく(ほとんど唯一の)Wiking製です。非常に丹精でバランスの取れたモデルだと思います。これくらいの水準でモデルが揃えtられていれば、筆者のWikingへの評価ももう少し高まるのに)

同級は前出の「ミッチャー級」の縮小型というべき汎用駆逐艦の艦級です。

前述の第二次世界大戦期での駆逐艦量産から、大戦後に米海軍が初めて設計した艦隊駆逐艦で、艦砲と魚雷を主兵装とした最後の駆逐艦の艦級となりました。

2700トン級の船体を持ち34ノットの速力を発揮することができました。

兵装は「ミッチャー級」に倣い、54口径Mk 42 5インチ両用単装砲3基、と50口径Mk 33 76mm連装速射砲を主対空砲兵装として搭載し、対潜兵装としてはヘッジホッグと爆雷投射軌条、対潜誘導魚雷の発射にも対応した連装魚雷発射管2基を持っていました。

(上の写真は「フォレスト・シャーマン級」の主要兵装配置:(上段)艦首部のMk 42とMk 33、その両脇にヘッジホッグが見えています。(中段)煙突直後に連装魚雷発射管(対潜誘導魚雷の発射にも対応していました)(下段)艦尾部のMk 33とMk 42 2基、さらに爆雷投射軌条)

 

その後の改装ヴァリエーション

1960年代には4隻がターター・システムを搭載したミサイル駆逐艦(DDG)に、8隻が対潜ミサイル「アスロック」を搭載した対潜強化型に、それぞれ改装を受けました。

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(上掲の写真は、「フォレスト・シャーマン級」の階層のヴァリエーション(モデルはいずれも未保有です):上段が対潜主兵装をアスロックに変更したASW強化型のモデル駆逐艦「ジョナス・イングラム」(by SeaVee)、中段がミサイル駆逐艦に改装された4隻のうちの「ディケーター」(by Mountford)、下段は艦首の主砲をMk.71 8インチ砲に換装した「ハル」(by SeaVee): 写真は例によってsammelhafen.deより拝借しています)

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アスロックは対潜誘導魚雷をミサイルの先端に弾頭として搭載したもので、発射後は、事前に入力された飛翔距離で弾頭(魚雷)が切り離され、パラシュートにより軟着水した魚雷が捜索パターンで目標を探知し撃破する、というものです。着水後の魚雷による目標補足能力の活用から、従来の対潜ロケットとは次元の異なる長射程での攻撃が可能となりました。当初は8連装の専用ランチャーから発射されることが主流でしたが、現在でもVLSからの発射も含め、広く使用されています。(射程:800-9100m)

 

「チャールズ ・F・アダムズ級」ミサイル駆逐艦(就役期間:1960−1993:同型艦23隻)

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(上の写真は「チャールズ・F・アダムズ級」ミサイル駆逐艦(後期型)の概観:105mm in 1:1250 by Hansa)

同級は米海軍が設計当初からミサイル駆逐艦として設計した最初の艦級です。

船体の基本設計は前級「フォレスト・シャーマン級」のものを継承し、これに主兵装として艦隊防空ミサイル。システムであるターターを搭載して、それまでの対空砲による艦隊防空に比べ格段の防空圏の広さと迎撃の精度を確保しています。

同システム等の搭載により艦型は「フォレスト・シャーマン級」よりも少し大きな3300トン級となり32.5ノットの速力を有していました。

この防空ミサイルシステムの他に、「フォレスト・シャーマン級」と同様のMk 42  5インチ両用単装砲2基を装備し、さらにアスロックと対潜誘導魚雷発射管を搭載し、強力な対潜能力も併せて保有していました。

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(上の写真は「チャールズ・F・アダムズ級」の主要兵装配置:(上段)艦首部のMk 42と艦中央部のアスロック・ランチャー、(下段)艦尾部のMk 42と対空ミサイル用のMk 13  GMSL:下の写真では前期型に装備された連装のMk 11  GMSL(上段)と後期型のMk 13 GMSL:当初は連装型のMk 11を装備していましたが、装填速度が遅い等の課題から、後期型では 単装のMk 13に変更されました)

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コンパクトな艦型にバランスの取れた強力な対空・対潜能力を備えた艦として評価が高く、オーストラリア、ドイツからも発注がありました(「パース級」「リュっチャンス級」)。

さらに同級の退役後、4隻がギリシア海軍で再就役しています。

 

一方で、同級のコンパクトさは、その後の兵装の更新への対応には向かず、CIWSや対艦ミサイルの装備は見送らざるを得ず、米海軍では1993年までに全ての艦が退役せざるを得ませんでした。

 

スプルーアンス級ミサイル駆逐艦(就役期間:1975−2005:同型艦31隻)

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(「スプルーアンス級駆逐艦原型の概観:138mm in 1:1250 by Hobby Boss)

前述のように前級「チャールズ・F・アダムズ級」では今後の兵装更新に対応するには、ある程度の余裕を持った艦型を有する必要性が浮き彫りとなりました。この件は1970年代から検討されており、今後想定される数次の兵器システム等の更新に耐えられるよう余裕のある大型駆逐艦の設計の着手しました。それが本級です。

そのため、その船体は、駆逐艦の艦種でありながら、それまでの4000トン級から、一気に8000トン級へと大型化しています。

機関には、加速性に優れたガス・タービンが採用され32ノットの速力を発揮することができました。

そもそもは空母戦闘群の護衛を主任務と想定した対潜艦として就役したため、原型の就役時のの兵装は2基の5インチ速射砲(Mk 45)とアスロック8連装ランチャー1基、三連装短魚雷発射管2基、対潜ヘリ2機という、8000トンを超える船体の割には極めてシンプルなものでした。

(同級とその派生形、さらに初のイージスシステム搭載巡洋艦となった「タイコンデロガ級」まで、本稿では、既に下記の回でまとめています(2021年7月25日投稿)。「スプルーアンス級」については、是非、そちらをお読みください)

fw688i.hatenablog.com

 

現用艦隊駆逐艦

アーレイ・バーク級」ミサイル駆逐艦(就役期間:1991−就役中:同型艦90隻以上となる予定)

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(「アーレイ・バーク級」イージス駆逐艦の概観(写真はフライトIIA):125mm in 1:1250 by DeskTop Fleet=幕之内弁当三次元造形)

同級は多数の目標を同時に迎撃できるイージスシステムを搭載した駆逐艦の艦級です。

同級の設計については1970年代後半から既に議論は始まっていました。米海軍は当時すでに「スプルーアンス級駆逐艦をベースに、これにイージスシステムを搭載した「タイコンデロガ級」イージスシステムミサイル巡洋艦を建造中でしたが、多方面に展開する米海軍の空母機動部隊とそれに対して増大する対艦ミサイルの脅威を考慮すると、さらに多くのイージスシステム搭載艦が必要であり、一方で「タイコンデロガ級」の建造費は莫大なもので、これに対し何らかの手を打つ必要がありました。端的に言うと、「タイコンデロガ級」の2/3程度の建造費でのイージス艦が求められていたわけです。

アーレイ・バーク級」のフライトIでは、「タイコンデロガ級」イージス巡洋艦の仕様からイージス機能と搭載ミサイル数の縮小、ヘリ搭載機能の撤廃などが実行されましたが、結局、8400トン級の「スプルーアンス級」を上回る大型艦となってしまい、建造費に関する課題は解消されませんでした。さらにフライトII AではVLSのセル数が増やされ(90セルから96セル)、ヘリ2機の搭載能力が付与されるなど、運用側面からの要求に対応する形での改良型の建造が進んでいます。フライトIIIについてはフライトIIAの改良型となる予定ですが、ミサイル搭載数のさらなる増加要求等に対しては既に限界を迎えており、同級はフライトIIIを最終形態とすることになると思われます。

現在、最も就役数の多いフライトIIAの主要兵装を見ると、Mk 41  VLS 96セル、Mk 45  5インチ単装砲、CIWS2基、3連装短魚雷発射管2基(Mk 32)、Mk 32 25mm機関砲2基などとなっています。

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(上の写真は「アーレイ・バーク級」フライトIIAの主要兵装配置:(上段)艦首部のMk 45とMk 41VLS(32セル)、さらにCIWS (下段)CIWS、Mk 41VLS(64セル)とヘリ運用用のハンガーおよび発着甲板)

主要兵装については以下で。

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「ズムウォルト級」ミサイル駆逐艦(就役期間:2016−就役中:同型艦3隻

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(「ズムウォルト級」ミサイル駆逐艦の概観:149mm in 1:1250 by ???:VLSは艦首とヘリ発着甲板両脇のゴールド部分に4セル単位で各舷20基づつ搭載されています。主砲は通常は砲塔内に収容されていますが、写真は射撃体制で砲身が立ち上がり露出した状態です(おそらく))

同級は米海軍が対地上攻撃を主目的として開発を進めてきた艦級です。(筆者にとっては結構謎の多い艦級で、正直言って、モデルを見ていても兵装配置など、はっきりしません)

これらの任務は空母機動部隊から発進する航空機により行われてきましたが、巡航ミサイル等の発達により、これを水上艦からの打撃力で代替しようとするものでした。

できるだけ陸地に接近するためにステルス性を重視した特異な艦型となっています。

搭載する兵装は、紆余曲折があったようですが最終的には80セル(4セル単位で各舷20基搭載)のVLSに個艦防御用の短艦対空ミサイル(SAM)と巡航ミサイルを搭載し、長射程での射撃が可能な155mm単装砲2基を主要兵装とし、近接戦闘用に30m機関砲2基も搭載しています。ヘリ2機の搭載能力がありますが、ヘリ2機、もしくはヘリ1機と無人ヘリ3機の組み合わせでの運用が検討されているようです。

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推進システムは初めて統合電機推進が採用され30.3ノットの速力を発揮することが可能です。この推進システムの採用には維持コストの低減、水中騒音の抑制などと共に、将来搭載が検討されているレールガンに対する大電力供給への準備段階と言われています。

同級は計画当初では同級は30隻程度の建造が予定されていましたが、コスト等の理由で技術実証艦として3隻の建造にとどまることが決定されています。

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(上の写真は「ズムウォルト級」駆逐艦3隻の揃い踏み:「ズムウォルト」「マイケル・モンスーア」「リンドン・B・ジョンソン」の順:実はこの3隻は冒頭のモデルとは異なり1:1250スケールのペーパーモデルです。艦番号も艦名も印刷されています。あれ、「ズムウォルト」のヘリハンガーのシャッター、開いてますね)

 

ということで、第二次世界大戦以降に設計された米海軍の駆逐艦の系譜を見てきましたが、さすがに第一次世界大戦第二次世界大戦の両大戦期のような凄まじい数の量産は見られませんが、それぞれの艦級の同型艦の数の多さには、改めて驚かされました。特に「スプルーアンス級」(31隻)や「アーレイ・バーク級」(計画では90隻)などの大型艦ですら、これだけの数を建造してしまうとは・・・。これらを運用する人材の数をも考慮すると、その生産性もさることながら、人材育成や組織運営の底力も目を見張らざるを得ません。

 

米海軍の艦隊駆逐艦の系譜、このミニ・シリーズは今回が最終回になりますが、実は冒頭の嚮導駆逐艦の系譜から、ミサイル巡洋艦への発展系があったりなど、複雑な系譜が見えてきます。

その辺りは本稿、下記の投稿群でご紹介していますので、是非、こちらもご覧ください。

fw688i.hatenablog.com

fw688i.hatenablog.com

fw688i.hatenablog.com

 

ということで、今回はここまで。

次回は前々回でご紹介した「H-45型」戦艦の製作進捗など、予定しています。いかがでしょうか?

もし、「こんな企画できるか?」のようなアイディアがあれば、是非、お知らせください。

 

模型に関するご質問等は、いつでも大歓迎です。

特に「if艦」のアイディアなど、大歓迎です。作れるかどうかは保証しませんが。併せて「if艦」については、皆さんのストーリー案などお聞かせいただくと、もしかすると関連する艦船模型なども交えてご紹介できるかも。

もちろん本稿でとりあげた艦船模型以外のことでも、大歓迎です。

お気軽にお問い合わせ、修正情報、追加情報などお知らせください。

 

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アメリカ海軍の駆逐艦(その4):第二次世界大戦と艦隊駆逐艦 第二期決定版:フレッチャー・ファミリー

今回は前々回に続き米海軍の駆逐艦開発小史の4回目。

第一次世界大戦で当時の艦隊駆逐艦の決定版として、大量に建造した「平甲板型駆逐艦の影響で、米機軍はその後13年余りの期間、新造駆逐艦を建造しませんでした。

大戦後の復興と経済の停滞を背景として海軍軍縮の動きが起こり、補助艦へもロンドン条約によっての保有制約が課せられます。駆逐艦保有数に対しても制約枠が設定され、列強は高性能駆逐艦の設計に鎬を削ります。米海軍も同様で、同海軍は長いブランクの後に建造した「ファラガット級」駆逐艦を皮切りに、新機軸満載の駆逐艦群を建造したわけです。

最大の特徴は汎用軍艦としての駆逐艦の位置付けを追求する事に置かれ、兵装面では「警備・護衛」を想定した主砲の対艦・対空の両用砲化と、攻撃力の最大化を狙った重雷装化にあったと言っていいと思います。両用砲化は、単に主砲の射撃仰角のみならず、射撃指揮系統の対艦・対空双方への適応、さらには特に対空戦闘場面での射撃速度を想定した給弾機構の高速化、目標を追尾する機動性を考慮した砲塔化など、砲兵装の重量の増加を伴います。さらに重雷装化は重い魚雷の搭載数を増加せねばならず、一方で条約により課せられた保有制限から、一定の保有数を確保するためには個艦はコンパクトにせざるを得ず、この時期の艦級にはこの背反する条件に対する模索が見られ、いずれの設計も何らかのトップヘビー傾向が見られました。

しかしこの大戦間の時期(1930年代)に、軍縮条約のそもそもの起点となった大艦巨砲主義への艦隊駆逐艦としての立ち位置を考慮した上での重雷装化は理解できるとしても、対空戦闘を重視した主砲の両用砲化を最初から盛り込んだことは、驚くべき先見性だと驚かずにはいられません。

 

こうした一連の模索期を経て(と言っても最適解が見つかったわけではないと、筆者は考えますが)、さらに再び動き出した大西洋方面での復興ドイツ(ナチス政権)の動きと西太平洋方面で活発に活動する日本の双方での戦雲の高まりから、米海軍は再び艦隊駆逐艦お量産を再開するのです。

 

「ベンソン級」駆逐艦(就役期間1940-1951:同型艦30隻)+準同型艦「リバモア級/グリーブス級/ブリストル級」駆逐艦(就役期間1940-1956:同型艦64隻)

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(「ベンソン級」駆逐艦の概観:85mm in 1:1250 by Neptun:正確に記述するとモデルは「グリーブス級」のものです。外観的には「ベンソン級」と大差ないかと。搭載機関の差異、造船所の差異から、煙突断面の形状が違う、ということのようです) 

「ベンソン級」駆逐艦は前回ご紹介した「シムズ級」駆逐艦の改修型をベースとして改良を加えた艦級です。量産型駆逐艦の第一陣ということで、造船所や搭載機関の仕様によって「ベンソン級」「リヴァモア級」「グリーブス級」「ブリストル級」など細分化されることもありますが、外見はほぼ同一ですので、ここでは一括りとし「ベンソン級」としてご紹介したいと思います。

1800トン級の船体を持ち36−38ノットの速力を発揮する設計でした。

兵装は基本的には「シムズ級」のものを継承しますが、「シムズ級」の1番艦「シムズ」の完成後、トップヘビーの傾向が看過できないほど重大な欠陥として指摘され、対策として2番艦以降では工事途上から大改修が行われ、4連装魚雷発射管を3基から2基に減じなくてはなりませんでした。「ベンソン級」では魚雷発射管を5連装2基として重量を考慮しつつ10射線を確保して雷装を強化しています。主砲は5インチ両用砲5基を砲塔形式・砲架形式の混載で搭載し、両用射撃指揮装置を装備しています。

(「ベンソン級」駆逐艦の主要兵装配置:モデルは全て砲塔形式です。後述のように3番、4番砲は砲架形式であることが多かったようです。大戦期には対空火器の増設がが行われています)

機関は生存性を高めるため船体強度を増して分離シフトによる搭載が行われ、外観的にはそれまで長く続いた一本煙突の時代を終え、二本煙突となりました。

条約の終結により、船体を大型化したとは言え、重武装艦である事は変わらず、トップヘビーの傾向は解消されたわけではありませんでした。

 

模型で見る各形式

同級には兵装搭載等にヴァリエーションがあります。

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(写真は「ベンソン級」駆逐艦のヴァリエーションのモデルのご紹介:いずれもArgonaut製です。モデルは未保有:Argonautモデルはもう生産されないだろうから、入手は難しいだろなあ:写真は例によってsammelhafen.deより拝借しています)

冒頭でご紹介したモデルは主砲を全て砲塔形式で搭載した概観でしたが、上掲の写真では上段が主砲を砲塔形式(1、2、5番砲)と砲架形式(3、4番砲)で混載した形式のモデルをご紹介しています。主砲搭載の形式としては、就役時はこちらが主流だったかもしれません。さらに中段に掲載しているのは主砲を4基搭載として対空火器を増強した型式で、戦時中に多くの艦がこの対空火器強化の改装を受けています。さらに下段には1940年に就役した「ブリストル級」と呼称される同級の形式で、魚雷発射管を1基に減じて対空火器を増備する設計、つまり就役時から護衛能力を強化した形式もありました。

 

高速掃海艦や軽敷設艦への改造も

同級の中の数隻は高速掃海艦や軽敷設艦に改造されました、まさに汎用艦の面目躍如、というところでしょうか。

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(上下の写真は高速敷設艦に改造された同級のモデル:雷装を撤去し主砲数を減じ、艦尾部に掃海装備を搭載しています)

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大戦中に13隻が戦没、あるいは事故で失われました、戦後、台湾、イタリア、ギリシア、トルコ各国海軍に譲渡あるいは貸与されています、日本の海上自衛隊にも2隻が貸与され「あさかぜ級」護衛艦として就役(「あさかぜ」「はたかぜ」)、草創期の海上自衛隊の基幹戦力となりました。

海上自衛隊「あさかぜ級」護衛艦(1954年就役:同型艦2隻)

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(85mm in 1:1250  Neptune社製モデルをベースに、模型的には船体中央の魚雷発射管を撤去。主砲塔を3D printing makerのSNAFU store製のWeapopn setの5インチ砲塔に換装、2番主砲塔直後にヘッジホッグ、3番主砲塔前に連装機銃座をそれぞれ追加)

米海軍から貸与された2隻の「リヴァモア級=ベンソン級の準同型艦駆逐艦(エリコン・メイソン)です。

既に米海軍在籍当時に旧式艦として扱われ、魚雷発射管を撤去して掃海駆逐艦に艦種変更していましたが、37ノットの速力を誇り、5インチ単装砲4基、40ミリ四連装機関砲2基、爆雷投射機4基等を装備していました。

 

フレッチャー級駆逐艦(就役期間1943-1971(米海軍):同型艦175隻)

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 (「フレッチャー級駆逐艦の概観。92mm in 1:1250 by Neptun:) 

同級は、船体強度の観点からそれまでの船首楼型線形を改め、平甲板型の船体として設計されています。列強の大型駆逐艦に対し優速を確保するために強力な機関を搭載したこともあって、米海軍としては最大の2100トンの基準排水量の大型艦となりました。強力な機関から37.8ノットの速力を発揮することができました。

兵装は前級を継承し、5インチ両用砲(Mk 12 5インチ砲)を単装砲塔形式で5基、533mm5連装魚雷発射管2基、これに就役時には28mm4連装機関砲1基と12.7mm機銃数門を加え、さらに爆雷投射機6基、投下軌条2基を基本兵装として装備した、対空・対艦・に適応したまさに艦隊駆逐艦の決定版と言えるバランスの取れた艦で、175隻が建造されました。

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(「フレッチャ級」駆逐艦の主要兵装配置:後部煙突脇と3番砲と4番砲の間に40mm連装機関砲が搭載されています。下述のように対空火器の増強後の姿かと

その後、基本装備であった28mm4連装機関砲では火力不足との戦訓から、40mm連装機関砲と20mm機関砲の組み合わせに多くの艦が変更し対空火力を強化しています。

第二次世界大戦では、19隻が戦没(17隻)もしくは災害事故等で失われました。

条約での制約から解放された余裕のある船体設計から、対潜装備の増設の改装等への適応力も高く、米海軍でも大戦後も長く主力駆逐艦の艦級として使用されました。戦後は49隻が日本も含め14か国に払い下げられ、その中には1990年台後半まで現役にとどまった艦もあるほど、ポテンシャルの高い艦級だったと言えるでしょう。

海上自衛隊に貸与された「フレッチャー級駆逐艦

「ありあけ級」護衛艦(1959年就役:同型艦2隻)

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(92mm in 1:1250 Neptune製フレッチャー級をベースに、船体中央の魚雷発射管を撤去、主砲塔をSNAFU store製のWeapopn setに換装)

海上自衛隊が米海軍から貸与されたフレッチャー級駆逐艦2隻(ヘイウッドL. エドワーズ・リチャードP. リアリー)。

2050トン、35ノット、5インチ単装砲4基、40ミリ連装機関砲5基、爆雷投射機6基

 

「アレン・M・サムナー級」駆逐艦(就役期間1943-1975:同型艦58隻)

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 (「アレン・M・サムナー級」駆逐艦の概観。92mm in 1:1250 by Neptun) 

同級は「フレッチャー級」の改良強化型として設計されました。船体を2300トン級に拡大し、主砲を単装砲6基搭載する計画でした。設計途中にMk.38連装砲塔が実用化され、結局主砲は連装砲塔形式で3基搭載されることになりました。しかし配置が艦首部に2基搭載となったため、艦首部が重く凌波性に課題を持つ設計となってしまいました。

艦首部の連装砲塔2基への射界確保とバランス改善のため艦橋等上部構造はやや低い設計と改められました。連装砲塔の採用で上部構造にはスペースが生じ、40mm機関砲等の対空火力が増強されました。

(「アレン・M・サムナー級」駆逐艦の主要兵装配置:兵装ではないですが、艦橋をはじめ各部の構造高が低減されています。2番煙突の後部に40mm4連装機関砲が両舷むけに設置されています。主砲の連装砲塔化により魚雷発射管の位置、対空砲の搭載数などに余裕が生じているのがわかると思います

機関は「フレッチャー級」のものを踏襲したため、重量増に伴いやや速力は低下し34ノットにとどまり、さらに航続距離が減少してしまい、これも高速化を進めている空母機動部隊の随伴艦としては大きな課題とされました。

これらの要因から計画時には100隻の建造を予定されていた同級(駆逐艦としては70隻を建造する計画)は、70隻の建造(駆逐艦としては58隻の建造)で打ち切りとなり、建造は次級「ギアリング級」へと移行することとなりました。

 

第二次世界大戦数結までに高速敷設艦として完成された12隻を含め67隻が完成し、4隻が戦没しています。大戦後は9カ国に譲渡あるいは貸与され、米海軍に残った艦艇の多くは対潜装備の重質を目指した兵装の変更を受け、1960年前後には当時現役にあった32隻がDashや対潜短魚雷発射管の搭載等の対潜兵装を強化するFRAM-II改装を受けるなどして1970年頃まで海軍に在籍していました。

(上掲の写真はFRAM-II改装後の「アレン・M・サムナー級」「ライマン・K・スヴェンソン」のモデル by SeaVee(モデルは未保有))

煙突間の上甲板に斜めに固定された長魚雷発射管と三連装短魚雷発射管、艦尾主砲塔前にDash運用甲板がみとめられます。写真は例によってsammelhafen.deより拝借しています。

 

ギアリング級駆逐艦(就役期間1945-1987:同型艦94隻)

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 (「ギアリング級駆逐艦の概観。95mm in 1:1250 by Neptun:モデルは2番発射管を撤去して対空砲を増強した姿です) 

この第二量産期の最後の艦級「ギアリング級」は「フレッチャー級」系列の駆逐艦の最終発展形と言える艦級で、前級「アレン・M・サムナー級」で好評であった重武装はそのまま継承し、一方課題とされた艦隊に帯同する際に不足が顕著となった航続力と、艦首部の重量過多からくる凌波製が改善された艦級でした。

(「ギアリング級」駆逐艦の主要兵装配置:前述のように写真下段でご覧いただけるように、2番発射管位置に40mm4連装機関砲が設置され、対空火力が増強されています

第二次世界大戦終結で152隻の建造計画は94隻で終了しましたが、大半が大戦終結後の就役で、大戦での戦没艦はありませんでした。大戦終結後も各種の改装を受け1970年代まで艦隊に中核戦力として留まっていました。

近代化改装の一例

(写真は「ギアリング級駆逐艦「グレノン」のFRAM-I改装時の姿(モデルは未保有)by Neptun)

主砲塔は艦首・艦尾各1基のみ残され、艦首部には対潜短魚雷3連装発射管、艦中央にアスロック・ランチャー、艦尾主砲塔前にDash運用甲板が認められます。写真は例によってsammelhafen.deより拝借しています。

 

ミサイル駆逐艦「ジャイアット」:米海軍初の艦対空誘導ミサイル駆逐艦(DDG)

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(上の写真は米海軍初のミサイル駆逐艦(DDG)に改装された「ギアリング級駆逐艦3番艦「ジャイアット」の概観:by Hansaに武装を少し手を入れています)

同艦は「ギアリング級」3番艦で、第二次世界大戦終結間際の1945年6月に就役しました。1956年計画で対空ミサイル駆逐艦に改造が決定し、テリア・ミサイル搭載の米海軍初のミサイル駆逐艦となりました。

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(上の写真は「ジャイアット」の主要兵装の配置:艦中央のMk 33はシールドなしの方が良かったかも。艦尾にはテリア・システムのRIM-2連装ミサイルランチャーが搭載されました(写真下段))

他国への売却・供与

1970年代になり、「スプルーアンス級駆逐艦やその他のより近代装備のフリゲート艦が就役し始めると、「ギアリング級駆逐艦は米海軍を退役し、他国に売却・供与されました。その数は11カ国に及び、1990年代にはほとんどが退役しましたが、メキシコ海軍の「ネツァルコヨトル」は2014年まで在籍していました。

 

というわけで今回はこの辺りで。

次回はおそらくこのミニシリーズの最終回、現用艦までの発展を一気にと考えています。

 

もし、「こんな企画できるか?」のようなアイディアがあれば、是非、お知らせください。

 

模型に関するご質問等は、いつでも大歓迎です。

特に「if艦」のアイディアなど、大歓迎です。作れるかどうかは保証しませんが。併せて「if艦」については、皆さんのストーリー案などお聞かせいただくと、もしかすると関連する艦船模型なども交えてご紹介できるかも。

もちろん本稿でとりあげた艦船模型以外のことでも、大歓迎です。

お気軽にお問い合わせ、修正情報、追加情報などお知らせください。

 

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新着モデルのご紹介:凄いのが来た!:H-45級戦艦

本稿ではこのところ米海軍の駆逐艦開発小史を展開中ですが、小史の方は一回お休みして、今回は急遽、新着モデルのご紹介です。

 

今回ご紹介するのは「究極の架空艦」とでも言えばいいのかナチス・ドイツ海軍の「H-45型」戦艦です。

本稿では下記の回で、ナチス・ドイツ海軍の未成艦の一環として「H級」と呼ばれる一連の未成戦艦のシリーズを紹介しました

fw688i.hatenablog.com

背景をおさらいしておくと、第一次世界大戦に敗れたドイツ帝国は、帝国自体が崩壊。新たに生まれた共和国はヴェルサイユ体制下で厳しい軍備制限を受けます。海軍ももちろん同様で、規模、保有艦艇に関する制約から、戦勝国は新生ドイツ海軍を沿岸警備程度の装備を持つ海軍に止めようとしたと考えられます。

厳しい戦後賠償と世界恐慌が重なり、混乱する世情を背景にドイツにヒトラーを総帥とするナチス党が台頭し、やがて彼らが政権を握ると、1935年3月にヴェルサイユ条約の破棄と再軍備を宣言。さらに同年6月に締結された英独海軍協定で事実上の軍備制約が解除されると、新生ドイツ海軍は大建艦計画「Z計画」を発動させます。

主力艦について見ると、ヴェルサイユ体制で保有を許された6隻の旧式の前弩級戦艦から、艦齢条項でその代艦として新たに建造された「ポケット戦艦」の異名を持つ通商破壊艦(装甲艦)を建造し列強を驚かせました。英独海軍協定の締結により「装甲艦」の強化型から脱却し本格的な主力艦として建造された「シャルンホルスト級高速戦艦、さらに初の本格的戦艦として建造された「ビスマルク級」戦艦の登場と明らかに段階を経て強力な戦艦が生み出されてきたわけでした。

そして「ビスマルク級」の2隻(計画艦名「F」と「G」)に続いて建造に着手されたのが、計画艦名「H」を一番艦とする一連の戦艦、ということになります。これが後に「H級」戦艦として知られることとなるわけです。

「H級」戦艦の諸形式

建造可能な設計「H-39 型」から「H-41型」

「H-39 型」

実際には「H-39型」と言われる「H」艦「J」艦に2隻は(「I」の文字は数字等と誤りやすいという理由で欠番となっています)、1939年に着工されましたが、第二次世界大戦の勃発で建造中止となりました。

(上図は「H-39型」の図面)

The Wells Brothers' Battleship Index: Debunking the Later H-class Battleships

で紹介されたものを拝借しています。

ここでは「H級」計画の全貌について実によくまとめられた文章を読んでいただくことができます。原典も複数にあたっていらっしゃって、細部の比較も実に興味深い。関心がある方にとっては、スペック表、図面なども揃っていて「よだれの出るような情報満載」(だと筆者は思っています)ですので、ご一読をお勧めします(「英語かよ」とおっしゃる方も、Google翻訳でかなりの精度で大意が取れると思います。少し表現のおかしなところは、概ね専門用語、軍事用語絡みですから、多分、そこは皆さんの「マニア・マインド」がカバーしてくれるはず)。もちろん図面や概略は今回大まかに引用掲載しますので、ご心配なく。(というわけで、今回の図面などはここから引用したものを中心に)

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(上の写真は「H39型」戦艦の概観:224mm in 1:1250 by Neptun: 下の写真は「H39型」の細部拡大:「ビスマルク級」をタイプシップとして、それに準じた兵装配置であることがよくわかると思います。大型ディーゼルを搭載した高速長航続距離を目指した設計で、二本煙突が大きな特徴かと: 中段写真では新型で、それまでの「ビスマルク級]に搭載された開放型の砲架とは異なり閉鎖型の新型連装砲架に搭載された8基の高角砲:105mm/65 SK C/33がよくわかります)

H39型」は、「ビスマルク級」戦艦の拡大改良型で、「ビスマルク級」では実現できなかった機関のオール・ディーゼル化を目指した案です。大型ディーゼル機関の搭載により30ノットの高速と、長大な航続距離を併せ持った設計でした。機関の巨大化により船体も55000トンに達しています(「ビスマルク級」は41700トン)。主砲口径は「ビスマルク級」よりも一回り大きな40.6センチ砲として、これを連装砲塔4基に搭載していました。

全体的な概観や兵装配置は「ビズマルク級」を踏襲しており、大きな外観的な特徴としては巨大な機関搭載により煙突が2本に増えたことと、航空機関連の艤装が艦尾に移されたことくらいでした。

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これに続く「K」「M」「N」「L」までは「H-40a型」「H-40b型」「H-41型」などと呼ばれる実現可能な設計案が準備されていたと言われています。

「H-41型」

(上図は「H-41型」の図面: The Wells Brothers' Battleship Index: Debunking the Later H-class Battleships から拝借しています)

(上の写真は筆者版「H41型」戦艦の概観:232mm in 1:1250 by semi-scratch based on Superior:「筆者版」の種を明かすと1:1200スケールのSuperior製H-class(おそらく「H39型」)をベースにしています(≒Superior社の1:1200スケールのひと回り大きな「H39型」を1:1250スケールの「H 41型」のベースとして流用している、と言う訳です)。筆者が知る限り、「H41型」の1:1250スケールモデルはAlbert社からのみ市販されていますが、未だ見たことがありません)

この「H級」シリーズの実現性のある設計案の最後の「H41型」は、主砲の強化を狙った設計案でした。排水量68000トン(「大和級」並)の船体に、42センチ(連装砲塔4基搭載)の口径の主砲を搭載し、機関は再びオールディーゼルとして速力28.8ノットを発揮するというスペックでした。

 

研究段階の「H-42 型」から「H-44型」

「H級」計画は、さらに、研究段階の設計案として「H42 型」「H43 型」「H44型」と続いています。どうも「ナチス・ドイツ」の兵器設計の常、というか(架空戦記小説から筆者が影響を受けているだけかもしれませんが)「大きく強く」のような発想が色濃く見受けられる(あくまで筆者の私見ですが)計画案が多いように感じています。いずれも強大な船であり、既に「H41型」ですら建造施設に課題が見つかっていることから、これらの建造についてはドライ・ドックでの建造等、建造方法についても研究・検討が必要だっただろうと上掲の文書では記述しています。

「H-44型」

(上図は「H-44型」の図面: The Wells Brothers' Battleship Index: Debunking the Later H-class Battleships から拝借しています)

「H44型」は公式な設計案が残る史上最大の戦艦とされています。排水量130000トン、 50.6センチ(20インチ)砲8門を主砲として搭載し、ディーゼルと蒸気タービンの併載で29.8ノットを発揮する、というスペック案が残っています。複数の枝記号を持つ図面が見つかっており、設計案が複数あったかもしれません

(「H44型」の概観:293mm in 1:1250 by Albert: 破格の大きさで、いつも筆者が使っている海面背景には収まりません。仕方なくやや味気のない背景で。下の写真は「H44型」の兵装配置を主とした拡大カット:巨大な20インチ連装主砲塔(上段)から艦中央部には比較的見慣れた副砲塔や高角砲塔群が比較的オーソドックスな配置で(中段)。そして再び艦尾部の巨大な20インチ連装主砲塔へ(下段))

 

完全な架空艦「H45型」

これら各形式についての詳細は、冒頭の本稿の投稿を読んでいただくとして、これまでご紹介してきた「H級」の諸型式は研究段階という「淡い」状態ながらも何らか計画があったことが確認されていますが、もう一つ「都市伝説的」な型式「H45型」が、The Wells Brothers' Battleship Index: Debunking the Later H-class Battleships では紹介されています。

「H45型」は「実存しない設計案」つまりゲームの中だけで語られている設計案の一つです。

「都市伝説的な」とご紹介したのは、この設計案が、ヒトラーがグスタフ列車砲(800mm砲)を主砲として搭載する戦艦のアイディアについて語った、という設定(史実なのかどうか?)のみを拠り所として、考えられているからです。(投稿には図面が掲載されてます。「ただしなんの根拠もないよ、でもこういう自由な設定は楽しいから、いいんだよ。どんどんいこう」的なコメント付きです:Let us state for the record that there is absolutely nothing wrong with making up purely fictional ship designs for wargames. We do it all the time. It can be fun. It only becomes a problem when people start to believe that these designs were real. Since these are fictional designs, it is difficult to impossible to find good, reliable references on them. We are forced to rely on saved pictures and saved bits of text from defunct websites, as well as personal memories. So, here we present some more-or-less fictional designs that readers might find on the internet:「H45型」に関するコラムの冒頭部分をそのまま引用しています。fictional designsが何度も出てきて、ちょっと嬉しいですね)

 

「H45型」のモデルがついに到着

前述のように、「H-45型」は完全な架空艦で公式な資料などは、おそらく存在しません。

myplace.frontier.com

図面等を引用させていただいている「H級」に関するまとまった情報を掲載している上掲のサイトには、しかし驚くべきことに、この実在しない戦艦の図面が掲載されています。

 

(上図は「H45型」(上記のコラムでは”The (mostly) Fictional H-45 Design”とタイトルがついています)と称して紹介された「オバケ戦艦」:上図の上左に「ビスマルク級」の図が対比として載っているので、大体の大きさがわかっていただけるかと)

さらに上掲のサイトでの紹介では、”The (mostly) Fictional H-45 Design”と銘打たれた55万トン(一説では70万トン)のまさにモンスター戦艦。全長609メートル、80センチ主砲(グスタフ列車砲)搭載、なんと28ノットの速度が出せる、ということになっています。

さらに驚くべきことに、1:1250スケールの3D printing modelが市販されていて、xpforge.comで入手可能です。

Battleship - H-45 - What If - German Navy - Wargaming - Axis and Alies - Naval Miniature - Victory at Sea - US Navy - Tabletop - Warshipsxpforge.com

(xpforge.comに掲載されているモデルの写真:砲塔類も一体生計のようです。かつ標準スケールは1:1200と表記され、1:1200スケールの場合には、2分割で製作、と但し書きがあります)

発注をかけていたモデルが先週末に到着。2月4日の投稿の直後の発注だったと記憶しますので、到着までに約1ヶ月を要したことになります(制作期間も考慮すれば、まあ順当はところでしょうね)。

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(写真は到着した「H-45型」のモデル:中央で2分割されてプリントアウトされた船体と、主砲塔(なぜか5基:予備を付けてくれた?)。さらに副砲や高角砲などの武装パーツが別袋にまとめられています)

前述のように、xpforge.comで指定できるスケールは1:1200で、ただし発注時に「1:1250スケールを希望」とメモをつけておけば、1:1250でプリントアウトしてくれます。かつ今回は、「砲塔類を全て別パーツにしておいてほしい」というスペシャルリクエストをしたところ、快く請けてもらえました。「ああ、それは簡単。ちょっと手間賃もらうけど」という感じで、ほんの少しだけサイトの掲載料金より高い請求が来ました。でも全て砲塔類をゴリゴリ撤去する手間と、その後の仕上げを考慮すると、断然、このお願いをしてよかったと思っています。言ってみるもんです。

 

どんな大きさのモデルなのか

このモデルどんな大きさか、ということを早速実証。

まずは1:1250「大和」との比較が下の写真。6万トンと55万トン(70万トン?)の差は歴然としています。やっぱり大きい!

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さらに筆者の1:1250スケールコレクションで最大の「H-44型」も仲間に入れて、3者比較が下の写真です。「H-44型」が293mmのモデルなので500mm超えの大きさだということがわかってもらえるかと。

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やっぱり、とにかく断然大きい。

 

モデル細部について見てみると

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左上:船体は告知通り真ん中で2分割でのプリントアウトになっています。どうやって繋ごうかな。さらに言うと、作業のどの段階で繋ごうかな。

右上:これがこの船の目玉でもある世界最大の列車砲800mmグスタフ砲を艦載型にした主砲塔です。ちょっと砲身が太すぎないかな、と言う懸念が湧いてきます。

下段の2カット:艦橋や煙突部、後橋などの上部構造物。割とざっくりした感じの仕上げです。艦橋と後橋は手を入れたいなあ、と。

ざっと見た感じでも、いくつか手を入れたいところが出てきています。

 

武装パーツを見てみる

別袋の武装パーツは下の写真の3種類の砲兵装でした。

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上段:三連装副砲塔?:16基入っています。

下段左:単装砲塔:重対空砲?これが15基付属しています。

下段右:連装高角砲:これが21基入っています。

が、そもそも主砲以外にはどんな兵装が想定されているんでしょうか?

と言うことで、例の上掲のサイトをのぞいてみると、以下のような記載が。

Armament:
Main: 8 31.5" (80cm) Gustav siege guns (4 x 2)
Secondary: 12 9.45"/73 (24cm) Long Range AA guns (12 x 1)
Tertiary: 24 5.04"/60 (12.8cm) AA guns (12 x 2)
Light: 5.5cm/77 Gerat 58, 30mm AA guns

上から、主砲は800mm(31.5インチ)グスタフ砲 連装4基:これはこの通り。800mm列車砲は世界最大の口径の列車砲で、2門が生産されたのみです。「H-45型」はこれを8門搭載しているわけです。

副砲として、240mm(9.45インチ)73口径重対空砲 単装砲塔12基:これが上掲の写真の左下段でしょうね。73口径という長い砲身を持った対空砲ですね。実在しないのではないかな。これも付属部品は砲身が太すぎる?

さらに128mm(5.04インチ)60口径高角砲 連装砲塔12基:これは「ビスマルク級」などが搭載していた高角砲(105mm)よりも口径の大きな高角砲ですね。12.8cm Flak 40と言う正式名称で実在しました。これを連装砲塔で搭載したものですね。

さらに近接火器として55mm砲や30mm対空砲を多数搭載、という仕様になっています。

 

あれれ、3連装砲塔(写真上段)についての記述がないですね。上掲の表だけではなく、本文にも記述がありません(筆者は見つけられませんでした)。にもかかわらず、上掲の図には少なくとも4基の3連装砲塔が記載されているようです。図面では150mm級(軽巡洋艦なみ?)のように見えますが、モデルに付属しているものはもっと大きな口径の砲のように見えます。形状が似ているのは280mm(11インチ)3連装砲塔です。まあ、この辺りは最後に決めてもいいかも。いずれも筆者のストックパーツに置き換えましょう。

 

グレードアップの検討開始

さてここからはグレードアップ・プランの検討とできることは実行に入ります。

主砲塔に手を入れる

主砲塔、特に砲身の太さ、長さは最初から気になっていました。800mmの口径というと1:1250スケールでは0.64mm、手元に幾分か在庫のある1:700スケールで換算する448mmとなりますので、手元の「大和級」の460mm主砲砲身が使えそうです。

一方長さを考えると、800mmグスタフの砲身長は47mということですので、1:1250スケールでは37.6mmに当たります。砲塔内も含めての長さになりますから、25mm程度の長さがあればいいいのではないか、ということで、上掲の1:700スケールの「大和級」460mm砲の真鍮砲身に置き換えることにします。

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(上の写真:1:700スケールの「大和」用真鍮砲身に換装した主砲塔とそれを船体の装着してみた感じ。2分割の船体は結局早期に接着することにしました。まだ接続箇所の隙間埋め用のパテを仕上げしていません。下の写真:各砲塔のアップ。一部欠損の見つかった法等はエポキシ・パテで補修しています)
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ということで早速砲身を真鍮部品に換装。なかなかいい感じ。長さを少し気にしたのですが、こちらでみる限りさほど違和感はなし。一応これで決定としましょうか。

 

上部構造物に手を入れる

上掲の写真のように、このモデルの艦橋、後橋の作りはあっさりとしすぎてるように思います。ですのでこちらも手持ちのストックパーツに入れ替えます。

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(上の写真:艦橋と後橋を手持ちパーツでアップグレードしました)

流用したパーツはHansa製の「H-39型」戦艦の艦橋と、同じくHansa製「OPQ級」巡洋戦艦の後橋のパーツと手持ちのマスト(これも「ビスマルク級」のAtlasモデルからだったかな?)

まあ、こんな感じでしょうね。

 

副砲をどうしよう

さて、上述のようにどこにも情報のない対艦戦闘用の副砲ですが、選択肢としては手持ちのストックパーツでドイツ海軍風のデザインのものとしては、28センチ3連装砲塔(「ドイッチュラント級」装甲艦の主砲塔)、15センチ3連装砲塔(「ケルン級」等の軽巡洋艦の主砲塔)と、こちらは3連装ではないですが20センチ連装砲塔(「アドミラル・ヒッパー級重巡洋艦の主砲塔)が挙げられます。いずれも一応数はある程度揃えることができそうです。

まず、28センチ3連装砲塔を装着

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(上の写真:対艦戦闘用副砲を手持ちの28センチ砲に置き換えてみた図。船体と主砲塔の巨大さから、違和感はないかと。船体強度等を考慮すると舷側に配置された28センチ副砲等は大丈夫なのかなあ、とは思いますが、50万トン強のこの船の場合には気にしなくてもいいのかも:下の写真:各砲塔のアップ。やっぱり大きさ的にも特に違和感はないですかね)

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片舷に15射線が確保できます。かなり強力な印象がありますね。しかし悪くはないですが、やはり全体にちょっと重い感じ(視覚的に、というよりも理論上は、という感触ですが)はします。特に艦中央部の舷側部分が。

次に、15センチ3連装砲塔案

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(上の写真:対艦戦闘用副砲を手持ちの15センチ砲に置き換えてみた図。小さいですね。舷側以外に配置されている砲塔は奥に入り過ぎの感さえあります:下の写真:各砲塔のアップ。やっぱり小さすぎ?)

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対艦戦闘時の速射性などを考慮するとこれもありかな、とは思いますが、この規模の艦であることを想定すると、少しひ弱な感じもします。

そして、20センチ連装砲塔案

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(上の写真:対艦戦闘用副砲を手持ちの20センチ砲に置き換えてみた図。上掲の15センチ法同様、舷側配置以外の砲塔は小さすぎる感があります:下の写真:各砲塔のアップ。特に主砲塔に近い配置の物は小さすぎが目立つように思います)

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これはこれである程度はしっくりきますね。片舷10射線というのがやや弱い感じはしますが。

 

ということで、今のところは有力候補は28センチ3連装砲塔案かなあ。あるいは舷側の2基だけを20センチ連装砲塔か15センチ3連装砲塔にするか。混載はありかも。

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(主砲塔周辺に28センチ砲塔を配置し、舷側のみ20センチ砲にしてみた、いわゆる混載案。ありかな、と思う反面、公算射撃的には成り立たない気がしてきました。やっぱり全て28センチ砲で統一すべきかも)

ということでもう少し検討してみましょう。

 

対空砲はストックパーツに換装を、これはほぼ決定

付属の対空砲はやや「もったり」しているので、ストックパーツに置き換え流ことに決定します。数もなんとかなりそう。

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(上がモデルに付属のパーツで、したが筆者が準備している対空砲パーツ(Hansa製))

細かい話ですが、流用パーツはHansa製「H-39型」から、連装砲塔(「ビスマルク級」などの連装砲架タイプではなく)のものを使用する予定です。

 

最大の課題:24センチ重対空砲

モデル付属のパーツは、どう見ても平射用の単装砲塔にしか見えません。砲身も主砲砲身の換装後との対比で考えると現行の部品では太すぎると思います。更に直上への対空射撃を考えると、砲塔と砲身の位置関係も、今のものではしっくり来ません。さて、どうしましょうか?

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(上の写真はモデルに付属している24センチ単装砲塔。どうみても平射砲にしか見えず、しかも砲身が太すぎる気がします。ちゃんと両用砲風に仕上げたい)

それにしても24センチ口径の対空砲というのは現実的なんでしょうか?対空砲に求められる速射性や標的に即応する機動性など、あまり現実的ではないように思います。

でもまあ、架空艦の仕様としては大変重い白いので、ぜひチャレンジしたいのですが、砲塔構造を考えると、やはり米海軍のMk.39(5インチ単装砲塔)あたりが参考になるんでしょうか?有名な Mk.42だとちょっと近代的すぎるか。1:700スケールのMk.39を手に入れてみましょうか。

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(今のところ、換装第一候補にあげているピットロード製の1:700スケールのMk.395インチ両用砲塔。同砲塔は米海軍では「ミッドウェー級」空母の対空砲、海上自衛隊の初期艦船の主砲として用いられていました)

ja.wikipedia.org

それにしてもこの対空砲、史実上存在したのかどうか、筆者は調べきれていません。

こう少し研究が必要です。

 

というわけで、少しづつ手を入れて仕上げてゆこうかと考えています。

 

今回はまずはこの辺りで。

次回は米海軍の駆逐艦開発少子に戻って、第二次世界大戦期の再び桁違いの大量建造された駆逐艦の艦級のお話を、と考えています。

 

もし、「こんな企画できるか?」のようなアイディアがあれば、是非、お知らせください。

 

模型に関するご質問等は、いつでも大歓迎です。

特に「if艦」のアイディアなど、大歓迎です。作れるかどうかは保証しませんが。併せて「if艦」については、皆さんのストーリー案などお聞かせいただくと、もしかすると関連する艦船模型なども交えてご紹介できるかも。

もちろん本稿でとりあげた艦船模型以外のことでも、大歓迎です。

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アメリカ海軍の駆逐艦(その3):大戦間の駆逐艦:ロンドン条約締結を契機とした駆逐艦建造の再開

今回は米海軍の駆逐艦開発小史の3回目。

前回ご紹介したように、米海軍は19世紀末から大発展を遂げ、創設当初のの沿岸防備型海軍から大洋型の海軍へと変貌します。特にヨーロッパでの第一次世界大戦の開戦から米国の参戦までの間、想定される作戦に向けて、大量の駆逐艦を整備したわけです。

米国の国力と工業生産の能力が遺憾なく発揮され、その結果、列強海軍とは桁違いの数の駆逐艦が量産されます。その大半は大戦終結後の就役となり、老朽艦の退役後も大量の駆逐艦を抱えた米海軍は1920年代には新たな駆逐艦を建造しませんでした。

1930年に締結された補助艦艇の保有に関する制約を設けたロンドン条約を契機に、米海軍の新型駆逐艦建造への動きが再開されます。

今回はその時期のお話。

 

この期間は、一旦、前回ご紹介した「平甲板型駆逐艦で艦隊駆逐艦の決定版を見出した米海軍が、その後の米国自体の軍備計画、太平洋を挟んで急成長を遂げた日本海軍の動向などを鑑み、新たな艦隊駆逐艦像を設計・模索した時期だと言えます。

この間、建造された駆逐艦の艦級は8艦級で、いずれも当時の技術革新や新たな戦術の試行を盛り込みながら設計され、これらの模索期の後に、米海軍は第二の艦隊駆逐艦の量産期を迎えることになるのです。

 

「ファラガット級」駆逐艦(就役期間1934-1945:同型艦8隻)

ja.wikipedia.org

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 (「ファラガット級」駆逐艦の概観。84mm in 1:1250 by Neptun)

「ファラガット級」駆逐艦第一次世界大戦で大量に建造された平甲板型駆逐艦保有する米海軍が13年ぶりに設計した駆逐艦で、1500トンの船体に5インチ両用砲を単装砲塔と単装砲架の混載で5門、21インチ4連装魚雷発射管を2基搭載し、37ノットの速力を発揮することが出来ました。一方で、これらの強力な兵装の搭載は、1500トンの船体には、過剰で、強いトップ・ヘビーの傾向を持っていました。f:id:fw688i:20240302174315p:image

 (直上の写真:「ファラガット級」駆逐艦の主砲配置。艦首部は両用砲の単装砲塔形式で、そして3番砲(艦中央部)以降は単装砲架形式で、主砲を搭載しています)

第二次世界大戦中には、多くの艦でレーダーの追加搭載、対空火器の増設や対潜装備の強化などが行われ、代償として3番主砲の撤去などが行われました。f:id:fw688i:20200705142519j:image

(上下の写真は「ファラガット級」の大戦後期の姿:対空火器が強化され、3番主砲は撤去されています)

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第二次世界大戦中に3隻が台風での遭難、座礁などで失われました。

 

両用砲という先見性

同級は、それまでの米海軍の主力駆逐艦であった平甲板型に比べ、次元が違うと言っても良い強力な艦として設計されたわけですが、その革新性の最たるものが5インチ両用砲(Mk 12 5インチ砲)の主砲採用で、これは米海軍が航空機の脅威の増大を既にこの設計時期に予期していた、と言うことを示していると考えられます。

ja.wikipedia.org

この砲はその後建造された駆逐艦だけでなく、戦艦、巡洋艦、空母など米海軍艦艇のほぼ全ての艦級に搭載され、実に1990年まで使用された優秀な砲で、単装砲架から連装砲塔まで、多岐にわたる搭載形式が算用されました。「ファラガット級」では、艦首部には単装砲塔形式で2基を背負い式に配置し、艦中央に単装砲架で1基、艦尾部に単装砲架を背負式で2基搭載しました。

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(「ファラガット級」の主砲配置(再掲):艦首部は両用砲の単装砲塔形式で、そして3番砲(艦中央部)以降は単装砲架形式で搭載されていました)

同砲は楊弾機構付きで毎分15-22発、楊弾機構なしの場合でも毎分12-15発の射撃が可能で、これとMk 33両用方位盤との組み合わせで、それまで平甲板型駆逐艦に比べ飛躍的な射撃能力を得ることができました。

既にこの「ファラガット級」の設計(1930年代)から、「砲」そのものはもちろん、装填機構や方位盤などの射撃管制機構との組み合わせで「両用砲」と言う「システム」を駆逐艦に搭載したアメリカ海軍の先進性には、本当に驚かされます。

 

「マハン級」駆逐艦(就役期間1936-1946:同型艦18隻)

ja.wikipedia.org

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 (直上の写真:「マハン級」駆逐艦の概観。82mm in 1:1250 by Neptun:モデルは第二次世界大戦後期のもので、3番主砲は対空砲座に置き換えられています)

「マハン級」駆逐艦アメリカ海軍が第一次世界大戦後建造した3番目の艦隊随伴用の駆逐艦の艦級で、就役年次は1937年ごろ。1500トンの小ぶりな船体を、原型となった「ファラガット級」で課題となった復原性不足に対応してやや幅広の設計としたにもかかわらず、5インチ両用砲5門、21インチ4連装魚雷発射管3基を搭載するなど、重武装による、強いトップ・ヘビー傾向と言うこの条約期の駆逐艦の構造的な欠陥を、前級の「ファラガット級」から引き継いでいました。

f:id:fw688i:20200705142441j:image

 (直上の写真:「マハン級」駆逐艦の主砲配置。艦首部は両用砲の単装砲塔形式、艦尾部は単装砲架形式で、主砲を搭載しています)

4連装魚雷発射管を3基搭載する重雷装艦でありながら、片舷射線は8射線で、これは前級「ファラガット級」と同じでした。

同級1番艦の艦名は、著名な海軍戦略家アルフレッド・セイヤー・マハンに因んだものです。マハンの著書「海上権力史論」は明治期の海軍士官の必読書と言われ、日本海軍の日露戦争当時の艦隊参謀として有名な秋山真之も、米国留学の際、マハンを訪ねたと言われています。

 

同級は18隻が建造され全て太平洋戦線に投入され、6隻が戦没しています。

**よく考えると「18隻」という建造数は他の列強海軍であれば十分に量産と言える数なのですが、米海軍では「試行期の数」と言われると納得してしまいます。やはり桁外れの国力のなせる技かと。

 

「ポーター級」駆逐艦(就役期間1936-1950:同型艦8隻)

ja.wikipedia.org

f:id:fw688i:20240302174732p:image

(「ポーター級」嚮導駆逐艦の概観:94mm in 1:1250 by Neptun:モデルはおそらく大戦後期の両用砲への換装後の姿で、主砲配置、搭載形式、搭載数などが変更され、対空火器が強化されています)

同級は「ファラガット級」「マハン級」が汎用艦隊駆逐艦として設計されたのに対し、これらの艦級を指揮するいわゆる嚮導艦、戦隊旗艦として設計された艦級です。

汎用艦に対し二回りほど大きな1900トン弱の船体を持ち、37ノットを発揮する設計でした。「ファラガット級」で採用された5インチ砲を連装砲塔形式で4基装備していましたが、就役時には重量過多を懸念して軽量な平射タイプが選択されたようです。この連装砲塔を背負い式に艦首・艦尾に2基づつ搭載していました。砲自体は平射砲塔装備であったにも関わらず射撃指揮システムは両用砲用の方位版が組み合わせられていたようで、後の両用砲塔への換装が予定されていたのかもしれません。両用砲への換装の実施は第二次世界大戦末期の1944年まで待たねばなりませんでした。f:id:fw688i:20240302174737p:image

(「ポーター級」嚮導駆逐艦大戦後期の状態でのの主要兵装配置:大戦後期の両用砲への換装後の姿で、主砲は艦首に連装砲塔1基、艦尾に連装砲塔と単装砲塔が背負い式で配置されているのがわかります。その他、対空火器の増設が行われています)

その他の主要兵装としては21インチ4連装魚雷発射管2基、28mm4連装機関砲2基等でした。

(写真は「ポーター級」の竣工時の概観 by Neptun:4基搭載された主砲塔はいずれも平射用の連装砲塔です。竣工時に搭載されていた28mm機関砲は艦首・艦尾にそれぞれ背負式に配置された平射用連装主砲塔の背後に搭載されています:写真は例によってsammelhafen.deより拝借しています)

後に最初に掲載した写真のように主砲の両用砲塔への換装、対空機関砲の40mm口径への換装等と同時に兵装の重量軽減の試みも行われ、主砲は連装砲塔と単装砲塔の組み合わせ等、あるいは魚雷発射管の撤去と対空兵装の増強等が行われました。

ネームシップの「ポーター」が1942年の南太平洋海戦で失われましたが、他艦は大戦を生き抜きました。

 

「グリッドレイ級」駆逐艦(就役期間1937-1946:同型艦4隻)

ja.wikipedia.org

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 (「グリッドレイ級」駆逐艦の概観。83mm in 1:1250 by Neptun :モデルは艦尾部の主砲も砲塔形式になっていますが、考証の誤りかと)

同級は「マハン級」をベースとして、より高速化を目指した艦級でした。機関部が改良され、38.5ノットの速力を発揮する事ができました。速力は向上しましたが燃費は悪化し、航続距離が前級より低下しています。

同級「グリッドレイ級」と次級以降の「バックレイ級」「ベンハム級」はほぼ同じ外観で、ベスレヘム造船所(民間)で建造された4隻が「グリッドレイ級」と呼ばれています。

兵装面では雷装への指向が顕著になり、4連装魚雷発射管を4基搭載しています。発射管は両舷に2基づつ搭載される形式で、片舷に指向できる魚雷発射管は一見すると8門でしたが、米海軍ではジャイロ制御によって一旦艦尾方向に射出した魚雷を変針し同一方向に向かわせるという戦術をとっていたため、同一目標に対し16射線を確保できる設計になったいました。

一方、4連装魚雷発射管を追加したため重量過多の代償として主砲は1基減ぜられ、5インチ単装両用砲4基とし、艦首部の2基は砲塔形式で、艦尾部の2基は砲架形式で搭載されていました。

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 (「グリッドレイ級」駆逐艦の主要兵装配置:上述のように今回ご称しているモデルにはおそらく考証上の誤りがあり艦尾部の主砲も砲塔形式になっていますが、実物は下の写真のように艦尾部の5インチ単装両用砲は砲架形式だったは図。下の写真は下段を次に紹介する「バックレイ級」の写真に入れ替えたもの。きっとこんな感じだったんじゃないでしょうか?搭載砲の話ばかりになりましたが、同級の真骨頂は、雷装にありました。艦中央には4連装魚雷発射管が4基も搭載されています。射出方法は上述の通り艦尾向けに最大16本の魚雷を射出し、魚雷自体のジャイロ制御で、同一方向に向かわせる、という射出方法が取られました)

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いずれにせよ船体の大きさに対しての重武装傾向は変わらず、復元製には課題が残りました。

4隻共に第二次世界大戦では当初太平洋戦線に投入され空母機動部隊の護衛を務めました。戦没艦はありませんでしたが、復元性に問題があったためその後の対空火器強化に際して40mm機関砲の追加搭載が見送られ、特に日本海軍が特攻戦術を取り始めると対空火力不足から大西洋戦線に配置換えをされています。

 

「バックレイ級」駆逐艦(就役期間1937-1946:同型艦8隻)

ja.wikipedia.org f:id:fw688i:20200509234716j:image

(「バックレイ級」駆逐艦の概観:83mm in 1:1250 by Neptun)

前述のように「グリッドレイ級」とほぼ同型で、前級が民間造船所(ベスレヘム造船所)で建造されたのに対し、同級は海軍工廠で建造されました。1600トン弱の船体に、5インチ単装両用砲4門と21インチ4連装魚雷発射管を4基搭載するなどの主要兵装の配置等は「グリッドレイ級」に準じていました。同様に新型の機関搭載により38.5ノットの高速を発揮することができました。海軍工廠の設計により、「グリッドレイ級」よりも若干復元性が良好だったと言われており、前述のように「グイッドレイ級」では見送られた40mm機関砲の搭載も実施されています。

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(写真は「バックレイ級」の主要兵装の拡大:主砲である単装両用砲は艦首部は砲塔形式で、艦尾部は砲火形式で搭載されていました。特徴のある魚雷発射管の搭載形式も興味深いものがあります。「グリッドレイ級」の本文中にも書きましたが、斉射時には魚雷発射管を全て艦尾方向に回転させ射出し、魚雷自体のジャイロ制御で最大16本の魚雷を同一目標に向かわせる方式だったようです。うまくいったのかなあ?)

第二次世界大戦では太平洋戦線に配置され、ソロモン方面の戦闘で3隻が失われています。さらに大戦末期には2隻が特攻機の命中を受け損傷しています。

 

 「ベンハム級」駆逐艦(就役期間1939-1946:同型艦10隻)

ja.wikipedia.org

f:id:fw688i:20240302180141p:image

(「ベンハム級」駆逐艦の概観。83mm in 1:1250 by Neptun:モデルは大戦末期の対空火器強化後の姿。魚雷発射管の搭載数を抑え対空砲座を増設しています)

同級は「バックレイ級」の準同型艦で、後期「バックレイ級」と呼ばれることもあります。機関が改良され高圧缶の採用で40ノットの速力を発揮する事ができました。

主要な兵装等は「バックレイ級」に準じています。

大戦後期には前級同様に大幅な対空火器の増強が行われています。f:id:fw688i:20240302180137p:image

(写真は「ベンハム級」対空火器増設後の主要兵装の拡大:対空火器の増設に際して、代償として魚雷発射管は2基に減らされ、装備位置も若干変更されているように見えます)

同型艦10隻のうち太平洋戦線、大西洋戦線で各1隻が失われています。

 

サマーズ級駆逐艦(就役期間1937-1945:同型艦5隻)

ja.wikipedia.org

 

f:id:fw688i:20240302180518p:image

(「サマーズ級嚮導駆逐艦の概観:93mm in 1:1250 by Neptun:モデルは大戦後期の対空兵装を強化したのちの姿。連装両用砲塔は3基に、魚雷発射管の搭載数も2基に減じられ、対空火器が強化されています)

米海軍が建造した最後の嚮導駆逐艦です。当初は「ポーター級」の同型艦となる予定でしたが、技術革新等に対応した結果、新設計となりました。

設計時にはこの時期の米海軍の駆逐艦に見られたトップヘビー傾向に対して特に配慮が払われましたが、5インチ両用砲の砲塔装甲化や戦術運用面からの魚雷発射管の搭載位置指定等から、結果的には悪化した状態での就役となり、就役後に装備や構造物の撤去で対応することとなりました。

就役時には2000トン級の船体に、主要兵装として5インチ連装両用砲塔4基、21インチ4連装魚雷発射管3基を装備し、39ノットの速力を発揮する設計でした。f:id:fw688i:20240302180514p:image

(「サマーズ級嚮導駆逐艦の大戦後期の主要兵装の拡大:既述のように連装両用砲塔は3基に、魚雷発射管の搭載数も2基に減じられ、対空火器が強化されています:竣工時の姿を再現したモデルはちょっと見当たりません)

第二次世界大戦には大西洋方面で活動しましたが、トップヘビー傾向が災いし1隻がハリケーンで遭難し失われました。

多くの艦は大戦後半には魚雷発射管1基、連装砲塔1基を40mm対空機関砲に置き換えるなど、対空火器の増強を行なっています。

 

「シムズ級」駆逐艦(就役期間1939-1946:同型艦12隻)

ja.wikipedia.org

f:id:fw688i:20240302180900p:image

(「シムズ級」駆逐艦の概観:85mm in 1:1250 by Neptun:モデルは1番艦「シムズ」の竣工時の姿。完成後そのあまりのトップヘビー傾向の強さに、大改修が加えられます)

同級は前級「ベンハム級」の拡大強化型と言って良いと思います。

火力の強化が試行され、長らく4基に減じられていた単装両用砲の数が、5基に増やされ、新型の両用射撃指揮装置が搭載されました。

船体を2000トン級に拡大し、前述のように5インチ単装両用砲を5基、21インチ4連装魚雷発射管を3基搭載していました。単装両用砲は艦首部の2基と最後部の1基を砲塔形式とし艦尾部のその他の2基は砲架形式で搭載されていました。3基の魚雷発射管は「マハン級」と同じく首尾線上に1基、両舷に各1基を配置していました。

機関は「ベンハム級」と同等で、38ノット強を発揮する設計でした。f:id:fw688i:20240302180856p:image

(「シムズ級」駆逐艦の1番艦「シムズ」の竣工時の主要兵装の拡大:砲力強化を目的に5基搭載に増強された単装両用砲は艦首部の2基と最艦尾の1基が砲塔形式で、他の2基は単装砲架形式で搭載されていました。独特の形式で搭載された3基の魚雷発射管は完成後にトップヘビー対策のために2基に減じられました。ちょっと地味ですが、艦橋上には新型の両用砲射撃指揮装置が据えられています)

一番艦「シムズ」が上記のスペックで就役しましたが、就役直後にそのトップヘビー傾向があまりにも顕著であるという重大な課題が発見され、二番艦以降は大規模な改正が加えられました。兵装面では両舷に配置される予定だった2基の魚雷発射管のうち1基を減じて首尾線上に2基の搭載とし、さらに上部構造物の軽減、バラストの装着などの重量軽減策や重心位置の下方移動等の改善策がとられました。

(「シムズ級」重心改修後の艦容:魚雷発射管を1基減じて2基を首尾線上の搭載とし、トップヘビー解消策が取られました。2番艦以降は葉この姿で竣工しています。上掲の写真ではさらに3番両用砲(砲架型)も対空火器に換装されています:写真は例によってsammelhafen.deより拝借しています)

12隻が建造され、当初全て大西洋に配置されましたが、日本の参戦と共に9隻が太平洋に配置換えされました。第二次世界大戦では大西洋で1隻が、太平洋で4隻が戦没しました。

 

今回は新たな艦隊駆逐艦像を模索する時期の米海軍の駆逐艦の艦級を見てきましたが、こうして「シムズ級」までの設計・建造からの知見の蓄積から、次級「ベンソン級」「リバモア級」が生み出され、折から再び塾し始めたヨーロッパでの戦雲、さらに日本との関係悪化を背景に、米海軍は第二の駆逐艦の大量建造の時期を迎えることになります。

大戦間に建造された米海軍艦隊汎用駆逐艦の一覧

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(上の写真は大戦間の米海軍汎用駆逐艦の一覧です。手前から「フェラガット級」「マハン級」「グリッドレイ級」「バックレイ級」「ベンハム級=後期バックレイ級」「シムズ級」の順です。艦幅と魚雷発射管の配置等に、この時期の兵装重視と復元性の両立への模索が伺えるかと)

 

というわけで今回はこの辺りで。

この「小史」ミニシリーズの次回は第二次世界大戦期の再び桁違いの大量建造された駆逐艦の艦級のお話を、と考えているのですが、その前に、「凄いモデル」が届いたので、そちらのご紹介を一度はさませていただくことになるかも。

 

もし、「こんな企画できるか?」のようなアイディアがあれば、是非、お知らせください。

 

模型に関するご質問等は、いつでも大歓迎です。

特に「if艦」のアイディアなど、大歓迎です。作れるかどうかは保証しませんが。併せて「if艦」については、皆さんのストーリー案などお聞かせいただくと、もしかすると関連する艦船模型なども交えてご紹介できるかも。

もちろん本稿でとりあげた艦船模型以外のことでも、大歓迎です。

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アメリカ海軍の駆逐艦(その2):艦隊駆逐艦の第一期決定版 平甲板型

今回は「米海軍駆逐艦開発小史」の2回目。

本稿の前回では、米海軍の駆逐艦黎明期から航洋型駆逐艦の開発期まで、その初期を見てきましたが、第一次世界大戦を経て、米海軍は英海軍に匹敵する、あるいは凌駕する規模の大海軍へと成長を遂げてゆきます。

この間に、その成立期には水雷艇から主力感を守るための専任艦として設計されながらも、その優れた汎用性から、駆逐艦は海軍の任務全般を担うべく発展し、従って数を揃えること「量産性」が、各国海軍の大きな命題ともなってきた訳です。

米海軍はこの「量産性」に対し、今回ご紹介する艦級群で、他国とは次元の異なった回答を示すことになります。

 

艦隊駆逐艦の第一期決定版:平甲板型

前回少し触れたように、米海軍における駆逐艦の歴史は浅く、比較的早い時期から他の列強が模索した近接海域での活動ではなく航洋型のせ駆逐艦設計を主軸に置いてきました。したがって諸列強が駆逐艦黎明期に設計したタートルバック(亀甲型)艦首を持った艦は数隻が建造されたに過ぎず、外洋での活動を想定した船首楼型の船体を持つ駆逐艦が、その主流として次々に建造されました。

地勢的に大西洋・太平洋の大洋を越えて活動を想定する必要のある米海軍は、他の列強よりも各艦艇の凌波性に対する感度が高く、駆逐艦においてもやがて全通型の上甲板を持つ「平甲板型」という形式に辿り着きます。

この形式の採用によって、艦首から艦尾まで高い乾舷による凌波性を得ることができ、かつ強力な機関を搭載するための艦内容積ももたらされ、かつ造作が簡易になり、このことは量産性へも繋がってゆくのです。

 

「コールドウェル級」駆逐艦(就役期間:1917年-1945年:同型艦6隻)

ja.wikipedia.org

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(「コールドウェル級」駆逐艦の概観:76mm in 1:1250 by Navis)

同級は「平甲板」形式の船体を持つ最初の艦級です。

いわば「平甲板」型のプロトタイプ的な位置付けで、前述の繰り返しになりますが、艦首から艦尾まで高い乾舷を確保することで凌波性を向上させ航洋性に優れた設計となりました。艦型を単純化することにより建造が簡素化され、量産性にも高い適性を持つこととなりました。

搭載機関との関連から3本煙突艦と4本煙突艦がそれぞれ3隻づつ建造されました。

併せて艦内容積も大きくなり、搭載機関の選択に余裕が生まれ、同級では重油専焼型のギアード・タービンという点では共通ながらいくつかのヴァリエーションでの試行が行われました。

船体の大きさは前級同様1000トン級で、30ノットの速力を発揮する設計でした。

搭載兵装は従来の米海軍駆逐艦のものを踏襲し、4インチ単装砲4基、37mm高角機関砲2基、21インチ三連装魚雷発射管4基を装備していました。f:id:fw688i:20240224171156p:image

(「コールドウェル級」の兵装配置のアップ:艦首・艦尾と煙突間の両舷に配置された4インチ単装主砲と両舷に2区づつ配置された三連装魚雷発射管:平甲板型駆逐艦の基本兵装配置となります)

後に対潜兵装として爆雷投射軌条2基と爆雷投射機が追加搭載されました。

 

第一次世界大戦での戦没艦はなく、第二次世界大戦では米国参戦前に英国との間で交わされたレンドリース法によって3隻が英海軍に船団の護衛駆逐艦長として貸与され、2隻は米国の参戦前に退役、1隻は高速輸送艦に改造され1946年まで在籍していました。

 

「ウィックス級」駆逐艦(就役期間:1918年-1946年:同型艦111隻)

ja.wikipedia.org

(駆逐艦「シューレイ」:ウィックス級 by Navis モデル未保有:写真は例によってsammelhafen.deより拝借しています)

同級は前述の「コールドウェル級」の設計を元に、艦隊の高速化に対応すべく高速化を盛り込んだ艦級です。基本的な兵装、船体の形状等はほぼ前級を踏襲しましたが、当時推進されていたダニエルズ計画では、建造予定の「レキシントン級巡洋戦艦、「オマハ級」軽巡洋艦等との大道を想定して、機関出力を前級の約30%増として35ノットの速力を発揮する高速駆逐艦として建造されました。

平甲板型の量産適性はいかんなく発揮され、1916年度計画で50隻が、1917年の米国の第一次世界大戦参戦に伴い1917年度計画で61隻が追加され、1916年から1921年の間に、実に111隻が建造されました。建造には3つの海軍工廠と4社の民間造船所が動員されました。大戦への参戦により、短期間に大量に建造する必要があったため、搭載機関は造船所の選択に委ねられ、主機方式は多種に渡る結果となりました。

 

建造は急がれたものの第一次世界大戦に戦力として参加できたものは数隻で、大半が大戦後の就役となりました。同級と次のご紹介する「クリムゾン級」が大量に大戦後に就役したことと、世界不況もあり米海軍の駆逐艦建造はその後十数年に渡り行われませんでした。

1931年度計画で新造駆逐艦の建造が再開されると、同級は二線級の戦力と見做され、32隻が退役、ヨーロッパでの第二次世界大戦の勃発により27隻がレンドリース法により英国に貸与され「タウン級駆逐艦として船団護衛に従事することになります。他に6隻が高速輸送艦に、18隻が敷設駆逐艦(系敷設艦)に、9隻が掃海駆逐艦にそれぞれ転籍し、のちには数隻がソ連海軍に貸与されました。残りの艦は魚雷発射管や4インチ平射砲(主砲)を撤去して、両用砲、対空機関砲、対潜装備を充実させ、船団護衛艦に改造されています。

 

同級の改装例のモデル

船団護衛艦への改装「ブレッキンリッジ」

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(船団護衛艦への改装を受けた「ブレッキンリッジ」by Neptun :魚雷発射管を2基おろし、主砲は2基を残し対空機銃を多数追加しています(下の写真で兵装の各部を拡大))f:id:fw688i:20240224171524p:image

 

掃海駆逐艦への改装「ランバートン」

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(掃海駆逐艦への改装を受けた「ランバートン」by Neptun :雷装は全廃され、主砲も両用砲に換装されています。艦尾部に掃海装備を設置、掃海任務や標的曳航任務、対戦警戒任務等につきました。下の写真では、主要兵装等を拡大。特に艦尾形状に注目?)

f:id:fw688i:20240224171855p:image

 

敷設駆逐艦への改装「トレーシー」

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(敷設駆逐艦への改装を受けた「トレーシー」by Neptun :雷装は全廃され、主砲も両用砲に換装されています。艦尾部を機雷敷設に適した形状に整形、敷設任務や対潜警戒任務等につきました。下の写真では、主要兵装等を拡大。特に艦尾形状に注目?)

f:id:fw688i:20240224172223p:image

模型的な視点での苦言を少し:

前出の掃海駆逐艦との比較を見ると、やや手抜き感があるような気がします。Neptunモデルでも、このレベルの大きさになるとこういう事があるのかな。ちょっと残念かも。この辺り、今回投稿の後半でArgonautモデルをご紹介しています。両社の気持ちの入り方が違うような。

 

米海軍に在籍した艦は、8隻が第二次世界大戦で戦没し、生き残った艦のほぼ全てが大戦終結時前後に退役しています。

 

「クリムゾン級」駆逐艦(就役期間:1919年-1946年:同型艦156隻)

ja.wikipedia.org

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(「クリムゾン級」駆逐艦の概観:77mm in 1:1250 by Navis)

同級は「ウィックス級」の課題であった航続距離に改善を加えた平甲板型の最後の艦級です。前級に準じた船体の両舷に燃料タンクが追加され、航続距離が延伸されました。兵装は前級「ウィックス級」に準じ、4インチ単装砲4基と三連装魚雷発射管4基は継承されましたが、対空砲は3インチ単装高角砲1基とされました。対潜任務に重点を置いて、爆雷投射軌条2基のほか、最初から爆雷投射機も装備していました。f:id:fw688i:20240224172523p:image

(「クリムゾン級」の兵装配置のアップ:平甲板型駆逐艦の基本兵装配置に準じています。艦首・艦尾と煙突間の両舷に配置された4インチ単装主砲と両舷に2区づつ配置された三連装魚雷発射管。さらに同級では艦尾に爆雷投射軌条と爆雷投射機が装備されていました:下のArgonautモデル(筆者は未保有ですが)その辺りも再現されています)

1917年度、1918年度計画で161隻の建造が計画され、実際には156隻が完成されました。第一次世界大戦への参戦に伴い量産されましたが、全て大戦終結後に就役し、大戦には間に合いませんでした。

前述のように大量に建造された平甲板型はその後の駆逐艦の新造開始を約10年に渡って遅延させる結果となり、その間に、1922年の遭難事故で7隻が、さらに2隻が衝突事故等で失われました。また、戦時の量産にはやはり無理があったようで、特にヤーロー缶を装備した艦では性能の劣化が早く、57隻が1930年頃に早期退役しました。

1931年度計画で駆逐艦の建造が再開した時期には平甲板型は旧式化しており既に二線級戦力と言わざるを得ませんでしたが、第二次世界大戦の勃発時には未だ77隻が海軍に在籍していました。そのうち20隻がレンドリース法で深刻な駆逐艦不足に喘いでいた英国に貸与され、残りの艦は対戦装備と対空兵装を強化した近代化改装を施されるか、敷設駆逐艦(軽敷設艦)、掃海駆逐艦、高速輸送艦等に改造されました。

大西洋に配備された艦は、第二次世界大戦開戦に伴い、米国が参戦する以前の中立期から米国沿岸に跳梁するドイツ潜水艦と対峙し、一方、太平洋に配備された艦は、太平洋戦争の開戦後、日本海軍との戦闘に投入され、全部で20隻の戦没艦を出しています。

 

同級の改装例のモデル

船団護衛艦への改装「オバートン」

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(船団護衛艦への改装を受けた「オバートン」by Argonaut :魚雷発射管を2基おろし、主砲は両用砲へ換装、対潜兵装(爆雷投射機)や対空火器を強化しています。Argonautモデルでは、爆雷投射機まで再現されています(下の写真下段))

小型水上機母艦への改装「ウイリアムソン」

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(小型水上機母艦への改装を受けた「ウイリアムソン」by Neptun :雷装は全廃され、ボイラー室を12機程度までの搭乗員を収容できる休養施設と燃料補給関連の施設に変更しています。4インチ主砲は2基が残されていますが、2基は撤去され対空機銃に換装されています(下の写真上段)。爆雷投下軌条と爆雷庫は撤去され、水上機海上整備するためのボートの搭載と運用の施設が追加されました(下の写真下段))f:id:fw688i:20240224173223p:image

 

大戦を生き残った艦は、1946年までに全て退役しています。

 

付録1:第二次世界大戦期の「平甲板型駆逐艦の改装ヴァリエーション:「艦隊のワークホース」の意味が染みるように理解できるかも

上記でいくつかご紹介していますが、第二次世界大戦期には、「平甲板型駆逐艦は、いくつかの用途への改装が見られました。筆者は全てのモデルを保有しているわけではないので、ここでその一覧をしておきたいと考えています。一部上述とも被る部分があるかと思いますが、ご容赦を。

Argonaut製モデルのヴァリエーションからのご紹介

今回ご紹介するのは、全てArgonaut製のモデルです。さらにいうと上述内で少しNeptunモデルについて「苦言」を呈した理由も、少しご理解いただけるかと。Argonautのモデルは、凄いなあ、と改めて実感しました(ご紹介している写真は例によってsammelhafen.deより拝借しています)。

 

駆逐艦籍のまま護衛任務への適応を高めた近代化改装:「タルボット」(ウィックス級)「オバートン」(クリムゾン級)

以下の2隻は船団護衛等の任務への適性を高める改装を受けた一例です。

主砲・魚雷発射管の搭載数を減じ、両用砲や対空砲への換装、対空火器類や対潜装備(爆雷投射機)の追加が行われました。

(近代改装後の「タルボット」:ウィックス級 by Argonaut)

(近代改装後の「オバートン」:クリムゾン級 by Argonaut)

 

高速輸送艦(APD)への改装(マンリー級32隻):「ケーン」(クリムゾン級)

ja.wikipedia.org

(高速輸送艦改装後「ケーン」:クリムゾン級 by Argonaut)

海兵隊を急速展開することを目的とし、缶室の一部を150名程度の上陸部隊を収容できる兵員施設に置換し、上陸用舟艇4隻を搭載できるように魚雷発射管・対潜装備等を撤去していました。砲兵装も3インチ療養単装砲に置き換えられ、対空機銃が増強されています。

 

掃海駆逐艦(DMS)への改装(18隻):「ベイカー」(クリムゾン級)「トレバー」(クリムゾン級)

以下の2隻は高速掃海艦(掃海駆逐艦)への改装例です。雷装は全て撤去し、艦尾に掃海具やその運用甲板などを設置しています。

(掃海駆逐艦改装後の「ベイカー」:クリムゾン級 by Argonaut)

(掃海駆逐艦改装後の「トレバー」:クリムゾン級 by Argonaut)

 

機雷敷設艦(軽敷設艦)への改装:「プレブル」(クリムゾン級)

雷装。主砲塔を撤去し、機雷敷設に合わせて艦尾形状の修正が施され、機雷格納場所の確保と機雷敷設軌条の設置、両用砲装備と対空火器増強によるある程度の敵前敷設能力を持つような改装を受けています。

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敷設艦改造後の「プレブル」:クリムゾン級 by Argonaut)

 

小型水上機母艦への改装:「クリムゾン」(クリムゾン級)

水上機母艦と言っても水上機を揚収して補修する等の任務よりは、燃料・弾薬の補給、乗員の休養等を主任務と想定している改装のように思えます。

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水上機母艦改装後の「クリムゾン」;クリムゾン級 by Argonaut)

 

付録2-1:英国に渡った平甲板型駆逐艦タウン級

今回も各級のご紹介でも触れていますが、英国の第二次世界大戦参戦で、英海軍は深刻な駆逐艦不足に直面します。再生ドイツ海軍がUボートによる通商破壊戦略を対英戦略の柱とした事からも、通商路防衛にはその護衛にあたる小型艦が欠かせず、保有する艦隊駆逐艦だけでは賄生きれない状況でした。

当時、米国は対戦には参戦して居らず中立の立場でしたが、英国との間でレンドリース法を成立させ、50隻の旧式駆逐艦が英海軍に譲渡されました。譲渡された駆逐艦は全て「平甲板型駆逐艦で、「コールドウェル級」3隻、「ウィックス級」27隻、「クリムゾン級」20隻という内訳でした。 

これらの艦はそれぞれに兵装・機関等に改装を施され、主として船団護衛に投入されました。英国への譲渡時期には既に旧式艦で、決して乗員等の評価は高くありませんでしたが、それでも通商路防衛の要として大きな役割を果たしました。10隻が戦没しています。

今回、改めて「平甲板型」について調べるうちに、相当数の未保有モデルがあることに改めて気付かされましたので、その整理も兼ねて、以下にご紹介しておきたいと思います。

タウン級駆逐艦のArgonaut製モデルのヴァリエーションから

これまで本稿では何度かご紹介してきていますが、筆者のコレクションの柱となっている製作者の一つがArgonautです。特に英国艦に造詣が深く、筆者のWW2期のモデルの第一優先銘柄であるNeptun製品に全く見劣りのしないディテイルが再現されています。その解釈も両者が微妙に異なる場合があり、それもコレクションの大きな楽しみとなっていました。しかし大変残念なことにオーナーが数年前に亡くなられ、新瑞モデルはおそらく製造されないことになりそうです。従って、現在、入手可能な物は、Ebay等に出品される中古品が主流で(まれに新品もありますが)、しかも希少性が高く、元々、その高品質から高値での取引が多かったのが、さらに高騰傾向が顕著に表れてきています。なかなか筆者などの素人には入手が難しい、そいういう状況が続いており、これが解消される見込みは全くないと言っていいと考えています。

ちょっと前置きが長くなりましたが、そういう状況のArgonautレーベルではありますが、以下のモデルのヴァリエーションから、「タウン級駆逐艦の装備の多様さが伝わればと思います。
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上掲の写真を上からご紹介してゆきましょう。

HMSリンカーン」:旧米海軍「ヤーネル」(ウィックス級):魚雷発射管は2基に減じていますが、比較的元の「ウィックス級」の原型に近い改装状況です。それでも艦尾部に爆雷投射機を追加装備したりしています。大戦終結前にさらにソ連海軍に譲渡されています。

HMS「ウエルズ」:旧米海軍「ティルマン」(ウィックス級):魚雷発射管は1基のみとし対潜装備と対空装備が強化されています。

HMCS「アナポリス」:旧米夏季軍「マッケンジー」(ウィックス級):カナダ海軍へ譲渡された一隻です。魚雷発射管を1基のみに減じ、対潜・対空装備を充実させています。

HMS「リーズ」:旧米海軍「コナー」(コードウェル級):平甲板型としては最も古い「コールドウェル級」の一隻です。雷装は全て撤去され、主砲も全て両用砲に換装されるなど、規模としては最も大きな改装を受けています。

 

付録2-2:HMS「キャンベルタウン」(Argoモデル)

HMS「キャンベルタウン」:旧米海軍「ブキャナン」(ウィックス級)はレンドリース法で譲渡された「タウン級駆逐艦の中で、最も有名なふめのうちの一隻と言って良いでしょう。

同艦は1940年の譲渡直後から他の「タウン級駆逐艦同様、船団護衛任務に就いていましたが、1942年に「サン=ナゼール強襲作戦:チャリオット作戦」に投入されることが決定されました。この作戦はドイツ戦艦「ティルピッツ」の大西洋進出を阻止する事を目的として、サン=ナゼール港にある大西洋沿岸で唯一の「ティルピッツ」を収容できる大型乾ドックの破壊を目指した計画でした。

ja.wikipedia.org

襲撃部隊は特殊コマンド部隊(約350名)と「キャンベルタウン」を含む小型の高速艇数隻で編成される海軍部隊(約270名)で、「キャンベルタウン」はドックに突入し自爆によってドックを使用不能する役割を負っていました。このため軽量化と必要な装甲・武装の装備等の改造が行われ、艦容は最終的には下の写真のようになりました。
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作戦は、「キャンベルタウン」の突入と自爆によりドックはほぼ完全に破壊され、戦艦「ティルピッツ」の大西洋進出阻止という目的の遂行には成功しましたが、実施部隊の脱出には失敗し、多くの戦死者と捕虜を出してしまいました。

 

というわけで今回はこの辺りで。

既述のように米海軍は大量に保有している「平甲板型駆逐艦と大戦後の不況に影響もあって、このあと十数年間、新たな駆逐艦の建造に着手しませんでした。

次回はその空白期間を経て1931年度計画から建造を再開した艦隊駆逐艦の艦級のご紹介を。ボリュームによっては前編・後編に分けてのご紹介になるかもしれません。

 

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特に「if艦」のアイディアなど、大歓迎です。作れるかどうかは保証しませんが。併せて「if艦」については、皆さんのストーリー案などお聞かせいただくと、もしかすると関連する艦船模型なども交えてご紹介できるかも。

もちろん本稿でとりあげた艦船模型以外のことでも、大歓迎です。

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アメリカ海軍の駆逐艦(その1):黎明期から艦隊駆逐艦の模索期

今回から数回に渡り、新たなミニ・シリーズとして「米海軍駆逐艦開発小史」を開始します。5回から6回のミニ・シリーズになると考えています。

かなり地味なテーマですが、馴染みの薄い領域でもあるので、かつ筆者はこういう小さな軍艦の発達を見るのが大好きでもあるので、筆者的にはそれなりに楽しめるのではないかな、と考えています。

 

米海軍と駆逐艦

本稿ではこれまでに何度かお話ししてきていますが、「駆逐艦」という艦種は主力艦に対する大きな脅威になりつつあった水雷兵器(魚雷)を主要兵器として高速で肉薄する「水雷艇」の襲撃を排除するために開発された艦種です。

その開発には紆余曲折がありましたが、結局のところ、水雷艇の肉薄を阻止するためには、水雷艇と同等の高速と高い機動性、速射性のある火力を兼ね備える必要があることから、列強海軍は試行錯誤の末、「大型の水雷艇」という回答に辿り着いたのでした。

こうした状況は、主としてヨーロッパの近接した海域の支配権をめぐり競い合っていた海軍の間で発生していたもので、大西洋を挟んで遠く離れた米国ではこの状況は想定しづらく、かつ創設当時の若い米海軍の任務は自国沿岸の警備に主軸を置いていたこともあり、当初、米海軍はこの艦種にあまり興味を示しませんでした。

 

米海軍における駆逐艦の黎明期:400トン級駆逐艦

1898年に勃発した米西戦争によって、米海軍はスペイン海軍がカリブ海に送り込んだスペイン海軍の「駆逐艦=大型水雷艇」に対峙する状況にさらされます。このような事情から1898年度計画に16隻の駆逐艦の建造が追加されることになります。これが米海軍の「駆逐艦」開発の始まりとなりました。

「ベインブリッジ級」駆逐艦(就役期間:1902年-1919年:サブ・クラスを含め同型艦13隻)

ja.wikipedia.org

同級は前述のような事情から1898年度計画に追加された16隻の駆逐艦のうちの13隻です。

400トン級の船体に石炭専焼のレシプロ機関を搭載し28ノットの速力を発揮することができる設計でした。7.6センチ単装砲2基と5.7センチ単装砲を主要火力として搭載し、18インチ魚雷発射管2基を搭載していました。

黎明期の試行錯誤の結果、同級には以下の3つのサブ・クラスがありました。

「ベインブリッジ型」(同型艦9隻)

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(「ベインブリッジ型」駆逐艦の概観:61mm in 1:1250 by Navis)

同級のうち最も建造数の多いサブ・クラスです。船首楼型の船体形状を持ち、航洋性が良好でした。被弾時の生存性を高める狙いで機関を分散配置し、煙突は前後二群に分かれ装備されていました。7.6センチ単装砲2基と5.7センチ単装砲5基、単装魚雷発射管2基を装備していました。

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(「ベインブリッジ型」駆逐艦の兵装配置の拡大:高い乾舷を持つ船首楼と3インチ(7.6センチ)単装砲2基(艦首と艦尾)と舷側に配置された5.7センチ単装砲、さらに艦中央と艦尾に配置された単装魚雷発射管など:Navisの新モデルでは、よりディタイルが再現されています。ボートなどは素晴らしい。が、単装魚雷発射管などは少しオーバーな表現になっているような違和感を覚えます)

 

Navis社旧モデル

実はNavis社の旧モデルでは単装魚雷発射管の位置が艦尾に集中していたのです。

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(写真はNavis社「ベインブリッジ型」の旧モデル:魚雷発射管の位置が艦尾に再現されています)

モデル上梓後の新情報でモデルの細部が改められアップデートされるのは喜ばしいことですが、コレクターの立場で言うと、コレクションが終わらない、とも言えます。ある意味、特にお財布的に、困ったことです。

 

「ハル型」(同型艦2隻)

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(「ハル型」駆逐艦の概観:61mm in 1:1250 by Navis:タートルバック形式の艦首については前出の「ベインブリッジ級」と比較していただければよくわかるかと)

ハーラン&ホリングスワース社で建造された2隻「ハル」「ホプキンス」は近接海域での行動に適したタートルバック形状の船首を持ち、「ベインブリッジ級」と同様に機関を分散配置したため、煙突が前後二群に分かれて配置されていました。7.6センチ単装砲2基と5.7センチ単装砲5基、単装魚雷発射管2基を装備していました。f:id:fw688i:20240218095328p:image

(Navis旧モデルでの「ハル型」駆逐艦の主要兵装配置の拡大:ちょっとこのモデルではわかりにくいですが、艦首・艦尾に配置された3インチ砲と舷側に配置された5.7センチ単装砲が再現されています。旧モデルでは単装魚雷発射管は艦尾に集中配置されています)

Navis新モデルでは魚雷発射管の位置が補正されています

(写真はNavis社の「ハル級」の新モデルNM 367N(筆者未保有):魚雷発射管の位置が筆者保有の旧モデル(上掲)と異なっています。写真は例によってsammelhafen.deより拝借しています:現在このモデルは入手済みで、日本に向けて発送されているはずです。到着後、アップデートします)

上掲の「ベインブリッジ級」でも発生したことが、このモデルでも起こっています。新情報でモデルの誤りが正されたのだろうと思います。あるいは、この時期=模索期ですので、実艦にもヴァリエーションがあったのかも、とも想像します(建造されたのも2隻だけですからね。十分にあり得るかと)。

魚雷発射管については連装とする記述も

世界の艦船」では、同級の魚雷発射管は世界に先んじて連装であった、と紹介されています。という記述がありながらも、掲載されている図面では単装魚雷発射管が新モデルと同じように艦中央部と艦尾に記載されたりしています。連装を搭載してたとしたら、やはり艦中央部だったんでしょうかね。

 

ローレンス型」(同型艦2隻)

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(「ローレンス型」駆逐艦の概観:61mm in 1:1250 by Hai)

フォア・リバー社で建造された「ローレンス」「マクドノー」の2隻で、「ハル級」と同様のタートルバック形状の船首を持ち、機関を分散配置していなかったので、煙突は一群で並べられていました。やや小ぶりな船体としたために7.6センチ砲が搭載できず5.7センチ単装砲7基に装備数を増やし、単装魚雷発射管2基を搭載していました(この形式の魚雷発射管の位置は、おそらく艦尾集中で正しいのではないかと思います)。f:id:fw688i:20240218095921p:image

(「ローレンス型」駆逐艦の主要兵装配置の拡大:タートルバック形式の船首と4本の均等に並んだ煙突、艦尾に集中配置された単装魚雷発射管が特徴です)

 

「ベインブリッジ級」のサブ・クラスを含む13隻は、第一次世界大戦中に事故で喪失した1隻を除き、全て大戦終結後に退役、売却されています。

 

「トラクスタン級」駆逐艦(就役期間:1902年-1919年:同型艦3隻)

ja.wikipedia.org

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(「トラクスタン級」駆逐艦の概観:65mm in 1:1250 by Hai)

同級は1898年度計画で建造された16隻の駆逐艦のうちの3隻で、基本構成は前述の「ベインブリッジ級」のサブ・クラスの一つ「ハル級」に準じていましたが、同級の3隻中2隻は連装魚雷発射管を2基装備しており、16隻の中では最も強雷装でした。船体は前級よりも少し大きな430トン級となりました。速度は30ノットと公称されましたが、実際にはこれには至らなかったようです。

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(「トラクスタン級」駆逐艦の主要兵装配置の拡大:艦首・艦尾に配置された3インチ単装砲塔、舷側に配置された5.7センチ単装砲、艦尾に配置された単装魚雷発射管など、兵装の配置は「ベインブリッジ級」に準じていました)

第一次世界大戦では船団護衛に従事し、戦没艦はありませんでした。戦後、全て退役、売却され、商船に改装されたようです。

 

400トン級駆逐艦の総覧

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(写真は400トン級駆逐艦の緩急の総覧:手前から「ベインブリッジ型」「ハル型(Navis旧モデル)」「ローレンス型」と「トラクスタン級」の順)

 

航洋駆逐艦:700トン級駆逐艦の建造へ

米西戦争の勝利によるフィリピンの獲得、カリブ海の支配権の獲得、さらにハワイ併合などにより、米海軍は沿岸警備海軍から遠洋海軍への変化を求められます。

そうした背景から、主力艦部隊の護衛、海外領の警備等、汎用任務型軍艦としての駆逐艦への要望も高まってゆきます。「ベインブリッジ級」で得た船首楼型形態による良好な航洋性の獲得、長い航続距離への要求などから、駆逐艦はより大型化への道を歩み始めます。

「スミス級」駆逐艦(就役期間:1909年-1919年:同型艦5隻)

ja.wikipedia.org

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(「スミス級」駆逐艦の概観:71mm in 1:1250 by Navis)

同級は1906-1907年度計画で建造された艦級で、遠洋航海を実施する艦隊に随伴できるよう航洋性に配慮した高い乾舷を有する船首楼型の船型をしていました。艦型は700トンに拡大され、機関はそれまでのレシプロに変えて蒸気タービンとして、28ノットの速力を発揮する設計でした。同級は米海軍の駆逐艦としては最後の石炭燃料の艦級となりました。

3インチ砲5門と単装魚雷発射管を3基と、遠洋での戦闘も考慮に入れて次発装填用の予備魚雷も搭載していました。f:id:fw688i:20240218100622p:image

(「スミス級」駆逐艦の主要兵装配置の拡大:船首楼型の船体を持ち、主砲は3インチ単装砲で統一されました。艦中央部と艦尾に配置された魚雷発射管は一見連装に見えますが、実は単装の発射管の横に次発装填用の予備魚雷庫を抱えている、ということのようです。素人目には連装にすればいいのに、とは思いますが、そうはいかない技術的なな課題があったんでしょうね)

 

第一次世界大戦に参戦しましたが戦没艦はなく、大戦終結後、退役、売却されました。

 

「ポールディング級」駆逐艦(就役期間:1910年-1935年:同型艦21隻)

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(「ポールディング級」駆逐艦の概観:71mm in 1:1250 by Navis:写真は同級の基本型である4本煙突型の船体)

同級は「スミス級」の発展型で、最大の変更点はボイラーを重油専焼缶としたことで、燃料効率と補給の改善、さらには航続距離の延伸が図られました。同型艦は21隻が建造され、米海軍の駆逐艦としては、初の量産型駆逐艦となりました。

試行錯誤期ゆえに機関と推進器の組み合わせが豊富、3本煙突艦も

機関構成、推進器についてはいくつかの試行が行われ、3軸推進艦、2軸推進艦が同級には混在していました。さらに機関構成から11隻は3本煙突の外観をしていました。

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(「ポールでキング級」3本煙突型駆逐艦の概観:71mm in 1:1250 by Navis:同級の21隻のうち11隻は3本煙突艦でした)

兵装は「スミス級」に準じ、艦砲は3インチ単装砲5基を主砲としていましたが、雷装は連装魚雷発射管3基搭載として斉射時の射線を倍増して雷撃力強化が図られました。一方で「スミス級」で試みられた次発装填用の予備魚雷の搭載は廃止されました。f:id:fw688i:20240218100945p:image

(「ポールディング級」駆逐艦の主要兵装配置の拡大:「スミス級」に準じて船首楼型の船体を持ち、主砲は3インチ単装砲で統一されました。艦中央部と艦尾に同級からは連装魚雷発射管が配置されました)

第一次世界大戦に従事しましたが戦没艦はなく、一部の艦は沿岸警備隊に移籍しています。1935年までに退役、解体されました。

 

艦隊駆逐艦:1000トン級駆逐艦の登場

1912年度計画から、主力艦部隊への随伴性向上を目指してさらなる航洋性の獲得と航続距離の延伸が図られたいわゆる「1000トン級」と呼ばれる一群の艦級が設計されます。

「カッシン級」駆逐艦(就役期間:1913年-1935年:同型艦4隻・準同型艦「エールウィン級」4隻 計8隻)

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(「カッシン級」「エールウィン級」駆逐艦の概観:76mm in 1:1250 by Navis)

同級は1000トン級の第一陣として建造されました。「カッシン級」と「エールウィン級」は同位置設計に基づいていて、造船所が異なるため準同型艦として扱われることがありますが、基本スペックはほぼ同じです。

前述のように、主力艦部隊への随伴性向上を考慮して、大西洋・太平洋など大海での航洋性を向上し、航続距離の延伸が図られ、船体が1000トン級に大型化しています。

搭載武装も強化され、雷装は連装発射管3基搭載(前級「ポールディン級」)から連装魚雷発射管4基搭載に増強されました。一方で搭載発射管の増加により搭載火力には制限が生じ、当初予定していた対空砲の搭載が見送られたほか、主砲口径は従来の3インチから4インチに拡大されたものの、搭載数が前級の3インチ砲5基から4インチ砲4基に削減されています。f:id:fw688i:20240218101551p:image

(「カッシン級」「エールウィン級」駆逐艦の主要兵装配置の拡大:「ポールディング級」に準じて船首楼型の船体を持ち、主砲は口径を4インチに拡大し、しかし搭載数を一門減じ単装砲4基を装備していました、舷側に連装魚雷発射管を各2基装備していました)

重油専焼缶とタービンの組み合わせで、29ノットの速力を発揮する設計でした。これを基本設計として、さらに燃料効率の改善を目指し、同級の一部の艦ではレシプロ機関を低速巡航時用に搭載し併用する試行が行われたため、搭載機関と推進器との接続機構のバリエーションが見られました。

第一次世界大戦では戦没艦はなく、一部の艦は大戦後沿岸警備隊に転籍、全ての艦が1935年頃までに退役、解体されています。

 

「オブライエン級」駆逐艦(就役期間:1914年-1936年:同型艦6隻)

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(「オブライエン級」駆逐艦の概観:76mm in 1:1250 by Navis:下記のように同級は「カッシン級」の雷装強化型でしたので、搭載魚雷の口径が変更されただけで、概観はほとんど同じでした)

同級は「カッシン級」の準同型艦、雷装強化型で、搭載魚雷の口径が18インチ(45センチ)から21インチ(53.3センチ)に拡大されています。

搭載砲等は前級と同様で、機関についても航続距離の延伸、燃料効率の改善を狙って同じような機関の組み合わせ等の試行が行われました。f:id:fw688i:20240218101900p:image

(「オブライエン級」駆逐艦の主要兵装配置の拡大:「カッシン級」に準じて船首楼型の船体と兵装配置をしてます。4基搭載された連装魚雷発射管はそれまでの18インチから21インチの搭載魚雷の口径を上げ、雷装を強化しています)

第一次世界大戦では喪失艦はなく、1930年ごろまでに退役、解体されました。

 

「タッカー級」駆逐艦(就役期間:1914年-1936年:同型艦6隻)

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(モデルは見当たりません。外観的には下に紹介する次級「サンプソン級」とほぼ同じかと:概観で相違点があるのは魚雷発射管が連装であるところくらい?)

同級は「オブライエン級」の改良型で、1914−15年度計画で建造されました。船体の縦横比に手が加えられ、少し細長い船体になっています。

「カッシン級」「オブライエン級」で見られた搭載機関についての試行錯誤の結果、減速歯車機構付きの巡航タービンという結論が見出され、巡航時の燃料効率改善への効果が見られたため、以降の標準的な機関として採用されました。

兵装は「オブライエン級」と同様、4インチ単装砲4基、21インチ連装魚雷発射管4基の装備としています。

第一次世界大戦で戦没艦1隻を出しましたが、残存艦は1隻を除き沿岸警備隊に移籍し、1936年までに全ての艦が退役、スクラップされました。

 

「サンプソン級」駆逐艦(就役期間:1914年-1936年:同型艦6隻)

ja.wikipedia.org

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(「サンプソン級」駆逐艦の概観:77mm in 1:1250 by Navis)

同級は前級「タッカー級」の兵装強化型で、同型艦とし見做されることもあるようです。

「タッカー級」からの変更点は魚雷発射管を連装から3連装として強化したことと、これまで懸案でありながら実現できなかった対空砲の装備、この2点でした。f:id:fw688i:20240218102206p:image

(「サンプソン級」駆逐艦の主要兵装配置の拡大:同級は「タッカー級」の兵装強化版で、「タッカー級」の21インチ連装魚雷発射管を同級では3連装の強化し、これまで搭載を検討しながら実現できていなかった対空砲(37mm単装機関砲)を2基、それぞれか艦首と艦尾に搭載していることがわかります)

第一次世界大戦での戦没艦はなく、3隻は沿岸警備隊に移籍しています。第二次世界大戦まで在籍した「アレン」を除き、全ての艦は1936年までに退役、解体されました。(「アレン」は1945年退役、46年解体)

 

 

700トン級・1000トン級駆逐艦の総覧

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(手前から「スミス級」「ポールディング級4本煙突型・3本煙突型」「カッシン・エールウィン級」「オブライエン級」「サンプソン級」の順:船体の大型化と魚雷発射管の装備位置の変遷などが見て取れます)

 

こうして米海軍は艦隊駆逐艦の第一期の理想型ともいうべき形態を見出しました。そして次級から、量産型の艦隊駆逐艦の建造に入ってゆくのです。

 

という訳で、今回はここまで。

次回は第一期量産期の艦隊駆逐艦の艦級のご紹介を。米海軍の量産、というのは本当に他国とは桁違いだなあ、と驚くことになるのですが・・・。

 

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ドイツ海軍の未成艦特集(後編):「D級」装甲艦、「O級」巡洋戦艦(通商破壊艦)、「グラーフ・ツェッペリン級」航空母艦 

今回は、「ナチスドイツ海軍の計画のみで終わった艦艇」の第三回目(後編)、ということで、「ドイッチュラント級」装甲艦と強化型装甲艦として設計されながら、ドイツ再軍備宣言、英独海軍協定の締結で新造艦に対する制約がなくなったことから建造中止となった「D級」装甲艦、そしてナチス・ドイツ政権の再軍備化の中でドイツ海軍が立案した大建艦計画「Z計画」の下、設計された航空母艦の紹介です。

「D級」装甲艦は「シャルンホルスト級」戦艦へと発展し、航空母艦第二次世界大戦の勃発により、建造は断続的に継続されたものの、完成には至りませんでした。

今回は、そういうお話。

 

「D級」装甲艦(同型艦2隻:1934年起工・同年工事中止)

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(「D級」装甲艦の概観:186mm in 1:1230 by D's Ships & Bunkers)

同級は強化型装甲艦、つまり「ドイッチュラント級」装甲艦の強化型という主旨で設計案が検討され、1034年に一旦起工されましたが、この間にヴェルサイユ体制が破棄されたため、より強力な「シャルンホルスト級」の建造に移行した結果、工事は中止、建造には至りませんでした。つまり未成艦、というわけです。(「D級」装甲艦の計画の経緯については、下記の投稿をお読みください。模型的なお話もたっぷりと)

fw688i.hatenablog.com

「D級」装甲艦は前述のように強化型装甲艦の名の通り、前級である「ドイッチュラント級」装甲艦(10000トン級)の強化拡大型として設計されたため、20000トン級の船体が想定されました。設計当時、ドイツ・ワイマール共和国はまだヴェルサイユ体制下の軍備制限を受けていましたが、ナチスの台頭等による軍備制限破棄を想定した設計でした。「ドイッチュラント級」装甲艦同様、巡航性に優れた巡洋艦的な船型を持ち、大型のディーゼル機関から長大な航続距離と30ノットの高速を発揮できる性能を兼ね備えていました。

前級「ドイチュラント級」が「ポケット戦艦」の異名を持ちながらも、その実態は10000トンの制約の課せられた船体の条件から戦闘艦としての防御装甲は全く不十分で、その点を「D級」では格段に強化されていました。

武装は「通商破壊艦」という主旨から敵性巡洋艦の撃破、あるいは回避戦闘を想定すればよく、大口径砲は控えめに「ドイッチュラント級」と同様に11インチ3連装砲塔2基を搭載していました。しかし搭載された11インチ砲は長砲身の新設計55口径(ドイッチュラント級」には52口径)で、長射程と高初速を有しており、最長射程は40000メートル、15000メートルの距離であれば英海軍の当時の主力戦艦であった「クイーン・エリザベス級」「リベンジ級」の装甲を打ち抜く事ができるとされていました。

一方で通商破壊戦での商船の制圧、撃破を想定し、副砲として6インチ3連装砲塔2基を搭載し両舷に対し6射線を確保、さらに4インチ連装高角砲8基(片舷8射線)を装備し、中口径砲での戦闘にも重点を置いた砲兵装が想定されていました。さらに4連装魚雷発射管2基と、水上偵察機2機を搭載していました。

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(「D級」装甲艦の主要部分の拡大:艦種部に3連装11インチ主砲塔と同じく3連装6インチ副砲塔(写真上段)、艦中央部に対空兵装と魚雷発射管、航空艤装(写真中段)、艦尾に3連装副砲塔と同じく3連装主砲塔(写真下段)、と並走配置は大変オーソドックスです。3連装副砲塔は軽巡洋艦で既に実績があった物を採用し、両舷に対し6射線を確保しています)

 

「D級」装甲艦の計画は上述のように「シャルンホルスト級」戦艦へと発展してゆきますが、Z計画には有力な二つの柱がありました。一つは強力な決戦艦隊の整備による英海軍主力艦の撃滅であり、それらは本稿前回でご紹介した「H級」戦艦として整備される予定でした。

もう一つは、上記の艦隊決戦により英艦隊による海上の封鎖線を解き、そこから広範囲に向けて浸透した潜水艦・通商破壊艦を用いた通商破壊戦の展開であり、英国を屈服させるには、こちらの有効な展開にこそ、戦争そのものへの勝機を見出すことができるはずでした。

「装甲艦=通商破壊艦」の後裔

O級巡洋戦艦同型艦3隻:1940年計画のみ)

ドイツ海軍の大増強計画「Z計画」の中で、「ドイッチュラント級」装甲艦のコンセプト=大航続力と高速を備えた通商破壊艦は「O級巡洋戦艦」としてより発展的に復活しますが、こちらは第二次世界大戦の勃発により、未成に終わりました。

en.wikipedia.org

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(未成艦:O 級巡洋戦艦:207mm in 1:1250 by Hansa)

同級はZ計画で建造が予定されていたいわば通商破壊専任戦闘艦でした。

本級は、通報破壊を専任とする為に、前出の「ドイッチュラント級」装甲艦と同様、通商路の防備に当たる巡洋艦以上の艦種との戦闘を想定していませんでした。従ってこの規模の戦闘艦としては、非常に軽い防御装甲しか保有していませんでした。機関には次第に安定感を増してきたディーゼルを採用し、長大な航続距離と35ノットの速力を活かして、極力戦闘艦との戦闘を回避し、神出鬼没に敵の通商路を襲撃することを企図して設計されていました。

計画では32000トンの船体を持ち、主砲にはビスマルク級と同じ15インチ砲を採用し、これを連装砲塔3基に収めていました。

基本、単艦での行動を想定し、複数の巡洋艦との交戦を避けることができるだけの速力を持ち、あるいは運用面では、その強力な火砲で敵艦隊の射程外から、アウトレンジによる撃退を試みる計画でした。

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(「O級」巡洋戦艦の主要部分の拡大:艦種部に連装15インチ主砲塔2基(写真上段)、艦中央部に6インチ連想副砲と4インチ連装対空砲、航空艤装など(中段)、艦尾部には15インチ連装主砲塔が装備されています。2本の煙突の配置から大きなディーゼル機関を搭載していることがわかります。高速と長大な航続距離、通商破壊戦に特化した設計です)

同級は3隻の建造が計画されており、計画時の仮称が「O」「P」「Q」であるために、一番艦の名称をとって「O級巡洋戦艦と称されました。

1940年には計画は承認されましたが、第二次世界大戦により資材を手当てできず、通商破壊戦の遂行には潜水艦建造の優先度が高いとされ、建造されることはありませんでした。

 

ドイツ海軍最初にして最後の航空母艦

グラーフ・ツェッペリン級」航空母艦同型艦4隻:うち2隻は1936年・1940年、それぞれに起工・のち工事中止)

ja.wikipedia.org

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(「グラーフ・ツェッペリン級」航空母艦の概観:***mm in 1:1250 by Hansa: 上部構造物のファンネルキャップ付きの煙突や、レーダー等を搭載した前檣など、完成後、しかも少し近代化改装など手が入った後を想定したモデルかと)

グラーフ・ツェッペリン級」航空母艦はドイツ海軍が「Z計画」で設計した航空母艦の艦級です。

ドイツ海軍の航空母艦の設計案は当初案では22000トン級の船体を持ち50機の艦載機を運用する設計でしたが、設計案は種々に及び、最終的には33000トン級の船体を持ち、「アドミラル・ヒッパー級重巡洋艦と同じ機関を搭載し35ノットの速力を発揮できる設計でした。

搭載兵装

単艦での通商破壊任務をも想定した設計としたため、敵性水上戦闘艦との戦闘も可能な巡洋艦なみの主砲(6インチ砲)を連装で8基、16門搭載した設計で、水上砲戦を想定した防御装甲を有していました。f:id:fw688i:20240211131052p:image

(「グラーフ・ツェッペリン級」航空母艦の6インチ連装砲:4基の舷側にケースメート形式で搭載していました。通商破壊戦での敵性巡洋艦との交戦を想定した設計でした)

さらに4インチ連装対空砲を6基12門、37mm対空機関砲22基、20mm対空機関砲28基など、充実した対空火器を搭載する設計でした。

f:id:fw688i:20240211131038p:image

(「グラーフ・ツェッペリン級」航空母艦の4インチ連装対空砲の配置と艦橋の拡大:対空砲は艦橋の前後に3位づつ配置され英ます。ファネルキャップを装着した煙突などは、大戦後期のポケット戦艦重巡洋艦に準じる改装を想定したものかと)

搭載機

2層の格納庫甲板に艦上戦闘機10機、艦上爆撃機13機、艦上雷撃機20機、計43機を搭載する予定でした。格納庫甲板から飛行甲板へは3基のエレベータで航空機を昇降させる設計でした。

同級はドイツ海軍史上ほぼ初の本格的な航空母艦ということで、艦載機開発の経験のないドイツでもあり、搭載機には名機メッサーシュミットMe109を艦上戦闘機仕様に改造したMe109T艦上戦闘機と、Ju87T艦上爆撃機(こちらもシュツーカ急降下爆撃機艦上爆撃機に改造したもの。両機種の形式番号の末尾のTは空母を表しています)、さらに複葉のフィーゼラーFi167を艦上雷撃機として搭載する予定でした。f:id:fw688i:20240211131529p:image

(「グラーフ・ツェッペリン級」航空母艦の搭載機:Bf-109T、Ju-87Tなど、当時の主力陸用機を艦載機に改造したものが搭載される予定でした。下の写真は艦上雷撃機候補とされていたF i-167: 英国のソードフィッシュ同様の古風な複葉機でした:モデルはAE modelsの3D Printing modelです:Shapewaysで購入可能:筆者は持っていません。車h写真はShapewaysから拝借しています)

後述しますが、建造工事の長期化に伴い、艦載機については新型戦闘機の開発や、Ju87をベースにした雷撃機の開発などの動きも出てきますが、いずれも航空母艦事態の工事が進まないために、全て中止となりました。

カタパルト装備

飛行甲板の先端に艦載機の発進用にカタパルト2基を搭載していました。このカタパルトは圧縮空気式のもので、圧縮空気の満充填時には30秒毎に18回の発進が可能でした。2基のカタパルトをフル稼働させれば、理論的には9分間で36機の艦載機の発艦が可能だった、ということになります。

f:id:fw688i:20240211131047p:image

(「グラーフ・ツェッペリン級」航空母艦の4艦首のカタパルト2基:同級では艦載機の発艦は原則カタパルトによって行う予定でした。圧縮空気式のカタパルトで満充填状態であれば30秒間隔で18機の連続射出が可能だったとされています)

当初4隻の建造計画がありましたが、一番艦「グラーフ・ツェッペリン」が1936年に、二番艦が1939年に起工されました。

一番艦「グラーフ・ツェッペリン」は1939年12月に浸水しましたが、同年9月にドイツがポーランドに侵攻し、そのまま第二次世界大戦に発展すると以降工事が断続的になり、第二次世界大戦における航空機の発達により航空母艦の有用性は顕著になったものの、単艦による通商破壊戦の戦術としての有効性の低下も生じ、1943年には工事は中止が決定され、未完のままバルト海の港湾に係留されていました。1945年の降伏にあたって自沈処分が施されましたが、ソ連によって浮揚され標的として射撃訓練に使用され1947年に沈没しました。

二番艦仮称空母「B」は起工直後の1939年9月に工事が中断し、そのまま1940年に解体破棄命令が出され、両艦ともに完成することはありませんでした。

 

さて、3回に渡り、ドイツ海軍(ナチス・ドイツ海軍)の未成艦を整理してみました。「Z計画」に着手したばかりのドイツ海軍に関する限り、第二次世界大戦の勃発は全くの時期尚早で、こうした多くの未成艦を出してしまう結果になったとも言えなくはないと思います。

時期尚早、と言えば、ヒトラー政権自体の見立てでも、それまでオーストリアチェコの併合が看過されてきた状況下で、ポーランド侵攻が大戦の口火になるとは考えていなかったかもしれないと考えています。

ということで、今回はここまで。

 

次回は、新着モデルのご紹介、もしくは新たなミニ・シリーズの開始を検討しています。

もし、「こんな企画できるか?」のようなアイディアがあれば、是非、お知らせください。

 

模型に関するご質問等は、いつでも大歓迎です。

特に「if艦」のアイディアなど、大歓迎です。作れるかどうかは保証しませんが。併せて「if艦」については、皆さんのストーリー案などお聞かせいただくと、もしかすると関連する艦船模型なども交えてご紹介できるかも。

もちろん本稿でとりあげた艦船模型以外のことでも、大歓迎です。

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ドイツ海軍の未成艦特集(中編):「H級」戦艦の系譜 あるいは未成艦コレクションの醍醐味

今回は、「ナチスドイツ海軍の計画のみで終わった艦艇」の第二回目(中編)、ということで、「H級」戦艦の系譜のご紹介、過去投稿等をまとめて振り返っておきたいと考えています。

筆者は本稿を初めて改めて自覚したのですが、こうした未成艦の体系的なコレクションはまさに模型の世界ならではで、筆者がコレクションをしている目的の一つなんだなと感じながら、今回の投稿をまとめています。

今回はそういうお話です。

 

ドイツ再軍備と戦艦建造への流れ

既に本稿では何度もご紹介していますが、少しおさらいも含め背景をまとめておきましょう。

ドイツは第一次世界大戦に敗れ、帝政ドイツの崩壊と共に、ヴェルサイユ体制で重い戦後賠償を課せられます。

海軍について見ると、大戦前に英国との激しい軍備拡大競争の下で主力艦の保有数では世界第2位の規模を誇っていた帝国海軍は、その主要艦艇群が講和成立後の抑留地スカパ・フローで「大自沈作戦」を実施したことで、文字通り姿を消してしまいました。

敗戦後、ヴェルサイユ体制下で認められた海軍の規模は、兵員数は15000人以下(参考までに、前弩級戦艦の乗員定数が700名から800名です)、潜水艦の保有が禁じられ、バルト海諸国への脅威軽減という名目で、自国沿岸部の要塞化、砲台設置などは認めない、現有のものは破壊する、というものでした。

保有艦艇についてももちろん制約があり、装甲戦闘艦6隻(予備艦2隻)、巡洋艦6隻(予備艦2隻)、駆逐艦12隻(予備艦4隻)、沿岸用水雷艇12隻(予備艇4隻)その他若干の補助艦艇というものであり、保有を許された艦艇群はほぼ19世紀後半の装備を持つものばかりであり、結果的には沿岸警備海軍の規模への縮小が具体化されました。

この中でいわゆる主力艦(上記の装甲戦闘艦6隻(予備艦2隻))について見ると、継続して保有を認められた艦艇は全て第一次世界大戦以前のいわゆる前弩級戦艦で、第一次世界大戦期においてすら一線戦力とは見なされないものばかりでした。

(この辺り、もう少し詳しくお知りになりたい方は、本稿の下記の投稿を見てみてください)

fw688i.hatenablog.com

fw688i.hatenablog.com

上記の保有装甲艦艇については艦齢20年を迎えたものから代艦建造が認められますが、代艦の建造にあたっては「10000トン以下であること」という制限がありました。これは明らかに前弩級戦艦的な設計を想定したもので、新生ドイツ海軍がバルト海沿岸の警備海軍に徹するという狙いにたてばある程度強力な海防戦艦を建造できることを意味していましたが、これが同時にドイツ海軍をバルト海沿岸の警備海軍に留めておくという戦勝国の狙いでもあったと考えられます。

結果的には、この制限を逆手にとって、10000トン級の列強の条約型重巡洋艦並みの船体に、重巡洋艦を上回る砲撃力を搭載し、併せてディーゼル機関の搭載により標準的な戦艦を上回る速力を保有し、かつ長大な航続距離を有する通商破壊戦を念頭においた戦闘艦、後日「ポケット戦艦」の異名を持つことになる有名な「ドイッチュラント級」装甲艦が、代艦として生み出されます。

ドイッチュラント級」装甲艦(1933年から就役:同型艦3隻)

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(「ドイッチュラント級」装甲艦の一番艦「ドイッチュラント」の概観:150mm in 1:1230 by Neptun)

しかし、この艦級は主力艦の保有枠を転じて、あくまで有効な通商破壊戦を実施するために新たに生み出された艦種で、いわゆる主力艦としての代艦建造ではなかったと言っていいと思います。

いわゆる戦艦の復活は、ナチス党の政権掌握と1934年のヒトラー国家元首への就任、さらにヒトラー政権による1935年3月のヴェルサイユ条約の破棄と再軍備宣言、同年6月の英独海軍協定締結による保有制限の事実上の撤廃を待たねばなりませんでした。

こうしてナチス政権下でドイツ海軍は「Z計画」の総称で知られる大建艦計画を始動させ、念願の戦艦建造を開始します。

 

手始めにフランスのダンケルク級戦艦に対抗すべく次期建造予定のD級装甲艦の設計を大幅に拡大し「シャルンホルスト級」戦艦が建造されました。

シャルンホルスト級」戦艦(1939年から就役:同型艦2隻)

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(上の写真は「シャルンホルスト級」の竣工時の姿:186mm in 1:1250 by Neptun:就役時には垂直型の艦首でした)

設計当初は通商破壊を大目的として長い航続力を保有する「ドイッチュラント級」装甲艦の拡大型として26000トン級の船体と30ノットの速力を有するディーセル機関搭載艦として設計されましたが、当時の大型のディーゼル機関については高速性、安定性に信頼性が低いとして最終的には蒸気タービン艦として建造されました。設計が数度変更され、最終的には32000トンまで船体が拡大され、31ノットの速力を発揮する事ができました。

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(就役時の「シャルンホルスト級」の細部拡大:垂直型の艦首と55口径28センチ三連装主砲塔(上段):副砲は連装砲塔と単装砲の組み合わせで片舷6門づつ搭載されています(中段):当初はカタパルト2基を搭載して居ました(下段))

主砲にはフランス海軍の「ダンケルク級」戦艦を凌駕することを意識して38センチ連装砲が予定されていましたが、38センチ砲の開発に時間がかかることから、「ドイッチュラント級」で実績のある28センチ3連装砲塔3基の搭載で建造が進められました。ただしより長砲身の新設計55口径として長射程と高初速を目指しました(「ドイッチュラント級」には52口径11インチ砲が搭載されていました)。

55口径28センチ砲は40000メートルの射程を持っていましたが、15000メートルの距離であれば英海軍の当時の主力戦艦であった「クイーン・エリザベス級」「リベンジ級」の装甲を打ち抜く事ができるとされていました。

主砲換装計画(計画のみ:いわゆる未成艦に分類されるかと:模型ならではのご紹介)

同級は上述のように当初38センチ主砲搭載予定を、建造時間の短縮から28センチ砲に変更して完成されました。後に38センチ砲搭載の「ビスマルク級」戦艦が登場すると、「ビズマルク級」と同じ47口径38センチ主砲への換装計画が検討されましたが、最後まで実施されませんでした。

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(上の写真は「シャルンホルスト級」38センチ主砲搭載案の概観:198mm in 1:1250 by Neptun:このモデルを見る限り、艦首部が延長されています)f:id:fw688i:20221009175607p:image

(上下の写真は「シャルンホルスト級」38センチ主砲搭載案(奥)と実際の28センチ主砲塔装備の対比概:まず艦の全長に大きな差異が見られます(上の写真)。下の写真は38センチ主砲搭載案(右列)と実際の28センチ主砲塔装備の細部比較:当然のことながら主砲塔の大きさ、主砲砲身の長さにも差異があり(上段・下段)、これらが艦首延長にも繋がるのかと)

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こうした場合「イフ」は禁忌であるということは重々承知の上で、もし当初の設計通り38センチ砲が主砲として採用されていたら、あるいは上述の計画のように38センチ砲への主砲換装が行われていたら、「シャルンホルスト」の最後の出撃となった「北岬沖海戦」で、奇しくも「ビスマルク」が撃破した「プリンス・オブ・ウェールズ」の姉妹艦「デューク・オブ・ヨーク」と、38センチ主砲を装備した「シャルンホルスト」がどのような様相の戦いを行ったのか、とついつい想像してしまいます。

 

しかし「シャルンホルスト級」は通商破壊艦である装甲艦の発展形という出自もあり、あわせて上述のように当初搭載予定の38センチ主砲の開発が間に合わないという事情もあり、諸列強の新造戦艦の設計に対しては見劣りがし、より強力な本格的な戦艦の建造が渇望されました。

こうした背景から建造されたのが、再生ドイツ海軍最初の本格戦艦である「ビスマルク級」でした。

ビスマルク級」戦艦(1940年から就役:同型艦2隻)

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(「ビスマルク級」戦艦の概観:201mm in 1:1250 by Neptun:写真は二番艦「ティルピッツ」)

ビスマルク級」戦艦は英独海軍協定で謳われた、ワシントン・ロンドン体制に準じて一応35,000トンという新造戦艦に対する制限に則り公称は制限内の排水量35,000トンとしたものの、実際には制限を無視した41,700トンの、就役当時としては世界最大の戦艦となりました。主砲として47口径38センチ連装砲塔4基8門を装備し強力な攻撃力を備え、速力30ノットの高い機動性、防御装甲の全体重量へ占有率39%の堅牢な艦体を有する有力な戦艦となりました。f:id:fw688i:20221009180119p:image

(「ビスマルク級」戦艦の細部:オーソドックスな連装主砲塔の配置(上下段)、コンパクトな上部構造(中段)など、副砲の砲塔化以外にはあまり新基軸などは盛り込まない手堅い設計であったと言っていいと思います)

一方で、主砲等兵装配置、防御設計の基本骨子などは第一次世界大戦期の超弩級戦艦に準じるような非常にオーソドックスなもので、当時の列強の新造戦艦が、様々な新機軸をその設計に盛り込んだのに対し、目新しさ、という点では特筆すべきところのない、いわゆる手堅い設計の戦艦でした。

これは、ドイツがヴェルサイユ条約下で厳しい海軍戦力に対する制限を課せられ、設計人材、技術等のブランクが生じたことによる影響も否めない、とも言われています。

上記に示すように、本級は確かに強力な戦艦で、その優秀さは優れた基本設計に準じた手堅い設計によるものでした。

史実では、一番艦「ビスマルク」の最初で最後の出撃となった「ライン演習」での目覚ましい戦果(戦艦フッド、プリンス・オブ・ウェールズとの対決と、フッドの轟沈)とその後の悲劇的な最後が伝説化(当時、英海軍はその動かしうるほとんどの戦力を、ビスマルク一隻の補足と撃沈に集中した)し、実情以上にその戦闘力が過大に評価された傾向がないわけではないと考えています。

 

 この「ビスマルク級」戦艦(仮計画名、戦艦「F」「G」)の建造に引き続き、ドイツ海軍が設計した戦艦がその一番艦の計画名をとって我々が「H級」という総称で知ることになる戦艦群でした。

ナチスドイツ海軍の未成戦艦「H級」戦艦をめぐる妄想の始まり

筆者の妄想の始まりは、「H級」戦艦の開発計画について調べるうちに、下の投稿を発見したことでした。myplace.frontier.com

ここでは「H級」計画の全貌について実によくまとめられた文章を読んでいただくことができます。原典も複数にあたっていらっしゃって、細部の比較も実に興味深い。関心がある方にとっては、スペック表、図面なども揃っていて「よだれの出るような情報満載」(だと筆者は思っています)ですので、ご一読をお勧めします(「英語かよ」とおっしゃる方も、Google翻訳でかなりの精度で大意が取れると思います。少し表現のおかしなところは、概ね専門用語、軍事用語絡みですから、多分、そこは皆さんの「マニア・マインド」がカバーしてくれるはず)。もちろん図面や概略は今回大まかに引用掲載しますので、ご心配なく。(というわけで、今回の図面などはここから引用したものを中心に)

 

「H級」戦艦とは(2隻は起工後、第二次世界大戦勃発により工事中止に)

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少し上述とも重複する事を恐れずにまとめておくと、再軍備宣言と英独海軍協定の締結に伴い、ドイツ海軍は潜水艦の保有も認められ、水上戦闘艦についても制約のない大型軍艦の建造へと進んでゆくことになります。

こうした制限撤廃に伴いドイツ海軍は、通商破壊を主要任務とする装甲艦の発展形としての「シャルンホルスト級」戦艦、新生ドイツ海軍初の本格的戦艦「ビスマルク級」(上述)という2艦級を建造、さらにその次級の主力艦の設計は、ということで現れたのが「H級」とひとまとめにされてきた戦艦群でした。

この艦級名は計画の最初の仮計画艦名称「H」号に基づいています。

計画では6隻まで仮称(つまりH、J、K、L、M、Nまで)がつけられて計画が実存したようなのですが、設計は6隻全て固まってたわけではなく、上記の着工までで中止になった「H」「J」の2隻は少なくとも「H39型」と呼ばれる設計でした。

上記のように「H級」戦艦の設計は固定されてた訳ではなく、戦訓や技術開発を反映して更新されてゆくのですが、少なくとも「H39型」として着工された2隻とこの後に続く「H40a型」「H40b型」(いずれも「H39型」の防御装備強化型)、さらに「H41型」までは計画承認までに至る実現可能な設計案だったと言われていますが、「H42型」以降は「研究案の域を出ない」と言っていいような段階の設計案でした。

(余談ですが「ドイッチュラント級」装甲艦3隻の仮称記号がA、B、C、続く当初「ドイッチェラント級」装甲艦の4番艦、5番艦として計画された「シャルンホルスト級」戦艦の2隻がD、E、「ビスマルク級」戦艦の2隻がF、Gの仮称記号を与えられ、従ってこれに続く主力艦の仮称記号は「H」となるわけです)

 

H39型」:「ビスマルク級」の拡大改良版

(上図は上掲の The Wells Brothers' Battleship Index: Debunking the Later H-class Battleships から)

H39型」は、「ビスマルク級」戦艦の拡大改良型で、「ビスマルク級」では実現できなかった機関のオール・ディーゼル化を目指した案です。大型ディーゼル機関の搭載により30ノットの高速と、長大な航続距離を併せ持った設計でした。機関の巨大化により船体も55000トンに達しています(「ビスマルク級」は41700トン)。主砲口径は「ビスマルク級」よりも一回り大きな40.6センチ砲として、これを連装砲塔4基に搭載していました。

全体的な概観や兵装配置は「ビズマルク級」を踏襲しており、大きな外観的な特徴としては巨大な機関搭載により煙突が2本に増えたことと、航空機関連の艤装が艦尾に移されたことくらいでした。

1939年に仮艦名称「H」と「J 」が着工されましたが9月の大戦勃発で中止されました。

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(上の写真は「H39型」戦艦の概観:224mm in 1:1250 by Neptun: 下の写真は「H39型」の細部拡大:「ビスマルク級」をタイプシップとして、それに準じた兵装配置であることがよくわかると思います。大型ディーゼルを搭載した高速長航続距離を目指した設計で、二本煙突が大きな特徴かと: 中段写真では新型で、それまでの「ビスマルク級]に搭載された開放型の砲架とは異なり閉鎖型の新型連装砲架に搭載された8基の高角砲:105mm/65 SK C/33がよくわかります)

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ビスマルク級」との比較

下の写真は「H39型」が完成されていればその前級にあたることになった「ビスマルク級」との対比を示したものです。

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両モデルともにNeptun レーベルの高い再現性でディテイルが作り込まれています。大型化した機関を搭載し一回り口径の大きな主砲を搭載しながらも、同系統の設計思想に基づく物であることがよくわかると思います。上掲の「拡大改良版」の言葉そのままかと。

Neptun レーベルの泣きどころ

余談ですが、再現性が高く筆者が1:1250スケールモデルの最高峰と言っていいと考えているNeptun レーベルなのですが、唯一の泣きどころは再現性の高さから繊細に作り込まれた砲兵装類の「繊細さ」にあると考えています。つまり全ての砲兵装の砲身が細く、柔やかいホワイトメタル製であるために、曲がりやすいのです。そして一旦曲がるとなかなか元の直線には戻りにくいという弱点があるのです。「ついうっかり指が砲身に触れてしまいグニャリ、下手をすると副砲や高角砲などの小さなパーツ部分は砲身が「ポロリ」なんてことが日常的に起きるわけです。

 

H39型」以降の「H級」初期型諸形式の話

「H40型」

一般的には「H 39型」の装甲強化改良型、とされていて、「H40a型」と「H40b型」の2つの設計案があったとされています。

(上図は「H40型」の設計2案「H40a型」(上段)と「H40b型」:モデルはAlbertから出ているようですが、見たことがありません 上図は上掲の The Wells Brothers' Battleship Index: Debunking the Later H-class Battleships から)

上掲の図の上段の「H40a型」は「H39型」と同等のサイズで、「H39型」で課題があるとされた防御強化を図る案でした。装甲強化等の重量増の代償に主砲塔1基を減じた設計でした。一方「H40b型」は武装等を「H39型」と同等にしたまま防御力の向上を図った設計で、当然のことですが艦型が大型化し、次に紹介する「H41型」に近いサイズになっています(排水量66000トン)。

両設計ともに「H39型」との大きな差異として機関がオールディーゼルから、ディーゼルと蒸気タービンの併載とされたことが挙げられます。速力は両型ともに30.4ノットの高速を発揮する設計でした。

 

「H41型」:主砲口径を42センチに

この「H級」シリーズの実現性のある設計案の最後の「H41型」は、主砲の強化を狙った設計案でした。排水量68000トン(「大和級」並)の船体に、42センチ(連装砲塔4基搭載)の口径の主砲を搭載し、機関は再びオールディーゼルとして速力28.8ノットを発揮するというスペックでした。

(上図は上掲の The Wells Brothers' Battleship Index: Debunking the Later H-class Battleships から)

(上の写真は筆者版「H41型」戦艦の概観:232mm in 1:1250 by semi-scratch based on Superior:「筆者版」の種を明かすと1:1200スケールのSuperior製H-class(おそらく「H39型」)をベースにしています(≒Superior社の1:1200スケールのひと回り大きな「H39型」を1:1250スケールの「H 41型」のベースとして流用している、と言う訳です)。筆者が知る限り、「H41型」の1:1250スケールモデルはAlbert社からのみ市販されていますが、未だ見たことがありません)

船体が大きくなったため建造には、港湾の水深と同艦の喫水の関係で課題が発生しただろうと、上掲の文書では記述されています。 The Wells Brothers' Battleship Index: Debunking the Later H-class Battleships 

同艦では新たな42センチ口径の主砲が搭載される計画でしたが、クルップ社製の40.6砲をベースとすれば、同砲の砲身が肉厚だったため、比較的容易に口径の拡大はできただろう、とも記述されています。

レッドサン・ブラッククロスに登場する「フリードリヒ・デア・グロッセ」

仮想戦記小説の第一人者のお一人、佐藤大輔氏の「レッドサン・ブラッククロス」に登場する「フリードリヒ・デア・グロッセ」は「H41型」です。もちろんこちらは40.6センチ主砲の筆者版などではなく、オリジナルの42センチ主砲搭載艦として登場します。51センチ主砲を搭載した「超大和級」戦艦と交戦し「尾張」に大損害を与えながらも撃沈されてしまいます。

 

そして「H級」後期型:「H42型」「H43型」「H44型」

「H級」計画は、さらに、研究段階の設計案として「H42 型」「H43 型」「H44型」と続いています。どうも「ナチス・ドイツ」の兵器設計の常、というか(架空戦記小説から筆者が影響を受けているだけかもしれませんが)「大きく強く」のような発想が色濃く見受けられる(あくまで筆者の私見ですが)計画案が多いように感じています。いずれも強大な船であり、既に「H41型」ですら建造施設に課題が見つかっていることから、これらの建造についてはドライ・ドックでの建造等、建造方法についても研究・検討が必要だっただろうと上掲の文書では記述しています。 The Wells Brothers' Battleship Index: Debunking the Later H-class Battleships 

 

「H42型」:防御強化タイプ

(上図は上掲の The Wells Brothers' Battleship Index: Debunking the Later H-class Battleships から)

「H41型」の防御を十分に充実させた研究案として提出された設計でした。特に「H42型」から「H43型」「H44型」ともに魚雷防御に重点が置かれ、第二次世界大戦で舵に被雷して行動の自由を失った「ビスマルク」の戦訓から、舵と推進器の損害を防ぐ構造が取り入れられていました。

実は上掲のサイトでは「H42型」以降では水中防御仕様が尾推進器部分に盛り込まれる予定だった、という以下のような記述が出てきます。

"From this 'H-42' design onwards, efforts were made to give rudders and propellers maximum protection by extending the stern of the ship in the shape of two side fins forming a kind of tunnel and protecting the rudder and propellers from the sides. This design was to offer protection against the kind of fateful torpedo hits sustaned by Bismarck. The effect such a stern would have on manoeuvrability of so large a ship was not looked into and extensive model tests would have been necessary before such a project could have been carried out." 

抄訳すると「「ビスマルク」に致命的な損害を与えた魚雷攻撃への防御強化策として、一種の「覆われた船尾」を装備している」とされています。「舵とスクリューを魚雷の打撃から保護するための両側にサイドフィンが装備されている」ということです。併せて「このような設計の船尾構造が巨大な戦艦の操縦性にどのような影響を与えたかは検証が必要だっただろう」とも述べています。

戦艦「ビスマルク」の戦訓

戦艦「ビスマルク」についてはその最初で最後の戦闘航海となった出撃で、デンマーク海峡での劇的な英戦艦「フッド」の撃沈が有名です。しかしこの際に実は「ビスマルク」は「プリンス・オブ・ウェールズ」の主砲弾を3発、艦首に被弾しており、その後予定されていた大西洋での通商破壊戦の継続を諦めて、そのまま通商破壊戦を継続する重巡プリンツ・オイゲン」と別れ、単艦、ドイツ占領下にあったブレスト軍港への回航、修理を目指すこととなりました。その途中で空母「アークロイヤル」の放った雷撃機隊から魚雷2発を被雷してしまいます。そのうち右舷後部に命中した魚雷の衝撃で舵が12度で固定されてしまい、この対応で速力が7ノットに低下、英海軍の追撃をかわせず、集中攻撃を受けて撃沈されてしまいました。

この戦訓に導かれた水中防御仕様とは?

この戦訓を受けて、「H42型」以降では水中防御仕様が検討された、ということなのですが、いったいどんな艦尾構造なんだろうか、という興味が湧き上がっていたところに、筆者がAlbert製の「H級」戦艦のモデルを探していると伝えたE-bayerから、「「H級」戦艦なら、ハル部分(船底部分)のモデルもセットできるけど」とうれしい連絡をいただき、「モデルがあるのなら、是非とも」という次第で今回の入手に至った訳です。

下の写真は、その艦尾構造のアップ。なるほどそういうことか、という写真です。舵とプロペラは分かりやすい様にゴールドで彩色してみました。by extending the stern of the ship in the shape of two side fins forming a kind of tunnel and protecting the rudder and propellers from the sides. :英語ではこんなふうに説明するんだなあ、などと感心しています。特にa kind of tunnelがあまりイメージできなかったのですが、ああ。こういうことなのか、と。百聞は一見に如かず、というやつですかね)

「H42型」は、このような防御装備の充実で排水量は90000トンに拡大しています。主砲については42センチ砲搭載説と48センチ砲搭載説の2説がある様です。機関としてはディーゼルと蒸気タービンの併載し、31.9ノットの高速艦となる設計案でした。

併せて、同サイトでも記述があるのですが、上掲の艦尾の推進器周りの構造については、素人目に見ても、理論上は対魚雷防御仕様としてはありかもしれませんが、「H級」後期型の様な巨大艦で、かつ高速航行時に操舵性にどんな影響が出るのか、慎重な検証が必要な気がしますね。ほとんど高速では旋回ができなくなりそうな、あるいは右に左に頭を振り回されそうな、そんな気もします。(The effect such a stern would have on manoeuvrability of so large a ship was not looked into and extensive model tests would have been necessary before such a project could have been carried out.)

「フォン・モルトケ級」(レッドサン ブラッククロスに登場)

前出の佐藤大輔氏の「レッドサン ブラッククロス」には「フォン・モルトケ級」という戦艦が登場します。同級は排水量で見ると「H42型」の仕様に近い規模の船なのですが、搭載主砲は42センチでも48センチでもなく51センチとされています。「H42級」と次に掲載する「H43級」の中間的な仕様として登場しています。

 

「H43型」:20インチ主砲搭載

(上図は上掲の The Wells Brothers' Battleship Index: Debunking the Later H-class Battleships から)

「H42型」の強化型として主砲に508ミリ砲(20インチ砲)が採用され、110000トンを超える強大な戦艦になる計画案でした。ディーゼルと蒸気タービンを併載して30.9ノットの総力を出す予定でした。主砲には「H42型」でも触れた48センチ砲搭載説もあるようです。

 

「H44型」級:「H級」シリーズの最終形、史上最大の戦艦

「H42型」に続く「H43型」は初めて10万トンを超える巨大戦艦の設計案でしたが、この巨大戦艦の設計案は次の「H44型」へと繋がります。

(上図は上掲の The Wells Brothers' Battleship Index: Debunking the Later H-class Battleships から)

「H44型」は公式な設計案が残る史上最大の戦艦とされています。排水量130000トン、 50.6センチ(20インチ)砲8門を主砲として搭載し、ディーゼルと蒸気タービンの併載で29.8ノットを発揮する、というスペック案が残っています。複数の枝記号を持つ図面が見つかっており、設計案が複数あったかもしれません

(「H44型」の概観:293mm in 1:1250 by Albert: 破格の大きさで、いつも筆者が使っている海面背景には収まりません。仕方なくやや味気のない背景で。下の写真は「H44型」の兵装配置を主とした拡大カット:巨大な20インチ連装主砲塔(上段)から艦中央部には比較的見慣れた副砲塔や高角砲塔群が比較的オーソドックスな配置で(中段)。そして再び艦尾部の巨大な20インチ連装主砲塔へ(下段))

この辺りの資料は「研究段階の計画艦」ということもあって「諸説」が残っていて調べ出すとキリがありません。何か面白い資料があればぜひ教えてください。

「H44型」のフルハルモデル

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(上の写真は「H44型」モデルの概要:入手した艦底部分にウォータラインモデルを乗せただけで、接着していないので隙間等見えますが、ご容赦を)

少し模型的な話:Albert社の「H級」各形式のモデル

「H級」の1:1250スケールの模型はAlbert社から発表されています。筆者は上掲の「H44型」以外のモデルを見たことはありませんが、いつもモデルの検索でお世話になっているsammelhafen.deによれば「H40a型」「H40b型」(実はこの両形式は明記されていません:H-Klasse Studie A/Bとだけ表記されています)「H41型」「H42型」「H43型」「H44型」が同社から発表されていることになっています。しかしsammelhafen.deでも写真が掲載されているのは筆者が保有する「H44型」のみで、他の型式については写真は見つけられませんでした。

sammelhafen.de

Z計画の戦艦総覧

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(上の写真は、再生ドイツ海軍の「Z計画」での主力艦整備計画の総覧的なカット:下から「ビスマルク級」by Neptun 、「H39型」 by Neptun、「H41型」by  semi-scratch based on Superior、そして「H44型」 by Albert の順)

 

完全な架空艦「H45型」のご紹介

これまでご紹介してきた「H級」の諸型式は研究段階という「淡い」状態ながらも何らか計画があったことが確認されていますが、もう一つ都市伝説的な型式「H45型」が、The Wells Brothers' Battleship Index: Debunking the Later H-class Battleships では紹介されています。

「H45型」は「実存しない設計案」つまりゲームの中だけで語られている設計案の一つです。

「都市伝説的な」とご紹介したのは、この設計案が、ヒトラーがグスタフ列車砲(800mm砲)を主砲として搭載する戦艦のアイディアについて語った、という設定(史実なのかどうか?)のみを拠り所として、考えられているからです。(投稿には図面が掲載されてます。「ただしなんの根拠もないよ、でもこういう自由な設定は楽しいから、いいんだよ。どんどんいこう」的なコメント付きです:Let us state for the record that there is absolutely nothing wrong with making up purely fictional ship designs for wargames. We do it all the time. It can be fun. It only becomes a problem when people start to believe that these designs were real. Since these are fictional designs, it is difficult to impossible to find good, reliable references on them. We are forced to rely on saved pictures and saved bits of text from defunct websites, as well as personal memories. So, here we present some more-or-less fictional designs that readers might find on the internet:「H45型」に関するコラムの冒頭部分をそのまま引用しています。fictional designsが何度も出てきて、ちょっと嬉しいですね)

(上図は「H45型」(上記のコラムでは”The (mostly) Fictional H-45 Design”とタイトルがついています)と称して紹介された「オバケ戦艦」:上図の上左に「ビスマルク級」の図が対比として載っているので、大体の大きさがわかっていただけるかと)

”The (mostly) Fictional H-45 Design”と銘打たれた55万トン(一説では70万トン)のまさにモンスター戦艦。全長609メートル、80センチ主砲(グスタフ列車砲)搭載、なんと28ノットの速度が出せる、ということになっています。

1:1250スケールでの模型的なお話

驚くべきことに、この船の3D printing modelが下記で入手可能です。

Battleship - H-45 - What If - German Navy - Wargaming - Axis and Allies - Naval Miniature - Victory at Sea - US Navy - Tabletop - Warships

(上の写真はモデルの写真:506mm1(1:1200スケールでの寸法ですから、1:1250だともう少し小さい)の巨大なモデルです。かなり低い姿勢にも興味をそそられます)

この発注ページの注釈に1:1200-506 mm Length- Special Order Only- Printed in 2 Pieces と記載されていて、船体が2分割されている、ということですかね。併せてこのページのスケールの選択肢では1:1250スケールは表示がなく選択することはできないのですが、別モデルで問い合わせた際に「メモ欄に1:1250希望」と書いておいてね、と言われ実際にその通りの寸法でモデルが届きましたので、対応はしてもらえるはずです。

「2分割の接合、というのは実はなかなかの難問だなあ」などと、まだまだ楽しみはある、ということですね。

現時点(2024年2月4日)で、製作者に再度1:1250スケールでの出力の可否と、可能だとして主砲塔・副砲塔等の武装を撤去した、つまり船体だけのモデルの出力への変更が可能かどうか、問い合わせ中です(多分、ストックパーツに入れ替えたくなっちゃうと思うのです)。3Dモデルの場合には、こう言ったリクエストが聞いていただける場合が時折あります。これが叶うと、主砲塔等をどう揃えていくのかに対処する必要は出て来ますが、武装等を一旦撤去して、という工程を省け、かつ仕上げも美しくなると思うので、おそらく筆者的には嬉しいかと考えています。懸念はエキストラな費用を請求されるかも、というところかと。

それでなくても、おそらく1:1250スケールでさえ50センチ程度の巨大なモデルになるでしょうし、1:1800スケールで18.95€の価格設定になっていますので、一体いくらの設定になるのか、ちょっとドキドキです。

こちらは返答も含め、いずれはアップデートさせていただきます。

 

ということで、今回のドイツ海軍の未成戦艦のまとめはここまで。

次回はドイツ海軍の未成艦の最終回ということで、未成装甲艦「D級」と未成に終わった航空母艦などをご紹介したいと思っています。

もちろん、もし、「こんな企画できるか?」のようなアイディアがあれば、是非、お知らせください。

 

模型に関するご質問等は、いつでも大歓迎です。

特に「if艦」のアイディアなど、大歓迎です。作れるかどうかは保証しませんが。併せて「if艦」については、皆さんのストーリー案などお聞かせいただくと、もしかすると関連する艦船模型なども交えてご紹介できるかも。

もちろん本稿でとりあげた艦船模型以外のことでも、大歓迎です。

お気軽にお問い合わせ、修正情報、追加情報などお知らせください。

 

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ドイツ海軍の未成艦特集(前編):航空巡洋艦・巡洋艦・敷設巡洋艦など

今回は、本稿前回でご紹介した未成艦「D級」装甲艦に引き続き、これまでに本稿でご紹介してきたナチスドイツ海軍の計画のみで終わった艦艇を、まとめて振り返っておくのもいい機会ではないかと。

そういうお話です。

前編・中編・後編の三部構成で、今回その前編:巡洋艦航空母艦です。

 

未成巡洋艦航空巡洋艦軽巡洋艦偵察巡洋艦敷設巡洋艦など)

既に本稿では何度もご紹介していますが、少しおさらいも含め背景をまとめておきましょう。

ドイツは第一次世界大戦に敗れ、帝政ドイツの崩壊と共に、ヴェルサイユ体制で重い戦後賠償を課せられます。

同時に軍備にも厳しい制限がかけられ、海軍軍備はほぼ19世紀後半の装備を持つ沿岸警備海軍の規模に縮小させられました。

巡洋艦についてみると、再生ドイツ海軍(ワイマール共和国海軍)は1890年代末期に建造された3000トン級の小型防護巡洋艦6隻を保有するのみでした。1920年代になるとこれらの旧式巡洋艦の代艦建造が始まります。(この辺り、もう少し詳しくお知りになりたい方は、本稿の下記の投稿を見てみてください)

fw688i.hatenablog.com

fw688i.hatenablog.com

代艦として建造が認められた巡洋艦には6000トン以下、備砲は6インチ以下という制限があり、その制限の中でドイツ海軍は1921年軽巡洋艦「エムデン」、1924年から「ケーニヒスベルク級」軽巡洋艦3隻、1931年から「ライプツィヒ級」軽巡洋艦2隻を就役させてゆきました。こうしてヴェルサイユ体制下で保有が認められた巡洋艦6隻については全て新造軽巡洋艦に置き換えられた訳ですが、この間、ナチス党が政権を掌握し1934年にヒトラー国家元首に就任すると、1935年には再軍備を宣言します。同年には英独海軍協定が結ばれ、事実上、ヴェルサイユ体制での軍備制限は消滅しました。

ナチス政権下でドイツ海軍は「Z計画」の総称で知られる大建艦計画を始動させます。今回紹介する巡洋艦群は概ねこの計画の中で設計案が上がった、あるいは起工には至りながら第二次世界大戦の勃発でキャンセルされた艦級である、と言っていいと考えています。

 

まずは一番目を引く変わりどころ、航空巡洋艦の設計案から。

航空巡洋艦Flugzeugkreuzer A IIa ; カール・フォン・ミュラー

 www.german-navy.de

f:id:fw688i:20221030095906p:image

(「A IIa型」航空巡洋艦の概観:199mm in 1:1250 by C.O.B. Constructs and Miniatures:艦橋部と主砲塔をストック・パーツに置き換えています。右舷側舷側に煙突が見えています。この右舷側の煙突を写したかったので、珍しく右舷側からの写真になっています)

同艦は、上掲のサイトでは再軍備化したドイツ海軍の大建艦計画の「Z計画」の一環として紹介されています。1942年に複数の空母機能と装甲戦闘艦機能を兼ね備えたハイブリッド艦の設計案が開示され、その中の一つが同艦です。他の情報源では、「ビスマルク」の喪失後、航空援護のない水上艦艇の脆さが露わになり、1942年ごろに「A II」「A III」「A IV」の各設計案が提示され、そのヴァリエーションがこの「A IIa」だ、とした記述があったかと記憶します。

排水量は40000トン、速度は34ノット、55口径28センチ砲(史実では「シャルンホルスト級」戦艦の主砲として搭載されました)を主砲として三連装砲塔2基に納め、副砲として15センチ単装砲を片舷3基、ケースメート形式で搭載しています。(上掲のサイトでは15センチ砲12門と記載されています。ここは筆者のモデルとは大きく異なりますね。連装砲塔3基で12門、でしょうか)さらに10.5センチ連装高角砲を8基も搭載し、かなり強力な火力を有していました。

(下の写真は「A IIa型」航空巡洋艦の細部:55口径28センチ主砲塔(上段)とケースメート形式で搭載されている15センチ副砲+高角砲(中段))

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搭載機

搭載機は上掲のサイトでは23機と記述されています。完成していれば、名機メッサーシュミットMe109を艦上戦闘機仕様に改造したMe109T艦上戦闘機と、Ju87T艦上爆撃機(こちらもシュツーカ急降下爆撃機艦上爆撃機に改造したもの。両機種の形式番号の末尾のTは空母を表しています)を搭載していたのでしょうね。見ての通り飛行甲板の前端中央に艦橋があり、発艦は艦橋両側のカタパルトから行う設計でした。Ju87Tには艦上爆撃機仕様だけでなく雷撃機仕様のタイプも検討されていたとか。

ドイツ海軍は同種の艦艇を航空機運用能力を活かした広域の通商破壊戦に投入することを想定し検討していた、とされています。ただし、搭載機種は2種とも第二次世界大戦緒戦で大活躍した機種ですが、いずれも地上侵攻部隊の直接支援を想定した機体で、洋上での運用では航続距離に課題が出ただろうと思います。しかし、日本海軍のような空母機動部隊での運用を想定するわけではなく、単艦(もしくは小さな艦隊)での通商破壊作戦に出るのであれば、一定の広範囲な索敵能力を攻撃力を持てばいい、という割り切りであれば、両機種の航続距離はあまり問題にあらない、とも考えられます。

日本海軍が具現化した同様のハイブリッド艦である「伊勢級」航空戦艦は喪失した機動部隊空母の補完として、空母機動部隊戦力としての運用が期待されていたようですが、同艦はその搭載機数から考慮しても、機動部隊での運用は考慮されていない、純粋な通商破壊艦だと言っていいと思います。

(下の写真は「A IIa型」航空巡洋艦の大きさ比較:上段から「ビスマルク級」戦艦との比較、「シャルンホルスト級」戦艦との比較(中段)、「ドイッチュラント級」装甲艦との比較(下段))f:id:fw688i:20221030100625p:image

モデルのお話:C.O.B. Constructs and Miniaturesのモデル

モデルはShapewaysでいつでも購入が可能です。

www.shapeways.com

(写真はShapewaysに掲載されている同艦の1:1800スケールモデルの写真:by C.O.B. Constructs and Miniatures)

今回筆者は上掲の同社(C.O.B. Constructs and Miniatures)のモデルをベースに、主砲塔と艦橋部を手元のストック・パーツと置き換えています(ちょっと物足りない気がしたので)。艦橋の置き換えには贅沢にもHansa製のポケット戦艦「アドミラル・シェーア」の艦橋部が流用されています。あとはモデルのモールドでは副砲がケースメートだけで砲身がモールドされていなかったので、砲身をプラロッドで足している程度です。(ああ、そうか、この追加したプラロッドを連装風に変更すれば最初に掲載した情報源と同じ仕様(15センチ砲12門装備)にできますね)

 

「カール・フォン・ミュラー」という艦名

本稿をご覧になるような方ならばおそらく多くの方がご存知でしょうが、艦名は第一次世界大戦で通商破壊戦で名を馳せた巡洋艦「エムデン」の艦長カール・フォン・ミュラー少佐にあやかっています。(艦長就任直後に中佐に昇進しています)

カール・フォン・ミュラー中佐の指揮する巡洋艦「エムデン」は、グラーフ・シュペー提督の率いるドイツ東洋艦隊に所属していました。このシュペー艦隊は第一次世界大戦勃発時には中国で当時ドイツ帝国租借地で軍事拠点であった山東省青島にいたのですが、日本海軍による封じ込め等を畏れ、早期に太平洋への通商破壊戦を経た本国への回航を試みます。その途上、コロネル沖海戦で英巡洋艦隊を撃破しながらも、フォークランド沖海戦では英巡洋戦艦の圧倒的な砲力の前に全滅させられてしまいました。「エムデン」はこの海戦の前に艦隊を離れ単艦インド洋での通商破壊戦を命じられ、大暴れすることになるわけです。

en.wikipedia.org

こちらもおすすめ。この「エムデン」の活躍を語り出すと随分な長文になってしまいそうなので、今回は控えますが、是非、上掲の書籍など、お楽しみいただければ、と。

Amazonで今なら手頃な値段で手に入りそう。時折、びっくりするくらい高額な値段がついたりしていますので、手頃な価格を見つけたらチャンスかと。 

 

次にご紹介するのは、無制約状態で1936年にドイツ海軍が計画した、「M級」軽巡洋艦です。

M級軽巡洋艦

ja.wikipedia.org

f:id:fw688i:20220925135047p:image

(「M級」軽巡洋艦の概観:146mm in 1:1250 by Semi-scratched model based on Anker "Enrwulf 1938 M-R")

「M級」軽巡洋艦は通商破壊戦用に1936年に計画された軽巡洋艦です。

ヒトラー政権による再軍備宣言と、英独海軍協定の締結で、それまでドイツ海軍の巡洋艦に課せられていた6000トンという制限が無くなったため、7800トン級の大きな船体を持ち、55口径6インチ連装砲塔4基を主砲として搭載していました。機関にはギアード・タービンとディーゼルを併載し35ノットの高速と19ノットの速力で8000浬という長大な航続距離を併せ持っていました。(参考まで:通商破壊艦として名高い「ドイッチュラント級」装甲艦は速力26ノット、航続距離20ノットで10000浬)

6隻という保有数にも制限が課せられていた本級以前のドイツ海軍の軽巡洋艦はある種の万能艦を目指さねばならないという宿命があり、新基軸を盛り込んだ随所に無理がみられる設計でした(「ケーニヒスベルク級」では軽量化と新開発の三連装主砲塔などの重武装の搭載から、艦自体の構造に負荷がかかり過ぎ、ドイツ近海でしか行動できませんでした)が、同艦は一転して通商破壊に絞った高速性(敵性軍艦を避ける)と航続距離を具現化する堅実な設計となったであろうと考えています。f:id:fw688i:20220925135042p:image

(上の写真:「M級」軽巡洋艦の主要部の拡大:主砲は、前級「ライプツィヒ」級までドイツ海軍が軽巡洋艦の標準装備としていた3連装砲塔から連装砲塔に変更しています。3連装砲塔は意欲的でしたが、あえてオーソドックスな連装砲塔に。艦橋部の前檣はモデルでは図面(あるいは下のオリジナルモデル)のように同級独特なものでしたが、あえてドイツ軽巡洋艦的な構造に変更してみました。上段の写真で艦中央部に魚雷発射管を装備していたことがわかります)

ちなみに「M級」という名称は、正式艦名が付けられる以前の仮称で、同級はM、N、O、P、Q、Rの6隻が建造される予定でした。このうちM、Nの2隻については1938年、39年に起工されましたが第二次世界大戦の勃発で建造が打ち切られ、他の4隻については計画のみで終了しています。

模型的な視点での「M級」軽巡洋艦

1:1250スケールで本稿でも何度か紹介している未成艦・計画艦のラインナップに強いAnker社からモデルが市販されています。今回はこのモデルをベースにしています。

(下の写真は、Anker社の「Entwulf 1938 M-R」として市販されているモデルの概観:例によって写真はsammelhafen.deより拝借しています)f:id:fw688i:20220925112025j:image
このAnkerのモデルはおそらく上掲のWikipediaに掲載されている図とも近似しているので、計画に忠実なのだろうとは思うのですが、筆者の独断で(ドイツ艦らしくない、という、根拠も何もない違和感だけ、に基づいた判断なのですが)前檣部分に大幅に手を入れています。代替した前檣はストックのあるHansa社製の「ライプツィヒ」「ニュルンベルク」の前檣を移植しています。

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(上の写真は、軽巡洋艦ニュルンベルク」(手前)と「M級」軽巡洋艦の比較:「M級」の艦幅が大きいことがわかります)

 

次に、ドイツ海軍の計画した高速偵察巡洋艦を。こちらも通商破壊戦を意識した設計と言っていいでしょう。

偵察巡洋艦計画 (Spahkreuzer 1938)

en.wikipedia.org

f:id:fw688i:20240121100133p:image

(偵察巡洋艦の概観。122mm in 1:1250 by Hansa:Wikipediaの図面では艦中央部に水上偵察機関連の装備が描かれていますが、このHansa社のモデルではこの部分に魚雷発射管が2基装備され、大型駆逐艦のような外観になっています 

大西洋での通商破壊戦を海軍戦略の重要な要件の一つとしていたドイツ海軍は、標的となる船団を発見し追跡する「偵察艦」の建造を計画していました。6000トン級の船体に、6インチ連装砲塔3基を搭載し、36ノットの高速を発揮する大型の駆逐艦というような形状の艦で、1938年ごろから複数の設計案が検討され1941年に起工されながらも、1942年には中止されています。

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(偵察巡洋艦の兵装配置の拡大:艦首部に連装砲塔(写真上段)、中央部に5連装魚雷発射管2基(写真中断)、艦尾部に連装対空砲と連装主砲塔2基(写真下段)、とドイツ海軍の駆逐艦に近い兵装配置になっていることがわかると思います 

模型的には、Hansa製のモデルの前檣を、ドイツ海軍の「巡洋艦らしく」するために手元のドイツ海軍軽巡洋艦から入手したストックパーツに交換しています。Hansa社のオリジナルのモデルはしっかりしていて全体のフォルムは好きなのですが、Neptun等のディテイルが作り込まれたモデルと比べると、ついついどこか手を入れたくなります。f:id:fw688i:20240121100124p:image

(Hansa製のモデルに筆者が手を入れた前檣と、艦尾の対空砲)

 

水偵装備タイプの製作

「手を入れたい」という想いが高じて、Wilipedia図面の水上偵察機装備したタイプも作ってみました。

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(直上の写真は上掲のWikipediaでの説明の通り艦中央部の魚雷発射管を航空艤装に置き換えたもの。偵察巡洋艦としてはこの方が理に適っているかもしれません。このデザインは1939年版のもののようですので、1938年のオリジナルでは魚雷発射管装備案だったのかも:下の写真は艦中央部の比較:上段が1938年デザインで下が水偵設備を持った1939年デザイン、ということになります)
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オリジナルHansaモデル

下の写真はHansa製のオリジナルモデル:以前、本稿では一度オリジナルモデルは紹介しています。その際には「前檣」を交換したい、と言っていました。結局それをやっちゃった、ということですね。

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(前回投稿の際に紹介していた偵察巡洋艦とドイツ海軍駆逐艦(手前)の比較:大型駆逐艦的な概観ではありますが、やはりかなり大きさが異なることがわかります

 

こちらは未成艦ではなく架空艦、と言った方がいいかも

さて、もう一隻、次にご紹介する艦については、実は公式に計画があった、という資料に当たれていません。今のところGameの世界で計画の資料を見つけたのみ、です。(どなたか計画の断片でも資料をお持ちの方がいらっしゃたら、是非、お知らせください)

アドミラル・ヒッパー級巡洋艦、6インチ主砲装備案 (Lutzow (Entwutrf) :リュッツォー試案)

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(「ヒッパー級」6インチ主砲搭載軽巡洋艦の概観:169mm in 1:1250 by Semi-scratched model based on Hansa "Lutzow (Enrwulf) )

少し詳細を端折ると、ここでは「プリンツ・オイゲン」の姉妹艦のアイディアとして種々のイラストが示された中で、軽巡洋艦の主砲塔装備案として下の図面が紹介されています。

(下図は上掲のURL:World of Warshipのサイト内のファン・フォーラムへの投稿から拝借しています。この図面の原典がどこかにあるはずのなのですが、これが探せていません)

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この図面の下のスペックを見ると14000トン級の船体を持ち、32ノットの速力を発揮、とあるので、ほぼ「アドミラル・ヒッパー級」、記載されている寸法を見ると同級の改良タイプでやや大型の3番艦「プリンツ・オイゲン」に準じたものになっていることがわかります。

上の図面でも記載されているように同級の後期型でいずれも起工されながら建造が中止された「ザイトリッツ」「リュッツオウ」が6インチ砲装備の軽巡洋艦として完成していたら、ということなんでしょうね。f:id:fw688i:20220925140143p:image

(「ヒッパー級」6インチ主砲搭載軽巡洋艦の細部:「ヒッパー級」に比べて前檣の構造が簡素になっています(上段)。カタパルトを2基装備し。その間を航空機整備甲板に(中段))

史実上ではこうしたスペックの軽巡洋艦が、いわゆる「条約型巡洋艦」として存在していることは、多分ご承知だろうと思います。背景には主力艦の保有数を制限し、増大する一方だった列強の海軍軍備負担を軽減しようという意図で成立したワシントン・ロンドン海軍軍縮条約があります。両条約の制約下で、重巡洋艦軽巡洋艦の定義が主砲の口径差で生まれ、8インチ砲装備の重巡洋艦保有枠を使い切った列強海軍が、重巡洋艦に対抗できる速射性の高い6インチ砲を多数装備した大型の軽巡洋艦の建造に移行していったのでした。

日本海軍の「最上級」「利根級」、米海軍の「ブルックリン級」「セントルイス級」、英海軍の「タウン級」などがこれにあたります。

ヴェルサイユ体制ではドイツ海軍は重巡洋艦保有は認められておらず、あわせて同海軍はワシントン・ロンドン条約の批准国でもないので、同海軍がこの種の艦種を保有する根拠は希薄なのですが、列強が装備していた速射性の高い中口径砲を多数装備し、つまり重巡洋艦よりも手数の多い大型巡洋艦になんらかの興味を持てば、あるいはあり得たのかも、というところでしょうか。

モデルについて

驚くべきことに、1:1250スケールではなんと同種の艦についてもモデルが市販されています。

(下の写真はHansa社から市販されている同艦種のモデル:例によって写真はsammelhafen.deより拝借しています。入手したんだから、手を入れる前に写真を撮っておけばいいのに、そういうのは忘れてるんです、とほほ。「Lutzow (Entwutrf)」という商品名です。「Lutzow」は「ヒッパー級」の5番艦として着工され、大戦勃発で工事中止に。その後、未完のままソ連に売却されたという経緯を持つ艦です。商品名のEntwurf=draftというような意味ですので、「リュッツオウ(試案)」ですかね)

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筆者はこれを入手し、例によって同社の主砲と高角砲がややもったりした印象があったので、これらをNeptun社のジャンクモデルからのものに換装して少しディテイルを整えています。

実はその際に後檣も手を入れたかったのですが、同艦はベースとなった「アドミラル・ヒッパー級重巡洋艦と異なり、カタパルトを2基装備しその間を航空整備甲板としたため、下部を水上偵察機が移動できるようなある種トンネル構造のような特異な後檣の形状をしています。面白いのでそのままで。いずれは上部だけでも真鍮線でリプレイスしてみましょうか。

重巡洋艦プリンツ・オイゲン」との比較

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重巡洋艦プリンツ・オイゲン」の概観 by Neptun)

 

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(上の写真は概観比較:「プリンツ・オイゲン」が奥。下の写真では、両者の細部比較(左列が「プリンツ・オイゲン」:主砲塔が最大の相違点ですね。製造者の違いはやはり大きいかも。Neptun社だったらどんな前檣にしたんでしょうか?みてみたい気もしますが、計画でもあれば別ですが、資料もない艦は流石にNeptun社は作らないでしょうね)
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「Z計画」から(?)

敷設巡洋艦4 planned offensive minelayer)

www.german-navy.de

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(高速敷設巡洋艦の概観:161mm in 1:1250 by Anker)

こちらでご紹介するのは、ドイツ海軍が計画した高速敷設巡洋艦、です。

再生ドイツ海軍は敷設専任艦を保有していませんでした。ご承知のようにヴェルサイユ体制下で、ドイツ海軍には厳しい軍備制限がかけられ、わずかな数の軍艦しか保有できませんでした。その制約からドイツ海軍が初期に代替艦として建造した「ケルン級」軽巡洋艦は機雷敷設任務もこなせる万能艦として設計されました。また、有事には駆逐艦、高速魚雷艇、潜水艦等がこの任務につくことも想定していました。さらに民間からもペイロードの大きな船舶を重用することも計画されていました。

しかし「ケルン級」が制限の課せられた中で万能感を目指したため種々の無理のある設計なったこと、さらに敵前での高速敷設等を考慮すると専任艦の建造は必須で、軍備制約の解けた1939年計画では3−4隻の敷設艦の建造が組み込まれていました。

同級のスペックについては筆者の手元には情報がないのですが、入手したAnker製のモデル(つまり今回ご紹介しているモデル)から推測すると5000−6000トン級の船体を持ち、艦尾に4条の機雷敷設軌条を有し、モデルでは再現されていませんが、この形式の艦艇は艦尾に主甲板下の機雷庫から直接海面に敷設する能力も有していただろう、などと想像が膨らみます。速度はおそらく27−30ノット程度、600基程度の機雷搭載能力があったのではないかと推測します。

個艦兵装としては、敵性航空機や駆逐艦との戦闘を想定した速射性の高い4インチ連装対空砲4基を主兵装として備え、さらにおそらく37mm対空機関砲4基を装備しています。f:id:fw688i:20240121101031p:image

(高速敷設巡洋艦の兵装配置の拡大:艦首部に連装対空砲2基(写真上段)、中央部に対空機関砲座(写真中断)、艦尾部に連装対空砲2基と4条の機雷敷設軌条と広い作業甲板が見ていただけます(写真下段):通常、この時期の敷設巡洋艦は上甲板下にも機雷庫を装備しており、艦尾に敷設用の扉を備えていることが多いのですが、どうモデルではそのようなモールドは認められませんでした:下の写真はあくまで参考資料として、同時期に日本海軍が建造した機雷敷設艦沖島」「津軽」の細部写真から。左下のカットでは艦尾の上甲板下の扉からの機雷敷設が可能であったことがわかるかと。おそらく本館も同じような機能の上甲板下の敷設用の扉を装備していたのではないかと思います)

 f:id:fw688i:20200920183143j:image

 

Anker社のオリジナルモデル

下の写真はAnker製のオリジナルモデルの写真です。例によって写真はsammelhafen.deより拝借しています。このAnker製のモデルは上部構造が非常にシンプルで、それはそれでいい感じはするのですが、やや全体の作りにシャープさが欠けるような気がしています。ついつい手を入れてみたくなり、「ドイツ艦らしさ」というこだわりから、今回ご紹介した筆者のコレクションでは、前檣を筆者のストックパーツに置き換えたりしています。ちょっとトップヘビーな感じになっちゃったかなあ、と反省しています。

 

ということで、今回はドイツ海軍の未成艦・計画艦(一部架空艦かも)のまとめ、でした。

次回は(来週末は行事があるので、2月の頭になるかと)、この続きで主力艦、前回紹介した装甲艦と、Z計画の目玉ともいうべきH級戦艦のいくつかの形式、さらに未成の航空母艦などのモデルをご紹介できればと、思っています。

模型に関するご質問等は、いつでも大歓迎です。

特に「if艦」のアイディアなど、大歓迎です。作れるかどうかは保証しませんが。併せて「if艦」については、皆さんのストーリー案などお聞かせいただくと、もしかすると関連する艦船模型なども交えてご紹介できるかも。

もちろん本稿でとりあげた艦船模型以外のことでも、大歓迎です。

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新作モデルのご紹介:未成艦ドイツ海軍D級装甲艦のご紹介

今回は新着モデルに大幅に手を入れた新作モデルのご紹介です。

今回ご紹介するのは、ドイツ海軍が第一次世界大戦第二次世界大戦の間に起工された「D級装甲艦」という艦級です。起工の直後に工事が中止されたため、いわゆる未成艦です。その辺りの経緯は後ほど。

 

「D級」装甲艦(同型艦2隻:1934年起工・同年工事中止)

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(「D級」装甲艦の概観:186mm in 1:1230 by D's Ships & Bunkers)

同級は強化型装甲艦、つまり「ドイッチュラント級」装甲艦の強化型という主旨で設計案が検討され、1034年に一旦起工されましたが、この間にヴェルサイユ体制が破棄されたため、より強力な「シャルンホルスト級」の建造に移行した結果、工事は中止、建造には至りませんでした。つまり未成艦、というわけです。(「D級」装甲艦の計画の経緯については、後ほどたっぷりと。ですのでここでは今回のモデルについて、触れておきます)

強化型装甲艦の名の通り、前級である「ドイッチュラント級」装甲艦(10000トン級)の強化拡大型として設計されたため、20000トン級の船体が想定されました。設計当時、ドイツ・ワイマール共和国はまだヴェルサイユ体制下の軍備制限を受けていましたが、ナチスの台頭等による軍備制限破棄を想定した設計でした。「ドイッチュラント級」装甲艦同様、巡航性に優れた巡洋艦的な船型を持ち、大型のディーゼル機関から長大な航続距離と30ノットの高速を発揮できる性能を兼ね備えていました。

前級「ドイチュラント級」が「ポケット戦艦」の異名を持ちながらも、その実態は10000トンの制約の課せられた船体の条件から防御装甲は待ったう不十分で、その点を「D級」では格段に強化されていました。

武装は「通商破壊艦」という主旨から敵性巡洋艦からの回避戦闘を想定すればよく、大口径砲は控えめに「ドイッチュラント級」と同様に11インチ3連装砲塔2基を搭載していました。しかし搭載された11インチ砲は長砲身の新設計55口径(ドイッチュラント級」には52口径)で、長射程と高初速を有しており、最長射程は40000メートル、15000メートルの距離であれば英海軍の当時の主力戦艦であった「クイーン・エリザベス級」「リベンジ級」の装甲を打ち抜く事ができるとされていました。

一方で通商破壊戦での商船の制圧、撃破を想定し、副砲として6インチ3連装砲塔2基を搭載し両舷に対し6射線を確保、さらに4インチ連装高角砲8基(片舷8射線)を装備し、中口径砲での戦闘にも重点を置いた砲兵装が想定されていました。さらに4連装魚雷発射管2基と、水上偵察機2機を搭載していました。

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(「D級」装甲艦の主要部分の拡大:艦種部に3連装11インチ主砲塔と同じく3連装6インチ副砲塔(写真上段)、艦中央部に対空兵装と魚雷発射管、航空艤装(写真中段)、艦尾に3連装副砲塔と同じく3連装主砲塔(写真下段)、と並走配置は大変オーソドックスです。3連装副砲塔は軽巡洋艦で既に実績があった物を採用し、両舷に対し6射線を確保しています)

 

モデル的な視点で

少し模型的なお話をしておくと、今回のモデルは下の写真の3D prinnting modelをベースとしています。

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このモデルはebayで入手したもので、D's Ships & Bunkersという出品者が出品されているものです。1:1200スケールですが、3D printing modelの柔軟さで、発注の際に但し書きで「1:1250スケールで欲しい」と但し書きすれば、対応してもらえます。実際にebayでもこの出品者は1:700スケールなどでも艦船モデルを出品されており、サイズ対応には慣れていらっしゃるような印象です。

モデルは標準的な3D printing modelクオリティですので、武装等はややシャープさにかけます。ですので今回のモデル作成では、主要な武装(主砲・副砲・高角砲・魚雷発射管)は全て筆者のストックパーツに置き換え、さらに装甲艦的な重厚さを与えたモデルにしたかったので、「装甲艦グラーフ・シュペー」式の装甲前檣を持たせるなど、結構大掛かりに手を入れることになりました。f:id:fw688i:20240114092817p:image

(今回のモデルで筆者が手を入れた部分の拡大:主砲塔・副砲塔はストックパーツからNeptun製のものを流用しています。前檣・魚雷発射管はいずれおHansa製のモデルから、特に前檣は「グラーフ・シュペー」の装甲前檣を移植しています。クレーンや対空砲はAtlas製のモデルから拝借しています。下の写真では参考までにモデルのオリジナルの状態を)

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D's Ships & Bunkersについて

この出品者のラインナップは皆さんも大好きな「未成艦」なども含めた、かなり充実したものになっていますので、これからもお世話になるのではないかと考えています。

既に筆者はロシア海軍の「バクー級」重航空巡洋艦(「改キエフ級」)を全通甲板式のSTOBAR方式空母に改造してインド海軍が買い取った「ヴィクラマーディティア」のモデルを1:1250にスケールコンバートしたものを発注しています。

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対応等の感触では、発注後に作成されるようですので(筆者がスケールコンバートをお願いしているからかもしれませんので、掲載通りのスケールなら早いのかも)、少し手元に届くのに時間がかかります。筆者の場合には何の問題もありませんが、お急ぎの場合にはそこは要注意かも。

 

ということで、新作モデルのご紹介は一通り完了し、以降は「D級」装甲艦の計画の経緯等について。

 

装甲艦という艦種:その成立

第一次世界大戦の敗北と帝政自体の崩壊で、大戦前には英海軍に次ぐ世界第二位の威容を誇ったドイツ帝国海軍が消滅し、ヴェルサイユ条約下で生まれた新生ドイツ(ワイマール共和国)の海軍は一握りの旧式軍艦による小規模な沿岸警備海軍として再出発しました。

ドイツ帝国海軍の旧式艦艇で構成されていたワイマール共和国海軍は、更新艦齢に達した艦から少しづつ代替艦に置き換えられていったわけですが、やがて旧式の前弩級戦艦であった「ブラウンシュヴァイク級」の3隻が代艦建造可能な艦齢20年に達します。

これを見越して海軍首脳部は1920年頃から装甲戦闘艦の代替艦の設計の研究を始めます。代艦の建造にあたっては「10000トン以下であること」という制限がありました。これは明らかに前弩級戦艦的な設計の継承を想定したもので、新生ドイツ海軍がバルト海沿岸の警備海軍に徹するという狙いにたてば強力な海防戦艦を建造できることを意味していましたが、これが同時にドイツ海軍をバルト海沿岸の警備海軍に留めておくという戦勝国の狙いでもあったと考えられます。

設計案は実に多岐に渡ったようで、本稿で度々ご紹介した書籍「海防戦艦」に記載されているものだけで、実艦も含め20案に及びます。

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(上の写真は本稿で前々回の投稿でご紹介した橋本若路氏の著作「海防戦艦」に掲載された「ポケット戦艦」開発に至る数々の設計案の資料です。併せて下の写真は代表的な思案の図面スケッチ:こちらも同書に掲載されています)

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上図を少し、「海防戦艦」での記述に従って整理しておきましょう。

背景として理解しておくべきことは、計画当初はワイマール共和国海軍の仮想敵がフランスとポーランドであったことと、一方で1921年に締結されたワシントン軍縮条約で、「10000トン以下の排水量で、5インチ以上、8インチ以下の口径の主砲を持つ」という巡洋艦の定義が生まれたこと、この二つだと考えています。

II/10(左上): 1923年提出:38センチ連装砲塔2基を主砲として搭載し、速力を22ノットとしたバルト海向けの前弩級戦艦的な海防戦艦案。兵装は強力ですが機動力が不足している、という評価だったようです。

I/10(左中段):1923年提出:上記とほぼ同時期に提出された巡洋艦案で、21センチ連装砲塔4基を主砲として搭載し、速力を32ノットとしていました。いわゆる条約型巡洋艦を意識した設計だと思われますが、主力艦の代替としては装甲が不十分、という評価でした。

II/30(左下):1925年提出:30.5センチ連装砲塔3基を主砲として搭載し、速力を21ノットとした弩級戦艦的な海防戦艦案でした。この辺りから航続力を重視して、主機はディーゼルとされました。

I /35(右上):1925年提出:35センチ三連装砲塔1基を主砲として、副砲に15センチ連装砲塔2基を完備に搭載。速力を19ノットとしたモニター案で、重装甲でした。ヴァリエーションとして装甲を減じて速力を上げた案もあったようです。

V II/30(右中段):1925年提出:30.5センチ連装砲塔2基を主砲とし、15センチ連装砲塔3基を副砲として搭載。24ノットの速力とした高速海防戦艦案でしたが、戦艦としては装甲が不十分、巡洋艦としては速力が不足していました。

これらの諸案に対する検討も含め、1926年の演習の結果、目指すべきが「外洋航行に適した装甲巡洋艦型の艦船」か、「沿岸水域を防御する海防戦艦的性格の艦船」か、が議論され、前者を目指す、という結論が出されました。

そして1926年に提出された試案が次のI/M26案でした。

I/M26(右下):28センチ三連装砲塔2基を主砲とし、速力を28ノットとした、速力で列強の戦艦に勝り、火力で条約型巡洋艦を圧倒できる、というのちの「ポケット戦艦」のコンセプトが具現化された設計でした。

これで方針がすんなり決まったかというと、どうもそうではなく、1927年にも海防戦艦案、モニター案等も提出されています(ちょっと文字が小さいですが、上掲の表をご覧下さい。あるいは、もちろん同書をお求めいただければ。特に宣伝費等をいただいているわけではないですが、本当に凄い書籍です。そりゃもう、嬉しくて、嬉しくて・・・)

 

「ドイッチュラント級」装甲艦:「ドイッチュラント」(1933年就役)「アドミラル・シェーア」(1934年就役)「アドミラル・グラーフ・シュペー」(1936年就役)

ja.wikipedia.org

(「ドイッチュラント級」装甲艦の一番艦「ドイッチュラント」の概観:150mm in 1:1230 by Neptun)

上記のような試行錯誤を経て、同級は代艦艦齢を迎えた「プロイセン」「ロートリンゲン」「ブラウンシュヴァイク」の代艦として建造されました。

同艦は、10000トン級のいわゆる条約型重巡洋艦並みの船体(制限を設けた側の視点に立てば、旧式な前弩級戦艦並みの船体、と言うべきかもしれません)に、重巡洋艦を上回る砲撃力(こちらも旧式の前弩級戦艦並みの、と言うべきか)を搭載し、併せてディーゼル機関の搭載により標準的な列強の戦艦を上回る速力を保有し、かつ長大な航続距離を有する、まさに通商路破壊を目的とする画期的な戦闘艦でした。

10000トンの制約の課せられた船体の条件から、実態としては、戦艦というには装甲は不十分なものでしたが、小さな船体と強力な砲力から、「ポケット戦艦」の愛称が生まれました。

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(「ドイッチュラント級」装甲艦の一番艦「ドイッチュラント」主要部分の拡大:大きな主砲塔がやはり特徴でしょうか。艦尾部に置かれている魚雷発射管も)

同級の持ち味は、なんと言ってもディーゼル機関の採用による長大な航続距離と、28ノットの高速を発揮できることで、明らかに長い航海を想定した外洋航行型の装甲戦闘艦でした。この艦が通商破壊活動に出た場合、条約の制限内で指定された28センチ主砲は、その迎撃の任に当たる当時の列強の巡洋艦に対しては、アウトレンジでの撃破が可能でしたし、27−28ノットの速力は、列強、特に英海軍の戦艦を上回わるものでした。これを捕捉できる戦艦は、当時は英海軍のフッド、リナウン級の巡洋戦艦、あるいは日本海軍の金剛級高速戦艦くらいしか、当時は存在しませんでした。

沿岸警備の海軍にとどめておくはずの制約条項が逆手に取られ、列強の軍縮条約下で生まれた「条約型巡洋艦」という定義に潜むエアポケットのような隙間をつき列強の通商路を脅かす艦艇が生まれたのでした。

 

ヴェルサイユ体制の終焉:ドイツ再軍備宣言と英独海軍協定

同級が生み出されたちょうどその時期に、ドイツ国内では敗戦で課せられた莫大な戦後賠償による経済的負担と国民生活の疲弊と混乱が生じており、これに世界的な大恐慌も重なり、生活が立ち行かなくなってきていました。これらの混乱を背景にヒトラーが率いる国家社会主義ドイツ労働者党(ナチス)が政権を掌握し、1934年にヒトラーは首相に就任、さらに1935年には大統領の権限も吸収し国家元首に就任します。こうしてワイマール共和国体制は終焉を迎え、ドイツは第二次世界大戦の敗北まで続くいわゆる「第三帝国」体制に移行してゆきます(1933−1945)。

国家権力を掌握したヒトラーは、1935年5月、ヴェルサイユ条約の破棄と再軍備を宣言します。これにより義務兵役制や参謀本部が復活し、国軍の総称が「国防軍」に変更されます。それまでの陸軍・海軍に加え、それまで保有を許されていなかった航空戦力を統括する「空軍」が新たに創設されました。

1935年6月には英独海軍協定が締結され、ドイツ海軍の規模を英海軍の総トン数の35%以下とする事が英独両国間で定められます。これはドイツ海軍の軍備に制限を新たに設ける事が目的ではありましたが、同時にヴェルサイユ条約体制下で課せられた海軍軍備に関する制限の撤廃を追認するものでもありました。さらに重要なことは、この協定では、ドイツ海軍が英海軍の45%までの規模で潜水艦を保有することが容認されていました。

更新が順に行われていた艦艇群については、それまで800トンと言う制限下で設計された更新駆逐艦である「1923年級」「1924年級」の駆逐艦が、制限撤廃を前提に設計された2000トン級の「1934年級」大型駆逐艦の着工により、艦種が「水雷艇」に改められました。

 

強化型装甲艦の建造着手:今回ご紹介の「D級」装甲艦

主力艦について見ると、上記の軍備制約の破棄の交渉中に前述の「ドイッチュラント級」で更新された3隻の旧式前弩級戦艦に続き、更新艦齢を迎えた「ブラウンシュヴァイク級」の戦艦「エルザース」と「エッセン」の2隻の代艦の設計が動き始めます。これが今回ご紹介している「D級」装甲艦(=装甲艦「D:エルザース代艦」、装甲艦「E:エッセン代艦」)でした。

この2隻の設計にあたっては、それに先立ち「ドイッチュラント級」装甲艦の登場に対抗して、フランス海軍が高速戦艦ダンケルク級」の建造に着手したとの情報を入手し、これに対抗すべく軍備制約の撤廃を見越した「ドイッチュラント級」の拡大改良型を建造することとして「ドイッチュラント級」の設計を見直しました。

設計案の図面各種

 

上掲はWikipediaシャルンホルスト級」の項に記載されている装甲艦D,Eの完成構想図です。おそらく史実ではこの案が1934年に起工された「D級」装甲艦であろうと思います。

もう一案、下図は「ドイッチュラント級」装甲艦の拡大案ともいうべきもの。World of Warshipに掲載されていたものをお借りしています: Deutscher Baum, Panzerschiffe - Vom Einbaum zum Supertanker: Schiffe - World of Warships official forum 

 

掲載仕様を見ると21000トン、32ノット、主砲と背負い式に配置された三連装副砲塔と中央部に集中された高角砲が特徴かも。上図にも書き込みがあるように、防御装甲が施されているようです。

今回ご紹介しているモデルは、両者の折衷案を意識しています。

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(「D級」装甲艦の概観の再掲:186mm in 1:1230 by D's Ships & Bunkers:基本レイアウトはWikipedia掲載図面を、並走配置はWorld of Warship掲載案を再現した感じでしょうか。ですので敢えて「折衷案」というご紹介を)

 

史実は、装甲艦から中型戦艦へ

シャルンホルスト級」戦艦(1938年から就役:同型艦2隻)

「D級」装甲艦の起工直後に、再軍備宣言を踏まえたヒトラーがさらに大型化した設計案を承認したために建造は取り消され、結局、同級は26000トン、30ノットの中型戦艦として建造計画が見直されることとなりました。

こうして生まれたのが「シャルンホルスト級」戦艦です。

ja.wikipedia.org

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(上の写真は「シャルンホルスト級」の竣工時の姿:186mm in 1:1250 by Neptun:就役時には垂直型の艦首でした)

同級は第一次世界大戦期の未成巡洋戦艦「マッケンゼン級」をタイプシップとして設計されました。

タイプシップとされた未成巡洋戦艦「マッケンゼン級」の概観:178mm in 1;1250 by Navis)

設計当初は通商破壊を大目的として長い航続力を保有する「ドイッチュラント級」装甲艦の拡大型として26000トン級の船体と30ノットの速力を有するディーセル機関搭載艦として設計されましたが、当時の大型のディーゼル機関については高速性、安定性に信頼性が低いとして最終的には蒸気タービン艦として建造されました。設計が数度変更され、最終的には32000トンまで船体が拡大され、31ノットの速力を発揮する事ができました。f:id:fw688i:20221009173546p:image

(就役時の「シャルンホルスト級」の細部拡大:垂直型の艦首と55口径28センチ三連装主砲塔(上段):副砲は連装砲塔と単装砲の組み合わせで片舷6門づつ搭載されています(中段):当初はカタパルト2基を搭載して居ました(下段))

当初、主砲にはフランス海軍の「ダンケルク級」戦艦を凌駕することを意識して38センチ連装砲が予定されていましたが、38センチ砲の開発に時間がかかることから、「ドイッチュラント級」で実績のある28センチ3連装砲塔3基の搭載で建造が進められました。ただしより長砲身の新設計55口径として長射程と高初速を目指しました(「ドイッチュラント級」には52口径11インチ砲が搭載されていました)。

以降、艦首形状をアトランティック・バウに改修する、あるいは当初の設計に盛り込まれていたとされる15インチ旧主砲への換装案などの周辺と、ドイツ海軍の移行の主力艦開発の実態と未成に終わった「H級」戦艦群等の構想については下記の回ですでに投稿済みです。

こちらも一緒に楽しんでいただければ、と思います。

fw688i.hatenablog.com

 

ドイッチュラント級」装甲艦、「D級」装甲艦、「シャルンホルスト級」戦艦

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(手前から「ドイッチュラント級」「D級」「シャルンホルスト級:アトランティック・バウ改修後」の比較。未成艦のモデルですし、どうやらオリジナルの図面にはあまり忠実ではないようなので、どこまで信頼性があるかは怪しいなあと思いつつも、「D級」は巡航性に重点を置いた「通商破壊艦」としての船体設計なのかなあ、などと考えてみるのも面白いですね)

ということで、今回はこの辺りで。

 

次回は・・・。未定ですが、新着モデル、あるいは整備中のモデルなどがいくつかありますので、そのあたりで何かテーマを見つけて、と考えています。

もし、「こんな企画できるか?」のようなアイディアがあれば、是非、お知らせください。

 

模型に関するご質問等は、いつでも大歓迎です。

特に「if艦」のアイディアなど、大歓迎です。作れるかどうかは保証しませんが。併せて「if艦」については、皆さんのストーリー案などお聞かせいただくと、もしかすると関連する艦船模型なども交えてご紹介できるかも。

もちろん本稿でとりあげた艦船模型以外のことでも、大歓迎です。

お気軽にお問い合わせ、修正情報、追加情報などお知らせください。

 

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新年、原点回帰の架空艦満載:八八艦隊計画と、計画中止後の戦力補完としての「扶桑級」大改造

新年、明けましておめでとうございます

・・・などと、呑気なご挨拶からは占めましたが、年明け早々、本当に色々なことが立て続けに起こりました。言葉もありません。被災者や事件の関係者の皆さんには、心からお見舞いを申し上げます。

 

さて、今回は昨年末の予告通り「本稿の原点回帰」ということで、そもそもの本稿の出発点、開始の動機ともなった「八八艦隊」のお話を。基本は過去投稿からのおさらいです。

筆者は、そもそも自身のコレクションに「八八艦隊」のモデル群がある程度揃ったことで、その記録のために2018年に本稿をスタートさせました。「八八艦隊」ご紹介のつもりが、であれば、「いっそ八八艦隊に至る道のりも簡単に(当初は本当に数回の投稿のつもりで)まとめておこう」程度の気持ちで始めたのですが、それが実は27回のシリーズに大化けしてしまいました。その結果、いつの間にか足掛け6年に。

その間に、筆者の「八八艦隊」も数度のコレクションのリニューアルが行われ、今回ご紹介するのはその最新版、2023年版のコレクションです。

今回はそういうお話。

 

「八八艦隊」(2023年版)の各艦級のモデルのご紹介

史実の八八艦隊計画

史実の八八艦隊計画第一次世界大戦後に列強の軍備拡張に倣い日本海軍が実施しようとした大建艦計画で、「長門級」戦艦2隻、「土佐級」戦艦2隻、「紀伊級」4隻のいずれも41センチ主砲を搭載し26ノット以上の速力を発揮する戦艦8隻で構成される高速戦艦群と、30ノット以上の速力を発揮する「天城級巡洋戦艦4隻(41センチ主砲搭載)、「13号級」巡洋戦艦4隻(46センチ主砲搭載)の8隻の巡洋戦艦で構成される強大な艦隊を建造する、という計画でした。これらの諸主力艦の建造は、「長門級」戦艦2隻を除いて、大鑑の建造競争により国家財政の破綻を恐れた列強各国の間で締結されたワシントン軍縮条約により中止されてしまいます。

 

筆者版八八艦隊計画

一方、筆者版の八八艦隊計画では、史実よりも少し制約の緩いワシントン軍縮条約の下で「長門級」戦艦2隻、「土佐級」戦艦2隻はそのまま、「紀伊級」戦艦は2隻のみ建造され、「13号級」巡洋戦艦が「改紀伊級」戦艦として防御構造を強化され、46センチ主砲搭載の戦艦として建造されています(筆者版ワシントン条約でも主砲口径は16インチを最大とする、という制約はありましたので、条約失効を前提として計画された「改紀伊級」戦艦は条約の制約外の46センチ主砲を搭載する戦艦として建造されるので、設計段階では未だ条約は有効であったため同級の搭載する46センチ主砲は新開発の「2年式55口径41センチ砲」と実態を偽った正式名称を与えられていました)。こうして揃えた8隻の戦艦と、既に存在した「金剛級巡洋戦艦4隻を可能な限り改装等により延命させ、加えて条約で認められる「金剛級」の耐用艦齢年次における代艦4隻を加え8隻の巡洋戦艦(この頃には巡洋戦艦の概念はほぼ無くなっており、「高速軽戦艦」的な存在でしたが)を揃える、という計画でした。

 

ということで、「八八艦隊」と言いながらも、今回ご紹介するのは戦艦4艦級のモデルです。但し、史実の通りであれば、「紀伊級」戦艦は4隻建造されましたし、「天城級巡洋戦艦は「紀伊級」戦艦とほぼ同型です。さらに「13号級」巡洋戦艦は今回ご紹介する「改紀伊級」戦艦と同型ですので、模型的にはこれで完結していると言っていいかと思います。

長門級」戦艦(同型艦2隻:就役時1920年頃の形態)

ja.wikipedia.org

同級は世界初の16インチ級(41センチ)主砲搭載戦艦で、同級の建造がワシントン海軍軍縮条約の実現化に大いに影響したとされています。この条約の結果、41センチ級の主砲搭載戦艦は同級の2隻(「長門」「陸奥」)を含め世界に7隻しか存在が認められないことになりました。いわゆる「ビッグ7」と言われる7隻(日本2隻、英国2隻、米国3隻)ですね。

長く連合艦隊の旗艦を務めるなど、日本海軍の象徴的な位置にあり続けました。

(「長門級」竣工時のモデル:by Hai: Hai製のモデルは前部煙突が「長門級と言えば湾曲煙突」と言うほど有名な湾曲煙突の状態を再現していますが、上掲のモデルでは就役時を再現したかったので、前部煙突を直立のものに交換しています。下の写真は「長門級」竣工時の細部の拡大:Hai製のモデルの前檣もかなり繊細に再現されています)

 

戦艦「陸奥」変体(by ModelFunShipyard:完成していれば1922年頃に就役していた?)

戦艦「陸奥」は「長門級」戦艦の二番艦ですが、その建造過程でちょうど研究中であった八八艦隊計画の次級「土佐級」の設計案を知った用兵側が、前倒しで「長門級」二番艦にその構想を盛り込み41センチ主砲10門搭載艦として実現できないか、と言う着想をもつに至りました。その構想のもとに強化型「長門級」の計画が動き出しました。これが「陸奥」変体(「変態」じゃないですよ)と呼ばれる設計案でした。

舷側に傾斜装甲を用いるなどして浮いた装甲重量を追加主砲塔に当てる、と言うのが構想の根底にあったとされています。

ワシントン条約の締結時点で「就役している」と言う状態でなければ保有が認められず工事を中止せねばならなかったため、結局、「陸奥」は建造時間等を考慮して「長門」とほぼ同設計で完成されますが、この「陸奥」変体が実現していたら、という「架空艦」のモデルのご紹介です。

オリジナルの「長門級」が従来の日本海軍の戦艦群同様の長船首楼型の船型であるのに対し、同館では平甲板型の線形が採用されているため、日本艦としては新鮮な印象があるかもしれません。

(戦艦「陸奥」変体の概観:173mm in 1:1250 by ModelFunShipyard: 下の写真は同モデルの特徴である前檣付近と、艦尾部の山形配置された連装主砲塔群のアップ・全体として大変すっきりとした、しかし細部は繊細に表現されたモデルです)

 

長門級湾曲煙突形態1924年頃)

(「長門級」湾曲煙突に換装後のモデル:by Hai: 「長門」といえばこの形態、と言うほど有名な形態ですね)

長門級」戦艦は就役後に排煙の前檣への流入に悩まされ、藤本造船大佐(当時?)の湾曲煙突導入の提案を平賀造船中将(当時?)は「威容を損ねる」として退け、当初は一番煙突にキャップを装着するなどの対応を試みますが、効果がなく、結局1924年ごろに一番煙突を湾曲形態にあらためています。結果的にこの形態は長く続き、上述の「ビッグセブン」として国民にも「世界に冠たる日本海軍」の象徴として親しまれました。

 

「土佐級」戦艦:同型艦2隻(by ModelFunShipyard:就役時(1923年頃)を想定した姿)

ja.wikipedia.org

同級は八八艦隊計画の戦艦の二番目の艦級です。「長門級」戦艦の強化改良型、と言っていいと思います。「土佐」と「加賀」が建造される予定でした。

上掲の「陸奥」変体同様、平甲板型の船体を持ち、大変スッキリした印象です。

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(「土佐級」戦艦の概観:188mm in 1:1250 by ModelFunShipyard: 下の写真は同モデルの特徴である前檣付近と、艦尾部の山形配置された連装主砲塔群のアップ・上掲の「陸奥」変体とは副砲の配置、後部の連装砲塔3基の配置が異なります全体として大変すっきりとした、しかし細部は繊細に表現されたモデルです)

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戦艦「加賀」:「土佐級」湾曲煙突装備(by ModelFunShipyard)

長門級」の就役後、前檣直後の煙突が煤煙の逆流で課題が出たように、おそらく「土佐級」の煙突も同じような課題が現れたであろう、と言う前提で、湾曲煙突を装備した二番艦「加賀」を製作してみました。これはこれでなかなかいいかも。

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(湾曲煙突装備の「加賀」の概観: by ModelFunShipyard: 下の写真はオリジナル煙突の「土佐」(上段)と湾曲煙突装備の「加賀」の比較。今回このモデルの最大の魅力である(と筆者が思っている)前檣構造がいずれのモデルでもやはりかなりいい感じではないかと、感心しています)

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紀伊級」戦艦:同型艦2隻(計画当初は4隻)(by ModelFunShipyard:就役時(1925年ごろ?)を想定した姿):「天城級巡洋戦艦もほぼ同型

 ja.wikipedia.org

紀伊級」戦艦は「土佐級」戦艦に続き4隻が建造される予定でした。(「紀伊」「尾張」「駿河(仮称)」「近江(仮称)」)設計は「土佐級」とは一線を画し、建造期間や予算面から巡洋戦艦天城級」設計をベースとして、これに防御強化を図り本格的な高速戦艦としての完成を目指したものでした。そのため速力は「長門級」「土佐級」の26ノット台から29ノット台へと飛躍しています。

史実では4隻が建造される予定でしたが、筆者版では米海軍の新戦艦「サウスダコタ級(1926年版)」が16インチ主砲を12門搭載する設計であることが判明し、「紀伊級」戦艦ではこれに対抗するには「やや心もとない」と評価されたため、建造は「紀伊」「尾張」の2隻で打ち切られ、次の「改紀伊級=相模級」戦艦(18インチ主砲搭載)の建造へと移行してゆきます。

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(「紀伊級」戦艦の概観:200mm in 1:1250 by ModelFunShipyard: 下の写真は同モデルの特徴である前檣付近と、艦中央部から艦尾部にかけて装備された連装主砲塔群のアップ。全体として、やはり前檣が最大のこのモデルの魅力かと思っています)

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紀伊級」戦艦:集合煙突装備案(by ModelFunShipyard)

紀伊級」の設計図面はかなりの数が残されており、その中には前述したように「長門級」で問題となった煤煙の逆流問題への対応策として、設計段階から集合煙突を装備したデザイン案がありました。筆者は元々集合煙突が大好きでもあり、こちらのモデルを作成してみました。(というか筆者版の八八艦隊ではこちらが本命です。もう一隻こちらを作成する予定です。煙突も調達済み!)

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(「紀伊級」戦艦・集合煙突デザイン案の概観:200mm in 1:1250 by ModelFunShipyard: 下の写真はオリジナルの二本煙突(上段)と集合煙突案に比較:やはり個人的には集合煙突案の方が圧倒的に好みですね。前檣の少しクラシックなデザインと集合煙突の先進性のアンバランスというか、妙な調和を感じるのですが。やや日本艦離れした感じがするもの好きな点かも)

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「改紀伊級=相模級」戦艦:「13号級」巡洋戦艦の設計をベースとして:同型艦2隻(巡洋戦艦設計では同型艦4隻)(by ModelFunShipyard:就役時(1930年頃?)を想定した姿)

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同級は筆者版八八艦隊計画の戦艦の最終整備艦級で、元々は巡洋戦艦として30ノットを超える速力を持ちながらも「紀伊級」戦艦を凌駕する強力な砲力も併せ持つ設計であった「13号級」巡洋戦艦の設計がベースとされました。主砲にはそれまでの八八艦隊の戦艦の標準装備であった41センチ主砲を上回る46センチ(18インチ)主砲の搭載が採用されました。しかし計画段階では46センチ主砲については開発に相当な時間がかかることが予想されたため、従来の41センチ主砲を三連装砲塔4基搭載する設計案もあったとされています。

今回はもちろん46センチ主砲装備の方を。

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(「改紀伊級=相模級」戦艦の概観:250mm in 1:1250 by ModelFunShipyard: 下の写真は同モデルの特徴である前檣と煙突付近と、巨大な主砲塔の拡大)f:id:fw688i:20230402101840p:image

今回のモデル製作にあたり、「13号級」の図面を見る限り、その大きな特徴である巨大な煙突(米海軍の「レキシントン級巡洋戦艦でも同じような話がありましたが、高速の巡洋戦艦の搭載する巨大な機関を考えると、排煙は大きな課題なのでしょうね)が、筆者にはどうしても違和感があり、「紀伊級」と同じ集合煙突に換装したモデルを製作しています。46センチ主砲搭載艦ですので長大な射程を想定した一際高い前檣を考えると、もう少し高いものにしないと煤煙の前檣への逆流等に悩まされることになるかもしれませんね。実はオリジナルの煙突はモデルよりも約1センチほど全高が高くなっています(オリジナルも作るべきだったかな。これは作製後の独り言)。

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(上の写真は今回製作したモデル(上段)と、製作の際に切除した煙突をモデルに戻してみた際の比較):オリジナルの煙突が1センチほど高い、というのはこんな感じです。このモデルだけ見るとオリジナルのデザインでもあまり違和感はない(むしろ今回の製作案の煙突の低さが気になるかも)のですが、他のモデルと並べると違和感が出てくるのです(と筆者は感じるのです))

余談ですが、この上掲のカット見ていて、前章の抜けの素晴らしさを、再認識しました。やはりこのモデルのクオリティは、凄い!

 

「改紀伊級」などと言いながらも

筆者版「八八艦隊」では、「改紀伊級」は前述のようにワシントン条約の失効を前提に設計されていました。実態は全く別物の新設計であったにも関わらず、条約の制約を満たした設計であると宣言せねばならず、そうした意味では「改紀伊級」という名称自体が既に欺瞞だったと言っていいでしょう。ワシントン条約では新造戦艦の主砲口径は16インチ以下と制約されていましたので、46センチ主砲は新開発の「2年式55口径41センチ砲」と呼称されていました(フィクションです。史実ではないのでご注意を)。もちろん全体の大きさに関する制約も大きく超えていました。

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(「改紀伊級=相模級」戦艦と「紀伊級」戦艦の比較:船型の大きさも大きく異なりますし、主砲塔の大きさの差異も一目瞭然です。主砲口径の拡大から想定される砲戦距離の延長に対応して、前檣の高さが大きく異なっています)

 

今回ご紹介した2023年版「八八艦隊」の戦艦の一覧

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(上の写真は今回ご紹介した「八八艦隊計画」の戦艦の艦級の総覧:「陸奥」変体(左上)、「土佐級オリジナル」(左中)、「加賀:湾曲煙突装備」(左下)、「紀伊級オリジナル」(右上)、「紀伊級:集合煙突案」(右中)、「改紀伊級=相模級」(右下)の順:下の写真は「陸奥」変体から「改紀伊級」までの船型の推移を一覧したもの:手前から「陸奥」変体、「土佐級」「紀伊級」「改紀伊級=相模級」の順)

筆者の当初のプランでは、主砲を別のディテイルの整ったものに換装することも考えていたのですが、今回一連を製作してみて、かえって主砲塔にフォーカスしすぎたモデルになることも想定されるなあ、と別の懸念が出てきました。あと数隻は作成したいとは思っているのですが、主砲のモデル換装までは実行しない、という結論に至りそうです。(これまでの筆者の経験では、多くの1:1250スケールの3D printing modelでは、主砲塔の特に主砲砲身の再現が今ひとつ満足がいかず、別のモデルに置き換えるというようなこともあったのですが、今回のモデルの主砲塔周りの再現は十分に満足のいくものでした)

 

ワシントン海軍軍縮条約による「八八艦隊計画」の中止と16インチ主砲搭載戦艦の補完としての「扶桑級」改造計画

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ワシントン海軍軍縮条約の締結で、すでに完成していた「長門級」の2隻のみが保有を認められ、残る計画艦は既に進水していた「土佐」「加賀」も含め破棄処分されることになります(処分予定だった「加賀」は、建造工事の途中で関東大震災で被災し工事の継続を断念せざるを得なくなった空母「天城」に代わって空母として完成されることになります)。

こうして16インチ主砲搭載艦で質的な優位に立とうとする日本海軍の目論見は頓挫し、新造戦艦の計画が全て白紙化するわけですが、であれば既存艦の更新で一部でも戦力補完を目指そうとする計画が動き始めます。この動向はワシントン条約の制限対象が新造艦に対するもので、既存艦については制限がないということを前提にしたものでした。史実では既存艦の改造についても制限が設けられたため、この計画は実現しませんでした。

 

その計画の俎上に上げられたのが、就役以来多くの欠陥が露呈し「艦隊に配置されているよりも、ドックに入っている期間の方が長い」と揶揄されるほど、改装に明け暮れていた「扶桑級」戦艦でした。

 

日本海軍初の超弩級戦艦「扶桑級」(1915年就役)

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扶桑級就役時の概観:163mm in 1:1250 by Navis)

扶桑級」戦艦は日本海軍が初めて保有した超弩級戦艦でした。

日露戦争での戦費負担(日露戦争で日本は朝鮮半島中国東北部に関する主導権を手に入れましたが、戦後賠償金は獲得できませんでした)、それに続く戦利艦の補修と艦隊への編入により、日本海軍はそれら返球艦艇の修理と既存艦の整備に多くの予算を割かねばならず、世界の主力艦整備の趨勢(いわゆる新造される弩級戦艦超弩級戦艦の整備)に大きく出遅れてしまいました。「主力艦」と名のつく軍艦の保有数は飛躍的に増えましたが(日露開戦前(1904年頃)の保有主力艦6隻(全て前弩級戦艦)に対し、日露戦後(1910年頃)の保有主力艦17隻(前弩級戦艦9隻、準弩級戦艦4隻、前弩級巡洋戦艦2隻、準弩級巡洋戦艦2隻))、その性能は第一線級と呼べるものは数えるほど、と言う状態でした。旧式艦装備の大海軍、そんな感じだったのではないかと。

そのような状態の日本海軍が起死回生を狙って建造したのが「金剛級巡洋戦艦4隻と「扶桑級」戦艦2隻でした。「扶桑級」の一番艦「扶桑」の就役当時は世界で初めて30000トンを超える大鑑で、世界最大・最強の呼び声の高い日本海軍嘱望の艦でした。

しかし、同級には完成後、多くの課題が現れてきます。

例えば、一見バランス良く艦全体の首尾線上に配置されているように見える6基の砲塔は、同時に艦の弱点ともなる弾庫の配置が広範囲にわたることを意味し、これを防御するには広範囲に防御装甲を装備せねばならず、集中防御とは相反するものでした。また、斉射時に爆風の影響が艦上部構造全体に及び、重大な弊害を生じることがわかりました。さらに罐室を挟んで砲塔が配置されたため、出力向上のための機関部改修等に余地を生み出しにくいことも、機関・機器類の進歩への対応力の低さとして現れました。

加えて第一次世界大戦ユトランド海戦で行われた長距離砲戦(砲戦距離が長くなればなるほど、主砲の仰角が上がり、結果垂直に砲弾が落下する弾道が描かれ、垂直防御の重要性がクローズアップされます)への対策としては、艦全体に配置された装甲の重量の割には水平防御が不足していることが判明するなど、一時は世界最大最強を歌われながら、一方では生まれながらの欠陥戦艦と言わざるを得ない状況でした。

こうして露見された種々の課題の結果、「扶桑級」戦艦の建造は2隻で打ち切られ、3番艦、4番艦となる予定であった「伊勢」「日向」は新たな設計により生まれることとなりました。

 

平賀造船中将の「扶桑級」改装計画

改装を重ね、なお、なかなか戦力化の目処をつけられない「扶桑級」戦艦を、一気に戦力化してしまおうと言う改造計画が平賀造船中将から提出されました。これはワシントン条約により頓挫した新造戦艦の建造による海軍軍備の増強を、課題満載の「扶桑級」改造により幾分かでも補完しようというものでした。

具体的には同級の課題の元凶ともいうべき主砲塔配置に大きな変更を加え、併せて機関の配置等についても余裕を持たせ、速力不足・機動性不足等についても一気に解決してしまおう、という意欲的な案でした。

(下の写真は刊「丸」2013年8月号の掲載されている「扶桑級」改装案の図面。平賀案を元に作成されたもの?) 

平賀中将の残したメモによるとこの改装案の眼目は、前述のように課題の元凶であるとされる6基の36センチ主砲塔を全て当時最大口径であった41センチ砲に置き換え、代わりに主砲塔の数は削減し、再配置により改装前よりも弊害を軽減、かつ新たに確保できる艦内スペースを機関等に充てることにより、機動性も高める、いうものでした。これは同時に八八艦隊計画が中止になった場合に、「長門級」の2隻のみとなることが予想された41センチ主砲装備艦を補完することも目的としていました。この改造により「長門級」と同等の機動性を持つ高速戦艦として、「欠陥戦艦」のレッテルの貼られた「扶桑級」を再生しようとするものでした(随所に筆者の妄想的な解釈がかなり入っていることは、ご容赦を。以降はこう言う言い訳めいた注釈はしないので、そこは皆さんの良識でご判断を)。

(上の写真は「改扶桑級」平賀原案完成時の概観:163mm in 1:1250 by semi-scratchied besed on C. O. B. Constracts and Miniatures:下は前檣と41センチ主砲塔。艦首部は連装砲塔2基の背負式配置、前檣直後に三連装砲塔を1基、さらに艦尾部に1基配置した姿:模型ならではの「架空艦」です:でも一応計画はありました。比較的図面に忠実に再現してみたもの。前檣は前出のModelFunShipyard製の「陸奥」変体からいただきました)

条約締結に間に合わせるために、完成したものは・・・「改扶桑級」戦艦の誕生(1922年)

平賀中将の設計案の常として、「コンパクトな船体に最大の攻撃力」とでもいうべき傾向が見られ、結果的にどこかに無理を包含した設計となることが散見されます。残されたメモを見る限り「扶桑級」主砲換装案もこれに違わず、世界初の41センチ主砲搭載艦である「長門級」戦艦が41センチ連装主砲塔4基搭載の設計であるのに対し、より船体の小さな「扶桑級」に連装砲塔と三連装砲塔の混載で、41センチ砲を10門搭載する案となっていました。

この実現のためには、それまで日本海軍には経験のない大口径砲の三連装砲塔を新たに設計せねばならず、特に砲塔の駆動系等の開発や連装砲塔と三連装砲塔の旋回同期の機構を考えると、設計開発にはいくつもの試行が必要で、実装までには相当な時間を要することが予想されました。

一方で、条約締結までに完成していることが保有の前提条件であること(史実では既存艦の大規模な改造は認められず、特に条約の発端ともなった41センチ(16インチ)主砲装備艦については、保有制約が厳しく、いわゆるビッグ7と呼ばれる7隻しか保有が認められませんでした)も明らかになりつつある状況を踏まえ、結局、新たな大規模な開発を伴う三連装主砲塔の搭載は見送られ、「扶桑級」は「長門級」で既に実績のある41センチ連装主砲塔4基の装備艦として大改装を受けることとなりました。

この決断に平賀造船中将は関与せず、後に通知された際に激怒したと言われますが、条約下での保有を認めさせるには、必要な措置でした(全部フィクションですよ)。

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(上の写真は「改扶桑級」完成時の概観:163mm in 1:1250 by semi-scratchied besed on C. O. B. Constracts and Miniatures:下は最終的に連装主砲塔4基搭載でまとまった主砲配置:上記のような経緯で、ワシントン条約締結時に就役していることが保有の大きな条件となるため、開発に研究の必要な平賀原案の三連装砲塔と連装砲塔の混載を諦め、先行する「長門級」建造で実績のある連装砲塔で統一しました。平賀さんは怒っただろうなあ。しかしこの決定で砲塔周りの機構は間違いなく簡略化され、すっきりした外観となるとともに、艦の航洋性も改善されました・・・ということにしておきましょう)

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またこの決定で上部構造の重量が軽減され、かつ砲撃時の反動も軽減されたため(こちらも「長門級」で既にデータが取られていたため、強度の再計算等も容易でした)、艦自体の強度も高められ、かつ航行性、直進性等は、36センチ主砲塔搭載時よりも良好となったと言われています。さらに浮いた重量を機関部整備等にあてられたため、機動性をさらに改善することができたとされています。

模型的には「原案」と「完成案」の2隻を作りたいところでしたが、そこまで手が回っていません。ですので、現時点では「原案」を作成した後「完成案」仕上げています。

 

ということで今回はここまで。

次回は、この年始に届いたいくつかの新着モデルのご紹介を、と考えています。冒頭に記述しましたが本稿、足掛け6年目の始動です。今年もできる限り続けていきたいと思っていますので、よろしくお願いいたします。

もし、「こんな企画できるか?」のようなアイディアがあれば、是非、お知らせください。

 

模型に関するご質問等は、いつでも大歓迎です。

特に「if艦」のアイディアなど、大歓迎です。作れるかどうかは保証しませんが。併せて「if艦」については、皆さんのストーリー案などお聞かせいただくと、もしかすると関連する艦船模型なども交えてご紹介できるかも。

もちろん本稿でとりあげた艦船模型以外のことでも、大歓迎です。

お気軽にお問い合わせ、修正情報、追加情報などお知らせください。

 

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新着モデルのご紹介:Argos製原子力ミサイル巡洋艦「トラクスタン」と米海軍原子力ミサイル巡洋艦の系譜

年末です。

本業も含め、筆者は身辺が何かと慌ただしくなってきました。皆さんはいいクリスマス迎えていらっしゃいますか?

さて今回はこれまで欠けていた米海軍の原子力ミサイル巡洋艦「タクストン」が到着したので、そのご紹介と、Argos製モデルが揃ってきましたので米海軍の原子力ミサイル巡洋艦の系譜も、下記の2回の投稿も含めて、改めておさらいしておきましょう。

fw688i.hatenablog.com

fw688i.hatenablog.com

今回はそういうお話で。

 

ますは新着モデルのご紹介から。

原子力ミサイルフリゲート「トラクスタン」(就役期間1967-1995:同型艦なし:1975年より巡洋艦に類別変更)

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原子力ミサイルフリゲート「トラクスタン」の概観:138mm in 1:1250 by Argos:モデルはCIWSやハープーン対艦ミサイル4連装発射筒を装備していますので、後述するように、就役当初を再現したものではなく1980年代以降の改装後を再現したものです)

同艦は「ベルナップ級」ミサイルフリゲートを核動力化したものです。

米海軍の原子力ミサイル巡洋艦(就役当時はフリゲートの艦種分類でした)としては、「ロングビーチ」「ベルナップ」につぎ3隻目です。f:id:fw688i:20231223134852p:image

(「トラクスタン」の兵装配置の拡大:武装の詳細は下記本文で:中段写真では同艦の大きな特徴である巨大なラティス構造のマストが見ていただけます:写真上段のCIWS、写真下段のハープーン発射筒から、モデルは1980年以降のを再現したものであるkとがわかります

搭載する兵装、その配置等は原型である「ベルナップ級」に準じ、主要兵装である対空ミサイルは当初はテリア・システムを搭載していましたが、「ベルナップ級」が艦首にMk.10.Mod7 連装発射機を装備したのに対し、同艦ではこれを艦尾に装備し、ドラム型弾倉3基を搭載して60発のミサイルを収容していました。この発射機はアスロックの運用も兼用していました。

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加えて砲兵装としてMk.42 54口径5インチ速射砲を1基、50口径MK.34 3インチ単装砲2基を艦中央部に搭載していました。

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対潜装備としては、上記のMk.10Mod7 連装発射機から射出されるアスロックに加え533mm魚雷発射管、324mm短魚雷連装発射管を固定式で搭載していましたが、後に533mm魚雷発射管は撤去されました。同艦は米海軍の原子力ミサイル巡洋艦としては唯一ヘリコプターの搭載・運用能力を備え、ヘリコプター1基を搭載していました。

同艦も当初搭載していたテリアミサイルはスタンダードミサイルに換装され、両舷の個艦防御用の速射砲に変えてハープーン対艦ミサイルとCIWSが搭載されました。

 

同級は1975年の艦種再分類でミサイルフリゲートからミサイル巡洋艦に艦種変更されました。

 

原型である「ベルナップ級」ミサイル巡洋艦との比較

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(写真上段と下段左が原型である「ベルナップ級」(Delphin社製):一番大きな差異はミサイルと主砲の搭載位置が逆であることと、艦中央部のマストの構造=「ベルナップ級」は煙突を収容したマック構造ですが、「トラクスタン」は原子力推進ですので煙突を持たず、したがってラティス構造のマストを持っています)

 

参考:「ベルナップ級」ミサイルフリゲート(就役期間1964-1995:同型艦:9隻:1975年より巡洋艦に類別変更)

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(「ベルナップ級」ミサイルフリゲートの概観:134mm in 1:1250 by Delphin)

同級は前級の「リーヒ級」ミサイルフリゲートが艦隊防空の専任艦とした設計であったのに対し、より汎用任務をも視野に入れた設計とされました。このためテリアミサイルは「リーヒ級」から1基減じて代わりにMk.45  5インチ砲が艦尾に搭載されました。f:id:fw688i:20230716095703p:image

(「ベルナップ級」の兵装配置の拡大:詳細は下記本文で)

艦首に設置されたテリアミサイルの連装発射機Mk.10は新開発のMod.7が採用され、弾庫の収納弾数が従来の40発から60発に増加しています。さらにアスロックの発射も可能で、同級ではアスロックの8連装発射機は廃止されました。テリアミサイルは後にスタンダードミサイルに換装されています。対潜兵器としてはアスロック以外に短魚雷3連装発射管2基を搭載していました。個艦防御用の兵装としてはMk.34  3インチ単装速射砲が両舷に配置されています。この単装速射砲は後にハープーン対艦ミサイル発射筒に換装され、CIWSが搭載されました。

艦尾部を砲兵装としたことにより、艦尾にヘリ発着甲板と格納庫のスペースを得ることができ、無人ヘリDash2機が搭載されました。

 

同級は1975年の艦種再分類でミサイルフリゲートからミサイル巡洋艦に艦種変更されました。

 

Argos製モデルについて

今回入手した「トラクスタン」はArgos製のモデルです。上掲の写真からおわかりいただけるように、Argos社のモデルは大変精度が高く、しかし一方で大変高価で取引されています。筆者は以前ご紹介した「ロングビーチ」、今回登場している「カリフォルニア」「バージニア」の各モデルを保有してましたが、いずれもEbayで調達したもので、しかしながら一体いくらで入手したのか、記憶にありません。(記憶にない、ということは、それほど無理をして入手したということではなさそうなのですが。Ebayには時々、そのようなエアポケットのようなラッキーな瞬間があることはあるのです。それほどその機会が多くはありませんが)

今回も比較的それに近い状況で落札ができました。それでも、筆者のコレクションとしては最上級の価格帯に入ると思います。

同社のラインナップは現用艦が多く、いずれも大変精度の高いモデルになっています。筆者はこれまで第二次世界大戦前までのコレクションにまず力を入れ、特に外国艦船の場合、現用艦の収集にはあまり熱心ではありませんでした。ですので、接する機会が少なかったのですが、改めてこうして観察すると、やはりすごいメーカーであることを再認識しました。が、やっぱり高いなあ・・・。

 

現時点(2023.12.24)で、下のやはり米海軍の原子力ミサイル巡洋艦「ベインブリッジ」にも入札中です。

(Argo社製「ベインブリッジ」:現在、入札中!落札したいですが、どこまで根が釣り上がるのか・・・?写真はEbayより拝借:下の写真は筆者の保有している「ベインブリッジ」(写真上段:Delphin製)とArgos社製「ベインブリッジ」の比較。うーん、こうやって比べてしまうと・・・。しかしebayでの価格差はおよそ5倍。こちらも、うーん!)

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米海軍の原子力ミサイル巡洋艦の系譜

「トラクスタン」の加入で、筆者のコレクションでは、米海軍の原子力ミサイル巡洋艦がそいましたので、系譜的なおさらいを。

米海軍の原子力水上艦の整備計画

1952年度計画で建造した2隻の原子力潜水艦を皮切りに、米海軍は核動力を導入し始めます。水上艦艇に関しては、大型化し重くなるジェット艦載機の運用に当たる空母にはより広い発着甲板が求められ、したがって船体の大型化に伴い動力の原子力化は設計の可能性を大きく広げるものでした。

これを護衛する艦艇についても原子力化の検討は進められましたが、本来は最も原子力化を進めたかった(つまり十分な航続距離と速度を兼ね備えた護衛艦を揃えたかった)駆逐艦クラスの護衛艦艇(2000トンクラス)への核動力の搭載は、船体の大きさから困難であることがわかり、より大型の随伴艦への搭載が模索され始めます。

今回はその開発の系譜を整理してみましょう。

 

原子力ミサイル巡洋艦ロングビーチ」ミサイル巡洋艦(就役期間:1961-1995年:同型艦なし)

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(上の写真は世界初の原子力ミサイル巡洋艦ロングビーチ」の概観:177mm in 1:1250 by Argos: 同社のモデルはかなり精密に作り込まれています。モデルは1963年以降の5インチ砲を追加装備したのちを再現しています。 Argosモデル:次回詳しくご紹介しますが、現用艦船のモデルでは群を抜いています。しかし流通量がそれほど多くなく、その分、中古市場(Ebay等)でも大変高価です<<<これは困った!

第二次世界大戦後、米海軍が初めて設計した巡洋艦で、同型艦はありません。世界初の原子力を推進機関とする水上戦闘艦であり、かつミサイルを主兵装とする初めての戦闘艦でもありました。

空母機動部隊の艦隊防空の必要性から、新世代の水上戦闘艦艇では従来の砲兵装主体からミサイル主体への主兵装の転換は必須であり、システムへの電力供給、ミサイルシステム自体の規模を考慮すると、ある程度の大型艦が必要でした。同艦は「ボルチモア級」重巡洋艦なみの14000トン級の船体に原子炉2基を搭載し、30ノットの速力を発揮する設計でした。

搭載兵装はタロスとテリアの2種を併載して、広範囲な防空圏を構成することができました。艦首部にテリア用の連装ランチャー2基を装備し、それぞれ40発、80発の弾庫を直下に設置しています。タロスは艦尾部に搭載され、連装ランチャー1基とその下に52発装填の弾庫が設置されました。

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対潜兵装としては艦中央にアスロック8連装発射機と3連装魚雷発射管が設置されました。f:id:fw688i:20230702105432p:image

原子力ミサイル巡洋艦ロングビーチ」の主要兵装:艦首部のテリアミサイルの連装発射機2基とその管制レーダー(写真上段):同艦の特徴の一つでもある特異な形状の艦橋とアスロック8連装発射機、後日追加装備された5インチ単装砲塔2基(中段):艦尾部のタロスミサイル発射機と管制レーダー。ヘリコプターの発着艦が可能でしたが、格納庫はありませんでした(写真下段))

就役当初は砲兵装を全く持たない同艦でしたが、後に低空目標や水上目標に対する対抗手段として5インチ砲2基を艦中央部に搭載しています。

1961年から95年までの長い就役期間中に数度の兵装変更が行われました。艦首部のテリアミサイルはスタンダードミサイルに更新され、タロスミサイルは1980年代に撤去され、ハープーン対艦ミサイルの発射筒とトマホークの装甲発射ランチャーが設置されています。さらに90年代にはCIWS2基が装備されています。

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(上の写真は、模型のヴァリエーションで見る兵装変更:(上段)就役時の装備に比較的近く、艦首部にテリア、艦中央にアスロック、艦尾にタロスが装備されています。5インチ砲は未装備ですね。(中段)5インチ砲2基が、艦中央部に設置されました。(下段)スタンダードミサイルへの換装に伴い、艦尾のタロスが撤去され、ハープーン対艦ミサイルの発射筒が設置されました。わせてCIWS2基もタロス管制レーダーの装備跡に設置されています:写真はいずれもsammelhafen.de掲載のものを拝借しています)

その後、1970年代末期には新造イージス艦の建造に変えて同艦のイージス艦への改装案も検討されましたが、実現しませんでした。

結局、1995年に退役、2002年には原子炉の破棄も完了し、2012年にスクラップにされました。

 

史実はそうなのですが、当ブログは幸いなことに艦船モデルのブログですので、イージス艦となった「ロングビーチ」のモデルもご紹介しています。

ロングビーチ」;原子力イージス艦改装 第一形態(1985年ごろ?)

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原子力ミサイル巡洋艦ロングビーチ」のイージスシステム館への改装の第一形態の概観:イージスシステムの搭載により上部構造が大きく様変わりし、艦容は一変しています)

ロングビーチ」は1970年代末に実際にイージスシステム艦への改装が検討されていました。その際のコンセプト図が残っていて、今回のモデルはそれに大変忠実だと言うことがわかると思います。

ロングビーチ」はご承知の通り原子力推進で、余裕のある電力等はイージスシステムを搭載するにはうってつけと見られたかもしれません。同様に他の原子力ミサイル巡洋艦もあクァせて検討俎上に上がったようですが、それぞれシステム搭載スペースを捻り出すには大規模な改装が必要で、いずれも見送られています。

ロングビーチ」も同様で、今回のモデルを見ていただければ一目瞭然ですが、上部構造は原型をとどめないほどの改装を受ける必要がありました。f:id:fw688i:20230806151014p:image

(巨大な上部構造:イージスシステムの搭載と対潜哨戒ヘリの運用施設:四隅にはパッシブ・フューズドアレイアンテナが)

艦橋部には巨大なシステムが搭載され、上部構造物の四すみにはパッシブ・フューズドアレイ・アンテナが設置されています。上部構造物の頂点には大きなトラス構造のマストが聳え、その前後にミサイルの最終誘導用のイルミネーターが4基搭載されています。

同艦の兵装は、対空兵装としてスタンダード対空ミサイル用にMk.26連装ランチャーを艦首、艦尾に配置しています。長い船体を生かしてランチャー下には大きな弾庫が設定されています対艦・対地上兵装としては、Mk.45 5インチ単装両用砲、ハープーン対艦ミサイル、トマホーク巡航ミサイルを搭載しています。対潜兵装としては、その主軸は搭載する長距離ソナーと対潜哨戒ヘリにおかれアスロックは廃止されています。他に短魚雷三連装発射管は通常は館内に収納されていました。個艦防御用として2基のCIWSを搭載しています。f:id:fw688i:20230806151005p:image

(写真は主要兵装のアップ:(上段写真)58口径5インチ単装砲(Mk.45)が艦種部に設置され、Mk.26連装ミサイルランチャーがその後に続きます。さらに対艦用の主要兵装として、ハープーン4連装発射筒が4基搭載され、艦橋前には個艦防御用にCIWSが設置されました(オリジナルのモデルにもコンセプト図にもなかったのですが、追加してみました)。:(写真下段)上構造物の後部、ヘリハンガー上にもCIWSは装備されています。対潜哨戒ヘリ2機を運用できるハンガーと発着甲板を経て、後部のMk.26連装ミサイルランチャー、艦尾にはトマホーク用装甲ボックスランチャー2基が搭載されています)

 

Mk.45 5インチ両用砲

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米海軍が広く導入したMk.42 5インチ単装両用砲は毎分40発という高い射撃速度を誇りミサイル装備に主軸が移るまでは対空兵装のカナメとも言うべきものでした。しかし一方で早い射撃速度を実現するために揚弾機構を二重にするなど重く(61トン)、かつ操作に人数を要するものでした(12−16名)。

対空戦闘の主軸がミサイルに移ると、射撃速度への要請の比重は低くなり、揚弾機構を減らすなど軽量化、砲塔の無人化。自動化が進められました。こうして生まれたのがMk.45 5インチ砲でした。

重量は24トンまで軽減され、無人化によりステルス性を意識した砲塔デザインが可能となりました。操作員も6名まで軽減されています。一方で発射速度は毎分20発程度まで下がりましたが、主砲の標的が対空目標から地上目標、水上目標に移っているため、大きな問題にはなりませんでした。

 

模型的な視点から

模型的には、かなり大幅に手を入れています。まあ、Amature Wargame Figuresのモデルは概ねそのように扱っていますので、特にこのモデルの何か課題があると言うわけではありません(前出の3Dモデル関連の投稿を見ていただくと、その辺りはよくわかっていただけるかも)。

モデルからオリジナルの兵装とマストを切除し、全て筆者のストックパーツに置き換えてあります。今回使用したパーツはほとんどがHobbyBoss製の「スプルーアンス級駆逐艦、「タイコンデロガ級イージス艦のもので、特に一番気になっていたマストは「スプルーアンス級」のトラス構造のマストを流用しています。ランチャー下には大きな弾庫を抱えている、と前述していますが、Mk.26連装ランチャーをもう1基艦首部に追加しようかな、などと考えはしたのですが、モデルとしては少しうるさくなるかなと、即応性への対応はVLSへの換装を待った、と言うことで、原型と同じく2基のランチャー搭載としました。(唯一、艦尾部のトマホーク用の装甲ボックスランチャーのみ、適当なパーツがないので、プラロッドを切ってそれらしく作ってあります。

 

タイコンデロガ級」初期タイプとの比較

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(「ロングビーチ」は大きなセンタを生かし、大きなミサイル弾庫を確保することができました)

 

ロングビーチ」;原子力イージス艦改装 第二形態:VLSへの換装(1998年ごろ?)

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原子力ミサイル巡洋艦ロングビーチ」のイージスシステム館への改装の第二形態の概観:VLSへの換装で、艦容は水分すっきりしてしまいました)

第二形態は、Mk.26連装ランチャーからVLSへと換装された形態を表しています。第一形態で記述したイージスシステムの複数目標への即応性への対応力強化のために、2基のMk.26はVLSへ換装された、と言う想定のモデルです。Mk.41 VLS(48セル)を5基搭載しています。マストは頑丈なトラスタイプのものからステルス性を意識したレーダー反射の低い塔構造のものに改められました。VLSは対空・対艦・対地上全ての搭載ミサイルに対応しているため、非常にすっきりした外観になっています。f:id:fw688i:20230806151615p:image

(写真は主要兵装のアップ:Mk.41 VLS (48セル)を艦首部に3基、艦尾部に2基、装備しています。固有の対潜哨戒ヘリを2機搭載しています)

タイコンデロガ級VLS搭載タイプとの比較

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(「ロングビーチ」は長い船体を生かし、48セルのVLSを5セット装備し、高い即応性を発揮できたはず)

ロングビーチ」三形態比較

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(「ロングビーチ」三形態の変遷:上から実艦、改装案第一形態、改装案第二形態:やはり巨大な上部構造が・・・)

 

原子力ミサイルフリゲート「ベインブリッジ」(就役期間1962-1996:同型艦なし:1975年より巡洋艦に類別変更)

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原子力ミサイルフリゲート「ベインブリッジ」の概観:135mm in 1:1250 by Delphin)

同艦は1959年度計画で1隻のみ建造されました。前述の「リーヒ級」の設計を踏襲し、機関を原子力に置き換えた設計でした。

大型艦の機関の原子力化については空母「エンタープライズ」、ミサイル巡洋艦ロングビーチ」等で実装化が進められていましたが、この事で第二次世界大戦時からすでに懸案であった小型艦の航続力不足がより深刻になることが懸念されました。同艦はこの課題に対する中型艦での導入研究として建造されました。

兵装、およびその配置等は「リーヒ級」に準じています。

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(「ベインブリッジ」の兵装配置の拡大:兵装配置は通常動力推進の「リーヒ級」に準じています。艦首からテリアミサイルMk.10 連装発射機とその直後の装填庫、アスロック発射機、ちょっとわかりにくいですが三連装短魚雷発射管、Mk.33  3インチ連装速射砲、シールド付き(ストックパーツに置き換えてあります)、艦尾のテリアミサイルMk.10連装ランチャーの順。Mk.33  3インチ連装速射砲は後にハープーン対艦ミサイル発射筒に換装されています。さらにその周辺にCIWSが増設されています)

 

同級は1975年の艦種再分類でミサイルフリゲートからミサイル巡洋艦に艦種変更されました。

 

同型艦なのに艦型が随分と異なるのは?

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(「リーヒ級」ミサイルフリゲート:130mm と「ベインブリッジ」:135mmの艦型比較)

同型艦、動力の違い、と説明しながら、随分、艦型も異なるようです。実艦でも「リーヒ級」は全長162.5mに対し「ベインブリッジ」は172mです。煙突がない分、上部構造が「ベンブリッジ」では簡素化されているのは理解できます。

これが原型製製作者の相違、あるいは気まぐれによるものかどうか、筆者にはわかりませんが、首を傾げるうちに、一つ面白い記述を見つけました。それは、この後紹介する原子力ミサイル巡洋艦「カリフォルニア級」についてのWikipediaでの記述です。

こんな一節が。

「通常動力艦は巡航速度で抵抗が最小になるような船体設計としており・・(中略)・・核動力艦のメリットを活かして、巡航速度よりも高速時の抵抗が最小になるように設計されている」

つまり核動力艦の場合には燃料の心配が不要なので、いつでも高速航行ができる、その状況に船体の設計は合わせている、そういうことですね。

 

原子力ミサイルフリゲート「トラクスタン」(就役期間1967-1995:同型艦なし:1975年より巡洋艦に類別変更)

(「トラクスタン」はここに入ってきます。前出)

 

「カリフォルニア級」原子力ミサイルフリゲート(就役期間1974-1999:同型艦:2隻:1975年より巡洋艦に類別変更)

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(「カリフォルニア級」原子力ミサイルフリゲートの概観:145mm in 1:1250 by Argos:このモデルはブリッジ前のアスロック8連装発射機を撤去したのちを再現したものです)

同級は「ニミッツ級原子力空母の啓造計画に準じ、「原子力空母機動部隊の艦隊防空中枢艦」となるために設計されたミサイルフリゲートで、これまでの原子力ミサイルフリゲートが従来動力艦を核動力化したものであったのに対し、初めて核動力を機関として想定して設計された艦級です。2隻が建造されました。

これまでの駆逐艦由来の艦級の系統とは異なり、9000トンを超える大きな船体を持ち、30ノットの速力を有していました。

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(「カリフォルニア級」の兵装配置の拡大:詳細は下記本文で:Argos製モデルの精緻な細部は圧巻というべき。写真上段は艦首部の主要兵装の配置を示していますが、アスロック8連装発射機が撤去された後が再現されています。アスロックランチャーの設置後の直前の構造物は、アスロックの次発装填用の弾庫で、次発装填時にはランチャーを180度旋回させて、ランチャー後部を弾庫に向ける必要がありました。アスロックの撤去後は何に使ったんだろう?:中段写真では、ハープーン対艦ミサイルの発射筒やCIWSの装備位置が確認できます)

主兵装はターターDシステムで、対空ミサイル発射機に単装のMk.13(各40発収納)を採用し、これを艦首尾にダブルエンダーで搭載しています。

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砲兵装としては新開発の軽量Mk.45  5インチ単装砲をこれも艦首尾に搭載しています。

対潜装備としてはアスロック8連装発射機を艦首に、連装短魚雷発射管を両舷に装備し、これら以外にはハープーン対艦ミサイル4連装発射筒を2基、個艦防御用にCIWS2基を搭載しています。

 

同級は1975年の艦種再分類でミサイルフリゲートからミサイル巡洋艦に艦種変更されました。

 

バージニア級」原子力ミサイル巡洋艦(就役期間1976-1998:同型艦:4隻/計画では11隻)

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(「バージニア級」原子力ミサイル巡洋艦の概観:141mm in 1:1250 by Argos:このモデルは艦尾にトマホーク搭載用のMk.143 装甲ボックスランチャーを搭載した状態を再現したものです)

同級は前級に引き続き、原子力空母機動部隊の直衛、防空中枢艦として設計されました。

10000トンを超える船体に核動力を搭載し、30ノットの速力を発揮することができました、

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(「カリフォルニア級」の兵装配置の拡大:詳細は下記本文で:ブリッジ直前に装備されたハープーン対艦ミサイルの発射筒、艦尾のトマホーク用装甲ボックスランチャーなどが確認できます)

主兵装等は原則、前級「カリフォルニア級」のものを踏襲しました。主兵装は前級同様ターターDシステムで、対空ミサイルの発射機としては艦首尾に配置された連装のMk.26発射機(44発収納)が搭載されました。

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他に砲兵装としてMk.45  5インチ単装砲、ハープーン対艦ミサイル4連装発射筒を2基、個艦防御用にCIWS2基等、全て「カリフォルニア級」の兵装を踏襲しています。

対潜装備としてはアスロックをMk.26から発射できるほか、三連装短魚雷発射管2基を装備しています。さらに、のちにトマホーク巡航ミサイル用として、Mk.143  4連装装甲ボックスランチャー2基が追加装備されました。

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同級の搭載するターターDシステムはターターシステムから発展した武器統合システムであり、やがてイージスシステムへと発展します。同級も後期型設計ではイージスシステムを搭載する計画もありましたが、同級では搭載が困難とされ、11隻の計画は4隻で打ち切られ、イージスシステム搭載は次級の「タイコンデロガ級」に引き継がれました。

 

米海軍の原子力ミサイル巡洋艦の一覧:もう原子力水上戦闘艦は作られないのか?

結局、核動力化の狙いのもとに米海軍は5艦級、9隻の原子力ミサイル巡洋艦を建造しましたが、艦隊防空の要目がイージスシステムの搭載による艦隊のシステム化に移行したため、高価な原子力動力艦は量産に課題が残ろことから、「バージニア級」も上述のように11隻の計画が4隻の建造で打ち切られ、以降、原子力ミサイル巡洋艦は建造されていません。

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(上の写真は米海軍の原子力ミサイル巡洋艦の艦型比較:下から「ロングビーチ」「ベインブリッジ」「トラクスタン」「カリフォルニア級」(同型艦2隻)「バージニア級」(同型艦4隻)の順)

一方で、システム艦は巨大な電力を必要とするところから、核動力への期待は消え去ったわけではないと考えています。ただし、システムの進歩の速度は設計の定まった艦を長期に使用し続けることをも許容していないことも明らかで、寿命の長い動力・機関の搭載とシステムの拡張性への適応力をどのように一つの艦に共存させることを実現してゆくのか、この辺りに今後の方向性があるように考えています。

 

というわけで、今回はここまで。

 

次回は本当に年末なので、帰省などあり、一回スキップさせていただくことになろうかと。

そして新年は少し初心に還って「八八艦隊」のモデルのお話などから始めてみようかと考えています(モデル的な新作やm何かのアップデートのお話などがあるわけではないので、いきなり全く別の新作モデルのお話などするかも、ですが)。

もちろん、もし、「こんな企画できるか?」のようなアイディアがあれば、是非、お知らせください。

 

少し気が早い気もしますが、本年も当ブログを訪れていただき、本当にありがとうございました。そして良い新年をお迎えください。

来年もまだ続けるつもりですので、どうかよろしくお願いいたします。

 

模型に関するご質問等は、いつでも大歓迎です。

特に「if艦」のアイディアなど、大歓迎です。作れるかどうかは保証しませんが。併せて「if艦」については、皆さんのストーリー案などお聞かせいただくと、もしかすると関連する艦船模型なども交えてご紹介できるかも。

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